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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172110
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】ガラス原料組成物
(51)【国際特許分類】
   C03C 8/02 20060101AFI20231129BHJP
   C03C 8/04 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
C03C8/02
C03C8/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022083691
(22)【出願日】2022-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】596166472
【氏名又は名称】木戸 平太郎
(72)【発明者】
【氏名】木戸 平太郎
【テーマコード(参考)】
4G062
【Fターム(参考)】
4G062AA10
4G062BB01
4G062DA05
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4G062KK10
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4G062MM13
4G062NN05
(57)【要約】
【課題】廃棄ガラスの再生処理費用を低く抑えることができ、ガラス化してからの精製の必要もなく、しかも成形時に亀裂の発生、収縮による変形、機械的強度の低下などの問題を生じないガラス原料組成物およびその製造方法を提供することを目的としている。
【解決手段】本発明のガラス原料組成物は、廃棄ガラスを粉砕して得られたガラス粉体を主原料とし、主原料より小さな粒径を有する陶磁器用釉薬粉体を副原料とし、前記主原料と前記副原料とを混合することにより、前記主原料の表面に前記副原料を付着させたことを特徴とするものである。本発明のガラス原料組成物の製造方法は、前記主原料の表面に薄い水膜を形成し、この水膜を有する主原料とこの主原料より小さな粒径を有する前記副原料とを混合することにより、前記主原料の表面に前記副原料を付着させることを特徴とするものである。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃棄ガラスを粉砕して得られたガラス粉体を主原料とし、前記主原料より小さな粒径を有する陶磁器用釉薬粉体を副原料とし、前記主原料と前記副原料とを混合することにより、前記主原料の表面に前記副原料を付着させたことを特徴とする、ガラス原料組成物。
【請求項2】
前記副原料が楽焼用ないし低火度の釉薬粉体であることを特徴とする、請求項2記載のガラス原料組成物。
【請求項3】
前記副原料がホウ酸ないしホウ砂(B)を含んでいることを特徴とする、請求項1または2記載のガラス原料組成物。
【請求項4】
前記主原料が鉛成分を含んでおらず、かつ、前記副原料が鉛成分を含んでいないことを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載のガラス原料組成物。
【請求項5】
前記廃棄ガラスが廃棄された蛍光灯のガラスまたは廃棄されたディスプレイ画面のガラスから製造されたものであることを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載のガラス原料組成物。
【請求項6】
前記主原料の表面に薄い水膜を形成し、この水膜を有する主原料と前記副原料とを混合することにより、前記主原料の表面に前記副原料を付着させることを特徴とする、請求項1~5のいずれかに記載のガラス原料組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃棄ガラスを粉砕して得られたガラス粉体を再利用(リサイクル)するためのガラス原料組成物及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガラスには、ソーダライムガラス、硼珪酸ガラス、無アルカリ硼珪酸ガラス、結晶化ガラス、鉛ガラスなどがある。一般的なガラスの成分は、酸性酸化物(SiO2やP2O5、B2O3、Al2O5、GeO2、SnO2、Sb2O3、Bi2O3、V2O5など)に、塩基性酸化物(Na2OやK2O、CaO、MgOなど)および/または中性酸化物(Al2O3やZnO、PbO、TiO2、ThO2など)を配合したものである。このようなガラスの結晶構造は、Si++++の一部がAl+++やB+++によって置換され、それによる荷電の変化をちょうど中和するようにSiO4四面体のすき間にK+やCa++、Na+、Ba++などが入っている構造である。
【0003】
建築用ガラス(板ガラス)の主な元素構成は、酸素(O)34.4、ケイ素(Si)45.9、アルミニウム(Al)1.0、鉄(Fe)0.1、カルシウム(Ca)5.7、ナトリウム(Na)9.6、カリウム(K)0.8、マグネシウム(Mg)2.4である。建築用ガラスは軟化温度が720~730℃であり、曲げ破壊応力が約49MPaである。ソーダ(Na2O)やライム(石灰、CaO)の含有量が10~15%より多くなると、切れ目が多くなりすぎてガラス熔融物の粘度が低くなり結晶化しやすくなり、また、化学的耐食性も低下することが知られている。
【0004】
ガラスは、その元素構成のほかに、成分及び配合割合を種々に調整して、多種多様な商品に使用されている。例えば、表示装置(例えば、スマートフォンのディスプレイ、薄型テレビの画面)、日用品(例えば、コップや皿)、建築資材(例えば、板ガラス)、産業資材(例えば、蛍光灯)などである。表1に建築用ガラス(板ガラス)、蛍光灯のガラス管及び薄型テレビの画面のガラスの成分やその配合割合を示す。
【0005】
【表1】
表中のガラスの成分及び配合割合は、酸化物換算の質量百分率で表示する。
【0006】
板ガラスと蛍光灯において、使用されているガラスの成分やその配合割合を比較すると、板ガラスには酸化カリウムK2Oが微量含まれており、ソーダNaOが多く含まれている。また、蛍光灯のガラス管のソーダの配合割合は板ガラスのソーダの約半分である。蛍光灯のガラス管において、ソーダの割合を抑えたのは、板ガラスの成分及び配合割合で蛍光灯を製造した場合、(1)蛍光灯の製造時に電極の劣化が生じる場合があること、(2)蛍光灯の点灯時に、ガラス管中でNaが移動し易く表面に析出し、水銀蒸気や蛍光体と反応して、蛍光体を劣化させやすく、可視光の出力が低下すること、(3)生成される生成物がガラス管を黒褐色に着色することにより、可視光の透過率が低下すること、などを防止する為である。
【0007】
板ガラスの廃棄ガラスをロールックラッシャー等で粉砕したガラス粉末(1mmの篩を通過したもの)をガラス原料として再利用(リサイクル)することはあまり行われていない。その理由はガラス化してからの精製が困難であるからである。同様なことが、薄型テレビの画面のガラスや食品容器の廃棄ガラスについてもいえる。異組織ガラスや異物の混入がこれらのガラスのリサイクル率を妨げている。一方、蛍光灯の廃棄ガラスについては水銀などの有害物質を除去したあと、廃棄ガラスのガラス片(カレット)を粉砕して粉体状のガラス原料として再利用(リサイクル)し、または、廃棄ガラスのガラス片を炉に入れて熔融して均質化したあと、水槽に投入して急冷により粉砕した(水砕した)ブロック状のガラス原料にして再利用している。得られる粉体状のガラス原料やブロック状のガラス原料の成分や配合割合は、廃棄前の製品に由来する成分及び配合割合である。
【0008】
また、蛍光灯の廃棄ガラスにおいて、脱水銀処理後の破棄ガラスの成分や配合割合はメーカーごとに異なっているが、メーカーごとに再生処理することは困難であるから、各メーカーの廃棄ガラスを混合してえたガラス片を粉砕して、粉末状のガラス原料として再利用したり、またはカレットを1300℃の炉で熔解してよく練って均質化し、熔融状態のままで水に投入して外層と内層の熱膨張率の差を利用して破砕(水砕)してなるブロック状のガラス原料として再利用している。
【0009】
廃棄ガラスのリサイクルは、上記の粉体状のガラス原料またはブロック状のガラス原料を炉で熔かしたあと成形して新たな製品とするものであり、成形手段としては吹きガラスまたはキルンワークがある。ガラス粉体をそのまま原料として用いる場合、ガラスがもつ歪が除去されておらず、しかも均質化されていないので、成形時に亀裂が発生したり、部分的な収縮により変形が生じたり、機械的強度の低下などの問題が発生する。したがって、このような問題を避けるために均質化されたブロック状のガラス原料(水砕ガラス)を成形材料として用いることが多い。
【0010】
しかし、ブロック状のガラス原料を成形材料として再利用することは、粉体状のガラス原料をそのまま成形材料として再利用する場合に比べて、均質化等の再生処理費用がかかるという問題がある。一方、粉体状のガラス原料をそのまま成形材料として再利用する場合には、ガラス化してからの精製の困難さや、成形時の亀裂の発生などの物理的機能の低下の問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005-506266公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記問題点を解決することを目的としており、廃棄ガラスの再生処理費用を低く抑えることができ、ガラス化してからの精製の必要がなく、しかも成形時に亀裂の発生、収縮による変形、機械的強度の低下などの問題を生じないガラス原料組成物およびその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1記載のガラス原料組成物は、廃棄ガラスを粉砕して得られるガラス粉体を主原料とし、主原料より小さな粒径を有する陶磁器用釉薬粉体を副原料とし、前記主原料と副原料とを混合することにより、前記主原料の表面に前記副原料を付着させたことを特徴とするものである。
【0014】
請求項2記載の発明は、前記副原料が楽焼用ないし低火度の釉薬粉体であることを特徴とするものである。
【0015】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載のガラス原料組成物において、前記副原料がホウ酸ないしホウ砂(B)を含んでいることを特徴とするものである。
【0016】
請求項4記載の発明は、請求項1~3のいずれかに記載のガラス原料組成物において、前記主原料が鉛成分を含んでおらず、かつ、前記副原料が鉛成分を含んでいないことを特徴とするものである。
【0017】
請求項5記載の発明は、請求項1~4のいずれかに記載のガラス原料組成物において、前記廃棄ガラスが廃棄された蛍光灯のガラスまたは廃棄されたディスプレイ画面のガラスであることを特徴とするものである。
【0018】
請求項6記載の発明は、前記主原料の表面に薄い水膜を形成し、この水膜を有する主原料と前記副原料とを混合することにより、前記主原料の表面に前記副原料を付着させたことを特徴とする、ガラス原料組成物の製造方法である。
【発明の効果】
【0019】
請求項1記載のガラス原料組成物は、粉体状の主原料とこの主原料より小さな粒径を有する粉体状の副原料を混合して、主原料の表面に副原料を付着させたものである。混合するという簡単な操作により、主原料の表面に副原料を付着させることができる。熱処理時に粒径の小さな副原料は粒径の大きな主原料の間隙に入り、不純物として作用し、主原料同士の熔着を補助する。熔着した副原料は、成形時に発生しやすい亀裂、収縮、機械的強度の低下を防止する。一方、粒径が大きな主原料は互いに融着してガラス成形品の強度を高める。
【0020】
請求項2記載の発明は、副原料として楽焼用ないし低火度の釉薬粉体を混合したので、主原料を比較的低温で流動化させる(軟化温度を下げる)ことができる。板ガラスの軟化温度は720~730℃であるが、楽焼用ないし低火度の釉薬粉体を混合することにより、ガラス原料組成物の軟化温度を680~710℃に下げることができる。したがって、成形型にガラス原料組成物を充填して加熱成形する場合(キルンワークにおいて)、700~800℃に加熱することにより成形型の隅々まで行き渡ったガラス成形品を得ることができる。通常900℃以上に加熱する必要がある吹きガラスにおいても低い温度で成形できる。
【0021】
請求項3記載の発明は、構成元素としてホウ素を含んでいない廃棄ガラスであっても、前記楽焼用ないし低火度の釉薬粉体はホウ酸ないしホウ砂(B)を含んでいるので、B+++がSiO4+++やAl+++の網目構造と連結するので、網目構成体の割合が増加して、成形時に亀裂が発生せず、しかも機械的強度の高い成形品を得ることができる。
【0022】
請求項4記載の発明は、無鉛の主原料と無鉛の副原料とを混合したガラス原料組成物を用いて成形することにより、無鉛のガラス成形品(例えば、皿などの飲食容器)を提供することができる。
【0023】
請求項5記載の発明は、前記主原料に前記副原料に由来するホウ酸ないしホウ砂(B+++成分)が添加されるので、廃棄された蛍光灯のガラス粉体または廃棄されたディスプレイ画面のガラス粉体をそのまま再利用したときに比べて、網目構造の割合を高めることができる。これにより、熱衝撃性や機械的強度の高いガラス成形品を得ることができる。また、成形時に徐冷時間をとる必要がないので、製造効率を高くすることができる。
【0024】
請求項6記載のガラス原料組成物の製造方法は、あらかじめ主原料の表面に薄い水膜を形成している。ガラスは親水性があるので、水がガラス粉体の表面に薄い水膜を形成しやすく、形成された水膜に副原料が溶ける(分散ないし懸濁する)。主原料の表面の水膜に副原料を溶かすことにより、個々のガラス粉体の表面に、副原料が付着したガラス原料組成物となる。なお、水膜を形成してない状態で、廃棄ガラスのガラス粉体に水で溶いた副原料を混ぜるとままこ状になり、付着ムラができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
請求項1記載のガラス原料組成物は、廃棄ガラスを粉砕して得られたガラス粉体を主原料とし、この主原料より小さな粒径を有する陶磁器用釉薬粉体を副原料とし、両者を混合して主原料の表面に副原料を付着させたものである。主原料の平均粒径は好ましくは0.1mm~1mm(1mm篩を通過したもの)とする。副原料の平均粒径は好ましくは0.001~0.01mmとする。このように主原料の平均粒径を副原料の平均粒径の50~100倍とすることにより、主原料の表面に副原料を均一に付着させることができる。主原料と副原料の混合比の範囲は、100:1~3:1である。100:1の比率を下回ると副原料を添加した効果が小さく、熱処理時に歪が残りやすく亀裂などの問題が発生しやすい。一方、3:1の比率を超えると、副原料が主原料の表面を覆いすぎて主原料同士が直接熔着するのを妨げるので、成形品の収縮による変形が大きく、機械的強度が低下する。より好ましく範囲は30:1~10:1である。
【0026】
請求項2記載のガラス原料組成物は、前記副原料が楽焼用ないし低火度の釉薬粉体であることを特徴とするものである。楽焼用ないし低火度の釉薬粉体は市販されており、取り扱いやすく入手が容易である。更に、楽焼用ないし低火度の釉薬粉体は成分及びその配合割合を調整することにより、熔融温度を650~800℃の間で任意に設定することができる。
【0027】
請求項3記載のガラス原料組成物は、前記副原料がホウ酸ないしホウ砂(B)を含んでいることを特徴とするものである。楽焼用ないし低火度の釉薬粉体はその熔融温度を下げるためにホウ酸ないしホウ砂(ホウ素)を多く含んでいる。ホウ素は網目構成体として作用するので、成形後の製品の機械的強度を高めることができる。板ガラスに含まれていない構成元素を加えることができる。
【0028】
請求項4記載のガラス原料組成物は、前記主原料が鉛成分を含んでおらず、かつ、前記副原料も鉛成分を含んでいないことを特徴とするものである。成形されたガラス製品は鉛成分を含んでいないので、食器や飲料容器などの成形品とすることができる。
【0029】
請求項5記載のガラス原料組成物は、前記主原料の廃棄ガラスが廃棄された蛍光灯のガラス粉体または廃棄されたディスプレイ画面のガラス粉体であることを特徴とするものである。廃棄された蛍光灯やディスプレイ画面のガラスは、廃棄量が多く、一方でリサイクルの仕組み(収集や精製の技術)も確立されているので、主原料の供給の問題が生じることがない。
【0030】
請求項6記載のガラス原料組成物の製造方法は、前記主原料の表面に薄い水膜を形成し、この水膜を有する主原料と前記副原料とを混合することにより、前記主原料の表面に前記副原料を付着させることを特徴とするものである。即ち、主原料の表面に副原料を付着させるために、ガラスの親水性及び陶磁器用釉薬粉体の水溶性(分散ないし懸濁する性質)を利用しているのである。
【実施例0031】
副原料の陶磁器用釉薬粉体として、透明釉薬粉体1、黒色釉薬粉体2および飴色釉薬粉体3を用意した。各釉薬粉体の成分及びその配合割合を表2に示す。各釉薬粉体の外観はきめの細かいパウダー状(平均粒径8μm)であり、水に容易に溶ける(分散ないし懸濁している)。
【0032】
【表2】
【0033】
透明(白色)釉薬粉体1はホウ砂B2O3の配合割合が21.4%と高い。黒色釉薬粉体2はホウ砂B2O3の配合割合は16.2%で中程度であり、黒色顔料(MnO2 、FeO,Fe2O3、 CoO)を16%含んでいる。飴色釉薬粉体3はホウ砂B2O3の配合割合は12.0%で低く、飴色顔料(MnO2 、FeO,Fe2O3)を16%含んでいる。これらの釉薬粉体はPbO2を含んでおらず、無鉛の陶磁器用釉薬粉体である。
【0034】
一般的に、色釉薬粉体は、求める色や熱処理温度(焼成温度)によって成分及びその配合割合を変える(調合する)が、上記の透明(白色)釉薬粉体1、黒色釉薬粉体2および飴色釉薬粉体3は、素焼きないし本焼きした素地に塗布して使用することを前提としている。水で溶いた釉薬を陶磁器素地に塗布したあとの熱処理(焼成)に関して、(1)すでに800℃に加熱してある炉に入れる場合、温度炉内の滞留時間7~10分間で熔融・発色するように設定されている。(2)炉内に入れて徐々に昇温していく場合、炉内部の温度が常温から760℃前後で滞留時間約4時間前後に設定されている。
【0035】
本発明は、陶磁器用釉薬粉体を水に溶かして陶磁器用素地に塗布するという使用法とは異なっている。本発明のガラス原料組成物は、廃棄ガラスを粉砕して得られたガラス粉体(主原料)に、この主原料より粒径が小さな陶磁器用釉薬粉体(副原料)とを混合することにより、ガラス粉体表面に陶磁器用釉薬粉体を付着させたものである。無色透明釉薬ないし色釉薬を含むガラス原料組成物の炉内の滞留時間は、成形品に使用されるガラス粉体の質量により異なり、質量が多いものほど滞留時間は長くする。また、ガラス粉体(主原料)は、表面に付着した陶磁器用釉薬(副原料)の作用により、680~710℃で軟化して粉体同士の熔着が促進される。本発明のガラス原料組成物を用いて成形型で成形する場合(キルンワーク)には、型ごと炉に入れて700~720℃で滞留時間0~30分の熱処理で粉体相互が熔着してガラス成形品を成形できる。ただし、釉薬を発色させるには、少なくとも720℃以上、平滑面(ファイアーポリッシュ)を得るためには750℃以上に加熱する必要がある。
【0036】
<ガラス原料組成物の製造>
廃棄された蛍光灯のガラス管を脱水銀処理したあと破砕機に掛けてガラス粉体(主原料)とした。ガラス粉体の成分及びその配合割合は表1に示されている。ガラス粉体の粒径は1mm四方の目を有する篩を通過する大きさ(平均粒径0.5~1mm)である。このガラス粉体をシール付きプラスチック袋に150g入れ、水を2g噴霧したしたあと封止して、袋ごと揉んでガラス粉体の表面に薄い水膜を形成した。次に、袋に表2の透明釉薬粉体1(平均粒径8μm)を5g入れて封止し、袋ごと揉んで透明釉薬粉体1をガラス粉体の表面に透明釉薬粉体1を均一に付着させてガラス原料組成物A(白色)を製造した。同様な操作で、ガラス原料組成物B(黒色)、ガラス原料組成物C(飴色)を製造した
【実施例0037】
<表札の製造>
縦140mm、横100mm、深さ7mmのステンレス製凹型9個の内面に離形材を塗り、離形材の表面の四隅に壁面取付用螺子棒を螺合するためのナットを載置した。それぞれの凹型内部に上記ガラス原料組成物A、BまたはCを110gそれぞれ敷き詰めた。ガラス原料組成物Aが充填された凹型3個準備し、それぞれを炉に入れて徐々に昇温し、720℃×10分、760℃で20分又は800℃×30分の熱処理(フユージング)をして平板状の白色の表札基体を得た。同様にして、ガラス原料組成物B及びCを充填した凹型6個を同様に熱処理した。冷却後に炉から出しして観察すると、熱処理条件や色は異なっていても、いずれも後述する表札基体として使用可能であった。特に760℃×20分で熱処理したものが、平滑性(艶、ファイアーポリッシュ)があり、発色性もよく、変形や熱収縮が少なく良好であった。表札基体の裏面に埋設されたナットも十分に熔着されていた。
【0038】
別途に、深さ2mmの文字「SATO」を彫った珪藻土製凹型とシルエット状の猫を彫った珪藻土製凹型をそれぞれ2個ずつ合計4個準備し、「SATO」の凹型及び猫の凹型とからなる組に組分して、各組にガラス原料組成物A(白色)又はB(黒色)を充填した。白色と黒色の組を700℃×10分又は720℃×10分で熱処理し、冷却後に脱型して白色の「SATO」と猫の組、黒色の「SATO」と猫の組のガラス成形体を得た。700℃×10分で成形された猫のガラス成形体はガラス粉体同士が熔着していたが、文字「SATO」のガラス成形体では十分に溶着しておらず、発色も十分でなかった。720℃×10分で成形した猫及び文字のガラス成形体は両者ともガラス粉体が熔着しており、強度もあってその後の取り扱い作業に支障が生ずることはなかった。発色については、猫のガラス成形体が十分発色していたが、文字のガラス成形体は十分発色していなかった。発色が不十分であっても、ガラス基板に熔着する際に加熱されるので問題はない。
【0039】
白色の表札基体に黒色の「SATO」及び猫のガラス成形体を載置して、炉に入れ720℃×10分、760℃×20分、800℃×120分で熱処理して両者を熔着させた。炉内が常温まで低下したあと、表札基体に「SATO」に及び猫のガラス成形体が熔着した製品を取り出した。720℃×10分で熱処理したものは表札基体に「SATO」及び猫が融着しているが、両者の発色が不十分であった。760℃×20分で熱処理したものは表札基体に「SATO」及び猫が熔着しており、発色も十分であり、文字や猫は型崩れをすることなく、原形をとどめていた。800℃×120分で熱処理したものは「SATO」と猫が熔けて拡がり、少し形崩れを起こしていた。いずれの場合でも、製品には亀裂が発生しておらず、細かな気泡が含まれておらず、表面の光沢がよかった。また、熱処理によるガラス内部の歪みが少なく、強度があった。なお、黒色の表札基体に白色の「SATO」及び猫のガラス成形体を配置して、同様の熱処理処理を行ったが、同じ結果であった。
【実施例0040】
<ペット用霊碑の製造>
平面視がかまぼこ形を有するステンレス製の凹型(縦100mmで横70mm)を2個用意し、凹型の凹所に離形材を塗り、この離形材の表面にその下辺より10mm上方の中央位置に起立用螺子棒を螺合するためのナットを1個載置した。その上から実施例1のガラス原料組成物A(白色)又はB(黒色)をそれぞれ70gずつ敷き詰めて、実施例1と同じ熱処理(フユージング)条件で成形した。成形された白色及び黒色の霊碑基体は760℃×20分の熱処理をしたものが、発色性、平滑性及び収縮性が良好であった。
【0041】
別途に、兎を型取りした耐熱石膏製の凹型を2個用意し、それぞれの型にガラス原料組成物A(白色)又はB(黒色)を充填した。一方、珪藻土板に文字「モモ」の凹所を彫った凹型を2個用意し、ガラス原料組成物A(白色)、B(黒色)をそれぞれ充填した。ガラス原料組成物を充填した4つの型を、700℃×10分、720℃×10分で熱処理し、冷却後に脱型して白色の兎及び白色の「モモ」と、黒色の兎及び黒色の「モモ」とからなる2組のガラス成形体を得た。700℃×10分で成形された兎のガラス成形体では原料のガラス粉体同士が融着していたが、「モモ」のガラス成形体は原料のガラス粉体同士が十分に融着しておらず、発色も十分でなかった。720℃×10分で成形した兎及び「モモ」のガラス成形体では、両者ともに原料のガラス粉体同士が融着して強度があり、その後の取り扱い作業に支障が生ずることはなかった。兎のガラス成形体は十分発色していたが、「モモ」のガラス成形体の発色が十分でなかった。
【0042】
白色の霊碑基体に黒色の「モモ」及び兎のガラス成形体を載置して、炉に入れ徐々に昇温して760℃×20分で熱処理して両者を熔着させた。炉内が常温まで低下したら、兎と「モモ」が融着した霊碑基体(製品)を取り出した。霊碑基体に「モモ」及び兎のガラス成形体が熔着しており、十分に発色しており、「モモ」や猫の成形体は型崩れを起こすことなく、原形をとどめていた。なお、霊碑基体に埋設されたナットも十分に溶着していた。
【実施例0043】
<皿の製造>
縦140mm、横100mm、深さ7mmのステンレス製矩形凹型の凹所に離形材を塗ったものを3個用意し、各型の凹所にガラス原料組成物A(白色)、B(黒色)又はC(飴色)を110g敷き詰めた。ガラス原料組成物が充填された凹型をそれぞれ炉に入れて、徐々に昇温して760℃×20分で熱処理して平板状の皿状平板X(白色)、Y(黒色)又はZ(飴色)を得た。次に、成形された皿状平板よりも一回り小さな矩形凹所を中央に有する耐火石膏製のスランピング型を用意した。皿状平板Xの周縁をスランピング型に載せ、皿状平板の中央部がスランピング型の中央部の上方にくるように、つまり、皿状平板の中央下部にスランピング型の矩形凹所が位置するように配置した。皿状平板Xを載せたスランピング型を炉に入れて、徐々に昇温して760℃×30分で熱処理(スランピング処理)をした。760℃×30分で熱処理したものは皿状平板が十分に軟化して、スランピング型の矩形凹所に沿うように変形して丁度よい深さの皿となった。また、製品である皿(成形品)の表面はファイヤーポリッシュよる艶があった。
【0044】
なお、皿状平板Yを700℃×30分で熱処理(スランピング処理)し、皿状平板Zを800℃×30分で熱処理(スランピング処理)をした。700℃×30分で熱処理した皿状平板Yはガラスの軟化が不十分であり、スランピング型の矩形凹所の形状を正確に転写していなかった。800℃×30分で熱処理した皿状平板Zは、ガラスが十分に軟化してスランピング型の矩形凹所の隅々まで流れ込み、凹所形状を正確に転写していた。成型品は少し収縮を起こしていたが、製品として問題はなかった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明のガラス原料組成物は、廃棄ガラスを主原料としているので、ガラス製品に含まれたガラス成分を再利用(リサイクル)することができる。再利用できる分野としては、例えば、日用品(例えば、コップや皿)、建築資材(板ガラス、ステンドグラス、外壁タイル)などがある。再利用される成形品としては、表札やペット用霊碑、皿、置物等がある。また、本発明のガラス原料組成物で成形した製品を廃棄する場合、廃棄物から余分な材料を除外してガラス粉体を採取し、これに陶磁器用釉薬を混合するという簡単な操作で、吹きガラスやキルンワークで使用するガラス原料とすることができる。特に、無鉛の廃棄ガラス及び無鉛の陶磁器用釉薬粉体を用いたものであれば、廃棄されたガラス食器(皿)等を粉砕して、新たに陶磁器用釉薬を添加することにより、再びガラス原料組成物にすることができ、より完全循環型に近いリサイクル(ごみの発生を減らす持続可能な社会、SDGs)を構築することができる。