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特開2023-171768ラクトフェリン含有水溶液の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023171768
(43)【公開日】2023-12-05
(54)【発明の名称】ラクトフェリン含有水溶液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23J 3/08 20060101AFI20231128BHJP
   A23C 3/02 20060101ALI20231128BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20231128BHJP
【FI】
A23J3/08
A23C3/02
A23L5/00 M
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023145713
(22)【出願日】2023-09-08
(62)【分割の表示】P 2020505610の分割
【原出願日】2019-01-08
(31)【優先権主張番号】P 2018044770
(32)【優先日】2018-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006127
【氏名又は名称】森永乳業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100147865
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 美和子
(72)【発明者】
【氏名】池田 正幸
(72)【発明者】
【氏名】橋本 潤一
(72)【発明者】
【氏名】篠田 一三
(72)【発明者】
【氏名】岩本 洋
(72)【発明者】
【氏名】武田 安弘
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ラクトフェリンの活性を維持しつつ、ラクトフェリンを高温且つ短時間で殺菌するための手段の提供。
【解決手段】本技術は、ラクトフェリン以外の蛋白質の合計含有質量がラクトフェリン含有質量の1/12以下であるラクトフェリン含有水溶液を100℃以上で加熱殺菌する殺菌工程を含む、ラクトフェリン含有水溶液の製造方法を提供する。また、本技術は、ラクトフェリン以外の蛋白質の合計含有質量がラクトフェリン含有質量の1/12以下であり、且つ、生存細菌を含まない、ラクトフェリン含有水溶液も提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトフェリン材料と水とを混合することによって、ラクトフェリン以外の蛋白質の合計含有質量がラクトフェリン含有質量の1/12以下であるラクトフェリン含有水溶液を調製する調製工程、及び、
前記ラクトフェリン含有水溶液そのものを、120℃以上で4分以上加熱殺菌する殺菌工程
を含む、ラクトフェリン含有水溶液の製造方法。
【請求項2】
ラクトフェリン以外の蛋白質の合計含有質量がラクトフェリン含有質量の1/12以下であるラクトフェリン含有水溶液を120℃以上で4分以上加熱殺菌する殺菌工程を含み、
前記殺菌工程に付される前記ラクトフェリン含有水溶液は、塩酸又は水酸化ナトリウム又は第一乳酸の添加によりpHが調整されたものでない、
ラクトフェリン含有水溶液の製造方法。
【請求項3】
ラクトフェリン以外の蛋白質の合計含有質量がラクトフェリン含有質量の1/12以下であるラクトフェリン含有水溶液を120℃以上4分以上加熱殺菌する殺菌工程を含み、
前記殺菌工程に付される前記ラクトフェリン含有水溶液は、塩酸又は水酸化ナトリウムの添加によりpHが調整されたものでなく、且つ、
前記殺菌工程に付されるラクトフェリン含有水溶液のラクトフェリン濃度が30mg/ml以下である、
ラクトフェリン含有水溶液の製造方法。
【請求項4】
前記加熱殺菌に付される前記ラクトフェリン含有水溶液は、前記ラクトフェリン材料及び前記水のみを含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記殺菌工程に付されるラクトフェリン含有水溶液の塩濃度が5mM以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記殺菌工程に付されるラクトフェリン含有水溶液のラクトフェリン濃度が400mg/ml以下である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項7】
前記殺菌工程に付されるラクトフェリン含有水溶液が安定化剤を含まない、請求項1~のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記殺菌工程に付されるラクトフェリン含有水溶液中のラクトフェリンのCOMT阻害活性が、前記殺菌工程後において80%以上維持される、請求項1~のいずれか一項に記載の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、ラクトフェリン含有水溶液の製造方法に関し、特には、殺菌工程を含むラクトフェリン含有水溶液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品の保存性又は安全性を確保するために殺菌が行われている。多くの食品に関して、殺菌のために、加熱により微生物を死滅させることが行われている。近年注目を集めている食品素材であるラクトフェリンについても、その活性を維持しつつ加熱殺菌する方法がいくつか提案されている。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、ラクトフェリン水溶液を加熱殺菌するに際して、当該水溶液のイオン強度を所定の式を満たすように調整した後に殺菌する手法が開示されている。下記特許文献2には、ラクトフェリンを含有する液体のpHを1.0以上6.5以下に調整し、60℃以上の温度で加熱する手法が開示されている。
【0004】
また、下記特許文献3には、ラクトフェリン類と、グリセリン脂肪酸エステル、カゼインナトリウム、レシチンの少なくとも1種の安定化剤からなる加熱安定性のあるラクトフェリン組成物が開示されている。当該特許文献3には、当該組成物を、LF類を失活させることなく90℃以上で加熱することが可能であると記載されている。下記特許文献4には、乳塩基性蛋白質画分と、大豆多糖類、キサンタンガム、ペクチン、アラビアガム、ガティガム、カラギナン、ローカストビーンガム、カゼインナトリウム、レシチン、カルボキシメチルセルロースの少なくとも1種の安定化剤からなる加熱安定性のある蛋白質組成物が開示されている。当該特許文献4には、当該組成物を、乳塩基性蛋白質画分を失活させることなく90℃以上で加熱することが可能であると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2-108629号公報
【特許文献2】特開平3-215500号公報
【特許文献3】特開2010-180219号公報
【特許文献4】特開2014-193125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
殺菌されるべき細菌のうちには、死滅しにくい細菌もいる。例えば、胞子を形成する細菌は死滅しにくい。死滅しにくい細菌を殺菌するために、加熱殺菌において高い殺菌温度が採用されることがある。そのような加熱殺菌方法として、例えば超高温加熱処理法(UHT)(120~150℃、1~5秒の加熱処理)及び高温短時間殺菌方法(HTST)(72~75℃、15秒の加熱処理)を挙げることができる。また、高い殺菌温度を採用できない場合は、例えば低温を採用し且つ加熱処理時間を延ばすことが行われる。低温殺菌方法として、例えば低温保持殺菌方法(LTLT)(62~65℃、30分の加熱処理)を挙げることができる。
【0007】
また、食品の種類によって採用されるべき殺菌条件は異なる。長期保存及び常温流通が可能である食品を製造する場合には、特に高い温度での殺菌が求められる。例えば、長期保存が可能なレトルト食品の加熱では、食中毒の原因菌として知られているボツリヌス菌の芽胞を死滅させるために、120℃4分以上の殺菌条件が求められる。また、清涼飲料水、乳飲料、及びミネラルウォーター等の液体食品の加熱殺菌に関しては、UHT法が主流技術である。
【0008】
ラクトフェリンの活性を維持しつつ、高温且つ短時間で殺菌を行うことができれば、ラクトフェリンを食品素材として利用するために非常に有用である。
【0009】
ラクトフェリンを殺菌するための手法が上記で述べたとおりいくつか開示されている。しかしながら、上記特許文献1に記載の手法では、殺菌温度を120℃以上とするためには、イオン強度を理論上食塩で0.1μM以下にする必要がある。また、上記特許文献2に記載の手法を採用しても、120℃以上の高温での殺菌では、ラクトフェリンの活性を維持することはできない。上記特許文献3及び4の組成物は安定化剤を含むので、当該安定化剤により風味及び/又は物性が変化し、且つ、コスト面でも割高となる。
【0010】
そこで、ラクトフェリンの活性を維持しつつ、ラクトフェリンを高温且つ短時間で殺菌するための新たな手法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、ラクトフェリンの活性を維持しつつ、ラクトフェリンを高温且つ短時間で殺菌する新たな手法を見出した。
【0012】
すなわち、本技術は以下を提供する。
[1]ラクトフェリン以外の蛋白質の合計含有質量がラクトフェリン含有質量の1/12以下であるラクトフェリン含有水溶液を100℃以上で加熱殺菌する殺菌工程を含む、ラクトフェリン含有水溶液の製造方法。
[2]前記殺菌工程に付されるラクトフェリン含有水溶液の塩濃度が5mM以下である、[1]に記載の製造方法。
[3]前記殺菌工程に付されるラクトフェリン含有水溶液のラクトフェリン濃度が400mg/ml以下である、[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4]前記殺菌工程における加熱殺菌の温度が120℃以上である、[1]~[3]のいずれか一つに記載の製造方法。
[5]前記殺菌工程における加熱殺菌の温度及び時間がそれぞれ120℃以上及び4分以上である、[1]~[4]のいずれか一つに記載の製造方法。
[6]前記殺菌工程に付されるラクトフェリン含有水溶液が安定化剤を含まない、[1]~[5]のいずれか一つに記載の製造方法。
[7]前記殺菌工程に付されるラクトフェリン含有水溶液中のラクトフェリンのCOMT阻害活性が、前記殺菌工程後において80%以上維持される、[1]~[6]のいずれか一つに記載の製造方法。
また、本技術は、以下も提供する。
<1>
ラクトフェリン材料と水とを混合することによって、ラクトフェリン以外の蛋白質の合計含有質量がラクトフェリン含有質量の1/12以下であるラクトフェリン含有水溶液を調製する調製工程、及び、
前記ラクトフェリン含有水溶液そのものを、120℃以上で4分以上加熱殺菌する殺菌工程
を含む、ラクトフェリン含有水溶液の製造方法。
<2>
ラクトフェリン以外の蛋白質の合計含有質量がラクトフェリン含有質量の1/12以下であるラクトフェリン含有水溶液を120℃以上で4分以上加熱殺菌する殺菌工程を含み、
前記殺菌工程に付される前記ラクトフェリン含有水溶液は、塩酸又は水酸化ナトリウム又は第一乳酸の添加によりpHが調整されたものでない、
ラクトフェリン含有水溶液の製造方法。
<3>
ラクトフェリン以外の蛋白質の合計含有質量がラクトフェリン含有質量の1/12以下であるラクトフェリン含有水溶液を120℃以上で4分以上加熱殺菌する殺菌工程を含み、
前記殺菌工程に付される前記ラクトフェリン含有水溶液は、塩酸又は水酸化ナトリウムの添加によりpHが調整されたものでなく、且つ、
前記殺菌工程に付されるラクトフェリン含有水溶液のラクトフェリン濃度が30mg/ml以下である、
ラクトフェリン含有水溶液の製造方法。
<4>
前記加熱殺菌に付される前記ラクトフェリン含有水溶液は、前記ラクトフェリン材料及び前記水のみを含む、<1>に記載の製造方法。
<5>
前記殺菌工程に付されるラクトフェリン含有水溶液の塩濃度が5mM以下である、<1>~<4>のいずれか一つに記載の製造方法。
<6>
前記殺菌工程に付されるラクトフェリン含有水溶液のラクトフェリン濃度が400mg/ml以下である、<1>又は<2>に記載の製造方法。
<7>
前記殺菌工程に付されるラクトフェリン含有水溶液が安定化剤を含まない、請求項<1>~<6>のいずれか一つに記載の製造方法。
<8>
前記殺菌工程に付されるラクトフェリン含有水溶液中のラクトフェリンのCOMT阻害活性が、前記殺菌工程後において80%以上維持される、<1>~<7>のいずれか一つに記載の製造方法。
【0013】
また、本技術は以下も提供する。
[8]ラクトフェリン以外の蛋白質の合計含有質量がラクトフェリン含有質量の1/12以下であり、且つ、生存細菌を含まない、ラクトフェリン含有水溶液。
[9]塩濃度が5mM以下である、[8]に記載のラクトフェリン含有水溶液。
[10]ラクトフェリン濃度が400mg/ml以下である、[8]又は[9]に記載のラクトフェリン含有水溶液。
[11]安定化剤を含まない、[8]~[10]のいずれか一つに記載のラクトフェリン含有水溶液。
【発明の効果】
【0014】
本技術によれば、ラクトフェリンの活性を維持しつつ、ラクトフェリンを高温且つ短時間で殺菌することができる。
なお、本技術の効果は、ここに記載された効果に限定されず、本明細書内に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】オートクレーブ殺菌処理後のラクトフェリン含有水溶液の濁度の測定結果を示すグラフである。
図2】オートクレーブ殺菌処理後のラクトフェリン含有水溶液の濁度の測定結果を示すグラフである。
図3】オートクレーブ殺菌処理後のラクトフェリン含有水溶液の濁度の測定結果を示すグラフである。
図4】ラクトフェリン含有水溶液のCOMT阻害活性と濁度の関係を示すグラフである。
図5】ラクトフェリン含有水溶液についてのHPLC分析結果を示すグラフである。
図6】ラクトフェリン含有水溶液のCOMT阻害活性の測定結果を示すグラフである。
図7】ラクトフェリン含有水溶液の抗菌活性測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本技術の好ましい実施形態について説明する。ただし、本技術は以下の好ましい実施形態に限定されず、本技術の範囲内で自由に変更することができるものである。
【0017】
1.ラクトフェリン含有水溶液の製造方法
【0018】
(1)殺菌工程
【0019】
本技術に従う製造方法は、ラクトフェリン以外の蛋白質の合計含有質量がラクトフェリン含有質量の1/12以下であるラクトフェリン含有水溶液を100℃以上で加熱殺菌する殺菌工程を含む。当該殺菌工程によって、ラクトフェリンの活性を維持しつつ、ラクトフェリンを高温且つ短時間で殺菌することができる。
【0020】
ラクトフェリンは、例えば乳、涙、唾液、及び血液などの体液中に存在する鉄結合性の糖蛋白質である。ラクトフェリンは、哺乳動物の乳、例えばヒツジ、ヤギ、ブタ、マウス、水牛、ラクダ、ヤク、ウマ、ロバ、ラマ、ウシ又はヒトなどの乳に含まれる。
本技術において用いられるラクトフェリンは、哺乳動物の乳由来のものであってよい。含有量及び入手容易性の観点から、例えばウシ又はヒトの乳が、ラクトフェリンを入手するための源として好ましく、特にはウシ乳がラクトフェリンを入手するための源として好ましい。すなわち、本技術において用いられるラクトフェリンとして、例えばウシ又はヒトの乳に由来するラクトフェリン、好ましくはウシ乳由来ラクトフェリンが用いられてよい。乳は、初乳、移行乳、常乳、及び末期乳のいずれでもよい。本技術において、市販入手可能なラクトフェリンが用いられてもよい。
本技術において用いられるラクトフェリンは、哺乳動物の乳を処理して得られる脱脂乳又はホエーから常法(例えば、イオンクロマトグラフィー等)によって分離されたラクトフェリンであってもよい。
本技術において用いられるラクトフェリンは、非グリコシル化又はグリコシル化されたものでもよい。
【0021】
飲食品分野において用いられるラクトフェリンは、通常は乳由来ラクトフェリン(特には牛乳由来ラクトフェリン)である。乳由来ラクトフェリンは、多くの場合、乳清から得られる。このようにして得られる乳由来ラクトフェリンは、ラクトフェリン以外の蛋白質も含む。すなわち、飲食品分野においてラクトフェリンとして用いられているものは、通常はラクトフェリンとラクトフェリン以外の蛋白質とを含む組成物である。
本発明者らは、加熱殺菌に付されるラクトフェリン含有水溶液中のラクトフェリン以外の蛋白質の含有割合を下げることによって、ラクトフェリンの活性を維持しつつ、高温且つ短時間で殺菌できることを見出した。
ラクトフェリンの殺菌方法に関する上記特許文献1及び2は、100℃以上の温度を適用することは想定されていないと考えられる。また、100℃以上の温度を適用することが想定されている上記特許文献3及び4に記載の技術は、ラクトフェリンの耐熱性を向上させるための安定化剤を含むことを前提としている。本技術では、ラクトフェリン以外の夾雑蛋白質の含有割合を下げることによって、当該安定化剤を含まずとも、100℃以上の高温、特には120℃以上の高温を殺菌に適用することが可能となる。
【0022】
前記殺菌工程に付されるラクトフェリン含有水溶液中のラクトフェリン以外の蛋白質の合計含有質量は、ラクトフェリン含有質量の1/12以下である。このようにラクトフェリン以外の蛋白質の合計含有質量を調整することによって、100℃以上の温度で加熱しても、ラクトフェリンは沈殿を生成せず、且つ、その活性を維持することができる。
なお、本願発明に含まれる蛋白質としては、乳由来のカゼイン、ホエイ等の蛋白質や、ラクトフェリン精製工程で含まれる微生物や空気中に飛散する混入蛋白質、牛の血液由来に見いださせる蛋白質が挙げられる。なお、ラクトフェリンが組換え蛋白質として大腸菌により生産され場合、培地成分由来の蛋白質等が挙げられる。
前記殺菌工程に付されるラクトフェリン含有水溶液中のラクトフェリン以外の蛋白質の合計含有質量は、ラクトフェリン含有質量の1/12以下、好ましくはラクトフェリン含有質量の1/14以下、より好ましくは1/16以下、さらにより好ましくは1/18以下、特に好ましくは1/20以下である。このようにラクトフェリン以外の蛋白質の合計含有質量をさらに低めることで、100℃以上の温度で加熱した場合に、特には120℃以上の温度で加熱した場合に、沈殿生成がより起こりにくくなり、且つ、より活性が維持される。
ラクトフェリン以外の蛋白質の合計含有質量及びラクトフェリン含有質量は、HPLCによる分離を行うことによって測定できる。詳細には、まず、ラクトフェリン含有水溶液に対してAlliance e2695 (Waters社製) を用いた逆相HPLCによる分離を行い、次に、280nmの吸収でピークが検出された画分を、ラクトフェリンを含む画分とラクトフェリン以外の蛋白質を含む画分とに分ける。ラクトフェリンを含む画分であることは、例えばラクトフェリンに対する市販入手可能な抗体を用いることで確認できる。前者の画分及び後者の画分をそれぞれ集め、溶媒を凍結乾燥により消失させ、新たに水に溶解させる。そして、前者の画分及び後者の画分のそれぞれに含まれる蛋白質量を、色素法によるプロテインアッセイにより測定することで、ラクトフェリン及びラクトフェリン以外の蛋白質含量を測定することができる。
【0023】
前記殺菌工程に付されるラクトフェリン含有水溶液中のラクトフェリン以外の蛋白質の合計含有割合の下限値は、例えば0質量%であってよく、又は、当該水溶液を調製するために用いられるラクトフェリン材料の製造効率の観点からは0質量%超であってもよい。例えば、前記殺菌工程に付されるラクトフェリン含有水溶液中のラクトフェリン以外の蛋白質の合計含有質量は、例えばラクトフェリン含有質量の1/100,000以上、1/10,000以上、1/5,000以上、1/1,000以上、又は1/100以上であってよい。
【0024】
前記殺菌工程における加熱殺菌の温度は100℃以上である。本技術では、このような高温を採用することができるので、短時間での殺菌が可能となる。前記殺菌工程における加熱殺菌の温度は、好ましくは105℃以上であり、より好ましくは110℃以上であり、さらにより好ましくは112℃以上、114℃以上、116℃以上、又は118℃以上であり、特に好ましくは120℃以上である。本技術に従いこのような高温を採用することによって、死滅しにくい細菌を短時間で殺菌することができる。例えば、本技術によって、レトルト食品に求められる加熱条件(120℃4分以上)又はUHT法を、ラクトフェリンに対して適用することができる。
【0025】
前記殺菌工程における加熱殺菌の温度は、好ましくは180℃以下であり、より好ましくは160℃以下であり、さらにより好ましくは155℃以下、又は150℃以下であり、特に好ましくは140℃以下である。高すぎる温度は、水の蒸発を引き起こし、得られるラクトフェリン含有水溶液の量が減少することがある。
【0026】
本技術の好ましい実施態様に従い、前記殺菌工程に付されるラクトフェリン含有水溶液の塩濃度は5mM以下である。このような塩濃度によって、沈殿生成がより起こりにくくなり、且つ、より活性が維持される。前記殺菌工程に付されるラクトフェリン含有水溶液の塩濃度は、好ましくは4mM以下、より好ましくは3mM以下、さらにより好ましくは2mM以下であってよい。
前記殺菌工程に付されるラクトフェリン含有水溶液の塩濃度は、水溶液の製造効率の観点から、例えば0μM超、0.1μM以上若しくは0.1μM超、0.5μM以上、1μM以上、1.5μM以上、又は10μM以上であってよい。
前記殺菌工程に付されるラクトフェリン含有水溶液の塩濃度は、IPC-MS(誘導結合プラズマ質量分析計)によって測定される。
【0027】
前記殺菌工程に付されるラクトフェリン含有水溶液のラクトフェリン濃度は、好ましくは400mg/ml以下であり、より好ましくは200mg/ml以下若しくは100mg/ml以下であり、さらにより好ましくは30mg/ml以下であり、さらにより好ましくは10mg/ml以下であり、特に好ましくは1mg/ml以下であってよい。ラクトフェリン濃度が高すぎる場合は、ラクトフェリンが溶解しない場合がある。
前記殺菌工程に付されるラクトフェリン含有水溶液のラクトフェリン濃度は、0mg/ml超であればよい。前記殺菌工程に付されるラクトフェリン含有水溶液のラクトフェリン濃度は、例えば0.00001mg/ml以上、0.0001mg/ml以上、0.001mg/ml以上、又は0.01mg/ml以上であってよい。
【0028】
前記殺菌工程における加熱殺菌の時間は、例えば殺菌温度及び殺菌手法などの要因に応じて当業者により設定されてよい。前記殺菌工程における加熱殺菌の時間は、例えば0.5秒~15分、好ましくは1秒~10分、より好ましくは1秒~8分であってよい。
殺菌手法が、UHT法である場合、前記殺菌工程における加熱殺菌の時間は、好ましくは0.5秒~10秒、より好ましくは0.8秒~8秒、さらにより好ましくは1秒~5秒である。
殺菌手法が、レトルト殺菌である場合、前記殺菌工程における加熱殺菌の時間は、好ましくは2分~10分、より好ましくは3分~8分、特には4分~7分である。
本技術において、前記殺菌工程における加熱殺菌の時間とは、前記殺菌工程に付されるラクトフェリン含有水溶液の中心部分の温度が、達成されるべき温度(殺菌温度)で維持される時間をいう。
【0029】
本技術の特に好ましい実施態様に従い、前記殺菌工程における加熱殺菌の温度及び時間がそれぞれ120℃以上及び4分以上である。これにより、レトルト殺菌に求められる殺菌条件が満たされる。
【0030】
前記殺菌工程に付されるラクトフェリン含有水溶液は、好ましくは安定化剤を含まない。当該安定化剤とは、当該ラクトフェリン含有水溶液を調製するために用いられるラクトフェリン材料とは別に、ラクトフェリンの耐熱性を向上させるために添加される成分をいう。本技術によって、当該安定化剤を含むことなく、ラクトフェリンの活性を維持することができ、また、加熱による沈殿生成も抑制される。また、当該安定化剤を含まないことによって、製造されるラクトフェリン含有水溶液の風味及び/又は物性の変化が抑制される。
当該安定化剤として、例えば上記特許文献3及び4に記載されたものを挙げることができる。すなわち、前記殺菌工程に付されるラクトフェリン含有水溶液は、グリセリン脂肪酸エステル、カゼインナトリウム、レシチン、大豆多糖類、キサンタンガム、ペクチン、アラビアガム、ガティガム、カラギナン、ローカストビーンガム、及びカルボキシメチルセルロースからなる群から選ばれる一つ又は二つ以上の安定化剤を含まない。特には、前記殺菌工程に付されるラクトフェリン含有水溶液は、グリセリン脂肪酸エステル、カゼインナトリウム、レシチン、大豆多糖類、キサンタンガム、ペクチン、アラビアガム、ガティガム、カラギナン、ローカストビーンガム、及びカルボキシメチルセルロースのいずれも安定化剤として含まない。
【0031】
前記殺菌工程に付されるラクトフェリン含有水溶液を調製するために用いられるラクトフェリン材料には、微量ではあるが、カゼインナトリウムが含まれることがある。前記殺菌工程に付されるラクトフェリン含有水溶液を調製するためのラクトフェリン材料は、カゼインナトリウムを、ラクトフェリン材料の質量に対して、例えば5質量%以下、特には2質量%以下、より特には0.5質量%以下の含有割合で含むことがある。ラクトフェリン材料に元々含まれるカゼインナトリウムは、前記安定化剤でない。
なお、前記殺菌工程に付されるラクトフェリン含有水溶液は、カゼインナトリウム濃度は、例えば20mg/ml以下であり、より好ましくは10mg/ml以下又は5mg/ml以下であり、さらにより好ましくは1.5mg/ml以下であり、さらにより好ましくは0.5mg/ml以下であり、特に好ましくは0.05mg/ml以下であってよいが、特に好ましくは前記殺菌工程に付されるラクトフェリン含有水溶液はカゼインナトリウムを含まない。
【0032】
本技術の製造方法において、前記殺菌工程後において、前記殺菌工程前にラクトフェリンが有していた活性が維持される。
ラクトフェリンの活性の維持の指標として、例えばラクトフェリンの抗菌活性及び/又はカテコール-O-メチルトランスフェラーゼ(以下、COMTともいう)阻害活性が用いられてよい。
本技術において活性の維持とは、前記殺菌工程前にラクトフェリンが有していた或る活性が、前記殺菌工程後においても例えば50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらにより好ましくは80%以上維持されることを意味してよい。また、本技術において活性の維持とは、前記殺菌工程前にラクトフェリンが有していた或る活性が、前記殺菌工程後においても例えば90%以上維持されてもよい。
また、本技術の製造方法において、前記殺菌工程後において、前記殺菌工程前にラクトフェリンが有していた活性が増強されてもよい。例えば、ラクトフェリンのCOMT活性及び抗菌活性、特にはラクトフェリンの抗菌活性は、本技術の製造方法における前記殺菌工程によって、増強することができる。
すなわち、本技術の製造方法において、前記殺菌工程後において、前記殺菌工程前にラクトフェリンが有していた活性が維持されてよく、又は、増強されてもよい。
【0033】
本技術に従い、好ましくは、前記殺菌工程に付されるラクトフェリン含有水溶液中のラクトフェリンのCOMT阻害活性が、当該殺菌工程後において例えば50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらにより好ましくは80%以上維持される。すなわち、本技術における殺菌工程は、好ましくは、当該殺菌工程後において、殺菌工程前のラクトフェリンのCOMT阻害活性を例えば50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらにより好ましくは80%以上維持するものであってよい。
COMTは、種々の臓器において発現されており、肝臓及び腎臓では高い活性を有する。COMTは、腸、特には腸粘膜においても発現される。神経伝達物質の代謝におけるCOMTの生理学的役割は、薬学分野において注目されている。
本技術において、COMT阻害活性は、Ikeda et al.,Inhibitory Effect of Bovine Lactoferrin on Catechol-O-Methyltransferase,Molecules.2017,22,1373に記載された方法に準じて測定されてよい。具体的なCOMT阻害活性の測定方法は、以下の試験例において記載されたとおりである。
【0034】
本技術に従い、好ましくは、前記殺菌工程に付されるラクトフェリン含有水溶液中のラクトフェリンの抗菌活性が、当該殺菌工程後においても維持又は増強される。抗菌活性の維持とは、当該殺菌工程前と当該殺菌工程後において、当該ラクトフェリン含有水溶液によって細菌、例えば大腸菌など、の増殖を同程度に抑制することを意味してよい。また、抗菌活性の増強とは、当該殺菌工程後の当該ラクトフェリン含有水溶液が、細菌、例えば大腸菌など、の増殖を、当該殺菌工程前の当該ラクトフェリン含有水溶液と比べてより抑制することを意味してよい。
【0035】
本技術の好ましい実施態様に従い、前記殺菌工程に付されるラクトフェリン含有水溶液は、蛋白質の合計含有割合が、当該水溶液の質量に対して好ましくは420mg/ml以下であり、より好ましくは31.5mg/ml以下若しくは10.5mg/ml以下であり、さらにより好ましくは1.05mg/ml以下であり、特に好ましくは0.2mg/ml以下であってよい。このような数値範囲を満たす蛋白質含有割合によって、蛋白質の沈殿生成をより抑制することができる。
【0036】
本技術の好ましい実施態様に従い、前記殺菌工程に付されるラクトフェリン含有水溶液の水の含有割合は、当該水溶液の質量に対して例えば95質量%以上、好ましくは96質量%以上、より好ましくは97質量%以上、さらにより好ましくは98質量%以上、さらにより好ましくは99質量%以上、特に好ましくは99.5質量%以上であってよい。すなわち、前記殺菌工程に付されるラクトフェリン含有水溶液の水以外の成分の含有割合は、当該水溶液の質量に対して例えば5質量%以下、好ましくは4質量%以下、より好ましくは3質量%以下であってよい。このような水の含有割合によって、ラクトフェリンの沈殿生成がさらに起こりにくくなる。
また、本技術において前記水は、例えば脱イオン水及びミリQ水などの純水であることが好ましい。純水を用いることによって、塩濃度を容易に調整することができる。
また、本技術の好ましい実施態様に従い、前記殺菌工程に付されるラクトフェリン含有水溶液の固形分濃度は、例えば45w/v%以下であり、特には3w/v%以下、より特には0.1w/v%以下であってよい。
また、本技術の好ましい実施態様に従い、前記殺菌工程に付されるラクトフェリン含有水溶液の粘度は、例えば25℃において、800mPa・s以下、特には300mPa・s以下、より特には7mPa・s以下であってよい。
【0037】
前記殺菌工程におけるラクトフェリン含有水溶液の加熱殺菌の手法は、当業者により適宜選択されてよい。加熱殺菌手法として、例えば、UHT法及びレトルト殺菌を挙げることができる。加熱殺菌のために用いられる装置は、採用される加熱殺菌手法に応じて、当業者が適宜選択することができる。例えばUHT法の場合は、プレート式殺菌機を用いることによって加熱殺菌することができる。レトルト殺菌の場合は、レトルト容器にラクトフェリン含有水溶液を充填後に、レトルト滅菌器を用いてレトルト殺菌を行うことによって、加熱殺菌することができる。
殺菌手法はこれらに限定されない。本技術における殺菌工程は、例えば、清涼飲料水の製造(殺菌)基準 食品衛生法 厚生労働省告示第213号1986年に従い行われてよい。
【0038】
(2)調製工程
【0039】
本技術に従う製造方法は、前記殺菌工程に付されるラクトフェリン含有水溶液を調製する調製工程を含んでもよい。当該調製工程は、例えばラクトフェリン材料と、水性媒体(例えば水若しくは水溶液)、及び、任意的に他の成分を混合する工程を含む。ラクトフェリン材料に含まれるラクトフェリンは、前記水若しくは水性媒体中に溶解される。
【0040】
当該調製工程では、ラクトフェリン以外の蛋白質の合計含有質量がラクトフェリン含有質量の1/12以下、好ましくは1/14以下、より好ましくは1/16以下、さらにより好ましくは1/18以下、特に好ましくは1/20以下となるように、ラクトフェリン含有水溶液が調製されてよい。当該ラクトフェリン含有水溶液を調製するために、例えば、ラクトフェリン純度の高いラクトフェリン材料が水又は水溶液に溶解されてよい。当該ラクトフェリン材料として、例えばラクトフェリン純度が90質量%以上、好ましくは92質量%以上、より好ましくは94質量%以上、さらにより好ましくは95質量%以上、特に好ましくは96質量%のラクトフェリン材料が用いられてよい。
【0041】
前記調製工程では、好ましくはラクトフェリン含有水溶液の塩濃度が5mM以下、より好ましくは4mM以下、さらにより好ましくは3mM以下、特に好ましくは2mM以下となるように、ラクトフェリン含有水溶液が調製されてよい。このような塩濃度は、塩の含有量が低いラクトフェリン材料を用いることで達成することができる。
【0042】
ラクトフェリン純度が高く且つ塩含有量が低いラクトフェリン材料は、例えばラクトフェリンを含む脱脂乳又は乳清に対して陽イオン交換樹脂吸着処理及び限外ろ過処理を行うことによって製造することができる。例えば、脱脂乳又は乳清を陽イオン交換樹脂に接触させることで、ラクトフェリンが陽イオン交換樹脂に吸着する。当該陽イオン交換樹脂に吸着したラクトフェリンは、食塩水によって、当該陽イオン交換樹脂から分離される。次に、限外ろ過膜を用いて脱塩を行うことによって、ラクトフェリン純度が高く且つ塩濃度の低いラクトフェリン材料が得られる。
【0043】
前記陽イオン交換樹脂吸着処理において用いられるイオン交換体は、好ましくはイオン交換体官能基がカルボキシメチル(CM)基である。CM基を官能基として有するイオン交換体として、例えばCM-セファロースFF(GEヘルスケア・ジャパン社製)を挙げることができるが、これに限定されない。
前記陽イオン交換樹脂に吸着したラクトフェリンを当該樹脂から分離するための食塩水の濃度は、例えば5~15質量%、好ましくは6~14質量%、より好ましくは8~12質量%であってよい。
【0044】
前記限外ろ過膜の分画分子量は、例えば5,000~50,000、好ましくは10,000~30,000、より好ましくは15,000~25,000であってよい。前記限外ろ過膜として、例えばGR61PP(アルファラバル社製、分画分子量20,000)を挙げることができるが、これに限定されない。
【0045】
好ましくは、前記殺菌工程に付されるラクトフェリン含有水溶液の調製において、前記ラクトフェリン材料以外の蛋白質性材料は用いられない。本技術において、蛋白質性材料とは蛋白質及びペプチドを包含し、より特には蛋白質及びペプチドのみを意味する。当該ラクトフェリン含有水溶液の製造に用いられる材料として蛋白質性材料が用いられないことにより、当該ラクトフェリン含有水溶液に含まれる夾雑蛋白質の含有割合を容易に調整することができる。また、殺菌工程における沈殿生成がより抑制され及び活性がより維持及び/又は増強される。
【0046】
前記任意的な他の成分として、例えば香料、着色料、甘味料、酸味料、及び果汁などを挙げることができる。前記任意的な他の成分を含むラクトフェリン含有水溶液を前記調製工程において調製することで、前記殺菌工程を経たラクトフェリン含有水溶液は、そのまま飲料(例えば清涼飲料水)として利用することができる。なお、前記任意的な他の成分は、好ましくは蛋白質性材料でない。
【0047】
前記香料として、例えばフルーツフレーバー(例えばストロベリーフレーバー、バナナフレーバー、及びピーチフレーバーなど)、コーヒーフレーバー、及び紅茶フレーバーを挙げることができる。
前記着色料として、例えば天然着色料及び合成着色料を挙げることができる。
前記甘味料として、例えばブドウ糖、果糖、及びショ糖などの天然甘味料、並びに、例えばアスパルテーム、アセスルファムカリウム、及びスクラロースなどの高甘味度甘味料を挙げることができる。
前記酸味料として、例えばクエン酸、クエン酸ナトリウム、リンゴ酸、及び酒石酸を挙げることができる。
前記果汁として、例えばイチゴ果汁、バナナ果汁、及びピーチ果汁などを挙げることができる。
【0048】
(3)充填工程
【0049】
本技術に従う製造方法は、前記殺菌工程に付されるラクトフェリン含有水溶液を容器に充填する殺菌前充填工程又は前記殺菌工程後のラクトフェリン含有水溶液を容器に充填する殺菌後充填工程を含んでもよい。これらの工程における充填方法は、当業者により適宜選択されてよい。
【0050】
例えば前記殺菌前充填工程において、前記殺菌工程に付されるラクトフェリン含有水溶液をレトルトパックに充填し、そして前記殺菌工程においてレトルト滅菌が行われる。これにより、レトルトパックに充填された長期保存可能なラクトフェリン水溶液を製造することができる。
【0051】
代替的には、例えば前記殺菌後充填工程において、前記殺菌工程後のラクトフェリン含有水溶液が無菌下で容器に充填される。これにより、容器に充填された長期保存可能なラクトフェリン水溶液を製造することができる。
【0052】
以上のとおり、本技術の製造方法に従い、容器に充填され且つ殺菌処理されたラクトフェリン含有水溶液を提供することができる。このようにして製造された当該ラクトフェリン水溶液は、ラクトフェリンの活性が維持されており且つラクトフェリン含有割合が高められた飲料又は飲食品原料として消費者又は飲食品製造業者に提供されてよい。
【0053】
また、このようにして製造された当該ラクトフェリン水溶液は加熱殺菌されているので長期保存が可能である。例えば、当該ラクトフェリン水溶液製品は、例えば3ヶ月以上、好ましくは4ヶ月以上、より好ましくは5ヶ月以上保存可能である。保存可能期間の上限は、例えば24ヵ月以下、好ましくは12ヶ月以下、より好ましくは10ヶ月以下、さらにより好ましくは9ヶ月以下であってよい。
【0054】
2.ラクトフェリン含有水溶液
【0055】
本技術は、ラクトフェリン以外の蛋白質の合計含有質量がラクトフェリン含有質量の1/12以下であり、且つ、生存細菌を含まない、ラクトフェリン含有水溶液を提供する。当該ラクトフェリン含有水溶液は、生存細菌を含まないので、そのまま飲料として流通させることができ又は加熱殺菌処理不要な飲食品原料として使用することができる。
【0056】
本技術において、生存細菌を含まないかどうかは、生存しているクロストリジウム属ボツリヌス菌を含むかどうかにより判断されてよい。生存しているクロストリジウム属ボツリヌス菌を含むかどうかは、食品衛生検査指針(微生物編)2004(社団法人日本食品衛生協会)に記載された方法に準じて行われてよい。
【0057】
好ましくは、本技術に従うラクトフェリン含有水溶液中のラクトフェリン以外の蛋白質の合計含有質量は、1/12以下、好ましくはラクトフェリン含有質量の1/14以下、より好ましくは1/16以下、さらにより好ましくは1/18以下、特に好ましくは1/20以下である。これにより、当該水溶液中において沈殿生成が起こりにくくなる。
また、本技術に従うラクトフェリン含有水溶液中のラクトフェリン以外の蛋白質の合計含有割合の下限値は、例えば0質量%であってよく又は製造効率の観点からは0質量%超であってもよい。例えば、本技術に従うラクトフェリン含有水溶液中のラクトフェリン以外の蛋白質の合計含有質量は、例えばラクトフェリン含有質量の1/100,000以上、1/10,000以上、1/5,000以上、1/1,000以上、又は1/100以上であってよい。
【0058】
本技術に従うラクトフェリン含有水溶液は、好ましくは塩濃度が5mM以下、より好ましくは4mM以下、さらにより好ましくは3mM以下、特に好ましくは2mM以下である。これにより、当該水溶液中において沈殿生成が起こりにくくなる。
また、本技術に従うラクトフェリン含有水溶液の塩濃度は、水溶液の製造効率の観点から、例えば0μM超、0.1μM以上若しくは0.1μM超、0.5μM以上、1μM以上、1.5μM以上、又は10μM以上であってよい。
【0059】
本技術に従うラクトフェリン含有水溶液のラクトフェリン濃度は、好ましくは400mg/ml以下であり、より好ましくは200mg/ml以下若しくは100mg/ml以下であり、さらにより好ましくは30mg/ml以下であり、さらにより好ましくは10mg/ml以下であり、特に好ましくは1mg/ml以下であってよい。
本技術に従うラクトフェリン含有水溶液のラクトフェリン濃度は、0mg/ml超であればよい。前記殺菌工程に付されるラクトフェリン含有水溶液のラクトフェリン濃度は、例えば0.00001mg/ml以上、0.0001mg/ml以上、0.001mg/ml以上、又は0.01mg/ml以上であってよい。
【0060】
本技術に従うラクトフェリン含有水溶液は、好ましくは安定化剤を含まない。本技術に従うラクトフェリン含有水溶液は、グリセリン脂肪酸エステル、カゼインナトリウム、レシチン、大豆多糖類、キサンタンガム、ペクチン、アラビアガム、ガティガム、カラギナン、ローカストビーンガム、及びカルボキシメチルセルロースからなる群から選ばれる一つ又は二つ以上の安定化剤を含まない。特には、当該ラクトフェリン含有水溶液は、グリセリン脂肪酸エステル、カゼインナトリウム、レシチン、大豆多糖類、キサンタンガム、ペクチン、アラビアガム、ガティガム、カラギナン、ローカストビーンガム、及びカルボキシメチルセルロースのいずれも安定化剤として含まない。
【0061】
本技術に従うラクトフェリン含有水溶液は、好ましくは活性ラクトフェリンを含む。活性ラクトフェリンとは、例えばCOMT阻害活性及び/又は抗菌活性を有するラクトフェリンであってよい。活性ラクトフェリンを含むラクトフェリン含有水溶液は、好ましくは上記「1.ラクトフェリン含有水溶液の製造方法」によって得られる。
【0062】
本技術に従うラクトフェリン含有水溶液は、例えば香料、着色料、甘味料、酸味料、及び果汁などの任意的な他の成分を含んでよい。当該任意的な他の成分は、上記「1.ラクトフェリン含有水溶液の製造方法」において述べたとおりである。
【0063】
本技術に従うラクトフェリン含有水溶液に含まれる蛋白質の合計含有割合が、当該水溶液の質量に対して好ましくは420mg/ml以下であり、より好ましくは210mg/ml以下若しくは105mg/ml以下であり、さらにより好ましくは31.5mg/ml以下であり、さらにより好ましくは10.5mg/ml以下であり、特に好ましくは1.05mg/ml以下であってよい。これにより、ラクトフェリンの沈殿生成が起こりにくくなる。
【0064】
本技術に従うラクトフェリン含有水溶液の水の含有割合は、当該水溶液の質量に対して例えば95質量%以上、好ましくは96質量%以上、より好ましくは97質量%以上であってよい。すなわち、本技術に従うラクトフェリン含有水溶液の水以外の成分の含有割合は、当該水溶液の質量に対して例えば5質量%以下、好ましくは4質量%以下、より好ましくは3質量%以下であってよい。
また、本技術の好ましい実施態様に従い、前記殺菌工程に付されるラクトフェリン含有水溶液の固形分濃度は、例えば45w/v%以下であり、特には3w/v%以下、より特には0.1w/v%以下であってよい。
また、本技術の好ましい実施態様に従い、前記殺菌工程に付されるラクトフェリン含有水溶液の粘度は、例えば25℃において、800mPa・s以下、特には300mPa・s以下、より特には7mPa・s以下であってよい。
【0065】
本技術に従うラクトフェリン含有水溶液は、上記「1.ラクトフェリン含有水溶液の製造方法」で述べたとおりの製造方法によって製造することができる。当該製造方法では、ラクトフェリンの活性が維持される。すなわち、本技術に従い、ラクトフェリンの活性が維持されており且つ生存細菌を含まないラクトフェリン含有水溶液を提供することができる。
【0066】
以下で実施例を参照して本技術をより詳しく説明するが、本技術はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例0067】
[試験例1]
【0068】
ラクトフェリン(森永乳業株式会社製、ラクトフェリン純度96質量%以上)を最終濃度30mg/mLとなるように脱イオン水に添加してラクトフェリン含有水溶液を調製した。当該ラクトフェリンは、以下で述べる実施例3に記載のとおりに製造されたラクトフェリン材料である。当該ラクトフェリン含有水溶液に添加される追加蛋白質として、αカゼイン、ウシアルブミン(BSA)、αラクトアルブミン(αLA)及びカゼインナトリウム(カゼインNa)を用意した。当該ラクトフェリン含有水溶液に、これら追加蛋白質のいずれかを最終濃度0.3mg/mL、0.6mg/mL、1.2mg/mL、及び2.4mg/mLとなるように混合して、各追加蛋白質について4種の試料を得た。試料中のラクトフェリン含有質量に対するラクトフェリン以外の蛋白質の合計含有質量は、前記純度及びこれらの濃度より、各追加蛋白質濃度について、1/19以下、1/16以下、1/12以下、及び1/8以下(ラクトフェリン以外の蛋白質の合計含有質量/ラクトフェリン含有質量)である。また、追加蛋白質が添加されていないラクトフェリン含有水溶液も試料として用意した。追加蛋白質が添加されていないラクトフェリン含有水溶液試料中のラクトフェリン含有質量に対するラクトフェリン以外の蛋白質の合計含有質量は、1/24以下である。
【0069】
以上で得られた合計17種(4種の追加蛋白質それぞれについて4種の濃度の試料、及び、追加蛋白質を含まない試料1種)の試料に対して、121℃で10分間オートクレーブ殺菌処理を行った。当該オートクレーブ殺菌処理後の濁度を日立分光光度計U-3900(日立社製)によって測定した。測定波長は660nmであった。濁度測定結果を以下の表1及び図1に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
表1及び図1に示されるとおり、追加蛋白質が添加されることで、熱処理における濁度の上昇が起こった。また、追加蛋白質の濃度が高いほど、より濁度が上昇した。すなわち、ラクトフェリン蛋白質以外の蛋白質含有質量が低いほど、ラクトフェリン含有水溶液の熱処理における濁度上昇が抑制された。そのため、ラクトフェリン蛋白質以外の蛋白質含有質量が低いほど、120℃での加熱による蛋白質の沈殿生成が起こりにくいと考えられる。また、沈殿生成が少ないほど、ラクトフェリンの活性も維持されていると考えられる。
【0072】
表1及び図1に示されるとおり、追加蛋白質濃度が1.2mg/ml以下である場合、すなわちラクトフェリン含有質量に対するラクトフェリン以外の蛋白質の合計含有質量が1/12以下である場合に、熱処理後の濁度が約0.1又は0.1以下となる。熱処理前後の品質変動は小さいほうが好ましく、特に熱処理後の濁度が約0.1以下であることがラクトフェリン含有水溶液として望ましい。例えば、熱処理後においてもラクトフェリン含有水溶液の濁度が低いことによって、品質管理において、外観上から微生物の混入又は製品の変化(沈殿生成若しくは濁度上昇)を確認しやすい。そのため、ラクトフェリン含有質量に対するラクトフェリン以外の蛋白質の合計含有質量が1/12以下であることによって、120℃で加熱殺菌してもラクトフェリン含有水溶液としての望ましい状態が維持され、特には沈殿生成が起こらない。また、ラクトフェリン含有質量に対するラクトフェリン以外の蛋白質の合計含有質量が1/12以下であることによって、ラクトフェリンの活性も良好に維持されていると考えられる。
【0073】
また、ラクトフェリン材料以外の蛋白質性材料を含まない場合、すなわちラクトフェリン含有質量に対するラクトフェリン以外の蛋白質の合計含有質量が1/24以下である場合に、熱処理後の濁度は0.032であった。そのため、この場合は、特に好ましいラクトフェリン含有水溶液が得られることが分かる。
【0074】
[試験例2]
【0075】
ラクトフェリン(森永乳業株式会社製、ラクトフェリン純度96質量%以上)を最終濃度30mg/mLとなるように脱イオン水に添加してラクトフェリン含有水溶液を調製した。当該ラクトフェリン含有水溶液に、NaCl、CaCl、又はMgClを混合した。これらの塩のうち、NaCl及びCaClは、最終濃度が1.25mM、2.5mM、5mM、10mM、15.6mM又は20mMとなるように添加され、各塩について6種の塩濃度の試料を得た。また、MgClは、最終濃度が1.25mM、2.5mM、5mM、7.6mM、10mMあるいは20mMとなるように添加され、6種の塩濃度の試料を得た。
【0076】
以上で得られた合計18種(3種の塩それぞれについて6種の塩濃度の試料)の試料に対して、121℃で10分間オートクレーブ殺菌処理を行った。当該オートクレーブ殺菌処理後の濁度を測定した。測定波長は660nmであった。濁度測定結果を以下の表2及び図2に示す。
【0077】
【表2】
【0078】
表2及び図2に示されるとおり、塩が添加されることで、熱処理における濁度の上昇が起こることが分かった。また、塩濃度が高いほど、より濁度が上昇した。すなわち、塩濃度が低いほど、ラクトフェリン含有水溶液の熱処理における濁度上昇が抑制された。そのため、塩濃度が低いほど、蛋白質の沈殿生成が起こりにくいと考えられる。
【0079】
熱処理後の濁度が約0.1以下程度であると、ラクトフェリン含有水溶液として望ましい。表2及び図2に示されるとおり、塩濃度が5mM以下である場合に、熱処理後の濁度が0.1未満となる。従って、塩濃度が5mM以下であることによって、120℃で加熱殺菌してもラクトフェリン含有水溶液としての望ましい状態が維持され、特には沈殿生成が起こらない。
【0080】
また、表2及び図2より、塩濃度が低いほど濁度が低いという傾向が読み取れる。そのため、塩が添加されない試料について同様の試験を行った場合は、塩濃度1.25mMの場合よりも濁度はさらに低くなると考えられる。
【0081】
[試験例3]
【0082】
ラクトフェリン材料の違いにより濁度形成の程度が異なることを示した。2種類のラクトフェリン材料を用意した(材料1:タツア社製、材料2:フォンティラ社製)。これらラクトフェリン材料のそれぞれを、最終濃度30mg/mLとなるようにミリQ水に添加して2種のラクトフェリン含有水溶液を調製した(材料1を溶解したものを試料1という、材料2を溶解したものを試料2という)。試料1及び2のそれぞれを121℃で10分間オートクレーブ殺菌処理を行った。当該オートクレーブ殺菌処理後の濁度を測定した。測定波長は660nmであった。濁度測定結果を以下の表3及び図3に示す。
【0083】
【表3】
【0084】
表3及び図3に示されるとおり、ラクトフェリン材料の種類によっては、熱処理によって濁度の上昇が起こるものがある。
【0085】
[試験例4]
【0086】
本試験例では、加熱処理によるラクトフェリン水溶液の濁度上昇とCOMT阻害活性の関係を以下のとおりに確認した。
ラクトフェリン(森永乳業株式会社製、ラクトフェリン純度96質量%以上)を最終濃度30mg/mLとなるように脱イオン水に添加してラクトフェリン含有水溶液を調製した。当該ラクトフェリン含有水溶液に、NaCl、アルブミン(BSA)、又はカゼインナトリウムを添加した。NaClは、その濃度が0mM、10mM、15mM、又は20mMとなるように添加された。BSA及びカゼインナトリウムは、その濃度が0mg/mL、0.6mg/mL、2.4mg/mL、又は4.8mg/mLとなるように添加された。
【0087】
これらの合計12種の溶液に対して、121℃で10分間オートクレーブ殺菌処理を行った。当該オートクレーブ殺菌処理後の濁度を測定した。測定波長は660nmであった。
【0088】
また、当該オートクレーブ殺菌処理後の各溶液を、150,000xgで20分間の遠心処理し、その上澄みのCOMT阻害活性を測定した。COMT阻害活性の測定は以下のとおりに行われた。すなわち、50mMのリン酸(pH7.8)、2mMのMgCl14C放射性同位体ラベルの11.2μMのSAM(S-アデノシル―L―メチオニン)、1mMのDTT(ジチオトレイトール)、COMT酵素4μg/mLおよび各溶液を含む22.5μL反応液を調製した。各溶液は、反応前に0.1mg/mL濃度に希釈し、100℃10分間加熱処理したものを使用した。酵素反応は、37℃で10分間反応させた後、基質であるDBA(ジヒドロキシ安息香酸)を2.5μL添加し、37℃で10分間反応させた。反応は1M HClを12.5μL添加することによって停止された。反応停止後、300μLのイソアミルアルコール:トルエン=3:7の溶液を加え抽出し、液体シンチレーションカウンターにより放射線量をカウントした。
次に、上記12種の溶液それぞれに関して、50%COMT活性阻害に必要な溶液量を算出した。ラクトフェリンのみの場合の50%活性阻害に必要な液量を1とした場合、塩又は蛋白質が添加されたラクトフェリン含有水溶液はCOMT阻害活性が下がるので、50%阻害に必要な液量は1よりも多くなる。そこで、上澄みのCOMT阻害活性(相対的力価)を以下の計算式により算出した:「相対的力価」=「ラクトフェリンのみでオートクレーブしたものの液量」/「塩などを添加してオートクレーブした溶液の50%阻害に必要な液量」。算出された相対的力価とオートクレーブ後の濁度との関係を表4及び図4に示す。
【0089】
【表4】
【0090】
表4及び図4に示されるとおり、濁度の上昇とともに遠心分離後上澄みのCOMT阻害活性は弱まった。そのため、濁度とCOMT阻害活性との間に関係があると考えられる。そのため、試験例1及び2において観察された沈殿生成の抑制に伴い、ラクトフェリンの活性も維持されていると考えられる。
【0091】
また、試験例1及び2の結果並びに試験例4の結果を考慮すると、COMT阻害活性を加熱殺菌前と比べて80%程度(すなわち、COMT阻害活性0.8程度に)維持するためには、ラクトフェリン以外の蛋白質の合計含有質量をラクトフェリン含有質量に対して1/20以下とし、且つ、塩濃度を5mM以下とすることが特に好ましいと考えられる。
【0092】
[試験例5]
【0093】
ラクトフェリン(森永乳業株式会社製、ラクトフェリン純度96質量%以上)をイオン交換水で溶解して、1mg/mL、10mg/mL、及び30mg/mL濃度のラクトフェリン含有水溶液を得た。これらのラクトフェリン含有水溶液に対してレトルト熱処理(121℃、7分間)を行い、44日又は98日間、5℃、25℃、又は37℃の温度で保存した。その後、各ラクトフェリン含有水溶液を、0.08体積%TFA(トリフルオロ酢酸)溶液に、ラクトフェリン濃度が0.1mg/mLになるよう添加して、HPLC分析用試料を得た。得られた試料40μLを用いてHPLC分析を行った。当該HPLC分析では、コスモシル5C4-MS(4.6mm×250mm)カラムを使用し、0.1体積%TFAを含むアセトニトリルの濃度勾配により溶出を行い、そして、280nmでラクトフェリンの検出を行った。ラクトフェリンの検出率(レトルト熱処理前の試料の吸光度を100%とした場合の当該処理後の吸光度の割合)を算出した。得られた検出率を表5及び図5に示す。
【0094】
【表5】
【0095】
表5及び図5に示される結果より、レトルト処理後に長期にわたって保存しても、HPLC分析により検出されるラクトフェリンの量は、レトルト処理前と同程度であった。そのため、本技術に従い殺菌されたラクトフェリン含有水溶液は長期保存しても、品質の変動が少ないことが分かる。
【0096】
[試験例6]
【0097】
ラクトフェリン(森永乳業株式会社製、ラクトフェリン純度96質量%以上)を10mg/mLの濃度となるように脱イオン水に溶解して得たラクトフェリン含有水溶液に対して、121℃で7分間レトルト処理を実施した。当該レトルト処理後、当該水溶液を98日間、5℃、25℃、又は37℃で保存した。当該保存後、各温度で保存された各水溶液のCOMT阻害活性を測定した。放射性物質のカウント値をCOMT阻害活性の尺度として使用した。
また、レトルト処理が行われていないラクトフェリン含有水溶液の場合及びラクトフェリンを無添加の場合についても、同じようにCOMT阻害活性を測定した。
測定結果を、表6及び図6に示す。
【0098】
【表6】
【0099】
表6及び図6に示されるとおり、レトルト処理が行われていないラクトフェリン含有水溶液の場合及びラクトフェリン無添加の場合をと比較すると、ラクトフェリンによってCOMTが阻害されていた。また、レトルト処理が行われていないラクトフェリン含有水溶液の場合と、レトルト処理が行われた3種の水溶液の場合とを比較すると、当該3種の水溶液はいずれも、レトルト処理後においても、レトルト処理が行われていない場合と同程度のCOMT阻害活性を有していた。そのため、本技術に従い製造されたラクトフェリン含有水溶液は、殺菌工程を経ているにもかかわらず、COMT阻害活性を維持していることが分かる。
【0100】
[試験例7]
【0101】
ラクトフェリン(森永乳業株式会社製、ラクトフェリン純度96質量%以上)を30mg/mLの濃度となるように脱イオン水に溶解してラクトフェリン含有水溶液を得た。当該ラクトフェリン含有水溶液に対して121℃10分間オートクレーブ処理を実施し、この溶液の抗菌活性を以下のとおりに調べた。大腸菌を5mLのM9液体培地で培養し、遠心により菌体を回収した。回収した菌体をPBS(リン酸バッファーpH7.4)に懸濁し、OD(630nm)0.2の懸濁液100μLを2つ用意した。他方、前記ラクトフェリン含有水溶液に、ラクトフェリン濃度が2mg/ml濃度となるようにPBSを添加して、希釈されたラクトフェリン含有水溶液を得た。前記2つの懸濁液100μLそれぞれに、等量(100μL)の前記希釈されたラクトフェリン含有水溶液を添加することで、最終濃度1mg/mLのラクトフェリン及び菌体を含有する液を2つ作成した。
前記オートクレーブ処理を行っていないラクトフェリン含有水溶液についても、同様に用意された2つの懸濁液100μLに添加し、最終濃度1mg/mLのラクトフェリン及び菌体を含有する液を2つ作成した。
ラクトフェリン含有水溶液を添加しない懸濁液100μLも2つ用意した。
以上の6つ試料を37℃で1時間インキュベートし、その後遠心を行った。遠心により得られた沈殿をPBSで懸濁し、懸濁物をM9プレートに塗布した。当該プレートを一晩37℃で培養することでコロニーを形成させ、コロニー数を測定した。測定されたコロニー数の平均値を表7及び図7に示す。
【0102】
【表7】
【0103】
表7及び図7に示される結果から、ラクトフェリン無しの場合とオートクレーブ処理されていないラクトフェリン含有水溶液の場合を比較することによって、ラクトフェリン含有水溶液が抗菌活性を有することが分かる。また、オートクレーブ処理されていないラクトフェリン含有水溶液の場合とオートクレーブ処理されたラクトフェリン含有水溶液の場合とを比較すると、オートクレーブ処理によって、抗菌活性が増強されていることが分かる。そのため、本技術に従い製造されたラクトフェリン含有水溶液は、殺菌工程によって抗菌活性が増強されていることが分かる。
【0104】
[実施例1]
【0105】
ラクトフェリン(森永乳業株式会社製、ラクトフェリン純度96質量%以上)を10mg/mlの濃度になるよう脱イオン水に溶解し、当該溶解液にさらにストロベリーフレーバー(長谷川香料)0.1%(W/V)及び着色料(長谷川香料)0.02%(W/V)を添加してラクトフェリン含有水溶液を得た。得られたラクトフェリン含有水溶液を、プレート式殺菌機(森永エンジニアリング社製)を用い131℃で30秒間加熱保持する条件で滅菌した。冷却後、無菌下で容器に充填することで長期保存可能なラクトフェリン含有飲料を得た。
【0106】
[実施例2]
【0107】
ラクトフェリン(森永乳業株式会社製、ラクトフェリン純度96質量%以上)濃度が30mg/mlとなるように且つNaCl濃度が2mMとなるように、ラクトフェリン及びNaClを脱イオン水に溶解して、10Lのラクトフェリン含有水溶液を得た。得られたラクトフェリン含有水溶液をレトルトパックに分注した。分注後、当該水溶液入りレトルトパックをレトルト滅菌器により120℃で7分間滅菌を行って、長期保存可能なラクトフェリン含有水溶液を得た。
【0108】
[実施例3]
【0109】
ラクトフェリン純度が高く且つ塩含有量が低いラクトフェリン材料を以下のとおりに得た。
まず、イオン交換体(CM-セファロースFF(GEヘルスケア・ジャパン社製)1Lをカラムに充填し、2Lの0.1N塩酸を通液し、水洗して当該イオン交換体を平衡化した。続いて、当該イオン交換体を当該カラムから取り出し、そして、当該イオン交換体を4℃に冷却したpH6.7の脱脂牛乳100Lに投入し、その後、4℃で6時間撹拌した。ろ過により脱脂乳を除去して当該イオン交換体を集め、そして、当該イオン交換体をカラムに充填した。脱イオン水により当該カラムを洗浄して、脱脂乳分を除いた。その後10質量%食塩水5Lを当該カラムに通液し、イオン交換体吸着成分を分離して、回収液5Lを得た。得られた回収液を、分画分子量20,000を有する限外ろ過膜GR61PP(アルファラバル社製)を用いて、循環流量8L/分且つ平均圧力30kg/cmで限外ろ過を実施した。さらに脱イオン水を添加し、限外ろ過を繰り返し実施し、脱塩を行った。得られた溶液を凍結乾燥して粉末状ラクトフェリン3.5gを得た。このようにして、純度96質量%以上、ナトリウム塩の含有量が100g当たり70mgであるラクトフェリン材料を得た。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7