(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023171999
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】医療機器・器具用洗浄消毒装置、該装置に用いる加温槽、該装置を用いた医療機器・器具の洗浄消毒方法
(51)【国際特許分類】
A61B 1/12 20060101AFI20231129BHJP
【FI】
A61B1/12 510
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022083524
(22)【出願日】2022-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】597118304
【氏名又は名称】株式会社精研
(74)【代理人】
【識別番号】100136630
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 祐啓
(74)【代理人】
【識別番号】100201514
【弁理士】
【氏名又は名称】玉井 悦
(72)【発明者】
【氏名】坂野 國敏
【テーマコード(参考)】
4C161
【Fターム(参考)】
4C161GG07
4C161GG10
(57)【要約】
【課題】 洗浄消毒用の水道水を短時間で加温でき、ランニングコストを抑制しつつ装置全体を小型化できる医療機器・器具用洗浄消毒装置を提供する。
【解決手段】 医療機器・器具用洗浄消毒装置は、洗浄槽2と、洗浄槽2に供給する水Wを加温する加温槽3と、加温槽3に水を給水する給水路5を備える。給水路5には、加温槽3に流入する水量を制御する給水電磁弁11が設けられている。加温槽3は、洗浄槽2よりも小容量に設けられ、かつ、給水電磁弁11が閉状態のときに加温槽内に貯留した水W
0を第1温度に加温し、給水電磁弁11が開状態のときに、加温槽内に流入した水W
0を第1温度の水W
1に足し、第1温度よりも低い第2温度の水W
2を生成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄槽と、前記洗浄槽に供給する水を加温する加温槽と、前記加温槽に水を給水する給水路と、を備え、
前記給水路が、前記加温槽に流入する水量を制御する給水弁を含み、
前記加温槽は、前記洗浄槽よりも小容量に設けられ、かつ、前記給水弁が閉状態のときに前記加温槽内に貯留した水を第1温度に加温し、前記給水弁が開状態のときに、前記加温槽内に流入した水を前記第1温度の水に足し、第1温度よりも低い第2温度の水を生成することを特徴とする医療機器・器具用洗浄消毒装置。
【請求項2】
前記加温槽が、前記加温槽内の水を加温するヒーターと、前記ヒーターにより加温された水の水温を計測するセンサーと、を含み、
前記センサーの計測値に基づいて前記ヒーターを制御する制御手段を備えた請求項1に記載の医療機器・器具用洗浄消毒装置。
【請求項3】
前記加温槽の容量は、前記洗浄槽の容量の1/2以下である請求項1に記載の医療機器・器具用洗浄消毒装置。
【請求項4】
請求項1に記載の医療機器・器具用洗浄消毒装置に用いられる加温槽。
【請求項5】
請求項1に記載の医療機器・器具用洗浄消毒装置を用いて医療機器・器具を洗浄する方法であって、
前記給水弁を開状態とし、前記加温槽に水を貯留する段階と、
前記給水弁を閉状態とし、前記ヒーターが、前記加温槽内に貯留した水を前記第1温度に加温する段階と、
前記給水弁を開状態とし、前記加温槽に水を給水し、給水した水を前記第1温度の水に足して第2温度の水を生成する段階と、
前記第2温度の水を前記洗浄槽に供給する段階と、を備えた医療機器・器具の洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、医療機器・器具を洗浄消毒するための医療機器・器具用洗浄装置、該装置に用いる加温槽、該装置を用いて医療機器・器具を洗浄消毒する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
使用後の医療機器・器具には、人の血液蛋白や体液等の有機物が付着し、これら有機物とともに細菌等微生物が生存している。このため、有機物や細菌を全て速やかに洗浄除去し、消毒する必要がある。
【0003】
従来、以下の工程により、医療機器・器具を洗浄消毒している。
(従来の工程1)水道水によるオーバーフロー式予備洗浄
(従来の工程2)蛋白分解酵素入り洗剤又はアルカリ洗剤を溶かした水道水での洗浄
(従来の工程3)水道水によるオーバーフロー式洗浄
(従来の工程4)薬液への浸漬による消毒
(従来の工程5)水道水によるオーバーフロー式すすぎ洗い
例えば、特許文献1には、内視鏡の予備洗浄を行う内視鏡用予備洗浄装置の発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、人の血液蛋白や体液は、人体温下においては最も流動性が高まるが、低温下においては粘度が増大して除去しにくくなり、凝固が生じるという性質がある。
【0006】
従来のオーバーフロー式洗浄によれば、原水温の水道水を用いるため、医療機器・器具に付着した有機物が冷却されて低温化し、凝固しやすくなるという問題があった。
【0007】
有機物の低温化を防ぐためには、加温した水道水を用いることが考えられる。しかし、十分な洗浄除去効果を得るまでには多量の水道水が必要であるため、加温に時間がかかるという問題があった。また、加温時間を短縮するため、大電力のヒーターや温水ボイラー等を搭載すると、ランニングコストが増大し、装置が大型化するという問題もあった。
【0008】
そこで、本開示の目的は、洗浄除去に用いる水道水を短時間で加温でき、かつ、ランニングコストを抑制しつつ装置全体を小型化できる医療機器・器具用洗浄消毒装置、医療機器・器具用洗浄消毒装置に用いる加温槽、医療機器・器具の洗浄消毒方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本開示の医療機器・器具用洗浄消毒装置は、洗浄槽と、洗浄槽に供給する水を加温する加温槽と、加温槽に水を供給する給水路と、を備え、給水路が、加温槽に流入する水の量を制御する給水弁を含み、加温槽は、洗浄槽よりも小容量に設けられ、かつ、給水弁が閉状態のときに加温槽内の水を第1温度に加温し、給水弁が開状態のときに、加温槽内に流入した水を第1温度の水に足して第1温度よりも低温の第2温度の水を生成することを特徴とする。
【0010】
加温槽が、加温槽内の水を加温するヒーターと、ヒーターにより加温された水の水温を計測するセンサーと、を含み、センサーの計測値に基づいてヒーターを制御する制御手段を備えても良い。また、加温槽の容量は、洗浄槽の容量の1/2以下であることが好ましい。
【0011】
上記課題を解決するために、本開示の医療機器・器具用洗浄消毒方法は、給水弁を開状態とし、加温槽に水を貯留する段階と、給水弁を閉状態とし、ヒーターが、加温槽内に貯留した水を第1温度に加温する段階と、給水弁を開状態とし、加温槽に水を給水し、給水した水を第1温度の水に足して第2温度の水を生成する段階と、第2温度の水を洗浄槽に供給する段階と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本開示の医療機器・器具用洗浄消毒装置によれば、洗浄槽よりも小容量の加温槽を設け、加温槽で少量の水を加温し、常温の水を高温の水に足し水して適温の水を生成する。少量の水を高温に加温すれば良いため、加温時間の短縮化、省エネ、装置全体の小型化ができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本開示の医療機器・器具用洗浄消毒装置の概略を示す断面模式図である。
【
図2】
図1の医療機器・器具用洗浄消毒装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】本開示の医療機器・器具の洗浄消毒方法の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の医療機器・器具用洗浄消毒装置を内視鏡を洗浄する内視鏡洗浄消毒装置1に具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。以下の説明において、「原水温」とは、水道の蛇口から吐出される水道水の水温、即ち、10℃~15℃を示し、「第1温度」とは、50℃~60℃を示し、「第2温度」とは、人の体温に近い温度、即ち、30℃~40℃(最も好ましくは、35℃±2℃)を示し、「第3温度」とは、消毒液Dの使用適正温度である15℃~25℃を示す。
【0015】
図1,2に示すように本開示の内視鏡洗浄消毒装置1は、内視鏡51等の医療機器・器具を配置する洗浄槽2と、洗浄槽2に供給する水Wを加温する加温槽3と、洗剤原液を貯留する洗剤槽41と、消毒液Dを貯留する薬液槽42と、加温槽3に水Wを供給する給水路5と、消毒液D等を循環させる循環路6と、内視鏡洗浄消毒装置1を制御する制御部4と、洗浄槽内の液体の水位Lを検出する水位センサー21と、を備える。薬液槽42は、流路10により循環路6に接続されている。
【0016】
消毒液Dは、二酸化塩素の希釈液を使用できる。二酸化塩素は、滅菌に使用可能な程度の強力な酸化力を有しており、全ての微生物及び血液蛋白の分解に高い効果を発揮する。また、二酸化塩素は、一般的に安全性の高い物質と言われており、消毒後の医療機器・器具を安全に用いることができる。消毒液は、二酸化塩素を水道水で20倍希釈したものである。水Wは、所定濃度の塩素を含む水道水を使用できる。水道水を使用した場合には、塩素による殺菌効果が期待できる。洗剤原液は、蛋白分解酵素入り洗剤又はアルカリ洗剤を使用できる。
【0017】
その他、内視鏡洗浄消毒装置1は、電力を投入するための電源スイッチ8や、スタートスイッチ9を備えている。また、内視鏡洗浄消毒装置1の筐体には、内視鏡51の接続部等を保持するためのホルダ(図示なし)が設けられている。
【0018】
給水路5には、加温槽3に流入する水Wの量を制御する給水電磁弁11が設けられている。また、循環路6には、消毒液D等を噴射する噴出口23と、消毒液D等を循環させる循環ポンプ7と、内視鏡洗浄消毒装置1の外部への排水を制御する排水電磁弁12と、が設けられている。
【0019】
加温槽3は、洗浄槽2よりも小容量に設けられている。具体的には、加温槽3は洗浄槽2の1/2以下の容量となるように設けられている。
【0020】
加温槽3は、給水路5から給水電磁弁11を介して水Wを給水する給水口33と、洗浄槽2へ加温された水Wを給出する給出口34と、加温槽内の水Wを加温する電気ヒーター31と、電気ヒーター31により加温された水Wの水温を計測する水温センサー32と、を備えている。制御部4は、水温センサー32の計測値に基づいて電気ヒーター31を制御する。電気ヒーター31は、工程1(
図3参照)の所要時間である60秒以内に、加温槽内の水Wを第1温度に加温する。
【0021】
洗浄槽2は、注入ノズル22と、排水口24と、洗浄槽2が満水であることを検出する水位センサー21と、を備える。注入ノズル22は、洗浄槽2の上部に設けられており、加温槽3の給出口34と接続されている。給水電磁弁11が開状態になると、給水の水圧により給出口34から注入ノズル22に第2温度の水が給水される。排水口24は、循環路6と接続されている。また、洗浄槽2は、内視鏡51の挿入部を鉛直方向に配置できるように、縦長に設けられている。
【0022】
続いて、
図3~7に基づいて、内視鏡51の洗浄消毒方法を説明する。以下の説明において、原水温の水WをW
0と、第1温度の水WをW
1と、第2温度の水WをW
2と表記する。
【0023】
図3に示すように、本開示の洗浄消毒方法は、準備過程、加温過程、給水・給液過程、循環過程、排水処理から構成される。工程1は準備過程を含み、工程2~7は、各々、加温過程、給水・給液過程、循環過程、排水処理を含む。制御部4は、ユーザが電源スイッチ8をONにしたときに工程1を自動的に実施し、ユーザが内視鏡51を洗浄槽2に設置してスタートスイッチ9をONにしたときに工程2~7を自動的に実施する。
(工程1)加温槽に原水温の水W
0を満たし、第1温度に加温
(工程2)第2温度の水W
2で予備洗浄
(工程3)洗剤液Sの流液浸漬による有機物除去
(工程4)第2温度の水W
2ですすぎ洗い
(工程5)余熱により加温した消毒液Dで消毒
(工程6)水W
2ですすぎ洗い(1回目)
(工程7)水W
2ですすぎ洗い(2回目)
【0024】
図4(a)に示すように、工程1では、まず、制御部4は給水電磁弁11を開状態とし、加温槽3に原水温の水W
0を貯留する。貯留が完了すると、制御部4は給水電磁弁11を閉状態とする。
【0025】
次に、
図4(b)に示すように、電気ヒーター31は、加温槽内に貯留された水W
0加温する。そして、水温センサー32の測定値が第1温度になると、制御部4は、電気ヒーター31をOFFにする(
図4(c))。準備過程で生成された第1温度の水W
1は、以降の各工程2,3,4,6,7において、その都度、第2温度の水W
2を生成するために用いられる。
【0026】
図5(a)に示すように、工程2では、まず、制御部4は、給水電磁弁11を開状態とし、加温槽3に原水温の水W
0を給水する。このとき、加温槽内に貯留された第1温度の水W
1と原水温の水W
0とが混ざり、第1温度よりも低い第2温度の水W
2となる。水W
2は給出口34から給出され、注入ノズル22から洗浄槽2に供給される。洗浄槽2の水位センサー21が満水を検出すると、制御部4は、給水電磁弁11を閉状態とし、水W
2の給水を止める。
【0027】
次に、
図5(b)に示すように、制御部4は、循環ポンプ7を駆動させ、水W
2を循環させて、内視鏡51の予備洗浄を行う。具体的には、水W
2は、排水口24から流出し、循環路6を上昇し、噴出口23から洗浄槽2に向けて噴射され、洗浄槽2の上方から下方に向けて降下することによって循環する。制御部4は、水W
2を所定時間循環させた後、排水電磁弁12を開状態とし、水W
2を内視鏡洗浄消毒装置1の外部に排出する(
図5(c))。
【0028】
図6(a)に示すように、工程3では、まず、制御部4は、洗剤槽41から所定量の洗剤原液を吸い上げ、洗浄槽2に注入する。その後、制御部4は、工程2と同様に、水位センサー21が満水を検出するまで洗浄槽2に水W
2を供給する。すると、洗剤原液は水W
2により希釈され、洗浄槽内は、所定の濃度かつ第2温度の洗剤液Sで満たされる。
【0029】
次に、
図6(b)に示すように、制御部4は、循環ポンプ7を駆動させ、洗剤液Sを循環させ、内視鏡51から有機物を除去して洗浄を行う。洗剤液Sの循環方法、外部への排出方法(
図6(c))は、工程2(
図5(b),(c)参照)と同様である。
【0030】
工程4は、工程2(
図5参照)と同様である。工程2~4の間、循環路6の管内は、第2温度の水W
2及び第2温度の洗剤液Sによって温められる。
【0031】
図7(a)に示すように、工程5では、まず、制御部4は、薬液槽42から所定量の消毒液Dを吸い上げ、流路10を介して循環路6に送液する。循環路6に入った消毒液Dは、水W
2及び洗剤液Sの余熱により、第2温度よりも低く常温よりも高い第3温度に加温され、噴出口23から洗浄槽2に向けて噴射される。
【0032】
次に、
図7(b)に示すように、制御部4は、循環ポンプ7を駆動させ、消毒液Dを循環させ、内視鏡51を消毒する。消毒液Dの循環方法、外部への排出方法(
図7(c))は、工程2(
図5(b),(c)参照)と同様である。
【0033】
工程6,7は、工程2(
図5参照)と同様である。特に、工程7では、内視鏡51および循環路6の管内付着残量物を極限まで少なくするため、工程2,6と同様の動作を行うこととしている。
【0034】
以上の構成の内視鏡洗浄装置1によれば、加温槽3の容量を洗浄槽2の容量の1/2以下とし、加温槽3で第1温度にした水W1を新たに流入させた水W0に足し、第2温度の水W2を生成している。このように、加温槽3を用いて少量の水Wを加温するため、実行可能な省エネルギーを達成しつつ、短時間で必要な水温を得ることができる。本開示の内視鏡洗浄装置1を用いた場合、有機物除去効果を向上させ、かつ、工程2~7までの全工程を従来装置の1/2以下である約5分で完了することが可能である。
【0035】
また、以上の構成の内視鏡51の洗浄方法によれば、洗浄槽内の液体を循環路6を介して循環させ、工程毎に洗浄槽内の液体を更新(排水)することとしたため、従来のオーバーフロー式よりも洗浄槽2を小型化し、使用する水道水を少量化することができるうえ、従来の方法と同等以上の十分な洗浄消毒効果を発揮することができる。
【0036】
さらに、内視鏡洗浄消毒装置1によれば、第2温度の水W2及び洗剤液Sを、消毒液Dの循環路6に循環させるため、水W2等の余熱を利用して消毒液Dを程よい第3温度に加温できる。また、第3温度に加温した消毒液Dが循環路6を循環することにより、循環路6が常に消毒され、内視鏡洗浄消毒装置1を清浄に保つことができる。その他、従来人手により行われていた予備洗浄を自動化したため、手間とコストを削減できる。
【0037】
本開示は、上記実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で、各部の形状や構成を適宜に変更して実施することも可能である。例えば、循環路6と流路10との接続方法、洗浄槽2と洗剤槽41との接続方法、薬液槽42の配置、洗剤槽41の配置等を変更することが可能である。
【符号の説明】
【0038】
1 内視鏡洗浄消毒装置
2 洗浄槽
3 加温槽
4 制御部
5 給水路
6 循環路
7 循環ポンプ
8 電源スイッチ
9 スタートスイッチ
10 流路
11 給水電磁弁
12 排水電磁弁
21 水位センサー
22 ノズル
23 噴出口
24 排水口
31 ヒーター
32 水温センサー
33 給水口
34 給出口
41 洗剤槽
42 薬液槽
51 内視鏡
W 水
S 洗剤液
D 消毒液