(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172208
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】眼鏡レンズ、及び眼鏡
(51)【国際特許分類】
G02C 7/00 20060101AFI20231129BHJP
【FI】
G02C7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022083860
(22)【出願日】2022-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】300035870
【氏名又は名称】株式会社ニコン・エシロール
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(72)【発明者】
【氏名】吉田 好徳
【テーマコード(参考)】
2H006
【Fターム(参考)】
2H006BA01
2H006BA05
2H006BA06
(57)【要約】
【課題】 マーク部の消失と、レンズ表面のコーティングの耐久性の劣化を抑制できる眼鏡レンズ、及び眼鏡を提供する。
【解決手段】 内部にマーク部20を有する眼鏡レンズ12であって、マーク部20を構成する材料が、着色材料、発光材料、及び調光材料からなる群から選択される少なくとも一つの材料を含む、眼鏡レンズ。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部にマーク部を有する眼鏡レンズであって、
前記マーク部を構成する材料が、着色材料、発光材料、及び調光材料からなる群から選択される少なくとも一つの材料を含む、眼鏡レンズ。
【請求項2】
前記マーク部は、第1マーク部及び第2マーク部を含み、
前記第1マーク部を構成する材料、及び、前記第2マーク部を構成する材料のうち、少なくとも一方は、前記群から選択される材料を含む、請求項1に記載の眼鏡レンズ。
【請求項3】
前記第1マーク部を構成する材料が、前記群から選択される材料を含み、
前記第2マーク部を構成する材料が、前記群のうち、前記第1マーク部に含まれる前記群から選択される材料とは異なる種類の材料を含む、請求項2に記載の眼鏡レンズ。
【請求項4】
前記第1マーク部を構成する材料は、着色材料を含み、
前記第2マーク部を構成する材料は、発光材料及び調光材料のうちの少なくとも一方を含み、且つ着色材料を含まない、請求項3に記載の眼鏡レンズ。
【請求項5】
前記第1マーク部には、前記眼鏡レンズの仕様に関するマーク部、前記眼鏡レンズの品質に関するマーク部、及び前記眼鏡レンズ内の基準位置に関するマーク部のうち、少なくとも一つが含まれる、請求項2乃至4のいずれか一項に記載の眼鏡レンズ。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載された眼鏡レンズを備える眼鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、眼鏡レンズ、及び眼鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、レーザ光を眼鏡レンズ内部で集光させて、レンズ内部にマーク部を形成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本開示は、内部にマーク部を有する眼鏡レンズであって、マーク部を構成する材料が、着色材料、発光材料、及び調光材料からなる群から選択される少なくとも一つの材料を含む、眼鏡レンズに関する。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図2】本開示の眼鏡レンズを、
図1のI-I面に相当する切断面にて切断した際の断面図である。
【
図3】本開示の眼鏡レンズの一例として、加工前の累進屈折力レンズを示す図である。
【
図4】本開示の眼鏡レンズを製造するために利用される3Dプリンタの模式斜視図である。
【
図5】本開示の眼鏡レンズを3Dプリンタによって製造する工程を示す模式断面図である(その1)。
【
図6】本開示の眼鏡レンズを3Dプリンタによって製造する工程を示す模式断面図である(その2)。
【
図7】本開示の眼鏡レンズの製造途中の断面を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本開示の一例に係る眼鏡レンズについて、以下に詳述する。
【0007】
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において、「(メタ)アクリル」は、アクリル及びメタクリルの両方を包含する概念であり、「(メタ)アクリロイル基」は、アクリロイル基及びメタクリロイル基の両方を包含する概念である。
本明細書において、透過率は、特に断る場合を除き、JIS T 7330に規定された「視感透過率」(単位:%)を意味する。
【0008】
本明細書において、眼鏡レンズの各部の位置を説明する場合には、特に断る場合を除き、眼鏡レンズを含む眼鏡を使用している状態を想定して説明することとする。例えば、本明細書において、「上側/下側」は、眼鏡レンズの使用状態での上側/下側を意味する。なお、眼鏡レンズの使用状態とは、眼鏡レンズを眼鏡に組み込んだ状態のことである。
【0009】
[眼鏡レンズの構成について]
眼鏡レンズは、眼鏡の構成部品として使用される。具体的には、
図1に示すように、玉摺り加工された眼鏡レンズ(以下、加工後の眼鏡レンズを眼鏡レンズ12Aと呼ぶ)が眼鏡フレーム14に嵌め込まれることで眼鏡10が構成される。眼鏡レンズ12Aの表面には、反射防止膜等の機能膜が備えられてもよく、その場合には、機能膜付きの眼鏡レンズによって眼鏡が構成されることになる。また、眼鏡レンズ12Aの屈折率(詳しくは、後述する非マーク部16の屈折率)、及び眼鏡レンズ12Aの表面の曲率等を調整することにより、眼鏡レンズ12Aを近視、遠視若しくは乱視等に対応したレンズ仕様に設定することができる。
【0010】
眼鏡レンズ12Aは、プラスティック製の光学部品であり、
図2に示すように、その内部にマーク部20を有する。眼鏡レンズ12の内部とは、眼鏡レンズ12の厚さ方向(換言すると、光軸方向)において眼鏡レンズ12の表面と裏面の間に位置する部分である。マーク部20は、目視可能な図形、文字、記号及びパターン等である。マーク部20は、眼鏡レンズ12の仕様に関するマーク部、眼鏡レンズ12の品質に関するマーク部(品質保証マーク)、レンズ製造メーカ又は製品を特定するためのマーク部、及び眼鏡レンズ12内の光学的な基準位置に関するマーク部を含む。
眼鏡レンズ12の仕様は、眼鏡10の用途に関する眼鏡レンズ12の仕様であり、例えば、遠用、近用、遠近両用、及び乱視用等が挙げられる。
眼鏡レンズ12の品質は、眼鏡レンズ12の光学的特徴に関する品質であり、例えば、遠用度数、近用度数、加入度数、及び屈折率等が挙げられる。
【0011】
眼鏡レンズ12において、マーク部20に相当する部分は一部分のみであり、大部分は、マーク部20とは異なる非マーク部16である。非マーク部16は、眼鏡レンズ12の本体部分(基材)として機能し、レンズ仕様に応じた光学特性を備える。なお、非マーク部16は、無色でもよく、カラーレンズのように有色でもよい。
【0012】
マーク部20について
図3に示す加工前の累進屈折力レンズの一例を参照しながら詳しく説明する。なお、以下では、加工前の眼鏡レンズを眼鏡レンズ12と呼ぶこととするが、本開示の眼鏡レンズは、当然ながら、加工前のレンズ12、及び、加工後の眼鏡レンズ12Aの双方を含むものである。
【0013】
マーク部20は、
図3から分かるように、加工前の眼鏡レンズ12において既にレンズ内部に形成されている。マーク部20は、
図3に示すように、第1マーク部21と第2マーク部22を含む2以上のマーク部であることが好ましい。第1マーク部21は、有色のマークであり、所定の情報を表示するために眼鏡レンズ12内の所定位置に形成されている。第1マーク部21の種類及び数は、特に限定されないが、少なくとも
図3に示すマーク21a~21dを含むのが好ましい。
【0014】
マーク21a~21dは、ISO規格において眼鏡レンズ12に形成する必要があるマークとして規定されたものである。マーク21a、21bは、隠しマークと呼ばれる円形の図形からなるマークであり、眼鏡レンズ12の光学的設計基準点を通る水平基準線上において、設計中心から等距離の位置に対をなして配置されている。マーク21cは、眼鏡レンズ12の加入度数(遠用部の屈折力と近用部の屈折力との差)を表す数字であり、マーク21aの下に配置されている。マーク21dは、レンズ製造メーカ及び品種(すなわち、眼鏡レンズ12の種類)を表す文字及び数字の組み合わせからなる識別マークであり、
図3において右側のマーク21bの下に配置されている。
【0015】
上記のマーク21a~21dを含む第1マーク部21は、目視可能である一方で、眼鏡の装用者の視界を妨げないように極力目立ち難い態様で形成されることが好ましい。具体的には、第1マーク部21に含まれる各マークを構成する線画において、線種(特に、線の太さ)は、0.05~1.0mmであることが好ましく、より好ましくは、0.1~0.5mmであるとよい。線の太さは、眼鏡レンズ12の厚さ方向(光軸方向)において眼鏡レンズ12を正面から見た場合の線の太さを意味する。また、第1マーク部21の色は比較的薄いことが好ましく、その観点から、第1マーク部21の色の透過率は、非マーク部16の透過率より小さく、その差分が2~40%であることが好ましく、より好ましくは、5~20%であるとよい。
なお、非マーク部16が有色である場合(眼鏡レンズ12がカラーレンズである場合)、第1マーク部21の色(色彩)は、非マーク部16の色に対して識別可能な色であることが好ましい。
【0016】
第2マーク部22は、通常時には視認困難である一方で、エネルギー線(例えば、紫外線)を照射した場合に発光又は変色して視認可能となり、例えば、眼鏡レンズ12の製造メーカの商標(ロゴ)を表すマークである。第2マーク部22は、発光又は変色時に目立つように形成されるのが好ましい。この観点から、第2マーク部22を構成する線画の線種(特に、線の太さ)は、平均的な値で、0.5mm以上であることが好ましい。また、第2マーク部22の色(厳密には、発光又は変色時の色)の透過率は、非マーク部16の透過率より小さく、その差分が20%以上であることが好ましい。
【0017】
[眼鏡レンズの製造方法について]
次に、
図4~6を参照しながら、眼鏡レンズ12の製造方法について説明する。以下の説明では、互いに直交する3つの方向をX、Y、Z方向とし、Z方向は、眼鏡レンズ12の厚さ方向(光軸方向)と一致する方向であることとする。
【0018】
眼鏡レンズ12は、例えば、
図4に示すインクジェット方式の3Dプリンタ50により、造形用の硬化性組成物を用いて製造される。3Dプリンタ50は、製造される眼鏡レンズ12の設計内容に応じて生成された制御データに従って制御され、制御データに規定された着弾位置に硬化性組成物を滴下する。滴下された硬化性組成物は、着弾後に硬化してドットを形成し、複数のドット(ドット群)が連なることで、硬化性組成物の硬化物を含む層30をなす。層30は、
図5及び6に示すように所定方向に積層され、レンズ形成に必要な数の層30が積層されることで眼鏡レンズ12が形成される。層30を積層する方向は、眼鏡レンズ12の厚さ方向(光軸方向)である。また、層30の一層分の厚さは、3Dプリンタ50の性能に応じて任意に決められるが、以下では、14μm程度の厚さであることとする。
上記の構成では、ドット群が連なる方向、すなわち層30の形成方向が眼鏡レンズ12の厚さ方向に対して直交するが、これに限定されず、眼鏡レンズ12の厚さ方向(光軸方向)に沿うように層が形成されてもよい。この場合には、眼鏡レンズ12の厚さ方向(光軸方向)と直交する方向に複数の層が積層されるとよい。
【0019】
上記の硬化性組成物は、例えば、透明で、エネルギー線照射又は加熱等によって硬化する。エネルギー線としては、例えば、光等が挙げられ、また、エネルギー線として光を用いる場合には紫外線を用いることが好ましい。以下では、硬化性組成物が紫外線を受けて硬化する紫外線硬化型の硬化性組成物である場合を例に挙げて説明するが、これに限定されるものではない。
【0020】
紫外線硬化型の硬化性組成物は、重合性化合物と光重合開始剤とを含むことが好ましい。重合性化合物は、重合により必要な屈折率を有する硬化物が得られるのであれば、特に限定されない。重合性化合物は、例えば、ラジカル重合可能なラジカル重合性化合物である。
【0021】
ラジカル重合性化合物としては、例えば、(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリルモノマーが挙げられる。(メタ)アクリルモノマーとしては、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールFジ(メタ)アクリレート、9,9-ビス[4-(2-アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、4-(メタ)アクリロイルモルホリン、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、4-tert-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、及びフェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0022】
紫外線硬化型の硬化性組成物中のラジカル重合性化合物の種類及び含有量は、硬化性組成物の粘度、硬化後の硬化物の屈折率に応じて適宜選択できる。
【0023】
なお、重合性化合物は、ラジカル重合性化合物に限定されず、重合性化合物として、オキセタン環を有するオキセタン化合物等のカチオン重合可能なカチオン重合性化合物を用いてもよい。
【0024】
光重合開始剤としては、光(例えば、紫外線)の照射により活性種を発生する化合物であれば特に限定されない。
重合性化合物がラジカル重合性化合物である場合、光の照射によりラジカルを発生する光ラジカル重合開始剤を用いることが好ましい。
光ラジカル重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、ベンゾフェノール、アセトフェノン、4,4'-ジクロロベンゾフェノン、ジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、ベンジルメチルケタール、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-イソプロピルチオオキサントン、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォシフィンオキサイド、及び2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニル-フォスフィンオキサイド等が挙げられる。
【0025】
重合性化合物がカチオン重合性化合物の場合は、光の照射により酸を発生する光カチオン重合開始剤を用いることが好ましい。
光カチオン重合開始剤としては、例えば、芳香族スルホニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、芳香族ジアゾニウム塩、及び芳香族アンモニウム塩等が挙げられる。
【0026】
紫外線硬化型の硬化性組成物は、重合性化合物及び光重合開始剤以外のその他の成分を含んでもよい。その他の成分としては、シランカップリング剤(例えば、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン)等のカップリング剤、ゴム剤、イオントラップ剤、イオン交換剤、レベリング剤、可塑剤、及び消泡剤等の添加剤が挙げられる。
【0027】
また、例えば、紫外線硬化型の硬化性組成物に無機(鉱物)ナノ粒子を導入することにより、硬化物の屈折率を増加させることができる。
【0028】
眼鏡レンズ12のうち、非マーク部16を構成する材料(以下、ベース材料ともいう。)は、上述した成分組成を有する紫外線硬化型の硬化性組成物の硬化物である。
これに対して、マーク部20を構成する材料は、ベース材料となり得る硬化性組成物と、さらに、着色材料、発光材料、及び調光材料からなる群から選択される少なくとも一つの材料(以下、特定材料ともいう。)とを混合してなる硬化性組成物の硬化物である。つまり、マーク部20を構成する材料は、特定材料を含む硬化性組成物の硬化物である。
【0029】
また、マーク部20のうち、第1マーク部21を構成する材料(以下、第1構成材料ともいう。)は、上記の群から選択される材料を含む。一方、第2マーク部22を構成する材料(以下、第2構成材料ともいう。)は、上記の群のうち、第1構成材料に含まれる特定材料とは異なる種類の特定材料を含む。詳しく説明すると、第1構成材料は、着色材料を含む一方で、発光材料及び調光材料を含まない。これに対して、第2構成材料は、発光材料及び調光材料のうちの少なくとも一方を含み、着色材料を含まない。
【0030】
着色材料としては、硬化性組成物を着色する材料であれば特に限定されないが、例えば、カーボンブラック、チタンホワイト、顔料、及び染料が着色材料の一例として挙げられる。
顔料としては、例えば、可溶性アゾ顔料、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料等のアゾ系顔料、フタロシアニンブルー顔料、フタロシアニングリーン顔料等のフタロシアニン系顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン系顔料、ペリレン・ペリノン系顔料、ジオキサジン系顔料、アントラキノン系顔料、アンサンスロン系顔料、インダンスロン系顔料等の無機顔料、及び有機顔料等が挙げられる。
染料としては、例えば、アゾ系化合物(例えば、縮合アゾ化合物、アゾ金属錯体)、ジケトピロロピロール化合物、アントラキノン化合物、フタロシアニン化合物、キノンイミン化合物、キノリン化合物、ニトロ化合物、カルボニル化合物、キナクリドン化合物、ナフトール化合物、ベンズイミダゾロン化合物、チオインジゴ化合物、ペリレン化合物、メチン化合物、アリルアミド化合物、及び塩基染料レーキ化合物等が挙げられる。
【0031】
調光材料としては、エネルギー線(例えば、光。より具体的には、紫外線又は赤外線等。)を照射することで変色(発色を含む)するもの、すなわち、フォトクロミック化合物が挙げられる。
フォトクロミック化合物としては、例えば、フルギミド化合物、スピロオキサジン化合物、及びクロメン化合物等が挙げられる。
【0032】
発光材料としては、エネルギー線(例えば、光。より具体的には、紫外線又は赤外線等。)を照射することで発光するものであればよいが、例えば、発光材料の一例として、蛍光染料が挙げられる。
蛍光染料としては、例えば、ジアミノスチルベンスルホン酸、ジスチルベン等のスチルベン系、ベンジジン、ベンジジンスルホン酸、ジアミノフルオレイン等のジアミノジフェニル化合物、イミダゾロン化合物、トリアゾール等のイミダゾール化合物、チアゾール化合物、オキサゾール化合物、クマリン化合物、カルボスチリル化合物、ナフタールイミド化合物、ピラゾロン化合物、及びジヒドロピリジン化合物が挙げられる。
【0033】
次に、3Dプリンタ50を用いて眼鏡レンズ12を製造する手順について説明する。3Dプリンタ50は、硬化性組成物を滴下(吐出)するように構成された公知の3Dプリンタであり、
図4に示すようにステージ51及びヘッド52を有する。
【0034】
ステージ51は、製造途中の眼鏡レンズ12、すなわち一層以上の層30を上面に載せる平板状の台であり、不図示の駆動機構によりZ方向に移動可能である。つまり、眼鏡レンズ12の製造過程において、層30が形成される面(以下、層形成領域)がステージ51上に規定され、積層される層30の数が増えるにつれて、層形成領域の位置がZ方向の一方側(下側)へ推移する。
【0035】
ヘッド52は、
図5に示すように、ヘッド本体53の下面をステージ51の上面に対向させた状態で、不図示のキャリッジによりX及びY方向に移動可能である。ヘッド本体53の下面からは複数のノズル54、55、56が突出しており、ヘッド本体53内には、硬化性組成物を収容した3種類のカートリッジ57a、57b、57cが内蔵されている。第1のカートリッジ57aには、硬化後にベース材料となり得る硬化性組成物αが収容されており、カートリッジ57a内の硬化性組成物αは、ノズル54を通じて吐出される。第2のカートリッジ57bには、硬化後に第1構成材料となり得る硬化性組成物βが収容されており、カートリッジ57b内の硬化性組成物βは、ノズル55を通じて吐出される。第3のカートリッジ57cには、硬化後に第2構成材料となり得る硬化性組成物γが収容されており、カートリッジ57c内の硬化性組成物γは、ノズル56を通じて吐出される。
【0036】
ヘッド52は、
図5及び6に示すように、ローラ58及びUVランプ59をさらに有する。ローラ58は、ヘッド本体53の直下位置に回転自在な状態でヘッド本体53に支持されている。UVランプ59は、ヘッド本体53の下面に取り付けられ、ヘッド52の下方に向けて紫外線を照射する。
【0037】
以上のように構成された3Dプリンタ50では、ヘッド52が、X方向に沿う移動範囲の一端側から他端側へ移動しながら、ノズル54、55、56を通じて各種硬化性組成物を吐出する。これにより、ステージ51上に規定される層形成領域には、
図5に示すように、各ノズル54、55、56から吐出された各種硬化性組成物が着弾する。詳しく説明すると、層形成領域において、後に非マーク部16となる領域には硬化性組成物αが着弾し、後に第1マーク部21となる領域には硬化性組成物βが着弾し、後に第2マーク部22となる領域には硬化性組成物γが着弾する。
【0038】
その後、ステージ51がZ方向において所定量だけ上昇し、ヘッド52が、X方向に沿う移動範囲の他端側から一端側へ移動する。この際、ローラ58の外周面が、層形成領域に着弾した硬化性組成物の表面に当接する。これにより、
図6に示すように、層形成領域に着弾した硬化性組成物の表面が均され、硬化性組成物が所定の厚さに規制される。また、ヘッド52の移動により、UVランプ59が、層形成領域に着弾した硬化性組成物の上方を通過する。これにより、ローラ58と当接した硬化性組成物は、その直後に、UVランプ59から照射された紫外線(UV)を受けて硬化してドットを形成する。
【0039】
以上までの一連の動作を「パス」と呼ぶこととする。1回のパスにより、X方向に連なった複数のドットからなるドット列が、層形成領域に形成される。
【0040】
その後、ヘッド52がY方向に所定量移動し、上記と同様の手順にてパスが繰り返し実施される。これにより、層形成領域には、直前のパスにて形成されたドット列とY方向において隣接する位置に、新たなドット列が形成される。
【0041】
そして、Y方向におけるヘッド52の移動と上記のパスとを交互に複数回繰り返すことで、層形成領域には、Y方向に複数のドット列が並び、この結果、一層分の層30が形成される。
以上の要領で層30が順次形成されてZ方向に積層されていき、最終的に必要な数の層30が積層された時点で眼鏡レンズ12が完成する。
【0042】
なお、図示の便宜上、
図5及び6では、層内の各部分の厚みが均一である層30が形成されているが、実際には、眼鏡レンズ12の表面及び裏面が凹又は凸形状となるように各層30を形成することになる。その具体的な手法は、特に限定されないが、例えば、層30を形成する前段階で、硬化性組成物からなるサポート材をヘッド52のノズルから吐出し、
図7に示す半球状の上面を有するサポート材層32を形成してもよい。この場合、サポート材層32の上に、上述した要領で層30を順次形成し、複数の層30を重ねていくとよい。そして、必要な数の層30が積層された後に、サポート材層32と隣接する層30からサポート材層32を取り外せばよい。
【0043】
なお、眼鏡レンズ12の表面に染料を浸み込ませることでレンズ表面を染色してもよい。レンズ表面を染色する場合は、上述の表面染色以外の方法を用いてもよい。例えば、ヘッド52が、着色剤入りの硬化性組成物を収容した第4のカートリッジを備え、着色剤入りの硬化性組成物を滴下してレンズ表面側の層30を形成することでレンズ表面を染色してもよい。
【0044】
その後、眼鏡レンズ12を既存の眼鏡フレーム14に合わせて加工(例えば、玉摺り加工)し、加工後の眼鏡レンズ12Aを眼鏡フレーム14に嵌め込んで眼鏡10が製造される。なお、眼鏡レンズ12Aの表面を研磨したり、レンズ表面に機能膜を設けてもよい。
【0045】
以上までに説明してきた方法により製造される眼鏡レンズ12は、その内部にマーク部20を備える。このようにマーク部20が眼鏡レンズ12の内部に形成されることで、マーク部20の状態を維持し、レンズの耐久性を上げることができる。
【0046】
具体的に説明すると、マーク部20が眼鏡レンズ12の表面にのみ形成される場合、レンズ表面の摩耗及び擦れ等によってマーク部20が傷ついたり消失したりする虞がある。また、マーク部20の形成に伴って眼鏡レンズ12の表面に凹凸が存在していると、レンズ表面に設けられるコーティング(機能膜)の耐久性が劣化する虞がある。これに対して、マーク部20が眼鏡レンズ12の内部に形成されることで、マーク部20の消失、及び、レンズ表面におけるコーティング(機能膜)の耐久性の劣化を抑えることができる。
【0047】
また、マーク部20を構成する材料は、着色材料、発光材料、及び調光材料からなる群から選択される少なくとも一つの材料を含む。これにより、眼鏡レンズ12を外側(例えば、表面側)から見た際に、眼鏡レンズ12の内部にあるマーク部20を容易に視認できる。
【0048】
なお、眼鏡レンズ12の厚さ方向、すなわち、眼鏡レンズ12の製造時に層30を積層する方向において各マーク部20が形成される範囲は、特に限定されないが、眼鏡レンズ12の厚さ方向における一部でもよく、又は全部でもよい。マーク部20の形成範囲が厚さ方向の一部である場合、マーク部20の位置は、眼鏡レンズ12の表面寄りの位置、裏面寄りの位置、若しくは厚さ方向における中央寄りの位置等、任意に選択することができる。また、マーク部20は、眼鏡レンズ12の厚さ方向における一定の範囲内で連続するように形成されてもよいし、当該範囲内で断続的に形成されてもよい。
【0049】
また、本開示の眼鏡レンズ12が備えるマーク部20は、第1マーク部21及び第2マーク部22を含む。第1マーク部21を構成する材料(第1構成材料)は、着色材料を含む。第1マーク部21は、例えば、眼鏡レンズ12の仕様、品質又はレンズ内の基準位置に関するマーク部であるため、着色材料を含む硬化性組成物によって構成されることで、より容易に視認できる。
【0050】
他方、第2マーク部22は、任意のマーク部であるため、第2マーク部22を構成する材料(第2構成材料)は、必ずしも着色材料を含む必要がない代わりに、調光材料及び発光材料のうちの少なくとも一方を含む。これにより、第2マーク部22は、エネルギー線を照射して発光又は変色した場合等のように所定条件の下で視認可能となるため、例えば加飾等の用途に利用できる。
【0051】
[その他の実施形態]
本開示の眼鏡レンズ及び眼鏡は、上記の実施形態に限定されず、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で変更、改良され得る。また、本開示の眼鏡レンズ及び眼鏡には、等価物が含まれ得る。
【0052】
上記の実施形態では、第1マーク部21を構成する材料の組成と、第2マーク部22を構成する材料の組成とが異なっていたが、これに限定されず、双方のマーク部を構成する材料が同じ組成であってもよい。
また、上記の実施形態では、第1マーク部21を構成する材料が、着色材料を含み、且つ発光材料及び調光材料を含まず、第2マーク部22を構成する材料が、発光材料及び調光材料を含み、且つ着色材料を含まなかったが、これに限定されず、第1マーク部を構成する材料が、特定材料から選択される材料を含み、第2マーク部を構成する材料が、特定材料のうち、第1マーク部に含まれる特定材料とは異なる種類の材料を含む形態であれば、他の形態であってもよい。
また、双方のマーク部が同じ特定材料を含んでいてもよい。例えば、第1マーク部を構成する材料が、発光材料及び調光材料を特定材料として含んでもよい。
また、第1マーク部を構成する材料、及び第2マーク部を構成する材料のうち、いずれか一方のみが、特定材料を含んでいてもよい。
【0053】
上記の実施形態では、マーク部20が、眼鏡レンズ12の仕様に関するマーク部、眼鏡レンズ12の品質に関するマーク部、レンズ製造メーカ又は製品を特定するためのマーク部、及び、眼鏡レンズ12内の光学的な基準位置に関するマーク部を含むこととした。ただし、これに限定されず、マーク部20には、上述した複数のマーク部のうち、少なくとも一つが含まれていればよい。
【0054】
上記の実施形態では、眼鏡レンズ12をインクジェット方式の3Dプリンタ50によって製造した。ただし、眼鏡レンズ12を製造する3Dプリンタの種類は、インクジェット方式の機器に限定されず、例えば、熱溶解積層方式、光造形方式、粉末焼結方式等の機器でもよい。
【0055】
上記の実施形態では、眼鏡レンズ12と眼鏡フレーム14とを別々に製造した。ただし、これに限定されず、例えば、3Dプリンタ50によって眼鏡レンズ12を製造する過程において、上記の実施形態における加工後のレンズ形状をなす眼鏡レンズ12を形成しながら、眼鏡フレームを形成するように硬化性組成物を滴下してもよい。これにより、眼鏡レンズ12と眼鏡フレーム14とを一体的に成形してもよい。
【符号の説明】
【0056】
10 眼鏡
12,12A 眼鏡レンズ
14 眼鏡フレーム
16 非マーク部
20 マーク部
21 第1マーク部
21a,21b,21c,21d マーク
22 第2マーク部
30 層
32 サポート材層
50 3Dプリンタ
51 ステージ
52 ヘッド
53 ヘッド本体
54,55,56 ノズル
57a,57b,57c カートリッジ
58 ローラ
59 UVランプ