(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023171583
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】診断システム、抵抗値推定方法、およびコンピュータープログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 17/00 20060101AFI20231124BHJP
【FI】
G01N17/00
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023176256
(22)【出願日】2023-10-11
(62)【分割の表示】P 2022130372の分割
【原出願日】2018-03-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原口 智
(72)【発明者】
【氏名】長 広明
(72)【発明者】
【氏名】松川 梢
(72)【発明者】
【氏名】水出 隆
(57)【要約】
【課題】絶縁抵抗の抵抗値の変化を精度よく予測することができる診断システム、抵抗値推定方法、およびコンピュータープログラムを提供することである。
【解決手段】実施形態の診断システムは、測定部と、推定式記憶部と、抵抗値推定部と、絶縁抵抗情報記憶部とを持つ。測定部は、対象機器に用いられている絶縁抵抗の材料因子または環境因子のうちイオン性汚損物質の付着量、の少なくともいずれか一方を測定する。推定式記憶部は、前記測定部による測定結果を基に前記絶縁抵抗の抵抗値を推定するための推定式に関する情報を記憶する。抵抗値推定部は、前記測定部による前記測定結果と、前記推定式記憶部に記憶された前記推定式と、を用いて前記絶縁抵抗の前記抵抗値を推定する。絶縁抵抗情報記憶部は、前記抵抗値推定部による抵抗値の推定結果、前記材料因子及び前記環境因子のいずれか一つ又は複数を記憶する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象機器に用いられている絶縁抵抗の絶縁材料に関する材料因子、または前記絶縁抵抗が設置されている場所における環境因子のうちイオン性汚損物質の付着量、の少なくともいずれか一方を測定する測定部を備え、
前記測定部は、前記対象機器が内部に設置された筐体内であって、前記筐体に設けられ前記筐体内に筐体外から空気を流入させる吸気口の近傍であって、前記対象機器と前記吸気口との中間よりも前記吸気口により近い位置に設置される、診断システム。
【請求項2】
前記測定部は、水晶振動子の共振周波数の変化に基づいて前記イオン性汚損物質の付着量を測定する、請求項1に記載の診断システム。
【請求項3】
前記測定部は、測定結果と、温度と、湿度と、前記イオン性汚損物質の汚損度と、の相関に基づいて、測定結果、温度及び湿度に基づいて前記イオン性汚損物質の汚損度を測定する、請求項1に記載の診断システム。
【請求項4】
前記測定部は、非イオン性の塵埃の質量の変化を測定し、測定結果に基づいてイオン性塵埃の増加を予測する、請求項1に記載の診断システム。
【請求項5】
前記測定部による測定結果を基に前記絶縁抵抗の抵抗値を推定するための推定式に関する情報を記憶する推定式記憶部と、
前記測定部による前記測定結果と、前記推定式記憶部に記憶された前記推定式と、を用いて前記絶縁抵抗の前記抵抗値を推定する抵抗値推定部と、
前記抵抗値推定部による抵抗値の推定結果、前記材料因子及び前記環境因子のいずれか一つ又は複数を記憶する絶縁抵抗情報記憶部と、
をさらに具備する請求項1に記載の診断システム。
【請求項6】
前記測定部の測定結果を送信する送信部と、
前記測定結果を受信する受信部と、をさらに備え、
前記抵抗値推定部は、前記受信部によって受信された測定結果を用いて前記抵抗値を推定する、請求項5に記載の診断システム。
【請求項7】
前記受信部によって受信された測定結果を記憶部に書き込む解析データ収集部をさらに備える、請求項6に記載の診断システム。
【請求項8】
絶縁抵抗情報記憶部に記憶される推定結果に基づいて、前記抵抗値推定部によって推定された抵抗値の値である抵抗推定値の時系列の変化の傾向を判定する診断部をさらに備える、請求項5に記載の診断システム。
【請求項9】
前記診断部は、前記変化の傾向に基づいて、前記抵抗推定値の将来の値を推定する、請求項8に記載の診断システム。
【請求項10】
前記診断部は、前記変化の傾向に基づいて、予め定められた下限閾値を前記抵抗推定値の将来の値の推定結果が下回るタイミングを判定する、請求項8に記載の診断システム。
【請求項11】
前記診断部は、前記変化の傾向において、変化の傾向が変わった時点である変化時点を判定する、請求項8に記載の診断システム。
【請求項12】
対象機器に用いられている絶縁抵抗の絶縁材料に関する材料因子、または前記絶縁抵抗が設置されている場所における環境因子のうちイオン性汚損物質の付着量、の少なくともいずれか一方を測定する測定部によって前記材料因子または前記イオン性汚損物質の付着量を測定する測定ステップを有し、
前記測定部は、前記対象機器が内部に設置された筐体内であって、前記筐体に設けられ前記筐体内に筐体外から空気を流入させる吸気口の近傍であって、前記対象機器と前記吸気口との中間よりも前記吸気口により近い位置に設置される、抵抗値推定方法。
【請求項13】
対象機器に用いられている絶縁抵抗の絶縁材料に関する材料因子、または前記絶縁抵抗が設置されている場所における環境因子のうちイオン性汚損物質の付着量、の少なくともいずれか一方を測定する測定部を備え、
前記測定部は、前記対象機器が内部に設置された筐体内であって、前記筐体に設けられ前記筐体内に筐体外から空気を流入させる吸気口の近傍であって、前記対象機器と前記吸気口との中間よりも前記吸気口により近い位置に設置される、診断システム、としてコンピューターを機能させるためのコンピュータープログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、診断システム、抵抗値推定方法、およびコンピュータープログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電力設備は社会インフラストラクチャを支える重要な設備であり、長期にわたり安定して稼動できることを求められる。安定稼動のためには、電力設備の劣化状態を把握するとともに、その保全・更新を計画的に実施する必要がある。電力設備の導体支持またはバリヤなどに用いられる絶縁材料は材料自体の経年劣化や、設置環境に浮遊する塵埃またはガスの付着などで絶縁特性が低下する。絶縁特性が低下すると放電やトラッキングを生じて設備停止に至る虞もある。よって、絶縁材料の状態は電力設備の劣化を診断するためのバロメータになる。
【0003】
設置環境が絶縁材料の劣化に及ぼす影響は、塵埃やガスの付着による汚損だけとは限らない。絶縁材料の成分と化学反応する環境因子が存在する環境では、通常の経年劣化を上回る速度で、絶縁材料が劣化する場合がある。例えば炭酸カルシウムは、絶縁材料の無機充填材として多く使用される。炭酸カルシウムが塩素系ガスや窒素酸化物ガスなどと反応すると、絶縁材料表面に塩化カルシウムまたは硝酸カルシウムが形成される。これらの物質は湿度40%RH(相対湿度)以下の低湿度であっても大気中の水分を吸入して潮解するので、低湿度条件であっても絶縁材料の表面が結露し、絶縁材料の表面を漏れ電流が流れることがある。これが甚だしくなると絶縁が破壊され、最悪の場合には設備停止に至ることもある。
【0004】
電気設備に使われている絶縁材料の絶縁抵抗値を、フィールドで直接測定することは可能である。しかしながらその測定値は測定場所の雰囲気に、具体的には湿度に大きく影響される。例えば乾燥した環境下では絶縁抵抗値の測定値は実際よりも高くなることが多く、これにより絶縁材料の劣化が見逃されるケースがある。また、電気設備が絶縁不良で停止するのは、ほとんど梅雨時等の高温多湿の時期である。このように絶縁材料の抵抗値を直接測定することは実地の運用には向いているといえない。
【0005】
そこで、多変量解析などを用いた数値的演算により絶縁材料の絶縁抵抗値を推定する方法が提案されている。つまり、絶縁抵抗と相関を持ち測定場所の雰囲気に影響されない項目を複数測定し、その項目の値に基づいて絶縁抵抗値を算出する方法である。この方法ではフィールドで使用されている絶縁材料、および強制劣化させた絶縁材料について、絶縁抵抗と相関のあるデータを取得し、多変量解析により診断指標である絶縁抵抗の推定式を策定する。絶縁診断では、推定式を策定した項目を測定し、絶縁抵抗推定式から、任意の温湿度の絶縁抵抗を推定するようにする。
【0006】
従来技術による劣化診断装置は、所定の評価項目の実測値と予め記憶しておいた推定式とにより、絶縁抵抗値を推定する。また、従来技術による劣化診断装置は、推定された絶縁抵抗値と、抵抗値の実測値とに基づいて、上記推定式の妥当性を判定する。さらに、従来技術による劣化診断装置は、推定された絶縁抵抗値と、その絶縁材料の使用期間に基づいて、その絶縁材料の有効期限を算出する。
また、従来技術では、診断対象となる絶縁材料に直流電圧を印加して絶縁抵抗の経時変化を測定する。また、該絶縁抵抗と測定時間との関係を指数方程式で近似した場合の指数近似曲線の定数に基づいて、絶縁材料の汚損状態を診断する。また、絶縁抵抗と測定時間との関係を累乗方程式で近似した場合の累乗近似曲線の定数に基づいて、絶縁材料の劣化状態を診断する。
また、従来技術では、絶縁劣化判定基準となる絶縁材料の絶縁抵抗の変化と、絶縁材料の材料特性及び絶縁材料が設置されている大気環境因子との関係に基づき、多変量解析し、絶縁抵抗の推定式を予め作成する。また、推定式により、絶縁材料の設置環境で想定される最高温度湿度での絶縁材料の絶縁抵抗を算出する。また、算出された最高温度湿度での絶縁材料の絶縁抵抗に基づいて寿命閾値までの時間を判定する。
【0007】
絶縁特性に影響を及ぼす環境因子の影響度を評価するためには、フィールドで使用している機器の(絶縁材料の)表面の汚損状況を測定する必要がある。具体的には塵埃や海塩粒子、ガスの付着による汚損、さらにはこれら外来の汚損因子と絶縁材料の成分とが化学反応した低湿度で吸湿する潮解物質の影響度を評価する。そのための計測方法としては、湿らせたガーゼで対象物表面の一定面積の汚損物質を拭き取り、一定量の純水にて抽出した汚損液について、電導度測定や含まれるイオン濃度を分析する方法が用いられる。この計測方法を実施するにあたっては、検査員が実際に対象機器からサンプリング作業を実施する必要がある。しかしながら、検査員が常時対象機器のそばでサンプリング作業を連続的に行うことは事実上困難であり、所定期間ごとのサンプリングに基づく評価を行うこととせざるを得ないという問題がある。
【0008】
また、絶縁抵抗の低下を事前に予測することも困難であった。特に、周囲の構造物の新築、改築、工事、台風等の異常気象等の影響で、外来の汚損物の飛来状況が変化したり、外来の汚損成分と絶縁材料との反応が発生し急速に絶縁低下が進行したりする場合には、絶縁抵抗の低下を事前に予測することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第5951299号公報
【特許文献2】特許第5836904号公報
【特許文献3】特許第5872643号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、絶縁抵抗の抵抗値の変化を精度よく予測することができる診断システム、抵抗値推定方法、およびコンピュータープログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
実施形態の劣化診断システムは、測定部と、推定式記憶部と、抵抗値推定部と、絶縁抵抗情報記憶部とを持つ。測定部は、対象機器に用いられている絶縁抵抗の絶縁材料に関する材料因子、または前記絶縁抵抗が設置されている場所における環境因子のうちイオン性汚損物質の付着量、の少なくともいずれか一方を測定する。推定式記憶部は、前記測定部による測定結果を基に前記絶縁抵抗の抵抗値を推定するための推定式に関する情報を記憶する。抵抗値推定部は、前記測定部による前記測定結果と、前記推定式記憶部に記憶された前記推定式と、を用いて前記絶縁抵抗の前記抵抗値を推定する。絶縁抵抗情報記憶部は、前記抵抗値推定部による抵抗値の推定結果、前記材料因子及び前記環境因子のいずれか一つ又は複数を記憶する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1の実施形態による劣化診断装置の概略機能構成を示すブロック図。
【
図2】絶縁抵抗値の推定結果の変化傾向の具体例を示す図である。
【
図3】絶縁抵抗値の推定結果の変化傾向の具体例を示す図である。
【
図4】第1の実施形態において、診断対象機器の近傍に劣化診断装置を設ける際の第1の配置例を示す概略図。
【
図5】第1の実施形態において、診断対象機器の近傍に劣化診断装置を設ける際の第2の配置例を示す概略図。
【
図6】第1の実施形態の環境因子測定部の一構成例であるセンサーを示す断面図。
【
図7】第1の実施形態の環境因子測定部の一構成例であるセンサーを示す平面図。
【
図8】第1の実施形態の水晶振動子法を用いて環境因子測定部を構成した一例であるセンサーを示す概略図。
【
図9】第1の実施形態においてイオン成分を分析・測定するためのイオン成分分析装置の構成例を示す概略図。
【
図10】第2の実施形態による劣化診断システムの概略機能構成を示すブロック図。
【
図11】第3の実施形態による劣化診断システムの概略機能構成を示すブロック図。
【
図12】材料因子の変化傾向の具体例を示す図である。
【
図13】環境因子の変化傾向の具体例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施形態の劣化診断システム、抵抗値推定方法、およびコンピュータープログラムを、図面を参照して説明する。
【0014】
(第1の実施形態)
本実施形態による劣化診断装置(劣化診断システムとも呼ぶ)は、材料因子と環境因子とを測定し、それらの測定値を基に抵抗値を推定する。さらに、本実施形態による劣化診断装置は、抵抗値の推定結果を時系列に記憶し、推定結果の時系列変化に基づいて将来の抵抗値を推定する。材料因子は、電気設備等における絶縁抵抗の材料に係る要因である。環境因子は、電気設備等が設置されている環境(特に、絶縁材料が晒される環境)に係る要因である。本実施形態による劣化診断装置は、これら材料因子および環境因子の測定を、自動的且つ連続的に行えるように構成される。
【0015】
本実施形態では、環境因子のうち、特に、大気中のイオン性の汚損成分に着目する。つまり、劣化診断装置は、イオン性汚損成分の付着量等を連続的に計測することにより、例えば外来の環境因子の影響が急変した場合でも、絶縁抵抗の特性低下が実際に発生する前にその予兆を検知する。また、劣化診断装置は自動的に動作するため、検査員を現地に定期的に派遣する必要がなく、省力化を実現できる。
【0016】
図1は、本実施形態による劣化診断装置の概略機能構成を示すブロック図である。図示するように、劣化診断装置1は、測定部2と、抵抗値推定部3と、妥当性判定部4と、診断部5と、診断結果表示部6と、推定式記憶部7と、機種別材料名記憶部8と、推定式作成用解析データ記憶部11と、推定式作成部12と、絶縁抵抗情報記憶部13と、を含んで構成される。また、測定部2は、材料因子測定部21と、環境因子測定部22とを有する。
これらの各機能部は、例えば、電子回路を用いて実現される。また、各機能部は、必要に応じて、半導体メモリーや磁気ハードディスク装置などといった記憶手段を内部に備えてよい。また、各機能を、コンピューターおよびソフトウェアによって実現するようにしてもよい。
【0017】
測定部2は、対象機器等(電気製品や電気設備)に用いられる絶縁抵抗(診断対象)の劣化に関する様々な因子を測定する。測定部2は、測定結果のデータを抵抗値推定部3に渡す。具体的には次の通りである。
測定部2内の材料因子測定部21は、絶縁材料の素材の劣化に関わる項目を測定する。材料因子測定部21が測定する項目は、例えば、絶縁抵抗の表面の色(例えば、L*,a*,b*の色空間で表現される。色画像であってもよい。)、青色反射率、赤色反射率、光沢度(入射角20度の場合)、光沢度(入射角60度の場合)、光沢度(入射角85度の場合)、表面粗さ、濡れ性(接触角)、分光反射スペクトルである。これらの項目によって測定される特性は、抵抗材料の劣化に伴い変化する特性である。
測定部2内の環境因子測定部22は、絶縁抵抗を取り巻く環境に関する項目を測定する。環境因子測定部22が測定する項目は、例えば、イオン性物質の量(付着量など)や、設置環境における温度および湿度等である。ここで、イオン性物質の具体例は、塩化物イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、ナトリウムイオン、アンモニウムイオン等である。
【0018】
上記の材料因子測定部21と環境因子測定部22との少なくともいずれかが、自動的かつ連続的な計測を行えるように構成してもよい。これにより、突発的な状況(環境等)の変化による絶縁抵抗値の低下がある場合にも、高い確度でその予兆を捉えることが可能となる。材料因子と環境因子とを比較した場合、突発的な状況変化による抵抗特性の変化がより起きやすいのは、環境因子によるものである。つまり、環境因子を連続的に計測することによって、より効果的に、突発的な状況変化による抵抗特性の変化を予測できる。ただし、材料因子に関しても、連続的な計測自体は有効である。
【0019】
つまり、測定部2は、対象機器に用いられている絶縁材料に関する材料因子、または絶縁抵抗が設置されている場所における環境因子のうちイオン性汚損物質の付着量、の少なくともいずれか一方を測定する。
【0020】
抵抗値推定部3は、測定部2から、測定結果のデータを受け取る。また、抵抗値推定部3は、診断の対象としている機器の機種識別情報を、測定結果データと関連付ける。機種識別情報は、測定部2から受け取るようにしてもよいし、抵抗値推定部3が予め設定されたデータ等として保持しておいてもよい。抵抗値推定部3は、測定結果データに基づいて、絶縁抵抗の抵抗値を推定するための計算を行う。そして、抵抗値推定部3は、推定結果として得られた絶縁抵抗の抵抗値を、その抵抗値が得られた時刻情報と対応づけて絶縁抵抗情報記憶部13に記録する。対応づけられる時刻情報は、推定結果と関連する時刻情報である。例えば、測定部2によって測定が行われた時刻を示す情報であってもよいし、抵抗値推定部3が推定を行った時刻を示す情報であってもよい。
【0021】
具体的には、抵抗値推定部3は、次の手順により推定を行う。まず、抵抗値推定部3は、対象機器の機種および製造年月を特定する。そして、抵抗値推定部3は、その機種と製造年月との組み合わせに対応する絶縁材料の材料名を、機種別材料名記憶部8から読み出す。これにより、対象機器に用いられている絶縁材料が特定される。次に、抵抗値推定部3は、特定された絶縁材料用の抵抗値推定式を、推定式記憶部7から読み出す。次に、抵抗値推定部3は、測定部2から受け取った測定値データを、推定式記憶部7から読み出した推定式に適用する。そして、抵抗値推定部3は、その推定式の計算を行うことにより、対象機器の絶縁抵抗の抵抗値(推定値)を算出する。つまり抵抗値推定部3は、機種別材料名記憶部8を参照して特定した絶縁材料の絶縁抵抗推定式を推定式記憶部7から呼び出し、この推定式を用いて絶縁材料の絶縁抵抗値を推定する。
【0022】
つまり、抵抗値推定部3は、測定部2による測定結果と、推定式記憶部7に記憶された推定式と、を用いて絶縁抵抗の抵抗値を推定する。そして、抵抗値推定部3は、推定結果として得られた絶縁抵抗の抵抗値を、その抵抗値が得られた時刻情報と対応づけて絶縁抵抗情報記憶部13に記録する。
【0023】
絶縁抵抗情報記憶部13は、磁気ハードディスク装置や半導体記憶装置等の記憶装置を用いて構成される。絶縁抵抗情報記憶部13は、測定部2による測定の対象となっている絶縁抵抗に関する時系列情報を記憶する。例えば、絶縁抵抗情報記憶部13は、抵抗値推定部3による抵抗値の推定結果の時系列情報を記憶してもよい。
【0024】
妥当性判定部4は、妥当性判定部4は、抵抗値推定部3により推定された絶縁抵抗値の妥当性を判定する。妥当性判定部4は、例えば抵抗値に関する既定の上限値との比較に基づいて推定された絶縁抵抗値の妥当性を判定する。あるいは、妥当性判定部4は、例えば、絶縁抵抗値の実測値との比較に基づいて推定された絶縁抵抗値の妥当性を判定してもよい。
つまり、妥当性判定部4は、抵抗値推定部3が推定した抵抗値と、絶縁抵抗の抵抗値の実測値とを比較することにより推定式の妥当性を判定することができる。
【0025】
診断部5は、抵抗値推定部3によって推定された絶縁抵抗値の時系列変化に基づいて、診断処理を行う。診断処理の具体例として、変化傾向を判定する処理、将来の絶縁抵抗値を推定する処理、絶縁抵抗の余寿命を推定する処理、異常の発生を検知する処理、がある。診断部5は、診断処理の具体例として以下に説明する処理のうち、1又は複数の処理を行ってもよい。以下、診断処理の各具体例について説明する。
【0026】
1)変化傾向を判定する処理
診断部5は、絶縁抵抗値の時系列の変化傾向を判定する。診断部5が変化傾向を判定する手法には、どのような手法が用いられてもよい。例えば、既存の近似手法が用いられてもよい。より具体的には以下の通りである。診断部5は、例えば線形近似、対数近似、指数近似、累乗近似等の近似手法のうち、予め定められたいずれかの近似手法を用いることによって、絶縁抵抗値の時系列の変化傾向を判定してもよい。
図2は、変化傾向の具体例を示す図である。時刻Aは現在時刻を示す。そのため、時刻Aまでは、実際に測定部2によって得られた測定結果に基づいて絶縁抵抗値の推定値が得られている。一方、時刻A以降は将来となるため、測定部2によって測定結果が得られていない。そのため、測定結果に基づいた絶縁抵抗値の推定値(抵抗値推定部3による推定結果)は得られていない。時刻Aまでに位置する複数の円が、それぞれの時刻における絶縁抵抗値の推定値を示す。これらの複数の推定値を近似することによって、時刻Aまで伸びている実線の近似線が得られる。このような近似の線(
図2では直線)が、絶縁抵抗値の時系列の変化傾向を示している。
【0027】
診断部5は、例えば線形近似、対数近似、指数近似、累乗近似等の近似手法のうち、どの近似手法を用いるかを動的に決定し、決定された近似手法を用いることによって、絶縁抵抗値の時系列の変化傾向を判定してもよい。診断部5は、例えば近似手法の候補を予め複数有し、複数の近似手法によって得られる変化傾向のうち、絶縁抵抗情報記憶部13に記憶されている時系列変化の傾向と最も類似している近似手法を採用することによって、変化傾向を判定してもよい。
【0028】
診断部5は、例えば過去に測定された絶縁抵抗値の時系列の値と、その時系列の値に適した近似手法と、を対応づけた教師データを複数用いることによって行われる機械学習の結果に基づいて、今回の診断対象となっている絶縁抵抗値の時系列の値に適した近似手法を決定してもよい。
【0029】
診断部5は、例えば絶縁抵抗値の時系列の変化のうち、変化の傾向が変わった時点(以下「変化時点」という。)を判定し、変化時点以降の変化傾向を判定する際には、変化時点までの絶縁抵抗値を用いず、変化時点以降の絶縁抵抗値のみに基づいて変化傾向を判定してもよい。
図3は、変化傾向の具体例を示す図である。
図3における時刻Cの時点よりも以前と以降とで、変化傾向が変わっている。このような変化時点は、例えば各時刻における絶縁抵抗の推定値の変化率(例えば微分値)を算出することによって判定されてもよい。変化率の値が閾値を超えて急激に変化することや、変化率の値が不連続となるように急激に変化した場合(例えば連続する時刻における変化率の差が閾値を超えた場合)には、その時点が変化時点として判定されてもよい。診断部5は、変化時点となった時刻C以降の変化傾向を、時刻C以前の推定値を用いることなく判定する。例えば、診断部5は、時刻C以降の変化傾向を、時刻Cから時刻Dまでの間の推定値のみに基づいて判定してもよい。この場合、時刻Dは、実際の測定結果に基づく絶縁抵抗の推定値が得られている時刻。例えば現在時刻。このように変化傾向が判定されることによって、より精度良く変化傾向を判定することができる。その結果、後述するような将来の絶縁抵抗値を推定する処理や、余寿命を推定する処理において、より精度良く各値を推定することが可能となる。
【0030】
2)将来の絶縁抵抗値を推定する処理
診断部5は、上述した変化傾向の判定結果に基づいて、将来の絶縁抵抗値を推定する。診断部5は、例えば将来の任意の時点における絶縁抵抗値を、変化傾向の判定結果に基づいて推定してもよい。将来の任意の時点は、ユーザーによって不図示の入力装置を介して指定されてもよいし、他の情報処理装置等から受信されるデータにおいて指定されてもよい。
【0031】
3)絶縁抵抗の余寿命を推定する処理
診断部5は、上述した変化傾向の判定結果に基づいて、絶縁抵抗の余寿命を推定する。具体的には以下の通りである。診断部5は、絶縁抵抗値の下限値を予め記憶している。下限値は、絶縁抵抗値がこの値を下回ってしまうと、所定の基準を満たさなくなり絶縁材料を交換するなどのメンテナンスが必要となってしまうことを示す値である。診断部5は、下限値を示す閾値を絶縁抵抗の推定値が下回るタイミングを判定する。診断部5は、このようなタイミングまでの残りの期間を余寿命の値として推定する。例えば、
図2の場合には、変化傾向にしたがって絶縁抵抗値が劣化した場合には時刻Bにおいて閾値を推定値が下回る。そのため、現時点(時刻A)から時刻Bまでの期間が余寿命として判定される。例えば、
図3の場合には、変化傾向にしたがって絶縁抵抗値が劣化した場合には時刻Eにおいて閾値を推定値が下回る。そのため、現時点(時刻D)から時刻Eまでの期間が余寿命として判定される。
【0032】
4)異常の発生を検知する処理
診断部5は、上述した変化時点の有無を判定し、変化時点が生じていると判定された場合には、異常が発生していると検知してもよい。診断部5によって変化時点が生じていると判定された場合には、変化時点に関する情報がユーザーに対して出力されてもよい。このような出力は、例えば診断結果表示部6によって行われてもよい。絶縁抵抗値の急激な変化は、例えば負荷電流の増加や環境の急激な変化に起因している可能性がある。このような事象が発生する場合には、保護機器の破損や、周囲の保護筐体の破損等の異常が発生している可能性もある。そのため、このような異常の発生が検知されてユーザーに対して出力されることによって、ユーザーにおいて何らかの対応をより早い時点で取ることを可能とする。
【0033】
診断部5の処理によって得られる診断結果は、診断結果表示部6に渡される。
診断結果表示部6は、診断部5から渡される診断結果を表示する。これにより、劣化診断装置1のユーザーは、対象機器に用いられている抵抗の有効期限の推定値を知ることができる。なお、診断結果表示部6は、他の態様で出力を行う装置に置き換えられてもよい。例えば、音声で情報を出力するスピーカーに置き換えられてもよいし、点滅や明滅の態様によって情報を出力する1又は複数の照明に置き換えられてもよい。
【0034】
推定式記憶部7は、磁気ハードディスク装置や半導体記憶装置等の記憶装置を用いて構成される。推定式記憶部7は、絶縁材料別の推定式を記憶する。推定式記憶部7が記憶する推定式は、複数の劣化モードにわたるものであり、解析データに基づいて予めT法で作成されたものである。これらの推定式は、一般化すると、下の式(1)で表される。
R=f(m,d1,d2,…,dN) ・・・ (1)
式(1)において、Rは推定された抵抗値であり、f()は推定抵抗値を出力するための所定の関数である。また、mは、絶縁材料の種類(物質)を指標する値(例えば、整数値)である。また、d1,d2,…,dNは、絶縁材料の種類以外を表すN個のパラメーターである。これらのパラメーターには、絶縁材料の形状やサイズ(例えば、断面積や長さ等)に関するデータが含まれる。また、これらのパラメーターには、測定部2において測定される測定結果データが含まれる。
なお、多数の劣化モードを網羅して推定式を作成するほど、推定される抵抗値の精度は上がり、誤診断が少なくなる。
【0035】
推定式記憶部7は、この関数f()を記憶する。具体的には、推定式記憶部7は、例えば、関数f()を表す数式を構文木の形式のデータとして記憶してもよい。また、推定式記憶部7は、例えば、関数f()を実現するコンピュータープログラムモジュール(ソースプログラム、あるいは実行可能形式のプログラム等)を記憶してもよい。また、推定式記憶部7は、関数f()を記憶する代わりに、絶縁材料の種類mごとに個別に定義された関数fm()を記憶してもよい(例えば、m=1,2,…)。関数fm()は、下の式(2)で表される。
R=fm(d1,d2,…,dN) ・・・ (2)
【0036】
つまり、推定式記憶部7は、測定部2による測定結果を基に絶縁抵抗の抵抗値を推定するための推定式に関する情報を記憶する。
【0037】
機種別材料名記憶部8は、磁気ハードディスク装置や半導体記憶装置等の記憶装置を用いて構成される。機種別材料名記憶部8は、診断対象の機器の、機種および製造年月と、絶縁材料の種類とを関連付けて記憶する。つまり、対象機器の機種および製造年月を特定して機種別材料名記憶部8を参照すると、使用されている絶縁材料の種別を特定することができるようになっている。
【0038】
推定式作成用解析データ記憶部11は、磁気ハードディスク装置や半導体記憶装置等の記憶装置を用いて構成される。推定式作成用解析データ記憶部11は、推定式を作成するために用いる解析データを記憶する。推定式作成用解析データ記憶部11が記憶するデータは、式(1)や式(2)におけるm,d1,d2,…,dN、およびRの値の組の集合である。
推定式作成部12は、推定式作成用解析データ記憶部11に記憶されている解析データを基に、T法(タグチ法)による多変量解析を行い、推定式を求める。推定式作成部12によって求められる推定式は、前記の式(1)または式(2)で表されるものである。なお、推定式作成部12は、T法に代えて、MT法(マハラノビス・タグチ法)を用いてもよい。なお、T法やMT法自体は、既存の技術である。
つまり、推定式作成部12は、測定部2が測定する測定項目の実測値と絶縁抵抗の抵抗値の実測値との組に基づき、タグチ法またはタグチ・シュミット法を用いた多変量解析により推定式を予め作成する。
【0039】
なお、劣化診断装置1が、推定式作成用解析データ記憶部11や推定式作成部12を持たない構成としてもよい。その場合にも、予め、劣化診断装置1以外の装置が有する推定式作成部12が推定した推定式は、推定式記憶部7に記憶されている。よって、抵抗値推定部3は、その推定式を用いて、抵抗値を推定することができる。
【0040】
図4は、診断対象機器の近傍に本実施形態による劣化診断装置を設ける場合の配置例(第1の配置例)を示す概略図である。図示するように、本例では、筺体311の内部に、対象機器312および313が設置されている。対象機器312および313は、高電圧を使用する電気機器であり、絶縁のための絶縁材料を内部に備えている。筺体311は、吸気口316と排気口317とを備えている。例えば不図示のファン等が筺体311内または近傍の所定の箇所に設けられていることによって、筺体311の外部の空気が吸気口316を通って筺体311の内部に流入する。また、同様に、筺体311の内部の空気が排気口317を通って筺体311の外部に流出する。吸気口316と排気口317の位置に示している太い矢印は、それぞれ、空気の流れる方向を表している。本例では、基本的にはこれらの吸気口316および排気口317のみによって、筺体311の内部と外部の空気は交換される。そして、対象機器312および313の近傍に、それぞれ、測定部314および315が設置されている。この測定部314および315は、その場所における汚損物質を計測するものである。つまり、測定部314は、対象機器312に影響する環境因子に関する測定を行う。また、測定部315は、対象機器313に影響する環境因子に関する測定を行う。即ち、測定部314および315は、
図1における環境因子測定部22に当たる。なお、対象機器312および対象機器313のそれぞれについて、材料因子を測定するための不図示の測定部(
図1における材料因子測定部21に当たる)が設けられていてもよい。
図4に示す例では、測定部314および315は、通信線を介して筺体311の外部と接続されている。そして、劣化診断装置1が有する測定部2以外の機能(つまり、抵抗値推定部3と、妥当性判定部4と、診断部5と、診断結果表示部6と、推定式記憶部7と、機種別材料名記憶部8と、推定式作成用解析データ記憶部11と、推定式作成部12とを含む機能)は、筺体311の外部に存在する。そして、測定部314および315のそれぞれは、上記の通信線を介して測定結果データを抵抗値推定部3に伝える。
【0041】
図4に示した配置の場合、筺体311内の気流の流れに応じて、空気中の汚損物質(イオン性物質等)が筺体311内に分布する。各々の対象機器の近傍に測定部を設けることにより、対象機器ごとの汚損状況(環境因子)を測定することができる。
つまり、測定部2における、イオン性汚損物質の付着量の計測手段を、対象機器における絶縁抵抗の近傍に設置するようにしている。これにより、絶縁抵抗が環境から受ける要因をより正確に測定できる。
【0042】
また、筺体311内における気流の流れが明らかな場合には、例えば最も汚損されすい箇所のみについて、監視対象として測定することもできる。例えば
図4の配置において、気流(概ね、太い矢印で示す)の上流側に位置する対象機器312に対応する測定部314のみを設けるようにしてよい。
【0043】
図5は、診断対象機器の近傍に本実施形態による劣化診断装置を設ける際の第2の配置例を示す概略図である。本図に示す例では、
図4に示した場合と同様に、筺体311の内部に対象機器312および313が設置されている。また、筺体311は、吸気口316および排気口317を有している。つまり、
図4に示した場合と同様に、筺体311の外部の空気は、吸気口316を通って筺体311の内部に流入する。また、筺体311の内部の空気は、排気口317を通って筺体311の外部に流出する。そして、筺体311内における吸気口316の近傍に、測定部318が設置されている。測定部318は、その場所における汚損物質を計測するものである。吸気口316から筺体311の内部に流入する空気は、測定部318の周辺の場所を通り、筺体311内を循環し、排気口317を撮って筺体311の外部に流出する。つまり、測定部318は、対象機器312および313に影響する環境因子に関する測定を行う。即ち、測定部318は、
図1における環境因子測定部22に当たる。なお、対象機器312および対象機器313のそれぞれについて、材料因子を測定するための不図示の測定部(
図1における材料因子測定部21に当たる)が設けられていてもよい。
図5に示す例においても、測定部318は、通信線を介して筺体311の外部と接続されている。そして、劣化診断装置1が有する測定部2以外の機能(つまり、抵抗値推定部3と、妥当性判定部4と、診断部5と、診断結果表示部6と、推定式記憶部7と、機種別材料名記憶部8と、推定式作成用解析データ記憶部11と、推定式作成部12とを含む機能)は、筺体311の外部に存在する。そして、測定部318は、上記の通信線を介して測定結果データを抵抗値推定部3に伝える。
【0044】
図5に示した配置の場合、吸気口316の近傍に設けた測定部318が、筺体311に流入する汚損物質(イオン性物質等)の量を測定する。実際の監視対象である対象機器312および313のそれぞれの場所においては、汚損物質の量は、吸気口316の近傍よりも少なくなると推定される。つまり、図示する配置とすることにより、対象機器312および313における絶縁抵抗値の低下の予兆を、事前に検知するのに有効である。
絶縁抵抗値の低下の予兆を検知した場合には、個々の対象機器に関して、マニュアル作業による目視点検や、従来の汚損度の計測等を実施することができる。これにより、測定手段の設置数を少なく抑制しながら、予防保全を達成することができる。
【0045】
つまり、本例では、測定部2における、イオン性汚損物質の付着量の計測手段を、対象機器における絶縁抵抗を収容する筺体の吸気口の近傍に設置するようにしている。
さらに、上記のイオン性汚損物質の付着量の計測手段を、上記筺体の排気口の近傍にも設置するようにしてもよい。
【0046】
次に、環境因子測定部22の実現例について説明する。
図6および
図7は、環境因子測定部22の一構成例であるセンサーを示す断面図および平面図である。
図6は、断面図である。
図7は、平面図である。
図6の断面図は、
図7における一点鎖線C-C´において切った断面を示すものである。
図6および
図7に示すように、本例による環境因子測定部22は、絶縁板31と、第1電極32と、第2電極33とを有する。第1電極32と第2電極33とは、互いに所定の距離を置いて、絶縁板31上に所定のパターンで配置される。第1電極32と第2電極33のパターン形成には、例えば、プリント技術を用いる。
図7に示すように、第1電極32と第2電極33は、それぞれ、電圧源(図中の「V」)および電流計(図中の「A」)に接続される。電圧源は、第1電極32と第2電極33との間に、交流電圧または直流電圧を印加する。電流計は、第1電極32から第2電極33に流れる電流を測定する。
図6において、符号34は、汚損物や水膜である。汚損物/水膜34の付着により、第1電極32から第2電極33に漏れ電流が流れる。上記の電流計は、この漏れ電流を計測する。つまり、上記の電流計は、電極パターン(第1電極32と第2電極33)上に付着した汚損物/水膜34のイオン電導性を計測する。計測される電流は、付着した汚損物あるいは水膜の量により変化する。
【0047】
以上説明したように、本例では、測定部2における、イオン性汚損物質の付着量の計測手段は、電極を有するセンサーに付着したイオン性汚損物質を含む水膜の電導性を計測するものである。
【0048】
なお、第1電極32と第2電極33とにそれぞれ異種金属を用いて、電極間に流れるガルバニック電流を計測する方法としてもよい。この場合、ガルバニック電流は、付着した水分の量および付着したイオン性汚損物質の量に応じて変化する。つまり、ガルバニック電流を測定することで、電極間のイオン性汚損物質の付着量を推定することが可能である。
【0049】
なお、測定時の温度や湿度は、電極間の水分量に影響を及ぼす。つまり、温度や湿度によっても、電流計による計測値は変化する。そのため、予め、付着物の汚損度と、温度と、湿度と、センサー計測値(電流)との相関を予め取得しておくようにする。これにより、計測された電流の値から、水分による寄与分を補正することが可能となる。そして、環境因子測定部22は、温度と、湿度と、電流とを計測し、それらの計測値から、付着物の汚損度を推定する。以上のように、環境因子測定部22は、絶縁抵抗値を低下させる要因となる汚損物の付着度を測定する。
この場合、推定式は、温度や湿度にも基づいて推定抵抗値を算出するものである。
【0050】
環境因子測定部22の他の実現例についても説明する。
汚損物質の付着による質量変化を捉えるために、水晶振動子(QCM)法や、表面弾性波(SAW)法を適用することができる。このように、微小な重量変化に伴う振動特性の変化を計測することによって汚損物質の付着量を求める方法は、比較的容易であるとともに、高感度に汚損物質の付着量を検知し、定量化することができる。
【0051】
図8は、水晶振動子法を用いた環境因子測定部22の一構成例であるセンサーを示す概略図である。図示するように、本例によるセンサーは、水晶振動子40を電極43と電極44とで挟んで構成される。そして、電極43と44との間に、外部から電圧を印加できるようにしている。これら電極間に電圧を印加すると、水晶振動子40は固有の周波数(共振周波数)で振動する。また、付着物41や42は、汚損物質である。付着物41や42が付着している場合と付着していない場合とでは、質量が変わるため、水晶振動子40の共振周波数が変わる。また、付着物の量に応じて、水晶振動子40の共振周波数が変わる。本例によるセンサーでは、この共振周波数の変化に基づいて、付着物の質量を計測することができる。測定精度として、0.1ng(ナノグラム)のオーダーの質量変化を計測することが可能である。
【0052】
つまり、測定部2における、イオン性汚損物質の付着量の計測手段は、イオン性汚損物質を含む汚損物質がセンサーに付着したことに依る前記センサーの質量の変化を計測するものである。
【0053】
図6および
図7に示した構成例と同様に、
図8の構成例においても、測定時の温度や湿度が、水晶振動子に付着する水分量に影響を及ぼす。つまり、温度や湿度によって、質量変化の計測値は変化する。そのため、予め、付着物の汚損度と、温度と、湿度と、センサー計測値(電流)との相関を予め取得しておくようにする。これにより、計測された質量変化の値から、水分による寄与分を補正することが可能となる。そして、環境因子測定部22は、温度と、湿度と、質量変化とを計測し、それらの計測値から、付着物の汚損度を推定する。
【0054】
付着する汚損物質に含まれるイオン成分の測定には、イオンクロマトグラフ法や、イオン選択性電極による方法等を用いる。これらの方法を用いるためには、飛来した汚損物質のうちのイオン成分を水に展開した後、分析用の機器に供給する必要がある。
【0055】
図9は、イオン成分を分析・測定するためのイオン成分分析装置の構成例を示す概略図である。図示するように、イオン成分分析装置50は、純水供給部51と、純水供給配管52と、汚損物採取槽53と、サンプリング配管54と、三方弁56と、洗浄排水配管57と、成分計測部58と、を含んで構成される。このイオン成分分析装置50は、次の通り機能する。
【0056】
純水供給部51は、必要時に、純水供給配管52を通して純水を供給する。
純水供給配管52は、純水供給部51から供給される純水を、必要時に汚損物採取槽53に供給する。
汚損物採取槽53は、外部より飛来した汚損物質を採取する。イオン成分分析装置50を放置している期間中に、汚損物採取槽53には、外部からの汚損物質が堆積する。放置期間に汚損物質が堆積した後、溶解期間において、純水供給配管52から供給される純水中に、汚損物質に含まれるイオン性物質が溶解する。イオン性物質が溶解した水は、汚損物採取槽53からサンプリング配管54側に流れる。
サンプリング配管54は、汚損物採取槽53で採取されたイオン性物質を含む水を、三方弁56を介して、成分計測部58に供給する機能を持つ。
なお、汚損物採取槽53と三方弁56との間に、ポンプが設けられている。このポンプは、サンプリング配管54内に水圧を生じさせる。このポンプの作用により、サンプリング配管54内において、図の左側から右側への水の流れが生じる。
三方弁56は、3方向の出入口を有する弁である。イオン成分分析装置50において、この三方弁56により、汚損物採取槽53からの水を、成分計測部58側に導くか、洗浄排水配管57側に導くかを切り替えることができる。つまり、成分計測部58による計測を行うときには、汚損物採取槽53からの水が成分計測部58側に供給されるようにする。また、成分計測部58による計測が終了すると、汚損物採取槽53からの水は、洗浄排水配管57側に流れ、排水される。
洗浄排水配管57は、不要となった水(汚損物採取槽53に貯められた水)を排水するための配管である。
成分計測部58は、イオンクロマトグラフ法やイオン選択性電極による方法等により、供給される水に含まれるイオン成分の種類と量とを計測する。成分計測部58は、計測結果のデータを出力する。
【0057】
以上のように構成されるイオン成分分析装置50を用いることにより、(1)外部からの汚損物質が堆積→(2)イオン成分の分析および計測→(3)イオン成分の計測に使用されなかった水の排水というプロセスを1サイクルとして、計測を繰り返すことができる。なお、計測の周期は、適宜設定される。
【0058】
つまり、測定部2における、イオン性汚損物質の付着量の計測手段は、イオン性汚損物質の組成を分析するためのイオン成分分析装置50を備える。イオン成分分析装置50は、イオン性汚損成分の組成を定性的に、また定量的に分析するものである。
【0059】
以上説明したように、本実施形態によれば、対象機器に用いられている絶縁抵抗の絶縁材料に関する材料因子、または前記絶縁抵抗が設置されている場所における環境因子のうちイオン性汚損物質の付着量、の少なくともいずれか一方を測定する測定部と、その測定結果を用いて絶縁抵抗の抵抗値を推定する抵抗値推定部とを持つことにより、抵抗値を精度よく予測することができる。
【0060】
また、電気設備の構造によっては、気流の影響により設備内の部位によって、汚損状況が異なる場合がある。
本実施形態では、イオン性汚損成分の付着量の計測手段を、診断対象とする絶縁材料の近傍に設置してよいため、これにより、対象材料の汚損状況をより正確に把握することが可能となる。
【0061】
また、イオン性汚損成分の付着量の計測手段を、診断対象とする絶縁材料ごとに設置できれば、それぞれの材料の絶縁低下を高精度に予測可能であるが、全ての絶縁材料が用いられている部位に個別に計測手段を設置するのは困難である。
本実施形態では、気流の関係で汚損が最も進行しやすい絶縁材料の部位の汚損状況を計測する方法を用いることもできる。
診断対象とする絶縁材料が収容されている筐体の吸気口の近傍に、イオン性汚損成分の付着量の計測手段を設置することもできる。この場合、筐体内の局所的な汚損状況に関する情報を取得することはできないが、筐体内の汚損レベルを総括的に把握することが可能となる。
筐体内の総括的な汚損レベルの上昇を検知した場合、マニュアル作業による目視点検等を実施することで、少数の計測手段の設置数を抑えつつ、予防保全を達成することができる。
また、イオン性汚損成分の付着量の計測手段を、診断対象とする絶縁材料が収容されている筐体の吸気口だけでなく、同筺体の排気口の近傍にも設置してよい。この場合、排出口近傍の計測手段の結果から、筐体から排出されるイオン性汚損成分の量を把握することできる。そのため、筐体内部に残留するイオン性汚損成分の量をより正確に把握することが可能となる。
【0062】
また、本実施形態では、イオン性汚損成分の付着量の計測のために、イオン性汚損成分を溶解させた水膜中のイオン電導性を計測する手段を備えてもよい。イオン性成分の汚損成分は、絶縁材料表面の水膜の電導度を上昇させることで、絶縁抵抗の低下を引き起こす。そのため、電導度を計測することで、直接的に絶縁低下への影響度を評価することが可能となる。
【0063】
イオン性汚損成分の付着量の計測のため、汚損物の付着による質量変化を計測する手段を備えることもできる。絶縁抵抗の低下を引き起こすのは上記の様に海塩粒子、ガス等であるが、これらのイオン性汚損成分の付着量の増加にともない、質量が増加する。質量を計測する場合には、非イオン性の塵埃も同時に計測されるが、非イオン性の塵埃はイオン性汚損成分と同様に気流によって運ばれる。よって、イオン性汚損性成分が増加する場合には、非イオン性の塵埃も同時に増加する傾向がある。そのため、質量変化を計測することで、イオン性汚損成分の増加を予測することが可能となる。
【0064】
さらにイオン性汚損成分の組成を定性・定量的に分析する手段を備えることで、絶縁低下への影響度をさらに高精度に評価することが可能となる。
【0065】
また、絶縁特性に対して大きな影響を及ぼすイオン成分として硝酸イオンがある。絶縁抵抗が低下し放電が発生し始めると空気中の窒素を原料として硝酸が生成される。この硝酸が水膜中に溶け込み絶縁材料充填材である炭酸カルシウムと反応することで、低湿度で潮解する硝酸カルシウムが生成され、急速に絶縁低下が進行することになる。そのため、硝酸イオンの存在を検知することは、絶縁低下の傾向を予測する上では有効な手段となる。
【0066】
上記の様に、それまで外来の汚損成分の影響が支配的だったのが、ある時点で放電により生成した硝酸の影響が絶縁低下の主要因に変化する場合がある。その場合、絶縁抵抗低下の進行度の予測式が変化する可能性がある。
そこで、硝酸イオンの存在量が増大を検知することで、上記の様な劣化モードの変化点を捉え、絶縁抵抗低下の進行度の予測式を切り替えることで、より高精度な余寿命診断が可能となる。
【0067】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について説明する。なお、前実施形態において既に説明した事項については以下において説明を省略する場合がある。ここでは、本実施形態に特有の事項を中心に説明する。
【0068】
図10は、本実施形態による劣化診断システムの概略機能構成を示すブロック図である。
図示するように、劣化診断システム100は、測定装置110と、分析装置120と、を含んで構成される。測定装置110と、分析装置120とは、通信ネットワークを介して相互に接続されている。なお、複数の測定装置110が、劣化診断システム100に含まれていても良い。
【0069】
測定装置110は、測定部2と、測定値送信部111と、を含んで構成される。
また、分析装置120は、測定値受信部121と、抵抗値推定部3と、妥当性判定部4と、診断部5と、診断結果表示部6と、推定式記憶部7と、機種別材料名記憶部8と、推定式作成用解析データ記憶部11と、推定式作成部12と、を含んで構成される。測定装置110は、例えば、サーバー型コンピューターを用いて実現される。
上記の各機能部のうち、測定部2と、抵抗値推定部3と、妥当性判定部4と、診断部5と、診断結果表示部6と、推定式記憶部7と、機種別材料名記憶部8と、推定式作成用解析データ記憶部11と、推定式作成部12とは、第1実施形態におけるそれらと同様の機能を有する(
図1を参照)ものである。よって、ここでは、これら各機能部に関する詳細な説明を省略する。
【0070】
測定装置110側の測定値送信部111は、測定部2によって測定された結果得られるデータを、通信ネットワークを介して、分析装置120側に送信する。
分析装置120側の測定値受信部121は、測定装置110側の測定値送信部111から送信された測定結果データを受信する。測定値受信部121は、受信した測定結果データを、抵抗値推定部3に渡す。
これにより、分析装置120側では、測定装置110側で測定されたデータに基づいて、抵抗値を推定し、推定された抵抗値の妥当性を判定し、診断を行い、その診断結果を表示する。
【0071】
本実施形態によれば、所謂クライアントサーバー構成により、単独の、または少数の分析装置120と、多数の測定装置110とで、劣化診断システム100を構成することができる。つまり、対象機器が設置されている現場において必要な測定を行い、それらの測定結果のデータを用いた抵抗値の推定の処理を、例えばデータセンター等に設置された少数のサーバー装置で集中的に行うことができる。これにより、劣化診断システム100全体のコストを低減化できる。
【0072】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態について説明する。なお、前実施形態までにおいて既に説明した事項については以下において説明を省略する場合がある。ここでは、本実施形態に特有の事項を中心に説明する。
【0073】
図11は、本実施形態による劣化診断システムの概略機能構成を示すブロック図である。
図示するように、劣化診断システム150は、測定装置110と、分析装置160と、を含んで構成される。測定装置110と、分析装置160とは、通信ネットワークを介して相互に接続されている。なお、複数の測定装置110が、劣化診断システム100に含まれていても良い。
【0074】
測定装置110は、測定部2と、測定値送信部111と、を含んで構成される。
また、分析装置160は、測定値受信部161と、解析データ収集部162と、抵抗値推定部3と、妥当性判定部4と、診断部5と、診断結果表示部6と、推定式記憶部7と、機種別材料名記憶部8と、推定式作成用解析データ記憶部11と、推定式作成部12と、を含んで構成される。分析装置160は、例えば、サーバー型コンピューターを用いて実現される。
上記の各機能部のうち、測定部2と、抵抗値推定部3と、妥当性判定部4と、診断部5と、診断結果表示部6と、推定式記憶部7と、機種別材料名記憶部8と、推定式作成用解析データ記憶部11と、推定式作成部12とは、第1実施形態におけるそれらと同様の機能を有する(
図1を参照)ものである。よって、ここでは、これら各機能部に関する詳細な説明を省略する。
【0075】
測定装置110側の測定値送信部111は、測定部2によって測定された結果得られるデータを、通信ネットワークを介して、分析装置120側に送信する。
分析装置160側の測定値受信部161は、測定装置110側の測定値送信部111から送信された測定結果データを受信する。測定値受信部161は、受信した測定結果データを、抵抗値推定部3に渡す。
これにより、分析装置160側では、測定装置110側で測定されたデータに基づいて、抵抗値を推定し、推定された抵抗値の妥当性を判定し、診断を行い、その診断結果を表示する。
【0076】
また、分析装置160側の測定値受信部161は、受信したデータを、解析データ収集部162に渡す。解析データ収集部162は、測定値受信部161から受け取ったデータを推定式作成用解析データ記憶部11に書き込む。つまり、推定式作成部12は、推定式作成用解析データ記憶部11を参照して推定式を作成する際に、解析データ収集部162が収集したデータを含めて分析を行う。つまり、分析装置160は、予め記憶していた解析データだけでなく、測定装置110から受け取ったデータをも用いて、推定式を作成することができる。なお、推定式を作成するために用いる解析データには、抵抗値の実測値を含んでいてもよい。
【0077】
本実施形態によれば、分析装置160の解析データ収集部162が、測定装置110から受け取った測定結果データを推定式作成用解析データ記憶部11に書き込む。つまり、分析装置160は、測定装置110から受け取った測定結果データを用いて、抵抗値を推定するための推定式を作成することができる。分析装置160は、この推定式の作成を、任意の適切なタイミングで実行することができる。つまり、分析装置160は、測定装置110から収集した測定結果データを用いて、抵抗値の推定式に関する学習を行うことが可能となる。
【0078】
実施形態の変形例について説明する。
上記実施形態の、
図4や
図5に示す配置例では、劣化診断装置1が有する測定部2以外の機能(つまり、抵抗値推定部3と、妥当性判定部4と、診断部5と、診断結果表示部6と、推定式記憶部7と、機種別材料名記憶部8と、推定式作成用解析データ記憶部11と、推定式作成部12とを含む機能)は、筺体311の外部に存在する。しかしながら、これらの抵抗値推定部3と、妥当性判定部4と、診断部5と、診断結果表示部6と、推定式記憶部7と、機種別材料名記憶部8と、推定式作成用解析データ記憶部11と、推定式作成部12とが筺体311の内部に存在しても良い。
また、測定部2における、イオン性汚損物質の付着量の計測手段の配置方法は、
図4や
図5に例示したものに限らず、他の配置方法としてもよい。
【0079】
また、イオン性汚損物質の付着量の計測手段の具体例として、
図6,
図7,
図8,
図9等を参照しながらその実現方法であるセンサーを説明したが、複数のセンサーを併用してイオン性汚損物質の付着量を計測するようにしてもよい。
【0080】
また、
図9に示したイオン成分分析装置50は、イオン性汚損物質の組成を分析することとしたが、ここで判定された組成に応じて、抵抗値推定部3が、異なる推定式を用いて抵抗値を推定するようにしてもよい。つまり、この場合、イオン性汚損成分の組成により、抵抗値推定部3が、絶縁抵抗の推定式を切り替えて使用する。これにより、抵抗値推定部3は、イオン性汚損物質の組成にマッチした推定式を用いることができる。即ち、抵抗値をより精度良く推定することが可能となる。
【0081】
変化時点を判定する際に、絶縁抵抗に対してメンテナンスが行われたことに基づいて判定が行われてもよい。メンテナンスが行われると、環境因子が急激に良い方向に変化することが多い。そうすると、メンテナンス前の測定値に基づいた絶縁抵抗の推定値と、メンテナンス後の測定値に基づいた絶縁抵抗の推定値とでは、メンテナンス時を境に不連続に変化する可能性がある。このような場合に、メンテナンス前後の推定値を用いて近似を行うと、不正確な近似が行われてしまうおそれがある。このような問題に対し、メンテナンス時を上述した変化時点として扱うことによって、より正確な変化傾向を得ることが可能となる。例えば、劣化診断装置1は、メンテナンスが行われた時刻を入力することが可能となるように構成されてもよい。この場合、劣化診断装置1の絶縁抵抗情報記憶部13は、メンテナンスが行われた日時を示す情報を記憶してもよい。
【0082】
上述した診断部5における4つの診断処理は、いずれも抵抗値推定部3による推定結果に基づいて行われている。しかしながら、診断部5は、推定結果以外の値に基づいて診断処理を行ってもよい。例えば、測定部2によって測定された値(以下「推定因子」という。)に基づいて診断処理を行ってもよい。推定因子は、材料因子及び環境因子のいずれか一方又は双方を含む。この場合、抵抗値推定部3は、絶縁抵抗情報記憶部13に対し、抵抗値の推定に用いられた推定因子の値をさらに時刻情報及び抵抗の推定値と対応づけて記録する。診断部5は、絶縁抵抗情報記憶部13に記憶されている推定因子の時系列の変化に応じて、推定因子の変化傾向を判定する処理、将来の推定因子の値を推定する処理、異常の発生を検知する処理を行ってもよい。これらの処理は、いずれも上述した1)、2)及び4)の処理を、絶縁抵抗の推定値に代えて推定因子を用いることによって行われる。
【0083】
また、このような診断部5の処理によって得られた将来の推定因子に基づいて、将来の絶縁抵抗の推定値が得られてもよい。具体的には、抵抗値推定部3が、測定部2によって測定された値(測定された推定因子)ではなく、診断部5の処理によって得られた将来の推定因子を用いて、絶縁抵抗値の推定処理を行うことによって、将来の絶縁抵抗の推定値が得られてもよい。さらに、診断部5は、このようにして得られた将来の絶縁抵抗の推定値に基づいて、絶縁材料の余寿命を判定してもよい。
【0084】
図12は、推定因子の一例として、材料因子に含まれる光沢度の値の変化傾向の具体例を示す図である。時刻Fは現在時刻を示す。そのため、時刻Fまでは、実際に測定部2によって得られた測定結果の光沢度が得られている。一方、時刻F以降は将来となるため、測定部2によって光沢度の測定結果が得られていない。時刻Fまでに位置する複数の円が、それぞれの時刻における光沢度の測定結果を示す。これらの複数の測定結果を近似することによって、時刻Fまで伸びている実線の近似線が得られる。このような近似の線(
図12では直線)が、変化傾向を示している。
【0085】
図13は、推定因子の一例として、環境因子に含まれる汚損度の値の変化傾向の具体例を示す図である。
図13における時刻Hの時点よりも以前と以降とで、変化傾向が変わっている。このような変化時点は、例えば各時刻における汚損度の変化率(例えば微分値)を算出することによって判定されてもよい。変化率の値が閾値を超えて急激に変化することや、変化率の値が不連続となるように急激に変化した場合(例えば連続する時刻における変化率の差が閾値を超えた場合)には、その時点が変化時点として判定されてもよい。診断部5は、変化時点となった時刻H以降の変化傾向を、時刻H以前の汚損度の測定結果を用いることなく判定する。例えば、診断部5は、時刻H以降の汚損度の変化傾向を、時刻Hから時刻Iまでの間の推定値のみに基づいて判定してもよい。このように変化傾向が判定されることによって、より精度良く変化傾向を判定することができる。
【0086】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、対象機器に用いられている絶縁抵抗の絶縁材料に関する材料因子、または前記絶縁抵抗が設置されている場所における環境因子のうちイオン性汚損物質の付着量、の少なくともいずれか一方を測定する測定部と、その測定結果を用いて絶縁抵抗の抵抗値を推定する抵抗値推定部とを持つことにより、抵抗値を精度よく予測することができる。
【0087】
なお、上述した各実施形態における劣化診断装置、測定装置、分析装置の機能をコンピューターで実現するようにしても良い。その場合、この機能を実現するためのプログラムをコンピューター読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピューターシステムに読み込ませ、実行することによって実現しても良い。なお、ここでいう「コンピューターシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピューター読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM、DVD-ROM、USBメモリー等の可搬媒体、コンピューターシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピューター読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバーやクライアントとなるコンピューターシステム内部の揮発性メモリーのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでも良い。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピューターシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであっても良い。
【0088】
なお、コンピューターを用いて各実施形態における測定部2を実現する場合、プログラムは、「対象機器に用いられている絶縁抵抗の絶縁材料に関する材料因子、または前記絶縁抵抗が設置されている場所における環境因子のうちイオン性汚損物質の付着量、の少なくともいずれか一方を測定するよう制御する測定過程」の処理をコンピューターに実行させる。そして、コンピューターによる制御の下、物理量の測定自体は実施形態にも記載したセンサー等が行う。
【0089】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0090】
1…劣化診断装置、2…測定部、3…抵抗値推定部、4…妥当性判定部、5…診断部、6…診断結果表示部、7…推定式記憶部、8…機種別材料名記憶部、11…推定式作成用解析データ記憶部、12…推定式作成部、13…絶縁抵抗情報記憶部、21…材料因子測定部、22…環境因子測定部、31…絶縁板、32…第1電極、33…第2電極、34…汚損物/水膜、40…水晶振動子、41,42…付着物、43,44…電極、50…イオン成分分析装置、51…純水供給部、52…純水供給配管、53…汚損物採取槽、54…サンプリング配管、56…三方弁、57…洗浄排水配管、58…成分計測部、100…劣化診断システム、110…測定装置、111…測定値送信部、120…分析装置、121…測定値受信部、150…劣化診断システム、160…分析装置、161…測定値受信部、162…解析データ収集部、311…筺体、312,313…対象機器、314,315…測定部、316…吸気口、317…排気口、318…測定部