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特開2023-172304土留め構造、土留め構造解析プログラム、及び土留め構造構築方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172304
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】土留め構造、土留め構造解析プログラム、及び土留め構造構築方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/20 20060101AFI20231129BHJP
   E02D 3/02 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
E02D5/20 101
E02D5/20 102
E02D3/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084004
(22)【出願日】2022-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】上田 祥央
(72)【発明者】
【氏名】足立 有史
【テーマコード(参考)】
2D043
2D049
【Fターム(参考)】
2D043CA07
2D049GB05
2D049GB10
(57)【要約】
【課題】本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、作用土圧を適切に評価した土留め構造と、その構造を解析するプログラム、そして土留め構造を構築する方法を提供することである。
【解決手段】本願発明の土留め構造は、地盤改良によって構築される土留め構造であって、底版と土留め壁を備えたものである。このうち底版は、地盤内に形成される略水平(水平を含む)の版体であり、一方の土留め壁は、地中内に形成される略鉛直(鉛直を含む)の壁体である。なお、土留め壁の下端は、底版に剛接合される。そして底版の上載地盤を掘削すると、底版が上方に押し上げられるとともに、地盤には前記土留め壁によって背面側に押される力が作用する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤改良によって構築される土留め構造であって、
地盤内に形成される水平又は略水平の底版と、
地中内に形成される鉛直又は略鉛直の土留め壁と、を備え、
前記土留め壁の下端は、前記底版に剛接合され、
前記底版の上載地盤を掘削すると、該底版が上方に押し上げられるとともに、地盤には前記土留め壁によって背面側に押される力が作用する、
ことを特徴とする土留め構造。
【請求項2】
地盤改良によって構築される土留め構造を解析する機能を、コンピュータに実行させるプログラムであって、
前記土留め構造は、地盤内に形成される水平又は略水平の底版と、地中内に形成される鉛直又は略鉛直の土留め壁と、を有するとともに、該土留め壁の下端が該底版に剛接合され、
前記底版の形状と物性値を含む底版諸元、及び前記土留め壁の形状と物性値を含む土留め壁諸元を、設定する諸元設定処理と、
地盤と、前記底版諸元と前記土留め壁諸元に基づく前記土留め構造と、を含む構造モデルを設定するモデル設定処理と、
前記底版の上載地盤を載荷した初期状態から該上載地盤を除荷した掘削状態の前記構造モデルで応力変形解析を行うことによって、前記土留め壁の応力及び/又は変位を求める構造解析処理と、を前記コンピュータに実行させる機能を備え、
前記構造解析処理では、前記掘削状態において背面側から前記土留め壁に作用する背面土圧であって、該土留め壁が地盤を背面側に押す力が作用した該背面土圧に基づいて、前記土留め壁の応力及び/又は変位を求める、
ことを特徴とする土留め構造解析プログラム。
【請求項3】
前記構造解析処理は、前記上載地盤を段階的に除荷した複数段階の前記掘削状態の前記構造モデルで応力変形解析を行うことによって、それぞれの該掘削状態における前記土留め壁の応力及び/又は変位を求める、
ことを特徴とする請求項2記載の土留め構造解析プログラム。
【請求項4】
前記構造解析処理は、前記上載地盤の上に載置されるプレロード材が入力されると、該プレロード材を含む前記構造モデルを設定し、
前記構造解析処理は、前記上載地盤及び前記プレロード材を載荷した前記初期状態から該上載地盤及び該プレロード材を除荷した前記掘削状態の前記構造モデルで応力変形解析を行う、
ことを特徴とする請求項2又は請求項3記載の土留め構造解析プログラム。
【請求項5】
地盤内に形成される水平又は略水平の底版と、地中内に形成される鉛直又は略鉛直の土留め壁と、を有するとともに、該土留め壁の下端が該底版に剛接合された土留め構造を構築する方法であって、
前記土留め壁の形状と物性値を含む土留め壁諸元を、決定する構造諸元設計工程と、
地盤改良によって前記底版を形成する底版形成工程と、
前記構造諸元設計工程で決定された前記土留め壁諸元に基づく前記土留め壁を、地盤改良によって形成する土留め壁形成工程と、
前記底版の上載地盤を掘削する掘削工程と、を備え、
前記構造諸元設計工程は、
前記底版の形状と物性値を含む底版諸元、及び前記土留め壁諸元を、暫定的に設定する諸元設定工程と、
地盤と、前記底版諸元と前記土留め壁諸元に基づく前記土留め構造と、を含む構造モデルを設定するモデル設定工程と、
前記底版の上載地盤を載荷した初期状態から該上載地盤を除荷した掘削状態の前記構造モデルで応力変形解析を行うことによって、前記土留め壁の応力及び/又は変位を求めたうえで、該土留め壁諸元を決定する諸元決定工程と、を有し、
前記諸元決定工程では、前記掘削状態において背面側から前記土留め壁に作用する背面土圧であって、該土留め壁が地盤を背面側に押す力が作用した該背面土圧に基づいて、前記土留め壁の応力及び/又は変位を求める、
ことを特徴とする土留め構造構築方法。
【請求項6】
前記底版形成工程と前記土留め壁形成工程の前に、前記上載地盤の上にプレロード材を載置するプレロード工程を、さらに備え、
前記モデル設定工程では、前記プレロード材を暫定的に設定するとともに、該プレロード材を含む前記構造モデルを設定し、
前記諸元決定工程では、前記上載地盤及び前記プレロード材を載荷した前記初期状態から該上載地盤及び該プレロード材を除荷した前記掘削状態の前記構造モデルで応力変形解析を行うとともに、前記土留め壁の応力及び/又は変位を求めたうえで、前記プレロード材を決定し、
前記プレロード工程では、前記諸元決定工程で決定された量の前記プレロード材を載置する、
ことを特徴とする請求項5記載の土留め構造構築方法。
【請求項7】
前記土留め壁が、左土留め壁及び右土留め壁を含んで構成され、
前記土留め壁形成工程では、前記底版の左端で剛接合されるように前記左土留め壁を形成するとともに、該底版の右端で剛接合されるように前記右土留め壁を形成する、
ことを特徴とする請求項5又は請求項6記載の土留め構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、土留め構造に関する技術であり、より具体的には、掘削後における土留め構造の挙動を適切に把握することによって効率的かつ合理的に土留めを図ることができる土留め構造と、その構造を解析するプログラム、そして土留め構造を構築する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
我が国は、1959年の伊勢湾台風や、1995年の阪神・淡路大震災、2011年の東日本大震災など、度重なる災害によって甚大な被害を受けてきた。一方で、災害から得られた教訓を生かし、防災や減災、あるいは避難方法など種々の対策が講じられてきた。そして、「強さ」と「しなやかさ」を持った安全・安心な国土・地域・経済社会の構築を目指すべく、平成26年には「国土強靭化基本計画」が閣議決定されている。
【0003】
このような背景の下、効率的な対策の推進に向け、様々な工種においてより効率的で合理的な手法が求められている。土留め工法もその一つであり、これまで多くの経験が蓄積されていることから設計法についても既に一般化されているものの、施工性や安全性向上、工期短縮の観点からより効率的で合理的な手法が望まれている。特に切張り支保工を使用した土留め工法は、相当の施工手間や施工期間を要するため、災害時など迅速な対応が要請されるケースではこれに代わる効果的な手法が期待されている。
【0004】
そこで近年では、地盤改良体を利用した自立式土留めを適用することによって、土留め支保工を用いない土留め工法が実用化されるようになった。例えば特許文献1では、撹拌混合装置の撹拌翼の一部からセメント系固化材を吐出することで柱列状の改良体を構築し、しかも改良体の上部から載荷するいわゆるプレロードを行う技術について提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10-292364
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、地盤改良体を利用した自立式土留め工法としては、特許文献1のように土留め壁のみからなる構造のほか、底版と土留め壁からなる構造も採用されている。従来の設計では、土留め壁のみからなる構造ではもちろん、底版と土留め壁からなる構造であっても、地盤の掘削後に土留め壁に作用する土圧(主に主働土圧)は、側方(地盤側)からのみを考慮していた。しかしながら、底版の上方の地盤(以下、「上載地盤」という。)を掘削すると、土留め壁に土圧が作用するのみならず、底版にも構造的な影響が及ぶ。具体的には、上載地盤が取り除かれるため、底版は載荷状態から掘削状態に変化する。
【0007】
本願発明の発明者らは、この載荷状態から掘削状態に変化するいわば「リバウンド」が、土留め壁の挙動にも影響を及ぼすことに着目した。すなわち、底版の上載地盤を掘削すると、それまで載荷されていた荷重(上載地盤の自重)が除荷されることに伴って底版には鉛直上向きの荷重が作用し、さらに土留め壁と底版が剛接合(曲げモーメントを伝達する接合)であればこの土留め壁は背面側(地盤側)に倒れ込むような挙動を見せる。そして、背面側に傾斜した土留め壁が土圧に抵抗する力を地盤に与えるため、従来の設計で採用していた土圧は、実際には土留め壁による抵抗力によって低減される。つまり、底版と土留め壁からなる構造に関して言えば、側方土圧のみ対象としていた従来の設計思想ではその構造諸元(形状や強度など)が過大となっていたわけである。
【0008】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、作用土圧を適切に評価した土留め構造と、その構造を解析するプログラム、そして土留め構造を構築する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は、底版のリバウンドに伴う土留め壁の挙動を考慮した外力(主に土圧)を求めることによって、効率的かつ合理的な土留め構造を実現する、という点に着目してなされたものであり、これまでにない発想に基づいて行われた発明である。
【0010】
本願発明の土留め構造は、地盤改良によって構築される土留め構造であって、底版と土留め壁を備えたものである。このうち底版は、地盤内に形成される略水平(水平を含む)の版体であり、一方の土留め壁は、地中内に形成される略鉛直(鉛直を含む)の壁体である。なお、土留め壁の下端は、底版に剛接合される。そして底版の上載地盤を掘削すると、底版が上方に押し上げられるとともに、地盤には土留め壁によって背面側に押される力が作用する。
【0011】
本願発明の土留め構造解析プログラムは、本願発明の土留め構造の挙動を解析する機能をコンピュータに実行させるプログラムであって、諸元設定処理とモデル設定処理、構造解析処理をコンピュータに実行させる機能を備えたものである。このうち諸元設定処理は、底版諸元(底版の形状と物性値を含む)と土留め壁諸元(土留め壁の形状と物性値を含む)を設定する処理であり、モデル設定処理は、地盤と土留め構造(底版諸元と土留め壁諸元)を含む構造モデルを設定する処理である。また構造解析処理は、初期状態(底版の上載地盤を載荷した状態)から掘削状態(上載地盤を除荷した状態)の構造モデルで応力変形解析を行うことによって、土留め壁の応力や変位を求める処理である。なお、構造解析処理では、掘削状態において背面側から土留め壁に作用する「背面土圧」であって、土留め壁が地盤を背面側に押す力が作用した背面土圧に基づいて、土留め壁の応力や変位を求める。
【0012】
本願発明の土留め構造解析プログラムは、上載地盤を段階的に除荷した掘削状態を想定した処理をコンピュータに実行させることもできる。この場合の構造解析処理は、上載地盤を段階的に除荷した複数段階の掘削状態の構造モデルで応力変形解析を行うことによって、それぞれの掘削状態における土留め壁の応力や変位を求める処理とされる。
【0013】
本願発明の土留め構造解析プログラムは、プレロード材を含むモデルを想定した処理をコンピュータに実行させることもできる。この場合のモデル設定処理は、上載地盤の上に載置されるプレロード材が入力されると、そのプレロード材を含む構造モデルを設定する処理とされる。また構造解析処理は、上載地盤とプレロード材を載荷した初期状態から上載地盤とプレロード材を除荷した掘削状態の構造モデルで応力変形解析を行う処理とされる。
【0014】
本願発明の土留め構造構築方法は、本願発明の土留め構造を構築する方法であって、構造諸元設計工程と底版形成工程、土留め壁形成工程、掘削工程を備えた方法である。このうち構造諸元設計工程では、土留め壁諸元(土留め壁の形状と物性値を含む)を決定し、底版形成工程では、地盤改良によって底版を形成し、土留め壁形成工程では、構造諸元設計工程で決定された土留め壁諸元に基づく土留め壁を地盤改良によって形成する。そして掘削工程では、底版の上載地盤を掘削する。また構造諸元設計工程は、諸元設定工程とモデル設定工程、諸元決定工程を有する工程である。このうち諸元設定工程では、底版諸元(底版の形状と物性値を含む)と土留め壁諸元を暫定的に設定し、モデル設定工程では、地盤と土留め構造(底版諸元と土留め壁諸元)を含む構造モデルを設定する。また諸元決定工程では、初期状態(底版の上載地盤を載荷した状態)から掘削状態(上載地盤を除荷した状態)の構造モデルで応力変形解析を行うことによって、土留め壁の応力や変位を求めたうえで土留め壁諸元を決定する。なお諸元決定工程では、掘削状態において背面側から土留め壁に作用する「背面土圧」であって、土留め壁が地盤を背面側に押す力が作用した背面土圧に基づいて、土留め壁の応力や変位を求める。
【0015】
本願発明の土留め構造構築方法は、プレロード工程をさらに有する方法とすることもできる。このプレロード工程では、底版形成工程と土留め壁形成工程が行われる前に、上載地盤の上にプレロード材を載置する。この場合、モデル設定工程では、プレロード材を暫定的に設定するとともにプレロード材を含む構造モデルを設定する。また諸元決定工程では、上載地盤とプレロード材を載荷した初期状態から上載地盤とプレロード材を除荷した掘削状態の構造モデルで応力変形解析を行うとともに、土留め壁の応力や変位を求めたうえで、プレロード材を決定する。そしてプレロード工程では、諸元決定工程で決定された量のプレロード材を載置する。
【0016】
本願発明の土留め構造構築方法は、土留め壁が左土留め壁と右土留め壁を含んで構成される本願発明の土留め構造を構築する方法とすることもできる。この場合、土留め壁形成工程では、底版の左端で剛接合されるように左土留め壁を形成するとともに、底版の右端で剛接合されるように右土留め壁を形成する。
【発明の効果】
【0017】
本願発明の土留め構造、土留め構造解析プログラム、及び土留め構造構築方法には、次のような効果がある。
(1)従来では側方からの土圧のみによる壁体の変形を考慮して設計していたため、過大な諸元(壁厚や強度など)の土留め構造が計画される傾向にあった。これに対して本願発明は、「リバウンドによる反力」を利用して壁体の応力と変形を考慮して設計することから、適正な諸元の土留め構造を計画することができる。
(2)上載地盤の除荷によるリバウンド効果が乏しいときは、プレロード材を載置することによって所望のリバウンド効果を実現することができる。換言すれば、底版の寸法や形状、あるいは掘削深さに応じて、柔軟にプレロード効果を調整することができる。
(3)切張り支保工を使用することなく土留め構造を構築することができることから、災害時など迅速な対応が要請されるケースでも採用することができ、また施工にかかる期間やコストも低減することができる。さらに十分な作業空間を確保することができるため、施工性や安全性も向上する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】(a)は上載地盤を掘削する前の状態の両壁形式を模式的に示す断面図、(b)は上載地盤を掘削した後に構造物を構築した状態の両壁形式を模式的に示す断面図。
図2】4方向の背面土圧を支持する土留め構造を模式的に示す上方から見た平面図。
図3】(a)は上載地盤を掘削する前の状態の単独壁形式を模式的に示す断面図、(b)は上載地盤を掘削した後に構造物を構築した状態の単独壁形式を模式的に示す断面図。
図4】(a)は上載地盤の掘削に伴って変形した両壁形式の土留め構造を模式的に示す断面図、(b)は上載地盤の掘削に伴って変形した単独壁形式の土留め構造を模式的に示す断面図。
図5】「リバウンドによる反力」と従来設計荷重とされていた「背面土圧」、ならびに掘削状態におけるリバウンドによる反力を考慮した「反力作用背面土圧」の関係を模式的に示すモデル図。
図6】本願発明の土留め構造解析プログラムの主な処理の流れを示すフロー図。
図7】本願発明の土留め構造構築方法の主な工程を示すフロー図。
図8】本願発明の土留め構造構築方法の主な工程を示すステップ図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本願発明の土留め構造、土留め構造解析プログラム、及び土留め構造構築方法の実施の例を図に基づいて説明する。
【0020】
1.土留め構造
はじめに本願発明の土留め構造について、図を参照しながら詳しく説明する。なお、本願発明の土留め構造解析プログラムは、本願発明の土留め構造を解析するためのプログラムであり、また本願発明の土留め構造構築方法は、本願発明の土留め構造を構築する方法である。したがって、まずは本願発明の土留め構造について説明し、その後に本願発明の土留め構造解析プログラムと土留め構造構築方法について説明することとする。
【0021】
図1は、本願発明の土留め構造100を模式的に示す断面図(鉛直面で切断)であり、(a)は上載地盤UGを掘削する前の状態(以下、「初期状態」という。)を示し、(b)は上載地盤UGを掘削した状態(以下、「掘削状態」という。)であって構造物STを構築した状態を示している。この図に示すように本願発明の土留め構造100は、概ね鉛直(鉛直を含む)となる土留め壁110と、概ね水平(水平を含む)となる底版120を含んで構成される。ただし、土留め壁110と底版120は剛接合(曲げモーメントを伝達する接合)とされる。また土留め構造100は、図1(a)に示すように当初は地盤内に形成される構造とされ、すなわち土留め壁110と底版120は地盤内に形成され、底版120の上方には「上載地盤UG」が残った状態とされる。なお「上載地盤UG」とは、既述したとおり底版120の上方の地盤のことであり、最終的には図1(b)に示すように掘削除去される地盤である。
【0022】
土留め壁110と底版120を地盤内に形成するにあたっては、地盤改良の技術を利用するとよい。地盤改良は、例えばセメント系などの固化材や改良材(以下、これらを総称して「添加材」という。)と原位置土を攪拌混合することによって、地盤内に改良体を形成する技術であり、つまりその改良体を土留め壁110や底版120とするわけである。地盤改良としては、土留め壁110や底版120を形成することができれば、機械攪拌や高圧噴射など従来用いられている種々の工法を採用することができ、例えば「WILL工法(登録商標)」を採用することもできる。
【0023】
WILL工法は、スラリー状の固化材や改良材(つまり、添加材)と原位置土を攪拌混合することによって改良体を形成する工法である。より具体的には、ベースマシン(バックホウなど)に設けられたロッドを地盤内に挿入し、そのロッド先端に取り付けられた攪拌翼から添加材を注入するとともに、添加材と原位置土を攪拌混合して改良体を形成する。例えば底版120を形成するには、計画深さに到達するまでロッドで地盤を削孔し、添加材を注入しながら原位置土を攪拌混合していく。このとき、底版120として計画された肉厚や範囲(つまり形状)となるように、しかも計画された添加量で、添加材を注入して攪拌する。なお、上載地盤UGを削孔している間は、添加材を注入しなくてもよいし、貧配合の添加材を注入して攪拌することもできる。同様に、土留め壁110を形成するには、土留め壁110として計画された肉厚や範囲(つまり形状)となるように、しかも計画された添加量で、添加材を注入して原位置土を攪拌混合していく。
【0024】
図1に示す土留め構造100は、底版120の左端に土留め壁110(以下、特に「左土留め壁110L」という。)が剛接合され、また底版120の右端にも土留め壁110(以下、特に「右土留め壁110R」という。)が剛接合されている。このように底版120の左右端に土留め壁110が剛接合された土留め構造100のことを、便宜上ここでは「両壁式の土留め構造100」ということとする。両壁式の土留め構造100の場合、上載地盤UGが掘削されると、その掘削に伴い掘削側から土留め壁110に作用する土圧(以下、「前面土圧」という。)が低減する結果、背面側(図では左側)から左土留め壁110Lに作用する土圧(以下、単に「背面土圧」という。)が優勢となり、同様に、右土留め壁110Rに作用する背面土圧が優勢となる。そして、左土留め壁110Lと右土留め壁110R、これらに剛接合された底版120によって背面土圧が支えられ、両壁式の土留め構造100の内部(掘削側)に安定して構造物STを構築することができる。
【0025】
図1に示す両壁式の土留め構造100は、底版120に左土留め壁110Lと右土留め壁110Rが剛接合された構造であって、同一の鉛直面内に作用する2方向の背面土圧を支持する構造である。両壁式の土留め構造100は、このように2方向(図1では紙面上の左右方向)の背面土圧を支持する構造に限らず、図2に示すように4方向(図2では紙面上の左右上下方向)の背面土圧を支持する構造とすることもできる。図2は、4方向の背面土圧を支持する土留め構造100を模式的に示す上方から見た平面図である。この場合、底版120が平面視で四角形であれば、その四角形を構成する全ての辺に土留め壁110が剛接合された構造とされる。このとき、隣接する土留め壁110どうしも剛接合した構造とすることもできるし、土留め壁110どうしは剛接合しない構造とすることもできる。
【0026】
本願発明の土留め構造100は、両壁式の土留め構造100とする場合に限らず、図3に示すように底版120の一方端にのみ土留め壁110が剛接合された構造とすることもできる。このように底版120の一方端にのみ土留め壁110が剛接合された土留め構造100のことを、便宜上ここでは「単独壁式の土留め構造100」ということとする。図3は、単独壁式の土留め構造100を模式的に示す断面図(鉛直面で切断)であり、(a)は上載地盤UGを掘削する前の初期状態を示し、(b)は上載地盤UGを掘削した掘削状態であって構造物STを構築した状態を示している。なお図3では、左右に2個所に単独壁式の土留め構造100を配置しているが、一方側だけ土留めを行うときは当然ながら1箇所に単独壁式の土留め構造100を配置するとよい。また、図2に示すように4方向の土留めを行うときは、4箇所に単独壁式の土留め構造100を配置するとよい。
【0027】
図3に示す単独壁式の土留め構造100の場合、上載地盤UGが掘削されると、その掘削に伴い土留め壁110に作用する前面土圧が低減する結果、土留め壁110に作用する背面土圧が優勢となる。そして、土留め壁110とこれに剛接合された底版120によって背面土圧が支えられ、単独壁式の土留め構造100の内部(掘削側)に安定して構造物STを構築することができる。なお、土留め壁110には掘削前(つまり、初期状態)から背面土圧が作用しており、さらに掘削後(つまり、掘削状態)も背面土圧が作用し続けており、その状態で壁体変位が生じないように設計する。
【0028】
図4は、上載地盤UGの掘削に伴って変形した土留め構造100を模式的に示す断面図であり、(a)は 両壁式の土留め構造100の場合、(b)は 単独壁式の土留め構造100の場合をそれぞれ示している。本願発明の土留め構造100は、構築したときには底版120上に上載地盤UGが載置されており、すなわち底版120とその下方の地盤(以下、「支持地盤」という。)は上載地盤UGの自重(以下、単に「上載荷重」という。)が載荷されている状態である。一方、上載地盤UGが掘削されると、換言すれば底版120上から上載地盤UGが取り除かれると、底版120と支持地盤はそれまでの上載荷重が除荷された状態となる。そして、上方からの上載荷重が除荷された結果、支持地盤が底版120を押し上げようとする鉛直上向きの力(以下、「リバウンド力」という。)が作用するいわゆるリバウンド状態とされる。
【0029】
例えば図4(a)に示す両壁式の土留め構造100の場合、リバウンド力によって底版120が上に凸となる形状とされ、底版120が内側(掘削側)に寄せられるように変形している。また、リバウンド力による底版120の変形に伴って、底版120に剛接合された土留め壁110が背面側に傾斜するように変形している。具体的には、左土留め壁110Lが図の左側に傾斜するように、右土留め壁110Rが図の右側に傾斜するように変形する。
【0030】
また図4(b)に示す単独壁式の土留め構造100の場合、リバウンド力によって底版120が上方に回転するように変位し、底版120が内側(掘削側)に寄せられるように変位している。また、リバウンド力による底版120の回転に伴って、底版120に剛接合された土留め壁110が背面側に傾斜するように回転している。具体的には、図の左側の土留め壁110が反時計回りに回転するように傾斜し、図の右側の土留め壁110が時計回りに回転するように傾斜する。
【0031】
このように土留め壁110が背面側に傾斜すると、土留め壁110がその背面側の地盤(以下、単に「背面地盤」という。)を押し付ける状態となり、その結果、地盤は背面側に変位することとなる。例えば、背面地盤に相当のバネ定数を設定することができれば、その変位量とバネ定数に基づいて背面地盤に作用する力、つまり土留め壁110が背面地盤を押し付ける力(以下、「リバウンドによる反力」という。)を求めることもできる。いずれにしろ背面地盤には、土留め壁110の傾斜に伴うリバウンドによる反力が作用することとなる。
【0032】
ところでこのリバウンドによる反力は、図5に示すように背面地盤が土留め壁110に与える土圧(主働土圧や静止土圧)に対抗する方向に作用する。図5は、「リバウンドによる反力」と、従来設計荷重とされていた「背面土圧」、そして掘削状態におけるリバウンドによる反力を考慮した背面土圧の関係を模式的に示すモデル図である。なお便宜上ここでは、掘削状態において生じたリバウンドによる反力を考慮した背面土圧のことを、特に「反力作用背面土圧」ということとする。従来、土留めの変位や強度を検討するいわゆる構造設計を行うにあたっては、掘削高さと地盤の諸元(単位体積重量や内部摩擦角、あるいは粘着力)、地下水位などを条件として算出される背面土圧を用いていた。しかしながら、本願発明の土留め壁110の場合、図5に示すように実際には「リバウンドによる反力」が作用しており、したがってこのリバウンドによる反力を考慮した反力作用背面土圧で構造設計を行うことが合理的であって、すなわち背面土圧とリバウンドによる反力がバランスするように構造設計を行うことが合理的である。このように本願発明の土留め壁110は、リバウンドによる反力を考慮した反力作用背面土圧を用いて構造設計を行うことができ、その結果、過大設計を回避することによって経済的な土留め工を実現することができるわけである。
【0033】
2.土留め構造解析プログラム
次に本願発明の土留め構造解析プログラムについて、図を参照しながら詳しく説明する。なお、本願発明の土留め構造解析プログラムは、ここまで説明した土留め構造100を解析するためのプログラムであり、したがって土留め構造100で説明した内容と重複する説明は避け、本願発明の土留め構造解析プログラムに特有の内容のみ説明することとする。すなわち、ここに記載されていない内容は、「1.土留め構造」で説明したものと同様である。
【0034】
本願発明の土留め構造解析プログラムは、本願発明の土留め構造100を解析するためのプログラムであって、諸元設定処理とモデル設定処理、土圧算出処理、構造解析処理をコンピュータに実行させる機能を備えたものである。ここでコンピュータとは、CPU等のプロセッサ、ROMやRAMといったメモリ、マウスやキーボード等の入力手段やディスプレイを具備するもので、パーソナルコンピュータ(PC)や、iPad(登録商標)といったタブレット型PC、スマートフォンを含む携帯端末などを利用することができる。
【0035】
以下、本願発明の土留め構造解析プログラムの主な処理の流れについて図6を参照しながら説明する。図6は、本願発明の土留め構造解析プログラムの主な処理の流れを示すフロー図であり、中央の列に実施する処理を示し、左列にはその処理に必要な情報等を、右列にはその処理から生ずる情報等を示している。
【0036】
はじめに、オペレータが入力操作を行うことによって、土留め壁110を形成するための諸元(以下、特に「土留め壁諸元」という。)と、底版120を形成するための諸元(以下、特に「底版諸元」という。)を設定する(図6のStep201)。ただし、ここで設定する底版諸元と土留め壁諸元は、あくまで暫定的な値であって、土留め壁110や底版120の構造解析を実行して照査した後に最終的に確定される。なお土留め壁諸元には、土留め壁110の形状(肉厚や高さ、幅といった寸法など)と、土留め壁110の物性値(密度や強度、弾性係数など)が含まれ、さらに添加材の種類や添加量(単位当たりの注入量など)を含めることもできる。同様に、底版諸元には、底版120の形状(肉厚や幅、奥行きといった寸法など)と、底版120の物性値(密度や強度、弾性係数など)が含まれ、さらに添加材の種類や添加量(単位当たりの注入量など)を含めることもできる。
【0037】
底版諸元と土留め壁諸元を設定すると、地盤と、地盤内に形成される土留め構造100によって、数値解析用のモデル(以下、「構造モデル」という。)を設定する(図6のStep202)。構造モデルを構成する土留め構造100は、当然ながら事前に設定された底版諸元と土留め壁諸元に基づく構成とされる。またオペレータが入力操作を行うことによって、地盤の各要素、すなわち地表面の形状や各地層の形状(層厚を含む)、各地層の地盤パラメータなどを設定する。ここで地盤パラメータとしては、単位体積重量や変形係数、粘着力、内部摩擦角、初期間隙比、圧縮指数、膨張指数、ダイレイタンシー係数などが挙げられる。
【0038】
既述したように、初期状態(上載地盤UGを掘削する前の状態)から掘削状態(上載地盤UGを掘削した状態)にされると、底版120を押し上げようとするリバウンド力が作用し、土留め壁110が傾斜することによって背面地盤にリバウンドによる反力を与える。そして、上載地盤UGによる上載荷重が大きいほど、リバウンド力が大きくなってリバウンドによる反力も大きくなり、背面土圧とリバウンドによる反力との差が小さくなる。そのため、掘削高さ(つまり、上載荷重の厚さ)が小さいと、リバウンドによる反力も小さくなって背面土圧に対する抵抗力が十分に得られないこともある。このような場合、上載地盤UGの上方に重量物(以下、「プレロード材」という。)を配置することとし、すなわちプレロードを設定するとよい。具体的には、オペレータがプレロード材の載置量や単位体積重量、載置形状(範囲や層厚)などを入力し、そのプレロード材を含む構造モデルを設定する。なお、プレロード材としては、盛土材のほか、コンクリート製や鋼製の重錘(ウェイト)などが挙げられる。
【0039】
構造モデルを設定すると、その構造モデルを用いて初期状態における数値解析を行う(図6のStep203)。この数値解析は、地盤の応力分布や変形を求めることができる解析(以下、「応力変形解析」という。)であって、有限要素法(FEM:Finite Element Method)や、バネ定数を用いたモデルで解析する手法など、従来用いられている種々の解析手法を採用することができる。なお初期状態の応力変形解析は、地盤内に土留め構造100が形成された状態(以下、「形成後初期状態」という。)のみで行うこともできるし、地盤内に土留め構造100が形成される前の状態(以下、「形成前初期状態」という。)と形成後初期状態で行うこともできる。もちろん、構造モデルがプレロード材を含んで設定されたときは、形成前初期状態、形成後初期状態ともにそれぞれプレロード材を含む構造モデルで解析される。
【0040】
初期状態の構造モデルで応力変形解析を行うと、次いで掘削状態の構造モデルで応力変形解析を行う(図6のStep204)。もちろん初期状態と掘削状態の応力変形解析は、同じ解析手法(例えば、FEMなど)で行われる。なお掘削状態の応力変形解析は、最終掘削された状態のみを掘削状態として行うこともできるし、段階的に掘削(例えば、GL-2.5mとGL-4.0m、GL-6.0mなど)した状態を設定したうえでそれぞれの掘削状態で行うこともできる。もちろん、構造モデルがプレロード材を含んで設定されたときは、上載地盤UGとともにプレロード材が取り除かれた掘削状態の構造モデルで解析される。
【0041】
初期状態の構造モデルで応力変形解析を行い、掘削状態の構造モデルで応力変形解析(例えば、バネ定数を用いたモデルで解析など)を行うと、掘削状態における地盤や土留め構造100の応力度(応力分布)や変位量(変位分布)が得られ、すなわち土留め壁110に作用する背面土圧(土圧分布)を求めることができる。もちろん、段階的な掘削状態の構造モデルを設定した場合は、それぞれの掘削状態における背面土圧が求められる。
【0042】
一方、FEMによって解析を行う場合、掘削状態の構造モデルで応力変形解析を行うと、土留め壁110と底版120の応力度や変位量であって、反力作用背面土圧に基づく応力度や変位量が得られる。このとき、段階的な掘削状態の構造モデルを設定した場合は、それぞれの掘削状態において応力度や変位量が得られる。具体的には、設定された底版諸元と土留め壁諸元に基いて、土留め壁110の変位量(変位分布)や応力度(応力分布)が算出されるとともに、底版120の変位量(変位分布)や応力度(応力分布)が算出される。
【0043】
土留め壁110と底版120の応力度や変位量が得られると、その結果(つまり、応力度や変位量)について照査を行う(図6のStep205)。このとき、段階的な掘削状態の構造モデルを設定した場合は、それぞれの掘削状態において照査を行うとよい。具体的には、土留め壁110と底版120の応力度や変位量を、あらかじめ定めた許容値(あるいは許容範囲)と照らし合わせ、設定された底版諸元と土留め壁諸元に基づく土留め構造100の適否を判定する。そして、応力度や変位量が許容値未満(あるいは許容範囲内)であれば(図6のStep205のYes)、その底版諸元と土留め壁諸元を確定する(図6のStep206)。一方、応力度や変位量が許容値以上(あるいは許容範囲外)であれば(図6のStep205のNo)、底版諸元や土留め壁諸元を変更したうえで、あるいはプレロード材に関する諸値(載置量や単位体積重量など)を変更したうえで、一連の処理(図6のStep201~Step205)を繰り返し実行する。
【0044】
3.土留め構造構築方法
続いて、本願発明の土留め構造構築方法ついて、図を参照しながら詳しく説明する。なお、本願発明の土留め構造構築方法は、ここまで説明した土留め構造100を構築する方法であり、したがって土留め構造100や土留め構造解析プログラムで説明した内容と重複する説明は避け、本願発明の土留め構造構築方法に特有の内容のみ説明することとする。すなわち、ここに記載されていない内容は、「1.土留め構造」や「2.土留め構造解析プログラム」で説明したものと同様である。
【0045】
図7は、本願発明の土留め構造構築方法の主な工程を示すフロー図であり、図8は、本願発明の土留め構造構築方法の主な工程を示すステップ図である。この図に示すように本願発明の土留め構造構築方法は、土留め構造100の諸元(特に、底版諸元と土留め壁諸元)を設計する「構造諸元設計」と、実際に土留め構造100を構築する「実施工」に大別することができる。このうち構造諸元設計は、本願発明の土留め構造解析プログラムを利用して実施することができる。
【0046】
構造諸元設計においては、まず底版諸元と土留め壁諸元を設定し(図7のStep311)、ついで構造モデルを設定する(図7のStep312)。このとき、プレロード材を含む構造モデルを設定することができることは既述したとおりである。構造モデルを設定すると、初期状態の構造モデルで応力変形解析を行うとともに、掘削状態の構造モデルで応力変形解析を行うことによって、土留め壁110と底版120の応力度や変位量であって、反力作用背面土圧に基づく応力度や変位量を算出する(図7のStep313)。そして、その応力度や変位量を許容値(あるいは許容範囲)と照らし合わせることによって、設定された底版諸元と土留め壁諸元に基づく土留め構造100の適否を判定する。そして、最終的な土留め構造100の諸元(特に、底版諸元と土留め壁諸元)を決定する(図7のStep314)。
【0047】
実施工では、構造諸元設計で決定された諸元に基づく土留め構造100を構築する。構造諸元設計においてプレロード材が設定されているときは、図8(a)に示すようにまずは上載地盤UGの上面にプレロード材PLを載置する(図7のStep321)。そしてWILL工法などの地盤改良技術を用いて、図8(b)に示すように地盤内に底版120を形成するとともに(図7のStep322)、図8(c)に示すように地盤内に土留め壁110を形成する(図7のStep323)。なお、底版120から土留め壁110の順で形成することもできるし、土留め壁110から底版120の順や、土留め壁110と底版120を同時に形成することもできる。土留め壁110と底版120を形成し、さらに所定の養生期間が経過すると、図8(d)に示すように土留め構造100内の上載地盤UGを掘削する(図7のStep324)。なお、WILL工法などの機械攪拌式の地盤改良を適用する場合は、底版120の上部(すなわち掘削部)は固化材を添加しないで行うか添加量を貧配合とすることができる。また、高圧噴射攪拌工法や薬液注入工法を用いることで底版120のみを改良土に置き換える方法も適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本願発明の土留め構造、土留め構造解析プログラム、及び土留め構造構築方法は、地下構造物を構築するときの土留め工や、擁壁や橋台などの基礎を構築するときの土留め工、斜面の下部を掘削するときの土留め工など、土留めを必要とする様々な場面で利用することができる。本願発明によれば、効率的かつ合理的な土留め工を実現し、すなわち国が進める「国土強靭化」に寄与することを考えれば、本願発明は産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献が期待できる発明といえる。
【符号の説明】
【0049】
100 本願発明の土留め構造
110 (土留め構造の)土留め壁
110L (土留め構造の)左土留め壁
110R (土留め構造の)右土留め壁
120 (土留め構造の)底版
PL プレロード材
ST 構造物
UG 上載地盤
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8