(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023171849
(43)【公開日】2023-12-05
(54)【発明の名称】監視システム
(51)【国際特許分類】
G08B 17/00 20060101AFI20231128BHJP
G08B 17/12 20060101ALI20231128BHJP
【FI】
G08B17/00 D
G08B17/12 A
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023164250
(22)【出願日】2023-09-27
(62)【分割の表示】P 2019089590の分割
【原出願日】2019-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003403
【氏名又は名称】ホーチキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079359
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 進
(74)【代理人】
【識別番号】100228669
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 愛規
(72)【発明者】
【氏名】杉山 泰周
(57)【要約】 (修正有)
【課題】検知器の試験に際して、環境的要因の継時変化等に起因した受光信号レベルの変動があっても、その影響を受けることなく、検知器の経年劣化による故障予兆を適切に把握可能な監視システムを提供する。
【解決手段】防災受信盤10に複数の火災検知器12を接続して火災を監視するトンネル防災システムであって、上り線トンネル1a及び下り線トンネル1bに設置された火災検知器12の各々は、試験光源を駆動した試験の際の受光信号に基づき、所定の故障予兆判断条件を充足したときに故障予兆と判断し、防災受信盤10は、火災検知器12の各々から試験の試験結果情報を取得し、取得した複数の試験結果情報に基づき、故障予兆判断条件を変更する火災検知器12を決定する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信盤に複数の検知器を接続して異常を監視する監視システムに於いて、
前記検知器の各々は、試験光源を駆動した試験の際の受光信号に基づき、所定の故障予兆判断条件を充足したときに故障予兆と判断し、
前記受信盤は、前記検知器の各々から前記試験の試験結果情報を取得し、取得した複数の試験結果情報に基づき、前記故障予兆判断条件を変更する検知器を決定することを特徴とする監視システム。
【請求項2】
請求項1記載の監視システムに於いて、
前記検知器の各々は、所定期間における前記受光信号から所定の特異レベルとなる受光信号を除外して平均処理により前記試験結果情報を生成することを特徴とする監視システム。
【請求項3】
請求項2記載の監視システムに於いて、
前記検知器の各々は、所定期間における前記受光信号のレベルが所定の正常範囲になく、且つ所定の故障範囲にもないときの回数を計数して、当該回数が所定の判定回数に達したときに前記故障予兆判断条件を充足したと判定し、前記所定期間が経過したときに、前記計数を初期化して再度計数を開始することを特徴とする監視システム。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載の監視システムに於いて、
前記受信盤は、前記複数の検知器を検知器が設置される区間ごとにグループに分け、各グループの試験結果情報に基づき前記故障予兆判断条件を変更するグループを決定することを特徴とする監視システム。
【請求項5】
請求項1乃至3の何れかに記載の監視システムに於いて、
前記受信盤は、前記複数の検知器を前記受信盤に接続するための信号線の系統ごとにグループに分け、各グループの試験結果情報に基づき前記故障予兆判断条件を変更するグループを決定することを特徴とする監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防災受信盤から引き出された信号線に接続された検知器により異常を監視する防災システム等の監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、トンネル内の火災を監視する監視システムとして、トンネル防災システムがある。
【0003】
このようなトンネル防災システムは、自動車専用道路等のトンネルに、トンネル内で発生する火災事故から人身及び車両等を守るため、火災を監視する火災検知器が設置され、防災受信盤から引き出された信号線に接続されて火災を監視するものである。
【0004】
火災検知器は左右の両方向に検知エリアを持ち、トンネルの長手方向に沿って、隣接して配置される火災検知器との検知エリアが相互補完的に重なるように、例えば、25m間隔、或いは50m間隔で連続的に配置されている。
【0005】
また、火災検知器は透光性窓を介してトンネル内で発生する火災炎からの放射線、たとえば赤外線を監視しており、炎の監視機能を維持するために、受光素子の感度を点検するための感度試験や透光性窓の汚れを監視するための汚れ試験を行っている。
【0006】
しかしながら、このような従来の火災検知器にあっては、運用期間が長くなって火災検知器の劣化が進んだ場合、感度試験による感度障害や汚れ試験による汚れ障害が検出されることなく正常に運用されていると思われる状態でも、火災検知器が火災検知信号を出力して防災受信盤から非火災報が出される事態が発生する可能性があり、このような場合、それが非火災報であることを確認するまでは、警報表示板設備などにより進入禁止警報を行って車両のトンネル通行を禁止し、担当者が現場に出向いて確認する必要があり、トンネル通行を再開するまでに手間と時間がかかり、交通渋滞を招くなどの影響が小さくない。
【0007】
このため、防災受信盤で火災検知器の温度、湿度、衝撃振動及び電気的ノイズ等の環境ストレスに基づいて劣化の度合いを判定して報知するようにしたトンネル防災システムが提案されており、火災検知器の劣化の進み具合が把握できることで、非火災報が出されてしまう前に、火災検知器を予備の火災検知器に交換する等の対応を可能としている。
【0008】
また、従来のトンネル防災システムは、防災受信盤が火災検知器からの火災信号を受信したときに、非火災報を防止するために、所定時間後に火災検知器を一旦復旧し、再度、所定時間以内に火災信号を受信したときに火災と判断して警報表示板設備などにより進入禁止警報を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002-246962号公報
【特許文献2】特開2016-128796号公報
【特許文献3】特開2018-169893号公報
【特許文献4】特開平06-282774号公報
【特許文献5】特開2018-147373号公報
【特許文献6】特開2017-034489号公報
【特許文献7】特開2017-049799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、上記のような従来のトンネル防災システムは、火災検知器の試験時の受光信号レベルに基づいて劣化の度合いを判定しているものがあるが、この場合、試験による受光信号レベルは例えば季節による環境温度等の影響を受けて緩やかに変動しており、例えば環境温度が大きく異なる冬場と夏場では試験動作に係る各部の温度特性等の影響によって試験時の受光信号レベルが異なる可能性がある。
【0011】
このため、時期的な環境要因を考慮した火災検知器の故障予兆等の把握が求められる。故障予兆とは、検知器の検出センサ(後述する実施形態の場合には受光センサ)や回路部品が劣化することによってノイズ信号の発生や感度が不足する等の故障状態に至る可能性が高まっている状態、即ち、近い将来故障に至り得る前兆を示す概念である。
【0012】
本発明は、検知器の試験に際して、環境的要因の継時変化等に起因した受光信号レベルの変動があっても、その影響を受けることなく、検知器の経年劣化による故障予兆を適切に把握可能な監視システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(監視システム)
本発明は、受信盤に複数の検知器を接続して異常を監視する監視システムに於いて、
検知器の各々は、試験光源を駆動した試験の際の受光信号に基づき、所定の故障予兆判断条件を充足したときに故障予兆と判断し、
受信盤は、検知器の各々から試験の試験結果情報を取得し、取得した複数の試験結果情報に基づき、故障予兆判断条件を変更する検知器を決定することを特徴とする。
【0014】
(平均処理による試験結果情報の生成)
検知器の各々は、所定期間における受光信号から所定の特異レベルとなる受光信号を除外して平均処理により試験結果情報を生成する。
【0015】
(故障予兆判断)
検知器の各々は、所定期間における受光信号のレベルが所定の正常範囲になく、且つ所定の故障範囲にもないときの回数を計数して、当該回数が所定の判定回数に達したときに故障予兆判断条件を充足したと判定し、所定期間が経過したときに、計数を初期化して再度計数を開始する。
【0016】
(検知器の区間ごとの条件変更)
受信盤は、複数の検知器を検知器が設置される区間ごとにグループに分け、各グループの試験結果情報に基づき故障予兆判断条件を変更するグループを決定する。
【0017】
(信号線の系統ごとの条件変更)
受信盤は、複数の検知器を受信盤に接続するための信号線の系統ごとにグループに分け、各グループの試験結果情報に基づき故障予兆判断条件を変更するグループを決定する。
【発明の効果】
【0018】
(基本的な効果)
本発明は、受信盤に複数の検知器を接続して異常を監視する監視システムに於いて、検知器の各々は、試験光源を駆動した試験の際の受光信号に基づき、所定の故障予兆判断条件を充足したときに故障予兆と判断し、受信盤は、検知器の各々から試験の試験結果情報を取得し、取得した複数の試験結果情報に基づき、故障予兆判断条件を変更する検知器を決定するため、例えば火災検知器を設置したトンネル防災システムに於いて、トンネル内の環境温度が季節により変動した場合、試験による受光信号に基づく試験結果情報により故障予兆判断条件が変更され、その結果、例えば季節的な環境要因等により試験時の受光信号レベルが変動しても、この変動に追従して故障予兆判断条件が変更され、年間を通じて試験による受光信号レベルから故障予兆を正確に判断することが可能となり、運用管理者等は、経年劣化等に伴い故障予兆(の状態)と判断された火災検知器を重点的に点検することで、故障予兆が判断された火災検知器に対し適切な対処を行い、非火災報を防止し、例えばトンネル防災システムの場合には、これによってトンネルの進入禁止警報を伴う火災処理によりトンネル通行を止めてしまうといった二次的影響を従来に比べ抑制可能とする。
【0019】
また、受信盤が検知器の各々から試験の試験結果情報に基づき、故障予兆判断条件を変更する検知器を決定するため、検知器の処理負担を低減可能とする。
【0020】
また、受信盤が複数の検知器からの試験結果情報を、例えば区間、信号系統等に分けて総合的に処理するため、特定の区間、信号系統等の単位で生じた環境要因等の影響を避けて、故障予兆を正確に判断することが可能となる。
【0021】
(平均処理による試験結果情報の生成の効果)
検知器の各々は、所定期間における受光信号から所定の特異レベルとなる受光信号を除外して平均処理により試験結果情報を生成するため、一過性の影響を受けた受光信号の影響を抑制した試験結果情報を生成することができ、試験結果情報に基づき変更される故障予兆判断条件をより精度の高い条件に変更することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図4】火災検知器の機能構成の概略を示したブロック図
【
図5】防災受信盤の機能構成の概略を示したブロック図
【
図6】故障予兆判断条件の設定と試験時の受光レベルに基づく故障予兆の判断動作を示した説明図
【
図7】故障予兆判断条件変更部による故障予兆判断条件の変更動作を示した説明図
【発明を実施するための形態】
【0023】
[監視システム]
本発明の監視システムの実施形態として、トンネル内の火災を監視するトンネル防災システムを例にとって説明する。即ち、監視対象空間をトンネル内、監視対象としての異常を火災、検知器を火災検知器、受信盤を防災受信盤(火災信号受信装置)とした場合を説明する。
【0024】
なお、本発明における検知器は、自己搭載の試験光源を駆動して発生する試験光を、自己搭載の受光素子によって受光した受光信号に基づいて自己の正常性を試験する機能を有するものであり、以下の実施形態における火災検知器も同機能を有する。
【0025】
[トンネル防災システム]
[実施形態の基本的な概念]
図1はトンネル防災システムの概要を示した説明図である。本実施形態におけるトンネル防災システムの基本的な概念は、トンネル内に設置された火災検知器12を信号線14を介して防災受信盤10に接続して監視対象空間内の検知エリア15の火災を監視し、防災受信盤10は火災検知器12からの火災信号に基づいて所定の火災処理を行うものであり、トンネル防災システムは、火災検知器12の試験光源を駆動した際の受光信号に基づき、所定の故障予兆判断条件を充足した場合に火災検知器12の故障予兆と判断し、火災検知器12の試験による受光信号のレベルに基づく試験結果情報を生成し、試験結果情報に基づき、故障予兆判断条件を変更する、というものである。
【0026】
これにより、試験による受光信号のレベルに基づく試験結果情報により故障予兆判断条件が変更され、その結果、例えば季節的な環境要因により試験時の受光信号レベルが変動しても、この変動に追従して故障予兆判断条件が適正化され、年間を通じて火災検知器の故障予兆を適切に把握することが可能となり、運用管理者等は、故障予兆が判断された火災検知器に対し点検、修理、交換等の適切な対処を行い、例えば経年による火災検知器の緩やかな劣化に伴う非火災報の発生を未然に防止可能とする。
【0027】
また、故障予兆判断条件の変更は、火災検知器12の試験結果情報から得られた受光信号のレベルの変化傾向に基づいて故障予兆判断条件を変更するものであり、例えば増加傾向にあれば、この増加傾向に合わせて故障予兆判断条件が変更され、また、減少傾向にあれば、この減少傾向に合わせて故障予兆判断条件が変更されるので、変動する環境要因の影響を受けることなく適切に故障予兆を判断することを可能とする。以下詳細に説明する。
【0028】
[トンネル防災システムの概要]
図1に示すように、自動車専用道路の上り線トンネル1aと下り線トンネル1bの内部にはトンネル長手方向の壁面に沿って例えば25メートル又は50メートル間隔で火災検知器12が設置され、管理室等に設置された防災受信盤10から引き出された信号線14に接続され、火災検知器12には固有のアドレスが設定されている。信号線14は、電源線を含んで良い。
【0029】
図2は火災検知器の検知エリアを示した説明図である。
図2に示すように、火災検知器12は右眼、左眼の2組の火災検知部を備えることで、監視対象空間であるトンネル内の長手方向上り側および下り側の両方向に検知エリア15を持ち、トンネルの長手方向に沿って、隣接して配置される火災検知器12との検知エリアが例えば右眼13Rと左眼13Lで相互補完的に重なるように連続的に配置され、検知エリア15内で起きた火災に伴う炎からの赤外線を観測して火災を検知する。
【0030】
また防災受信盤10に対しては、消火ポンプ設備16、ダクト用の冷却ポンプ設備18、IG子局設備20、換気設備22、警報表示板設備24、ラジオ再放送設備26、テレビ監視設備28及び照明設備30等が設けられており、火災検知器12と防災受信盤10は信号線14を介して、所謂R型(Record-type)伝送方式で通信する。
【0031】
ここで、IG子局設備20は、防災受信盤10と外部に設けた上位設備である遠方監視制御設備32とをネットワークを経由して結ぶ通信設備である。換気設備22は、トンネル内の天井側に設置されているジェットファンの運転によってトンネル長手方向に換気流を発生する設備である。警報表示板設備24は、利用者に対して、火災に伴う進入禁止警報等の情報を電光表示板に表示して知らせる設備である。ラジオ再放送設備26は、トンネル内で運転者等が道路管理者からの情報を受信できるようにするための設備である。テレビ監視設備28は、火災の規模や位置を確認したり、水噴霧設備の作動、避難誘導をしたりする場合のトンネル内状況を把握するための設備である。照明設備30はトンネル内の照明機器を駆動して管理する設備である。
【0032】
[火災検知器]
(火災検知器の外観)
図3は火災検知器の外観を示した説明図、
図4は火災検知器の機能構成の概略を示したブロック図である。
図3に示すように、火災検知器12は、筐体48の上部に設けられたセンサ収納部49に、左右に分けて2組の透光性窓50R,50Lが設けられ、透光性窓50R,50L内の各々に対応して、センサ部が内蔵されている。また、透光性窓50R,50Lの近傍の、センサ部を見通せる位置に、透光性窓50R,50Lの汚れ試験に使用される外部試験光源を収納した2組の試験光源用透光性窓52R,52Lが設けられている。
【0033】
以下の説明では、透光性窓50Rを右眼透光性窓50Rといい、透光性窓50Lを左眼透光性窓50Lという場合がある。
【0034】
(火災検知器の概略構成)
図4に示すように、火災検知器12には、検知器制御部54、伝送部56、電源部58、左右2組の火災検知部60R,60L、試験発光駆動部76、感度試験に用いられる内部試験光源78R,80R,82Rと内部試験光源78L,80L,82L、汚れ試験に用いられる外部試験光源84R,84Lが設けられている。以下の説明では、火災検知部60Rを右眼火災検知部60Rといい、火災検知部60Lを左眼火災検知部60Lという場合がある。
【0035】
検知器制御部54は、例えばプログラムの実行により実現される機能であり、ハードウェアとしてはCPU、メモリ、各種の入出力ポート等を備えたコンピュータ回路等が使用される。
【0036】
伝送部56は信号線14の伝送線Sと伝送コモン線SCにより
図1に示した防災受信盤10に接続され、各種信号がR型伝送により送受信される。
【0037】
電源部58は信号線14に含まれる電源線Bと電源コモン線BCにより
図1に示した防災受信盤10から電源供給を受け、例えば検知器制御部54、伝送部56、左右2組の火災検知部60R,60L、試験発光駆動部76に対し所定の電源電圧が供給されている。
【0038】
試験発光駆動部76には、試験に使用する内部試験光源78R,80R,82R,78L,80L,82Lが接続され、また、汚れ試験に使用する外部試験光源84R,84Lが接続され、それぞれ発光素子としてクリプトンランプが設けられている。
【0039】
(火災検知部)
火災検知部60R,60Lはそれぞれ、センサ部64,68,72と増幅処理部66,70,74を備える。例えば右眼火災検知部60Rを例にとると、センサ部64,68,72の前面にはセンサ収納部46に設けた右眼透光性窓50Rが配置されており、右眼透光性窓50Rを介して外部の検知エリアからの赤外線エネルギーがセンサ部64,68,72に入射される。
【0040】
右眼火災検知部60Rは、例えば3波長式の炎観測により火災を監視している。センサ部64は、右眼透光性窓50Rを介して入射した赤外線エネルギーの中から、炎に特有なCO2の共鳴放射帯である4.5μm帯の赤外線を光学波長バンドパスフィルタにより選択透過(通過)させて、受光センサにより該赤外線を受光して光電変換したうえで、増幅処理部66により増幅等所定の処理を施して受光エネルギー量に対応する炎受光信号E1Rとして検知器制御部54へ出力する。
【0041】
センサ部68は、右眼透光性窓50Rを介して入射した赤外線エネルギーの中から、第1の非炎波長帯域となる、例えば5.0μm帯の赤外線エネルギーを光学波長バンドパスフィルタにより選択透過(通過)させて、受光センサにより受光して光電変換したうえで、増幅処理部70により増幅等所定の処理を施して受光エネルギー量に対応する第1の非炎受光信号E2Rとして検知器制御部54へ出力する。
【0042】
センサ部72は、右眼透光性窓50Rを介して入射した赤外線エネルギーの中から、第2の非炎波長帯域となる、例えば2.3μm帯の赤外線エネルギーを光学波長バンドパスフィルタにより選択透過(通過)させて、受光センサにより受光して光電変換したうえで、増幅処理部74により増幅等所定の処理を施して受光エネルギー量に対応する第2の非炎受光信号E3Rとして検知器制御部54へ出力する。
【0043】
増幅処理部66,70,74には、プリアンプ、炎のゆらぎ周波数を含む所定の周波数帯域を選択通過させる周波数フィルタ及びメインアンプ等が設けられている。
【0044】
検知器制御部54は、炎受光信号E1R、第1の非炎受光信号E2R及び第2の非炎受光信号E3Rに基づき公知手法により火災を判断(検知)している。
【0045】
また検知器制御部54は、防災受信盤10から自己アドレス指定の試験指示信号を受信した場合に外部試験光源84R,84Lを順番に発光駆動して、例えばこのときの炎受光信号E1Rのレベルと、工場出荷時の無汚損の状態において同様にして取得した炎受光信号E1Rのレベルとを比較することにより、透光性窓50Rの汚れ度合いを評価して汚れ障害(汚れにより赤外線透過性能が低下する異常)を検出する汚れ試験を行い、また、内部試験光源78R,80R,82Rを順番に発光駆動して、例えばこのときの炎受光信号E1Rのレベルと、工場出荷時において同様にして取得した炎受光信号E1Rのレベルとを比較することによって、右眼火災検知部60Rの感度を評価して感度障害(センサ故障等により感度が低下する等適切な範囲に無い異常)を検出する感度試験を行う。
【0046】
なお、内部試験光源78R,80R,82Rと内部試験光源78L,80L,82Lは、それぞれ1つの光源で共用しても良い。左眼火災検知部60Lも同様となる。また、第1の非炎受光信号E2R,E2L、第2の非炎受光信号E3R,E3Lについても同様に行うことができる。
【0047】
[防災受信盤]
(防災受信盤の概略)
図5は防災受信盤の機能構成の概略を示したブロック図である。
図5に示すように、防災受信盤10は盤制御部34を備え、盤制御部34はCPU、メモリ、各種の入出力ポート等を備えたコンピュータ回路等で構成され、例えばプログラムの実行により実現される火災監視制御部45、故障予兆判断部46及び故障予兆判断条件変更部47の機能が設けられる。
【0048】
盤制御部34に対しては伝送部36a,36bが設けられ、伝送部36a,36bから引き出した信号線14に上り線トンネル1aと下り線トンネル1bに設置した火災検知器12がそれぞれ複数台接続されている。
【0049】
また、盤制御部34に対しスピーカ、警報表示灯等を備えた警報部38、液晶ディスプレイ、プリンタ等を備えた表示部40、各種スイッチ等を備えた操作部41、IG子局設備20を接続するモデム42が設けられ、更に、
図1に示した消火ポンプ設備16、冷却ポンプ設備18、換気設備22、警報表示板設備24、ラジオ再放送設備26、テレビ監視設備28及び照明設備30が接続されたIO部43が設けられている。
【0050】
火災監視制御部45は、火災検知器12からの火災信号の受信に基づき火災と判断した場合は、警報部38による火災警報の出力(報知)、IO部43を介して他設備の連動制御例えば警報表示板設備24による進入禁止警報の表示、遠方監視制御設備32に対する火災移報信号の送信を含む所定の火災処理を行う。
【0051】
(故障予兆判断部)
故障予兆判断部46は、所定の故障予兆判断条件を設定し、火災検知器12の試験光源を駆動した際の受光信号(或いはそれに対応する受光信号情報)に基づき、所定の故障予兆判断条件を充足した場合に火災検知器12の故障予兆と判断する制御を行う。
【0052】
例えば、故障予兆判断部46は、例えば1日1回等定期的に実施される自己の内部正常性を試験する感度試験による受光信号のレベルが所定の基準値に基づき正常でもなく故障でもないときに故障予兆と判断し、当該故障予兆の判断回数が所定の故障予兆判断閾値回数に達したときに火災検知器の故障予兆と判断する制御を行う。
【0053】
図6は故障予兆判断条件の設定と感度試験時の受光信号レベルに基づく故障予兆の判断動作を示した説明図である。
【0054】
説明を簡単にするため、以下では感度試験時の炎受光信号E1Rにつき、この受光信号レベルに基づいて右眼火災検知部60Rの故障予兆を判断し、故障予兆判断条件を変更する場合として説明するが、第1の非炎受光信号E2R,E2L、第2の非炎受光信号E3R,E3Lについても同様に、これらに基づき故障予兆を判断し、これら信号ごと、即ち火災検知部60R,60Lのセンサ部(センサ部64,68,72)の信号系統(即ち増幅処理部66,70,74を含む信号系統)ごとに故障予兆判断を行い、故障予兆判断条件を変更するようにして良い。
【0055】
図6(A)に示すように、故障予兆判断部46は、故障予兆判断条件として、工場出荷時の状態での火災検知器12の感度試験で検出された受光信号(炎受光信号E1R)のピークレベルを基準値(基準レベル)96として初期設定登録し、基準値96を含む所定の正常範囲98と、正常範囲98を下回るように所定の故障閾値102を設定し、故障閾値102以下となる故障範囲104を設定し、正常範囲98と故障範囲104との間を故障予兆範囲100に設定している。なお、故障閾値102を固定値として故障範囲104を固定範囲としても良いし、故障範囲104も基準値96に応じて変更しても良い。
【0056】
ここで、受光信号の正常範囲98は基準値96を中心に例えば上限値98aと下限値98bで挟まれた範囲とし、例えば基準値96に対し±10パーセントとしている。また、故障閾値102は例えば基準値96の50パーセント程度の値とする。
【0057】
なお、故障予兆範囲100として、例えば、(上限値98a)から{(基準値96)+(基準値96の50パーセント)}までの範囲を追加しても良い。故障範囲104についても、例えば{(基準値96)+(基準値の50パーセント)}以上の範囲を追加しても良い。
【0058】
このような基準値96に基づいた正常範囲98、故障範囲104及び故障予兆範囲100による故障予兆判断条件の設定に基づき、
図6(A)に黒丸で示すように、例えば1日に1回の試験により検出した受光信号(炎受光信号E1R)のピークレベルをプロットして例示すると、故障予兆判断部46は、試験時のピークレベルが正常範囲98にもなく故障範囲104にもない場合、即ち故障予兆範囲100にある場合に故障予兆と判断する。
【0059】
続いて、故障予兆判断部46は、
図6(B)に示すように、故障予兆の判断回数Nを計数して所定の故障予兆判断閾値回数Nthと比較しており、判断回数Nが故障予兆判断閾値回数Nthに達したときに故障予兆判断条件を充足したとして故障予兆と判断する。即ち、故障予兆判断部46は、試験時の受光信号に基づき、また受光信号のピークレベルが正常範囲98にもなく故障範囲104にもないことに基づき、またこれらに判断回数Nを合わせて故障予兆を判断するようにしている。
【0060】
ここで、判断回数の計数は、例えば所定期間(例えば定期に実施される試験の所定回数)について行い、これを経過したときにクリアして再度計数開始するようにしても良く、その他適宜の計数方法を採用し得る。
【0061】
(故障予兆判断条件変更部)
故障予兆判断条件変更部47は、試験による受光信号のピークレベルに基づく試験結果情報を生成し、試験結果情報に基づき、故障予兆判断条件を変更する制御を行う。この場合、故障予兆判断条件変更部47は、試験結果情報から得られた受光信号のピークレベルの傾向に基づいて故障予兆判断条件、例えば
図6(A)に示した基準値96を変更し、基準値96の変更に伴い、正常範囲98、故障範囲104及び故障予兆範囲100を変更する。
【0062】
図7は故障予兆判断条件変更部による故障予兆判断条件の変更動作を示した説明図であり、例えば1日1回試験を実施し、10日単位の故障予兆判断条件の変更タイミングを設定した場合を例とっている。なお、故障閾値102は固定としている。
【0063】
いま、D0日から期間T1=10日を経過したD1日で故障予兆判断条件の変更タイミングに達したとすると、期間T1の間に黒点で示す10回分の試験時受光信号のピークレベルが得られている。ここで、期間T1にはそのときの基準値96-1に基づき正常範囲98-1及び故障予兆範囲100-1が設定されており、そのうち7回は正常範囲98-1にあるが、2回は故障予兆範囲100-1にあり、残り1回は正常範囲98-1を超えたa点にある。
【0064】
ここでは、a点のピークレベルは一過性の外乱光、電気的外来ノイズや振動、誘導雷等による特異レベルとして初期値の算出対象から除外する場合を説明する。また、期間T2にb点に示すように、故障閾値102を下回るようなピークレベルについても、特異レベルとして基準値96-2の算出対象から除外する場合とする。もちろん、これら特異レベルも算出対象としても良く、また例えば、特異レベルの出現頻度に応じて対象とするか対象から除外するかを選択するようにしても良い。
【0065】
このような期間T1に保持された試験時受光信号のピークレベルに基づき、故障予兆判断条件変更部47は、a点のピークレベルを初期値の算出対象から除外し、正常範囲98-1及び故障予兆範囲100-1にある9個のピークレベルの平均処理により新たな基準値96-2を求める。この場合、ピークレベルが受光信号情報、平均処理結果が試験結果情報となる。
【0066】
続いて、故障予兆判断条件変更部47は、期間T1の受光信号ピークレベルから新たな基準値96-2を求め、これを次の期間T2に基準値96-2として設定し、新たな基準値96-2に基づき正常範囲98-2を設定し、その結果、故障予兆範囲100-2が設定される。
【0067】
これにより期間T1の試験時受光信号のピークレベルの減少傾向に応じて基準値96-2,正常範囲98-2及び故障予兆範囲100-2が低レベル側にシフトするように変更されることで、故障予兆判断条件の変更が行われる。同様に、試験時受光信号のピークレベルが増加傾向の場合には、これに応じて基準値96-2,正常範囲98-2及び故障予兆範囲100-2が高レベル側にシフトするように変更される。
【0068】
以下同様に、故障予兆判断条件変更部47は、故障予兆判断条件の変更タイミングに到達するごとに、新な基準値96-3,96-4,・・・を求めて正常範囲98-3,98-4,・・・及び故障予兆範囲100-3,100-4,・・・を変更することで、試験時受光信号のピークレベルの傾向に応じて故障予兆判断条件の変更を行う。
【0069】
このため例えば季節的な要因により試験時の受光信号のレベルが変動しても、この変動に追従して故障予兆判断条件が変更され、年間を通じて試験による受光信号のレベルから故障予兆を適切に判断することが可能となり、このように適切な条件のもとで故障予兆と判断された場合には火災検知器12の信頼性が低下していることが分かることから、運用管理者は、例えば故障予兆と判断された火災検知器を重点的に点検することで適切な対処を行うことができると共に、非火災報とこれに伴うトンネルの進入禁止警報等の火災処理によりトンネル通行を止めてしまうといったことの未然防止が、従来に比べて確実にできるようになる。
【0070】
ここで、故障予兆判断条件変更部47による故障予兆判断条件の変更タイミングは一定期間ごとに限定されず、試験が定期的でない場合も含め、所定の試験回数を計数するごとに行っても良いし、特定の火災検知器の故障予兆が判断された時に行っても良く、或いは管理者が操作部41を介して任意のタイミングで行うようにしても良く、適宜の方法とすることができる。
【0071】
また、故障予兆判断条件変更部47は、試験結果情報として試験時受光信号のピークレベルに基づいて故障予兆判断条件を変更しているが、試験時受光レベルのピークレベルの平均値等の統計的処理をしたものを試験結果情報とし、これに基づいて故障予兆判断条件を変更してもよい。
【0072】
また、試験時の受光信号レベルを年間単位で記憶し、例えば月単位で故障予兆判断条件を変更する場合、前年同月の試験時の受光レベルを読出し、これに基づいて故障予兆判断条件を変更してもよい。また、月単位で変更した故障予兆判断条件を記憶し、例えば月単位で故障予兆判断条件を変更する場合、前年同月の故障予兆判断条件を読出して変更しても良い。また、故障予兆判断条件として、故障予兆範囲の変更に代えて、又は加えて、故障予兆判断閾値回数Nthを変更するようにしても良い。
【0073】
[故障予兆判断部と故障予兆判断条件変更部のシステム配置]
上記の実施形態は、故障予兆判断部46と故障予兆判断条件変更部47の機能を防災受信盤10に配置しているが、これに限定されず、システム上の任意の位置に配置しても良い。
【0074】
例えば、故障予兆判断部46と故障予兆判断条件変更部47の機能を火災検知器12に配置しても良い。この場合、火災検知器12は防災受信盤10から故障予兆判断条件の変更指示を受けて、或いは自己の管理するタイミングで、自己保有の試験結果情報に基づいて故障予兆判断条件を変更する。
【0075】
防災受信盤10から火災検知器12に対する故障予兆判断条件の変更指示は、所定期間ごとに行う場合以外に、防災受信盤10で複数の火災検知器12からの試験結果情報を取得して総合的に処理し、例えば、トンネルの区間、信号系統等に分けて試験結果情報を総合的に処理し、例えば試験時受光信号のレベル変動の大きい区間、信号系統に対し故障予兆判断条件の変更指示を行うようにしても良い。
【0076】
また、他の形態として、故障予兆判断部46は火災検知器12に配置し、故障予兆判断条件変更部47は防災受信盤10に配置するというように、システム内に分散して配置してもよく、任意である。
【0077】
[本発明の変形例]
(火災検知器)
上記の実施形態は、3波長方式の火災検知器を例にとっているが、他の方式でも良く、例えば、CO2の共鳴放射帯である4.5μm帯と、その短波長側の例えば、5.0μm付近の波長帯域における赤外線エネルギーを検知し、これらの2波長帯域における各受光信号の相対比によって炎の有無を判定する2波長式の炎検知器としても良い。
【0078】
(監視システム)
上記の実施形態は、監視システムとして、トンネル内の異常である火災を監視するR型のトンネル防災システムを例にとっているが、P型(Proprietary-type)としても良い。
【0079】
また、本発明はトンネル防災システム以外の監視システムについても適用できる。例えば建物内の火災を監視する自動火災報知システムや、プラント等の火災を監視する防災システム等、適宜の監視システムに適用することができる。また、監視対象とする異常事象としては火災に限らず各種の災害事象等を監視するものであっても良いし、例えば人体検知や侵入検知の機能を有する防犯検知器と防犯受信盤によって構成される防犯用途の監視システムであっても良い。
【0080】
(その他)
また本発明は、その目的と利点を損なわない適宜の変形を含み、更に上記の実施形態に示した数値による限定は受けない。
【符号の説明】
【0081】
1a:上り線トンネル
1b:下り線トンネル
10:防災受信盤
12:火災検知器
14:信号線
16:消火ポンプ設備
18:冷却ポンプ設備
20:IG子局設備
22:換気設備
24:警報表示板設備
26:ラジオ再放送設備
28:テレビ監視設備
30:照明設備
32:遠方監視制御設備
34:盤制御部
36a,36b:伝送部
45:火災監視制御部
46:故障予兆判断部
47:故障予兆判断条件変更部
50R,50L:透光性窓
52R,52L:試験光源用透光性窓
54:検知器制御部
56:伝送部
58:電源部
60R,60L:火災検知部
64,68,72:センサ部
66,70,74:増幅処理部
76:試験発光駆動部
78R,78L,80R,80L,82R,82L:内部試験光源
84R,84L:外部試験光源