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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172313
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】地層厚推定方法
(51)【国際特許分類】
   G01V 1/00 20060101AFI20231129BHJP
【FI】
G01V1/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084018
(22)【出願日】2022-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 彩
(72)【発明者】
【氏名】竹林 健一
(72)【発明者】
【氏名】岩本 賢治
(72)【発明者】
【氏名】緒方 誠二郎
(72)【発明者】
【氏名】桜庭 和子
(72)【発明者】
【氏名】安藤 啓
【テーマコード(参考)】
2G105
【Fターム(参考)】
2G105AA02
2G105BB01
2G105DD02
2G105EE02
2G105LL03
2G105LL04
2G105LL05
2G105LL06
2G105NN01
(57)【要約】
【課題】地盤の表層の厚さを簡易な方法で取得する。
【解決手段】地層厚推定方法は、加振源によって複数の周波数の振動を地盤に発生させるステップと、加振源からの距離が異なる地盤上の二つの測定地点において振動を測定するステップと、二つの測定地点における振動の位相差と二つの測定地点の間の距離とから振動の伝播速度を周波数ごとに算出し、伝播速度の変化が所定値以下となる定速度周波数領域を抽出し、当該定速度周波数領域における伝播速度に基づいて表層伝播速度を取得するステップと、加振源によって地盤に加えられる単位加振力あたりの変位応答を算出し、変位応答の極大値のうち所定の判定条件を満たす極大値を変位応答の局所的ピーク値として取得し、当該局所的ピーク値となる周波数をピーク周波数として取得するステップと、ピーク周波数によって表層伝播速度を除して算出した波長に基づいて地盤の表層の厚さを推定するステップと、を含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤の地層の厚さを推定する地層厚推定方法であって、
加振源によって複数の周波数の振動を前記地盤に発生させるステップと、
前記加振源からの距離が異なる前記地盤上の二つの測定地点において前記振動を測定するステップと、
二つの前記測定地点における前記振動の位相差と二つの前記測定地点の間の距離とから前記振動の伝播速度を周波数ごとに算出し、前記伝播速度の変化が所定値以下となる定速度周波数領域を抽出し、当該定速度周波数領域における前記伝播速度に基づいて表層伝播速度を取得するステップと、
前記加振源によって前記地盤に加えられる単位加振力あたりの変位応答を算出し、前記変位応答の極大値のうち所定の判定条件を満たす前記極大値を前記変位応答の局所的ピーク値として取得し、当該局所的ピーク値となる周波数をピーク周波数として取得するステップと、
前記ピーク周波数によって前記表層伝播速度を除して算出した波長に基づいて前記地盤の表層の厚さを推定するステップと、を含む、
ことを特徴とする地層厚推定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の地層厚測定方法であって、
前記測定地点の前記位相差が、π/2となる周波数における前記変位応答が前記極大値である場合には、前記判定条件を満たすか否かに関わらず、当該極大値を前記局所的ピーク値として取得する、
ことを特徴とする地層厚推定方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の地層厚測定方法であって、
前記局所的ピーク値が2以上取得される場合には、
前記表層伝播速度を取得するステップでは、最も周波数が高い前記定速度周波数領域における前記伝播速度に基づいて前記表層伝播速度が取得され、
前記地盤の前記表層の厚さを推定するステップでは、前記局所的ピーク値から取得した前記ピーク周波数のうち最も高い前記ピーク周波数によって前記表層伝播速度を除して算出した波長に基づいて前記表層の厚さを推定し、
前記地層厚測定方法は、
前記定速度周波数領域のうち2番目に周波数が高い前記定速度周波数領域における前記伝播速度に基づいて第3層伝播速度を取得するステップと、
前記局所的ピーク値から取得した前記ピーク周波数のうち2番目に高い前記ピーク周波数によって前記第3層伝播速度を除すことで算出される波長に基づいて、前記地盤の第3層の厚さを推定するステップと、さらに含む、
ことを特徴とする地層厚推定方法。
【請求項4】
請求項3に記載の地層厚推定方法であって、
前記表層伝播速度及び前記第3層伝播速度の両方よりも大きな速度を、前記表層と前記第3層との間の第2層における前記伝播速度として推定するステップと、
最も高い前記ピーク周波数によって前記第2層における前記伝播速度を除して算出した波長に基づいて、前記第2層の厚さを推定するステップと、をさらに含む、
ことを特徴とする地層厚推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤の地層の厚さを推定する地層厚推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、地面に設置された起震機により所定の周波数の波を発生させ、この波の伝播時間を起震機から一直線上の地面に設置された複数個の震動検出器で検出すると共に、波が各震動検出器間を伝播する時間と各震動検出器間の距離から演算器により波の伝播速度を求め、それらの値から地盤構造の構成層毎の層厚及び層質を推定する方法が開示されている。
【0003】
この方法では、起震機に出し入れ自在に収納され且つ電気回路の開閉スイッチを有するケーブルを、起震機と各震動検出器との間を一直線に出し入れして移動させながら、各震動検出器が設置されている位置でケーブルの開閉スイッチを閉じ、その電気信号と起震機に付設されケーブルの移動を検出するエンコーダの信号から演算器により各震動検出器間の距離を求めている。これにより、振動検出器間の距離を正確に測定するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-101876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の方法では、検出器間の距離を正確に測定して地盤構造を詳細に推定するために、多数のセンサ、電気回路の開閉スイッチを設けたケーブルなどの種々の構成を備えた装置によって振動を測定しており、装置が大掛かりになる。また、振動検出器間の距離を測定するのに多大な工数を要する。
【0006】
一方、地盤構造の解析モデルを作成するにあたっては、地盤の表層の性質が支配的である。このため、地盤の表層の性質、特に層厚を簡易に推定する方法が望まれている。
【0007】
本発明は、地盤の表層の厚さを簡易な方法で取得することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、地盤の地層の厚さを推定する地層厚推定方法であって、加振源によって複数の周波数の振動を地盤に発生させるステップと、加振源からの距離が異なる地盤上の二つの測定地点において振動を測定するステップと、二つの測定地点における振動の位相差と二つの測定地点の間の距離とから振動の伝播速度を周波数ごとに算出し、伝播速度の変化が所定値以下となる定速度周波数領域を抽出し、当該定速度周波数領域における伝播速度に基づいて表層伝播速度を取得するステップと、加振源によって地盤に加えられる単位加振力あたりの変位応答を算出し、変位応答の極大値のうち所定の判定条件を満たす極大値を変位応答の局所的ピーク値として取得し、当該局所的ピーク値となる周波数をピーク周波数として取得するステップと、ピーク周波数によって表層伝播速度を除して算出した波長に基づいて地盤の表層の厚さを推定するステップと、を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、地盤Gの表層の厚さを簡易な方法で取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る推定システムの概略図である。
図2】本発明の実施形態に係る地層厚推定方法の手順を示すフローチャートである。
図3】本発明の実施形態に係る地盤を伝播する振動の周波数と単位加振力当たりの変位応答との関係を示すグラフ図である。
図4】本発明の実施形態に係る地盤を伝播する振動の周波数と2つの測定地点間の位相差との関係を示すグラフ図である。
図5】本発明の実施形態に係る地盤を伝播する振動の周波数と伝播速度との関係を示すグラフ図である。
図6】本発明の実施形態の変形例に係る地層厚推定方法の手順を示すフローチャートである。
図7】本発明の実施形態の変形例に係る地盤を伝播する振動の周波数と単位加振力当たりの変位応答との関係を示すグラフ図である。
図8】本発明の実施形態の変形例に係る地盤を伝播する振動の周波数と伝播速度との関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る地層厚推定方法及び地層厚推定システム100について説明する。
【0012】
地層厚推定システム100(以下、単に「推定システム100」とも称する。)は、地盤Gに対して振動を発生させる加振源10と、加振源10による加振位置から所定の距離だけ離れた測定地点において地盤Gの振動を測定する複数の振動測定部としての第一センサ20及び第二センサ30と、第一センサ20及び第二センサ30の測定結果を取得し当該測定結果に基づいて地層厚を推定するための制御装置40と、を有する。
【0013】
加振源10は、地盤Gに対して所定の周波数の振動を発生可能であれば、公知の構成を採用することができる。例えば、本実施形態では、加振源10は、可搬式である、インパクトハンマやバングマシンが用いられる。図1では、加振源10が地盤G上に設置されているものとして図示しているが、これに限定されず、例えば、インパクトボールのようなハンディ式のものも加振源10として利用できる。
【0014】
加振源10が地盤Gに対して発生させる振動の加振力及び周波数は、振動センサ15によって測定され、その測定結果は、制御装置40に入力される。振動センサ15は、加振源10に設けられるものでもよいし、地盤G上の加振位置の近傍に設置されるものでもよい。例えば、インパクトハンマを加振源10として利用する場合には、一般にインパクトハンマに内蔵されるセンサを振動センサ15として利用してもよい。
【0015】
第一センサ20及び第二センサ30は、それぞれ振動を測定する振動測定センサである。本実施形態では、推定システム100は、二つの測定地点で振動を測定するために、第一センサ20及び第二センサ30の二つのセンサを有している。第一センサ20及び第二センサ30は、互いに異なる距離だけ加振位置から離れた地盤G上の測定地点(測定位置)に設置される。第一センサ20及び第二センサ30は、有線又は無線によって制御装置40と電気的に接続される。第一センサ20及び第二センサ30の測定位置と加振源10による加振位置との間の距離は、制御装置40に予め記憶される。第一センサ20が加振位置に対して相対的に近い測定地点に設置されたセンサであり、第二センサ30が相対的に遠い測定地点に設置されたセンサである。
【0016】
制御装置40は、制御プログラム等を実行するCPU(Central Processing Unit)と、CPUにより実行される制御プログラムを記憶するROM(Read-Only Memory)と、CPUの演算結果等を記憶するRAM(Random Access Memory)と、通信装置と、等を備えたコンピュータによって構成される。また、制御装置40には、作業者の操作入力を受け付ける入力装置(図示省略)や、制御装置40が出力する情報を表示する表示装置(図示省略)が接続される。制御装置40は、ROMに記憶される制御プログラムがCPUによって実行されることにより、本明細書に記載の制御装置40の各種機能を実行する。制御装置40は、一つのコンピュータによって構成されていてもよいし、複数のマイクロコンピュータによって構成され各制御を当該複数のコンピュータで分散処理するように構成されていてもよい。
【0017】
次に、図2から図5を参照して、推定システムを利用した地層厚推定方法について説明する。本実施形態の地層圧推定方法は、主として地盤Gを構成する複数の層のうちの表層(第一層)の層厚を推定することを目的とするものである。
【0018】
図2は、本実施形態の地層圧推定方法を示すフローチャートである。ステップS10は、作業者によって実行される工程である。ステップS11は、推定システム100によって実行される処理である。ステップS12からステップS14は、推定システムの制御装置40が実行するプログラムによって自動で実行されてもよいし、入力装置を通じて入力される作業者の操作入力に応じて制御装置40に実行させるものでもよい。以下、具体的に説明する。
【0019】
ステップS10では、加振源10により異なる複数の周波数によって地盤Gに対して振動を発生させる。ステップS10では、例えば、0より大きく100[Hz]以下の範囲内で周波数を変化させて、地盤Gに対して異なる周波数の振動を発生させる。加振源10によって発生した振動の周波数は、それぞれ振動センサ15によって測定されて制御装置40に入力される。
【0020】
ステップS11では、二つの測定地点に設けられた第一センサ20及び第二センサ30によって、加振源10によって発生した周波数が異なる振動をそれぞれ測定する。具体的には、第一センサ20及び第二センサ30によって、地盤Gの振動の振幅と周波数が測定され、制御装置40に入力される。
【0021】
次に、ステップS12では、振動センサ15及び第一センサ20の測定結果から、単位加振力当たりの変位応答を算出し、変位応答の局所的ピーク値となる周波数をピーク周波数として取得する。
【0022】
ステップS12を具体的に説明すると、まず、第一センサ20が測定した振動の振幅(変位)を振動センサ15が測定した加振源10の加振力で除して、単位加振力当たりの変位(変位応答)を周波数ごとに取得する。周波数と単位加振力当たりの変位応答との関係を表したグラフは、例えば図3に示すようなグラフとなり、このグラフは、共振曲線と呼ばれる。ここで、積層される2層の地盤構造であって、相対的に軟らかい地層(伝播速度が小さい地層)が表層側に積層される構造における共振曲線では、局所的ピーク値が一つ見られることが知られている。つまり、2層構造では、2層の地層の共振周波数において、変位応答が極大値となる。このため、共振曲線の局所的ピーク値の数によって、層厚推定の対象となる地盤Gが2層の地盤構造がいくつ組み合わさった地盤構造であるかを推定することができる。
【0023】
なお、変位応答は、変位に限定されず、単位加振力当たりの速度又は加速度としてもよい。また、変位応答は、第一センサ20が測定した結果に基づいて算出されるが、第二センサ30の測定結果に基づくものでもよい。
【0024】
例えば、図3では、局所的ピーク値が一つ見られるため、本実施形態で対象とする地盤Gは、相対的に軟らかい地盤Gが表層側に積層され、柔らかい地層の下部に相対的に硬い地層がある2層構造の地盤Gであると近似することができる。言い換えると、本実施形態では、地盤構造を、柔らかい層と硬い層が交互に積層されるモデルに近似して、層厚の推定を行う。
【0025】
伝播速度の局所的ピーク値とは、周波数の変化に対して伝播速度が増加から減少へと転じる伝播速度の複数の極大値(共振曲線のグラフ上で接線の傾きがゼロとなる値)うち、所定の判定条件を満たす極大値のことである。本実施形態では、所定の判定条件とは、極大値と、当該極大値となる周波数の前後の周波数における伝播速度の値との差が、所定値以上となる条件である。この所定値は、測定の誤差などによる極大値が意図せず局所的ピーク値として取得されないように設定される。所定値は、作業者によって任意に設定が可能であり、判定条件もこれに限定されず、任意に設定が可能である。
【0026】
このようにして、共振曲線の局所的ピーク値が取得されると、ステップS12では、局所的ピーク値となる周波数がピーク周波数として取得される。
【0027】
ステップS13では、第一センサ20及び第二センサ30の測定結果に基づいて、地盤Gの表層の伝播速度(表層伝播速度)を取得する。具体的には、ステップS13では、まず、振動の周波数ごとに、振動の伝播速度を算出する。伝播速度の算出は、まず、振動センサ15、第一センサ20、及び第二センサ30の測定結果から、振動の周波数ごとに各測定地点における加振位置からの振動の位相遅れに基づいて、測定地点間の位相遅れの差(位相差)、つまり、第一センサ20と第二センサ30との測定結果における位相差を算出する(図4参照)。そして、測定地点間の位相差と振動の周波数とから、測定地点間の振動の伝播時間の差(言い換えると、測定地点間を波が伝播する時間)を算出する。このようにして算出した測定地点間の波の伝播時間と、予め制御装置40に記憶される測定地点間の距離と、から振動の伝播速度を算出することができる。振動の周波数と算出した伝播速度との関係をグラフで表すと、例えば、図5に示すようなグラフとなり、このグラフは、振動(波)の分散曲線と呼ばれる。
【0028】
次に、ステップS13では、算出した伝播速度に基づいて地層を伝播する振動の伝播速度(表層伝播速度)を取得する。具体的に説明すると、一般には、波長が短く周波数が高い振動ほど、地表面からの深さが浅い地盤Gの表層を伝播しやすい。また、周波数が高くなっても伝播速度が変わらず一定である場合は、伝播速度が一定となる周波数帯の振動は、表層を伝播するものとして推定することができる。このため、ステップS13では、発生させた振動のうち周波数が高い領域において伝播速度が略一定となる定速度周波数帯における伝播速度の平均値を、表層伝播速度として取得する。
【0029】
なお、定速度周波数帯とは、伝播速度が厳密に一定であることを意味するものではなく、伝播速度の変化が所定位置以下となるような周波数帯のことである。つまり、周波数が高い領域における定速度周波数帯とは、最大周波数から最大周波数よりも低い所定の周波数までの範囲内であって、伝播速度の最大値と最小値との差が、所定位置以下となるような周波数帯のこという。
【0030】
次に、ステップS14では、ステップS12で取得したピーク周波数とステップS13で算出した表層伝播速度とから、地盤の表層の厚さ(表層厚)を推定する。具体的には、地層の厚さ(層厚)は、その地層を伝播する振動の波長と相関があることが知られており、例えば、層厚の推定手法として、波長の1/4、1/3、又は1/2を層厚とする手法が知られている。そこで、本実施形態では、表層伝播速度をピーク周波数によって除して表層を伝播する振動の波長を算出し、算出した波長の1/2の値を表層厚として推定する。なお、波長の1/4又は1/3を層厚として推定してもよい。
【0031】
このようにして、地盤Gの表層厚を推定することができる。地盤Gの表層厚を推定することで、地盤Gの解析モデルの構築に利用することができる。
【0032】
ここで、ステップS12において局所的ピーク値を算出するにあたり、作業者によって判定条件が設定されるものの、精度良く局所的ピーク値を算出するには、判定条件の設定に高い精度が求められる場合がある。そのような場合、判定条件を満たす局所ピーク値の取得が困難となる場合がある。
【0033】
そこで、本実施形態では、測定地点間の位相差が、π/2となる周波数において、共振曲線で極大値をとる場合には、当該極大値を局所的ピーク値として取得する。通常、振動系においては、共振が発生するときの位相差はπ/2になる。このため、π/2となる周波数で変位応答が極大値となる場合には、その極大値は2層の地層の共振によって生じた局所的ピーク値であり、そのときの周波数は地盤の振動系における固有振動数であると推定することができる。このような位相差に基づく局所的ピーク値の取得は、所定の判定条件を満たしていない場合にのみ行ってもよいし、所定の判定条件を満たすかどうかにかかわらず行ってもよい。
【0034】
以上の実施形態によれば、以下に示す作用効果を奏する。
【0035】
本実施形態では、高い周波数の振動はより表層を伝播することから、高い周波数領域で速度が一定となる領域での伝播速度から表層伝播速度を取得する。また、相対的に硬い地層の上に柔らかい地層が存在する構造では、単位起振力あたりの変位応答において局所的ピークが生じることが知られている。よって、局所的ピークが生じるピーク周波数のうち最も高い周波数は、地盤Gの表層を伝播しやすい振動の周波数とみることができる。また、地層を伝播する振動の波長と地層の厚さとには相関があることが知られているため、周波数が高いピーク周波数と表層伝播速度とから算出した波長に基づくことで、地盤Gの表層の厚さを推定することができる。このように、本実施形態では、少なくとも加振源10と二つの測定地点における振動を測定する装置だけで、迅速かつ簡潔に表層の厚さを取得することができる。
【0036】
また、測定地点間の位相差がπ/2となる周波数において、共振曲線で極大値をとる場合には、当該極大値を局所的ピーク値として取得することで、所定の判定条件により局所的ピーク値を判定することが難しい場合でも、局所的ピーク値を取得することができる。
【0037】
次に、本実施形態の変形例について説明する。
【0038】
上記実施形態では、共振曲線において局所的ピーク値が一つ表れる場合を例に説明した。これに対し、局所的ピーク値は、二つ以上の複数となる場合がある。以下では、図6から図8を参照して、局所的ピーク値が二つ表れる場合を説明する。局所的ピーク値が二つあらわれる場合とは、表層と表層より硬い第2層との二層構造と、第2層よりも柔らかい第3層と第3層よりも硬い第4層との二層構造と、の合計4層からなる地層構造として対象の地盤Gを近似できる場合である。
【0039】
図6は、局所的ピーク値が二つ取得される場合の地層厚推定方法の手順を示すフローチャートである。ステップS20及びステップS21は、上記実施形態におけるステップS10及びS11と同様であるため、説明を省略する。
【0040】
ステップS22では、上記実施形態と同様に、図7に示す共振曲線から局所的ピーク値が取得される。二つの局所的ピーク値が取得されると、ステップS22では、局所的ピーク値をとる周波数のうち高いほう(最大のもの)を第1ピーク周波数として取得する。
【0041】
ステップS23では、上記実施形態と同様に、図8に示す分散曲線を取得する。二組の二層構造によって近似される場合(局所的ピーク値が二つ取得される場合)、図8に示すように、分散曲線上では、局所的ピーク値の数に対応して二つの定速度周波数領域が生じる。ステップS23では、より周波数が高い(言い換えると、最も高い)定速度周波数領域に基づいて、表層伝播速度を取得する。定速度周波数領域の抽出及び表層伝播速度の取得は、上記実施形態と同様である。
【0042】
ステップS24では、上記実施形態と同様に、ステップS22で取得した第1ピーク周波数とステップS23で取得した表層伝播速度とから表層厚を推定する。
【0043】
このようにして表層厚を推定した後、ステップS24~ステップS28によって、第2層及び第3層の厚さを推定する。
【0044】
ステップS25では、第3層伝播速度を取得する。分散曲線において、周波数が低い側の定速度周波数領域は、第3層及び第4層によって構成される二層構造に対応するものである。よって、表層伝播速度の取得と同様にして、周波数が低い側(2番目)の定速度周波数領域から算出される伝播速度を、第3層伝播速度として取得する。
【0045】
ステップS26では、共振曲線(図7)から周波数が低い側の局所的ピーク値の周波数を第2ピーク周波数として取得する。そして、表層厚の場合と同様に、第3層伝播速度と第2ピーク周波数とから、第3層厚を推定する。
【0046】
ステップS27では、第2層の伝播速度を推定する。上記のように、局所的ピーク値が二つ取得される場合は、相対的に軟らかい層と硬い層からなる二層構造を二組組み合わせたモデルに近似できる。つまり、二組の二層構造によって近似されるモデルでは、第2層は、第1層及び第3層よりも硬い地層となる。このため、ステップS27では、第2層の伝播速度を、第1層(表層)の伝播速度及び第3層の伝播速度の両方よりも大きな速度として推定する。第2層の伝播速度を、第1層及び第3層の伝播速度よりどの程度大きな速度とするかは、経験則等から作業者によって任意に設定することができる。
【0047】
そして、ステップS28では、ステップS22で取得した第1ピーク周波数とステップS26で取得した第2ピーク周波数とに基づいて、第2層厚を任意に設定する。例えば、第2層厚は、第1ピーク周波数に対応する局所的ピーク値と第2ピーク周波数に対応する局所的ピーク値との大小関係に応じて、経験則等から任意に設定することができる。
【0048】
以上のようにして、第1層から第3層までの伝播速度及び層厚を取得することができる。取得した第1層から第3層までの伝播速度及び層厚に基づくことで、地盤Gの解析モデルを構築することができる。
【0049】
なお、局所的ピーク値が3つ以上表れる場合には、ステップS25からステップS28に対応する処理を実行することで、第5層以降の層厚を推定することができる。つまり、局所的ピーク値が2以上取得される場合には、最も周波数が高い定速度周波数領域における伝播速度に基づいて表層伝播速度が取得され、局所的ピーク値から取得したピーク周波数のうち最も高いピーク周波数によって表層伝播速度を除して算出した波長に基づいて表層地盤の厚さが推定される。そして、局所的ピーク値が3つ以上表れる場合には、地層厚測定方法は、定速度周波数領域のうち2番目に周波数が高い定速度周波数領域における伝播速度に基づいて第3層伝播速度を取得するステップS25と、局所的ピーク値から取得したピーク周波数のうち2番目に高いピーク周波数によって第3層伝播速度を除すことで算出される波長に基づいて、第3層地盤の厚さを推定するステップS26と、表層伝播速度及び第3層伝播速度の両方よりも大きな速度を、表層地盤と第3層地盤との間の第2層地盤における伝播速度として推定するステップS27と、最も高い第1ピーク周波数によって第2層における伝播速度を除して算出した波長に基づいて、第2層の厚さを推定するステップS28と、有している。
【0050】
次に、その他の変形例について説明する。
【0051】
上記実施形態では、二つの測定地点において振動を測定しているが、3つの測定地点において振動を測定するものでもよい。例えば、加振源10又はその付近に振動センサ15を設けることが困難な場合などには、加振源10から離れた3つの測定地点で測定を行い、最も加振源10に近い測定地点の測定結果を上記実施形態における振動センサ15の結果と同様に見なして、上記実施形態の方法を実行してもよい。
【0052】
また、本実施形態は、複数の地層によって構成される地盤Gであって、深くなるにつれて硬さが硬くなるような地盤Gに対しても適用できる。例えば、第1層から第4層の順で地層が硬くなる場合には、地層間の硬度差が相対的に大きい箇所で柔らかい層と硬い層との二層に分かれるものとして、一組の二層構造として近似される。
【0053】
また、上記実施形態では、加振源10は、可搬式のものであり、作業者による手動で地盤Gに対して振動が加えられる。これに対し、加振源10は、地盤Gに設置され、制御装置40からの制御信号に応じて所定の周波数の振動を地盤Gに対して生じさせる電磁式のものでもよい。
【0054】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0055】
100 地層厚推定システム
10 加振源
G 地盤
図1
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図8