(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172177
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】ヘッドレストステーとノッチの加工方法
(51)【国際特許分類】
B60N 2/812 20180101AFI20231129BHJP
B60N 2/888 20180101ALI20231129BHJP
A47C 7/38 20060101ALI20231129BHJP
B60N 2/90 20180101ALI20231129BHJP
B21D 22/02 20060101ALI20231129BHJP
B21H 7/14 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
B60N2/812
B60N2/888
A47C7/38
B60N2/90
B21D22/02 B
B21H7/14 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022083805
(22)【出願日】2022-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】591027330
【氏名又は名称】日鉄物産荒井オートモーティブ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100112900
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 路子
(74)【代理人】
【識別番号】100163164
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 敏之
(74)【代理人】
【識別番号】100188765
【弁理士】
【氏名又は名称】赤座 泰輔
(72)【発明者】
【氏名】操田 寛英
【テーマコード(参考)】
3B084
3B087
4E137
【Fターム(参考)】
3B084DB02
3B087DC06
3B087DE10
4E137AA01
4E137AA17
4E137BB03
4E137CA03
4E137EA40
4E137GA11
4E137GA15
4E137GB01
4E137HA06
(57)【要約】
【課題】衝突時などにおけるヘッドレストステーの捩れ変形に起因した、ヘッドレストステーの抜けを防止することができるヘッドレストステーとノッチの加工方法を提供する。
【解決手段】ヘッドレストステー1は、ヘッドレスト本体10内に埋設される埋設部2と、シートバック13の頂部に設けたヘッドレストサポート11の差込穴に差し込まれる差込部3とを有し、金属パイプにより作られる。差込部3には、ヘッドレストサポート11の差込穴内に移動可能に取り付けられた係止爪12が係合するノッチ4が形成される。ノッチ4は、溝底部が、断面山形に形成される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッドレスト本体内に埋設される埋設部と、シートバックの頂部に設けたヘッドレストサポートの差込穴に差し込まれる差込部とを有し、金属パイプにより形成されるヘッドレストステーであって、
該差込部には、該ヘッドレストサポートの差込穴内に設けた係止爪が係合する、ノッチが形成され、
該ノッチは、溝底部が、断面山形に形成されたことを特徴とするヘッドレストステー。
【請求項2】
前記ノッチは、第1溝底部と該第1溝底部に隣接する第2溝底部とを有し、該第1溝底部と該第2溝底部が連接部を頂上とする断面山形形状に形成されたことを特徴とする請求項1記載のヘッドレストステー。
【請求項3】
ヘッドレスト本体内に埋設される埋設部と、シートバックの頂部に設けたヘッドレストサポートの差込穴に差し込まれる差込部とを有し、金属パイプにより形成されるヘッドレストステーの製造時に実施され、該差込部の所定位置に、該ヘッドレストサポートの係止爪と係合可能なノッチを、成形するヘッドレストステーのノッチの加工方法であって、
第1パンチロールを有する第1プレス機と、第2パンチロールを有する第2プレス機とを用いて、該差込部に該ノッチを成形するノッチ加工工程を含み、
該ノッチ加工工程は、該ヘッドレストステーを、固定装置に固定保持した状態で、該第1プレス機の該第1パンチロールを、該差込部の該金属パイプの外周部接線方向に押し付け、該差込部の外周部に該ノッチの第1溝底部を、軸と直交方向に成形する第1ステップと、次に、該第2プレス機の該第2パンチロールを、該第1ステップの該第1パンチロールとは逆方向から、該金属パイプの外周部接線方向に押し付け、該第1溝底部に隣接して第2溝底部を該ノッチに成形する第2ステップとを含み、該第1溝底部と該第2溝底部とからなる断面山形の溝底部を有する該ノッチを、該差込部に成形することを特徴とするヘッドレストステーのノッチの加工方法。
【請求項4】
前記第1ステップ時、前記第1パンチロールは、前記差込部の金属パイプの軸Oと直交方向の補助基準線K2に対し押し出し角度Rだけ傾斜した方向に、押し出されて、前記第1溝底部を成形し、前記第2ステップ時、前記第2パンチロールは、該差込部の金属パイプの軸Oと直交方向の補助基準線K2に対し押し出し角度Rだけ、該第1パンチロールとは逆方向に傾斜した方向に押し出されて、前記第2溝底部を成形することを特徴とする請求項3記載のヘッドレストステーのノッチの加工方法。
【請求項5】
ヘッドレスト本体内に埋設される埋設部と、シートバックの頂部に設けたヘッドレストサポートの差込穴に差し込まれる差込部とを有し、金属パイプにより形成されるヘッドレストステーの製造時に実施され、該差込部の所定位置に、該ヘッドレストサポートの係止爪と係合可能なノッチを、成形するヘッドレストステーのノッチの加工方法であって、
パンチロールを有するプレス機を用いて、該差込部に該ノッチを成形するノッチ加工工程を含み、
該ノッチ加工工程は、該ヘッドレストステーを、固定装置に固定保持した状態で、該プレス機の該パンチロールを、該差込部の該金属パイプの外周部接線方向に押し付けながら移動させ、該差込部の外周部に該ノッチの第1溝底部を、軸と直交方向に成形する第1ステップと、次に、該固定装置の固定を解除し、該差込部を軸Oの回りで角度Rだけ回した後、該固定装置により該差込部を再度固定保持する第2ステップと、次に、該プレス機の該パンチロールを、該第1ステップとは逆方向に、該金属パイプの外周部接線方向に押し付けながら、同じ行程経路を逆に移動させ、該第1溝底部に隣接して第2溝底部を該ノッチに成形する第3ステップとを含み、該第1溝底部と該第2溝底部とからなる断面山形の溝底部を有する該ノッチを、該差込部に成形することを特徴とするヘッドレストステーのノッチの加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用シートのシートバックの頂部に装着されるヘッドレストにおいて、その支持部材となるヘッドレストステーと、ヘッドレストステーに設けるノッチの加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用シートのシートバックの頂部には、通常、ヘッドレストが装着されており、ヘッドレストは、一般に、発泡材などで成形されたパッドを含むヘッドレスト本体と、ヘッドレスト本体内に埋設され両端部を突出させた略コ字状のヘッドレストステーと、から構成される。ヘッドレストは、シートバックに取り付けられるヘッドレストサポートの差込穴に、ヘッドレストステーを差し込んで、シートバック上に高さ調整可能で、且つ取り外し可能に取り付けられる(例えば、下記特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図10、
図11に示すように、ヘッドレストステー40の下部の差込部分には、ノッチ41が形成されており、シートバックに設けたヘッドレストサポートの差込穴に、ヘッドレストステーの下部を差し込んだとき、ヘッドレストサポート内に設けた係止爪42が、ノッチに41係止され、ヘッドレストはヘッドレストステー40を介して、シートバック上に取り付けられる。
【0005】
ヘッドレストは、ヘッドレストステーをシートバック内のヘッドレストサポートの差込穴に、適正位置まで差し込むと、係止爪42がノッチ41に係止される。サポート内の係止爪42は、バネで係止側に付勢されているため、ヘッドレストの取付状態において、係止爪42のノッチ41に対する係止は保持される。
【0006】
しかし、例えば、自動車が急停車し或いは衝突事故などにより、シートバックに、後部荷物などが当たり、その慣性力による大荷重が、シートバックに急激にかかる場合がある。このとき、大荷重がシートバックを斜めに歪ませて変形させた場合、シートバックは、自動車の幅方向(横方向)と平行な横軸に対し斜めに捩れるように変形する。
【0007】
このような場合、ヘッドレストは、そのヘッドレストステー40のみでシートバックに対し保持されているため、ヘッドレストステー40に大きい捩れ応力が生じる。ヘッドレストステー40にこのような捩れ変形が発生すると、
図12に示すように、例えば、ヘッドレストステーの捩れ角度Rkが僅かな角度であったとしても、ヘッドレストステー40のノッチ41とそこに係止される係止爪42との係合幅Wk(
図12)は、本来のノッチ41の深さに近い係合幅W(
図11)から大幅に減少する。
【0008】
このため、衝突事故発生時に、ヘッドレストステーの捩れ変形がさらに大きくなった場合、ヘッドレストステーがシートバックのヘッドレストサポートの差込穴から抜け出る虞が生じる。
【0009】
そこで、ヘッドレストステーの下部のノッチの深さを、従来より深くすることが検討されたが、ノッチの深さを深くすると、パイプ材に割れが生じ易くなるため、パイプ材の肉厚を厚くする必要がある。
【0010】
しかし、パイプ材の肉厚を厚くすると、ヘッドレストステー及びヘッドレストの重量が増大し、衝突時のヘッドレストの慣性力はさらに増大する。このため、ヘッドレストステーの抜け防止の効果は期待できず、製造コストも高くなる課題があった。
【0011】
上述の課題を解決するものであり、衝突時などにおけるヘッドレストステーの捩れ変形に起因した、ヘッドレストステーの抜けを防止することができるヘッドレストステーとノッチの加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明に係るヘッドレストステーは、
ヘッドレスト本体内に埋設される埋設部と、シートバックの頂部に設けたヘッドレストサポートの差込穴に差し込まれる差込部とを有し、金属パイプにより形成されるヘッドレストステーであって、
該差込部には、該ヘッドレストサポートの該差込穴内に設けた係止爪が係合するノッチが形成され、
該ノッチは、溝底部が、断面山形に形成されたことを特徴とする。
【0013】
この発明のヘッドレストステーによれば、急停車や衝突事故発生時に、シートバックが斜め横向きに歪んで変形した場合、ヘッドレストステーには捩れ荷重が印加され、ステーには捩れ変形が発生する。
【0014】
しかし、ノッチは、その溝底部が断面山形、つまり断面への字状に形成されるため、ヘッドレストステーの捩れ変形時、ノッチとそこに係止される係止爪との係合幅(
図3~
図6の係合幅W)は、本来のノッチの深さに近い係合幅から減少せず、ヘッドレストステーが、その捩れに起因してヘッドレストサポートの差込穴から抜け出る不具合を防止することができる。
【0015】
ここで、上記ヘッドレストステーにおいて、上記ノッチは、第1溝底部と第1溝底部に隣接する第2溝底部とを有し、第1溝底部と第2溝底部が連接部を頂上とする断面山形形状に形成された構成とすることが好ましい。
【0016】
また、本発明に係るヘッドレストステーのノッチの加工方法は、
ヘッドレスト本体内に埋設される埋設部と、シートバックの頂部に設けたヘッドレストサポートの差込穴に差し込まれる差込部とを有した、金属パイプ製のヘッドレストステーの該差込部の所定位置に、該ヘッドレストサポートの係止爪と係合可能なノッチを成形するヘッドレストステーのノッチの加工方法であって、
第1パンチロールを有する第1プレス機と第2パンチロールを有する第2プレス機を用いて、該差込部に該ノッチを成形するノッチ加工工程を含み、
該ノッチ加工工程は、該ヘッドレストステーを、固定装置に固定保持した状態で、該第1プレス機の該第1パンチロールを、該差込部の該金属パイプの外周部接線方向に押し付け、該差込部の外周部に該ノッチの第1溝底部を、軸と直交方向に成形する第1ステップと、次に、該第2プレス機の該第2パンチロールを、該第1ステップの該第1パンチロールとは逆方向から、該金属パイプの外周部接線方向に押し付け、該第1溝底部に隣接して第2溝底部を該ノッチに成形する第2ステップとを含み、該第1溝底部と該第2溝底部とからなる断面山形の溝底部を有する該ノッチを、該差込部に成形することを特徴とする。
【0017】
この発明のノッチの加工方法によれば、第1溝底部と第2溝底部からなる断面山形の溝底部を有するノッチを、ヘッドレストステーの差込部の外周部に、非常に効率良く良好に成形することができ、これにより、急停車や衝突事故などの際、ヘッドレストサポートの差込穴からヘッドレストステーが抜け出る不具合を防止することができる。
【0018】
ここで、上記ノッチの加工方法において、上記第1パンチロールは、第1ステップ時、差込部の金属パイプの軸Oと直交方向の補助基準線K2に対し押し出し角度Rだけ傾斜した方向に、押し出されて、第1溝底部を成形し、第2パンチロールは、第2ステップ時、差込部の金属パイプの軸Oと直交方向の補助基準線K2に対し押し出し角度Rだけ、第1パンチロールとは逆方向に傾斜した方向に押し出されて、第2溝底部を成形することができる。
【発明の効果】
【0019】
この発明のヘッドレストステーとノッチの加工方法によれば、衝突時などにおけるヘッドレストステーの捩れ変形に起因した、ヘッドレストステーの抜けを防止することができ、ヘッドレストステーの差込部のノッチを、非常に効率良く良好に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態のヘッドレストステーの正面図である。
【
図5】ヘッドレストステーのノッチに係止爪が係合した状態の断面図である。
【
図6】ヘッドレストステーが捩れ変形した状態の断面図である。
【
図8】他の実施例のノッチ加工工程を示す説明図である。
【
図10】従来のヘッドレストステーのノッチ部分の断面図である。
【
図11】従来のノッチに係止爪が係合した状態の断面図である。
【
図12】従来のヘッドレストステーが捩れ変形した状態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1、
図2に示すように、ヘッドレストステー1は、ヘッドレスト本体10内に埋設される埋設部2と、シートバック13の頂部に設けたヘッドレストサポート11の差込穴11aに差し込まれる差込部3とを有して、金属パイプから製作される。
【0022】
金属パイプは、曲げ工程で、
図1に示すように、中間部が正面視で略コ字状に曲げられ、金属パイプの両側の端部は、直線状として残され、その部分が差込部3となる。金属パイプには、汎用のスチール管が使用される。
【0023】
図1、
図2に示すように、ヘッドレストステー1の差込部3には、金属パイプの曲げ加工の前に、或いは曲げ加工の後に、ノッチ4がプレス装置を用いて所定箇所の外周部に形成される。ヘッドレストは、
図2に示すように、シートバック13の頂部に設けたヘッドレストサポート11の差込穴11aに、差込部3を差し込んで取り付けられる。
【0024】
ヘッドレストサポート11には、
図2に示すように、係止爪12が設けられ、係止爪12は、差込部3がヘッドレストサポート11の差込穴11aに差し込まれたとき、
図4のように、ノッチ4と係合する。係止爪12は、図示しないバネにより係合方向に付勢されて、ヘッドレストサポート11の上部に配設される。
【0025】
ノッチ4は、
図7に示すように、第1溝底部4aと第2溝底部4bからなる断面山形で断面への字状の溝底部を有する。つまり、
図3に示すように、ノッチ4の溝底部は、第1溝底部4aと第2溝底部4bからなり、第1溝底部4aと第2溝底部4bは、その連接部を頂上とする断面山形形状に形成されている。
【0026】
このようなノッチ4は、ヘッドレストステー1の金属パイプを固定保持する固定装置20、第1プレス機21と第2プレス機22を有するプレス装置を用いて、差込部3の金属パイプの外周部に、塑性加工される。
【0027】
固定装置20は、被加工物であるヘッドレストステー1を、所定位置に固定保持する装置であり、固定型25を有している。固定型25は、曲げ加工前の金属パイプを固定し、或いは曲げ加工した状態のヘッドレストステー1を固定保持する構造である。
【0028】
第1プレス機21は、例えばラムにより駆動するスライドに第1パンチロール23を取り付け、第1パンチロール23を、正確な位置と角度に向けて押し出し、第1パンチロール23により被加工物を塑性加工するように構成される。第1パンチロール23は、第1プレス機21のスライドの先端に回転自在に軸支され、プレス加工時には金属パイプの外周部に接触して自在に回転する。第1パンチロール23の押し出し方向と位置は、高精度に制御される。
【0029】
第2プレス機22は、同様に、例えばラムにより駆動するスライドに第2パンチロール24を取り付け、第2パンチロール24を、正確な位置と角度に向けて、押し出すように構成される。第2パンチロール24は、第2プレス機22のスライドの先端に回転自在に軸支され、プレス加工時には金属パイプの外周部に接触して自在に回転する。第2パンチロール24の押し出し方向と位置は、高精度に制御される。
【0030】
ノッチ4の加工時、第1プレス機21は、
図7に示すように、その第1パンチロール23を、差込部3の金属パイプの外周部接線方向に押し付け、差込部3の外周部にノッチ4の第1溝底部4aを、差込部3の軸O(金属パイプの中心軸)と直交方向で、且つノッチ4内を通る補助基準線K2に対し、角度Rだけ傾斜した方向に第1パンチロール23を押し出して加工する。つまり、
図7に示すように、差込部3の金属パイプの横断面において、金属パイプの軸O上を通る基準線K1と直交する補助基準線K2に対し、傾斜した押し出し角度Rの方向に、第1パンチロール23は押し出されて、ノッチ4が塑性加工される。
図7では、第1パンチロール23は、図の下側から斜め上方に向かう方向に補助基準線K2に対し押し出し角度Rだけ傾斜して押し出され第1溝底部4aが成形する。
【0031】
ここで、補助基準線K2は、差込部3の金属パイプの軸0と直交方向で、ノッチ4の溝底部の、断面山形の頂部を通り、ノッチ4の係合幅W(
図3、
図5、
図6)の基準となる線である。
図7に示す如く、第1パンチロール23は、補助基準線K2に対し角度Rだけ傾斜した方向に押し出される。
【0032】
また、第1パンチロール23の押し出し方向である、補助基準線K2に対する角度Rは、
図3に示すように、成形されたノッチ4の断面山形の頂上角度Rtを決める角度であり、断面山形の頂上角度Rtは、Rt=2(90-R)となる。
図7に示すように、第1パンチロール23の押し出し方向は、ヘッドレストステー1の横断面の外周部接線方向である。なお、ノッチ4の、係止爪12との係合幅Wは、ノッチ4の深さと略同じであり、
図3~
図6のように、第1パンチロール23の押し出し位置と角度Rは高精度に制御され、差込部3の外周部にノッチ4の第1溝底部4aが第1ステップで成形される。
【0033】
一方、第2プレス機22は、その第2パンチロール24を、第1パンチロール23の押し出し方向とは逆の方向から、差込部3の金属パイプの外周部接線方向に押し付け、第1溝底部4aに隣接して第2溝底部4bを有するノッチ4を成形する。
【0034】
ノッチ4の加工時、第2プレス機22は、
図7に示すように、第2パンチロール24を、差込部3の金属パイプの外周部接線方向に押し付け、差込部3の外周部にノッチ4の第2溝底部4bを、差込部3の軸O(金属パイプの中心軸)と直交方向で、且つノッチ4内を通る補助基準線K2に対し角度Rだけ傾斜した方向に第2パンチロール24を押し出す。つまり、
図7に示すように、差込部3の金属パイプの横断面において、金属パイプの軸O上の中心点を通る基準線K1と直交する補助基準線K2に対し押し出し角度Rだけ傾斜した方向に、第2パンチロール24を押し出して成形する。
図7では、第2パンチロール24は、図の上側から斜め下方に向かう方向に補助基準線K2に対し傾斜した押し出し角度Rで押し出して第2溝底部4bを成形する。
【0035】
第1プレス機21の第1パンチロール23と第2プレス機22の第2パンチロール24の位置関係は、
図7に示すように、差込部3の金属パイプの軸Oと直交する基準線K1を、対称の軸とする線対称の位置に配置されることとなる。換言すれば、第1パンチロール23と第2パンチロール24は線対称の位置関係となるから、第2パンチロール24は、第1パンチロール23とは逆方向に押し出される。断面山形形状の第1溝底部と第2溝底部を有するノッチ4は、第1プレス機21の第1パンチロール23と、第2プレス機22の第2パンチロール24とを、相互に逆方向から、各々補助基準線K2に対し角度Rだけ傾斜させた押し出し角度で押し出して、成形される。
【0036】
なお、断面山形の第1溝底部4aと第2溝底部4bを有するノッチ4は、第1パンチロール23と第2パンチロール24とを用いて塑性加工により成形されるが、各々、1種類の形状のパンチロールでは、設計通りの方形断面を持つノッチが成形されない場合がある。この場合には、複数の種類の形状を有する、つまり丸みを有した断面形状の予備成形ロールと、直角断面形状の成形ロールとを有した第1パンチロール23と第2パンチロール24を各々用意し、複数回のプレス加工を行うことにより、設計通りの方形断面を持つノッチを成形することができる。
【0037】
次に、上記構成のヘッドレストステーのノッチの加工方法を、
図7を参照して説明する。
【0038】
図7に示す如く、先ず、被加工物の金属パイプ或いは曲げ加工されたヘッドレストステー1をプレス機の固定装置20の固定型25に固定し、その差込部3の所定位置(ノッチ4を成形する位置)を、加工位置に合せて、金属パイプをセットする。
【0039】
次に、第1ステップで、
図7の上部に示す如く、第1プレス機21は、その第1パンチロール23を、差込部3の金属パイプの外周部接線方向に押し付けて押し出し、差込部3の外周部にノッチ4の第1溝底部4aを、軸Oと直交方向に成形する。このとき、第1パンチロール23は、
図7の下側から斜め上方に向かう方向に、基準線K1と直角の補助基準線K2に対し、角度Rだけ傾斜した押し出し角度で押し出され、第1溝底部4aを成形する。このとき、
図7に示すように、第1パンチロール23の押し出し動作は、金属パイプの端部まで到達する手前で止められ、第1パンチロール23は元の位置に戻される。これにより、金属パイプ上で生じる素材の隆起部分を素材上に残し、この部分が加工後にバリを発生させる不具合を防止している。
【0040】
次に、
図7の中間図に示すように、第2ステップで、第2プレス機22は、その第2パンチロール24を、第1ステップの第1パンチロール23とは逆方向から、差込部3の金属パイプの外周部接線方向に押し付け、第1溝底部4aに隣接して第2溝底部4bを成形する。つまり、第2パンチロール24は、
図7の上側から斜め下方に向かう方向に、補助基準線K2に対し傾斜した押し出し角度Rで、第1パンチロール23とは逆方向に押し出され、第2溝底部4bを第1溝底部4aに連通し隣接する位置に成形する。横断面上における、第1パンチロール23と第2パンチロール24の押し出し動作は、
図7に示すように、基準線K1を対称線とする線対称の関係である。
【0041】
これにより、第2パンチロール24によって、第2溝底部4bが第1溝底部4aに隣接して、且つ第1溝底部4aとは角度Rだけ傾斜して成形され、このため、第1溝底部4aと第2溝底部4bは、その横断面において、
図3に示すように、頂上角度Rt=2(90-R)の断面山形形状を呈することとなる。なお、この第2溝底部4bは、差込部3の軸O(金属パイプの中心軸)と直交方向で、且つノッチ4内を通る補助基準線K2に対し角度Rだけ第1溝底部4aとは逆方向に傾斜した方向となる。
【0042】
なお、ノッチの溝底部の断面山形形状とは、三角形の鋭角頂点の山形の他、丸形頂点の山形形状も含み、
図9に示すように、三日月状の断面形状のノッチ4Bとしてもよい。
【0043】
上記のような第1プレス機21と第2プレス機22の動作により、
図7に示す如く、差込部3の金属パイプの横断面において、金属パイプの軸O上を通る基準線K1と直交する補助基準線K2に対し傾斜した押し出し角度Rの方向に、第1パンチロール23と第2パンチロール24が別々に押し出されて、ノッチ4の第1溝底部4aと第2溝底部4bが成形される。
【0044】
このため、ノッチ4の第1溝底部4aと第2溝底部4bは、断面山形の頂部を通る基準線K1を対称線とする線対称の関係を有し、ノッチ4の溝底部は、断面山形の第1溝底部4aと第2溝底部4bを有することとなる。また、
図3に示すように、ノッチ4の断面山形の頂部の深さは、ノッチ4の係合幅Wとなるから、金属パイプの肉厚寸法を厚くしなくても、ノッチの塑性加工時に割れや穴ができる不具合はなく、従前の金属パイプをそのまま使用し、従前の製造と同様のコストでヘッドレストステーを製造することができる。
【0045】
このように、上記ノッチの加工方法によれば、第1溝底部4aと第2溝底部4bからなる断面山形の溝底部を有するノッチ4を、ヘッドレストステー1の差込部3の外周部に、非常に効率良く、良好に成形することができる。
【0046】
ノッチ加工を行ったヘッドレストステー1は、直線状の金属パイプの場合、それを曲げ加工機にかけて、曲げ加工を行い、両側の差込部3の中間部に、
図1、
図2に示すような、埋設部2を曲げて形成し、両側の差込部3の先端部には、丸みを形成する加工を行い、最後にめっき処理を施してヘッドレストステー1が完成する。
【0047】
ヘッドレストステー1は、この後、上部の埋設部2に、ヘッドレスト本体10が取り付けられ、ヘッドレストとして車両シートのシートバック13の頂上部に装着される。
図2に示すように、シートバック13上には、差込穴11aを有するヘッドレストサポート11が取り付けられ、ヘッドレストの差込部3が差込穴11aに差し込まれる。ヘッドレストの装着時、差込穴11aに差し込まれた差込部3のノッチ4には、
図4に示すように、ヘッドレストサポート11の係止爪12が係合して係止され、差込部3はヘッドレストサポート11内に保持される。
【0048】
ヘッドレストの使用時、自動車が急停車し或いは衝突事故などにより、シートバックに、後部荷物などが当たり、その慣性力による大荷重が、シートバックに急激にかかり、シートバックが、自動車の幅方向(横方向)と平行な横軸に対し斜めに捩れるように変形する事故が発生したと仮定する。
【0049】
このような場合、ヘッドレストは、そのヘッドレストステーのみでシートバックに対し保持されているため、ヘッドレストステーに大きい捩れ応力が生じ、ヘッドレストステーにこのような捩れ変形が発生すると、
図6に示すごとく、ヘッドレストステー1の差込部3に捩れ角度Rkが生じる。
【0050】
しかし、
図6に示すように、ヘッドレストステー1の差込部3のノッチ4とそこに係止される係止爪12との係合幅Wは、ノッチ4の深さと略同じであり、従来のように、係合幅が減少することはなく、ヘッドレストステー1が、その捩れに起因してヘッドレストサポート11の差込穴11aから抜け出る不具合を防止することができる。
【0051】
図8は他の実施形態の加工工程によるノッチの加工方法を示している。
【0052】
このノッチの加工方法は、
図8に示す如く、先ず、被加工物の金属パイプ或いは曲げ加工されたヘッドレストステーをプレス機の固定装置30の固定型35に固定し、その差込部3Aの所定位置(ノッチ4Aを成形する位置)を、加工位置に合せて、金属パイプをセットする。
【0053】
次に、第1ステップで、
図8の上部に示す如く、プレス機31は、そのパンチロール33を、差込部3Aの金属パイプの外周部接線方向に押し付けて移動させ、差込部3Aの外周部にノッチ4Aの第1溝底部4Aaを、軸Oと直交方向に成形する。このとき、パンチロール33は、
図8の上側から下方に向けて、押し出され、第1溝底部4Aaを成形し、プレス機31のパンチロール33は、下方に直線的に移動し、停止する。
【0054】
この状態で、固定装置30の固定型35が開き、差込部3Aがその軸Oの回りで、図の反時計方向に角度Rだけ正確に回され、その状態で固定型35が再度閉じて差込部3Aを固定する。
【0055】
次に、第2ステップで、プレス機31は、そのパンチロール33を、第1ステップとは逆方向(上側)に、差込部3Aの金属パイプの外周部接線方向に押し付けながら、第1ステップと同じ行程経路で逆に移動させ、第1溝底部4Aaに隣接して第2溝底部4Abを成形する。つまり、第2ステップでは、パンチロール33は、
図8の下側から対し基準線K1に対し角度Rだけ傾斜し、且つ第1ステップとは逆方向(上側)に移動し、第2溝底部4Abを第1溝底部4Aaに連通し隣接する位置に成形する。
【0056】
これにより、1台のプレス機31のみを用いて、
図3にノッチ4と同様に、軸Oと直交する基準線K1上に位置する、頂上角度Rtの断面山形を有する溝底部のノッチ4Aを、つまり第1溝底部4Aaとそれに隣接する第2溝底部4Abを有するノッチ4Aを差込部3Aに成形することができる。
【符号の説明】
【0057】
1 ヘッドレストステー
2 埋設部
3 差込部
4 ノッチ
4a 第1溝底部
4b 第2溝底部
10 ヘッドレスト本体
11 ヘッドレストサポート
11a 差込穴
12 係止爪
13 シートバック
20 固定装置
21 第1プレス機
22 第2プレス機
23 第1パンチロール
24 第2パンチロール
25 固定型
40 ヘッドレストステー
41 ノッチ
42 係止爪