(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023017163
(43)【公開日】2023-02-07
(54)【発明の名称】石炭選定方法及び選定した石炭を主燃料とする火力発電システム
(51)【国際特許分類】
F23K 1/00 20060101AFI20230131BHJP
C10L 5/00 20060101ALI20230131BHJP
F23N 1/00 20060101ALI20230131BHJP
【FI】
F23K1/00 Z
C10L5/00
F23N1/00 115Z
F23N1/00 113Z
F23N1/00 116
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021121204
(22)【出願日】2021-07-26
(71)【出願人】
【識別番号】521327172
【氏名又は名称】中垣 喜彦
(74)【代理人】
【識別番号】100186901
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 昌雄
(72)【発明者】
【氏名】中垣 喜彦
【テーマコード(参考)】
3K068
4H015
【Fターム(参考)】
3K068FA04
3K068FD00
3K068HA03
4H015AA10
4H015AB01
4H015BA02
4H015BA04
4H015CB01
(57)【要約】
【課題】本発明の解決しようとする課題は、石炭火力発電システムからのCO2排出量を削減することにある。
【解決手段】下式で定義されるCO2排出係数が24以下となる石炭を複数の石炭を混炭することにより製造するか、又はCO2排出係数が24以下である石炭を新たに探索し、火力発電システムの主燃料として選定する方法である。
CO2排出係数=C÷((81×C+342.5×(H-O/8)+22.5×S)÷3600×860×10000
ここでC、H、O、SはJIS(JISM8819)による石炭の元素分析値で、それぞれ無水無灰ベースでの石炭中のカーボン、水素、酸素、硫黄の重量%である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式で定義されるCO2排出係数が24以下となる石炭を複数の石炭を混炭することにより製造するか、又はCO2排出係数が24以下である石炭を新たに探索し、火力発電システムの主燃料として選定することを特徴とする石炭選定方法。
CO2排出係数=C÷((81×C+342.5×(H-O/8)+22.5×S)÷3600×860×10000
ここでC、H、O、SはJIS(JIS M 8819)による石炭の元素分析値で、それぞれ無水無灰ベースでの石炭中のカーボン、水素、酸素、硫黄の重量%である。
【請求項2】
請求項1の方法で選定した石炭を主燃料とし、
燃焼装置と、発電装置と、排煙処理装置と、を有する火力発電システム。
【請求項3】
請求項2の火力発電システムに、CO2回収装置と、CO2圧縮液化装置と、を追加設置したことを特徴とする火力発電システム。
【請求項4】
請求項2の火力発電システムに、酸素製造装置と、排ガス再循環装置と、CO2圧縮液化装置と、を追加設置したことを特徴とする火力発電システム。
【請求項5】
請求項4の火力発電システムに、電気分解装置を追加設置したことを特徴とする火力発電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は石炭を主たる燃料とする火力発電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
我国の電源は、火力、原子力、水力、地熱、及び再生可能エネルギー等で構成されている。ここで、水力、地熱は国内ではほぼ開発限界に達しており、今後大きく変化することはないと考えられる。
【0003】
原子力電源は発電出力の変動をほとんど行わないベース電源である。また東日本大震災による福島第一原発での重大事象を経験し、他の多くの原子力発電所も停止した。現在は再稼働に向けた検証が続いているが、いまだ多くの原子力発電所が停止している。風力、太陽光の再生可能エネルギー電源については発電出力が天候の影響を受ける変動電源である。またエネルギー密度が低いことから大規模発電には不向きである。
一方、火力電源は発電出力の調整が容易なミドル電源であり、電力系統安定度の向上に寄与している。また、世界中に広く存在し賦存量も多いことから、我国のエネルギーセキュリティの確保にも貢献している。しかしながら、現在は地球温暖化問題の原因物質とされているCO2ガスの排出が多い電源として、敬遠されている。
【0004】
電力を安定的に供給するためには電力の需要と供給が同時同量でバランスしている必要がある。もし需要に供給が追い着かない場合は大規模停電やブラックアウトという事態を引き起こす可能性がある。現在は再生可能エネルギーの比率を増加することとしているが、太陽光や風力は天候により発電出力が変動してしまい需要と供給とのバランスをとることがきわめて困難である。そのため再生可能エネルギーの比率が増加しすぎると、電力系統の安定度が低下し、万が一需給バランスが崩れると大規模停電、ひいてはブラックアウトが発生するリスクが増大する。このリスクを回避するためには、原子力によるベース電源と、再生可能エネルギーのような変動電源と、火力による出力調整可能なミドル電源とが最適な割合で電源を構成するベストミックスが必要である。
【0005】
以上述べてきたように、近年、地球温暖化問題からCO2排出量の多い火力電源が敬遠され、CO2排出量の少ない原子力電源及び再生可能エネルギー電源による発電が推進されようとしている。この状況が進行しすぎると我国の電力系統はきわめて脆弱で不安定なものとなってしまう。そのため、火力電源の比率をあまり下げることはできないが、一方で、現在の火力発電からのCO2排出量は多いため、地球温暖化問題からすると火力発電の比率は下げる必要がある。特に石炭火力はCO2排出量が多いためその比率を下げる必要がある。即ち、地球温暖化問題からは石炭火力の比率を下げる必要があるが、電力供給の安定度維持の観点からは火力の比率を一定以下にはできない、という問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
非特許文献1 「エネルギー源別標準発熱量・炭素排出係数(2018年度改訂の解説)」、2020年 1 月、経済産業省資源エネルギー庁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した通り、我国の電源は、火力、原子力、水力、地熱、及び再生可能エネルギー等から構成されている。この中で再生可能エネルギー電源(主として風力、太陽光)は発電出力が天候の影響を受けて変動してしまう変動電源であり、原子力電源は急速な発電出力の調整ができない固定電源である。そのため電力系統の安定度を維持するためには発電出力の調整能力を有する火力電源の割合を一定量以上維持する必要がある。
【0008】
非特許文献「エネルギー源別標準発熱量・炭素排出係数(2018年度改訂の解説)」に記載されている化石燃料における発熱量と炭素排出係数に関するデータを基に両者の相関を整理したものを
図1に示す。この図から一般的には発熱量が高いほど炭素排出係数が低く、発電出力当たりの二酸化炭素排出量が低減されると言える。そのため温暖化対策のことを考えると、炭素排出係数が大きい石炭は敬遠され、炭素排出係数が小さい天然ガス火力、LNG火力が重用されこととなる。
【0009】
石炭はCO2排出量が多いという理由からその使用比率を下げざるを得ない状況にある。しかしながら、一方では石炭は世界に広く存在し、賦存量も多く、かつ低廉であり、エネルギーセキュリティ・エネルギーコストの点からも重要な燃料である。この石炭を燃料とする石炭火力の使用比率を上げるには、石炭火力から排出されるCO2ガスを低減しなければならないという課題がある。
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、石炭火力発電システムからのCO2排出量を削減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、請求項1の発明は、下式で定義されるCO2排出係数が24以下となる石炭を複数の石炭を混炭することにより製造するか、又はCO2排出係数が24以下である石炭を新たに探索し、火力発電システムの主燃料として選定する石炭選定方法である。
CO2排出係数=C÷((81×C+342.5×(H-O/8)+22.5×S)÷3600×860×10000
ここでC、H、O、SはJIS(JISM8819)による石炭の元素分析値で、それぞれ無水無灰ベースでの石炭中のカーボン、水素、酸素、硫黄の重量%である。
【0012】
前出の
図1において、実線の丸で囲んだ輸入炭とコークスの部分について拡大してみるとカロリーが低い方が炭素排出係数が小さい、即ち発電出力当たりのCO2排出量が少ない、と言える。
一方、破線の丸で囲んだ褐炭・亜炭については低カロリーであるが炭素排出係数が大きくなっている。
【0013】
ここで石炭の発熱量と炭素排出係数との関係を
図2に拡大して示す。この図から炭素排出係数は発熱量が5,000±500kcal/kgで極小となっており、発熱量が5,000kcal/kg程度の石炭が発熱量当りのCO2排出量が低い石炭(以下「低CO2炭」と呼ぶ)であることがわかる。
【0014】
本発明では、石炭の元素分析値を基にDulongの式で無水無灰ベースの発熱量を求め、無水無灰ベースのカーボンの重量%を当該無水無灰ベースの発熱量で除した値をCO2排出係数として定義している。そして当該CO2排出係数が小さくCO2排出量が少ないと予測される石炭を主燃料として使用することにより火力発電システムからのCO2排出量を低減しようとするものである。
【0015】
ここでCO2排出係数の範囲については、発電用一般炭である瀝青炭のCO2排出係数が24程度であるため、CO2排出係数が24以下の石炭をCO2排出量を低減できるものとして探索対象の低CO2炭とすることとした。
【0016】
請求項2の発明は、請求項1の方法で選定した石炭を主燃料とし、燃焼装置2と、発電装置3と、排煙処理装置4と、を有する火力発電システムである。
【0017】
CO2排出係数の小さい石炭を使用することで、火力発電システムからのCO2排出量を低減することができる。
【0018】
請求項3に記載の発明は、請求項2の火力発電システムに、CO2回収装置5と、CO2圧縮液化装置8とを追加設置したことを特徴とする火力発電システムである。
この発明では排煙処理後の排ガスからCO2吸収装置5によりCO2ガスを吸収し、さらに圧縮液化して貯留するものである。
排ガスが常圧の場合は、CO2吸収装置5にはアミンを用いた化学吸収法が一般的である。
【0019】
請求項4に記載の発明は、請求項2の火力発電システムに、CO2圧縮液化装置8と、酸素製造装置6と、排ガス再循環装置7とを追加設置したことを特徴とする火力発電システムである。
【0020】
この発明では石炭は酸素製造装置6から供給される酸素のみで燃焼する。そのため排ガス中には窒素ガスが含まれないため、燃焼装置2出口の排ガス中のCO2濃度はドライベースで100%近くになる。また燃焼装置2内のガス量が少なくなるためこれを補うため排ガス再循環装置を備えている。
【0021】
燃焼装置2出口のCO2濃度はドライベースでほぼ100%であるため、脱じん、脱硫等の排ガス処理をしたのち、冷却して脱水し、さらに圧縮して冷却することによ液体炭酸ガスを得ることができる。
【0022】
請求項5に記載の発明は、請求項4の火力発電システムに、水素製造装置9を追加設置したことを特徴とする火力発電システムである。
【0023】
水を電気分解することにより生産した水素は自動車の内燃機関や燃料電池の燃料として使用することができる。ここで得られる水素はCO2フリーであるので、この水素を燃料としても地球温暖化問題のCO2濃度を上げることにはならない。
【発明の効果】
【0024】
以上に述べたように、本発明によればCO2排出量を削減、若しくはCO2排出量を0としたCO2フリーの電力を供給する石炭火力発電システムを提供することができる。また、CO2フリーの水素も製品として供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】非特許文献「エネルギー源別標準発熱量・炭素排出係数(2018年度改訂の解説)」に記載されている化石燃料における発熱量と炭素排出係数に関する数値データを基に両者の相関を整理したものである。
【
図2】石炭の高位発熱量と炭素排出係数との関係を示したものである。
【
図3】基本的な火力発電システム11の構成図である。
【
図4】CO2回収装置を有する火力発電システム12の構成図である。
【
図5】酸素製造装置を有する火力発電システム13の構成図である。
【
図6】水素発生装置を有する火力発電システム14の構成図である。
【
図7】燃焼炉に加圧流動層燃焼炉を採用した場合の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施方法及び本発明を適用した一実施形態である火力発電システムの構成、機能、及び動作を詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0027】
請求項1の発明は、下式で定義されるCO2排出係数が24以下となる石炭を複数の石炭を混炭することにより製造するか、又はCO2排出係数が24以下である石炭を新たに探索し、火力発電システムの主燃料として選定する石炭選定方法である。
CO2排出係数=C÷((81×C+342.5×(H-O/8)+22.5×S)÷3600×860×10000
ここでC、H、O、SはJIS(JISM8819)による石炭の元素分析値で、それぞれ無水無灰ベースでの石炭中のカーボン、水素、酸素、硫黄の重量%である。
【0028】
上記の方法で選定した低CO2炭を燃料とすることにより、火力発電システムからのCO2排出量を低減することができる。また、本発明のCO2排出係数の算定には元素分析値しか使用しないため、広範な石炭からきわめて容易にCO2排出量の少ない石炭を探索し、選定できる。
【0029】
また、混炭の場合のCO2排出係数は、実際に所定の石炭を混炭して製造した石炭を元素分析し、その元素分析値からCO2排出係数を求め、低CO2炭を選定することになる。
【0030】
請求項2の発明は、
図3に示すように、石炭火力発電システム11は、燃焼装置2と、発電装置3と、排煙処理装置4と、を備えている。
【0031】
図中省略している石炭供給装置は、石炭サイロ、貯炭場、中継バンカ、石炭破砕機、ミル、クラッシャ、石炭搬送機を有しており、石炭供給装置により石炭が前処理され燃焼装置2に供給される。
【0032】
燃焼装置2で燃焼する石炭は図中では省略している石炭供給装置から供給される。石炭供給装置は、貯炭場や石炭サイロなどの石炭を貯留する設備、石炭を燃焼装置2の燃焼方式に適合する粒径に調粒、乾燥するミルやクラッシャ等の設備、負荷変動に追従させるための中継バンカ、調粒した石炭を燃焼装置2に搬送するベルトコンベアや、気流搬送装置などを有している。微粉炭燃焼方式では石炭粒径をミクロンオーダーまで粉砕するが、流動床燃焼方式では直径1cm程度までしか粉砕しない。
【0033】
燃焼装置2の燃焼方式には、主として微粉炭燃焼方式と、流動床燃焼方式とがある。現在は微粉炭燃焼方式が主流となっている。燃焼装置2には石炭を完全燃焼するのに必要な空気が供給される。この空気量のことを理論燃焼空気量(m3N-空気/kg-石炭)と呼ぶ。不完全燃焼を避けるために20%程度過剰に空気を供給する。
【0034】
燃焼装置2で石炭を燃焼することにより得られた熱エネルギーは発電装置3に設けられた熱機関に伝えられ機械エネルギーに変換される。熱機関としてはランキンサイクルが一般的であるが、燃焼装置2を部分燃焼のガス化炉とした場合や、加圧流動層燃焼炉とした場合には熱機関にブレイトンサイクルを追加することができる。ここでは簡略のためランキンサイクルのみのシングルサイクルとして説明する。ランキンサイクルにより得られた機械エネルギーは発電機を駆動し電力エネルギーに変換する。得られた電力エネルギーの一部は火力発電プラント11の中で消費され、残余の電力は電力系統に供給される。
【0035】
発電装置3では、燃焼装置2で発生した熱エネルギーを熱機関に伝達し、該熱エネルギーを機械エネルギーに変換し、さらに該機械エネルギーにより発電機を駆動して電力エネルギーに変換する。発生した電力は電力系統に供給する。また、一部の電力は火力発電プラント11内の装置を駆動するための電力(以下「所内動力」と呼ぶ)として消費される。
【0036】
排煙処理装置4では、燃焼装置2で石炭を燃焼したことにより発生するばいじん、硫黄酸化物、窒素酸化物を回収、無害化している。図には記載していないが、回収したばいじんはセメント原料として有効利用したり灰処分場に最終処分したりする。また、無害化した排ガスは煙突から大気へ排出する。集じん装置には電気式集じん機、バグフィルターフィルタ、マルチサイクロンなどがある。脱硝装置には、SCR方式や乾式活性炭方式のものがある。脱硫装置には湿式石灰石膏法、乾式活性炭方式がある。CO2回収装置5を使用する場合には、その要求仕様を満足するよう排ガスをクリンナップするために水洗塔などを設置することがある。
【0037】
ここで低CO2炭を使用した場合のCO2排出量の低減効果を検証する。微粉炭火力発電所で一般的に使用されている瀝青炭Bを燃料とした場合と、亜瀝青炭Aを燃料とした場合と、についてCO2排出量を比較する。また、瀝青炭Bを燃料とし、発電効率向上によりCO2排出量を低減させるケースを比較例(USC)として示す。
【0038】
算出条件は以下の通り。
使用炭:瀝青炭B又は亜瀝青炭A
発電出力:350,000kW
発電効率:39.5%(HHVベース)
所内動力:8%(火力発電プラントで一般的な補機類[FDF,IDF,各種ポンプ等]の所要電力)
以下の計算例でも上記を算出条件としている。
【0039】
表1に示した石炭性状を基に、瀝青炭BのCO2排出係数を算出すると、
C÷((81×85.2+342.5×(4.79-8.04÷8)+22.5×0.33)÷3600×860×10000=24.80
となり、24を超えている。
同様にして、亜瀝青炭AのCO2排出係数を算出すると、
C÷((81×73.01+342.5×(7.21-17.8÷8)+22.5×1.01)÷3600×860×10000=22.81
となり、24を超えていない。
【表1】
【0040】
図3に示した火力発電プラント11で各々の石炭を燃焼して発電した場合について算出した。結果を表2に示す
【表2】
【0041】
表2のベースケースに対し石炭を低CO2炭に変更してCO2排出量を低減したのがケース1-1である。送電電力当りのCO2排出量は901gから829gに低減しておりCO2排出量は8%低減されている。これに対し比較例(USC)は石炭はベースケースと同じで、蒸気条件を最新鋭のものに変更することで石炭使用料を低減し、CO2排出量をケース1-1と同程度まで低減したものである。
この比較例では発電効率を39.5%から42.9%まで向上させることでCO2排出量をケース1-1と同程度まで低減している。
【0042】
本発明によれば既設設備を改造することなく、単にCO2排出係数の低い石炭を選定して燃焼することでCO2排出量を低減できている。
一方、既設設備を高効率化することによっても同程度のCO2排出量低減効果が得られるが、その場合は最新鋭石炭火並みのUSC蒸気条件の設備に改造する必要がある。
即ち、本発明によれば既設石炭火力を改造することなくCO2排出量を容易に低減できるといえる。
【0043】
また本発明のCO2排出係数は石炭の元素分析値から容易に算出できるので、石炭性状のデータベースから低CO2炭を探索し、選定することが容易にできる、という効果もある。
【0044】
なおCO2排出係数の小さい亜瀝青炭の発熱量は低いため、発熱量が高い瀝青炭を焚いていた場合に比して発電出力が低下する。この出力低下を補う方法としては石炭を多く燃焼させる方法があるが(表2、ケース1-1)、この場合既設の装置では容量が不足する場合がある。このような場合は、既設石炭火力に標準的に装備されている重油又は軽油燃焼装置により助燃し、発電出力の低下分を補足することができる。また、
図1に示す通り重油などは炭素排出係数が石炭類より低いため、助燃することによりCO2排出量を低減することができる。
【0045】
表3のベースケース1に対し石炭を亜瀝青炭に変更すると発電出力はケース1-0に示す通り350,000kWhから307,907kWhまで12%程度低下する。ケース1-1では石炭を焚き増して発電出力を回復している。この場合はCO2削減率8.0%、送電出力1kWh当たりのCO2排出量は829gまで低減できている。ケース1-2では重油を9,024kg/h助燃して発電出力を回復している。この場合はCO2削減率9.9%、送電出力1kWh当たりのCO2排出量は812gまで低減できている。
【表3】
【0046】
以上のことから重油、軽油による助燃はCO2排出量の削減に効果があると言える。また、助燃用燃料にメタンガスなどのガス燃料を使用することによりCO2排出低減効果はさらに大きくなる。
【0047】
請求項3の発明の実施形態について
図4を用いて詳細に説明する。ここで、燃焼装置2、発電装置3、排煙処理装置4については請求項2の発明の実施形態で詳しく説明しているので、ここでは省略し、追加されたCO2回収装置5とCO2圧縮液化装置8について詳細に説明する。
【0048】
CO2回収装置5は、排煙処理装置4でクリーンにした排ガスからCO2ガスを回収する。方式としては、化学吸収法、物理吸収法、物理吸着法、膜分離法、深冷分離法などがある。ここでは火力発電プラントを対象としているので、大容量向きの化学吸収法を採用した場合として記載することとする。
【0049】
CO2圧縮液化装置6は、CO2回収装置5により回収したCO2ガスから水分を除去してCO2ガスのみとしてから、CO2ガスを圧縮して液化する。CO2は常圧では気体又は固体の状態しかなく、液化するためには、圧力を例えば20気圧程度に加圧し、温度を例えば-30~-50℃に冷却する。
【0050】
ここでCO2回収装置を使用した場合のCO2排出量の低減効果及び所内動力の変化について検証する。
【0051】
算出条件は以下の通り。
CO2回収装置:アミン吸収液による化学吸収法
計算結果を表4に示す。また、瀝青炭Bを焚いてCO2回収装置5を使用した場合を比較例として示す。
【表4】
【0052】
この結果から下記が言える。
・ CO2はベースケース1に対し91%削減されていて、送電電力量当りのCO2も901gから330gまで低減されている。
・ CO2回収に要する動力が180,413kWhと大きく、送電出力は322,000kWhから80,870kWhまで、74.9%低下している。
・ 比較例と対比するとCO2回収装置に要する所内動力は194,108kWhから180,413kWhに低減しており、その分送電出力は増加している。これは低CO2炭を使用しているので回収するCO2量が低減されているためである。
・ また回収液体CO2量も比較例では339m3/hであるのに対し低CO2炭では312m3/hまで軽減されており、プラント内での液体CO2の一時貯留スペースを低減できることがわかる。
【0053】
請求項4の発明の実施形態について
図5を用いて詳細に説明する。ここで、燃焼装置2、発電装置3、排煙処理装置4、CO2圧縮液化装置8については請求項2及び3の発明の実施形態で詳しく説明しているので、ここでは省略し、追加された酸素製造装置6と排ガス再循環装置7について詳細に説明する。
【0054】
酸素製造装置6は、大気を取り込み空気中に含まれるN2を除去することにより酸素を製造するものである。深冷分離方式、PSA方式などがあるが大容量の場合は深冷分離方式が一般的である。
【0055】
排ガス再循環装置7は、排煙処理装置4の出口ガスの一部を燃焼装置2の入口に燃焼排ガスをリサイクルするものである。酸素オンリーの雰囲気で燃焼すると石炭の燃焼速度が速くなり近傍の燃焼温度が高くなりすぎることがある。燃焼排ガスは熱回収後のガスであるため低温となっており、燃焼装置2内の温度を低減し適正温度に制御することができる。
【0056】
ここで酸素燃焼とした場合のCO2排出量の低減効果及び所内動力の変化について検証する。
【0057】
算出条件は以下の通り。
酸素富化率:0%、100%
計算結果を表5に示す。また、瀝青炭Bを酸素燃焼した場合を比較例として示す。
【表5】
【0058】
この結果から下記が言える。
・ CO2は100%削減されていて、送電電力量当りのCO2も901gから0gに低減されており、いわゆるゼロエミッション、CO2フリー電源、を実現できることを示している。
・ 酸素製造装置6、CO2圧縮冷却装置8に要する動力が各々53,220kWh、60,717kWh合計113,947kWhと大きく、送電出力は322,000kWhから208,063kWまで35.4%低下している。
・ 比較例と対比すると酸素製造に要する所内動力は54,409kWhから53,220kWhに低減しており、その分送電出力が増加している。
・ また回収液体CO2量も比較例では377m3/hに対し低CO2炭では347m3/hに軽減されており、プラント内での液体CO2の一時貯留スペースを低減できることがわかる。
【0059】
【0060】
請求項5の発明の実施形態のうち請求項1の発明の実施形態で既に詳細を説明しているので、ここでは請求項5で追加された構成である電気分解装置9に関する部分を説明する。
【0061】
電気分解装置9には水が供給される。発電装置3で生産した交流電力を整流して直流にし、水に印加する。陰極側では水素ガスが生産され、正極側では酸素ガスが生産される。水素ガスはストレージタンクなどに一時貯留される。酸素ガスは燃焼用として使用できるので、酸素製造装置5に供給される。電気分解装置9の所要動力は所内電力として供給される。
【0062】
極端な例として、発電した電力を送電せずに全て水の電気分解に使用したケースを説明する。
算出条件は以下の通り。
使用炭:亜瀝青炭A
水素製造:なし、及びあり
【0063】
表6に計算結果を示す。ベースケース2は電気分解なしであるので、送電出力は208,063kWhとなっている。ケース2-1ではベースケース2の送電出力分を電気分解に使用して水素を製造したものである。電気分解用に水を34,544kg/hと、電力を214,941kWhとを使用して3,838kg/hの水素を製造している。
【0064】
瀝青炭Bを使用した比較例との対比では、酸素製造装置の所内動力が低減し、水素製造量が増加し、回収液体CO2量が低減している。電気分解に要する所内動力は増加している。
【表6】
【0065】
表7にエネルギー変換効率に注目して計算結果を示す。石炭により886,076kWhの入熱があり、発電出力は350,000kWhであるので、発電効率は39.5%である。発電出力のうち電気分解用として214,941kWhの電力を使用して水素を生産している。生産された水素の有する発熱量は152,847kWhである。以上をまとめると、この実施例では石炭の熱エネルギーを水素の熱エネルギーに変換していると言え、エネルギー変換効率は17.25%である、と言える。この実施例ではCO2は圧縮液化して貯留している。そのため、この実施例の石炭火力プラントでは、炭素を多く含む石炭をCO2フリーの水素に変換しておりエネルギー変換効率は17.25%である、と言える。
【表7】
【0066】
表8に電気分解装置のエネルギーバランスを示す。電力エネルギーから水素の熱エネルギーへの変換効率は71.11%ある。
【表8】
【0067】
表9に電気分解装置のマテリアルバランスを示す。水素製造用水量は34,544kg/hであるが、CO2圧縮液化装置で82,582kg/hの水が副産物としてあるので、この水を電気分解装置の原料水として使用することができる。
【表9】
<その他実施例>
【0068】
燃焼装置2に加圧燃焼流動層炉25(以下「PFBC」)を採用することができる。この構成では、PFBC出口の排ガスエキスパンダにCO2圧縮用コンプレッサ24を接合して駆動することによりCO2圧縮液化動力を低減することができる。
【0069】
PFBCを燃焼炉21に用いた場合の実施形態について
図7を用いて詳細に説明する。
【0070】
石炭は石炭処理装置から燃焼炉21に供給される。供給方法としては、石炭を水と混ねりしスラリー化して供給する方法、不活性ガスにより気流搬送で供給する方法、燃焼炉のフリーボード上部から落下させて供給する方法などがある。
燃焼炉21は圧力容器22内に収納されているため、常圧下の石炭を加圧下の燃焼炉内に供給するにはスラリー化して供給する方法が適している。
【0071】
燃焼用酸素は、大気から取り込んだ空気を酸素製造装置6で窒素分を除去した後、後述する排ガスから再循環したガスと混合し、後述する排ガスエキスパンダ25によって駆動される第一コンプレッサ23に供給される。第一コンプレッサ23で昇圧された燃焼用酸素は燃焼炉21内に供給される。
【0072】
燃焼炉21出口には図では省略しているが機械式集じん機が設置されており、未燃分を含む大粒径の石炭等は燃焼炉21内にリサイクルされ、小粒径となった微粉のみが燃焼炉21外に出る。
【0073】
燃焼炉21を出た微粉を含む排ガスは排ガスエキスパンダ25に供給され、排ガスエキスパンダ25は前述した第一コンプレッサ23及び後述する第二コンプレッサ24を駆動する。また排ガスエキスパンダ25にはさらに発電機を連結して発電を行う場合もある。
排ガスエキスパンダ25を出た排ガスは、節炭器31により熱回収されたあと、排煙処理装置4により脱じん、脱硫、脱硝処理される。
【0074】
排煙処理された排ガスの一部は排ガス再循環装置7により前述した燃焼用酸素に混合される。残りの排ガスは水分除去装置81に供給され50℃程度に冷却し、水分を凝縮して除去した後、第二コンプレッサ24に供給される。ここで排ガスの成分はCO2が100%近くになっている。
【0075】
CO2を圧縮する第二コンプレッサ24は排ガスエキスパンダ25により駆動されている。これによりCO2圧縮液化装置8に要する所内動力を軽減することができる。
【0076】
第二コンプレッサ24を出た排ガスはCO2冷却装置82によりさらに冷却され排ガス中のCO2は液化されることとなり、CO2貯留場に搬送されるまでの間、一時貯留用のタンクに貯蔵される。
【符号の説明】
【0077】
11~15 火力発電システム
2 燃焼装置
21 燃焼炉
22 圧力容器
23 第一コンプレッサ
24 第二コンプレッサ
25 排ガスエキスパンダ
3 発電装置
31 節炭器
4 排煙処理装置
5 CO2回収装置
6 酸素製造装置
7 排ガス再循環装置
8 CO2圧縮液化装置
81 水分除去装置
82 CO2冷却装置
9 電気分解装置