(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172007
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】農業用組成物
(51)【国際特許分類】
C05G 3/40 20200101AFI20231129BHJP
C08L 1/10 20060101ALI20231129BHJP
C08L 67/00 20060101ALI20231129BHJP
C08K 5/09 20060101ALI20231129BHJP
C08K 3/105 20180101ALI20231129BHJP
【FI】
C05G3/40 ZBP
C08L1/10
C08L67/00
C08K5/09
C08K3/105
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022083541
(22)【出願日】2022-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松尾 由紀子
(72)【発明者】
【氏名】平松 和士
(72)【発明者】
【氏名】中谷 哲
【テーマコード(参考)】
4H061
4J002
【Fターム(参考)】
4H061AA01
4H061DD18
4H061EE12
4H061EE27
4H061EE33
4H061EE35
4H061EE62
4H061FF08
4H061FF15
4H061HH03
4H061JJ01
4H061LL12
4H061LL14
4J002AB021
4J002CF031
4J002CF181
4J002DE227
4J002DE237
4J002DH047
4J002EG016
4J002GA00
(57)【要約】
【課題】酢酸を保持することができ、かつ、環境負荷の少ない農業用組成物の提供。
【解決手段】農業用組成物は、酢酸、酢酸親和性の生分解性高分子及び無機添加剤を含む粒状物である。農業用組成物は、粒状物を被覆する被膜を有してもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸と、酢酸親和性である生分解性高分子と、無機添加剤と、を含む粒状物である農業用組成物。
【請求項2】
上記粒状物の表面を被覆する被膜を有している、請求項1に記載の農業用組成物。
【請求項3】
上記生分解性高分子の酢酸に対する溶解度が、50℃において1重量%以上95重量%以下である、請求項1に記載の農業用組成物。
【請求項4】
上記生分解性高分子が、セルロースエステル及び/又は脂肪族ポリエステルである、請求項1に記載の農業用組成物。
【請求項5】
上記セルロースエステルが、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート及びセルロースアセテートブチレートからなる群から選択される1種又は2種以上である、請求項4に記載の農業用組成物。
【請求項6】
上記セルロースエステルの平均置換度が2.00以上2.60以下である、請求項4に記載の農業用組成物。
【請求項7】
上記脂肪族ポリエステルが、ポリヒドロキシアルカン酸、又は、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとの重合体である、請求項4に記載の農業用組成物。
【請求項8】
上記脂肪族ポリエステルがポリカプロラクトンである、請求項4に記載の農業用組成物。
【請求項9】
上記無機添加剤が、アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩から選択される1種又は2種以上である、請求項1に記載の農業用組成物。
【請求項10】
上記無機添加剤が、カリウムのリン酸塩、炭酸塩又はその混合物である、請求項1に記載の農業用組成物。
【請求項11】
上記酢酸の含有量が0を超えて60重量%未満である、請求項1に記載の農業用組成物。
【請求項12】
上記無機添加剤の量が、上記酢酸100重量部に対して、1重量部以上200重量部以下である、請求項1に記載の農業用組成物。
【請求項13】
上記被膜の材質が、非水溶性高分子と水溶性高分子との混合物である、請求項2に記載の農業用組成物。
【請求項14】
上記非水溶性高分子が、ポリカプロラクトン、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート及びセルロースアセテートブチレートからなる群から選択される1種又は2種以上であり、
上記水溶性高分子がポリエーテルポリオールである、請求項13に記載の農業用組成物。
【請求項15】
上記非水溶性高分子の重量平均分子量が1,000以上100,000以下であり、
上記水溶性高分子の重量平均分子量が500以上20,000以下である、請求項13に記載の農業用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、農業用資材に関する。詳細には、本開示は、農業又は園芸に用いる粒状組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、植物に対する機能性添加材として、液状の木酢液が知られている。また、近年、酢酸の作用によって、植物の環境ストレスに対する耐性遺伝子が活性化するメカニズムを利用したバイオスティミュラント(生物刺激剤とも称される)が、農業資材として注目されている。バイオスティミュラントは、植物及びその周辺環境が本来有する自然の力を利用して、植物の健全さ、ストレスへの耐性等に良好な影響を与えるとされる。
【0003】
例えば、特許文献1(国際公開第2020/130145号)には、酢酸若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を含有する、植物の耐熱性あるいは耐塩性向上剤が開示されている。この特許文献1では、酢酸水溶液等の液状組成物としての使用が提案されている。酢酸水溶液を、植物及び植物が育成する土壌等に散布した場合、雨等により水溶性である酢酸が流出するという問題がある。また、酢酸単独では植物への刺激が強いため、酢酸水溶液を高濃度化できないという問題もあった。従って、特許文献1に開示された液状組成物を用いて所望の効果を得るためには、複数回の散布が必要であった。
【0004】
一方、特許文献2(特開平8-59421号公報)には、木酢液、天然ゲル化剤、多価アルコール、有機酸又はその塩、有機肥料及び水を含む木酢液の固形化物が開示されている。特許文献3(特開2008-189647号公報)には、木酢液及び籾酢液を粉砕した籾殻に含浸してなる土壌改良剤が開示されている。
【0005】
特許文献4(特表2005-515234号公報)には、生物活性物質を含む吸着担体と、徐放性膜とからなる徐放性製剤が開示されている。徐放性膜は、多糖類、無機アルカリ、放出調整剤としての有機酸又は無機酸の混合物である。特許文献5(特開平11-116371号公報)には、生分解性セルロースエステル組成物である被膜材A、又は、オレフィン重合物等の被膜材Bと被膜材Aとの混合物を、粒状肥料の表面に被覆した粒状農業園芸用組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2020/130145号
【特許文献2】特開平8-59421号公報
【特許文献3】特開2008-189647号公報
【特許文献4】特表2005-515234号公報
【特許文献5】特開平11-116371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
液状成分の固形化するためには、ゲル化剤、バインダー等の薬品が必要である。農業用資材としての使用を考慮すると、各種薬品の土壌等への残留が懸念される。環境負荷の少ない材料を用いて、バイオスティミュラントとして有効な酢酸を固形化し、効率よく土壌等に散布するための技術は、未だ提案されていない。
【0008】
本開示の目的は、酢酸を安定に担持することができ、かつ、環境負荷の少ない農業用組成物の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示に係る農業用組成物は、酢酸と、酢酸親和性である生分解性高分子と、無機添加剤と、を含む粒状物である。
【発明の効果】
【0010】
本開示に係る農業用組成物は、酢酸と親和性を有する高分子を担体として使用することにより、液体である酢酸を安定して保持することができる。さらにこの農業用組成物は固体粒子状であるので、土壌等に効率よく散布することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る農業用組成物の製造装置を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態が詳細に説明される。各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせは、一例であって、本開示の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本開示は、実施形態によって限定されることはなく、クレームの範囲によってのみ限定される。また、本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。
【0013】
なお、本願明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」の意味であり、「ppm」は「重量ppm」であり、特に注釈のない限り、試験温度は全て室温(20℃±5℃)である。
【0014】
[第一実施形態]
第一実施形態に係る農業用組成物は、酢酸と、酢酸親和性である生分解性高分子と、無機添加剤と、を含む粒状物である。本明細書において、「粒状物」とは、室温(20℃±5℃)で固体粒子状の物質を意味する。本開示において、粒状物は、球形粒子に限定されるものではなく、略球状であってもよく、扁平状であってもよく、その表面が平滑であってもよく、その表面に凹凸を有するものであってもよく、これらの混合物であってもよい。また、本開示の粒状物は、均一粒子であってもよく、造粒物であってもよく、これらの混合物であってもよい。なお、「造粒物」とは、粉末状の原料が結着、凝集等により粒状化したものを意味する。
【0015】
本開示の農業用組成物では、酢酸親和性である生分解性高分子と無機添加物とによって、酢酸が安定して保持されうる。本開示の農業用組成物は、固体として土壌等に施用される。この農業用組成物では、酢酸が、生分解性高分子と無機添加物から形成された粒状物に略均一に分散保持されている。そのため、酢酸による土壌等に生育する植物に対する直接的な刺激が軽減される。この農業用組成物によれば、必要な時点で従来よりも高濃度で酢酸を施用することができるので、従来のような複数回の散布が回避される。
【0016】
本開示の農業用組成物を植物の生育環境に施用することにより、放出された酢酸が植物のストレスへの耐性遺伝子を活性化して、乾燥、暑熱等非生物学的ストレスに対する植物の抵抗性が向上する。これにより、乾燥環境又は暑熱環境においても、品質に優れた植物を、高い収量で得ることができる。さらには、この農業用組成物では、生分解性高分子を材料として含むため、他の合成高分子と比較して環境への負荷が少ないという効果が得られる。
【0017】
(平均粒子径)
本開示において、農業用組成物の粒度は特に限定されず、用途に応じて所望の粒度に調整することができる。保存安定性及び取扱性の観点から、農業用組成物の平均粒子径(メディアン径)は1mm以上であってよく、1.2mm以上であってよく、1.5mm以上であってよく、また、5.0mm以下であってよく、4.5mm以下であってよい。
【0018】
(生分解性高分子)
生分解性高分子は、酢酸との親和性を有している。本明細書において、50℃の酢酸に対する溶解度が1重量%以上95重量%以下である生分解性高分子が、「酢酸親和性」と称される。酢酸親和性の生分解性高分子は、酢酸を多く吸収する。生分解性高分子が酢酸親和性を有することにより、酢酸が均一に分散した農業用組成物が得られる。本明細書において、溶解度とは、生分解性高分子が一定の量の酢酸に溶ける限界濃度、即ち、飽和溶液の濃度(重量%)として定義される。
【0019】
酢酸を均一に含有できるとの観点から、生分解性高分子は、50℃の酢酸に対する溶解度が2重量%以上であってよく、3重量%以上であってよい。所望の形状が保持できるとの観点から、生分解性高分子は、50℃の酢酸に対する溶解度が90重量%以下であってよく、85重量%以下であってよい。また、50℃の酢酸に対する生分解性高分子の溶解度は、1~95重量%であってよく、1~90重量%であってよく、1~80重量%であってよく、2~95重量%であってよく、2~90重量%であってよく、2~80重量%であってよく、3~95重量%であってよく、3~90重量%であってよく、3~80重量%であってよい。
【0020】
前述した酢酸親和性を有する限り、生分解性高分子の種類は特に限定されない。環境への負荷が低いとの観点から、好ましい生分解性高分子は、セルロースエステル、脂肪族ポリエステル又はその混合物である。
【0021】
(セルロースエステル)
セルロースエステルは、置換基としてアシル基を有している。アシル基の例として、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、カルボキシル基、カルボキシメチル基、2-ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシプロピル基、メチル基等が挙げられる。セルロースエステルが2種以上のアシル基を有してもよい。高い生分解性が得られるとの観点から、セルロースエステルの置換基は、アセチル基、プロピオニル基及びブチリル基が好ましく、酢酸との親和性が高いとの観点から、アセチル基がより好ましい。本開示の効果が阻害されない範囲で、セルロースエステルがアシル基以外の置換基を含んでもよい。
【0022】
本開示の農業用組成物に用いられるセルロースエステルの具体例としては、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート等が挙げられる。本開示において、セルロースエステルが、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート及びセルロースアセテートブチレートからなる群から選択される1種又は2種以上であってよい。生分解性に優れるとの観点から、セルロースアセテートがより好ましい。
【0023】
(置換度)
本開示の農業用組成物において、セルロースエステルの平均置換度DSは特に限定されない。用途に応じて所望の平均置換度を選択することができる。なお、本明細書中、セルロースエステルについて「置換度」と称する場合は、平均置換度を意味する。
【0024】
例えば、良好な生分解性が得られるとの観点から、セルロースエステルの平均置換度は、2.60以下が好ましく、2.55以下がより好ましく、2.50以下がさらに好ましい。粒状成形しやすいとの観点から、セルロースエステルの平均置換度は、2.00以上が好ましく、2.05以上がより好ましく、2.10以上がさらに好ましい。セルロースエステルの平均置換度は、2.00~2.60であってよく、2.00~2.55であってよく、2.00~2.50であってよく、2.05~2.60であってよく、2.05~2.55であってよく、2.05~2.50であってよく、2.10~2.60であってよく、2.10~2.55であってよく、2.10~2.50であってよい。なお、置換度2.10未満の場合には、粒状物の形状が不均一となる傾向にある。
【0025】
セルロースエステルの置換度は、以下の方法により測定することができる。例えば、手塚(Tezuka, Carbonydr. Res. 273, 83(1995))の方法に従いNMR法で測定できる。即ち、セルロースエステルの遊離水酸基をピリジン中でカルボン酸無水物によりアシル化する。ここで使用するカルボン酸無水物の種類は分析目的に応じて選択すべきであり、例えば、セルロースアセテートのブアセチル置換度を分析する場合は、無水酪酸がよく、セルロースブチレートのブチリル置換度を分析する場合は無水酢酸がよい。得られた試料を重クロロホルムに溶解し、13C-NMRスペクトルを測定する。置換基がアセチル基である場合を例に挙げれば、アセチル基の炭素シグナルは169ppmから171ppmの領域に高磁場から2位、3位、6位の順序で現れる。他の例を挙げれば、プロピオニル基を有するセルロースエステル、又は、プロピオニル基を有しないセルロースエステルを無水プロピオン酸で処理してプロピオニル置換度を分析する場合、プロピオニル基のカルボニル炭素のシグナルは、172ppmから174ppmの領域に同じ順序で現れる。手塚の方法やそれに準じる方法により無水カルボン酸で処理したセルロースエステルの総置換度は3.0なので、セルロースエステルがもともと有するアシル基のカルボニル炭素シグナルと、無水カルボン酸処理で導入したアシル基のカルボニルシグナルの面積の総和を3.0と規格化し、それぞれ対応する位置での各アシル基の存在比(言い換えれば、各シグナルの面積比)を求めれば、これをセルロースエステルにおけるグルコース環の2位、3位、6位の各アシル置換度とできる。なお、言うまでもなく、この方法で分析できるアシル基を含む置換基は、分析目的の処理に用いる無水カルボン酸に対応しない置換基のみである。また、13C-NMRのほか、1H-NMRで分析することもできる。
【0026】
(セルロースエステルの重量平均分子量及び分子量分布)
セルロースエステルの重量平均分子量及び分子量分布は特に限定されず、用途に応じて所望の分子量及び分子量分布を選択することができる。例えば、粒状成形性に優れるとの観点から、セルロースエステルの重量平均分子量Mwは、100,000以上が好ましく、120,000以上がより好ましい。生分解性が高いとの観点から、セルロースエステルの重量平均分子量Mwは1,500,000以下が好ましく、1,200,000以下がより好ましい。良好な生分解性が得られるとの観点から、重量平均分子量Mwは1,000,000以下が好ましく、800,000以下がより好ましく、500,000以下がさらに好ましい。セルロースエステルの数平均分子量Mnと、重量平均分子量Mwとから求められる分子量分布Mw/Mnは、生分解速度に影響する。所望の生分解速度が得られるとの観点から、分子量分布Mw/Mnは、1.3以上が好ましく、1.5以上がより好ましく、2.0以上がさらに好ましく、また、5.0以下が好ましく、4.0以下がより好ましく、3.0以下がさらに好ましい。
【0027】
セルロースエステルの数平均分子Mn量及び重量平均分子量Mwは、公知の方法で求めることができる。詳細には、以下の装置及び条件でサイズ排除クロマトグラフィー(GPC)測定をおこなうことにより決定される。
装置:島津製作所製 GPC装置
溶媒:アセトン
カラム:α-M(東ソー)2本、ガードカラム(東ソー製TSKgel guardcolumn HXL-H)
流速:0.8ml/min
温度:25℃
試料濃度:0.25%(wt/vol)
注入量:100μl
検出:RID-20A(示差屈折率検出器)
検量線用標準物質:PMMA(分子量2,000~700,000)
【0028】
(脂肪族ポリエステル)
本開示の農業用組成物に含まれる脂肪族ポリエステルは特に限定されず、生分解性を示すものであれば、好適に用いることができる。また、高分子構造の観点から、脂肪族ポリエステルは、ヒドロキシアルカン酸が重縮合された構成単位を繰り返し単位として有するポリヒドロキシアルカン酸であってもよく、ジカルボン酸とジオールとが脱水縮合された構成単位を繰り返し単位として有する重合体であってもよい。
【0029】
ポリヒドロキシアルカン酸としては、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリ(β-ヒドロキシ酪酸)、ポリ(β-ヒドロキシ吉草酸)、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)、ポリ(β-ヒドロキシ酪酸-co-β-ヒドロキシ吉草酸)、ポリ(β-プロピオラクトン)、ポリ(ε-カプロラクトン)等が例示される。ジカルボン酸とジオールとが脱水縮合された構成単位を繰り返し単位として有する重合体としては、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリ(ブチレンサクシネート-co-ブチレンアジペート)等が例示される。2種以上の脂肪族ポリエステルが併用されてもよい。脂肪族ポリエステルと、前述のセルロースエステルとを併用してもよい。本開示の効果を阻害しない範囲で、さらに他のポリエステルが配合されてもよい。
【0030】
入手しやすく、かつ、粒状成形性に優れるとの観点から、好ましい脂肪族ポリエステルは、ポリ(ε-カプロラクトン)(以下、単に「ポリカプロラクトン」と称する場合がある)である。2種以上の脂肪族ポリエステルを使用する場合、ポリカプロラクトンを含む2種以上が好ましい。
【0031】
(脂肪族ポリエステルの重量平均分子量及び分子量分布)
粒状成形性に優れるとの観点から、脂肪族ポリエステルの重量平均分子量Mwは、5,000以上が好ましく、10,000以上がより好ましく、30,000以上がさらに好ましい。生分解性に優れるとの観点から、脂肪族ポリエステルの重量平均分子量Mwは、3,000,000以下が好ましく、2,000,000以下がより好ましい。脂肪族ポリエステルの重量平均分子量Mwは、5,000~3,000,000であってよく、5,000~2,000,000であってよく、10,000~3,000,000であってよく、10,000~2,000,000であってよく、30,000~3,000,000であってよく、30,000~2,000,000であってよい。数平均分子量Mnと、重量平均分子量Mwとから求められる分子量分布Mw/Mnは、脂肪族ポリエステルの生分解速度に影響する。所望の生分解速度が得られるとの観点から、分子量分布Mw/Mnは、1.3以上が好ましく、1.5以上がより好ましく、2.0以上がさらに好ましく、また、5.0以下が好ましく、4.0以下がより好ましく、3.0以下がさらに好ましい。脂肪族ポリエステルの分子量分布Mw/Mnは、1.3~5.0であってよく、1.3~4.0であってよく、1.3~3.0であってよく、1.5~5.0であってよく、1.5~4.0であってよく、1.5~3.0であってよく、2.0~5.0であってよく、2.0~4.0であってよく、2.0~3.0であってよい。脂肪族ポリエステルの重量平均分子量Mw及び分子量分布Mw/Mnは、セルロースエステルについて前述した方法にて測定される。
【0032】
(無機添加剤)
無機添加剤は、生分解性高分子の加水分解速度を制御することができる。特に、生分解性高分子がセルロースアセテートである場合に、無機添加剤がセルロースアセテートの加水分解速度を制御することにより、保存安定性を向上させることができる。さらに、無機添加剤は、酢酸放出による土壌中のpH低下を抑制する。そのため、無機添加剤を含む本開示の農業用組成物では、植物への悪影響を緩和する緩衝作用が得られる。所望の粒状物が得られる限り、無機添加剤の種類は特に限定されないが、例えば、入手しやすく、安全性が高いとの観点から、アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩から選択される1種又は2種以上が好ましく、アルカリ土類金属塩から選択される1種又は2種以上がより好ましい。
【0033】
アルカリ金属塩としては、カリウム塩、ナトリウム塩が例示される。アルカリ土類金属塩としては、マグネシウム塩、カルシウム塩等が例示される。本開示において、無機添加剤は、カリウム、ナトリウム、マグネシウム又はカルシウムの、炭酸塩であってよく、リン酸塩であってよく、酢酸塩であってよい。粒状成形性及び保存安定性向上の観点から、カリウムのリン酸塩、炭酸塩又はその混合物が好ましい。無機添加剤が、炭酸カリウムであってよく、炭酸水素カリウムであってよく、リン酸二水素カリウムであってよく、リン酸水素二カリウムであってよく、リン酸三カリウムであってよく、これらの混合物であってよい。
【0034】
(組成)
本開示において、農業用組成物に含まれる酢酸の含有量は特に限定されない。例えば、酢酸含有量は、用途に応じて適宜選択されてよい。使用初期の酢酸放出量が高いとの観点から、酢酸含有量は0を超えていればよく、0.1重量%以上が好ましく、1.0重量%以上がより好ましく、5.0重量%以上がさらに好ましい。粒状成形性及び保存安定性向上の観点から、酢酸含有量は、60重量%未満が好ましく、55重量%以下がより好ましく、50重量%以下がさらに好ましい。農業用組成物の酢酸含有量は、0を超えて60重量%未満であってよく、0を超えて55重量%以下であってよく、0を超えて50重量%以下であってよく、0.1重量%以上60重量%未満であってよく、0.1重量%以上55重量%以下であってよく、0.1重量%以上50重量%以下であってよく、1.0重量%以上60重量%未満であってよく、1.0重量%以上55重量%以下であってよく、1.0重量%以上50重量%以下であってよく、5.0重量%以上60重量%未満であってよく、5.0重量%以上55重量%以下であってよく、5.0重量%以上50重量%以下であってよい。
【0035】
農業用組成物中の無機添加剤の量は、酢酸含有量、生分解性高分子の種類等に応じて適宜調整されてよい。粒状成形性及び保存安定性向上の観点から、無機添加剤の量は、酢酸100重量部に対して、1重量部以上が好ましく、5重量部以上が好ましく、10重量部以上が好ましい。施用効果の観点から、無機添加剤の量は、酢酸100重量部に対して、200重量部以下が好ましく、180重量部以下がより好ましく、150重量部以下がさらに好ましい。農業用組成物の無機添加剤の量は、酢酸100重量部に対して、1~200重量部であってよく、1~180重量部であってよく、1~150重量部であってよく、5~200重量部であってよく、5~180重量部であってよく、5~150重量部であってよく、10~200重量部であってよく、10~180重量部であってよく、10~150重量部であってよい。
【0036】
所望の粒状物が得られやすいとの観点から、農業用組成物中の生分解性高分子の含有量は、30重量%以上が好ましく、35重量%以上がより好ましく、40重量%以上がさらに好ましい。所望の量の酢酸を保持できるとの観点から、生分解性高分子の含有量は90重量%以下が好ましい。農業用組成物の生分解性高分子の含有量は、30~90重量%であってよく、35~90重量%であってよく、40~90重量%であってよい。
【0037】
(任意成分)
本開示の効果が得られる範囲で、農業用組成物がさらに水を含んでもよい。水の添加によって、生分解性高分子の加水分解が促進される。農業用組成物中の水分濃度は、1重量%以上が好ましく、2重量%以上がより好ましい。保存安定性の観点から、農業用組成物中の水分濃度は、5重量%以下が好ましく、4重量%以下がより好ましい。農業用組成物の水分濃度は、1~5重量%であってよく、1~4重量%であってよく、2~5重量%であってよく、2~4重量%であってよい。この農業用組成物が、任意成分として、無機フィラー、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、熱安定剤、加水分解抑制剤等既知の添加剤をさらに含んでもよい。
【0038】
[第二実施形態]
第二実施形態に係る農業用組成物は、粒状物と、この粒状物の表面を被覆する被膜を有している。粒状物は、酢酸と、酢酸親和性である生分解性高分子と、無機添加剤と、を含む。第一実施形態にて前述された酢酸、酢酸親和性である生分解性高分子及び無機添加剤が、好適に用いられうる。
【0039】
第二実施形態では、粒状物が被膜を有することにより、粒状物からの酢酸の初期溶出量及び溶出速度が抑制される。この実施形態によれば、1回の施用により長期間安定して酢酸を放出することができる。また、この実施形態では、栽培する植物の種類及び生育環境、降雨等の気象条件に応じて、被膜の材質、厚み、被覆率等を選択して、所望の酢酸溶出速度を得ることができる。さらに、生分解可能な材料で被膜を形成することにより、環境への負荷が少ないという効果が得られる。
【0040】
(被膜の厚み及び被覆率)
第二実施形態において、被膜の厚み及び被覆率は特に限定されず、所望の酢酸溶出速度が得られるように適宜選択することができる。酢酸の初期溶出量を抑制できるとの観点から、被膜の被覆率は5.0重量%以上が好ましく、5.5重量%以上がより好ましい。酢酸溶出速度が過剰に抑制されないとの観点から、被膜の被覆率は10.0重量%以下が好ましい。被膜の被覆率は、5.0~10.0重量%であってよく、5.5~10.0重量%であってよい。本開示において、被覆率は、被膜形成前後の重量変化から求めることができる。また、酢酸の初期溶出量抑制の観点から、被膜の厚みは50μm以上が好ましく、60μm以上がより好ましい。生分解性向上の観点から、被膜の厚みは200μm以下が好ましい。被膜の厚みは、50~200μmであってよく、60~200μmであってよい。
【0041】
(被膜材料)
粒状物からの酢酸溶出を制御できる限り、被膜を構成する材料は特に限定されない。例えば、被膜の材質は、非水溶性高分子であってよく、非水溶性高分子と水溶性高分子との混合物であってよい。非水溶性高分子及び水溶性高分子の混合物からなる被膜では、水溶性高分子が、非水溶性高分子のマトリックスに分散する。この被膜を備えた農業用組成物が土壌等に施用されると、環境中の水との接触により、先ず、被膜から水溶性高分子が脱離する。水溶性高分子の脱離により、非水溶性高分子からなる被膜に微小な細孔が形成されうる。この細孔を通って、粒状物中の酢酸が溶出される。また、水溶性高分子の脱離により、残存した被膜と水との接触面積が増加する。これにより、非水溶性高分子からなる被膜の加水分解反応が促進される場合がある。酢酸の初期溶出量及び生分解性向上の観点から、被膜の材質は、非水溶性高分子と水溶性高分子との混合物であることが好ましい。
【0042】
(非水溶性高分子)
本開示の効果が阻害されない限り、非水溶性高分子の種類に限定はないが、環境への負荷が少ないとの観点から、生分解性を有する非水溶性高分子が好ましい。このような非水溶性高分子として、セルロースエステル、脂肪族ポリエステル及びその混合物が例示される。第一実施形態にて前述したセルロースエステル及び脂肪族ポリエステルを、適宜選択して用いることができる。好ましい非水溶性高分子は、ポリカプロラクトン、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート及びセルロースアセテートブチレートからなる群から選択される1種又は2種以上である。より好ましい非水溶性高分子は、ポリカプロラクトンである。
【0043】
(非水溶性高分子の重量平均分子量Mw)
被膜形成が容易であるとの観点から、非水溶性高分子の重量平均分子量Mwは、1,000以上が好ましく、5,000以上がより好ましく、10,000以上がさらに好ましい。酢酸溶出を過剰に抑制しないとの観点から、非水溶性高分子の重量平均分子量Mwは100,000以下が好ましい。非水溶性高分子の重量平均分子量Mwは、1,000~100,000であってよく、5,000~100,000であってよく、10,000~100,000であってよい。非水溶性高分子の重量平均分子量Mwは、第一実施形態のセルロースエステルについて前述した方法にて測定される。
【0044】
(水溶性高分子)
本開示の効果が阻害されない限り、水溶性高分子の種類は特に限定されず、非水溶性高分子との親和性を考慮して適宜選択される。被膜に用いられる水溶性高分子としては、ポリエチレングリコール等のポリエーテルポリオール、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、澱粉等の多糖類が挙げられる。2種以上の水溶性高分子を併用することができる。好ましい水溶性高分子は、ポリエーテルポリオールである。
【0045】
(水溶性高分子の重量平均分子量Mw)
被膜形成が容易であるとの観点から、水溶性高分子の重量平均分子量Mwは、500以上が好ましく、800以上がより好ましく、1,000以上がさらに好ましい。非水溶性高分子と混和しやすいとの観点から、水溶性高分子の重量平均分子量Mwは20,000以下が好ましい。水溶性高分子の重量平均分子量Mwは、500~20,000であってよく、800~20,000であってよく、1,000~20,000であってよい。水溶性高分子の重量平均分子量Mwは、第一実施形態のセルロースエステルについて前述した方法にて測定される。
【0046】
(被膜組成)
被膜の材質が、非水溶性高分子と水溶性高分子との混合物である場合、粒状物からの酢酸の初期溶出量及び溶出速度は、被膜中の水溶性高分子の量により制御することができる。例えば、非水溶性高分子100重量部に対し、水溶性高分子の量は、1重量部以上であってよく、5重量部以上であってよく、10重量部以上であってよく、また、100重量部未満であってよく、90重量部未満であってよく、80重量部未満であってよい。水溶性高分子の量は、非水溶性高分子100重量部に対して、1重量部以上100重量部未満であってよく、1重量部以上90重量部未満であってよく、1重量部以上80重量部未満であってよく、5重量部以上100重量部未満であってよく、5重量部以上90重量部未満であってよく、5重量部以上80重量部未満であってよく、10重量部以上100重量部未満であってよく、10重量部以上90重量部未満であってよく、10重量部以上80重量部未満であってよい。
【0047】
[農業用組成物の製造方法]
本開示の農業用組成物の製造方法は特に限定されず、転動造粒法、流動層造粒法、転動流動造粒法、噴霧乾燥造粒法等既知の手法により、酢酸、酢酸親和性の生分解性高分子及び無機添加剤を含む粒状物が得ることができる。例えば、既知の転動造粒装置に、前述した生分解性高分子及び無機添加剤を投入し、所定の温度で転動させながら、酢酸又は酢酸溶液を噴霧して、所望の粒子径となるまで造粒することにより、本開示の農業用組成物を得てもよい。
【0048】
造粒時に投入する酢酸の量は、生分解性高分子100重量部に対し、0を超えていればよく、1.0重量部以上が好ましく、5.0重量部以上がより好ましく、10.0重量部以上がさらに好ましい。粒状成形性の観点から、酢酸の量は、生分解性高分子100重量部に対し、150重量部以下が好ましく、120重量部以下がより好ましい。造粒時に投入する酢酸の量は、生分解性高分子100重量部に対して、0を超えて150重量部以下であってよく、0をこえて120重量部以下であってよく、1.0~150重量部であってよく、1.0~120重量部であってよく、5.0~150重量部であってよく、5.0~120重量部であってよく、10.0~150重量部であってよく、10.0~120重量部であってよい。
【0049】
造粒時に投入する無機添加剤の量は、酢酸100重量部に対して、1重量部以上が好ましく、5重量部以上が好ましく、10重量部以上が好ましく、また、200重量部以下が好ましく、180重量部以下がより好ましく、150重量部以下がさらに好ましい。造粒時に投入する無機添加剤の量は、酢酸100重量部に対して、1~200重量部であってよく、1~180重量部であってよく、1~150重量部であってよく、5~200重量部であってよく、5~180重量部であってよく、5~150重量部であってよく、10~200重量部であってよく、10~180重量部であってよく、10~150重量部であってよい。
【0050】
本開示の効果が阻害されない範囲で、必要に応じて、造粒時に、造粒助剤として少量の水を添加してもよい。また、造粒後に乾燥をおこなって水分量を調整してもよく、篩い分け等により粒度を調整してもよい。
【0051】
前述した方法で得られた粒状物の表面に、被膜を形成する方法も特に限定されない。例えば、既知の手法により流動状態にした粒状物に、被膜材料を含む溶液を噴霧又は滴下して混合することにより、その表面に被膜を有する粒状物を得ることができる。
【0052】
本開示の粒状物に被膜を形成するための製造装置の一例が、
図1に示されている。この製造装置は、固体投入口2及び排ガス噴出口3を備えた噴流塔1を備えている。
図1中、符号T1、T2及びT3は温度計である。固体投入口2から投入された粒状物20は、オリフィス流量計9及び熱交換器8を介して、ブロアー10から供給された熱風により、噴流を形成する。この噴流に、液体ノズル4から、被覆溶液が噴霧されることにより、粒状物の表面に被膜が形成される。この製造装置では、被覆溶液は、攪拌機12及びジャケット13を有する液タンク11で調整され、ポンプ5を介して液体ノズル4に供給される。得られた農業用組成物は、装置の運転終了後に、抜出口7から採取される。この製造装置を用いた具体的な被膜形成方法は、実施例において後述する。
【0053】
[用途]
本開示の農業用組成物は、酢酸感受性を有する種々の農作物又は園芸作物を対象とした農業資材として使用することができる。この農業用組成物を、例えば、肥料等とともに植物又は植物の生育環境に施用してもよい。
【実施例0054】
以下、実施例によって本開示の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本開示が限定的に解釈されるべきではない。
【0055】
(試験1)
[実施例1]
セルロースアセテートCA1(ダイセル社製、アセチル置換度2.2、重量平均分子量200,000)40重量部と、リン酸水素二カリウム(富士フィルム和光純薬社製)40重量部とを混合し、得られた混合物を皿型転動造粒機に投入した。その後、回転速度25r/minで転動させながら、混合物に酢酸(富士フィルム和光純薬社製)20重量部を散布し、平均粒径2.5mm程度になるまで造粒することにより、実施例1の農業用組成物を得た。造粒時の状態を目視で観察して、以下の基準に基づいて粒状成形性を評価した。評価結果が、下表1に示されている。
【0056】
<粒状成形性評価基準>
〇:平均粒径2mm以上の均一な造粒粒子が得られ、形状が維持できる。
△:造粒粒子は得られるが、粒径及び形状が不均一であり、形状が維持できない。
×:造粒粒子の形成がほとんど見られない。
なお、造粒粒子の平均粒径は、体積基準のメディアン径であり、JIS標準篩を用いた篩い分け法により測定した。
【0057】
[実施例2-6及び比較例1-2]
皿形転動造粒機に投入する化合物の種類及び組成を下表1に示される通りとした他は実施例1と同様にして、造粒をおこなった。実施例2-6及び比較例1-2の粒状成形性の評価結果が、下表1に示されている。
【0058】
【0059】
表1に示されたセルロースアセテートの詳細は、以下の通りである。
CA1:ダイセル社製のセルロースアセテート(アセチル置換度2.2、重量平均分子量200,000)
CA2:ダイセル社製のセルロースアセテート(アセチル置換度2.4、重量平均分子量240,000)
CA3:ダイセル社製のセルロースアセテート(アセチル置換度2.8、重量平均分子量270,000)
【0060】
(試験2)
試験2では、
図1に示される基本構成を備えた装置を用いて、実施例1と同様にして得た粒状物の表面に種々の被膜を形成し、被膜を有する農業用組成物からの酢酸溶出特性を評価した。
【0061】
[実施例7]
始めに、攪拌機12及びジャケット13を備えた液タンク11に、アセトン(関東化学社製)を投入し、続いて、90重量部のポリカプロラクトンPCL1(ダイセル社製、重量平均分子量10,000)と、10重量部のポリエチレングリコールPEG1(富士フィルム和光純薬社製、重量平均分子量10,000)と、を固形分濃度1.5重量%となる量で投入した。ジャケット13にスチームを流して液温を45℃に調整した後、撹拌することにより、被覆液を調製した。
【0062】
次に、ブロアー10を起動し、オリフィス流量計9及び熱交換器8を順次経由して、噴流用空気(温度50℃、風量4m
3/min)を噴流塔1(塔径200mm、高さ180mm、空気噴出径42mm)に吹き込んだ。熱交換器8では、スチームを通して空気温度を調整した。その後、固体投入口2から、5kgの粒状物20を投入して、噴流を形成させた。噴流塔1の、図示される位置に設置された温度計T1、T2及びT3を用いて、噴流中の粒状物の温度が50℃になったことを確認した後、ポンプ5を起動して、液体ノズル4(開口0.8mm、フルコン型)を通して、被覆液を、0.5kg/minの速度で噴流に向かって噴霧した。
図1中、符号6はバルブである。所定時間経過後に、ポンプ5を停止し、続いてブロワー10を停止して、抜出口7から取り出すことにより、膜圧52μmの被膜を有する実施例6の農業用組成物を得た。被覆前後の重量変化を測定して、被覆率が5.5重量%であることを確認した。
【0063】
[実施例8-14]
被覆液の成分及び組成を下表2に示されるものとした他は実施例6と同様にして、実施例8-14の農業用組成物を得た。被覆率5.5重量%となるように、被覆液の噴霧時間を、30分~1時間の範囲で調整した。
【0064】
[酢酸溶出試験]
農業用組成物0.5gを、温度30℃の蒸留水100mlに浸漬して、蒸留水中の酢酸濃度の経時変化を、イオンクロマトグラフィーにより測定した。具体的には、実施例7-14の各試料を浸漬した後、1時間毎に0.1gの水をサンプリングして、適宜稀釈した後、以下の方法により酢酸濃度を測定して、酢酸溶出量Aを求めた。
使用機器:DIONEX Integrion RFIC(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)
カラム: ICE-AS1(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)
溶離液:1mMオクタンスルホン酸
再生液:5mM水酸化テトラメチルアンモニウム
流速:0.8ml/min
サプレッサー:ACRS-ICE500(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)
検出器:電気伝導検出器
カラム温度:30℃
注入量:200μl
【0065】
被覆前の実施例1の粒状物を用いて、同条件で溶出試験をおこない、1時間毎に溶出した酢酸溶出量Bを求めた。下記式で算出される酢酸溶出率(%)が30%となる浸漬時間が、下表2に示されている。
酢酸溶出率(%)=酢酸溶出量B/酢酸溶出量A×100
【0066】
【0067】
表2に示されたセルロースアセテートの詳細は、以下の通りである。
CA2:ダイセル社製のセルロースアセテート(アセチル置換度2.4、重量平均分子量240,000)
CA3:ダイセル社製のセルロースアセテート(アセチル置換度2.8、重量平均分子量270,000)
PCL1:ダイセル社製のポリカプロラクトン(重量平均分子量10,000)
PCL2:ダイセル社製のポリカプロラクトン(重量平均分子量50,000)
PCL3:ダイセル社製のポリカプロラクトン(重量平均分子量4,000)
PCL4:ダイセル社製のポリカプロラクトン(重量平均分子量800)
PCL5:ダイセル社製のポリカプロラクトン(重量平均分子量1,000)
PEG1:富士フィルム和光純薬社製のポリエチレングリコール(重量平均分子量10,000)
PEG2:富士フィルム和光純薬社製のポリエチレングリコール(重量平均分子量6,000)
PEG3:富士フィルム和光純薬社製のポリエチレングリコール(重量平均分子量1,000)
PEG4:富士フィルム和光純薬社製のポリエチレングリコール(重量平均分子量100)
【0068】
(まとめ)
表1に示されるように、実施例は比較例に比べて粒状成形性が良好であり、酢酸を安定して担持できる固体粒子状の農業用組成物であることを確認した。表2に示される通り、被膜を有する農業用組成物によれば、酢酸の溶出速度を制御することができることを確認した。この評価結果から、本開示の優位性は明らかである。
【0069】
[開示項目]
以下の項目のそれぞれは、好ましい実施形態を開示する。
【0070】
[項目1]
酢酸と、酢酸親和性である生分解性高分子と、無機添加剤と、を含む粒状物である農業用組成物。
【0071】
[項目2]
上記粒状物の表面を被覆する被膜を有している、項目1に記載の農業用組成物。
【0072】
[項目3]
上記生分解性高分子の酢酸に対する溶解度が、50℃において1重量%以上95重量%以下である、項目1又は2に記載の農業用組成物。
【0073】
[項目4]
上記生分解性高分子が、セルロースエステル及び/又は脂肪族ポリエステルである、項目1から3のいずれかに記載の農業用組成物。
【0074】
[項目5]
上記セルロースエステルが、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート及びセルロースアセテートブチレートからなる群から選択される1種又は2種以上である、項目4に記載の農業用組成物。
【0075】
[項目6]
上記セルロースエステルの平均置換度が2.00以上2.60以下である、項目4又は5に記載の農業用組成物。
【0076】
[項目7]
上記脂肪族ポリエステルが、ポリヒドロキシアルカン酸、又は、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとの重合体である、項目4から6のいずれかに記載の農業用組成物。
【0077】
[項目8]
上記脂肪族ポリエステルがポリカプロラクトンである、項目4から7のいずれかに記載の農業用組成物。
【0078】
[項目9]
上記無機添加剤が、アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩から選択される1種又は2種以上である、項目1から8のいずれかに記載の農業用組成物。
【0079】
[項目10]
上記無機添加剤が、カリウムのリン酸塩、炭酸塩又はその混合物である、項目1から9のいずれかに記載の農業用組成物。
【0080】
[項目11]
上記酢酸の含有量が0を超えて60重量%未満である、項目1から10のいずれかに記載の農業用組成物。
【0081】
[項目12]
上記無機添加剤の量が、上記酢酸100重量部に対して、1重量部以上200重量部以下である、項目1から11のいずれかに記載の農業用組成物。
【0082】
[項目13]
上記被膜の材質が、非水溶性高分子と水溶性高分子との混合物である、項目2から12のいずれかに記載の農業用組成物。
【0083】
[項目14]
上記非水溶性高分子が、ポリカプロラクトン、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート及びセルロースアセテートブチレートからなる群から選択される1種又は2種以上であり、
上記水溶性高分子がポリエーテルポリオールである、項目13に記載の農業用組成物。
【0084】
[項目15]
上記非水溶性高分子の重量平均分子量が1,000以上100,000以下であり、
上記水溶性高分子の重量平均分子量が500以上20,000以下である、項目13又は14に記載の農業用組成物。