(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172067
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】壁面緑化システム
(51)【国際特許分類】
A01G 20/00 20180101AFI20231129BHJP
A01G 9/02 20180101ALI20231129BHJP
A01G 27/00 20060101ALI20231129BHJP
A01G 27/02 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
A01G20/00
A01G9/02 B
A01G9/02 E
A01G27/00 502W
A01G27/00 503C
A01G27/02 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022083622
(22)【出願日】2022-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000178583
【氏名又は名称】山崎産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】工藤 善
(72)【発明者】
【氏名】山口 毅志
(72)【発明者】
【氏名】薮内 裕久
【テーマコード(参考)】
2B022
2B327
【Fターム(参考)】
2B022AB04
2B022AB08
2B327ND02
2B327NE12
2B327QB03
2B327QB22
2B327TA04
2B327TA09
2B327TA27
2B327UA09
2B327UA20
2B327UA21
2B327UA22
2B327UA30
(57)【要約】
【課題】雨水を少ないスペースで十分に貯水でき、必要に応じて上水や中水も利用することができ、灌水を自動で行うことができる壁面緑化システムを提供する。
【解決手段】壁面緑化システム1は、壁面に沿って配置され、植物を保持可能な植栽パネル10と、植栽パネル10と壁面との間に配置され、水を貯水可能な貯水空間20aと、貯水空間20aの上部に設けられた上部開口部20bと、貯水空間20aの下部に設けられた下部開口部20cと、を有する貯水パネル20と、上部開口部20bと連通して設けられ、雨水が流入する上部配管41と、上部開口部20bと連通して設けられ、外部へ開放された空気口43、44、45、46と、下部開口部20cと連通して設けられる外部タンク70と、外部タンク70に貯水された水を植栽パネル10へ灌水する灌水部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁面に沿って配置され、植物を保持可能な植栽パネルと、
前記植栽パネルと壁面との間に配置され、水を貯水可能な貯水空間と、前記貯水空間の上部に設けられた上部開口部と、前記貯水空間の下部に設けられた下部開口部と、を有する貯水パネルと、
前記上部開口部と連通して設けられ、雨水が流入する上部配管と、
前記上部開口部と連通して設けられ、外部へ開放された空気口と、
前記下部開口部と連通して設けられる外部タンクと、
前記外部タンクに貯水された水を前記植栽パネルへ灌水する灌水部と、
を備える壁面緑化システム。
【請求項2】
請求項1に記載の壁面緑化システムにおいて、
前記貯水パネルの少なくとも前記貯水空間を構成する部分は、前記植栽パネルを正面から見た状態において前記植栽パネルに隠れる範囲に配置されており、
前記植栽パネル及び前記貯水パネルは、鉛直方向と水平方向の少なくとも一方に複数並べて配置されること、
を特徴とする壁面緑化システム。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の壁面緑化システムにおいて、
前記外部タンクには、上水からの水を供給可能であること、
を特徴とする壁面緑化システム。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の壁面緑化システムにおいて、
前記灌水部は、
前記外部タンクに貯水された水を揚水するポンプと、
前記ポンプの動作を制御する制御部と、
前記ポンプによって前記外部タンクから送られる水を前記植栽パネルへ吐出する吐出部と、を備えること、
を特徴とする壁面緑化システム。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載の壁面緑化システムにおいて、
前記上部配管には、通過する雨水の量を調整する調整部が設けられていること、
を特徴とする壁面緑化システム。
【請求項6】
請求項1又は請求項2に記載の壁面緑化システムにおいて、
前記空気口の少なくとも1つは、雨水が通る流路と空気が通る流路とを備える二重管構造であること、
を特徴とする壁面緑化システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、建築物の壁面に沿って植栽を可能とする壁面緑化システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
建築物の壁面に沿って植栽を可能とする植物栽培装置が特許文献1に記載されている。特許文献1の植物栽培装置における水の供給源としては、水道、降水、貯留降水、又は、植物栽培装置から排水された水系液体、植物栽培装置から排水された水系液体のポンプ等による循環、或いは、これらの組み合わせが例示されている。しかし、具体的な給水系の構成は示されていない。
【0003】
また、特許文献2には、壁面に設けた緑化パネルの裏面側に植栽に給水する給水タンクを設ける技術が開示されている。
【0004】
さらに、特許文献3には、複層建築物に敷設する立体庭園の灌水において、雨水、中水又は上水を自動で補充制御する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-66442号公報
【特許文献2】特開2010-17161号公報
【特許文献3】特開2015-37380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の植物栽培装置を採用する場合、雨水や上水(水道水)を利用できるとしても、保水体に水を保持できるのみであり、保水体が乾燥した場合には、その都度給水を行う必要があった。
また、特許文献2の構成では、給水タンクによってある程度の水を保持することができるが、緑化パネルが多数設けられる場合には、給水タンクへの水の補給を個々に行う必要があった。また、特許文献2の構成では、雨水を導入しようとすると、降水量が多い場合には、給水タンクから水があふれるおそれがあり、雨水を利用することが難しかった。
さらに、特許文献3の構成は、壁面緑化に対応していない。また、特許文献3の構成では、貯留槽にためることができる水量を多くするためには、貯留槽の容量を大きくする必要があり、そのスペースを確保する必要があり、貯留槽の容量を大きくできない場合、雨水を十分に利用することができなかった。
【0007】
本開示の課題は、雨水を少ないスペースで十分に貯水でき、必要に応じて上水や中水も利用することができ、灌水を自動で行うことができる壁面緑化システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、以下のような解決手段により、前記課題を解決する。なお、理解を容易にするために、本開示の実施形態に対応する符号を付して説明するが、これに限定されるものではない。
【0009】
第1の開示は、例えば、
図1、
図2、
図4等のように、壁面に沿って配置され、植物を保持可能な植栽パネル(10)と、前記植栽パネル(10)と壁面との間に配置され、水を貯水可能な貯水空間(20a)と、前記貯水空間(20a)の上部に設けられた上部開口部(20b)と、前記貯水空間(20a)の下部に設けられた下部開口部(20c)と、を有する貯水パネル(20)と、前記上部開口部(20b)と連通して設けられ、雨水が流入する上部配管(41)と、前記上部開口部(20b)と連通して設けられ、外部へ開放された空気口(43、44、45、46)と、前記下部開口部(20c)と連通して設けられる外部タンク(70)と、前記外部タンク(70)に貯水された水を前記植栽パネル(10)へ灌水する灌水部(71、74、80、81)と、を備える壁面緑化システム(1)である。
【0010】
第2の開示は、第1の開示に記載の壁面緑化システム(1)において、例えば、
図1のように、前記貯水パネル(20)の少なくとも前記貯水空間(20a)を構成する部分は、前記植栽パネル(10)を正面から見た状態において前記植栽パネル(10)に隠れる範囲に配置されており、前記植栽パネル(10)及び前記貯水パネル(20)は、鉛直方向と水平方向の少なくとも一方に複数並べて配置されること、を特徴とする壁面緑化システム(1)である。
【0011】
第3の開示は、第1の開示又は第2の開示に記載の壁面緑化システム(1)において、例えば、
図1、
図5、
図6等のように、前記外部タンク(70)には、上水からの水を供給可能であること、を特徴とする壁面緑化システム(1)である。
【0012】
第4の開示は、第1の開示から第3の開示までのいずれかに記載の壁面緑化システム(1)において、例えば、
図1、
図5、
図6等のように、前記灌水部(71、74、80、81)は、前記外部タンク(70)に貯水された水を揚水するポンプ(74)と、前記ポンプ(74)の動作を制御する制御部(71)と、前記ポンプ(74)によって前記外部タンク(70)から送られる水を前記植栽パネル(10)へ吐出する吐出部(81)と、を備えること、を特徴とする壁面緑化システム(1)である。
【0013】
第5の開示は、第1の開示から第4の開示までのいずれかに記載の壁面緑化システム(1)において、例えば、
図1、
図5、
図6等のように、前記上部配管(41)には、通過する雨水の量を調整する調整部(42)が設けられていること、を特徴とする壁面緑化システム(1)である。
【0014】
第6の開示は、第1の開示から第5の開示までのいずれかに記載の壁面緑化システム(1)において、例えば、
図7のように、前記空気口(43、44、45、46)の少なくとも1つは、雨水が通る流路と空気が通る流路とを備える二重管構造であること、を特徴とする壁面緑化システム(1)である。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、雨水を少ないスペースで十分に貯水でき、必要に応じて上水や中水も利用することができ、灌水を自動で行うことができる壁面緑化システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本開示による壁面緑化システム1の正面図である。
【
図2】壁面緑化システム1の主要部を示す斜視図である。
【
図4】
図2の斜視図から植栽パネル10を一部除去した状態を示す斜視図である。
【
図5】
図1の正面図から植栽パネル10及び水分センサ72を除去した状態を示す正面図である。
【
図6】貯水パネル20の内部等の水や空気が通る管路を示す断面図である。
【
図7】雨水流路と空気流路とを分けて構成した例を例示する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示を実施するための最良の形態について図面等を参照して説明する。
【0018】
(実施形態)
図1は、本開示による壁面緑化システム1の正面図である。
図2は、壁面緑化システム1の主要部を示す斜視図である。
なお、
図1を含め、以下に示す各図は、模式的に示した図であり、各部の大きさ、形状は、理解を容易にするために、適宜誇張したり、省略したりして示している。
また、以下の説明では、具体的な数値、形状、材料等を示して説明を行うが、これらは、適宜変更することができる。
【0019】
本実施形態の壁面緑化システム1は、植栽パネル10と、貯水パネル20と、縦樋30と、取水器31と、上部配管41と、調整部42と、空気口43、44、45、46と、下部配管51と、開閉弁52と、上水配管61と、上水弁62と、外部タンク70と、制御部71と、水分センサ72と、水位センサ73と、ポンプ74と、オーバーフロー配管75と、灌水配管80と、灌水チューブ81と、集水樋90とを備えている。
【0020】
植栽パネル10は、壁面に沿って配置され、植物を保持可能に構成されている。植栽パネル10は、建築物にアンカーボルト等によって固定された不図示のベース金具に対して固定される。
植栽パネル10は、例えば、正面から見て50×50cmの略正方形形状に形成されており、複数枚を鉛直方向や水平方向に並べて配置することにより、建築物の壁面に沿って設置される。本実施形態では、植栽パネル10を鉛直方向に4段配列し、水平方向に4列配列した構成を例示したが、この配列数は、設置する壁面の大きさに対応して適宜変更可能である。すなわち、植栽パネル10(及び後述する貯水パネル20)は、鉛直方向と水平方向の少なくとも一方に複数並べて配置される。
なお、
図1及び
図2では、植栽パネル10は、単純化した直方体形状として示したが、実際には、植物を保持するための構造や、水分を保持するための構造等を備えている。
【0021】
図3は、植栽パネル10の一例の分解斜視図である。
植栽パネル10は、例えば、バックパネル11と、植物保持パネル12と、保水材13とを備えて構成することができる。
バックパネル11は、植栽パネル10の背面側に設けられており、植物保持パネル12及び保水材13を取り付け可能な構成を備えている。また、バックパネル11は、後述する灌水チューブ81が配置される溝部11aを備えている。この溝部11aに灌水されると、保水材13や植物保持パネル12に保持された植物に水が適切に分配される。
本実施形態では、
図3に示した構成の植栽パネル10を用いている。より具体的には、この植栽パネル10は、山崎産業株式会社製の花卉用パネルとして市販されているものを用いた。また、特開2013-66442号公報に記載されている植物栽培装置も、植栽パネル10として用いることができる。さらに、植栽パネル10としては、上記例示したものに限らず、より簡素な形態であってもよく、公知の植栽パネル(緑化パネル)を適宜利用することができる。
【0022】
図4は、
図2の斜視図から植栽パネル10を一部除去した状態を示す斜視図である。
図4では、貯水パネル20の一部を切断して貯水空間20aを示している。
図5は、
図1の正面図から植栽パネル10及び水分センサ72を除去した状態を示す正面図である。
図6は、貯水パネル20の内部等の水や空気が通る管路を示す断面図である。
貯水パネル20は、植栽パネル10と不図示の建築物の壁面との間に配置され、植栽パネル10と同様に不図示のベース金具に対して固定される。植栽パネル10及び貯水パネル20を同じベース金具に対して固定する形態とすることにより、施工性及び生産性を向上することができる。
【0023】
貯水パネル20は、水を貯水可能な貯水空間20aと、貯水空間20aの上部に設けられた上部開口部20bと、貯水空間20aの下部に設けられた下部開口部20cとを有しており、例えば、樹脂成型品として作製することができる。上部開口部20b及び下部開口部20cは、筒状に突出して設けられている。貯水パネル20が鉛直方向に並べて配置される部位では、
図4及び後述の
図7に示すように、上部開口部20bと下部開口部20cとが接続される。なお、各図では、理解を容易にするため上部開口部20bと下部開口部20cとが単に突き合わせて接続している図として示した。しかし、実際の上部開口部20bと下部開口部20cとが接続される部位は、水や空気が漏れることのないようにシール材や接着剤等を用いて接続されている。また、他の管路等の接続部分についても同様である。
【0024】
貯水パネル20の貯水空間20aを構成する部分は、正面から見た形状が略8角形形状をしており、この部分は、植栽パネル10を正面から見た状態において植栽パネル10に隠れる範囲に配置されており、植栽パネル10上部開口部20bと下部開口部20cのパイプ状の部分のみが、正面から見える。ここで「隠れる範囲」とは、植栽パネル10側からみて、全く見えなくなる場合のほかに、視覚上実質的に貯水パネル20が感得されにくくなることも含む。貯水パネル20の形状は、植栽パネル10を観察する視界に貯水パネル20が感得され難くできるものなら特に問わないが、方形、多角形、円形、楕円形等が例示できる。また、空気溜りが貯水パネル20の上部に生じにくくするために、貯水パネル20の断面積が貯水パネル20上方に向かって、徐々に狭まる形状としてもよい。
【0025】
本実施形態では、各植栽パネル10の背面側のすべてに貯水パネル20が配置されている。したがって、植栽パネル10及び貯水パネル20の組み合わせが、鉛直方向に4段配列され、水平方向に4列配列されている。しかし、この形態に限られず、例えば、植栽パネル10の一部の背面側に貯水パネル20を設けてもよい。
【0026】
縦樋30は、略鉛直方向に沿って延在しており、建築物の屋根等から集められた雨水が上方から下方へ向かって流下する筒状の雨樋である。取水器31よりも下方に接続されている縦樋30を流下した雨水は、公共系の下水道に直接排出される。
取水器31は、縦樋30の途中に設けられており、縦樋30を流下する雨水を上部配管41へ流す。取水器31は、一般に市販されている製品を適宜用いることができる。取水器31は、所定量までの雨水については、上部配管41へ流すが、所定量を超える雨水が取水器31へ流れてくる場合、所定量を超えた分量の雨水については下方に接続されている縦樋30へ流す。また、取水器31には落葉やゴミ等を除去するフィルターが設けられている。
【0027】
上部配管41は、最上段に配列された貯水パネル20の上部開口部20bと取水器31とを連通して配置されており、取水器31から雨水を貯水パネル20へ伝える配管である。本実施形態では、上部配管41は、
図1及び
図5に示すように取水器31に近い側の2列にのみ接続されており、取水器31から遠い側の2列には接続されていない形態とした。なお、上部配管41は、全ての列に接続してもよいし、取水器31に最も近い列のみに接続してもよく、想定される降雨量や、配管の径、貯水パネル20の貯水可能量等に応じて適宜変更可能である。
【0028】
調整部42は、上部配管41の途中であって、取水器31と上部開口部20bとの間となる位置に設けられている。調整部42は、通過する雨水の量を調整することができる。したがって、調整部42によって調整された量までの雨水が上部配管41を流れることができ、その調整量を超える雨水は、取水器31の下方に接続されている縦樋30へ流される。調整部42を設けることにより、雨水の流入量を適切に調整でき、外部タンク70及び貯水パネルからの単位時間当たりの空気の排出の量と雨水の流入量とのバランスをとることができる。よって、雨水の流入量が少なすぎて貯水が進まなかったり、雨水の流入量に空気の排出量が追い付かずに空気口43、44、45、46等から雨水が溢れ出したりすることを防止でき、貯水プロセスを最適化できる。なお、調整部42は、空気の排出の量と雨水の流入量とのバランスが予め取れている配管構成のときは、省略してもよい。
【0029】
空気口43、44、45、46は、上部開口部20bと連通して設けられており、外部へ開放されている。空気口43、44は、上部配管41を介して上部開口部20bと連通している。また、空気口45、46は、上部開口部20bに直接取り付けられている。
空気口43、44、45、46は、貯水パネル20内に雨水を貯水するときに、空気を排出するために設けられている。なお、
図5では、簡単のため単に上方に開口しただけの形態を図示している。
これら空気口43、44、45、46には、設置場所の風土に応じて、虫やゴミが空気口から貯水パネル20内に侵入しないように、空気口の開口部にフィルターや防蚊ネットを設けることもできる。また、日光が直接内部に入射しないように庇を設けたり上部開口部20bの先端にL字形をした(90度曲げた)接続管を取り付けたりしてコケ等の発生を予防してもよい。
【0030】
下部配管51は、最下段に配列された貯水パネル20の下部開口部20cと外部タンク70とを連通して配置されており、貯水パネル20を通った雨水を外部タンク70へ伝える配管である。下部配管51の外部タンク70に近い位置には、開閉弁52が設けられている。
【0031】
開閉弁52は、制御部71によって開閉を制御され、外部タンク70へ流入する雨水の流路を開閉可能な弁である。
【0032】
上水配管61は、上水(水道水)が供給される水道管である。
上水弁62は、制御部71によって開閉を制御され、外部タンク70へ流入する水道水の流路を開閉可能な弁である。
【0033】
外部タンク70は、下部配管51を介して下部開口部20cと連通して設けられている。外部タンク70の配置場所は、下部開口部20cから流れてくる雨水を受けることができる位置に設置される。また、外部タンク70には、オーバーフロー配管75が上方に接続されており、外部タンク70内に規定量以上溜まった雨水は、縦樋30へと流される。
【0034】
制御部71は、壁面緑化システム1における雨水及び上水の導入と、灌水とを総合的に制御する。なお、本実施形態では、制御部71は、壁面緑化システム1における水の制御をまとめて行う形態を例示しているが、例えば、外部タンク70への雨水及び上水の導入の制御と灌水制御とをそれぞれ個別の制御部によって制御する構成としてもよい。制御部71としては、専用の制御回路を備えた壁面緑化システム1の専用品を用いてもよいし、汎用の制御機器を用いてもよいし、汎用品のコンピュータやタブレット端末等を用いてもよい。
【0035】
水分センサ72は、植栽パネル10内に配置されており、植栽パネル10内の水分の割合(含水率)を検出するセンサであり、水分の検出結果を制御部71へ送る。なお、図では水分センサ72が1カ所だけ設置されている例を例示したが、複数カ所に水分センサ72を設けてもよい。
【0036】
水位センサ73は、外部タンク70内に配置されており、外部タンク70内の水位を検出して、水位の検出結果を制御部71へ送る。
【0037】
ポンプ74は、制御部71によって動作が制御され、駆動されると外部タンク70内の水を揚水して灌水配管80へ送り出す。
【0038】
オーバーフロー配管75は、水の重力による流下を促進するために、一端が外部タンク70の上方に接続されており、他端が縦樋30に接続されている。オーバーフロー配管75は、外部タンク70側が縦樋30側よりも高く配置されていることが望ましい。
【0039】
灌水配管80は、ポンプ74と灌水チューブ81とを接続する灌水用の配管である。
灌水チューブ(吐出部)81は、植栽パネル10の上端に設けられた溝部11aに配置されている。灌水チューブ(吐出部)81は、一端が灌水配管80に接続されており、他端は閉鎖されており、途中の部位に水が適量吐出する吐出口(不図示)が設けられている。灌水チューブ81は、側面に孔が開いただけのホースやパイプ等により構成してもよいが、ドリップホース、ドリップチューブ、灌水ホース等と呼ばれて市販されている吐水孔から少しずつ散水を行うことができるものを用いることが望ましい。ドリップホース等を用いることにより、灌水チューブ81の根本側か先端側かといった場所によらず常に安定した水量の灌水が可能となる。
上述した制御部71と、ポンプ74と、灌水配管80と、灌水チューブ81とにより外部タンク70に貯水された水を植栽パネル10へ灌水する灌水部を構成している。
【0040】
集水樋90は、植栽パネル10の下方に配置されており、植栽パネル10に灌水された水の余剰分を集め、集水配管91を介して外部タンク70内へ還流する。なお、本実施形態では集水樋90を最下段部の植栽パネル10の下側に設けているが、これに限らず、植栽パネル10の各段毎や、選択した段の植栽パネル10の下側に、集水樋90を設けてもよい。
【0041】
次に、本実施形態の壁面緑化システム1における雨水及び水道水の供給と、灌水についてより詳しく説明する。
順序として、まず、外部タンク70における貯水量が
図6に示すようにオーバーフロー配管75から溢れる程度に十分にある場合から説明する。このとき、制御部71の制御によって開閉弁52が閉鎖された状態となっている。開閉弁52が閉鎖されている状態で降雨があると、雨水が取水器31から取り込まれて上部配管41へと送られる。上部配管41を通った雨水は、下方へ流れていき下部配管51が雨水で満たされると、下段の方に配置された貯水パネル20から順に徐々に貯水されていく。このとき、貯水パネル20内の空気は、空気口43、44、45、46から排出され、雨水の貯水を妨げることはない。すべての貯水パネル20内が雨水で満たされると、上部配管41内も雨水で満たされることから、それ以上の雨水は上部配管41へ流れ込むことができず、雨水は取水器31から下方の縦樋30へ流される。
【0042】
植栽パネル10内の水分量が減ると、水分センサ72が検出する水分量が低い値となる。制御部71は、水分センサ72による水分量の検出結果が所定値以下となった場合に、ポンプ74を作動させて、外部タンク70に貯水されている水が灌水配管80を介して灌水チューブ81へ送られ、植栽パネル10への灌水が実施される。
【0043】
灌水によって外部タンク70内の水位が所定の水位(所定水位1とする)よりも低下したことが水位センサ73の検出結果から得られた場合には、制御部71は、開閉弁52を開放して、貯水パネル20内に貯水されている雨水を外部タンク70内へ導入させる。そして、外部タンク70における貯水量がオーバーフロー配管75から溢れる手前の所定の水位(所定水位2とする)に達したことが水位センサ73の検出結果から得られた場合には、制御部71は、開閉弁52を閉鎖する。これにより、貯水パネル20内に貯水されている雨水の外部タンク70内への導入が停止する。
【0044】
また、晴天が続く場合等において、開閉弁52を開放しても貯水パネル20から水が供給されず,外部タンク70内の水位が所定水位1よりもさらに低い水位(所定水位3)まで下がったことが水位センサ73によって検出された場合には、制御部71は、上水弁62を開放して外部タンク70へ水道水を導入させる。この場合、外部タンク70内の水位が所定水位1に達したことが水位センサ73の検出結果から得られた場合には、制御部71は、上水弁62を閉鎖する。
なお、上記所定水位3は、外部タンク70内に殆ど水が無い状態の水位に設定されていることが望ましい。所定水位3を上記のように設定することにより、上水の供給が外部タンク70内の水量が絶対的に不足する場合にのみ行われることとなり、上水の供給を必要な範囲内のみに留め、外部タンク70及び貯水パネル20の双方に貯水される雨水を最大限に活用することができるからである。
【0045】
本実施形態の壁面緑化システム1によれば、相対的に小さな面積の植栽パネル10と貯水パネル20とを複数設置するので、施工対象の構造系に略垂直な面積の箇所さえあれば、設計上の制限なく高い自由度で設置することができる。
また、略垂直な空間を利用して貯水パネル20を設置するので、従来の技術よりも外部タンク70を小型にでき、外部タンク70の設置場所を決定する際の自由度を高めることができる。また、壁面に沿って貯水パネル20を配置するので、新たに場所を占有することなく多くの水を貯水できる。そして、建物や室内空間の形態に関わらず、高い自由度をもって植栽や給水手段を設置できる。
【0046】
一般的に、貯水量を増やすために貯水タンクを大型化すると水圧によりタンクが破損しないように大がかりな装置となる。しかし、本実施形態の壁面緑化システム1では、貯水パネル20の大きさを植栽パネル10の大きさと同程度の大きさとして複数配置することにより、簡単な構成で貯水量を増やすことができる。
本実施形態の壁面緑化システム1では、雨水を貯水パネル20及び外部タンク70に貯めて灌水に利用するので、自然資源利用の観点から、灌水の給水源として雨水を利用でき、かつ、降雨が途絶える渇水時にも植栽に安定して給水できる。
また、植栽パネル10と貯水パネル20とを正面から見た形状が略類似の形態をしており、貯水パネル20が植栽パネル10の裏面側に位置するので、植栽パネル10を観察する視界に貯水パネル20が感得され難く、景観を害することがなく、意匠上も洗練したものとすることができる。
【0047】
植栽パネル10及び貯水パネル20を複数個独立して設ける構成とするので、植栽パネル10又は貯水パネル20が破損したり故障したりしたときも、その植栽パネル10又は貯水パネル20のみを修理又は交換するだけで機能を回復でき、維持管理が容易に行える。
また、植栽パネル10や貯水パネル20をメンテナンスする際は通常、高所作業車等を用いて作業者が点検するが、植栽パネル10の植生のメンテナンスに合わせて貯水パネル20や管路系をもメンテナンスする、又は、貯水パネル20や管路系のメンテナンスに合わせて植栽パネル10をもメンテナンスする、という作業ができるので、整備を適切、効率的に行える。
そして、さらに、本実施形態の壁面緑化システム1は、建物等の壁面内部に給水・排水系の管路を埋設しないので、配管に漏水等の故障が生じた際にも建物躯体の内部への悪影響がなく、改修等のメンテナンス作業も容易である。
このように本実施形態の壁面緑化システム1は、設置やメンテナンスを簡単にでき、設置費用も含めて、壁面緑化システム1を運営するコストを削減できる。
【0048】
本実施形態の壁面緑化システム1は、外部タンク70と植栽パネル10とを系統的に分離して、外部タンク70から常時、最適の量の水を植栽パネル10に供給可能とした。これにより、雨水を植栽の育成に徒長、根腐れ等の悪影響を与えることなく貯水可能であり、植栽への水供給を最適化することが可能となり、植栽パネル10に生育する植物における生育状態を適切に管理できる。
【0049】
本実施形態の壁面緑化システム1は、灌水における余剰水を、集水樋90を経由して外部タンク70へ回収するので水を無駄にすることがなく、灌水に雨水を最大限利用できる。これにより、灌水への上水利用量を減らすことができ、地球環境保護に貢献できる。
そして、本実施形態の壁面緑化システム1は、降雨時に外部タンク70と植栽パネル10とに雨水を貯水するので、敷地外への雨水流出量を減少させることができ、豪雨時に雨水流出を遅延させることができる。これにより、都市の浸水被害軽減に貢献できる。
【0050】
(変形形態)
以上説明した実施形態に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本開示の範囲内である。
【0051】
(変形形態1)実施形態において、雨水が流下する雨水流路と空気が抜ける空気流路は、上部開口部20b及び下部開口部20cが両方の流路の機能を兼ねる形態を例示した。これに限らず、例えば、雨水流路と空気流路とを分けて構成してもよい。
図7は、雨水流路と空気流路とを分けて構成した例を例示する断面図である。なお、
図7では、空気管21の配置の概念を線で示すのみであり、この断面幅や形状等は示していない。
図7に示す例では、先に示した実施形態の構成に空気管21を追加して構成している。空気管21は、上部開口部20b及び下部開口部20cの中を通って各貯水空間20aの内部上方の空気が空気口43~46から排出できる流路を構成している。空気管21は、例えば、可撓性を有した中空チューブにより構成してもよいし、樹脂製等の配管部材により構成してもよい。
空気管21を設けて雨水流路と空気流路とを独立させることにより、雨水の流入量が多い場合であっても空気を確実に排出させることができる。
なお、
図7の例では、空気管21は、上部開口部20b及び下部開口部20cの中を通る二重管構造を例示したが、雨水流路と空気流路とを全く別の位置に配置してもよい。
【0052】
(変形形態2)実施形態において、制御部71は、水分センサ72の検出結果に基づいて灌水を行うか否かの制御を行う例を挙げて説明した。これに限らず、例えば、制御部71は、灌水時間を決められた時刻に行うタイマー制御によって灌水の制御を行ってもよい。また、制御部71は、水分センサ72による制御とタイマー制御とを組み合わせて灌水の制御を行ってもよい。
【0053】
(変形形態3)実施形態において、水道水の導入についても制御部71によって自動的に行われる例を挙げて説明した。これに限らず、例えば、水道水の導入は手作業で行うようにしてもよい。また、水道水のみに限らず、再生処理された中水を外部タンク70へ導入可能としてもよい。
【0054】
(変形形態4)実施形態において、夏場の高温が継続するときに貯水パネル20内に貯留された水が植栽パネル10に供給する水として不適格な高温(例えば、40℃以上)となることがある。この際には、外部タンク70に貯水パネル20の水を適量導きながら、これに通常は過度に高温にはならない上水を追加することで、植栽パネル10に供給する水温度を適温に調整することもできる。
【0055】
(変形形態5)実施形態において、台風等の大量の降雨が想定されるときは、外部タンク70に設けた排水バルブ(図示せず)を開いて、外部タンク70と貯水パネル20の双方を空とし、貯水し得る水の量を最大にして、公共の下水道に及ぼす排水負荷を減らすことも、必要に応じて行うようにしてもよい。
【0056】
なお、実施形態及び変形形態は、適宜組み合わせて用いることもできるが、詳細な説明は省略する。また、本開示は以上説明した各実施形態によって限定されることはない。
【符号の説明】
【0057】
1 壁面緑化システム
10 植栽パネル
11 バックパネル
11a 溝部
12 植物保持パネル
13 保水材
20 貯水パネル
20a 貯水空間
20b 上部開口部
20c 下部開口部
21 空気管
30 縦樋
31 取水器
41 上部配管
42 調整部
43 空気口
44 空気口
45 空気口
46 空気口
51 下部配管
52 開閉弁
61 上水配管
62 上水弁
70 外部タンク
71 制御部
72 水分センサ
73 水位センサ
74 ポンプ
75 オーバーフロー配管
80 灌水配管
81 灌水チューブ
90 集水樋
91 集水配管