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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172088
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】PMモータの温度推定装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/14 20160101AFI20231129BHJP
【FI】
H02P21/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022083658
(22)【出願日】2022-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】安部 義隆
(72)【発明者】
【氏名】滝口 昌司
(72)【発明者】
【氏名】野村 昌克
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505BB10
5H505DD03
5H505DD08
5H505EE41
5H505EE49
5H505GG02
5H505GG04
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ04
5H505JJ23
5H505JJ25
5H505LL01
5H505LL22
5H505LL41
5H505LL43
(57)【要約】
【課題】電圧誤差による影響を減少し、精度良くPMモータの温度推定を行う。
【解決手段】インバータ2により駆動されるPMモータ1の検出電流と、回転数検出信号と、前記検出電流が電流指令と等しくなるように電流制御器34によって電流制御を行って得られた電圧指令とを入力として、モータパラメータを同定し、同定した巻線抵抗および磁石磁束から抵抗温度、磁石温度を推定する温度推定部60と、温度推定部60で推定した磁石温度を基に、巻線の抵抗温度および磁石温度の関係から計算した巻線の推定抵抗温度と、前記温度推定部60で推定した抵抗温度の差が0となる補正電圧係数を求め、該補正電圧係数から補正電圧を算出する補正電圧計算部61と、を備え、前記巻線の抵抗温度および磁石温度の関係から計算した巻線の推定抵抗温度が、温度推定部60で推定した推定抵抗温度と一致するように、前記電圧指令を補正電圧によって補正する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバータにより駆動されるPMモータに流れる電流を検出したモータ検出電流と、前記モータの回転数を検出して求めた角周波数と、前記モータ検出電流が電流指令と等しくなるように電流制御を行って得られた電圧指令とを入力として、モータの巻線抵抗、磁石磁束を含むモータパラメータを同定し、前記同定した巻線抵抗および磁石磁束から抵抗温度、磁石温度を推定する温度推定部と、
前記温度推定部により推定された磁石温度を基に、巻線の抵抗温度および磁石温度の関係から計算した巻線の推定抵抗温度と、前記温度推定部により推定された抵抗温度の差が0となる補正電圧係数を求め、該補正電圧係数から補正電圧を算出する補正電圧計算部と、を備え、
前記巻線の抵抗温度および磁石温度の関係から計算した巻線の推定抵抗温度が、前記温度推定部により推定された推定抵抗温度と一致するように、前記温度推定部に入力される電圧指令を前記補正電圧計算部で算出された補正電圧によって補正することを特徴とするPMモータの温度推定装置。
【請求項2】
前記補正電圧計算部は、前記巻線の抵抗温度および磁石温度の関係として、前記PMモータの熱伝達の等価回路から得られる巻線の抵抗温度/磁石温度の伝達関数を用いることを特徴とする請求項1に記載のPMモータの温度推定装置。
【請求項3】
前記補正電圧計算部は、前記巻線の抵抗温度および磁石温度の関係を、巻線の抵抗温度と磁石温度が等しいとして前記巻線の推定抵抗温度を計算することを特徴とする請求項1に記載のPMモータの温度推定装置。
【請求項4】
前記補正電圧計算部は、前記温度推定部により推定された磁石温度を基に、巻線の抵抗温度および磁石温度の関係から巻線の推定抵抗温度を計算する巻線温度推定部と、
前記巻線温度推定部で計算された巻線の推定抵抗温度と前記温度推定部により推定された推定抵抗温度の差から補正電圧係数を演算する補正電圧係数演算器と、
前記モータ検出電流から電流位相ベクトルを計算する電流位相計算部と、
前記電流位相計算部で計算された電流位相ベクトルと前記補正電圧係数演算器で演算された補正電圧係数を乗算して補正電圧を算出する乗算器とを、備えたことを特徴とする請求項1又2又は3に記載のPMモータの温度推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同期モータの磁石温度推定に係り、PMモータの磁石温度、固定子巻線の抵抗温度を推定する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インバータにより駆動されるPMモータの温度推定は、電圧、電流、回転数を検出し、温度による固定子巻線抵抗、磁石磁束の変化に着目して固定子巻線と磁石温度の推定を行う方法が提案されている。
【0003】
尚、従来のモータの磁石温度推定方法は、例えば特許文献1に記載のものが存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-16226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の、検出した電圧、電流、回転数を基に温度推定を行う方法は、電圧誤差が温度推定の精度に大きく影響する。例えば温度推定に電圧指令を用いると、インバータのデッドタイム、直流電圧の変動の影響で誤差を生じる。この結果、推定温度に大きな誤差が生じる。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するものであり、その目的は、電圧誤差による影響を減少し、精度の良い温度推定が行えるPMモータの温度推定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための請求項1に記載のPMモータの温度推定装置は、
インバータにより駆動されるPMモータに流れる電流を検出したモータ検出電流と、前記モータの回転数を検出して求めた角周波数と、前記モータ検出電流が電流指令と等しくなるように電流制御を行って得られた電圧指令とを入力として、モータの巻線抵抗、磁石磁束を含むモータパラメータを同定し、前記同定した巻線抵抗および磁石磁束から抵抗温度、磁石温度を推定する温度推定部と、
前記温度推定部により推定された磁石温度を基に、巻線の抵抗温度および磁石温度の関係から計算した巻線の推定抵抗温度と、前記温度推定部により推定された抵抗温度の差が0となる補正電圧係数を求め、該補正電圧係数から補正電圧を算出する補正電圧計算部と、を備え、
前記巻線の抵抗温度および磁石温度の関係から計算した巻線の推定抵抗温度が、前記温度推定部により推定された推定抵抗温度と一致するように、前記温度推定部に入力される電圧指令を前記補正電圧計算部で算出された補正電圧によって補正することを特徴としている。
【0008】
請求項2に記載のPMモータの温度推定装置は、請求項1において、
前記補正電圧計算部は、前記巻線の抵抗温度および磁石温度の関係として、前記PMモータの熱伝達の等価回路から得られる巻線の抵抗温度/磁石温度の伝達関数を用いることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載のPMモータの温度推定装置は、請求項1において、
前記補正電圧計算部は、前記巻線の抵抗温度および磁石温度の関係を、巻線の抵抗温度と磁石温度が等しいとして前記巻線の推定抵抗温度を計算することを特徴としている。
【0010】
請求項4に記載のPMモータの温度推定装置は、請求項1又2又は3において、
前記補正電圧計算部は、前記温度推定部により推定された磁石温度を基に、巻線の抵抗温度および磁石温度の関係から巻線の推定抵抗温度を計算する巻線温度推定部と、
前記巻線温度推定部で計算された巻線の推定抵抗温度と前記温度推定部により推定された推定抵抗温度の差から補正電圧係数を演算する補正電圧係数演算器と、
前記モータ検出電流から電流位相ベクトルを計算する電流位相計算部と、
前記電流位相計算部で計算された電流位相ベクトルと前記補正電圧係数演算器で演算された補正電圧係数を乗算して補正電圧を算出する乗算器とを、備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、磁石温度推定、巻線の抵抗温度推定に電圧指令を用いることによる誤差を減少し、精度の良い温度推定が実現できる。また、モータパラメータである磁石磁束、巻線抵抗の同定精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態例による温度推定装置の全体構成図。
図2図1の補正電圧計算部の構成図。
図3】PMモータにおける熱伝達のブロック図。
図4】電圧補正無しで温度推定を行った場合の温度推定シミュレーション結果のグラフ。
図5】本実施形態例による電圧補正を行った場合の温度推定シミュレーション結果のグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明するが、本発明は下記の実施形態例に限定されるものではない。本実施形態例では、モータパラメータ適応同定による磁石温度、固定子抵抗温度推定と、モータの熱回路モデルによる温度推定を併用することにより、精度の良い磁石温度、固定子抵抗温度推定を可能とした。
【0014】
図1は本実施形態例による温度推定装置を示し、図1の構成により本発明のPMモータの磁石温度推定が行われる。
【0015】
図1において、1はインバータ2により駆動されるモータ(IPMSM:Interior Permanent Magnet Synchronous Motor)、3はインバータ2に電圧指令を与えるコントローラ、4はモータ1に流れる電流を検出するモータ電流検出器、5はモータ1の回転を検出するモータ回転検出器、6はモータ1の固定子巻線の抵抗温度および磁石温度を推定する温度推定器である。
【0016】
コントローラ3内の31は、モータ回転検出器5で検出された検出回転角にモータ極対数を掛けて電気角に変換する乗算器であり、32は乗算器31から出力される電気角を微分して角周波数ωを求める微分器である。
【0017】
33は、モータ電流検出器4で検出された3相のモータ検出電流を、乗算器31から出力される電気角を用いてd-q座標系での電流に座標変換する3相-dq変換器である。
【0018】
34は、3相-dq変換器33により座標変換されたdq座標系での電流(モータ検出電流)が、設定した電流指令と等しくなるように電流制御を行って、dq座標系での電圧指令を出力する電流制御器である。
【0019】
35は、電流制御器34から出力されるdq座標系での電圧指令を、乗算器31から出力される電気角を用いて3相の電圧指令に座標変換してインバータ2に与えるdq-3相変換器である。インバータ2は前記電圧指令に応じた電圧をモータ1に印加する。
【0020】
温度推定器6内の60は、3相-dq変換器33により座標変換されたdq座標系での電流と、微分器32で求められた角周波数ωと、電流制御器34から出力されるdq座標系での電圧指令に、後述する補正電圧計算部61で算出された補正電圧を加算器62で加算した電圧とを入力とし、モータ1の固定子巻線抵抗、磁石磁束、インダクタンス等を含むモータパラメータを同定し、同定した固定子巻線抵抗および磁石磁束から固定子巻線の抵抗温度および磁石温度を推定する温度推定部である。
【0021】
温度推定部60における前記モータパラメータの同定は、例えば、設計したモータモデルに前記電流(3相-dq変換器33の出力電流(モータ検出電流))、電圧(加算器62の出力電圧)、角周波数(微分器32の出力)を入力してモータモデルのモデル電流を計算し、計算されたモデル電流と前記入力電流(モータ検出電流)の差を減算器で求め、その減算器から出力される電流誤差をなくすように、パラメータ調整器によってモータモデルの巻線抵抗、磁石磁束、インダクタンスを調整することで、モータ1の固定子巻線抵抗、磁石磁束、インダクタンスを同定している。
【0022】
上記モータパラメータの同定は、角周波数ω、電圧指令Vdq=[V]、後述の補正電圧ΔVdq、電流Idq=[I](電圧、電流はdq座標系での値)を用いて、次の式(1)~式(7)を演算して行われる。
【0023】
ここで、添え字nは時間経過を示し、サンプリング時間T毎に計算を行う。また、´の付いた変数は推定値を示している。
【0024】
【数1】
【0025】
【数2】
【0026】
【数3】
【0027】
【数4】
【0028】
【数5】
【0029】
【数6】
【0030】
【数7】
【0031】
但し、Θ´=[ra´ Ld´ Lq´ Φm´]
H=diag(h、hLd、hLq、hΦ):定数(≧0)、
K=diag(K、K):定数(<0)、
Hは重み係数、diagは対角行列を出力する関数、Iはd軸電流、Iはq軸電流、ωは角周波数、edqはdq軸電流の推定値に対する誤差、Vdqはdq軸電圧指令に補正電圧ΔVdqを加算した電圧(V dq)である。
【0032】
式(1)~(7)をTs毎に繰り返すことにより、モータパラメータΘ=[r Φを推定できる。
【0033】
モータパラメータΘは巻線抵抗r、d軸インダクタンスL、q軸インダクタンスL、磁石磁束Φである。
【0034】
さらに前記推定した巻線抵抗r´an、磁石磁束Φ´mnから、下記式(8)、式(9)により固定子巻線の抵抗温度T´rnと磁石温度T´mnを計算する。
【0035】
【数8】
【0036】
【数9】
【0037】
ここで、ra0,Φm0は温度Tに於ける巻線抵抗rと磁石磁束Φの値であり、α、βは温度Tに於ける巻線抵抗と磁石磁束の温度係数である。これらの値はモータメーカから入手、又は事前試験により求める。
【0038】
温度推定器6内の61は、前記温度推定部60により推定された磁石温度を基に、巻線の抵抗温度および磁石温度の関係から計算した巻線の推定抵抗温度と、前記温度推定部60により推定された抵抗温度の差が0となる補正電圧係数を求め、該補正電圧係数から補正電圧を算出する補正電圧計算部である。
【0039】
62は、前記電流制御器34から出力される電圧指令と、補正電圧計算部61で算出された補正電圧を加算する加算器である。
【0040】
ここで、温度推定を行う場合の電圧誤差の影響を補足説明する。
【0041】
電圧、電流から磁石、巻線温度を推定する場合、電圧誤差が推定温度の誤差となる。図1の温度推定部60では、式(10)に示すモータモデルの計算を行い、検出電流に対する電流誤差が0になる様に推定モータパラメータを調整している。温度は抵抗、磁束の推定値から計算する。従って、パラメータ推定に誤差があると推定温度にも誤差が現われる。
【0042】
【数10】
【0043】
【数11】
【0044】
であるので、抵抗、磁束の誤差e、eΦ
【0045】
【数12】
【0046】
となる。
【0047】
巻線抵抗、磁石の推定温度T´,T´はTの時の抵抗、磁束ra0、Φm0と温度係数α、βにより、前記式(8)、式(9)と同様に
【0048】
【数13】
【0049】
【数14】
【0050】
と求められるので、抵抗、磁束温度推定誤差δT´,δT´
【0051】
【数15】
【0052】
【数16】
【0053】
となる。
【0054】
通常、モータが回転している状態では、
【0055】
【数17】
【0056】
であり、推定磁石温度誤差≪推定抵抗温度誤差となる。電圧誤差に対しては特に抵抗温度の誤差が大きい。
【0057】
温度推定に用いる電圧としてインバータの電圧指令を用いる場合、インバータの直流電圧誤差、デッドタイムによる誤差などの誤差があるため、温度推定の誤差の原因となる。
【0058】
直流電圧とデッドタイムによる電圧誤差の基本波は
【0059】
【数18】
【0060】
となる(Adqは、直流電圧と、(デッドタイム/PWM周期)に比例する係数、γは電流の位相)。
【0061】
ここで、図1の温度推定器6において、補正電圧計算部61および加算器62を用いずに(電圧補正を行わずに)温度推定部60で温度推定を行った場合のシミュレーション結果を図4に示す。
【0062】
図4では、モータ0から加速して定速になるように電流指令を加えたときの温度推定シミュレーションを行っており、一点鎖線は抵抗温度、破線は磁石温度、二点鎖線は抵抗推定温度、細実線は磁石推定温度を各々示している。
【0063】
図4において、磁石温度と磁石推定温度は大きな誤差が生じ、抵抗温度と抵抗推定温度は大きな誤差が生じている(抵抗推定温度は飽和している)。
【0064】
そこで本実施形態例の図1の補正電圧計算部61は、前記式(18)の電圧誤差δVdqに対応した補正電圧ΔVdq(後述の式(19))を図2の構成により計算する。
【0065】
図2において、63は、温度推定部60で推定された推定磁石温度T´を入力とし、後述するPMモータの熱伝達の等価回路から得られる巻線の抵抗温度および磁石温度の関係(伝達関数Gprm)から、推定磁石温度を基にした巻線の推定抵抗温度T´rmを計算する巻線温度推定部である。
【0066】
64は、温度推定部60から入力される、同定抵抗から推定した巻線の推定抵抗温度T´と、巻線温度推定部63で計算された推定磁石温度を基にした巻線の推定抵抗温度T´rmとの差を計算する減算器である。
【0067】
65は、前記減算器64の減算出力が0となる補正電圧係数A´dq(比例ゲイン)を、伝達関数Gを用いて演算する補正電圧係数演算器である。
【0068】
66は、前記3相-dq変換部33から入力される電流Idqから電流位相ベクトル(cos,sin成分)を計算する電流位相計算部である。
【0069】
67は、前記電流位相ベクトル(cosγ,sinγ)と前記補正電圧係数A´dqの積を演算して式(19)に示す補正電圧
【0070】
【数19】
【0071】
を計算する乗算器である。
【0072】
次に、前記巻線温度推定部63で用いる伝達関数Gprm、補正電圧係数演算器65で用いる伝達関数Gについて詳細に説明する。
【0073】
モータに於ける熱の伝達は、熱抵抗と熱容量による図3に示す等価回路により表現できる。そこで、モータの銅損、鉄損を熱源とした磁石温度、巻線温度に対する伝達特性を以下で近似する。
【0074】
図3において、銅損PLossrと鉄損PLossfは加算器71で加算され、加算器71の出力は、関数器72の伝達関数Gprが乗算された後加算器73に入力されるとともに、関数器74の伝達関数Gpmが乗算された後加算器75に入力される。
【0075】
加算器73は、関数器72の出力に周囲温度Tmp0を加算して巻線抵抗温度Tmprを出力し、加算器75は、関数器74の出力に周囲温度Tmp0を加算して磁石温度Tmpmを出力する。
【0076】
尚、周囲温度Tmp0を定義しているが、推定式では用いないため計測する必要はない。
【0077】
図3において、磁石温度Tmpm、巻線抵抗温度Tmprは、
【0078】
【数20】
【0079】
【数21】
【0080】
であるので、磁石温度と抵抗温度の間には
【0081】
【数22】
【0082】
の関係がある。伝達関数を2次として
【0083】
【数23】
【0084】
【数24】
【0085】
とすると、
【0086】
【数25】
【0087】
【数26】
【0088】
次に、補正電圧計算部61および加算器62で行われる電圧誤差補正について詳細に説明する。前記式(10)~式(18)で説明したように、同定に用いる電圧V dq(電圧指令V´dq+補正電圧ΔVdq)と、モータに印加される電圧Vdqとの間に差がある場合、同定抵抗r´、磁石磁束Φ´に誤差が生じ、温度推定の誤差となる。特に巻線温度は誤差の影響に敏感である。
【0089】
インバータ2の電圧指令V´dqとモータ1に印加される電圧Vdqとの差の主たる要因はデッドバンドによる電圧誤差であり、電圧誤差として基本波のみを考えると、その大きさはデッドバンド/キャリア周期と直流電圧の積に比例し、また、電流位相をγとするとcosγ(d軸)、sinγ(q軸)に比例する。
【0090】
【数18】
【0091】
dqは直流電圧と(デッドタイム/PWM周期)に比例する係数、γは電流の位相。
【0092】
電圧誤差δVdqと補正電圧ΔVdqの和が0となる様に、温度推定の比例ゲインAdq(補正電圧係数)を調整する。補正電圧係数は回転していれば比較的精度よく求められる同定磁石磁束Φから計算した磁石温度T´を基にして、熱回路から求められる伝達関数Gprm(巻線温度/磁石温度)により巻線温度推定部63で計算される推定巻線温度T´rmと同定抵抗から計算した推定巻線温度T´との差(減算器64の出力)を0にするように、推定巻線温度差を補正電圧係数演算器65の伝達関数G(PI制御等の関数)に通して調整する。
【0093】
この推定巻線温度差が0になれば、パラメータ同定に用いる電圧V dqはモータに印加される電圧Vdqと等しくなり、精度の良い抵抗、磁束の同定結果が得られ、温度推定の精度が向上する。
【0094】
次に、電圧誤差補正について補足説明する。
【0095】
【数27】
【0096】
と表現できる。
【0097】
推定に用いる誤差を含んだ電圧を
【0098】
【数28】
【0099】
とすると推定温度は、
【0100】
【数29】
【0101】
となる。
【0102】
一方、式(22)の伝達関数の関係より、推定磁石温度を基にして巻線温度を求めると、
【0103】
【数30】
【0104】
であり、式(22)が正しいとすると、電圧誤差がなければT´=T´rmとなるので、T´=T´rmとなる様に推定に用いる電圧を補正する。推定に用いる電圧を
【0105】
【数31】
【0106】
として
【0107】
【数32】
【0108】
が0になる様にΔVdqを調整する。
【0109】
【数33】
【0110】
であるので、
【0111】
【数34】
【0112】
となる。
【0113】
tmpr=0であれば、
【0114】
【数35】
【0115】
インバータに起因する電圧誤差を式(18)として、
【0116】
【数18】
【0117】
推定に用いる電圧を以下のように補正する。
【0118】
【数36】
【0119】
【数37】
【0120】
【数19】
【0121】
式(35)より、
【0122】
【数38】
【0123】
であるので、Adq+A´dq=0即ち、
δVdq+ΔVdq=0
となり、精度の良い温度推定が実現できる。
【0124】
図5に、本実施形態例の図1図2の構成による電圧補正を行って温度推定を行った場合のシミュレーション結果を示す。
【0125】
図5では、モータ0から加速して定速になるように電流指令を加えたときの温度推定シミュレーションを行っており、一点鎖線は抵抗温度、破線は磁石温度、二点鎖線は抵抗推定温度、細実線は磁石推定温度を各々示している。
【0126】
図5において、磁石温度と磁石推定温度は誤差がほとんどなく、抵抗温度と抵抗推定温度は定速において誤差はほとんどない。
【0127】
以上のように本実施形態例によれば、磁石温度推定、巻線の抵抗温度推定に電圧指令を用いることによる誤差を減少し、精度の良い温度推定が実現できる。また、モータパラメータである磁石磁束、巻線抵抗の同定精度が向上する。
【符号の説明】
【0128】
1…モータ
2…インバータ
3…コントローラ
4…モータ電流検出器
5…モータ回転検出器
6…温度推定器
31…乗算器
32…微分器
33…3相-dq変換器
34…電流制御器
35…dq-3相変換器
60…温度推定部
61…補正電圧計算部
62,71,73,75…加算器
63…巻線温度推定部
64…減算器
65…補正電圧係数演算器
66…電流位相計算部
67…乗算器
72,74…関数器
図1
図2
図3
図4
図5