IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 國立成功大學の特許一覧 ▶ 財団法人國家実験研究院の特許一覧

特開2023-17215真空陰極アーク放電を用いたパルス型推進機
<>
  • 特開-真空陰極アーク放電を用いたパルス型推進機 図1
  • 特開-真空陰極アーク放電を用いたパルス型推進機 図2
  • 特開-真空陰極アーク放電を用いたパルス型推進機 図3
  • 特開-真空陰極アーク放電を用いたパルス型推進機 図4
  • 特開-真空陰極アーク放電を用いたパルス型推進機 図5
  • 特開-真空陰極アーク放電を用いたパルス型推進機 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023017215
(43)【公開日】2023-02-07
(54)【発明の名称】真空陰極アーク放電を用いたパルス型推進機
(51)【国際特許分類】
   B64G 1/40 20060101AFI20230131BHJP
   H05H 1/54 20060101ALI20230131BHJP
【FI】
B64G1/40 500
H05H1/54
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021121313
(22)【出願日】2021-07-26
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】502250743
【氏名又は名称】國立成功大學
【氏名又は名称原語表記】NATIONAL CHENG KUNG UNIVERSITY
(71)【出願人】
【識別番号】506008799
【氏名又は名称】財団法人國家実験研究院
(74)【代理人】
【識別番号】110001151
【氏名又は名称】あいわ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】李 約亨
(72)【発明者】
【氏名】劉 勝文
(72)【発明者】
【氏名】李 後毅
(72)【発明者】
【氏名】郭 添全
(72)【発明者】
【氏名】許 耀中
【テーマコード(参考)】
2G084
【Fターム(参考)】
2G084AA22
2G084BB23
2G084BB27
2G084BB37
2G084CC23
2G084CC33
2G084DD18
(57)【要約】
【課題】使用過程において、炭素堆積の影響を低減し、炭素の堆積を燃料に転化し、使用寿命を延ばし、触発精度と制御精度を高める真空陰極アーク放電を用いたパルス型推進機を提供すること。
【解決手段】筐体31の内部に、軸方向に並ぶ触発空間312と放電空間313が形成され、第一陽極32と第二陽極33は、触発空間312内と放電空間313内に、互いに間隔を開けて設置され、第一陽極32、絶縁燃料層34、第一陰極35と絶縁層36は、筐体31の中心線Rを中心として同心円状に設置され、絶縁燃料層34は第一陽極32に囲まれ、第一陰極35と第一陽極32の間に絶縁燃料層34が設置され、絶縁層36は第一陰極35によって囲まれ、第二陰極37は、筐体31の中心線Rに沿い、触発空間312から放電空間313内へ延長進入している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空陰極アーク放電を用いたパルス型推進機は、筐体、第一陽極、第二陽極、絶縁燃料層、第一陰極、絶縁層、及び、第二陰極を含み、
前記筐体は、その内壁面の内側に触発空間と放電空間を有し、且つ前記触発空間と前記放電空間は、軸方向に並べて配置されるとともに、相互に連通され、
前記第一陽極と前記第二陽極は、前記触発空間内と前記放電空間内にそれぞれ設置され、前記第一陽極と前記第二陽極は間隔を開けて設置され、且つ前記筐体の内壁面にそれぞれ取り付けられ、
前記第一陽極、前記絶縁燃料層、前記第一陰極と前記絶縁層は、前記筐体の中心線を中心として同心円状に設置され、
前記絶縁燃料層は、第一陽極に囲まれ、
前記第一陰極は、前記触発空間内に設置され、且つ前記第一陽極との間に間隔を開けて設置され、前記絶縁燃料層が前記第一陰極と前記第一陽極との間に設置され、
前記絶縁層は、前記第一陰極によって囲まれ、
前記第二陰極は、前記筐体内に設置され、且つ前記筐体の中心線に沿い、前記触発空間から前記放電空間内へ延長進入している、ことを特徴とする真空陰極アーク放電を用いたパルス型推進機。
【請求項2】
制御装置を含み、前記制御装置は、前記第一陽極、前記第一陰極、前記第二陽極および前記第二陰極とそれぞれ接続され、前記第一陽極および前記第二陽極で正極電圧を入力し、前記第一陰極と前記第二陰極で負極電圧を入力し、前記第一陽極と前記第一陰極の放電を制御し、前記第二陽極と前記第二陰極の放電を制御することを特徴とする請求項1記載の真空陰極アーク放電を用いたパルス型推進機。
【請求項3】
前記絶縁燃料層は、フッ素樹脂を素材とすることを特徴とする請求項1記載の真空陰極アーク放電を用いたパルス型推進機。
【請求項4】
仕切部材を含み、前記仕切部材は、前記筐体の内壁面から突出し、前記第一陽極と前記第二陽極との間に設置されることを特徴とする請求項1記載の真空陰極アーク放電を用いたパルス型推進機。
【請求項5】
前記仕切部材は環状の部材であり、前記仕切部材の内周面で囲まれる開口は、前記触発空間から前記放電空間へ向かって徐々に縮小していることを特徴とする請求項4記載の真空陰極アーク放電を用いたパルス型推進機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、推進機に関し、特に真空陰極アーク放電を用いたパルス型推進機に関する。
【背景技術】
【0002】
パルス型プラズマ推進機(pulsed plasma thruster)は近年開発された新型の推進機である。
それは、電場と磁場の相互作用を利用し、更にプラズマを加速して推力を生み出す電力推進装置であり、低コストで、構造が簡単で、重量が軽く消費電力が小さいという特性を備える。
同時に、パルス型プラズマ推進機は小型衛星の姿勢制御と位置の保持に有効であり、パルス型プラズマ推進機を有力な電気推進装置の一つとしている。
【0003】
一般的なパルス型プラズマ推進機の原型は固体供給パルス型プラズマ推進機および気体誘発パルス型プラズマ推進機である。
固体供給パルス型プラズマ推進機は最もよく見かけるもので、構造が非常に簡単である。それは、主に燃料でスパークプラグの電極に合わせて放電を誘発し、推力を生む。しかしながら、真空環境下においてスパークプラグによる放電誘発の放電ニーズを達成するには非常に高い電圧が必要であり、且つ放電過程において発生した炭素がスパークプラグの電極表面および燃料表面に堆積して付着し、後続の放電誘発効果に影響を与え、固体供給パルス型プラズマ推進機の使用効率と寿命を大幅に下げるため、改善が必要である。
【0004】
気体誘発パルス型プラズマ推進機については、電極間で充分な電離気体が発生すると、コンデンサが放電し、アルゴンガスを用い起爆装置と共に放電を誘発する噴射剤となり、電離気体によって放電し、且つ破壊電圧は大気環境下の破壊電圧より小さく、最大単発パルスで発生した力積により、推進の目的を達成する。
しかしながら、気体を噴射剤とする方式は、燃料の消費が大きく、且つ推進効率も悪い。
また、気体誘発パルス型プラズマ推進機及び固体供給パルス型プラズマ推進機は、どちらもレイトタイムアブレーション (late-time ablation)現象が発生し、推進機の性能を下げ、使用寿命を縮める。依って、いかにして使用寿命が長く、高性能で、低消費電力を備えた推進機を設計するかが努力目標と言える。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、使用過程において、炭素堆積の影響を低減し、炭素の堆積を燃料に転化し、使用寿命を延ばし、更に触発精度と制御精度を高める真空陰極アーク放電を用いたパルス型推進機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の真空陰極アーク放電を用いたパルス型推進機は、筐体、第一陽極、第二陽極、絶縁燃料層、第一陰極、絶縁層、及び、第二陰極を含む。
前記筐体は、その内壁面の内側に触発空間と放電空間を有し、且つ前記触発空間と前記放電空間は、軸方向に並べて配置されるとともに、相互に連通され、
前記第一陽極と前記第二陽極は、それぞれ前記触発空間内と前記放電空間内に設置され、前記第一陽極と前記第二陽極は間隔を開けて設置され、且つ前記筐体の内壁面にそれぞれ取り付けられ、
前記第一陽極、前記絶縁燃料層、前記第一陰極と前記絶縁層は、前記筐体の中心線を中心として同心円状に設置され、
前記絶縁燃料層は、第一陽極に囲まれ、
前記第一陰極は、前記触発空間内に設置され、且つ前記第一陽極との間に間隔を開けて設置され、前記絶縁燃料層が前記第一陰極と前記第一陽極との間に設置され、
前記絶縁層は、前記第一陰極によって囲まれ、
前記第二陰極は、前記筐体内に設置され、且つ前記筐体の中心線に沿い、前記触発空間から前記放電空間内へ延長進入している。
【0007】
第一陽極と第一陰極が放電すると、第一陽極と第一陰極との間の絶縁燃料層を誘発してプラズマが放電空間内で発生する。更に、第二陽極と第二陰極が放電すると、該プラズマによって金属イオンの高速排気速度が推力を生む。
【発明の効果】
【0008】
本発明の真空陰極アーク放電を用いたパルス型推進機は、プラズマによって金属イオンの高速排気速度が推力を生むので、スパークプラグ等を使用する必要がなく、このため、コストが低廉で、システムの複雑さを簡易化し、軽量で消費パワーが少なくて済み、同時に放電過程で発生する炭素の堆積が触発效果に影響を与えるのを防止し、炭素堆積が燃料のフィードバックとなり、更に触発精度と制御精度を高め、全体の使用寿命を伸ばすという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態を示す真空陰極アーク放電を用いたパルス型推進機の断面図である。
図2】本発明の実施形態を示す真空陰極アーク放電を用いたパルス型推進機の一部を破断した斜視図である。
図3】本発明の実施形態を示す真空陰極アーク放電を用いたパルス型推進機の動作第一段階における断面図である。
図4】本発明の実施形態を示す真空陰極アーク放電を用いたパルス型推進機の動作第二段階における断面図である。
図5】本発明の実施形態を示す真空陰極アーク放電を用いたパルス型推進機の動作第三段階における断面図である。
図6】本発明の実施形態を示す真空陰極アーク放電を用いたパルス型推進機の動作第四段階における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は、実施形態に限定されないことはいうまでもない。
図1図2に示すように、本発明の真空陰極アーク放電を用いたパルス型推進機3は、筐体31、第一陽極32、第二陽極33、絶縁燃料層34、第一陰極35、絶縁層36、及び、第二陰極37を含む。
本実施形態では、筐体31、第一陽極32、第二陽極33、絶縁燃料層34、第一陰極35及び絶縁層36は円筒形である。
また、第一陽極32、絶縁燃料層34、第一陰極35及び絶縁層36は、筐体31の中心線Rを中心として同心円状に設置される。
【0011】
筐体31の内壁面311の内側に、触発空間312と放電空間313が軸方向に並んで形成される。
第一陽極32及び第二陽極33は、筐体31と同心の筒状であり、第一陽極32は触発空間312内に設置され、第二陽極33は放電空間313内に設置される。且つ、第一陽極32と第二陽極33とは間隔をあけて設置され、筐体31の内壁面311にそれぞれ貼り合わされる。
絶縁燃料層34は、筐体31と同心の筒状であり、第一陽極32によって囲まれる。
【0012】
第一陰極35は、筐体31と同心の筒状であり、触発空間312内に、第一陽極32と間隔をあけて設置され、絶縁燃料層34が第一陽極32と第一陰極35の間に設置される。
絶縁層36は、筐体31と同心の筒状であり、第一陰極35によって囲まれる。
第二陰極37は、筐体31内に設置され、且つ、中心線Rに沿い触発空間312から放電空間313内に亘って延長設置される。
触発空間312と放電空間313は相互に連通する。また、第一陽極32、絶縁燃料層34、第一陰極35及び絶縁層36は、筐体31の中心線Rを中心として同心円状に設置される。
本実施形態において、絶縁燃料層34はフッ素樹脂(デュポン社のテフロン(登録商標)等)を素材とする。
【0013】
本実施形態において、真空陰極アーク放電を用いたパルス型推進機3は、さらに仕切部材38および制御装置4を含む。
仕切部材38は、筐体31の内壁面311から突出して延びる環状の部材であり、第一陽極32と第二陽極33との間に設置される。また、仕切部材38の内周面で囲まれる開口は、触発空間312から放電空間313へ向けて徐々に縮小される。
制御装置4は、第一陽極32、第一陰極35、第二陽極33と第二陰極37にそれぞれ接続される。制御装置4は、第一陽極32および第二陽極33で正極電圧を入力し、また第一陰極35と第二陰極37で負極電圧を入力し、更に、第一陽極32と第一陰極35の放電を制御し、第二陽極33と第二陰極37の放電を制御する。
【0014】
図3図4に示すとおり、作動時、制御装置4は第一陽極32と第一陰極35を制御して誘発放電(図3のジグザク形で示す)を行い、第一陽極32と第一陰極35間にアークを発生させる。該アークは第一陰極35の表面で集中して陰極スポットを形成する。陰極スポットは非常に高い温度を有するため、イオン放出現象を引き起こしプラズマ(電離体とも言う:図4の細かい粒子で示す)を形成する。プラズマが触発空間312から放電空間313へ放出され、暫定推力を生み出す。同時に、プラズマは第一陰極35からの微小爆発と蒸発によるものであり、これは第一陰極35および絶縁燃料層34表層上の炭素を消費させる。
【0015】
図5図6に示すとおり、プラズマは触発空間312を経て放電空間313内へ入力される(図5の細かい粒子で示す)。同時に、該プラズマによって放電空間313内に通路が形成され、それにより、制御装置4が第二陽極33と第二陰極37を制御して放電し(図5のジグザク形で示す)、放電空間313のプラズマは放電により磁場と電場の相互作用を誘導し、それにより、ローレンツ力(Lorentz force)を生み出し、加速推力(図6の雲形で示す)を生成する。
【0016】
更に、絶縁燃料層34はフッ素樹脂材を使用していることから、アークがプラズマを発生させる過程において、同時に一部の炭素が第一陰極35表面と絶縁燃料層34表面に堆積し、それは第一陰極35および絶縁燃料層34の炭素の補充となる。拠って、公知と異なり、後続の放電誘発効果に影響を与えず、絶縁燃料層34および第一陰極35の炭素補充を助け、それによって絶縁燃料層34および第一陰極35の使用寿命を延ばす。
即ち、公知技術で採用されているスパークプラグは非常に高い電圧に入力してはじめて放電效果を生み出し、更に該スパークプラグの電極が炭素堆積で覆われ点火効率に影響を与えるという欠点を有効に解決する。故に、真空陰極アーク放電を用いたパルス型推進機3は、炭素堆積の影響を受けず、更に制御精度と誘発精度を向上させる。
【0017】
以上は、本発明の良好な実施形態の説明であり、本発明の権利範囲を制限するものではなく、本発明の要旨を逸脱しない変化と修飾は、すべて本発明の権利範囲に属するものとする。
【符号の説明】
【0018】
3 真空陰極アーク放電を用いたパルス型推進機
31 筐体
311 内壁面
312 触発空間
313 放電空間
32 第一陽極
33 第二陽極
34 絶縁燃料層
35 第一陰極
36 絶縁層
37 第二陰極
38 仕切部材
4 制御装置
R 中心線
図1
図2
図3
図4
図5
図6