(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023017155
(43)【公開日】2023-02-07
(54)【発明の名称】情報処理装置および情報処理プログラム
(51)【国際特許分類】
B23Q 15/00 20060101AFI20230131BHJP
G05B 19/4093 20060101ALI20230131BHJP
G05B 19/4097 20060101ALI20230131BHJP
B23B 47/18 20060101ALI20230131BHJP
【FI】
B23Q15/00 303B
G05B19/4093 F
G05B19/4097 Z
B23B47/18 A
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021121188
(22)【出願日】2021-07-26
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】000146847
【氏名又は名称】DMG森精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002273
【氏名又は名称】弁理士法人インターブレイン
(72)【発明者】
【氏名】溝垣 忠信
【テーマコード(参考)】
3C036
3C269
【Fターム(参考)】
3C036DD02
3C036DD09
3C036DD19
3C269AB03
3C269AB06
3C269BB07
3C269CC02
3C269EF02
3C269EF39
3C269EF53
3C269EF67
3C269MN03
(57)【要約】
【課題】工具径に応じた穴あけ加工のNCプログラムを生成する。
【解決手段】ある態様の情報処理装置は、回転工具の工具径の情報を含む加工用データに基づき、穴の深さ方向への回転工具の送り制御と戻し制御を交互に繰り返しつつ行われる穴あけ加工において回転工具を制御するためのNCプログラムを生成するNCプログラム生成部を備える。NCプログラム生成部は、加工用データに含まれる工具径に基づいて回転工具の戻り量を設定し、戻り量を含むNCプログラムを生成する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転工具を用いて穴あけ加工を行うためのNCプログラムを生成する情報処理装置であって、
前記回転工具の工具径の情報を含む加工用データに基づき、穴の深さ方向への前記回転工具の送り制御と戻し制御を交互に繰り返しつつ行われる穴あけ加工において前記回転工具を制御するための前記NCプログラムを生成するNCプログラム生成部を備え、
前記NCプログラム生成部は、
前記加工用データに含まれる工具径に基づいて前記回転工具の戻り量を設定し、前記戻り量を含む前記NCプログラムを生成する、情報処理装置。
【請求項2】
前記加工用データに加工素材の情報がさらに含まれ、
前記NCプログラム生成部は、前記加工用データに含まれる工具径および加工素材に応じて前記戻り量を設定する、請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記NCプログラム生成部は、
前記工具径に基づいて基準戻り量を設定し、
設定された基準戻り量に対して前記加工素材に応じた係数を掛けることにより前記戻り量を設定する、請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記NCプログラム生成部は、前記工具径が小さいほど前記基準戻り量を小さく設定する、請求項3に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記NCプログラム生成部は、前記工具径が基準工具径よりも大きい場合、前記基準戻り量を予め定める標準値に固定する、請求項3又は4に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記NCプログラム生成部は、前記加工素材の靭性が高いほど前記係数を大きく設定する、請求項3~5のいずれかに記載の情報処理装置。
【請求項7】
回転工具を用いて穴あけ加工を行うためのNCプログラムを生成する情報処理プログラムであって、
コンピュータに、
前記回転工具の工具径の情報を含む加工用データに基づき、穴の深さ方向への前記回転工具の送り制御と戻し制御を交互に繰り返しつつ行われる穴あけ加工において前記回転工具を制御するための前記NCプログラムを生成する機能を発揮させ、
前記NCプログラムを生成する機能は、前記加工用データに含まれる工具径に基づいて前記回転工具の戻り量を設定し、前記戻り量を含む前記NCプログラムを生成する、情報処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械で用いられるNCプログラムを生成する情報処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械の数値制御装置で用いられるNCプログラムは、いわゆるコンピュータ支援製造装置(以下「CAM装置」という)により設定された加工用データに基づいて生成される(特許文献1参照)。しかし、工作機械の機種は多数あり、工作機械メーカごとにその仕様も異なるため、CAM装置側で設定できるパラメータには限りがある。
【0003】
このため、従来、CAMで設定できないパラメータについては、CAMのポストプロセッサにより固定出力するか、又は数値制御装置に設定された標準値で出力するなどの運用がとられていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、例えば工作機械で穴あけ加工を行う場合、加工時に発生する切り屑によって工具が破損したり加工面が損傷したりする可能性がある。そのため、穴あけ加工時に発生する切り屑を分断するために、工具(ドリル)を軸方向に往復運動(送り制御および戻し制御)させる手法がとられることがある。
【0006】
このような穴あけ加工を行う場合においてもその加工動作を決めるパラメータが多くあるが、工具の強度や加工素材の特性によって工具の破損や損傷の可能性も異なってくる。このため、パラメータによっては固定値を設定することが妥当でない場合もある。このような場合、該当するパラメータの設定値を手動で変更することもできるが、経験値の高いオペレータに限られるといった問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様は、回転工具を用いて穴あけ加工を行うためのNCプログラムを生成する情報処理装置である。この情報処理装置は、回転工具の工具径の情報を含む加工用データに基づき、穴の深さ方向への回転工具の送り制御と戻し制御を交互に繰り返しつつ行われる穴あけ加工において回転工具を制御するためのNCプログラムを生成するNCプログラム生成部を備える。NCプログラム生成部は、加工用データに含まれる工具径に基づいて回転工具の戻り量を設定し、戻り量を含むNCプログラムを生成する。
【0008】
本発明の別の態様は、回転工具を用いて穴あけ加工を行うためのNCプログラムを生成する情報処理プログラムである。この情報処理プログラムは、コンピュータに、回転工具の工具径の情報を含む加工用データに基づき、穴の深さ方向への回転工具の送り制御と戻し制御を交互に繰り返しつつ行われる穴あけ加工において回転工具を制御するためのNCプログラムを生成する機能を発揮させる。NCプログラムを生成する機能は、加工用データに含まれる工具径に基づいて回転工具の戻り量を設定し、戻り量を含むNCプログラムを生成する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、工具径に応じた穴あけ加工のNCプログラムを生成できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態に係る工作機械の概略構成を表す斜視図である。
【
図5】穴あけサイクルの実行に必要な設定パラメータを表す図である。
【
図6】係数設定テーブルの概略構成を表す図である。
【
図8】NCプログラム生成処理を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ、本発明の一実施形態について説明する。
図1は、実施形態に係る工作機械の概略構成を表す斜視図である。なおここでは、工作機械1を正面からみて左右方向,前後方向,上下方向を、それぞれX軸方向,Y軸方向,Z軸方向とする。
【0012】
工作機械1は、縦型のマシニングセンタであり、加工装置2を備える。加工装置2を覆うように図示しない筐体が設けられ、その筐体の側面に操作盤が設けられている。加工装置2は、ベッド10と、ベッド10に立設されたコラム12と、コラム12に対して上下に移動自在に設けられた主軸頭14と、ベッド10上に前後左右に移動自在に設けられたテーブル16を備える。主軸頭14は、主軸18を回転可能に支持する。
【0013】
コラム12の前面にガイドレール20が設けられ、主軸頭14がZ軸方向に移動可能に支持される。主軸頭14の移動は、図示略の送り機構とそれを駆動するサーボモータにより実現される。この送り機構は、例えばボールねじを用いたねじ送り機構である。
【0014】
主軸頭14は、Z軸方向の軸線Lを有し、その軸線Lを中心に主軸18を回転可能に支持する。主軸頭14には、主軸18を回転駆動するための図示略のスピンドルモータが設けられている。主軸18は、工具ホルダ22に保持された工具Tを同軸状に取り付け可能である。主軸18は、主軸頭14が駆動されることによりZ軸方向に移動自在である。
【0015】
一方、ベッド10の上面にガイドレール24が設けられ、サドル26がY軸方向に移動可能に支持される。サドル26の上面にガイドレール28が設けられ、テーブル16がX軸方向に移動可能に支持される。サドル26およびテーブル16の移動は、それぞれ図示略の送り機構とそれを駆動するサーボモータにより実現される。この送り機構は、例えばボールねじを用いたねじ送り機構である。
【0016】
テーブル16には、図示略の治具を介してワークWが固定される。ワークWは、サドル26およびテーブル16が駆動されることによりX軸方向およびY軸方向に移動自在である。すなわち、以上の構成により、ワークWと工具Tとの相対位置を三次元的に調整することができる。
【0017】
図2は、工作機械1のハードウェア構成図である。
工作機械1は、操作制御装置50、数値制御装置52、加工装置2、工具交換装置54および工具格納部56を含む。数値制御装置52は、手動又は自動で生成された加工プログラム(NCプログラム)にしたがって加工装置2に制御信号を送信する。加工装置2は、数値制御装置52からの指示にしたがって主軸18およびテーブル16を駆動してワークWを加工する。
【0018】
操作制御装置50は、オペレータにユーザインタフェース機能を提供する操作盤を含む。オペレータは操作制御装置50を介して数値制御装置52を制御する。工具格納部56は工具を格納する。工具交換装置54は、いわゆるATC(Automatic Tool Changer)に対応する。工具交換装置54は、数値制御装置52からの交換指示にしたがって、工具格納部56から工具を取り出し、主軸18にある工具と取り出した工具を交換する。
【0019】
数値制御装置52には情報処理装置100が接続される。情報処理装置100は、図示略のCAM装置から取得した加工用データに基づいてNCプログラムを生成し、数値制御装置52へ出力する。数値制御装置52は、そのNCプログラムを実行して加工装置2を制御する。情報処理装置100は、操作制御装置50の一部として構成されてもよい。情報処理装置100は、一般的なラップトップPC(Personal Computer)あるいはタブレット・コンピュータであってもよい。
【0020】
図3は、情報処理装置100の機能ブロック図である。
情報処理装置100の各構成要素は、CPU(Central Processing Unit)および各種コンピュータプロセッサなどの演算器、メモリやストレージといった記憶装置、それらを連結する有線または無線の通信線を含むハードウェアと、記憶装置に格納され、演算器に処理命令を供給するソフトウェアによって実現される。コンピュータプログラムは、デバイスドライバ、オペレーティングシステム、それらの上位層に位置する各種アプリケーションプログラム、また、これらのプログラムに共通機能を提供するライブラリによって構成されてもよい。以下に説明する各ブロックは、ハードウェア単位の構成ではなく、機能単位のブロックを示している。
【0021】
なお、操作制御装置50および数値制御装置52も、プロセッサなどの演算器、メモリやストレージといった記憶装置、それらを連結する有線または無線の通信線を含むハードウェアと、記憶装置に格納され演算器に処理命令を供給するソフトウェアやプログラムを情報処理装置100とは別個のオペレーティングシステム上で実現される形態でもよい。
【0022】
情報処理装置100は、入出力インタフェース部110、データ処理部112およびデータ格納部114を含む。入出力インタフェース部110は、外部装置とのデータのやりとりを含む入出力インタフェースに関する処理を担当する。データ処理部112は、入出力インタフェース部110により取得されたデータおよびデータ格納部114に格納されているデータに基づいて各種処理を実行する。データ処理部112は、入出力インタフェース部110およびデータ格納部114のインタフェースとしても機能する。データ格納部114は、各種プログラムと設定データを格納する。
【0023】
入出力インタフェース部110は、入力部120および出力部122を含む。
入力部120は加工用データ取得部124を含む。加工用データ取得部124は、CAM装置150から加工用データを取得する。CAM装置150は、図示略のコンピュータ支援設計装置(以下「CAD装置」ともいう)で生成されたCADデータを取得するとともに、経路生成情報(工具先端位置、工具姿勢、送りピッチ等)を取得する。CAM装置150は、これらCADデータと経路生成情報に基づいて加工用データを生成し、情報処理装置100へ出力する。加工用データには、使用工具や加工素材の情報も含まれる。
【0024】
データ格納部114は、プログラム格納部130および係数データ格納部132を含む。プログラム格納部130は、NCプログラムを生成するための情報処理プログラムを格納する。係数データ格納部132は、NCプログラムを生成する際に用いられる係数データを格納する(詳細後述)。
【0025】
データ処理部112はNCプログラム生成部140を含む。NCプログラム生成部140は、ポストプロセッサとして機能し、CAM装置150から取得される加工用データに基づいてNCプログラムを生成する。NCプログラム生成部140は、戻り量設定部142を含む。戻り量設定部142は、穴あけ加工を行う場合に実行される戻し制御に関し、工具Tの戻り量を設定する(詳細後述)。
【0026】
出力部122はプログラム出力部126を含む。プログラム出力部126は、生成されたNCプログラムを数値制御装置52へ出力する。
【0027】
次に、NCプログラムの生成方法について説明する。
本実施形態では、工作機械1の機種によらず穴あけ加工の工具の仕様に応じたNCプログラムを生成するためにポストプロセッサを利用する。まず、前提としてその穴あけ加工について概説する。
【0028】
(穴あけ加工の設定パラメータ)
図4は、穴あけ加工方法を模式的に表す図である。
ワークWに穴200を加工する場合、その加工時に発生する切り屑によって工具Tが破損したり加工面が損傷したりする可能性がある。そのため、穴あけ加工時に発生する切り屑を分断するために、工具T(回転工具としてのドリル)の穴の深さ方向への送り制御と戻し制御を交互に繰り返しつつ切削加工を行う。
【0029】
具体的には、まず工具Tの先端点を、イニシャル点Piを経て穴あけ基準点P0に移動させる(二点鎖線矢印参照)。そして、工具Tを回転させながら切込み量ctだけ送った後(一点鎖線矢印参照)、戻り量bkだけ戻す(白抜き矢印参照)。続いて、さらに切込み量ctだけ送り(正確には、戻り量bk+切込み量ctの深さを送る)、再度戻り量bkだけ戻す(白抜き矢印参照)。このような工具Tの送り制御と戻し制御を交互に繰り返しつつ、設定された深さ(最終穴あけ深さ)の穴200をあける。なお以下では、送り制御による1回あたりの切込みを「ステップ」ともいう。
【0030】
図5は、穴あけサイクルの実行に必要な設定パラメータを表す図である。
図5には、各パラメータがCAM装置150での設定項目に含まれるか否かが示されている。設定項目に含まれる場合に「有」、含まれない場合に「なし」と表記されている。
【0031】
「穴あけ位置X,Y」は、それぞれワークWにおける穴あけ位置のX座標、Y座標である。「最終穴あけ深さ」は、穴あけ加工で成形する穴の深さである。「穴あけ基準点P0」は、穴あけ加工の制御の基準となるZ軸上の位置であり、通常はワークWの上面位置に設定される。「イニシャル点Pi」は、穴あけ基準点の上方にある工具Tのアプローチ位置である。安全距離とは、イニシャル点Piからさらに穴に向けて工具Tをアプローチさせる場合の位置であり、穴あけ基準点のやや上方に設定される。
【0032】
「送り速度」は、送り制御時(切込み時)の工具Tの毎分当たりの移動距離である。「最初の穴あけ深さ」とは、ワークWに最初に切り込むときの送り量である。「最初のペックの送り速度」は、ワークWの上面に最初に切り込むときの工具Tの送り速度である。「ペック量」は、上述のように徐々に穴あけ加工をするときのステップごとの切込み量ctが該当する。「各ステップ後の戻り量」は、上述のように徐々に穴あけ加工をするときの戻り量bkが該当する。
【0033】
「ドリル基準位置」とは、工具Tがドリルである場合にその基準位置(先端点)を刃先の先端とするか又は刃先の基端とするかの設定項目である。「各ステップ後のドウェル時間」とは、上述のように徐々に穴あけ加工をするときのステップごと(つまり送り制御ごと)に一時停止(待機)する時間である。「最終穴深さでのドウェル時間」とは、工具Tが最終穴あけ深さに到達したときに一時停止(待機)する時間である。この最終穴深さでのドウェル時間の経過後、工具Tは穴200から引き抜かれてイニシャル点Piに戻る。
【0034】
(設定パラメータの自動決定方法)
ところで、
図5によれば、穴あけ加工に関して「各ステップ後の戻り量」および「各ステップ後のドウェル時間」がCAM装置150の設定項目とされていない。これらのうち「戻り量」については、穴あけ加工に要する加工時間や工具の耐久性に関わる。そこで、本実施形態では「各ステップ後の戻り量」については情報処理装置100(ポストプロセッサ)により自動設定する。一方、「各ステップ後のドウェル時間」については標準値の「0」を設定する。
【0035】
すなわち、各ステップの戻り量が大きいと、加工時間が長くなって生産性が低下するのはもちろん、工具Tが切り屑を噛み込んで破損する可能性が高まる。特に小径のドリル(例えば工具径:1mm以下)については、その耐久性を考慮してCAM装置150において送り速度が小さく設定されるため、標準の戻り量(例えば1mm)を設定すると、加工時間が無用に増大する。
【0036】
一方、ワークW(加工素材)の靭性(粘り)が高いほど工具Tに凝着しやすいため、これを防止するために戻り量を大きくする必要がある。そこで本実施形態では、NCプログラム生成部140が、使用する工具Tの工具径とワークW(加工素材)の情報に応じて推奨される戻り量を設定し、その戻り量を含むNCプログラムを生成する。
【0037】
具体的には、戻り量設定部142が、加工用データに含まれる工具径に基づいて戻り量の基準値(「基準戻り量」ともいう)を設定する。すなわち、工具径が基準工具径(例えば2mm)以下の場合、工具径に予め定める係数k1(本実施形態では1/2)を掛けたものを基準戻り量として算出する。工具径が基準工具径よりも大きい場合には、予め定める標準値(例えば1mmなどの固定値)を基準戻り量として設定する。
【0038】
戻り量設定部142は、続いてその基準戻り量に対してワークWの材質に応じた係数k2を掛けることにより戻り量を設定する。NCプログラム生成部140は、その戻り量を含むNCプログラムを生成する。なお、係数k1,k2は、係数データ格納部132に格納されている。
【0039】
図6は、係数設定テーブルの概略構成を表す図である。
戻り量設定部142は、ワークWの素材IDと係数k2とが予め対応づけられた係数設定テーブル160を保持する。なお、係数設定テーブル160は、係数データ格納部132に格納されてもよい。素材IDは、ワークW(加工素材)の種別ごとに設けられ、係数k2が対応づけられている。例えば、ステンレス鋼ではニッケル(Ni)の含有量によって靭性(粘り)が異なる。このため、SUS304(Ni含有量9%)に該当する素材ID「M3」には、係数k2として「1」が設定される。SUS316(Ni含有量12%)に該当する素材ID「M4」には、係数k2として「3」が設定される。
【0040】
したがって、戻り量設定部142は、加工用データに含まれるワークWの素材情報がSUS304である場合、係数k2=1として戻り量を算出する。ワークWの素材情報がSUS316である場合には係数k2=3として戻り量を算出する。このため、仮に工具Tの工具径が同じでワークWの素材のみがSUS304とSUS316で異なる場合、SUS316の場合のほうが戻り量として大きな値が設定されることになる。
【0041】
図7は、上述のようにして生成されるNCプログラムの例を示す。
図7(A)はNCプログラムを示し、
図7(B)はそのうち穴あけ加工に対応するブロックを示す。
図7(A)に示すように、NCプログラム170には、以下の指令が記録されている。
ブロック1:工具Tとして、工具径0.3mmのドリルを指定
ブロック2:工具交換(M06)
ブロック3:工具径補正(D1)
ブロック4:XY平面、アブソリュート座標の設定(G17 G90)
ブロック5:主軸回転数(S12000)、主軸正転(M03)
ブロック6:クーラントON(M08)
ブロック7:早送りで原点移動(G00 X0 Y0)
ブロック8:Z座標移動(Z15.0)
ブロック9:送り速度設定(F1240)
ブロック10:穴あけ加工(CYCLE83)
ブロック11:早送り(G00 Z15.0)
【0042】
ブロック10には、穴あけ加工の各設定パラメータの値が設定されている(
図5参照)。CYCLE83は、穴あけサイクルを設定したものであり、
図7(B)に示す構文を有する。各パラメータは以下のとおりである。
RTP:イニシャル点
RFP:基準点
SDIS:安全距離
DP:最終穴あけ深さ(abs)
DPR:最終穴あけ深さ(inc)
FDEP:1番目の穴あけ深さ(abs)
FDPR:1番目の穴あけ深さ(inc)
_DAM:各々の追加切込みの逓減値(パーセント値)
DTB:穴あけ深さでのドウェル時間
DTS:開始点でのドウェル時間(切り屑除去のみ)
FRF:最初の切込み送り速度(パーセント値)
VARI:加工タイプ(切り屑切断又は切り屑除去)
_AXN:工具軸の設定
_MDEP:最小切込み(逓減パーセント値)
_VRT:ステップごとの戻り量
_DTD:最終穴あけ深さでのドウェル時間
_DIS1:リミット距離(切り屑除去の場合のみ)
_GMODE:形状モードの設定
_DMODE:表示モードの設定
_AMODE:代替モードの設定
【0043】
すなわち、「_VRT」に対応する「0.15」(説明の便宜上、図中太文字で示す)が「戻り量」に対応する。この例では、工具径が0.3mm(<2mm)であるため、k1=1/2とされた結果、基準戻り量が0.15mmとなっている。さらに、ワークWの素材がSUS304であったため、k2=1とされ、戻り量として0.15が算出されている。なお、上述のように「各ステップ後のドウェル時間」については標準値の「0」が設定される。
【0044】
次に、NCプログラム生成処理について具体的に説明する。
図8は、NCプログラム生成処理を表すフローチャートである。
まず、加工用データ取得部124が、CAM装置150から加工用データを取得する(S10)。NCプログラム生成部140は、加工用データに含まれる工具径φが基準工具径φb(本実施形態では1mm)以下であれば(S12のY)、工具径φに係数k1を掛けた値を基準戻り量bk0として設定する(S14)。一方、工具径φが基準工具径φbより大きければ(S12のN)、標準値bkmin(本実施形態では1mm)を基準戻り量bk0として設定する(S16)。
【0045】
続いて、NCプログラム生成部140は、ワークWの素材情報に基づいて係数k2を取得し(S18)、基準戻り量bk0に掛けることで戻り量bkを設定する(S20)。そして、このとき得られた戻り量bkを反映させたNCプログラムを生成する(S22)。プログラム出力部126は、生成されたNCプログラムを数値制御装置52へ出力する。
【0046】
以上、実施形態に基づいて情報処理装置100について説明した。
本実施形態によれば、穴あけ加工に関してCAM装置150により設定されないパラメータである「戻り量」がポストプロセッサにより自動設定され、NCプログラムが生成される。このため、穴あけ加工に用いる工具Tの仕様やワークWの素材情報に応じた適切なNCプログラムを提供できる。
【0047】
上記実施形態では、穴あけ加工用の回転工具としてドリルを例示したが、ねじ穴を加工するタップやその他の回転工具であってもよい。上記実施形態では、穴あけ加工としてドリル加工を例示したが、タップ加工であってもよい。これらの穴あけ加工について、上述のポストプロセッサによるパラメータの設定およびNCプログラムの生成を適用してもよい。
【0048】
上記実施形態では、CAM装置からの指定ができないパラメータとして「戻り量」を例示した。変形例においては、上述した「各ステップ後のドウェル時間」を情報処理装置における設定対象に含めてもよい。すなわち、NCプログラム生成部は、加工用データに含まれる情報(工具径等)に基づき、穴あけ加工の各ステップ後のドウェル時間を設定し、そのドウェル時間を含むNCプログラムを生成してもよい。
【0049】
上記実施形態では、工作機械として縦型のマシニングセンタを例示した。変形例においては、横型のマシニングセンタであってもよい。あるいは、ターニングセンサであってもよいし、マシニングセンタとターニングセンタの双方の機能を備えた複合加工機であってもよい。上述した情報処理装置は、それらの工作機械の数値制御装置が用いるNCプログラムを生成してもよい。
【0050】
なお、本発明は上記実施形態や変形例に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化することができる。上記実施形態や変形例に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることにより種々の発明を形成してもよい。また、上記実施形態や変形例に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除してもよい。
【符号の説明】
【0051】
1 工作機械、2 加工装置、14 主軸頭、16 テーブル、18 主軸、22 工具ホルダ、26 サドル、50 操作制御装置、52 数値制御装置、54 工具交換装置、56 工具格納部、100 情報処理装置、112 データ処理部、114 データ格納部、120 入力部、122 出力部、124 加工用データ取得部、126 プログラム出力部、130 プログラム格納部、132 係数データ格納部、140 NCプログラム生成部、142 戻り量設定部、150 CAM装置、160 係数設定テーブル、200 穴、T 工具、W ワーク、bk 戻り量、ct 切込み量。
【手続補正書】
【提出日】2022-02-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転工具を用いて穴あけ加工を行うためのNCプログラムを生成する情報処理装置であって、
前記回転工具の工具径の情報を含む加工用データに基づき、穴の深さ方向への前記回転工具の送り制御と戻し制御を交互に繰り返しつつ行われる穴あけ加工において前記回転工具を制御するための前記NCプログラムを生成するNCプログラム生成部を備え、
前記穴あけ加工が、前記送り制御により前記回転工具を所定の切込み量だけ送った後、前記戻し制御により前記回転工具を前記切込み量よりも小さい所定の戻り量だけ戻すことを交互に繰り返す切削加工であり、
前記NCプログラム生成部は、
前記加工用データに含まれる工具径に基づいて前記回転工具の戻り量を設定し、前記戻り量を含む前記NCプログラムを生成する、情報処理装置。
【請求項2】
前記加工用データに加工素材の情報がさらに含まれ、
前記NCプログラム生成部は、前記加工用データに含まれる工具径および加工素材に応じて前記戻り量を設定する、請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記NCプログラム生成部は、
前記工具径に基づいて基準戻り量を設定し、
設定された基準戻り量に対して前記加工素材に応じた係数を掛けることにより前記戻り量を設定する、請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記NCプログラム生成部は、前記工具径が小さいほど前記基準戻り量を小さく設定する、請求項3に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記NCプログラム生成部は、前記工具径が基準工具径よりも大きい場合、前記基準戻り量を予め定める標準値に固定する、請求項3又は4に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記NCプログラム生成部は、前記加工素材の靭性が高いほど前記係数を大きく設定する、請求項3~5のいずれかに記載の情報処理装置。
【請求項7】
回転工具を用いて穴あけ加工を行うためのNCプログラムを生成する情報処理プログラムであって、
コンピュータに、
前記回転工具の工具径の情報を含む加工用データに基づき、穴の深さ方向への前記回転工具の送り制御と戻し制御を交互に繰り返しつつ行われる穴あけ加工において前記回転工具を制御するための前記NCプログラムを生成する機能を発揮させ、
前記穴あけ加工が、前記送り制御により前記回転工具を所定の切込み量だけ送った後、前記戻し制御により前記回転工具を前記切込み量よりも小さい所定の戻り量だけ戻すことを交互に繰り返す切削加工であり、
前記NCプログラムを生成する機能は、前記加工用データに含まれる工具径に基づいて前記回転工具の戻り量を設定し、前記戻り量を含む前記NCプログラムを生成する、情報処理プログラム。
【手続補正書】
【提出日】2022-05-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転工具を用いて穴あけ加工を行うためのNCプログラムを生成する情報処理装置であって、
前記回転工具の工具径の情報を含む加工用データに基づき、穴の深さ方向への前記回転工具の送り制御と戻し制御を交互に繰り返しつつ行われる穴あけ加工において前記回転工具を制御するための前記NCプログラムを生成するNCプログラム生成部を備え、
前記穴あけ加工が、前記送り制御により前記回転工具を所定の切込み量だけ送った後、前記戻し制御により前記回転工具を前記切込み量よりも小さい所定の戻り量だけ戻すことを交互に繰り返す切削加工であり、
前記NCプログラム生成部は、
前記加工用データに含まれる工具径に基づき、その工具径が小さいほど前記回転工具の戻り量を小さく設定し、前記戻り量を含む前記NCプログラムを生成する、情報処理装置。
【請求項2】
前記加工用データに加工素材の情報がさらに含まれ、
前記NCプログラム生成部は、前記加工用データに含まれる工具径および加工素材に応じて前記戻り量を設定する、請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記NCプログラム生成部は、
前記工具径に基づいて基準戻り量を設定し、
設定された基準戻り量に対して前記加工素材に応じた係数を掛けることにより前記戻り量を設定する、請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記NCプログラム生成部は、前記工具径が小さいほど前記基準戻り量を小さく設定する、請求項3に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記NCプログラム生成部は、前記工具径が基準工具径よりも大きい場合、前記基準戻り量を予め定める標準値に固定する、請求項3又は4に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記NCプログラム生成部は、前記加工素材の靭性が高いほど前記係数を大きく設定する、請求項3~5のいずれかに記載の情報処理装置。
【請求項7】
回転工具を用いて穴あけ加工を行うためのNCプログラムを生成する情報処理プログラムであって、
コンピュータに、
前記回転工具の工具径の情報を含む加工用データに基づき、穴の深さ方向への前記回転工具の送り制御と戻し制御を交互に繰り返しつつ行われる穴あけ加工において前記回転工具を制御するための前記NCプログラムを生成する機能を発揮させ、
前記穴あけ加工が、前記送り制御により前記回転工具を所定の切込み量だけ送った後、前記戻し制御により前記回転工具を前記切込み量よりも小さい所定の戻り量だけ戻すことを交互に繰り返す切削加工であり、
前記NCプログラムを生成する機能は、前記加工用データに含まれる工具径に基づき、その工具径が小さいほど前記回転工具の戻り量を小さく設定し、前記戻り量を含む前記NCプログラムを生成する、情報処理プログラム。