(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172330
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】AIを用いた籠型回転子の欠陥検出装置
(51)【国際特許分類】
H02K 15/02 20060101AFI20231129BHJP
G01N 27/82 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
H02K15/02 J
G01N27/82
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084040
(22)【出願日】2022-05-23
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-11-22
(71)【出願人】
【識別番号】594068022
【氏名又は名称】山中産業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】522203684
【氏名又は名称】東伸金属工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591014813
【氏名又は名称】株式会社田代合金所
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】弁理士法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新納 義昭
【テーマコード(参考)】
2G053
5H615
【Fターム(参考)】
2G053AA11
2G053AB01
2G053BA02
2G053BA13
2G053BC02
2G053BC14
2G053CA03
2G053DA01
2G053DA10
2G053DB02
5H615AA05
5H615BB01
5H615BB06
5H615BB14
5H615PP03
5H615SS57
(57)【要約】 (修正有)
【課題】熟練者に頼ることなくAIを用いて容易かつ確実に推定し報知する籠型回転子の欠陥検出装置を提供する。
【解決手段】籠型回転子Rの1つの導体棒に跨って配置可能な変動磁場発生手段1及び検出手段2、回転子モデルM1~Mnを作成し、それらの構造データK1~Knを出力する回転子モデルデータ出力手段3、構造データK1~Kn及び交流電源データACを受けて第2コイルに誘起される電流値を数値解析し、大量の学習データL1~Lnを生成する回転子モデル解析手段4、予め学習データL1~Lnが与えられて最適化されており、検出手段2で検出された時系列の電流値データCを受けて逆解析を行い籠型回転子Rの導体棒に存在する欠陥の有無、規模及び位置を示す欠陥状態推定情報を出力するニューラルネットワーク5及び欠陥情報報知手段6を備える籠型回転子の欠陥検出装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
籠型回転子の導体棒に存在する欠陥を推定し報知するための欠陥検出装置であって、
前記籠型回転子の1つの導体棒に跨って配置可能なコの字状の第1鉄心、該第1鉄心に巻回される第1コイル及び該第1コイルに接続される交流電源からなる変動磁場発生手段と、
前記籠型回転子の1つの導体棒に跨って配置可能なコの字状の第2鉄心、該第2鉄心に巻回される第2コイル及び該第2コイルに誘起される電流値又は電圧値を検出する計器からなる検出手段と、
前記籠型回転子について、1つの導体棒に存在する欠陥が異なる多数の回転子モデルを作成し、該多数の回転子モデルに関する構造データを出力する回転子モデルデータ出力手段と、
前記回転子モデルデータ出力手段から出力される前記構造データ及び交流電源データを受けて、前記第1鉄心と前記第2鉄心を各回転子モデルの1つの導体棒に跨って配置し、前記第1コイルに所定の交流を印加した場合に、前記第2コイルに誘起される電流値又は電圧値を数値解析する数値解析手段を有し、数値解析の対象となった回転子モデルを特定する特定情報及び該回転子モデルについて行われた数値解析により得られた数値解析データを学習データとして出力する回転子モデル解析手段と、
前記第1コイルに所定の交流が印加された時に前記検出手段で検出された時系列の電流値データ又は電圧値データを受けて逆解析を行い、欠陥有無推定情報を出力するニューラルネットワークと、
前記ニューラルネットワークから出力された前記欠陥有無推定情報に応じて、前記籠型回転子の導体棒に存在する欠陥の有無を報知する欠陥情報報知手段を備え、
前記ニューラルネットワークは、前記回転子モデル解析手段から出力される前記多数の回転子モデルについての学習データが予め与えられ、自己学習させることによって最適化されている
ことを特徴とする籠型回転子の欠陥検出装置。
【請求項2】
前記ニューラルネットワークは、欠陥有無推定情報に代えて欠陥規模推定情報を出力し、
前記欠陥情報報知手段は、前記欠陥規模推定情報に応じて、前記籠型回転子の導体棒に存在する欠陥の規模を報知する
ことを特徴とする請求項1記載の籠型回転子の欠陥検出装置。
【請求項3】
前記変動磁場発生手段は、前記籠型回転子の一端側に配置され、
前記検出手段は、前記籠型回転子の他端から前記変動磁場発生手段が配置されている箇所の間に設定した複数箇所に順次配置され、
前記数値解析手段は、前記第2鉄心を各回転子モデルの他端から前記第1鉄心が配置されている箇所の間に設定した複数箇所に順次配置し、前記第1コイルに所定の交流を印加した場合に、前記第2コイルに誘起される電流値又は電圧値を数値解析するものであり、
前記特定情報は、数値解析の対象であって、前記第2鉄心を前記複数箇所に順次配置した回転子モデルを特定する情報であり、
前記ニューラルネットワークは、前記時系列の電流値データ又は電圧値データ及び前記検出手段の配置位置データを受けて逆解析を行い、欠陥有無推定情報及び欠陥位置推定情報を出力し、
前記欠陥情報報知手段は、前記ニューラルネットワークから出力された前記欠陥有無推定情報及び欠陥位置推定情報に応じて、前記籠型回転子の導体棒に存在する欠陥の有無及び位置を報知する
ことを特徴とする請求項1記載の籠型回転子の欠陥検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、籠型回転子を構成する導体棒に存在している可能性のある鋳巣やバー切れ(以下「欠陥」という。)の状態(欠陥の有無、規模又は位置)を推定し、その推定結果を報知することができるAIを用いた籠型回転子の欠陥検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車や工作機械の駆動部に利用される誘導電動機には、回転子鉄心、同回転子鉄心の外周面近傍に貫通している複数の穴に、アルミニウムや銅等の電気良導性金属材料の溶湯を流入させてなる導体棒及び回転子鉄心の両端部で全ての導体棒を連結する一対の端絡環からなる籠形回転子が利用されている。
そして、籠形回転子の導体棒や端絡環の一部に発生する欠陥及び導体棒と端絡環との接続部に発生する接続不良は、誘導電動機の性能や寿命に大きく影響する場合があるので、これらの欠陥や接続不良を検査する必要があるところ、端絡環や導体棒と端絡環との接続部については、回転子鉄心の外部に露出しているため比較的検査し易い。
しかし、導体棒については溶湯を流入させる際に空気を巻き込んでしまい、そのまま固化した場合には内部に欠陥を生じることがある。そして、その欠陥がバー切れに近いものであれば誘導電動機の性能に影響し、鋳巣であっても規模や形状によっては誘導電動機の性能や寿命に影響する場合があり、むしろ、寿命が短くなる程度の鋳巣は、当初の試験では発見されにくいため、質の悪い誘導電動機を生産してしまう原因となっている。
特に、回転子鉄心の貫通穴が外周面に開口しない閉鎖スロットである場合、導体棒を外部から視認できないため、作業者の目視による欠陥のチェックはできず、テスター等を用いて各導体棒の電気抵抗を計測することもできない。
【0003】
このような課題を解決するため、特許文献1(特開平9-37527号公報)には、交流電源(48)が接続されている第1コイル(42)を巻付けた鉄心(46)と、処理装置(52)が接続されている第2コイル(44)を巻付けた鉄心(50)を有し、鉄心(46)及び鉄心(50)には、それぞれ籠形回転子(12)の回転子鉄心(18)に対向可能な一対の突歯(54)及び突歯(56)が設けられている欠陥検出装置(40)が記載されている(特に、段落0022及び
図4を参照)。
この欠陥検出装置(40)は、第1コイル(42)が形成する交番磁束によって検査対象の導体棒(22)に誘起される二次電流が、その導体棒(22)の周囲に誘導交番磁束を形成し、誘導交番磁束に誘起されて第2コイル(44)に微小な交流起電力が生じ、その交流起電力を処理装置(52)で検出して、籠形回転子(12)の電気的欠陥の有無を周辺貫通穴(20)の構成に係わらず正確に判定できるというものである。(特に、段落0023~0026を参照)。
【0004】
しかし、特許文献1に記載されている発明によれば、導体棒(22)における電気的欠陥(バー切れ)の有無は判定できるものの、鋳巣の有無、規模及び位置を推定することはできず、段落0025及び
図3に示されるように、検査対象の導体棒(22)が複数個であって、その内の1個に電気的欠陥が有る場合、検査対象の導体棒(22)の全てが欠陥を有しない場合の検出信号に比べて振幅が小さくなるだけなので、判定には熟練者が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9-37527号公報(特許第3608846号公報)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような問題を解決し、外観検査やテスター等による検査を行うことのできない閉鎖スロットに形成される導体棒の内部に存在している可能性のあるバー切れ又は鋳巣(以下「欠陥」という。)の有無を、熟練者に頼ることなくAIを用いて容易かつ確実に推定し報知する籠型回転子の欠陥検出装置を提供することを第1の課題としている。
また、籠型回転子の欠陥検出装置において、欠陥の規模を推定し報知できるようにすることを第2の課題とし、欠陥の位置についても推定し報知できるようにすることを第3の課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するための請求項1に係る発明は、籠型回転子の導体棒に存在する欠陥を推定し報知するための欠陥検出装置であって、
前記籠型回転子の1つの導体棒に跨って配置可能なコの字状の第1鉄心、該第1鉄心に巻回される第1コイル及び該第1コイルに接続される交流電源からなる変動磁場発生手段と、
前記籠型回転子の1つの導体棒に跨って配置可能なコの字状の第2鉄心、該第2鉄心に巻回される第2コイル及び該第2コイルに誘起される電流値又は電圧値を検出する計器からなる検出手段と、
前記籠型回転子について、1つの導体棒に存在する欠陥が異なる多数の回転子モデルを作成し、該多数の回転子モデルに関する構造データを出力する回転子モデルデータ出力手段と、
前記回転子モデルデータ出力手段から出力される前記構造データ及び交流電源データを受けて、前記第1鉄心と前記第2鉄心を各回転子モデルの1つの導体棒に跨って配置し、前記第1コイルに所定の交流を印加した場合に、前記第2コイルに誘起される電流値又は電圧値を数値解析する数値解析手段を有し、数値解析の対象となった回転子モデルを特定する特定情報及び該回転子モデルについて行われた数値解析により得られた数値解析データを学習データとして出力する回転子モデル解析手段と、
前記第1コイルに所定の交流が印加された時に前記検出手段で検出された時系列の電流値データ又は電圧値データを受けて逆解析を行い、欠陥有無推定情報を出力するニューラルネットワークと、
前記ニューラルネットワークから出力された前記欠陥有無推定情報に応じて、前記籠型回転子の導体棒に存在する欠陥の有無を報知する欠陥情報報知手段を備え、
前記ニューラルネットワークは、前記回転子モデル解析手段から出力される前記多数の回転子モデルについての学習データが予め与えられ、自己学習させることによって最適化されていることを特徴とする。
【0008】
上記の課題を解決するための請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明の欠陥検出装置において、
前記ニューラルネットワークは、欠陥有無推定情報に代えて欠陥規模推定情報を出力し、
前記欠陥情報報知手段は、前記欠陥規模推定情報に応じて、前記籠型回転子の導体棒に存在する欠陥の規模を報知することを特徴とする。
【0009】
上記の課題を解決するための請求項3に係る発明は、請求項1に係る発明の欠陥検出装置において、
前記変動磁場発生手段は、前記籠型回転子の一端側に配置され、
前記検出手段は、前記籠型回転子の他端から前記変動磁場発生手段が配置されている箇所の間に設定した複数箇所に順次配置され、
前記数値解析手段は、前記第2鉄心を各回転子モデルの他端から前記第1鉄心が配置されている箇所の間に設定した複数箇所に順次配置し、前記第1コイルに所定の交流を印加した場合に、前記第2コイルに誘起される電流値又は電圧値を数値解析するものであり、
前記特定情報は、数値解析の対象であって、前記第2鉄心を前記複数箇所に順次配置した回転子モデルを特定する情報であり、
前記ニューラルネットワークは、前記時系列の電流値データ又は電圧値データ及び前記検出手段の配置位置データを受けて逆解析を行い、欠陥有無推定情報及び欠陥位置推定情報を出力し、
前記欠陥情報報知手段は、前記ニューラルネットワークから出力された前記欠陥有無推定情報及び欠陥位置推定情報に応じて、前記籠型回転子の導体棒に存在する欠陥の有無及び位置を報知することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る籠型回転子の欠陥検出装置は、変動磁場発生手段に所定の交流が印加された時に検出手段で検出された時系列の電流値データ又は電圧値データを、ニューラルネットワークに入力することによって逆解析を行い、欠陥有無推定情報を出力し、出力された欠陥有無推定情報に応じて、籠型回転子の導体棒に存在する欠陥の有無を報知する欠陥情報報知手段を備えているとともに、ニューラルネットワークは、回転子モデル解析手段から出力される多数の回転子モデルについての学習データが予め与えられ、自己学習させることによって最適化されているので、外観検査やテスター等による検査を行うことのできない閉鎖スロットに形成される導体棒の内部に存在している可能性のある欠陥の有無を、熟練者に頼ることなくAIを用いて容易かつ確実に推定し報知することができる。
そのため、導体棒の欠陥による誘導電動機の性能低下を、誘導電動機を組み上げる前に事前に推定し報知できることから、籠型回転子の性能低下を予防でき、製品の品質向上につなげることができるとともに、各種トラブルの発生を抑制することができる。
【0011】
請求項2に係る籠型回転子の欠陥検出装置は、請求項1に係る発明が奏する上記の効果に加え、ニューラルネットワークは、欠陥有無推定情報に代えて欠陥規模推定情報を出力し、欠陥情報報知手段は、欠陥規模推定情報に応じて欠陥の規模を報知するので、籠型回転子の導体棒に存在する欠陥の規模を推定し報知することができる。
【0012】
請求項3に係る籠型回転子の欠陥検出装置は、請求項1に係る発明が奏する上記の効果に加え、ニューラルネットワークは、欠陥有無推定情報及び欠陥位置推定情報を出力し、欠陥情報報知手段は、欠陥有無推定情報及び欠陥位置推定情報に応じて欠陥の有無及び位置を報知するので、籠型回転子の導体棒に存在する欠陥の位置についても推定し報知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例1に係る籠型回転子の欠陥検出装置のブロック図。
【
図2】バー切れを模した円柱状の欠陥の例を示す図。
【
図3】大きな鋳巣を模した半円柱状の欠陥の例を示す図。
【
図4】小さな鋳巣を模した半円柱状の欠陥の例を示す図。
【
図5】検出手段の第2コイルに誘導電流が発生する原理を説明する図。
【
図6】実施例1に係る籠型回転子の欠陥検出装置のアルゴリズムを示すフロー図。
【
図7】欠陥の規模のパターンと位置のパターンについての20ケースを示す表。
【
図8】
図7に示す20ケースの欠陥を有する回転子モデルにおいて、第2コイルに発生する誘導電流の数値解析データ(時系列の電流値データ)を示すグラフ。
【
図9】検証用データを逆解析して得られた欠陥の規模及び位置の推定結果を示す表。
【
図10】実施例2に係る籠型回転子の欠陥検出装置のブロック図。
【
図11】実施例2に係る籠型回転子の欠陥検出装置のアルゴリズムを示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、実施例によって、本発明の実施の形態を説明する。
【実施例0015】
図1は実施例1に係る籠型回転子の欠陥検出装置のブロック図である。
図1に示すように、実施例1に係る籠型回転子の欠陥検出装置は、誘導電動機の籠型回転子R(具体的には、円筒状の回転子鉄心の外周面近傍に導体棒を有するとともに、回転子鉄心の両端部において一対の端絡環によって全ての導体棒が連結されているもの)の導体棒内部に発生する可能性のある欠陥の有無、規模及び位置を推定し報知するためのものであって、次の各手段からなっている。
(1)籠型回転子Rの1つの導体棒に跨って配置可能なコの字状の第1鉄心、第1鉄心に巻回される第1コイル及び第1コイルに接続される交流電源からなる変動磁場発生手段1。
(2)籠型回転子Rの1つの導体棒に跨って配置可能なコの字状の第2鉄心、第2鉄心に巻回される第2コイル及び第2コイルに誘起される電流値を検出する検出手段2。
なお、籠型回転子Rを構成する回転子鉄心、導体棒及び端絡環並びに第1鉄心及び第2鉄心の材質や形状、さらに、第1コイル及び第2コイルの抵抗率、線径、巻き数等は事前に分かっており、交流電源は単相100V、50Hzである。
【0016】
(3)籠型回転子Rについて、1つの導体棒に存在する欠陥が異なる多数の回転子モデルM1~Mnを作成し、回転子モデルM1~Mnに関する構造データK1~Knを出力する回転子モデルデータ出力手段3。
(4)回転子モデルデータ出力手段3から出力される構造データK1~Kn及び交流電源データACを受けて、変動磁場発生手段1と検出手段2を各回転子モデルの1つの導体棒に跨って配置し、第1コイルに所定の交流を印加した場合に、第2コイルに誘起される電流値を数値解析する数値解析手段を有し、回転子モデルM1については、特定情報k1と数値解析により得られた数値解析データA1を学習データL1として出力し、以下同様に回転子モデルMnについては、特定情報knと数値解析により得られた数値解析データAnを学習データLnとして出力する回転子モデル解析手段4。
(5)変動磁場発生手段1に所定の交流が印加された時に、検出手段2で検出された時系列の電流値データCを受けて逆解析を行い、籠型回転子Rの導体棒に存在する欠陥の有無、規模及び位置を示す欠陥状態推定情報を出力するニューラルネットワーク5。
(6)ニューラルネットワーク5から出力された欠陥状態推定情報に応じて、籠型回転子Rの導体棒に存在する欠陥の有無、規模及び位置を表示する欠陥情報表示手段6。
【0017】
以下では、各手段について詳しく説明する。
(変動磁場発生手段1)
変動磁場発生手段1は、コの字状の第1鉄心を籠型回転子Rの一端側(
図1の右側)において1つの導体棒に跨るように配置し、第1コイルに交流電源から所定の交流(100V、10A、50Hz)を印加し、第1コイルに流れる励磁電流によって、第1鉄心と回転子鉄心との間に1つの導体棒に鎖交する交番磁束を形成する手段である。
なお、コの字状の第1鉄心は1つの導体棒に跨っていれば、籠型回転子Rのどこに配置しても良いが、実施例1では一例として一端側に配置している。
また、所定の交流は高電圧及び大電流とした方が、推定精度を上げることができるので、第1コイルには太いものを使用し、できる限り多く巻回した方が良い。
【0018】
(検出手段2)
検出手段2は、コの字状の第2鉄心を籠型回転子Rの他端側(
図1の左側)において、第1鉄心を跨らせたのと同じ1つの導体棒に跨るように配置し、第2コイルに接続されている電流計で電流値を検出し、第2コイルに誘起される時系列の電流値データCを検出する手段である(第2コイルに電流が誘起される原理については後述する)。
なお、第2鉄心は上記1つの導体棒に跨っていれば、籠型回転子Rのどこに配置しても良いが、実施例1では処理を容易にするため他端側に固定的に配置している。
また、第2コイルに誘起される時系列の電流は比較的小さいため、第2コイルに使用する電線は第1コイルより細いもので良く、巻き数を多くした方が良い。
【0019】
(回転子モデルデータ出力手段3)
回転子モデルデータ出力手段3は、内部構造、すなわち欠陥の規模と位置が異なる(欠陥の無いものを含む)回転子モデルM1~Mnとして、1つの導体棒に
図2~4に示すようなバー切れ又は鋳巣を模した様々な大きさの半円柱状又は円柱状の欠陥1つを、ランダムに配置したものを作成する。
そして、欠陥の規模としては、次の(1)~(4)の全500パターンを作成した。
(1)円柱状の欠陥によって導体棒の断面がほぼ全部(0.1mm
2未満に)削れているもの(表では「バー切」と表示。)を31パターン(
図2はその一例)。
(2)導体棒の厚さと同じ半径を有する半円柱状の欠陥によって、導体棒の残っている断面積が0.1mm
2以上8mm
2未満のもの(表では「小」と表示。)を192パターン(
図3はその一例)。
(3)導体棒の厚さの半分の半径を有する半円柱状の欠陥によって、導体棒の残っている断面積が8mm
2以上20mm
2未満のもの(表では「大」と表示。)を221パターン(
図4はその一例)。
(4)導体棒のどこにも欠陥がないもの(表では「傷無」と表示。)を56パターン。
また、欠陥の位置としては、次の(a)~(c)の全500パターンを作成した。
(a)欠陥が検出手段の真下にあるもの(表では「真下」と表示。)を65パターン。
(b)欠陥が検出手段の真下にないもの(表では「外」と表示。)を379パターン(
図2~4はいずれもこのパターン)。
(c)導体棒のどこにも欠陥がないもの(表では「傷無」と表示。)を56パターン。
なお、実施例1における回転子モデルの全500パターンは、(1)及び(a)のパターン、(1)及び(b)のパターン、(2)及び(a)のパターン、(2)及び(b)のパターン、(3)及び(a)のパターン、(3)及び(b)のパターン並びに(4)及び(c)のパターンのいずれかに振り分けられる。
また、各回転子モデルに1対1に対応する構造データK1~Knを出力している。
【0020】
(回転子モデル解析手段4)
実施例1の回転子モデル解析手段4では、数値解析手段として有限要素法による解析手段(以下「FEM電磁解析手段」という。)を用いた。
FEM電磁解析手段によれば、回転子モデル及び籠型回転子Rの1つの導体棒に跨って配置される第1鉄心と第2鉄心を多数の四面体のメッシュに切り、各種の条件(回転子モデルの磁性体部分の透磁率、表皮部分の透磁率、導体棒の透磁率及び比抵抗、第1鉄心及び第2鉄心の透磁率並びに第1コイル及び第2コイルの巻き数)を設定すると、回転子モデルに変動磁場発生手段1及び検出手段2を設置したと仮定した場合において、第1コイルに所定の交流(100V,10A,50Hz)を印加することによって、第2コイルに発生する誘導電流の時系列データを求めることができる。
ここで、第2コイルに電流が発生する原理は、
図5に示すように、第1コイル1cに所定の交流1pを印加すると、第1鉄心1iが跨っている導体棒Rcの周囲に発生する変動磁場φ(t)によって導体棒Rcに電流I(t)が誘起され、その電流I(t)によって第2鉄心に変動磁場が発生し、その変動磁場によって第2コイルに誘導電流が発生することによる。
そして、回転子モデルデータ出力手段3によって、内部構造(欠陥の規模と位置)が各々異なる回転子モデルM1~Mnが作成され、各回転子モデルに関する構造データK1~Kn及び交流電源データACが出力されると、各回転子モデルの1つの導体棒に変動磁場発生手段1及び検出手段2が配置され、第1コイルに所定の交流が印加された場合に、第2コイルに発生する誘導電流の数値解析データが得られるので、各回転子モデルを特定する特定情報k1~kn及び各回転子モデルについて得られた数値解析データA1~Anからなる大量の学習データL1~Lnを短時間のうちに用意することができる。
【0021】
(ニューラルネットワーク5)
ニューラルネットワーク5は、
図1に示すように、入力層5I、出力層5O、学習データ蓄積手段5L、学習データ蓄積手段5Lに大量の学習データL1~Lnを入力する学習データ入力手段5T並びに図示しない複数の中間層、その他で構築される。
また、中間層は、畳み込み層やプーリング層、全結合層など様々に工夫された層を、必要に応じて組み合わせて構成される。
そして、ニューラルネットワーク5は、学習データ蓄積手段5Lに大量の学習データL1~Lnを蓄え、自己学習させることによって最適化される。すなわち、十分な数(欠陥の規模や位置をどの程度まで推定するかに応じて1万~数10万)の学習データによって最適化されたパラメータを用いることにより95%以上の推定精度を得ることができる。
そうした上で、入力層5Iに実際に検出手段2から出力された時系列の電流値データCが入力されると、ニューラルネットワーク5は逆解析を行い、籠型回転子Rの導体棒に存在する欠陥の有無、規模及び位置を示す欠陥状態推定情報を出力層5Oから出力する。
【0022】
(欠陥情報表示手段6)
欠陥情報表示手段6は、ニューラルネットワーク5から出力された欠陥状態推定情報に応じて、籠型回転子Rの導体棒に存在する欠陥の有無、規模及び位置を表示するものであり、通常の表示態様では各導体棒を模した線分にナンバーを付しておくとともに、欠陥の規模と位置を示す表示を各線分の対応する位置に表示する。
なお、どの導体棒かを特定する数字と欠陥の規模と位置を示す文字、記号又は数字等を表にして表示する態様も選択できる。
【0023】
図6は、実施例1に係る籠型回転子の欠陥検出装置のアルゴリズムを示すフロー図であり、以下の手順(T1)~(T4)で多数の学習データL1~Lnを生成し、ニューラルネットワーク5に蓄積して自己学習させた上で、手順(1)~(6)で籠型回転子Rの導体棒に存在する欠陥の有無、規模及び位置を推定し、推定した欠陥の有無、規模及び位置を表示する。
(T1)事前に分かっている籠型回転子Rの回転子鉄心、導体棒及び端絡環等の材質や形状等に基づいて、多数の回転子モデル(M1~Mn)を作成する。
(T2)各回転子モデルの構造データK1~Knを作成する。
(T3)FEM電磁解析手段により、各構造データK1~Kn及び交流電源データACに基づいて、各回転子モデルにおいて第1コイルに所定の交流を印加した場合に、第2コイルに誘起される電流値の時系列データを示す数値解析データA1~Anを出力する。
(T4)各回転子モデルを特定する特定情報k1~kn及び上記T3で出力された数値解析データA1~Anからなる学習データL1~Lnを生成し、ニューラルネットワーク5に蓄積する。
(1)籠型回転子Rの一端側に配置した変動磁場発生手段1に所定の交流を印加する。
(2)変動磁場発生手段1の第1コイルに所定の交流を印加した場合に、検出手段2の第2コイルに誘起される時系列の電流値データCを検出する。
(3)検出した時系列の電流値データCをニューラルネットワーク5に送る。
(4)ニューラルネットワーク5は、入力された時系列の電流値データCに基づいて逆解析を行う。
(5)逆解析により籠型回転子Rの導体棒に存在する欠陥の有無、規模及び位置を示す欠陥状態推定情報を出力し、欠陥情報表示手段6に送る。
(6)欠陥情報表示手段6は、欠陥状態推定情報に基づいて籠型回転子Rの導体棒に存在する欠陥の有無、規模及び位置の表示を行う。
そして、推定及び表示を行っていない導体棒があれば、変動磁場発生手段1及び検出手段2を、その導体棒に跨らせるように移動させて上記手順(1)~(6)を実行し、全部の導体棒について推定した欠陥の有無、規模及び位置を表示したら終了する。
【0024】
図7は欠陥の規模のパターンと位置のパターンに関する20種類のケースを示す表であり、
図8は
図7に示すケース1~20の回転子モデルについて、第2コイルに発生する誘導電流の数値解析データ(時系列の電流値データ)を示すグラフである。
図8に示すグラフのうち、振幅が最も小さい破線のグラフは、ケース7の欠陥(検出手段2の真下にないバー切れ)を有する回転子モデルについての数値解析データであり、振幅が次に小さい二点鎖線のグラフは、ケース8の欠陥(検出手段2の真下にないバー切れ)を有する回転子モデルについての数値解析データである。
なお、同じ検出手段2の真下にないバー切れの欠陥であるにもかかわらず異なるグラフとなる原因は、バー切れの程度が違っているからである。
また、振幅が3番目に小さい二点鎖線のグラフは、ケース20の欠陥(検出手段2の真下にない断面積0.1~8mm
2)を有する回転子モデルについての数値解析データであり、振幅が4番目に小さい鎖線のグラフは、ケース9の欠陥(検出手段2の真下にない断面積0.1~8mm
2)を有する回転子モデルについての数値解析データである。
この2つのグラフについても、同じ検出手段2の真下にない断面積0.1~8mm
2の欠陥であるにもかかわらず、異なるグラフとなる原因は導体棒に残っている断面積が違っているからである。
さらに、振幅が最も大きい実線のグラフは、ケース1の欠陥(傷無)である回転子モデルについての数値解析データであり、ケース4の欠陥(傷無)である回転子モデルについての一点鎖線のグラフは、ケース1のグラフと完全に重なっている。
その他のグラフについては、導体棒の残っている断面積が比較的大きいため、振幅の変化の差が小さく
図8では判別し難いが、実際には異なるグラフとなっている。
【0025】
実施例1では様々な欠陥の規模と位置(傷無を含む)を有する回転子モデルを全500パターン作成し、450パターンの回転子モデルについての数値解析データを学習用に用い、残り50パターンの回転子モデルについての数値解析データは検証用とした。
図9は検証用の数値解析データのうちの25個(25組の時系列の電流値データ)をニューラルネットワーク5に入力し、逆解析して得られた欠陥状態推定情報(欠陥の規模と位置についての確率)及び推測した状態と実際の状態とを比較した結果の表である。
なお、推測欄における「バー切」、「小」、「大」、「傷無」、「外」、「真下」及び「傷無」の記載は、それぞれの確率が75%以上であることを示しており、「小切」、「小大」、「大切」、「大小」、「大無」、「外下」及び「外無」は、75%以上の確率のものが無い場合に、最大確率のものを左側に、次に大きい確率のものを右側に記載してある。
ただし、「小切」及び「大切」の「切」は「バー切」を、「外下」の「下」は「真下」を、「大無」及び「外無」の「無」は「傷無」を示している。
そして、推測した欠陥の規模(残部の面積)と実際の欠陥の規模を比較してみると、14個は完全一致「◎」、9個は一致「○」(75%以上の確率ではないが最大確率のものが一致)、2個は次点一致「△」(最大確率が75%未満で2番目に高い確率のものが一致)であり、次点一致を外れとしても92%の正答率であった。
また、75%以上の確率となったものは全て完全一致しており、完全に外れとなったものはなかったので、損傷の程度については学習データが450個(450組の時系列の電流値データ)しかなくても、高い精度で推定できていることを確認できた。
次に、推測した欠陥の位置と実際の欠陥の位置を比較してみると、13個は完全一致「◎」、8個は一致「○」、1個は次点一致「△」、3個は外れ「×」(75%以上の確率のものが不一致又は次点一致も無し)であり、次点一致を外れとしても84%の正答率であった。
(3)実施例1及び2のニューラルネットワーク5は、籠型回転子Rの導体棒に存在する欠陥の有無、規模及び位置を示す欠陥状態推定情報を出力するものであったが、欠陥の有無のみを示す欠陥有無推定情報を出力するものとしても良く、欠陥の有無及び規模を示す欠陥規模推定情報を出力するものとしても良く、欠陥の有無を示す欠陥有無推定情報と欠陥の位置を示す欠陥位置推定情報を出力するものとしても良い。
(4)実施例1及び2に係る欠陥情報表示手段6は、籠型回転子Rの導体棒に存在する欠陥の有無、規模及び位置を表示するものであったが、表示に代え又は加えて、音声で知らせても良く、他の処理装置に欠陥の有無、規模及び位置に関する情報を送信しても良い。
そのため、特許請求の範囲では「欠陥情報報知手段」という表現を用いている。
(5)実施例1及び2に係る籠型回転子の欠陥検出装置においては、推定及び表示を行っていない導体棒が有るか否かの判断を手順(6)の後に行ったが、その判断を手順(5)の後に行い、全部の導体棒についての推定が終了してから、手順(6)として、欠陥情報表示手段6で、籠型回転子Rの全ての導体棒に存在する欠陥の有無、規模及び位置の表示を、まとめて行うようにしても良い。
(6)実施例1及び2に係る籠型回転子の欠陥検出装置では、学習データや検証データの生成にFEM電磁解析手段を用いたが、FEM電磁解析手段に限らず、差分法や境界要素法等に基づく数値解析手段を用いても良い。