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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172143
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】断面欠損部材
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/62 20060101AFI20231129BHJP
   E04B 2/84 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
E04B1/62 Z
E04B2/84 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022083752
(22)【出願日】2022-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】591000506
【氏名又は名称】早川ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡本 光弘
(72)【発明者】
【氏名】矢野 智也
(72)【発明者】
【氏名】石居 亮
【テーマコード(参考)】
2E001
【Fターム(参考)】
2E001DH34
2E001EA01
2E001FA03
2E001GA13
2E001GA55
2E001HB02
(57)【要約】
【課題】設置時の作業性が良く、歩留まりも良い断面欠損部材を提供する。
【解決手段】断面欠損部材1は、本体板部10と、本体板部10の上端部に形成された上側曲げ部11と、本体板部10の下端部に形成された下側曲げ部12と、本体板部10におけるコンクリート構造物の厚み方向一方に対応する一端部に形成された一端曲げ部13と、本体板部10におけるコンクリート構造物の厚み方向他方に対応する他端部に形成された他端曲げ部14とを有している。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物の厚み方向中央部に設置され、当該コンクリート構造物に断面欠損を生じさせるための断面欠損部材であって、
上下方向に長く、かつ、前記コンクリート構造物の厚み方向に沿って延びるように設置される本体板部と、
前記本体板部の上端部を水平方向へ折り曲げることによって前記本体板部の厚み方向に突出するように形成された上側曲げ部と、
前記本体板部の下端部を水平方向へ折り曲げることによって前記本体板部の厚み方向に突出するように形成された下側曲げ部と、
前記本体板部における前記コンクリート構造物の厚み方向一方に対応する一端部を前記本体板部の厚み方向に折り曲げることによって形成された一端曲げ部と、
前記本体板部における前記コンクリート構造物の厚み方向他方に対応する他端部を前記本体板部の厚み方向に折り曲げることによって形成された他端曲げ部とを有していることを特徴とする断面欠損部材。
【請求項2】
請求項1に記載の断面欠損部材において、
前記上側曲げ部は、前記本体板部の上端部に沿って延びており、
前記下側曲げ部は、前記本体板部の下端部に沿って延びていることを特徴とする断面欠損部材。
【請求項3】
請求項1に記載の断面欠損部材において、
前記一端曲げ部は、前記本体板部の前記一端部に沿って延びており、
前記他端曲げ部は、前記本体板部の前記他端部に沿って延びていることを特徴とする断面欠損部材。
【請求項4】
請求項2に記載の断面欠損部材において、
前記上側曲げ部及び前記下側曲げ部は同方向に折り曲げられていることを特徴とする断面欠損部材。
【請求項5】
請求項3に記載の断面欠損部材において、
前記一端曲げ部及び前記他端曲げ部は同方向に折り曲げられていることを特徴とする断面欠損部材。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1つに記載の断面欠損部材において、
前記上側曲げ部及び前記下側曲げ部には、突出方向先端部から基端部まで連続した切れ込み部が形成されていることを特徴とする断面欠損部材。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか1つに記載の断面欠損部材において、
前記本体板部には、打設時のコンクリートを厚み方向に流通させる流通孔が形成されていることを特徴とする断面欠損部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コンクリート構造物の温度ひび割れ対策に使用されるひび割れ誘発用の断面欠損部材に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートの多くは硬化過程において水とセメントが反応した際の反応熱によって膨張し、反応が収まるに従って硬化と共に収縮する。その収縮の際に先打ちコンクリート(底版コンクリート等)に拘束されることで壁部には無数のひび割れが発生する。ひび割れは鉄筋の腐食などコンクリート構造物の耐久性への影響やコンクリート構造物が水槽であれば水密性の低下などの影響が大きいため多種様々なひび割れ対策が実施されている。その温度ひび割れ対策の一つとして誘発目地があり、他のひび割れ対策と比べて制御効果が高く低発熱セメントのようなプラントの問題もないことから多くの壁状構造物に使用されている。
【0003】
例えば特許文献1に開示されているように、誘発目地は、壁状構造物において長手方向に一定の間隔で断面欠損部分を設け、その部分にひび割れを誘発することで、その他の部分へのひび割れ発生を防止するものである。誘発目地を構成する部材としては、鉄筋被り部に設置する部材と鉄筋内部に設置する部材と大きく分けて2種類あり、壁厚によってその組み合わせを選定し、所定の断面欠損率を確保している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-208356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述したように、コンクリート構造物の温度ひび割れ対策として誘発目地が使用されているが、建設業界においては少子高齢化と共に作業員の確保や熟練者不足など大きな課題を抱えている。また近年の構造物の大型化により大断面のコンクリート構造物も多くなり、断面欠損部材の軽量化、一人作業でも施工可能な断面欠損部材が望まれている背景もあった。
【0006】
特にコンクリート構造部の壁厚が1.8m程度よりも厚くなると、コンクリート構造物の内部に設置する断面欠損部材は、壁厚方向の両側の鉄筋に設置するだけでは所定の断面欠損率が確保出来ない為、壁厚の中心部に断面欠損部材を設置する必要がある。壁厚の中心部に断面欠損部材を設置する場合、鉄筋等で架設材を設けた後、断面欠損部材を架設材に固定していた。壁厚の中心部に設置する断面欠損部材は、厚み1.0mmや2.3mmの平鋼板や厚み0.8mmの波板などが使用されている。
【0007】
壁厚方向の両側部分、いわゆる鉄筋の被りに設置する断面欠損部材や鉄筋内部に設置する断面欠損部材は固定用の鉄筋があるため結束線や固定治具などを用いて施工すればそれほどの労力は掛らない。一方、壁厚の中心部に設置する断面欠損部材の場合、厚み2.3mmの鋼板を使用すると、幅300mm、長さ1000mmで5.4kg程度の重量となり、かなり重い。また平板なので剛性が低く、取付け用鉄筋をたくさん設置しなければならず、またコンクリート打設圧で断面欠損部材が曲がるなどの問題が発生する懸念があった。
【0008】
厚み0.8mmの波板を断面欠損部材として使用する場合、幅300mm、長さ1000mmで2.4kg程度の重量となり、上記平板よりも軽く、しかも剛性が高いことから取付け用鉄筋も少なくて済むとともに、コンクリート打設圧で曲がるようなことはないが、厚みが0.8mmもあるので、施工現場では通常の金切りはさみでカットするのは難しく、特殊な工具を使用してカットしていた。また複数枚の断面欠損部材を厚み方向に重ねて設置することにより、手間のかかるカット工程をなくすことは可能であるが、重なり部分が長くなることで歩留まりが悪化し、コストが高くなっていた。
【0009】
さらにコンクリート構造物が大型化すると複数枚の断面欠損部材を上下に並べて互いに接続して使用する場合がある。この場合に2.3mmの平たい鋼板及び0.8mmの波板の両方とも、少なくとも2人作業が必要になり、1人が断面欠損部材を持ってもう1人が断面欠損部材を結束するなどの作業が生じていた。
【0010】
また接続部分の固定状態が悪いと接続部分がコンクリート打設圧によって流されてしまうおそれがあった。
【0011】
本開示は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、設置時の作業性及び歩留まりが良く、しかも、コンクリートの打設圧に抗することが可能な断面欠損部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本開示の一態様では、コンクリート構造物の厚み方向中央部に設置され、当該コンクリート構造物に断面欠損を生じさせるための断面欠損部材を前提とすることができる。断面欠損部材は、上下方向に長く、かつ、前記コンクリート構造物の厚み方向に沿って延びるように設置される本体板部と、前記本体板部の上端部を水平方向へ折り曲げることによって前記本体板部の厚み方向に突出するように形成された上側曲げ部と、前記本体板部の下端部を水平方向へ折り曲げることによって前記本体板部の厚み方向に突出するように形成された下側曲げ部と、前記本体板部における前記コンクリート構造物の厚み方向一方に対応する一端部を前記本体板部の厚み方向に折り曲げることによって形成された一端曲げ部と、前記本体板部における前記コンクリート構造物の厚み方向他方に対応する他端部を前記本体板部の厚み方向に折り曲げることによって形成された他端曲げ部とを有している。
【0013】
この構成によれば、本体板部に上側曲げ部及び下側曲げ部が形成され、また一端曲げ部及び他端曲げ部が形成されていることで、これら曲げ部がリブのように機能することになる。よって、本体板部を薄肉化してもコンクリートの打設圧に抗し得る程度の剛性が得られるので、軽量で1人でも設置及び固定し易い断面欠損部材となる。断面欠損部材を薄肉化できるので、施工現場では通常の金切りはさみで所望の大きさにカットして使用でき、歩留まりが向上する。また、断面欠損部材を上下方向に並べて使用する際には、下側の断面欠損部材の上側曲げ部の上に、上側の断面欠損部材の下側曲げ部を載せることで、上側の断面欠損部材を下側の断面欠損部材の上に安定した状態で仮置きでき、このことによっても断面欠損部材の設置が容易になる。
【0014】
また、上側の断面欠損部材の下側曲げ部を上下方向に延びる姿勢に変形させることで、下側の断面欠損部材の上部を上側の断面欠損部材の下部に重ねるように配置することが可能になる。下側曲げ部を変形させる際には、上述したように本体板部が薄肉化されているので、大きな力は必要ない。この状態で、上側の断面欠損部材の一端曲げ部及び他端曲げ部の間に、下側の断面欠損部材の一端曲げ部及び他端曲げ部を配置することで、上側及び下側の断面欠損部材の接続部分の剛性を高めることができ、当該接続部分がコンクリート打設圧によって流されてしまうことはない。
【0015】
本開示の他の態様では、上側曲げ部が本体板部の上端部に沿って延びており、下側曲げ部が本体板部の下端部に沿って延びているので、上側曲げ部及び下側曲げ部による補強効果をより一層高めることができる。
【0016】
本開示の他の態様では、一端曲げ部が本体板部の一端部に沿って延びており、他端曲げ部が本体板部の他端部に沿って延びているので、一端曲げ部及び他端曲げ部による補強効果をより一層高めることができる。
【0017】
本開示の他の態様では、上側曲げ部及び下側曲げ部が同方向に折り曲げられているので、断面欠損部材を上下方向に並べて使用する際に、下側の断面欠損部材の上側曲げ部に上側の断面欠損部材の下側曲げ部を安定した状態で仮置きできる。
【0018】
本開示の他の態様では、一端曲げ部及び他端曲げ部を同方向に折り曲げることができ、上側曲げ部及び下側曲げ部の折り曲げ方向と、一端曲げ部及び他端曲げ部の折り曲げ方向とを一致させることもできる。これにより、本体板部の剛性がより一層高まる。
【0019】
本開示の他の態様では、上側曲げ部及び下側曲げ部には、突出方向先端部から基端部まで連続した切れ込み部が形成されていてもよい。これにより、例えば本体板部を曲げたい場合等に、切れ込み部が開く方向であれば小さな力で曲げることが可能になり、設置時の作業性がより一層向上する。また、断面欠損部材を上下方向に並べて使用する際、例えば上側折り曲げ部を上下方向に延びる姿勢として、上下の断面欠損部材を厚み方向に重ねることが好ましい場合があり、この場合に、上側折り曲げ部を上下方向に延びるように変形させる作業が容易になる。
【0020】
本開示の他の態様では、本体板部に、打設時のコンクリートを厚み方向に流通させる流通孔が形成されていてもよい。この構成によれば、打設時に流動するコンクリートが流通孔を流通することで、本体板部に作用するコンクリート打設圧が弱まり、本体板部の変形や位置ずれが抑制される。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本体板部に上側曲げ部及び下側曲げ部と一端曲げ部及び他端曲げ部とを形成したことで軽量かつ高剛性な断面欠損部材になるので、施工現場での設置時の作業性及び歩留まりが良く、しかも、コンクリートの打設圧に抗することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施形態に係る断面欠損部材が設置されたコンクリート構造物の水平断面図である。
図2】断面欠損部材の正面図である。
図3】断面欠損部材の側面図である。
図4】断面欠損部材の平面図である。
図5図2におけるA-A線断面図である。
図6】断面欠損部材を上下方向に並べて仮置きした状態を示す平面図である。
図7】上側曲げ部を上下方向に延びる姿勢にする場合を説明する斜視図である。
図8】断面欠損部材を接続して使用する場合を説明する斜視図である。
図9】施工方法を説明する平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0024】
図1は、本発明の実施形態に係る断面欠損部材1が設置されたコンクリート構造物100の水平断面図である。コンクリート構造物100は、特に限定されるものではないが、例えば厚みが1m以上または1.8m以上の大断面を持つ壁等を挙げることができる。また、コンクリート構造物100は、先打ちコンクリート部材上に構築されるものである。先打ちコンクリート部材とは、例えば底盤や壁の一部等である。図1では、コンクリート構造物100の厚み方向を壁厚方向と定義し、コンクリート構造物100の厚み方向と直交する水平方向を長手方向と定義しているが、これは説明の便宜を図るために定義したものであって各方向を限定するものではない。また、壁厚方向の一方側を前面側とし、壁厚方向の他方側を背面側とするが、これも説明の便宜を図るために定義したものである。
【0025】
コンクリート構造物100は、前面側の鉄筋101と、背面側の鉄筋102とを有している。前面側の鉄筋101及び背面側の鉄筋102は、それぞれ、上下方向に延びるものと水平方向(コンクリート構造物100の長手方向)に延びるものとが組み合わされて構成されている。
【0026】
コンクリート構造物100には、コンクリートの温度ひび割れ対策に使用される誘発目地構造が設けられている。すなわち、コンクリート構造物100は、前面及び背面にそれぞれ埋設された埋め込み化粧目地材103、104と、前面外側欠損部材105及び背面外側欠損部材106と、前面内側欠損部材107及び背面内側欠損部材108と、本発明に係る断面欠損部材1とを備えている。埋め込み化粧目地材103、104、前面外側欠損部材105及び背面外側欠損部材106、前面内側欠損部材107及び背面内側欠損部材108並びに断面欠損部材1により、誘発目地構造が構成されている。埋め込み化粧目地材103、104、前面外側欠損部材105及び背面外側欠損部材106、前面内側欠損部材107及び背面内側欠損部材108並びに断面欠損部材1は、壁厚方向に延びる仮想直線上に位置付けられるように設置される。これにより、コンクリート構造物100の所望の部位にひび割れを誘発させることが可能になる。
【0027】
前面の埋め込み化粧目地材103は、上下方向に長い樹脂材等で構成されており、コンクリート構造物100の前面におけるひび割れを誘発する部分に埋め込まれていて、ひび割れが発生したときに外部から見えないようにするための部材である。背面の埋め込み化粧目地材104は、前面のものと同様に、上下方向に長い樹脂材等で構成されており、コンクリート構造物100の背面におけるひび割れを誘発する部分に埋め込まれている。
【0028】
前面外側欠損部材105は、前面側の鉄筋101の外側、即ち前面に近い側に配置され、前面側の鉄筋101に固定されている。背面外側欠損部材106は、背面側の鉄筋102の外側、即ち背面に近い側に配置され、背面側の鉄筋102に固定されている。前面内側欠損部材107は、前面側の鉄筋101の内側、即ち壁厚方向中央部に近い側に配置され、前面側の鉄筋101に対して固定用治具110によって固定されている。背面内側欠損部材108は、背面側の鉄筋102の内側、即ち壁厚方向中央部に近い側に配置され、背面側の鉄筋102に対して固定用治具111によって固定されている。
【0029】
コンクリート構造物100には、断面欠損部材1を固定するための固定用鉄筋120も設けられている。固定用鉄筋120は、前面側の鉄筋101から背面側の鉄筋102まで壁厚方向に水平に延びている。この固定用鉄筋120に、固定用治具110、111が固定されるとともに、前面内側欠損部材107及び背面内側欠損部材108が固定されている。また、断面欠損部材1は固定用治具121により固定用鉄筋120に固定されている。
【0030】
断面欠損部材1は、コンクリート構造物100の厚み方向(壁厚方向)中央部に設置され、当該コンクリート構造物100に断面欠損を生じさせるための部材であり、例えば亜鉛めっき鋼板等の防錆処理された鋼板で構成されている。断面欠損部材1を構成する鋼板の厚みは、例えば0.4mm以上0.7mm以下の範囲で設定されており、本実施形態では0.5mmとされている。断面欠損部材1の厚みを0.4mm未満にすると、コンクリートの打設圧に耐え得る剛性を確保できなくなるおそれがあるので、断面欠損部材1の厚みを0.4mm以上にするのが好ましい。一方、断面欠損部材1の厚みを0.7mmよりも厚くすると、通常の金切りはさみでカットするのが難しくなり、特殊な工具が必要になるので、断面欠損部材1の厚みを0.7mm以下にするのが好ましい。
【0031】
断面欠損部材1の長さ(上下方向の寸法)は、500mm以上1500mm以下の範囲で設定されており、本実施形態では1000mmとされている。これにより、作業員1人でも容易に取り扱える長さとなる。断面欠損部材1の幅(壁厚方向の寸法)は、200mm以上500mm以下の範囲で設定されており、本実施形態では300mmとされている。断面欠損部材1の幅は、コンクリート構造物100に必要な断面欠損領域を確保可能な幅であればよく、300mmに限られるものではない。断面欠損部材1の重さは1.5kg/m程度であり、作業者が1人で容易に持ち上げること、所望の位置に設置することが可能である。
【0032】
図2図5に示すように、断面欠損部材1は、本体板部10と、上側曲げ部11と、下側曲げ部12と、一端曲げ部13と、他端曲げ部14とを備えている。本体板部10は、上下方向に長く、かつ、図1に示すようにコンクリート構造物100の壁厚方向に沿って延びるように設置される部分であり、平板状をなしている。本体板部10の上端部及び下端部は、壁厚方向に直線状に延びており、互いに平行である。また、本体板部10の幅方向一端部及び他端部は、上下方向に直線状に延びており、互いに平行である。
【0033】
図2に示すように、本体板部10の幅方向中央部には、打設時のコンクリートを当該本体板部10の厚み方向に流通させる流通孔10aが複数形成されている。複数の流通孔10aは円形とされており、本体板部10の上端部近傍から下端部近傍まで略等間隔に配置されている。流通孔10aの径は、例えば30mm以上60mm以下の範囲で設定することができ、本実施形態では40mmとしている。流通孔10aの径を30mm未満にすると打設時のコンクリートの流動性が悪化するため、流通孔10aの径を30mm以上確保するのが好ましい。また、流通孔10aの径を60mmよりも大きくすると本体板部10の剛性が低下するため、流通孔10aの径を60mm以下とするのが好ましい。尚、流通孔10aの形状は、円形に限られるものではなく、例えば多角形、楕円形であってもよい。また、流通孔10aは、本体板部10の幅方向一端寄りの部位や他端寄りの部位に形成してもよい。また、流通孔10aは省略してもよい。
【0034】
本体板部10における流通孔10aの両側には、上下方向に長い長孔10bがそれぞれ形成されている。複数の長孔10bが上下方向に並んでおり、上下方向中央部近傍の長孔10bは、上側及び下側の長孔10bに比べて上下方向の寸法が長く設定されている。また、本体板部10における壁厚方向一方に対応する一端部近傍及び他端部近傍にはそれぞれ複数の開口部10cが上下方向に並ぶように形成されている。開口部10cの上下方向の寸法は、流通孔10aの上下方向の寸法よりも短く設定されている。流通孔10a、長孔10b及び開口部10cを利用して断面欠損部材1を固定用鉄筋120に固定することも可能である。例えば、番線等を流通孔10a、長孔10bまたは開口部10cに通して固定用鉄筋120に縛り付ける方法によって断面欠損部材1を固定用鉄筋120に固定できる。長孔10b及び開口部10cは必要に応じて設ければよく、いずれか一方または両方を省略してもよい。
【0035】
断面欠損部材1は、上側曲げ部11、下側曲げ部12、一端曲げ部13及び他端曲げ部14を備えている。上側曲げ部11、下側曲げ部12、一端曲げ部13及び他端曲げ部14は、本体板部10に一体成形されている。具体的には、断面欠損部材1の製造時に1枚の鋼板をプレス成形することで、上側曲げ部11、下側曲げ部12、一端曲げ部13及び他端曲げ部14が本体板部10に一体化された断面欠損部材1を得ることができる。
【0036】
上側曲げ部11は、本体板部10の上端部を水平方向へ折り曲げることによって本体板部10の厚み方向に突出するように形成された部分である。上側曲げ部11は、本体板部10の上端部に沿って延びている。また、下側曲げ部12は、本体板部10の下端部を水平方向へ折り曲げることによって本体板部10の厚み方向に突出するように形成された部分である。下側曲げ部12は、本体板部10の下端部に沿って延びている。上側曲げ部11及び下側曲げ部12は同方向に折り曲げられており、互いに平行である。
【0037】
一端曲げ部13は、本体板部10におけるコンクリート構造物100の厚み方向一方に対応する一端部(本体板部10の幅方向一端部)を本体板部10の厚み方向に折り曲げることによって形成された部分である。一端曲げ部13は、本体板部10の一端部に沿って上下方向に延びている。他端曲げ部14は、本体板部10におけるコンクリート構造物100の厚み方向他方に対応する他端部(本体板部10の幅方向他端部)を本体板部10の厚み方向に折り曲げることによって形成された部分である。他端曲げ部14は、本体板部10の他端部に沿って上下方向に延びている。一端曲げ部13及び他端曲げ部14は同方向に折り曲げられており、互いに平行である。この実施形態では、上側曲げ部11、下側曲げ部12、一端曲げ部13及び他端曲げ部14の全てが同方向に折り曲げられているので、断面欠損部材1は正面側に開放した箱状となっている。
【0038】
図4に示すように、上側曲げ部11には、当該上側曲げ部11の突出方向先端部から基端部まで連続した切れ込み部11aが形成されている。切れ込み部11aは、上側曲げ部11の幅方向中央部または中央部近傍に形成されている。切れ込み部11aの形成により、上側曲げ部11は複数に分断された状態になる。尚、切れ込み部11aの数は、1つに限られるものではなく、2つ以上であってもよい。また、図5に示すように、下側曲げ部12にも上側曲げ部11と同様に当該下側曲げ部12の突出方向先端部から基端部まで連続した切れ込み部12aが形成されている。
【0039】
図6は、コンクリート構造物100の高さが断面欠損部材1の上下方向の寸法よりも長い場合を示しており、この場合には、複数の断面欠損部材1を上下方向に並べて設置する。設置する際、下側の断面欠損部材1は、先打ちコンクリート部材上に置く。その後、下側の断面欠損部材1の上に、上側の断面欠損部材1を設置する際には、下側の断面欠損部材1の上側曲げ部11の上に、上側の断面欠損部材1の下側曲げ部12を置く。このとき、上側曲げ部11及び下側曲げ部12は、水平方向に突出した形状であることから、上側の断面欠損部材1が下側の断面欠損部材1の上で安定した状態で仮置きできる。よって、上側の断面欠損部材1を固定用鉄筋120に固定する作業が容易に行える。
【0040】
また、上側の断面欠損部材1と下側の断面欠損部材1とを接続して使用する際には、図7に示すように、下側の断面欠損部材1の上側曲げ部11を上下方向に延びる姿勢とすることができる。このとき、上側曲げ部11の中間部に切れ込み部11aが形成されているので、切れ込み部11aよりも一方側の部分を先に上下方向に延びるように変形させ、その後、残りの部分を上下方向に延びるように変形させる。このように、分割して変形させることで、上側曲げ部11を長いままで変形させる場合に比べて、小さな力で容易に変形させることができる。
【0041】
図8に示すように、下側の上側曲げ部11を上下方向に延びる姿勢にした後、下側の断面欠損部材1の一端曲げ部13及び他端曲げ部14の間に、上側の断面欠損部材1の一端曲げ部13及び他端曲げ部14を配置することで、上側及び下側の断面欠損部材1、1の接続部分が2枚重ねの厚みになり、剛性を高めることができ、当該接続部分がコンクリート打設圧によって流されてしまうことはない。
【0042】
下側の断面欠損部材1の一端曲げ部13及び他端曲げ部14の間に、上側の断面欠損部材1の一端曲げ部13及び他端曲げ部14を配置すると、下側の断面欠損部材1が上側の断面欠損部材1の一端曲げ部13及び他端曲げ部14によって上下方向に案内され、また、上側の断面欠損部材1が下側の断面欠損部材1の一端曲げ部13及び他端曲げ部14によって上下方向に案内される。これにより、上側の断面欠損部材1の高さの変更が容易に行えるので、複数の断面欠損部材1を用いて所望の高さに調整できる。断面欠損部材1の不要な部分は通常の金切はさみで簡単にカットできる。
【0043】
(施工方法)
次に、施工方法について説明する。先打ちコンクリート部材ができた後、図9に示すように、前面側の鉄筋101及び背面側の鉄筋102に固定用鉄筋120を固定するとともに、前面外側欠損部材105及び背面外側欠損部材106を固定する。また、前面内側欠損部材107及び背面内側欠損部材108を固定用治具110、111によって前面側の鉄筋101及び背面側の鉄筋102に固定する。さらに、断面欠損部材1を固定用治具121により固定用鉄筋120に固定する。断面欠損部材1を固定する際には、図8に示すように断面欠損部材1を上下に並べて接続してもよいし、1枚の断面欠損部材1を用いてもよい。また、断面欠損部材1の高さ調整を行う際に、断面欠損部材1を通常の金切りはさみでカットしてもよい。
【0044】
また、前面側の型枠200と背面側の型枠201を設置する。前面側の型枠200には、前面側の埋め込み化粧目地材103を固定し、背面側の型枠201には、背面側の埋め込み化粧目地材104を固定する。
【0045】
その後、前面側の型枠200と背面側の型枠201との間にコンクリートを打設する。打設時のコンクリートは、断面欠損部材1の流通孔10aを流通することで、断面欠損部材1の厚み方向両側に隙間無く充填される。また、コンクリートが流通孔10aを流通することで、断面欠損部材1の変形や位置ずれを抑制することができる。
【0046】
(実施形態の作用効果)
以上説明したように、本実施形態によれば、断面欠損部材1の本体板部10に上側曲げ部11及び下側曲げ部12が形成され、また一端曲げ部13及び他端曲げ部14が形成されていることで、これら曲げ部11~14がリブのように機能することになる。よって、本体板部10を例えば0.5mm程度に薄肉化してもコンクリートの打設圧に抗し得る程度の剛性が得られるので、軽量で1人でも設置及び固定し易い断面欠損部材1となる。断面欠損部材1を薄肉化できるので、施工現場では通常の金切りはさみで所望の大きさにカットして使用でき、歩留まりが向上する。
【0047】
断面欠損部材1を上下に並べて使用する場合に、上側の断面欠損部材1の一端曲げ部13及び他端曲げ部14の間に、下側の断面欠損部材1の一端曲げ部13及び他端曲げ部14を配置するか、下側の断面欠損部材1の一端曲げ部13及び他端曲げ部14の間に、上側の断面欠損部材1の一端曲げ部13及び他端曲げ部14を配置することで、上側及び下側の断面欠損部材1、1の接続部分の剛性を高めることができ、当該接続部分がコンクリート打設圧によって流されてしまうことはなくなる。
【0048】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0049】
以上説明したように、本発明に係る断面欠損部材は、コンクリート構造物の温度ひび割れ対策に使用されるひび割れ誘発用の断面欠損部材として利用できる。
【符号の説明】
【0050】
1 断面欠損部材
10 本体板部
10a 流通孔
11 上側曲げ部
12 下側曲げ部
13 一端曲げ部
14 他端曲げ部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9