(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023171786
(43)【公開日】2023-12-05
(54)【発明の名称】磁気記録媒体
(51)【国際特許分類】
G11B 5/70 20060101AFI20231128BHJP
G11B 5/706 20060101ALI20231128BHJP
G11B 5/712 20060101ALI20231128BHJP
G11B 5/714 20060101ALI20231128BHJP
G11B 5/73 20060101ALI20231128BHJP
G11B 5/84 20060101ALI20231128BHJP
G11B 5/852 20060101ALI20231128BHJP
H01F 1/11 20060101ALI20231128BHJP
C01G 49/06 20060101ALI20231128BHJP
【FI】
G11B5/70
G11B5/706
G11B5/712
G11B5/714
G11B5/73
G11B5/84 C
G11B5/852 A
H01F1/11
C01G49/06 Z
【審査請求】有
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023146413
(22)【出願日】2023-09-08
(62)【分割の表示】P 2020535792の分割
【原出願日】2019-08-06
(31)【優先権主張番号】P 2018151432
(32)【優先日】2018-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002185
【氏名又は名称】ソニーグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003236
【氏名又は名称】弁理士法人杉浦特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100123973
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 拓真
(74)【代理人】
【識別番号】100082762
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 正知
(74)【代理人】
【識別番号】100160440
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】高橋 健
(72)【発明者】
【氏名】前嶋 克紀
(72)【発明者】
【氏名】橋本 淳
(72)【発明者】
【氏名】寺川 潤
(72)【発明者】
【氏名】豊沢 奈津貴
(72)【発明者】
【氏名】潟口 嵩
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高い出力を得ることができ、熱安定性に優れ、また、記録容易性を得ることができる磁気記録媒体を提供する。
【解決手段】磁気記録媒体30は、磁性粉を含む記録層33を備え、磁性粉は、ε-酸化鉄を含む粒子と、粒子の表面の少なくとも一部に設けられた酸化鉄とを備えた磁性粒子を含み、磁性粒子の平均粒子径Dに対する磁性粒子の粒度分布の標準偏差σの割合R
1(=(σ/D)×100)が、R
1≦40%である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性粉を含む記録層を備え、
前記磁性粉は、ε-酸化鉄を含む粒子と、前記粒子の表面の少なくとも一部に設けられた酸化鉄とを備えた磁性粒子を含み、
前記磁性粒子の平均粒子径Dに対する前記磁性粒子の粒度分布の標準偏差σの割合R1(=(σ/D)×100)が、R1≦40%である、
磁気記録媒体。
【請求項2】
前記酸化鉄は、四酸化三鉄を含む、
請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
前記酸化鉄は、γ-酸化鉄を含む、
請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
前記酸化鉄は、軟磁性体を含む、
請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
前記ε-酸化鉄は、Feサイトの一部が金属元素で置換されたものを含む、
請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
前記酸化鉄は、Feサイトの一部が前記金属元素で置換されたものを含む、
請求項5に記載の磁気記録媒体。
【請求項7】
前記金属元素は、3価の金属元素を含む、
請求項5に記載の磁気記録媒体。
【請求項8】
前記金属元素は、Al、GaおよびInのうちの少なくとも1種を含む、
請求項5に記載の磁気記録媒体。
【請求項9】
前記磁性粒子が、コアシェル型構造を有する
請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項10】
前記磁性粒子のシェル部の平均体積Vsが、90nm3≦Vsである、
請求項9に記載の磁気記録媒体。
【請求項11】
前記磁性粒子の平均体積Vに対する前記磁性粒子のシェル部の平均体積Vsの割合R2(=(Vs/V)×100)が、16%≦R2≦62%である、
請求項9に記載の磁気記録媒体。
【請求項12】
前記磁性粒子の平均粒子半径rが、4nm≦r≦20nmである、
請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項13】
磁気記録媒体の垂直方向の飽和磁化量Msが、50emu/cc≦Ms≦110emu/ccである、
請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項14】
磁気記録媒体の垂直方向における保磁力Hcが、3000Oe以下である、
請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項15】
ポリエステル系樹脂を含む基体をさらに備える、
請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項16】
基体をさらに備え、
前記基体の平均厚みは、4.0μm以下である、
請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項17】
前記記録層の平均厚みは、30nm以上120nm以下である、
請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項18】
前記記録層の平均厚みは、50nm以上70nm以下である、
請求項17に記載の磁気記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、磁気記録媒体としては、磁性粉、結着剤および有機溶媒を含む磁性塗料を非磁性支持体上に塗布し、乾燥することで、記録層が形成される塗布型の磁気記録媒体が知られている。このような塗布型の磁気記録媒体は、バックアップ用データカートリッジ等の高密度記録媒体として広く利用されている。
【0003】
近年、高記録密度の記録媒体に対応すべく、記録層に含まれる磁性粉は微粒子化されているが、さらなる微粒子化を進めて行くと、磁気テープ使用環境における外部熱の影響を磁性粉が受け、所謂磁化の熱擾乱の影響が顕著になり、記録した磁化が消失してしまう現象が発生する。この磁化の熱擾乱の影響を回避するためには、磁性粉の保磁力を高める必要がある。
【0004】
しかしながら、保磁力を高めていくと、記録ヘッドにより磁化反転を起こすこと、すなわち情報信号を記録することが困難となってしまう。また、微粒子化を進めて行くと、磁性粉の飽和磁化量σsが低下してしまう可能性があり、高密度記録化による出力低減と相まって、信号雑音比(以下「CNR」という。)が大きく悪化してしまう可能性がある。
【0005】
これらの問題を解決するために、例えば特許文献1では、ε-酸化鉄粒子の表面を還元処理することにより、α-Feを含むシェル部を形成する磁性粉の製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2016/092744号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本技術の目的は、高い出力を得ることができ、熱安定性に優れ、また記録容易性を得ることができる磁気記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の課題を解決するために、本開示の第1の態様は、磁性粉を含む記録層を備え、磁性粉は、ε-酸化鉄を含む粒子と、粒子の表面の少なくとも一部に設けられた酸化鉄とを備えた磁性粒子を含み、磁性粒子の平均粒子径Dに対する磁性粒子の粒度分布の標準偏差σの割合R1(=(σ/D)×100)が、R1≦40%である、磁気記録媒体である。
本開示の第2の態様は、ε-酸化鉄(Feサイトの一部が金属元素で置換されたものを含む)を含む粒子を還元処理し、粒子の表面の少なくとも一部に四酸化三鉄(Feサイトの一部が金属元素で置換されたものを含む)を形成することにより、磁性粒子を得ることを含み、磁性粒子の平均粒子径Dに対する磁性粒子の粒度分布の標準偏差σの割合R1(=(σ/D)×100)が、R1≦40%である磁性粉の製造方法である。
【0009】
本開示の第3の態様は、ε-酸化鉄(Feサイトの一部が金属元素で置換されたものを含む)を含む粒子を還元処理し、粒子の表面の少なくとも一部に四酸化三鉄(Feサイトの一部が金属元素で置換されたものを含む)を形成することにより、磁性粒子を得ることを含み、磁性粒子が、コアシェル型構造を有し、磁性粒子のシェル部の平均体積Vsが、90nm3≦Vsであり、磁性粒子の平均体積Vに対するシェル部の平均体積Vsの割合R2(=(Vs/V)×100)が、16%≦R2≦62%である磁性粉の製造方法である。
【0010】
本開示の第4の態様は、ε-酸化鉄(Feサイトの一部が金属元素で置換されたものを含む)を含む粒子を還元処理し、粒子の表面の少なくとも一部に四酸化三鉄(Feサイトの一部が金属元素で置換されたものを含む)を形成することにより、磁性粒子を得ることを含み、磁性粒子の飽和磁化量σsが、30emu/g≦σs≦60emu/gである磁性粉の製造方法である。
【0011】
本開示の第5の態様は、焼成により、酸化第一鉄(Feサイトの一部が金属元素Mで置換されたものを含む)を含む第1の粒子をγ-酸化鉄(Feサイトの一部が金属元素Mで置換されたものを含む)を含む第2の粒子に変態させた後、第2の粒子の一部をε-酸化鉄(Feサイトの一部が金属元素Mで置換されたものを含む)に変態させることにより、磁性粒子を得ることを含む磁性粉の製造方法である。
【0012】
本開示の第6の態様は、磁性粉を含む記録層を備え、磁性粉は、ε-酸化鉄(Feサイトの一部が金属元素で置換されたものを含む)を含む粒子と、粒子の表面の少なくとも一部に設けられた四酸化三鉄(Feサイトの一部が金属元素で置換されたものを含む)とを備える磁性粒子を含む磁気記録媒体である。
【0013】
本開示の第7の態様は、磁性粉を含む記録層を備え、磁性粉は、ε-酸化鉄(Feサイトの一部が金属元素で置換されたものを含む)を含む粒子と、粒子の表面の少なくとも一部に設けられたγ-酸化鉄(Feサイトの一部が金属元素で置換されたものを含む)とを備える磁性粒子を含む磁気記録媒体である。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、高い出力を得ることができ、熱安定性に優れ、また記録容易性を得ることができる。なお、ここに記載された効果は必ずしも限定されるものではなく、本開示中に記載されたいずれかの効果またはそれらと異質な効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本開示の第1の実施形態に係る磁性粉の断面図である。
【
図2】本開示の第2の実施形態に係る磁性粉の断面図である。
【
図3】本開示の第3の実施形態に係る磁気記録媒体の断面図である。
【
図4】実施例1~8、11~15に係る磁性粉の製造方法を説明するための工程図である。
【
図5】実施例9、10に係る磁性粉の製造方法を説明するための工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本開示の実施形態について以下の順序で説明する。
1 第1の実施形態(磁性粉の例)
2 第2の実施形態(磁性粉の例)
3 第3の実施形態(磁気記録媒体の例)
【0017】
<1 第1の実施形態>
[磁性粉の構成]
本開示の第1の実施形態に係る磁性粉は、
図1に示すように、コアシェル型構造を有する磁性粒子10を含む。磁性粒子10は、ε-酸化鉄(Feサイトの一部が金属元素Mで置換されたものを含む)を含むコア部11と、このコア部11の周囲に設けられ、四酸化三鉄(Feサイトの一部が金属元素Mで置換されたものを含む)を含むシェル部12とを備える。コア部11とシェル部12とは交換結合していることが好ましい。コア部11とシェル部12の界面において、両者の組成および/または状態等が不連続的に変化していてもよいし、連続的に変化していてもよい。磁性粒子10は、例えば、ほぼ立方体状またはほぼ球形状を有している。第1の実施形態に係る磁性粉は、高密度の磁気記録媒体の記録層(磁性層)に用いて好適なものである。
【0018】
(平均粒子半径r)
磁性粒子10の平均粒子半径rが、4nm≦r≦20nmであることが好ましい。磁性粒子10の平均粒子半径rが4nm≦rであると、磁性粉を用いて記録層形成用塗料を作製する際に、磁性粉の分散性の低下を抑制することができるので、磁気記録媒体の電磁変換特性(例えばCNR)をさらに向上することができる。一方、磁性粒子10の平均粒子半径rがr≦20nmであると、磁性粉を用いて記録層を作製した際に、磁気記録媒体のノイズが大きくなることを抑制することができる。したがって、磁気記録媒体の電磁変換特性(例えばCNR)をさらに向上することができる。また、磁性粉を含む記録層形成用塗料を塗布し塗膜を形成した際に、塗膜の表面性が悪化することを抑制することもできる。なお、本開示においては、磁性粒子10がほぼ球形状を有する場合のみならず、ほぼ立方体状を有する場合にも、磁性粒子10の平均粒子半径rおよび平均粒子径Dという。
【0019】
上記の磁性粒子10の平均粒子半径rは、以下のようにして求められる。まず、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)を用いて、磁性粉を撮影する。以下に、撮影に用いられた装置(TEM)および撮影条件を示す。
装置(TEM):日立製作所製H9000NAR
加速電圧:200kV
総合倍率:500,000倍
次に、撮影したTEM写真から、粒子の形状を明らかに確認することができる500個の磁性粒子10を無作為に選び出し、それらの各磁性粒子10の面積Sを求める。次に、磁性粒子10の形状が球形であると仮定して、以下の式から各磁性粒子10の半径rAを算出し、磁性粉の粒度分布を得る。
rA=(S/π)1/2
次に、求めた粒度分布からメジアン径(50%径、D50)を求めて、これを平均粒子半径rとする。
【0020】
(平均粒子径Dに対する粒度分布の標準偏差σの割合R1)
磁性粒子10の平均粒子径Dに対する磁性粒子10の粒度分布の標準偏差σの割合R1(=(σ/D)×100)が、R1≦40%であることが好ましい。割合R1がR1≦40%であると、磁性粒子10の粒子サイズのばらつきが小さくなり、磁性粉の磁気特性のばらつきを抑制することができる。割合R1の下限値は特に限定されるものではないが、例えば5%≦R1である。
【0021】
上記の割合R1は、以下のようにして求められる。まず、磁性粒子10の平均粒子半径rの算出方法と同様にして、各粒子の面積Sを求める。次に、磁性粒子10の形状が球形であると仮定して、以下の式から各粒子の直径DAを算出し、磁性粉の粒度分布を得る。
DA=2×(S/π)1/2
次に、求めた粒度分布からメジアン径(50%径、D50)を求めて、これを平均粒子径Dとする。また、求めた粒度分布から標準偏差σを求める。次に、求めた平均粒子径Dおよび粒度分布の標準偏差σを用いて、割合R1(=(σ/D)×100)を算出する。
【0022】
(飽和磁化量σs)
磁性粒子10の飽和磁化量σsが、30emu/g≦σs≦60emu/gであることが好ましい。飽和磁化量σsが30emu/g≦σsであると、磁性粉を用いて記録層を作製した際に、さらに高い出力を得ることができるため、さらに良好な電磁変換特性(例えばCNR)を得ることができる。一方、σsがσs≦60emu/gであると、コア部11に対するシェル部12の割合、すなわち硬磁性体に対する軟磁性体の割合が多くなりすぎることを抑制することができるため、保磁力Hcの低下を抑制することができる。
【0023】
上記の飽和磁化量σsは、以下のようにして求められる。まず、所定形状の磁性粉サンプルを作製する。磁性粉サンプルは、測定用カプセルへの圧密、測定用テープへの貼り付け等、測定に影響を及ぼさない範囲で自由に作製することができる。次に、振動試料型磁力計(Vibrating Sample Magnetometer:VSM)を用いて、磁性粉サンプルのM-Hループを得たのち、得られたM-Hループから飽和磁化量σsを求める。なお、上記のM-Hループの測定は、25℃の環境下にて行われるものとする。また、上記のM-Hループの測定には、東英工業社製の高感度振動試料型磁力計「VSM-P7-15型」が用いられる。測定条件は、測定モード:フルループ、最大磁界:15kOe、磁界ステップ:40bit、Time constant of Locking amp:0.3sec、Waiting time:1sec、MH平均数:20である。
【0024】
(コア部)
コア部11は、硬磁性体であるε-Fe2O3結晶(Feサイトの一部が金属元素Mで置換されたものを含む)を主相とするものが好ましく、単相のε-Fe2O3結晶からなるものがより好ましい。金属元素Mは、例えば、Al、GaおよびInのうちの少なくとも1種である。但し、MとFeのモル比をM:Fe=x:(2-x)と表すとき、0≦x<1である。ここでは、ε-酸化鉄の組成式をε-Fe2O3で表すが、ε-酸化鉄が非化学量論的組成を有していてもよい。
【0025】
本開示において、ε-Fe2O3結晶には、特に断らない限り、Feサイトが他の元素で置換されていない純粋なε-Fe2O3結晶の他、Feサイトの一部が3価の金属元素Mで置換されており、純粋なε-Fe2O3結晶と空間群が同じである(すなわち空間群がPna21である)結晶が含まれる。
【0026】
(シェル部)
シェル部12は、コア部11の周囲のうちの少なくとも一部を覆っている。具体的には、シェル部12は、コア部11の周囲を部分的に覆っていてもよいし、コア部11の周囲全体を覆っていてもよい。コア部11とシェル部12の交換結合を十分なものとし、磁気特性を向上する観点からすると、コア部11の表面全体を覆っていることが好ましい。
【0027】
シェル部12は、軟磁性体であるFe3O4結晶(Feサイトの一部が金属元素Mで置換されたものを含む)を主相とするものが好ましく、単相のFe3O4結晶からなるものがより好ましい。但し、MとFeのモル比をM:Fe=x:(3-x)と表すとき、0≦x<1.5である。ここでは、四酸化三鉄の組成式をFe3O4で表すが、四酸化三鉄が非化学量論的組成を有していてもよい。
【0028】
本開示において、Fe3O4結晶には、特に断らない限り、Feサイトが他の元素で置換されていない純粋なFe3O4結晶の他、Feサイトの一部が3価の金属元素Mで置換されており、純粋なFe3O4結晶と空間群が同じである結晶が含まれる。
【0029】
シェル部12は、例えば、磁性粒子10の前駆体粒子としてのε-酸化鉄を含む粒子(硬磁性粒子)の表面を還元することにより得られうるものである。
【0030】
(シェル部の平均体積Vs、磁性粒子の平均体積Vに対するシェル部の平均体積Vsの割合R2)
シェル部12の平均体積Vsが、90nm3≦V2であり、かつ、磁性粒子10の平均体積Vに対するシェル部12の平均体積Vsの割合R2(=(Vs/V)×100)が、16%≦R2≦62%であることが好ましい。平均体積Vsが90nm3≦Vsであり、かつ、割合R2が16%≦R2であると、飽和磁化量σsが小さくなり過ぎることを抑制し、例えば飽和磁化量σsを30emu/g≦σsに保持することができる。したがって、磁性粉を用いて記録層を作製した際に、さらに高い出力を得ることができるため、さらに良好な電磁変換特性(例えばCNR)を得ることができる。一方、平均体積Vsが90nm3≦V2であり、かつ、割合R2がR2≦62%であると、飽和磁化量σsが大きくなりすぎることを抑制し、例えば飽和磁化量σsをσs≦60emu/gに保持することができる。また、コア部11に対するシェル部12の割合、すなわち硬磁性体に対する軟磁性体の割合が多くなりすぎることを抑制することができるため、保磁力Hcの低下を抑制することができる。
【0031】
上記の平均体積Vsおよび割合R2は、以下のようにして求められる。まず、TEMを用いて、磁性粉を撮影する。以下に、撮影に用いられた装置(TEM)および撮影条件を示す。
装置(TEM):日立製作所製H9000NAR
加速電圧:200kV
総合倍率:500,000倍
次に、撮影したTEM写真から、粒子の形状を明らかに確認することができる500個の磁性粒子10を無作為に選び出し、それらの各磁性粒子10の面積Sおよびコア部11の面積Shを求める。次に、磁性粒子10およびコア部11が球形であると仮定して、以下の式から各磁性粒子10の半径rAおよび各コア部11の半径rAhを算出し、磁性粒子10およびコア部11の粒子分布を得る。
rA=(S/π)1/2
rAh=(Sh/π)1/2
【0032】
次に、求めた磁性粒子10の粒子分布からメジアン径(50%径、D50)を求めて、これを磁性粒子10の平均粒子半径rとする。また、求めたコア部11の粒子分布からメジアン径(50%径、D50)を求めて、これをコア部11の平均半径rhとする。次に、磁性粒子10およびコア部11の形状が球形であると仮定して、以下の式から磁性粒子10の平均体積Vおよびコア部11の平均体積Vhを求める。
V=(4/3)×π×r3
Vh=(4/3)×π×rh
3
【0033】
続いて、求めた磁性粒子10の平均体積Vおよびコア部11の平均体積Vhを用いて、以下の式からシェル部12の平均体積Vsを求める。
Vs=V-Vh
最後に、求めた磁性粒子10の平均体積Vおよびシェル部12の平均体積Vsを用いて、磁性粒子10の平均体積Vに対するシェル部12の平均体積Vsの割合R2(=(Vs/V1)×100)を算出する。
【0034】
[磁性粉の製造方法]
以下、本開示の第1の実施形態に係る磁性粉の製造方法について説明する。この磁性粉の製造方法は、ε-酸化鉄(Feサイトの一部が金属元素Mで置換されたものを含む)を含む粒子(以下「ε-酸化鉄粒子」という。)を還元処理し、ε-酸化鉄粒子の表面の少なくとも一部に四酸化三鉄(Feサイトの一部が前記金属元素Mで置換されたものを含む)を含むシェル部12を形成することにより、コアシェル型構造を有する磁性粒子10を得るものである。
【0035】
まず、ε-酸化鉄粒子の粉末を準備する。ε-酸化鉄粒子は、ε-Fe2O3結晶(Feサイトの一部が金属元素Mで置換されたものを含む)を主相とするものが好ましく、単相のε-Fe2O3からなるものがより好ましい。
【0036】
続いて、加熱炉内に搬送したのち、加熱炉内を中性ガスまたは不活性ガスで置換する。中性ガスとしては、例えば、窒素(N2)、乾燥水素(dryH2)およびアンモニア(NH3)分解ガスからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。不活性ガスとしては、例えば、アルゴン(Ar)およびヘリウム(He)からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
【0037】
次に、気相還元法により、ε-酸化鉄粒子の粉末を還元処理する。より具体的には、加熱炉内に還元性ガスを導入しながら、ε-酸化鉄粒子の粉末を加熱処理する。これにより、ε-酸化鉄粒子の表面の少なくとも一部にFe3O4結晶(Feサイトの一部が金属元素Mで置換されたものを含む)を含むシェル部12が形成される。還元性ガスとしては、例えば、水素(H2)、一酸化炭素(CO)および炭化水素系ガス(CH4、C3H8、C4H10等)からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
【0038】
加熱処理時における加熱時間は、H2濃度4%の還元性ガスを用いる場合は、10分以上1時間以下であることが好ましい。加熱時間が10分以上であると、ε-Fe2O3周囲をFe3O4に効果的に還元することができる。一方、加熱時間が1時間以下であると、ε-Fe2O3の消失を効果的に抑制しつつ、Fe3O4に還元することができる。
【0039】
加熱処理時における加熱温度は、250℃以上600℃以下であることが好ましい。加熱温度が250℃以上であると、ε-Fe2O3をFe3O4に効果的に還元することができる。一方、加熱温度が600℃以下であると、ε-Fe2O3が熱により異結晶に変態することを効果的に抑制することができる。
【0040】
その後、焼成炉を室温まで冷却したのち、得られた磁性粉を加熱炉内から搬出する。これにより、
図1に示した磁気粒子を含む磁性粉が得られる。
【0041】
[効果]
第1の実施形態に係る磁性粉は、ε-酸化鉄(Feサイトの一部が金属元素で置換されたものを含む)を含むコア部11と、コア部11の周囲のうちの少なくとも一部に設けられ、四酸化三鉄(Feサイトの一部が前記金属元素で置換されたものを含む)を含むシェル部12とを備える磁性粒子10を含む。この磁性粉を用いて磁気記録媒体の記録層を形成することで、高出力で、優れた熱安定性を有し、また記録容易性を有する磁気記録媒体を実現することができる。
【0042】
第1の実施形態に係る磁性粉の製造方法では、予め作製したε-酸化鉄粒子の表面を直接還元処理するため、前駆体粒子となるε-酸化鉄粒子の粒子径と、還元処理により得られる磁性粒子10の粒子径とが同程度になる。したがって、前駆体粒子となるε-酸化鉄粒子の粒子径を調整することで、所望の粒子径を有する磁性粒子10を作製することができる。したがって、粒度分布のばらつきの発生を抑制できる。
【0043】
特許文献1に記載の技術では、ε-酸化鉄(硬磁性体)とα-Fe(軟磁性体)の共存は難しく、表面に酸化被膜が必要になるので、工程が複雑で、かつ3層構造(1層のコア部および2層のシェル部からなる3層構造)の調整が難しい。したがって、コアシェル型構造を有する磁性粒子の製造が難しい。これに対して、第1の実施形態に係る磁性粒子では、ε-酸化鉄粒子(硬磁性粒子)の表面に耐酸化性のある四酸化三鉄(軟磁性体)を形成するため、工程が簡易で、かつ2層構造(1層のコア部および1層のシェル部からなる2層構造)の調整が容易である。したがって、コアシェル型構造を有する磁性粒子10を容易に製造することができる。
【0044】
<2 第2の実施形態>
[磁性粉の構成]
本開示の第2の実施形態に係る磁性粉は、
図2に示すように、コアシェル型構造を有する磁性粒子20を含む。磁性粒子20は、ε-酸化鉄(Feサイトの一部が金属元素で置換されたものを含む)を含むコア部21と、γ-酸化鉄(Feサイトの一部が前記金属元素で置換されたものを含む)を含むシェル部22とを備える。
【0045】
(コア部)
コア部21は、例えば、磁性粒子20の前駆体粒子としてのγ-酸化鉄(Feサイトの一部が前記金属元素で置換されたものを含む)を含む粒子の内部をε-酸化鉄に変態させることにより得られうるものである。コア部21は、上述の点以外では、第1の実施形態におけるコア部11と同様である。
【0046】
(シェル部)
シェル部22は、軟磁性体であるγ-Fe2O3結晶(Feサイトの一部が金属元素Mで置換されたものを含む)を主相とするものが好ましく、単相のγ-Fe2O3結晶からなるものがより好ましい。但し、MとFeのモル比をM:Fe=x:(2-x)と表すとき、0≦x<1である。ここでは、γ-酸化鉄の組成式をγ-Fe2O3で表すが、γ-酸化鉄が非化学量論的組成を有していてもよい。シェル部12は、例えば、前駆体粒子としての酸化第一鉄(Feサイトの一部が金属元素Mで置換されたものを含む)を含む粒子を焼成により変態することにより得られうるものである。
【0047】
本開示において、γ-Fe2O3結晶には、特に断らない限り、Feサイトが他の元素で置換されていない純粋なγ-Fe2O3結晶の他、Feサイトの一部が3価の金属元素Mで置換されており、純粋なγ-Fe2O3結晶と空間群が同じである結晶が含まれる。シェル部22は、上述の点以外では、第1の実施形態におけるシェル部12と同様である。
【0048】
[磁性粉の製造方法]
以下、本開示の第2の実施形態に係る磁性粉の製造方法について説明する。この磁性粉の製造方法は、酸化第一鉄(Feサイトの一部が金属元素で置換されたものを含む)を含む粒子(以下「FeO粒子」という。)を焼成し、γ-酸化鉄(Feサイトの一部が金属元素で置換されたものを含む)を含む粒子(以下「γ-酸化鉄粒子」という。)に変態させた後、γ-酸化鉄粒子の内部をε-酸化鉄に変態させることにより、コアシェル型構造を有する磁性粒子20を得るものである。
【0049】
まず、FeO粒子の粉末を準備する。FeO粒子は、FeO結晶(Feサイトの一部が金属元素Mで置換されたものを含む)を主相とするものが好ましく、単相のFeO結晶からなるものがより好ましい。但し、MとFeのモル比をM:Fe=x:(1-x)と表すとき、0≦x<1である。ここでは、酸化第一鉄の組成式をFeOで表すが、酸化第一鉄が非化学量論的組成を有していてもよい。
【0050】
本開示において、FeO結晶には、特に断らない限り、Feサイトが他の元素で置換されていない純粋なFeO結晶の他、Feサイトの一部が2価の金属元素Mで置換されており、純粋なFeO結晶と空間群が同じである結晶が含まれる。
【0051】
続いて、FeO粒子の粉末を焼成炉に搬送したのち、焼成炉を昇温し、FeO粒子の粉末を焼成し、FeO粒子をγ-酸化鉄粒子に変態させた後、γ-酸化鉄粒子の内部をε-酸化鉄に変態させる。γ-酸化鉄粒子は、γ-Fe2O3結晶(Feサイトの一部が金属元素Mで置換されたものを含む)を主相とするものが好ましく、単相のFe3O4からなるものがより好ましい。γ-酸化鉄粒子の内部に含まれるε-酸化鉄は、ε-Fe2O3結晶(Feサイトの一部が金属元素Mで置換されたものを含む)を主相とするものが好ましく、単相のε-Fe2O3からなるものがより好ましい。
【0052】
焼成時間は、10時間以上200時間以下であることが好ましい。焼成時間が10時間以上であると、γ-酸化鉄粒子の内部をε-酸化鉄に効果的に変態させることができる。一方、焼成時間が200時間以下であると、γ-酸化鉄の消失を効果的に抑制することができる。
【0053】
焼成温度は、950℃以上1400℃以下であることが好ましい。焼成温度が950℃以上であると、γ-酸化鉄粒子の内部をε-酸化鉄に効果的に変態させることができる。一方、焼成温度が1400℃以下であると、γ-酸化鉄の消失を効果的に抑制することができる。
【0054】
γ-酸化鉄粒子の全体がε-酸化鉄に変態する前段階にて、焼成炉を室温まで冷却し、得られた磁性粉を焼成炉内から搬出する。これにより、
図2に示した磁性粒子20を含む磁性粉が得られる。
【0055】
[効果]
第2の実施形態に係る磁性粉では、第1の実施形態に係る磁性粉と同様の効果を得ることができる。また、第2の実施形態に係る磁性粉の製造方法では、第1の実施形態に係る磁性粉の製造方法と同様の効果を得ることができる。
【0056】
<3 第3の実施形態>
[磁気記録媒体の構成]
本開示の第3の実施形態に係る磁気記録媒体30は、いわゆるテープ状の磁気記録媒体であって、
図3に示すように、長尺状の基体31と、基体31の一方の主面上に設けられた下地層(非磁性層)32と、下地層32上に設けられた記録層(磁性層)33とを備える。なお、下地層32は必要に応じて備えられるものであって、なくてもよい。磁気記録媒体が、必要に応じて、基体31の他方の主面上に設けられたバックコート層34をさらに備えるようにしてもよい。
【0057】
(飽和磁化量Ms)
記録層33の飽和磁化量Msは、50emu/cc≦Ms≦110emu/ccであることが好ましい。飽和磁化量Msが50emu/cc≦Msであると、さらに高い出力を得ることができるため、さらに良好な電磁変換特性(例えばCNR)を得ることができる。一方、飽和磁化量MsがMs≦110emu/ccであると、再生ヘッドの飽和が発生することを抑制することができるため、ノイズの発生を抑制することができる。したがって、磁気記録媒体の電磁変換特性(例えばCNR)をさらに向上することができる。
【0058】
上記の飽和磁化量Msは、以下のようにして求められる。まず、長尺状の磁気記録媒体30を両面テープで3枚重ね合わせた後、φ6.39mmのパンチで打ち抜き、測定サンプルを作製する。この際に、磁気記録媒体10の長手方向(走行方向)が認識できるように、磁性を持たない任意のインクでマーキングを行う。そして、VSMを用いて測定サンプルの垂直方向(厚み方向)に対応する測定サンプル全体(磁気記録媒体30の全体)のM-Hループを測定する。次に、アセトンまたはエタノール等を用いて塗膜(下地層32、記録層33およびバックコート層34等)を払拭し、基体31のみを残す。そして、得られた基体31を両面テープで3枚重ね合わせた後、φ6.39mmのパンチで打ち抜き、バックグラウンド補正用のサンプル(以下、単に「補正用サンプル」という。)を作製する。その後、VSMを用いて基体31の垂直方向(厚み方向)に対応する補正用サンプル(基体31)のM-Hループを測定する。
【0059】
測定サンプル(磁気記録媒体30の全体)のM-Hループ、および補正用サンプル(基体311)のM-Hループの測定においては、東英工業社製の高感度振動試料型磁力計「VSM-P7-15型」が用いられる。測定条件は、測定モード:フルループ、最大磁界:15kOe、磁界ステップ:40bit、Time constant of Locking amp:0.3sec、Waiting time:1sec、MH平均数:20とされる。
【0060】
測定サンプル(磁気記録媒体10の全体)のM-Hループおよび補正用サンプル(ベース層11)のM-Hループが得られた後、測定サンプル全体(磁気記録媒体30の全体)のM-Hループから補正用サンプル(基体31)のM-Hループを差し引くことにより、バックグラウンド補正を行い、バックグラウンド補正後のM-Hループを得る。このバックグラウンド補正の計算には、「VSM-P7-15型」に付属されている測定・解析プログラムが用いられる。得られたM-Hループから飽和磁化量ms(emu)を求める。なお、上記のM-Hループの測定はいずれも、25℃にて行われるものとする。また、M-Hループを磁気記録媒体30の垂直方向に測定する際の“反磁界補正”は行わないものとする。
【0061】
次に、カーボン層を蒸着法により磁気記録媒体30の記録層33側の表面およびバック層34側の表面に形成したのち、蒸着法により記録層33側の表面にタングステン層をさらに形成する。これらの層は、後述の薄片化処理においてサンプルを保護するために形成される。次に、上記層が形成された磁気記録媒体30をFIB(Focused Ion Beam)法により加工して薄片化を行う。当該薄片化は磁気記録媒体30の長さ方向(長手方向)に沿って行われる。すなわち、当該薄片化によって、磁気記録媒体30の長手方向および厚み方向の両方に平行な断面が形成される。
【0062】
得られた薄片化サンプルの上記断面をTEMにより観察し、TEM像を得る。なお、装置の種類に応じて、倍率および加速電圧は適宜調整されてよい。以下に、観察に用いられた装置および観察条件を示す。
装置:TEM(日立製作所製H9000NAR)
加速電圧:300kV
倍率:100,000倍
次に、得られたTEM像を用い、磁気記録媒体30の長手方向に少なくとも10点以上の位置で記録層33の厚みを測定した後、それらの測定値を単純に平均(算術平均)して記録層33の平均厚みdを求める。なお、測定位置は、試験片から無作為に選ばれるものとする。
【0063】
次に、M-Hループの測定に用いた測定サンプルの面積Sと、記録層33の平均厚みdとを用いて、測定サンプルの体積v(=S×d)(cc)を求める。そして、求めた体積v(cc)と飽和磁化量ms(emu)とを用いて、飽和磁化量ms(emu/cc)を算出する。
【0064】
(垂直方向における保磁力Hc)
垂直方向における保磁力Hcの上限値が、3000Oe以下、より好ましくは2900Oe以下、さらにより好ましくは2850Oe以下である。保磁力Hcが大きいことは、熱擾乱および反磁界の影響を受けにくくなり好ましいが、保磁力Hcが3000Oeを超えると、記録ヘッドでの飽和記録が困難となり、それによって記録できない部分が存在しノイズが増加する虞がある。したがって、電磁変換特性(例えばCNR)が悪化してしまう虞がある。
【0065】
垂直方向における保磁力Hcの下限値が、好ましくは2200Oe以上、より好ましくは2400Oe以上、さらにより好ましくは2600Oe以上である。保磁力Hcが2200Oe以上であると、熱擾乱の影響および反磁界の影響による、高温環境下における電磁変換特性(例えばCNR)の低下を抑制することができる。
【0066】
上記の保磁力Hcは以下のようにして求められる。まず、上述の飽和磁化量Msの算出方法と同様にして、バックグラウンド補正後のM-Hループを得る。次に、得られたM-Hループから保磁力Hcを求める。
【0067】
(基体)
支持体となる基体31は、可撓性を有する長尺状の非磁性基体である。非磁性基体はフィルムであり、フィルムの厚さは、例えば3μm以上8μm以下である。基体31の材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル類、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン類、セルローストリアセテート、セルロースダイアセテート、セルロースブチレート等のセルロース誘導体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のビニル系樹脂、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミドイミド等のプラスチック、アルミニウム合金、チタン合金等の軽金属、アルミナガラス等のセラミック等を用いることができる。
【0068】
(記録層)
記録層33は、例えば、第1の実施形態に係る磁性粉、結着剤および導電性粒子を含む。記録層33が、必要に応じて、潤滑剤、研磨剤、防錆剤等の添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0069】
結着剤としては、ポリウレタン系樹脂、塩化ビニル系樹脂等に架橋反応を付与した構造の樹脂が好ましい。しかしながら結着剤はこれらに限定されるものではなく、磁気記録媒体に対して要求される物性等に応じて、その他の樹脂を適宜配合してもよい。配合する樹脂としては、通常、塗布型の磁気記録媒体において一般的に用いられる樹脂であれば、特に限定されない。
【0070】
例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル-アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル-アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル-塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル-アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル-アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル-塩化ビニリデン共重合体、メタクリル酸エステル-塩化ビニリデン共重合体、メタクリル酸エステル-塩化ビニル共重合体、メタクリル酸エステル-エチレン共重合体、ポリ弗化ビニル、塩化ビニリデン-アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、ポリアミド樹脂、ポリビニルブチラール、セルロース誘導体(セルロースアセテートブチレート、セルロースダイアセテート、セルローストリアセテート、セルロースプロピオネート、ニトロセルロース)、スチレンブタジエン共重合体、ポリエステル樹脂、アミノ樹脂、合成ゴム等が挙げられる。
【0071】
また、熱硬化性樹脂、または反応型樹脂の例としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミン樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂等が挙げられる。
【0072】
また、上述した各結着剤には、磁性粉の分散性を向上させる目的で、-SO3M、-OSO3M、-COOM、P=O(OM)2等の極性官能基が導入されていてもよい。ここで、式中Mは、水素原子、あるいはリチウム、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属である。
【0073】
更に、極性官能基としては、-NR1R2、-NR1R2R3+X-の末端基を有する側鎖型のもの、>NR1R2+X-の主鎖型のものが挙げられる。ここで、式中R1、R2、R3は、水素原子、または炭化水素基であり、X-は弗素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン元素イオン、または無機もしくは有機イオンである。また、極性官能基としては、-OH、-SH、-CN、エポキシ基等も挙げられる。
【0074】
記録層33は、非磁性補強粒子として、酸化アルミニウム(α、βまたはγアルミナ)、酸化クロム、酸化珪素、ダイヤモンド、ガーネット、エメリー、窒化ホウ素、チタンカーバイト、炭化珪素、炭化チタン、酸化チタン(ルチル型またはアナターゼ型の酸化チタン)等をさらに含有していてもよい。
【0075】
記録層33の平均厚みは、好ましくは30nm以上120nm以下、より好ましくは50nm以上70nm以下である。なお、記録層33の平均厚みの算出方法は、上述した通りである。
【0076】
(下地層)
下地層32は、非磁性粉および結着剤を主成分として含む非磁性層である。下地層32が、必要に応じて、導電性粒子、潤滑剤、硬化剤および防錆剤等のうちの少なくとも1種の添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0077】
非磁性粉は、無機物質でも有機物質でもよい。また、非磁性粉は、カーボンブラック等でもよい。無機物質としては、例えば、金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物等が挙げられる。非磁性粉の形状としては、例えば、針状、球状、立方体状、板状等の各種形状が挙げられるが、これに限定されるものではない。結着剤は、上述の記録層33と同様である。
【0078】
下地層32の平均厚みは、好ましくは0.6μm以上2.0μm以下、より好ましくは0.8μm以上1.4μm以下である。なお、下地層32の平均厚みの算出方法は、上述した記録層33の平均厚みの算出方法と同様である。
【0079】
[磁気記録媒体の製造方法]
次に、上述の構成を有する磁気記録媒体の製造方法の一例について説明する。まず、非磁性粉および結着剤等を溶剤に混練、分散させることにより、下地層形成用塗料を調製する。次に、第1の実施形態に係る磁性粉および結着剤等を溶剤に混練、分散させることにより、記録層形成用塗料を調製する。記録層形成用塗料および下地層形成用塗料の調製には、例えば、以下の溶剤、分散装置および混練装置を用いることができる。
【0080】
上述の塗料調製に用いられる溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、乳酸エチル、エチレングリコールアセテート等のエステル系溶媒、ジエチレングリコールジメチルエーテル、2-エトキシエタノール、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、メチレンクロライド、エチレンクロライド、四塩化炭素、クロロホルム、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶媒等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、適宜混合して用いてもよい。
【0081】
上述の塗料調製に用いられる混練装置としては、例えば、連続二軸混練機、多段階で希釈可能な連続二軸混練機、ニーダー、加圧ニーダー、ロールニーダー等の混練装置を用いることができるが、特にこれらの装置に限定されるものではない。また、上述の塗料調製に用いられる分散装置としては、例えば、ロールミル、ボールミル、横型サンドミル、縦型サンドミル、スパイクミル、ピンミル、タワーミル、パールミル(例えばアイリッヒ社製「DCPミル」等)、ホモジナイザー、超音波分散機等の分散装置を用いることができるが、特にこれらの装置に限定されるものではない。
【0082】
次に、下地層形成用塗料を基体31の一方の主面に塗布して乾燥させることにより、下地層32を形成する。次に、この下地層32上に記録層形成用塗料を塗布して乾燥させることにより、記録層33を下地層32上に形成する。なお、乾燥の際に、例えばソレノイドコイルにより、磁性粉を基体31の厚さ方向に磁場配向させるようにしてもよい。次に、必要に応じて、記録層33上に潤滑剤層を形成してもよいし、基体31の他方の主面にバックコート層34を形成してもよい。
【0083】
次に、下地層32および記録層33が形成された基体31を大径コアに巻き直し、硬化処理を行う。次に、下地層32および記録層33が形成された基体31に対してカレンダー処理を行った後、所定の幅に裁断する。以上により、目的とする磁気記録媒体30が得られる。
【0084】
[効果]
本開示の第3の実施形態に係る磁気記録媒体30では、記録層33が、第1の実施形態に係る磁性粉を含むので、高出力で、優れた熱安定性を有し、また記録容易性を有する磁気記録媒体30を実現することができる。
【実施例0085】
以下、実施例により本開示を具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0086】
[実施例1~4、8、11、12、15]
以下、
図4を参照して、磁性粉の製造工程について説明する。まず、ステップS11において、ε-Fe
2O
3粒子粉を秤量し、ε-Fe
2O
3粒子粉を石英ボートに載せ、管状炉へ投入した。この際、ε-Fe
2O
3粒子粉としては、最終的に得られる磁性粉の平均粒子半径r(表1参照)とほぼ同一の平均粒子半径を有するε-Fe
2O
3粒子粉を準備した。投入後、ステップS12において、管状炉を一度N
2雰囲気に置換した後、ステップS13において、管状炉を所定の温度(350℃)まで昇温させた。
【0087】
昇温後、ステップS14において、H2濃度4%の還元性ガスを240ml供給し350℃で加熱処理を行った。より具体的には、H2濃度4%の還元性ガスを10ml/分で供給しながら24分間加熱処理を行った。これにより、ε-Fe2O3粒子の表面が還元されFe3O4に変態した。ここで、還元性ガスの供給量240mlは、還元中に供給される還元性ガスの総量を意味する。その後、ステップS15において、再びN2雰囲気に置換して、ステップS16において、管状炉を室温まで冷却した。以上により、Fe3O4層を表面に有するコアシェル型の磁性粒子が得られた。最後に、ステップS17において、得られた磁性粉を回収した。
【0088】
[実施例5~7、13、14]
ステップS14において、表1に示すように、H2濃度4%の還元性ガスの総量を80ml(実施例13)、160ml(実施例5)、320ml(実施例6)、400ml(実施例7)、480ml(実施例14)に変更したこと以外は実施例2と同様にして磁性粉を得た。
【0089】
[実施例9、10]
以下、
図5を参照して、磁性粉の製造工程について説明する。まず、ステップS21において、FeO粒子粉を秤量し、FeO粒子粉を石英ボートに載せ、焼成炉へ投入した。この際、FeO粒子粉としては、最終的に得られる磁性粉の平均粒子半径r(表1参照)とほぼ同一の平均粒子半径を有するFe
2O
3粒子粉を準備した。投入後、ステップS22において、焼成炉を所定の温度(1100℃)まで昇温させた。
【0090】
昇温後、ステップS23において、表1に示すように、1100℃で50時間(実施例9)、1100℃で70時間(実施例10)焼成処理を行った。これにより、FeO粒子がγ-酸化鉄粒子に変態した後、γ-酸化鉄粒子の内部がε-酸化鉄に変態した。なお、焼成処理は、大気雰囲気で行われた。その後、ステップS24において、γ-酸化鉄粒子の全体がε-酸化鉄に変態する前に、焼成炉を室温まで冷却した。以上により、γ-酸化鉄層を表面に有するコアシェル型の磁性粒子が得られた。最後に、ステップS25において、得られた磁性粉を回収した。
【0091】
[磁性粉の評価]
上述のようにして得られた磁性粉について以下の評価を行った。
【0092】
(平均粒子半径r)
上述の第1の実施形態にて説明した磁性粒子の平均粒子半径rの算出方法と同様にして求めた。
【0093】
(コア部の平均半径rh)
上述の第1の実施形態にて説明したコア部11の平均半径rhの算出方法(割合R2の算出方法中にて説明)と同様にして求めた。
【0094】
(平均粒子径Dに対する粒度分布の標準偏差σの割合R1)
上述の第1の実施形態にて説明した、平均粒子径Dに対する粒度分布の標準偏差σの割合R1の算出方法と同様にして求めた。
【0095】
(磁性粒子の平均体積V)
上述の第1の実施形態にて説明した磁性粒子の平均体積Vの算出方法(割合R2の算出方法中にて説明)と同様にして求めた。
【0096】
(コア部の平均体積Vh)
上述の第1の実施形態にて説明したコア部の平均体積Vhの算出方法(割合R2の算出方法中にて説明)と同様にして求めた。
【0097】
(シェル部の平均体積Vs)
上述の第1の実施形態にて説明したシェル部の平均体積Vsの算出方法(割合R2の算出方法中にて説明)と同様にして求めた。
【0098】
(磁性粒子の平均体積Vに対するシェル部の平均体積Vsの割合R2)
上述の第1の実施形態にて説明した、磁性粒子の平均体積Vに対するシェル部の平均体積Vsの割合R2の算出方法と同様にして求めた。
【0099】
(飽和磁化量σs)
上述の第1の実施形態にて説明した磁性粒子の飽和磁化量σsの算出方法と同様にして求めた。
【0100】
[磁気テープの評価]
上述のようにして得られた磁性粉を用いて磁気テープを作製し、以下の評価を行った。 なお、評価に用いた磁気テープは以下のようにして作製された。
【0101】
(記録層形成用塗料の調製工程)
記録層形成用塗料を以下のようにして調製した。まず、下記配合の第1組成物をエクストルーダで混練した。次に、ディスパーを備えた攪拌タンクに、混練した第1組成物と、下記配合の第2組成物を加えて予備混合を行った。続いて、さらにサンドミル混合を行い、フィルター処理を行い、記録層形成用塗料を調製した。
【0102】
(第1組成物)
磁性粉:100質量部
塩化ビニル系樹脂(シクロヘキサノン溶液30質量%):10質量部
(重合度300、Mn=10000、極性基としてOSO3K=0.07mmol/g、2級OH=0.3mmol/gを含有する。)
酸化アルミニウム粉末:5質量部
(α-Al2O3、平均粒径0.2μm)
カーボンブラック:2質量部
(東海カーボン社製、商品名:シーストTA)
なお、磁性粉としては、実施例1~15の磁性粉(表1参照)を用いた。
【0103】
(第2組成物)
塩化ビニル系樹脂:1.1質量部
(樹脂溶液:樹脂分30質量%、シクロヘキサノン70質量%)
n-ブチルステアレート:2質量部
メチルエチルケトン:121.3質量部
トルエン:121.3質量部
シクロヘキサノン:60.7質量部
【0104】
最後に、上述のようにして調製した記録層形成用塗料に、硬化剤として、ポリイソシアネート(商品名:コロネートL、日本ポリウレタン社製):4質量部と、ミリスチン酸:2質量部とを添加した。
【0105】
(下地層形成用塗料の調製工程)
下地層形成用塗料を以下のようにして調製した。まず、下記配合の第3組成物をエクストルーダで混練した。次に、ディスパーを備えた攪拌タンクに、混練した第3組成物と、下記配合の第4組成物を加えて予備混合を行った。続いて、さらにサンドミル混合を行い、フィルター処理を行い、下地層形成用塗料を調製した。
【0106】
(第3組成物)
針状酸化鉄粉末:100質量部
(α-Fe2O3、平均長軸長0.15μm)
塩化ビニル系樹脂:55.6質量部
(樹脂溶液:樹脂分30質量%、シクロヘキサノン70質量%)
カーボンブラック:10質量部
(平均粒径20nm)
【0107】
(第4組成物)
ポリウレタン系樹脂UR8200(東洋紡績製):18.5質量部
n-ブチルステアレート:2質量部
メチルエチルケトン:108.2質量部
トルエン:108.2質量部
シクロヘキサノン:18.5質量部
【0108】
最後に、上述のようにして調製した下地層形成用塗料に、硬化剤として、ポリイソシアネート(商品名:コロネートL、日本ポリウレタン社製):4質量部と、ミリスチン酸:2質量部とを添加した。
【0109】
(バック層形成用塗料の調製工程)
バック層形成用塗料を以下のようにして調製した。下記原料を、ディスパーを備えた攪拌タンクで混合を行い、フィルター処理を行うことで、バック層形成用塗料を調製した。
カーボンブラック(旭社製、商品名:#80):100質量部
ポリエステルポリウレタン:100質量部
(日本ポリウレタン社製、商品名:N-2304)
メチルエチルケトン:500質量部
トルエン:400質量部
シクロヘキサノン:100質量部
【0110】
(成膜工程)
上述のようにして作製した塗料を用いて、磁気テープを以下のようにして作製した。まず、支持体として、長尺状を有する、平均厚み4.0μmのPENフィルム(ベースフィルム)を準備した。次に、PENフィルムの一方の主面上に下地層形成用塗料を塗布し、乾燥させることにより、PENフィルム上に平均厚み1.1μmの下地層を形成した。次に、下地層上に記録層形成用塗料を塗布し、乾燥させることにより、下地層上に平均厚み0.1μmの記録層を形成した。なお、記録層形成用塗料の乾燥の際に、ソレノイドコイルにより、磁性粉をPENフィルムの厚み方向に磁場配向させた。
【0111】
続いて、PENフィルムの他方の主面上にバック層形成用塗料を塗布、乾燥させることにより、平均厚み0.4μmのバック層を形成した。そして、下地層、記録層、およびバック層が形成されたPENフィルムに対して硬化処理を行った。その後、カレンダー処理を行い、記録層表面を平滑化した。
【0112】
(裁断の工程)
上述のようにして得られた磁気テープを1/2インチ(12.65mm)幅に裁断した。これにより、長尺状を有する、平均厚み5.6μmの磁気テープが得られた。
【0113】
(磁気テープの飽和磁化量Ms)
上述の第3の実施形態にて説明した磁気テープの飽和磁化量Msの算出方法と同様にして求めた。
【0114】
(磁気テープの保磁力Hc)
上述の第3の実施形態にて説明した磁気テープの保磁力Hcの算出方法と同様にして求めた。
【0115】
(CNR)
まず、ループテスター(Microphysics社製)を用いて、磁気テープの再生信号を取得した。以下に、再生信号の取得条件について示す。
head:GMR head
speed:2m/s
signal:単一記録周波数(10MHz)
記録電流:最適記録電流
【0116】
次に、再生信号をスペクトラムアナライザ(spectrum analyze)によりで取り込み、10MHzの再生出力値と、10MHz±1MHzのノイズの平均値を計測し、それらの差をCNRとした。その結果を、実施例15のCNRを0dBとする相対値で表1に示した。
【0117】
表1は、実施例1~15の磁性粉の評価結果、および実施例1~15の磁性粉を用いて作製された磁気テープの評価結果を示す。
【表1】
【0118】
上記評価結果から以下のことがわかった。
気相還元法によりε-酸化鉄粒子の表面を還元処理することで、コアシェル構造を有する磁性粒子を得ることができる。
FeO粒子を焼成し、γ-酸化鉄粒子に変態させた後、γ-酸化鉄粒子の内部をε-酸化鉄に変態させることで、コアシェル構造を有する磁性粒子を得ることができる。
【0119】
CNRを向上する観点から、磁性粒子の平均粒子半径rが、4nm≦r≦20nmであることが好ましい。
CNRを向上する観点から、磁性粒子の平均粒子径Dに対する磁性粒子の粒度分布の標準偏差σの割合R1(=(σ/D)×100)が、R1≦40%であることが好ましい。
CNRを向上する観点から、シェル部の平均体積Vsが、90nm3≦Vsであり、かつ、磁性粒子の平均体積Vに対するシェル部の平均体積Vsの割合R2(=(Vs/V)×100)が、16%≦R2≦62%の範囲内であることが好ましい。
CNRを向上する観点から、磁性粒子の飽和磁化量σsが、30emu/g≦σs≦60emu/gであることが好ましい。
CNRを向上する観点から、記録層の飽和磁化量Msが、50emu/cc≦Ms≦110emu/ccであることが好ましい。
CNRを向上する観点から、磁性粒子が、上述した平均粒子半径r、割合R1、割合R2および飽和磁化量σsのすべての数値範囲を満たしていることが特に好ましい。
【0120】
[変形例]
以上、本開示の第1~第3の実施形態について具体的に説明したが、本開示は、上述の第1~第3の実施形態に限定されるものではなく、本開示の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0121】
例えば、上述の第1~第3の実施形態において挙げた構成、方法、工程、形状、材料および数値等はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる構成、方法、工程、形状、材料および数値等を用いてもよい。また、化合物等の化学式は代表的なものであって、同じ化合物の一般名称であれば、記載された価数等に限定されない。
【0122】
また、上述の第1~第3の実施形態の構成、方法、工程、形状、材料および数値等は、本開示の主旨を逸脱しない限り、互いに組み合わせることが可能である。
【0123】
また、上述の第1の実施形態に係る磁性粉の製造方法では、気相還元法により、ε-酸化鉄粒子の粉末を還元処理する場合について説明したが、液相還元法により、ε-酸化鉄粒子の粉末を還元処理するようにしてもよい。
【0124】
また、上述の第2の実施形態の磁性粉の製造方法では、γ-酸化鉄粒子の内部がε-酸化鉄に変態させる場合について説明したが、焼成条件を調整することで、γ-酸化鉄粒子の内部以外の一部をε-酸化鉄に変態させるようにしてもよい。
【0125】
また、上述の第3の実施形態の製造方法では、記録層33が、第1の実施形態に係る磁性粉を含む場合について説明したが、記録層33が、第2の実施形態に係る磁性粉を含むようにしてもよいし、第1の実施形態に係る磁性粉と第2の実施形態に係る磁性粉との両方を含むようにしてもよい。
【0126】
また、本開示は以下の構成を採用することもできる。
(1)
ε-酸化鉄(Feサイトの一部が金属元素で置換されたものを含む)を含む粒子を還元処理し、前記粒子の表面の少なくとも一部に四酸化三鉄(Feサイトの一部が前記金属元素で置換されたものを含む)を形成することにより、磁性粒子を得ること
を含む磁性粉の製造方法。
(2)
前記磁性粒子の平均粒子半径rが、4nm≦r≦20nmである(1)に記載の磁性粉の製造方法。
(3)
前記磁性粒子の平均粒子径Dに対する前記磁性粒子の粒度分布の標準偏差σの割合R1(=(σ/D)×100)が、R1≦40%である(1)または(2)に記載の磁性粉の製造方法。
(4)
前記磁性粒子が、コアシェル型構造を有する(1)から(3)のいずれかに記載の磁性粉の製造方法。
(5)
前記磁性粒子のシェル部の平均体積Vsが、90nm3≦Vsであり、
前記磁性粒子の平均体積Vに対する前記シェル部の平均体積Vsの割合R2(=(Vs/V)×100)が、16%≦R2≦62%である(4)に記載の磁性粉の製造方法。
(6)
前記磁性粒子の飽和磁化量σsが、30emu/g≦σs≦60emu/gである(1)から(5)のいずれかに記載の磁性粉の製造方法。
(7)
ε-酸化鉄(Feサイトの一部が金属元素で置換されたものを含む)を含む粒子と、
前記粒子の表面の少なくとも一部に設けられた四酸化三鉄(Feサイトの一部が前記金属元素で置換されたものを含む)と
を備える磁性粒子を含む磁性粉。
(8)
(7)に記載の前記磁性粉を含む記録層を備える磁気記録媒体。
(9)
前記記録層の飽和磁化量Msが、50emu/cc≦Ms≦110emu/ccである(8)に記載の磁気記録媒体。
(10)
焼成により、酸化第一鉄(Feサイトの一部が金属元素で置換されたものを含む)を含む第1の粒子をγ-酸化鉄(Feサイトの一部が前記金属元素で置換されたものを含む)を含む第2の粒子に変態させた後、前記第2の粒子の一部をε-酸化鉄(Feサイトの一部が前記金属元素で置換されたものを含む)に変態させることにより、磁性粒子を得ること
を含む磁性粉の製造方法。
(11)
前記第2の粒子の一部が、前記第2の粒子の内部である(10)に記載の磁性粉の製造方法。
(12)
前記磁性粒子が、コアシェル型構造を有する(11)に記載の磁性粉の製造方法。
(13)
ε-酸化鉄(Feサイトの一部が金属元素で置換されたものを含む)を含む粒子と、
前記粒子の表面の少なくとも一部に設けられたγ-酸化鉄(Feサイトの一部が前記金属元素で置換されたものを含む)と
を備える磁性粒子を含む磁性粉。
(14)
(13)に記載の前記磁性粉を含む記録層を備える磁気記録媒体。