(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023017165
(43)【公開日】2023-02-07
(54)【発明の名称】リチャージ用多結晶シリコン塊
(51)【国際特許分類】
C30B 29/06 20060101AFI20230131BHJP
C30B 15/00 20060101ALI20230131BHJP
C01B 33/02 20060101ALI20230131BHJP
【FI】
C30B29/06 D
C30B15/00 Z
C01B33/02 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021121213
(22)【出願日】2021-07-26
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085372
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 正義
(72)【発明者】
【氏名】野田 聖奈
【テーマコード(参考)】
4G072
4G077
【Fターム(参考)】
4G072AA01
4G072BB01
4G072BB12
4G072GG01
4G072JJ16
4G072JJ18
4G072MM23
4G072MM31
4G072NN27
4G072RR26
4G072UU01
4G077AA02
4G077BA04
4G077CF10
4G077EB01
4G077EC01
(57)【要約】
【課題】リチャージ時に多結晶シリコン塊の表面に付着又は吸着した異物が融液に混入しにくいリチャージ用多結晶シリコン塊の提供。
【解決手段】酸洗浄された多結晶シリコン塊の表面に付着又は吸着した異物が波長1060nm~1080nmのレーザ光の照射により除去されたリチャージ用多結晶シリコン塊である。この異物が、B(ボロン)、C(炭素)及びP(リン)から選ばれた少なくとも一種の元素を含む化合物であることが好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸洗浄された多結晶シリコン塊の表面に付着又は吸着した異物が波長1060nm~1080nmのレーザ光の照射により除去されたリチャージ用多結晶シリコン塊。
【請求項2】
多結晶シリコン塊の表面に付着又は吸着した異物が、B(ボロン)、C(炭素)及びP(リン)から選ばれた少なくとも一種の元素を含む化合物である請求項1に記載のリチャージ用多結晶シリコン塊。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョクラルスキー(CZ)法により半導体集積回路基板として使用されるシリコン単結晶ウェーハを作製するためのシリコン単結晶を引上げて製造する際に、多結晶原料を追加して充填する(以下、リチャージという。)ためのリチャージ用多結晶シリコン塊に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、シリコン単結晶の製造コストを低減するために、CZ法を用いてマルチ引き上げと称される方法が普及している(例えば、特許文献1(請求項7、第4頁第14~18行目)参照。)。このマルチ引上げ法では、成長させた単結晶を単結晶製造装置内より取り出し、固形状原料を保持したリチャージ管を前記単結晶製造装置内に取り入れ、ルツボ内の残余融液の全表面をヒーターの加熱電力を下げることにより固化させた後にヒーターの加熱電力を上げながら前記固化表面上に前記リチャージ管内の固形状原料を充填し、リチャージ管を前記単結晶製造装置内より取り出した後、前記ルツボ内の固形状原料を全て溶融し、再び単結晶成長を行うことで複数本の単結晶を成長させている。
【0003】
この方法によれば、従来の原料供給装置を取り付けることなく、単結晶製造装置内に取り入れ取り出しが簡単に行え、固形状原料をルツボ内の固化した融液面に直接投入することができ、しかもリチャージに適した供給速度を実現し、短時間でスムースに効率よくリチャージを行うことで単結晶の生産性を向上させることができるとされる。
【0004】
こうしたマルチ引上げ法、通常の引上げ法、或いはゾーンメルトによるフロートゾーン(FZ)法に用いられる固形状原料である多結晶シリコン塊として、表面におけるホウ素濃度が1~50ppta及びリン濃度が1~50pptaである多結晶質シリコン塊(特許文献2(請求項1、段落[0038]、段落[0050]~段落[0099]参照。)が開示され、或いは表面炭素濃度が0.5~35ppbwであるチャンク多結晶シリコン(特許文献3(請求項1、段落[0040]~段落[0103]参照。)が開示されている。
【0005】
特許文献2に示される多結晶質シリコン塊は、a)シーメンス反応器における多結晶質シリコンの堆積、b)多結晶質シリコンの粉砕、c)多結晶質シリコン断片のクリーニング、及びd)多結晶質シリコン断片の包装の各工程を経て、得られる。特に、c)多結晶質シリコン断片のクリーニングでは、予備精製においてポリシリコン断片を酸化性クリーニング溶液で洗浄し、主精製において硝酸及びフッ化水素酸を含んでなるクリーニング溶液で洗浄し、更に親水性付与において酸化性クリーニング液で洗浄している。
特許文献2に示される発明では、多結晶質材料(SEMI MF 1723)から製造したFZ単結晶に対して、ドーパント(B、P、As、Al)を、SEMI MF 1398によるホトルミネセンスにより分析している。
【0006】
特許文献3に示されるチャンク多結晶シリコンは、a)シーメンス反応器中の多結晶シリコンの堆積、b)多結晶シリコンの微粉砕、c)熱処理による多結晶シリコンのクリーニング、及びd)多結晶シリコンの湿式化学クリーニング、e)多結晶シリコンの包装の各工程を経て、得られる。特に、c)熱処理による多結晶シリコンのクリーニングでは、350から600℃の温度における反応器中の不活性ガス雰囲気下で、表面に炭素汚染を有する多結晶シリコンを熱処理することにより、クリーニングしている。熱処理後の多結晶シリコンは、0.5~35ppbwの表面炭素濃度を有する。またd)多結晶シリコンの湿式化学クリーニングでは、前精製作業においてポリシリコンチャンクを酸化性クリーニング溶液で洗浄し、主精製作業において硝酸及びフッ化水素酸を含んでなるクリーニング溶液で洗浄し、更に親水性付与において酸化性クリーニング溶液で洗浄している。
特許文献3に示される多結晶シリコンの表面炭素含有量の定量決定は、酸素による全ての表面炭素汚染の二酸化炭素への完全な酸化によって、米国、Leco Corporationからの改良RC612炭素分析機により実施される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2002/068732号公報
【特許文献2】特開2013-151413号公報
【特許文献3】特開2013-170122号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Carl L. Yaws et al., “Process Feasibility Study in Support of Silicon Material Task I” DOE/JPL/954343 (1981)
【非特許文献2】宮部拡生著「シリコンの吸収短波長におけるレーザ光の自己変調」,龍谷理工ジャーナル No.76,vol.31-1補遺 (2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に示されるように、固形状原料である多結晶シリコン塊をルツボ内にリチャージし、これを溶解する場合には、リチャージでなく最初から多結晶シリコン塊をルツボ内に充填し、これを溶解する場合と比較して、多結晶シリコン塊の表面に吸着している成分の揮発時間又は蒸発時間が短いために、この吸着成分が融液に取り込まれ易い。従来、SEMIなどの規格においても、多結晶シリコンの表面に存在するB(ボロン)、C(炭素)、P(リン)といった元素は定義されておらず、従来の初期充填から加熱していく方法では加熱中に気化する元素による汚染が、リチャージ法では問題になってきていると考えられる。このため、リチャージ用多結晶シリコン塊として、溶解時にB(ボロン)、C(炭素)、P(リン)、As(ヒ素)等の揮発し易い成分が少ないことが求められていた。
【0010】
特許文献2に示される発明は、表面汚染の少ない多結晶シリコンを提供しており、こうした揮発し易い成分も少ないとされるが、この発明で定義している表面B濃度、P濃度の数値範囲には技術上の問題点があり、揮発性の高い成分の分析値には疑いがある。ポリシリコンの一般的な表面金属濃度については、SEMI MF 1724で、酸によって溶出して分析する方法が規定されている。しかし、B,Pはこの方法では測定できない。そのため、特許文献2に示される発明では、バルクB,P濃度が同等の濃度を有する試料と、分析したい試料をFZ法で単結晶化した試料とのフォトルミネッセンス分析値(SEMI MF1389)の比較から表面濃度を算出している。
【0011】
しかし、特許文献2に示される発明では、比較対象となる「兄弟ロッド」の表面汚染が評価されておらず、ゼロとみなしている。また、FZ法で単結晶化する際に加熱溶融が必要であり、一部の表面吸着B,Pは飛散するために、同一条件でFZ法で作られた単結晶シリコン間の相対的な濃度差は、定性的には反映されると考えられるため、特許文献2に示される評価方法は、再現性は得られるかもしれないが、得られる数値はFZ法での条件の変動を含むものであるため、試料の表面汚染度を普遍的に示すものとは言えず、特許文献2に示される多結晶質シリコン塊がリチャージ用に用いられた際に、分析値通りの汚染度が保証されるか疑問である。
【0012】
特許文献3に示される発明では、不活性ガス雰囲気下、350~600℃の温度で熱処理を行うことによって、表面炭素濃度を0.5~35ppbwに低減できるとしている。しかしながら、この方法では加熱と冷却との間に炭素以外の汚染を受ける可能性があり、熱処理後に酸化性クリーニング溶液で洗浄を行うことが必要である。
【0013】
また、多結晶シリコンには使用し易いように適当なサイズに破砕や加工が施されるが、その際に、シリコンが脆性材料で多結晶であることから、その表面には凹凸形状が形成され易く、鋭利な刃跡なども生じ易い。このため、処理過程において部材や治具などが多結晶シリコン表面に接触した際に部材や治具などの摩耗粉が異物として付着し易い。また、シリコンの破砕時には微細なクラックが表面に形成される場合があり、このようなクラック内に異物が付着すると、異物を除去するのが難しい。このため、上述の酸化性クリーニング溶液による処理では、シリコン表面のエッチングによるシリコンの溶解量を増やす必要性や処理時間も増加する。その結果、酸化性クリーニング溶液の使用量増によるコストアップや生産性低下にもなる。また、エッチングによるシリコンロスも増えることにも繋がり、多結晶シリコンの歩留り低下や処理コストの増加にもなる。また、加熱処理による方法でも付着量が多い場合や強固に付着した場合は、加熱蒸発にかかる時間もかかることになり、その結果、処理時間が長くなり易い。
【0014】
本発明の目的は、リチャージ時に多結晶シリコン塊の表面に付着又は吸着した異物が融液に混入しにくいリチャージ用多結晶シリコン塊を提供することにある。
なお、ここで表面に付着又は吸着した異物としては、多結晶シリコン塊の周囲の物質から生じるいわゆるアウトガス汚染を想定しており、室温では固体であるが、僅かに蒸気圧を有する分子状物質や、空気中に含まれる僅かな酸性分などと反応して揮発する物質であり、酸洗浄後に多結晶シリコン表面に付着又は吸着したものを意味する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の第1の観点は、酸洗浄された多結晶シリコン塊の表面に付着又は吸着した異物が波長1060nm~1080nmのレーザ光の照射により除去されたリチャージ用多結晶シリコン塊である。
【0016】
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、多結晶シリコン塊の表面に付着又は吸着した異物が、B(ボロン)、C(炭素)及びP(リン)から選ばれた少なくとも一種の元素を含む化合物であるリチャージ用多結晶シリコン塊である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の第1の観点のリチャージ用多結晶シリコン塊は、酸洗浄されて、その表面に付着又は吸着した異物が波長1060nm~1080nmのレーザ光の照射により除去されているため、リチャージ時に前記異物が融液に混入しにくい特長がある。
【0018】
本発明の第2の観点のリチャージ用多結晶シリコン塊は、その表面に付着又は吸着した異物が、B(ボロン)、C(炭素)及びP(リン)から選ばれた少なくとも一種の元素を含む化合物であり、レーザ光で除去されているため、リチャージ時に前記異物が融液により混入しにくい特長がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る容器内に置かれた複数個の多結晶シリコン塊をレーザクリーニング装置によりクリーニングしている状況を示す斜視図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係る容器内に置かれた多結晶シリコン塊をレーザクリーニングしている状況を拡大して示す断面図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態に係るレーザクリーニング装置のレーザ光をその走査する直線に対して直交する方向に移動させる状況を示す平面図である。
【
図4】本発明の第1の実施形態に係るレーザクリーニング装置のレーザ光をその走査する直線に対して斜交する方向に移動させる状況を示す平面図である。
【
図5】本発明の第2の実施形態における液体が移動する容器内に置かれた多結晶シリコン塊にレーザ光を照射する状況を示す図である。
【
図6】加熱脱着ガスクロマトグラフ質量分析装置により測定した実施例1におけるGCチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。以下の
図1~
図5に示す多結晶シリコン塊の数は一例であって、その数を限定するものではなく、必要に応じて増やすことができる。
【0021】
<第1の実施形態>
本実施形態のリチャージ用多結晶シリコン塊は、フッ硝酸のような薬液で酸洗浄され乾燥された後、以下に述べるレーザクリーニング装置により、表面に付着又は吸着した異物が除去される。
図1に示すように、このレーザクリーニング装置10は、加工ヘッド11と本体制御部12を備える。本体制御部12は、レーザ発振器13と、加工ヘッド11及びレーザ発振器13を制御する制御部14を備える。加工ヘッド11には、レーザ発振器13からパルス発振されたレーザ光を反射する反射ミラーが取付けられた軸を回転制御するガルバノスキャナー(図示せず)が内蔵されている。
【0022】
レーザクリーニング装置10の下方には、上部が開口した容器1が置かれ、その容器1内に被クリーニング物として、複数個(
図1では7個)の多結晶シリコン塊2が重ならないように置かれている。これらの多結晶シリコン塊2の表面には、
図2に示すように、異物4が付着している。異物としては、有機物等の肉眼で見えない不純物が例示される。
図2において、
図1と同じ要素には同じ符号を付している。なお、多結晶シリコン塊が置かれる容器1の代わりに、
図3及び
図4に示すように、表面が平坦な台5でもよい。容器1又は台5の材質は、石英又はシリコンの他に、樹脂や紙等であってもよい。
【0023】
レーザクリーニング装置10の加工用レーザ光源としては、シリコンに吸収される波長であることが必須条件であり、パルス幅の狭いレーザ光源が、表面付近のみを加熱できるために、異物の除去効率の観点で好適である。この観点から、産業用に広く利用されているNd:YAG(1064nm)やYb:ファイバ(1060nm~1080nm)のパルスレーザが現実的に利用可能なレーザ光源として挙げられる。
上記Nd:YAGやYb:ファイバレーザの波長は、シリコンのバンドギャップに近いエネルギーとなるため、シリコン塊においては、わずかに内部まで侵入する波長であり、シリコン塊の表面層で吸収され、シリコン塊を加熱する作用がある。その結果、シリコン塊の表面に吸着している不純物を揮発除外することができる。
【0024】
レーザクリーニング装置10のレーザ光の強度は、500kJ/m2以下が好ましいが、後述する理由により、一概には決められない。レーザ光の照射によるシリコン塊の表面温度が瞬間的に300℃~600℃に上昇することによって不純物の揮発が生じていると考えられ、パルス幅の短いレーザ光を使用すれば、加熱領域が限定されるため、このレーザ光の強度は1kJ/m2程度であっても不純物除去の効果を期待することができる。
シリコン塊は不定形の破砕物であり、レーザ光をシリコン塊の全表面に均一かつ完全に照射することは事実上困難である。シリコン塊表面の不純物を除去するため、このレーザ光をシリコン塊に照射する面積は、シリコン塊の表面積の少なくとも80%以上であることが好ましい。95%以上であることが更に好ましい。表面積の80%以上としたのは、シリコン塊が不定形の破砕物であり、均一かつ完全に表面に照射することは事実上困難であるためであり、効果が得られる限度として、80%以上を好ましい面積としている。これを実現するためには、例えば、石英ガラスのようなレーザ光を透過する台上にシリコン塊を重なりがないように並べて上下両面からレーザ光を照射する方法などが挙げられる。
【0025】
このような構成のレーザクリーニング装置10では、加工ヘッド11内のガルバノスキャナーで反射されたレーザ光3を、ガルバノスキャナー内の軸を回転制御することにより、
図1のY軸方向に走査し、走査直線6を形成することが好ましい。本実施形態のクリーニング方法では、
図1に示すように複数個(
図1では2個又は3個)の多結晶シリコン塊2のY軸方向全体に、この走査直線6が及ぶように、レーザ光3が照射される。この走査直線6を形成しながら、加工ヘッド11を走査直線6に直交する
図1のX軸方向に移動させて、複数個すべて(
図1では7個)の多結晶シリコン塊2の表面をレーザクリーニングする。加工ヘッド11をX軸方向に往復移動させたり、また容器内の多結晶シリコン塊2を引っ繰り返して、レーザ光3の走査直線6による照射を繰り返し行ってもよい。
【0026】
レーザ光3の走査直線6のX軸方向の移動により、
図2に示すように、多結晶シリコン塊2の表面に付着又は吸着している異物4がレーザ光3を吸収して蒸発するか、又はプラズマ7による衝撃圧力を受けて、多結晶シリコン塊2の表面から除去される。
【0027】
なお、加工ヘッド11は、
図3に示すように、レーザ光3の走査直線6に対して直交する方向に移動させるだけでなく、多結晶シリコン塊2の置かれた位置に相応して、
図4に示すように、走査直線6に対して斜め方向に移動させるようにしてもよい。
図3及び
図4において、
図1と同じ要素には同じ符号を付している。なお、図示しないが、加工ヘッド11を移動させる代わりに、加工ヘッド11を固定して、台5を移動させてもよい。
【0028】
<第2の実施形態>
図5に示すように、酸洗浄された複数個(
図5では6個)の多結晶シリコン塊2が容器8内に重ならないように配置される。第2の実施形態では、レーザクリーニング前の多結晶シリコン塊は酸洗浄した後、乾燥を省略してもよい。
図5において、
図1と同じ要素には同じ符号を付している。容器8内には、純水、超純水、イオン交換水などの液体9が貯留される。容器8の右側下部には液体9の供給管8aが、容器8の左側上部には液体9の排出管8bが接続される。排出管8bの高さは、容器8の液面が容器内に配置された複数個の多結晶シリコン塊2の最上端よりも高くして、容器内の多結晶シリコン塊2が常に液体中に存在するように、設けられている。
この容器8の上方には、レーザクリーニング装置の加工ヘッド(
図5では図示せず)が設けられ、加工ヘッドで反射されたレーザ光3が走査直線を形成しながら、
図5の矢印に示す方向に移動するように構成される。
【0029】
このような構成のレーザクリーニング装置では、先ず、供給管8aから液体9を容器8に供給し、排出管8bから液体9を排出し、容器8内を液体9が移動するようにしておく。次いで、容器8内に配置された複数個の多結晶シリコン塊2の表面に、加工ヘッドからレーザ光3を照射する。レーザ光3は、走査直線を形成しながら、加工ヘッドの移動とともに容器8内のすべての多結晶シリコン塊2の上側表面に行き渡る。これにより、すべての多結晶シリコン塊2の上側表面から異物が除去される。除去された異物は液中に浮遊するが、移動する液体に移送されて排出管8bから排出される。これにより、異物の多結晶シリコン塊2の表面への再付着は防止される。
【0030】
なお、上記容器8では、排出管8bを容器上部に設けたが、
図5の破線に示すように、一例として、排出管8cを容器下端部にも配設してもよい。この排出管8cにより、液体中に浮上しない異物を、移動する液体により、容器内底部側から容器8外に移送することができる。
【0031】
なお、後述する実施例のほかにも各種実験を実施し、解析した結果として、本発明の理論的な裏付けは、以下のように考えられる。
まず、汚染の低減効果は、必ずしもレーザ光の強度(W/m2)には比例しない。従ってレーザクリーニングによって清浄化される多結晶シリコン塊の汚染濃度を特定することができない。これは、除去される汚染程度が異物の付着形態に依存することと、照射したレーザ光の熱がシリコン塊内部に逃げて、レーザ光のエネルギーがロスしていることに起因すると考えられる。
【0032】
例えば、リンに関しては、酸洗浄の際にも酸化被膜中に僅かに残留している可能性があり、これは強固に結合したものであるため、レーザ照射では除去できないと考えられる。一方で、クリーンルーム内に放置することであえてシリコン塊の表面に付着させたリンは気相から付着したものであり、比較的蒸気圧の高い分子状で付着していると考えられ、レーザ光の照射によって除去されやすいものであると考えられる。また、同じくクリーンルーム内で汚染したボロンについては、リンよりも蒸気圧の低い化合物であったために除去効果が低くなる可能性が考えられる。
【0033】
アウトガス汚染で検出される有機分子の沸点は100℃台のものから600℃を超えるものまで幅広くあるが、シリコン塊の表面温度で300℃~600℃に達すれば、除去効果が発揮されると考えられる。
【0034】
実施例で使用したレーザのパルス幅は100nsを少し超えるものと推定される。このパルス幅からシリコンにおける熱の平均拡散距離を求めると、次のようになる。
非特許文献1に記載された下記のシリコンの物性値(25℃)から、熱拡散率a=λ/ρCpの関係式を用いると、熱拡散率aは0.89[cm2/s]と計算される。
熱伝導率 λ=0.353 [cal/sec・cm・℃]
密度 ρ=2.329 [g/cm3]
比熱 Cp=4.78 [cal/gr-mol・℃]
熱の平均拡散距離xは、一般に、x=(2ατ)1/2(α:温度伝達率、τ:加熱時間≒レーザービームの通過時間)の式で表される。この式のαに上記熱拡散率aの値を代入して、シリコンにおける熱の平均拡散距離を、パルス幅100nsとして計算すると、約4μmとなる。光の透過率については、波長に強く依存するところで信頼できるデータが見当たらないため、正確には見積もることができないが、100μm~数100μmの浸透深さが推定される。このときレーザ光のエネルギーは、一部は反射ロスとなるが、シリコン塊の表面から100μm~数100μmの深さに吸収されると考えられる。ただし、この透過率については、温度や、レーザ光の強さによっても大きく変動するという報告もあり(非特許文献2参照。)、この報告から、場合によっては1mm以上の深さまで浸透することも考えられる。その一方で、10μm以下に集約させることも可能と考えられる。そのため、シリコン塊の表面から1μmの深さに吸収させることができれば、レーザ光の強度が1kJ/m2であっても約600Kの温度上昇と計算される。波長やパルス幅、温度などを最適化すれば、レーザ光の強度が1~数kJ/m2程度であっても十分にシリコン塊の汚染除去効果が期待できる。
【0035】
後述する実施例の結果は、レーザ光の最適化までできていないため、やや中途半端なシリコン塊の表面の汚染低減効果がみられており、表面温度300℃以下までしか加熱されていなかったと考えられる。しかしながら、これは逆にリチャージ原料として使う場合に、初期投入原料と同等の揮発性のある表面汚染除去効果が得られていると考えられることから本発明に至った。
この考えに基づくと、照射するレーザ光の強度は、実施例に示す程度の効果が得られれば十分であり、むしろなるべく低い強度で照射することが望ましい。その中でレーザクリーニングの効果を発揮させるためには、表面付近での吸収率が高くなるように、パルス幅が狭いことが望ましく、また、吸収効率の高い波長や強度は、2光子吸収や自己発熱に伴う吸収効率変化などが考えられるので、定量的には示しがたいが、レーザ光は吸収効率の高い波長や強度であることが望ましい。
【0036】
本発明のレーザクリーニングを加熱除去する従来の方法と比較した場合、多結晶シリコン塊自体の温度上昇が少ないために、接触部材等からの汚染を効果的に回避できることに優れており、このレーザクリーニングにより得られた多結晶シリコン塊は、リチャージ時に多結晶シリコン塊の表面に付着又は吸着した異物が融液に混入しにくい特長がある。
【実施例0037】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
初めに、酸洗浄し乾燥した多結晶シリコン塊のサンプルにレーザ光を照射した実施例1と照射しない比較例1を説明し、次に、酸洗浄し乾燥した多結晶シリコン塊のサンプルをクリーンルーム内に放置して強制汚染させたサンプルにレーザ光を照射した実施例2と照射しない比較例2を説明する。
【0038】
<実施例1>
長辺長さが10mm~40mmの多結晶シリコン塊のサンプル32個をフッ硝酸でエッチング洗浄し、純水でリンスした後に乾燥した。シリコン塊のサンプル7個を示している
図1と同様に、図示しないが、乾燥した多結晶シリコン塊のサンプル32個をシリコンの台上に並べた。この状態で、レーザクリーニング装置(製品名:イレーザー、東成エレクトロビーム株式会社製)を使用してクリーニングを実施した。これにより実施例1の32個のサンプルを得た。クリーニングの際揮発性ガスが発生するため、吸引フードを近づけて発生ガスが吸引されるようにした。
【0039】
図1に示すように、クリーニングの際、多結晶シリコン塊の表面に平均出力63Wのパルスレーザ光(波長1060nm~1080nm、パルス周波数55kHz)を直線状に3900mm/sの速度で走査しながら照射するとともに、容器をレーザ光の走査直線に直交する方向に165mm/minの速度で2往復移動させた。ここで、パルス幅は装置が市販品のため、明記されてないが、100ns程度と評価された。レーザ光のふり幅を50mmとした。2往復の移動が完了した後、多結晶シリコン塊を反転させ、同様にレーザ光を照射した。
【0040】
<比較例1>
実施例1と同様に、実施例1の32個のサンプルそれぞれと同じ製造ロットからサンプリングされた長辺長さ10mm~40mmの多結晶シリコン塊のサンプル32個について、フッ硝酸でエッチング洗浄し、純水でリンスした後に乾燥した。乾燥した多結晶シリコン塊のサンプル32個については、レーザ洗浄を行わなかった。これにより比較例1の32個のサンプルを得た。
【0041】
<比較試験その1と評価>
実施例1と比較例1で得られた各32個のサンプルのうち、各4個のサンプルについて加熱脱着ガスクロマトグラフ質量分析装置(Thermal Desorption - Gas Chromatograph / Mass Spectrometer(TD-GC/MS))にて表面炭素濃度を測定し、その平均値を算出した。測定数Nは3であった。
各32個のサンプルのうち、各10個のサンプルについて、表面ボロン濃度及びリン濃度測定に必要なサンプル数を採取した上で、それらを2wt%HFで溶出させてICP-MS(Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry)にて表面ボロン濃度及び表面リン濃度を測定して平均値を算出した。測定数Nは2であった。
各条件におけるサンプル表面の炭素、ボロン、リンの各濃度を次の表1に示す。
【0042】
【0043】
表1から明かなように、測定したサンプル中のサンプル表面の炭素濃度に関して、比較例1では『0.57ppmw』であったのに対して、実施例1では『0.20ppmw』と低かった。その一方、サンプル表面のボロン濃度に関しては、実施例1及び比較例1ともに『0.002ppbw』であり、サンプル表面のリン濃度に関しては、実施例1及び比較例1ともに『0.010ppbw未満』であり、差が見られなかった。これは、ボロン濃度及びリン濃度は、ともにレーザクリーニング前からICP-MSの分析能力限界付近の汚染度しかないことと推察された。
【0044】
実施例1と比較例1において比較試験で用いた加熱脱着ガスクロマトグラフ質量分析装置にて測定したGCチャートを
図6に示す。このGCチャート等から、レーザ光の照射により除去できる揮発性の高い不純物についてカプロラクタム、TXIB(2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール ジイソブチラート)、C
19H
40が同定された。これらの沸点はそれぞれ267℃、280℃及び330℃であり、その他同定されていない成分ピークのGCによる出現位置から沸点400℃以下の化合物まで除去されたと判断することができる。
【0045】
なお、表面不純物としての炭素(C)は0.01ppmw程度が現状品質レベルなのに対して、リン(P)及びボロン(B)は0.001ppbaレベルの品質が要求される。実施例1における分析ではP及びBの化合物は検出できていないが、Cを含む有機化合物が検出されたことから、同じ程度の蒸気圧を有するボロン化合物及びリン化合物も除去されていることが推定された。
【0046】
<実施例2>
実施例1の32個のサンプルそれぞれと同じ製造ロットからサンプリングされた長辺長さ10mm~40mmの多結晶シリコン塊のサンプル40個について、実施例1と同様に、フッ硝酸でエッチング洗浄し、純水でリンスした後に乾燥した。その後、クリーンルーム内に24時間放置した。このクリーンルーム内に放置した20個の多結晶シリコン塊を実施例1と同様にレーザクリーニングして実施例2のサンプルとした。
【0047】
<比較例2>
レーザクリーニングを行わない以外、実施例2と同じ20個の多結晶シリコン塊を比較例2のサンプルとした。
【0048】
<比較試験その2と評価>
実施例1及び比較例1と全く同じ方法で、実施例2の10個のサンプル及び比較例2の10個のサンプルについて、サンプル表面のボロン、リンの各濃度を測定して平均値を算出した。測定数Nは2であった。その結果を、次の表2に示す。
【0049】
【0050】
表2から明かなように、測定したサンプル中のサンプル表面のボロン濃度に関しては、実施例2では『0.010ppbw』であり、比較例2での『0.011ppbw』と比較して僅かに低かった。またサンプル表面のリン濃度に関しては、実施例2では『0.012ppbw』であり、比較例2での『0.041ppbw』と比較して大きく低下した。これらのことから、強制的に汚染したボロン及びリンについては、レーザクリーニングによる効果があることが確認された。
【0051】
実施例2と比較例2の比較試験から、ICP-MSの分析能力限界付近の汚染度のために、レーザクリーニングの効果を確認できなかった実施例1においても、サンプル表面のボロン濃度及びリン濃度がそれぞれ低くなっていることが推察された。