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特開2023-17191異種材接合構造体、異種材接合方法、および異種材接合装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023017191
(43)【公開日】2023-02-07
(54)【発明の名称】異種材接合構造体、異種材接合方法、および異種材接合装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 65/44 20060101AFI20230131BHJP
   B23K 26/352 20140101ALI20230131BHJP
【FI】
B29C65/44
B23K26/352
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021121270
(22)【出願日】2021-07-26
(71)【出願人】
【識別番号】000227836
【氏名又は名称】日本アビオニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 綾介
(72)【発明者】
【氏名】安藤 元彦
【テーマコード(参考)】
4E168
4F211
【Fターム(参考)】
4E168AB01
4E168JA02
4E168JA03
4E168JA04
4E168KA04
4F211AD03
4F211AD24
4F211AD33
4F211AG03
4F211TA01
4F211TA13
4F211TC03
4F211TD02
4F211TD11
4F211TH06
4F211TH17
4F211TH21
4F211TQ04
(57)【要約】
【課題】金属ワークと樹脂ワークとの直接接合における接合強度の向上を図ることが可能な異種材接合構造体を提供する。
【解決手段】金属ワークと樹脂ワークとを、それぞれの接合領域面で接合した異種材接合構造体であって、金属ワークの接合領域面は、平坦部と、平坦部設けられた凹部と、凹部の底部に形成された凹凸形状とを有し、樹脂ワークの接合領域面は、金属ワークの接合領域面に倣った表面形状を有する異種材接合構造体である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ワークと樹脂ワークとを、それぞれの接合領域面で接合した異種材接合構造体であって、
前記金属ワークの接合領域面は、平坦部と、前記平坦部に設けられた凹部と、前記凹部の底部に形成された凹凸形状とを有し、
前記樹脂ワークの接合領域面は、前記金属ワークの接合領域面に倣った表面形状を有する
異種材接合構造体。
【請求項2】
前記金属ワークの接合領域面および前記樹脂ワークの接合領域面のうちの少なくとも一方はプラズマ処理された面であって、親水基を有する
請求項1に記載の異種材接合構造体。
【請求項3】
前記金属ワークの接合領域面には、前記凹部が分散して配置されている
請求項1または2に記載の異種材接合構造体。
【請求項4】
前記金属ワークの接合領域面に占める前記凹部の割合は、前記平坦部よりも多い
請求項1~3のうちの何れか1項に記載の異種材接合構造体。
【請求項5】
前記凹部は溝形状であり、交差部を有することなく前記金属ワークの接合領域面に配置されている
請求項1~4のうちの何れか1項に記載の異種材接合構造体。
【請求項6】
前記凹凸形状は、前記凹部の底部に形成されたドット状の凹部によって構成されている
請求項1~5のうちの何れか1項に記載の異種材接合構造体。
【請求項7】
前記樹脂ワークは、炭素繊維層と樹脂層とを備え、前記接合領域面が樹脂層によって構成さている
請求項1~6のうちの何れか1項に記載の異種材接合構造体。
【請求項8】
金属ワークと樹脂ワークとを接合する異種材接合方法であって、
前記金属ワークと前記樹脂ワークを用意するステップと、
前記金属ワークの接合領域面に、平坦部を残して凹部を形成するステップと、
前記金属ワークの接合領域面に形成された前記凹部の底部に凹凸形状を形成するステップと、
前記凹部および前記凹凸形状が形成された前記金属ワークの接合領域面と、前記樹脂ワークの接合領域面とを密着させた状態で、前記金属ワークと前記樹脂ワークとを積層するステップと、
前記金属ワークと前記樹脂ワークとの積層体を積層方向から加圧した状態で前記金属ワークを加熱するステップと、
加熱された前記金属ワークの熱を前記樹脂ワークに伝導して、前記樹脂ワークを溶融するステップと、を含む
異種材接合方法。
【請求項9】
前記金属ワークと前記樹脂ワークとを積層するステップの前に、前記樹脂ワークの接合領域面および前記凹部および前記凹凸形状が形成された前記金属ワークの接合領域面のうちの少なくとも一方に、プラズマ処理を施すステップを含む
請求項8に記載の異種材接合方法。
【請求項10】
前記凹部を形成するステップと、前記凹凸形状を形成するステップとは、レーザ照射による表面加工によって前記凹部と前記凹凸形状とを形成する
請求項8または9に記載の異種材接合方法。
【請求項11】
前記凹部を形成するステップと、前記凹凸形状を形成するステップとで、前記レーザ照射における前記金属ワークの保持高さを調整する
請求項10に記載の異種材接合方法。
【請求項12】
前記凹部を形成するステップと、前記凹凸形状を形成するステップとで、前記レーザ照射におけるレーザ光の走査軌道を変更する
請求項10に記載の異種材接合方法。
【請求項13】
前記凹凸形状を形成するステップでのレーザ照射におけるレーザ出力を、前記凹部を形成するステップでのレーザ照射におけるレーザ出力よりも低下させる
請求項10に記載の異種材接合方法。
【請求項14】
前記凹凸形状を形成するステップでのレーザ照射のパルス幅を、前記凹部を形成するステップでのレーザ照射のパルス幅よりも狭くする
請求項10に記載の異種材接合方法。
【請求項15】
金属ワークと樹脂ワークとを接合する異種材接合装置であって、
前記樹脂ワークと接合する前記金属ワークの接合領域面をレーザ照射によって表面加工するレーザ加工装置と、
前記金属ワークの接合領域面と前記樹脂ワークの接合領域面とを合わせた状態で、前記金属ワークを加圧及び加熱するパルスヒート装置とを備え、
前記レーザ加工装置は、レーザ発生装置と前記レーザ発生装置の駆動を制御する加工制御部とを有し、
前記レーザ加工装置の加工制御部は、前記金属ワークの接合領域面に平坦部を残した状態で凹部を形成した後、前記凹部の底部に凹凸形状を形成するように前記レーザ発生装置の駆動を制御する
異種材接合装置。
【請求項16】
前記レーザ加工装置によって表面加工された前記金属ワークの接合領域面、および前記樹脂ワークの接合領域面の少なくとも一方に対してプラズマ照射するプラズマ照射部を備えた
請求項15に記載の異種材接合装置。
【請求項17】
前記レーザ加工装置は、前記金属ワークを所定状態で固定して保持する固定部を有し、
前記加工制御部は、前記凹部の形成と前記凹凸形状の形成とにおいて、前記固定部の制御により前記金属ワークの保持高さを調整する
請求項15または16に記載の異種材接合装置。
【請求項18】
前記加工制御部は、前記レーザ発生装置から照射されるレーザ光の走査軌道を制御することにより、前記凹部と前記凹凸形状とを形成する
請求項15または16に記載の異種材接合装置。
【請求項19】
前記加工制御部は、前記凹凸形状の形成におけるレーザ出力が、前記凹部の形成におけるレーザ出力よりも低下するように、前記レーザ発生装置の駆動を制御する
請求項15または16に記載の異種材接合装置。
【請求項20】
前記加工制御部は、前記凹凸形状の形成におけるレーザ照射のパルス幅が、前記凹部の形成におけるレーザ照射のパルス幅よりも狭くなるように、前記レーザ発生装置の駆動を制御する
請求項15または16に記載の異種材接合装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異種材接合構造体、異種材接合方法、および異種材接合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料からなる部材と樹脂材料からなる部材とを接合する異種材の接合に関する技術として、下記特許文献1に開示の技術がある。この特許文献1には、金属成形体の樹脂成形体との接合面に対して、開口部の平均直径(Db)が1.0~1000μm、最大深さが10~1000μmの凹部、または開口部の平均幅(Wb)が1.0~1000μm、最大深さが10~1000μmの溝を形成する第1工程、前記凹部または溝が形成された金属成形体の接合面に対して、開口部の平均直径(Ds)が0.01~50μmの凹部、または開口部の平均幅(Ws)が0.01~50μmの溝を形成する第2工程、その後、金属成形体の接合面を含む部分を金型内に配置して、樹脂成形体となる樹脂を使用してインサート成形して複合成形体を得る第3工程、を有している複合成形体の製造方法が記載されており、これにより接合強度を高めた複合接合体を得ることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-51041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、既に成形されて部品としての金属ワークと樹脂ワークの接合面を重ねて加熱する、いわゆるパルスヒートを用いた直接接合が注目されている。しかしながら、特許文献1に記載の技術は、金属成形体と金型を用いたインサート成形によって形成した樹脂成形体との接合強度を高める技術であり、金属ワークと樹脂ワークとの直接接合においても、さらなる接合強度の向上が求められている。
【0005】
そこで本発明は、金属ワークと樹脂ワークとの直接接合における接合強度の向上を図ることが可能な異種材接合構造体、異種材接合方法、および異種材接合装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的を達成するための本発明は、金属ワークと樹脂ワークとを、それぞれの接合領域面で接合した異種材接合構造体であって、前記金属ワークの接合領域面は、平坦部と、前記平坦部に設けられた凹部と、前記凹部の底部に形成された凹凸形状とを有し、前記樹脂ワークの接合領域面は、前記金属ワークの接合領域面に倣った表面形状を有する異種材接合構造体である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、金属ワークと樹脂ワークとの直接接合における接合強度の向上を図ることが可能な異種材接合構造体、異種材接合方法、および異種材接合装置を提供することできる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態に係る異種材接合構造体の構成図である。
図2図1のC部の拡大図である。
図3】金属ワークの接合領域面が有する大径凹部の開口形状の例を示す図である。
図4】実施形態に係る異種材接合装置の全体構成を示すブロック図である。
図5】実施形態に係る異種材接合方法の手順を示すフローチャートである。
図6】実施形態に係る異種材接合方法の手順を示す工程図(その1)である。
図7】実施形態に係る異種材接合方法の手順を示す工程図(その2)である。
図8】金属ワークの加工方法の第1例を説明するための図である。
図9】第1例を適用した金属ワークの加工手順を示す図である。
図10】金属ワークの加工方法の第2例を説明するための図である。
図11】第2例を適用した金属ワークの加工手順を示す図である。
図12】金属ワークの加工方法の第3例を説明するための図である。
図13】第3例を適用した金属ワークの加工手順を示す図である。
図14】金属ワークの加工方法の第4例を説明するための図である。
図15】第4例を適用した金属ワークの加工手順を示す図である。
図16】金属ワークの接合領域面の顕微鏡像である。
図17】金属ワークの接合領域面の凹凸を測定したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を適用した各実施の形態を、異種材接合構造体、異種材接合装置、異種材接合方法の順に説明する。
【0010】
≪異種材接合構造体≫
図1は、実施形態に係る異種材接合構造体100の構成図であり、異種材接合構造体100の平面図と、平面図のA-A断面図、およびB-B断面図である。また図2は、図1のC部の拡大図であって、A-A断面図の要部拡大図である。これらの図に示すように、異種材接合構造体100は、金属ワーク1と樹脂ワーク2とを直接接合した構成のものであって、金属ワーク1と樹脂ワーク2との接合界面100aを有する。これらは次のようである。
【0011】
<金属ワーク1>
金属ワーク1は、アルミニウム、銅、黄銅(合金)、ステンレス等の金属材料を用いて構成された部品である。この金属ワーク1は、図示した平板状の部分を有し、この平板状の一主面1aに、樹脂ワーク2との間の接合領域面1aaが設定されている。この接合領域面1aaは、大径凹部101と、大径凹部101の底部に形成された小径凹部102と、大径凹部101の上部の平坦部103とを有する。
【0012】
[大径凹部101]
大径凹部101は、接合領域面1aaの広い範囲に分布して配置され、接合領域面1aa内において均等に分散して配置されていることが好ましい。また大径凹部101は、典型的には図示したように一方向に延設された溝形状であるが、これに限定されることはない。このような大径凹部101は、例えば開口幅W1が10~1000μm程度、深さD1が3~30μm程度、ピッチが50~100μm程度である。
【0013】
図3は、金属ワーク1の接合領域面1aaが有する大径凹部101の開口形状の例を示す図である。図3に示すように、大径凹部101は、一方向に延設された溝形状を複数に分断した構成、異なる方向に延設された溝形状を配列した構成、ドット形状を配列した構成、延設方向に屈曲または屈折した溝形状、サークルを構成する溝形状などであってもよい。
【0014】
また、以降の異種材接合方法において説明するように、大径凹部101をレーザ光の走査によって形成する場合、溝形状の大径凹部101は交差部を有していないことが好ましい。これはレーザ光の走査軌跡が交差すると、その交差部においては加熱過多となって盛り上がり、接合領域面1aaに凸部が形成され、この凸部が接合強度を低下させる要因となるからである。
【0015】
例えば図3Aに示す各例は、レーザ光の複数の走査方向を互いに平行に走査した例であり、図3Bに示す各例は、レーザ光の複数の走査方向を異なる方向(互いに垂直となる2方向)に走査した例と、円形状に走査した例を示している。図3A及び図3Bのいずれもレーザ光の軌跡は重なっていない。
【0016】
[小径凹部102]
図1および図2に戻り、小径凹部102は、大径凹部101の底部を凹凸形状とするために設けられた窪みであり、開口形状がドット形状であってよい。また大径凹部101が溝形状である場合、大径凹部101の開口幅W1と、小径凹部102の開口幅W2とは一致していてもよい(図2参照)。
【0017】
このような小径凹部102は、大径凹部101の底部に均等に分布していることが好ましい。また大径凹部101に対する小径凹部102の占有率は、接合強度を高める観点から50%を超えることが好ましい。
【0018】
大径凹部101の底部からの小径凹部102の深さD2は、製造工程において次に説明する樹脂ワーク2が充填し易くなる観点から、大径凹部101の深さD1と比較して小さいことが好ましい。小径凹部102の深さD2は、0.1~20μm程度であることとする。また小径凹部102は、大径凹部101の底部を凹凸形状とするために設けられた窪みであるため、その開口形状は例えばドット形状であるが、各ドットの開口形状は真円であることに限定されず、楕円形やその他の形状であってもよい。さらに小径凹部102は、大径凹部101の底部を凹凸形状とするための窪みであれば、開口形状がドット形状に限定されることもなく、屈曲する溝形状であってもよい。
【0019】
[平坦部103]
平坦部103は、金属ワーク1の接合領域面1aaにおいて、大径凹部101が形成されていない部分であって、平坦に保たれた部分である。接合領域面1aaにおいて平坦部103の占める割合は、金属ワーク1と樹脂ワーク2の材質によって適宜に設定されることとするが、大径凹部の割合よりも小さいことが好ましく、10%~49%程度であることとする。これにより樹脂ワーク2との接合面積が確保されやすくなる。
【0020】
<樹脂ワーク2>
樹脂ワーク2は、樹脂材料を用いて構成された部品である。樹脂ワーク2を構成する樹脂材料は、例えば熱可塑性樹脂であり、一例としてポリエチレンテレフタレート、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ABS樹脂(アクリロニトリル (Acrylonitrile)、ブタジエン (Butadiene)、スチレン (Styrene)共重合合成樹脂の総称)、アクリル、炭素繊維強化熱可塑性プラスチック(CFRTP:Carbon Fiber Reinforced Thermo Plastics)などが挙げられる。
【0021】
このうちCFRTPは、炭素繊維層を熱可塑性プラスチック層によって挟持した層構造を有する。このようなCFRTPは、軽量で、強度が高く、かつたわみにくい(高剛性)という性質があること、また疲労特性に優れ、熱伝導率が高く、錆びないという特性があることから、様々な産業分野において注目されている。例えば、自動車や機械部品をはじめ、スポーツ、レジャー関係、航空宇宙産業、医療機器関係、土木建築用部材など極めて多くの産業分野において用いられている。
【0022】
このような樹脂ワーク2は、図示した平板状の部分を有し、この平板状の一主面2aに、金属ワーク1との間の接合領域面2aaが設定されている。樹脂ワーク2の接合領域面2aaは、金属ワーク1の接合領域面1aaに対向して重ね合わされ、金属ワーク1の接合領域面1aaの表面形状に倣った凹凸形状を有する。
【0023】
<接合界面100a>
接合界面100aは、金属ワーク1と樹脂ワーク2とが直接接合された界面であり、その形状は金属ワーク1の接合領域面1aaと一致している。この接合界面100aは、金属ワーク1の接合領域面1aaおよび樹脂ワーク2の接合領域面2aaの少なくとも一方に対して、プラズマ処理が施された面である。このような接合界面100aは、プラズマ処理によって付与された官能基として親水基(OH基)を含む。この親水基(OH基)は、例えば透過型電子顕微鏡などを用いた元素分析によって、接合界面に検出される。
【0024】
<異種材接合構造体100の効果>
以上のように構成された異種材接合構造体100は、金属ワーク1の接合領域面1aaに、大径凹部101を有し、さらに大径凹部101の底部に小径凹部102を有する構成である。また樹脂ワーク2の接合領域面2aaは、金属ワーク1の接合領域面1aaに倣った形状を有している。このような構成により、大径凹部101および小径凹部102に、樹脂ワーク2が入り込んでアンカー効果を発揮し、接合強度を保つことができる。特に、大径凹部101の底部に小径凹部102を設けたことにより、金属ワーク1と樹脂ワーク2との接合面積が拡大されるため、これによる接合強度の向上を図ることができる。
【0025】
しかも、金属ワーク1の接合領域面1aaは、大径凹部101間に平坦部103を有する。このため次に説明するように、金属ワーク1における加工された接合領域面1aaと、樹脂ワーク2における未加工の接合領域面2aaとを接合する場合に、平坦部103において金属ワーク1と樹脂ワーク2とを密着させることができる。これにより熱伝導効率が向上して樹脂ワーク2を溶融し易くすることができるので、樹脂ワーク2を構成する樹脂が金属ワーク1の大径凹部101および小径凹部102内に充填され易いものとなる。この結果、樹脂ワーク2の接合領域面2aaの形状が、金属ワーク1の接合領域面1aaに倣った形状となり易いものとなり、これによっても金属ワーク1と樹脂ワーク2接合強度の向上が図られる。
【0026】
さらに、金属ワーク1と樹脂ワーク2との接合界面100aは、金属ワーク1および樹脂ワーク2の少なくとも一方をプラズマ処理した面であり、プラズマ処理によって親水基(OH基)が付与された面である。これにより、次に説明するように、金属ワーク1と樹脂ワーク2とを積層して加圧および加熱する際に、異種材ワークの界面においての濡れ性が向上し、また異種材ワークの分子間で水素結合が生じ、この水素結合による化学結合や分子間力(ファンデルワールス力)に基づいて、金属ワーク1と樹脂ワーク2物理的接着がより強固になる。
【0027】
そして特に、樹脂ワーク2が、炭素繊維層を樹脂層で挟持したCFRTPによって構成されたものである場合には、次のような効果も期待できる。すなわち、樹脂ワーク2が、CFRTPによって構成されている場合、金属ワーク1の大径凹部101および小径凹部102内に樹脂ワーク2の樹脂が充填される。これにより、金属ワーク1の平坦部103には炭素繊維層が直接接触した状態となる場合がある。このような場合、炭素繊維と金属ワーク1を構成する金属材料と標準電極電位の差によって、金属ワーク1に腐食が発生するが、この腐食は金属ワーク1と炭素繊維とが接触する平坦部103に限定される。したがって、大径凹部101および小径凹部102によって拡大された金属ワーク1と樹脂ワーク2との接触面積が維持され易く、樹脂ワーク2としてCFRTPを用いた場合であっても、異種材接合構造体100の接合強度を長期に維持することが可能である。
【0028】
≪異種材接合装置≫
図4は、実施形態に係る異種材接合装置1000の全体構成を示すブロック図である。図4に示す異種材接合装置1000は、金属ワーク1と樹脂ワーク2とを接合する装置であって、図1図3を用いて説明した異種材接合構造体100を作成するための装置である。金属ワーク1および樹脂ワーク2は、それぞれが既に形成されている部品として提供されるものである。以下、図4に基づき、先の図1および図2を参照しつつ、異種材接合装置1000の構成を説明する。
【0029】
異種材接合装置1000は、レーザ加工装置20、プラズマ照射装置30、パルスヒート装置40、および冷却装置50を備えている。これらは、次のように構成されている。
【0030】
<レーザ加工装置20>
レーザ加工装置20は、レーザ照射によって、金属ワーク1の接合領域面1aa(図1参照)に大径凹部101および小径凹部102を形成するための装置である。このレーザ加工装置20は、表面加工処理部3と、レーザ発生装置4と、加工制御部5を備える。
【0031】
[表面加工処理部3]
このうち表面加工処理部3は、金属ワーク1を不図示の固定部を備え、金属ワーク1を所定状態で固定する部分である。この表面加工処理部3では、固定部に固定された金属ワーク1に対して、レーザ発生装置4からレーザ光を照射することにより、金属ワーク1の表面加工処理が行われる。
【0032】
[レーザ発生装置4]
レーザ発生装置4は、金属ワーク1の表面加工が容易な波長のレーザ光を発生させる装置である。このレーザ発生装置4は、次に説明する加工制御部5からの指示により、発生させるレーザ光の強度、パルス幅、走査方向、走査時間、走査位置等が制御される。
【0033】
[加工制御部5]
加工制御部5は、レーザ発生装置4を制御することにより、表面加工処理部3に固定された金属ワーク1の接合領域面1aaに、大径凹部101を形成する一次加工処理と、大径凹部101の底面に小径凹部102を形成する二次加工処理とを実施する。
【0034】
このような加工制御部5は、計算機によって構成されている。計算機は、いわゆるコンピューターとして用いられるハードウェアである。計算機は、CPU(Central Processing Unit:中央処理装置)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)のような不揮発性の記憶部を備える。加工制御部5は、記憶部に保存されたプログラムに基づいて、レーザ発生装置4において発生させるレーザの出力、パルス幅、走査軌道、走査時間、を制御する。また加工制御部5は、表面加工処理部3におけるワークの固定高さを制御する機能を有していてもよい。さらに加工制御部5は、レーザ光を連続波として発生させるように、レーザ発生装置4を制御する場合もある。以上のような加工制御部5によるレーザ発生装置4の制御の詳細は、図5以降の異種材接合方法において説明する。
【0035】
<プラズマ照射装置30>
プラズマ照射装置30は、表面加工処理を施した後の金属ワーク1、および樹脂ワーク2に対してプラズマ処理を施すための装置である。このプラズマ照射装置30は、プラズマ処理によって、金属ワーク1および樹脂ワーク2の表面に官能基(-OH等)を付与するとともに、表面に付着した汚れを除去する。このようなプラズマ照射装置30は、金属ワーク1にプラズマ照射する第一プラズマ照射部6aと、樹脂ワーク2にプラズマ照射する第二プラズマ照射部6bと、第一プラズマ照射部6aおよび第二プラズマ照射部6bを制御するプラズマ照射制御部7を備える。
【0036】
[第一プラズマ照射部6aおよび第二プラズマ照射部6b]
第一プラズマ照射部6aは、レーザ加工装置20によって表面加工処理がなされた金属ワーク1の表面に対して、プラズマ照射による表面処理を行う。また、第二プラズマ照射部6bは、樹脂ワーク2の表面に対して、プラズマ照射による表面処理を行う。これらの第一プラズマ照射部6aおよび第二プラズマ照射部6bは、バッチ式の減圧プラズマ照射装置であってもいし、大気圧プラズマ照射装置あってもよい。これらの処理装置は処理能力的には特に差異はなく、何れであってもよい。
【0037】
ただし、バッチ式の減圧プラズマ照射装置は、金属ワーク1及び樹脂ワーク2を減圧した容器に入れて、ワーク全体を一括してプラズマ照射処理を行うので、特に第一プラズマ照射部6aと第二プラズマ照射部6bのように分割して複数のプラズマ照射部を設ける必要はない。また、バッチ式の減圧プラズマ照射処理の場合、金属ワーク1および樹脂ワーク2の表面全体に対してプラズマ照射による表面処理が施される。
【0038】
これに対し、大気圧プラズマ照射装置は、プラズマノズルを用いることにより、領域を限定したプラズマ処理が可能であり、金属ワーク1および樹脂ワーク2における接合領域面のみにプラズマを照射させることができる。ここで、金属ワーク1の接合領域面は、レーザ加工装置20による2度の加工処理によって大径凹部101と小径凹部102が形成された領域面である。一方、樹脂ワーク2の接合領域面は、加工が施されていない平坦な領域面である。大気圧プラズマ照射装置の場合、プラズマ生成に係るガスとしては、窒素またはアルゴン等のガスが用いられる。また、大気圧プラズマ照射装置は、バッチ式の減圧プラズマ照射装置と比較して、真空ポンプ等の新たな設備が必要としない利点もある。
【0039】
なお、プラズマ照射装置30として、このような大気圧プラズマ照射装置を用いた場合であっても、図示した例のように第一プラズマ照射部6aと第二プラズマ照射部6bを別々に設ける必要はなく、一つのプラズマ照射部により、金属ワーク1と樹脂ワーク2に対するプラズマ照射を順次行うようにしてもよい。
【0040】
また、プラズマ照射装置30は、第一プラズマ照射部6aまたは第二プラズマ照射部6bのいずれか一方のみを備え、金属ワーク1または樹脂ワーク2のいずれか一方のみにプラズマ照射を行うものであってもよい。
【0041】
ただし、金属ワーク1および樹脂ワーク2の両方にプラズマ照射することで、金属ワーク1と樹脂ワーク2の両方の接合領域面に官能基(-OH等)を付与するとともに、接合領域面に付着した汚れが除去されるので、金属ワーク1と樹脂ワーク2との接合をより強固にすることができる。
【0042】
[プラズマ照射制御部7]
プラズマ照射制御部7は、第一プラズマ照射部6aおよび第二プラズマ照射部6bによるプラズマ照射を制御する。第一プラズマ照射部6aおよび第二プラズマ照射部6bが、大気圧プラズマ照射装置である場合、プラズマ照射制御部7は、例えば金属ワーク1および樹脂ワーク2の接合領域面に限定してプラズマが照射されるように、第一プラズマ照射部6aおよび第二プラズマ照射部6bによるプラズマ照射を制御する。 このような加工制御部5は、上述したと同様の計算機によって構成されている。
<パルスヒート装置40>
パルスヒート装置40は、金属ワーク1と樹脂ワーク2とを重ねて加熱加圧することで、これらを接合するための装置である。このパルスヒート装置40は、固定具8と、発熱部材9と、加圧ヘッド10と、パルスヒート電源11と、冷却部12とを備える。
【0043】
[固定具8]
固定具8は、金属ワーク1と樹脂ワーク2とを所定状態で固定した状態で保持するための治具である。金属ワーク1と樹脂ワーク2とは、固定具8に保持された状態において、それぞれの接合領域面であって、プラズマ処理が施された面を対向させた状態で積層されていることとする。
【0044】
[発熱部材9]
発熱部材9は、固定具8に保持された金属ワーク1と樹脂ワーク2の積層体のうちの金属ワーク1に接触し、金属ワーク1を加熱するための部材である。発熱部材9は、抵抗発熱する部材であって、金属部品からなる。発熱部材9は、パルスヒートを高速で応答させるために、熱容量が小さいほどよい。このような発熱部材9の材質としては、抵抗値が高く発熱し易いモリブデンやチタン等の素材が使用される。
【0045】
また発熱部材9は、金属ワーク1との接触面積が比較的狭い形状を有し、金属ワーク1と樹脂ワーク2の積層体に合わせて大きさ及び形状が選択され、比較的小型のヒータチップまたは比較的大型のヒータツールとして用いられる。このような発熱部材9は、接合する特定の物品等に応じて専用に加工して用いられることもある。
【0046】
[加圧ヘッド10]
加圧ヘッド10は、発熱部材9を保持し、保持した発熱部材9を介して、固定具8に固定された金属ワーク1と樹脂ワーク2の積層体を加圧、加熱する部材である。このような加圧ヘッド10は、発熱部材9を上下動させることで、固定具8に保持された金属ワーク1と樹脂ワーク2の積層体のうち、金属ワーク1に発熱部材9を接触させ、積層体の積層方向に向かう圧力を加える。加圧ヘッド10による加圧力は、ばねによって調整され、積層体に応じて調整される。加圧ヘッド10は、使用する発熱部材9に適合するヘッドが選択される。
【0047】
また加圧ヘッド10は、金属でできた発熱部材9に瞬間的に電流を流し、発熱部材9を介して抵抗発熱で金属ワーク1を加熱する。これにより、金属ワーク1に接して保持された樹脂ワーク2が部分的に加熱され、樹脂ワーク2が溶融する。この際、加圧ヘッド10により、金属ワーク1と樹脂ワーク2の積層体を加圧することで、溶融した樹脂ワーク2が金属ワーク1の接合領域面の凹凸形状に倣って流動し、金属ワーク1と樹脂ワーク2とが密着接合され、浮きのない強固な接合が形成される。このとき、加圧ヘッド10が金属ワーク1と樹脂ワーク2の接合体を高い加重で加圧すると、軟化した樹脂ワークが接合領域面の外にはみ出して、接合強度が低下する可能性がある。そこで、加圧ヘッド10は、ストッパなどにより下死点が設定されているか、またはここでの図示を省略した制御部によって押し込み量が制御される構成となっていることとする。
【0048】
またここでの図示は省略したが、加圧ヘッド10には、モータコントローラによって、発熱部材9を上下動させる昇降機構と、発熱部材9の沈み量を検知するための変位センサが設けられている。モータコントローラは、不図示の変位センサからの信号を検出して、発熱部材9が最下点(下死点)より深く沈み込み過ぎないように発熱部材9の上下動を制御する。
【0049】
[パルスヒート電源11]
パルスヒート電源11は、加圧ヘッド10を介して発熱部材9に電流を流す装置である。パルスヒート電源11としては、接合体の材質や形状及び求められる接合品質に応じて、適切な通電容量を持つ電源が選択される。パルスヒート電源11は、発熱部材9に取り付けられた熱電対(図示省略)からの温度フィードバックにより制御されるため、作業者の熟練も不要であり、また省エネ効果も高いので、汎用性、生産性に優れているということができる。
【0050】
また、パルスヒートは、制御の応答が早く、その特性上、金属部品からなる先端の発熱部材9の熱容量が小さいほどより高速な応答となる。そのため、パルスヒートによれば、局所的な接触で瞬間的に加熱することができるので、周囲への熱拡散を抑えて昇温させることが可能になる。
【0051】
[冷却部12]
冷却部12は、接合された金属ワーク1と樹脂ワーク2の積層体(異種材接合構造体)を冷却する部分である。このような冷却部12は、例えば圧縮空気等の供給により、急速冷却を行う。なお、急速冷却の必要がない場合には、冷却部12を設ける必要なない。
【0052】
なお、ここでの図示は省略したが、このパルスヒート装置40は、加圧ヘッド10、パルスヒート電源11、および冷却部12の駆動を制御する制御部を備え、次のような動作が実施される。先ず、加圧ヘッド10の駆動を制御することにより、所定状態で固定具8に保持された金属ワーク1と樹脂ワーク2の積層体に対して発熱部材9を接触させ、積層体を加圧する。そして、設定加圧に到達すると、パルスヒート電源11に加熱指令信号を送信し、パルスヒート電源11によって予め設定した温度プロファイルで発熱部材9を通電加熱する。通電加熱終了後には、冷却部12の駆動を制御して積層体を冷却し、発熱部材9が予め設定した温度に下がるまで加圧を保持する。発熱部材9が予め設定した温度に下がった場合には、パルスヒート電源11が出力する信号により加圧を開放する。
【0053】
<異種材接合装置1000の効果>
以上のように構成された異種材接合装置1000により、図1図3を用いて説明した異種材接合構造体100を作成することができる。
【0054】
≪異種材接合方法≫
図5は、実施形態に係る異種材接合方法の手順を示すフローチャートである。また図6および図7は、実施形態に係る異種材接合方法の手順を示す工程図(その1)および(その2)である。次に図5のフローチャートに基づき、図6および図7、さらには図4の装置ブロック図を参照しつつ、先に説明した異種材接合装置1000を用いた異種材接合方法を説明する。
【0055】
<ステップS00(図6参照)>
ステップS00において、作業者は、接合する金属ワーク1と樹脂ワーク2とを用意する。金属ワーク1は、一主面1aに対して接合領域面1aaが設定されている部材であって、接合領域面1aaは未加工のものである。また、樹脂ワーク2は、一主面2aに対して接合領域面2aaが設定されている部材であって、接合領域面2aaは未加工のものである。また作業者は、図4に示したレーザ加工装置20の表面加工処理部3に、所定状態で金属ワーク1をセットする。
【0056】
<ステップS01(図7参照)>
ステップS01において、レーザ加工装置20の加工制御部5(図4参照)は、レーザ発生装置4の制御により、金属ワーク1の接合領域面1aaに大径凹部101を形成するための一次加工処理を行う。
【0057】
<ステップS02(図7参照)>
ステップS02において、レーザ加工装置20の加工制御部5(図4参照)は、レーザ発生装置4の制御により、金属ワーク1の接合領域面1aaに形成した大径凹部101の底部に、凹凸形状のための小径凹部102を形成するための二次加工処理を行う。
【0058】
ここで、加工制御部5が、記憶部に保存されたプログラムに基づいて実施する大径凹部101を形成するための一次加工処理と、小径凹部102を形成するための二次加工処理のための4つの例を、図8図15を用いて説明する。
【0059】
[第1例:ワーク高さの調整]
図8は、金属ワーク1の加工方法の第1例を説明するための図である。この図に示すように、レーザ光200の集光は円錐形状となっている。このため、金属ワーク1の接合領域面1aaの高さが異なる場合、この接合領域面1aaに照射されるレーザ光200のスポット径φ1(H1)とスポット径φ2(H2)とは異なる。そこで金属ワーク1の高さを調整して一次加工処理と二次加工処理を実施する。
【0060】
図9は、第1例を適用した金属ワークの加工手順を示す図である。この図に示すように、ステップS01の一次加工処理においては、レーザ光200のスポット径φ1が、接合領域面1aaに大径凹部101が形成される程度の大きさとなるように、金属ワーク1の高さが調整される。またステップS02の二次加工処理においては、レーザ光200のスポット径φ2が、大径凹部101の底部に小径凹部102が形成される程度の大きさとなるように、金属ワーク1の高さが調整される。
【0061】
以上の一次加工処理および二次加工処理においては、図4に示したレーザ加工装置20の加工制御部5は、表面加工処理部3における金属ワーク1の固定部を制御することにより、金属ワーク1の高さを調整し、調整した高さにおいて各処理を実施する。なお、表面加工処理部3における金属ワーク1の固定部の制御は、加工制御部5によって自動的に実施されることに限定されず、作業者が実施してもよい。
【0062】
[第2例:レーザ走査軌道の調整]
図10は、金属ワーク1の加工方法の第2例を説明するための図である。この図に示すように、レーザ光の走査軌道C1,C2は、図4に示したレーザ加工装置20の加工制御部5によって自在に制御される。この際、レーザ光200の照射位置を高速で移動させながらオーバーラップさせて照射するワブリング加工により、スポット径よりも大きな開口幅を有する溝構造を形成することができる。そこで、スポット径を同一に保ったレーザ光の走査軌道の制御により、一次加工処理と二次加工処理を実施する。
【0063】
図11は、第2例を適用した金属ワークの加工手順を示す図である。この図に示すように、ステップS01の一次加工処理においては、レーザ光200の走査軌道を大径凹部101の延設方向に対して垂直な方向にも移動させる。これにより、レーザ光200のスポット径よりも大きな開口径を有する大径凹部101を形成する。またステップS02の二次加工処理においては、レーザ光200を、大径凹部101の底部に沿って移動させることで、レーザ光200のスポット径に対応する開口径の小径凹部102を形成する。
【0064】
以上の一次加工処理および二次加工処理は、図4に示したレーザ加工装置20の加工制御部5によって、レーザ発生装置4で発生させたレーザ光の走査軌道を制御することによって実施される。
【0065】
[第3例:レーザ出力の調整]
図12は、金属ワークの加工方法の第3例を説明するための図である。第3例は、図4に示したレーザ加工装置20のレーザ発生装置4で発生させるレーザ光200のエネルギー分布(空間パワー分布)がガウシアン形状の場合に適用される。ここで、金属は、通常はレーザ光200の多くを反射する。しかし、ある一定のエネルギーを投入するとわずかに吸収しているレーザ光200により溶融し始める。液化するとレーザ光の吸収率が上昇するため、溶融した部分のみ深く加工されるといった限定的な領域を加工可能になるという特徴がある。
【0066】
このため、図12に示すように、金属ワークの加工を実施するためには、レーザ光200のエネルギー量として、上述したある一定のエネルギーを閾値Ethとし、閾値Eth以上のエネルギー量が必要となる。これを利用することにより、レーザ光200のエネルギー分布(空間パワー分布)が、ガウシアン形状の場合には、レーザ出力によって金属ワークの加工面積を調整し、一次加工処理と二次加工処理を実施することができる。
【0067】
図13は、第3例を適用した金属ワークの加工手順を示す図である。図13に示すように、ステップS01の一次加工処理においては、レーザ出力P1(S01)での加工により、開口幅W1の大径凹部を形成する。またステップS02の二次加工処理においては、レーザ出力P2(S02)での加工により、大径凹部の底部に開口幅W2(<W1)の小径凹部を形成する。
【0068】
以上の一次加工処理および二次加工処理は、図4に示したレーザ加工装置20の加工制御部5によって、レーザ発生装置4で発生させるレーザ光の出力を制御することによって実施される。なお、レーザ発生装置4におけるレーザ出力の制御は、加工制御部5によって自動的に実施されることに限定されず、作業者が実施してもよい。
【0069】
[第4例:レーザパルス幅の調整]
図14は、金属ワークの加工方法の第4例を説明するための図である。第4例は、図4に示したレーザ加工装置20のレーザ発生装置4で発生させるレーザ光200のパルス幅の制御が可能である場合に適用される。図14に示すように、パルスレーザのエネルギー分布は台形であり、このパルス幅Pwによって加工面積を調整し、一次加工処理と二次加工処理を実施することができる。
【0070】
図15は、第4例を適用した金属ワークの加工手順を示す図である。この図に示すように、ステップS01の一次加工処理においては、パルス幅Pw1での加工により、開口幅が大きい大径凹部を形成する。またステップS02の二次加工処理においては、パルス幅Pw1での加工により、大径凹部の底部に開口幅が小さい小径凹部を形成する。
【0071】
以上の一次加工処理および二次加工処理は、図4に示したレーザ加工装置20の加工制御部5によって、レーザ発生装置4で発生させるレーザ光のパルス幅を制御することによって実施される。なお、レーザ発生装置4におけるパルス幅の制御は、加工制御部5によって自動的に実施されることに限定されず、作業者が実施してもよい。
【0072】
<ステップS03(図7参照)>
図5のフローチャートに戻り、ステップS03において、作業者は、レーザ加工装置20によって表面加工処理された金属ワーク1を、プラズマ照射装置30の第一プラズマ照射部6aにセットし、第一プラズマ照射部6aにおいて金属ワーク1のプラズマ処理を行う。この際、第一プラズマ照射部6aが大気圧プラズマ照射装置であれば、プラズマ照射制御部7は、第一プラズマ照射部6aの制御により、金属ワーク1の接合領域面1aaを含む領域に限定したプラズマ処理を実施する。
【0073】
<ステップS04(図7参照)>
ステップS04において、作業者は、未加工の樹脂ワーク2を、プラズマ照射装置30の第二プラズマ照射部6bにセットし、第二プラズマ照射部6bおいて樹脂ワーク2のプラズマ処理を行う。この際、第二プラズマ照射部6bが大気圧プラズマ照射装置であれば、プラズマ照射制御部7は、第二プラズマ照射部6bの制御により、樹脂ワーク2の接合領域面2aaを含む領域に限定したプラズマ処理を実施する。
【0074】
なお、ステップS03における金属ワーク1のプラズマ処理と、ステップS04における樹脂ワーク2のプラズマ処理は、逆の順序で実施してもよいし、プラズマ照射装置30にバッチ式の減圧プラズマ照射装置が用いられている場合には同時に実施してもよい。さらに両方のプラズマ処理を実施することが好ましいが、何れか一方のみを実施してもよい。
【0075】
<ステップS05(図7参照)>
ステップS05において、作業者は、パルスヒート装置40の固定具8に所定状態で金属ワーク1と樹脂ワーク2を積層させた状態で保持させる。これらの金属ワーク1および樹脂ワーク2は、プラズマ照射装置30においてプラズマ処理が施されたものである。これらの金属ワーク1および樹脂ワーク2は、それぞれの接合領域面1aa,2aaを対向させた状態で、固定具8に保持される。
【0076】
<ステップS06(図7参照)>
ステップS06において、パルスヒート装置40は、固定具8に固定した金属ワーク1と樹脂ワーク2の積層体を、金属ワーク1側から加圧ヘッド10により加重をかけて加圧する。さらに、パルスヒート電源11により、発熱部材9に電流を流して金属ワーク1と樹脂ワーク2の積層体を加熱する。
【0077】
<ステップS07>
ステップS07においては、ステップS06での加圧および加熱が終了した場合に、パルスヒート装置40は、冷却部12により、金属ワーク1と樹脂ワーク2の積層体に圧縮空気等を吹きかけて冷却処理を行う。なお、このステップS07の冷却処理において圧縮空気を吹きかけて冷却するのはあくまで一例であり、急冷が必要でない場合には自然冷却でも構わない。
【0078】
<ステップS08>
ステップS08において、パルスヒート装置40は、金属ワーク1と樹脂ワーク2の積層体の加熱部が十分に冷却されたことを確認して、加圧ヘッド10による金属ワーク1と樹脂ワーク2への加圧を解く。これにより、金属ワーク1と樹脂ワーク2とを接合した異種材接合構造体100を得る。作業者は、作成された異種材接合構造体100を、固定具8はら取り外し、本例の異種材接合方法の一連の処理が終了する。
【0079】
<異種材接合方法の効果>
以上のように構成された異種材接合方法により、図1図3を用いて説明した接合強度の高い異種材接合構造体100を得ることができる。特にこの方法では、金属ワーク1の接合領域面1aaに対して平坦部103を残して大径凹部101と小径凹部102とを形成した後、接合領域面2aaが未加工である樹脂ワーク2を積層し、これらの積層体を加熱および加圧する手順である。これにより、加熱および加圧の際には、金属ワーク1の平坦部103において金属ワーク1と樹脂ワーク2とを密着させることができる。このため、金属ワーク1から樹脂ワーク2への熱伝導効率が向上し、樹脂ワーク2の溶融によって金属ワーク1の大径凹部101および小径凹部102内に樹脂ワーク2を構成する樹脂材料が充填され易くなる。この結果、樹脂ワーク2の接合領域面2aaを金属ワーク1の接合領域面1aaに倣った形状にし易くなるので、これによって接合面積が最大化されて接合強度の向上を図ることができる。また異種材接合構造体100の製造に要する消費電力を削減することも可能である。
【0080】
また、金属ワーク1の接合領域面1aaが、大径凹部101の底部に小径凹部102を有する構成であるため、大径凹部101および小径凹部102に、樹脂ワーク2が入り込んでアンカー効果を発揮し、接合強度を保つことができる。特に、大径凹部101の底部に小径凹部102を設けたことにより、金属ワーク1と樹脂ワーク2との接合面積が拡大されるため、これによる接合強度の向上を図ることができる。
【0081】
さらにこの方法は、金属ワーク1と樹脂ワーク2の少なくとも一方をプラズマ処理した後に、これらを接合する手順であり、プラズマ処理によって官能基(OH基)が付与された面が、加熱および加圧によって接合されることになる。これにより、金属ワーク1と樹脂ワーク2とを積層して加圧および加熱した際の異種材ワークの界面においての濡れ性が向上し、また異種材ワークの分子間で水素結合が生じ、この水素結合による化学結合や分子間力(ファンデルワールス力)に基づいて、物理的接着がより強固な異種材接合構造体100を得ることが可能となる。
【0082】
次に、実際に作成した異種材接合構造体を説明する。図16は、金属ワークの接合領域面の顕微鏡像である。図17は、金属ワークの接合領域面の凹凸を測定したグラフであり、図16におけるA-A方向に沿って凹凸を測定したグラフと、B-B方向に沿って凹凸を測定したグラフである。これらの図に示す金属ワークは、アルミニウム合金からなる。この金属ワークの接合領域面に、B-B方向に延設された溝状の大径凹部を、開口幅40μm程度、深さ25μ程度、ピッチ75μm程度で形成した。また大径凹部の底部には、深さ3μm程度のドット状の小径凹部を形成した。
【0083】
このような本発明構成の金属ワークと共に、小径凹部を有していない比較構成の金属ワークとを用い、それぞれに対して図5のステップS04以降の手順で樹脂ワークを接合し、本発明構成の異種材接合構造体と、比較構成の異種材接合構造体を作成した。樹脂ワークはポリアミドを基材としたCFRTPを用いた。接合にはパルスヒート装置を用いた。
【0084】
作成した異種材接合構造体の接合強度を、ISO19095規格に記載の治具を用いてせん断方向の強度として測定した。その結果、本発明構成の異種材接合構造体は、比較構成の異種材接合構造体よりも1.6倍の接合強度を有することが確認され、本発明構成の効果を確認することができた。
【0085】
なお、前述した実施の形態例は、本発明を分かりやすく説明したものであり、本発明は、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載を逸脱しない限りにおいて、他の変形例、応用例を含むことは勿論である。例えば金属ワーク1に、大径凹部101を形成し、大径凹部101の底部に凹凸形状(小径凹部102)を形成する手順は、レーザ加工装置を用いた一次加工処理と二次加工処理とに限定されることはない。例えば、機械加工とレーザ加工とを組み合わせ、機械加工によって大径凹部101を形成し、その底面にレーザ加工によって小径凹部102を形成してもよい。
【符号の説明】
【0086】
1…金属ワーク
1aa…接合領域面(金属ワーク)
2…樹脂ワーク
2aa…接合領域面(樹脂ワーク)
4…レーザ発生装置
5…加工制御部
20…レーザ加工装置
30…プラズマ照射部
40…パルスヒート装置
100…異種材接合構造体(樹脂ワーク)
100a…平坦部
101…大径凹部(凹部)
102…小径凹部(凹凸形状)
200…レーザ光
1000…異種材接合装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図15
図16
図17