IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭ビルウォール株式会社の特許一覧 ▶ 三芝硝材株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-複層ガラスの製造方法 図1
  • 特開-複層ガラスの製造方法 図2
  • 特開-複層ガラスの製造方法 図3
  • 特開-複層ガラスの製造方法 図4
  • 特開-複層ガラスの製造方法 図5
  • 特開-複層ガラスの製造方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172021
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】複層ガラスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 27/06 20060101AFI20231129BHJP
   E06B 3/66 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
C03C27/06 101Z
C03C27/06 101D
E06B3/66 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022083566
(22)【出願日】2022-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】599093524
【氏名又は名称】旭ビルウォール株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391015786
【氏名又は名称】三芝硝材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100180415
【弁理士】
【氏名又は名称】荒井 滋人
(72)【発明者】
【氏名】野田 紗緒里
(72)【発明者】
【氏名】和久井 智
(72)【発明者】
【氏名】奥野 皓介
【テーマコード(参考)】
2E016
4G061
【Fターム(参考)】
2E016AA05
2E016BA08
2E016CA01
2E016CB01
2E016CC02
4G061AA13
4G061BA01
4G061CB02
4G061CB16
4G061CD02
4G061CD25
(57)【要約】
【課題】従来の空調室の生産ラインをそのまま利用でき、精度よくホルダーがシール材に埋め込まれている複層ガラスの製造方法を提供する。
【解決手段】複層ガラスの製造方法は、2枚のガラス板間に間隔を保持するためのスペーサを配設するスペーサ配設工程と、スペーサの外側であってガラス板間の周縁にシール材を充填してシール材を硬化させて硬化体を形成するシール材硬化工程と、ガラス板間の周縁外側から硬化体の長手方向に沿って切削して溝を形成する溝形成工程と、溝に対して凹部を有するホルダーを挿入するホルダー挿入工程とを備えている。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2枚のガラス板間に間隔を保持するためのスペーサを配設するスペーサ配設工程と、
前記スペーサの外側であって前記ガラス板間の周縁にシール材を充填して該シール材を硬化させて硬化体を形成するシール材硬化工程と、
前記ガラス板間の周縁外側から前記硬化体の長手方向に沿って切削して溝を形成する溝形成工程と、
前記溝に対して凹部を有するホルダーを挿入するホルダー挿入工程とを備えたことを特徴とする複層ガラスの製造方法。
【請求項2】
前記ホルダーは、左右の両側片とこれらの両側片の一方の端部を連結する底片で形成されていて、前記両側片と前記底片とは非湾曲の角部を有していることを特徴とする請求項1に記載の複層ガラスの製造方法。
【請求項3】
前記ホルダーと前記溝とは非接着であることを特徴とする請求項1又は2に記載の複層ガラスの製造方法。
【請求項4】
前記ホルダーは長手方向に分割されていて、前記ホルダーと前記溝とは接着されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の複層ガラスの製造方法。
【請求項5】
前記ホルダーは、アルミニウム製であることを特徴とする請求項2に記載の複層ガラスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビル用窓、ファサードに使用される複層ガラスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複層ガラスは、間隔を存して2枚のガラス板が配されていて、その周囲にガラス板同士の距離を保持するためのスペーサが配されているものである。スペーサの外側にはシリコーン製のシール材が配されていて、ガラス板間の空気層に対して密閉が保持されている。通常、この複層ガラスは全周をサッシに嵌め込まれ、ビル等の窓に用いられる。この場合は、ガラス表面からサッシが出っ張って見える意匠となる。ここで、外観向上の観点から、複層ガラスをサッシに嵌め込まずに建物躯体に取り付ける技術が知られている(例えば特許文献1参照)。特許文献1では、略U字形状の溝部を有する樹脂製のホルダー受け具が、シール材に埋め込まれている。そして、建物躯体側から延びる取付部材がこの溝部に嵌め込まれて、サッシを介さずに直接建物躯体に取り付けられる複層ガラスを示している。この場合は、外観がフラットとなり、ガラス表面からサッシが出っ張って見えることはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3870441号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的な複層ガラスの生産ラインは、その品質確保の観点から、温度管理、湿度管理された空調室の中で、効率的に生産されており、構造シールの打設もライン内で自動シールされる。しかしながら、特許文献1では、シール材が硬化する前に樹脂製のホルダー受け具を挿入し、シール材の硬化とともに固着することにより生産される。このため、これらの作業を一般的な複層ガラスの生産ライン内で実施することができなくて、別ラインで製造することになる。これは、複層ガラスそのものの生産効率を極端に低下させる要因となっている。樹脂製ホルダーを挿入して固定する作業を行うことは、さらに1工程増加することになり、従来用いている複層ガラスの生産ラインをそのまま利用することができず、手間がかかり面倒であり、コストアップの大きな要因となる。
【0005】
また、複層ガラスの生産ラインで用いる空調室では、2枚のガラス板は搬送台に載置されて立てたままライン上を搬送される。一方で、全周にホルダー受け具を嵌め込むためには、2枚のガラス板を一旦水平にしなければならず、そのために上記の複層ガラスの製造ラインでは製造できず、そのためのスペースの確保のために従来の空調室を広げたりしなければならない等、現実的ではない。また、シール材が硬化する前にホルダー受け具を挿入するため、ガラス板を水平にした際にガラス板が撓んでしまうと、空気層の適正な寸法が確保できず、製品全体としての品質が悪いものとなってしまう。さらには、シール材が硬化する前にホルダー受け具を挿入することで、ホルダー受け具の位置が不正確になったり、シール材がガラス板間からはみ出して、その除去や清掃作業が必要となったり、あるいはガラス板とシール材との間に空隙が発生してしまったりと、硬化前の柔らかい状態のシール材にホルダー受け具を入れ込むことは、様々な不具合の要因となるおそれがある。
【0006】
本発明は、上記従来技術を考慮したものであり、従来の空調室の生産ラインはそのまま利用でき、精度よくホルダーをシール材に埋め込むことができる複層ガラスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明では、2枚のガラス板間に間隔を保持するためのスペーサを配設するスペーサ配設工程と、前記スペーサの外側であって前記ガラス板間の周縁にシール材を充填して該シール材を硬化させて硬化体を形成するシール材硬化工程と、前記ガラス板間の周縁外側から前記硬化体の長手方向に沿って切削して溝を形成する溝形成工程と、前記溝に対して凹部を有するホルダーを挿入するホルダー挿入工程とを備えたことを特徴とする複層ガラスの製造方法を提供する。
【0008】
好ましくは、前記ホルダーは、左右の両側片とこれらの両側片の一方の端部を連結する底片で形成されていて、前記両側片と前記底片とは非湾曲の角部を有している。
【0009】
好ましくは、前記ホルダーと前記溝とは非接着である。
【0010】
好ましくは、前記ホルダーは長手方向に分割されていて、前記ホルダーと前記溝とは接着されている。
【0011】
好ましくは、前記ホルダーは、アルミニウム製である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、シール材硬化工程によりまずはシール材を硬化させ、その後にこの硬化したシール材である硬化体に対して溝形成工程にて溝を形成する。このため、硬化体を形成するための生産ラインを有する従来の空調室をそのまま利用できる。このように、硬化体に加工を施さない通常の複層ガラスとしての生産効率をそのまま利用できる。この硬化体に対して形成された溝に対し、ホルダー挿入工程にてホルダーを挿入するため、ホルダーを精度よく硬化体内に収めることができる。この挿入作業は、複層ガラスの生産とは別の作業場所で実施可能であり、全体としての生産性の向上に大きく寄与する。
【0013】
また、ホルダーは角部を有しているので、この角部が硬化体に若干差し込まれて埋め込まれるので、しっかりと溝内に保持される。あるいは、溝自体にもホルダーの角部の形状に合わせた角部を設けることで、互いの角部を合わせることで精度よくホルダーを溝内に収めることができる。また、このような角部を形成することは、特別な加工技術を要しないので、簡単に形成できる。
【0014】
また、ホルダーと溝とを非接着とすれば、温度変化によるホルダーの熱膨張に伴うせん断変形の影響が効果体に及ぼされることはない。このため、ホルダーの材料として弾性変形が必要な樹脂等の材料にしなければならないという制約がなくなる。
【0015】
また、ホルダーと溝とを接着すれば、ガラス板、硬化体、ホルダーが全て一体化する。また、ホルダーの位置ずれも防止できる。さらに、このときにホルダーが長手方向に分割されていることで、ホルダーと溝との間の接着剤のせん断変形によるシール材4の破断が防止される。
【0016】
また、ホルダーをアルミニウム製とすれば、一般的なアルミ押出材を使用することが可能となる。このため、特殊形状の樹脂製ホルダーに比較して安価に調達することができる。さらには、このようなアルミニウム製の角部を有するいわゆるチャンネル材は、一般的に広く流通しているため、入手も容易である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る複層ガラスの製造方法のフローチャートである。
図2】スペーサ配設工程の説明図である。
図3】シール材硬化工程の説明図である。
図4】溝形成工程の説明図である。
図5】ホルダー挿入工程の説明図である。
図6】別の例の複層ガラスの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る複層ガラスの製造方法は、図1に示すように、まずはスペーサ配設工程を行う(ステップS1)。このスペーサ配設工程は、図2に示すように、2枚のガラス板1間に間隔を保持するためのスペーサ2を配設する工程である。この工程は、通常の複層ガラスの生産ラインで用いられている空調室内で行うことができる。すなわち、略鉛直方向に立てられた2枚のガラス板1間にスペーサ2をそのガラス板1の周辺部分に配し、スペーサ2とガラス板1との間に隙間充填材3を介装させる。したがって、スペーサ2はガラス板1に対して隙間充填材3を介して接着されている。このような構造により、2枚のガラス板1間には空気層10が形成される。隙間充填材3は例えばブチルであり、空気層10内への湿気侵入を防止する機能を有している。ガラス板1としてはフロートガラスを使用できるほか、要求条件によって、Low-Eガラス等、遮熱性能の高いガラスを採用することも可能である。スペーサ2はアルミ合金押出製であり、内部に乾燥剤が封入されていてもよい。
【0019】
次に、シール材硬化工程を行う(ステップS2)。このシール材硬化工程は、図3に示すように、スペーサ2のガラス板1に対して外周側であって、ガラス板1間の周縁にシール材4を充填してこのシール材4を硬化させて硬化体5を形成する工程である。シール材4としては、ダウ・東レ株式会社製の高モジュラス2成分形シリコーンシーラント等が好適に用いられる。このシール材硬化工程は数日間をかけて完全に硬化する。硬化したシール材4である硬化体5は、かなり硬度の高いものとなっている。
【0020】
次に、溝形成工程を行う(ステップS3)。この溝形成工程は、図4に示すように、ガラス板1間の周縁外側から硬化体5の長手方向に沿って切削して溝6を形成する工程である。この溝6の形成は、通常の切削工具を用いることができる。また、この溝形成工程は、上述した空調室とは別の場所で行われる。すなわち、数日を経過して完全にシール材4が硬化して硬化体5となった後、複層ガラスは空調室とは別の工場ラインに運ばれ、複層ガラスの端面側(小口側)から溝加工用の切削工具を用いて、断面が略四角形形状に切削される。硬化体5は硬化していて、その硬度は高いので、切削加工が容易である。
【0021】
次に、ホルダー挿入工程を行う(ステップS4)。このホルダー挿入工程は、図5に示すように、溝6に対して凹部7を有するホルダー8を挿入する工程である。この工程を経て、複層ガラス9が生産される。このとき、硬化体5は硬度が高い状態なのでホルダー8をある程度固定して納めることができる。なお、凹部7の開口部分は複層ガラス9の端面側を向くように配されている。また、硬化体5はシール硬化工程により数日間経過しているので確実にガラス板1と密着している。すなわち、硬化体5とガラス板1とは密着しているので、気泡が生じていることはなく、見栄えのいい複層ガラス9を得ることができる。
【0022】
以上説明したように、本発明によれば、シール材硬化工程によりまずはシール材4を硬化させ、その後にこの硬化したシール材4である硬化体5に対して溝形成工程にて溝6を形成する。このため、硬化体5を形成する生産ラインを有する従来の空調室をそのまま利用できる。このように、硬化体5に加工を施さない通常の複層ガラスとしての生産効率をそのまま利用できる。この硬化体5に対して形成された溝6に対し、ホルダー挿入工程にてホルダー8を挿入するため、ホルダー8を精度よく硬化体5内に収めることができる。この挿入作業は、複層ガラスの生産とは別の作業場所で実施可能であり、全体としての生産性の向上に大きく寄与する。
【0023】
ここで、ホルダー8は、左右の両側片8aとこれらの両側片8aの一方の端部を連結する底片8bで形成されていて、両側片8aと底片8bとは非湾曲の角部8cを有している。このように、ホルダー8は角部8cを有しているので、この角部8cが硬化体5に若干差し込まれて埋め込まれるので、しっかりと溝6内に保持される。あるいは、溝6自体にもホルダー8の角部8cの形状に合わせた角部6a(図4参照)を設けることで、互いの角部8c、6aを合わせることで精度よくホルダー8を溝6内に収めることができる。また、このような角部8cを形成することは、特別な加工技術を要しないので、簡単に形成できる。
【0024】
特に、ホルダー8をアルミニウム製とすれば、一般的なアルミ(合金)押出材を使用することが可能となる。このため、特殊形状の樹脂製ホルダーに比較して安価に調達することができる。さらには、このようなアルミニウム製の角部8cを有するいわゆるチャンネル材は、一般的に広く流通しているため、入手も容易である。特に、両側片8aと底辺8bとがなす角度が90°(直角)であれば好ましい。
【0025】
また、ホルダー8と溝6とが非接着である場合、温度変化によるホルダー8の熱膨張に伴うせん断変形の影響が硬化体5に及ぼされることはない。このため、ホルダー8の材料として弾性変形が必要な樹脂等の材料にしなければならないという制約がなくなる。一方で、ホルダー8と溝6とが接着されている場合、ガラス板1、硬化体5、ホルダー8が全て一体化する。上述したように、2枚のガラス板1とスペーサ2との間には隙間充填材3が配されているため、空気層10への湿気の侵入が防止され、耐久性の向上が図られている。しかし、空気層10が繰り返し温度変化を受けて膨張収縮し、ガラス板1やその周辺部が変形する場合がある。そうすると、隙間充填材3が変形し、最終的に欠損して湿気の侵入を防げなくなり耐久性が低下する場合がある。ホルダー8と溝6とを接着すれば、これを防止できる。また、主に輸送時等の振動でホルダーが位置ずれを起こすおそれがあるが、このようなホルダー8の位置ずれも防止できる。このホルダー8と溝6との接着は、ホルダー挿入工程にて行われる。ホルダー8と溝6との間に配される接着剤は、例えばシリコーン製であり、ホルダー8(溝6)の長手方向に沿って一定間隔で配されていてもよいし、連続して配されていてもよい。
【0026】
特にホルダー8と溝6とが接着されている場合、ホルダー8は長手方向に分割されていることが好ましい。このようにホルダー8が長手方向に分割されていることで、ホルダー8と溝6との間の接着剤のせん断変形による破断が防止される。
【0027】
また、図6を参照すれば明らかなように、ホルダー8は断面がU字形状であってもよい。このような形状でも、シール材4が柔らかい状態でホルダー8が埋め込まれることに対する有利な効果は発揮できる。すなわち、従来の空調室の生産ラインを変更することなく、ホルダー8が配された複層ガラス9を効率よく生産することができる。
【符号の説明】
【0028】
1:ガラス板、2:スペーサ、3:隙間充填材、4:シール材、5:硬化体、6:溝、6a:角部、7:凹部、8:ホルダー、8a:両側片、8b:底片、8c角部、9:複層ガラス、10:空気層
図1
図2
図3
図4
図5
図6