(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172273
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】超音波診断装置及び減衰計測方法
(51)【国際特許分類】
A61B 8/08 20060101AFI20231129BHJP
【FI】
A61B8/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022083955
(22)【出願日】2022-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西山 知秀
【テーマコード(参考)】
4C601
【Fターム(参考)】
4C601DD21
4C601EE11
4C601JB36
4C601JC09
4C601KK24
4C601KK31
(57)【要約】
【課題】診断対象となった組織中の所定の深さに減衰計測区間が正しく設定されるようにする。
【解決手段】グラフィック38は、基準図形としての第1水平線42、並びに、区間図形としての第2水平線44及び第3水平線46を有する。第1水平線42が肝臓像36の近位輪郭36Aに重なるように、プローブの位置が調整され、及び、断層画像34上におけるグラフィック38の位置が調整される。それらの調整後に、減衰計測区間47から取得された区間信号に基づいて減衰係数が演算される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織からデータを取得するプローブと、
前記データに基づいて組織像を含む断層画像を形成する形成部と、
前記断層画像上に表示されるグラフィックであって前記組織像の近位輪郭に対して位置合わせされる基準図形及び前記組織の内部に設定される減衰計測区間を表す区間図形を含むグラフィックを生成する生成部と、
前記プローブの位置の変更及び前記グラフィックの位置の変更の少なくとも一方により前記基準図形が前記組織像の近位輪郭に位置合わせされた状態において、前記減衰計測区間から取得された区間信号に基づいて減衰係数を演算する演算部と、
を含むことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
請求項1記載の超音波診断装置において、
前記基準図形には、前記組織像の近位輪郭に重ねられる第1水平線が含まれ、
前記区間図形には、前記減衰計測区間の近位端を表す第2水平線であって前記第1水平線よりも深い位置に表示される第2水平線と、前記減衰計測区間の遠位端を表す第3水平線であって前記第2水平線よりも深い位置に表示される第3水平線と、が含まれる、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項3】
請求項2記載の超音波診断装置において、
前記演算部は、前記組織に対して送受信原点から扇状に広がる複数の計測ラインからなる計測ライン列を設定し、前記複数の計測ライン上に設定される複数の減衰計測区間から取得された複数の区間信号に基づいて前記減衰係数を演算し、
前記計測ライン列は、表示空間において、前記第1水平線の深さで第1横幅を有し、前記第2水平線の深さで第2横幅を有し、前記第3水平線の深さで第3横幅を有し、
前記第1水平線は前記第1横幅よりも大きい第1長さを有し、
前記第2水平線は前記第2横幅に相当する第2長さを有し、
前記第3水平線は前記第3横幅に相当する第3長さを有する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項4】
請求項3記載の超音波診断装置において、
前記生成部は、前記グラフィックの深さの変更に伴って、前記第2長さ及び前記第3長さを変更する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項5】
請求項1記載の超音波診断装置において、
前記グラフィックの位置の変更の指示を受け付ける操作部を含み、
前記生成部は、前記変更の指示に基づいて前記グラフィックの位置を変更する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項6】
請求項5記載の超音波診断装置において、
前記変更の指示には、深さ方向の変更の指示及び電子走査方向の変更の指示が含まれ、
前記生成部は、前記深さ方向の変更の指示に応じて前記グラフィックの位置を前記深さ方向に変更し、前記電子走査方向の変更の指示に応じて前記グラフィックの位置を前記電子走査方向に変更する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項7】
請求項6記載の超音波診断装置において、
前記グラフィックには中心線が含まれ、前記基準図形及び前記区間図形が前記中心線上に表示され、
前記生成部は、
前記深さ方向の変更の指示に応じて、前記中心線の位置を維持しつつ、前記基準図形の位置及び前記区間図形の位置を前記深さ方向に変更し、
前記電子走査方向の変更の指示に応じて、前記中心線の位置、前記基準図形の位置及び前記区間図形の位置を前記電子走査方向に変更する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項8】
請求項1記載の超音波診断装置において、
前記断層画像に基づいて前記組織像の近位輪郭を検出する検出部を含み、
前記生成部は、前記基準図形が前記組織像の近位輪郭に位置決めされるように前記グラフィックの位置を変更する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項9】
組織から取得されたデータに基づいて組織像を含む断層画像を形成する工程と、
前記断層画像上に表示されるグラフィックであって前記組織像の近位輪郭に対して位置合わせされる基準図形及び前記組織の内部に設定される減衰計測区間を表す区間図形を含むグラフィックを生成する工程と、
前記データを取得するプローブの位置の変更及び前記グラフィックの位置の変更の少なくとも一方により、前記基準図形が前記組織像の近位輪郭に位置合わせされる工程と、
前記基準図形が前記組織像の近位輪郭に位置合わせされた状態において、前記減衰計測区間から取得された区間信号に基づいて減衰係数を演算する工程と、
を含むことを特徴とする減衰計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は超音波診断装置及び減衰計測方法に関し、特に、生体組織内での超音波の減衰の計測に関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓の超音波検査においては、肝臓組織の性状の評価のために、例えば脂肪肝の診断のために、減衰計測が実施される。肝臓における超音波の減衰は、肝臓組織の硬さ又は弾性に依存する。減衰計測により求められる減衰係数に基づいて、肝臓組織の性状が評価される。
【0003】
従来の減衰計測においては、一般に、超音波画像上に、計測区間を表す図形が表示される。超音波画像内の肝臓像における適切な部位に計測区間を表す図形が位置するように、超音波プローブの位置や姿勢が調整される。肝臓以外の組織に対して減衰計測が実施されることもある。
【0004】
特許文献1には、減衰計測を行う超音波診断装置が開示されている。特許文献1には、組織像の輪郭に重合される案内図形の生成及び表示については記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
減衰計測の再現性や減衰計測結果の信頼性を高めるためには、診断対象となった組織中の所定の深さに、計測区間を正しく設定することが求められる。一方、被検者の体格には多様性が認められ、被検者の体内における組織の位置及びサイズは様々である。組織中の所定の深さに計測区間を正確に設定することは容易ではない。
【0007】
本開示の目的は、検査者による減衰計測を支援することにある。あるいは、本開示の目的は、診断対象となった組織中の所定の深さに減衰計測区間を正確に設定できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係る超音波診断装置は、組織からデータを取得するプローブと、前記データに基づいて組織像を含む断層画像を形成する形成部と、前記断層画像上に表示されるグラフィックであって前記組織像の近位輪郭に対して位置合わせされる基準図形及び前記組織の内部に設定される減衰計測区間を表す区間図形を含むグラフィックを生成する生成部と、前記プローブの位置の変更及び前記グラフィックの位置の変更の少なくとも一方により前記基準図形が前記組織像の近位輪郭に位置合わせされた状態において、前記減衰計測区間から取得された区間信号に基づいて減衰係数を演算する演算部と、を含むことを特徴とする。
【0009】
本開示に係る減衰計測方法は、組織から取得されたデータに基づいて組織像を含む断層画像を形成する工程と、前記断層画像上に表示されるグラフィックであって前記組織像の近位輪郭に対して位置合わせされる基準図形及び前記組織の内部に設定される減衰計測区間を表す区間図形を含むグラフィックを生成する工程と、前記データを取得するプローブの位置の変更及び前記グラフィックの位置の変更の少なくとも一方により、前記基準図形が前記組織像の近位輪郭に位置合わせされる工程と、前記基準図形が前記組織像の近位輪郭に位置合わせされた状態において、前記減衰計測区間から取得された区間信号に基づいて減衰係数を演算する演算部と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、検査者による減衰計測を支援できる。あるいは、本開示によれば、診断対象となった組織中の所定の深さに減衰計測区間を正しく設定できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係る超音波診断装置を示すブロック図である。
【
図2】断層画像上に表示されるグラフィックを示す図である。
【
図3】浅い位置に設定される減衰計測区間及び深い位置に設定される減衰計測区間を示す図である。
【
図6】計測ライン列とグラフィックの関係を示す図である。
【
図8】減衰計測区間の深さの自動的な設定を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
(1)実施形態の概要
実施形態に係る超音波診断装置は、プローブ、形成部、生成部、及び、演算部を有する。プローブは組織からデータを取得するものである。形成部は、データに基づいて組織像を含む断層画像を形成する。生成部は、断層画像上に表示されるグラフィックを生成する。グラフィックには、組織像の近位輪郭に対して位置合わせされる基準図形、及び、組織の内部に設定される減衰計測区間を表す区間図形が含まれる。演算部は、プローブの位置の変更及びグラフィックの位置の変更の少なくとも一方により基準図形が組織像の近位輪郭に位置合わせされた状態において、減衰計測区間から取得された区間信号に基づいて減衰係数を演算する。
【0014】
上記構成によれば、グラフィックに基準図形が含まれており、基準図形を組織像の近位輪郭に位置合わせすれば、その結果として、組織内における所定の深さに減衰計測区間が設定される。よって、減衰計測区間を正しく設定でき、また、減衰計測の再現性を高められる。また、検査者のプローブ操作を支援できる。
【0015】
組織像の近位輪郭に対する基準図形の位置合わせに際しては、組織に対するプローブの相対的な位置が変更されてもよいし(実空間内においてプローブの位置が変更されてもよいし)、組織像に対するグラフィックの相対的な位置が変更されてもよい(断層画像空間内におけるグラフィックの位置が変更されてもよい)。それら2種類の変更が交互に又は同時に実施されてもよい。組織像に対してグラフィックの相対的位置を変更するための構成を採用すれば、被検者の体格に多様性があっても、減衰計測区間を正確且つ迅速に設定することが容易となる。
【0016】
実施形態において、組織は肝臓であり、近位輪郭は肝臓像におけるプローブ側輪郭(肝臓表面)である。肝臓以外の組織に対して減衰計測が実施されてもよい。減衰係数は組織の性状を評価するための指数であり、減衰係数として様々なものを採用し得る。区間信号は、断層画像から切り出されるデータであり、具体的には、深さ方向に沿った強度の変化(振幅の変化、輝度の変化)を示す信号である。断層画像の概念には受信フレームデータが含まれる。
【0017】
実施形態においては、表示倍率が一定であれば、基準図形と区間図形の位置関係は固定される。組織サイズ等に応じて、基準図形と区間図形の位置関係が変更されてもよい。後述する画像形成部が上記形成部に相当する。後述するグラフィック生成部が上記生成部に相当する。後述する減衰係数演算部が上記演算部に相当する。
【0018】
実施形態において、基準図形には、組織像の近位輪郭に重ねられる第1水平線が含まれる。区間図形には、減衰計測区間の近位端を表す第2水平線であって第1水平線よりも深い位置に表示される第2水平線と、減衰計測区間の遠位端を表す第3水平線であって第2水平線よりも深い位置に表示される第3水平線と、が含まれる。この構成によれば、基準図形の位置決めが容易となる。また、減衰計測区間の両端を明確に認識できる。
【0019】
実施形態において、演算部は、組織に対して送受信原点から扇状に広がる複数の計測ラインからなる計測ライン列を設定し、複数の計測ライン上に設定される複数の減衰計測区間から取得された複数の区間信号に基づいて減衰係数を演算する。計測ライン列は、表示空間において、第1水平線の深さで第1横幅を有し、第2水平線の深さで第2横幅を有し、第3水平線の深さで第3横幅を有する。第1水平線は第1横幅よりも大きい第1長さを有する。第2水平線は第2横幅に相当する第2長さを有する。第3水平線は第3横幅に相当する第3長さを有する。
【0020】
上記構成によれば、第2水平線及び第3水平線の観察を通じて、計測ライン列の広がりを認識できる。第1水平線が第1横幅よりも大きいので、第1水平線が案内線又は目標線であることを認識し易く、また、第1水平線を近位輪郭に合わせ易くなる。実施形態において、各水平線は直線であるが、各水平線を電子走査方向に沿った緩やかな円弧としてもよい。表示空間(断層画像空間)における第1横幅、第2横幅及び第3横幅は、実空間における第1実横幅、第2実横幅及び第3実横幅に対応する。
【0021】
実施形態において、生成部は、グラフィックの深さの変更に伴って、第2長さ及び第3長さを変更する。計測ライン列が扇状の形態を有するため、第2水平線の深さ及び第3水平線の深さの変化に伴って、第2横幅及び第3横幅が変化する。それらの変化に応じて第2長さ及び第3長さが変更される。これにより、グラフィックの深さによらずに、計測ライン列の形態を正しく認識することが可能となる。
【0022】
実施形態に係る超音波診断装置は、グラフィックの位置の変更の指示を受け付ける操作部を含む。生成部は、変更の指示に基づいてグラフィックの位置を変更する。実施形態において、変更の指示には、深さ方向の変更の指示及び電子走査方向の変更の指示が含まれる。生成部は、深さ方向の変更の指示に応じてグラフィックの位置を深さ方向に変更し、電子走査方向の変更の指示に応じてグラフィックの位置を電子走査方向に変更する。
【0023】
例えば、皮下脂肪層の厚みに応じて、グラフィックの位置が深さ方向に変更される。また、減衰計測区間が血管又はその近傍から外れるように、グラフィックの位置が電子走査方向に変更される。電子走査方向は実施形態において円弧方向である。
【0024】
実施形態において、グラフィックには中心線が含まれ、基準図形及び前記区間図形が中心線上に表示される。生成部は、深さ方向の変更の指示に応じて、中心線の位置を維持しつつ、基準図形の位置及び区間図形の位置を深さ方向に変更する。生成部は、電子走査方向の変更の指示に応じて、中心線の位置、基準図形の位置及び区間図形の位置を電子走査方向に変更する。
【0025】
実施形態に係る超音波診断装置は、断層画像に基づいて組織像の近位輪郭を検出する検出部を含む。生成部は、基準図形が組織像の近位輪郭に位置決めされるようにグラフィックの位置を変更する。この構成によれば、近位輪郭に対して基準図形が自動的にフィッティングされる。これにより、減衰計測区間の深さが自動的に最適化される。近位輪郭の検出に際して断層画像の全部が参照されてもよいし断層画像の一部が参照されてもよい。区間信号から近位輪郭の深さが判定されてもよい。断層画像の概念には受信フレームデータが含まれ得る。
【0026】
実施形態に係る減衰計測方法は、形成工程、生成工程、位置合わせ工程、及び、演算工程を有する。形成工程では、組織から取得されたデータに基づいて組織像を含む断層画像が形成される。生成工程では、断層画像上に表示されるグラフィックであって組織像の近位輪郭に対して位置合わせされる基準図形及び組織の内部に設定される減衰計測区間を表す区間図形を含むグラフィックが生成される。位置合わせ工程では、データを取得するプローブの位置の変更及びグラフィックの位置の変更の少なくとも一方により、基準図形が組織像の近位輪郭に位置合わせされる。演算工程では、基準図形が組織像の近位輪郭に位置合わせされた状態において、減衰計測区間から取得された区間信号に基づいて減衰係数が演算される。
【0027】
プローブの位置(姿勢を含む)の変更は検査者によって実施される。グラフィックの位置の変更は、検査者によって実施され、又は、近位輪郭の自動検出の結果に基づいて実施される。後述する画像形成部において上記形成工程が実施される。後述するグラフィック生成部において上記生成工程が実施される。後述する減衰係数演算部において上記演算工程が実施される。
【0028】
(2)実施形態の詳細
図1には、実施形態に係る超音波診断装置の構成例が示されている。この超音波診断装置は、病院等において被検者の超音波検査で用いられる医用装置である。実施形態において、超音波検査の対象となる組織は肝臓である。
【0029】
超音波診断装置は、プローブ(超音波プローブ)10を有する。プローブ10の送受波面が被検者の腹部表面に当接される。プローブ10は、円弧状に配列された複数の振動素子からなる振動素子アレイを有する。振動素子アレイにより超音波ビームが形成され、超音波ビームが電子走査される。実施形態においては、電子走査方式として電子コンベックス走査方式が採用されている。電子セクタ走査方式、電子リニア走査方式、等が採用されてもよい。プローブ10内に直線状に配列された複数の振動素子からなる振動素子アレイが設けられてもよい。あるいは、プローブ10内に二次元配列された複数の振動素子からなる2D振動素子アレイが設けられてもよい。
【0030】
超音波ビームの電子走査により、ビーム走査面が形成される。ビーム走査面は二次元データ取込領域である。プローブ10の位置(姿勢を含む)がユーザーである検査者(医師、検査技師等)により調整される。その調整によりビーム走査面の位置が変更される。肝臓における所望の断面にビーム走査面が一致するように、実空間におけるプローブ10の位置が調整される。
【0031】
送信部12は、送信時において、振動素子アレイに対して複数の送信信号を並列的に供給する。これにより送信ビームが形成される。送信部12は、送信ビームフォーマーとして機能する電子回路である。受信時において、生体内からの反射波が振動素子アレイで受信される。これにより、振動素子アレイから受信部14へ複数の受信信号が並列的に出力される。受信部14は、複数の受信信号に対して整相加算を適用し、これにより受信ビームデータを生成する。受信部14は、受信ビームフォーマーとして機能する電子回路である。
【0032】
超音波ビームの1回の電子走査により1つ受信フレームデータが生成される。1つの受信フレームデータは、電子走査方向に並ぶ複数の受信ビームデータにより構成される。各受信ビームデータは深さ方向に並ぶ複数のエコーデータにより構成される。電子走査の繰り返しにより生成された複数の受信フレームデータが画像形成部16へ順次送られる。
【0033】
画像形成部16は、複数の受信フレームデータから複数の表示フレームデータを形成するプロセッサにより構成される。具体的には、画像形成部16は、座標変換機能、画素補間機能、等を発揮するデジタルスキャンコンバータ(DSC)により構成される。複数の表示フレームデータは動画像としての断層画像に相当する。各表示フレームデータは静止画像としての断層画像に相当する。
【0034】
複数の表示フレームデータが表示処理部18を介して表示器20へ送られる。表示器20には、断層画像が表示される。表示処理部18は、画像合成機能、カラー演算機能等を有する。実施形態においては、表示処理部18において断層画像とグラフィックとが合成されて合成画像が生成される。合成画像が表示器20に表示される。表示処理部18は例えばプロセッサにより構成され、表示器は例えば有機ELデバイス又は液晶表示器により構成される。
【0035】
プロセッサ22は、演算制御部として機能する。プロセッサ22は、例えば、プログラムを実行するCPUにより構成される。プロセッサ22により、
図1に示されている各構成要素の動作が制御される。
図1においては、プロセッサ22により発揮される複数の機能が複数のブロックとして表現されている。具体的には、計測区間設定部24、グラフィック生成部26、及び、減衰係数演算部28が示されている。
【0036】
グラフィック生成部26は、生成手段として機能するものであり、断層画像に重畳されるグラフィックを生成する。実施形態において、グラフィックには、基準図形としての第1水平線、並びに、区間図形としての第2水平線及び第3水平線、が含まれる。更に、グラフィックには中心線が含まれる。第1水平線は、肝臓の近位輪郭つまり肝臓表面に位置合わせされる案内線又は目標線である。第2水平線及び第3水平線は、肝臓内部に設定される減衰計測区間の近位端及び遠位端を表すものである。生成されたグラフィックを表すデータが表示処理部18へ送られている。
【0037】
実施形態においては、ユーザーの指示に基づいて、プロセッサ22が断層画像上でグラフィックの位置を変更する。つまり、プロセッサ22が変更部又は変更手段として機能する。実施形態においては、深さ方向にグラフィックの位置を変更することができ、また、電子走査方向にグラフィックの位置を変更することができる。すなわち、グラフィックを上下方向に平行移動させることが可能であり、また、グラフィックを円弧方向に移動させることが可能である。
【0038】
プローブの位置の変更及びグラフィックの位置の変更の一方又は両方により、断層画像内の肝臓の像に対してグラフィックが適切に位置決められる。具体的には、肝臓の近位輪郭に対して第1水平線が重なった重合状態が生じる。その重合状態において、所定の操作がなされると、計測区間設定部24により、グラフィックにおける区間図形の位置に基づいて、肝臓の内部に減衰計測区間が設定される。
【0039】
減衰係数演算部28は、減衰計測区間から取得された区間信号に基づいて減衰係数を演算する。区間信号は、エコー強度の変化を示す信号であり、具体的には、断層画像から切り出される輝度分布である(符号29Aを参照)。受信フレームデータから切り出される振幅分布が区間信号とされてもよい(符号29Bを参照)。実際には、減衰計測区間の2つの端から得られる2つの強度値(2つの輝度値又は2つの振幅値)に基づいて減衰係数が演算される。減衰係数は、肝臓の性状を示す指標である。演算された減衰係数を示す情報が表示処理部18に送られている。表示器20の画面上に減衰係数が数値情報として表示される。
【0040】
操作パネル30は、複数のスイッチ、キーボード、トラックボール等を有する入力デバイス又は操作部である。実施形態においては、操作パネル30を用いて、断層画像上におけるグラフィックの位置を指定し得る。また、操作パネル30を用いて、減衰係数の演算の実行が指示される。
【0041】
図2には、表示例が示されている。表示画面32には、断層画像34が表示されており、断層画像34上にグラフィック38が表示されている。断層画像34には、組織像である肝臓像36が含まれる。肝臓像36は近位輪郭(プローブ側表面)36Aを有する。
【0042】
グラフィック38は、基準図形としての第1水平線42、並びに、区間図形としての第2水平線44及び第3水平線46を有する。また、グラフィック38は、中心線40を有する。第1水平線42の深さがd1で示されており、第2水平線44の深さがd2で示されており、第3水平線の深さがd3で示されている。
【0043】
各深さd1,d2,d3は、表示空間における深さ(表示深さ)である。深さd1は実空間において深さD1に相当し、深さd2は実空間において深さD2に相当し、深さd3は実空間において深さD3に相当する。D1の初期値は例えば20mmであり、D2の初期値は例えば35mmであり、D3の初期値は例えば75mmである。各初期値は例示である。なお、プローブにおける円筒面状の送受波面が表示空間における深さゼロレベルに相当する。
【0044】
第1水平線42と第2水平線44の間の距離が深さ範囲d12である。第1水平線42と第3水平線46の間の距離が深さ範囲d13である。第2水平線44と第3水平線46の間の距離が深さ範囲d23である。深さ範囲d12は実空間において深さ範囲D12に相当し、深さ範囲d13は実空間において深さ範囲D13に相当し、深さ範囲d23は実空間において深さ範囲D23に相当する。第2水平線44と第3水平線46の間の区間が実空間における減衰計測区間47に相当している。すなわち、減衰計測区間47の大きさは深さ範囲D23である。
【0045】
実施形態においては、断層画像上において、グラフィック38の深さを変更し得る。グラフィック38の深さの変更により、深さd1,d2,d3が変化し、つまり、深さD1,D2,D3が変化する。もっとも、表示倍率が維持されている場合、グラフィック38の深さの変更によっても、表示空間における深さ範囲d12,d13,d23は変化せず、同じく、実空間における深さ範囲D12,D13,D23は変化しない。表示倍率の変更に伴って、表示空間における深さd1,d2,d3は変化するが、実空間における深さD1,D2,D3は不変である。もっとも、組織サイズ等に応じて、実空間における深さD1,D2,D3が変更されてもよい。
【0046】
第1水平線42が肝臓像36の近位輪郭36Aに重なるように、プローブの位置が調整され、また必要に応じて、グラフィック38の深さが調整される(符号50を参照)。後者の場合、例えば、操作パネル30に設けられたトラックボール48が操作される。第1水平線42が近位輪郭36Aに重なった場合、その結果として、肝臓の内部における適切な深さに減衰計測区間47が定められる。その上で、表示フレームデータ(又は受信フレームデータ)から、減衰計測区間47に対応するデータが区間信号として切り出される。区間信号に基づいて減衰係数が演算される。減衰係数が数値として表示される(符号52を参照)。
【0047】
後に詳述するように、実際には、実空間において、送受波原点から放射状に出る複数の計測ラインが設定される。複数の計測ライン上に複数の減衰計測区間が設定される。複数の減衰計測区間から得られた複数の区間信号に基づいて減衰係数が演算される。その場合、例えば、複数の区間信号に基づいて複数の減衰係数が演算された上で、それらの中の中央位置が表示値として選択される。複数の減衰係数の平均値が演算され、その平均値が表示値として選択されてもよい。
【0048】
図3の左側には、薄い皮下脂肪層を有する被検者に対する減衰計測が示されている。肝臓像の近位輪郭36A1は比較的に浅い位置にあり、その近位輪郭36A1上に第1水平線42Aが重なっている。グラフィック38Aがプローブ側へシフトしている。減衰計測区間47Aが肝臓の内部の適切な深さに定められている。
【0049】
図3の右側には、厚い皮下脂肪層を有する被検者に対する減衰計測が示されている。肝臓像の近位輪郭36A2は比較的に深い位置にあり、その近位輪郭36A2上に第1水平線42Bが重なっている。グラフィック38Bが非プローブ側へシフトしている。この場合においても、減衰計測区間47Bが肝臓の内部の適切な深さに定められている。
【0050】
図4には、減衰係数の演算方法が示されている。横軸は深さ軸であり、縦軸は強度軸(振幅軸、輝度軸)である。深さ方向に沿った強度分布54に対して減衰計測区間47が設定され、強度分布54から減衰計測区間47に相当する部分54Aが切り出される。当該部分54Aが区間信号である。区間信号に基づいて減衰係数が演算される(符号56を参照)。具体的には、区間信号に対して事前に用意された基準信号58を比較することにより、減衰係数が演算される。実際には、区間信号における、深さD2での強度及び深さD3での強度に基づいて、減衰係数が演算される。3つ以上の強度に基づいて減衰係数が演算されてもよいし、区間信号に対して近似直線がフィッティングされ、フィッティング後の近似直線の傾きに基づいて減衰係数が演算されてもよい。
【0051】
減衰係数の演算に際しては例えば以下の式が用いられる。
【数1】
【0052】
ここで、αは減衰係数であり、その単位は[dB/cm/MHz]である。αrefは、基準信号の減衰係数であり、d1は計測区間の近位端の深さであり、d2は計測区間の遠位端の深さである。Pfは、区間信号の振幅を示しており、Prefは基準信号の振幅を示している。2(d2-d1)は、計測区間の2倍の距離であり、つまり往復伝搬距離である。(fref-ff)は、区間信号の周波数と基準信号の周波数の差である。減衰係数を求める計算式として、上記数式以外の各種の計算式を利用し得る。
【0053】
図5には、電子走査方向へのグラフィック38の位置の変更が示されている。グラフィック38は、垂直線60に対して角度θ1回転している。回転中心は複数の音線の出発点である送受信原点である。送受信原点は通常、送受波面の曲率中心に一致する。例えば、肝臓内に血管が含まれ、つまり肝臓像に血管像62が含まれ、血管又は血管近傍を避けて減衰計測区間47を設定したい場合に、グラフィック38の位置が電子走査方向にマニュアルで変更される。その場合、操作パネルが検査者により操作される。
【0054】
グラフィック38の傾斜は、第1水平線、第2水平線、第3水平線及び中心線の傾斜を意味する。その傾斜に際しても、各水平線が中心線に対して直交する関係は維持される。なお、グラフィック38の位置を深さ方向へ移動させた場合、中心線の深さは維持され、第1水平線、第2水平線及び第3水平線が深さ方向に移動する。
【0055】
図6には、計測ライン列100が示されている。計測ライン列100は、実空間内に設定されるものであるが、
図6においては、説明の都合から、断層画像上に計測ライン列100が表現されている。計測ライン列100は、送受波原点102から放射状に出る複数の計測ラインからなり、具体的には、計測ライン100-1から計測ライン100-nまでのn個の計測ラインからなる。それらは電子走査方向に並んでいる。計測ライン列100は扇状の形態を有する。nは2以上の整数であり、例えばnは4~20の範囲内の整数である。
【0056】
グラフィック38は、上記のように、第1水平線42、第2水平線44及び第3水平線46を有する。
図6において、第1水平線42の深さがd1で示されており、第2水平線の深さがd2で示されており、第3水平線の深さがd3で示されている。
【0057】
計測ライン列100は、表示空間において、深さd1で横幅w1を有し、深さd2で横幅w2を有し、深さd3で横幅w3を有する。各横幅w1,w2,w3は、計測ライン100-1と計測ライン100-nの間の距離に相当する。
【0058】
第1水平線42の長さl1は、横幅w1よりも大きい。つまり、横幅w1から第1水平線42が左右にはみ出している。第2水平線44の長さl2は、横幅w2に一致している。第3水平線46の横幅は、横幅w3に一致している。
【0059】
よって、第2水平線44及び第3水平線46の観察により、計測ライン列100の扇状形態を想像することが可能である。第1水平線42は、計測ライン列100を横切っているので、第1水平線42が特別な線であることを認識でき、つまり、第1水平線42が減衰計測区間の近位端を示す線ではないことを認識できる。更に、第1水平線42が大きく表示されるので、第1水平線42を近位輪郭に合わせ易いという利点を得られる。
【0060】
各計測ライン上において、深さd2から深さd3までの区間が減衰計測区間となる。n個の計測ラインに対してn個の減衰計測区間が定められる。n個の減衰計測区間から得られるn個の区間信号に基づいてn個の減衰係数が演算される。n個の減衰係数の中から中央値が決定され、その中央値が表示される。n個の減衰係数に基づいて平均値が演算され、その平均値が表示されてもよい。
【0061】
断層画像上においてグラフィック38を深さ方向(r方向)に移動させた場合、w2及びw3の大きさが変化するので、l2及びl3の大きさも変化する。その場合、l1の大きさを変化させてもよいし、l1の大きさを固定してもよい。断層画像上においてグラフィック38を電子走査方向(θ方向)に移動させた場合、w2及びw3の大きさは不変であるので、l2及びl3の大きさは不変である。l1の大きさも不変である。
【0062】
第1水平線42を第1表示態様で表示し、第2水平線44及び第3水平線46を第1表示態様とは異なる第2表示態様で表示してもよい。表示態様の変化として、例えば、表示色の変化、線の太さや種類の変化、が挙げられる。視認性を上げるために各水平線42,44,46に陰影付けを行ってもよい。
【0063】
図7には、実施形態に係る減衰計測方法が示されている。Bモードの実行中において減衰計測開始が指示されると、S10において、断層画像上へのグラフィックの表示が開始される。S11は、調整工程を示している。S12では、プローブの位置(姿勢を含む)の調整により、肝臓像に対してグラフィックの位置が調整される。S14では、必要に応じて、断層画像上においてグラフィックの深さが調整される。S16では、必要に応じて、断層画像上においてグラフィックの傾きが調整される。S12~S16の工程は、任意の順序で実行される。最終的に、肝臓像の近位輪郭に第1水平線が重なった場合、その状態が維持されつつ、S18で、計測実行の操作がなされる。これにより、複数の減衰計測区間から複数の区間信号が取得され、それらに基づいて減衰係数の平均値が演算される。S20では、その平均値が表示される。
【0064】
図8に基づいて、近位輪郭に対する自動的フィッティングについて説明する。計測ライン上の強度分布54の解析により、近位輪郭(肝臓表面)の位置64が自動的に検出される。その位置64に基づいて、第1水平線の深さD1が自動的に決定される。深さD1及び固定値D12,D13に基づいて、第2水平線の深さD2及び第3水平線の深さD3が自動的に決定される。つまり、減衰計測区間47が自動的に設定される。必要に応じて、検査者の操作によりグラフィックが回転されてもよい。
【0065】
近位輪郭つまり肝臓表面の検出に当たって、閾値法が用いられてもよい。具体的には、強度分布54に基づいて閾値を特定し、プローブ側から強度を順次参照し、最初に閾値を下回った深さを肝臓表面深さとして判定してもよい。あるいは、二値化法が用いられてもよい。具体的には、肝臓像と周囲像とが区別されように断層画像を二値化し、これにより得られた二値化画像に基づいて肝臓表面深さが特定されてもよい。あるいは、微分法が用いられてもよい。具体的には、強度分布54を微分して微分波形を生成し、微分波形に沿って肝臓表面に相当する特徴点を探索することにより肝臓表面深さが特定されてもよい。
【0066】
第1水平線の自動的なフィッティングを行う場合、検査者の負担が軽減される。検査者は、肝臓像とグラフィックの空間的関係から、肝臓表面深さの検出や減衰計測区間の設定が正しく行われていることを確認できる。
【符号の説明】
【0067】
10 プローブ、16 画像形成部、18 表示処理部、24 計測区間設定部、26 グラフィック生成部、28 減衰係数演算部、36 肝臓像、38 グラフィック、42 第1水平線、44 第2水平線、46 第3水平線、47 減衰計測区間。