(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172329
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】連結車両の制御装置、連結車両の制御方法、および連結車両の制御プログラム
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20231129BHJP
B62D 15/02 20060101ALI20231129BHJP
B62D 13/06 20060101ALI20231129BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20231129BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20231129BHJP
B62D 115/00 20060101ALN20231129BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D15/02
B62D13/06
B62D101:00
B62D113:00
B62D115:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084039
(22)【出願日】2022-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(71)【出願人】
【識別番号】519373914
【氏名又は名称】株式会社J-QuAD DYNAMICS
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】所 裕高
(72)【発明者】
【氏名】新田 宣広
【テーマコード(参考)】
3D232
【Fターム(参考)】
3D232CC50
3D232DA03
3D232DA24
3D232DB07
3D232DC33
3D232DC34
3D232DD02
3D232GG01
3D232GG05
(57)【要約】
【課題】連結車両の現在の状態から取り得るトレーラの挙動を把握できるようにした連結車両の制御装置を提供する。
【解決手段】PU52は、運転者によるユーザインターフェース80の操作によるトレーラとトラクタとの接続箇所の進行方向の目標値を受け付ける。PU52は、上記進行方向を目標値に近づけるように転舵系60を操作してトラクタの転舵輪の転舵角を制御する。PU52は、転舵角等に応じてトレーラの予測軌道を算出する。PU52は、予測軌道を表示装置82に表示する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トラクタと、前記トラクタによって牽引されるトレーラと、を備える連結車両に適用され、
状態量取得処理、予測軌道情報算出処理、および表示処理を実行するように構成され、
前記状態量取得処理は、前記連結車両の状態量を取得する処理であり、
前記予測軌道情報算出処理は、前記状態量に応じて前記トレーラの予測軌道情報を算出する処理であり、
前記表示処理は、表示装置を操作することによって、前記予測軌道情報を表示する処理である連結車両の制御装置。
【請求項2】
前記連結車両は、運転者が目標仮想操舵角を指示するためのインターフェースを備え、
前記目標仮想操舵角は、仮想操舵角の目標値であり、
前記仮想操舵角は、前記トレーラと前記トラクタとの連結箇所の進行方向を示す変数であり、
目標仮想操舵角取得処理、および転舵処理を実行するように構成され、
前記目標仮想操舵角取得処理は、前記運転者による前記インターフェースへの入力操作に応じて前記目標仮想操舵角を取得する処理であり、
前記予測軌道情報算出処理は、前記仮想操舵角を入力とすることによって、前記トラクタの転舵角の大きさが上限値以下となる範囲で実際の前記仮想操舵角を前記目標仮想操舵角に極力近づける場合の前記トレーラの予測軌道を算出する処理であり、
前記表示処理は、前記予測軌道を表示する処理であり、
前記転舵処理は、前記仮想操舵角を前記目標仮想操舵角に近づけるように前記トラクタの転舵角を制御する処理である請求項1記載の連結車両の制御装置。
【請求項3】
目標軌道算出処理を実行するように構成され、
前記目標軌道算出処理は、前記目標仮想操舵角を入力とし、前記仮想操舵角を前記目標仮想操舵角とした場合の前記トレーラの軌道である目標軌道を算出する処理であり、
前記表示処理は、前記予測軌道に加えて前記目標軌道を表示する処理を含む請求項2記載の連結車両の制御装置。
【請求項4】
前記状態量取得処理は、ヒッチ角を取得する処理を含み、
前記ヒッチ角は、前記トラクタの前後方向と前記トレーラの前後方向とのなす角度であり、
前記予測軌道情報算出処理は、目標転舵角算出処理、上限ガード処理、および変位予測処理を含み、
前記目標転舵角算出処理は、前記目標仮想操舵角および前記ヒッチ角を入力として、前記トラクタの前記転舵角の目標値である目標転舵角を算出する処理を含み、
前記上限ガード処理は、前記目標転舵角の大きさが前記上限値を上回る場合に前記目標転舵角の大きさを前記上限値とする処理であり、
前記変位予測処理は、前記上限ガード処理が施された前記目標転舵角を入力として前記トレーラの変位を予測する処理を含み、
前記転舵処理は、前記転舵角を前記目標転舵角に近づけることによって前記仮想操舵角を前記目標仮想操舵角に近づける処理を含む請求項2記載の連結車両の制御装置。
【請求項5】
ヒッチ角予測処理を実行するように構成され、
前記ヒッチ角予測処理は、前記上限ガード処理の施された前記目標転舵角を入力として前記ヒッチ角の将来の値を予測する処理であり、
前記予測された前記ヒッチ角を入力とする前記目標転舵角算出処理と、前記上限ガード処理の施された前記目標転舵角を入力とする前記ヒッチ角予測処理と、前記予測された前記ヒッチ角および前記上限ガード処理の施された前記目標転舵角を入力とする変位予測処理と、の3つの処理を、複数回実行するように構成されている請求項4記載の連結車両の制御装置。
【請求項6】
判定処理を実行するように構成され、
前記判定処理は、後退アシストモードであるか否かを判定する処理であり、
前記後退アシストモードは、前記連結車両の後退処理を前記転舵処理によって実現する処理であり、
前記表示処理を前記後退アシストモードにおいて実行するように構成されている請求項2記載の連結車両の制御装置。
【請求項7】
前記表示処理を、前記後退アシストモードにおいて前記連結車両が後退から前進に切り替わった場合にも継続するように構成されている請求項6記載の連結車両の制御装置。
【請求項8】
キャンセル処理を実行するように構成され、
前記キャンセル処理は、前記連結車両の前進走行の速度が閾値以上となる場合、前記後退アシストモードをキャンセルする処理である請求項7記載の連結車両の制御装置。
【請求項9】
前記表示処理は、カメラによる前記連結車両の外部の画像に前記予測軌道情報を重畳させる処理を含む請求項1記載の連結車両の制御装置。
【請求項10】
前記表示処理は、前記連結車両の付近の鳥観図に前記予測軌道情報を重畳させる処理を含む請求項1記載の連結車両の制御装置。
【請求項11】
請求項1記載の前記各処理を実行する工程を有した連結車両の制御方法。
【請求項12】
請求項1記載の前記各処理をコンピュータに実行させる連結車両の制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連結車両の制御装置、連結車両の制御方法、および連結車両の制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、下記特許文献1には、連結車両において、ヒッチ角がゼロに回復するまでの時間を表示する制御装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記制御装置では、運転者がトレーラの挙動を逐次把握することは困難である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、上記課題を解決するための手段およびその作用効果について記載する。
1.トラクタと、前記トラクタによって牽引されるトレーラと、を備える連結車両に適用され、状態量取得処理、予測軌道情報算出処理、および表示処理を実行するように構成され、前記状態量取得処理は、前記連結車両の状態量を取得する処理であり、前記予測軌道情報算出処理は、前記状態量に応じて前記トレーラの予測軌道情報を算出する処理であり、前記表示処理は、表示装置を操作することによって、前記予測軌道情報を表示する処理である連結車両の制御装置である。
【0006】
上記構成では、状態量に応じて予測されたトレーラの予測軌道に関する情報が表示される。そのため、運転者は、連結車両の現在の状態から取り得るトレーラの挙動を把握できる。
【0007】
2.前記連結車両は、運転者が目標仮想操舵角を指示するためのインターフェースを備え、前記目標仮想操舵角は、仮想操舵角の目標値であり、前記仮想操舵角は、前記トレーラと前記トラクタとの連結箇所の進行方向を示す変数であり、目標仮想操舵角取得処理、および転舵処理を実行するように構成され、前記目標仮想操舵角取得処理は、前記運転者による前記インターフェースへの入力操作に応じて前記目標仮想操舵角を取得する処理であり、前記予測軌道情報算出処理は、前記仮想操舵角を入力とすることによって、前記トラクタの転舵角の大きさが上限値以下となる範囲で実際の前記仮想操舵角を前記目標仮想操舵角に極力近づける場合の前記トレーラの予測軌道を算出する処理であり、前記表示処理は、前記予測軌道を表示する処理であり、前記転舵処理は、前記仮想操舵角を前記目標仮想操舵角に近づけるように前記トラクタの転舵角を制御する処理である上記1記載の連結車両の制御装置である。
【0008】
上記構成では、トラクタの転舵角の制御を制御装置が実行するものの、目標仮想操舵角は運転者によって指定される。そのため、目標仮想操舵角の設定を含めて全てを制御装置が実行する場合と比較して、制御装置に対する要求を軽減できる。ここで、仮想操舵角は、トラクタの転舵によって制御可能であるものの、仮想操舵角の取り得る範囲は、転舵角の取り得る範囲によって制限される。そこで上記構成では、転舵角の大きさが上限値以下となる範囲で実際の仮想操舵角を目標仮想操舵角に極力近づける場合のトレーラの予測軌道を算出する。これにより、予測軌道を、トレーラの実現可能な軌道とすることができる。
【0009】
3.目標軌道算出処理を実行するように構成され、前記目標軌道算出処理は、前記目標仮想操舵角を入力とし、前記仮想操舵角を前記目標仮想操舵角とした場合の前記トレーラの軌道である目標軌道を算出する処理であり、前記表示処理は、前記予測軌道に加えて前記目標軌道を表示する処理を含む上記2記載の連結車両の制御装置である。
【0010】
連結車両においては、ヒッチ角の大きさがある程度大きくなる場合等において、転舵角をどのように設定しても、トレーラの挙動がほとんど変化しなくなる傾向がある。その場合、運転者が目標仮想操舵角を大きく変えたにもかかわらず、表示される予測軌道がほとんど変化しない。こうした状況において、運転者は、目標仮想操舵角を変えたにもかかわらず、予測軌道が変わらないことに戸惑うことが懸念される。これに対し、上記構成では、転舵角の取り得る範囲を無視して定められた目標軌道を併せ表示する。目標軌道は、転舵角をどのように設定してもトレーラの挙動がほとんど変化しなくなる状況においても、目標仮想操舵角の変化に応じて大きく変化する。したがって、予測軌道と目標軌道とが乖離することにより、運転者に、転舵角をどのように設定してもトレーラの挙動がほとんど変化しなくなる状況であることを知らせることができる。
【0011】
4.前記状態量取得処理は、ヒッチ角を取得する処理を含み、前記ヒッチ角は、前記トラクタの前後方向と前記トレーラの前後方向とのなす角度であり、前記予測軌道情報算出処理は、目標転舵角算出処理、上限ガード処理、および変位予測処理を含み、前記目標転舵角算出処理は、前記目標仮想操舵角および前記ヒッチ角を入力として、前記トラクタの前記転舵角の目標値である目標転舵角を算出する処理を含み、前記上限ガード処理は、前記目標転舵角の大きさが前記上限値を上回る場合に前記目標転舵角の大きさを前記上限値とする処理であり、前記変位予測処理は、前記上限ガード処理が施された前記目標転舵角を入力として前記トレーラの変位を予測する処理を含み、前記転舵処理は、前記転舵角を前記目標転舵角に近づけることによって前記仮想操舵角を前記目標仮想操舵角に近づける処理を含む上記2記載の連結車両の制御装置である。
【0012】
上記構成では、目標転舵角を、その大きさが上限値以下となる条件のもとで目標仮想操舵角を極力実現する値とすることができる。
5.ヒッチ角予測処理を実行するように構成され、前記ヒッチ角予測処理は、前記上限ガード処理の施された前記目標転舵角を入力として前記ヒッチ角の将来の値を予測する処理であり、前記予測された前記ヒッチ角を入力とする前記目標転舵角算出処理と、前記上限ガード処理の施された前記目標転舵角を入力とする前記ヒッチ角予測処理と、前記予測された前記ヒッチ角および前記上限ガード処理の施された前記目標転舵角を入力とする変位予測処理と、の3つの処理を、複数回実行するように構成されている上記4記載の連結車両の制御装置である。
【0013】
仮想操舵角と、ヒッチ角と、転舵角との間には、所定の相関関係がある。そのため、ヒッチ角が変わると、目標仮想操舵角を実現する目標転舵角が変化する。そのため、上記構成では、目標転舵角算出処理とヒッチ角予測処理と変位予測処理との3つの処理を複数回実行することにより、比較的長時間にわたる予測軌道を高精度に算出できる。
【0014】
6.判定処理を実行するように構成され、前記判定処理は、後退アシストモードであるか否かを判定する処理であり、前記後退アシストモードは、前記連結車両の後退処理を前記転舵処理によって実現する処理であり、前記表示処理を前記後退アシストモードにおいて実行するように構成されている上記2~5のいずれか1つに記載の連結車両の制御装置である。
【0015】
連結車両の後退制御には、高度な運転技能を必要とする。その点、上記構成では、後退アシストモードにおいて転舵処理を実行することにより、運転者がトラクタの操舵をする負担を軽減できる。しかも、表示処理によって、運転者がトレーラの進行方向を指示する際に有益な情報を提供できる。
【0016】
7.前記表示処理を、前記後退アシストモードにおいて前記連結車両が後退から前進に切り替わった場合にも継続するように構成されている上記6記載の連結車両の制御装置である。
【0017】
連結車両の後退制御中に、トレーラの挙動が不適切である場合には、運転者が連結車両を前進させることによって、後退制御をやり直すことがある。その場合、表示処理を継続することにより、どこまで前進すればトレーラの所望の挙動を実現できるかを運転者が把握できる。
【0018】
8.キャンセル処理を実行するように構成され、前記キャンセル処理は、前記連結車両の前進走行の速度が閾値以上となる場合、前記後退アシストモードをキャンセルする処理である上記7記載の連結車両の制御装置である。
【0019】
前進走行の速度が大きい場合には、運転者が後退制御を希望せず、連結車両を移動させたいと考えられる。そこで上記構成では、前進走行の速度が閾値以上となる場合、後退アシストモードをキャンセルすることにより、運転者が後退アシストモードを手動でキャンセルする手間を省くことができる。
【0020】
9.前記表示処理は、カメラによる前記連結車両の外部の画像に前記予測軌道情報を重畳させる処理を含む上記1~8のいずれか1つに記載の連結車両の制御装置である。
上記構成では、カメラの画像に予測軌道情報が重畳されることにより、トレーラの挙動を正確に把握し易い。
【0021】
10.前記表示処理は、前記連結車両の付近の鳥観図に前記予測軌道情報を重畳させる処理を含む上記1~8のいずれか1つに記載の連結車両の制御装置である。
上記構成では、鳥観図に予測軌道情報が重畳されることにより、トレーラの挙動を俯瞰できる。
【0022】
11.上記1~10のいずれか1つに記載の前記各処理を実行する工程を有した連結車両の制御方法である。
12.上記1~10のいずれか1つに記載の前記各処理をコンピュータに実行させる連結車両の制御プログラムである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】一実施形態にかかる連結車両の構成を示す斜視図である。
【
図2】同実施形態にかかる制御システムの構成を示すブロック図である。
【
図3】同実施形態にかかる連結車両の後退制御を例示する図である。
【
図4】同実施形態にかかる連結車両のモデルを示す図である。
【
図5】同実施形態にかかる制御装置が実行する処理の手順を示す流れ図である。
【
図6】同実施形態にかかる制御装置が実行する処理の手順を示す流れ図である。
【
図7】(a)および(b)は、予測軌道の表示手法を示す図である。
【
図8】(a)および(b)は、同実施形態にかかる表示例を示す図である。
【
図9】(a)および(b)は、同実施形態にかかる表示例を示す図である。
【
図10】(a)および(b)は、同実施形態にかかる表示例を示す図である。
【
図11】(a)および(b)は、同実施形態にかかる仮想操舵角の制御を例示するタイムチャートである。
【
図12】(a)および(b)は、上記実施形態の変形例にかかる表示例を示す図である。
【
図13】(a)および(b)は、上記実施形態の変形例にかかる表示例を示す図である。
【
図14】(a)および(b)は、上記実施形態の変形例にかかる表示例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、一実施形態について図面を参照しつつ説明する。
「連結車両の構成」
図1に示すように、連結車両10は、トラクタ20およびトレーラ30を有している。トラクタ20は、前輪22および後輪24を備える。前輪22は右前輪および左前輪の2輪を含み、後輪24は右後輪および左後輪の2輪を含む。また、
図1には、トレーラ30として、箱型のトレーラを例示する。トレーラ30は、車輪32を有している。車輪32は、右車輪および左車輪の2輪を含む。
【0025】
トレーラ30は、ボールジョイント40を介してトラクタ20の後部に連結されている。ボールジョイント40は、トレーラ30を、トラクタ20に対して軸42を中心として回転可能に連結する部材である。軸42は、トラクタ20の高さ方向に沿って延びる。
【0026】
図2に、トラクタ20が備える部材の一部を示す。
図2に示すように、トラクタ20は、制御装置50を備えている。制御装置50は、制御対象としての連結車両10の制御量を制御すべく、転舵系60、駆動系62、および制動系64を操作する。制御量は、車速、走行方向、およびヒッチ角等である。ヒッチ角は、トラクタ20の前後方向とトレーラ30の前後方向とのなす角度である。
【0027】
転舵系60は、転舵輪を転舵させる転舵アクチュエータを含む。転舵輪は、たとえば、
図1に示す前輪22である。なお、転舵系60に転舵アクチュエータを操作する転舵制御装置を含めてもよい。その場合、「制御装置50が転舵系60を操作する」とは、制御装置50が転舵制御装置に指令信号を出力することを意味する。
【0028】
駆動系62は、車両の推力生成装置としての、内燃機関および回転電機の2つのうちの少なくとも1つを含む。なお、駆動系62に、内燃機関および回転電機を制御対象とする駆動制御装置を含めてもよい。その場合、「制御装置50が駆動系62を操作する」とは、制御装置50が駆動制御装置に指令信号を出力することを意味する。
【0029】
制動系64は、摩擦力によって車輪の回転を減速させる装置と、車輪の動力を電気エネルギに変換することによって車輪の回転を減速させる装置との2つのうちの少なくとも1つを含む。なお、電気エネルギに変換することによって車輪の回転を減速させる装置は、駆動系の回転電機と共有されていてもよい。なお、制動系64に、車輪の回転を減速させる装置を制御対象とする制動制御装置を含めてもよい。その場合、「制御装置50が制動系62を操作する」とは、制御装置50が制動制御装置に指令信号を出力することを意味する。
【0030】
制御装置50は、制御量を制御すべく、舵角センサ70によって検出される転舵輪の転舵角α1を参照する。転舵角α1は、右旋回および左旋回のうちのいずれか一方の符号が正、他方の符号が負となる値である。転舵角α1は、タイヤの切れ角である。なお、たとえば転舵系60がラックアンドピニオン機構を備える場合、舵角センサ70をピニオン角を検出するセンサとしてもよい。ただし、その場合、制御装置50がピニオン角をタイヤの切れ角に変換する処理を実行する。以下では、説明の便宜上、タイヤの切れ角が上記変換する処理によって得られたものであっても、舵角センサ70の検出値と見なす。
【0031】
また制御装置50は、ヒッチ角センサ72によって検出されるヒッチ角βを参照する。ヒッチ角βは、トラクタ20の後方から前方に進む方向とトレーラ30の後方から前方に進む方向とのなす角度に応じて正、負の双方の符号を取り得る。たとえば、トラクタ20の後方から前方に進む方向に対してトレーラ30の後方から前方に進む方向が反時計回りに180°未満ずれる場合のヒッチ角βの符号を、正としてもよい。また、制御装置50は、車輪速センサ74によって検出される車輪速度ωw1~ωw4を参照する。車輪速度ωw1,ωw2は、それぞれ、右側の前輪22の回転速度、および左側の前輪22の回転速度である。車輪速度ωw3,ωw4は、それぞれ、右側の後輪24の回転速度、および左側の後輪24の回転速度である。また、制御装置50は、バックカメラ76によって撮影されたトラクタ20の後方の画像を示す画像データDpを参照する。
【0032】
制御装置50は、制御量の制御を、ユーザインターフェース80の操作状態に応じて設定する。ユーザインターフェース80は、自動運転および手動運転の2つのうちのいずれか1つを選択する等、ユーザの意思を制御装置50に伝達するためのものである。
【0033】
制御装置50は、PU52および記憶装置54を備えている。PU52は、CPU、GPU、およびTPU等の少なくとも1つを備えるソフトウェア処理装置である。記憶装置54には、後退アシストプログラム54aが記憶されている。後退アシストプログラム54aは、PU52に、後退アシスト処理を実行させる指令を規定するプログラムである。後退アシスト処理は、連結車両10の後退走行において転舵輪の転舵処理を自動で行う処理である。後退アシストプログラム54aは、運転者による後退運転の負荷を軽減するためのプログラムである。
【0034】
すなわち、
図3に示すように、連結車両10の後退走行においては、トラクタ20の転舵角が同一であっても、トレーラ30の挙動は、ヒッチ角βに応じて変化する。そのため、後退制御には、高い運転技能が要求される。後退アシストプログラム54aによる後退アシスト処理は、トラクタ20の転舵角α1を制御することによって運転者をアシストする処理である。ただし、アクセル操作、ブレーキ操作については、運転者に委ねている。さらに、後退アシスト処理は、トレーラ30の操舵に対する指示を運転者に委ねる。これは、トレーラ30の操舵をも制御装置50が設定する場合には、制御装置50に対する要求が高くなるためである。運転者に一部の指示をゆだねることにより、比較的簡素な処理によって後退制御をアシストすることが可能となる。
【0035】
「後退アシスト処理が利用するモデル」
図4に、後退アシスト処理が利用する連結車両10のモデルを示す。
図4に示すモデルは、トラクタ20の一対の前輪22を前輪C0として且つ、トラクタ20の一対の後輪24を後輪B1とする。すなわち、トラクタ20について2輪モデルを採用している。また、トレーラ30の一対の車輪32を車輪B2とする。前輪C0およびヒッチ点C1によって定まる線と、ヒッチ点C1および車輪B2によって定まる線とのなす角が、ヒッチ角βである。ヒッチ点C1は、
図1の軸42部分に相当する。また、前輪C0の速度である前輪速度VC0は、転舵角α1の方向に進むベクトルとしている。転舵角α1は、前輪C0の進む方向と、前輪C0およびヒッチ点C1によって定まる線とのなす角度としてモデル化されている。車速Vb1の方向は、前輪C0およびヒッチ点C1によって定まる線に平行である。なお、以下では、トラクタ20が前進走行する場合の車速Vb1の符号を正とする。また、車速Vb1の方向と、
図4のx方向とのなす角は、角度θ1である。また、車輪B2とヒッチ点C1とを結ぶ線とx方向とのなす角は、角度θ2である。また、前輪C0および後輪B1間の距離l1と、後輪B1およびヒッチ点C1間の距離h1と、ヒッチ点C1および車輪B2間の距離l2とを定義する。
【0036】
本実施形態において、トレーラ30の操舵を定量化した仮想操舵角α2は、
図4に示すように定義する。すなわち、ヒッチ点C1における移動速度の方向とトレーラ30の前後方向とのなす角度と定義する。
【0037】
「後退アシスト処理」
図5および
図6に、後退アシスト処理に関する処理の手順を示す。
図5および
図6に示す処理は、PU52が後退アシストプログラム54aをたとえば所定周期でくり返し実行することにより実現される。なお、以下では、先頭に「S」が付与された数字によって各処理のステップ番号を表現する。
【0038】
図5および
図6に示す一連の処理において、PU52は、まず、後退アシストフラグFが「1」であるか否かを判定する(S10)。後退アシストフラグFは、「1」である場合には、後退アシスト処理を実行する後退アシストモードであることを示す。一方、後退アシストフラグFは、「0」である場合には、後退アシストモードではないことを示す。PU52は、後退アシストフラグFが「0」であると判定する場合(S10:NO)、後退アシストモードになったか否かを判定する(S12)。PU52は、ユーザインターフェース80に対する入力操作によって、後退アシスト処理が指示される場合に、後退アシストモードであると判定する。PU52は、後退アシストモードであると判定する場合(S12:YES)、後退アシストフラグFに「1」を代入する(S14)。
【0039】
一方、PU52は、後退アシストフラグFが「1」であると判定する場合(S10:YES)、以下の条件(A)および条件(B)の論理和が真であるか否かを判定する(S16)。
【0040】
条件(A):ユーザインターフェース80に対する入力操作によって後退アシストモードが解除された旨の条件である。
条件(B):車速Vb1が閾値Vth以上である旨の条件である。換言すれば、トラクタ20の前進走行の速度の大きさが閾値Vth以上である旨の条件である。この処理は、運転者が連結車両10の後退制御をやめて連結車両10を大きく移動させる状況にあると推定される旨の条件である。
【0041】
PU52は、上記論理和が真であると判定する場合(S16:YES)、後退アシストフラグFに「0」を代入する(S18)。
一方、PU52は、上記論理和が偽であると判定する場合(S16:NO)と、S14の処理を完了する場合と、には、ユーザインターフェース80に対する入力操作に応じた目標仮想操舵角α2*を取得する(S20)。目標仮想操舵角α2*は、仮想操舵角α2の目標値である。本実施形態において、目標仮想操舵角α2*は、運転者によって指示される。具体的には、たとえば、ユーザインターフェース80に仮想操舵角α2と正の相関を有するダイヤルを設けることによって入力操作を実現してもよい。ここで、ダイヤルの回転角と目標仮想操舵角α2*とが比例関係にあることは必須ではない。
【0042】
次にPU52は、目標仮想操舵角α2*を入力としてトレーラ30の目標軌道Trtを算出する(S22)。ここで、PU52は、ヒッチ点C1に転舵輪である前輪、後輪B1が後輪となる2輪モデルを用いて目標軌道Trtを算出すればよい。詳しくは、PU52は、目標仮想操舵角α2*および距離l2に応じて目標軌道Trtの曲率を算出することによって、目標軌道Trtを算出すればよい。なお、目標軌道Trtは、トレーラ30の代表点の軌道とすればよい。ここで、代表点は、たとえば後輪B1の中央の点であってもよい。またたとえば、代表点は、トレーラ30の重心であってもよい。
【0043】
次にPU52は、ヒッチ角βおよび車速Vb1を取得する(S24)。ヒッチ角βは、ヒッチ角センサ72による最新の検出値である。また、車速Vb1は、PU52によって、車輪速度ωw3,ωw4に応じて算出される。車速Vb1は、たとえば、車輪速度ωw3,ωw4の単純平均値であってもよい。
【0044】
次にPU52は、車輪B2の速度Vb2を算出する(S25)。詳しくは、PU52がヒッチ角βおよび車速Vb1に応じて幾何学的な関係から算出する。次にPU52は、角度θ1を初期化する(S26)。ここで、PU52は、角度θ1を、「90°」とする。これは、トラクタ20の前後方向を
図4に示した座標系のy方向とするための設定である。
【0045】
次にPU52は、目標仮想操舵角α2*を実現するための転舵角である目標転舵角α1*を算出する(S28)。S28の処理は、目標仮想操舵角α2*およびヒッチ角βを入力として且つ、目標転舵角α1*を出力とする処理である。すなわち、
図4に示したモデルによれば、転舵角α1と仮想操舵角α2との間には、以下の式(c1)が成立する。
【0046】
α1=arctan{(l1/h1)・tan(-α2-β)} …(c1)
上記の式(c1)の右辺における仮想操舵角α2を目標仮想操舵角α2*に代えることにより、左辺は目標転舵角α1*となる。
【0047】
PU52は、上記式(c1)に応じた式に基づき目標転舵角α1*を算出してもよい。また、PU52は、目標転舵角α1*をマップ演算してもよい。これは、記憶装置54に、予めマップデータを記憶しておくことにより実現できる。ここで、マップデータは、目標仮想操舵角α2*およびヒッチ角βを入力変数として且つ、目標転舵角α1*を出力変数とするデータである。なお、マップデータとは、入力変数の離散的な値と、入力変数の値のそれぞれに対応する出力変数の値と、の組データである。また、マップ演算は、入力変数の値がマップデータの入力変数の値のいずれかに一致する場合、対応するマップデータの出力変数の値を演算結果とする処理とすればよい。また、マップ演算は、入力変数の値がマップデータの入力変数の値のいずれにも一致しない場合、マップデータに含まれる複数の出力変数の値の補間によって得られる値を演算結果とする処理とすればよい。また、これに代えて、マップ演算は、入力変数の値がマップデータの入力変数の値のいずれにも一致しない場合、マップデータに含まれる複数の入力変数の値のうちの最も近い値に対応するマップデータの出力変数の値を演算結果とする処理としてもよい。
【0048】
次にPU52は、目標転舵角α1*の大きさが上限値α1thよりも大きいか否かを判定する(S30)。上限値α1thは、転舵角α1の取り得る大きさの最大値である。この処理は、目標仮想操舵角α2*を実現する転舵角α1を実際に実現できるか否かを判定する処理である。PU52は、上限値α1thよりも大きいと判定する場合(S30:YES)、目標転舵角α1*の大きさを、上限値α1thに縮小する(S32)。
【0049】
PU52は、S32の処理を完了する場合と、S30の処理において、否定判定する場合と、には、転舵系60を操作することによって、転舵角α1が目標転舵角α1*に近づくように制御する(S34)。
【0050】
図6に移行して、PU52は、所定時間τだけ未来のヒッチ角βを予測する(S36)。
図4に示したモデルによれば、所定時間τの間のヒッチ角βの変化量Δβは、以下の式(c2)によって表現される。
【0051】
Δβ=
-(Vb1/l2)・sinβ・τ
-{Vb1/(l1・l2)}・(l2+h1・cosβ)・(tanα1*)・τ
…(c2)
S36の処理において、PU52は、上記の式(c2)によって算出される変化量Δβをヒッチ角βに加算した値によって、ヒッチ角βの予測値を算出してもよい。また、これに代えて、S36の処理を、予めマップデータが記憶された状態でPU52によりマップ演算によって変化量Δβを算出する処理を含んで構成してもよい。ここで、マップデータは、車速Vb1、ヒッチ角βおよび目標転舵角α1*を入力変数として且つ、ヒッチ角βの変化量Δβを出力変数とするデータである。
【0052】
次にPU52は、所定時間τだけ未来の角度θ1を算出する(S38)。ここで、所定時間τの間の角度θ1の変化量Δθ1は、以下の式(c3)にて表現される。
Δθ1=(Vb1/l1)・tan(α1*) …(c3)
S36の処理において、PU52は、上記の式(c3)によって算出される変化量Δθ1を角度θ1に加算した値によって、角度θ1の予測値を算出してもよい。また、これに代えて、S36の処理を、予めマップデータが記憶された状態でPU52によりマップ演算によって変化量Δθ1を算出してもよい。ここで、マップデータは、車速Vb1および目標転舵角α1*を入力変数として且つ、変化量Δθ1を出力変数とするデータである。
【0053】
次にPU52は、S36の処理によって算出したヒッチ角βと、S38の処理によって算出した角度θ1との和を、所定時間τだけ未来の角度θ2に代入する(S40)。
次にPU52は、車速Vb1および角度θ1を入力として、所定時間τだけ未来のトラクタ位置座標(xb1,yb1)を算出する(S44)。ここで、トラクタ位置座標のx成分xb1の所定時間τにおける変化量は、「Vb1・cosθ1」である。また、トラクタ位置座標のy成分yb1の所定時間τにおける変化量は、「Vb1・sinθ1」である。
【0054】
次にPU52は、速度Vb2および角度θ2を入力として、所定時間τだけ未来のトレーラ位置座標(xb2,yb2)を算出する(S46)。ここで、トレーラ位置座標のx成分xb2の所定時間τにおける変化量は、「Vb2・cosθ2」である。また、トレーラ位置座標のy成分yb2の所定時間τにおける変化量は、「Vb2・sinθ2」である。
【0055】
次にPU52は、S28~S32,S36~S46の処理によって算出した値を記憶装置54に一旦記憶する(S48)。すなわち、PU52は、トラクタ位置座標(xb1,yb1)、トレーラ位置座標(xb2,yb2)、角度θ1,θ2、目標転舵角α1*およびヒッチ角βを記憶装置54に一旦記憶する。
【0056】
そしてPU52は、予測区間が終了したか否かを判定する(S50)。予測区間は、連結車両10が所定時間走行する際の区間である。所定時間は、たとえば数秒程度としてもよい。なお、予測区間は、車速Vb1の絶対値と正の相関を有してもよいが、車速Vb1に依存しないようにしてもよい。
【0057】
PU52は、予測区間が終了していないと判定する場合(S50:NO)、S28の処理に戻る。これに対しPU52は、予測区間が完了したと判定する場合(S50:YES)、
図1に示す表示装置82に、予測軌道Trpおよび目標軌道Trtを表示する(S52)。
【0058】
ここで、予測区間が終了したと判定される時点で、記憶装置54には、S24の処理によって取得されたヒッチ角βよりも未来のヒッチ角βがN個記憶されている。ここで、Nは2以上の整数である。それらは、互いに所定時間τだけ離間したタイミングの予測値である。また、記憶装置54には、N個のヒッチ角βに同期したタイミングにおける、トラクタ位置座標(xb1,yb1)、トレーラ位置座標(xb2,yb2)、角度θ1,θ2、目標転舵角α1*が記憶されている。
【0059】
ここで、N個のトレーラ位置座標(xb2,yb2)は、互いに所定時間τだけ離間したトレーラ30の代表点の予測位置を示す。したがって、それらを結ぶことにより、予測軌道Trpを得ることができる。
【0060】
S52の処理は、N個のトレーラ位置座標(xb2,yb2)を表示装置82に送信する処理であってもよい。また、S52の処理は、N個のトレーラ位置座標(xb2,yb2)にフィットする曲線を求め、その曲線を特定するパラメータを表示装置82に送信する処理であってもよい。その場合、通信負荷を軽減できる。さらに、表示装置82は、単なる表示機能のみを有するものとすることにより、PU52が、表示装置82によって表示される画像を生成してもよい。
【0061】
表示装置82は、バックカメラ76によって撮影された画像に、予測軌道Trpおよび目標軌道Trtを重畳させて表示する。
図7(a)に、トレーラ位置座標(xb2,yb2)を結んで得られる予測軌道Trpと、目標軌道Trtと、を示す。S26の処理によれば、トレーラ位置座標(xb2,yb2)は、y軸がトラクタ20の前後方向に平行な座標系の座標成分である。ただし、PU52は、バックカメラ76の画像にあわせるために、
図7(b)に示すようにトレーラ位置座標(xb2,yb2)を射影変換した点群データ等を表示対象とする。
【0062】
図8に、表示装置82の表示画面82aに表示される画像の例を示す。詳しくは、
図8(a)に、連結車両10の状態を示すとともに、
図8(b)に、表示画面82aの表示例を示す。
図8には、実線にて予測軌道Trpを示して且つ、一点鎖線にて目標軌道Trtを示した。しかし、実際の表示画面82aでは、予測軌道Trpと目標軌道Trtとは、色を変えることによって識別可能としてもよい。
図8に示す例は、後退しつつ右旋回したい場合を示している。
【0063】
図9に、表示装置82の表示画面82aに表示される画像の別の例を示す。なお、
図9(a)および
図9(b)は、
図8(a)および
図8(b)に対応している。
図9に示す例は、後退しつつ右旋回する状態から直進状態に移行させたい場合を示す。
【0064】
図10に、表示装置82の表示画面82aに表示される画像の別の例を示す。なお、
図10(a)および
図10(b)は、
図8(a)および
図8(b)に対応している。
図10に示す例は、後退しつつ右旋回から左旋回に移行させたい場合を示す。
図10に示す表示例では、予測軌道Trpが目標軌道Trtから大きく離間している。これは、S30~S32の処理に起因して、ユーザインターフェース80への入力操作によって目標仮想操舵角α2*を操作しても予測軌道Trpが変わらない状態である。予測軌道Trpが変わらない状況は、
図11に示すように、ヒッチ角βの大きさが大きい場合に生じやすい。
【0065】
図11(a)は、ヒッチ角βの大きさが小さい状態で目標仮想操舵角α2*を切り戻した場合を示す。また、
図11(b)は、ヒッチ角βの大きさが小さい状態で目標仮想操舵角α2*を切り戻し場合を示す。
【0066】
図11に示すように、ヒッチ角βの大きさが大きい状態で目標仮想操舵角α2*の切り戻しを行うと、仮想操舵角α2が目標仮想操舵角α2*に追従できない。
このように、目標仮想操舵角α2*を操作しても、予測軌道Trpが変化しない場合、運転者は、どうして予測軌道Trpが変化しないのかわからず困惑する懸念がある。これに対し、本実施形態では、目標軌道Trtを併せて表示することにより、目標軌道Trtと予測軌道Trpとの差が大きい場合には、トラクタ20の転舵によって仮想操舵角α2を所望の角度とすることができないことを知らせることができる。
【0067】
以上説明した本実施形態によれば、さらに以下に記載する作用および効果が得られる。
(1)PU52は、トレーラ座標成分を定める座標系の軸の1つを、都度のトラクタ20の前後方向に平行に設定した。これにより、トレーラ座標成分を、バックカメラ76の画像に簡易に整合させることができる。
【0068】
(2)PU52は、トレーラ座標成分に射影変換を施した。これにより、トレーラ座標成分を、バックカメラ76の画像に適切に整合させることができる。
<対応関係>
上記実施形態における事項と、上記「課題を解決するための手段」の欄に記載した事項との対応関係は、次の通りである。以下では、「課題を解決するための手段」の欄に記載した解決手段の番号毎に、対応関係を示している。[1,11,12]状態量取得処理は、S20,S24,S25の処理に対応する。予測軌道情報算出処理は、S26~S32,S36~S50の処理に対応する。表示処理は、S52の処理に対応する。表示装置は、表示装置82に対応する。[2]目標仮想操舵角取得処理は、S20の処理に対応する。仮想操舵角は、仮想操舵角α2に対応する。上限値は、上限値α1thに対応する。転舵処理は、S34の処理に対応する。連結箇所は、ボールジョイント40またはヒッチ点C1に対応する。[3]目標軌道算出処理は、S22の処理に対応する。[4]目標転舵角算出処理は、S28の処理に対応する。上限ガード処理は、S30,S32の処理に対応する。変位予測処理は、S36~S46の処理に対応する。[5]ヒッチ角予測処理は、S36の処理に対応する。[6]判定処理は、S12の処理に対応する。[7]S16の条件(B)に対応する。[8]S16の処理において肯定判定される場合にS18の処理に移行することに対応する。[9]
図8~10,12に対応する。[10]
図13,14に対応する。
【0069】
<その他の実施形態>
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態および以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0070】
「状態量取得処理について」
・S24の処理では、ヒッチ角センサ72によって検出されたヒッチ角βを取得したが、これに限らない。たとえば、ヒッチ角βの推定値を取得してもよい。これは、たとえば直進走行が所定走行距離だけ継続した時点でヒッチ角βをゼロと推定した後、上記の式(c2)を用いた変化量Δβによって、逐次、ヒッチ角βを更新することによって実現できる。なお、ここで変化量Δβは、未来のヒッチ角βの変化量の予測値ではなく、変化量の推定値である。
【0071】
「仮想操舵角について」
・トレーラの操舵を定量化する変数である仮想操舵角としては、上記実施形態において例示した定義に限らない。たとえば、トラクタ20の前後方向と、ヒッチ点C1の進行方向とのなす角度を、仮想操舵角と定義してもよい。
【0072】
「予測軌道情報算出処理について」
・転舵角α1の大きさが上限値α1th以下となる範囲で実際の仮想操舵角α2を目標仮想操舵角α2*に極力近づける場合のトレーラ30の予測軌道を算出する処理にとって、S30,S32等の処理は必須ではない。たとえば上記の式(c1)を逆に説いた式に基づき、上限値α1thを、仮想操舵角α2の大きさの上限値に変換する処理を含んでもよい。その場合、PU52は、仮想操舵角α2の大きさの上限値を用いて、目標仮想操舵角α2*に対して上限ガード処理を施せばよい。そしてPU52は、上限ガード処理が施された目標仮想操舵角α2*を上記の式(c1)によって目標転舵角α1*に変換した値を用いて、S34以降の処理を実行すればよい。
【0073】
・軌道の予測において角度θ1の初期値を、「90°」とすることは必須ではない。たとえば、地図データとトラクタ20の前後方向とを照合することによって、地図データ上に任意に定められた座標系における所定の軸とトラクタ20の前後方向とのなす角度を、予測軌道情報算出処理における角度θ1の初期値としてもよい。
【0074】
「転舵処理について」
・仮想操舵角α2を目標仮想操舵角α2*に近づけるように転舵角α1を制御する転舵処理としては、後退アシストモード時に実行される処理に限らない。たとえば連結車両10の前進運転時において、トラクタ20の操舵を自動で行う処理であってもよい。
【0075】
「転舵処理の解除条件について」
・上記実施形態では、転舵処理の解除条件である後退アシストモードの解除条件として、条件(A)および条件(B)の論理和が真となる旨の条件を例示したが、これに限らない。たとえば、上記条件(B)に代えて、連結車両10が前進した旨の条件としてもよい。またたとえば、条件(A)のみとしてもよい。
【0076】
「表示処理について」
・トレーラ30の予測軌道Trpに加えて目標軌道Trtを表示することは必須ではない。予測軌道Trpのみを表示する場合、たとえばトレーラ30の走行軌道として実現可能な領域を併せて表示してもよい。その場合、転舵角α1を変化させてもトレーラ30の走行経路がほとんど変化しない場合には、上記領域の幅が狭くなる。そのため、運転者に、仮想操舵角α2を変えてもトレーラ30の走行軌道を変えることが困難であることを知らせることができる。またたとえば、上記領域を表示する代わりに、領域の幅が所定以下であって且つ運転者が目標仮想操舵角α2*を操作する場合に、操作によってトレーラ30の軌道を変えることが困難であることを知らせてもよい。これは、視覚情報の表示によって行ってもよいが、音声によって通知してもよい。
【0077】
・たとえば
図8および
図9に例示した場合のように、予測軌道Trpと目標軌道Trtとの差が所定以下の場合には、予測軌道Trpのみを表示してもよい。すなわち、PU72は、逐次、予測軌道Trpと目標軌道Trtとの差が所定以下であるか否かを判定することによって、所定以下であると判定する場合には、目標軌道Trtを表示しなくてもよい。ここで、予測軌道Trpと目標軌道Trtとの差が所定以下であることは、たとえば、予測軌道Trpと目標軌道Trtとのそれぞれにおける同じタイミングにおける位置同士の差の平均値が所定以下であることとしてもよい。またたとえば、予測軌道Trpと目標軌道Trtとのそれぞれにおける同じタイミングにおける位置同士の差に所定値を超える位置がないこととしてもよい。
【0078】
・表示対象とする予測軌道情報としては、予測軌道Trpに限らない。たとえば、
図12に例示するように、予測軌道Trpに幅を持たせてもよい。なお、
図12(a)および
図12(b)は、
図8(a)および
図8(b)に対応している。
図12には、一対の予測軌道の境界TrpL,TrpRによって定まる領域をドット表示としている。また、一対の目標軌道の境界TrtL,TrtRによって定まる領域にハッチングをしている。ただし、実際の表示画面82aにおいては、これら2つの領域を互いに異なる色によって識別してもよい。
【0079】
予測軌道Trpに幅を持たせる処理は、たとえば、S30の処理において否定判定されるか否かに応じて次のようにして実現すればよい。すなわち、PU52は、S30の処理において否定判定する場合、S28の処理によって算出された目標転舵角α1*を用いて「α1*+δ」と「α1*-δ」とのそれぞれによって、S36~S46の処理を実行すればよい。また、PU52は、S30の処理において否定判定する場合、たとえば、S32の処理によって算出された目標転舵角α1*とそれよりも絶対値が所定量だけ小さい値とのそれぞれによって、S36~S46の処理を実行すればよい。
【0080】
目標軌道Trtに幅を持たせる処理については、境界TrtL,TrtRを次のようにして算出する処理とすればよい。すなわち、S20の処理によって取得された目標仮想操舵角α2*によって定まる「α2*+δ」と「α2*-δ」とのそれぞれを用いたS22の処理とすればよい。
【0081】
なお、予測軌道Trpに幅を持たせる処理を実行する場合に、目標軌道Trtに幅を持たせる処理を実行することは必須ではない。たとえば、目標軌道Trtについては、単一の軌道を表示対象としてもよい。また、予測軌道Trpに幅を持たせる処理を実行する場合に目標軌道Trtに関する視覚情報を一切表示しなくてもよい。
【0082】
・たとえば、「転舵処理について」の欄に記載したように、連結車両10の前進走行時に操舵を自動制御する場合には、トラクタ20の前方の画像に、トラクタ20の予測軌道Trpを重畳すればよい。
【0083】
・予測軌道Trpを表示する処理としては、カメラがとらえた連結車両10の周囲の画像に予測軌道Trpを重畳する処理に限らない。たとえば、
図13に例示するように、鳥観図を用いてもよい。
図13(a)および
図13(b)は、
図8(a)および
図8(b)に対応している。これは、キャンピングカー等の所定のトレーラ30を連結車両10における後退アシスト処理において特に有効である。すなわち、
図1に一点鎖線にて示すように、トレーラ30の高さが高い場合には、バックカメラ76が撮影した画像にトレーラ30の後方を移すことができない。
【0084】
なお、鳥観図に重畳する予測軌道情報としては、予測軌道Trpに限らない。たとえば、上述したように、予測軌道Trpに幅を持たせることによって得られる領域を鳥観図に重畳して表示してもよい。
【0085】
・トレーラ30の予測軌道情報の表示とともに、トラクタ20の予測軌道情報をさらに表示してもよい。
図14には、鳥観図に、予測軌道Trpおよび目標軌道Trtを重畳するとともに、トラクタ20の左端の予測軌道Tr1Lおよび右端の予測軌道Tr1Rを表示した。
図14(a)および
図14(b)は、
図8(a)および
図8(b)に対応している。なお、トラクタ20の予測軌道を表示する手法としては、左端の予測軌道Tr1Lおよび右端の予測軌道Tr1Rの双方を表示する手法に限らない。たとえば、トラクタ20の重心の予測軌道等、単一の予測軌道を表示する手法としてもよい。また、左端の予測軌道Tr1Lおよび右端の予測軌道Tr1Rの間の領域にマーキングするなど、幅を持たせた領域を表示してもよい。
【0086】
なお、トレーラ30の予測軌道情報の表示とともに、トラクタ20の予測軌道情報をさらに表示する手法にとって、鳥観図を用いることは必須ではない。たとえば、連結車両10の外部を撮影した画像に重畳してもよい。また、トレーラ30の目標軌道情報を併せて表示することも必須ではない。
【0087】
・表示対象とされるトレーラ30の予測軌道情報が、予測軌道Trp、または予測軌道Trpに幅を持たせた領域であることは必須ではない。たとえば、連結車両10の手動操舵時において、トレーラ30の進行方向が直進ではない場合、トレーラ30の進行方向を示す右側または左側の矢印を表示対象としてもよい。
【0088】
「制御装置について」
・制御装置としては、PU52と記憶装置54とを備えて、ソフトウェア処理を実行するものに限らない。たとえば、上記実施形態においてソフトウェア処理されたものの少なくとも一部を、ハードウェア処理するたとえばASIC等の専用のハードウェア回路を備えてもよい。すなわち、制御装置は、以下の(a)~(c)のいずれかの構成であればよい。(a)上記処理の全てを、プログラムに従って実行する処理装置と、プログラムを記憶する記憶装置等のプログラム格納装置とを備える。(b)上記処理の一部をプログラムに従って実行する処理装置およびプログラム格納装置と、残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備える。(c)上記処理の全てを実行する専用のハードウェア回路を備える。ここで、処理装置およびプログラム格納装置を備えたソフトウェア実行装置や、専用のハードウェア回路は複数であってもよい。
【0089】
「コンピュータについて」
・後退アシストプログラム54a等の制御プログラムを実行するコンピュータとしては、連結車両10に搭載されたコンピュータに限らない。たとえば、連結車両10に搭載された上記PU52と、運転者の携帯端末との双方によって同コンピュータを構成してもよい。その場合、たとえば、S28~S32,S36~S50の処理を携帯端末が実行してもよい。
【0090】
「車両について」
・連結車両としては、
図1に例示した車両に限らない。
【符号の説明】
【0091】
10…連結車両
20…トラクタ
22…前輪
24…後輪
30…トレーラ
32…車輪
40…ボールジョイント
42…軸
50…制御装置
82a…表示画面