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特開2023-171731アンチセンスオリゴヌクレオチドを含有する組成物およびデュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療へのその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023171731
(43)【公開日】2023-12-05
(54)【発明の名称】アンチセンスオリゴヌクレオチドを含有する組成物およびデュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療へのその使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7088 20060101AFI20231128BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20231128BHJP
   A61P 21/04 20060101ALI20231128BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20231128BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20231128BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20231128BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20231128BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20231128BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20231128BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20231128BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20231128BHJP
【FI】
A61K31/7088 ZNA
A61K48/00
A61P21/04
A61K9/08
A61K47/02
A61K47/04
A61K47/10
A61K47/12
A61K47/18
A61K47/26
C12N15/113 Z
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023143451
(22)【出願日】2023-09-05
(62)【分割の表示】P 2020527712の分割
【原出願日】2019-06-26
(31)【優先権主張番号】62/690,270
(32)【優先日】2018-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/739,386
(32)【優先日】2018-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】000004156
【氏名又は名称】日本新薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100141195
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 恵美子
(74)【代理人】
【識別番号】100196966
【弁理士】
【氏名又は名称】植田 渉
(72)【発明者】
【氏名】宇野 朋典
(72)【発明者】
【氏名】夏川 隆資
(72)【発明者】
【氏名】江川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 洋平
(57)【要約】      (修正有)
【課題】アンチオリゴヌクレオチドを含有する組成物及びデュシェンヌ型筋ジストロフィーを治療するためのその使用を提供する。
【解決手段】ヒトジストロフィン遺伝子の第53番目のエクソンの5’末端から第36~56番目のヌクレオチドからなる配列に相補的な塩基配列からなるアンチセンスオリゴマーもしくはその医薬的に許容可能な塩又はその水和物を含有する、ヒト患者のデュシェンヌ型筋ジストロフィーを治療するための医薬組成物であって、前記治療は、アンチセンスオリゴマーもしくはその医薬的に許容可能な塩又はその水和物が40mg/kg~80mg/kgで前記ヒト患者に週1回静脈内投与することを含む、前記医薬組成物を提供する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトジストロフィン遺伝子の第53番目のエクソンの5’末端から第36~56番目のヌクレオチドからなる配列に相補的な塩基配列からなるアンチセンスオリゴマーもしくはその医薬的に許容可能な塩又はその水和物を含有する、ヒト患者のデュシェンヌ型筋ジストロフィーを治療するための医薬組成物であって、
前記治療は、アンチセンスオリゴマーもしくはその医薬的に許容可能な塩又はその水和物が40mg/kg~80mg/kgで前記ヒト患者に週1回静脈内投与することを含む、前記医薬組成物。
【請求項2】
前記アンチセンスオリゴマーもしくはその医薬的に許容可能な塩又はその水和物が、40mg/kgで前記ヒト患者に週1回静脈内投与される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記アンチセンスオリゴマーもしくはその医薬的に許容可能な塩又はその水和物が、80mg/kgで前記ヒト患者に週1回静脈内投与される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記ヒト患者が、ジストロフィン遺伝子にエクソン43-52、45-52、47-52、48-52、49-52、50-52または52からなる群より選択されるいずれかのエクソンが欠損した変異を有する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記ヒト患者における治療前のジストロフィンタンパク質の発現が、ウェスタンブロッティングまたは質量分析による測定で健常人の1%以下である、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項6】
前記ヒト患者において、治療前にジストロフィンタンパク質の発現がみられない、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記アンチセンスオリゴマーの塩基部分の配列が、配列番号3に示す配列からなる、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記アンチセンスオリゴマーもしくはその医薬的に許容可能な塩又はその水和物が、Viltolarsen又はその同等品である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記アンチセンスオリゴマーもしくはその医薬的に許容可能な塩又はその水和物を2.5~500mg/mlまたは10~100mg/mlの濃度で含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記アンチセンスオリゴマーもしくはその医薬的に許容可能な塩又はその水和物を25mg/mlの濃度で含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記アンチセンスオリゴマーもしくはその医薬的に許容可能な塩又はその水和物を、50mg/mlの濃度で含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項12】
等張化剤、pH調整剤及び溶媒からなる群より選択される少なくとも1つの成分をさらに含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記等張化剤が塩化ナトリウム、塩化カリウム、グルコース、フルクトース、マルトース、スクロース、ラクトース、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、トレハロース及びグリセリンからなる群より選択される少なくとも1つである、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記pH調整剤が塩酸、水酸化ナトリウム、クエン酸、乳酸、リン酸塩(リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム)及びモノエタノールアミンからなる群より選択される少なくとも1つである、請求項12または13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記溶媒が水である、請求項12~14のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
2.5~500mg/mlまたは10~100mg/mlの濃度のアンチセンスオリゴマー、8~10mg/mlの濃度の塩化ナトリウムを含み、かつpHが7.2~7.4の水溶液である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記治療により、以下の(1)~(6)からなる群より選択される少なくとも1つの効果が生じる、請求項1に記載の医薬組成物:
(1)患者の骨格筋におけるジストロフィンタンパク質発現量の平均値が、ベースラインと比較して、24週間の投与後に9倍以上に増加すること;
(2)立ち上がり時間(TTSTAND)から得られる速度の変化が、ベースラインと比較して、24週間の投与後25週時に-0.055回/秒以上であること;
(3)10メートル走行/歩行時間(TTRW)から得られる速度の変化が、ベースラインと比較して、24週間の投与後25週時に-0.025メートル/秒以上であること;
(4)4段階段昇り時間(TTCLIMB)から得られる速度の変化が、ベースラインと比較して、24週間の投与後25週時に-0.060回/秒以上であること;
(5)ノース・スター歩行能力評価(NSAA)のスコアの変化が、ベースラインと比較して、24週間の投与後25週時に-2.2スコア以上であること;及び
(6)6分間歩行試験(6MWT)の変化が、ベースラインと比較して、24週間の投与後25週時に-7.5メートル以上であること。
【請求項18】
7~9歳のデュシェンヌ型筋ジストロフィーのヒト患者に前記治療を84週間行った場合に、以下の(1)~(6)からなる群より選択される少なくとも一つの効果が生じる、請求項1に記載の医薬組成物:
(1)治療開始から第85週までに、立ち上がり能力を喪失する患者が20%未満であること;
(2)治療開始から第85週までに、4段階段昇りが出来なくなる患者が10%未満であること;
(3)治療開始から第85週までに、自立歩行能力を喪失する患者が10%未満であること;
(4)治療開始から第85週までに、10メートル走行/歩行の速度に加齢による減少がみられないこと;
(5)治療開始から第85週までに、4段階段昇りの速度に加齢による減少がみられないこと;及び
(6)治療開始から第85週までに、立ち上がりの速度に加齢による減少がみられないこと。
【請求項19】
10~12歳のデュシェンヌ型筋ジストロフィーのヒト患者に前記治療を84週間行った場合に、以下の(1)~(6)からなる群より選択される少なくとも一つの効果が生じる、請求項1に記載の医薬組成物:
(1)治療開始から第85週までに、立ち上がり能力を喪失する患者が60%未満であること;
(2)治療開始から第85週までに、4段階段昇りが出来なくなる患者が50%未満であること;
(3)治療開始から第85週までに、自立歩行能力を喪失する患者が50%未満であること;
及び
(4)治療開始から第85週までに、10メートル走行/歩行の速度に加齢による減少がみられないこと。
(5)治療開始から第85週までに、4段階段昇りの速度が増加する時期がみられること;及び
(6)治療開始から第85週までに、立ち上がりの速度が増加する時期がみられること。
【請求項20】
ヒトジストロフィン遺伝子の第53番目のエクソンの5’末端から第36~56番目のヌクレオチドからなる配列に相補的な塩基配列からなるアンチセンスオリゴマー又はその医薬的に許容可能な塩若しくは水和物を含有する医薬組成物を、
前記アンチセンスオリゴマーもしくはその医薬的に許容可能な塩又はその水和物を40mg/kg~80mg/kgでヒト患者に週1回静脈内投与することを含む、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療方法。
【請求項21】
ヒト患者のデュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療方法に用いるためのヒトジストロフィン遺伝子の第53番目のエクソンの5’末端から第36~56番目のヌクレオチドからなる配列に相補的な塩基配列からなるアンチセンスオリゴマー又はその医薬的に許容可能な塩若しくは水和物であって、
前記アンチセンスオリゴマー又はその医薬的に許容可能な塩若しくは水和物が40mg/kg~80mg/kgで前記ヒト患者に週1回静脈内投与される、
前記アンチセンスオリゴマー又はその医薬的に許容可能な塩若しくは水和物。
【請求項22】
ヒト患者のデュシェンヌ型筋ジストロフィーを治療するための医薬組成物の製造のためのヒトジストロフィン遺伝子の第53番目のエクソンの5’末端から第36~56番目のヌクレオチドからなる配列に相補的な塩基配列からなるアンチセンスオリゴマー又はその医薬的に許容可能な塩若しくは水和物の使用であって、
前記アンチセンスオリゴマー又はその医薬的に許容可能な塩若しくは水和物が40mg/kg~80mg/kgで前記ヒト患者に週1回静脈内投与される、
前記使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトジストロフィン遺伝子の第53番目のエクソンのスキッピングを可能にするアンチセンスオリゴマーの用法用量及び該オリゴマーを含む医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は出生男子約3,500人に1人が発症する最も頻度の高い遺伝性進行性筋萎縮症である。乳幼児期には正常のヒトとほとんど変わらない運動機能を示すが、4~5歳頃から筋力低下がみられる。その後筋力低下は進行し12歳頃までに歩行不能になり、20歳代で心不全または呼吸器不全により死に至る重篤な疾患である。現在、DMDに対する有効な治療法はなく、新たな治療薬の開発が強く求められている。
【0003】
DMDはジストロフィン遺伝子の変異が原因であることが知られている。ジストロフィン遺伝子はX染色体に存在し、220万塩基対のDNAから成る巨大な遺伝子である。DNAからmRNA前駆体に転写され、さらにスプライシングによりイントロンが除かれ79のエクソンが結合したmRNAが合成される。このmRNAから3,685のアミノ酸に翻訳され、ジストロフィンタンパク質が生成される。ジストロフィンタンパク質は筋細胞の膜安定性の維持に関与しており、筋細胞を壊れにくくするために必要である。DMD患者のジストロフィン遺伝子は変異を有するため、筋細胞において機能を有するジストロフィンタンパク質が殆ど発現されない。そのため、DMD患者体内では、筋細胞の構造を維持できなくなり、多量のカルシウムイオンが筋細胞内に流れ込む。その結果、炎症に似た反応が生じ、線維化が進むために筋細胞が再生されにくくなる。
【0004】
ベッカー型筋ジストロフィー(BMD)もジストロフィン遺伝子の変異が原因であるが、その症状は筋萎縮による筋力低下を呈するものの一般にDMDと比較して軽く、筋力低下の進行も遅く、多くの場合、成人期に発症する。DMDとBMDとの臨床症状の違いは、変異によりジストロフィンのmRNAがジストロフィンタンパク質へと翻訳される際のアミノ酸読み取り枠が破壊されるか、あるいは維持されるかによるものと考えられている(非特許文献1)。つまり、DMDでは、アミノ酸読み取り枠がずれる変異を有することにより、機能を持つジストロフィンタンパク質がほとんど発現しないが、BMDでは変異によりエクソンの一部は欠失しているが、アミノ酸読み取り枠は維持されているために不完全ながらも機能を有するジストロフィンタンパク質が産生される。
【0005】
DMDの治療法として、エクソンスキッピング法が期待されている。この方法は、スプライシングを改変することでジストロフィンのmRNAのアミノ酸読み取り枠を修復し、部分的に機能を回復したジストロフィンタンパク質の発現を誘導する方法である(非特許文献2)。エクソンスキッピングの対象となるアミノ酸配列部分は失われることになる。そのためこの治療で発現されるジストロフィンタンパク質は正常のものより短くなるが、アミノ酸読み取り枠が維持されるために筋細胞を安定化する機能が部分的に保持される。したがって、エクソンスキッピングにより、DMDは、より軽症のBMDと同じような症状を呈するようになると期待されている。エクソンスキッピング法は、マウスやイヌによる動物実験を経て、ヒトDMD患者に対する臨床試験が行われている。
【0006】
エクソンスキッピングは、5’若しくは3’スプライス部位のいずれか若しくは両方、又はエクソンの内部を標的とするアンチセンス核酸の結合により誘導することができる。エクソンは両方のスプライス部位がスプライソソーム複合体によって認識された場合のみmRNAに包含される。したがって、スプライス部位をアンチセンス核酸でターゲッティングすることにより、エクソンスキッピングを誘導することができる。また、エクソンがスプライシングの機構に認識されるためにはエクソンスプライシングエンハンサー(ESE)へのSRタンパク質の結合が必要であると考えられており、ESEをターゲッティングすることでもエクソンのスキッピングを誘導することができる。
【0007】
ジストロフィン遺伝子の変異はDMD患者によって異なるため、遺伝子変異の場所や種類に応じたアンチセンス核酸が必要になる。これまでに、西オーストラリア大学のSteve Wiltonらによって79個全てのエクソンに対してエクソンスキッピングを誘導するアンチセンス核酸が作製されており(非特許文献3)、オランダのAnnemieke Aartsma-Rusらによって39種類のエクソンに対してエクソンスキッピングを誘導するアンチセンス核酸が作られている(非特許文献4)。
【0008】
全DMD患者の10%程度は、第53番目のエクソン(以下、「エクソン53」という)をスキッピングすることで治療可能と考えられている。近年では、ジストロフィン遺伝子のエクソン53をエクソンスキッピングのターゲットとした研究について、複数の研究機関から報告がなされている(特許文献1~4;非特許文献5及び6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開公報 WO 2006/000057
【特許文献2】国際公開公報 WO 2004/048570
【特許文献3】米国特許公開公報 US 2010/0168212
【特許文献4】国際公開公報 WO 2010/048586
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Monaco A. P. et al., Genomics 1988; 2: p. 90-95
【非特許文献2】Matsuo M., Brain Dev 1996; 18: p. 167-172
【非特許文献3】Wilton S. D. et al., Molecular Therapy 2007: 15: p. 1288-96
【非特許文献4】Annemieke Aartsma-Rus et al., (2002) Neuromuscular Disorders 12: S71-S77
【非特許文献5】Linda J. Popplewell et al., (2010) Neuromuscular Disorders, vol. 20, no. 2, p. 102-10
【非特許文献6】Bladen C. L. et al., Human Mutation (2015) 36:395-402
【発明の概要】
【0011】
本発明は、非限定的に以下のとおりである。
<1>
ヒトジストロフィン遺伝子の第53番目のエクソンの5’末端から第36~56番目のヌクレオチドからなる配列に相補的な塩基配列からなるアンチセンスオリゴマーもしくはその医薬的に許容可能な塩又はその水和物を含有する、ヒト患者のデュシェンヌ型筋ジストロフィーを治療するための医薬組成物であって、
前記治療は、アンチセンスオリゴマーもしくはその医薬的に許容可能な塩又はその水和物が40mg/kg~80mg/kgで前記ヒト患者に週1回静脈内投与することを含む、前記医薬組成物。
<2>
前記アンチセンスオリゴマーもしくはその医薬的に許容可能な塩又はその水和物が、40mg/kgで前記ヒト患者に週1回静脈内投与される、前記<1>に記載の医薬組成物。
<3>
前記アンチセンスオリゴマーもしくはその医薬的に許容可能な塩又はその水和物が、80mg/kgで前記ヒト患者に週1回静脈内投与される、前記<1>に記載の医薬組成物。
<4>
前記ヒト患者が、ジストロフィン遺伝子にエクソン43-52、45-52、47-52、48-52、49-52、50-52または52からなる群より選択されるいずれかのエクソンが欠損した変異を有する、前記<1>に記載の医薬組成物。
<5>
前記ヒト患者における治療前のジストロフィンタンパク質の発現が、ウェスタンブロッティングまたは質量分析による測定で健常人の1%以下である、前記<1>に記載の医薬組成物
<6>
前記ヒト患者において、治療前にジストロフィンタンパク質の発現がみられない、前記<5>に記載の医薬組成物。
<7>
前記アンチセンスオリゴマーの塩基部分の配列が、配列番号3に示す配列からなる、前記<1>に記載の医薬組成物。
<8>
前記アンチセンスオリゴマーもしくはその医薬的に許容可能な塩又はその水和物が、Viltolarsen又はその同等品である、前記<1>に記載の医薬組成物。
<9>
前記アンチセンスオリゴマーもしくはその医薬的に許容可能な塩又はその水和物を2.5~500mg/mlまたは10~100mg/mlの濃度で含む、前記<1>に記載の医薬組成物。
<10>
前記アンチセンスオリゴマーもしくはその医薬的に許容可能な塩又はその水和物を25mg/mlの濃度で含む、前記<1>に記載の医薬組成物。
<11>
前記アンチセンスオリゴマーもしくはその医薬的に許容可能な塩又はその水和物を50mg/mlの濃度で含む、前記<1>に記載の医薬組成物。
<12>
等張化剤、pH調整剤及び溶媒からなる群より選択される少なくとも1つの成分をさらに含む、前記<1>に記載の医薬組成物。
<13>
前記等張化剤が塩化ナトリウム、塩化カリウム、グルコース、フルクトース、マルトース、スクロース、ラクトース、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、トレハロース及びグリセリンからなる群より選択される少なくとも1つである、前記<12>に記載の医薬組成物。
<14>
前記pH調整剤が塩酸、水酸化ナトリウム、クエン酸、乳酸、リン酸塩(リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム)及びモノエタノールアミンからなる群より選択される少なくとも1つである、前記<12>または<13>に記載の医薬組成物。
<15>
前記溶媒が水である、前記<12>~<14>のいずれかに記載の医薬組成物。
<16>
2.5~500mg/mlまたは10~100mg/mlの濃度のアンチセンスオリゴマー、8~10mg/mlの濃度の塩化ナトリウムを含み、かつpHが7.2~7.4の水溶液である、前記<1>に記載の医薬組成物。
<17>
前記治療により、以下の(1)~(6)からなる群より選択される少なくとも1つの効果が生じる、前記<1>に記載の医薬組成物:
(1)患者の骨格筋におけるジストロフィンタンパク質発現量の平均値が、ベースラインと比較して、24週間の投与後に9倍以上に増加すること;
(2)立ち上がり時間(TTSTAND)から得られる速度の変化が、ベースラインと比較して、24週間の投与後25週時に-0.055回/秒以上であること;
(3)10メートル走行/歩行時間(TTRW)から得られる速度の変化が、ベースラインと比較して、24週間の投与後25週時に-0.025メートル/秒以上であること;
(4)4段階段昇り時間(TTCLIMB)から得られる速度の変化が、ベースラインと比較して、24週間の投与後25週時に-0.060回/秒以上であること;
(5)ノース・スター歩行能力評価(NSAA)のスコアの変化が、ベースラインと比較して、24週間の投与後25週時に-2.2スコア以上であること;及び
(6)6分間歩行試験(6MWT)の変化が、ベースラインと比較して、24週間の投与後25週時に-7.5メートル以上であること。
<18>
7~9歳のデュシェンヌ型筋ジストロフィーのヒト患者に前記治療を84週間行った場合に、以下の(1)~(6)からなる群より選択される少なくとも一つの効果が生じる、前記<1>に記載の医薬組成物:
(1)治療開始から第85週までに、立ち上がり能力を喪失する患者が20%未満であること;
(2)治療開始から第85週までに、4段階段昇りが出来なくなる患者が10%未満であること;
(3)治療開始から第85週までに、自立歩行能力を喪失する患者が10%未満であること;
(4)治療開始から第85週までに、10メートル走行/歩行の速度に加齢による減少がみられないこと;
(5)治療開始から第85週までに、4段階段昇りの速度に加齢による減少がみられないこと;
及び
(6)治療開始から第85週までに、立ち上がりの速度に加齢による減少がみられないこと。
<19>
10~12歳のデュシェンヌ型筋ジストロフィーのヒト患者に前記治療を84週間行った場合に、以下の(1)~(6)からなる群より選択される少なくとも一つの効果が生じる、前記<1>に記載の医薬組成物:
(1)治療開始から第85週までに、立ち上がり能力を喪失する患者が60%未満であること;
(2)治療開始から第85週までに、4段階段昇りが出来なくなる患者が50%未満であること;
(3)治療開始から第85週までに、自立歩行能力を喪失する患者が50%未満であること;
及び
(4)治療開始から第85週までに、10メートル走行/歩行の速度に加齢による減少がみられないこと。
(5)治療開始から第85週までに、4段階段昇りの速度が増加する時期がみられること;
及び
(6)治療開始から第85週までに、立ち上がりの速度が増加する時期がみられること。
<20>
ヒトジストロフィン遺伝子の第53番目のエクソンの5’末端から第36~56番目のヌクレオチドからなる配列に相補的な塩基配列からなるアンチセンスオリゴマー又はその医薬的に許容可能な塩若しくは水和物を含有する医薬組成物を、
前記アンチセンスオリゴマーもしくはその医薬的に許容可能な塩又はその水和物を40mg/kg~80mg/kgでヒト患者に週1回静脈内投与することを含む、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療方法。
<20-1>
前記治療方法により、請求項17に記載の少なくとも1つの効果、請求項18に記載の少なくとも1つの効果または請求項19に記載の少なくとも1つの効果が生じる、前記<20>に記載の治療方法。
<21>
ヒト患者のデュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療方法に用いるためのヒトジストロフィン遺伝子の第53番目のエクソンの5’末端から第36~56番目のヌクレオチドからなる配列に相補的な塩基配列からなるアンチセンスオリゴマー又はその医薬的に許容可能な塩若しくは水和物であって、
前記アンチセンスオリゴマー又はその医薬的に許容可能な塩若しくは水和物が40mg/kg~80mg/kgで前記ヒト患者に週1回静脈内投与される、
前記アンチセンスオリゴマー又はその医薬的に許容可能な塩若しくは水和物。
<21-1>
前記投与により、請求項17に記載の少なくとも1つの効果、請求項18に記載の少なくとも1つの効果または請求項19に記載の少なくとも1つの効果が生じる、前記<21>に記載のアンチセンスオリゴマー又はその医薬的に許容可能な塩若しくは水和物。
<22>
ヒト患者のデュシェンヌ型筋ジストロフィーを治療するための医薬組成物の製造のためのヒトジストロフィン遺伝子の第53番目のエクソンの5’末端から第36~56番目のヌクレオチドからなる配列に相補的な塩基配列からなるアンチセンスオリゴマー又はその医薬的に許容可能な塩若しくは水和物の使用であって、
前記アンチセンスオリゴマー又はその医薬的に許容可能な塩若しくは水和物が40mg/kg~80mg/kgで前記ヒト患者に週1回静脈内投与される、
前記使用。
【0012】
また、別の態様として、本発明は、非限定的に以下のとおりである。
[1]:約40mg/kg/週の用量で被験者にNS-065/NCNP-01を静脈内投与する工程を含む、エクソン53スキッピングによる治療に適したデュシェンヌ型筋ジストロフィーを有する被験者を治療するための方法。
[2]:約80mg/kg/週の用量で被験者にNS-065/NCNP-01を静脈内投与する工程を含む、エクソン53スキッピングによる治療に適したデュシェンヌ型筋ジストロフィーを有する被験者を治療するための方法。
[3]:40mg/kg/週以上80mg/kg/週以下の用量で被験者にNS-065/NCNP-01を静脈内投与する工程を含む、エクソン53スキッピングによる治療に適したデュシェンヌ型筋ジストロフィーを有する被験者を治療するための方法。
[4]:投与されるものが、
2.5mg/mL以上500mg/mL以下の濃度のNS-065/NCNP-01;および
等張化剤として、8.55mg/mL以上9.45mg/mL以下の濃度の塩化ナトリウム
を含む水溶液であり、
当該水溶液が約7.3のpHを有する、[1]に記載の方法。
[5]:投与されるものが、
2.5mg/mL以上500mg/mL以下の濃度のNS-065/NCNP-01;および
等張化剤として、8.55mg/mL以上9.45mg/mL以下の濃度の塩化ナトリウム
を含む水溶液であり、
当該水溶液が約7.3のpHを有する、[2]に記載の方法。
[6]:投与されるものが、
2.5mg/mL以上500mg/mL以下の濃度のNS-065/NCNP-01;および
等張化剤として、8.55mg/mL以上9.45mg/mL以下の濃度の塩化ナトリウム
を含む水溶液であり、
当該水溶液が約7.3のpHを有する、[3]に記載の方法。
[7]:約40mg/kg/週の用量で被験者にNS-065/NCNP-01を静脈内投与する工程を含む、エクソン53スキッピングによる治療に適したデュシェンヌ型筋ジストロフィーを有する被験者において、ジストロフィンタンパク質産生を誘導するための方法。
[8]:約80mg/kg/週の用量で被験者にNS-065/NCNP-01を静脈内投与する工程を含む、エクソン53スキッピングによる治療に適したデュシェンヌ型筋ジストロフィーを有する被験者において、ジストロフィンタンパク質産生を誘導するための方法。
[9]:40mg/kg/週以上80mg/kg/週以下の用量で被験者にNS-065/NCNP-01を静脈内投与する工程を含む、エクソン53スキッピングによる治療に適したデュシェンヌ型筋ジストロフィーを有する被験者において、ジストロフィンタンパク質産生を誘導するための方法。
[10]:投与されるものが、
2.5mg/mL以上500mg/mL以下の濃度のNS-065/NCNP-01;および
等張化剤として、8.55mg/mL以上9.45mg/mL以下の濃度の塩化ナトリウム
を含む水溶液であり、
当該水溶液が約7.3のpHを有する、[7]に記載の方法。
[11]:投与されるものが、
2.5mg/mL以上500mg/mL以下の濃度のNS-065/NCNP-01;および
等張化剤として、8.55mg/mL以上9.45mg/mL以下の濃度の塩化ナトリウム
を含む水溶液であり、
当該水溶液が約7.3のpHを有する、[8]に記載の方法。
[12]:投与されるものが、
2.5mg/mL以上500mg/mL以下の濃度のNS-065/NCNP-01;および
等張化剤として、8.55mg/mL以上9.45mg/mL以下の濃度の塩化ナトリウム
を含む水溶液であり、
当該水溶液が約7.3のpHを有する、[9]に記載の方法。
上記[1]~[12]において、NS-065/NCNP-01(本明細書において、「Viltolarsen」ともいう)は、その同等品であってもよい。また、上記[1]~[12]において、被験者はヒト患者であってもよい。
【0013】
本発明により、Viltolarsenの安定な組成を有する、デュシェンヌ型筋ジストロフィー治療用の医薬組成物が提供される。また、Viltolarsenを含む医薬組成物に関し、効果的なデュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療効果を奏しかつヒト患者に安全な範囲のViltolarsenの用法・用量が提供される。当該医薬組成物により、低い副作用でデュシェンヌ型筋ジストロフィーの症状を効果的に軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】米国第2相用量設定試験NS-065/NCNP-01-201のデザインを示す。
図2】ウェスタンブロット法を用いた骨格筋におけるde novoジストロフィンタンパク質発現量の測定の結果を示す。
図3】米国/カナダ第2相用量設定試験NS-065/NCNP-01-201のデザインを示す。
図4】24週間にわたる時間機能検査におけるベースラインからの変化の比較を示す。5つのグラフにおいて、「Viltolarsen」は、NS-065/NCNP-01の国際一般名(INN)である。
図5】Viltolarsenのブリットン-ロビンソン緩衝液(pH 3~11)中の安定性評価の結果を示す。
図6】Viltolarsenのリン酸カリウム-ホウ砂緩衝液(pH 6~9)中における安定性評価の結果を示す。
図7】121℃におけるpH調整剤の検討の結果を示す。
図8】各運動機能試験結果のベースラインからの変化を表すグラフである。
図9】85週時(初回投与から84週経過)までのViltolarsen投与群(40 mg/kg投与群と80 mg/kg投与群)各被験患者における、6分間歩行試験の結果を表すグラフである。
図10】85週時(初回投与から84週経過)までのViltolarsen投与群(40 mg/kg投与群と80 mg/kg投与群)の各被験患者における、ノース・スター歩行能力テストのスコアを表すグラフである。
図11】85週時(初回投与から84週経過)までのViltolarsen投与群(40 mg/kg投与群と80 mg/kg投与群)の各被験患者における、立ち上がり時間試験の速度の結果を表すグラフである。
図12】85週時(初回投与から84週経過)までのViltolarsen投与群(40 mg/kg投与群と80 mg/kg投与群)の各被験患者における、4段階段昇り時間試験の速度の結果を表すグラフである。
図13】85週時(初回投与から84週経過)までのViltolarsen投与群(40 mg/kg投与群と80 mg/kg投与群)の各被験患者における、10m歩行/走行時間試験の速度の結果を表すグラフである。
図14】49週時(初回投与から48週経過)のViltolarsen投与群(40 mg/kg投与群と80 mg/kg投与群)の各被験患者における、WBによるジストロフィン定量値のベースラインからのジストロフィン発現量の変化と立ち上がり時間試験のベースラインからの速度変化の相関を表すグラフである。
図15】49週時(初回投与から48週経過)のViltolarsen投与群(40 mg/kg投与群と80 mg/kg投与群)の各被験患者における、WBによるジストロフィン定量値のベースラインからのジストロフィン発現量の変化と4段階段昇り時間試験のベースラインからの速度変化の相関を表すグラフである。
図16】49週時(初回投与から48週経過)のViltolarsen投与群(40 mg/kg投与群と80 mg/kg投与群)の各被験患者における、WBによるジストロフィン定量値のベースラインからのジストロフィン発現量の変化と10m歩行/走行時間試験のベースラインからの速度変化の相関を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施の形態のみに限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、様々な形態で実施をすることができる。
なお、本明細書において引用した全ての文献、および公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込むものとする。また、本明細書は、2018年6月26日に出願された本願優先権主張の基礎となる米国仮特許出願(US62/690,270)及び2018年10月1日に出願された本願優先権主張の基礎となる米国仮特許出願(US62/739,386)の明細書及び図面に記載の内容を包含する。
【0016】
I.第一の形態
本発明は、第一の形態として、デュシェンヌ型筋ジストロフィーを治療するための医薬組成物を提供する。すなわち、本発明の医薬組成物は、ヒトジストロフィン遺伝子の第53番目のエクソンの5’末端から第36~56番目のヌクレオチドからなる配列に相補的な塩基配列からなるアンチセンスオリゴマー(以下、「本発明のオリゴマー」ともいう)もしくはその医薬的に許容可能な塩又はその水和物を含有する、ヒト患者のデュシェンヌ型筋ジストロフィーを治療するための医薬組成物であって、
前記治療はアンチセンスオリゴマーもしくはその医薬的に許容可能な塩又はその水和物が40mg/kg~80mg/kgで前記ヒト患者に週1回静脈内投与することを含む、前記医薬組成物を提供する。
【0017】
[ヒトジストロフィン遺伝子の第53番目のエクソン]
本発明において、「遺伝子」には、ゲノム遺伝子以外に、cDNA、mRNA前駆体及びmRNAも含まれる。好ましくは、遺伝子は、mRNA前駆体、即ち、pre-mRNAである。
ヒトゲノムにおいて、ヒトジストロフィン遺伝子は遺伝子座Xp21.2に存在する。ヒトジストロフィン遺伝子は、3.0 Mbpのサイズを有しており、既知のヒト遺伝子としては最大の遺伝子である。但し、ヒトジストロフィン遺伝子のコード領域はわずか14kbに過ぎず、該コード領域は79個のエクソンとしてジストロフィン遺伝子内に分散している(Roberts, RG., et al., Genomics, 16: 536-538 (1993))。ヒトジストロフィン遺伝子の転写物であるpre-mRNAは、スプライシングを受けて14kbの成熟mRNAを生成する。ヒトの野生型ジストロフィン遺伝子の成熟mRNAの塩基配列は公知である(GenBank Accession No. NM_004006)。
ヒトの野生型ジストロフィン遺伝子のエクソン53の塩基配列を配列番号1に示す。
【0018】
本発明の医薬組成物は、ヒトジストロフィン遺伝子の第53番目のエクソンの5’末端から第36~56番目のヌクレオチドからなる配列に相補的な塩基配列からなるアンチセンスオリゴマー(本発明のオリゴマー)もしくはその医薬的に許容可能な塩又はその水和物を含有する。
ここで、本発明のオリゴマーは、ヒトジストロフィン遺伝子のエクソン53のスキッピングにより、DMD型ジストロフィン遺伝子でコードされるタンパク質を、BMD型ジストロフィンタンパク質に改変することを目的として作製されたものである。したがって、本発明のオリゴマーのエクソンスキッピングの対象となるジストロフィン遺伝子のエクソン53には、野生型だけではなく、変異型も含まれる。
【0019】
変異型のヒトジストロフィン遺伝子のエクソン53は、具体的には、配列番号1の塩基配列に対して、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上、又は99.9%以上の同一性を有するポリヌクレオチドをあげることができる。本明細書中、「ポリヌクレオチド」とは、DNA又はRNAを意味する。
【0020】
なお、塩基配列の同一性は、カーリン及びアルチュールによるアルゴリズムBLAST (Basic Local Alignment Search Tool)(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 872264-2268, 1990; Proc Natl Acad Sci USA 90: 5873, 1993)を用いて決定できる。BLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul SF, et al: J Mol Biol 215: 403, 1990)。BLASTNを用いて塩基配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore = 100、wordlength = 12とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合は、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。
【0021】
本明細書中、「相補的な塩基配列」とは、対象となる塩基配列とワトソン・クリック対を形成する塩基配列に限定されるものではなく、揺らぎ塩基対(Wobble base pair)を形成する塩基配列も含む。ここで、ワトソン・クリック対とは、アデニン-チミン、アデニン-ウラシル及びグアニン-シトシン間に水素結合が形成される塩基対を意味し、揺らぎ塩基対とは、グアニン-ウラシル、イノシン-ウラシル、イノシン-アデニン及びイノシン-シトシン間に水素結合が形成される塩基対を意味する。また、「相補的な塩基配列」とは、対象となる塩基配列と100%の相補性を有していなくてもよく、例えば、対象となる塩基配列に対して、1個、2個、3個、4個又は5個の非相補的塩基が含まれていてもよく、また、対象となる塩基配列に対して、1塩基、2塩基、3塩基、4塩基又は5塩基短い塩基配列であってもよい。
【0022】
エクソン53の5’末端から第36~56番目のヌクレオチドからなる配列(配列番号2)及び同配列に相補的な塩基配列(配列番号3)の例を以下の表1に示す。
【0023】
【表1】
【0024】
ここでチミン「T」とウラシル「U」は相互に交換可能であり、「T」であっても「U」であっても本発明のオリゴマーのエクソンスキッピング活性に本質的に影響は生じないので、本願では配列番号に示される塩基配列の「T」が「U」であっても同一の配列番号で示すこととする。したがって、本願に開示される配列は、必然的に「T」の配列及び「U」の配列の両者を含む。
【0025】
したがって、本発明のオリゴマーは、その塩基部分の配列が配列番号3に示す配列からなるものであってもよい。また、本発明のオリゴマーは、ヒトジストロフィン遺伝子のエクソン53のスキッピングを可能にする限り、ターゲット配列に対して100%相補的な塩基配列を有していなくてもよい。例えば、本発明のオリゴマーには、ターゲット配列である配列番号2に対して、1個、2個、3個、4個又は5個の非相補的塩基が含まれていてもよく、また、対象となる塩基配列に対して、1塩基、2塩基、3塩基、4塩基又は5塩基短い塩基配列であってもよい。
【0026】
ヒトジストロフィン遺伝子のエクソン53のスキッピングが生じたか否かは、ジストロフィン発現細胞(例えば、ヒト横紋筋肉腫細胞)に本発明のオリゴマーを導入し、前記ジストロフィン発現細胞のtotal RNAから、ヒトジストロフィン遺伝子のmRNAのエクソン53の周辺領域をRT-PCR増幅し、該PCR増幅産物に対してnested PCR又はシークエンス解析を行うことにより確認することができる。あるいは、本発明のオリゴマーを投与された患者由来のサンプルにおいて、RT-PCR、ウェスタンブロット、質量分析などの手法により、エクソン53の量を測定することによっても、スキッピングが生じたか否かを確認することができる。
スキッピング効率は、ヒトジストロフィン遺伝子のmRNAを被検細胞から回収し、該mRNAのうち、エクソン53がスキップしたバンドのポリヌクレオチド量「A」と、エクソン53がスキップしなかったバンドのポリヌクレオチド量「B」を測定し、これら「A」及び「B」の測定値に基づき、以下の式に従って計算することができる。

スキッピング効率(%)= A /( A + B )× 100
【0027】
本発明のオリゴマーとしては、オリゴヌクレオチド、モルホリノオリゴマー、又はペプチド核酸(Peptide Nucleic Acid:PNA)オリゴマーが挙げられる。本発明のオリゴマーは、モルホリノオリゴマーが好ましい。
【0028】
前記オリゴヌクレオチド(以下、「本発明のオリゴヌクレオチド」という)は、ヌクレオチドを構成単位とする本発明のオリゴマーであり、かかるヌクレオチドは、リボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチド又は修飾ヌクレオチドのいずれであってもよい。
修飾ヌクレオチドとは、リボヌクレオチド又はデオキシリボヌクレオチドを構成する核酸塩基、糖部分、及びリン酸結合部分の全部又は一部が修飾されているものをいう。
【0029】
核酸塩基としては、例えば、アデニン、グアニン、ヒポキサンチン、シトシン、チミン、ウラシル又はそれらの修飾塩基を挙げることができる。かかる修飾塩基としては、例えば、シュードウラシル、3-メチルウラシル,ジヒドロウラシル、5-アルキルシトシン(例えば、5-メチルシトシン)、5-アルキルウラシル(例えば、5-エチルウラシル)、5-ハロウラシル(5-ブロモウラシル)、6-アザピリミジン、6-アルキルピリミジン(6-メチルウラシル)、2-チオウラシル、4-チオウラシル、4-アセチルシトシン、5-(カルボキシヒドロキシメチル) ウラシル、5'-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオウラシル、5-カルボキシメチルアミノメチルウラシル、1-メチルアデニン、1-メチルヒポキサンチン、2,2-ジメチルグアニン、3-メチルシトシン、2-メチルアデニン、2-メチルグアニン、N6-メチルアデニン、7-メチルグアニン、5-メトキシアミノメチル-2-チオウラシル、5-メチルアミノメチルウラシル、5-メチルカルボニルメチルウラシル、5-メチルオキシウラシル、5-メチル-2-チオウラシル、2-メチルチオ-N6-イソペンテニルアデニン、ウラシル-5-オキシ酢酸、2-チオシトシン、プリン、2,6-ジアミノプリン、2-アミノプリン、イソグアニン、インドール、イミダゾール、キサンチン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0030】
糖部分の修飾としては、例えば、リボースの2’位の修飾及び糖のその他の部分の修飾を挙げることができる。リボースの2’位の修飾としては、例えば、リボースの2’位の-OH基をOR、R、R’OR、SH、SR、NH2、NHR、NR2、N3、CN、F、Cl、Br、Iに置換する修飾を挙げることができる。ここで、Rはアルキル又はアリールを表す。R’はアルキレンを表す。
糖のその他の部分の修飾としては、例えば、リボース又はデオキシリボースの4’位のOをSに置換したもの、糖の 2' 位と 4' 位を架橋したもの、例えば、LNA(Locked Nucleic Acid)又はENA(2'-O,4'-C-Ethylene-bridged Nucleic Acids)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0031】
リン酸結合部分の修飾としては、例えば、ホスホジエステル結合をホスホロチオエート結合、ホスホロジチオエート結合、アルキルホスホネート結合、ホスホロアミデート結合、ボラノフォスフェート結合(Enya et al: Bioorganic & Medicinal Chemistry ,2008, 18, 9154-9160 )に置換する修飾を挙げることができる(例えば、特許再公表公報第2006/129594号及び第2006/038608号を参照)。
【0032】
アルキルとしては、直鎖状または分枝鎖状の炭素数1~6のアルキルが好ましい。具体的には、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert-ペンチル、n-ヘキシル、イソヘキシルが挙げられる。当該アルキルは置換されていてもよく、かかる置換基としては、例えば、ハロゲン、アルコキシ、シアノ、ニトロを挙げることができ、これらが1~3個置換されていてもよい。
【0033】
シクロアルキルとしては、炭素数5~12のシクロアルキルが好ましい。具体的には、例えば、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロデシル、シクロドデシルが挙げられる。
【0034】
ハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素を挙げることができる。
【0035】
アルコキシとしては、直鎖状または分枝鎖状の炭素数1~6のアルコキシ、例えば、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、イソプロポキシ、n-ブトキシ、イソブトキシ、sec-ブトキシ、tert-ブトキシ、n-ペンチルオキシ、イソペンチルオキシ、n-ヘキシルオキシ、イソヘキシルオキシ等を挙げることができる。とりわけ、炭素数1~3のアルコキシが好ましい。
【0036】
アリールとしては、炭素数6~10のアリールが好ましい。具体的には、例えば、フェニル、α-ナフチル、β-ナフチルを挙げることができる。とりわけフェニルが好ましい。当該アリールは置換されていてもよく、かかる置換基としては、例えば、アルキル、ハロゲン、アルコキシ、シアノ、ニトロを挙げることができ、これらが1~3個置換されていてもよい。
【0037】
アルキレンとしては、直鎖状または分枝鎖状の炭素数1~6のアルキレンが好ましい。具体的には、例えば、メチレン、エチレン、トリメチレン、テトラメチレン、ペンタメチレン、ヘキサメチレン、2-(エチル)トリメチレン、1-(メチル)テトラメチレンを挙げることができる。
【0038】
アシルとしては、直鎖状若しくは分枝鎖状のアルカノイル、又はアロイルを挙げることができる。アルカノイルとしては、例えば、ホルミル、アセチル、2-メチルアセチル、2,2-ジメチルアセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、ペンタノイル、2,2-ジメチルプロピオニル、ヘキサノイル等が挙げられる。アロイルとしては、例えば、ベンゾイル、トルオイル、ナフトイルを挙げることができる。かかるアロイルは置換可能な位置において置換されていてもよく、アルキルで置換されていてもよい。
【0039】
本発明のオリゴマーがオリゴヌクレオチドである態様において、同オリゴヌクレオチドは、好ましくは、リボースの2’位の-OH基がメトキシで置換され、リン酸結合部分がホスホロチオエート結合である、下記一般式で表される基を構成単位とするものであってもよい。
【化1】

(式中、Baseは、核酸塩基を表す。)
【0040】
このようなオリゴヌクレオチドは、各種自動合成装置(例えば、AKTA oligopilot plus 10 / 100(GE Healthcare))を用いて容易に合成することが可能であり、あるいは、第三者機関(例えば、Promega社又はTakara社)等に委託して作製することもできる。
【0041】
本発明のオリゴマーがモルホリノオリゴマーである場合、同モルホリノオリゴマーは下記一般式で表される基を構成単位とするものであってもよい。
【化2】

(式中、Baseは、前記と同義であり;
Wは、以下のいずれかの式で表わされる基を表す。
【化3】

(式中、Xは、-CH2R1、-O-CH2R1、-S-CH2R1、-NR2R3又はFを表し;
R1は、H、アルキルを表し;
R2及びR3は、同一又は異なって、H、アルキル、シクロアルキル、又は、アリールを表し;
Y1は、0、S、CH2又はNR1を表し;
Y2は、0、S又はNR1を表し;
Zは、0又はSを表す。))
【0042】
モルホリノオリゴマーは、好ましくは、以下の式で表わされる基を構成単位とするオリゴマー(ホスホロジアミデートモルホリノオリゴマー(以下、「PMO」という))である。
【化4】

(式中、Base、R2、R3は、前記と同義である。)
【0043】
モルホリノオリゴマーは、例えば、国際公開公報第1991/009033号、又は国際公開公報第2009/064471号に従って製造することができる。特に、PMOは、国際公開公報第2009/064471号に記載の方法に従って製造するか、又は以下に示す方法に従って製造することができる。
【0044】
PMOの1つの態様として、例えば、次の一般式(I)で表される化合物(以下、PMO(I)という)を挙げることができる。
【化5】

[式中、各Base、R2、R3は、前記と同義であり;
nは、1~99の範囲内にある任意の整数であり、好ましくは、18~28の範囲内にある任意の整数である。]
【0045】
PMO(I)は、公知の方法に従い製造することができ、使用される化合物及び試薬は、PMOの製造に一般的に使用されているものであれば特に限定されない。また、製造は、液相法又は固相法(マニュアル又は市販の固相自動合成機を用いる)で実施することができる。固相法でPMOを製造する場合、操作手順の簡便化及び合成の正確性の点から自動合成機を用いる方法が望ましい。
【0046】
ペプチド核酸は、下記一般式で表される基を構成単位とする本発明のオリゴマーである。
【化6】

[式中、Baseは、前記と同義である。]
【0047】
ペプチド核酸は、例えば、以下の文献に従って製造することができる。
1)P. E. Nielsen, M. Egholm, R. H. Berg, O. Buchardt,Science, 254, 1497 (1991)
2)M. Egholm, O. Buchardt, P. E. Nielsen, R. H. Berg,Jacs., 114, 1895 (1992)
3)K. L. Dueholm, M. Egholm, C. Behrens, L. Christensen, H. F. Hansen, T. Vulpius, K. H. Petersen, R. H. Berg, P. E. Nielsen, O. Buchardt,J. Org. Chem., 59, 5767 (1994)
4)L. Christensen, R. Fitzpatrick, B. Gildea, K. H. Petersen, H. F. Hansen, T. Koch, M. Egholm,O. Buchardt, P. E. Nielsen, J. Coull, R. H. Berg, J. Pept. Sci., 1, 175 (1995)
5)T. Koch, H. F. Hansen, P. Andersen, T. Larsen, H. G. Batz, K. Otteson, H. Orum, J. Pept. Res., 49, 80 (1997)
【0048】
また、本発明のオリゴマーは、5’末端が、下記化学式(1)~(3)のいずれかの基であってもよい。好ましくは(3)-OHである。
【化7】

以下、上記(1)、(2)及び(3)で示される基を、それぞれ「基(1)」、「基(2)」及び「基(3)」と呼ぶ。
【0049】
本発明のオリゴマーの医薬的に許容可能な塩の例としては、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩のようなアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩のようなアルカリ土類金属塩;アルミニウム塩、鉄塩、亜鉛塩、銅塩、ニッケル塩、コバルト塩などの金属塩;アンモニウム塩;t-オクチルアミン塩、ジベンジルアミン塩、モルホリン塩、グルコサミン塩、フェニルグリシンアルキルエステル塩、エチレンジアミン塩、N-メチルグルカミン塩、グアニジン塩、ジエチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、N,N'-ジベンジルエチレンジアミン塩、クロロプロカイン塩、プロカイン塩、ジエタノールアミン塩、N-ベンジル-フェネチルアミン塩、ピペラジン塩、テトラメチルアンモニウム塩、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩のような有機アミン塩;弗化水素酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、沃化水素酸塩のようなハロゲン化水素酸塩;硝酸塩、過塩素酸塩、硫酸塩、リン酸塩などの無機酸塩;メタンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩のような低級アルカンスルホン酸塩;ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩のようなアリールスルホン酸塩;酢酸塩、リンゴ酸塩、フマール酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、シュウ酸塩、マレイン酸塩などの有機酸塩;グリシン塩、リジン塩、アルギニン塩、オルニチン塩、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩のようなアミノ酸塩などが挙げられる。これらの塩は、公知の方法で製造することができる。あるいは、本発明のオリゴマーは、その水和物の形態にあってもよい。
【0050】
別の態様では、本発明のオリゴマーは、Viltolarsen又はその同等品であってもよい。
Viltolarsenとは、NS-065/NCNP-01の国際一般名(INN)である。本明細書において、NS-065/NCNP-01は、NS-065/NCNP-01、NS-065/NCNP-01(Viltolarsen)またはViltolarsenとも称される。
【0051】
NS-065/NCNP-01(Viltolarsen)は、エクソン53スキッピングによる治療に適したデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)患者の治療のためのアンチセンスオリゴヌクレオチド原薬である。NS-065/NCNP-01(Viltolarsen)は米国特許第9,079,934B2号において「PMO No.8」として開示されている化合物であり、塩基部分の配列が配列番号35(5’-CCTCCGGTTC TGAAGGTGTTC-3’、本明細書における配列番号3)によって表され、-OHの5’末端を有する。本明細書には、米国特許第9,079,934B2号はその内容の全体が参照により組み込まれる。米国特許第9,079,934B2号はまた、PMO No.8、すなわち、NS-065/NCNP-01(Viltolarsen)を合成する方法を開示する。
【0052】
NS-065/NCNP-01(Viltolarsen)は、ホスホロチオエートオリゴヌクレオチドよりも高い安全性を提供すると予想されるモルホリノ骨格を有する。例えば、ホスホロチオエートオリゴヌクレオチドであるdrisapersen(BioMarinによる)の開発は安全上の懸念のために中断されているが、モルホリノオリゴヌクレオチドであるeteplirsen(SareptaによるExondys51(登録商標))はFDAによって承認されている。drisapersenおよびeteplirsenの両者は、エクソン51スキッピングによる治療に適したDMD患者のためのものである。Eteplirsenは米国特許第9,506,058B2号に開示され、その内容の全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0053】
米国特許第9,079,934B2号に開示されているように、NS-065/NCNP-01(Viltolarsen)はエクソン43-52、45-52、47-52、48-52、49-52、50-52または52を含む、特異的なエクソンが欠損しているDMD患者において機能性ジストロフィンタンパク質を生成するために、特異的にエクソン53スキッピング活性を示すように設計された。特定のエクソンをスキップすることによって理論的に治療可能なDMDを引き起こす突然変異の例は、Aartsma-Rusら、2002の表3に示されている。Aartsma-Rusらの文献の内容は、その全体が参照により組み込まれる(Annemieke Aartsma-Rus, Mattie Bremmer-Bout, Anneke A.M.Janson, Johan T.den Dunnen, Gert-Jan B.van Ommen, and Judith C.T.van Deutekom, "Targeted exon skipping as a potential gene correction therapy for Duchenne muscular dystrophy," Neuromuscular Disorders, Vol.12, pp.S71-S77(2002))。
【0054】
Viltolarsenの「同等品」とは、Viltolarsenの後発医薬品又はその有効成分となる化合物である。このような同等品は、Viltolarsenの臨床試験で確認された安全性及び有効性に基づいて、同等品自体については臨床試験を経ることなく薬事法上の製造販売承認を受けており、Viltolarsenと類似するエクソン53スキッピング活性を有することが期待される。ある態様では、Viltolarsenの「同等品」は、Viltolarsenと同一の塩基配列を有し、その核酸塩基、糖部分、及びリン酸結合部分の全部又は一部がViltolarsenと同一に修飾されている、または異なって修飾されているものを含む。これらの修飾の態様は、上記した態様と同様である。また、Viltolarsenの「同等品」は、フリー体、医薬的に許容可能な塩または水和物の形態であってもよい。
【0055】
2.医薬品組成物
本発明の医薬組成物は、水溶液の形態にあってもよい。本発明の医薬組成物は、本発明のオリゴマーもしくはその医薬的に許容可能な塩又はその水和物を、2.5~500mg/ml、5~450mg/ml、10~400mg/ml、15~350mg/ml、20~300mg/ml、20~250mg/ml、20~200mg/ml、20~150mg/ml、20~100mg/ml、20~50mg/ml、20~40mg/ml、20~30mg/ml、23~27mg/ml、24~26mg/ml又は25mg/mlの濃度で含んでいてもよい。または、本発明の医薬組成物は、本発明のオリゴマーもしくはその医薬的に許容可能な塩又はその水和物を、10~100mg/ml、15~95mg/ml、20~80mg/ml、25~75mg/ml、30~70mg/ml、35~65mg/ml、40~60mg/ml、45~55mg/ml、47~53mg/ml、48~52mg/ml、49~51mg/ml、又は50mg/mlの濃度で含んでいてもよい。
【0056】
本発明の医薬組成物において、水溶液中のViltolarsenの濃度は変更されてもよい。Viltolarsenの水溶液を調製するために、例えば、250mgのViltolarsenを、0.5mL~100mLの水に混合(2.5mg/mL~500mg/mLのViltolarsen濃度に相当する)、より好ましくは1mL~50mLの水に混合(5mg/mL~250mg/mLのViltolarsen濃度に相当する)、最も好ましくは5mL~10mLの水に混合(25mg/mL~50mg/mLのNViltolarsen濃度に相当する)してもよい。
【0057】
本発明の医薬組成物の投与形態は、静脈内投与である。本発明の医薬組成物の取り得る剤形としては、例えば注射液(点滴液を含む)である。
【0058】
本発明の医薬組成物は、等張化剤、pH調整剤及び溶媒から選択される少なくとも1つの成分をさらに含んでいてもよい。
【0059】
本発明の医薬組成物に含まれる等張化剤は塩化ナトリウム、塩化カリウム、グルコース、フルクトース、マルトース、スクロース、ラクトース、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、トレハロース、グリセリンから選択される少なくとも1つであってもよい。
【0060】
Viltolarsenを250mg含む注射に適した10mLの水溶液は、等張化剤として、72.0mg以上108.0mg以下の塩化ナトリウム(塩化ナトリウム濃度7.2mg/mL~10.8mg/mLに相当)、より好ましくは81.0mg以上99.0mg以下の塩化ナトリウム(塩化ナトリウム濃度8.1mg/mL~9.9mg/mLに相当)、最も好ましくは85.5mg以上94.5mg以下の塩化ナトリウム(塩化ナトリウム濃度8.55mg/mL~9.45mg/mLに相当)を含んでいてもよい。
【0061】
等張化剤としては、リン酸バッファーを用いてもよい。このようなリン酸バッファーとしては、クエン酸バッファー、乳酸バッファー、酢酸バッファーなどが挙げられる。また、等張化剤として、糖類(グルコース以外)を用いてもよい。このような糖の例としては、ソルビトールおよびマンニトールが挙げられる。Viltolarsenを含有する組成物を調製する際に、複数の等張化剤を同様に使用してもよい。
【0062】
本発明の医薬組成物に含まれるpH調整剤は、塩酸、硫酸、リン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエタノールアミン、クエン酸、乳酸、リン酸塩(リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム)、モノエタノールアミンから選択される少なくとも1つであってもよい。
【0063】
本発明のオリゴマー、例えばViltolarsenについてリン酸緩衝剤を用いる場合、リン酸緩衝剤の濃度は100mM未満であることが好ましい。したがって、本発明の医薬組成物はリン酸緩衝剤の濃度が90mM以下、80mM以下、70mM以下、60mM以下、50mM以下、40mM以下、30mM以下、20mM以下、10mM以下又は5mM以下に調整されているか、あるいはリン酸緩衝液を含まないものであってもよい。
【0064】
本発明の医薬組成物に含まれる溶媒は水であってもよい。
【0065】
Viltolarsenを含む注射に適した水溶液のpHは、6.0以上8.5以下、より好ましくは6.5以上8.0以下、最も好ましくは7.0以上7.5以下であってもよい。
本発明のオリゴマーは、広範囲のpHにおいて安定性を示すが、本発明の医薬組成物は、pHが7.0~7.5、7.0~7.4、7.1~7.5、7.1~7.4、7.2~7.5、7.2~7.4、7.3~7.5、7.3~7.4又は7.3に調整されていることが好ましい。
【0066】
また、本発明の医薬組成物は、2.5~500mg/mlまたは10~100mg/mlの濃度の本発明のオリゴマー、8~10mg/mlの濃度の塩化ナトリウムを含み、かつpHが7.2~7.4の水溶液であってもよい。
あるいは、本発明の医薬組成物は、25mg/mlの濃度の本発明のオリゴマーを含み、かつpHが7.3に調整され、緩衝剤を含まない水溶液であってもよい。この医薬組成物において、pHの調整は塩酸及び/又は水酸化ナトリウムを用いて行われる。
【0067】
本発明の医薬組成物の例として、米国/カナダ第2相臨床プログラムにおいて使用した250mgのViltolarsenを含有する注射用の組成物を以下の表2に示す。表2に示す医薬組成物を、以下では「NS-065/NCNP-01(Viltolarsen)注射液250mg」と称する。
【0068】
【表2】
【0069】
なお、「NS-065/NCNP-01(Viltolarsen)注射液250mg」の組成において、注射用水及び等張化剤の塩化ナトリウムの値を約半量にし、総量を5mLとしてもよい。このような組成に係るViltolarsenを50mg/mLの濃度で含む医薬組成物も、本発明に含まれる。
【0070】
Viltolarsenを含有する水溶液の体積は、NS-065/NCNP-01および使用される等張化剤の濃度、ならびにViltolarsenと使用される等張化剤との間の重量比が上記の説明と同等に維持される限り、増減されてもよい。
【0071】
Viltolarsenを含む組成物はまた、筋肉組織へのViltolarsenの送達を促進するための担体を含んでいてもよい。このような担体としては、医薬的に許容可能なものであれば特に限定されず、例えば、カチオン性担体(例えば、カチオン性リポソームおよびカチオン性ポリマー)およびウイルスエンベロープを用いた担体が挙げられる。カチオン性リポソームとしては、例えば、2-O-(2-ジエチルアミノエチル)カルバモイル-1,3-O-ジオレオイルグリセロールおよびリン脂質を必須成分とするリポソーム、オリゴフェクタミン(登録商標)(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)、リポフェクチン(登録商標)(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)、リポフェクタミン(登録商標)(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)、リポフェクタミン(登録商標)2000(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)、DMRIE-C(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)、GeneSilencer(登録商標)(Gene Therapy Systems社製)、TransMessenger(登録商標)(QIAGEN社製)、TransIT-TKO(登録商標)(。カチオン性ポリマーの例は、JetSI(登録商標)(GeneX India Bioscience製)およびJet-PEI(登録商標)(ポリエチレンイミン、GeneX India Bioscience製)などが挙げられる。ウイルスエンベロープを用いたキャリアとしては、例えば、GenomeOne(登録商標)(HVJ-Eリポソーム、石原産業株式会社製)が挙げられる。
【0072】
さらに、本発明の医薬組成物は、乳化補助剤(例えば、炭素数6~22の脂肪酸やその医薬的に許容可能な塩、アルブミン、デキストラン)や安定化剤(例えば、コレステロール、ホスファチジン酸)を含んでもよい。
【0073】
Viltolarsenと担体とを含む本発明の医薬組成物において、Viltolarsenと担体(すなわち、担体/Viltolarsen)の重量比は、使用する担体の種類に応じて変更してもよく、適切には0.1~100の範囲、好ましくは1~50の範囲、より好ましくは10~20の範囲である。
【0074】
Viltolarsenを含有する水溶液は、静脈内点滴または点滴によって患者に投与することができる。
【0075】
3.効能・効果及び用法・用量
本発明の医薬組成物を治療に用いる場合、本発明のオリゴマーもしくはその医薬的に許容可能な塩又はその水和物が40mg/kg~80mg/kgでヒト患者に週1回静脈内投与される(以下、「本発明の用法・用量」という)。あるいは、本発明の用法・用量は、本発明のオリゴマーもしくはその医薬的に許容可能な塩又はその水和物が40mg/kgでヒト患者に週1回静脈内投与されるものであってもよい。または、本発明の用法・用量は、本発明のオリゴマーもしくはその医薬的に許容可能な塩又はその水和物が80mg/kgでヒト患者に週1回静脈内投与されるものであってもよい。ここで、用量の単位「mg/kg」において分子の「mg」は、本発明のオリゴマーもしくはその医薬的に許容可能な塩又はその水和物の量をミリグラムで表すものであり、分母の「kg」はヒト患者の体重1キログラムを表す。
【0076】
NS-065/NCNP-01(Viltolarsen)注射液250mgは、エクソン53スキッピングによる治療に適したDMD患者の治療を目的とした週1回の点滴静注のために開発された。米国/カナダの第2相臨床プログラムは、2用量のViltolarsen:40mg/kg/週および80mg/kg/週を評価するように設計された。ここで、kgは患者の体重の単位である。例えば、体重40kgの患者について40mg/kg/週であれば、1週間に1回、前記患者に1,600mg(=40mg×40)のViltolarsenを投与することを意味する。
【0077】
4.疾患
DMDはジストロフィン遺伝子における機能喪失突然変異によって引き起こされる筋疾患であり、患者の筋肉におけるジストロフィンタンパク質の喪失をもたらす(Hoffmanら、1987)。ジストロフィン遺伝子はX染色体上にあり、高い自然突然変異率を示し、研究された全ての世界の集団において、DMDの発生率は生存出産された男性5,000人に1人である。最近の評価では、グローバル患者データベースで評価された7,149人のDMD患者の10.1%がエクソン53スキッピングによる治療に適していることが示された(Bladen et al.,2015)。臨床症状は典型的には若年就学時期(4~6歳まで)に呈され、罹患した男児は近位筋力低下(例えば、階段を登ることの困難性、または走ることの困難性)に起因して、同年齢の児童と身体的に対応することに困難性を示す。床からの立ち上がりの困難性は、典型的なGowerの動きを用いて立位を達成する患者のほとんどに見られる(すなわち、立位を達成するために脚、膝、および大腿に手支持を使用する)(Hoffman EP, Brown RH, and Kunkel LM. (1987). Dystrophin: the protein product of the Duchenne muscular dystrophy locus. Cell 51, 919-928.およびBladen CL, Salgado D, Monges S, Foncuberta ME, Kekou K, Kosma K, Dawkins H, Lamont L, Roy AJ, Chamova T, Guergueltcheva V, Chan S, Korngut L, Campbell C, Dai Y, Wang J, Barisic N, Brabec P, Lahdetie J, Walter MC, Schreiber-Katz O, Karcagi V, Garami M, Viswanathan V, Bayat F, Buccella F, Kimura E, Koeks Z, van den Bergen JC, Rodrigues M, Roxburgh R, Lusakowska A, Kostera-Pruszczyk A, Zimowski J, Santos R, Neagu E, Artemieva S, Rasic VM, Vojinovic D, Posada M, Bloetzer C, Jeannet PY, Joncourt F, Diaz-Manera J, Gallardo E, Karaduman AA, Topaloglu H, El Sherif R, Stringer A, Shatillo AV, Martin AS, Peay HL, Bellgard MI, Kirschner J, Flanigan KM, Straub V, Bushby K, Verschuuren J, Aartsma-Rus A, Beroud C, Lochmuller H. (2015). The TREAT-NMD DMD Global Database: analysis of more than 7,000 Duchenne muscular dystrophy mutations. Hum Mutat. 36(4): 395-402)。
【0078】
DMD患者の筋肉組織は慢性炎症を示し、筋肉の変性および再生の発作を伴い、筋肉消耗、障害、および早期死に至る。患者は典型的には生後20年までに歩行を失い、30年までに日常生活の多くの面での支援を必要とするようになる。この疾患は通常、青年期または成人期早期の死亡につながるが、人工呼吸器補助装置の使用は時には寿命を40年まで延ばすが50年まで延ばすことは稀である。
【0079】
被験者におけるDMD遺伝子変異は多重連結依存性プローブ増幅(MLPA)の使用によって検出することができる(Muruganら、2010)。Muruganらによるこの論文の内容の全体が参考として援用される(Sakthivel Murugan S.M., Arthi Chandramohan and Bremadesam Raman Lakshmi, “Use of multiplex ligation-dependent probe amplification (MLPA) for Duchenne muscular dystrophy (DMD) gene mutation analysis,” Indian Journal of Medical Research, Vol. 132, pp. 303-311 (September 2010).)。
【0080】
本発明の医薬組成物による治療の対象となるヒト患者(以下、「本発明の対象となる患者」という)は、医師によってDMDを罹患していると診断された患者であれば特に限定されないが、ある態様では、ジストロフィン遺伝子にエクソン43-52、45-52、47-52、48-52、49-52、50-52または52からなる群より選択されるいずれかのエクソンが欠損した変異を有する患者であってもよい。
【0081】
また、本発明の対象となる患者は、本発明の医薬組成物又は本発明のオリゴマーを用いる治療前にジストロフィンタンパク質の発現がウェスタンブロッティングまたは質量分析による測定で健常人(100%)の1%以下であることを特徴としていてもよい。ここで、「健常人」とはジストロフィンタンパク質に関する疾患を有しないヒトである。健常人におけるジストロフィンタンパク質の発現量は、一般に知られた値を用いても良いし、個別の健常人から得られた値を用いてもよい。また、本発明の対象となる患者は、本発明の医薬組成物又は本発明のオリゴマーを用いた治療前にはジストロフィンタンパク質の発現がみられないことを特徴としていてもよい。「ジストロフィンタンパク質の発現がみられない」とは、ジストロフィンタンパク質の発現量が、ウェスタンブロッティングまたは質量分析による測定で、陰性対照と同程度の発現量であること、または検出限界以下の値であることを意味する。 また、ウェスタンブロットおよび質量分析は、当分野で通常用いられる方法であれば特に限定されない。ウェスタンブロットおよび質量分析の一例として、本実施例における実験手法を参照することができる。
【0082】
5.治療理論
DMDは重篤な遺伝性筋障害であるが、最も一般的にはジストロフィン遺伝子からの1つ以上のエクソンが欠失し、アウト・オブ・フレーム(Out of Frame)アミノ酸翻訳が生じることによって引き起こされる。これにより筋肉機能に重要な患者の機能性ジストロフィンタンパク質が発現されなくなる。より重症度の低い形態の障害であるベッカー筋ジストロフィー(BMD)は、ジストロフィン遺伝子中に1つ以上のエクソンが存在しないが、残りのエクソンがインフレームでアミノ酸翻訳される場合に最も一般的に生じる。BMD患者は一般に、疾患の進行が遅く、障害の程度が低い。DMD患者の医学的処置は一般に、四肢の筋肉における症状の発症を遅らせるためのグルココルチコイド処置や呼吸のサポートを含む。2018年2月のFDAの最終ガイダンス「Duchenne Muscular Dystrophy and Related Dystrophinopathies: Developing Drugs for Treatment Guidance for Industry.」(https://www.fda.gov/downloads/Drugs/GuidanceComplianceRegulatoryInformation/Guidances/UCM450229.pdf.にて入手可能)に示されているように、DMD患者には、重大なアンメットメディカルニーズが存在する。
【0083】
DMD患者を治療するための1つの治療的アプローチは、機能的ジストロフィンタンパク質を産生してDMD患者をBMD表現型に移行させることを目的として「エクソンスキッピング」戦略を使用することである。エクソンスキッピングは欠失したエクソンの隣のエクソンのスキッピングを誘導し、これによってアミノ酸リーディングフレームを回復させることができる(Cirakら、2011;Voitら、2014;Yokotaら、2012)。エクソン53のスキッピングにより、正常よりもわずかに短いが部分的に機能活性を保持するジストロフィンタンパク質が発現されることになる。NS-065/NCNP-01(Viltolarsen)注射液250mgはDMD表現型を、患者の疾患進行が遅くなり、患者の生活の質が改善する、BMDのより軽度の疾患にシフトさせることが期待される(Cirak S, Arechavala-Gomeza V, Guglieri M, Feng L, Torelli S, Anthony K, Abbs S, Garralda ME, Bourke J, Wells DJ, Dickson G, Wood MJ, Wilton SD, Straub V, Kole R, Shrewsbury SB, Sewry C, Morgan JE, Bushby K, Muntoni F. (2011). Exon skipping and dystrophin restoration in patients with Duchenne muscular dystrophy after systemic phosphorodiamidate morpholino oligomer treatment: an open-label, phase 2, dose-escalation study. Lancet 378: 595-605.、Voit T, Topaloglu H, Straub V, Muntoni F, Deconinck N, Campion G, De Kimpe SJ, Eagle M, Guglieri M, Hood S, Liefaard L, Lourbakos A, Morgan A, Nakielny J, Quarcoo N, Ricotti V, Rolfe K, Servais L, Wardell C, Wilson R, Wright P, Kraus JE. (2014). Safety and efficacy of drisapersen for the treatment of Duchenne muscular dystrophy (DEMAND II): an exploratory, randomised, placebo-controlled phase 2 study. Lancet Neurol. 13(10): 987-96.、およびYokota T, Nakamura A, Nagata T, Saito T, Kobayashi M, Aoki Y, Echigoya Y, Partridge T, Hoffman EP, Takeda S. (2012). Extensive and Prolonged Restoration of Dystrophin Expression with Vivo-Morpholino-Mediated Multiple Exon Skipping in Dystrophic Dogs. Nucleic Acid Ther 22(5): 306-15.)。
【0084】
したがって、本発明の医薬組成物を、前述の本発明の用法・用量にしたがってヒト患者に投与することにより、DMDを治療することが可能である。
ここで、「治療」とは、患者におけるDMDの症状を軽減することを意味する。
【0085】
本発明の医薬組成物を本発明の用法用量に沿って用いた治療は、以下の(1)~(6)からなる群より選択される少なくとも1つの効果を生じさせ得る(括弧内は平均±標準偏差を表す):
(1)患者の骨格筋におけるジストロフィンタンパク質発現量の平均値が、ベースラインと比較して、24週間の投与後に9倍以上に増加すること;
(2)立ち上がり時間(TTSTAND)から得られる速度の変化が、ベースラインと比較して、24週間の投与後25週時に-0.055回/秒以上または0.024±0.075秒以上であること;
(3)10メートル走行/歩行時間(TTRW)から得られる速度の変化が、ベースラインと比較して、24週間の投与後25週時に-0.025メートル/秒以上または0.227±0.251メートル/秒以上であること;
(4)4段階段昇り時間(TTCLIMB)から得られる速度の変化が、ベースラインと比較して、24週間の投与後25週時に-0.060回/秒以上または0.032±0.088回/秒以上であること;
(5)ノース・スター歩行能力評価(NSAA)のスコアの変化が、ベースラインと比較して、24週間の投与後25週時に-2.2スコア以上または0.8±2.9スコア以上であること;及び
(6)6分間歩行試験(6MWT)の変化が、ベースラインと比較して、24週間の投与後25週時に-7.5メートル以上または28.9±36.3メートル以上であること。
【0086】
上記(1)~(6)において、「ベースライン」とは、未処置患者群における平均値を意味する。また(2)~(6)における「変化」は、平均値の変化を意味する。
【0087】
ある実施態様では、本発明の医薬組成物を、前述の本発明の用法・用量にしたがって、7~9歳のデュシェンヌ型筋ジストロフィーのヒト患者に84週間投与する場合において、以下の(7)~(12)からなる群より選択される少なくとも一つの効果が生じ得る:
(7)治療開始から第85週までに、立ち上がり能力を喪失する患者が20%未満であること;
(8)治療開始から第85週までに、4段階段昇りが出来なくなる患者が10%未満であること;
(9)治療開始から第85週までに、自立歩行能力を喪失する患者が10%未満であること;
(10)治療開始から第85週までに、10メートル走行/歩行の速度に加齢による減少がみられないこと;
(11)治療開始から第85週までに、4段階段昇りの速度に加齢による減少がみられないこと;及び
(12)治療開始から第85週までに、立ち上がりの速度に加齢による減少がみられないこと。
上記(7)~(12)に係る効果は、治療を開始した週を第1週と定め、第1週~第85週まで、第1週~第80週まで、第1週~第75週まで、第1週~第70週まで、第1週~第65週まで、第1週~第60週までのいずれかの時点で生じてもよい。
【0088】
ある実施態様では、本発明の医薬組成物を、前述の本発明の用法・用量にしたがって、10~12歳のデュシェンヌ型筋ジストロフィーのヒト患者に投与することにより、以下の(13)~(18)からなる群より選択される少なくとも一つの効果が生じる:
(13)治療開始から第85週までに、立ち上がり能力を喪失する患者が60%未満であること;
(14)治療開始から第85週までに、4段階段昇りが出来なくなる患者が50%未満であること;
(15)治療開始から第85週までに、自立歩行能力を喪失する患者が50%未満であること;
及び
(16)治療開始から第85週までに、10メートル走行/歩行の速度に加齢による減少がみられないこと。
(17)治療開始から第85週までに、4段階段昇りの速度が増加する時期がみられること;及び
(18)治療開始から第85週までに、立ち上がりの速度が増加する時期がみられること。
上記(13)~(18)に係る効果は、治療を開始した週を第1週と定め、第1週~第85週まで、第1週~第80週まで、第1週~第75週まで、第1週~第70週まで、第1週~第65週まで、第1週~第60週までのいずれかの時点で生じてもよい。
【0089】
すなわち、本発明の医薬組成物は、上記(1)~(18)に係る効果の少なくとも1つを生じ得る。
【0090】
II.第二の形態
本発明は、その第二の形態の形態において、
ヒトジストロフィン遺伝子の第53番目のエクソンの5’末端から第36~56番目のヌクレオチドからなる配列に相補的な塩基配列からなるアンチセンスオリゴマー又はその医薬的に許容可能な塩若しくは水和物を含有する医薬組成物を、
前記アンチセンスオリゴマーもしくはその医薬的に許容可能な塩又はその水和物を40mg/kg~80mg/kgで前記ヒト患者に週1回静脈内投与することを含む、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療方法(以下、「本発明の治療方法」という)を提供する。
本発明の治療方法に係る各構成の意味は、すでに項目「I.第一の形態」で本発明の医薬組成物に係る構成について説明したものと同一である。
また、本発明の治療方法は、項目「I.第一の形態」の副項目「5.治療理論」で説明した(1)~(18)に係る効果の少なくとも1つを生じ得る。
【0091】
III.第三の形態
さらに、本発明は、その第三の形態の形態において、
ヒト患者のデュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療方法に用いるためのヒトジストロフィン遺伝子の第53番目のエクソンの5’末端から第36~56番目のヌクレオチドからなる配列に相補的な塩基配列からなるアンチセンスオリゴマー又はその医薬的に許容可能な塩若しくは水和物であって、
前記アンチセンスオリゴマー又はその医薬的に許容可能な塩若しくは水和物が40mg/kg~80mg/kgで前記ヒト患者に週1回静脈内投与される、
前記アンチセンスオリゴマー又はその医薬的に許容可能な塩若しくは水和物(以下、「本発明の用途特定形態」という)を提供する。
本発明の用途特定形態に係る各構成の意味は、すでに項目「I.第一の形態」で本発明の医薬組成物に係る構成について説明したものと同一である。
また、本発明の用途特定形態は、項目「I.第一の形態」の副項目「5.治療理論」で説明した(1)~(18)に係る効果の少なくとも1つを生じ得る。
【0092】
IV.第四の形態
さらに、本発明は、その第四の形態の形態において、
ヒト患者のデュシェンヌ型筋ジストロフィーを治療するための医薬組成物の製造のためのヒトジストロフィン遺伝子の第53番目のエクソンの5’末端から第36~56番目のヌクレオチドからなる配列に相補的な塩基配列からなるアンチセンスオリゴマー又はその医薬的に許容可能な塩若しくは水和物の使用であって、
前記アンチセンスオリゴマー又はその医薬的に許容可能な塩若しくは水和物が40mg/kg~80mg/kgで前記ヒト患者に週1回静脈内投与される、
前記使用(以下、「本発明のスイスタイプ使用」という)を提供する。
本発明のスイスタイプ使用に係る各構成の意味は、すでに項目「I.第一の形態」で本発明の医薬組成物に係る構成について説明したものと同一である。
また、本発明のスイスタイプ使用は、項目「I.第一の形態」の副項目「5.治療理論」で説明した(1)~(18)に係る効果の少なくとも1つを生じ得る。
【0093】
以下に、実施例を掲げて、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は実施例に示される範囲に限定されるものではない。
【実施例0094】
【製造例】
【0095】
(1)アミノメチルポリスチレン樹脂に担持された4-{[(2S,6R)-6-(4-ベンズアミド-2-オキソピリミジン-1-イル)-4-トリチルモルホリン-2-イル]メトキシ}-4-オキソブタン酸の製造
工程1:4-{[(2S,6R)-6-(4-ベンズアミド-2-オキソピリミジン-1(2H)-イル)-4-トリチルモルホリン-2-イル]メトキシ}-4-オキソブタン酸の製造
アルゴン雰囲気下、N-{1-[(2R,6S)-6-(ヒドロキシメチル)-4-トリチルモルホリン-2-イル]-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリミジン-4-イル}ベンズアミド22.0gと4-ジメチルアミノピリジン(4-DMAP)7.04gをジクロロメタン269mLに懸濁し、無水コハク酸5.76gを加え、室温で3時間撹拌した。反応液にメタノール40mLを加え、減圧濃縮した。残渣に酢酸エチルと0.5Mのリン酸二水素カリウム水溶液を用いて抽出操作を行った。得られた有機層を0.5Mのリン酸二水素カリウム水溶液、水、飽和食塩水の順で洗浄した。得られた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮し、25.9gの目的物を得た。
【0096】
工程2:アミノメチルポリスチレン樹脂に担持された4-{[(2S,6R)-6-(4-ベンズアミド-2-オキソピリミジン-1-イル)-4-トリチルモルホリン-2-イル]メトキシ}-4-オキソブタン酸の製造
4-{[(2S,6R)-6-(4-ベンズアミド-2-オキソピリミジン-1(2H)-イル)-4-トリチルモルホリン-2-イル]メトキシ}-4-オキソブタン酸23.5gをピリジン(脱水)336mLに溶解し、4-DMAP4.28g、1-エチル-3‐(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩40.3gを加えた。次いで、アミノメチルポリスチレン樹脂 1%DVB架橋(東京化成工業社製、A1543)25.0g、トリエチルアミン24mLを加え、室温で4日間振とうした。反応後、樹脂をろ取した。得られた樹脂をピリジン、メタノール、ジクロロメタンの順で洗浄し、減圧乾燥した。得られた樹脂にテトラヒドロフラン(脱水)150mL、無水酢酸15mL、2,6-ルチジン15mLを加え、室温で2時間振とうした。樹脂をろ取し、ピリジン、メタノール、ジクロロメタンの順で洗浄し、減圧乾燥し、33.7gの目的物を得た。
当該目的物のローディング量は、公知の方法を用いて、樹脂1g当たりのトリチルのモル量を409nmにおけるUV吸光度を測定することにより決定した。樹脂のローディング量は、397.4μmol/gであった。
【0097】
UV測定条件
機器:U-2910(日立製作所)
溶媒:メタンスルホン酸
波長:265 nm
ε値:45000
【0098】
(2)PMO No.8の製造
PMO No.8は、エクソン53中の「第36~56番目」を標的配列としり、5’末端の基は「基(3)」であり、塩基部分の配列は配列番号3で表される。
アミノメチルポリスチレン樹脂に担持された4-{[(2S,6R)-6-(4-ベンズアミド-2-オキソピリミジン-1(2H)-イル)-4-トリチルモルホリン-2-イル]メトキシ}-4-オキソブタン酸(参考例1)2g(800μmol)を反応槽に移し入れ、ジクロロメタン30mLを添加し、30分間静置した。さらに、ジクロロメタン30mLで2回洗浄した後、下記合成サイクルを開始した。標記化合物の塩基配列になるよう、各サイクルにおいて所望のモルホリノモノマー化合物を添加した。
【0099】
【表3】

なお、デブロック溶液としては、トリフルオロ酢酸(2当量)とトリエチルアミン(1当量)の混合物を3%(w/v)になるように、1%(v/v)のエタノールと10%(v/v)の2,2,2-トリフルオロエタノールを含有するジクロロメタン溶液で溶解したものを用いた。中和溶液としては、N,N-ジイソプロピルエチルアミンを5%(v/v)になるように、25%(v/v)の2-プロパノールを含有するジクロロメタン溶液で溶解したものを用いた。カップリング溶液Aとしては、モルホリノモノマー化合物を0.15Mになるように、10%(v/v)のN,N-ジイソプロピルエチルアミンを含有する1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンで溶解したものを用いた。カップリング溶液Bとしては、N,N-ジイソプロピルエチルアミンを10%(v/v)になるように、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンで溶解したものを用いた。キャッピング溶液としては、ジクロロメタンに対して20%(v/v)の無水酢酸と30%(v/v)の2,6-ルチジンを溶解したものを使用した。
【0100】
上記で合成したPMOが担持されたアミノメチルポリスチレン樹脂を反応容器から回収し、2時間以上室温で減圧乾燥した。乾燥したアミノメチルポリスチレン樹脂に担持されたPMOを反応容器に入れ、28%アンモニア水-エタノール(1/4)200mLを加え、55℃で15時間撹拌した。アミノメチルポリスチレン樹脂をろ別し、水-エタノール(1/4)50mLで洗浄した。得られたろ液を減圧濃縮した。得られた残渣を20mMの酢酸-トリエチルアミン緩衝液(TEAA緩衝液)とアセトニトリルの混合溶媒(4/1)100mLに溶解し、メンブレンフィルターでろ過した。得られたろ液を逆相HPLCにて精製した。使用した条件は、以下のとおりである。
【0101】
【表4】

各フラクションを分析して、アセトニトリル-水(1/1)100mLで目的物を回収し、エタノール200mLを添加し、減圧濃縮した。さらに、減圧乾燥し、白色固体を得た。得られた固体に10mMのリン酸水溶液300mLを加え、懸濁させた。2Mのリン酸水溶液10mLを加え、15分間攪拌した。さらに、2Mの水酸化ナトリウム水溶液15mLを加えて中和した。さらに、2Mの水酸化ナトリウム水溶液15mLを加えてアルカリ性とし、メンブレンフィルター(0.45μm)でろ過した。10mMの水酸化ナトリウム水溶液100mLで洗いこみ、水溶液として目的物を得た。
得られた目的物を含有する水溶液を陰イオン交換樹脂カラムで精製した。使用した条件は下記のとおりである。
【0102】
【表5】

各フラクションを分析(HPLC)し、目的物を水溶液として得た。得られた水溶液に0.1Mのリン酸緩衝液(pH 6.0)225mLを添加し中和した。メンブレンフィルター(0.45μm)でろ過した。次いで、下記条件で限外ろ過を行い脱塩した。
【0103】
【表6】

ろ液を濃縮し、約250mLの水溶液を得た。得られた水溶液をメンブレンフィルター(0.45μm)でろ過した。得られた水溶液を凍結乾燥して、白色綿状固体として1.5gの目的化合物を得た。
ESI-TOF-MS 計算値:6924.82
測定値:6923.54
【実施例0104】
米国第2相試験
第II相用量設定試験「NS-065/NCNP-01-201試験」が2016年12月に「IND127474」のもとに開始された。本試験はClinicalTrials.gov認識番号「NCT02740972」として「Safety and Dose Finding Study of NS-065/NCNP-01 in Boys With Duchenne Muscular Dystrophy (DMD)」の表題のもとに行われた。本試験の治験実施計画書は、https://www.clinicaltrials.gov/ct2/show/study/NCT02740972から入手可能であり、その内容の全体が参考として援用される。本試験は、エクソン53スキッピングによる治療に適したデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)患者において、点滴静注として送達される高用量(80mg/kg)および低用量(40mg/kg)のNS-065/NCNP-01(Viltolarsen)の安全性を評価することを主な目的とした。また、忍容性、筋肉機能および筋力、薬物動態、および薬力学がさらなる目的として含まれた。
【0105】
より具体的には、第II相多施設2期間無作為化プラセボ対照用量設定試験であり、DMDの4歳以上10歳未満の外来男児にNS-065/NCNP-01(Viltolarsen)を週1回24週間点滴投与した。2つの用量レベルコホートを含めた。期間1は、二重盲検様式で試験した。患者は無作為にNS-065/NCNP-01(Viltolarsen)またはプラセボを、参加の最初の4週間(期間1)週1回点滴静注され、次いでNS-065/NCNP-01(Viltolarsen)を、5~24週間(20週間の実薬治療-期間2)点滴静注された。40mg/kg用量コホートの期間1からの安全性データの分析は、80mg/kg用量コホートに患者を登録する前に完了した。24週間の試験を完了した患者は、非盲検延長試験を受けることができた。
【0106】
臨床的有効性は、定期的に予定された試験来院時に評価した。すべての患者は、ベースライン時に二頭筋生検を受け、24週目に2回目の筋生検を受けた。
【0107】
安全性は、有害事象(AE)、血液および尿の実験室試験、心電図(ECG)、バイタルサイン、および試験全体にわたる身体検査を収集することによって評価した。NS-065/NCNP-01(Viltolarsen)の薬物動態を評価するために、4回の試験来院時に連続血液サンプルを採取した。
【0108】
<治験の種類:介入(臨床試験)>
・実際の登録:16人の参加者。
・割付:無作為化。
・介入モデル:並列割り当て。
・マスキング:Quadruple(参加者、ケア提供者、治験責任医師、アウトカム評価者)。
・主要目的:治療。
・実際の試験開始日:2016年12月。
・初回完了日:2018年3月。
【0109】
<患者群と介入>
・実験:NS-065/NCNP-01(Viltolarsen) 40mg/kg
エクソン53スキッピングによる治療に適した遺伝子欠失を有するDMDが確認された6人の患者に、NS-065/NCNP-01(Viltolarsen) 40mg/kg用量を週1回24週間点滴静注した。
・実験:NS-065/NCNP-01(Viltolarsen) 80mg/kg
エクソン53スキッピングによる治療に適した遺伝子欠失を有するDMDが確認された6人の患者に、NS-065/NCNP-01(Viltolarsen) 80mg/kg用量を週1回24週間点滴静注した。
・プラセボ比較剤:プラセボ
各用量群の2人または3人の患者に、4週間、週に1回、点滴静注としてプラセボを投与し、その後、20週間のオープンラベル処置を行った。
【0110】
<選択基準>
・4歳以上、10歳未満の男性。
・エクソン53のスキッピング治療によるジストロフィンmRNAリーディングフレームの回復に適したジストロフィン遺伝子におけるDMD突然変異(単数または複数)を有することが確認されていること
・補助装置なしで独立して歩くことができること
・立ち上がるまでの時間、走る/歩くまでの時間、および評価を上昇させるまでの時間
・グルココルチコイドの少なくとも3ヵ月間の安定投与
【0111】
<除外基準>
・治験薬の初回投与前4週間以内の急性疾患。
・症候性心筋症の証拠。(調査時の無症候性心臓異常は除外せず)
・薬物療法に対する重度のアレルギーまたは過敏症
・治験責任医師の意見において、治験への参加を妨げる重篤な行動上または認知上の問題
・治験責任医師の意見による、安全性に影響を及ぼす可能性があるか、治療および追跡調査が正しく完了する見込みが低いか、または治験結果の評価を損うような、以前または進行中の病状、病歴、身体所見または臨床検査値異常
・現在または治験薬投与開始前3ヵ月以内に他の治験薬の服用。
・NS-065/NCNP-01(Viltolarsen)の最初の予想される投与前3ヶ月以内に手術を受けたか、または試験期間に外科手術を予定していた患者
・以前に本試験に参加した患者又はNS-065/NCNP-01(Viltolarsen)が投与されて以前に他の試験に参加していた患者
【0112】
再度要約すると、エクソン53スキッピングによる治療に適し、かつ3ヶ月以上のグルココルチコイド投与において安定な16人の男性患者に40mg/kg/週および80mg/kg/週用量を試験する、24週間の2コホート試験であった。各コホートのプラセボ群患者は、有害事象(安全性アウトカム)の対照として最初の4週間の無作為化期間を受けた。次いで、プラセボ処置患者および活性処置患者の両方を、20週間の処置期間にわたって試験を継続させた。NS-065/NCNP-01-201試験では、NS-065/NCNP-01(Viltolarsen)注射液を40mg/kg/週の低用量および80mg/kg/週の高用量の2つの用量コホートで20~24週間投与し、ジストロフィンタンパク質のde novo発現に及ぼす影響を評価した(図1を参照)。試験NS-065/NCNP-01-201の目標は、ウェスタンブロット(WB)法(プライマリーサロゲートエンドポイント)を用いて測定した骨格筋におけるジストロフィンタンパク質のde novo発現に基づいて、安全かつ有効な用量を同定することであった。セカンダリーサロゲートエンドポイントには、de novoジストロフィンタンパク質発現の免疫蛍光(IF)染色および質量分析検出、ならびにde novoジストロフィンmRNAレベルのRT-PCR検出が含まれた。第2相試験のセカンダリーエンドポイントとして、いくつかの機能的なエンドポイントも含められた。試験NS-065/NCNP-01-201のエンドポイントは以下のとおりである:
【0113】
<プライマリーエンドポイント>
・NS-065/NCNP-01(Viltolarsen)注射液の低用量(40mg/kg/週)および高用量(80mg/kg/週)静脈内(IV)投与の安全性および忍容性
・治療の20~24週間後に筋肉におけるジストロフィンタンパク質の誘導をウェスタンブロットによって測定し、これをNS-065/NCNP-01(Viltolarsen)注射液の低および高IV用量の効果とした。
【0114】
図1において、下半分に示した「高用量:80mg/kg/週」の時系列は下半分に示した「低用量:40mg/kg/週」の時系列から後の時間に相殺されており、低用量投与で安全性が確認された後にのみ高用量投与が開始されたことを示している。
【0115】
測定内容:
1.mRNA分析のためのリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(RT‐PCR)によって測定した筋肉におけるジストロフィンmRNAの誘導(タイムフレーム20~24週の処置)
RT-PCRはジストロフィンRNAの変化したスプライシングを測定する。この方法において、mRNAは凍結筋生検から単離され、cDNAに逆転写される。PCRプライマーはジストロフィンmRNA上のエクソン53部位に隣接して設計される。スプライシングされたジストロフィンmRNAの特定のバージョンに対応するRT-PCRバンドを、ゲル電気泳動によって可視化し、異なるmRNAアイソフォームの量を比較する。薬剤がRNA標的にうまく結合する場合、エクソン53は得られるmRNA転写物から除外される。
2.タンパク質分析のためのウェスタンブロットによって測定される筋肉で誘導されたジストロフィンタンパク質。(タイムフレーム:20~24週間の処置)
【0116】
主要な生化学的結果の測定は、イムノブロット(ウェスタンブロット)によるジストロフィン産生量の薬物誘発性増加の測定であり。ジストロフィンイムノブロットは可溶化された筋肉生検凍結切片を使用し、タンパク質は、ゲル電気泳動(SDS-PAGE)、ニトロセルロースへのエレクトロブロッティング、次いで、ジストロフィンタンパク質を検出するための抗体とのニトロセルロースのインキュベーションを経て、分子量によって分画される。次いで、患者の生検からのジストロフィンについてのイムノブロットシグナルを、同じゲル(混合DMDおよび正常対照)上のジストロフィンの標準曲線のシグナルと比較する。これにより、筋肉中のジストロフィン含量の半定量的評価が提供される。
【0117】
米国第2相試験:有効性
アウトカム測定1
アウトカム測定1(すなわち、de novoジストロフィンmRNAレベルのRT-PCR検出)について得られた結果は、以下のとおりである。
【0118】
【表7】
【0119】
アウトカム測定2
アウトカム測定2(すなわち、ウェスタンブロット法を用いた骨格筋におけるde novoジストロフィンタンパク質発現量の測定)について得られた結果は、ベースラインの平均値と治療中の平均値との間で比較して、ベースラインから19.0倍の増加(40mg/kg/週で24週間)および9.8倍の増加(80mg/kg/週で24週間)、ならびに各患者の増加率の平均値として計算して、27.2倍の増加(40および80mg/kg/週で24週間)を示した。得られたデータを以下の表8および図2に要約する。
【0120】
【表8】
【0121】
NS-065/NCNP-01(Viltolarsen)によるジストロフィン回復の程度(40または80mg/kg/週、24週)は、2016年にサレプタ・セラピューティクス社によって発売されたエクソン51スキッピングによる治療に適したExondys51(登録商標)(eteplirsen)(30mg/kg/週、48および180週)について以前に報告された回復の程度と比べて少なく見積もっても約3~7倍または8.8~9.7倍高かった。具体的には、比較のために、Exondys51(登録商標)(eteplirsen)の対応するウェスタンブロットデータを以下に示す。NS-065/NCNP-01(Viltolarsen)を24週間投与された16人の患者のうち3人では、ジストロフィンレベルはベースラインから10%を超えて増加していた。NS-065/NCNP-01(Viltolarsen)を24週間投与した患者16例中12例では、ジストロフィン値の3%以上の上昇が認められた。ホフマン(Hoffman)らは、「ベッカー型ジストロフィーおよび異常なジストロフィン表現型のデュシェンヌ(正常レベルのジストロフィンの3%未満)を有する患者の中で、臨床表現型の重症度とジストロフィン評価の結果との間に明確な補正があった」と報告している(Eric P. Hoffman, et al., “Characterization of Dystrophin in Muscle-Biopsy Specimens from Patients with Duchenne’s of Becker’s Muscular Dystrophy.” N. Engl. J. Med., 318: 1363-1368 (1988))。
【0122】
・eteplirsen ウェスタンブロッティング:2.8倍増加(0.16%から0.44%への変化(30mg/kg/週、48週間))。(「評価可能な結果が得られた12例において、ジストロフィン濃度は治療前では健康被験者のジストロフィン濃度の0.16%±0.12%(平均±標準偏差)であり、EXONDYS51投与48週間後では0.44%±0.43%(p<0.05)であった」)(https://www.fda.gov/downloads/AdvisoryCommittees/CommitteesMeetingMaterials/PediatricAdvisoryCommittee/UCM557917.pdfより入手可能)
・eteplirsen ウェスタンブロッティング:3.1倍(0.3%から0.93%への変化)(30mg/kg/週、180週間)。(「短指伸筋(EDB)の生検からのウェスタンブロットではジストロフィンレベルは平均して正常値の約0.3%でしたが、その範囲は検出不能から正常値の約1%以上までであった。」「本出願人が使用した最も正確な定量的方法であるウェスタンブロット法では、eteplirsen処置から約3.5年後の平均ジストロフィンレベルは、健康被験者の0.93%±0.84%であった(平均±標準偏差))(https://www.fda.gov/downloads/advisorycommittees/committeesmeetingmaterials/drugs/peripheralandcentralnervoussystemdrugsadvisorycommittee/ucm497063.pdf.より入手可能)
・eteplirsen ウェスタンブロット:180週で0.93%、範囲は0%~2.47%(30mg/kg/週、180週)であった(Kenji Rowel Q Lim, et al., “Eteplirsen in the treatment of Duchenne muscular dystrophy.” Drug Des. Devel. Ther., 11: 533-545 (2017) https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5338848/)。
・さらに、「eteplirsenについて180週目に実施された試験では、30mg/kgと50mg/kgの週投与量によるジストロフィン産生量に対する用量反応に差は見られなかった。このことはこのアプローチが他のエクソンについては有効ではない可能性を示唆する」(Kenji Rowel Q Lim, et al., “Eteplirsen in the treatment of Duchenne muscular dystrophy.” Drug Des. Devel. Ther., 11: 533-545 (2017) https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5338848/)
【0123】
エクソン53スキッピングによる治療に適したDMD患者用のモルホリノオリゴヌクレオチドであるSRP-4053(golodirsen;Sareptaによる)との比較においても、観察されるジストロフィンレベルの増加量において、Viltolarsenではより優れた効果が得られることが示された。具体的には、比較目的のために、Viltolarsenの24週間の投与ではなく、48週間の投与後に得られたSRP-4053(golodirsen)の対応するウェスタンブロットデータを以下に示す。
【0124】
・golodirsen ウェスタンブロット:0.095%から1.019%への変化(48週間30mg/kg)。(「ジストロフィンタンパク質の平均増加量は、ウェスタンブロット測定(本試験の生物学的プライマリーエンドポイント)において、正常値の0.095%(p<0.001)の平均ベースラインと比較して、正常値の1.019%に増加した。これは、ベースラインから10.7倍の増加を表す。」)(http://investorrelations.sarepta.com/news-releases/news-release-details/sarepta-therapeutics-announces-positive-results-its-study.より入手可能)
・golodirsen ウェスタンブロット:最小0.09%、最大4.30%(30mg/kg/週で48週間。25例中2例で3%以上のジストロフィン値の上昇が認められた(22nd International Congress of the World Muscle Society (3-7 October 2017, St. Malo, France), http://www.google.co.jp/url?sa=t&source=web&cd=2&ved=2ahUKEwid7ZTQ9OrbAhUETLwKHX3xDk8QFjABegQIARAB&url=http%3A%2F%2Finvestorrelations.sarepta.com%2Fstatic-files%2F64d8d897-2e4a-4119-80b4-115cbae17993&usg=AOvVaw1Amh1Mq1VauvLkPvYWfVdR)。
【0125】
米国第2相試験:安全性
NS-065/NCNP-01(Viltolarsen)を高用量および低用量(40mg/kg/週および80mg/kg/週)を投与したDMD患者16例の安全性データについては、試験の実施、データの質、または参加者の安全性に大きな懸念はなかった。36週間の時点で治療を中止した参加者はいなかった。具体的には、重篤な有害事象はなく、中止に至った有害事象もなく、薬剤関連有害事象もなかった。すべての有害事象は軽度または中等度であった。
【実施例0126】
米国/カナダの第2相試験
第II相用量設定試験「NS-065/NCNP-01-201試験」が2016年12月に「IND127474」のもとに開始された。本試験はClinicalTrials.gov認識番号「NCT02740972」として「Safety and Dose Finding Study of NS-065/NCNP-01 in Boys With Duchenne Muscular Dystrophy (DMD)」の表題のもとに行われた。本試験の治験実施計画書は、https://www.clinicaltrials.gov/ct2/show/study/NCT02740972で入手可能であり、その内容の全体が参考として援用される。本試験は、エクソン53スキッピングによる治療に適したデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)患者において、点滴静注として送達される高用量(80mg/kg)および低用量(40mg/kg)のNS-065/NCNP-01(Viltolarsen)の安全性を評価することを主な目的とした。また、忍容性、筋肉機能および筋力、薬物動態、および薬力学が更なる目的として含まれた。
より具体的には、第II相多施設2期間無作為化プラセボ対照用量設定試験であり、DMDの4歳以上10歳未満の外来男児にNS-065/NCNP-01(Viltolarsen)を週1回24週間点滴投与した。2つの用量レベルコホートを含めた。期間1は、二重盲検様式で試験した。患者は無作為にNS-065/NCNP-01(Viltolarsen)またはプラセボを、参加の最初の4週間(期間1)週1回点滴静注され、次いでNS-065/NCNP-01(Viltolarsen)を、5~24週間(20週間の実薬治療-期間2)点滴静注された。40mg/kg用量コホートの期間1からの安全性データの分析は、80mg/kg用量コホートに患者を登録する前に完了した。24週間の試験を完了した患者は、非盲検延長試験を受けることができた。
【0127】
臨床的有効性は、定期的に予定された試験来院時に評価した。すべての患者は、ベースライン時に二頭筋生検を受け、24週目に2回目の筋生検を受けた。
【0128】
安全性は、有害事象(AE)、血液および尿の実験室試験、心電図(ECG)、バイタルサイン、および試験全体にわたる身体検査を収集することによって評価した。NS-065/NCNP-01(Viltolarsen)の薬物動態を評価するために、4回の試験来院時に連続血液サンプルを採取した。
【0129】
<治験の種類:介入(臨床試験)>
・実際の登録:16人の参加者。
・割付:無作為化。
・介入モデル:並列割り当て。
・マスキング:Quadruple(参加者、ケア提供者、治験責任医師、アウトカム評価者)。
・主な目的:治療。
・実際の試験開始日:2016年12月。
・初回完了日:2018年3月。
【0130】
<患者群と介入>
・実験:NS-065/NCNP-01(Viltolarsen) 40mg/kg
エクソン53スキッピングによる治療に適した遺伝子欠失を有するDMDが確認された6人の患者に、NS-065/NCNP-01(Viltolarsen) 40mg/kg用量を週1回24週間点滴静注した。
・実験:NS-065/NCNP-01(Viltolarsen) 80mg/kg
エクソン53スキッピングによる治療に適した遺伝子欠失を有するDMDが確認された5人の患者に、NS-065/NCNP-01(Viltolarsen) 80mg/kg用量を週1回24週間点滴静注した。
・プラセボ比較剤:プラセボ
40mg/kg用量群の2人の患者および80mg/kg用量群の3人の患者に、4週間、週に1回、点滴静注としてプラセボを投与し、その後、20週間のオープンラベル処置を行った。
【0131】
<選択基準>
・同意時に4歳以上であり、初回点滴静注時に10歳未満の男性。
・エクソン53のスキッピング治療によるジストロフィンmRNAリーディングフレームの回復に適したジストロフィン遺伝子におけるDMD突然変異(単数または複数)を有することが確認されていること。
・補助装置なしで独立して歩くことができること
・運動機能評価者が立ち上がり時間(TSTAND)、10メートル走行/歩行時間(TTRW)、および4段階段昇り時間(TTCLIMB)の評価を実施可能と判断した患者
・グルココルチコイドの少なくとも3ヵ月間の安定投与
【0132】
<除外基準>
・治験薬の初回投与前4週間以内の急性疾患。
・症候性心筋症の証拠(調査時の無症候性心臓異常は除外せず)
・薬物療法に対する重度のアレルギーまたは過敏症
・治験責任医師の意見において、治験への参加を妨げる重篤な行動上または認知上の問題
・治験責任医師の意見による、安全性に影響を及ぼす可能性があるか、治療および追跡調査が正しく完了する見込みが低いか、または治験結果の評価を損うような、以前または進行中の病状、病歴、身体所見または臨床検査値異
・現在または治験薬投与開始前3ヵ月以内に他の治験薬の服用
・NS-065/NCNP-01(Viltolarsen)の最初の予想される投与前3ヶ月以内に手術を受けたか、または試験期間に外科手術を予定していた患者
・以前に本試験に参加した患者又はNS-065/NCNP-01(Viltolarsen)が投与された他の試験に参加していた患者
【0133】
再度要約すると、エクソン53スキッピング治療に適し、かつ3ヶ月以上のグルココルチコイド投与において安定な16人の男性患者に40mg/kg/週および80mg/kg/週用量を試験する、24週間の2コホート試験であった。各コホートのプラセボ群患者は、有害事象(安全性アウトカム)の対照として最初の4週間の無作為化期間を受けた。次いで、プラセボ処置患者および活性処置患者の両方を、20週間の処置期間にわたって試験を継続させた。NS-065/NCNP-01-201試験では、NS-065/NCNP-01(Viltolarsen)注射液250mgを40mg/kg/週の低用量および80mg/kg/週の高用量の2つの用量コホートで20~24週間投与し、ジストロフィンタンパク質のde novo発現に及ぼす影響を評価した(図3を参照)。試験NS-065/NCNP-01-201の目標は、ウェスタンブロット(WB)法(プライリーサロゲートエンドポイント)を用いて測定した骨格筋におけるジストロフィンタンパク質のde novo発現に基づいて、安全かつ有効な用量を同定することであった。セカンダリーサロゲートエンドポイントには、de novoジストロフィンタンパク質発現の免疫蛍光(IF)染色および質量分析検出、ならびにde novoジストロフィンmRNAレベルのRT-PCR検出が含まれた。第2相試験のセカンダリーエンドポイントとして、いくつかの運動機能的なエンドポイントも含められた。試験NS-065/NCNP-01-201のエンドポイントは以下のとおりである:
【0134】
<プライマリーエンドポイント>
・NS-065/NCNP-01(Viltolarsen)注射液250mgの低用量(40mg/kg/週)および高用量(80mg/kg/週)静脈内(IV)投与の安全性および忍容性
・治療の20~24週間後に筋肉におけるジストロフィンタンパク質の誘導をウェスタンブロットによって測定し、これをNS-065/NCNP-01(Viltolarsen)注射液250mgの低および高IV用量の効果とした。
・NS-065/NCNP-01(Viltolarsen)の血中薬物濃度
【0135】
<セカンダリーエンドポイント>
・NS-065/NCNP-01(Viltolarsen)注射液250mgの低用量および高用量静注が、20~24週間の治療後に筋肉中のジストロフィンmRNAおよびタンパク質の誘導に及ぼす効果を、RT-PCR法によるmRNA分析、並びに免疫蛍光染色及び質量分析法によるタンパク質分析で測定することにより評価する。
・NS-065/NCNP-01(Viltolarsen)注射液250mgの低用量および高用量の静脈内投与が、20~24週間の治療後に筋力、可動性、および機能的運動能力に及ぼす影響を調べるために、立ち上がり時間(TSTAND)、10メートル走行/歩行時間(TTRW)、4段階段昇り時間(TTCLIMB)、ノース・スター歩行能力評価(NSAA)、6分間歩行試験(6MWT)、および定量的筋肉試験(QMT)を対応する自然歴対照群との比較において測定した。
【0136】
図3において、下半分に示した「高用量:80mg/kg/週」の時系列は上半分に示した「低用量:40mg/kg/週」の時系列から後の時間に相殺されており、低用量投与で安全性が確認された後にのみ高用量投与が開始されたことを示している。
【0137】
米国/カナダ第2相試験セカンダリーエンドポイント:外部の無治療自然歴群(国際神経筋研究グループ(CINRG)のデュシェンヌ型の自然歴の研究(DNHS))との比較における時間機能検査
米国/カナダ第2相試験NS-065/NCNP-01-201に登録された患者を、ベースライン、13週目、および25週目に筋肉機能について臨床的に評価した。本試験の目的において4週間のプラセボ期間について補正は行っていない。これらの評価にはいくつかのタイプの時間機能検査が含まれた:仰臥位からの立ち上がり時間(TTSTAND);10メートル走行/歩行時間(TTRW);4段階段昇り時間(TTCLIMB);6分間歩行試験(6MWT);およびノース・スター歩行能力評価(NSAA)。経時変化を、CINRG DNHSで試験した対応する患者における疾患軌跡と比較した。
【0138】
CINRG DNHSとは440人のDMD患者のそれぞれを数年にわたって追跡した試験である(トータルの試験期間は約10年間)。CINRGは国際神経筋研究グループ(Cooperative International Neuromuscular Research Group)を指し、「神経筋病患者とその家族の生活に良い影響を与えたいという共通の目標を共有する学術・研究センターの医学・科学研究者のコンソーシアム」(http://www.cinrgresearch.org/)である。DNHSはデュシェンヌ型の自然歴の研究(Duchenne natural History Study)を表し、CINRG(http://www.cinrgresearch.org/Duchenne-Natural-history/ から)によって確立された「Duchenne muscular dystrophy(DMD)における今日までの最大のプロスペクティブ多施設自然歴研究」である(McDonald CM, Henricson EK, Abresch RT, Han JJ, Escolar DM, Florence JM, Duong T, Arrieta A, Clemens PR, Hoffman EP, and Cnaan A, “CINRG Investigators. The cooperative international neuromuscular research group Duchenne natural history study - a longitudinal investigation in the era of glucocorticoid therapy: design of protocol and the methods used,” Muscle Nerve., 48(1), 32-54 (2013).、Henricson EK, Abresch RT, Cnaan A, Hu F, Duong T, Arrieta A, Han J, Escolar DM, Florence JM, Clemens PR, Hoffman EP, and McDonald CM, “CINRG Investigators. The cooperative international neuromuscular research group Duchenne natural history study: glucocorticoid treatment preserves clinically meaningful functional milestones and reduces rate of disease progression as measured by manual muscle testing and other commonly used clinical trial outcome measures,” Muscle Nerve., 48(1), 55-67 (2013).およびMcDonald CM, Henricson EK, Abresch RT, Duong T, Joyce NC, Hu F, Clemens PR, Hoffman EP, Cnaan A, and Gordish-Dressman H, “CINRG Investigators. Long-term effects of glucocorticoids on function, quality of life, and survival in patients with Duchenne muscular dystrophy: a prospective cohort study,” Lancet, 391(10119), 451-461 (2018))。
【0139】
NS-065/NCNP-01-201試験は、CINRGネットワークに参加している臨床施設によって実施した。標準操作手順(臨床マニュアル)および臨床評価者訓練プロトコルは、NS-065/NCNP-01-201臨床試験およびCINRG DNHSに非常に類似していた。NS-065/NCNP-01-201対CINRG DNHSに登録された患者の対応(マッチング)は、以下の基準を用いて行った。
・ベースライン時の年齢が4歳から10.5歳未満の男児。
・12ヵ月以上の時間機能テストデータを有する患者。
・地域:北米(米国、カナダ)。
・ステロイドが少なくとも3ヵ月間投与されており、12/24ヵ月の観察期間を通じてステロイドを持続投与されること
・別の臨床試験への不参加
【0140】
NS-065/NCNP-01-201臨床試験に登録された患者にマッチした患者についてのCINRG DNHSデータベースの問い合わせは、エクソン53スキッピングによる治療に適したジストロフィン突然変異は特定しなかったが、エクソン3-7欠失を有する患者およびエクソン44スキッピングによる治療に適したジストロフィン欠失を有する患者は除外し、その結果以下の表9に示される69人の被験者が得られた。エクソン3-7欠失を有する患者およびエクソン44スキッピングによる治療に適したジストロフィン欠失を有する患者を除外した理由は、これらの患者が比較的軽度の症状を示すことが報告されていたからである。
【0141】
【表9】
【0142】
表9の一番上の行において、「エクソン53スキップ」とは、エクソン53スキッピングによる治療に適したDMD患者を意味し、「非エクソン53スキップ」は他の全ての患者を意味する(ただし、上記の除外事項に留意)。表9の下列において、「大きな欠失/重複なし」は、点突然変異(エクソンスキッピングによる治療に適さない)のような他のカテゴリーを包含する。
【0143】
6MWTのデータを有するCINRG DNHS患者の数は、他の評価項目の患者の数よりも少なかった。その理由は、6MWTがCINRG DNHSプロトコルの後期に追加されたため、他の時間機能検査と比較してデータ量が限られてしまったからである。
【0144】
NS-065/NCNP-01-201に登録された16人の患者とCINRG DNHSに登録された69人の患者の24週間にわたる疾患の軌跡を比較したところ、24週間の時間枠において自然歴比較群の患者が時間機能検査において機能低下を呈することが分かった。対照的に、NS-065/NCNP-01-201に登録された患者は、24週間の同じ期間において時間機能検査において平均値として改善を示した。これらの改善のうちの3つは、統計的有意性に達した:TTRW(13週目および25週目);TSTAND(25週目);および6MWT(25週目)。40mg/kg/週および80mg/kg/週のNS-065/NCNP-01(Viltolarsen)の用量の間に統計的有意差は観察されなかった。
【0145】
図4(合計5つのグラフと1つの表)は、NS-065/NCNP-01-201に登録された患者(青色実線で「Viltolarsen」として示される)とCINRG DNHSにおいてマッチした患者(赤色破線で「DNHS」として示される)における24週間にわたる時間機能検査におけるベースラインからの変化の比較を示す。
【0146】
図4の5つのグラフにおいて、「Viltolarsen」は、NS-065/NCNP-01の国際一般名(INN)である。また、全てのグラフにおいて、ベースラインからの変化を、反復測定(MMRM)分析のための制限最尤(REML)ベースの混合モデルを用いて、Viltolarsen投与群とCINRG DNHS患者群との間で比較した。
【0147】
(1)時間機能検査(Timed Function Test)
時間機能検査はTTSTAND,TTRW,TTCLIMB,6MWTであった。TSTANDおよびTTRWは、別個の評価項目として事前に特定され、時間および6点満点評価のスケールに基づいて評価された。TSTANDおよびTTRWはNSAAの構成項目でもある。したがって、それらを1回測定してそのデータを独立型エンドポイントとして用い、さらに組み合わせてNSAA試験の一部として使用した。TSTANDおよびTTRWは、組み合わされたNSAAスケールとの関係について以下でさらに説明される。TTCLIMBを用いて、患者が4段階段を昇るのに要した時間(秒)を評価した。上記「米国/カナダ第2相試験」に記載された臨床プロトコルでは、TTCLIMB試験がNSAAの一部として実施したと誤って記載されていることに留意すべきである。
【0148】
6MWTは多くの疾患において広く使用され、受け入れられている試験であり、そのなかでも本試験で使用したものはDMDに適合されたバージョンである。この試験は、1)機能的運動状態、および2)運動に対する統合された全体的な反応、を臨床的に評価する、簡単で、標準化された、低技術で、費用効果の高い評価手段であると考えられている。本試験を実施するにあたり、2点(コーン)を25メートル離して設置し、患者に、コーン間を迅速かつ安全に6分間にわたって歩行するように依頼した。患者が6分間で歩いた総距離(メートル)を記録した。臨床評価者は患者が最初の50メートルに要した歩数と6分間で歩行した総距離(メートル)を測定した(Craig M. McDonald, MD, Erik K. Henricson, MPH, Jay J. Han, MD, R. Ted Abresch MS, Alina Nicorici, BS, Gary L. Elfring, MS, Leone Atkinson MD, PhD, Allen Reha BS, Samit Hirawat MD, and Langdon L. Miller MD, “The 6-minute Walk Test as a New Outcome Measure in Duchenne Muscular Dystrophy,” Muscle & Nerve, Vol. 41, pp. 500-510, April 2010, Wiley Periodicals, Inc.およびCraig M. McDonald, MD, Erik K. Henricson, MPH, R. Ted Abresch, MS, Julaine Florence, PhD, Michelle Eagle, PhD, Eduard Gappmaier, PhD, Allan M. Glanzman, DPT, Robert Spiegel, MD, Jay Barth, MD, Gary Elfring, MS, Allen Reha, MS, and Stuart W. Peltz, PhD, “The 6-minute Walk Test and Other Clinical Endpoints in Duchenne Muscular Dystrophy: Reliability, Concurrent Validity, and Minimal Clinically Important Differences from a Multicenter Study,” Muscle & Nerve, Vol. 48, pp. 357-368, September 2013, Wiley Periodicals, Inc.)。
【0149】
定量的筋肉検査(QMT)評価は、静的収縮時に生み出される筋力を測定するように設計され、神経筋疾患における筋力低下を測定するために十分に確立された方法である。この方法ではCINRG定量筋肉システム(CQMS)を使用した。CQMSは、DMDを患う子供の適合性を増加させる視聴覚フィードバックプロセスを含む。患者は背中を支持する機構を備えた検査テーブル上に置かれ、これにより手動で背中を安定化させる必要性を排除した。単回実施投与(single practice administration)の後、各患者はスコア付けによるQMT評価を完了した(2つの検査を行い、2つの値のうち高い方をデータ分析に使用した)。QMTは、歪みゲージを備えた直接コンピュータインターフェースを用い、力をポンドとして記録することによって行った。試験位置および試験順序を標準化した。以下に列挙した筋肉群の両側試験を行った(Mayhew JE, Florence JM, Mayhew TP, Henricson EK, Leshner RT, Mccarter RJ, et al., “Reliable surrogate outcome measures in multicenter clinical trials of Duchenne muscular dystrophy,” Muscle & Nerve, 2007; 35(1):36-42. Epub 2006/09/14.):
・ハンドグリップ。
・肘屈筋(二頭筋)。
・肘伸筋(三頭筋)。
・膝屈筋(ハムストリング)。
・膝伸筋(四頭筋)。
【0150】
QMTについては肘伸筋を除いて、24週間の処置期間にわたって、すべてのパラメーターにおいて強度の平均値にわずかな減少が観察された。しかし肘伸筋には強度のわずかな増加(改善)が見られた。いずれの項目においても25週目でのベースラインからの変化に統計的有意差はなかった。
【0151】
強度・機能試験は、TTSTAND、TTRW、TTCLIMB、NSAA、6MWT、QMTの順に実施した。
【0152】
(2)ノース・スター歩行能力評価(NSAA)
NSAAは、本来は少なくとも10メートルの歩行が可能なDMDを患う男児のために設計され、臨床医の採点による17項目からなる機能評価系である(E.S. Mazzone, S. Messina, G. Vasco, M. Main, M. Eagle, A. D’Amico, L. Doglio, L. Politano, F. Cavallaro, S. Frosini, L. Bello, F. Magri, A. Corlatti, E. Zucchini, B. Brancalion, F. Rossi, M. Ferretti, M.G. Motta, M.R. Cecio, A. Berardinelli, P. Alfieri, T. Mongini, A. Pini, G. Astrea, R. Battini, G. Comi, E. Pegoraro, L. Morandi, M. Pane, C. Angelini, C. Bruno, M. Villanova, G. Vita, M.A. Donati, E. Bertini, and E. Mercuri, “Reliability of the North Star Ambulatory Assessment in a multicentric setting,” Neuromuscular Disorders, Vol. 19, Issue 7, pp. 458-461, Jul 2009, Elsevier B.V.)。この評価ツールは立ち上がり、フロアからの起き上がり、決められたステップ、ホッピング、およびランニングを含む機能的活動を評価する。評価は、2=試験内容を正常に実行する能力;1=修正された方法または補助があれば試験内容を実行することができる;および0=試験を実行することができない、という3点評価尺度に基づく。したがって、総スコアは、これらの評価において、0(完全に歩行不能)から34(障害なし)までの範囲となり得る。個々の試験項目のスコアと合計スコアを記録した。TSTANDおよびTTRWはNSAAの一部として実行した。
・TTSTANDはDMD患者の標準的な臨床検査として行われるルーチン試験である。この試験では、患者が床に平らに横たわることから立つことまでに要した時間を用いて評価する。試験を実行するのに必要な秒数と、および患者がどのように立位に達したかを6点満点で評価した点数を記録した。
・TTRWを用いて、患者が10メートル歩行/走行するのに要した時間(秒単位)を評価した(走行/歩行の質についての6点満点評価スケールを含む)。
【0153】
米国/カナダの第2相試験:安全性
高用量および低用量のNS-065/NCNP-01(Viltolarsen)(40mg/kg/週または80mg/kg/週)を投与したDMD患者16例の安全性データについては、試験の実施、データの質、または参加者の安全性に大きな懸念はなかった。48週間の時点で治療を中止した参加者はいなかった。具体的には、NS-065/NCNP-01(Viltolarsen)の投与中止又は減量を要したTEAE(治療時に発現した有害事象)は認められなかった。すべての有害事象(有害事象)は軽度または中等度であった。
【実施例0154】
Viltolarsenの安定性へのpHの影響
(ア)pH安定性評価 (1)
溶液の液性とViltolarsenの安定性との関係を調べるため、ブリットン-ロビンソン(Britton-Robinson)緩衝液(pH 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10または11)を用いて、各種pH溶液中でのViltolarsenの安定性を評価した。
【0155】
[試験条件]
薬液濃度:Viltolarsen 2 mg/mL
溶解液 :ブリットン-ロビンソン緩衝液(pH 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10または11)
保存条件:(1) 121℃(オートクレーブ処理)で10, 30または60分;あるいは
(2) 80℃恒温器中で4または7日
エンドポイント:外観(目視確認)、pH(pH計)、純度試験(HPLC法)、回収率(残存率)(HPLC法)
HPLC条件:
流量:毎分1.0mL
検出器:市外吸光光度計(測定波長:264nm)
カラム:内径4.6mm、長さ15cmのステンレス管に3.5μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリル化シリカゲルを充填した(Waters,X-bridge C18)。
カラム温度:60℃
移動相:
・リン酸水素二ナトリウム1.42gを水約750mLに溶かし、水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH12.0に調製した後、水を加えて1000mLとした(P液)。
・P液700mLにアセトニトリル300mLを加え、臭化テトラブチルアンモニウム16.12gを溶かした(移動相A)。
・P液300mLにアセトニトリル300mLを加え、臭化テトラブチルアンモニウム9.67gを溶かした(移動相B)。
・移動相の送液:移動相A/B (100 vol%/0 vol%) から (0 vol%/100 vol%)へ30分かけて変更した。
本実施例および以下の実施例において、純度試験の値として、不純物を含む検出された全ピークの面積の合計を100とした場合のViltolarsenの主ピークの面積の百分率(主ピーク面百(%))を表す。
【0156】
[試験結果]
試験結果を表10及び図5に示す。「ST」とは、同じ薬液濃度で精製水に希釈したViltolarsen水溶液であり、試験時にその都度調製した(保存は行っていない)。その結果、Viltolarsenは、酸性領域の溶液中では不安定であったが、中性~弱アルカリ性の溶液中では比較的安定であった。
【0157】
【表10】
【0158】
(イ)pH-安定性評価 (2)
Viltolarsenの安定なpH領域を更に詳細に調べるため、リン酸カリウム-ホウ砂緩衝液(pH 6.0, 6.5, 7.0, 7.5, 8.0, 8.5, 9.0または9.2)を用いて、pH 6~9の各種pH溶液中でのViltolarsenの安定性を評価した。
【0159】
[試験条件]
薬液濃度:Viltolarsen 2 mg/mL
溶解液 :リン酸カリウム-ホウ砂緩衝液(pH 6.0, 6.5, 7.0, 7.5, 8.0, 8.5, 9.0または9.2)
保存条件:(1) 121℃(オートクレーブ処理)で10, 30または60分;あるいは
(2) 80℃恒温器中で1, 4, 7または14日
エンドポイント:外観(目視確認)、pH(pH計)、純度試験(HPLC法)、回収率(残存率)(HPLC法)
HPLC条件:
カラム温度を50℃とした以外は(ア)に同じ。
【0160】
[試験結果]
試験結果を表11及び図6に示す。その結果、ViltolarsenはpH 7~7.5の溶液中で最も安定であった。
【0161】
【表11】
【実施例0162】
製剤の安定性に対するpH調整剤の影響
本実施例は、Viltolarsen注射液を安定なpH域(pH 7~7.5)へ調整するためのpH調整剤を選択することを目的とする。各種pH調整剤(10mM KH2PO4、10mM Na2HPO4、10mM KH2PO4-Na2HPO4または100mM KH2PO4-Na2HPO4)を添加して安定pHに調整した10 mg/mL Viltolarsen溶液の安定性を評価した。
【0163】
[試験条件]
薬液濃度:Viltolarsen 10 mg/mL
薬液処方:下記表12のとおり
保存条件:121℃(オートクレーブ処理)で30~60分まで
エンドポイント:外観(目視確認)、pH(pH計)、純度試験(HPLC法)、回収率(残存率)(HPLC法)
【0164】
【表12】
【0165】
[試験結果]
試験結果を表13並びに図7に示す。その結果、Viltolarsenは、緩衝剤なしの場合であってもリン酸緩衝剤ありの場合と同等以上に安定であった。特に、高濃度のリン酸緩衝液(本実施例では100mM KH2PO4-Na2HPO4)中よりも安定であった。
【0166】
【表13】
【実施例0167】
緩衝剤と多量体の生成との関係
Viltolarsenは、保存条件によっては多量体が形成し、単量体の純度が低下することがある。本実施例において、等張化剤として塩化ナトリウムを0.9%添加した50 mg/mLのViltolarsen薬液に、さらに各種緩衝剤を添加したときの多量体の生成を測定した。
【0168】
[試験条件]
薬液濃度:Viltolarsen 50 mg/mL
保存条件:60℃恒温器中で5日まで
エンドポイント:多量体(HPLC法、SECカラム)
分析条件:
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:260 nm)
カラム:内径7.8 mm、長さ30 cmのステンレス管に7μmの液体クロマトグラフィー用スチレン系ビニルポリマーゲルを充填し、そのカラム2本を直列に接続した(TSK gel G3000 PWXL、7μm、7.8 mm×30 cm、東ソー)。
カラム温度:25°C
移動相:リン酸二水素ナトリウム二水和物15.6 gを水750 mLに溶かし、水酸化ナトリウム試液を加えてpHを7.3に調整した後、水を加えて1000 mLとした。この液800 mLにアセトニトリル200 mLを加えた。
流量:Viltolarsenの単量体の保持時間が約21分になるように調整した。
面積測定範囲:Viltolarsenの単量体のピークまでの範囲
【0169】
[試験結果]
試験結果を表14に示す。その結果、50 mMリン酸緩衝液(リン酸二水素ナトリウム・二水和物-リン酸水素二ナトリウム:NaH2PO4・2H2O-Na2HPO4)やクエン酸緩衝液(クエン酸三ナトリウム・二水和物)を添加することにより、多量体の生成が増加した。
【0170】
【表14】
【実施例0171】
溶解性の検討(100mg/mL)
注射液の高濃度化の検討を実施した。
【0172】
[試験条件]
薬液 :下記の2種類
【0173】
【表15】

ろ過フィルター:PVDF製(Millex GV, 0.22 μm, 33 mm, Millipore)
エンドポイント :外観(目視確認)、pH(pH計)、純度試験(HPLC法)、
ろ過後の回収率(HPLC法)
【0174】
[試験結果]
試験結果を表16に示す。100 mg/mLのViltolarsen注射液を調製したところ、溶解性や滅菌フィルターによるろ過に問題はなく、無色澄明の溶液となった。冷所保存後は粘性が出たものの外観に変化はなかった。以上のことから、100 mg/mLの注射液は調製可能であることがわかった。
【0175】
【表16】
【実施例0176】
溶解性の検討(50mg/mL)
50 mg/mLの薬液の溶解性を評価した。薬液を調製し、溶解性や滅菌フィルターによるろ過を行った。
【0177】
[試験条件]
薬液 :
【0178】
【表17】

ろ過フィルター:PVDF製(ミリディスクカートリッジフィルター, 0.22 μm, MCGL40S03/1個+MCGL40S03/2個,メルク)
エンドポイント :外観(目視確認)、pH(pH計)、純度試験(HPLC法)、定量(HPLC法)
【0179】
[試験結果]
試験結果を表18に示す。その結果、50 mg/mLは無色澄明の溶液となり、ろ過前後での含量に変化はなかった。以上のことから、50 mg/mLの注射液は調製可能であり、スケールアップも問題なかった
【0180】
【表18】
【0181】
以下の実施例8~10では、実施例2の臨床試験に参加した患者から得られたサンプル、または実施例2の臨床試験に参加した患者について試験を行った。
【実施例0182】
ジストロフィンタンパク質の質量分析による定量
(実験方法)
概要:生物学的分析法
サンプルはSDS-PAGE電気泳動によってタンパク質の分離を行い、ゲル内にてトリプシンによる酵素消化を行って、ペプチド断片とした。ペプチド断片をゲル片から抽出し、乾燥させた。ペプチドを再溶解し、逆相カラムによるHPLC-MS/MSでのジストロフィンタンパク質の同定と定量を行った。検量線の範囲は、正常コントロールのジストロフィンタンパク質量を100%とした場合の1%~25%であり、濃度は標準化タンパク質にフィラミンCを用いて、ピーク面積比から算出した。回帰式には最小2乗法を用い、y=mx+b(y:ピーク面積比、x:%ジストロフィン)の式を得た。
【0183】
ゲル内消化
LC-MS/MS分析で測定するサンプルは、SDS-PAGE(SDS:ドジデル硫酸ナトリウム、PAGE:ポリアクリルアミド電気泳動)し、分子量によるタンパク質の分離を行い、ゲル内消化にて得た。各ゲルは標準曲線を構成する検量体(0.0%, 1.0%, 3.0%, 10.0%, 25.0%ジストロフィン)、安定同位体標識アミノ酸を加えて培養したヒト筋管細胞から抽出したタンパク質(SILAC)12.5 μg、blank、臨床試験4サンプルの合計11サンプルで構成した。ゲルには12レーンあり、残り1レーンは分子量マーカーに用いた。検量体は5種類の非DMD筋生検、2種類のDMD筋生検からのタンパク質抽出液を混合して作製した。DMD筋生検はBinghamton大から入手し、倫理審査を終えている。本実施例に先立ち、Western Blotにより、各筋生検のジストロフィン量を予め測定しておいた。凍結切片作製装置により筋生検から厚さ10 μmの連続切片70枚を得た。筋切片は予めドライアイス上で冷やしてあったマイクロチューブに移した。Thermo Scientific社のプロテアーゼとホスファターゼ阻害剤を加えたRIPAバッファーを用いて、筋切片よりタンパク質を抽出した。抽出液のタンパク質濃度は、BCA protein assay kit (Pierce)を用いて定量した。電気泳動に供するサンプルは、各サンプルが50 μgのタンパク質を含むようにし、SILACを12.5μg添加して調整した。検量体と臨床サンプルには%ジストロフィンを求める際の内部標準として、SILAC抽出液を加えている。NuPAGE 3-8%Tris-Acetateゲルを用いて150V 75分間の電気泳動を行った。ゲル泳動は同一のサンプルに対して2枚のゲル(ゲルAとゲルB)を用い、duplicateで実施した。電気泳動を終えたゲルはメタノール:水:酢酸(50 : 45 : 5)にて30分間の固定をし、水に交換し再水和を2回行った。クマシーブルー染色を1時間行った。ゲルの脱色は4℃下で一晩行った。分子量マーカーで460 kDaから268 kDaの範囲のジストロフィンタンパク質が存在するゲルを切出し、水:アセトニトリル(50 : 50)で2度洗浄した。トリプシン(Gold mass spectrometry grade, Promega Corporation)を用いてゲル内消化し、ペプチド断片を得て、減圧遠心にて乾燥した。ジストロフィンのペプチド断片は、-80℃で保管しておき、Q Exactive Nano-LC-MS/MSでの分析に用いた。
【0184】
試験サンプル
臨床試験に参加した患者は16名で、各患者から投与前後の筋生検を得た。32検体からduplicateのため64サンプルの分析を行った。また、4検体のduplicateとなる8サンプルは再分析を実施したので、合計72サンプルを分析した。
【0185】
LC-MS/MSによる分析
高速液体クロマトグラフィーシステムDionex Ultimate 3000 RSLCnano(ThermoFisher Scientific)と質量分析装置Q Exactive Plus (HRMS: High Resolution Mass Spectrometer) (ThermoFisher Scientific)を組合せた液体クロマトグラフィー質量分析法(LC-MS/MS)により、得られたペプチド断片を分析した。
乾燥ペプチド断片は2%アセトニトリル(ACN)+0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)を用いて再溶解した。LC-MS/MSへの試料導入にはインジェクションループ 5 μL Dinoex nanoViper sample loop (ThermoFisher Scientific)を使用した。
【0186】
以下の条件で液体クロマトグラムを行った。
分析カラム:逆相カラム Acclaim Pepmap RSLC C18 15cm×75 μm、粒子径3 μm、EASY SPRAY(Thermo Fisher)
分析カラム温度:50℃
移動相A:1%ギ酸(HCOOH)、移動相B:0.1%ギ酸ACN
流速:0.500 μL/min (NC)
試料注入モード:Partial loop (loop size 5 μL)
試料注入量:1.00 - 4.00 μL
オートサンプラー温度:10℃
実行時間:40.00 分
【0187】
【表19】
【0188】
質量分析装置は以下の条件で使用した。
イオン源:Thermo Fisher EASY-Spray
イオンモード:陽イオン
スキャン:並列反応モニタリング
クロムピーク幅(半値全幅):10秒
最小総サイクル時間:40分
分解能:17,500
自動利得制御(Automatic Gain Control)ターゲット:1e5
最大試料注入時間:50ミリ秒
四重極型質量検出器分離幅:1.0 m/z 単位
スペクトラム データ:プロファイル
Mass許容範囲:10 ppm

Typical Tunable Parameters (Dystrophin Tune File)
Spray Voltage:1.8 kV
Capillary Temperature:275℃
S-Lens RF-Level:70
【0189】
【表20】
【0190】
【表21】
【0191】
【表22】
【0192】
クロマトグラフからThermo Scientific社のLC Quan version 3.0によってデータ収集を行った。Massの許容範囲は20 ppm、積分アルゴリズムはICISとした。検量体1%もしくは他の検量体のジストロフィンのピーク面積が10000付近以下である場合は、次のことに留意した。検量体0%と比較して、ジストロフィンとフィラミンCともに得られたペプチドと標識ペプチドのピーク面積比が信頼できる数値であり、%ジストロフィンに乱れを及ばさないことを確認した。
ジストロフィンとフィラミンCのピーク面積はプロダクトイオンに一致するピーク面積を合計することで計算した。ジストロフィンのピーク面積は、ジストロフィンの1種類のペプチド断片(DYST2アミノ酸配列:IFLTEQPLEGLEK(配列番号4))から得た。フィラミンCのピーク面積は、フィラミンCの2種類のペプチド断片(FILC1アミノ酸配列:VAVGQEQAFSVNTR(配列番号6)、FILC2アミノ酸配列:SPFVVNVAPPLDLSK(配列番号8))の平均値とした。
【0193】
【表23】
【0194】
検量体と各臨床サンプルにおけるジストロフィンタンパク質レベル(ジストロフィンとフィラミンCのピーク面積比)は以下の式から計算した。0%の検量体からもジストロフィンが検出されたため、各検量体のジストロフィンタンパク質レベルの数値から検量体0%のジストロフィンタンパク質レベルの数値を引いて補正した。Excelのテンプレートを用いて、ゲル毎に検量体から%ジストロフィンとジストロフィンタンパク質レベルの数値の回帰直線を求め、臨床サンプルのジストロフィンタンパク質レベルの数値から臨床サンプルの%ジストロフィンを得た。
【数1】
【0195】
【表24】
【0196】
(結果)
分析した各サンプルの%ジストロフィンは事前に規定した合否基準により、採択を決定した。測定した72サンプルのうち、60サンプルが基準を満たした。測定結果を表25及び26に示す。各検体はduplicateのサンプルを用いて試験を行っているが、40 mg/kg投与群の2患者(表25の患者E及びF)から得られた投与前後4検体については、一方のサンプル(ゲルB)が基準を満たさなかったので、得られた測定値は1サンプル(ゲル A)からの1つのみとなった。すなわち、40 mg/kg投与群では投与前の8検体16サンプルのうち14サンプルを測定できた。1サンプルが1%を示し、11サンプルは定量限界以下であった。また、25週時の8検体16サンプルのうち14サンプルを測定できた。1検体が2回の測定ともに定量限界以下となった他は、1%以上のジストロフィンが検出された。
80 mg/kg投与群では投与前の8検体16サンプル全てが定量限界未満となった。また、25週時の8検体16サンプルでは、全てのサンプルにおいて定量限界以上のジストロフィンが検出され、平均で4.2%であった。
以上からViltolarsenの40 mg/kgおよび80 mg/kg の投与によってジストロフィンタンパク質の発現が回復することが確認された。
【0197】
【表25】
【0198】
【表26】
【実施例0199】
運動機能試験(13、25週時(初回投与から12、24週経過時))
(実験方法)
本剤群の運動機能評価を、自然歴群を対照として比較した。自然歴群は米国の筋ジストロフィーの臨床試験ネットワークであるcooperative international neuromuscular research group(CINRG)が実施したDuchenne natural history study(CINRG DNHS)と呼ばれる研究から、ベースライン時のデータに基づき選択した。
CINRG DNHSは男性440名のDMD患者を対象とした縦断的自然歴研究であり、2006年から2016年のデータを収集し、ベースライン時、1年目に4回、2年目に2回、その後年1回、最長10年間来院することとしていた。各来院時には時間機能検査、筋力検査、アンケートによる機能検査、肺機能検査、生活の質の評価が実施された。201試験はCINRGに所属する施設によって実施され、標準操作手順書(SOP)及び臨床評価者訓練手順書は両試験間で一致させた。
【0200】
本試験の対照として、CINRG DNHSから201試験の年齢、ステロイド使用状況及び地域等の主要な登録基準を含む以下の基準を満たす患者を選択した。
・最低12ヵ月の時間機能検査データがある[ベースライン時の立ち上がり時間(TTSTAND)、4段階段昇り時間(TTCLIMB)及び10 m歩行/走行時間(TTRW)のデータが必要]。
・ベースライン時に4歳から10歳未満
・北アメリカ(米国又はカナダ)
・コルチコステロイドを最低3ヵ月間投与し、12-24ヵ月の観察期間を通して継続して使用している。
・他のエクソンスキップ薬の臨床試験に同時に登録していない。
・下記の遺伝的適格性基準を満たす。
(選択基準):
遺伝子検査結果がある患者
重複変異をもつ患者
ナンセンス変異又はフレームシフトを引き起こす微小変異をもつ患者
(除外基準):
プロモーターからエクソン8の間に変異がある患者(病状の進行が遅いとの報告(1)Hum Mutat. 2018; 39: 1193-1202及び(2)Hum Mutat. 2008; 29(5): 728-37があることから除外した)
エクソン44スキッピングによる治療に適した患者(病状の進行が遅いとの報告(1)があることから除外した)
インフレーム変異をもつ患者
【0201】
その結果、男児DMD患者65例が上記基準を満たし、そのうち、9例はエクソン53スキッピングによる治療に適したDMD患者(エクソン53スキップ群)、56例はエクソン53スキッピングによる治療に適さないDMD患者(非エクソン53スキップ群)であった。
【0202】
【表27】
【0203】
(結果)
Viltolarsenの治療を受けた被験者(Viltolarsen投与群)16例とCINRG DNHSの自然歴群(DNHS群)65例における、13週時と25週時における投与前もしくはベースラインからの時間機能検査[6分間歩行試験(6MWT)、立ち上がり時間(TTSTAND)の速度、4段階段昇り時間(TTCLIMB)の速度、10メートル走行/歩行時間(TTRW)の速度]とノース・スター歩行能力評価(NSAA)の変化を比較した。
本実施例で使用している解析方法では、「投与前値」またはベースラインを結果に影響を与える背景因子である共変量とし、13週時と25週時のデータを特定の被験者で繰り返し測定された値(repeated measures)として用いMMRM解析を行った。その結果、6分間歩行距離及び10メートル走行/歩行時間の速度で本実施例のViltolarsen投与群の方が有意に改善していた。また、その他の全ての運動機能試験においても本剤群の方が自然歴の経過より改善していた。
【0204】
図8は13週投与時(初回投与から12週経過時)および25週投与時(初回投与から24週経過時)のViltolarsen投与群とCINRG自然歴対照群(DNHS)における各運動機能試験結果のベースラインからの変化を表すグラフである。変化量はベースラインから、13週時、25週時までの変化量の最小2乗平均、エラーバーは標準誤差、P値はMMRMを用いて算出した。
【0205】
Viltolarsen投与群とDNHSの各時点におけるサンプル数は以下であった。
【表28】
【0206】
【表29】
【実施例0207】
運動機能試験(85週時(初回投与から84週経過時)まで)
(実験方法)
時間機能検査[6分間歩行試験(6MWT)、立ち上がり時間(TTSTAND)、4段階段昇り時間(TTCLIMB)、10メートル走行/歩行時間(TTRW)]とノース・スター歩行能力評価(NSAA)は、初回投与1週間前と、初回投与時(1週時)から12週が経過する時点毎(13, 25, 37, 49, 61, 73, 85週時)に測定した。201試験はCINRGに所属する施設によって実施され、運動機能試験はCINRGのDNHSで用いられた標準操作手順書(SOP)及び臨床評価者訓練手順書に一致させて行われた。被験者が子供であることもあり、試験実施への興味が持続しない等の理由で、試験によっては実施できない項目があった。
【0208】
(結果)
結果を図9図16に示す。ノース・スター歩行能力評価では、Viltolarsen投与群の5歳以上の多くの患者においてスコアが維持もしくは向上した。イタリアとイギリスの自然歴データを元に、臨床試験のような患者エントリー基準を設けて1, 2年後のNSAAスコアの変化を研究した文献によると、エクソン53スキッピング対象治療患者の1年間の平均変化量は-4.1ポイントであった(J Neurol Neurosurg Psychicary 87, 149-55, 2016)。文献のエントリー基準に一致するViltolarsen投与群の患者の48週経過時の変化量は+1.3ポイントであった。DHNSの結果を報告した文献(Muscle Nerve 48, 55-67, 2013)において7歳から9歳のDMD患者のうち20%が立ち上がり能力を喪失するが、Viltolarsen投与群では該当する患者はいなかった。7歳から9歳のDMD患者のうち10%は4段階段昇りが出来なくなるが、Viltolarsen投与群では該当する患者はいなかった。速度は、加齢とともに減少していくが、Viltolarsen投与群では全体としては速度の上昇が見られた。7歳から9歳のDMD患者のうち10%は自立歩行能力を喪失するが、NSPでは該当する患者はいなかった。また10メートル走行/歩行時間の速度は、加齢とともに減少していくが、Viltolarsen投与群では全体としては速度の上昇が見られた。WBによるジストロフィン定量値のベースラインからのジストロフィン発現量の変化と立ち上がり時間試験、4段階段昇り試験、10m歩行/走行試験のベースラインからの48週間での速度変化について、相関の有無と直線回帰式をExcelにて計算した。立ち上がり時間試験と10メートル走行/歩行試験に関しては、ジストロフィン発現量と速度変化において有意な相関関係があり(P < 0.05)、ジストロフィンの増加に伴い運動機能の速度変化が上昇することが示唆された。
産業上の利用可能性
【0209】
本発明により、NS-065/NCNP-01(Viltolarsen)の安定な組成を有する、デュシェンヌ型筋ジストロフィー治療用の医薬組成物が提供される。また、NS-065/NCNP-01(Viltolarsen)を含む医薬組成物に関し、効果的なDMD治療を奏しかつヒト患者に安全な範囲の用法・用量が提供される。当該医薬組成物により、低い副作用でデュシェンヌ型筋ジストロフィーの症状を効果的に軽減することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
【配列表】
2023171731000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2023-10-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)のヒト患者を治療するための医薬組成物であって、
(i)50 mg/mlの濃度のアンチセンスオリゴマー、その薬学的に許容される塩またはその水和物と、(ii)8 mg/ml~10 mg/mlの濃度の塩化ナトリウムと、を含み、
前記アンチセンスオリゴマーが、Viltolarsenであり、ヒトジストロフィン遺伝子のエクソン53の5’末端から36位から56位のヌクレオチドからなる配列に相補的な塩基配列からなり、
前記医薬組成物が7.0~7.5の間のpHを有する水溶液であり、
前記医薬組成物はリン酸緩衝液を含まない、医薬組成物。
【請求項2】
さらにクエン酸緩衝液を含まない、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
緩衝液を含まない、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
等張化剤、pH調整剤及び溶媒からなる群より選択される少なくとも1つの成分をさらに含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記等張化剤が塩化ナトリウム、塩化カリウム、グルコース、フルクトース、マルトース、スクロース、ラクトース、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、トレハロース及びグリセリンからなる群より選択される少なくとも1つである、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記pH調整剤が塩酸、水酸化ナトリウム、クエン酸、乳酸、及びモノエタノールアミンからなる群より選択される少なくとも1つである、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記溶媒が水である、請求項4に記載の医薬組成物。