(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172018
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】異常判定装置、駆動装置、画像形成装置、および制御プログラム
(51)【国際特許分類】
G03G 21/00 20060101AFI20231129BHJP
G01M 13/02 20190101ALI20231129BHJP
【FI】
G03G21/00 500
G03G21/00 386
G01M13/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022083562
(22)【出願日】2022-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】橘 優太
(72)【発明者】
【氏名】張 光栄
(72)【発明者】
【氏名】石川 明正
(72)【発明者】
【氏名】島添 誠
(72)【発明者】
【氏名】立本 雄平
【テーマコード(参考)】
2G024
2H270
【Fターム(参考)】
2G024AB02
2G024AD03
2G024AD25
2G024AD27
2G024BA27
2G024CA09
2G024CA18
2G024DA09
2G024EA11
2G024FA02
2G024FA04
2G024FA05
2G024FA06
2G024FA14
2G024FA15
2H270LD08
2H270MB27
2H270MB35
2H270MD12
2H270MF08
2H270QA23
2H270QB07
2H270QB08
2H270RA01
2H270RB00
2H270ZC03
2H270ZC05
(57)【要約】
【課題】短時間の動作が行われることで、1回の動作では十分な長さの時系列データが確保できない場合であっても、精度よく異常を検出できる異常判定装置を提供する。
【解決手段】異常判定装置111は異なるタイミングで取得した複数の時系列データを、分析対象の周波数成分の位相に基づいて、結合し、結合した時系列データを分析することで振幅を算出する分析部23と、算出された振幅の大きさに応じて、分析対象とする部材の異常を判定する判定部24を、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動部材の駆動状態を示す信号データの時系列データを取得する取得部と、
前記時系列データを分析し、分析対象とする部材の回転周期に対応する対象周波数の振幅を算出する分析部と、
算出された前記振幅の大きさに応じて、分析対象とする前記部材の異常を判定する判定部と、
を備え、
前記分析部は、異なるタイミングで取得した複数の前記時系列データを、前記分析対象の周波数成分の位相に基づいて、結合し、結合した前記時系列データを分析することで、前記振幅を算出する、異常判定装置。
【請求項2】
前記分析部は、前後する2つの前記時系列データを結合する際に、位相が一致する位置で結合する、請求項1に記載の異常判定装置。
【請求項3】
前記分析部は、前の時系列データの最後尾のデータの位相と、後の時系列データの先頭のデータの位相が一致するように、後の前記時系列データの取得開始タイミングを設定する、請求項2に記載の異常判定装置。
【請求項4】
前記駆動部材は、間欠的または断続的に動作し、
前後する2つの前記時系列データの間の期間には、前記駆動部材の停止過程、および再起動過程の動作があり、前記取得部が取得する前記時系列データには、前記停止過程および再起動過程の期間における信号データが含まれない、請求項3に記載の異常判定装置。
【請求項5】
前記分析部は、取得した前記信号データから求められる前記駆動部材の前記停止過程、前記再起動過程、およびその後の定常回転状態を含めた回転量と、前記駆動部材の回転周期および前記分析対象とする部材の回転周期の比率から、前記分析対象の周波数成分の位相を推定する、請求項4に記載の異常判定装置。
【請求項6】
前記分析部は、複数の時系列データを結合した後の時系列データの長さが、前記分析対象の回転周期の整数倍となるように、最後に結合する時系列データの長さを調整する、請求項1から請求項5のいずれかに記載の異常判定装置。
【請求項7】
前記分析部は、結合した前記時系列データから直交検波により前記対象周波数の振幅を算出する、請求項1から請求項5のいずれかに記載の異常判定装置。
【請求項8】
前記分析対象とする部材は、前記駆動部材、前記駆動部材に連結された駆動機構の構成部材、または駆動される被駆動部材である、請求項1から請求項5のいずれかに記載の異常判定装置。
【請求項9】
前記分析対象とする部材の回転周期に対応する前記対象周波数は、前記回転周期の整数倍の高調波周波数である、請求項8に記載の異常判定装置。
【請求項10】
前記駆動部材により駆動される被駆動部材はトナー補給部であり、前記駆動機構は、トナー補給部に連結されたトナー補給機構である、請求項8、または請求項9に記載の異常判定装置。
【請求項11】
前記分析部は、前後の時系列データを結合する際に、前の時系列データを保持し、次の時系列データの取得を待つ、待機状態において、
前記駆動部材への電力供給がOFFされた場合、または所定時間以上経過した場合には、前記保持した前記時系列データを廃棄し、新たな時系列データの取得を行う、請求項1から請求項5のいずれかに記載の異常判定装置。
【請求項12】
駆動部材と、
駆動部材の駆動状態を示す信号データを出力するセンサーと、
前記信号データの時系列データを取得して、異常を判定する請求項1から請求項5のいずれかに記載の異常判定装置と、
を備える駆動装置。
【請求項13】
用紙に画像形成する画像形成部と、
請求項12の駆動装置と、を備える画像形成装置。
【請求項14】
駆動部材の駆動状態を示す信号データの時系列データを取得するステップ(a)と、
前記時系列データを分析し、分析対象とする部材の回転周期に対応する対象周波数の振幅を算出するステップ(b)と、
算出した前記振幅の大きさに応じて、分析対象とする前記部材の異常を判定するステップ(c)とを含み、
前記ステップ(b)では、異なるタイミングで取得した複数の前記時系列データを、前記分析対象の周波数成分の位相に基づいて、結合し、結合した前記時系列データを分析することで、前記振幅を算出する、処理をコンピューターに実行させるための制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動異常を判定する異常判定装置、駆動装置、画像形成装置、および制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真式プリンター等の画像形成装置では、現像装置、給紙装置、トナー補給装置、等の各種の被駆動部材をモータ等の駆動部材により駆動する。
【0003】
安定した品質を維持するためには、これらの被駆動部材の回転状況を監視し、異常を検知したり、寿命予測を行ったりすることが求められる。
【0004】
特許文献1の画像形成装置では、エンコーダにより、転写部、定着部、等の歯車駆動系の歯車の時系列の回転信号を検出し、この回転信号をFFT(高速フーリエ変換)することで、周波数ごとの振幅を求め、正常時と比較して振幅が大きくなった周波数により特定される歯車に関する駆動異常を検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、画像形成装置の駆動部材は、必ずしも長時間の駆動が行われるものだけではなく、間欠的、または断続的に短い時間で動作する駆動部材もある。短い時間の回転信号では、十分な期間の周期分の時系列データを確保できず、精度よく駆動異常を検出できないおそれがある。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、短時間の動作が行われることで、1回の動作では十分な長さの時系列データが確保できない場合であっても、精度よく異常を検出できる異常判定装置、駆動装置、および画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、下記の手段によって達成される。
【0009】
(1)駆動部材の駆動状態を示す信号データの時系列データを取得する取得部と、
前記時系列データを分析し、分析対象とする部材の回転周期に対応する対象周波数の振幅を算出する分析部と、
算出された前記振幅の大きさに応じて、分析対象とする前記部材の異常を判定する判定部と、
を備え、
前記分析部は、異なるタイミングで取得した複数の前記時系列データを、前記分析対象の周波数成分の位相に基づいて、結合し、結合した前記時系列データを分析することで、前記振幅を算出する、異常判定装置。
【0010】
(2)前記分析部は、前後する2つの前記時系列データを結合する際に、位相が一致する位置で結合する、上記(1)に記載の異常判定装置。
【0011】
(3)前記分析部は、前の時系列データの最後尾のデータの位相と、後の時系列データの先頭のデータの位相が一致するように、後の前記時系列データの取得開始タイミングを設定する、上記(2)に記載の異常判定装置。
【0012】
(4)前記駆動部材は、間欠的または断続的に動作し、
前後する2つの前記時系列データの間の期間には、前記駆動部材の停止過程、および再起動過程の動作があり、前記取得部が取得する前記時系列データには、前記停止過程および再起動過程の期間における信号データが含まれない、上記(3)に記載の異常判定装置。
【0013】
(5)
前記分析部は、取得した前記信号データから求められる前記駆動部材の前記停止過程、前記再起動過程、およびその後の定常回転状態を含めた回転量と、前記駆動部材の回転周期および前記分析対象とする部材の回転周期の比率から、前記分析対象の周波数成分の位相を推定する、上記(4)に記載の異常判定装置。
【0014】
(6)前記分析部は、複数の時系列データを結合した後の時系列データの長さが、前記分析対象の回転周期の整数倍となるように、最後に結合する時系列データの長さを調整する、上記(1)から上記(5)のいずれかに記載の異常判定装置。
【0015】
(7)前記分析部は、結合した前記時系列データから直交検波により前記対象周波数の振幅を算出する、上記(1)から上記(5)のいずれかに記載の異常判定装置。
【0016】
(8)前記分析対象とする部材は、前記駆動部材、前記駆動部材に連結された駆動機構の構成部材、または駆動される被駆動部材である、上記(1)から上記(5)のいずれかに記載の異常判定装置。
【0017】
(9)前記分析対象とする部材の回転周期に対応する前記対象周波数は、前記回転周期の整数倍の高調波周波数である、上記(8)に記載の異常判定装置。
【0018】
(10)前記駆動部材により駆動される被駆動部材はトナー補給部であり、前記駆動機構は、トナー補給部に連結されたトナー補給機構である、上記(8)、または上記(9)に記載の異常判定装置。
【0019】
(11)前記分析部は、前後の時系列データを結合する際に、前の時系列データを保持し、次の時系列データの取得を待つ、待機状態において、
前記駆動部材への電力供給がOFFされた場合、または所定時間以上経過した場合には、前記保持した前記時系列データを廃棄し、新たな時系列データの取得を行う、上記(1)から上記(5)のいずれかに記載の異常判定装置。
【0020】
(12)駆動部材と、
駆動部材の駆動状態を示す信号データを出力するセンサーと、
前記信号データの時系列データを取得して、異常を判定する上記(1)から上記(5)のいずれかに記載の異常判定装置と、
を備える駆動装置。
【0021】
(13)用紙に画像形成する画像形成部と、
上記(12)の駆動装置と、を備える画像形成装置。
【0022】
(14)駆動部材の駆動状態を示す信号データの時系列データを取得するステップ(a)と、
前記時系列データを分析し、分析対象とする部材の回転周期に対応する対象周波数の振幅を算出するステップ(b)と、
算出した前記振幅の大きさに応じて、分析対象とする前記部材の異常を判定するステップ(c)とを含み、
前記ステップ(b)では、異なるタイミングで取得した複数の前記時系列データを、前記分析対象の周波数成分の位相に基づいて、結合し、結合した前記時系列データを分析することで、前記振幅を算出する、処理をコンピューターに実行させるための制御プログラム。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、異常判定装置は、駆動部材の駆動状態を示す信号データの時系列データを取得する取得部と、前記時系列データを分析し、分析対象とする部材の回転周期に対応する対象周波数の振幅を算出する分析部と、算出された前記振幅の大きさに応じて、分析対象とする前記部材の異常を判定する判定部と、備え、前記分析部は、異なるタイミングで取得した複数の前記時系列データを、前記分析対象の周波数成分の位相に基づいて、結合し、結合した前記時系列データを分析することで、前記振幅を算出する。これにより、短時間の動作が行われることで、1回の動作では十分な長さの時系列データが確保できない場合であっても、精度よく駆動異常を検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の実施形態に係る異常判定装置、およびこれを備えた駆動装置の概略構成を示す模式図である。
【
図2】複数の駆動装置を備えた画像形成装置の概略構成を示す模式図である。
【
図3】直交検波の計算の流れを示す分析部の機能ブロック図である。
【
図4】第1、第2積算値の合成処理を示す模式図である。
【
図5A】異常判定処理の前段処理(結合処理)を示すフローチャートである。
【
図5B】異常判定処理の後段処理(異常判定)を示すフローチャートである。
【
図6】ステップS41(またはS71)の処理を示すサブルーチンフローチャートである。
【
図7】モータの速度波形および2つの時系列データの結合処理を説明するための模式図である。
【
図8】モータの速度波形および3つの時系列データの結合処理を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付した図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。しかしながら、本発明の範囲は、開示される実施形態に限定されない。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0026】
図1は、本発明の実施形態に係る異常判定装置111、およびこれを備えた駆動装置10の概略構成を示す断面図である。
図2は、複数の駆動装置10を備えた画像形成装置1の概略構成を示す模式図である。
【0027】
図1に示すように、駆動装置10は、装置制御基板11、駆動部材としてのモータ12、および駆動機構13を含む。駆動装置10により被駆動部材を回転駆動させる。駆動装置10は、画像形成装置1の各種構成部品の駆動に用いられる。
【0028】
本実施形態において、駆動部材はモータ等の動力源である。また、異常駆動の分析対象とする部材には、この駆動部材そのもの、および、駆動部材からの駆動を被駆動部材へ伝達する駆動機構の構成部材が含まれる。また、分析対象とする部材には、被駆動部材を含めてもよい。また分析対象とする部材の回転周期に対応する対象周波数は、単に部材の回転周期(例えば699msec)にそのまま対応した(逆数にした)周波数(例えば1.43Hz)であってもよく、その2倍波、3倍波等の高調波周波数(例えば1.43Hzの2倍、3倍)であってもよい。
【0029】
図2に示すように画像形成装置1は、複数の駆動装置10、および、画像形成部30、給紙部40、トナー補給機構50、等を備える。
【0030】
画像形成部30は、電子写真方式を用いた画像形成を行う。Y/M/C/Kの各色に対応したトナーとキャリを混合した2成分現像剤が収容された複数の現像器31、感光体ドラム、中間転写ベルト32、2次転写部、定着部、等を含む。給紙部40は、複数の給紙トレイと、この給紙トレイに収納された用紙を1枚ずつ捌いて搬送するピックアップ部41を含む。トナー補給機構50は、各色に対応したトナーボトル51、およびトナー補給部52を含む。トナー補給部52は、搬送スクリュー、攪拌パドル、等で構成される。
【0031】
画像形成装置1の各種構成部品は、複数の駆動装置10それぞれにより回転駆動される。例えば、
図2に示すように、ある駆動装置10は、トナー補給部52を駆動し、別の駆動装置10は現像器31を駆動し、他の駆動装置10はピックアップ部41を駆動する。
【0032】
これらの複数の駆動装置10のうち、いくつかは連続的に長時間(数十秒~)駆動するが、いくつかの駆動装置10は、間欠的、または断続的に短い間だけ動作する。例えばトナー補給部52は、現像器31のトナーの消費に応じた量のトナーを補給する。そのため印刷する画像の印字率に応じて、駆動装置10が不定期に、断続的に、駆動し、トナー補給部52から現像器31へトナーが補給される。また、ピックアップ部41では、給紙する際に、用紙の間隔に応じて、間欠的(1回1秒未満)な駆動が繰り返される。
【0033】
再び
図1を参照する。装置制御基板11上には、異常判定装置111、駆動回路112、および電流検出部113が配置される。異常判定装置111(制御部または制御装置ともいう)は、CPU、メモリ等で構成され、A/D変換器21、周期カウンタ22、分析部23、および判定部24として機能する。A/D変換器21、および/または周期カウンタ22は取得部として機能し、センサーである電流検出部113、またはエンコーダ121からの信号データを取得する。なお、
図1の例では、駆動部材の駆動状態の検知を電流検出部113およびエンコーダ121の両方で検知する例を示しているが、どちらか一方の系列を省略してもよい。異常判定装置111は、CPUに換えて、またはCPUとともに、ASIC、FPGA、等のハードウェア回路で構成されてもよい。
【0034】
モータ制御部としても機能する異常判定装置111により駆動パターン(速度指令)が駆動回路112に出力され、駆動パターンに応じてモータ12が回転制御される。駆動回路112に流れた電流は、電流検出部113により検出され、検出値は、A/D変換器21でデジタルデータ化されてサンプリングされる。電流検出部113には、ノイズ除去のフィルタ、および周波数分析のために(対象の周波数範囲)に応じたアンチエイリアシングフィルタが含まれてもよい。
【0035】
モータ12の回転速度は、モータ12に内蔵された、または、別途配置したエンコーダ121により検知できる。モータ12の回転数に比例した周波数のパルス信号は、周期異常判定装置111内部の周期カウンタ22におりカウントされ、異常判定装置111内部で演算処理することで速度換算される。なお、モータ12としては、DCブラシレスモータ、DCブラシモータ、ACモータ、ステッピングモータ等、をもちいることができる。このうち、ステッピングモータを用いる場合には、(電流検出部113、およびエンコーダ121を用いない)オープンループ制御であり、異常判定装置111、および駆動回路112により生成される駆動信号(パルス)に追従した回転動作を行う。
【0036】
本実施形態において、異常判定装置111は、直交検波の手法を用いて、分析対象として、駆動部材であるモータ12、またはこれにより回転駆動する駆動機構、または被駆動部材(以下、これらを総称して分析対象部材という)の駆動異常を判定する。周波数分析を行う手法としては、直交検波の他にFFTがあるが、FFTに比べて、直交検波の方が、計算負荷が少なく、異常判定装置111のような組み込み機器のCPUで実装する場合には好適である。直交検波を行う場合には、予め分析対象の周波数が既知である必要がある。
【0037】
本実施形態では、分析対象は、駆動部材であるモータ12、またはこれにより回転駆動する駆動機構、または被駆動部材である。これら分析対象の定常回転速度におけるそれぞれの周波数は、予め異常判定装置111のメモリに記録されている。なお、分析対象の周波数はそれ自体で記述してもよく、モータ12の1回転に対する分析対象との回転数比で記述してもよい。回転数比で記述した場合には、定常回転速度におけるモータ12の周波数との比により分析対象の周波数を特定できる。
【0038】
(直交検波、及びデータ数M)
直交検波で分析する際には、時系列データを分析する。この時系列データは、A/D変換器21により取得された電流データ、または周期カウンタ22により取得された速度に関する信号データである。本実施形態では、時系列データに対して、以下に説明する直交検波の処理を施すことにより時系列データの電流または速度における、対象の周波数成分に関する振幅を求め、振幅により駆動異常を判定する。
【0039】
図3は、直交検波の計算の流れを示す分析部23の機能ブロック図である。分析部23は、第1の三角関数演算器71、第2の三角関数演算器72、乗算器73、74、積算器75、76、および合成処理器77を含む。第1、第2の三角関数演算器は互いに異なる三角関数の演算を行い、例えば、それぞれ余弦演算、および正弦演算(またはこの逆)を行う。
【0040】
時系列データx[i]は、サンプリング周期Tsで連続して取得したデータである。データ番号i(iは0からの連続した番号)にTsを乗じたものが時間tである。時系列データxのデータ数M(直交検波の解析に用いる目標データ数のこと、以下目標データ数Mともいう)は、分析対象周波数成分の周期Tを整数倍することで求められる。このようなことから、データ数M=T/Ts×N(Nは周期数で1以上の整数)という関係となる。周期数Nは、1では少なく、これよりも多い整数が好ましい。分析対象部材の構造、特性により周期数Nの適正値は、異なるが、トナー補給部52においては、3以上であり、本実施形態では、N=3を用いている。時系列データx[i]のデータ長(時間)が所定長に満たない場合には、所定長(M)になるように、複数の時系列データを結合して、所定長の時系列データxを生成する(後述の
図7)。
【0041】
第1の三角関数演算器71および第2の三角関数演算器72には、角度θ[i]が入力される。角度θ[i]は、データ番号iに応じて分析対象周波数f、サンプリング周期Tsにより設定される。
【0042】
第1の三角関数演算器71は、入力された角度θの余弦関数値cos(θ[i])を算出する。第2の三角関数演算器72は、入力された角度θの正弦関数値sin(θ[i])を算出する。
【0043】
乗算器73は、角度θ[i]ごとに、角度θ[i]に対応するデータx[i]と、角度θ[i]に対応する余弦関数値cos(θ[i])とを乗算する。この演算は、番号iを更新する度に実行される。積算器75は、角度θ[i]ごとに得られた乗算器73の演算結果を積算する。全ての角度θ[i]についての乗算器73の演算結果の積算値(すなわち、総和)を積算値S1とする。
【0044】
同様に、乗算器74は、角度θ[i]ごとに、角度θ[i]に対応するデータx[i]と、角度θ[i]に対応する正弦関数値sin(θ[i])とを乗算する。この演算は、番号iを更新する度に実行される。積算器76は、角度θ[i]ごとに得られた乗算器74の演算結果を積算する。全ての角度θ[i]についての乗算器74の演算結果の積算値(すなわち、総和)を積算値S2とする。
【0045】
合成処理器77は、積算器75によって計算された積算値S1と、積算器76によって計算された積算値S2とに基づいて、振幅A1と位相φ1を求める。
図4は、合成処理を示す模式図である。
図4に示すように式(1)により振幅A1を求める。また、積算値S1と積算値S2との比の逆正接、arctan(S2/S1)(式(2))によって位相φ1を計算できる。
【0046】
【0047】
(駆動異常の判定処理)
次に、
図5Aから
図8を参照し、異常判定装置111によって実行する駆動異常に関する異常判定処理を説明する。
図5Aは、異常判定処理の前段処理(結合処理)を示すフローチャートであり、
図5Bは、
図5Aに続いて実行される後段処理(異常判定)を示すフローチャートである。
図6は、
図5AのステップS41(またはS71)のサブルーチンフローチャートである。
【0048】
以下においては、駆動装置10により駆動される被駆動部材として、トナー補給部52を例にして説明する。また具体例としては、トナー補給部52の回転周期は699msecで、この3周期分(N=3)のデータ、すなわち約2.1sec(2097msec)の長さ(以下、「目標データ数M」(前述の時系列データに含まれるデータ数Mと同じ)ともいう)の時系列データを収集する。また、対象周波数を、この回転周期にそのまま対応する対象周波数1.43Hz(=1/0.699)として、3周期分の時系列データに対して、
図3に示した直交検波することにより振幅を求めるものとして説明する。また、トナー補給部52の1回の動作は、目標データ数Mすなわち、3回転分よりも短く、2回、または3回の動作により得られた時系列データを結合することで、目標データ数M分の長さの時系列データを得る。
【0049】
(ステップS01)
P値は、上位制御により設定されるカウント値である。P値その他のカウント値、および後述する時系列データは、異常判定装置111のメモリに保持される。画像形成装置1の電源がOFFされた場合(異常判定装置111および駆動装置10の電力供給もOFF)、または、対象の部材の停止時間が所定時間以上(例えば24時間)経過した場合には、P値はリセットされる。また、P値のリセットに合わせて、保持されている時系列データもリセットされる。
【0050】
異常判定装置111は、P値が0(ゼロ)であれば、すなわち、1回目の時系列データの取り込みであれば処理をステップS02に進める。一方で異常判定装置111は、ゼロでなければ、すなわち2回目以降の時系列データの取り込みであれば処理をステップS05に進める。
【0051】
(ステップS02)
異常判定装置111は、各種データの初期化を行う。S1、S2、iをゼロとし、Mに目標データ数をセットする。これらのS1、S2、i、Mは、
図3で説明した記号に対応する。また、N=3であり、目標データ数M(時系列データに含まれるデータ数)は、3周期分、すなわち約2.1secの長さに相当する数である。例えば、サンプリング周期Tsが1msecであれば、目標データ数Mは、約2100個である。
【0052】
(ステップS03)
ここでは、異常判定装置111の分析部23は、駆動部材であるモータ12が回転開始し、定常回転状態になったか否かを判定する。
図7は、モータ12の速度波形および2つの前後する時系列データの結合処理を説明するための模式図である。
図7の時間t0、t1はそれぞれ、ステップS03(YES)、S43(NO)、時間t2、t3、t4はそれぞれステップS05(YES)、S06、S72(YES)に対応する。
【0053】
分析部23は、A/D変換器21の信号データ、またはエンコーダ121の信号データに対応する周期カウンタ22の値により、定常速度Vに到達したことを判定できる(ステップS03:YES)。なお、モータ12としてステッピングモータを用いてオープンループ制御の場合には、異常判定装置111が生成し、駆動回路112が出力する駆動信号(パルス)により定常状態に達したことを判定できる。
【0054】
(ステップS04(データ取り込み処理))
分析部23は、以下に説明するステップS41からS44のデータ取り込み処理を実行する。
【0055】
(ステップS41)
ここでの処理を
図6のサブルーチンフローチャートに示す。異常判定装置111の分析部23は、ステップS100、S110、S120で、時系列データx(例えばA/D変換器21による電流データ)を取得し、信号データを取得する度に、積算処理を行う。これらの処理は、上述の
図3の積算値S1、S2を求める処理に対応する。以上で
図6の処理を終了し、
図5AのS42以下の処理に戻る。
【0056】
(ステップS42、S43)
分析部23は、取り込みが完了、すなわちiが目標データ数Mに到達したならば(i≧M)、データ取り込み処理S04を終了し、
図5Bに示す後段の処理(ステップS08)に進める。一方で、取り込みが完了する前に、定常回転状態が継続しなくなったら(S43:NO)、ステップS44でP値をインクリメントする。以降は、ステップS01以降の処理を繰り返す。ステップS43(NO)は、
図7の時間t1に対応する。また、ここまでの時系列データは積算区間T1に対応する。以降は、異常判定装置111は、待機状態となり次のモータ12の作動にともなう時系列データの取得を待つ。待機状態では、上述の上位制御によるリセットがされない限り、これまでの時系列データはメモリに保持されたままとなる。
【0057】
(ステップS05)
2回目以降は、Pが1以上なので、ステップS05以下の処理が実行される。異常判定装置111は、モータ12が回転開始し、定常回転状態になったら(YES)、次のステップS06の同一位相ポイント探索処理を実行する。
【0058】
(ステップS06(同位相の探索処理))
図7では、全体の駆動速度に含まれる対象周波数成分の波形を太線で模式的に示している。なお、実際においては、このような大きな振幅で含まれているわけではなく、
図7では見易さのために誇張して表示している。前の時系列データで最後尾データ、すなわち、定常回転状態から停止処理で減速する直前のx2での位相と、同一の位相になる次の時系列データの先頭データx3を探索する。これにより前の時系列データの最後尾のデータの位相と、後の時系列データの先頭のデータの位相が一致するように、後の時系列データの取得開始タイミングを設定する。
図7のSaは、モータ12の停止過程における回転量(
図7の波形において時間と速度を乗じた面積)であり、Sbは、その後の再起動過程における回転量である。またScは、速度Vでの定常回転状態になった後のモータ12の回転量である。なお、Sa、Sbの回転量がばらつかない場合には、固定値を用いてもよい。
【0059】
(ステップS61、S62)
本実施形態では、解析対象の周波数成分の位相を、信号データから求められる駆動部材(モータ12)駆動部材の回転量(Sa+Sb+Sc)と、駆動部材の回転周期f0および分析対象とする部材の回転周期fの比率nから算出する。具体的には、モータ12の定常時のモータ周波数f0と、分析対象の周波数fの比n(n=f/f0)を利用し、Sa+Sb+Scで求められるx2以降の回転量をV/n(Vはモータ定常速度)で除することにより位相(φ)を推定する(ステップS61)。なお、分析対象とする部材が、駆動部材(モータ12)そのものの場合には、当然ながら比n=1である。そして、φが分析対象の周期Tの丁度整数倍になった場合(ステップS62:YES)、分析対象の速度成分におけるx2の位相と同じ位相になった(x3)と推定し、次のステップS07へ処理を進める。
【0060】
(ステップS07)
分析部23は、ここでは、ステップS04と同じデータ取り込み処理を実行する。ステップS07に含まれるS71~S74の処理は、ステップS41~S44と同じであり説明を省略する。
【0061】
図7に示す時間t4(x4)のように、2回目のデータ取り込み処理で、整数倍となり、かつ、目標データ長(例えばN=3の3周期分のデータ数M)に達した場合(T21≧M×Ts)までの取り込みが完了した場合(S72:YES)には、処理を
図5Bに示す後段の処理に進める。
【0062】
一方で、2回目で目標データ長(データ数M)に到達しなかった場合(S72:NO)、次に駆動するタイミングでS01~S07を実行することにより3回目(またはそれ以降)のデータ取り込みを行う。
図8では、3回目のデータ取り込みにより、時間t7で、目標データ長に達した例を示している。
【0063】
(ステップS08)
図5Aに示した結合処理により異なるタイミングにおける複数の時系列データを結合することで、得られた目標の長さの時系列データを用いて式(1)により、分析部23は、振幅A1を算出する。
【0064】
(ステップS09、S10)
異常判定装置111の判定部24は、分析部23が算出した振幅A1が予め設定した閾値xを超えた場合には、異常が発生したと判定し(S09:YES)、異常の判定結果を出力する。例えば、画像形成装置1に対して、分析対象を示す識別情報とともに異常信号を出力する。これを受けた画像形成装置1は、操作パネル等に、分析対象に関して、交換や、点検を促す警告を表示する。
【0065】
このように、本実施形態に係る異常判定装置111は、異なるタイミングで取得した複数の時系列データを、分析対象の周波数成分の位相に基づいて、結合し、結合した時系列データを分析することで振幅を算出する分析部23と、算出された振幅の大きさに応じて、分析対象とする部材の異常を判定する判定部24を、を備える。これにより、短時間の動作が行われることで、1回の動作では十分な長さの時系列データが確保できない場合であっても、精度よく異常を検出できる。
【0066】
(実施例)
次に
図9A~
図9Dを参照し、本実施形態の効果について説明する。
【0067】
(共通実験条件)
分析対象(被駆動部材):トナー補給部52、
分析対象の周波数f:1.430Hz(1周期699msec)、
サンプリング周期Ts:1msec(サンプリング周波数1000Hz)
正常波形:駆動に異常がないトナー補給部52、
異常波形:内部機構の組立不良により駆動に異常があるトナー補給部52、
振幅の算出方法:直交検波を用いた。
【0068】
(個別実験条件)
比較例1:連続して駆動させ、各時点における過去1周期分(699msec)の時系列データを用いて振幅を計算。
実施例1:1.6周期分の駆動を繰り返し複数回行い、
図5Aの結合処理により3周期分(2098msec)の時系列データを蓄積し、これを用いて振幅を計算。
比較例2:1.6周期分の駆動を繰り返し複数回行い、1回の駆動の度に1周期分の時系列データを用いて、振幅を求め、これを3回実施し、平均化した。
比較例3:1.6周期分の駆動を繰り返し複数回行い、1回の駆動の度に1周期分の時系列データを用いて、振幅を求め、これを5回実施し、平均化した。
【0069】
(実験結果)
図9Aは比較例1、
図9Bは実施例1、
図9Cは比較例2、
図9Dは比較例3の結果を示している。
図9Aに示す比較例1では、タイミングによって、振幅がどのように変動するのかを示した例であり、実際の異常検知においては、
図9Aのように連続的に高密度(高頻度)で検知するものではない。
図9Aでは、異常波形での振幅変動が大きく、正常波形と異常波形とが交わっており、タイミングによっては正常/異常の識別が正しく行えず、誤判定のおそれがある。
【0070】
図9Bに示す実施例1では、比較例1に比べて異常波形において振幅変動が小さくなり、どのタイミングで異常判定処理を行ったとしても、正常/異常の識別が正しく行えることがわかる。
【0071】
図9Cに示す比較例2では、時系列データ長は2098msec(699msec×3)トータルとしての時系列データのデータ長は実施例1と同じであるが(2098msec分)、異常波形と正常波形の差が小さい。
【0072】
図9Dに示す比較例3では、比較例2よりも正常波形と異常波形の差が大きくなっている。ただし、最も長い時系列データ長(3496msec)であるにもかかわらず、これよりも短い時系列データ長(2098msec)の実施例1よりは差が小さい。
【0073】
結論としては、正常と異常の識別性能は、実施例1>比較例3>比較例2>比較例1の順であり、実施例1が最も高精度に異常を判定できることがわかる。
【0074】
(他の変形例)
以上に説明した異常判定装置111、およびこれを備えた駆動装置10、および画像形成装置1の構成は、上記の実施形態の特徴を説明するにあたって主要構成を説明したのであって、上記の構成に限られず、特許請求の範囲内において、以下に説明するように種々改変することができる。また、一般的な駆動装置10や画像形成装置1が備える構成を排除するものではない。
【0075】
例えば、上述の実施形態では画像形成装置1に、異常判定装置111を適用した例を説明したが、これに限られず、他の装置に適用してもよい。
【0076】
上述した各実施形態および各変形例に係る異常判定装置111、駆動装置10、または画像形成装置1における各種処理を行う手段および方法は、専用のハードウェア回路、またはプログラムされたコンピューターのいずれによっても実現することが可能である。上記プログラムは、例えば、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)等のコンピューター読み取り可能な記録媒体によって提供されてもよいし、インターネット等のネットワークを介してオンラインで提供されてもよい。この場合、コンピューター読み取り可能な記録媒体に記録されたプログラムは、通常、ハードディスク等の記憶部に転送され記憶される。また、上記プログラムは、単独のアプリケーションソフトとして提供されてもよいし、制御システムの一機能としてその装置のソフトウェアに組み込まれてもよい。
【符号の説明】
【0077】
1 画像形成装置
10 駆動装置
11 装置制御基板
111 異常判定装置
21 A/D変換器
22 周期カウンタ
23 分析部
24 判定部
30 画像形成部
40 給紙部
50 トナー補給機構
52 トナー補給部