(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172132
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】手術支援装置、手術支援システム及びプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 34/10 20160101AFI20231129BHJP
A61B 17/56 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
A61B34/10
A61B17/56
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022083734
(22)【出願日】2022-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】522203101
【氏名又は名称】合同会社ARK-FIVE
(71)【出願人】
【識別番号】516299419
【氏名又は名称】インテリジェンスファクトリー合同会社
(71)【出願人】
【識別番号】515161065
【氏名又は名称】株式会社Medica Scientia
(71)【出願人】
【識別番号】518194844
【氏名又は名称】シェルハメディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 淳一
(72)【発明者】
【氏名】道家 健仁
(72)【発明者】
【氏名】小山 和也
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160LL26
(57)【要約】
【課題】整形外科手術の術中支援を、高精度で、且つ、低コストで行うことができる手術支援装置、手術支援システム及びプログラムを提供する。
【解決手段】手術支援装置は、人工関節置換術において、インプラントとの位置関係が固定された状態で用いられる手術支援装置であって、撮像部と、水平面検出部と、姿勢検出部と、基準座標系の1軸を規定するための2つの特徴点を含む術野を撮像部で撮像したときの撮像画像に基づいて2つの特徴点の空間位置を示す位置情報を算出する特徴点算出部と、特徴点の位置情報と水平面情報とに基づいて基準座標系を設定するキャリブレーション部と、当該手術支援装置の姿勢に基づいて、基準座標系におけるインプラントの姿勢を算出する姿勢算出部と、インプラントの姿勢を支援情報として表示する表示部と、を備える。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工関節置換術において、インプラントとの位置関係が固定された状態で用いられる手術支援装置であって、
術野を撮像する撮像部と、
水平面を検出可能な水平面検出部と、
当該手術支援装置の姿勢を検出可能な装置姿勢検出部と、
基準座標系の1軸を規定するための2つの特徴点を含む術野を前記撮像部で撮像したときの撮像画像に基づいて、前記2つの特徴点の空間位置を示す位置情報を算出する特徴点算出部と、
前記特徴点算出部によって得られる前記位置情報と、前記水平面検出部によって得られる水平面情報と、に基づいて、前記基準座標系を設定するキャリブレーション部と、
前記姿勢検出部によって検出される当該手術支援装置の姿勢に基づいて、前記基準座標系における前記インプラントの姿勢を算出する姿勢算出部と、
算出された前記インプラントの姿勢を、支援情報として表示する表示部と、
を備える、手術支援装置。
【請求項2】
前記撮像部は、前記特徴点を指し示すマーカーを撮像し、
前記特徴点算出部は、前記撮像画像から得られる前記マーカーの見え方に基づいて、前記位置情報を算出する、
請求項1に記載の手術支援装置。
【請求項3】
人工股関節置換術において臼蓋カップとの位置関係が固定された状態で用いられる手術支援装置であって、
前記支援情報は、前記臼蓋カップの外方開角及び前方開角を含む、
請求項1又は2に記載の手術支援装置。
【請求項4】
前記特徴点は、左右の上前腸骨棘である、
請求項3に記載の手術支援装置。
【請求項5】
前記水平面検出部及び前記装置姿勢検出部は、ジャイロセンサー、加速度センサー、又はジャイロセンサーと加速度センサーの組合せで構成される、
請求項1又は2に記載の手術支援装置。
【請求項6】
患者の姿勢を検出可能な患者姿勢検出装置と通信可能な通信部を備え、
前記キャリブレーション部は、前記患者姿勢検出装置から提供される患者姿勢情報に基づいて、前記基準座標系を補正する、
請求項1又は2に記載の手術支援装置。
【請求項7】
請求項6に記載の手術支援装置と、
前記手術支援装置と通信可能に構成され、前記手術支援装置に対して患者の姿勢情報を提供する患者姿勢検出装置と、を備える、
手術支援システム。
【請求項8】
人工関節置換術において、インプラントとの位置関係が固定された状態で用いられる手術支援装置のコンピューターに、
基準座標系の1軸を規定するための2つの特徴点を含む術野を撮像したときの撮像画像に基づいて、前記2つの特徴点の空間位置を示す位置情報を算出する処理と、
水平面を示す水平面情報を取得する処理と、
前記位置情報及び前記水平面情報に基づいて、前記基準座標系を設定する処理と、
当該手術支援装置の姿勢に基づいて、前記基準座標系における前記インプラントの姿勢を算出する処理と、
算出された前記インプラントの姿勢を、支援情報として表示する処理と、
を実行させる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外科手術、特に、患者の体内に整形外科用のインプラントを取付ける整形外科手術を支援する手術支援装置、手術支援システム及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、股関節や膝関節などを金属やセラミックス製のインプラント(人工関節)に置き換える置換手術が知られている。これらのインプラントを体内の所定位置に取付ける場合、最適の角度及び位置で設置することが重要である。
【0003】
近年では、患者のインプラントの取付部位の医療用断層画像を用いて、取付け予定のインプラントの形状及びサイズの選別、取付角度、必要に応じて骨切り量や骨切り位置等をシミュレーションする術前計画が行われている。また、術中に、術前計画通りにインプラントが設置されるように施術者に設置角度等の支援情報を提供する手術ナビゲーションシステムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1には、全人工股関節置換術(THA:Total Hip Arthroplasty)において、施術者に対して、術中の臼蓋カップの設置角度(外方開角及び前方開角)を提供する設置角度計測器が開示されている。具体的には、特許文献1では、直方体形状の設置角度計測器を、表示面が患者の体軸と平行になるように手術台に載置し、この状態を基準状態(外方開角0°、前方開角0°)としてキャリブレーションが行われる。そして、カップホルダーに固定された設置角度計測器の姿勢に基づいて、術中の外方開角及び前方開角が計測され、計測結果を参照しながら臼蓋カップの設置角度の調整(レジストレーション)が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示の手法では、キャリブレーションを行う際、装置本体の表示面と体軸が平行になっているかを、目視で確認するしかなく、施術者の経験や技量によっては、正確性に欠ける。そのため、計測される設置角度の精度が高いとはいえず、術前計画通りにレジストレーションを行うことができない虞がある。
【0007】
本発明の目的は、整形外科手術の術中支援を、高精度で、且つ、低コストで行うことができる手術支援装置、手術支援システム及びプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る手術支援装置は、
人工関節置換術において、インプラントとの位置関係が固定された状態で用いられる手術支援装置であって、
術野を撮像する撮像部と、
水平面を検出可能な水平面検出部と、
当該手術支援装置の姿勢を検出可能な姿勢検出部と、
基準座標系の1軸を規定するための2つの特徴点を含む術野を前記撮像部で撮像したときの撮像画像に基づいて、前記2つの特徴点の空間位置を示す位置情報を算出する特徴点算出部と、
前記特徴点算出部によって得られる前記位置情報と、前記水平面検出部によって得られる水平面情報と、に基づいて、前記基準座標系を設定するキャリブレーション部と、
前記姿勢検出部によって検出される当該手術支援装置の姿勢に基づいて、前記基準座標系における前記インプラントの姿勢を算出する姿勢算出部と、
算出された前記インプラントの姿勢を、支援情報として表示する表示部と、
を備える。
【0009】
本発明に係る手術支援システムは、
上記の手術支援装置と、
前記手術支援装置と通信可能に構成され、前記手術支援装置に対して患者の姿勢情報を提供する患者姿勢検出装置と、を備える。
【0010】
本発明に係るプログラムは、
人工関節置換術において、インプラントとの位置関係が固定された状態で用いられる手術支援装置のコンピューターに、
基準座標系の1軸を規定するための2つの特徴点を含む術野を撮像したときの撮像画像に基づいて、前記2つの特徴点の空間位置を示す位置情報を算出する処理と、
水平面を示す水平面情報を取得する処理と、
前記位置情報及び前記水平面情報に基づいて、前記基準座標系を設定する処理と、
当該手術支援装置の姿勢に基づいて、前記基準座標系における前記インプラントの姿勢を算出する処理と、
算出された前記インプラントの姿勢を、支援情報として表示する処理と、
を実行させる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、外科手術の術中支援を、高精度で、且つ、低コストで行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、人工股関節置換術に用いられるインプラントの一例を示す図である。
【
図2】
図2A、
図2Bは、実施の形態に係る手術支援装置の使用形態の一例を示す図である。
【
図3】
図3A、
図3Bは、前方開角及び外方開角と基準座標系の関係を示す図である。
【
図4】
図4は、第1手術支援端末の機能的構成を示すブロック図である。
【
図5】
図5は、第2手術支援端末の機能的構成を示すブロック図である。
【
図6】
図6は、第1手術支援端末の制御部が実行する手術ナビゲーション処理の一例を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、側臥位による手術態様を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。本実施の形態では、手術支援システム1を人工股関節置換術(THA)に使用する場合について説明する。
【0014】
まず、
図1を参照して、人工股関節置換術に用いられるインプラント100について説明する。
図1に示すように、インプラント100は、臼蓋カップ101、ライナー102、インナーヘッド103、及びステム104で構成される。
【0015】
臼蓋カップ101は、中空の半球形状を有する。臼蓋カップ101は、寛骨臼に固定され、臼蓋としての役割を果たす。臼蓋カップ101は、例えば、チタン合金やコバルトクロム合金等の金属材料で形成される。
【0016】
ライナー102は、臼蓋カップ101よりも一回り小さい中空の半球形状を有する。ライナー102は、臼蓋カップ101の内側に固定される。ライナー102は、臼蓋カップ101とインナーヘッド103の間に介在し、摩耗を抑制する軟骨としての役割を果たす。ライナー102は、例えば、ポリエチレン等の樹脂材料で形成される。
【0017】
インナーヘッド103は、球形状を有する。インナーヘッド103は、ライナー102に摺動自在に取り付けられ、大腿骨骨頭としての役割を果たす。インナーヘッド103は、例えば、チタン合金やコバルトクロム合金等の金属材料、又はアルミナやジルコニア等のセラミック材料で形成される。
【0018】
ステム104は、大腿骨の髄腔内に挿入される土台であり、大腿骨から露出する端部にインナーヘッド103が取り付けられる。ステム104は、例えば、チタンやチタン合金等の金属材料で形成される。
【0019】
人工股関節置換術では、術後に脱臼等の不具合が生じるのを防止するために、寛骨臼に対して臼蓋カップ101が適切な姿勢で固定されることが重要である。臼蓋カップ101の姿勢は、例えば、寛骨臼に対する設置角度(前方開角RA及び外方開角RI)で規定される。一般に、前方開角RAは15~20°、外方開角RIは40~45°であることが好ましいとされている。なお、前方開角RA及び外方開角RIは、予め術前計画において、骨盤のX線画像又はCT画像に基づいて設定されてもよい。
【0020】
手術支援システム1は、仰臥位又は側臥位の患者Pの寛骨臼に臼蓋カップ101を設置する際に、術中の臼蓋カップ101の設置角度を、第1手術支援端末10によって支援情報として施術者に提供する。
【0021】
図2A、
図2Bは、手術支援システム1の使用形態の一例を示す図である。
図2Aは、手術台T上の患者Pを側方から見た状態を示し、
図2Bは、上方から見た状態を示す。
図2A、
図2Bでは、患者Pの姿勢が仰臥位である場合について示している。
【0022】
図2A、
図2Bに示すように、手術支援システム1は、第1手術支援端末10及び第2手術支援端末20を備える。第1手術支援端末10及び第2手術支援端末20には、それぞれ、例えば、所定のアプリケーションプログラムをインストールしたスマートフォン、タブレット等の携帯端末を適用することができる。
【0023】
第1手術支援端末10は、患者Pに対して人工股関節置換術を行う場合に、インプラント100との位置関係が固定された状態で用いられる。具体的には、第1手術支援端末10は、寛骨臼に臼蓋カップ101を設置するための棒状のカップホルダー105に固定して用いられる。第1手術支援端末1は、例えば、カップホルダー105の軸方向AXを基準にして、所定の姿勢で固定される。第1手術支援端末10の姿勢は、例えば、矩形状の表示面の縦横方向、及び厚さ方向を3軸とする直交座標系で表される。
【0024】
第1手術支援端末10の姿勢に基づいて、カップホルダー105の姿勢、すなわち臼蓋カップ101の姿勢を演算によって導出できればよく、カップホルダー105に対する第1手術支援端末10の取付け姿勢は特に限定されない。例えば、臼蓋カップ101のレジストレーションを行う際に、第1手術支援端末10の表示面を施術者が視認しやすい姿勢で、第1手術支援端末10をカップホルダー105に固定してもよい。また例えば、第1手術支援端末10の表示面が軸方向と垂直になるように、又は表示面が軸方向と平行になるように、第1手術支援端末10をカップホルダー105に取り付けた場合、第1手術支援端末10の姿勢を規定する1つの軸が臼蓋カップ101の軸方向と一致するので、臼蓋カップ101の姿勢を導出するための演算負荷を軽減することができる。
【0025】
カップホルダー105は、臼蓋カップ101のカップ受け皿側(寛骨臼と接触する外表面と反対側)に取り付けられる。通常、臼蓋カップ101の外表面の中心点における接平面の法線(以下、「カップ設置面法線」と称する)と、カップホルダー105の軸方向AXは一致する。臼蓋カップ101は、所定の設置角度となるように姿勢を決定された後、カップホルダー105の打突により寛骨臼に嵌め込まれ、スクリュー等の固定部材により固定される。
【0026】
本実施の形態では、臼蓋カップ101の設置角度を計測する基準面として、臥位や立位での骨盤傾斜を加味した機能的骨盤平面(FPP:Functional Pelvic plane)を採用する。また、臼蓋カップ101の設置角度をradiographic定義で表すこととする。なお、臼蓋カップ101の設置角度は、anatomical定義やoperative定義で表されてもよい。
【0027】
臼蓋カップ101の設置角度は、内外側方向をX軸、機能的骨盤平面の法線方向をY軸、遠近位方向(体軸方向)をZ軸として設定された基準座標系を用いて表される。具体的には、前方開角RAは、カップ設置面法線をXZ平面(機能的骨盤平面)に投影したベクトルとカップ設置面法線とのなす角で表される(
図3A参照)。カップ設置面法線がXZ面と平行である場合に、前方開角RAは0°である。外方開角RIは、カップ設置面法線をXZ平面に投影したベクトルとZ軸とのなす角の角度で表される。カップ設置面法線がZ軸と垂直である場合に、外方開角RIは90°である(
図3B参照)。
【0028】
本実施の形態では、基準座標系を設定するための機能的骨盤平面に関する情報を取得するに際し、仰臥位の患者Pの機能的骨盤平面は、手術台Tに平行である、すなわち、水平面に平行であるとみなせることを利用している。つまり、水平面の法線方向が基準座標系のY軸として設定される。
【0029】
また、左右の上前腸骨棘を結ぶ直線が内外側方向に略一致することを利用している。つまり、左右の上前超骨棘を結ぶ直線がX軸、X軸及びY軸に直交する軸がZ軸として設定される。
【0030】
左右の上前腸骨棘の空間位置を示す座標情報は、例えば、ARマーカー106の撮像画像に基づいて取得される。ARマーカー106の撮像画像から特徴点(ここでは、左右の上前腸骨棘)の空間座標を導出するアルゴリズムについては、公知技術を適用できる。例えば、第1手術支援端末10は、撮像画像に描画されるARマーカー106の位置、大きさ及び姿勢(傾き)に基づいて、ARマーカー106が指し示す特徴点の空間座標を導出できるようになっている。
【0031】
患者Pの左右の上前腸骨棘の空間座標及び機能的骨盤平面に基づいて基準座標系を設定し、第1手術支援端末10をキャリブレーションすることで、当該基準座標系における第1手術支援端末10の姿勢に基づいて、術中の臼蓋カップ101の設置角度(前方開角RA及び外方開角RI)を導出することができる。
【0032】
施術者は、第1手術支援端末10により提供される臼蓋カップ101の設置角度を参照しながらレジストレーションを行うことにより、至適設置角度で、臼蓋カップ101を寛骨臼に固定することができる。
【0033】
図4は、第1手術支援端末10の機能的構成を示すブロック図である。
図4に示すように、第1手術支援端末10は、制御部11、記憶部12、ジャイロセンサー13、加速度センサー14、撮像部15、操作部16、表示部17、及び通信部18を備える。
【0034】
制御部11は、演算/制御装置としてのCPU、主記憶装置としてのROM及びRAM等を備える(いずれも符号略)。ROMには、基本プログラムや基本的な設定データが記憶される。CPUは、例えば、ROMから処理内容に応じたプログラムを読み出してRAMに展開し、展開したプログラムを実行することにより、第1手術支援端末10の各ブロックの動作を集中制御する。
【0035】
なお、制御部11が実行する処理の一部又は全部は、処理に応じて設けられたDSP(Digital Signal Processor)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、PLD(Programmable Logic Device)等の電子回路によって実行されてもよい。
【0036】
記憶部12は、例えば、フラッシュメモリ等の内蔵ストレージ(補助記憶装置)であり、プログラムや各種データ等を記憶する。本実施の形態では、記憶部12には、手術ナビゲーションプログラムが記憶されている。また、記憶部12には、第1手術支援端末10の姿勢と臼蓋カップ101の姿勢との相関関係を示すデータが記憶されている。なお、手術ナビゲーションプログラム等は、ROMに記憶されてもよい。また、記憶部12には、通信部18を介して病院端末(図示略)から取得した術前計画データが記憶されてもよい。
【0037】
ジャイロセンサー13は、第1手術支援端末10の姿勢を検出する装置姿勢検出部として機能する。また、加速度センサー14は、水平面を検出する水平面検出部として機能する。なお、水平面検出部及び/又は装置姿勢検出部には、ジャイロセンサー13と加速度センサー14を組み合わせて適用してもよい。
【0038】
撮像部15は、レンズ、イメージセンサー、及び撮像制御部等を有し、操作部16(シャッターボタン)の操作に伴い被写体(ここでは、手術台T上の術野)を撮像する。
【0039】
操作部16及び表示部17は、例えば、タッチパネル付きのフラットパネルディスプレイで構成される。フラットパネルディスプレイとしては、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイなどを用いることができる。また、操作部16は、電源のON/OFF操作に係る電源ボタン、撮像指示に係るシャッターボタン、各種のモードや機能等の選択指示に係るボタン等(いずれも図示略)を含む。
【0040】
操作部16は、第1手術支援端末10に所定の動作を実行させるための操作を受け付け、操作に応じた操作信号を制御部11に出力する。制御部11は、操作部16からの操作信号に従って所定の動作(例えば、被写体の撮像等)を各部に実行させる。
【0041】
表示部17は、制御部11の制御に従って各種情報を表示する。表示部17は、例えば、制御部11による各種のアプリケーションプログラムの実行に伴い、アプリケーション画面を表示する。本実施の形態では、表示部17は、手術ナビゲーション用の画面を表示する。具体的には、表示部17は、人工関節置換術において、支援情報として前方開角RA及び外方開角RIを表示し、施術者に提供する。
【0042】
通信部18は、例えば、無線LAN等の通信インターフェースである。制御部11は、通信部18を介して、ネットワークに接続された第2手術支援端末20との間で各種情報の送受信を行う。また例えば、制御部11は、通信部18を介して、ネットワークに接続された病院端末(図示略)やクラウド上のサーバーとの間で各種情報を送受信可能に構成されてもよい。通信部18には、Bluetooth(登録商標)等の近距離無線通信用の通信インターフェースを適用することもできる。
【0043】
制御部11は、ROM又は記憶部12に記憶されている手術ナビゲーションプログラムを実行することにより、特徴点算出部、キャリブレーション部及び姿勢算出部として機能する。これらの機能については、
図6のフローチャートに従って詳述する。
【0044】
図5は、第2手術支援端末20の機能的構成を示すブロック図である。
図5に示すように、第2手術支援端末20は、制御部21、記憶部22、ジャイロセンサー23、加速度センサー24、操作部26、表示部27、及び通信部28を備える。各部の機能は、第1手術支援端末10と同様であるので、説明を省略する。
【0045】
第2手術支援端末20は、患者Pに対して人工股関節置換術を行う場合に、患者Pとの位置関係が固定された状態で用いられる。第2手術支援端末20には、例えば、人工関節置換術を阻害しないスマートウォッチ等の小型のウェアラブル端末が好適である。第2手術支援端末20は、例えば、ウレタン樹脂等からなるクッション材に保護された状態で、ベルトなどによって患者Pの背中に装着される。
【0046】
第2手術支援端末20において、ジャイロセンサー23は、患者Pの姿勢を検出可能な患者姿勢検出部として機能する。なお、患者姿勢の検出には、ジャイロセンサー23及び加速度センサー24を組み合わせて使用してもよい。第2手術支援端末20によって得られる患者Pの姿勢情報は、第1手術支援端末10に送信される。第1手術支援端末10は、第2手術支援端末20から提供された患者Pの姿勢情報を考慮して、基準座標系を設定する。
【0047】
図6は、第1手術支援端末10の制御部11が実行する手術ナビゲーション処理の一例を示すフローチャートである。この処理は、例えば、操作部16を通じて、手術ナビゲーションのアプリケーションを起動する操作が入力されることに伴い、CPUが記憶部12に格納されている手術ナビゲーションプログラムを実行することにより実現される。
【0048】
なお、人工股関節置換術を行うに際して、事前に、術前計画処理が行われ、目標となる前方開角RA及び外方開角RIが決定されている。この前方開角RA及び外方開角RIは、術前計画データとして、記憶部12に記憶され、設置角度の適否を自動的に判断するのに用いられてもよい。
【0049】
手術ナビゲーション処理において、基準座標系の設定は、患者Pの姿勢が仰臥位である状態で行われる。ARマーカー106は、患者Pの左右の上前腸骨棘を指し示すように取り付けられる。また、手術ナビゲーションプログラムの実行に伴い、撮像部15は撮像を開始する。術中においては、第2手術支援端末20から第1手術支援端末10に対して、常時、患者姿勢情報が提供される。
【0050】
ステップS101において、制御部11は、撮像部15によって撮像された撮像画像を取得する。施術者は、撮像画像に2つのARマーカー106の画像が含まれるように、第1手術支援端末10の位置及び姿勢を調整する。ARマーカー106を撮像する際、第1手術支援端末10は固定されていなくてもよい。
【0051】
ステップS102において、制御部11は、撮像画像を解析して、特徴点の空間位置を示す位置情報(以下、「特徴点情報」と称する)を算出する(「特徴点算出部」としての機能)。制御部11は、例えば、撮像画像に含まれるARマーカー106のパターンの大きさ及び傾きに基づいて、2つの特徴点(上前腸骨棘)の特徴点情報を算出する。ARマーカー106を用いることにより、パターンを精度よく識別でき、ARマーカー1の位置及び姿勢を正確に検出できるので、特徴点の位置を正確に特定することができる。
【0052】
ステップS103において、制御部11は、加速度センサー14から提供される水平面情報を取得する。
【0053】
ステップS104において、制御部11は、ステップS102で算出した特徴点情報及びステップS103で取得した水平面情報に基づいて、基準座標系を設定する(「キャリブレーション部」としての機能)。仰臥位の患者Pの機能的骨盤平面は、手術台Tに平行、すなわち、水平面に平行であるとみなすことができる。また、左右の上前腸骨棘を結ぶ直線は、患者Pの内外側方向に略一致する。したがって、特徴点情報及び水平面情報に基づいて、適切な基準座標系を設定することができる。
【0054】
例えば、水平面の法線方向をY軸、2つの特徴点(左右の上前超骨棘)を結ぶ直線をX軸、X軸及びY軸に直交する軸をZ軸として基準座標系が設定される。なお、2つの特徴点を結ぶ直線が水平面に対して傾斜している場合は、傾斜角度に基づいて機能的骨盤平面を示すXZ面が補正される。
【0055】
ステップS105において、制御部11は、第2手術支援端末20から提供される患者姿勢情報に基づいて、患者Pの姿勢が変化したか否かを判定する。患者Pの姿勢が変化した場合(ステップS105で“YES”)、ステップS106の処理に移行する。患者Pの姿勢が変化しない場合(ステップS105で“NO”)、ステップS107の処理に移行する。
【0056】
ステップS106において、制御部11は、患者姿勢に基づいて基準座標系を補正する(「キャリブレーション部」としての機能)。仰臥位で人工股関節置換術を行う場合は、患者Pの姿勢は変化しないので、基準座標系の補正は不要である。一方、側臥位で人工股関節置換術を行う場合は、例えば、患者Pの姿勢がXY面において略90°回転し、基準座標系も変化する(
図7参照)。そこで、ステップS104で設定した基準座標系に対して、患者Pの姿勢変化に応じた補正が行われる。
【0057】
以上の処理により、患者Pに対する基準座標系が適切に設定される。基準座標系の設定が完了した後、第1手術支援端末10は、所定の姿勢でカップホルダー105に固定される。「所定の姿勢」とは、第1手術支援端末10の姿勢に基づいて、カップホルダー105の姿勢、すなわち臼蓋カップ101の姿勢を演算によって導出できる姿勢である。例えば、第1手術支援端末10は、カップホルダー105の軸方向AXと表示面が垂直になるように、カップホルダー105に固定される。
【0058】
ステップS107において、制御部11は、ジャイロセンサー13から提供される第1手術支援端末10の装置姿勢情報を取得する。
【0059】
ステップS108において、制御部11は、設定された基準座標系と、第1手術支援端末10の装置姿勢情報に基づいて、術中の臼蓋カップ101の設置角度(前方開角RA及び外方開角RI)を算出する。
【0060】
ステップS109において、制御部11は、表示部17の動作を制御して、支援情報として前方開角RA及び外方開角RIを表示する(
図8参照)。施術者は、表示部17に表示された支援情報によって、現在の臼蓋カップ101の設置角度を認識する。
図8では、前方開角RA及び外方開角RIが数値で表示されるとともに、基準座標系における臼蓋カップ101及びカップホルダー105の姿勢がグラフィカルに示されている。これにより、現在の設置角度の適否、及び、至適設置角度とするためにとるべき操作(前後方向及び/又は左右方向にどれくらい回転させればよいかなど)を直感的に判断することができる。
【0061】
ステップS110において、制御部11は、操作部16からの操作信号に基づいて、手術ナビゲーションのアプリケーションを終了する操作が行われたか否かを判定する。アプリケーションの終了操作が行われた場合(ステップS110で“YES”)、手術ナビゲーション処理を終了する。アプリケーションの終了操作が行われない場合(ステップS110で“NO”)、ステップS107の処理に移行する。すなわち、手術が終了するまで、第1手術支援端末10の表示部17には、カップホルダー105の姿勢に追従して、設置角度が更新されて表示される。
【0062】
最終的に、表示部17に表示されている設置角度が術前計画と合致したところで、カップホルダー105の打突により臼蓋カップ101が寛骨臼に嵌め込まれ、スクリュー等の固定部材により固定される。
【0063】
なお、上記実施の形態では、施術者自身が、表示部17に表示されている設置角度を確認しながら適否を判断するが、第1手術支援端末10において、自動的に設置角度の適否が判断され、表示部17における表示態様の変化(例えば、表示色の変化)や音声により、施術者に至適設置角度となったことを報知するようにしてもよい。
【0064】
本実施の形態に係る第1手術支援端末10(手術支援装置)は、以下の特徴事項を単独で、又は、適宜組み合わせて備えている。
【0065】
すなわち、第1手術支援端末10は、人工関節置換術において、インプラント100との位置関係が固定された状態で用いられる手術支援装置であって、術野を撮像する撮像部15と、水平面を検出可能な加速度センサー14(水平面検出部)と、当該第1手術支援端末10の姿勢を検出可能なジャイロセンサー13(装置姿勢検出部)と、基準座標系の1軸を規定するための2つの特徴点を含む術野を撮像部15で撮像したときの撮像画像に基づいて、2つの特徴点の空間位置を示す位置情報を算出する制御部11(特徴点算出部)と、制御部11によって得られる特徴点の位置情報と、加速度センサー14によって得られる水平面情報と、に基づいて、基準座標系を設定する制御部11(キャリブレーション部)と、ジャイロセンサー13によって検出される当該第1手術支援端末10の姿勢に基づいて、基準座標系におけるインプラント100の姿勢(外方開角RI、前方開角RA)を算出する制御部11(姿勢算出部)と、算出されたインプラント100の姿勢を、支援情報として表示する表示部17と、を備える。
【0066】
第1手術支援端末10にはスマートフォン等の汎用の携帯端末を適用できるので、整形外科手術の術中支援を、高精度で、且つ、低コストで行うことができる。また、第1手術支援端末10で得られる水平面情報に基づいて基準座標系を設定するので、基準座標系の設定に必要な術中計測情報を低減することができ、低侵襲性を図ることができる。
【0067】
第1手術支援端末10において、撮像部15は、特徴点を指し示すARマーカー106を撮像し、制御部11(特徴点算出部)は、撮像画像から得られるARマーカー106の見え方に基づいて、特徴点の位置情報を算出する。
【0068】
第1手術支援端末10は、人工股関節置換術において臼蓋カップ101との位置関係が固定された状態で用いられる手術支援装置であって、支援情報は、臼蓋カップ101の外方開角RI及び前方開角RAを含む。
【0069】
特徴点は、左右の上前腸骨棘である。
【0070】
水平面検出部及び装置姿勢検出部は、ジャイロセンサー13、加速度センサー14、又はジャイロセンサー13と加速度センサー14の組合せで構成される。
【0071】
第1手術支援端末10は、患者Pの姿勢を検出可能な第2手術支援端末20(患者姿勢検出装置)と通信可能な通信部18を備え、制御部11(キャリブレーション部)は、第2手術支援端末20から提供される患者姿勢情報に基づいて、基準座標系を補正する。これにより、水平面情報及び特徴点の位置情報に基づいて基準座標系を設定した後に患者Pの姿勢が変化しても、適切な支援情報を提供することができる。例えば、側臥位で人工股関節置換術を行う場合においても、現在の臼蓋カップ101の設置角度を適切に導出して、施術者に提供することができる。
【0072】
本実施の形態に係る手術支援システム1は、第1手術支援端末10(手術支援装置)と、第1手術支援端末10と通信可能に構成され、第1手術支援端末10に対して患者Pの姿勢情報を提供する第2手術支援端末20(患者姿勢検出装置)と、を備える。
【0073】
本実施の形態に係る手術支援プログラムは、人工関節置換術において、インプラント100との位置関係が固定された状態で用いられる第1手術支援端末10(手術支援装置)のコンピューターに、基準座標系の1軸を規定するための2つの特徴点を含む術野を撮像したときの撮像画像に基づいて、2つの特徴点の空間位置を示す位置情報を算出する処理(
図6のステップS101,S102)と、水平面を示す水平面情報を取得する処理(ステップS103)と、位置情報及び水平面情報に基づいて、基準座標系を設定する処理(ステップS104)と、当該第1手術支援端末10の姿勢に基づいて、基準座標系におけるインプラント100の姿勢を算出する処理(ステップS107,S108)と、算出されたインプラント100の姿勢を、支援情報として表示する処理(ステップS109)と、を実行させる。
【0074】
手術支援プログラムは、例えば、当該プログラムが格納されたコンピューター読取可能な可搬型記憶媒体(例えば、光ディスク、光磁気ディスク、及びメモリカードを含む)を介して提供される。また例えば、手術支援プログラムは、当該プログラムを保有するサーバーから、ネットワークを介してダウンロードにより提供されてもよい。
【0075】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づいて具体的に説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
【0076】
例えば、本開示の手術支援装置は、人工股関節置換術だけでなく、人工膝関節置換術やその他の人工関節置換術において、水平面に平行な基準面を利用してインプラントの設置角度を設定する場合に適用することができる。
【0077】
実施の形態では、手術支援システム1として、第1手術支援端末10(手術支援装置)及び第2手術支援端末20(患者姿勢検出装置)を利用する場合について説明したが、第2手術支援端末20を利用せず、第1手術支援端末10を単独で利用してもよい。例えば、仰臥位で人工関節置換術を行う場合、基準座標系を設定した後に患者Pの姿勢は変化しないので、第2手術支援端末20は不要となる。
【0078】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0079】
1 手術支援システム
10 第1手術支援端末(手術支援装置)
11 制御部(特徴点算出部、キャリブレーション部、姿勢算出部)
12 記憶部
13 ジャイロセンサー(水平面検出部、装置姿勢検出部)
14 加速度センサー(水平面検出部、装置姿勢検出部)
15 撮像部
16 操作部
17 表示部
18 通信部
20 第2手術支援端末(患者姿勢検出装置)
100 インプラント
101 臼蓋カップ
RA 前方開角
RI 外方開角