(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023171988
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】医療用システム
(51)【国際特許分類】
A61M 31/00 20060101AFI20231129BHJP
A61M 13/00 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
A61M31/00
A61M13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022083490
(22)【出願日】2022-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】391053526
【氏名又は名称】センチュリーメディカル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】515206920
【氏名又は名称】株式会社由紀精密
(71)【出願人】
【識別番号】392034746
【氏名又は名称】吉川化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088580
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 敦
(74)【代理人】
【識別番号】100195453
【弁理士】
【氏名又は名称】福士 智恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100205501
【弁理士】
【氏名又は名称】角渕 由英
(72)【発明者】
【氏名】中尾 久仁央樹
(72)【発明者】
【氏名】羽田 共輝
(72)【発明者】
【氏名】上野 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】町田 薫紀
(72)【発明者】
【氏名】安井 圭
【テーマコード(参考)】
4C066
【Fターム(参考)】
4C066AA01
4C066AA07
4C066BB04
4C066CC07
4C066DD02
4C066HH01
4C066JJ02
(57)【要約】
【課題】従来よりも安定して標的部位へ粉体を送達し、標的部位への粉体の付着率を向上させることができる医療用システムを提供する。
【解決手段】医療用システム1は、粉体Pを収容する容器50と、粉体Pと混合するための流体を容器50へ送出する圧力源20と、標的部位に粉体Pと流体の混合物を送達するチューブ部材30と、容器50と接続し、先端部43が容器50内に収容される二重管40と、を備えている。二重管40は、圧力源20から容器50へ送出される流体が通過する流体供給路と、容器50からチューブ部材30へ送達される混合物が通過する混合物移送路と、を有し、二重管40の先端部43には、流体供給路から容器50へ流体を噴射する噴射孔と、容器50から混合物移送路へ混合物を吸入する吸引孔と、が形成される。
【選択図】
図1B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的部位に粉体を送達する医療用システムであって、
前記粉体を収容する容器と、
前記粉体と混合するための流体を前記容器へ送出する圧力源と、
前記標的部位に前記粉体と前記流体の混合物を送達するチューブ部材と、
前記容器と接続し、先端部が前記容器内に収容される二重管と、を備え、
前記二重管は、
前記圧力源から前記容器へ送出される前記流体が通過する流体供給路と、
前記容器から前記チューブ部材へ送達される前記混合物が通過する混合物移送路と、を有し、
前記二重管の前記先端部には、前記流体供給路から前記容器へ前記流体を噴射する噴射孔と、前記容器から前記混合物移送路へ前記混合物を吸入する吸入孔と、が形成されることを特徴とする医療用システム。
【請求項2】
前記吸入孔は、前記二重管の径方向中心部に設けられ、
前記噴射孔は、前記吸入孔よりも径方向外側に設けられることを特徴とする請求項1に記載の医療用システム。
【請求項3】
前記噴射孔は、前記吸入孔よりも径方向外側に複数設けられ、
前記噴射孔の直径は、前記吸入孔の直径よりも小さいことを特徴とする請求項2に記載の医療用システム。
【請求項4】
前記二重管の前記先端部は、略円柱形状のノズル部を有し、
前記吸入孔及び前記噴射孔は、前記ノズル部の先端面においてそれぞれ同一面上に形成されることを特徴とする請求項3に記載の医療用システム。
【請求項5】
前記医療用システムは、前記容器に対して前記二重管を相対的に上下方向に移動させる移動機構を、更に備えることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の医療用システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用システムに係り、特に標的部位に粉体を送達する医療用システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、消化器内視鏡下又は腹腔鏡下において、体内組織に粉末を吹き付けて、目的部位を止血、被覆及び癒着防止する医療用システムが一般に用いられている。
例えば特許文献1に記載の医療用システムは、粉体を収容する容器(粉体容器)と、粉体と混合するための流体を容器へ送出する圧力源(圧力気体供給源)と、標的部位に粉体と流体の混合物を送達するチューブ部材(コネクタ)と、容器へ流体を供給する流体供給路(入口ポート)と、流体と粉体との混合物をチューブ部材へ移送する混合物移送路(出口ポート)とを備えている。このような医療用システムでは、粉体容器内に圧力気体を断続的に供給することによって粉体容器内の粉体を撹拌させ、患部に向けて粉体を噴射する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のような医療用システムでは、例えば本体に回転自在に設けた回転体によって、圧力気体が断続的に供給されて内部の粉体が撹拌されているため、流速及び流量が大きくなり噴射の勢いが強くなり過ぎてしまうことがあった。そのため、標的部位に対して、意図する粉体の量を噴霧又は塗布することができずに、標的部位への付着率が低下してしまうことがあった。
また、噴射の勢いが強過ぎてしまうと、粉体が標的部位の表面で弾き返されて、意図する位置に噴射できないことや、粉体が標的部位の周囲に舞い上がって散乱してしまい、標的部位周辺の視野が妨げられてしまうことがあった。
【0005】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、標的部位への粉体の付着率を向上させることができる医療用システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題は、本発明に係る医療用システムによれば、標的部位に粉体を送達する医療用システムであって、前記粉体を収容する容器と、前記粉体と混合するための流体を前記容器へ送出する圧力源と、前記標的部位に前記粉体と前記流体の混合物を送達するチューブ部材と、前記容器と接続し、先端部が前記容器内に収容される二重管と、を備え、前記二重管は、前記圧力源から前記容器へ送出される前記流体が通過する流体供給路と、前記容器から前記チューブ部材へ送達される前記混合物が通過する混合物移送路と、を有し、前記二重管の前記先端部には、前記流体供給路から前記容器へ前記流体を噴射する噴射孔と、前記容器から前記混合物移送路へ前記混合物を吸入する吸入孔と、が形成されることにより解決される。
【0007】
上記の医療用システムによれば、流体供給路と混合物移送路が二重管構造となっており、流体を噴射する噴射孔と混合物を吸入する吸入孔が、二重管の先端部に形成される。
そのため、混合比が高く圧力損失が少なくなり、粉体が噴射孔の近傍に設けられた吸引孔からチューブ部材へ送達されるので、標的部位へ噴射の勢いが強くなり過ぎずに、低い流量で安定して粉体を送達することができ、意図する量を噴霧、塗布することができる。
また、標的部位へ強く噴射してしまうことを抑制できるため、意図する位置に噴射することができる。更に、標的部位へ噴射した際に粉体の舞い上がりを抑制できるため、標的部位周辺の視野を確保することができる。
すなわち、上記の医療用システムによれば、標的部位への粉体の付着率を向上させることができる。
【0008】
また、上記の医療用システムにおいて、前記吸入孔は、前記二重管の径方向中心部に設けられ、前記噴射孔は、前記吸入孔よりも径方向外側に設けられると良い。
こうすることで、噴射孔が外管に設けられ、吸引孔が内管に設けられるため、標的部位への粉体の付着率をより向上させることができる。
【0009】
また、上記の医療用システムにおいて、前記噴射孔は、前記吸入孔よりも径方向外側に複数設けられ、前記噴射孔の直径は、前記吸入孔の直径よりも小さいと良い。
こうすることで、流体が供給される噴射孔が小さく、混合物を吸入する吸入孔が大きいため、標的部位への粉体の付着率をより向上させることができる。
【0010】
また、上記の医療用システムにおいて、前記二重管の前記先端部は、略円柱形状のノズル部を有し、前記噴射孔及び前記吸入孔は、前記ノズル部の先端面においてそれぞれ同一面上に形成されると良い。
こうすることで、噴射孔及び吸入孔が二重管の先端面において近接して形成されるため、標的部位への粉体の付着率をより向上させることができる。
【0011】
また、上記の医療用システムにおいて、前記医療用システムは、前記容器に対して前記二重管を相対的に上下方向に移動させる移動機構を、更に備えると良い。
こうすることで、二重管の先端部を容器内に収容された粉体に近接させることができるため、標的部位への粉体の付着率をより向上させることができる。
更に、移動機構によって粉体との距離を変化させることができるため、圧力源が開通した直後は粉体表面から距離を取り、流体が安定した後に粉体表面に近づけることで、標的部位への粉体の付着率をより向上させることができる。
【0012】
本発明の医療用システムによれば、標的部位への粉体の付着率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1A】本実施形態の医療用システムの斜視図である。
【
図1B】本実施形態の医療用システムの斜視図であって、本体部の内部構造を示す図である。
【
図2】医療用システムの側面図であって、本体部の内部構造を示す図である。
【
図3】二重管の先端部の側面図であって、ノズル部を示す図である。
【
図5】操作部の操作量に対する流体の吐出量及び二重管の移動量の関係を示す図である。
【
図6A】噴射孔と吸入孔が先端面に形成されたノズル部を示す図である。
【
図6B】噴射孔が斜面に形成され、吸入孔が先端面に形成されたノズル部を示す図である。
【
図6C】噴射孔が側面に形成され、吸入孔が先端面に形成されたノズル部を示す図である。
【
図7】ノズル形状に応じた噴霧量に関する実験結果を示すグラフである。
【
図8】移動条件及び流量条件に応じた噴霧量に関する実験結果を示すグラフである。
【
図9】標的部位に対する付着率に関する実験結果を示す表である。
【
図10A】変形例のノズル部であって、ラッパ形状を有する噴射孔を示す図である。
【
図10B】変形例のノズル部であって、螺旋状に配置された噴射孔を示す図である。
【
図10C】変形例のノズル部であって、スリット形状を有する噴射孔を示す図である。
【
図10D】変形例のノズル部であって、スリット形状を有し風車型に配置された噴射孔を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、
図1A~
図10Dに基づき、本発明の一実施形態(以下、本実施形態)の医療用システム1について説明する。以下の説明中、
図1A、
図1Bに記載の矢印で示すように、「上下方向」とは、使用時における上下方向を示す。「近位」とは使用時に使用者側となる基端部側を示し、「遠位」とは使用時に患者側となる先端部側を示す。
【0015】
<医療用システム>
医療用システム1は、
図1A~
図4に示すように、消化器内視鏡下や腹腔鏡下で体内の標的部位に治療薬等の粉体Pを送達するものであって、患部に治療薬を塗布する目的、がん除去部や潰瘍部を被覆する目的、内視鏡的止血術で止血する目的、癒着防止目的等で使用される。
【0016】
医療用システム1は、
図1B、
図2、
図4に示すように、使用者が把持可能な本体部10と、本体部10に収容される圧力源20と、本体部10から標的部位まで延びるチューブ部材30と、本体部に対して移動可能に設けられる二重管40と、本体部10に交換可能に設けられる容器50と、本体部10に対して二重管40を移動させる移動機構60と、使用者が操作する操作部70と、から主に構成されている。
【0017】
<本体部>
本体部10は、
図1A、
図1B、
図2に示すように、ハンドガンの形状を有しており、圧力源20等の構成部品を収容したケース体である。
本体部10は、圧力源20等の構成部品が取り付けられる収容部10aと、収容部10aから下方に延びる把持部10bと、把持部10bに取り付けられた蓋部10cと、を有する。
【0018】
収容部10aは、内部に圧力源20等の構成部品を収容可能なハウジングである。収容部10aは、圧力源20が取り付けられるボンベ取付部11、レギュレータ取付部12及びリリーフ弁取付部13と、後述する安全機構46が取り付けられるストップ弁取付部14と、チューブ部材30が取り付けられるチューブ接続部15と、二重管40が取り付けられる二重管取付部16と、容器50が取り付けられる容器取付部17と、移動機構60及び操作部70が取り付けられるトリガ取付部18と、を有する。
【0019】
把持部10bは、使用者によって把持される部分であって、圧力源20のボンベ21を収容する収容空間を有する。
蓋部10cは、ボンベ21を覆う板状部材である。蓋部10cは、把持部10bに対して回動軸10dを中心として回動可能に取り付けられる。
なお、把持部10bの操作部70近傍の内壁にはバネ掛止部10eが形成され、後述するバネ部材72が係止される。
【0020】
ボンベ取付部11は、
図1B、
図2に示すように、圧力源20のボンベ21及びフィルタ22が取り付けられる取付部である。ボンベ取付部11は、円筒形状を有する管状部材であって、収容部10aの近位側下端部に設けられる。
【0021】
レギュレータ取付部12は、
図1B、
図2に示すように、圧力源20のレギュレータ23及び操作弁25が取り付けられる取付部である。レギュレータ取付部12は、略L字形状を有する管状部材であって、ボンベ取付部11の上端部に接続し、収容部10aの近位側端部に設けられる。
【0022】
リリーフ弁取付部13は、
図1B、
図2に示すように、圧力源20の圧力逃がし機構26が取り付けられる取付部である。リリーフ弁取付部13は、略立方体形状を有する部材であって、収容部10aにおいてレギュレータ取付部12よりも遠位側に設けられる。
【0023】
ストップ弁取付部14は、
図1B、
図2に示すように、安全機構46が取り付けられる取付部である。ストップ弁取付部14は、略立方体形状を有する部材であって、収容部10aにおいてリリーフ弁取付部13よりも遠位側に設けられる。
【0024】
チューブ接続部15は、
図1B、
図2に示すように、チューブ部材30と安全機構46のストップ弁接続部46cとを連通させるように、チューブ部材30が取り付けられる取付部である。チューブ接続部15は、収容部10aの遠位側端部に設けられる。
【0025】
二重管取付部16は、
図1B、
図2に示すように、二重管40が取り付けられる取付部である。二重管取付部16は、収容部10aにおいてリリーフ弁取付部13とストップ弁取付部14の間の下方に形成される。
二重管取付部16は、収容部10aの内壁に形成された上下方向に延出する案内部16aを有する。案内部16aは、後述するヘッド部42の係止片42bを上下移動可能に案内する。
【0026】
容器取付部17は、
図1B、
図2に示すように、容器50が取り付けられる取付部である。容器取付部17は、略円筒形状を有し、二重管取付部16から下方に突出するように形成される。
【0027】
トリガ取付部18は、
図1B、
図2に示すように、移動機構60及び操作部70が取り付けられる取付部である。トリガ取付部18は、収容部10aの中央部においてレギュレータ取付部12及びリリーフ弁取付部13よりも下方に設けられる。
【0028】
<圧力源>
圧力源20は、
図1B、
図2、
図4に示すように、粉体Pと混合するための流体を容器50へ送出するためのものである。圧力源20は、流体を封入したボンベ21と、ボンベ21からの流体が通過するフィルタ22と、フィルタ22を通過した流体の圧力を制御するレギュレータ23と、レギュレータ23で制御する流体の圧力を調整する圧力調整部24と、レギュレータ23で制御された流体を通過させる操作弁25と、流体通路の圧力を開放する圧力逃がし機構26と、を有している。
【0029】
ボンベ21は、粉体Pと混合するための流体(例えば二酸化炭素)が封入された、加圧流体カートリッジである。なお、流体は二酸化炭素に限定されず、人体と適合性がある他の気体又は液体であっても良い。
ボンベ21は、
図1B、
図2に示すように、収容部10aのボンベ取付部11の下端部に着脱可能に取り付けられ、把持部10bの収容空間に収容される。使用者は、蓋部10cを開放して、ボンベ取付部11から使用済みのボンベ21を取り外すことによって、ボンベ21を交換することができる。
【0030】
フィルタ22は、
図1B、
図2に示すように、例えば清浄度を上げる目的のフィルタであって、ボンベ21から放出された流体を通過させて、流体に含まれる不純物等を除去する。フィルタ22は、収容部10aのボンベ取付部11の内部に収容される。
【0031】
レギュレータ23は、
図1B、
図2に示すように、ボンベ21内の圧力よりも減圧した状態で流体を一定に送出する調圧器である。レギュレータ23は、レギュレータ取付部12の内部に収容される。
【0032】
圧力調整部24は、
図1B、
図2に示すように、レギュレータ23の制御圧力を調整する操作部材である。圧力調整部24は、レギュレータ23に操作可能に取り付けられ、収容部10aから外側へ突出するように配置される。
【0033】
操作弁25は、
図1B、
図2に示すように、ボンベ21から容器50への流体通路を連通させるための弁である。操作弁25は、レギュレータ取付部12の内部に収容され、レギュレータ23と圧力逃がし機構26とを接続する操作弁接続部25aと、操作部70のトリガ71によって押圧される弁被押圧部25bを有する。
使用者によってトリガ71が操作されると、トリガ71の弁押圧部71bが弁被押圧部25bを押圧し、操作弁25が開放される。そして、レギュレータ23で制御された流体は、圧力逃がし機構26及び二重管40を通過して、容器50へ供給される。
【0034】
圧力逃がし機構26は、
図1B、
図2に示すように、操作弁25から安全機構46までの流体通路内の流体圧力が過大になったときに、流体通路外へ圧力を逃がすための機構である。圧力逃がし機構26は、リリーフ弁取付部13に操作可能に取り付けられ、大気圧に開放されるリリーフ弁26aと、リリーフ弁26aを開閉するリリーフ弁操作部26bと、を有する。
【0035】
リリーフ弁26aは、例えば、内部の過剰な圧を解放する際に、圧の解放と同時に粉体Pが本体部10の外へ舞い散ることを防止するフィルタを有する弁であって、リリーフ弁取付部13に設けられる。リリーフ弁操作部26bは、リリーフ弁26aに操作可能に取り付けられ、収容部10aから外側へ突出するように配置される。
使用者によってリリーフ弁操作部26bが回動操作されると、リリーフ弁26aが開放され、流体が流体通路外へ排出される。
【0036】
<チューブ部材>
チューブ部材30は、
図1A、
図1B、
図2、
図4に示すように、例えばカテーテルであって、患者の体内の標的部位に粉体P及び流体の混合物を送達するものである。チューブ部材30は、例えばポリウレタン等の柔軟性を有する材質で形成される。チューブ部材30の外径は、1.5mm以上3.5mm以下であることが好ましく、1.8mm以上3.0mm以下であることが特に好ましい。また、チューブ部材30の長さは、1500mm以上2500mmであることが好ましく、1800mm以上2300mm以下であることが特に好ましい。チューブ部材30の形状は、これに限らず、適用する部位や患者に応じて適宜選択されれば良い。
チューブ部材30の近位端は、チューブ接続部15に着脱可能に取り付けられ、チューブ部材30の遠位端は、標的部位の近傍に配置される。
使用者によって操作部70が操作されると、チューブ部材30を介して本体部10から標的部位へ、粉体P及び流体の混合物が送達される。
【0037】
<二重管>
二重管40は、
図1B、
図2、
図4に示すように、圧力源20、チューブ部材30及び容器50をそれぞれ連通するように接続するものである。具体的には、二重管40は、圧力源20から容器50へ送出される流体通路を形成する外管と、外管の内側に配置され、容器50からチューブ部材30へ送達される粉体P及び流体の混合物が移送される混合物通路を形成する内管と、を有する二重管構造となっている。
【0038】
二重管40は、
図1B、
図2に示すように、本体部10に取り付けられる二重管本体部41と、二重管本体部41の上端部に配置されるヘッド部42と、二重管本体部41の下端部(先端部)に配置されるノズル部43と、圧力源20から容器50へ送出される流体が通過する流体供給路44(外管)と、容器50からチューブ部材30へ送達される粉体P及び流体の混合物が通過する混合物移送路45(内管)と、二重管本体部41とチューブ部材30との間に配置される安全機構46と、を有する。
【0039】
二重管本体部41は、
図1B、
図2に示すように、上述した二重管構造を有し、容器50へ流体を供給し、容器50から流体及び粉体を移送するためのものである。
二重管本体部41の上方側は本体部10に収容され、下方側は容器50内に収容される。二重管本体部41は、二重管取付部16に取り付けられ、移動機構60の動作によって、本体部10及び容器50に対して上下方向に移動する。
【0040】
ヘッド部42は、
図1B、
図2に示すように、二重管本体部41よりも大径の円筒形状を有する部材であって、二重管本体部41の上端部を囲むように二重管本体部41に固定される。
ヘッド部42は、近位遠位方向において外周面から近位側へ突出する被係合部42aと、近位遠位方向とは直交する水平方向において外周面から外側に突出する複数の係止片42bを有する。
【0041】
被係合部42aは、上下方向に延出する板状の部材であって、移動機構60と接続し、移動機構60の動作に応じて、二重管本体部41を上下方向に移動させる。
係止片42bは、上下方向に延出する板状の部材であって、二重管取付部16の案内部16aに沿って上下移動可能に配置される。
ヘッド部42は、移動機構60の動作によって、係止片42bが案内部16aに案内されることで上下方向に移動する。
【0042】
ノズル部43は、
図1A~
図3に示すように、二重管本体部41の外径と略同一径を有する部材であって、二重管本体部41の下端部に固定される先端部である。
ノズル部43は、圧力源20から送出される流体を容器50内へ噴射する噴射孔43aと、容器50内からチューブ部材30へ送達される粉体P及び流体の混合物を吸入する吸引孔43bと、を有する。
【0043】
ノズル部43は、
図3に示すように、略円柱形状であって、先端部側にテーパ形状を有する。ノズル部43は、二重管40の下端面である先端面43Aと、側面43Bと、先端面43Aと側面43Bの間に形成された斜面であるテーパ面43Cと、を有する。
【0044】
噴射孔43aは、流体供給路44と連通する貫通孔であって、流体供給路44から容器50へ流体を噴射するように、ノズル部43の先端面43Aに形成される。
吸引孔43bは、混合物移送路45と連通する貫通孔であって、容器50内から混合物移送路45へ粉体P及び流体の混合物を吸入するように、ノズル部43の先端面43Aに形成される。
【0045】
吸引孔43bは、ノズル部43の径方向中心部に設けられる。噴射孔43aは、吸引孔43bよりも径方向外側に複数設けられる。具体的には、ノズル部43の先端面43Aには、吸引孔43bよりも小径の噴射孔43aが、吸引孔43bの周囲に等間隔で3つ形成される。
【0046】
噴射孔43a及び吸引孔43bは、ノズル部43の先端面43Aにおいてそれぞれ同一面上に形成される。
なお、噴射孔43a及び吸引孔43bは、それぞれ二重管40の先端部であれば、同一面上に配置されなくても良い。例えば、噴射孔43aはノズル部43の側面43B上に形成されても良い。また、噴射孔43aはノズル部43のテーパ面43C上に形成されても良い。
【0047】
上記構成により、二重管40の先端部において、噴射孔43a及び吸引孔43bが互いに近接した位置に配置される。したがって、噴射孔43aからの流体により流動化させた粉体Pを、噴射孔43aの近傍にある吸引孔43bから吸引することができるため、標的部位へ強く噴射してしまうことを抑制できる。
【0048】
流体供給路44は、
図1B、
図2、
図4に示すように、圧力源20から容器50へ送出される流体が通過するものであって、二重管構造の外管部分である。
流体供給路44は、流体供給接続路44aを介して圧力逃がし機構26と接続され、ノズル部43の噴射孔43aから容器50内へ流体を送出する。
【0049】
混合物移送路45は、
図1B、
図2、
図4に示すように、容器50からチューブ部材30へ送達される混合物が通過するものであって、二重管構造の内管部分である。
混合物移送路45は、混合物移送接続路45aを介して安全機構46と接続され、ノズル部43の吸引孔43bから吸引された粉体Pと流体の混合物を安全機構46へ移送する。
【0050】
安全機構46は、容器50からチューブ部材30へ送達される粉体P及び流体の混合物が移送される混合物通路を通過する混合物の流れを止める機構である。
安全機構46は、
図1B、
図2に示すように、ストップ弁取付部14に操作可能に取り付けられ、混合物の流れを止めるストップ弁46aと、ストップ弁46aを開閉するストップ弁操作部46bと、チューブ部材30へ混合物を移送するストップ弁接続部46cと、を有する。
【0051】
ストップ弁46aは、流体の流れを止める弁であって、ストップ弁取付部14に設けられる。ストップ弁操作部46bは、ストップ弁46aに操作可能に取り付けられ、収容部10aから外側へ突出するように配置される。ストップ弁接続部46cは、ストップ弁46aから遠位側へ延びてチューブ部材30へ接続する混合物通路である。
使用者によってストップ弁操作部46bが回動操作されると、ストップ弁46aが開閉されて、標的部位に粉体を噴射可能な状態と噴射不能な状態とに切り替えられる。
【0052】
<容器>
容器50は、
図1A、
図1B、
図2、
図4に示すように、粉体Pを内部に収容し、圧力源20から供給された流体と粉体Pを混合するものである。
容器50は、例えばバイアルであって、微生物の侵入を防いで無菌状態を保つことができるガラス製やプラスチック製の小型容器である。なお、容器50の形状や大きさは限定されず、収容する粉体Pの種類に応じて適宜変更可能である。
また、本実施形態において、容器50内の底壁は平底形状を有するが、底壁は中央部分が上方に突出する形状であっても良い。更に、容器50内の底壁は、容器50内の側壁に接する部分が上方に突出する形状であっても良い。
【0053】
粉体Pは、例えば癒着防止材、止血材、各種薬剤等の医療用粉体である。粉体Pは、3~4mLの容器内に約1g収容される。
【0054】
容器50は、
図1B、
図2、
図4に示すように、容器取付部17に着脱可能に取り付けられ、流体供給路44及び混合物移送路45と連通する。容器50は、二重管40の先端部を収容するように、二重管40の下方から取り付けられる。なお、容器50は、容器開口部50aに設けられたシール材により、内部を密閉した状態で、容器取付部17に取り付けられる。
上記構成により、容器50内に収容された粉体Pは、容器50内で圧力源20から供給された流体と混合され、混合物として容器50からチューブ部材30を介して標的部位まで送達される。
【0055】
<移動機構>
移動機構60は、
図1B、
図2、
図4に示すように、容器50に対して二重管40を上下方向に移動させるリンク機構であって、トリガ取付部18に回動可能に取り付けられる。
なお本実施形態では、移動機構60は、機械的なリンク機構によって二重管40を移動させるものであるが、これに限らず、移動機構60は、例えばモータ等の駆動源によって二重管40を移動させても良い。
【0056】
移動機構60は、操作部70の上端部に固定された回動部60aと、二重管40のヘッド部42と係合するヘッド係合部60bと、を有する。
回動部60aは、操作部70のトリガ71の回動動作に伴って回動するように、トリガ取付部18に軸支される。ヘッド係合部60bは、ヘッド部42の被係合部42aに係合し、トリガ71の回動動作に伴って、ヘッド部42を移動させる。
【0057】
上記構成により、移動機構60は、使用者によって操作部70が操作されることにより、本体部10及び容器50に対してヘッド部42及び二重管本体部41を下方へ移動させ、ノズル部43を容器50内に収容された粉体Pに近接させることができる。
なお、本実施形態では、移動機構60は、容器50に対して二重管40を下方へ移動させる構成としているが、容器50に対して二重管40を相対的に移動させるものであれば良い。例えば、移動機構60は容器50に接続し、本体部10に固定された二重管40に対して容器50を上方に移動させる構成としても良い。
このように、移動機構60によって、噴射に伴い徐々に下がっていく粉体Pの表面に追従して二重管40を粉体Pに近接させることができるため、低流量であっても二重管40の先端部周囲の粉体Pを吸引することができる。
【0058】
<操作部>
操作部70は、
図1A、
図1B、
図2、
図4に示すように、操作弁25の開閉操作及び二重管40の上下移動操作をするものである。操作部70は、トリガ取付部18に回動可能に取り付けられるトリガ71と、トリガ71に付勢力を与えるバネ部材72と、を有する。
【0059】
トリガ71は、
図1A、
図1B、
図2に示すように、使用者によって操作される部材であって、使用者が把持部10bを把持した状態で操作可能な位置に配置される。
トリガ71は、トリガ取付部18に回動可能に取り付けられるトリガ本体部71aと、トリガ本体部71aの近位側上方に形成される弁押圧部71bと、を有する。
【0060】
トリガ本体部71aは、トリガ取付部18に軸支され、使用者の操作によって回動される。トリガ本体部71aの上方部分は本体部10に収容され、下方部分は本体部10の外に突出する。
弁押圧部71bは、操作弁25を開閉するためのものである。弁押圧部71bは、トリガ本体部71aの回動動作に応じて、弁被押圧部25bを押圧する。
【0061】
バネ部材72は、
図1B、
図2に示すように、トリガ71の下方部分が本体部10から突出する方向(遠位側)に付勢力を与える付勢部材である。バネ部材72の一端はトリガ本体部71aのバネ係止部71cに係止され、他端はバネ掛止部10eに係止される。
【0062】
ここでトリガ71の操作量に対する流体の吐出量及び二重管40の移動量の関係を説明する。
トリガ71の操作量に対する流体の吐出量は、
図5に示すように、区間Aにおいては、トリガ71が空走するため流体が吐出されない。区間Bにおいては、トリガ71の操作量(回転角度)に応じて、流体の吐出量は徐々に増加する。区間Cにおいては、トリガ71の操作量に関わらず吐出量は一定(例えば1.5L/min)となる。なお、吐出量は、圧力調整部24によって調整することができる。
【0063】
トリガ71の操作量に対する二重管40の移動量は、
図5に示すように、区間Dにおいては、トリガ71が空走するため二重管40は移動しない。区間Eにおいては、トリガ71の操作量(回転角度)に応じて、二重管40の移動量は徐々に増加する。
【0064】
<使用方法>
次に、医療用システム1の使用方法について、
図4に基づいて説明する。
使用者は、容器50を容器取付部17に接続し、ボンベ21をボンベ取付部11に取り付ける。そして、安全機構46が閉鎖している状態で、患者の体内にチューブ部材30の遠位端を挿入し、チューブ接続部15にチューブ部材30の近位端を接続する。
使用者は、安全機構46を開放し、操作部70を操作して粉体Pを噴射開始する。圧力調整部24及び操作部70を操作することにより、吐出量を調整することができる。また、使用者は、操作部70を操作することにより、移動機構60によって二重管40を下降(又は容器50を上昇)させて、容器50の底面に残った粉体Pを吸引させることができる。
噴射を終了する際は、操作部70を元の位置に戻し、安全機構46を閉鎖させて、患者の体内からチューブ部材30を取り出す。そして、圧力逃がし機構26を開放又は容器50を取り外した状態で、操作部70を操作して、ボンベ21に残った流体を排出し、ボンベ21を取り外す。
【0065】
このように、医療用システム1は、従来よりも低い流量で安定して標的部位へ粉体を送達し、標的部位への粉体の付着率を向上させることができる。
また、低い流量でも標的部位へ安定した勢いで噴射できるため、流体通路が詰まる不具合を低減することができる。
【0066】
なお、使用中に粉体Pの詰まりが発生した場合は、以下の手順で解消することができる。
使用者は、操作部70を元の位置に戻し、粉体Pの噴射を停止する。そして、安全機構46を閉鎖してから、圧力逃がし機構26を開放して操作弁25から安全機構46間の圧力を開放する。そして、容器50を取り外して詰まりを取り除く。
使用者は、容器50を再度取り付けた後、圧力逃がし機構26を閉鎖し、安全機構46を開放する。そして、使用者は、操作部70を操作することによって、噴射を再開することができる。
【0067】
このように、医療用システム1は、粉体Pが詰まった場合でも、簡易な操作によって安全に詰まりを解消することができる。
【0068】
<変形例>
次に、変形例の医療用システム1について、
図10A~
図10Dに基づいて説明する。
なお、上述の医療用システム1と重複する内容については説明を省略する。
変形例の医療用システム1では、ノズル部43の形状が主に異なっている。
【0069】
図10Aに示すように、ノズル部43には、先端部側に向かうにつれて拡径するラッパ形状を有する複数の噴射孔43aが形成されても良い。具体的には、噴射孔43aは、吸引孔43bと同一面上に形成され、吸引孔43bの周囲に9個設けられる。
このように、噴射孔43aは、ラッパ形状に形成されることにより、好適に容器50内に流体を拡散させることができる。なお、噴射孔43aは、先端部側に向かうにつれて拡径するラッパ形状ではなく、先端部側に向かうにつれて縮径して窄ませた形状としても良い。
【0070】
図10Bに示すように、ノズル部43には、噴射向きを異ならせた複数の噴射孔43aが形成されても良い。具体的には、9個の噴射孔43aが、先端面43A上、側面43B上及びテーパ面43C上に螺旋状に配置される。
このように、噴射孔43aは、螺旋状に配置されることにより、好適に容器50内に流体を拡散させることができる。
【0071】
図10Cに示すように、ノズル部43には、スリット形状を有する複数の噴射孔43aが形成されても良い。具体的には、噴射孔43aは、先端部側に矩形状の長孔を有し、矩形状の長孔が吸引孔43bに対して接線方向となるように設けられる。
このように、噴射孔43aは、スリット形状に形成されることにより、好適に容器50内に流体を拡散させることができる。
【0072】
図10Dに示すように、ノズル部43は、スリット形状を有する複数の噴射孔43aが所定角度回転して配置されても良い。具体的には、噴射孔43aは、先端部側に矩形状の長孔を有し、矩形状の長孔が吸引孔43bに対して風車型に配置される。
このように、噴射孔43aは、風車型に配置されることにより、好適に容器50内に流体を拡散させることができる。
【0073】
<その他の実施形態>
本発明の医療用システムは、上記の実施形態に限定されるものではない。
上記実施形態では、移動機構60によって容器50に対して二重管40を上下方向に移動させる構成としているが、必ずしも移動機構60を設けなくても良い。
こうすることで、本体部10を小型化して、部品点数を削減しつつ、安定して標的部位に粉体Pを送達することができる。
【0074】
また上記実施形態では、二重管40は、容器50に流体を供給する流体通路が外管として、粉体P及び流体の混合物が移送される混合物通路が内管として、二重管構造を形成していたが、外管と内管が逆であっても良い。具体的には、容器50に流体を供給する流体通路が内管として形成され、粉体P及び流体の混合物が移送される混合物通路が外管として形成されても良い。
【0075】
また上記実施形態では、二重管40は、二重管本体部41の下端部(先端部)にノズル部43を有する構成としているが、必ずしもノズル部43を設けなくても良い。例えば、二重管本体部41の先端部から、流体を容器50内へ噴射し、容器50内からチューブ部材30へ送達される粉体P及び流体の混合物を吸入する構成としても良い。この場合、二重管本体部41の流体供給路44の先端部が噴射孔となり、混合物移送路45の先端部が吸入孔となる。
【0076】
また上記実施形態では、二重管40は、移動機構60の動作によって、本体部10及び容器50に対して上下方向に移動される構成としたが、移動させる方向はこれに限らず、容器50内の粉体Pに対して二重管40の先端部を近接させる方向であれば良い。
【0077】
また上記実施形態では、操作弁25、リリーフ弁26a及びストップ弁46aの弁の種類は限定されず、グローブ弁、ダイヤフラム弁、バタフライ弁、ボール弁等、目的に応じて適宜選択されれば良い。
【0078】
上記実施形態では、主として本発明に係る医療用システムに関して説明した。
ただし、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするための一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。
【実施例0079】
以下、具体的実施例に基づいて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<目的>
本実施形態の医療用システム1の二重管40、容器50において、実験機を用いて以下の各条件1~4(ノズル形状、ノズル向き、流量、動作態様)におけるターゲットに対する粉体の付着率を比較し、標的部位に粉体を好適に送達できる条件を求める目的とした。
【0080】
各条件1~4について説明する。
<条件1>
ノズル部43のノズル形状について、
図6A~
図6Cに示す噴射孔43aの数及び配置が異なる9種類のノズル形状(a)~(i)から選択した。
【0081】
図6Aに示すノズル形状(a)~(c)は、噴射孔43a及び吸引孔43bが先端面43Aにおける同一面上に形成される。
図6Bに示すノズル形状(d)~(f)は、噴射孔43aが円柱形状の先端のテーパ面43C上に形成され、吸引孔43bが先端面43A上に形成される。
図6Cに示すノズル形状(g)~(i)は、噴射孔43aが円柱形状の側面43B上に形成され、吸引孔43bが先端面43A上に形成される。
【0082】
また、
図6A~
図6Cに示すノズル形状(a)、(d)、(g)は、噴射孔43aが吸引孔43bの周囲に3個等間隔に形成され、ノズル部43の上面から鉛直下向きに形成され、それぞれ先端面43A、テーパ面43C、側面43Bまで貫通する。
また、
図6A~
図6Cに示すノズル形状(b)、(e)、(h)は、噴射孔43aが吸引孔43bの周囲に9個等間隔に形成され、ノズル部43の上面から鉛直下向きに形成され、それぞれ先端面43A、テーパ面43C、側面43Bまで貫通する。
また、
図6A~
図6Cに示すノズル形状(c)、(f)、(i)は、噴射孔43aが吸引孔43bの周囲に3個等間隔に形成され、ノズル部43の上面から螺旋状に下向きに形成され、それぞれ先端面43A、テーパ面43C、側面43Bまで貫通する。
【0083】
<条件2>
実験機に取り付ける二重管40のノズルの向き(容器50の向き)について、ノズル部43(先端部)が上側となる「ノズル上向き(容器下向き)」と、ノズル部43(先端部)が下側となる「ノズル下向き(容器上向き)」と、から選択した。
【0084】
<条件3>
圧力源の流量について、流体の吐出量は、0.5L/min、1.0L/min、1.5L/min、2.5L/minから選択した。
【0085】
<条件4>
操作部の動作態様(操作弁の開閉態様及び移動機構の移動有無)について、操作弁を継続して開放する「継続ON」と、操作弁の開放と閉鎖を交互に行う「ON/OFF交互」と、操作弁を継続して開放した状態で二重管40を移動させる「スライド継続ON」と、から選択した。
【0086】
<条件の検討>
各条件1~4における噴霧量(単位はg)を比較した結果を説明する。
まず、ノズル形状についての実験結果を
図7に示す。
図7は、各ノズル形状(a)~(i)を使用した容器50から排出された粉体の噴霧量を示すグラフである。なお、条件2(ノズルの向き)を「ノズル上向き」、条件3(流量)を「2.5L/min」、条件4(動作態様)を「継続ON」とし、噴霧量は複数回の実験における平均値を取った。なお、噴霧量は、噴霧前後の容器50の重量を測定し、容器50の重量の差を噴霧量とした。
図7に示すように、噴霧量は、噴射孔43aの数が3個かつ、噴射孔43a及び吸引孔43bが同一面上に形成されるノズル形状(a)が一番多かった。また、噴射孔43aの数が9個よりも3個の方が、比較的噴霧量が多くなった。更に、噴射孔43a及び吸引孔43bが同一面上に形成されないノズル形状よりも、同一面上に形成されるノズル形状の方が比較的噴霧量が多くなった。
【0087】
続いて、移動条件及び流量条件に応じた噴霧量に関する実験結果を
図8に示す。
図8は各条件1~4における容器50から排出された粉体の噴霧量を示すグラフである。なお、噴霧量は、噴霧前後の容器50の重量を測定し、容器50の重量の差を噴霧量とした。 移動条件及び流量条件(j)は、条件1(ノズル形状)を「ノズル形状(a)」、条件2(ノズルの向き)を「ノズル上向き」、条件3(流量)を「1.0L/min」、条件4(動作態様)を「ON/OFF交互」とした。
移動条件及び流量条件(k)は、条件1(ノズル形状)を「ノズル形状(a)」、条件2(ノズルの向き)を「ノズル下向き」、条件3(流量)を「1.5L/min」、条件4(動作態様)を「スライド継続ON」とした。
移動条件及び流量条件(l)は、条件1(ノズル形状)を「ノズル形状(a)」、条件2(ノズルの向き)を「ノズル下向き」、条件3(流量)を「1.0L/min」、条件4(動作態様)を「スライド継続ON」とした。
移動条件及び流量条件(m)は、条件1(ノズル形状)を「ノズル形状(a)」、条件2(ノズルの向き)を「ノズル下向き」、条件3(流量)を「0.5L/min」、条件4(動作態様)を「スライド継続ON」とした。
なお、噴霧量は複数回の実験における平均値を取った。
【0088】
図8に示すように、噴霧量は、ノズルの向きが「ノズル上向き」よりも「ノズル下向き」のほうが、比較的噴霧量が多くなった。更に、動作態様は「ON/OFF交互」よりも「スライド継続ON」の方が比較的噴霧量が多くなった。流量については、「0.5L/min」よりも「1.0L/min」、「1.5L/min」の方が比較的噴霧量が多くなった。
【0089】
上記結果により、条件1~4のいずれの条件においても、適切な噴霧量を確保できる可能性が示された。より好適な条件として、条件1(ノズル形状)は「ノズル形状(a)」、条件2(ノズルの向き)は「ノズル下向き」、条件3(流量)は「1.0L/min」又は「1.5L/min」、条件4(動作態様)は「スライド継続ON」であることが示された。
【0090】
<実験方法>
上記条件1~4を用いて、実験機に二重管40、容器50を取り付けて、標的部位となるターゲット部材(φ3cm)の中心部に向けて粉体を噴射し、ターゲットにおける吐出量(容器50から排出された噴霧量)に対する付着率を測定した。ここで、チューブ部材の先端部からターゲット部材までの距離が2cm、ターゲット部材に対する噴射角度が30度となるように、チューブ部材をチューブ固定治具に取り付けた。粉体はAGCエスアイテック株式会社のサンスフェアHを用いた。
【0091】
<実施例>
実施例1~4について、各条件を説明する。
実施例1は、条件1(ノズル形状)を「ノズル形状(a)」、条件2(ノズルの向き)を「ノズル上向き」、条件3(流量)を「1.5L/min」、条件4(動作態様)を「ON/OFF交互」とし、「ON/OFF交互」を10セット繰り返してターゲットに噴射した。
実施例2は、条件1(ノズル形状)を「ノズル形状(a)」、条件2(ノズルの向き)を「ノズル下向き」、条件3(流量)を「1.5L/min」、条件4(動作態様)を「スライド継続ON」とし、「スライド継続ON」を一往復してターゲットに噴射した。
実施例3は、条件1(ノズル形状)を「ノズル形状(a)」、条件2(ノズルの向き)を「ノズル下向き」、条件3(流量)を「1.0L/min」、条件4(動作態様)を「スライド継続ON」とし、「スライド継続ON」を一往復してターゲットに噴射した。
実施例4は、条件1(ノズル形状)を「ノズル形状(a)」、条件2(ノズルの向き)を「ノズル下向き」、条件3(流量)を「0.5L/min」、条件4(動作態様)を「スライド継続ON」とし、「スライド継続ON」を一往復してターゲットに噴射した。
【0092】
<比較例>
比較例として、医療品注入器(カイゲンファーマ株式会社製のアルトシューター)を用いた。
比較例では、ハンドガン形状を有する本体部に対して開口部分が下向きとなるように容器を取り付け、容器及び本体部を固定した状態でターゲットに粉体を噴射した。流量は「2.4L/min」であり、吐出時間は10秒とした。
【0093】
<実験結果>
ターゲットにおける吐出量に対する付着率を比較した結果を
図9に示す。
図9に示すように、ターゲットに対する粉体の付着率について、実施例1~4のいずれも比較例より付着率が高いことを示す結果となった。
特に、実施例2、実施例3については、ターゲットにおける吐出量に対する付着率が11%を超える高い付着率を示した。
【0094】
また、比較例、実施例2及び実施例3について、ターゲットに対する粉体の付着状態を目視観察した。その結果、比較例では、付着量はターゲットの中心部よりも周縁部の方が多かったが、実施例2及び実施例3では、付着量はターゲットの周縁部よりも中心部の方が多かった。
【0095】
上記結果により、いずれの実施例1~4においても、ターゲットについての吐出量に対する付着率が、比較例よりも高い付着率を示した。また、噴射勢いが強くなり過ぎず、ターゲットの中心部に対しても、粉体を付着させることができた。
したがって、従来よりも、標的部位への粉体の付着率を向上できることが確認された。
【0096】
また、特に実施例2及び実施例3は、ターゲットの中心部に対して高い付着率を示した。したがって、より好適な条件として、条件1(ノズル形状)は「ノズル形状(a)」、条件2(ノズルの向き)は「ノズル下向き」、条件3(流量)は「1.0L/min」又は「1.5L/min」、条件4(動作態様)は「スライド継続ON」であることが示された。