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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172035
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】無線アンテナ、無線通信システム
(51)【国際特許分類】
   H01Q 13/24 20060101AFI20231129BHJP
   H01Q 15/08 20060101ALI20231129BHJP
   H01Q 21/20 20060101ALI20231129BHJP
   H01P 3/16 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
H01Q13/24
H01Q15/08
H01Q21/20
H01P3/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022083585
(22)【出願日】2022-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】392026693
【氏名又は名称】株式会社NTTドコモ
(74)【代理人】
【識別番号】100121706
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128705
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 幸雄
(74)【代理人】
【識別番号】100147773
【弁理士】
【氏名又は名称】義村 宗洋
(72)【発明者】
【氏名】濱田 裕史
(72)【発明者】
【氏名】福田 敦史
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 恭宜
【テーマコード(参考)】
5J014
5J020
5J021
5J045
【Fターム(参考)】
5J014HA01
5J020AA02
5J020BB01
5J020DA03
5J021AA08
5J021CA01
5J021HA05
5J045AA21
5J045AB03
5J045DA17
5J045EA09
5J045HA07
5J045LA03
5J045NA03
(57)【要約】
【課題】誘電体導波路の法線方向により近い方向に最も強く電磁波を放射できる無線アンテナを提供する。
【解決手段】ミリ波帯または準ミリ波帯の信号を送受信可能な無線アンテナ100は、誘電体で形成されたケーブル状の導波路110と、誘電体で形成された塊体120を含む。導波路110の誘電率は、塊体120を除く導波路110の周囲の誘電率よりも大きい。塊体120は、導波路110上に、または、導波路110の近傍に、位置している。塊体120は、誘電率が導波路110の長手方向において周期的に変化する周期構造を有している。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミリ波帯または準ミリ波帯の信号を送受信可能な無線アンテナであって、
誘電体で形成されたケーブル状の導波路と、
誘電体で形成された塊体と
を含み、
上記導波路の誘電率は、上記塊体を除く上記導波路の周囲の誘電率よりも大きく、
上記塊体は、上記導波路上に、または、上記導波路の近傍に、位置しており、
上記塊体は、誘電率が上記導波路の長手方向において周期的に変化する周期構造を有している
無線アンテナ。
【請求項2】
請求項1に記載の無線アンテナにおいて、
上記周期構造の周期をAとし、
上記導波路を伝播する電磁波が上記塊体から最も強く放射される放射方向と上記塊体の位置における上記導波路の法線方向とがなす角をθとし、
上記導波路を伝播する電磁波の波長をλgとし、
上記塊体から放射された電磁波の自由空間における波長をλ0として、
【数5】

が成立する
ことを特徴とする無線アンテナ。
【請求項3】
請求項1に記載の無線アンテナにおいて、
上記導波路の上記長手方向と垂直であり且つ上記導波路の法線方向と垂直である幅方向における上記塊体の長さが、上記導波路の幅と一致していない
ことを特徴とする無線アンテナ。
【請求項4】
請求項1に記載の無線アンテナにおいて、
上記導波路の上記長手方向における上記塊体の両端のそれぞれは、上記導波路の上記長手方向に先細りになるテーパ構造を持っている
ことを特徴とする無線アンテナ。
【請求項5】
請求項1に記載の無線アンテナにおいて、
さらに、上記周期構造の周期を機械的に変える周期構造変更装置を含む
ことを特徴とする無線アンテナ。
【請求項6】
請求項1に記載の無線アンテナにおいて、
さらに、上記塊体の温度を変える温度制御装置を含む
ことを特徴とする無線アンテナ。
【請求項7】
ミリ波帯または準ミリ波帯の信号を送受信可能な無線アンテナであって、
誘電体で形成されたケーブル状の導波路と、
それぞれ誘電体で形成された複数の塊体と
を含み、
上記導波路の誘電率は、上記複数の塊体を除く上記導波路の周囲の誘電率よりも大きく、
上記複数の塊体のそれぞれは、上記導波路上に、または、上記導波路の近傍に、位置しており、
上記複数の塊体は、上記導波路の長手方向に等間隔に並んでおり、
上記複数の塊体のうち隣り合う塊体の間隔をBとし、上記導波路の長手方向における上記複数の塊体のそれぞれの長さをCとし、A=B+Cとし、
上記導波路を伝播する電磁波が上記複数の塊体から最も強く放射される放射方向と上記複数の塊体の位置における上記導波路の法線方向とがなす角をθとし、
上記導波路を伝播する電磁波の波長をλgとし、
上記複数の塊体から放射された電磁波の自由空間における波長をλ0として、
【数6】

が成立する
無線アンテナ。
【請求項8】
無線アンテナと通信端末とを含む無線通信システムであって、
上記無線アンテナは、誘電体で形成されたケーブル状の導波路と、誘電体で形成された塊体を含み、
上記導波路の誘電率は、上記塊体を除く上記導波路の周囲の誘電率よりも大きく、
上記塊体は、上記導波路上に、または、上記導波路の近傍に、位置しており、
上記塊体は、誘電率が上記導波路の長手方向において周期的に変化する周期構造を有しており、
上記通信端末は、上記通信端末のアンテナで、上記塊体から放射された電磁波を受信し、
上記塊体は、上記通信端末のアンテナからの電磁波を受信する
ことを特徴とする無線通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体導波路を含む無線アンテナとこの無線アンテナを用いた無線通信システムに関し、より詳しくは、誘電体導波路の法線方向により近い方向に最も強く電磁波を放射できるアンテナ技術に関する。
【背景技術】
【0002】
第五世代移動通信システム(所謂、5G)あるいは第六世代移動通信システム(所謂、6G)は、10Gb/s以上の高いデータレートを要求する。このような高速無線通信を実現するための方法の一つとして、ミリ波帯(30GHz~300GHzの周波数帯)あるいはサブテラヘルツ帯(100GHz以上の周波数帯)の無線通信への適用が検討されている。
【0003】
このような高い周波数を持つ電磁波は、空間を伝播する過程で著しく減衰するという特徴を持っている。自由空間を伝播するTEMモードの電磁波の損失(自由空間伝播損失と呼称される)は周波数の二乗に比例することが知られている。さらに、このような高い周波数を持つ電磁波は、遮蔽物による回折損失が大きい(換言すれば、電磁波の直進性が高い)という特徴を持っている。このため、不感地帯(つまり、電磁波が届かない領域)を減らす技術が求められている。
【0004】
特許文献1は、不感地帯を減らせる技術の一つとして、有線伝送媒体である誘電体導波路と誘電体導波路の任意の場所に設置できる誘電体アタッチメント(特許文献1では「塊体」と呼称されている)を含む無線アンテナを開示している。特許文献1の無線アンテナによると、無線基地局から誘電体導波路を敷設し、当該無線アンテナを使用しなければ不感地帯である領域の近傍に位置する誘電体導波路の部位に誘電体アタッチメントを設置することによって、誘電体アタッチメントが電磁波を放射し、この結果、不感地帯の低減を実現する。特許文献1の無線アンテナによると、リピータ(repeater)などのアクティブ部品を用いず、かつ、誘電体導波路の任意の場所に誘電体アタッチメント(つまり、電磁波の放射源)を形成することができるので、状況に応じたカバレッジ(coverage)を低い電力消費で形成できる。例えば、高周波通信において、遮蔽物として人あるいは機材が存在する工場内あるいは部屋内で効率的にカバレッジを形成できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-114766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の図1は、電磁波が、誘電体導波路の法線方向に、誘電体アタッチメントから放射されることを示している。しかし、実際には、そうではない。このことを説明する。
【0007】
図1,2は、先行技術の誘電体アタッチメント920を具備する誘電体導波路110を伝播する電磁波の挙動を、光線近似を用いて説明するための図である。誘電体アタッチメント920から放射される電磁波の放射方向と誘電体導波路110の法線方向とのなす角(以下、放射角と呼称する)をθradとする。電磁波は、誘電体導波路110と空気の境界近傍で全反射を繰り返しながら誘電体導波路110を伝播する。通例、誘電体導波路110に用いる誘電体の比誘電率は4以下であるから、全反射の際に光線近似の電磁波と誘電体導波路110の長手方向とがなす角(つまり、臨界角)は40°以下程度である。したがって、誘電体アタッチメント920の誘電率が誘電体導波路110の誘電率よりも高い場合(図1参照)と低い場合(図2参照)のいずれにおいても、誘電体アタッチメント920から放射される電磁波の放射角θradはかなり大きな値となる(図1,2における光線近似の電磁波の軌跡を参照のこと)。図1,2では簡単のために誘電体アタッチメント920の断面形状は長方形であるが、誘電体アタッチメント920の断面形状が例えば三角形、半円であっても、同様の議論が成立する。
【0008】
通例、放射角θradは0°に近いほど好ましく、90°に近いほど実用性に劣る。なぜなら、誘電体導波路110がその長手方向に電磁波を伝播させるものであるからである。つまり、誘電体導波路110の伝播方向に近い方向に電磁波を放射してもあまり意味がない。
【0009】
本発明は、誘電体導波路の法線方向により近い方向に最も強く電磁波を放射できる無線アンテナとこの無線アンテナを用いた無線通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
ここで述べる技術事項は、特許請求の範囲に記載された発明を明示的にまたは黙示的に限定するためではなく、さらに、本発明によって利益を受ける者(例えば出願人と権利者である)以外の者によるそのような限定を容認する可能性の表明でもなく、単に、本発明の要点を容易に理解するために記載される。他の観点からの本発明の概要は、例えば、この特許出願の出願時の特許請求の範囲から理解できる。
本発明の無線アンテナは、誘電体導波路と塊体を持っている。誘電体導波路は、塊体を除く周囲の誘電率よりも大きい誘電率を持っている。塊体は、誘電体導波路上または誘電体導波路の近傍に位置している。塊体は、電磁波の放射と吸収を行う部位である。塊体と通信端末との間で電磁波の送受信が実現される。誘電体導波路は、分岐構造を持っていてもよい。誘電体導波路は、電磁波を伝播できる媒体に接続していてもよい。塊体は、回折格子構造を持っている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、誘電体導波路上または誘電体導波路の近傍に、回折格子構造を有する塊体が位置しているので、誘電体導波路の法線方向により近い方向に最も強く電磁波を放射できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】先行技術の誘電体アタッチメントを具備する誘電体導波路を伝播する電磁波の挙動を、光線近似を用いて説明するための図。
図2】先行技術の誘電体アタッチメントを具備する誘電体導波路を伝播する電磁波の挙動を、光線近似を用いて説明するための図。
図3】実施形態の無線通信システムの構成例。
図4】誘電体導波路の断面図。
図5】塊体を説明するための図。(a)塊体の断面図。(b)塊体の斜視図。(c)他の例の塊体の断面図。
図6】第1実施形態の無線アンテナの断面図。
図7】電磁波の放射を説明するための図。
図8】電磁波の干渉における波数の違いを説明するための図。
図9】塊体が導波路の近傍に位置する無線アンテナの例を示す図。(a)第1例。(b)第2例。(c)第3例。
図10】分岐構成を持つ無線アンテナの例。
図11】導波路が媒体に接続されている構造。(a)第1例。(b)第2例。(c)第3例。
図12】電磁界シミュレーションに用いた無線アンテナの構成。(a)断面図。(b)平面図。
図13】放射角と周期の関係。
図14】電磁界シミュレーションの結果。(a)放射角が7度の場合。(b)放射角が45度の場合。
図15】第2実施形態の第1例の無線アンテナ。(a)側面図。(b)平面図。
図16】第2実施形態の第2例の無線アンテナ。(a)側面図。(b)平面図。
図17】第3実施形態の無線アンテナ。(a)側面図。(b)平面図。
図18】第4実施形態の無線アンテナ。(a)軌条部の底面図。(b)無線アンテナの側面図。(c)無線アンテナの平面図。
図19】第4実施形態の無線アンテナにおける軌条部の設置例。(a)側面図。(b)平面図。
図20】第4実施形態の無線アンテナにおける軌条部の設置例。(a)側面図。(b)平面図。
図21】第4実施形態の無線アンテナの他の構成例。(a)側面図。(b)第1周期構造の平面図。(c)第2周期構造の平面図。
図22】他の実施形態。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0014】
<第1実施形態>
図3に示す実施形態の無線通信システム1は、実施形態の無線アンテナ100と、通信端末200と、信号生成装置800を含む。無線アンテナ100は、図3に示すように、導波路110と、1個以上の塊体120を含む構成を持つ。導波路110は、誘電体で形成された有体物であり、図3に示すように、例えばケーブルの如く、幅(あるいは断面積の平方根)に比べて長さが著しく大きい外観形状を有している。導波路110は、直線的な形状を持っていてもよいし、図3に示すように少し蛇行する形状、換言すれば、後述する導波路110の低損失伝播に悪影響を及ぼさない程度の曲げを持つ形状を持っていてもよいし、あるいは、分岐構造を持っていてもよい。導波路110の分岐構造については後述する。塊体120が位置する導波路110の局所領域において、導波路110は、好ましくは、直線的な形状を持つ。各塊体120は、導波路110と同じ誘電体で形成されてもよいし、導波路110と異なる誘電体で形成されてもよい。各塊体120は、導波路110上に位置する。この場合、塊体120は、導波路110から突起のように突出している。あるいは、各塊体120は、導波路110から離れた導波路110の近傍に位置する。あるいは、T個(ただし、Tは2以上の予め定められた整数である)の塊体120のうちt個(ただし、tは1≦t<Tを満たす予め定められた整数である)の塊体120は導波路110上に位置しており、残りのT-t個の塊体120は導波路110から離れた導波路110の近傍に位置する。この実施形態では、導波路110の一端は、ミリ波(30GHz~300GHz)あるいは準ミリ波(明確な定義はないがおよそ20GHz~30GHz)の周波数を持つ信号を生成する信号生成装置800に接続されている。この信号の種類に限定はなく、アナログ信号でも、デジタル信号でも、離散時間信号でも、連続時間信号でもよい。導波路110の他端は、図3に示す例では、何にも接続されず開放されているが、短絡されていてもよいし、アンテナ(例えば、線状アンテナ、開口面アンテナなど)に接続されていてもよいし、あるいは、終端されていてもよい。
【0015】
導波路110は、導波路110の長手方向の任意の位置における当該長手方向に垂直な断面図である図4に示すように、形状と大きさが共に一定の断面を持つ。この例では、導波路110の断面形状は長方形である。したがって、導波路110は、導波路110の長手方向と直交する第1方向において互いに対向する二つの長辺側面111と、導波路110の長手方向と第1方向のそれぞれと直交する第2方向において互いに対向する二つの短辺側面113を持つ。長辺側面111は、幅(つまり、導波路110の長手方向と直交する方向の長さ)が断面の長方形の長辺の長さに等しい側面であり、短辺側面113は、幅が断面の長方形の短辺の長さに等しい側面である。このように、導波路110は、一様な構造、つまり、任意の位置での断面の形状と大きさが共に一定であり、材質が任意の位置で一定である構造を持っている。なお、図4では、導波路110の断面形状は長方形であるが、このような構造に限定されず、例えば、正方形あるいは円であってもよい。
【0016】
導波路110の誘電率は、塊体120を除く導波路110の周囲の誘電率よりも大きい。図3,4に示す例では、導波路110の周囲は空気であり、空気の誘電率はおよそ1であるので、導波路110の誘電率は1よりも大きい。このため、導波路110の上記一端に入力された信号生成装置800からの信号の電磁界は、塊体120が存在しない場合、誘電率の大きい導波路110に集中して、導波路110の上記他端に向かって低損失に伝わり、導波路110の上記他端に至る。
【0017】
導波路110上または導波路110の近傍に位置している各塊体120は、電磁波(帯域としては電波である)を放射する放射部として機能することができる。各塊体120において電磁波の放射によって失われる電力は、主に、塊体120の形状(後述する)、大きさおよびその誘電率に依存する。より強い電力の電磁波を放射する観点から、例えば、塊体120の誘電率は導波路110の誘電率と同じまたは導波路110の誘電率よりも大きいことが好ましい。塊体120の誘電率は一様である、つまり、塊体120の任意の異なる2点での誘電率は互いに等しい。さらに好ましくは、損失の観点から、使用する電磁波の周波数帯において誘電正接が小さい材料が導波路110と塊体120のそれぞれの誘電体として選定される。一般に、誘電率が高くなると誘電正接が大きくなるので、放射量と損失量を考慮して、導波路110と塊体120のそれぞれの誘電体が持つべき誘電率が決定される。このように、塊体120が存在する場合、信号生成装置800からの信号は、この塊体120から電磁波として空間に放射される。なお、「放射」とは、塊体120に到達した信号の電力のうち電磁波の放射によって失われる電力が、当該塊体120が存在しない場合に実際には発生する伝送損失を超えることをいう。塊体120で電磁波の放射によって失われる電力は、通常、塊体120に到達した信号の電力の一部であり、残余の電力を持った信号は導波路110において塊体120が位置する部位を通過する。塊体120を通過した信号は、導波路110を伝わり、隣の塊体120に向かって、隣の塊体120が無ければ導波路110の上記他端に向かって、低損失に伝播する。塊体120で放射された電磁波は、携帯電話などの通信端末200が持つ無線アンテナ(図示せず)によって受信される。
【0018】
無線アンテナ100に含まれる少なくとも1個の塊体120は、図5(a)に示すように、基部120vと、基部120vの上に立つ周期構造120pを含む。基部120vと周期構造120pは、互いに一体に形成されていてもよいし、互いに独立の有体物であってもよい。前者の場合、周期構造120pを持つ塊体120は、例えば、誘電体を切削加工することによって、あるいは、溶融誘電体の射出成形によって作製される。後者の場合、機械的構造によって(第4実施形態参照)、あるいは、接着剤または粘着剤を用いて、周期構造120pを構成するための複数の誘電体が基部120vに取り付けられる。接着剤または粘着剤の誘電率は基部120vの誘電率と同じ程度であることが望ましい。周期構造120pは、所謂、回折格子構造であり、周期構造120pにおいて誘電率は導波路110の長手方向において周期的に変化する。
【0019】
図5(b)を参照して別の観点から述べれば、3次元直交座標系において、基部120vの2次元的な広がりをx座標とy座標で表し、位置(x,y)における周期構造120pの高さをz座標で表すとき、周期構造120pの高さzは、関数f(正確には、x-y平面上の閉領域に対応する関数f)を用いてz=f(x,y)で表される。つまり、位置(x,y)においてz軸方向の周期構造120pの占有区間は(0,f(x,y)]である。ただし、関数fは、有界関数かつ周期関数であり、変数yを上記閉領域に含まれる任意の値y0に固定したときf(x,y0)=f(x+A,y0)を満たし、変数xを上記閉領域に含まれる任意の値x0に固定したときf(x0,y)=C(x0,y)を満たす。Aは周期であり、C(x0,y)は値x0に対応する定数(つまり、yに関する定数関数)である。上記閉領域は好ましくは矩形である。関数fの最大値をHとし、関数fの最小値を0とする。関数fの例は、特に限定は無いが、正弦波を表す関数、矩形波を表す関数(図5に示す例)、台形波を表す関数、三角波を表す関数、鋸歯状波を表す関数、階段状鋸歯状波状を表す関数を含む。
【0020】
上記閉領域に含まれる変数xの最大値をxmaxとし、上記閉領域に含まれる変数xの最小値をxminとして、(xmax-xmin)/Aは2以上であり、好ましくは3以上である。変数yを上記閉領域に含まれる任意の値y0に固定したとき、閉区間[xmin,xmax]においてf(x,y0)=Hを満たす変数xの区間pH(ただし、理論的には1点からなる退化区間(degenerate interval)を含むが、現実には真の区間(proper and bounded interval)である)とf(x,y0)<Hを満たす変数xの区間(ただし、理論的には1点からなる退化区間を含むが、現実には真の区間である)が周期的に交互に現れる。pH/Aは、導波路110を伝播する電磁波の周波数、後述する所望の方向での電磁波の干渉などに応じて、周期構造120pが回折格子として機能するために適切な値に設定されるが、通例、0.8以下である。
【0021】
塊体120が導波路110上または導波路110の近傍に位置しているとき、基部120vの底面(底面は、z軸方向において周期構造120pが無い面である)は、導波路110と接触し、あるいは、基部120vと導波路110の間に周期構造120pが位置することなく導波路110に面している。塊体120が導波路110上または導波路110の近傍に位置している局所領域において、x軸方向は導波路110の長手方向と平行である。以下、y軸方向を「導波路110の幅方向」と呼称し、z軸方向を「導波路110の法線方向」と呼称する。このような周期構造120pによると、導波路110の長手方向において、誘電率の異なる二つの値(つまり、誘電体の誘電率と空気の誘電率)が周期的に交互に現れる。
【0022】
図5(c)に示すように、図5(a)に示す周期構造120pにおいて空気に相当する部分(ただし、高さHを超えない部分)を空気以外の誘電体120sに置換した周期構造120pも許容される。上述の例に従うと、位置(x,y)における誘電体120sの高さzeはze=H-f(x,y)で表され、位置(x,y)においてz軸方向の誘電体120sの占有区間は(f(x,y),H]である。誘電体120sの誘電率は、塊体120の誘電率と異なる。
【0023】
周期構造120pの幅(つまり、導波路110の幅方向における周期構造120pの長さ)は、導波路110の幅(つまり、導波路110の幅方向における導波路110の長さ)と一致してもよいし、導波路110の幅より大きくてもよいし、導波路110の幅より小さくてもよい。周期構造120pの幅を導波路110の幅より大きくすることによって、周期構造120pから放射される電磁波を平面波に近づけることができる。周期構造120pの幅を導波路110の幅より小さくすることによって、周期構造120pから放射される電磁波を球面波に近づけることができる。球面波の場合、塊体120アンテナとみなしたときのアンテナ利得は小さくなり、平面波と比較して、放射される電磁波の等方性を高くすることができる。つまり、より広いカバレッジを実現できる。
【0024】
図6は、周期関数が矩形波を表す関数である場合の周期構造120pを持つ塊体120と導波路110を含む無線アンテナ100の、導波路110の長手方向に沿った断面図である。図6に示す例では、第1の観点から説明を加えると、周期構造120pは、それぞれ直線状に伸びる複数の溝120aが等間隔に且つ互いに平行に配置されたラインアンドスペース(line and space)構造であり、第2の観点から説明を加えると、周期構造120pは、それぞれ直線状に伸びる複数の相対的に高い部位120bとそれぞれ直線状に伸びる複数の相対的に低い部位120cが交互に且つ等間隔に且つ互いに平行に配置されたラインアンドスペース構造であり、第3の観点から説明を加えると、周期構造120pは、基部120v上に、それぞれ直線状に伸びる複数の軌条部120dが等間隔に且つ互いに平行に立っているラインアンドスペース構造である。各溝120aあるいは各部位120b,120cあるいは各軌条部120dの伸びる方向は、導波路110の長手方向と直交している。溝120aの深さあるいは軌条部120dの高さは互いに等しい。図5,6に示す例では、基部120vの形状は矩形平板である。
【0025】
周期構造120pの各溝120aにおいて電磁波は互いに打ち消し合って減衰するので溝120aから放射し難いが、溝120aと溝120aの間の部分(つまり、相対的に高い部位120b)から電磁波は良好に放射される。周期構造120pの周期A(つまり、導波路110の長手方向における1個のラインの長さと1個のスペースの長さの合計)を適切に設定することによって、或る特定方向において電磁波を互いに干渉させることができる。したがって、当該特定方向(導波路110の法線方向を含む)に電磁波を最も強く放射することができる。以下、この原理を説明する。
【0026】
図7は、ホイヘンス-フレネルの原理(Huygens-Fresnel principle)によって理解される、周期構造120pを持つ塊体120から放射された電磁波の波面と、塊体120から電磁波が最も強く放射される放射方向を模式的に示している。導波路110を伝播する電磁波が塊体120から最も強く放射される放射方向と塊体120の位置における導波路110の法線方向とがなす角をθとし、以下、これを放射角と呼称する。隣り合う軌条部120dから放射される電磁波が放射角θにおいて強め合うためには、誘電体を伝播する電磁波の周期A当たりの波数と、自由空間を伝播する電磁波の周期Aに対応する放射方向の長さ(つまり、Asinθ)当たりの波数と、の差が整数にならねばならない。つまり、図8に示す関係から、隣り合う軌条部120dから放射される電磁波が放射角θにおいて強め合うためには、式(1)が成立しなければならない。式(1)において、λgは導波路110と塊体120との境界領域を伝播する伝播モードの電磁波の波長であり、Neqは等価屈折率であり、λ0は自由空間における電磁波の波長である。等価屈折率の定義から式(2)が成立する。
【数1】
【0027】
m=1の場合、式(3)が成立する。これは、導波路110から最も離れた方向、つまり、導波路110の法線方向に最も近い方向において電磁波が強め合う条件を表している。Neqは、空気の屈折率である1から導波路110あるいは塊体120の屈折率である2程度までの値をとる。sinθは1以下の値をとる。周期Aを適切に選定することによって、必ず式(3)を満足するθを得られる。したがって、導波路110の法線方向により近い方向に最も強く電磁波を放射することが可能である。このことについて、後に、第1実施形態の実施例として説明する。
【数2】
【0028】
塊体120の総数Tが2以上である場合、T個の塊体120の一部(つまりp個、ただし、pは1≦p<Tを満たす)が共通して持つ形状が、T個の塊体120の他の一部(つまりq個、ただし、qは1≦q<T-pを満たす)あるいは全部(つまりq個、ただし、qはq=T-pを満たす)が共通して持つ形状と同じでもよいし異なっていてもよい。あるいは、T≧2の場合、T個の塊体120のうちの互いに異なる任意の2個の塊体120が、互いに異なる形状を持っていてもよい。例えば、T=2の場合、一方の塊体120は上述の周期構造120pを持つが、他方の塊体120は上述の周期構造120pを持っていなくてもよい。
【0029】
さらに、塊体120の総数Tが2以上である場合、T個の塊体120の一部(つまりp個、ただし、pは1≦p<Tを満たす)が共通して持つ大きさが、T個の塊体120の他の一部(つまりq個、ただし、qは1≦q<T-pを満たす)あるいは全部(つまりq個、ただし、qはq=T-pを満たす)が共通して持つ大きさと同じでもよいし異なっていてもよい。あるいは、T≧2の場合、T個の塊体120のうちの互いに異なる任意の2個の塊体120が、互いに異なる大きさを持っていてもよい。例えば、T=2の場合、一方の塊体120は周期Aの周期構造120pを持つが、他方の塊体120は周期B(ただし、A≠B)の周期構造120pを持っていてもよい。
【0030】
長手方向における導波路110上での塊体120の位置は、好ましくは、導波路110の両端を除く位置であり、さらに好ましくは、不整合が発生しにくく、且つ、伝播モードの変換が発生しにくい位置である。塊体120の総数Tが2以上である場合、T個の塊体120のうちの互いに異なる任意の2個の塊体120の導波路110の一端からその長手方向に沿って計測した距離が互いに異なってもよいし、例えば、互いに異なる或る2個以上の塊体120の導波路110の一端からその長手方向に沿って計測した距離が互いに等しくてもよい。後者の場合、これら2個以上の塊体120は、導波路110の周上の異なる位置に位置する。さらに、この後者の場合、導波路110を伝わる電磁波の伝播モードを考慮すると、好ましくは、2個の塊体120が導波路110の周上の互いに180度離れた位置に位置する。
【0031】
塊体120が導波路110上に位置する例において、各塊体120は、導波路110と一体に形成された物でもよいし、導波路110と別に形成された物でもよい。後者の場合、各塊体120は、導波路110に取り付けられるが、その後、導波路110から取り外せなくてもよいし、導波路110から取り外せてもよい。各塊体120が導波路110から取り外せる場合であっても、ひとたび各塊体120が導波路110に取り付けられたならば、各塊体120が導波路110上で動かないことが望まれる。各塊体120は導波路110に密着した状態にある。このため、塊体120を導波路110に取り付ける場合、塊体120の基部120vは、塊体120が取り付けられる導波路110の部位の局所的表面形状と同じ表面形状を持つ密着面を持ち、例えば、導波路110が細長い直方体であれば塊体120の密着面は少なくとも1個の平面で構成され、導波路110が細長い円柱であれば塊体120の密着面は円柱面の一部である。塊体120を導波路110に密着させる際に接着剤または粘着剤を用いる場合、接着剤または粘着剤の誘電率は導波路110の誘電率と同じ程度か、または、塊体120の誘電率と同じ程度であることが望ましい。
【0032】
塊体120が導波路110から離れた導波路110の近傍に位置する例において、塊体120と導波路110との間の距離の上限は、塊体120の誘電率、導波路110の誘電率、塊体120と導波路110との間の媒質(媒質として、空気または発砲プラスチックを例示できる)の誘電率、導波路110を伝播する信号の強度、導波路110の断面の形状、導波路110の断面の大きさなどによって決まる。ただし、ここで「塊体120と導波路110との間の距離」は、塊体120上の任意の点と導波路110上の任意の点との間の距離のうち最短のものをいう。塊体120と導波路110との間の距離が上記上限以下であれば、塊体120は、上述のとおり、放射部としてあるいは受信部として機能する。換言すれば、塊体が位置する「導波路の近傍」とは、塊体120が放射部としてあるいは受信部として機能できる範囲である。
【0033】
塊体120と導波路110との位置関係は、永続的関係でもよいし、一時的関係でもよい。永続的関係の場合、例えば図9(a)に示すように、導波路110に固定された取付部品310に、塊体120が固定されている。取付部品310の材質は、誘電体でもよいし金属でもよい。ただし、塊体120と導波路110との間に電気伝導体(例えば、取付部品310の材質が金属である場合、取付部品310の一部または全部である)が存在することを避けることが望ましい。取付部品310は、塊体120を保持するホルダーとしての役割と、塊体120と導波路110との間の距離を一定に保つスペーサーとしての役割を担っている。
【0034】
一時的関係の場合、例えば図9(b)に示すように、筒状のスライダー320に塊体120を固定し、このスライダー320を導波路110に取り付ける。スライダー320は、導波路110に沿って移動できる。スライダー320の材質は、誘電体でもよいし金属でもよい。ただし、この例においても、塊体120と導波路110との間に電気伝導体(例えば、スライダー320の材質が金属である場合、スライダー320の一部または全部である)が存在することを避けることが望ましい。スライダー320は、塊体120を保持するホルダーとしての役割と、塊体120と導波路110との間の距離を一定に保つスペーサーとしての役割を担っている。
【0035】
一時的関係の他の例として、塊体120が可動物(可動物として、履物、アンクレットのような人体に着用する物、あるいは、搬送ロボットを例示できる)に取り付けられており、導波路110の全部または一部が床、通路のような構造物に埋設されている形態を例示できる。図9(c)に可動物が搬送ロボット330の場合の例を示す。この場合、構造物上を移動する可動物が導波路110に近づいたとき、つまり、可動物に取り付けられた塊体120が、導波路110からの距離が上記上限以下である範囲に入ったとき、塊体120は放射部としてあるいは受信部として機能する。可動物が受信機あるいは送信機を持っている場合(可動物は、必要に応じて、増幅器などの電子部品を持っていてもよい)、信号生成装置800(後述するとおり、信号生成装置800に限らず、受信装置、あるいは、送受信装置でもよい)と可動物の受信機あるいは送信機との間で、通信が実現する。塊体120が可動物に取り付けられている例によると、可動物が導波路110に近づいたときだけ電磁波の放射が発生するので、エネルギーの利用効率が向上する。
【0036】
1個以上の塊体120を持つ導波路110の外周に、誘電体で形成されたカバー(図示せず)を配置してもよい。カバーは、導波路110および導波路110上の塊体120に密着している。この例に限らず、カバーは、塊体120を除き、あるいは、塊体120が位置する導波路110の部位および塊体120を除き、導波路110を覆ってもよい。導波路110の誘電率および塊体120の誘電率は、カバーの誘電率よりも大きい。このため、導波路110の上記一端に入力された信号生成装置800からの信号の電磁界は、塊体120が存在しない場合、誘電率の大きい導波路110に集中して、導波路110の上記他端に向かって低損失に伝わり、導波路110の上記他端に至る。
【0037】
導波路110は、単一の製品としての構成を持っていてもよいし、例えば同一の構造を持つ複数の導波路(以下、サブ導波路と呼称する)が一列に接続された構成を持っていてもよい。後者の場合、サブ導波路とサブ導波路との接続として、光ファイバーを参考に、融着による接続またはコネクタを用いる接続を採用できる。あるいは、溶接または溶着によって、サブ導波路とサブ導波路を互いに接続してもよい。互いに接続された隣り合う2個のサブ導波路の一方のサブ導波路の誘電率は、他方のサブ導波路の誘電率と異なってもよい。
【0038】
導波路110は分岐構造を持っていてもよい。分岐形状および分岐数に限定は無い。図10に、分岐数が2の場合のT型導波路110の例を示す。分岐構造を持つ導波路110は、単一の製品としての構成を持っていてもよいし、例えば同一の構造を持つ複数のサブ導波路を接続した構成を持っていてもよい。後者の場合、サブ導波路とサブ導波路との接続として、例えば分岐導波管350を用いる接続を採用できる。
【0039】
上述の実施形態では、導波路110の一端は信号生成装置800に物理的に接続されているが、この構成に限定されない。例えば図11に示すように、導波路110の一端を電磁波を伝播できる媒体の一部に接続し、媒体の他部を信号生成装置800に接続してもよい。媒体として、導波路110の材料と異なる材料で作られた線路(例えば、同軸線路、あるいは、導波路110の誘電率と異なる誘電率を持つ導波路である)、あるいは、空気、あるいは、光ファイバーを例示できる。媒体が空気である場合から理解できるように、「接続」という用語は、必ずしも物理的接続のみを意味せず、電磁波が伝播可能である物理的態様を意味する。媒体が線路110aである場合、図11(a)に示すように、線路110aと導波路110は例えばコネクタ360を用いて互いに接続される。媒体が空気である場合、例えば図11(b)に示すように、信号生成装置800に取り付けたアンテナ装置370aと、導波路110の一端に取り付けたアンテナ装置370bによって、信号生成装置800と導波路110との間で電磁波の伝播が実現する。導波路110の一端に取り付けるアンテナ装置370bは、例えば、捕捉した電磁波を増幅するリピータを含んでもよい。ただし、信号生成装置800に取り付けたアンテナ装置370aと導波路110の一端とのアラインメントが良好である場合、導波路110の一端が直接、信号生成装置800からの信号を受信してもよい。
【0040】
媒体が光ファイバー112である場合、例えば図11(c)に示すように、導波路110の一端は第1光電変換器380aに接続しており、第1光電変換器380aは光ファイバー112の一端に接続しており、光ファイバー112の他端は信号生成装置800が持つ第2光電変換器380bに接続している。第2光電変換器380bは、例えばレーザーダイオードであり、信号生成装置800が生成した電気信号を光信号に変換する。光信号は光ファイバー112を伝播する。第1光電変換器380aは、例えばフォトダイオードであり、光ファイバー112からの光信号を電気信号に変換する。したがって、信号生成装置800と導波路110との間で電磁波(この例では、光)の伝播が実現する。
【0041】
例えば、塊体120を設置すべき場所が信号生成装置800から遠く離れた場所に限られている状況の下で信号生成装置800から塊体120の設置場所までに至る長い導波路110を使用するならば、導波路110の通過損失を無視できなくなる。光ファイバー112の通過損失は通例、導波路110の通過損失よりも小さいので、図11(c)に示す構成は、信号の長距離低損失伝送にとって有益である。
【0042】
導波路110は通例、広域通過フィルタと同等の特性を持っており、広帯域の信号を伝送できる。したがって、図3に示すように信号生成装置800から導波路110に入力された信号がQ個(ただし、QはQ≧2を満たす予め定められた整数である)の帯域を持つマルチバンド信号である場合、それぞれの塊体120からQ個の当該帯域の電磁波が放射される。また、光ファイバー112も通例、広帯域の信号を伝送できる。したがって、図11(c)に示す構成によると、信号生成装置800が生成したマルチバンド信号は、光電変換によって光信号として光ファイバー112を伝播し、さらに、光電変換によって再び電気信号として導波路110を伝播し、それぞれの塊体120からQ個の当該帯域の電磁波として放射される。
【0043】
マルチバンド信号の場合、塊体120から空間に放射された電磁波の伝播特性は帯域ごとに異なるので、放射に最適な塊体120の位置は帯域ごとに異なる。例えば、高周波帯域の電磁波は、電磁波遮蔽物によってより大きな影響を受ける。したがって、低周波帯域の電磁波の放射に最適な位置と同じ位置から高周波帯域の電磁波を放射するならば、電磁波遮蔽物の存在によって不感地帯が増えてしまう。しかし、無線アンテナ100を使用し、低周波帯域の電磁波の放射に最適な位置に設置される塊体120とは別に、電磁波遮蔽物を避け得る導波路110上の位置(つまり、高周波帯域の電磁波の放射に最適な位置)に塊体120を設置することによって、好ましくは、さらに、適切な形状(例えば上述の周期構造120p)を持つ塊体120を設置することによって、或いは、複数の塊体120を適切な方向に配置することによって、高周波帯域の電磁波の放射方向が最適化され、この結果、電磁波遮蔽物による不感地帯を減らすことができる。
【0044】
導波路110が2個以上の塊体120を持つ場合、塊体120の総数Tは、電磁波の放射によって失われる所望の電力に応じて定められる。導波路110の上記一端に入力される信号生成装置800からの信号の電力は、各塊体120と導波路110の上記他端とで電磁波の放射によって失われる電力の総和に、導波路110において導波路として機能する部分での実際には発生する伝送損失を加えた総電力であることが必要である。
【0045】
あるいは、導波路110の上記一端に入力される信号生成装置800からの信号の電力(以下、入力電力と呼称する)が予め定まっている場合には、導波路110において導波路として機能する部分での実際には発生する伝送損失を入力電力から除いた電力が、各塊体120と導波路110の上記他端とで電磁波の放射によって失われる電力に分配され、各塊体120での放射の程度は、分配される電力に応じて定められる。例えば、各塊体120で等しい放射損失が望まれる場合がある。この場合、T個の塊体120が在るとして信号生成装置800に近い方から1番目、2番目、…、t番目、…、T番目の塊体120と呼称すると、t番目(t∈{1,…,T})の塊体120が位置する部位に到達する信号の電力のうち1/(T-t+1)で表される割合の電力を放射によって損失するようにt番目の塊体120の放射の程度を調整すればよい。この場合、T番目の塊体120では、ここに到達した信号の電力のほぼ全部が放射によって損失されるため、導波路110の上記他端での電磁波の放射はほぼ無い。例えばT=5の場合、1番目、2番目、3番目、4番目の各塊体120は、それぞれ、到達した信号のうち、-7dB(5分の1),-6dB(4分の1),-4.8dB(3分の1),-3dB(2分の1)を電磁波として放射し、5番目の塊体120は、可能な限り、到達した信号の全電力を電磁波として放射する。
【0046】
上述の例によるとt番目の塊体120に到達する信号の電力と放射損失の割合はtの増大とともに大きくなるため、tの増大に伴いt番目の塊体120では放射電力が大きくなるように塊体120の形状や大きさなどが選定される。
【0047】
無線アンテナ100では、t番目(t∈S,Sは集合{1,…,T}の空集合を除く予め定められた部分集合である)の塊体120の密着状態の保持が恒久的な方法でなされなければ、導波路110の一部を電磁波の放射部として機能させるt番目の塊体120の密着状態はいつでも解消可能である。つまり、導波路110の一部を電磁波の放射部として機能させる必要のある期間ではt番目の塊体120の密着状態は保持され続けるが、当該必要が無くなった場合、放射部として機能する部位のt番目の塊体120の密着状態が解消される。密着状態が解消された部位は、電磁波の放射部としての機能を失うとともに導波路として機能する。このため、サービスエリアの変更に応じて電磁波の放射部の位置、つまり塊体120を導波路110に取り付ける位置を容易に変更することができる。
【0048】
上述の無線アンテナ100は、送信用のアンテナとしてではなく、受信用のアンテナとしても使用できる。この場合、例えば、導波路110の上記一端には、信号生成装置800に替えて受信装置が接続される。例えば携帯電話から発せられた電磁波は受信部(つまり、塊体120である)で吸収され、導波路110によって受信装置に伝達される。3dBの損失は、受信部で吸収された電磁波が導波路110の上記一端と上記他端とに向かって分配されることによって発生する。導波路110の上記一端には、信号生成装置800に替えて送信機能と受信機能の両方を持つ送受信装置が接続されてもよい。この他、(1)上記一端に信号生成装置800が接続されている導波路110の上記他端に受信装置を接続する構成も採用できるし、(2)上記一端に送受信装置が接続されている導波路110の上記他端に受信装置を接続する構成も採用できるし、(3)無線アンテナ100の上記一端と上記他端のそれぞれに受信装置を接続する構成も採用できるし、(4)無線アンテナ100の上記一端と上記他端のそれぞれに送受信装置を接続する構成も採用できる。特に、(2),(3),(4)の構成によると、図示しない合成装置が導波路110の両端に接続された装置の受信機能で受信した電磁波を合成することによって、上述の3dBの損失を解消することができる。
【0049】
<第1実施形態の実施例>
第1実施形態の実施例である28GHz帯における無線アンテナ100について電磁界解析の結果とともに説明する。28GHzは、第五世代移動通信システムにおいて10Gbps程度の無線通信を実現するために使用されている周波数である。
【0050】
図12は実施例に係る無線アンテナ100を示している。図12に示す無線アンテナ100は2個の塊体120を持っている。導波路110は細長い直方体の形状を持っている。一方の塊体120の周期構造120pの大きさおよび形状は、他方の塊体120の周期構造120pの大きさおよび形状と同じである。一方の塊体120は一方の長辺側面111上に固定されており、他方の塊体120は他方の長辺側面111上に固定されている。導波路110の一端から一方の塊体120までの距離は、導波路110の一端から他方の塊体120までの距離と同じである。導波路110および塊体120の寸法は図12に示したとおりである。電磁界解析において、簡単のために、導波路110と塊体120の比誘電率を同一値(具体的には、2.1)に設定し、軌条部120dの総数を5に設定し、さらに、ラインアンドスペースのデューティー比を0.5に設定した。電磁界解析において、周期構造120pの周期Aが設計パラメータである。
【0051】
周期構造120pの幅(20mm)が導波路110の幅(7mm)よりも大きい理由は、周期構造120pから放射される電磁波をできるだけ平面波に近づけるためである。周期構造120pは、導波路110を伝播する電磁波にとって巨視的に散乱体として働くので、周期構造120pの大きさが小さいほど、散乱体から放射される電磁波は一点から放射される球面波に近づく。球面波の場合、図12の紙面に垂直な方向(つまり、導波路110の長手方向および法線方向と直交する方向)に放射される電磁波(便宜的に、ここでは不要放射波と称する)の量が増える。特に、散乱体の大きさが波長より小さくなる場合にこの効果は顕著である。式(1)の導出において不要放射波の影響を加味していないので、不要放射波が多い場合、放射方向の式(3)からの誤差が大きくなってしまう。この誤差を小さくするために、周期構造120pの幅はできる限り広いことが望ましい。電磁界解析の対象である実施例において、周期構造120pの幅を、電磁波の波長の2倍程度の値(20mm)に設定した。
【0052】
上述の条件において、導波路110を伝播するモードの等価屈折率Neqは、電磁界解析によって1.365と求まる。式(3)にNeqを代入すると、放射角θと周期Aとの関係は図13に示すとおりである。図13から、所望の放射角θを得るために必要な周期Aを導出できる。例えば、θ=0°の方向(つまり、導波路110の法線方向)に電磁波を放射させたい場合、周期Aは8mmである。周期Aが8mmである場合の電磁波の伝播の様子を電磁界解析した結果を図14(a)に示す。放射角θは7°であり、目標値の0°に近い値を実現されている。また、周期Aが16mmである場合、図14(b)に示すように放射角θは45°であり、図13から計算される放射角θに一致している。図13から計算される放射角θと電磁界解析によって得られる放射角θとの差異は、導波路110の長手方向および法線方向と直交する方向に理想的に無限に広がっているべき周期構造120pの幅が実際には有限な幅(20mm)であることに基づく。
【0053】
電磁界解析の結果から、第1実施形態によって、導波路110の法線方向により近い方向に最も強く電磁波を放射できることが分かる。また、周期構造120pの周期Aを変更することによって放射角θを変更することも可能であることが分かる。導波路110と周期構造120pの各パラメータ(溝120aの数を含む)を変更しても、放射原理が変更されることはないので、放射角θについて同様の結果が得られる。これらのパラメータは、主として放射率(塊体120から放射される前の導波路110を伝播する電磁波と塊体120から放射される電磁波との電力の比)に影響を与える。このため、この点を設計要件として考慮してパラメータを決定すればよい。実施例では導波路110の上下に塊体120を配置したので、導波路110の上下方向に電磁波が放射する。どちらか一方に電磁波を放射させたい場合には、塊体120を導波路110の片側に取り付ければよい。
【0054】
<第2実施形態>
第1実施形態で説明した構造によると、塊体120と導波路110の境界で導波路110を伝播する電磁波のモードの等価屈折率および特性インピーダンスが変化するので、反射波および放射波が生じる。特に、放射波の位相は周期構造120pによって意図して放射される電磁波の位相と異なるので、放射波が、式(3)によって得られる放射方向において建設的に干渉して生じる所望の電磁波と干渉し、この結果、当該電磁波の放射角に意図せぬ擾乱を与える可能性を否定できない。したがって、塊体120と導波路110の境界における等価屈折率および特性インピーダンスの変化を小さくする必要がある。第2実施形態として、等価屈折率および特性インピーダンスの変化を小さくするための構造を説明する。第1実施形態と第2実施形態との相違点のみを説明する。その他の技術事項については第1実施形態の説明を参照されたい。
【0055】
第2実施形態では、導波路110の長手方向における塊体120の両端のそれぞれが、導波路110の長手方向に先細りになるテーパ構造を持っている。例えば、図15に示すように、基部120vの導波路110の長手方向における両端が、z軸方向の長さ(つまり、高さ)を変えることなく、y軸方向の長さ(つまり、幅)を減少させながら、導波路110の長手方向に伸びている。あるいは、図16に示すように、基部120vの導波路110の長手方向における両端が、y軸方向の長さ(つまり、幅)を変えることなく、z軸方向の長さ(つまり、高さ)を減少させながら、導波路110の長手方向に伸びている。図示しないが、基部120vの導波路110の長手方向における両端は、y軸方向の長さ(つまり、幅)を減少させながら、且つ、z軸方向の長さ(つまり、高さ)を減少させながら、導波路110の長手方向に伸びていてもよい。テーパ構造の長さLは、反射および不要な放射を十分に低減できる値として、電磁界解析によって適宜に設定される。また、図15,16では、線形のテーパを例示したが、放物線、指数関数などの任意の曲線のテーパを採用してもよい。テーパ構造によって、導波路110を伝播する電磁波のモードの等価屈折率および特性インピーダンスが徐々に変化するので、前述の反射および不要な放射を低減することができる。
【0056】
<第3実施形態>
第3実施形態として、放射方向を動的に変更することができる機構を説明する。第1実施形態と第3実施形態との相違点のみを説明する。その他の技術事項については第1実施形態の説明を参照されたい。
【0057】
第3実施形態では、無線アンテナ100は塊体120の温度を変えることができる温度制御装置400を持っている。塊体120の側面(この例では、基部120vの側面)に熱抵抗の小さいプレート150(例えば金属板)が取り付けられており、プレート150の一端は伝導路160の一端に接続されており、伝導路160の他端は温度制御装置400に接続されている。温度制御装置400はプレート150への印可温度を調整でき、したがって、塊体120の温度を変更することができる。一般に、誘電体の誘電率(あるいは屈折率)は温度依存性を持つ。塊体120の温度を変えることによって、導波路110および塊体120を伝播する電磁波のモードの等価屈折率が変化する。式(3)によると、等価屈折率が変化すると放射角が変化する。この関係に従って放射角を動的に変更させることができる。
【0058】
温度制御装置400が例えば電源である場合、伝導路160は導電線であり、プレート150は抵抗加熱の原理によって発熱する。プレート150の温度は電流値を変更することによって変更できる。
温度制御装置400が例えば熱交換器あるいはチラー(chiller)である場合、伝導路160は、熱交換によって加温あるいは冷却された媒体が流れる流路であり、プレート150と媒体との間の熱移動によって加温または冷却される。プレート150の温度は熱交換器またはチラーの温度制御によって変更できる。
【0059】
<第3実施形態の変形例1>
一般に誘電率が高くなると誘電正接が大きくなるので、長期間に亘って塊体120から電磁波を放射していると、塊体120に誘電損失に因る熱エネルギーが発生する。この熱エネルギーによって塊体120の温度が上昇し、放射方向が意図した方向からずれる可能性がある。環境温度の変化あるいは直射日光によって、塊体120の温度が変化し、放射方向が意図した方向からずれる可能性もある。したがって、温度制御装置400によって、塊体120の温度を一定に保つ制御を行ってもよい。
【0060】
<第3実施形態の変形例2>
第3実施形態で説明した温度制御装置400と伝導路160は必須ではない。この変形例2では、図示しないが、塊体120(この例では、基部120vの側面)に熱抵抗の小さい金属製ヒートシンク(heat sink)が取り付けられる。ヒートシンクは、塊体120の温度上昇の抑制に有用である。図5(a)に示す周期構造120pはそれ自体が熱放射機能を持つが、熱抵抗の小さい金属製ヒートシンクを塊体120に取り付けることによって、さらに効率的な熱放射が可能である。また、図5(c)に示す周期構造120pによると熱放射が不十分であるので、熱抵抗の小さい金属製ヒートシンクを塊体120に取り付けることによって効率的な熱放射が可能になる。さらに、金属製ヒートシンクは電磁シールドの機能も持つので、ヒートシンクの形状およびヒートシンクの塊体120への取り付け位置を最適化することによって、望ましくない放射方向への電磁波の放射を抑制できる。
【0061】
<第4実施形態>
第4実施形態として、放射方向を動的に変更することができる機構を説明する。第1実施形態と第4実施形態との相違点のみを説明する。その他の技術事項については第1実施形態の説明を参照されたい。
【0062】
図18,19,20に示すように、塊体120は、基部120vと、それぞれ基部120vから独立する有体物である複数の軌条部120dを含む。複数の軌条部120dは、互いに同じ大きさと互いに同じ形状を持っている。各軌条部120dは機械的構造によって基部120vに取り付けられる。基部120vは、その上面に、複数の固定具を具備している。この例では、各固定具は、基部120vの上面に固定されている一対の円柱状凸部120kである。一対の円柱状凸部120kは基部120vの幅方向の両端部に位置しており、複数の固定具は導波路110の長手方向に等間隔に一列に並んでいる。各軌条部120dは、その下面の両端部のそれぞれに、円柱状凸部120kを挿入できる穴120hを持っている。軌条部120dは、穴120hに円柱状凸部120kを差し込むことによって、任意の固定具に取り付けることができる。この例では、導波路110の長手方向において隣り合う軌条部120dの間隔はほぼ0である。複数の軌条部120dは、等間隔に基部120vに取り付けられ、この結果、周期構造120pを構成する。第4実施形態の構成によると、種々の周期構造120pを実現でき、例えば、図19に示すように、1個の軌条部120dを一つおきに基部120vに設置することもできるし、図20に示すように、2個の軌条部120dを二つおきに基部120vに設置することもできる。各軌条部120dは基部120vから取り外すことができるので、所望の放射方向に応じて周期構造120pを容易に再構成できる。軌条部120dは直方体に限定されず、その断面形状が第1実施形態で説明した関数を満たせばよく、軌条部120dは例えばその断面が三角形あるいは台形である柱体であってもよい。さらに、第4実施形態の構成によると、導波路110の長手方向において隣り合う軌条部120dの間隔はほぼ0であるから、すべての軌条部120dを基部120vに取り付けることによって、周期構造120pを持たない塊体120を実現することもできる。
【0063】
図18,19,20に示す例ではすべての軌条部120dが基部120vから独立する有体物であったが、そのような例に限定されず、複数の軌条部120dの一部が基部120vに固定されており、残りの軌条部120dが基部120vから独立する有体物であってもよい。図21に示す例では、複数の第1軌条部120d1が基部120vに等間隔で固定されており、複数の第2軌条部120d2が基部120vから独立する有体物である。複数の第2軌条部120d2は保持具170によって等間隔に保持されている。複数の第1軌条部120d1は第1周期構造120p1を構成している。複数の第2軌条部120d2は、図示しないスライド機構によって第1周期構造120p1に挿入され、この結果、複数の第1軌条部120d1と複数の第2軌条部120d2が互い違いに等間隔に一列に並び、第2周期構造120p2が構成される。このように、複数の第2軌条部120d2の抜き差しによって、第1周期構造120p1から第2周期構造120p2に、あるいは、第2周期構造120p2から第1周期構造120p1に、切り替えることができる。
【0064】
<他の実施形態>
図22を参照して、本発明に関連する他の実施形態を説明する。図22に示すように、互いに同じ大きさと互いに同じ形状を持っている複数の塊体120を、式(1)を満たす周期Aで、導波路110に設置してもよい。ただし、隣り合う塊体120の間隔をBとし、導波路110の長手方向における各塊体120の長さをCとして、A=B+Cが成立する。各塊体120の幅は、導波路110の幅と一致してもよいし、導波路110の幅より大きくてもよいし、導波路110の幅より小さくてもよい。各塊体120は直方体に限定されず、その断面形状が第1実施形態で説明した関数を満たせばよく、各塊体120は例えばその断面が三角形あるいは台形である柱体であってもよい。
【0065】
<補遺1>
上述の各種の実施形態およびその変形例に開示された技術的特徴は互いに排他的であるとは限らない。技術的観点から矛盾の無い限り、或る実施形態あるいはその変形例の技術的特徴を他の実施形態あるいはその変形例の技術的特徴に適用してもよい。
【0066】
本願の出願時の請求の範囲に記載されたクレームは、この明細書で開示された全ての発明を余すところなく網羅的にクレームしているとは限らない。この点に関して、本願の出願人が、本願の出願時にクレームされていない発明について特許を受ける権利を出願前に放棄したと理解あるいは解釈してはならない。本願の出願を受理した国または地域の法規あるいは条約が許す限り、本願の出願人は、本願においてクレームされていない発明について特許を受ける権利、当該発明のために分割出願する権利、補正によって当該発明をクレームする権利、その他一切の権利を留保する。しかし、本願の出願人が明示的かつ確定的に反対の意思表示をしたときは、この限りではない。
【0067】
別の観点に基づく本発明の要約の一例は下記のとおりである。
【0068】
第1の発明は、ミリ波帯または準ミリ波帯の信号を送受信可能な無線アンテナであって、誘電体で形成されたケーブル状の導波路と、誘電体で形成された塊体を含む。導波路の誘電率は、塊体を除く導波路の周囲の誘電率よりも大きい。塊体は、導波路上に、または、導波路の近傍に、位置している。塊体は、誘電率が導波路の長手方向において周期的に変化する周期構造を有している。
【0069】
第2の発明は、第1の発明において、周期構造の周期をAとし、導波路を伝播する電磁波が塊体から最も強く放射される放射方向と塊体の位置における導波路の法線方向とがなす角をθとし、導波路を伝播する電磁波の波長をλgとし、塊体から放射された電磁波の自由空間における波長をλ0として、次式が成立することを特徴とする。
【数3】
【0070】
第3の発明は、第1の発明または第2の発明において、導波路の長手方向と垂直であり且つ導波路の法線方向と垂直である幅方向における塊体の長さが、導波路の幅と一致していないことを特徴とする。
【0071】
第4の発明は、第1の発明から第3の発明のいずれかにおいて、導波路の長手方向における塊体の両端のそれぞれが、導波路の長手方向に先細りになるテーパ構造を持っていることを特徴とする。
【0072】
第5の発明は、第1の発明から第4の発明のいずれかにおいて、さらに、周期構造の周期を機械的に変えることのできる周期構造変更装置を含むことを特徴とする。
【0073】
第6の発明は、第1の発明から第5の発明のいずれかにおいて、さらに、塊体の温度を変えることのできる温度制御装置を含むことを特徴とする。
【0074】
第7の発明は、ミリ波帯または準ミリ波帯の信号を送受信可能な無線アンテナであって、誘電体で形成されたケーブル状の導波路と、アンテナ機能部を含む。アンテナ機能部は、それぞれ誘電体で形成された複数の塊体を含む。導波路の誘電率は、アンテナ機能部を除く導波路の周囲の誘電率よりも大きい。アンテナ機能部は、上記導波路上に、または、上記導波路の近傍に、位置している。複数の塊体は、導波路の長手方向に等間隔に並んでいる。複数の塊体のうち隣り合う塊体の間隔をBとし、導波路の長手方向における複数の塊体のそれぞれの長さをCとし、A=B+Cとし、導波路を伝播する電磁波がアンテナ機能部から最も強く放射される放射方向とアンテナ機能部の位置における導波路の法線方向とがなす角をθとし、導波路を伝播する電磁波の波長をλgとし、アンテナ機能部から放射された電磁波の自由空間における波長をλ0として、次式が成立する。
【数4】
【0075】
第8の発明は、無線アンテナと通信端末とを含む無線通信システムであって、無線アンテナは、誘電体で形成されたケーブル状の導波路と、誘電体で形成された塊体を含む。導波路の誘電率は、塊体を除く導波路の周囲の誘電率よりも大きい。塊体は、導波路上に、または、導波路の近傍に、位置している。塊体は、誘電率が導波路の長手方向において周期的に変化する周期構造を有している。通信端末は、通信端末のアンテナで、塊体から放射された電磁波を受信し、塊体は、通信端末のアンテナからの電磁波を受信することを特徴とする。第8の発明において無線アンテナは、第1の発明から第7の発明のいずれであってもよい。
【0076】
<補遺2>
例示的な実施形態を参照して本発明を説明したが、当業者は本発明の範囲から逸脱することなく、様々な変更を行い、その要素を均等物で置き換えることができることを理解するであろう。さらに、本発明の本質的な範囲から逸脱することなく、特定のシステム、デバイス、またはそのコンポーネントを本発明の教示に適合させるために、多くの修正を加えることができる。したがって、本発明は、本発明を実施するために開示された特定の実施形態に限定されるものではなく、添付の請求の範囲に含まれるすべての実施形態を含むものとする。
【0077】
さらに、「第1」、「第2」などの用語の使用は、それがもしあれば、順序や重要性を示すものではなく、「第1」、「第2」などの用語は要素を区別するために使用される。本明細書で使用される用語は、実施形態を説明するためのものであり、本発明を限定することを意図するものでは決してない。用語「含む」とその語形変化は、本明細書および/または添付の請求の範囲で使用される場合、言及された特徴、ステップ、操作、要素、および/またはコンポーネントの存在を明らかにするが、一つ以上の他の特徴、ステップ、操作、要素、コンポーネント、および/またはそれらのグループの存在または追加を排除しない。「および/または」という用語は、それがもしあれば、関連するリストされた要素の一つ以上のありとあらゆる組み合わせを含む。請求の範囲および明細書において、特に明記しない限り、「接続」、「結合」、「接合」、「連結」、またはそれらの同義語、およびそのすべての語形は、例えば互いに「接続」または「結合」されているか互いに「連結」している二つの間の一つ以上の中間要素の存在を必ずしも否定しない。請求の範囲および明細書において、「任意」という用語は、それがもしあれば、特に明記しない限り、全称記号∀と同じ意味を表す用語として理解されるべきである。例えば、「任意のXについて」という表現は「すべてのXについて」あるいは「各Xについて」と同じ意味を持つ。
【0078】
特に断りが無い限り、本明細書で使用されるすべての用語(技術用語および科学用語を含む)は、本発明が属する分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。さらに、一般的に使用される辞書で定義されている用語などの用語は、関連技術および本開示の文脈におけるそれらの意味と一致する意味を有すると解釈されるべきであり、明示的に定義されていない限り、理想的にまたは過度に形式的に解釈されるものではない。
【0079】
本発明の説明において、多くの技法およびステップが開示されていることが理解されるであろう。これらのそれぞれには個別の利点があり、それぞれ他の開示された技法の一つ以上、または場合によってはすべてと組み合わせて使用することもできる。したがって、煩雑になることを避けるため、本明細書では、個々の技法またはステップのあらゆる可能な組み合わせを説明することを控える。それでも、明細書および請求項は、そのような組み合わせが完全に本発明および請求項の範囲内であることを理解して読まれるべきである。
【0080】
以下の請求項において手段またはステップと結合したすべての機能的要素の対応する構造、材料、行為、および同等物は、それらがあるとすれば、他の要素と組み合わせて機能を実行するための構造、材料、または行為を含むことを意図する。
【0081】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更と変形が許される。選択され且つ説明された実施形態は、本発明の原理およびその実際的応用を解説するためのものである。本発明は様々な変更あるいは変形を伴って様々な実施形態として使用され、様々な変更あるいは変形は期待される用途に応じて決定される。そのような変更および変形のすべては、添付の請求の範囲によって規定される本発明の範囲に含まれることが意図されており、公平、適法および公正に与えられる広さに従って解釈される場合、同じ保護が与えられることが意図されている。
【符号の説明】
【0082】
1 無線通信システム
100 無線アンテナ
110 導波路
111 長辺側面
112 光ファイバー
113 短辺側面
120 塊体
150 プレート
160 伝導路
170 保持具
200 通信端末
310 取付部品
320 スライダー
330 搬送ロボット
350 分岐導波管
360 コネクタ
400 温度制御装置
800 信号生成装置
920 誘電体アタッチメント
110a 線路
120a 溝
120b 相対的に高い部位
120c 相対的に低い部位
120d 軌条部
120d1 第1軌条部
120d2 第2軌条部
120h 穴
120k 円柱状凸部
120p 周期構造
120p1 第1周期構造
120p2 第2周期構造
120s 誘電体
120v 基部
370a アンテナ装置
370b アンテナ装置
380a 光電変換器
380b 光電変換器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22