(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023171695
(43)【公開日】2023-12-04
(54)【発明の名称】自己セラピー用動画生成システム、自己セラピー用動画、自己セラピー用動画用仮想空間、自己セラピー方法、自己セラピー用システム、感情の軌跡自伝動画、感情の軌跡自伝動画用アクセス媒体、仮想空間上葬祭用システム、およびNFT化動画
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/10 20120101AFI20231127BHJP
A61M 21/02 20060101ALI20231127BHJP
H04N 21/854 20110101ALI20231127BHJP
【FI】
G06Q50/10
A61M21/02 H
H04N21/854
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022083455
(22)【出願日】2022-05-21
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】522202322
【氏名又は名称】高砂 充希子
(74)【代理人】
【識別番号】100119264
【弁理士】
【氏名又は名称】富沢 知成
(72)【発明者】
【氏名】高砂 充希子
【テーマコード(参考)】
5C164
5L049
【Fターム(参考)】
5C164MC01P
5L049CC14
(57)【要約】 (修正有)
【課題】セラピーを希望する利用者が、セラピストの助けを借りることなく自分自身でセラピーを行ってメンタルヘルスを整えるための支援技術を提供する。
【解決手段】自己セラピー用動画生成システム10は、利用者の過去の人生における出来事Ea~Ec、…を出来事単位で文章にて特定した出来事文書1a~1c、…及び各出来事の発生時における自己の感情の種類を示した感情種2a~2c、…に基づいてデジタル素材たる各出来事に対応する自己セラピー用動画3a~3c、…を生成する。自己セラピー用動画は、感情種に基づき形成される風景画像4a~4c、…及び出来事を文字により記述する記述画像7a~7c、…により構成される。風景画像は、地形・気候・植生・水域の有無や形態から構成される地表イメージ5a~5c、…及び地表に影響を及ぼす天気イメージ6a~6c、…から構成され、各出来事に基づいてセラピー単位8a~8c、…が規定される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
利用者が自己セラピーに用いることのできる、自己の人生の感情の軌跡を表現した動画を生成するシステムであって、
該利用者により申告入力されるそれまでの自己の人生における一または複数の出来事を出来事単位で文章にて特定した出来事文書、および、
各出来事の発生時における自己の感情の種類を示した感情種
に基づいてデジタル素材が生成され、
該デジタル素材として各出来事に対応する自己セラピー用動画が含まれ、
該自己セラピー用動画は、
該感情種に基づき形成される風景画像、および該出来事を文字により記述する記述画像により構成され、
該風景画像は、地形・気候・植生・水域の有無や形態といった要素から構成される地表イメージと、
地表に影響を及ぼす大気の状態であるところの天気イメージとから構成されており、
各出来事に基づいてセラピー単位が構成されている
ことを特徴とする、自己セラピー用動画生成システム。
【請求項2】
該セラピー単位は、該出来事に基づき最初に生成された画像である原画像の他に、該原画像に改変が施されて生成された画像である派生画像が一または複数加えられて構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の自己セラピー用動画生成システム。
【請求項3】
生成される動画には、利用者による自己の現在の感情に関する入力が可能な画像すなわち省察入力用画像が含まれることを特徴とする、請求項2に記載の自己セラピー用動画生成システム。
【請求項4】
請求項1、2、3のいずれかに記載の自己セラピー用動画生成システムを用いて生成されることを特徴とする、自己セラピー用動画。
【請求項5】
請求項4に記載の自己セラピー用動画を鑑賞するための仮想空間であって、
前記セラピー単位に対応し前記出来事文書に基づいて形成された風景単位が該セラピー単位数の分設けられて形成される人生ランドスケープと、
前記出来事文書に基づいて形成されたスクリーン具備建造物であるところのシアターとをデジタル素材として備えて構成され、
該シアターの内部には、
該自己セラピー用動画を投影するためのスクリーンと、
投影する該セラピー単位の選択手段たる該人生ランドスケープの模型とが備えられ、
仮想空間を体感するための仮想空間体感手段により体感可能である
ことを特徴とする、自己セラピー用動画用仮想空間。
【請求項6】
前記自己セラピー用動画には前記省察入力用画像が含まれており、利用者による該省察入力用画像を用いての入力、または前記申告入力の追加の少なくともいずれかにより、前記人生ランドスケープおよびシアターが変化するよう形成されていることを特徴とする、請求項5に記載の自己セラピー用動画用仮想空間。
【請求項7】
前記省察入力用画像が含まれている請求項4に記載の自己セラピー用動画を用い、アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)、ACT以外の認知行動療法、またはその他の心理療法に基づいて自己セラピーの過程が提供されることを特徴とする、自己セラピー方法。
【請求項8】
請求項5、6のいずれかに記載の自己セラピー用動画用仮想空間と、
該自己セラピー用動画用仮想空間を提供するための仮想空間提供手段とからなり、
仮想空間体感手段を用いての自己セラピー用動画鑑賞による自己セラピーに使用される
ことを特徴とする、自己セラピー用システム。
【請求項9】
請求項7に記載の自己セラピー方法または請求項8に記載の自己セラピー用システムが使用された結果、生成されたことを特徴とする、感情の軌跡自伝動画。
【請求項10】
動画鑑賞用のスクリーン具備建造物を備えて形成されている仮想空間内にて鑑賞可能であることを特徴とする、請求項9に記載の感情の軌跡自伝動画。
【請求項11】
請求項10に記載の感情の軌跡自伝動画鑑賞用のアクセス媒体であって、該感情の軌跡自伝動画にその人生が表現された利用者の、遺灰によるダイヤモンド、または遺品を用いて形成されていることを特徴とする、感情の軌跡自伝動画用アクセス媒体。
【請求項12】
前記スクリーン具備建造物と相似形状を備えていることを特徴とする、請求項11に記載の感情の軌跡自伝動画用アクセス媒体。
【請求項13】
請求項11、12のいずれかに記載の感情の軌跡自伝動画用アクセス媒体を用いて行われる仮想空間における葬祭用のシステムであって、
該感情の軌跡自伝動画用アクセス媒体と、
それを介して該仮想空間にアクセスするためのアクセス用ホスト端末と、
ネットワークを介して接続している該アクセス用ホスト端末から該仮想空間への参加権限を付与された一または複数のアクセス用ゲスト端末と、
からなることを特徴とする、仮想空間上葬祭用システム。
【請求項14】
請求項4に記載の自己セラピー用動画を偽造不可能な所有証明書付きデジタルデータ化(NFT化)してなることを特徴とする、NFT化動画。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自己セラピー用動画生成システムおよび自己セラピー用システム等に係り、特に、アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)等の心理療法に基づく自己セラピーを仮想空間体感用技術によって提供する、自己セラピー用動画生成システムおよび自己セラピー用システム等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
物の豊かさや科学技術の発展により、現代の人々の暮らしは物理的には豊かになった。しかしその一方で、社会のあらゆる分野において心理的な問題が増大している。人々のメンタルヘルスケアについては官民を問わず種々の対策が講じられ、提案されているが、ケアを求める対象者に対し専門のカウンセラー、セラピストがカウンセリング等を施すカウンセリング・セラピーは、かかる取り組みの基本であると言える。
【0003】
カウンセリング・セラピーにも多数の手法があるが、いずれの手法においても、専門のカウンセラーの存在を必要とするのが通常であり、ケアを求める者すなわちクライアントは、カウンセラー・セラピストが配置されている病院等を訪問し、面談することを繰り返さなくてはならない。セラピストらの手を借りなくても、自分自身でセラピーができれば、時間的にも費用的にも、また審理負担の面でも大いに便利であり、そのようなニーズに対応してコンピュータを用いたカウンセリング装置も従来から提供されている。
【0004】
後掲特許文献1に開示されている技術はその一つである。これは、被験者に負担をかけることなくその無自覚な否定的感情等を高精度に把握し、ストレス問題の軽減対処や問題解決に向けた気付き・自己成長を促すセラピーを自動的に実施するサイコセラピー装置であり、被験者の主訴についてのセラピーを実施するソリューション手段と、ソリューション手段によるサイコセラピー効果を表示する結果表示手段を備え、ソリューション手段は、被験者の主訴に基づいて想起された不快な場面の風景と記憶、さらにそれらによって生じた不快な感情や身体的違和感を感覚イメージ情報として抽出し、その後、抽出した感覚イメージ情報に応じ、光イメージ法などに基づいて文字を含まないデジタル素材によりセラピーを実施する、というものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6206891号公報「サイコセラピー装置、サイコセラピーシステム及びサイコセラピー方法」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ケアを求める者における心理的な問題には、それまでの人生において経験した出来事とその際に抱いた感情が大きく関わっていることが少なくないと考えられるが、主訴(自身が意識している主要な症状)に基づき引き出される回想のみならず、これまでの意識できる(回想できる)全ての感情的出来事とその際の感情を言語化し、それに基づいて自身の感情の軌跡ともいうべき一面の「自分史」を、たとえばデジタル素材を用いた一定の形式によって形作ることができれば、セラピーのための材料をより充実させることができ、セラピーにより得られる効果の拡大・深化を期待できる。
【0007】
また、このようにして物質化できた「感情の軌跡」は、一面の自分史であるとともに一つの芸術作品とも言え、自己セラピー用のツールに留まらず、その後の自身や他者の生活・人生にとっても有意義さを提供し得る。たとえば、「感情の軌跡」はその本人の死後には、いわば墓碑的、墓所的な役割を果たし得るよう構成することも可能なのであり、デジタル素材を用いた形式とすることによって、祭祀・葬祭の実施における空間的・時間的な制約の大きさという伝統的な問題を解消することができる。この場合、デジタル形式であるこの墓碑にアクセスすることで、故人の一生における感情の軌跡を体験できることは、遺族や関係者の生活の心理面やスピリチュアリティにも資する。
【0008】
また、装置がセラピーを施してくれるという受動的な方式ではなく、あくまでもケアを求める者自身が主体的に行う自己セラピーを支援するツールという方式の方が、より柔軟に、自由に、自分主導で自己セラピーを行うことができる。さらに、セラピーにおけるイメージの有用性は言うまでもないが、これに言語、特に字幕のような形での文字を併せ用いることは、セラピー効果をさらに付加し得る。
【0009】
以上を踏まえ、本発明が解決しようとする課題は、セラピーを希望する利用者が、セラピストやカウンセラーの助けを借りることなく自分自身で主体的にセラピーを行ってメンタルヘルスを整えることを、効果的に支援できる自己セラピー支援ツール、支援技術を提供することである。また本発明の課題は、かかる自己セラピー支援ツールを用いたセラピー実施によって派生する結果を、個人の精神面の向上や祭祀・葬祭など、精神的な領域において積極的に二次活用することのできる自己セラピー支援ツール、支援技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者は上記課題について検討した結果、自己セラピーをしようとする者すなわち利用者によってなされる自己の人生における特定の出来事およびそれに伴った感情に係る入力に基づいて、デジタル素材である自己セラピー用動画を生成すること、換言すればジェネレーティブアートによる感情の視覚化システムを構築すること、そしてその動画を用いた自己セラピー方式とすることによって解決できることを見出し、これに基づいて本発明を完成するに至った。すなわち、上記課題を解決するための手段として本願で特許請求される発明、もしくは少なくとも開示される発明は、以下の通りである。
【0011】
〔1〕 利用者が自己セラピーに用いることのできる、自己の人生の感情の軌跡を表現した動画を生成するシステムであって、該利用者により申告入力されるそれまでの自己の人生における一または複数の出来事を出来事単位で文章にて特定した出来事文書、および、各出来事の発生時における自己の感情の種類を示した感情種に基づいてデジタル素材が生成され、該デジタル素材として各出来事に対応する自己セラピー用動画が含まれ、該自己セラピー用動画は、該感情種に基づき形成される風景画像、および該出来事を文字により記述する記述画像により構成され、該風景画像は、地形・気候・植生・水域の有無や形態といった要素から構成される地表イメージと、地表に影響を及ぼす大気の状態であるところの天気イメージとから構成されており、各出来事に基づいてセラピー単位が構成されていることを特徴とする、自己セラピー用動画生成システム。
〔2〕 該セラピー単位は、該出来事に基づき最初に生成された画像である原画像の他に、該原画像に改変が施されて生成された画像である派生画像が一または複数加えられて構成されていることを特徴とする、〔1〕に記載の自己セラピー用動画生成システム。
〔3〕 生成される動画には、利用者による自己の現在の感情に関する入力が可能な画像すなわち省察入力用画像が含まれることを特徴とする、〔2〕に記載の自己セラピー用動画生成システム。
〔4〕 〔1〕、〔2〕、〔3〕のいずれかに記載の自己セラピー用動画生成システムを用いて生成されることを特徴とする、自己セラピー用動画。
【0012】
〔5〕 〔4〕に記載の自己セラピー用動画を鑑賞するための仮想空間であって、前記セラピー単位に対応し前記出来事文書に基づいて形成された風景単位が該セラピー単位数の分設けられて形成される人生ランドスケープと、前記出来事文書に基づいて形成されたスクリーン具備建造物であるところのシアターとをデジタル素材として備えて構成され、該シアターの内部には、該自己セラピー用動画を投影するためのスクリーンと、投影する該セラピー単位の選択手段たる該人生ランドスケープの模型とが備えられ、仮想空間を体感するための仮想空間体感手段により体感可能であることを特徴とする、自己セラピー用動画用仮想空間。
〔6〕 前記自己セラピー用動画には前記省察入力用画像が含まれており、利用者による該省察入力用画像を用いての入力、または前記申告入力の追加の少なくともいずれかにより、前記人生ランドスケープおよびシアターが変化するよう形成されていることを特徴とする、〔5〕に記載の自己セラピー用動画用仮想空間。
〔7〕 前記省察入力用画像が含まれている〔4〕に記載の自己セラピー用動画を用い、アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)、ACT以外の認知行動療法、またはその他の心理療法に基づいて自己セラピーの過程が提供されることを特徴とする、自己セラピー方法。
【0013】
〔8〕 〔5〕、〔6〕のいずれかに記載の自己セラピー用動画用仮想空間と、該自己セラピー用動画用仮想空間を提供するための仮想空間提供手段とからなり、仮想空間体感手段を用いての自己セラピー用動画鑑賞による自己セラピーに使用されることを特徴とする、自己セラピー用システム。
〔9〕 〔7〕に記載の自己セラピー方法または請求項8に記載の自己セラピー用システムが使用された結果、生成されたことを特徴とする、感情の軌跡自伝動画。
〔10〕 動画鑑賞用のスクリーン具備建造物を備えて形成されている仮想空間内にて鑑賞可能であることを特徴とする、〔9〕に記載の感情の軌跡自伝動画。
〔11〕 〔10〕に記載の感情の軌跡自伝動画鑑賞用のアクセス媒体であって、該感情の軌跡自伝動画にその人生が表現された利用者の、遺灰によるダイヤモンド、または遺品を用いて形成されていることを特徴とする、感情の軌跡自伝動画用アクセス媒体。
【0014】
〔12〕 前記スクリーン具備建造物と相似形状を備えていることを特徴とする、〔11〕に記載の感情の軌跡自伝動画用アクセス媒体。
〔13〕 〔11〕、〔12〕のいずれかに記載の感情の軌跡自伝動画用アクセス媒体を用いて行われる仮想空間における葬祭用のシステムであって、該感情の軌跡自伝動画用アクセス媒体と、それを介して該仮想空間にアクセスするためのアクセス用ホスト端末と、ネットワークを介して接続している該アクセス用ホスト端末から該仮想空間への参加権限を付与された一または複数のアクセス用ゲスト端末と、からなることを特徴とする、仮想空間上葬祭用システム。
〔14〕 〔4〕に記載の自己セラピー用動画を偽造不可能な所有証明書付きデジタルデータ化(NFT化)してなることを特徴とする、NFT化動画。
【発明の効果】
【0015】
本発明の自己セラピー用動画生成システムおよび自己セラピー用システム等は上述のように構成されるため、これらによれば、セラピーを希望する者すなわち利用者は、セラピストやカウンセラーの助けを借りることなく自分自身で主体的にセラピーを行ってメンタルヘルスを整えることができる。また、かかる自己セラピー用動画生成システム等を用いたセラピー実施によって派生する結果を、個人の精神面の向上や祭祀・葬祭など、精神的な領域において積極的に二次活用することができる。
【0016】
本発明自己セラピー用動画生成システムおよび自己セラピー用システム等は特に、AI、マシンラーニング、ジェネレーティブアート制作技術、および仮想空間体感用技術を用いて制作することができ、アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)等の心理療法に基づくセラピーを、利用者自身が一人で行うことを効果的に支援する。本発明によれば、主訴に基づき引き出される回想のみならず、これまでの意識できる全ての感情的出来事とその際の感情を言語化し、それに基づいて自身の感情の軌跡ともいうべき一面の「自分史」を形作ることができ、それによって自己セラピーのための材料をより充実化でき、セラピーにより得られる効果の拡大・深化も期待できる。
【0017】
本発明自己セラピー用動画生成システムによって実体化される「感情の軌跡」は、自己セラピー用のツールに留まらず、利用者本人の死後には「感情の軌跡自伝動画」として、いわば墓碑的、墓所的な役割を果たすことができる。本発明はデジタル素材を用いる方式であるため、祭祀・葬祭の実施において、現実のそれらでは必要なスペースや特定の開催場所・設置場所を要せず、空間的制約から解放された自由な形式の祭祀・葬祭を実施することができる。このような本発明仮想空間上葬祭用システムはまた、特定の開催場所・設置場所を要しないため、そこへ現実に赴く必要がなく、時間的な制約も大いに軽減される。
【0018】
本発明により実現される「感情の軌跡」自伝動画は、同じく本発明において実現されるデジタル形式の墓碑にアクセスすることで鑑賞することができ、当該故人の一生における感情の軌跡を体験することができる。これは、遺族や関係者の生活の心理面やスピリチュアリティにも資することである。もちろん、生前においては利用者本人も、セラピーとして一旦完結した後も、折に触れてその時点までの自分の「感情の軌跡」を振り返ることにより、新たな気づきを得たり、悩みを解決したり、自分を取り戻したりなど、精神面における向上・強化・深化を図ることができる。
【0019】
本発明自己セラピー方法、自己セラピー用システム等は、一つの装置に任せておけばそれがセラピーを施してくれる、という受動的な方式ではなく、あくまでもケアを求める利用者自身が主体的に行う自己セラピーを支援するものである。したがって、より柔軟に、自由に、自分主導で自己セラピーを行うことができる。なお、本発明で実現されるような主体性に重きを置く自己セラピー方式においては、絵・写真といったイメージのみならず、より概念的視点ないしは客観的視点を提供し得る文字を併せ用いることにより、セラピー効果の向上が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明自己セラピー用動画生成システムの基本構成を示す概念図である。
【
図2】本発明自己セラピー用動画生成システムのセラピー単位における画像構成例を示す概念図である。
【
図3】本発明自己セラピー用動画用仮想空間、および自己セラピー用システムの基本構成を示す概念図である。
【
図3-2】
図3に示す本発明自己セラピー用動画用仮想空間中におけるシアター内部構成を示す概念図である。
【
図4】本発明仮想空間上葬祭用システムの基本構成を示す概念図である。(以下は、実施例に係る図面である)
【
図5】本発明完成時のダイアグラムを示す説明図である。
【
図6】自己セラピー用システムを主とする本発明の使われ方を示す説明図である。
【
図6-2】24の感情タイプによる地形タイポロジーの例である(俯瞰図)。
【
図6-3】24の感情タイプによる地形タイポロジーの例である(平面図)。
【
図7】本発明に係る自己セラピー用動画の例を示す画像である(seq1、2)。
【
図8】本発明に係る自己セラピー用動画の例を示す画像である(seq3、4)。
【
図9】本発明に係る自己セラピー用動画の例を示す画像である(seq5、6)。
【
図10】本発明に係る自己セラピー用動画の例を示す画像である(seq7、8)。
【
図11】本発明に係る自己セラピー用動画の例を示す画像である(seq9、10)。
【
図12】本発明に係る自己セラピー用動画の例を示す画像である(seq11、12)。
【
図13】本発明に係る自己セラピー用動画の例を示す画像である(seq13、14)。
【
図14】本発明に係る自己セラピー用動画の例を示す画像である(seq15、16)。
【
図15】本発明に係る自己セラピー用動画用仮想空間の例を示す画像である(VR-1、2)。
【
図16】本発明に係る自己セラピー用動画用仮想空間の例を示す画像である(VR-3、4)。
【
図17】本発明に係る自己セラピー用動画用仮想空間の例を示す画像である(VR-5、6)。
【
図18】本発明に係る自己セラピー用動画用仮想空間の例を示す画像である(VR-7、8)。
【
図19】本発明に係る自己セラピー用動画用仮想空間の例を示す画像である(VR-9、10)。
【
図20】本発明に係る仮想空間上葬祭用システムの使用例を説明する画像である(AC-1、VR-11、12、13)。
【
図21】本発明に係る感情の軌跡自伝動画の一構成例を示すスライドショーである(その1 01~05)。
【
図22】本発明に係る感情の軌跡自伝動画の一構成例を示すスライドショーである(その2 06~10)。
【
図23】本発明に係る感情の軌跡自伝動画の一構成例を示すスライドショーである(その3 11~15)。
【
図24】本発明に係る感情の軌跡自伝動画の一構成例を示すスライドショーである(その4 16~20)。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面により本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明自己セラピー用動画生成システムの基本構成を示す概念図である。図示するように本自己セラピー用動画生成システム10は、利用者が自己セラピーに用いることのできる、自己の人生の感情の軌跡を表現した動画を生成するシステムであって、利用者により申告入力されるそれまでの自己の人生における一または複数の出来事Ea、Eb、Ec、・・・を出来事単位で文章にて特定した出来事文書1a、1b、1c、・・・、および、同じく利用者により入力される各出来事Ea等の発生時における自己の感情の種類を示した感情種2a、2b、2c、・・・とに基づいてデジタル素材が生成されるが、デジタル素材としては各出来事Ea等に対応する自己セラピー用動画3a、3b、3c、・・・が含まれ、自己セラピー用動画3a等は、感情種2a等に基づき形成される風景画像4a、4b、4c、・・・、および出来事Ea等を文字により記述する記述画像7a、7b、7c、・・・とにより構成される。
【0022】
そして、風景画像4a等は、たとえて言うと地形・気候・道のタイプ・植生・石のタイプ・水域の有無や形態、といった要素から構成される地表イメージ5a、5b、5c、・・・と、地表に影響を及ぼす大気の状態であるところの天気イメージ6a、6b、6c、・・・とから構成されており、各出来事に基づいてセラピー単位8a、8b、8c、・・・が規定されていることを、基本的な構成とする。天気イメージ6a等には季節も含め得る。なお、図では、3つ以上の出来事Ea、Eb、Ec、・・・に基づく構成を示しているが、出来事の数は上述の通り一または複数であり、図示する構成には限定されない。
【0023】
本発明で「動画」とは、複数の画像が時間軸で連続して結合してなるものを言うが、いわゆる映画のような滑らかさを有するもののみならず、紙芝居やスライドショーのように、人間の知覚できる時間間隔をもって複数の静止画像が結合しているものも含む。以降は、かかるスライドショーのように構成されている動画を主として、本発明を説明する。また、本発明で「画像」には、絵画・図形・写真のような非言語的な表現のみならず、絵画等を用いずに文字のみで表したものも含まれる。上述の「記述画像」はそれに当たる。また、動画には、視覚的要素のみならず聴覚的要素、すなわち音声を含めてもよい。音声には、ナレーション等の言語、音楽、サンプル音を含む効果音などを、自由に用いることができる。
【0024】
また、図では、自己セラピー用動画3a、3b等の集合3Sを示しているが、これは各動画3a等が結合しているものであることを示すのではなく、単に、本自己セラピー用動画生成システム10による生成物を括って示したものである。もちろん、各動画3a等が結合した形態の動画とするパターンも、「自己セラピー用動画の集合3S」の一例として、本発明の範囲内に含めることができる。
【0025】
上記構成の本発明自己セラピー用動画生成システム10の作用を説明する。まず、利用者により、自己セラピー用動画生成システム10に対して二種類の入力がなされるが、一つ目は、現在までの自己(利用者)の人生における一または複数の出来事Ea、Eb、Ec、・・・を出来事単位で文章にて特定した出来事文書1a、1b、1c、・・・であり、二つ目は、各出来事Ea等の発生時における自己の感情の種類を示した感情種2a、2b、2c、・・・である。これらの入力に基づき、自己セラピー用動画生成システム10ではデジタル素材が生成されるが、それには各出来事Ea等に対応する自己セラピー用動画3a、3b、3c、・・・が少なくとも含まれる。
【0026】
本自己セラピー用動画生成システム10により自己セラピー用動画3a等は、風景画像4a、4b、4c、・・・、および記述画像7a、7b、7c、・・・を備えたものとして生成される。地表イメージ5a等および天気イメージ6a等から構成される風景画像4a等は感情種2a等に基づき形成され、一方、文字で構成される記述画像7a等は出来事文書1a等に基づき形成され、このようにして、自己(利用者)の人生の感情の軌跡を表現した動画が生成される。生成された自己セラピー用動画3aはセラピー単位8aをなし、自己セラピー用動画3bはセラピー単位8bをなし、自己セラピー用動画3cはセラピー単位8cをなす、・・・というように、各動画がセラピー単位をなす。
【0027】
本自己セラピー用動画生成システム10により生成された、セラピー単位8a等をなす動画3a等を、利用者は自己セラピーに用いることができる。自己セラピー用動画3a等を用いての自己セラピー方法の実際は、実施例などで後述する手法など、従来公知である、イメージを用いた各種心理療法手法を用いることができるが、本発明はそれには限定されない。利用者が、自己の過去における感情要素の強い出来事を想起し、これを本自己セラピー用動画生成システム10に対して申告入力することで得られる出力、すなわち自己の感情の軌跡を風景画像4a等と記述画像7a等とによって表した動画3a等を、ただ鑑賞するだけでも、それは自己に対する客観視・内省の機会となり、必ずや内的・精神的な効果、あるいはさらにスピリチュアリティを伴う効果が期待できるからである。
【0028】
なお、スピリチュアリティは一般に「霊的なこと、崇高さ」を意味するが、本願では特に、「確信はないけれども、時として感じる、自分にとって価値のある、不思議な思いや体験」の意味合いで用いる。このようにして本自己セラピー用動画生成システム10利用者は、セラピストやカウンセラーの助けを借りることなく自分自身で主体的にセラピーを行ってメンタルヘルスを整えることができる。つまり、本自己セラピー用動画生成システム10により生成される動画を用いた自己セラピー実施によって利用者は、感情・思考の視覚化、客観化という体験を得られ、これを通して、精神面の向上を図ることができる。
【0029】
なお、地表イメージ5a等および天気イメージ6a等からなる風景画像4a等は感情種2a等を、一方、記述画像7a等は出来事Ea等を、それぞれ基礎とすることは上述の通りである。しかし風景画像4a等の生成用材料としては、申告入力される出来事文書1a等中の単語、文章、といったテキスト内容も含めることができる。この場合は、これらにも基づき、マシンラーニングやAIを用いて地表イメージ5a等が収集され、本自己セラピー用動画生成システム10所定のアルゴリズムに則って生成がなされる。
【0030】
たとえばマシンラーニングにより、出来事文書の中から、主観的な言葉と事実とを分類して抜粋する。そして、その言葉の種類に基づいて所定のアルゴリズムによって具体的な地表イメージの要素(例.気候帯・地形・道タイプ・植生・地質等)を生成するものとすることができる。
たとえば、次のような出来事文書の場合、
「三才:保育園入園、他の園児が嫌で、教室に入れず、園長室に通った。」
事実としては「保育園入園」、「園長室に通った」が、主観的な言葉としては「嫌」、「入れず」が、それぞれ挙げられる。このように抜粋された言葉の種類を入力として、当該所定のアルゴリズムにより、地表イメージ形成に係る要素が、たとえば下記のように決定され得る。
気候帯:地中海性気候
地形:平坦
道タイプ:勾配が少ない
植生:広葉樹
地質:砂と赤土
【0031】
上述のとおり地表イメージおよび天気イメージからなる風景画像は、まずは感情種に基づいて生成される。画像生成は、複数の画像レイヤー(層)を重層させた階層構造によることができるが、感情種2a等は本自己セラピー用動画生成システム10利用者の主観レイヤー、ないしは感情レイヤーであると言える。これとは別に、出来事文書1a等に存在する事実を示す言葉、主観的な言葉を用いて3Dの風景を構成しておき(これは、
図3も用いて後述する人生ランドスケープの形成にも使用できる)、それを基に、上記主観レイヤーを重ね、最終的には2Dの風景画像を得る。あたかも、地図検索サービス・グーグルストリートビュー(登録商標)で見るように、その場に立った景色を提供することができる。―――本発明は、このように構成することができる。
【0032】
本自己セラピー用動画生成システム10において、出来事文書1a等や感情種2a等という入力から風景画像4a等を出力するためのアルゴリズムは、適宜に設計可能である。出来事文書1a等中の言葉を主観的な言葉、事実を示す言葉という基準によって抜き出し、それに対する要素を決定する方式の例を上述したが、他にもさまざまなアルゴリズムを立ててそれを適用する方式とすることができ、限定されない。下記は方式検討の選択肢となり得る一例である。
例.年齢・性別を示すテキスト → 標高の高さや植生を規定
建物・施設を示すテキスト → 起伏を規定
他者(人間、生物)を示すテキスト → 木々の様子を規定
時間帯を示すテキスト → 風景の明暗を規定
感情を示すテキスト → 風景のコントラストを規定
選択された感情種類 → 色を規定
・・・・・
【0033】
なお、出来事文書1a等から得られる記述画像7a等は、特に昔のサイレント映画の字幕のような形で、事実と利用者の主観(感情)からなる出来事Ea等を表すものとすることができる。感情的出来事とその際の感情を、風景化のみならず言語により概念化することにより、利用者は、その出来事に由来する感情や思考を、明確に視覚化・客観化・再現する体験を得られ、自己セラピーに対して効果をさらに付加することができる。
【0034】
感情種の内容や数は、適宜に設計可能である。後述する実施例では、下記24種の感情種を規定した。もちろん、これより少数でも多数でもよい。
24種の感情種:憧れ 娯楽・楽しみ 怒り 脅威と称賛 混乱 満足 欲望 失望 嫌悪 欲求不満・葛藤 快楽 興奮・期待 恥ずかしさ 恐怖 興味 苦痛 気づき 安堵 悲しみ ショックな驚き 嬉しい驚き 共感 達成感、軽蔑・侮辱
(なお、これは、カリフォルニア大学バークレー校の音声認識に関する研究において用いられた分類をベースにしている。)
【0035】
図2は、本発明自己セラピー用動画生成システムのセラピー単位における画像構成例を示す概念図である。図示するように本自己セラピー用動画生成システム10において、セラピー単位8xすなわち自己セラピー用動画3xは、対応する出来事に基づき最初に生成された画像である原画像4o、7oの他に、原画像4o、7oに改変が施されて生成された画像である派生画像4v1、7v1、・・・等が一または複数加えられている構成とすることができる。なお、図では、風景画像に係る派生画像4o等が3以上、記述画像に係る派生画像7o等が3以上加えられている構成が例示されているが、これに限定されない。原画像4o等と派生画像4v1等は、一連の自己セラピー用動画3xを構成する。
【0036】
原画像4o、7oにおいては、それが由来する個別の出来事Ea等に係る感情が、よりストレートに表現され得る。一方、原画像4o、7oが改変された派生画像4v1、7v1等では、その感情の強さをより緩和したり、逆に大きくしたり、あるいは別の感情的要素を混ぜて複雑化したり、接する利用者の視点を変えさせたり、利用者自身に新たな感情を生起せしめたり、というような印象の変化を誘発する可能性が得られる。たとえば、原画像4oでは出来事および感情を美化することなく、ショックを与えるかたちのままで突き付け、一方、改変の施された派生画像4v1等では、そのショックな出来事に対して視点を変える体験、俯瞰させる体験、あるいは映画のセットで見るような体験を提供する―――というように構成することができる。
【0037】
派生画像4v1等を得るために風景画像である原画像4oに施す改変の具体的な方法としては、画像処理による色・コントラスト・彩度・明暗・画質・部分的な強調など、従来公知の適宜の手法を用いることができる。また、派生画像7v1等を得るために記述画像である原画像7oに施す改変の具体的な方法としては、字幕を構成する文字の書体・サイズ・色・レイアウトの変更、背景の色や模様の変更など、従来公知の適宜の手法を用いることができる。
【0038】
また、派生画像4v1等の他に、ナレーション・BGM・効果音などを要素として構成される音声において、由来する個別の出来事に係る感情がよりストレートに表現され得る音声の他に、これに対する改変を施した派生的な音声を用いる構成としてもよい。改変の具体的な方法としては、ナレーション音声の音程・音質・音量・速度など、BGMや効果音の変更など、、従来公知の適宜の手法を用いることができる。
【0039】
図2に示すように本自己セラピー用動画生成システム10は、利用者による自己の現在の感情に関する入力が可能な画像すなわち省察入力用画像9P等が含まれる動画3xを生成する構成とすることができる。かかる構成によれば、本自己セラピー用動画生成システム10により生成された自己セラピー用動画3xを用いる利用者は、動画3xをただ鑑賞するのみならず、自己の現在の感情に関する入力を省察入力用画像9P等に対して入力することができる。そして、なされた入力は、本自己セラピー用動画生成システム10によるその後の自己セラピー用動画3xの更新に活用するものとすることができる。
【0040】
ここで、自己セラピー用動画の更新について説明する。
利用者は、本自己セラピー用動画生成システム10によって生成された自己セラピー用動画を、一度のみならず繰り返し使用できる構成とすることができ、またそのような構成が大いに望ましい。つまり、セラピーを要するメンタルヘルス面の問題に取り組む期間においてはもちろん、その問題が解決した後も、日々の生活の中で折に触れて、あるいは人生の途中で必要を感じた際に、以前に生成された動画を体験できる構成である。そして、鑑賞(体験)の各回において、動画体験をした、あるいは動画体験をしようとする自分自身の感情の状態を、省察入力用画像9P等に入力する方式とするのである。
【0041】
この、いわば自己申告による感情状態の入力によって、自己セラピーの効果を、何らかの形、特にデジタル素材として結果表示する構成を、本発明はとることができる。かかる構成により、動画鑑賞による自己セラピーを繰り返し行うたびに、現在の自分の感情状態がどのようであるかをセルフチェックし、その効果の有無・程度を確認することができ、日常生活および以後のセラピーの進捗に資するものとすることができる。自己セラピー効果を表示するデジタル素材の具体例については、
図3等を用いて追って説明する。
【0042】
図2では、二つの省察入力用画像9P、9Sを示している。前者は自己セラピー用動画3xの本編である原画像4o等の前に置かれ、セラピー開始前の感情状態入力用であり、後者は本編の鑑賞を終えた後の感情状態入力用である。この構成により利用者は、セラピーの前後において自分の感情状態がどのように変化したかを確認することができる。なお、省察入力用画像は一画面のみとすることも本発明からは除外されないが、その場合は、本編の後に置く、つまり省察入力用画像9Sとすることが勧められる。セラピー効果の有無・程度は、本編の後にて評価し得るからである。
【0043】
省察入力用画像9P等は、利用者が自分の現在の感情を入力でき、かつその結果や変化を、視覚的に明確に把握できるようなチャートやグラフの形態とすれば便利である。その具体的な例としては、実施例で後述する感情種(感情タイプ)入力チャートなど、適宜に設計可能である。なお、この感情タイプチャートでは、セラピーのゴールは、トラウマ的出来事をいかにニュートラルゾーンのものと捉えられるようになるか、としている。なお、省察入力用画像9P等の具体的形態に本発明は限定されない。
【0044】
以上説明した各構成の本発明自己セラピー用動画生成システム10を用いて生成される自己セラピー用動画自体もまた、本発明の範囲内である。
【0045】
図3は、本発明自己セラピー用動画用仮想空間、および自己セラピー用システムの基本構成を示す概念図である。また、
図3-2は
図3に示す本発明自己セラピー用動画用仮想空間中におけるシアター内部構成を示す概念図である。これらに示すように本発明自己セラピー用動画用仮想空間30は、上述の自己セラピー用動画を鑑賞するための仮想空間であり、セラピー単位に対応し出来事文書に基づいて形成された風景単位18a、18b、18c、・・・がセラピー単位数の分設けられて形成される人生ランドスケープ20と、出来事文書に基づいて形成されたスクリーン具備建造物であるところのシアター23とをデジタル素材として備えて構成され、シアター23の内部には、自己セラピー用動画を投影するためのスクリーン24と、投影するセラピー単位=風景単位18a等の選択手段たる人生ランドスケープ模型25とが備えられ、仮想空間を体感するための仮想空間体感手段350により体感可能であることを、主たる構成とする。なお、図では3つの風景ランドスケープ18a等が示されているが、これは説明用の例示であり、本発明はかかる構成に限定されない。
【0046】
仮想空間提供手段310によって提供される、かかる構成の本自己セラピー用動画用仮想空間30は、端末・HMD・コントローラといった仮想空間体感手段350を用いる利用者の用に供され、利用者はこれを体感することができる。利用者(アバター)は、本自己セラピー用動画用仮想空間30に入ると、セラピー単位に対応する風景単位18a等がセラピー単位数の分設けられて形成されている人生ランドスケープ20を俯瞰し、また空間30内を自由に移動し、出来事文書由来の建造物であるシアター23内にも入館することができる。
【0047】
シアター23内に入館すると、内部には自己セラピー用動画投影用のスクリーン24と、投影するセラピー単位=風景単位18a等選択用の人生ランドスケープ模型25とがあるが、利用者(アバター)が人生ランドスケープ模型25を用いて投影・鑑賞したい風景単位18a等を一つ選択することによって、スクリーン24には選択した風景単位18a等=セラピー単位に係る自己セラピー用動画が投影、上映される。利用者(アバター)はこのようにして上映される動画を、鑑賞による自己セラピーに用いることができる。なお、仮想空間提供手段310は、本自己セラピー用動画用仮想空間30の生成、保存、および利用者への提供を行う装置である。
【0048】
風景単位18a等によって形成されている人生ランドスケープ20は、いわば利用者のそれまでの人生における「感情の軌跡」を展開しているものである。風景単位すなわちセラピー単位は、上述した利用者により申告入力された出来事文書に基づいて、3Dにて形成されるものであり、風景画像がそうであるように、自然界の要素を主としたものにすることがよい。そうすると「感情の軌跡」は、自然を主体とする風景を伴った旅程を示すような形態となり、人生の各局面を象徴する風景から形作られる一生の旅を、あたかも3Dによる絵巻物やアボリジナルアートであるかのように表すことができる。
【0049】
シアター23は、利用者が自己セラピー用動画を鑑賞して、自己セラピーを実施することのできる場所であるが、利用者が死亡し故人となった後は、その故人のメモリアル、すなわち墓所となる。墓所でありかつシアター、いわば「墓劇場」とも、また、故人の生涯を感情面から記念する「感情マップ博物館」とも言うべきものとなる。
【0050】
利用者が自己セラピーのために申告入力するのは、上述の通り、出来事文書と感情種である。これらの入力は本発明によって、自己セラピー用動画の生成、および、仮想空間30における人生ランドスケープ20ならびにシアター23の形成という形での出力に結実する。自己セラピー用動画は、入力のうち主として感情種に基づいて生成され、また2Dイメージとして生成され、一方、人生ランドスケープ20(それを構成する風景単位18a等)ならびにシアター23は、入力のうち主として出来事文書に基づいて生成される―――ように、本発明の自己セラピー用動画生成システムおよび自己セラピー用動画用仮想空間30は構成するものとすることができる。内部において上映される自己セラピー用動画を鑑賞できるシアター23の外観形状、色、その質感・風合い、透明度等は、出来事文書に基づいて決定され、形成され得る。
【0051】
図3に示す本発明己セラピー用動画用仮想空間30は、シアター23内で上映される自己セラピー用動画中に上述の省察入力用画像が含まれているものとし、さらに、利用者により自己セラピーのたびに行われる省察入力用画像を用いての入力によって、または申告入力の追加もしくは更新入力によって、またはその両者の入力によって、人生ランドスケープ20やシアター23が変化するよう形成されている構成とすることができる。ここで、人生ランドスケープ20の変化とは、それを構成する風景単位18a等における天気イメージおよび地表イメージの少なくともいずれかにおける変化である。また、シアター23の変化とは、その外観形状、色、その質感・風合い、透明度等のうちの少なくともいずれかの変化である。
【0052】
なお、人生ランドスケープ20を構成する風景単位18a等については、出来事文書に基づいて形成された地形等の地表イメージは変化せず、しかし、自己セラピー開始後の省察入力画像における入力や事後的な出来事文書の追加・更新入力によって天気イメージが変化し、それによって風景単位18a等の全体が変化する、という作用が得られるように構成してもよい。なお、天気イメージには春夏秋冬の季節も含めることができる。
【0053】
またなお、季節変化には、霧・霞・靄・陽炎・蜃気楼・雲の状態・虹の出方・ダイヤモンドダスト・降雨の状態・降雪の状態といった正に天気イメージに属する要素の他、地表における積雪・霜の有無や地面の乾燥・湿潤状態、地面の苔の生育状態、その他植物の状態など地表イメージに属すると言える要素も多々ある。したがって、地表イメージの基盤をなす土・砂・石等による地面の形状や道の様子は不変としても、植物の状態などは自己セラピー開始後の省察入力画像における入力や事後的な出来事文書の追加・更新入力によって変化し得る、という構成にしてもよい。
【0054】
自己セラピー開始後の省察入力画像における入力や事後的な出来事文書の追加・更新入力は、各回の自己セラピーや一連の自己セラピー経過による利用者の内面の変化を反映する入力である。そしてセラピーが良好に進んでいる場合には、人間としての成長や挑戦精神の涵養、視野の拡大、種々の視点の獲得による受容的態度の発達、怒りの制御など、自己セラピー効果が、人生ランドスケープ20やシアター23の変化として表示されることになる。
【0055】
本発明仮想空間30では、自己セラピー効果は特に、シアター23における変化として表示される構成とすることができる。つまり、セラピー体験回数を重ねるごとに、毎回、シアター23の透明度や色・形等に変化を生ぜしめるように本仮想空間30を形成するものとすることができる。シアター23の変化は、次回のセラピーのためにシアター23を訪れた際にはもちろんわかるが、加えて、今回のセラピーを終えてシアタ-23退出する際にもこれがわかるよう、つまり、利用者が省察入力用画像への入力を終えると直ちにそれがシアター23の変化として反映されるようにも、本仮想空間30を構成することができる。
【0056】
本自己セラピー用動画用仮想空間30を用いての自己セラピーは、たとえば次のように行うことができる。セラピー開始時は、いわば風景化された自分史の年表であるところの人生ランドスケープ20の中から、1つのイベント感情とも言える風景単位18a等を選択し、それによって所定の自己セラピー用動画の上映を得る。そして、該動画の冒頭部分にある省察入力用画像(前掲
図2の省察入力用画像9P)において、セラピー開始時点での、当該動画に係る出来事に対する自らの感情状態を入力する。この時点では、風景単位18a等や人生ランドスケープ20、およびシアター23に変化は生じず、今回が2回目以降のセラピーのセッションである場合は、前回のセッションを終えた状態が保持されている。
【0057】
そして、上映される動画の鑑賞による自己セラピーが終了した後、該動画の末尾部分に再び設けられている省察入力用画像(
図2の省察入力用画像9S)において、セラピー終了時点での当該動画に係る出来事に対する自らの感情状態を再度入力する。自己セラピー用に構成された当該動画を鑑賞した後においては、その出来事に対する感情は、程度の多少はとにかくとして、変化していることが期待される。かかる利用者の内面の変化は、セラピー終了時点での感情状態入力によるシアター23の変化、または開始時点―終了時点間における感情状態入力の変位(差)によるシアター23の変化として、表示されることとなる。シアター23の変化としては特に、透明度の変化を主とする構成とすることができる。
【0058】
上述の省察入力用画像が含まれている構成の自己セラピー用動画を用い、アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)、ACT以外の認知行動療法、またはその他の心理療法の手法に基づいて自己セラピーの過程が提供される自己セラピー方法も、本発明の範囲内である。本発明の構想は、ACTを前提としてなされたが、適用可能な手法はそれに限定されない。
【0059】
前掲
図3に示したように本発明自己セラピー用システム400は、上述のいずれかの構成を有する自己セラピー用動画用仮想空間30と、該自己セラピー用動画用仮想空間30を提供するための仮想空間提供手段310とからなることを、基本的構成とする。仮想空間提供手段310としては、仮想空間30を生成・保存・更新・供覧する機能を有したサーバを用いることができる。かかる構成により、利用者(アバター)は、端末・HMD・コントローラといった所定の仮想空間体感手段350を用いて自己セラピー用動画用仮想空間30に入り、シアター23内に入館し、人生ランドスケープ模型25を用いて所望の自己セラピー用動画をスクリーン24上に投影し、これを鑑賞することで、自己セラピーを行うことができる。
【0060】
個別の自己セラピー用動画は、特定の感情的な出来事に由来して利用者自身の申告入力により生成されたものであり、その総数の多寡は、人生における処理すべき感情的な出来事の数による。複数の自己セラピー用動画の集合体は、いわば短編映画の集合体であるオムニバス映画様でもあるが、各自己セラピー用動画に共通することは、そのいずれもが利用者の感情の軌跡を表しているということである。したがって、本発明自己セラピー方法や自己セラピー用システム400が使用された結果として生成された動画集合体は、感情の軌跡自伝動画であると言える。
【0061】
この感情の軌跡自伝動画は、動画鑑賞用のスクリーン具備建造物つまりシアター23を備えて形成されている仮想空間30内にて鑑賞されることを想定したものだが、本発明はかかる利用方法に限定されない。たとえば、DVDその他の情報記録媒体に格納した形態や、インターネット上からダウンロードできる形態なども、本発明から除外されない。
【0062】
この感情の軌跡自伝動画は、その原作者とも言える利用者が死亡した後は、その故人自身の人生における感情の軌跡を表現したものとして、第三者の鑑賞利用に供するものとすることができる。社会的な業績・経歴や、思い出の写真や動画によって故人の一生を遺すメモリアルの形態は従来種々あるが、自己申告に基づいてその人の感情の軌跡を動画として遺すという例は、従来存在しない。しかもこの感情の軌跡は、セラピーの対象とした出来事に基づくものであるが故に、その人の内面のより深部を顕して残すもの、その人の存在理由・存在意義・生そのものを純度高く遺すものである。遺族・関係者などにとってはもちろんのこと、無関係だった第三者にとっても、一個の人間の尊厳や生きることの意味を感じ取ることのできるものとして、故人への偲びを越え、極めて有意義である。
【0063】
元々が自己セラピー用動画であるところの感情の軌跡自伝動画は、自己セラピー用動画用仮想空間30内において鑑賞可能な構成とすることができるが、本自己セラピー用システム400は、この鑑賞行動に対するアクセス制限として、鑑賞には(または仮想空間30へのアクセスには)所定のアクセス媒体を必要とする構成とすることができる。つまり、所定のアクセス媒体を介さなくては動画鑑賞ができない(または仮想空間30へ入れない)、という構成である。アクセス媒体の具体的形態は特に限定されない。
【0064】
しかしながら、本発明では特にこのアクセス媒体を、感情の軌跡自伝動画にその人生が表現された利用者の、遺灰によるダイヤモンド、または遺品を用いて形成されるものとすることができる。すなわち、故人の感情の軌跡自伝動画にアクセスするための媒体として、その故人に由来する記念物を用いるのである。遺品等の、故人との関係を示す貴重な物を、故人をその内的な面から描く自伝動画にアクセスできる鍵とする方式である。このようなアクセス媒体は、遺族や親友など故人との繋がりの強かった一人、または複数人が保有することとすることができる。
【0065】
特に、故人の火葬後の遺灰を用いて形成したダイヤモンドを、本アクセス媒体として好適に用いるものとすることができる。そして、このダイヤモンド=アクセス媒体を、自己セラピー用動画用仮想空間30内にて感情の軌跡自伝動画が上映されるシアター23の形状と相似する形状にしつらえることができる。かかるアクセス媒体の保有者にとっては、その形状が、大切な人の感情の軌跡自伝動画に誘引する契機となり、遺族や関係者の生活において、心理面やスピリチュアリティにも資する。
【0066】
なお、故人の生前には、すなわち本自己セラピー用システム400利用者の立場だった頃には確定していなかったシアター23、人生ランドスケープ20、および自己セラピー用動画の集合体も、その死後には確定したものとなっており、アクセス媒体は形態の確定した(不変の)シアター23の形態に基づいて、それと相似形状に形成されるのである。
【0067】
図4は、本発明仮想空間上葬祭用システムの基本構成を示す概念図である。図示するように本仮想空間上葬祭用システムは、以上説明したいずれかの構成の感情の軌跡自伝動画用アクセス媒体50と、それを介して仮想空間530にアクセスするためのアクセス用ホスト端末550と、ネットワークINを介して接続していてアクセス用ホスト端末550から仮想空間530への参加権限を付与された一または複数のアクセス用ゲスト端末580とからなることを、主たる構成とする。ネットワークINとしては主としてインターネットを想定している。すなわち本システムは、ネットワークINを介して故人の葬儀や年回忌法要などの葬祭行事を行うためのシステムであり、その基礎的要素として既に述べた自己セラピー用動画用仮想空間530、およびアクセス媒体50を用いるものである。
【0068】
仮想空間530内において「感情の軌跡自伝動画」が上映されるシアター523は、墓碑的、墓所的な役割を果たし、これを中心として本仮想空間上葬祭用システムは構成され、使用される。本システムによれば、現実の祭祀・葬祭では必要なスペースや特定の開催場所・設置場所を要せず、空間的制約から解放された自由な形式の祭祀・葬祭を実施することができる。また、特定の開催場所・設置場所を要しないため、そこへ現実に赴く必要がなく、時間的な制約も大いに軽減される。
【0069】
本仮想空間上葬祭用システムを用いての葬祭等の執行は、感情の軌跡自伝動画用アクセス媒体50を保有している者(ホスト)が、アクセス用ホスト端末550を用いてアクセス媒体50を介して仮想空間530にアクセスするのだが、その際あらかじめ、執行する葬祭への一または複数の参加者・参加希望者に対して葬祭酸化権限を付与し、それらの者(ゲスト)により操作されるアクセス用ゲスト端末580は、ネットワークINを介して仮想空間530に入り、ホストとともに葬祭に参加することができる。ここでの葬祭の主行事は、感情の軌跡自伝動画の上映・鑑賞である。
【0070】
葬祭への参加者、つまりホストおよびゲストは、仮想空間530内においてアバターとして相互に意思疎通することができる。つまり、故人の感情の軌跡自伝動画上映・鑑賞以外の時間に相互に挨拶したり、会話したり、相手の話を聞いたりして、葬祭の場におけるコミュニケーションをとることができる。
【0071】
たとえば故人の子であってアクセス媒体550保有者である日本在住のホストAが、ネットワークINを介してアメリカ在住の故人の妹B、中国在住の故人の孫C、ドイツ在住の故人の旧友Dに対してあらかじめアクセス権限と葬祭開催日時等の情報を与えておく。葬祭当日、Aは自身のアクセス用ホスト端末550により自身の保有しているアクセス媒体50を介して仮想空間530に入る。リンクによるシェアなど適宜の形式でアクセス権限を与えられている各ゲストB、C、Dは、リンクを介する等して仮想空間530に集合し、アバターとして再会を果たし、シアター523内でAとともに故人の感情の軌跡自伝動画の鑑賞をし、会話等により意思疎通することができる。
【0072】
以上説明した本発明に係る自己セラピー用動画を、偽造不可能な所有証明書付きデジタルデータ化(NFT化)してなることを特徴とするNFT化動画もまた、本発明の範囲内に含まれる。これはジェネレーティブアートである。これを、既存の大規模なソーシャルメディア上ではなく、所定のプロックチェーン上に置くことによって、権利の分散を推進し、個人の人権を尊重する姿勢を示すことができる。なおNFT化動画は、個別の芸術作品として譲渡対象(無償・有償を問わず)とすることもできるが、その場合も、所定のブロックチェーン上にこれを配置する方式とすることが望ましい。
【実施例0073】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明がこれらに限定されるものではない。なお、発明完成時のダイアグラム、自己セラピー用動画の構成例、および自己セラピー用動画用仮想空間の構成例の説明等をもって実施例説明に替える。また、これらの実施例によって本発明が限定されるものではない。
【0074】
<I 本発明のダイアグラム>
図5は、本発明完成時のダイアグラムを示す説明図である。発明者が提供したいテーマは、「感情の視覚化による自己セラピー用システムのサービス、およびデジタル墓地生成サービス」である。すなわち、自己セラピー利用者(以下、「使用者」ともいう)の感情の軌跡の博物館であり、死後には墓となる自己セラピーサービスを、仮想空間に構築することである。発明者は、この発明全体を「Your Trip ― 感情の軌跡劇場」と命名した。
【0075】
本発明が課題とするところは既に述べた通りだが、本実施例では、課題を解決するための手段として次の三つを掲げた。
解決手段1 自己セラピーシステム
(「自己セラピー用システム」を、以下はこのようにもいう)すなわち精神的な健康向上、感情・試行の視覚化・客観化のための紙芝居(2D動画)
解決手段2 感情の軌跡博物館(感情の軌跡劇場)
自己セラピーで用いるカルテ(申告入力されたもの)を基にランドスケープの地図を作り、最終的にはこれを個人のメモリアル、劇場とする。
解決手段3 データのNFT化
制作される制作物(紙芝居、ランドスケープの地図、劇場)データをNFTとしてブロックチェーン上に置くことで、権利の分配、個人の尊厳を主張する。
【0076】
図5のダイアグラムで示した手順は下記の通りである。
(VR墓劇場ダイアグラム)
1)墓劇場 2)劇場エントランス 3)劇場内部
(自己セラピーダイアグラム)
4)人生マップ 5)感情の軌跡マップ 6)軌跡の詳細
7)軌跡(i)空白 8)軌跡(ii)悲しみ、嵐
9)軌跡(iii)喜び、新緑
10)スライドA、14才 中学にて スタメンに選ばれなかった
11)スライドE 世界一の悲劇の物語
【0077】
すなわち、最終的に構築された本発明群は「自己セラピー用動画生成システム、自己セラピー用動画、自己セラピー用動画用仮想空間、自己セラピー方法、自己セラピー用システム、感情の軌跡自伝動画、感情の軌跡自伝動画用アクセス媒体、仮想空間上葬祭用システム、およびNFT化動画」であるが、これらの構想の基礎となった「VR墓劇場ダイアグラム」および「自己セラピーダイアグラム」を
図5は示したものである。なお、「VR墓劇場ダイアグラム」については、追って実施例においても別図(
図20)を用いて説明を加える。
【0078】
以下、このダイアグラムに基づきつつ、具体的に説明する。
解決手段1 自己セラピーシステム
心理療法ACT(Acceptance and Commitment Therapy)をベースにして、起こった不快な出来事や思考に対して、五感を通して事実を知覚し、物の良し悪しの判断を付けずに、客観視することを支援するシステムを提案する。ACTは、思考する自己と観察する自己を意識し、思考・イメージ・肉体に起こる生理現象を客観視するトレーニングとなる療法であり、長い歴史の中で遺伝子に組み込まれているサバイバル反応から生まれる一時的な衝動や感情に囚われず、本当の自分の価値に向けた行動を促進することが目標とされる。ネガティブな思考は絶え間なく流れるラジオのように制御不可能であるが、それを客観視し、行動をコントロールする訓練である。
【0079】
(ステップ1:自己申告)
過去を振り返り、幼少期から現在に至るまでの印象的な出来事を書き出し、その出来事に相当する感情の種類を選ぶ。
例)三才の時、人見知りで幼稚園の教室に入れず、園長室に半年通っていた。本当に嫌だった{拒絶、不安}
中学(十四才)の時に、部活でスタメンに選ばれなくて悔しかった{悲しみ、悔しさ}
大学卒業時(二十二才)にコンペで優勝して嬉しかった{喜び}
【0080】
(ステップ2:ドラマの視覚化)
その出来事を、感情の種類を元に色を付けたり、風景へと変換し、視覚化して、紙芝居(2D画像による動画)にする。下記A~Jは、そのようにして生成された2D動画のシノプシス例である。自己セラピーシステムではこのような紙芝居が、ステップ1で自己申告された全ての年齢の出来事について生成される。紙芝居(動画)は、後述する仮想空間内の劇場にアクセスすることによって鑑賞・使用できる構成とすることができる。
A:背景黒+出来事の字幕
B:その出来事の感情に基づいたイメージによる背景+出来事の字幕
C:その出来事の感情に基づいたイメージによる背景+音声による描写
D:B、Cと補色の背景+音声による描写
E:背景黒+音声による描写+タイトル字幕
F:背景黒+高い音声による描写
G:その出来事の感情に基づいたイメージの背景+高い音声による描写
H:その出来事の感情に基づいたイメージの背景+低い音声による描写
I:風景+音声による描写
J:背景黒+出来事の字幕(Aと同じ)
【0081】
生成された紙芝居(2D動画)を、ただ鑑賞する。
上述のように、一つの出来事およびそれについての主観を示す感情・思考に基づいて、絵(写真)の画像、文字・字幕の画像、両者を含む画像、それらにおける配色の変更、音声の付加、音声の変更など、表現方法を変えた種々のバリエーション画像を生成して、その出来事に基づく紙芝居とする。なお、以下のステップ3~8はACTの技法に基づく説明である。
参考文献:”The Happiness Trap” Russ Harris(「幸福になりたいなら幸福になろうとしてはいけない: マインドフルネスから生まれた心理療法ACT入門」ラス・ハリス)
【0082】
(ステップ3:観察する自己への意識)
次のことを意識しながらもう一度紙芝居を鑑賞する。
ステップ2ではイメージをただ見ていたが、今度はそれを見た時の自分の肉体に起こる反応に意識を向けつつ、鑑賞する。
例.Aの「中学の時に部活でスタメンに選ばれなくて悔しかった。」を見て、全身が固まり、じぶんの唇に力が入るのが感じられた。Hで、甲高いナレーションによる描写では笑ってしまった。肩の力が緩んだのも感じた。
【0083】
(ステップ4:肉体反応の容認)
ステップ3での、同じ出来事でも表現の仕方によって鑑賞しているときの肉体の反応が違うという事実を受け入れる。
(ステップ5:行動のコントロール)
ステップ3で生じた肉体的衝動と正反対の反応をしてみる。
例.Aのスライドを見て笑ってみる。Hの水ライドを見て体を硬くしてみる。
【0084】
(ステップ6:今、この場所と繋がる)
頭で起こる思考は制御できないが、肉体的行動はコントロールできることを認識する。A(背景黒+出来事の字幕)の画像をもう一度見て、不快な出来事は実際に生死に関わるものではなく、脳が作り出したものだと理解する。一連の画像(動画)を見た時の出来事への感情は、何を学ぶために生まれたのかを考え、思考に感謝する。そして、思考している時も、視覚、聴覚、嗅覚、触覚などは、思考とは別にそこに存在していることを認識する。
【0085】
(ステップ7:繰り返す)
どの年齢の出来事でもいいので、毎日この訓練を繰り返し、不快な感情に対しての免疫をつける、客観視できるようにするトレーニングをする。不快な感情は、長い歴史の中で私たちの遺伝子が生き残るために発達したものだが、これは、衝動を行動に起こしさえしなければ、天気のように去りゆくものだと、受け入れるトレーニングをする。不快な感情は、無視したり、押し殺したりする対象なのではなく、生活の過程で自己の成長のために脳が作り出したものだ、と客観視、そして感謝するトレーニングである。
【0086】
(ステップ8:現実世界にて価値のある行動を)
不快な感情に左右されない状態で、自分の意思で価値のある行動をし、有意義な生活を送れるようにする。
【0087】
感情的な本人は、生物の防衛本能として出来事を良し悪しや損得勘定で評価してしまう。芸術・アートとは五感に訴えるもの、ドーパミンを抽出するものであり、戦争の写真や血だらけの動物の絵でさえも、額に入れた途端に美しいもの、価値のあるものとなり得る。ヒーロー映画に困難はつきものであるように、ネガティブな感情でさえ、本自己セラピーシステムで紙芝居化することにより、人生のかけがえのないアートの1ピースになる。
【0088】
解決手段2 感情の軌跡劇場(VR tomb theater)
自己セラピーシステム使用者である個人の感情の軌跡が、解決手段1に述べた紙芝居(動画)のまとまりの中に示されるわけだが、仮想空間生成技術を用いて仮想空間内にこれを鑑賞できる劇場(博物館)を作り、そしてそこを、その個人の死後の墓とする。劇場は、意識してか無意識的にかを問わず自分が生き方の価値としている地点へどれだけ辿り着くことができたか、どれだけ純度の高い生き方ができたか、というその個人のスピリチュアリティが可視化されたものである。そのようなものとして形成する。仕事の経歴や外見写真ではなく、本人の自己申告による感情の軌跡が象徴化された劇場である。
【0089】
(手順1:色と形)
自己セラピーシステムで抽出・特定された感情に基づくカラーなどの情報を用いて、劇場(個人の墓)の色や形を、AIによって生成する。かかる劇場の形態・外観は、その個人が生きていて自己セラピー継続中の時には、セラピーの進み具合によって変化し得るが、その個人が死亡し、それにより自己セラピーシステムもその人のためのセラピー用としては使用されることがなくなった段階で、最終的な形態・外観は確定、完成する。
【0090】
(手順2:アクセス)
個人の死体は火葬されて遺灰が得られ、この遺灰を圧縮してダイヤモンドに成形する。これには、仮想空間内の劇場にアクセスするアクセス用機能が具備される。そのダイヤモンドは親族の一人が所有し、それを3Dスキャンすることで、劇場(個人の墓)、すなわち墓劇場へのアクセスコードが生成される。
【0091】
(手順3:他者による鑑賞)
その仮想空間内の墓シアターには、インターネットに接続できる限り、世界中どこにいてもアクセスできるように構成する。ネット上での墓参りが可能となる。遺族や故人の関係者らは、それぞれに人生に悩んだ時など、墓シアターで鑑賞できる上記紙芝居(動画)を鑑賞することで、先祖・先人にも同じような葛藤があったのだということの気づきを得られる機会、自分を取り戻す機会とすることができる。ネガティブな感情でさえも、メモリアルに貯蔵されることで、後進の者達にとってもかけがえのないアートの1ピースとなり得る。
【0092】
解決手段3 データのNFT化
権利の分散を主眼とするバックエンドシステム。NFT化動画は、個別の芸術作品として譲渡対象とすることもできるが、既存の大規模なソーシャルメディア上ではなく、所定のブロックチェーン上にこれを配置する。権利の分散を推進し、個人の人権を尊重する姿勢を示す。
【0093】
<II 本発明の使われ方>
図6は、自己セラピー用システムを主とする本発明の使われ方を示す説明図である。使用者の生前と死後、それぞれにおいて、仮想空間内の劇場は次のように使われる。なお、
図5で示したダイアグラムとは相違する点があるとしても、いずれも本発明の範囲内である。
生前
A 自己セラピーの場所
…自己セラピー(システム)の使い方については追って詳細に述べる。
死後
B 葬儀会場(家族・友人の再会の場)
C 故人のメモリアル
【0094】
A 自己セラピー(システム)の使い方
1)カルテ記入(申告入力)
・過去の印象的・感情的な出来事を幼少期から現在に至るまで描写、申告
・その各出来事に対する感情タイプの選択
これは、セラピーの必要な時期のみならず、生命保険を積み立てるように、老後、そして死ぬまで行い、感情の軌跡を記録していく。
【0095】
2)感情の分類
・1)で自己申告された感情タイプは、仮想空間を構成する地形(ランドスケープ)生成の基礎となる。
・カルテを基に、自己セラピー用の動画(紙芝居)が生成される。
3)劇場カスタマイズ
・自己申告されたカルテを基に 発明者の制作したコードに従って個人の地形と劇場のジェネレーティブアートが生成される。
【0096】
4)セラピー
・生成された地形を基に、細かく年代を追って、トラウマセラピーなどセラピーを行う。
5)セラピーを繰り返す
・運動のように、週に2、3を目標にセラピーを繰り返す。
【0097】
6)更新
・セラピーが完了したら、日記をつけるように、感情的な出来事を記載し続ける。つまり、これまで行った一連の自己セラピーによって、とりあえず当面のセラピー(治療)が完了し、それ以後も常時、随時、あるいは必要に応じ、自分の感情的な出来事を記載し続けていく、四十才、五十才、・・・と。そうやって感情の軌跡を、死ぬまで綴っていく。
・一時的な感情に支配されず、本当の価値を見つけることによって、自己も他者も損なうことのない生き方を身につけていき、自殺・他殺といった不条理な死の発生を軽減し、より豊かな社会づくりに資する人生としていく。
【0098】
図6-2、6-3は、24の感情タイプによる地形タイポロジーの例であり、前者は俯瞰図、後者は平面図)である。ここで、24の感情タイプとは、バークレー大学の音声認識研究において使われたものをベースにしている。本発明における感情タイプの分類法はこれに限定されないが、好適に用いることのできる一つである。24の感情タイプは、具体的に下記の通りである。
【0099】
1.憧れ 2.娯楽、楽しみ 3.怒り 4.脅威、怖気付く 5.混乱 6.侮辱 7.満足 8.欲望 9.失望 10.嫌悪 11.葛藤 12.快感、有頂天 13.気づき 14.苦痛 15.興味 16.恐怖 17.恥 18.上機嫌、自尊心に溢れた 19.安堵 20.悲しみ 21.悲しい驚き 22.嬉しい驚き 23.勝利の喜び、達成感 24.共感、思いやり
【0100】
<III 自己セラピー用動画>
図7~14は、本発明に係る自己セラピー用動画の例を示す画像である。本動画を構成する連続する画像を、最初から順にseq1~16として示す。
seq1 感情タイプチャート
24の感情タイプを2次元座標平面上にチャート化したものである。図示する通り、人間として備えることが好ましい感情ほど中央よりに位置する。使用者はまず、今回のセラピー(鑑賞)を始める前に、選択した出来事(紙芝居)についての自分の感情を入力する。なお、セラピーのゴールは、トラウマ的出来事をいかに客観的な視点で捉えることができるようになり、中性的なものと捉えられるようになるか、である。
【0101】
seq2 カスタム感情地形など
使用者によるカルテ入力により生成された仮想空間内の感情地形=ランドスケープ等が示される。ここでは、ランドスケープの平面図・俯瞰図等、およびカスタム劇場の図が示されている。カスタム劇場は、その形と色が示される。また、平面図には、各出来事の入力により生成された動画にアクセスできる、ランドスケープ内の場所が示されている。ここでは、3才、7才、12才、15才、18才、21才、24才、27才、30才、33才の時の各出来事に基づく動画にアクセスできることが示されている。
【0102】
seq3~13は、カルテに基づき生成された本動画の本編である。
seq3 出来事の字幕(記述画像、原画像)
字幕「三才:保育園入園/他の園児が嫌で教室に入れず/園長室に半年通った」が、暗色かつ一定の書体の文字、および明色の背景色により示される。
seq4 出来事を象徴的に示す画像(風景画像、原画像)
ここでは、保育園の外観が示される。
seq5 出来事に対する感情の字幕(記述画像、原画像)
字幕「まるで岩山を登るように苦痛で、恥ずかしかった」が、明色かつ一定の書体の文字、および暗色の背景色により示される。
seq6 感情を象徴的に示す画像(風景画像、原画像)
ここでは、山道の画像が示される。
【0103】
seq7 派生画像 その1
seq8 派生画像 その2
seq9 派生画像 その3
記述画像かつ原画像であるseq5の派生画像その1、2、3であり、原画像の書体や背景色を変化させて示される。
【0104】
seq10 派生画像 その4
seq11 派生画像 その5
seq12 派生画像 その6
seq13 派生画像 その7
風景画像かつ原画像であるseq6の派生画像その4、5、6であり、原画像の配色や濃淡などが画像処理により変化させて示される。
【0105】
seq14 カスタム感情地形の再提示
seq2で示されたカスタム感情地形=ランドスケープが、再び示される。使用者にとって、ここまでの動画鑑賞を経た状態で、この出来事が人生におけるどのような地点において起きたか、どのように位置付けられるものなのかを、改めて意識的に見直す機会となる。
【0106】
seq15 出来事字幕の再提示
seq3の字幕「三才:保育園入園/他の園児が嫌で教室に入れず/園長室に半年通った」が、再び示される。使用者にとって、ここまでの本編動画鑑賞およびseq14を経た状態で、この出来事の捉え方がどのように変化したかが意識される。
【0107】
seq16 感情タイプチャートの再提示および入力の促し
seq1の感情タイプチャートが再び示される。今回のセラピーを終えた現在の感情を入力する。ここでの入力は、チャート上で、このセッション前後における自身の感情の変化を確認できるとともに、仮想空間内の劇場の変化へと反映される。
【0108】
<IV 仮想空間>
図15~19は、本発明に係る自己セラピー用動画用仮想空間の例を示す画像である。本仮想空間へのアクセスからシアターへの入場、セラピーの実施、そして墓所として完成されたシアターまでを、順にVR-1、VR-2、・・・、VR-10として示す。なお、以下示す各画像の説明中、「あなた」とは使用者のことである。
VR-1 Your Trip Let me archive your life
あなたの感情を基に作られたランドスケープの頂上に、感情の軌跡シアターがある。
【0109】
VR-2 感情の軌跡劇場
毎度訪れるごとに、透明度や色、形が変わっていく。
VR-3 劇場内部
感情の軌跡を基に作られた地形の小さな模型と、スクリーンがある。
VR-4 ACTセラピー(セッション対象の選択)
使用者は、この模型を基に、どの地点(自分の人生の中の出来事が生じた年代)に向き合いたいかを選択する。
VR-5 感情の軌跡ランドスケープ
生まれてから現在までの、印象的に残る感情的な出来事を基に作られた地形模型である。これは、山脈の湿度や標高、天気は喜怒哀楽に基づいて定義するものとすることができる。定義されたものをアルゴリズムに適用し、各人の地形を作り出す。
【0110】
VR-6 ACTセラピー
使用者は、仮想空間内のこの場所を訪れるごとに、どの年代の感情を振り返りたいか選択し、スクリーンに映し出された動画とACTセラピーの手順を基に、エクササイズ(自己セラピー)する。
【0111】
VR-7 セラピー体験1回目
以下は、セッションを重ねる中での劇場(墓)の変化を示す。1回目はまだ、不透明度が高い。
VR-8 セラピー体験3回目
透明度が高くなり、自己のカラーも出てくる。
VR-9 セラピー体験24回目
透明度がとても高くなり、美しい宝石のようになる。
視覚化された劇場の透明度とともに、自己の精神にも効果があることを、本人も実感するようになる。
【0112】
VR-10 墓シアター(VR墓劇場)
使用者の死後、親族や友人たちがこの劇場を訪れ、被験者の見た映像、体験した感情の軌跡を、視覚として体験できる。日々に葛藤のある人たちも、葛藤は自分だけのことではないことを認識できるようになるとともに、故人・遺族に感謝し、これまでよりも未来に対する希望を持った生き方に変化していくことが期待される。
【0113】
図20は、VR墓劇場のダイアグラム、すなわち本発明に係る仮想空間上葬祭用システムの使用例を説明する画像である(AC-1、VR-11、12、13)。図中の各画像について説明する。
AC-1
1)VR世界へアクセス(物理的な世界)
共有されたアクセスコードを基に参拝者は各々でVRヘッドセットを使ってVR世界に行く。
VR-11
2)墓劇場(VR世界)
セラピーで使われた故人の劇場に参拝者たちが歩いて行く。
【0114】
VR-12
3)劇場エントランス(VR世界)
劇場の中に入る。
VR-13
4)劇場内部(VR世界)
セラピーで記録された故人が生前に体験した感情の軌跡の動画を参拝者が共有し、死者を追悼する。弔うとともに、故人の体験した美しい瞬間を擬似体験する。
【0115】
<V 補足_墓劇場における上映等について>
墓劇場内で上映され鑑賞できる「感情の軌跡自伝動画」は、自己セラピーを行った故人の生前の申告に基づく自己セラピー用動画を主とするが、厳密にそれに限定されるのではない。そのことも含め、たとえば以下列挙する各事項も、本発明の範囲内に含まれることを、一部重複もあるが、書き添える。
(ア)人生ランドスケープをジェネレーティブアートにより表現、形成すること。
(イ)(ア)に基づき、人生ランドスケープに係る画像を写実的に(写真のように)形成すること。
(ウ)人生ランドスケープに係る画像を(ア)や(イ)とは別の表現方法、たとえばイラスト等によって表現、形成すること。
【0116】
(エ)墓劇場では、(イ)、(ウ)のいずれも上映対象とすることができ、またこれらを交互に配列するなど、適宜に取り混ぜた形や編集した形で上映可能とすることができること。
(オ)故人の各出来事(各年代)に係る個別の自己セラピー用動画については、それをそのまま上映する方式の他、適宜に編集・短縮したものとして用いることもできること。たとえば、元は10枚の画像からなる動画を2枚に短縮する、など。
(カ)その他、自己セラピー用動画と人生ランドスケープを元とする「感情の軌跡自伝動画」の具体的構成は、従来公知の手法を用いて自由に行えること。
【0117】
図21~24は、本発明に係る感情の軌跡自伝動画の一構成例を示すスライドショー(その1~その4)であり、01~20、計20枚の画像(スライド)で構成されている。これは画家マーク・シャガールの伝記に基づき、彼の人生を、砂漠地帯の道を進む旅程としてイラストにより表現した一例であり、上記の(ウ)の範疇に該当する。01~20の各画像においては、左にイラスト、右に説明を示す。
【0118】
説明は、上段(1行目)、中段(2行目)、下段(3行目、一部3~4行目)の三段構成であり、上段には「“スライド(画像)番号_イメージ”」、中段には「年代」、下段には「出来事など」が記載されている。たとえば
図21中の01では、1887年にロシアで出生後1891年までの時期(0~4才)について、「新芽」のイメージをもって風景が構成され、
図22中の06では、ベルリンで初個展を開催するとともに最初の妻と結婚した1915年(28才)について、開花のイメージをもって風景が構成され、
図24中の17では、戦争が終わってアメリカへ渡った1956年について、再生のイメージをもって風景が構成されている。
【0119】
なお、
図24中の20は1985年にパリで他界するまでの最期の時期を表現したスライドであり、本図では省略しているもののここに描かれた道の先には墓劇場がある、という構成である。また、ここでのイメージは「中性」であるが、これは上述の<III 自己セラピー用動画>においてセラピーのゴールを「トラウマ的出来事をいかに客観的な視点で捉えることができるようになり、中性的なものと捉えられるようになるか」としていることと照応するものである。VR空間内の墓劇場を訪れた遺族・友人・関係者らは、
図21~24に示した故人・シャガールの人生がイラストで表現されたスライドショーを鑑賞できる。また、同じ内容を写実的に表現した画像を取り混ぜた形の動画(上記(エ))の上映としてもよい。また、――これはもちろん架空のことではあるが――故人の各年代(01~20)における自己セラピー用動画あるいはその編集版の鑑賞も可能である。
【0120】
<VI 結語>
従来のアートは手作業が基本だった。また、建築やアートを掴みどころのない感情に基づいて構築・創作するということは、作家・創作者の主観に委ねられるものであり、人間以外のものには難しいことだった。しかし今日の技術では、ジェネレーティブアートのように一定の方式・公式に則って何種類ものアートを生み出すことができるようになっている。本発明は、VR等も含むデジタルコンテンツ制作技術、ジェネレーティブアート制作技術などによって、アートの側面も有する自己セラピー用のシステムを構築した。使用者の意思を受けた本発明システムは、使用者の感情の軌跡つまり使用者自身が投影されたデジタル制作物を制作して返す、という応答を行う。
【0121】
使用者がそれと向き合い続けることによって、このデジタル制作物は変化していく。いわば、使用者とともに最後まで変化・成長していく、自己組織的なコンテンツが本システムにより提供される。一個の人間の人生は固有の芸術作品であるという意味の言葉があるが、本発明は正に、一個の人間を芸術作品に体現せしめるものであると言える。
【0122】
なお、上述の通り本発明はアートの側面を有するが、人間の感情を、従来のような手作業ではなくジェネレーティブアート制作技術などによって表現すること自体が新規であり、本発明はそもそも、かかる課題を深部に内包しつつ完成されたものである。
本発明の自己セラピー用動画生成システムおよび自己セラピー用システム等によれば、利用者は、セラピストやカウンセラーの助けを借りることなく自分自身で主体的にセラピーを行ってメンタルヘルスを整えることができる。また、かかる自己セラピー用動画生成システム等を用いたセラピー実施によって派生する結果を、個人の精神面の向上や祭祀・葬祭など、精神的な領域において積極的に二次活用することができる。本発明は特に、AI、マシンラーニング、および仮想空間体感用技術を用いて制作することができ、心理臨床・心理療法・自己啓発に関わる技術・産業分野、VR等のデジタルコンテンツ制作業・使用分野、ジェネレーティブアート制作業・使用分野、祭祀・葬祭業分野、および関連する全分野において、産業上利用性が高い発明である。