(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172172
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】温調システム及び該温調システムを用いた蓄電池システム
(51)【国際特許分類】
H01M 10/6554 20140101AFI20231129BHJP
H01M 10/615 20140101ALI20231129BHJP
H01M 10/651 20140101ALI20231129BHJP
H01M 10/633 20140101ALI20231129BHJP
H01M 10/6563 20140101ALI20231129BHJP
H01M 10/625 20140101ALI20231129BHJP
F24V 30/00 20180101ALI20231129BHJP
【FI】
H01M10/6554
H01M10/615
H01M10/651
H01M10/633
H01M10/6563
H01M10/625
F24V30/00 302
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022083794
(22)【出願日】2022-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲
(74)【代理人】
【識別番号】100137316
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 宏
(72)【発明者】
【氏名】高橋 秀和
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 寛志
(72)【発明者】
【氏名】市川 靖
(72)【発明者】
【氏名】内村 允宣
(72)【発明者】
【氏名】中村 雅紀
【テーマコード(参考)】
5H031
【Fターム(参考)】
5H031AA09
5H031CC09
5H031EE01
5H031EE08
5H031HH03
5H031KK01
5H031KK03
5H031KK08
(57)【要約】
【課題】熱エネルギーのロス低減しながら温度を下げて輸送することができる小型化が可能な温調システムの提供。
【解決手段】本発明の温調システムは、水素吸蔵合金が水素を吸脱蔵して発生する過剰熱を利用した熱エネルギー発生部と、上記熱エネルギー発生部の熱を被加熱体に伝える伝熱部と、を備える。
そして、上記熱エネルギー発生部が、上記水素吸蔵合金と、上記水素吸蔵合金を加熱するヒータと、水素ガスとを、水素ガス充填容器内に有し、上記伝熱部が、上記熱エネルギー発生部に主面が接する放熱板と、上記被加熱体に主面が接する受熱板とを備え、上記放熱板と上記受熱板との間に空気層を有し、放射(輻射)によって熱を伝えることとしたため、発生した過剰熱の熱エネルギーをロスすることなく温度を下げて輸送することができ、小型化が可能な温調システムを提供することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素吸蔵合金が水素を吸脱蔵して発生する過剰熱を利用した熱エネルギー発生部と、
上記熱エネルギー発生部の熱を被加熱体に伝える伝熱部と、を備える温調システムであって、
上記熱エネルギー発生部が、上記水素吸蔵合金と、上記水素吸蔵合金を加熱するヒータと、水素ガスとを、水素ガス充填容器内に有し、
上記伝熱部が、上記熱エネルギー発生部に主面が接する放熱板と、上記被加熱体に主面が接する受熱板とを備え、上記放熱板と上記受熱板との間に空気層を有することを特徴とする温調システム。
【請求項2】
上記放熱板の主面の面積が上記熱エネルギー発生部との接触面積よりも広いことを特徴とする請求項1に記載の温調システム。
【請求項3】
上記放熱板及び/又は受熱板が熱伝導異方性を有し、厚さ方向よりも面内方向の熱伝導率が高いことを特徴とする請求項2に記載の温調システム。
【請求項4】
上記放熱板の端面と上記受熱板の端面とが、同一平面上に位置することを特徴とする請求項3項に記載の温調システム。
【請求項5】
上記放熱板の放射率(ε)が0.5以上であり、
上記受熱板の吸収率(α)が0.5以上であることを特徴とする請求項1に記載の温調システム。
但し、上記放射率(ε)及び吸収率(α)は、放熱板の温度(K)をTとし、ヴィーンの変位側から得られる放射エネルギーが最大となる波長λ(ピーク波長)がλ=2897/T(μm)を満足する波長の光に対する放射率(ε)と吸収率(α)である。
【請求項6】
上記放熱板が、上記空気層側の表面に凹凸を有することを特徴とする請求項1に記載の温調システム。
【請求項7】
上記放熱板及び/又は上記受熱板が、クロム酸化物、モリブデン酸化物、銅酸化物、鉄酸化物、ニッケル酸化物、グラファイト、カーボンナノチューブ及びグラフェンから成る群から選ばれた少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1に記載の温調システム。
【請求項8】
上記ヒータがメッシュ状であることを特徴とする請求項1に記載の温調システム。
【請求項9】
上記水素ガス充填容器が、水素ガスの給排気弁を備えることを特徴とする請求項1に記載の温調システム。
【請求項10】
上記被加熱体の温度を検知する温度センサを備え、
上記温度センサで検知した温度に基づき、上記ヒータを作動させる制御部を有することを特徴とする請求項1に記載の温調システム。
【請求項11】
蓄電池モジュールと、請求項1~10のいずれか1つの項に記載の温調システムと、を備え、上記蓄電池モジュールが上記受熱板の主面に当接して配置されていることを特徴とする蓄電池システム。
【請求項12】
さらに空気流路と、送風機とを備え、
上記空気流路が、上記蓄電池モジュールの上記受熱板と接する面とは異なる面に配置され、
上記送風機が、上記放熱板と上記受熱板との間、及び、上記空気流路に空気を送ることを特徴とする請求項12に記載の蓄電池システム。
【請求項13】
上記蓄電池モジュールが複数のブロックに分割され、これらのブロックが間隔を開けて上記受熱板の主面に接して配置されていることを特徴とする請求項12に記載の蓄電池システム。
【請求項14】
隣接するブロック間に、さらに上記熱エネルギー発生部を備えることを特徴とする請求項13に記載の蓄電池システム。
【請求項15】
上記蓄電池モジュールの温度を検知する温度センサを備え、
上記温度センサで検知した温度に基づき、上記送風機及びヒータを作動させる制御部を有することを特徴とする請求項12に記載の蓄電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温調システム及び該温調システムを用いた蓄電池システムに係り、更に詳細には、水素吸蔵合金が発生する過剰熱を利用した温調システム及び該温調システムを用いた蓄電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
水素吸蔵合金を加熱し水素を吸脱蔵させて発生する過剰熱、すなわち、入力エンタルピーよりも出力エンタルピーが高くなる発熱現象を利用した発熱システムが知られている。(特許文献1参照)
【0003】
また、電気自動車(EV)は、航続可能距離の長距離化が望まれており、車内やシート、さらにはコールドスタート時の蓄電池を温める温調システムに上記発熱現象による過剰熱を利用すれば、温調システムが使用する電力消費量が低減され、電気自動車の航続可能距離の延長が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記過剰熱を発生する発熱現象は、温度が500~1000℃の高温になるため、車内の暖房などに利用する熱源としては温度が高すぎ、特に、蓄電池を温める際にこの過剰熱を直接蓄電池に伝えると、熱印加が過大になって蓄電池が故障するおそれがある。
【0006】
また、熱交換により冷媒などの熱媒体に熱を伝え、熱媒体によって熱を輸送して温度を下げると、システム自体が大型化して電気自動車への搭載が困難である。また、熱媒体の循環に電力を消費してしまうのに加えて、熱の輸送ロスも大きくなる。
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、熱エネルギーのロス低減しながら温度を下げて輸送することができ、小型化が可能な温調システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、過剰熱を利用した熱エネルギー発生部に接する放熱板と被加熱体に接する受熱板との間に空気層を設け、放射(輻射)によって熱を伝えることにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明の温調システムは、水素吸蔵合金が水素を吸脱蔵して発生する過剰熱を利用した熱エネルギー発生部と、上記熱エネルギー発生部の熱を被加熱体に伝える伝熱部と、を備える。
そして、上記熱エネルギー発生部が、上記水素吸蔵合金と、上記水素吸蔵合金を加熱するヒータと、水素ガスとを、水素ガス充填容器内に有し、上記伝熱部が、上記熱エネルギー発生部に主面が接する放熱板と、上記被加熱体に主面が接する受熱板とを備え、上記放熱板と上記受熱板との間に空気層を有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の蓄電池システムは、上記温調システムと蓄電池モジュールとを備え、上記蓄電池モジュールが、上記受熱板の主面に接した被加熱体であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、過剰熱を利用した熱エネルギー発生部に接する放熱板と被加熱体に接する受熱板との間に空気層を設け、放射(輻射)によって熱を伝えることとしたため、発生した過剰熱の熱エネルギーをロスすることなく温度を下げて輸送することができ、小型化が可能な温調システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の温調システムの一例を示す断面図である。
【
図2】本発明の蓄電池システムの一例を示す概略図である。
【
図3】本発明の蓄電池システムの他の一例を示す要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の温調システムについて詳細に説明する。
本発明の温調システムは、熱エネルギー発生部2と該熱エネルギー発生部が発生した熱を被加熱体に伝える伝熱部1とを備える。この温調システムは、
図1に示すように伝熱部の被加熱体100と接する面を除いて断熱材3で覆われている。
【0014】
<伝熱部>
上記伝熱部1は、放熱板11と受熱板13とを有し、放熱板11の主面が熱エネルギー発生部2に接し、また受熱板13の主面が被加熱体100に接しており、これらの厚さ方向に熱を輸送して、熱エネルギー発生部2が発生した熱エネルギーを被加熱体100に伝えて温める。
【0015】
また、放熱板11と受熱板13との間には空気層12が設けられており、放熱板11から受熱板13への熱の輸送は、熱伝導や対流ではなく、主に放射(輻射)によって行われる。すなわち、放熱板11が発生する電磁波によって受熱板13が温められるので、熱エネルギー発生部2によって加熱された放熱板11が高温であっても、直ちに受熱板13が高温になることはない。
【0016】
したがって、印加される熱エネルギーによって被加熱体100が高温になることを防止でき、上記被加熱体100と接する受熱板13の温度を冷媒などの熱媒体を用いた熱交換によって下げる必要がないので小型化が可能である。加えて、温調システムの表面積を小さくして熱が逃げる経路を遮断し易いため、熱エネルギーの輸送ロスを低減できる。
【0017】
また、放熱板11の主面の面積が熱エネルギー発生部2との接触面積よりも広いことで、熱エネルギー発生部からの熱エネルギーが放熱板11内で分散するので、放熱板11の温度を熱エネルギー発生部2の温度よりも下げることができる。
【0018】
このような放熱板11は、熱伝導異方性を有し、厚さ方向よりも面内方向の熱伝導率が高いことが好ましい。具体的には、面内方向の熱伝導率/厚さ方向の熱伝導率が10以上であることが好ましく、90以上であることがより好ましい。
【0019】
放熱板11の熱伝導率が厚さ方向よりも面内方向で高いことで、高温の熱エネルギー発生部2からの熱エネルギーが分散して広範囲を温めることができると共に、放熱板11の面内方向の温度分布が均一になって、局所的に高温になることを防止できる。
【0020】
また、受熱板13も放熱板11と同様に、厚さ方向よりも面内方向の熱伝導率が高いものであると、上記放熱板11と相俟ってさらに局所的に高温になることを防止できる。
【0021】
このような熱伝導異方性を有する材料としては、グラフェンシートやカーボンナノチューブシートを挙げることができ、面内方向の熱伝導率/厚さ方向の熱伝導率が1000程度であるものが市販されている。
【0022】
上記厚さ方向よりも面内方向の熱伝導率が高い放熱板11や受熱板13は、後述する配向方向を調整したグラフェンシートを重ねる高分子グラファイト化法等や一方向に配列したカーボンナノチューブによって作製できる。
【0023】
高分子グラファイト化法について説明する。原料となるポリイミドフィルムを1000枚積層させて加熱し、グラフェンを作製する。その後3000℃で加熱することで結晶を面内方向に配向させる。結晶が配向したグラフェンを積層し、グラフェンシートを作製する。グラフェンシートを更に重ね、プレスにより圧力を加えることで上記厚さ方向よりも面内方向の熱伝導率が高い放熱板11や受熱板13を作製できる。
【0024】
また、その他の方法として、配向方向を面内方向に調整したグラフェンシートを導電性バインダーによって接着する方法(特表2019-500305)、樹脂中にグラフェンや分散液を分散、混合させることにより得るグラフェンを含むフィルムを複数積層させて加熱し、圧力を加えて面内方向に配向させて作製する方法(特許第5632448号)、グラフェン分散液を基板表面に多層グラフェンを成長させた後にプレスにより圧力を加えて面内方向に配向させて作製する方法(特許第5728031号)、グラフェンからなる炭素繊維を積層させてグラフェンシートを作製し、グラフェンシートを複数積層させて加熱し、圧力を加えて面内方向に配向させて作製する方法(特許第5841658号)等が挙げられる。
【0025】
さらに、一方向に配列したカーボンナノチューブを積層させてシート状にすることにより、上記厚さ方向よりも面内方向の熱伝導率が高い放熱板11や受熱板13を作製することも可能である(Anisotropic carbon nanotube papers fabricated from multiwalled carbon nanotube webs, Yoku Inoue, Yusuke Suzuki, Yoshitaka Minami, Junichi Muramatsu, Yoshinobu Shimamura, Katsunori Suzuki, Adrian Ghemes, Morihiro Okada, Shingo Sakakibara, Hidenori Mimura, Kimiyoshi Naito, Carbon 49, 2437-2443 (2012).)。
【0026】
上記放熱板11の厚さは、放熱板11の空気層側表面温度分布が略均一になるように熱エネルギー発生部2の端から突出した放熱板11の突出長さと、面内方向の熱伝導率/厚さ方向の熱伝導率に応じて設定することが好ましい。
【0027】
上記放熱板11の突出長さが長いときは、上記放熱板11の厚さを厚くすることで熱エネルギーが面内方向に分散し、放熱板11の空気層側表面温度分布を略均一にすることができるが、上記面内方向の熱伝導率/厚さ方向の熱伝導率に応じて放熱板11の厚さを薄くすることで、均一な温度分布と熱輸送ロスの低減とを両立させることができる。
【0028】
また、上記放熱板11と受熱板13とは、主面の大きさが同じであることが好ましく、平行に設けられて放熱板11の端面と上記受熱板13の端面とが、同一平面上に位置していることが好ましい。上記放熱板11と受熱板13とがこのように配置されていると、放熱板11から受熱板13への熱の輸送が均一に行われて被加熱体100を温める受熱板13の面内方向の温度を均一にすることができ、被加熱体100が局所的に高温になることが防止される。
【0029】
受熱板13が放熱板11よりも大きくなる場合は、放熱板11の端面からの受熱板13の突出長さを、空気層12の厚さよりも短くすると、放熱板11から放射された電磁波が受熱板13の端部まで届き易いので、受熱板13の端部温度の低下を防止でき、受熱板13の温度分布の差を小さくすることができる。
【0030】
上記放熱板11の放射率(ε)と受熱板13の吸収率(α)とは、放射板11又は受熱板13の少なくともいずれか一方が0.5以上であることが好ましく、さらに0.7以上であることが好ましい。
放射率(ε)や吸収率(α)が0.5以上であることで放熱板11と受熱板13との間の熱輸送を効率よく行うことができる。
【0031】
なお、上記放射率(ε)及び吸収率(α)は、放熱板の温度(K)をTとし、ヴィーンの変位側から得られる放射エネルギーが最大となる波長λ(ピーク波長)がλ=2897/T(μm)を満足する波長の光に対する放射率(ε)と吸収率(α)を示す。
【0032】
放射率(ε)や吸収率(α)が0.5以上である材料としては、クロム酸化物、モリブデン酸化物、銅酸化物、鉄酸化物及びニッケル酸化物などの金属酸化物の他、グラファイト、カーボンナノチューブ及びグラフェンなどの炭素材料を挙げることができる。
【0033】
なお、放射率(ε)や吸収率(α)は、表面の状態によって変わるので、放熱板と受熱板とは、空気層側が上記金属酸化物や炭素材料で形成されていればよく、放熱板11の熱エネルギー発生部2側や受熱板13の被加熱体100側は金属などの熱伝導性が高い材料で形成されていてもよい。
【0034】
また、放射率(ε)や吸収率(α)は、表面凹凸を設けることで高くすることができるので、放熱板11は、空気層12側の表面に凹凸を有することが好ましい。
【0035】
放射率は放射温度計を用いて測定できる。具体的には、まず、接触式の温度センサ(測温抵抗体、熱電対など)を用いて実際の対象物温度を測定する。その後、放射温度計における放射率設定値(0.10~0.99の範囲内)を任意の値に設定した状態で対象物温度を測定し、放射温度計での測定温度が接触式の温度センサでの測定温度と等しくなった時の放射率設定値から放射率(吸収率)を測定できる。
【0036】
<熱エネルギー発生部>
上記熱エネルギー発生部2は、水素吸蔵合金が水素を吸脱蔵することで過剰熱を生じる発熱現象を利用して発熱し熱エネルギーを発生する。この熱エネルギー発生部は、水素ガス充填容器内に上記水素吸蔵合金21と、上記水素吸蔵合金を加熱するヒータ22と、水素ガス23とを有し、
図1に示すように、水素ガス充填容器内の伝熱部側に水素吸蔵合金21が配置されている。
【0037】
水素を吸蔵した水素吸蔵合金21はヒータ22で加熱することで水素を放出し、水素吸蔵合金21が水素を放出するときにパルス的な発熱が発生する。このパルス的な発熱によって、水素吸蔵合金21を加熱した熱量を上回る熱量の過剰熱が得られる。
【0038】
上記水素吸蔵合金21の発熱現象は、上記のように、500~1000℃の高温になるので、熱エネルギー発生部2を小型化しても十分な発熱量を得ることができ、上記伝熱部1と相俟ってシステムの小型化が可能である。
【0039】
上記水素吸蔵合金と21しては、所望の条件下で2つの固相が共存する合金を使用することができる。上記2つの固相が共存する合金は、一方の相を形成する金属水素化物と他方の相を形成する金属水素化物との生成エンタルピーの差が大きな合金を使用することが好ましい。
【0040】
このような生成エンタルピーの差が大きな2つの固相が共存する合金としては、例えば、ニッケル(Ni):ジルコニウム(Zr)が30:70~40:60mol%のNi-Zr合金、アルミニウム(Al):ニッケル(Ni)が75:25~65:35mol%のAl-Ni合金や、アルミニウム(Al):カルシウム(Ca)が80:20~70:3mol%のAl-Ca合金を挙げることができる。
【0041】
上記ヒータ22としては水素を透過し易く水素吸蔵合金21の水素の吸脱蔵を阻害しないメッシュ状のヒータを好ましく使用できる。
【0042】
過剰熱を発生させた熱エネルギー発生部2は、再生処理により再度過剰熱を発生させることができ、水素ガス充填容器が水素ガスの給排気弁24を備えていることで、水素ガス充填容器内の水素量を調節して水素吸蔵合金21の再生処理を行うことができ、再生処理のために温調システムから熱エネルギー発生部2を取り外す必要がない。
【0043】
熱エネルギー発生部2の再生処理は、図示しない水素ボンベから水素ガス充填容器内に水素ガス23を供給して水素ガス圧を高めて拡散係数を大きくし、水素吸蔵合金21が液相を形成する温度まで加熱した後、水素吸蔵合金21の2つの相が共存する温度範囲で保持して2つの相が共存した水素吸蔵合金21を形成することで行う。なお、再生処理時には前述のとおりヒータ22を使って加熱処理する必要があるため、開閉弁8を開いて送風機6により、筐体9内に外部の空気を送ることで蓄電池モジュール200を冷却することが望ましい。
【0044】
<温調システム>
温調システムは、上記熱エネルギー発生部2、上記伝熱部1、及びこれらを覆う断熱材3の他、必要に応じて、被加熱体100の温度を検知する温度センサ5と、上記熱エネルギー発生部2のヒータ22や、水素ガスの給排気装置などを制御する制御部4とを備えることができる。
【0045】
制御部4は、温度センサ5で検知した被加熱体100の温度が適正温度であるか否かを判定し、適正温度以下であるときは、ヒータ22に電力を供給して熱エネルギー発生部2に過剰熱を発生させ、適正温度であるときは、ヒータ22への電力供給を停止する。
【0046】
なお、温調システムを覆う断熱材3の熱伝導率は、0.001~0.003[W/m・K]であることが好ましく、このような断熱材としては、例えば、シリカ粒子充填真空断熱材を挙げることができる。
【0047】
本発明の温調システムは、シート内の他、インパネ内、ダッシュパネル内、フロア内、ルーフ内など、車両内部に装着して車内の暖房に利用することの他、コールドスタート時に蓄電池を温めて活性化させる際にも利用できる。
【0048】
<蓄電池システム>
上記温調システムは、蓄電池モジュール200を受熱板13の主面に当接させて配置し、被加熱体とすることで蓄電池モジュール200を温める機能を有する蓄電池システムとして利用できる。
【0049】
本発明の蓄電池システムは、上記温調システムによって蓄電池モジュールを温めるだけでなく、冷却機能をも備えることができる。
【0050】
上記蓄電池システムは、
図2に示すように、筐体内に上記温調システムと蓄電池モジュール200とが収められており、筐体内には上記蓄電池モジュール200が受熱板13と接する面とは異なる面に空気流路4が配置されている。
【0051】
また、筐体9の外部には送風機6が設けられ、この送風機6で発生した空気流は配管を通って空気流路7及び伝熱部1の放熱板11と受熱板13との間に送られる。空気流路7や伝熱部1の出入口にはそれぞれ開閉弁8が設けられており、必要なときにのみ、外部の空気が筐体9内を流通する。
【0052】
上記温調システムの制御部4は、温度センサ5で検知した蓄電池モジュール200の温度が適正温度の範囲内であるか否かを判定する。
【0053】
そして、蓄電池モジュール200の温度が、適正温度範囲以下であるときは、筐体9内に外部の空気が入らないように開閉弁8を閉じ、ヒータ22に電力を供給して熱エネルギー発生部2に過剰熱を発生させて蓄電池モジュール200を温める。また、蓄電池モジュール200の温度が適正温度の範囲以上であるときは、開閉弁8を開いて送風機6を作動させ、筐体9内に外部の空気を送って蓄電池モジュール200を冷却する。
【0054】
さらに、蓄電池モジュール200の温度が適正温度範囲内になったときは、ヒータ22及び送風機6の作動を停止し、蓄電池モジュール200の温度を適正温度範囲内に維持する。
【0055】
蓄電池モジュール200は、複数の蓄電池ブロック210に分割されていることが好ましい。
図3に示すように、分割された各蓄電池ブロック210が間隔を開けて上記受熱板13に接して配置されていることで、隣接する蓄電池ブロック210間にも空気流路7を設けることができ、蓄電池モジュール200の冷却効率が向上する。温度センサ5は、各蓄電池ブロック210に設けてもよく、1つの任意の蓄電池ブロック210の温度を蓄電池モジュール200の温度としてもよい。
【0056】
上記空気流路7には、上記温調システムと同様の熱エネルギー発生部2を設けることができる。熱エネルギー発生部2を表面温度が50℃程度になるように全面を断熱材3で覆い、この熱エネルギー発生部2を、
図3に示すように、各蓄電池ブロック210と離間して配置する。
【0057】
断熱材3で全面が覆われた熱エネルギー発生部2を設けることで、空気流路7内の空気が自然対流によって温められ、蓄電池ブロック210に大きな熱エネルギーを印加することなく温調システムの受熱板13と接する面以外の面からも蓄電池ブロック210を温めることができ、蓄電池モジュール200全体を速く温めることが可能である。
【符号の説明】
【0058】
1 伝熱部
11 放熱板
12 空気層
13 受熱板
2 熱エネルギー発生部
21 水素吸蔵合金
22 ヒータ
23 水素ガス
24 給排気弁
3 断熱材
4 制御部
5 温度センサ
6 送風機
7 空気流路
8 開閉弁
9 筐体
100 被加熱体
200 蓄電池モジュール
210 蓄電池ブロック