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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172214
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】細胞移植装置
(51)【国際特許分類】
   A61M 37/00 20060101AFI20231129BHJP
   A61F 2/10 20060101ALI20231129BHJP
   A61L 27/36 20060101ALI20231129BHJP
   C12M 1/26 20060101ALI20231129BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
A61M37/00 514
A61F2/10
A61L27/36 100
C12M1/26
C12M1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022083869
(22)【出願日】2022-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】弁理士法人小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡本 真一
【テーマコード(参考)】
4B029
4C081
4C097
4C267
【Fターム(参考)】
4B029AA09
4B029AA27
4B029BB11
4B029HA01
4B029HA10
4C081AB11
4C081CD34
4C097AA22
4C097BB04
4C097DD15
4C267AA71
4C267BB10
4C267BB11
4C267BB23
4C267BB40
4C267CC02
(57)【要約】
【課題】生体内への移植物の円滑な配置を可能とした細胞移植装置を提供する。
【解決手段】先端部に開口を有し、生体内への移植の対象である移植物を内部に収容可能に構成された筒状の針状部と、一部が前記針状部の内側において延びる筒状部とを備え、筒状部は、針状部内径よりも外径が小さく、先端部に開口を有す筒細部と、筒細部よりも外径が大きい筒太部と、筒太部の内側で摺動可能なガスケット部とを備え、ガスケット部よりも筒細部側の筒状部内空間において、筒細部の先端部にのみ開口がある状態と、筒細部の先端部以外にも開口のある状態とを各々とることができる、細胞移植装置。
【選択図】図3A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部に開口を有し、生体内への移植の対象である移植物を内部に収容可能に構成された筒状の針状部と、
一部が前記針状部の内側において延びる筒状部とを備え、
前記筒状部は、
前記針状部内径よりも外径が小さく、先端部に開口を有す筒細部と、
前記筒細部よりも外径が大きい筒太部と、
前記筒太部の内側で摺動可能なガスケット部とを備え、
前記ガスケット部よりも前記筒細部側の前記筒状部内空間において、前記筒細部の先端部にのみ開口がある状態と、前記筒細部の先端部以外にも開口のある状態とを各々とることができる、細胞移植装置。
【請求項2】
前記ガスケット部よりも前記筒細部側の筒状部内空間において、前記ガスケット部の位置により、前記筒細部の先端部にのみ開口がある状態と、前記筒細部の先端部以外にも開口のある状態とを各々とることができる、請求項1に記載の細胞移植装置。
【請求項3】
前記筒太部の側面においてガスケット部が摺動可能な範囲の一部に孔があり、
前記ガスケット部よりも筒細部側の筒状部内空間において、前記ガスケット部の位置により、前記筒細部の先端部以外に生じる開口が、前記孔の一部又は全部であることを特徴とする、請求項2に記載の細胞移植装置。
【請求項4】
前記筒太部の側面に前記孔が複数設けられることを特徴とする、請求項3に記載の細胞移植装置。
【請求項5】
前記筒太部の一部に前記ガスケット部の径よりも内径の大きい幅広部があり、
前記ガスケット部よりも前記筒細部側の筒状部内空間において、前記ガスケット部の位置により、前記筒細部の先端部以外に生じる開口が、ガスケット部が幅広部に移動した際に生じるガスケット部と筒太部の隙間であることを特徴とする、請求項2に記載の細胞移植装置。
【請求項6】
前記筒状部が、前記筒細部側の先端部が前記針状部の内部に配置される位置と、前記筒細部側の先端部が前記針状部の前記開口から突出する位置との間で、前記針状部に対して相対的に移動可能に構成される、請求項1~5のいずれか一項に記載の細胞移植装置。
【請求項7】
前記針状部及び前記筒状部を複数備えることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の細胞移植装置。
【請求項8】
前記針状部は、100μm以上1000μm以下の径を有する細胞集合体である細胞群を含む前記移植物を収容可能に構成されている、請求項1~5のいずれか一項に記載の細胞移植装置。
【請求項9】
皮膚由来幹細胞を含んだ細胞凝集体である前記細胞群を含む前記移植物を生体内に移植するために用いられる、請求項1~5のいずれか一項に記載の細胞移植装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞移植に用いられる移植装置に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞群を生体内へ移植する技術の活用が進んでいる。例えば、毛を作り出す器官である毛包の形成に寄与する細胞群を培養し、この細胞群を皮内へ移植することによって、毛髪を再生させることが試みられている。毛髪の良好な再生のためには、移植された細胞群から、正常な組織構造を有して良好な毛髪の形成能力を有する毛包が生じることが望ましい。そこで、こうした毛包を形成可能な細胞群の製造方法について、様々な研究開発が行われている(例えば、特許文献1~3参照)。
【0003】
さらに、培養された細胞群を、生体内へ移すためのデバイスである細胞移植装置の開発も進められている(例えば、特許文献4~5参照)。その中で、針と、針内部の内筒と、内筒と接続された吸引機構により移植物を保持し、生体内の移植対象部で内筒先端部に保持した移植物を移植する方法が提案されている(例えば、特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6425319号公報
【特許文献2】特許第5932671号公報
【特許文献3】特許第5258213号公報
【特許文献4】特許第6791291号公報
【特許文献5】特許第6828763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
細胞を含む移植物は、移植器に移送される前は、容器内で水溶液中に保存され活性を保持されている。吸引力により移植物を容器から移植器へ移送する場合、移植物は水溶液と共に吸引され移植器側に移送され、移植器で保持される。内筒先端部で移植物を保持する移植器においては、吸引力により引き寄せられた移植物が内筒の先端の開口を塞ぎ、内筒内部で生じた負圧が保たれることで、内筒の先端に移植物が保持される。しかし、容器内での移植物の状態や、移植物の大きさ、移植物と移植器との位置関係などの僅かな違いにより、移植物が内筒の先端の開口を塞ぐまでに内筒内に流入する水溶液の量がばらつき、更には内筒内部で生じた移植物を保持する負圧もばらつくことがある。
【0006】
生体内の移植対象部で内筒から移植物の保持を解除する際には、内筒内部の圧力を制御することになるが、これら吸引される水溶液の量や、内筒内部の負圧のばらつきは、生体内の移植対象部で内筒から移植物の保持を解除する際の圧力制御にばらつきを生じ、移植物の保持を解除できない場合や、過剰な水溶液の吐出による移植位置精度の悪化につながることがある。
【0007】
更にこのような問題は、複数の針や内筒を有し、複数の移植物を同時に移植する場合には、より顕著な問題となることがある。
【0008】
本発明は、生体内へ対象物の円滑な配置を可能とした細胞移植装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する細胞移植装置は、針状部の先端部に開口を有し、生体内への移植の対象である移植物を内部に収容可能に構成された筒状の針状部と、一部が針状部の内側において延びる筒状部とを備え、筒状部は、針状部内径よりも外径が小さく、先端部に開口を有す筒細部と、筒細部よりも外径が大きい筒太部と、筒太部の内側で摺動可能なガスケット部とを備え、ガスケット部よりも筒細部側の筒状部内空間において、筒細部の先端部にのみ開口がある状態と、筒細部の先端部以外にも開口のある状態とを各々とることができる構成をとる。
【0010】
上記構成によれば、細胞移植装置は、ガスケット部よりも筒細部側の筒状部内空間において、筒細部の先端部にのみ開口がある状態とすることで、筒太部内側のガスケット部の動作により、筒細部の先端にある開口より吸引力を生じさせることが可能であり、水溶液と共に吸引された移植物が開口を塞ぐことで負圧により移植物を保持することができる。更に、筒細部の先端部に保持した移植物を生体内へ移植する際に、ガスケット部よりも筒細部側の筒状部内空間において筒細部の先端部以外にも開口のある状態とすることで、筒状部内空間の圧力は、大気圧と同じになり、移植物の保持が解除され、円滑に移植することが可能となる。移植物の吸引の際に筒状部に吸引された水溶液の量や、移植物を保持する際の負圧がばらついても、容易に筒状部内空間の圧力をばらつきなく、大気圧とすることができ、移植物の保持解除を制御性よく実施することができる。
【0011】
上記構成において、ガスケット部よりも筒細部側の筒状部内空間において、ガスケット部の位置により、筒細部の先端部にのみ開口がある状態と、筒細部の先端部以外にも開口のある状態とを各々とることができてもよい。
【0012】
上記構成によれば、細胞移植装置は、ガスケット部よりも筒細部側の筒状部内空間において、筒細部の先端部にのみ開口がある状態とすることで、筒太部内側のガスケット部の動作により、筒細部の先端にある開口より負力を生じさせることが可能であり、水溶液と共に吸引された移植物が開口を塞ぐことで負圧により移植物を保持することができる。更に、筒細部の先端部に保持した移植物を生体内へ移植する際に、筒太部内側のガスケット部の動作により、ガスケット部よりも筒細部側の筒状部内空間において筒細部の先端部以外にも開口のある状態とすることで、筒状部内空間の圧力は大気圧と同じになり、移植物の保持が解除され、円滑に移植することが可能となる。移植物の吸引の際に筒状部に吸引された水溶液の量や、移植物を保持する際の負圧がばらついても、容易に筒状部内空間の圧力をばらつきなく、大気圧とすることができ、ガスケット部の動作のみというシンプルな動作で移植物の保持解除を制御性よく実施することができる。
【0013】
上記構成において、筒太部の側面においてガスケット部が摺動可能な範囲の一部に孔があり、ガスケット部よりも筒細部側の筒状部内空間において、ガスケット部の位置により、筒細部の先端部以外に生じる開口が、孔の一部又は全部であってもよい。
【0014】
上記構成によれば、筒細部の先端部に保持した移植物を生体内へ移植する際に、筒太部内側のガスケット部の動作により、ガスケット部よりも筒細部側の筒状部内空間において孔の一部又は全部が、先端部以外の開口となることで、筒状部内空間の圧力は大気圧と同じになり、移植物の保持が解除され、円滑に移植することが可能となる。移植物の吸引の際に筒状部に吸引された水溶液の量や、移植物を保持する際の負圧がばらついても、容易に筒状部内空間の圧力をばらつきなく、大気圧とすることができ、ガスケット部の動作のみというシンプルな動作で移植物の保持解除を制御性よく実施することができる。
【0015】
上記構成において、筒太部の側面に孔が複数設けられてもよい。
【0016】
上記構成によれば、筒細部の先端部に保持した移植物を生体内へ移植する際に、筒太部内側のガスケット部の動作により、ガスケット部よりも筒細部側の筒状部内空間において孔の一部又は全部が、先端部以外の開口となる際に、複数の孔があることで、異物等により孔が塞がり、先端部以外の開口が全て機能しないという不具合を避けることができる。
【0017】
上記構成において、筒太部の一部にガスケット部の径よりも内径の大きい幅広部があり、ガスケット部よりも筒細部側の筒状部内空間において、ガスケット部の位置により、筒細部の先端部以外に生じる開口が、ガスケット部が幅広部に移動した際に生じるガスケット部と筒太部の隙間であってもよい。
【0018】
上記構成によれば、筒細部の先端部に保持した移植物を生体内へ移植する際に、筒太部内側のガスケット部の動作により、ガスケット部よりも筒細部側の筒状部内空間において、ガスケット部が幅広部に移動した際に生じるガスケット部と筒太部の隙間が、先端部以外の開口となることで、筒状部内空間の圧力は大気圧と同じになり、移植物の保持が解除され、円滑に移植することが可能となる。移植物の吸引の際に筒状部に吸引された水溶液の量や、移植物を保持する際の負圧がばらついても、容易に筒状部内空間の圧力をばらつきなく、大気圧とすることができ、ガスケット部の動作のみというシンプルな動作で移植物の保持解除を制御性よく実施することができる。
【0019】
上記構成において、筒状部の筒細部側の先端部が針状部の内部に配置される位置と、筒状部の筒細部側の先端部が針状部の開口から突出する位置との間で、針状部に対して相対的に移動可能に構成されてもよい。
【0020】
上記構成において、容器から細胞を吸引する際や、生体に移植物を配置する際に、移植物を保持する筒細部側先端部を、針先端部よりも突出した位置とすることができ、より円滑に移植物の吸引と配置を行うことができる。
【0021】
上記構成において、針状部及び筒状部を複数備えてもよい。
【0022】
上記構成によれば、複数の箇所に対して、移植物をまとめて移植することができ、効率的に移植することができる。更に、複数同時に移植する際にも、移植物の吸引の際に筒状部に吸引された水溶液の量や、移植物を保持する際の負圧が各々ばらついても、容易に筒状部内空間の圧力をばらつきなく、大気圧とすることができ、ガスケット部の動作のみというシンプルな動作で複数の移植物に対して保持解除を制御性よく実施することができる。
【0023】
上記構成において、針状部は、100μm以上1000μm以下の径を有する細胞集合体である細胞群を含む移植物を、収容可能に構成されてもよい。
【0024】
上記構成において、皮膚由来幹細胞を含んだ細胞凝集体である細胞群を含む移植物を、生体内に移植するために用いてもよい。
【0025】
上記構成によれば、こうした細胞の移植は、例えば、発毛や育毛を目的とする。発毛や育毛を目的とした移植では、多くの移植物を移植することが求められる場合が多い。こうした移植に上記細胞移植装置が用いられることで、多くの移植物を円滑に精度よく移植することを可能とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、生体内への移植物の円滑な配置を可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】細胞移植装置の全体構成を示す図。
図2】細胞移植装置であって、複数の針状部を備える細胞移植装置構成を示す図。
図3A】第1実施形態の細胞移植装置の内部構造を示す図。
図3B】第1実施形態の細胞移植装置の内部構造を示す図。
図4A】第1実施形態の細胞移植装置の内部構造を示す図。
図4B】第1実施形態の細胞移植装置の内部構造を示す図。
図5】第1実施形態の細胞移植装置の使用方法における移植物の取込工程を示す図。
図6】第1実施形態の細胞移植装置の使用方法における移植物の取込工程を示す図。
図7】第1実施形態の細胞移植装置の使用方法における移植物の取込工程を示す図
図8】第1実施形態の細胞移植装置の使用方法における移植物の取込工程を示す図
図9】第1実施形態の細胞移植装置の使用方法における移植物の配置工程を示す図
図10】第1実施形態の細胞移植装置の使用方法における移植物の配置工程を示す図。
図11】第1実施形態の細胞移植装置の使用方法における移植物の配置工程を示す図。
図12】第1実施形態の細胞移植装置の使用方法における移植物の配置工程を示す図。
図13A】第2実施形態の細胞移植装置の内部構造を示す図。
図13B】第2実施形態の細胞移植装置の内部構造を示す図。
図14A】第3実施形態の細胞移植装置の内部構造を示す図。
図14B】第3実施形態の細胞移植装置の内部構造を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(第1実施形態)
図1図12を参照して、細胞移植装置の第1実施形態を説明する。
[移植物]
本実施形態の細胞移植装置は、生体へ移植物を移植するために用いられる。移植物は、細胞群を含む。移植の対象領域は、皮内および皮下の少なくとも一方、あるいは、臓器等の組織である。まず、移植される対象である細胞群について説明する。
【0029】
移植対象の細胞群は、複数の細胞を含む。細胞群は、凝集された複数の細胞の集合体であってもよいし、細胞間結合により結合した複数の細胞の集合体であってもよい。あるいは、細胞群は、分散した複数の細胞から構成されてもよい。また、細胞群を構成する細胞は、未分化の細胞であってもよいし、分化が完了した細胞であってもよいし、細胞群は、未分化の細胞と分化した細胞とを含んでいてもよい。細胞群は、例えば、細胞塊(スフェロイド)、原基、組織、器官等である。
【0030】
細胞群は、対象領域に配置されることによって、生体における組織形成に作用する能力を有する。こうした細胞群の一例は、皮膚由来幹細胞を含んだ細胞凝集体である。移植対象の細胞群は、例えば、皮内または皮下に配置されることにより、発毛または育毛に寄与する。こうした細胞群は、毛包器官として機能する能力、毛包器官へ分化する能力、毛包器官の形成を誘導もしくは促進する能力、あるいは、毛包における毛の形成を誘導もしくは促進する能力等を有する。また、細胞群は、色素細胞もしくは色素細胞に分化する幹細胞等のように、毛色の制御に寄与する細胞を含んでいてもよい。
【0031】
具体的には、本実施形態における移植対象の細胞群の一例は、原始的な毛包器官である毛包原基である。毛包原基は、間葉系細胞と上皮系細胞とを含む。毛包器官では、間葉系細胞である毛乳頭細胞が、毛包上皮幹細胞の分化を誘導し、これによって形成された毛球部にて毛母細胞が分裂を繰り返すことにより、毛が形成される。毛包原基は、こうした毛包器官に分化する細胞群である。
【0032】
毛包原基は、例えば、毛乳頭等の間葉組織に由来する間葉系細胞と、バルジ領域や毛球基部等に位置する上皮組織に由来する上皮系細胞とを、所定の条件で混合培養することによって形成される。ただし、毛包原基の製造方法は上述の例に限定されない。また、毛包原基の製造に用いられる間葉系細胞と上皮系細胞との由来も限定されず、これらの細胞は、毛包器官由来の細胞であってもよいし、毛包器官とは異なる器官由来の細胞であってもよいし、多能性幹細胞から誘導された細胞であってもよい。なお、移植物は、細胞群とともに、細胞群の移植を補助する部材を含んでいてもよい。
【0033】
[細胞移植装置]
図1および図2を参照して、細胞移植装置の全体構成を説明する。
【0034】
図1が示すように、細胞移植装置100は、筒状に延びる針状部10と、針状部10を内側で支持する構成を内部に備えた筐体部20とを備えている。
【0035】
針状部10は、1つの方向に沿って延び、その先端部に針状部開口11を有している。言い換えれば、針状部10は、中空の針形状を有する。針状部10の先端部が、生体における皮膚等の移植の対象部位を刺すことの可能な形状を有していれば、針状部10の外形形状は特に限定されない。針状部10は、例えば、円筒における先端部をその延びる方向に対して斜めに切断した形状を有し、針状部10の先端部は、尖っている。
【0036】
筐体部20は、その内部に、細胞移植装置100の構成部材を収容可能な空間を区画している。筐体部20の外形形状は特に限定されない。筐体部20は、針状部10と一体に形成されていてもよいし、針状部10とは別々に形成された部材であってもよい。針状部10は、針状部10の延びる方向に沿って、筐体部20から突き出してもよい。針状部10のなかで筐体部20から突き出している部分には、少なくとも、生体における移植の対象領域に進入する部分が含まれる。
【0037】
細胞移植装置100は、筐体部20の内側に、筒状部30(図3A~4B参照)を備えている。筒状部30は、針状部10の内側で針状部10の延びる方向に沿って延びており、針状部10の延びる方向に沿って、針状部10に対して相対的に移動可能に構成されてもよい。針状部10に対して相対的に移動可能とすることで、細胞の取り扱いが容易となる。
【0038】
細胞移植装置100は、さらに、針状部10の位置を変更する位置変更部60及びガスケット部40(図3A~4B参照)の位置を変更する位置変更部61を備えている。また、筒状部30の位置を変更する位置変更部62を備えても良い。
【0039】
位置変更部60及び61及び62の作動は、手動で行われてもよいし、あるいは、位置変更部60及び61及び62がモーター等の電子部品を含み、位置変更部60及び61及び62の作動は、電気制御により行われてもよい。位置変更部60及び61及び62の一部は筐体部20の内部にあっても良い。
【0040】
図2が示すように、細胞移植装置100は、複数の針状部10を備えていてもよい。複数の針状部10は、1つの筐体部20の内側で支持され、共通した1つの方向に沿って延びる。複数の針状部10の配置は特に限定されず、複数の針状部10は、規則的に並んでいてもよいし、不規則に並んでいてもよい。
【0041】
細胞移植装置100が複数の針状部10を備える場合、筒状部30を複数を備え、各針状部10に筒状部30が配置される。すなわち、1つの針状部10の内側に1つの筒状部30の一部が延びるように配置される。
【0042】
以下、図面においては細胞移植装置100が複数の針状部10を備える形態を例示する。図3A~4Bを参照して、細胞移植装置100を構成する移植器101の詳細な構成を説明する。筒状部30は、針状部10の数に対応する数を備えている。筒状部30は針状部10の内径よりも外径が小さく、先端部に開口を有す筒細部31と、筒細部31よりも外径が大きい筒太部32を備えている。筒細部31と筒太部32は一体に形成されていてもよいし、別々に形成された部材の組み合わせた構成であってもよい。
【0043】
筒太部32の内側には、筒太部32の内側を摺動可能なガスケット部40を備えている。ガスケット部40は、ガスケット部40を支持するプランジャー部41と接続されている。プランジャー部41は位置変更部61と接続され、ガスケット部40を筒太部32の内側で摺動させることができる。
【0044】
筒太部32内のガスケット部40が摺動可能な範囲の一部の側面に、筒太部孔34がある。筒太部孔34は図3A及び3Bのように一つでもよいし、図4A及び4Bのように複数でもよい。筒太部孔34が複数ある場合、異物等により筒太部孔34が全て塞がる可能性を低減することができる。筒太部孔34の形状及び大きさは、ガスケット部40の摺動を阻まない範囲において任意である。
【0045】
図3Aに示すように移植器101は、筒状部30のガスケット部40よりも筒細部31側の筒状部内空間50において、筒細部先端部33にのみ開口がある状態をとることができる。続いて、図3Bに示すように移植器101は、図3Aの場合とガスケット部40の位置が変わることで、筒太部孔34が、筒状部内空間50における第2開口35となり、筒細部先端部33以外にも開口のある状態をとることができる。
【0046】
移植器101が筒細部先端部33にのみ開口がある状態では、ガスケット部40の位置の変化よって生じる筒状部内空間50の体積変化に応じ、筒細部先端部33に吸入圧や吐出圧を生じさせることができる。
【0047】
針状部10および筐体部20の材料は、特に限定されない。針状部10および筐体部20の材料は、例えば、金属や樹脂である。筒状部30の材料も特に限定されず、例えば、金属や樹脂である。筒状部30の筒細部31と筒太部32は同じ材料でできていても良いし、異なる材料の組み合わせでも良い。ガスケット部40は、少なくとも一部にゴム材を含む材料構成をとる。プランジャー部41の材料は、特に限定されない。
【0048】
[細胞移植装置の使用方法]
図5図12を参照して、細胞移植装置100の使用方法の一例を説明する。細胞移植装置100の使用方法は、細胞移植装置100に移植物を取り込む工程である取込工程と、移植物を生体内に配置する工程である配置工程とを含む。
【0049】
まず、取込工程について説明する。図5が示すように、移植前において、移植物Cgはトレイ90に保護液Plと共に保持されている。保護液Plは移植物Cgを保護する液状体である。例えば、図5が示すように、移植物Cgおよび保護液Plは、トレイ90が有する凹部91に入れられている。なお、トレイ90における移植物Cgと保護液Plとの保持形態は、凹部91に移植物Cgおよび保護液Plが保持される形態に限られない。例えば、トレイ90が有する平面上に移植物Cgと保護液Plとが配置されていてもよい。
【0050】
保護液Plは、細胞の生存を阻害し難い組成を有していればよく、また、生体に注入された場合に生体に与える影響の小さい物質から構成されることが好ましい。例えば、保護液Plは、生理食塩水、ワセリンや化粧水等の皮膚を保護する液体、あるいは、これらの液体の混合物である。保護液Plは、栄養成分等の添加成分を含んでいてもよい。また、トレイ90が培養容器であって、移植物Cgがトレイ90にて培養される場合、保護液Plは、細胞の培養のための培地であってもよいし、培地から交換された液体であってもよい。保護液Plは、ゾル状体、ゲル状体、低粘度の流体、あるいは、高粘度の流体であり得る。
【0051】
取込工程では、図5に示すように、細胞移植装置100を、移植物Cgの上部に筒細部先端部33が来るように配置する。この時、ガスケット部40は筒状部内空間50の開口が筒細部先端部33のみである位置を取る。尚、筒状部30の筒細部先端部33が針状部10の針状部開口11から針状部10の外部に突出している状態であると、筒細部先端部33と移植物Cgをより近接させることができ好ましい。
【0052】
そして、図6に示すように、トレイ90に配置されている移植物Cgに、筒細部先端部33が近づけられる
【0053】
そして、図7に示すように、ガスケット部40が筒状部内空間50の体積が大きくなる方向に移動することで、筒細部先端部33から筒状部内空間50内部に向かう液流が生じ、液流と共に移植物Cgが筒細部先端部33に吸引され、筒細部先端部33の開口を移植物Cgが塞ぐことで、筒状部内空間50内は負圧が維持され、移植物Cgが筒細部先端部33に保持された状態となる。このとき、保護液Plの一部が筒状部30内に取り込まれ、筒状部30が移植物Cgを保持した状態において、筒状部30内の少なくとも一部が保護液Plで満たされていてもよい。
【0054】
尚、取り込み工程において、ガスケット部40の移動により、筒細部先端部33から筒状部内空間50内部に向かう液流が生じてから、筒細部先端部33の開口を塞ぐまでの時間は、凹部91における移植物Cgの位置や、移植物Cgと筒細部先端部33との位置関係といった複数の要因によりばらつきが生じやすく、筒状部30に取り込まれる保護液Plの量や筒状部内空間50の負圧もまたばらつくこともある。
【0055】
そして、図8が示すように、筒状部30が針状部10に対して相対的に動かされ、筒細部先端部33と移植物Cgとが針状部開口11から針状部10の内部に引き込まれる。これにより、針状部10の内部に移植物Cgが取り込まれる。
【0056】
移植物Cgの含む細胞群が毛包原基である場合、1つの針状部10には1つの移植物Cgが取り込まれる。細胞移植装置100が複数の針状部10を備える場合には、複数の針状部10の配列によって、移植物Cgの移植に基づき形成される毛の分布を制御することができる。
【0057】
移植物Cgの含む細胞群が、毛包原基のように、発毛または育毛に寄与する細胞集合体である場合、細胞群の径は、例えば、100μm以上1000μm以下である。移植の対象がこうした細胞集合体である場合、針状部10は、上記の大きさの細胞群を含む移植物Cgを内部に収容可能な大きさに形成されていればよい。また、筒細部31の内径、すなわち筒細部先端部33の内径は、移植物Cgが筒状部30の内部に入り込まない程度に小さければよい。細胞群の径は、細胞群を球体に近似した場合の当該球体の直径、言い換えれば、細胞群に外接する最小の球の直径である。
【0058】
続いて、配置工程について説明する。取込工程の後、細胞移植装置100は、生体の例えば頭部の皮膚である移植部位Skまで運ばれる。そして、図9が示すように、針状部10によって移植部位Skが刺される。このとき、筒細部先端部33および移植物Cgは針状部10の内部に位置し、細胞移植装置100の先端部には、針状部10の先端部が位置する。針状部10の先端部は生体に刺さりやすい形状を有しているため、針状部10は移植部位Skに円滑に進入できる。針状部10は、針状部10の先端部が移植の対象領域に配置される位置まで、移植部位Skに進入する。
【0059】
次に、図10が示すように、筒状部30に対して針状部10が相対的に動かされ、詳細には、筒状部30および移植物Cgの位置は変わらずに、針状部10が移植部位Skから引き抜かれる方向に後退させられる。これにより、移植部位Skの内部において、針状部10の先端部が位置していた空間に移植物Cgが配置されるため、移植物Cgが針状部10から出るときに周囲の組織から押圧されて細胞に負荷がかかることが抑えられる。
【0060】
続いて、図11に示すように、ガスケット部40の位置が変わり、筒状部内空間50において筒太部孔34が第2開口35となる。筒状部内空間50において筒太部孔34が第2開口35となるまでは、筒細部先端部33は移植物Cgで塞がれていたため、筒状部内空間50は負圧を維持していたが、第2開口35が生じたことにより、筒状部内空間50は大気圧に戻る。そのため、筒細部先端部33による移植物Cgの保持が解除される。
【0061】
複数本の針状部10を持つ場合においても、各針状部10に対応する筒状部内空間50は第2開口35が生じる前に生じた負圧ばらつきや筒状部30に吸引した水溶液の量ばらつきによらず、全て大気圧となり、筒状部内空間50の圧力は全て同じとなる。そのため取込工程でのばらつきの影響なく、移植物Cgの保持を解除できる。繰り返し実施する際の、負圧ばらつきや筒状部30に吸引した水溶液の量ばらつきに対しても、それら取込工程でのばらつきの影響なく、移植物Cgの保持を解除することができる。
【0062】
続いて、図12が示すように、細胞移植装置100が移植部位Skの表面から後退する。これにより、移植部位Skにおける移植の対象領域に移植物Cgが配置される。
【0063】
(第2実施形態)
図13A及び13Bを参照して、細胞移植装置およびその使用方法の第2実施形態を説明する。第2実施形態の細胞移植装置も、第1実施形態と同様の移植物の移植に用いられる。第2実施形態は、第1実施形態と比較して、筒太部32の構造が異なっている。以下では、第2実施形態と第1実施形態との相違点を中心に説明し、第1実施形態と同様の構成については同じ符号を付してその説明を省略する。
【0064】
[細胞移植装置]
第2実施形態の細胞移植装置は、筒太部32に筒太部孔34は無く、筒太部32の一部にガスケット部40の径よりも内径の大きい幅広部36がある。図13Aに示すように移植器102は、筒状部30のガスケット部40よりも筒細部31側の筒状部内空間50において、筒細部先端部33にのみ開口がある状態をとることができる。続いて、図13Bに示すように移植器102は、図13Aの場合とガスケット部40の位置が変わることで、ガスケット部40と幅広部36との径の違いにより生じた隙間が、筒状部内空間50における第2開口35となり、筒細部先端部33以外にも開口のある状態をとることができる。
【0065】
[細胞移植装置の使用方法]
第2実施形態において、第1実施形態との違いは、配置工程である。
【0066】
配置工程について述べる。針状部10が移植部位Skから引き抜かれる方向に後退させられ、筒細部先端部33と移植物Cgが移植部位Skにいる状態において、ガスケット部40の位置が変わり、筒状部内空間50においてガスケット部40と幅広部36との径の違いにより生じた隙間が第2開口35となる。筒状部内空間50において第2開口35が生じるまでは、筒細部先端部33は移植物Cgで塞がれていたため、筒状部内空間50は負圧を維持していたが、第2開口35が生じたことにより、筒状部内空間50は大気圧に戻る。そのため、筒細部先端部33による移植物Cgを保持が解除される。
【0067】
(第3実施形態)
図14A及び14Bを参照して、細胞移植装置およびその使用方法の第3実施形態を説明する。第3実施形態の細胞移植装置も、第1実施形態と同様の移植物の移植に用いられる。第3実施形態は、第1実施形態と比較して、筒太部32とガスケット部40の構造が異なっている。以下では、第3実施形態と第1実施形態との相違点を中心に説明し、第1実施形態と同様の構成については同じ符号を付してその説明を省略する。
【0068】
[細胞移植装置]
第3実施形態の細胞移植装置は、筒太部32に筒太部孔34は無く、ガスケット部40にガスケット部孔43があり、ガスケット部孔43を塞ぐことができるガスケット栓42がある。ガスケット栓42は動作させることで、ガスケット部孔43を塞ぐ状態と、塞がない状態をとることができる。
【0069】
ガスケット栓42の材料は特に限定されず、複数の材料で構成されていてもよい。ガスケット栓42の動作は手動で行われてもよいし、モーター等の電子部品を含み、電気制御により行われてもよい。ガスケット栓42の構造は、ガスケット部孔43を塞ぐ状態と、塞がない状態をとることができればよく、限定されない。
【0070】
図14Aに示すように移植器103は、筒状部30のガスケット部40よりも筒細部31側の筒状部内空間50において、ガスケット部孔43をガスケット栓42が塞ぐことで、筒細部先端部33にのみ開口がある状態をとることができる。続いて、図14Bに示すように移植器103は、ガスケット部孔43をガスケット栓42が塞がない状態とすることで、ガスケット部孔43が、筒状部内空間50における第2開口35となり、筒細部先端部33以外にも開口のある状態をとることができる。
【0071】
[細胞移植装置の使用方法]
第3実施形態において、第1実施形態との違いは、配置工程である。
【0072】
配置工程について述べる。針状部10が移植部位Skから引き抜かれる方向に後退させられ、筒細部先端部33と移植物Cgが移植部位Skにいる状態において、ガスケット栓42が動作し、筒状部内空間50においてガスケット部孔43が第2開口35となる。筒状部内空間50において第2開口35が生じるまでは、筒細部先端部33は移植物Cgで塞がれていたため、筒状部内空間50は負圧を維持していたが、第2開口35が生じたことにより、筒状部内空間50は大気圧に戻る。そのため、筒細部先端部33による移植物Cgを保持が解除される。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、生体内に移植物を移植するための細胞移植装置として利用できる。
【符号の説明】
【0074】
Cg…移植物
10…針状部
11…針状部開口
20…筐体部
30…筒状部
31…筒細部
32…筒太部
33…筒細部先端部
34…筒太部孔
35…第2開口
36…幅広部
40…ガスケット部
41…プランジャー部
42…ガスケット栓
43…ガスケット部孔
50…筒状部内空間
60,61,62…位置変更部
90…トレイ
100…細胞移植装置
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13A
図13B
図14A
図14B