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特開2023-171660計時器用ムーブメントのためのバランスばね
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023171660
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】計時器用ムーブメントのためのバランスばね
(51)【国際特許分類】
   G04B 17/06 20060101AFI20231124BHJP
【FI】
G04B17/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023177569
(22)【出願日】2023-10-13
(62)【分割の表示】P 2022036788の分割
【原出願日】2022-03-10
(31)【優先権主張番号】21162933.2
(32)【優先日】2021-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】599040492
【氏名又は名称】ニヴァロックス-ファー ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】クリスチャン・シャルボン
(72)【発明者】
【氏名】リオネル・ミシュレ
(72)【発明者】
【氏名】マルコ・ヴェラルド
(57)【要約】
【課題】 脆弱な相がなく生産時間を短くするような化学組成のスパイラルばねを提供す
る。
【解決手段】 本発明は、計時器用ムーブメントのバランスを装備するように意図された
スパイラルばねに関する。前記スパイラルばねは、Nb及びTiの元素、及びZrとHf
から選択される少なくとも1つの元素と、存在する場合、WとMoから選択される少なく
とも1つの元素と、及び存在する場合、O、H、Ta、C、Fe、N、Ni、Si、Cu
及びAlから選択される他の微量元素とからなる合金によって作られる。Nbの含有量は
40~84重量%であり、Ti、Zr及びHfの合計含有量は16~55重量%であり、
WとMoの含有量はそれぞれ0~2.5重量%であり、O、H、Ta、C、Fe、N、N
i、Si、Cu及びAlから選択される各元素の含有量は0~1600ppmであり、前
記微量元素の合計は0.3重量%以下である。本発明は、さらに、このようなスパイラル
ばねを製造する方法に関する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
計時器用ムーブメントのバランスを装備するように意図されたスパイラルばねであって
、前記スパイラルばねは、
Nb及びTiの元素、及びZrとHfから選択される少なくとも1つの元素と、
任意に、WとMoから選択される少なくとも1つの元素と、及び
可能であれば、O、H、Ta、C、Fe、N、Ni、Si、Cu及びAlから選択され
る他の微量元素と
からなる合金によって作られ、
Nbの含有量は40~84重量%であり、
Ti、Zr及びHfの合計含有量は16~55重量%であり、
WとMoの含有量はそれぞれ0~2.5重量%であり、
O、H、Ta、C、Fe、N、Ni、Si、Cu及びAlから選択される各元素の含有
量は0~1600ppmであり、前記微量元素の合計は0.3重量%以下である
ことを特徴とするスパイラルばね。
【請求項2】
Nb含有量は45重量%よりも大きい
ことを特徴とする請求項1に記載のスパイラルばね。
【請求項3】
Ti含有量は15重量%以上である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のスパイラルばね。
【請求項4】
ZrとHfの合計含有量は、1~40重量%である
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のスパイラルばね。
【請求項5】
ZrとHfの合計含有量は、5~25重量%である
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のスパイラルばね。
【請求項6】
ZrとHfの合計含有量は、10~25重量%である
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載のスパイラルばね。
【請求項7】
ZrとHfの合計含有量は、15~25重量%である
ことを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載のスパイラルばね。
【請求項8】
Zrを少なくとも5重量%含む
ことを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載のスパイラルばね。
【請求項9】
ZrとHfを含む
ことを特徴とする請求項1~8のいずれか一項に記載のスパイラルばね。
【請求項10】
β相のNb、及びα相のTi、及びZr及び/又はHfを含む微細構造を有する
ことを特徴とする請求項1~9のいずれか一項に記載のスパイラルばね。
【請求項11】
弾性限界が500MPa以上であり、弾性率が100GPa以上、好ましくは110G
Pa以上、である
ことを特徴とする請求項1~10のいずれか一項に記載のスパイラルばね。
【請求項12】
計時器用ムーブメントのバランスを装備するように意図されたスパイラルばねを製造す
る方法であって、
少なくとも三元の合金によってブランクを用意するステップと、
前記合金のチタンが実質的に固溶体の形態となり、β相のニオブを含み、ジルコニウム
及び/又はハフニウムも実質的に固溶体の形態となるように、前記ブランクに対してβ型
クエンチを行うステップと、
一連の変形シーケンスを前記合金に対して行い、その後に、中間的熱処理を行うステッ
プと、
ワインドしてスパイラルばねを形成するステップと、及び
最終熱処理をするステップとを行い、
前記合金は、
Nb及びTiの元素、及びZrとHfから選択される少なくとも1つの元素と、
任意に、WとMoから選択される少なくとも1つの元素と、
可能であれば、O、H、Ta、C、Fe、N、Ni、Si、Cu及びAlから選択され
る他の微量元素とからなり、
Nbの含有量は40~84重量%であり、
Ti、Zr及びHfの合計含有量は16~55重量%であり、
WとMoの含有量はそれぞれ0~2.5重量%であり、
O、H、Ta、C、Fe、N、Ni、Si、Cu及びAlから選択される各元素の含有
量は0~1600ppmであり、前記微量元素の合計は0.3重量%以下である
ことを特徴とする方法。
【請求項13】
前記β型クエンチは溶解処理であり、真空下で700℃~1000℃の温度で5分~2
時間の持続時間行い、その後にガス下で冷却する
ことを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記β型クエンチは、真空下にて800℃で1時間の持続時間行う溶解処理であり、そ
の後にガス下で冷却する
ことを特徴とする請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
各シーケンスの最終熱処理及び中間的熱処理は、300℃~700℃の保持温度で1時
間~200時間の持続時間行うα相のTi、及びZr及び/又はHfの析出処理である
ことを特徴とする請求項12~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記最終熱処理は、400℃~600℃の保持温度で4~8時間の持続時間行う
ことを特徴とする請求項12~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記合金ブランクを用意するステップの後であって一連のシーケンスを行うステップの
前に、銅、ニッケル、キュプロニッケル、キュプロマンガン、金、銀、ニッケルリン(N
i-P)及びニッケルホウ素(Ni-B)から選ばれる延性材料の表面層を前記ブランク
に付加して、ワイヤ形状への成形を容易にし、
前記ワインドステップの前又は後に、化学的攻撃によって前記ワイヤから前記延性材料
の層を除去する
ことを特徴とする請求項12~16のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計時器用ムーブメントのバランスを装備するように意図されたスパイラルば
ねに関する。本発明は、さらに、このバランスばねを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携行型時計(例、腕時計、懐中時計)のためのスパイラルばねの製造においては、
- 高い弾性限界
- 生産、特に、延伸と圧延、が容易にできること
- 優れた耐疲労性
- 長期にわたって安定したパフォーマンス
- 小さな断面
という相容れないように思える制約に直面することになる。
【0003】
また、スパイラルばねのために選択される合金には、このようなスパイラルばねを組み
込んだ携行型時計が様々な温度で使用されてもクロノメーター的性能を維持することを確
実にする性質もある必要がある。したがって、合金の熱弾性係数(TEC)が非常に重要
になる。CuBe又は洋銀製のバランスを備えるクロノメーター的発振器を形成するには
、熱弾性係数が±10ppm/℃の範囲内である必要がある。合金の熱弾性係数と、スパ
イラルばねの膨張係数(α)及びバランスの膨張係数(β)とを関連づける式は以下の通
りである。
【0004】
【数1】
【0005】
ここで、変数Mはs/dでのレートであり、変数Tは℃単位の温度であり、Eは、スパイ
ラル合金のヤング係数であり、(1/E)(dE/dT)は、スパイラル合金の熱弾性係
数であり、膨張係数は℃-1で表されている。
【0006】
実際には、TCは、8℃~38℃の間で次のように計算される。
【0007】
【数2】
【0008】
この値は、-0.6~+0.6s/d℃である必要がある。
【0009】
携行型時計製造用のスパイラルばねは、従来技術の二元系Nb-Ti合金によって知ら
れている。この合金においては、Tiの割合が、典型的には40~60重量%であり、特
に47重量%である。変形と熱処理の図を適応させて、このスパイラルばねは、β相にニ
オブを含み、α相に析出の形態のチタンを含む2相の微細構造を有する。冷間加工された
合金において、β相は強い正の熱弾性係数を有し、強い負の熱弾性係数を有するα相の析
出によって、この2相合金の熱弾性係数をゼロに近づけることができ、これはTCのため
に特に好ましい。
【0010】
しかし、スパイラルばねにNb-Tiの二元の合金を用いる場合にはいくつかの課題が
ある。
【0011】
二元のNb-Ti合金の課題の1つは、主に定着ステップ中のワインドステップ後に発
生するチタンの析出に関連している。実際に、析出時間は非常に長く、NbTi47合金
の場合、時間は8~30時間であり、平均して約20時間である。これによって、生産時
間が非常に長くなってしまう。
【0012】
生産時間が長いという問題とは別に、チタンの割合が多すぎると、壊れやすいマルテン
サイト相が形成されることがあり、それが材料の変形を困難ないし不可能にしてしまい、
スパイラルばねの製造には適していないようになる。このように、合金にチタンを過剰に
入れないことが薦められる。
【0013】
現在においても、依然として、脆弱な相がなく、スパイラルばねを生産するための生産
時間を短くするという様々な条件を満たすような新しい化学組成を開発する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、前記課題を解決することができるような、スパイラルばねの新しい化学組成
を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
このような状況で、本発明は、ニオブ及びチタンをベースとする少なくとも三元の合金
によって作られた携行型時計のスパイラルばねに関する。本発明によると、Tiを部分的
にZr及び/又はHfに置き換える。これもα相析出を形成することができる。TiをZ
r及び/又はHfによって部分的に置き換えることによって、定着中の析出を加速し、生
産時間を短縮することができる。
【0016】
具体的には、本発明は、計時器用ムーブメントのバランスを装備するように意図された
スパイラルばねに関し、前記スパイラルばねは、
- Nb及びTiの元素、及びZrとHfから選択される少なくとも1つの元素と、
- 存在する場合、WとMoから選択される少なくとも1つの元素と、及び
- 存在する場合、O、H、Ta、C、Fe、N、Ni、Si、Cu及びAlから選択さ
れる他の微量元素と
からなる少なくとも三元の合金によって作られ、
- Nbの含有量は40~84重量%であり、
- Ti、Zr及びHfの合計含有量は16~55重量%であり、好ましくはTiの含
有量は15重量%の最小含有量以上であり、
- WとMoの含有量はそれぞれ0~2.5重量%であり、
- O、H、Ta、C、Fe、N、Ni、Si、Cu及びAlから選択される各元素の
含有量は0~1600ppmであり、前記微量元素の合計は0.3重量%以下である。
【0017】
本発明は、さらに、この携行型時計スパイラルばねを製造する方法に関し、この方法は

- 少なくとも三元の合金によって作られたブランクを作成ないし用意するステップと、
- 前記合金のチタンが実質的に固溶体の形態となり、β相のニオブを含み、ジルコニウ
ム及び/又はハフニウムも実質的に固溶体の形態となるように、前記ブランクに対してβ
型クエンチを行うステップと、
- 一連の変形シーケンスを前記合金に対して行い、その後に、中間的熱処理を行うステ
ップと、
- ワインドしてスパイラルばねを形成するステップと、及び
- 定着とも呼ばれる最終熱処理をするステップとを行い、
前記合金は、
- Nb及びTiの元素、及びZrとHfから選択される少なくとも1つの元素と、
- 存在する場合、WとMoから選択される少なくとも1つの元素と、
- 存在する場合、O、H、Ta、C、Fe、N、Ni、Si、Cu及びAlから選択
される他の微量元素とからなり、
- Nbの含有量は40~84重量%であり、
- Ti、Zr及びHfの合計含有量は16~55重量%であり、好ましくはTiの含
有量は15重量%の最小含有量以上であり、
- WとMoの含有量はそれぞれ0~2.5重量%であり、
- O、H、Ta、C、Fe、N、Ni、Si、Cu及びAlから選択される各元素の
含有量は0~1600ppmであり、前記微量元素の合計は0.3重量%以下である。
【0018】
好ましいことに、チタン、ジルコニウム及び/又はハフニウムの析出を最終的に行うた
めの最終熱処理ステップは、400℃~600℃の保持温度で4~8時間の持続時間行わ
れる。
【0019】
定着時間を短縮することに加えて、チタンをジルコニウムによって部分的に置き換える
ことによって、下で説明するように二次的エラーを低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、少なくとも、ニオブ、チタン、及び1つ又は複数の付加的な元素を含む三元
合金によって作られた携行型時計のスパイラルばねに関する。
【0021】
本発明によると、この合金は、
- Nb及びTiの元素、及びZrとHfから選択される少なくとも1つの元素と、
- 存在する場合、WとMoから選択される少なくとも1つの元素と、及び
- 存在する場合、O、H、C、Ta、Fe、N、Ni、Si、Cu及びAlから選択さ
れる他の微量元素とからなり、
- Nbの含有量は40~84重量%であり、
- Ti、Zr及びHfの合計含有量は16~55重量%であり、
- WとMoの含有量はそれぞれ0~2.5重量%であり、
- O、H、C、Ta、Fe、N、Ni、Si、Cu及びAlから選択される各元素の
含有量は0~1600ppmであり、前記微量元素の合計は0.3重量%以下である。
【0022】
好ましくは、Nbの含有量は、45重量%よりも大きく、さらには50重量%以上であ
り、これによって、強い正の熱弾性係数を有する十分な割合のβ相を得る。この正の熱弾
性係数は、Ti、Zr及びHfのα相の負の熱弾性係数によって補償されるように意図さ
れている。
【0023】
好ましくは、Tiの含有量は、15重量%の最小含有量以上に維持される。なぜなら、
TiはZrやHfよりも経済的だからである。また、Tiには、ZrやHfよりも融点が
低く成型が容易になるという利点がある。
【0024】
酸素の割合は、全体の0.10重量%以下、さらには全体の0.085重量%以下であ
る。
【0025】
水素の割合は、全体の0.01重量%以下、特に全体の0.0035重量%以下、さら
には全体の0.0005重量%以下である。
【0026】
炭素の割合は、全体の0.04重量%以下、特に全体の0.020重量%以下、さらに
は全体の0.0175重量%以下である。
【0027】
タンタルの割合は、全体の0.10重量%以下である。
【0028】
鉄の割合は、全体の0.03重量%以下、特に全体の0.025重量%以下、さらには
全体の0.020重量%以下である。
【0029】
窒素の割合は、全体の0.02重量%以下、特に全体の0.015重量%以下、さらに
は全体の0.0075重量%以下である。
【0030】
ニッケルの割合は、全体の0.01重量%以下である。
【0031】
ケイ素の割合は、全体の0.01重量%以下である。
【0032】
銅の割合は、全体の0.01重量%以下、特に全体の0.005重量%以下である。
【0033】
アルミニウムの割合は、全体の0.01重量%以下である。
【0034】
本発明によると、TiをZr及び/又はHfによって部分的に置き換え、これはTiの
ようにα析出を形成して、定着中の析出を加速し、したがって生産時間を短縮させること
ができる。好ましいことに、ZrとHfの合計含有量は、1~40重量%である。好まし
くは、Zr及びHfの合計含有量は、5~25重量%、より好ましくは10~25重量%
、さらに好ましくは15~25重量%、である。
【0035】
好ましいことに、Tiは少なくともZrによって置き換えられる。これによって、2点
(8℃と38℃)を通り抜ける直線によって一般的に近似されるレートの曲率の測定値で
ある二次的エラーを減らすことができる。二次的エラーに対するTiとZrの影響を示す
ために、Tiの割合が47重量%の二元の合金Nb-Ti(NbTi47)、及びZrの
割合が0~70重量%のNb-Zrでテストを行った。二次的エラーは23℃で測定した
。二次的エラーは、8℃におけるレートと38℃におけるレートを結ぶ直線に対する23
℃におけるレートの差である。例えば、8℃、23℃、38℃におけるレートを、ウィッ
チ(Witschi)クロノスコープタイプの装置を用いて測定することができる。
【0036】
下の表1は、Zrの重量%に応じた、純粋なNb、NbTi47合金、及びNb-Zr
合金のデータを示している。純粋なNbは、23℃における二次的エラーが-6.6s/
dである。NbTi47合金中のTiの析出は、Nbの負の影響を補償するが、4.5s
/dに達する正の値によって過度に上昇する。一方、Nb-Zr合金は、0重量%よりも
大きいZr含有量の場合に負の二次的エラーを有し、45重量%以上のZr含有量の場合
はゼロにさえなる。したがって、三元合金においてTiをZrによって部分的に置き換え
ることで、二次的エラーに対するTiの強すぎる正の影響を補償することができる。数重
量%のZrを追加することで、二元系NbTi47合金よりも、二次的エラーを0に近い
値まで減らすことができる。したがって、好ましいことに、Zr含有量は少なくとも5重
量%である。
【0037】
【表1】
【0038】
前記合金は、さらに、それぞれが0~2.5重量%の含有量のW及びMoを含むことが
でき、これによって、合金のヤング率を上げて、ばねの所与のトルクがスパイラルの厚み
を薄くして、スパイラルが軽くなる。
【0039】
好ましいことに、本発明に係るスパイラルばねは、中心立方のβ相のニオブ、及び単一
のα相のチタンとジルコニウム及び/又はハフニウムを含む多相微細構造を有する。
【0040】
このような微細構造を得るために、当該製造方法において、ばねを固定するときに熱処
理によってα相の析出に対して仕上げ処理を行う必要がある。この製造方法は、以下のス
テップを順次的に行う。
- ブランクを作成又は用意するステップ
例えば、前記ブランクは、電気アーク又は電子銃炉で要素を溶融してビレットないしイ
ンゴットを形成することによって作ることができる。このビレットないしインゴットは、
熱間鍛造され、冷間変形され、変形段階の間に熱処理される。前記ブランクは、
- Nb及びTiの元素、及びZrとHfから選択される少なくとも1つの元素、
- 存在する場合、WとMoから選択される少なくとも1つの元素、
- 存在する場合、O、H、Ta、C、Fe、N、Ni、Si、Cu及びAlから選択
される他の微量元素
からなる少なくとも三元の合金によって作られ、
- Nbの含有量は40~84重量%であり、
- Ti、Zr及びHfの合計含有量は16~55重量%であり、
- WとMoの含有量はそれぞれ0~2.5重量%であり、
- O、H、Ta、C、Fe、N、Ni、Si、Cu及びAlから選択される各元素の
含有量は0~1600ppmであり、前記微量元素の合計は0.3重量%以下である。
- 前記合金のチタンが実質的に固溶体の形態となり、β相のニオブを含み、ジルコニウ
ム及び/又はハフニウムも実質的に固溶体の形態となるように、前記ブランクに対してβ
型クエンチを行うステップ
- 一連の変形シーケンスを前記合金に対して行い、その後に中間的熱処理を行うステッ

ここで、変形とは、延伸及び/又は圧延による変形を意味する。延伸においては、必要
であれば、同じシーケンス中又は異なるシーケンス中に、1つ又は複数のダイを用いる必
要がある場合がある。延伸は、丸い断面のワイヤが得られるまで行う。圧延は、延伸と同
じ変形シーケンス中に又は別のシーケンス中に行うことができる。好ましいことに、前記
合金に対して行う最後のシーケンスは、圧延であり、好ましくは、ワインド用ピンの入口
セクションと整合する長方形のプロファイルを用いる。
- ワインドしてスパイラルばねを形成するステップ
- 最終熱処理をするステップ
【0041】
これらの結合された変形-熱処理のシーケンスにおいて、各変形は、1~5の所与の変
形量で行われ、この変形量は、伝統的な式2ln(d0/d)に対応する。ここで、d0
最後のβクエンチの直径であり、dは冷間加工されるワイヤの直径である。この一連のシ
ーケンス全体における変形のグローバルな累積によって、合計変形量が1~14となる。
結合された変形-熱処理のシーケンスのそれぞれは、毎回、Ti、Zr及び/又はHfの
α相の析出の熱処理を行うことを含む。
【0042】
変形及び熱処理シーケンスの前のβクエンチは、真空下で700℃~1000℃の温度
で5分~2時間の持続時間行われる溶解処理であり、その後に、ガス下で冷却される。
【0043】
さらに、このβクエンチは、真空下で800℃で1時間持続する溶解処理であり、その
後に、ガス下で冷却される。
【0044】
結合された変形-熱処理シーケンスに戻るために、熱処理は、300℃~700℃の温
度で1時間~200時間の持続時間行われる析出処理である。特に、400℃~600℃
の温度で3時間~30時間の持続時間行われる。
【0045】
特に、この方法は、1~5の数の結合された変形-熱処理シーケンスを含む。
【0046】
特に、第1の結合された変形-熱処理シーケンスは、断面を少なくとも30%減少させ
る第1の変形の処理を含む。
【0047】
特に、前記第1の変形の処理ではない結合された変形-熱処理シーケンスのそれぞれは
、2つの熱処理の間に1つの変形の処理を含み、断面を少なくとも25%減少させる。
【0048】
特に、この合金ブランクを作った後であって前記変形-熱処理シーケンスの前に、付加
的なステップにおいて、銅、ニッケル、キュプロニッケル、キュプロマンガン、金、銀、
ニッケルリン(Ni-P)及びニッケルホウ素(Ni-B)等から選ばれた延性材料の表
面層が、ブランクに付加されて、変形時にワイヤ状に成形しやすくする。そして、変形-
熱処理シーケンスの後、又はワインドステップの後、特に化学的攻撃によって、ワイヤか
ら延性材料の層が除去される。
【0049】
代わりに、延性材料の表面層を、ピッチがブレードの厚みの倍数ではないようなスパイ
ラルばねを形成するように堆積させる。別の変異形態において、延性材料の表面層を、ピ
ッチが可変であるようなばねを形成するように堆積させる。
【0050】
したがって、特定の計時器のアプリケーションにおいて、延性材料又は銅を所与の時点
にて付加して、ワイヤ形状への成形を容易にし、これによって、10~500μmの厚み
がワイヤ上に残り、最終直径が0.3~1mmであるようにする。ワイヤから、特に化学
的攻撃によって、延性材料又は銅の層が除去され、圧延されて平らにされ、その後にワイ
ンドすることによって実際のばねを製造する。
【0051】
延性材料又は銅の設置は、ガルバニック、又は機械的であることができる。機械的であ
る場合、延性材料又は銅のジャケット又はチューブであり、これは、大きな直径の合金の
棒上で調整され、そして、複合ロッドの変形のステップの間に薄くされる。
【0052】
層の除去は、特に、シアン化物、又は酸、例えば硝酸、ベースの溶液を用いた化学的攻
撃によって行うことができる。
【0053】
最終熱処理は、300℃~700℃の温度で1時間~200時間の持続時間行われる。
特に、400℃~600℃の温度で前記持続時間は3時間~30時間である。好ましいこ
とに、400℃~600℃の温度で保持されて、持続時間は4~8時間である。この最終
熱処理中に、α相のチタン及びハフニウム及び/又はジルコニウムの析出が終了する。
【0054】
一連の変形と熱処理の適切な組み合わせによって、βニオブとチタン及びハフニウム及
び/又はジルコニウムのα相を含む、非常に微細な、特にナノメーター規模である、微細
構造を得ることができる。この合金は、少なくとも500MPaよりも大きい非常に高い
弾性限界と、100GPa以上、好ましくは110GPa以上、の弾性率を兼ね備える。
この性質の組み合わせは、スパイラルばねに適している。また、本発明に係るこの少なく
とも三元のニオブ-チタン-ハフニウム及び/又はジルコニウム合金は、延性材料又は銅
で容易に覆うことができ、このことによって、延伸による変形を大幅に促進することがで
きる。
【0055】
この合金には、「エリンバー(Elinvar)」と同様の効果があり、携行型時計で一般的
に用いられる温度範囲で熱弾性係数が実質的にゼロであり、自己補償機能付きスパイラル
の製造に適合している。
【外国語明細書】