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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172333
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】異常検知システム
(51)【国際特許分類】
   G01M 99/00 20110101AFI20231129BHJP
   G05B 23/02 20060101ALI20231129BHJP
   B29C 45/03 20060101ALI20231129BHJP
   G01N 29/14 20060101ALI20231129BHJP
   G01N 29/44 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
G05B23/02 Z
G05B23/02 302Z
B29C45/03
G01N29/14
G01N29/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084043
(22)【出願日】2022-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】小澤 博
【テーマコード(参考)】
2G024
2G047
3C223
4F206
【Fターム(参考)】
2G024AD08
2G024BA27
2G024CA13
2G024DA28
2G024FA06
2G024FA14
2G024FA15
2G047AA05
2G047AC05
2G047BA05
2G047BC03
2G047BC11
2G047EA10
2G047GG06
2G047GG20
2G047GG33
2G047GG37
2G047GG38
3C223AA12
3C223BA03
3C223CC02
3C223DD03
3C223EB02
3C223FF03
3C223FF04
3C223FF16
3C223FF22
3C223FF26
3C223FF33
3C223GG01
3C223HH02
4F206AM04
4F206JA07
4F206JL02
4F206JP11
4F206JP15
4F206JP30
(57)【要約】
【課題】製造装置の異常の有無を精度良く判定することができる異常検知システムを提供する。
【解決手段】異常検知システム20は、データ収集部31、大容量記憶部24、モデル判定部34を備える。データ収集部31は、射出成形機10に設けられたAEセンサ25,26の検出信号の時系列データである検出データ242を収集する。検出データ242は、射出成形機10における1回の加工を実行する実行期間におけるAEセンサ25,26の検出信号である。大容量記憶部24は、検出データ242の平均値、標準偏差、および最大値のうちの少なくとも1つを特徴量として学習された学習判定モデル241を記憶する。モデル判定部34は、データ収集部31によって収集される検出データ242を入力データとして、大容量記憶部24に記憶された学習判定モデル241をもとに、射出成形機10の異常の有無を判定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一の加工を繰り返し実行する製造装置の異常を検知する異常検知システムであって、
前記製造装置に設けられたAEセンサによって前記製造装置における1回の加工を実行する実行期間におけるAE波の時系列データを収集するデータ収集部と、
前記時系列データの平均値、標準偏差、および最大値のうちの少なくとも1つを特徴量として学習された学習判定モデルを記憶する記憶部と、
前記データ収集部によって収集される前記時系列データを入力データとして、前記記憶部に記憶された前記学習判定モデルをもとに、前記製造装置の異常の有無を判定するモデル判定部と、を備える異常検知システム。
【請求項2】
前記学習判定モデルは、前記平均値、前記標準偏差、および前記最大値のうちの少なくとも2つを特徴量として学習されたモデルである
請求項1に記載の異常検知システム。
【請求項3】
前記製造装置による前記加工を開始した当初の所定期間において、前記データ収集部により収集された前記時系列データを正常データとして用いて学習することで、前記学習判定モデルを構築するモデル構築部を有する
請求項1または2に記載の異常検知システム。
【請求項4】
前記製造装置は、前記AEセンサとして、測定周波数の異なる2種類のものが設けられており、
前記データ収集部は、前記2種類の前記AEセンサについて各別に前記時系列データを収集するものであり、
前記記憶部は、前記2種類の前記AEセンサについての前記時系列データをもとに学習された前記学習判定モデルを記憶するものである
請求項1に記載の異常検知システム。
【請求項5】
前記AEセンサにより検出される前記AE波の強度が、予め定められた所定の瞬時判定値を超えたときに、前記製造装置を強制停止する瞬時判定部を備える
請求項1に記載の異常検知システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常検知システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、製造装置に設けられたアコースティックエミッション(AE)センサによって同製造装置が発するAE波を検出するとともに、その検出値に基づいて製造装置の異常を検知する異常検知システムが知られている(例えば特許文献1)。特許文献1に記載の異常検知システムでは、射出成形機にAEセンサが設けられている。そして、射出成形機の作動中に、AEセンサによって検出されるAE波の瞬時値が予め定められた閾値よりも大きくなったことに基づいて、射出成形機の異常が検知される。この異常検知システムでは、射出成形機に異常(変形や亀裂など)の異常が生じたときに、射出成形機の内部で発生した弾性波が伝わることによって同射出成形機の表面に現れる振動(AE波)をAEセンサによって検出することで、射出成形機の異常が検知される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4212419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
射出成形機は、多数の可動部分を有している。射出成形機の作動に際しては、そうした可動部分がそれぞれ作動音を発する。射出成形機において生じる異常の種類によっては、通常運転時に射出成形機から発せられる音波の強度が、異常時に射出成形機から発せられる音波(AE波を含む)の強度よりも大きくなる場合があることが分かった。そして、この場合には、AEセンサによって検出されるAE波の瞬時値と予め定められた閾値との大小関係をもとに異常を検知する特許文献1の異常検知システムでは、射出成形機の異常を検知することができなくなってしまう。
【0005】
なお、こうした実情は、射出成形機の異常を検知する異常検知システムに限らず、マシニングセンターやプレス加工機など、多数の可動部分を有する製造装置の異常を検知する装置検知システムにおいては概ね共通している。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための異常検知システムは、同一の加工を繰り返し実行する製造装置の異常を検知する異常検知システムであって、前記製造装置に設けられたAEセンサによって前記製造装置における1回の加工を実行する実行期間におけるAE波の時系列データを収集するデータ収集部と、前記時系列データの平均値、標準偏差、および最大値のうちの少なくとも1つを特徴量として学習された学習判定モデルを記憶する記憶部と、前記データ収集部によって収集される前記時系列データを入力データとして、前記記憶部に記憶された前記学習判定モデルをもとに、前記製造装置の異常の有無を判定するモデル判定部と、を備える。
【0007】
製造装置の通常運転時と異常発生時との違いは、実行期間におけるAEセンサの検出信号の波形に現れる。上記構成によれば、実行期間におけるAEセンサの検出信号の波形に相当する時系列データをもとに学習させた学習済みの学習判定モデルが用意される。そのため、この学習済みの学習判定モデルを利用して、製造装置の異常の有無を精度良く判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】異常検知システムの一実施形態の概略構成を示すブロック図である。
図2】異常検知システムの特徴量抽出部による統計値の抽出態様を示すブロック図である。
図3】異常検知処理の実行手順を示すフローチャートである。
図4】学習処理の実行手順を示すフローチャートである。
図5】判定処理の実行手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、異常検知システムの一実施形態について説明する。
先ず、本実施形態の異常検知システムが適用される製造装置としての射出成形機について説明する。
【0010】
<射出成形機10>
図1に示すように、射出成形機10は、金型装置11、型締め装置12、計量機13を有する。
【0011】
金型装置11は、金型111、およびエジェクタ装置112を有する。金型111は、固定型と可動型とを有する。金型111を利用して、同一の樹脂成形品が繰り返し成形される。エジェクタ装置112は、金型111からワークを取り出すためのものである。エジェクタ装置112は、ワークを押し出すためのエジェクタピンを有する。射出成形機10は、金型装置11を交換可能な構造になっている。
【0012】
型締め装置12は、金型111の「型締め」や「型開き」を実行するものである。型締め装置12は、可動型を移動させるためのシリンダや、同可動型を案内する案内機構などを有している。
【0013】
計量機13は、計量装置131および移動装置132を有している。計量装置131は、型締め状態の金型111の内部に溶融樹脂を計量しつつ充填するものである。移動装置132は、計量装置131を金型111に接続する位置、および金型111との接続を解除する位置のいずれかに移動させるものである。
【0014】
射出成形機10は、制御装置14を有する。制御装置14は、エジェクタ装置112の作動制御、型締め装置12の作動制御、移動装置132の作動制御などといった射出成形機10の運転にかかる各種制御を実行する。
【0015】
射出成形機10は、以下の手順で、樹脂成形品の成形を繰り返し実行する。
先ず、型締め装置12の作動制御を通じて金型111の型締めが実行されるとともに、移動装置132の作動制御を通じて金型111に計量機13の計量装置131が接続される。その後、計量装置131の作動制御を通じて同計量装置131から金型111の内部に溶融樹脂が充填される。その後においては、型締め装置12の作動制御を通じて金型111の型開きが実行される。そして、エジェクタ装置112の作動を通じて、金型111からワークが取り出される。
【0016】
<異常検知システム20>
次に、本実施形態の異常検知システム20について説明する。
異常検知システム20は、制御装置21、入力部22、表示部23、および大容量記憶部24を有する。
【0017】
制御装置21は、制御部211および記憶部212を有している。制御部211はCPUや、MPU、GPU等の演算処理装置を有している。制御部211は、記憶部212に記憶された制御プログラム30を読み出して実行することにより、射出成形機10の異常検知にかかる各種の情報処理、制御処理等を実行する。記憶部212は、RAMやROM等のメモリ素子を有している。記憶部212は、制御部211による各種の演算処理の実行のために必要な制御プログラム30を記憶している。また、記憶部212は、制御部211による各種の演算処理の実行のために必要なデータ等を一時的に記憶する。
【0018】
入力部22は、マウス、キーボード、タッチパネル、ボタン等の入力デバイスである。入力部22は、操作情報を制御部211へ出力する。
表示部23は、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等の表示装置を有している。表示部23は、制御部211から入力される信号に応じて各種情報を表示する。
【0019】
大容量記憶部24は、HDDやSSD等の記録媒体を備える。大容量記憶部24には、学習判定モデル241や検出データ242などが記憶されている。
学習判定モデル241は、後述するアコースティックエミッション(AE)センサ25,26によって検出されるAE波の時系列データに基づいて、射出成形機10の異常に関する情報を出力する異常検知器である。学習判定モデル241は、機械学習により生成された学習済みモデルである。検出データ242は、AEセンサ25,26によって検出されるAE波の時系列データである。本実施形態では、検出データ242は、学習済みの学習判定モデル241を利用して射出成形機10の異常の有無を判定する際に、同学習判定モデル241に入力される入力データとして利用される。検出データ242の一部は、学習判定モデル241を構築(学習)するための訓練データとして利用される。
【0020】
なお、記憶部212および大容量記憶部24は一体の記憶装置として構成してもよい。また、大容量記憶部24は複数の記憶装置によって構成することができる。異常検知にかかる各種の処理は、1つの情報処理装置で実行したり、複数の情報処理装置で分散して実行したり、仮想マシンで分散して実行したりすることができる。その他、異常検知にかかる各種の処理は、通信環境を有するサーバ装置等によって実行することも可能である。
【0021】
異常検知システム20は、2つのAEセンサ25,26を有している。AEセンサ25,26は、金型111、詳しくは固定型に取り付けられている。AEセンサ25,26は、金型111の表面の振動を検出するためのものである。AEセンサ25,26によって検出される振動にはAE波が含まれる。AEセンサ25,26としては、測定周波数の異なる2種類のものが採用されている。AEセンサ25,26としては、測定周波数の高い(例えば、150kHz)ものと、測定周波数の低い(例えば、60kHz)ものとが採用されている。AEセンサ25,26の検出信号は、射出成形機10の制御装置14を介して制御装置21に取り込まれている。測定周波数の高いAEセンサ25は、比較的近い部位における高精度でのAE波の監視に適している。一方、測定周波数の低いAEセンサ26は、検出精度が比較的低くなるものの、遠い部位を含む広範囲でのAE波の監視に適している。
【0022】
射出成形機10では、例えば以下に挙げる部材において、変形や亀裂などの異常が発生するおそれがある。同部材としては、金型装置11のスライドコアやエジェクタピンの他、型締め装置12の型締め用シリンダやタイバー、固定ブロック、計量装置131の計量用シリンダや駆動用モータ、並びに移動装置132の案内機構などが挙げられる。
【0023】
本実施形態の射出成形機10では、いずれの部材においても、射出成形機10の運転に際して変形や亀裂などの異常が発生した場合には、これに伴い金型111の表面に現れるAE波がAEセンサ25,26によって検出されるようになる。詳しくは、射出成形機10の運転時において上記異常が発生すると、同射出成形機10の通常運転に伴い発生する作動音に加えて、異常発生に起因して発生するAE波が、AEセンサ25,26によって検出されるようになる。
【0024】
AEセンサ25,26によって検出されるAE波は、実際に物質が破損する前段階、詳しくは物質に大きな歪みや圧力がかかった段階で発生する。こうしたAE波をAEセンサ25,26によって検出することにより、射出成形機10において実際に破損や故障が生じる前段階の事象を捉えて把握することができる。本実施形態の異常検知システム20では、AEセンサ25,26によるAE波の検出を通じて、射出成形機10の異常についての予兆を検知するようにしている。
【0025】
本実施形態では、測定周波数の高いAEセンサ25によって、金型111や、エジェクタ装置112、型締め装置12など、同AEセンサ25に比較的近い部位に設けられた部材の異常に伴い発生するAE波を高い精度で検出することができる。また、測定周波数の低いAEセンサ26によって、計量機13など、同AEセンサ26から遠い部位に配置される部材の異常に伴い発生するAE波を検出することもできる。したがって、2種類のAEセンサ25,26の検出信号に基づいて射出成形機10の全体を監視して同射出成形機10の異常を検知することができる。このように本実施形態によれば、2種類のAEセンサ25,26を用いて、高い自由度で、射出成形機10の異常を検知することができる。
【0026】
本実施形態の異常検知システム20は、AEセンサ25,26の検出信号を利用して、1クラスサポートベクターマシン(以下、1クラスSVM)により、射出成形機10の異常を検知する機能を有する。具体的には、制御装置21は、機能部として、データ収集部31、特徴量抽出部32、モデル構築部33、モデル判定部34、および異常報知部35を備える。
【0027】
<データ収集部31>
データ収集部31は、射出成形機10によって樹脂成形品が成形される毎に、射出成形機10における1回の加工を実行する実行期間(具体的には、1つの樹脂成形品を成形する期間)にAEセンサ25,26によって検出されるAE波の時系列データを収集する。詳しくは、データ収集部31は、AEセンサ25,26の検出信号のうちの時系列における略法絡線上にあたる信号のみを選択的に取り出す処理、いわゆる法絡線検波によって、AEセンサ25,26の検出信号の時系列データを収集する。そして、データ収集部31は、時系列データの収集が完了する度に、収集した時系列データを1つのデータ(検出データ242)として大容量記憶部24に記憶する。データ収集部31は、2種類のAEセンサ25,26について各別に検出データ242を収集する。
【0028】
<特徴量抽出部32>
特徴量抽出部32は、データ収集部31により収集されて大容量記憶部24に記憶された検出データ242から、その統計値を特徴量として抽出する。
【0029】
図2に示すように、本実施形態では、特徴量抽出部32が抽出する統計値として、検出データ242についての平均値、標準偏差、最大値、中央値が採用されている。また本実施形態では、特徴量抽出部32が抽出する統計値として、上記平均値、標準偏差、最大値、および中央値のうちの2値の相関を示す値が採用されている。具体的には、平均値と標準偏差との相関を示す値、平均値と最大値との相関を示す値、平均値と中央値との相関を示す値、標準偏差と最大値との相関を示す値、標準偏差と中央値との相関を示す値、および、最大値と中央値との相関を示す値が採用されている。なお上記統計値としては、射出成形機10の通常運転時と異常発生時との差が大きくなる値を採用すればよい。上記統計値としては、上記各値の他に、例えば検出データ242についての最小値や、実効値(二乗平均平方根に相当する値)、最頻値などを採用することができる。特徴量抽出部32は、AEセンサ25に対応する検出データ242、およびAEセンサ26に対応する検出データ242の各々について、その統計値を特徴量として抽出する。
【0030】
<モデル構築部33>
モデル構築部33は、機械学習のアルゴリズムとして1クラスSVM(One Class Support Vector Machine)を用いて、検出データ242(正常領域のデータ)を訓練データとして機械学習させることで、異常値との識別境界を決定する。モデル構築部33は、当該識別境界を基準として異常の検出が可能な学習判定モデル241を生成する。具体的には、モデル構築部33は、1クラスSVMを用いて、正常・異常の2クラスの分離超平面を教師なし学習する。1クラスSVMは、教師なしで学習した良品の学習値からの外れ値(outliers)を検出するアルゴリズムである。
【0031】
モデル構築部33は、所定の学習期間において、AEセンサ25,26によって検出された検出データ242を正常データ(正常領域のデータ)として取り扱う。具体的には、射出成形機10に金型装置11がセットされた場合に、その後に射出成形機10による樹脂成形品の成形を開始した当初の所定期間においてAEセンサ25,26によって検出される検出データ242を、正常データとして利用する。検出データ242をもとに学習判定モデル241を構築する処理は、所定の学習期間が終了するまで実行される。所定の学習期間としては、例えば射出成形機10による樹脂成形品の成形が開始されてから、所定数(例えば30個)の樹脂成形品の成形が終了するまでの期間が定められている。金型装置11をセットした後において射出成形機10による加工を開始した当初においては、金型装置11を含む射出成形機10のメンテナンスが行われた直後であるなど、射出成形機10が正常に作動している可能が高い。本実施形態では、そうした期間において得られる検出データ242が正常領域のデータとして取り扱われる。
【0032】
本実施の形態では、学習判定モデル241が1クラスSVMであるものとして説明する。学習判定モデル241は、アイソレーションフォレスト(Isolation Forest)、LOF(Local Outlier Factor[局所外れ値因子])、CNN(Convolutional Neural Network)、RNN(Recurrent Neural Network)であってもよい。また、学習判定モデル241は、ベイジアンネットワークまたは回帰木等の任意の学習アルゴリズムで構築された学習済みモデルであってよい。
【0033】
<モデル判定部34>
モデル判定部34は、所定の学習期間の経過後において、検出データ242の収集が完了する度に、同検出データ242を入力データとして、学習済みの学習判定モデル241をもとに、射出成形機10の異常の有無を判定する。
【0034】
本実施形態では、学習判定モデル241が構築されると、同学習判定モデル241における正常領域のデータとそれ以外のデータとを分類する判定基準としての閾値Th(-1.0≦Th≦1.0)が設定される。そして、学習判定モデル241を利用した異常検知に際しては、学習判定モデル241に検出データ242の各統計値が入力される。これにより、学習判定モデル241から警告指数IN(-1.0≦IN≦1.0)が出力される。警告指数INは「-1.0」に近い値ほど射出成形機10が「正常」である可能性が高いことを示す値であり、且つ「1.0」に近い値ほど射出成形機10が「異常」である可能性が高いことを示す値である。そして、この警告指数INが上記閾値Th(例えば、0.4)よりも大きい場合には、射出成形機10が「異常」と判定される。一方、警告指数INが閾値Th以下である場合には射出成形機10が「正常」と判定される。
【0035】
<異常報知部35>
異常報知部35は、警告指数INが閾値Thよりも大きくなると、射出成形機10の異常を検知した旨を報知するように、表示部23に報知指令を出力する。そして、警告指数INが閾値Thよりも大きくなる状況が、連続することなく1回のみ検知された場合、あるいは2回連続して検知された場合には、表示部23には「警告」が報知される。この場合には、表示部23への表示による「警告」のみで、射出成形機10の作動は停止されることなく継続される。一方、警告指数INが閾値Thよりも大きくなる状況が3回以上連続して検知されると、表示部23には「異常」が報知される。この場合には、今回の樹脂成形品の成形が完了した時点で、射出成形機10の作動が強制的に停止される。
【0036】
<瞬時判定部36>
制御装置21は、機能部として、瞬時判定部36を有している。瞬時判定部36は、AEセンサ25,26により検出されるAE波の強度が予め定められた所定の瞬時判定値を超えたときに、射出成形機10を強制停止させる機能を有する。
【0037】
本実施形態では、AEセンサ25の検出値V1に対応する瞬時判定値Vh1と、AEセンサ26の検出値V2に対応する瞬時判定値Vh2とが各別に設定されている。瞬時判定値Vh1,Vh2としては、学習判定モデル241によって異常判定されるようになるAE波の強度に相当する値と比較して、ごく大きい強度に相当する値が設定される。瞬時判定部36は、そのときどきのAEセンサ25の検出値V1が瞬時判定値Vh1よりも大きくなると、射出成形機10を強制的に停止させる。また瞬時判定部36は、AEセンサ26の検出値V2が瞬時判定値Vh2よりも大きくなったときに、射出成形機10を強制的に停止させる。
【0038】
本実施形態によれば、AEセンサ25,26により検出されるAE波の強度(瞬時値)が異常に大きくなったときには、データ収集部31による実行期間における検出データ242の収集が終わるのを待たずに、射出成形機10を強制停止させることができる。これにより、異常状態で射出成形機10の作動が継続されることに起因して、同射出成形機10の異常(変形や亀裂など)の度合いが大きくなったり、新たな異常が発生したりすることを抑えることができる。
【0039】
<作用>
以下、射出成形機10の異常を検知する処理(異常検知処理)の実行手順について、図3図5を参照して説明する。
【0040】
図3に示すように、射出成形機10に金型装置11がセットされると、先ずは機械学習によって学習判定モデル241を構築する処理(学習処理)が実行される(ステップS1)。
【0041】
図4に示すように、学習処理では先ず、機械学習が未完了である場合には(ステップS10:YES)、データ収集部31による検出データ242の収集が実行される(ステップS11)。そして、データ収集部31によって収集された検出データ242をもとに、学習判定モデル241を構築する処理が実行される(ステップS12)。
【0042】
その後、金型装置11をセットして後において検出データ242の収集と同検出データ242に基づく機械学習とが所定回数(例えば、30回)にわたり実行されたか否かが判断される(ステップS13)。そして、検出データ242の収集と同検出データ242に基づく機械学習とが所定回数にわたって繰り返されるまで(ステップS13:NO)、ステップS11の処理およびステップS12の処理が繰り返し実行される。そして、検出データ242の収集と同検出データ242に基づく機械学習とが所定回数にわたり繰り返されると(ステップS13:YES)、機械学習が完了される(ステップS14)。
【0043】
図3に示すように、学習処理(図4参照)が完了すると、射出成形機10の異常の有無を判定する処理(判定処理)が実行される(ステップS2)。
図5に示すように、判定処理においては、AEセンサ25の検出値V1が瞬時判定値Vh1よりも大きい場合には(ステップS20:NO)、射出成形機10が強制的に停止される(ステップS21)。また、AEセンサ26の検出値V2が瞬時判定値Vh2よりも大きい場合には(ステップS20:YES、且つステップS22:NO)、射出成形機10が強制的に停止される(ステップS21)。
【0044】
検出値V1が瞬時判定値Vh1以下であり(ステップS20:YES)、且つ、検出値V2が瞬時判定値Vh2以下である場合には(ステップS22:YES)、学習判定モデル241を利用した異常検知が実行される(ステップS23~ステップS29)。
【0045】
先ず、1回の加工を実行する実行期間における検出データ242の収集が完了しているか否かが判断される(ステップS23)。そして、検出データ242の収集が完了していない場合には(ステップS23:NO)、以下の処理を実行することなく、本処理は終了される。
【0046】
1回の加工を実行する実行期間における検出データ242の収集が完了すると(ステップS23:YES)、同検出データ242に基づいて学習判定モデル241をもとに射出成形機10の異常の有無が判定される(ステップS24)。
【0047】
この判定において「異常」が検知されない場合には(ステップS25:NO)、以下の処理(ステップS26~ステップS29)を実行することなく、本処理は終了される。
上記判定(ステップS24)において「異常」が検知された場合には(ステップS25:YES)、「異常」の検知が、連続3回以上にわたり繰り返されたか否かが判断される(ステップS26)。
【0048】
そして、「異常」の検知が、連続3回以上にわたり繰り返されていない場合には(ステップS26:NO)、警告判定がなされる(ステップS27)。一方、「異常」検知が連続3回以上にわたり繰り返された場合には(ステップS26:YES)、異常判定がなされる(ステップS28)。こうして「警告判定」および「異常判定」のいずれかがなされた後、1つの樹脂成形品の成形にかかる射出成形機10の作動が完了しており、且つ、「異常判定」がなされたか否かが判断される(ステップS29)。
【0049】
ここで、1つの樹脂成形品の成形にかかる射出成形機10の一連の作動が完了していない場合や、一連の作動において「異常判定」がなされなかった場合には(ステップS29:NO)、ステップS21の処理を実行することなく、本処理は終了される。一方、樹脂成形品の成形にかかる射出成形機10の一連の作動が完了しており、且つ、一連の作動において「異常判定」がなされた場合には(ステップS29:YES)、射出成形機10が強制的に停止される(ステップS21)。
【0050】
本実施形態によれば、以下に記載する作用効果が得られる。
(1)異常検知システム20は、データ収集部31と、大容量記憶部24と、モデル判定部34とを有する。データ収集部31は、1つの樹脂成形品を成形する実行期間におけるAEセンサ25,26の検出信号の時系列データ(検出データ242)を収集する。大容量記憶部24は、検出データ242の平均値、標準偏差、および最大値のうちの少なくとも1つを特徴量として学習された学習判定モデル241を記憶する。モデル判定部34は、データ収集部31によって収集される検出データ242を入力データとして、大容量記憶部24に記憶された学習判定モデル241をもとに、射出成形機10の異常の有無を判定する。
【0051】
射出成形機10の通常運転時と異常発生時との違いは、実行期間におけるAEセンサ25,26の検出信号の波形に現れる。AEセンサ25,26によってAE波を検出することにより、射出成形機10において実際に破損や故障が生じる前段階の事象を捉えて把握することができる。
【0052】
本実施形態によれば、実行期間におけるAEセンサ25,26の検出信号の波形に相当する検出データ242をもとに学習させた学習済みの学習判定モデル241が用意される。そのため、この学習済みの学習判定モデル241を利用して、射出成形機10の異常についての予兆を検知する態様で、射出成形機10の異常の有無を精度良く判定することができる。
【0053】
(2)学習判定モデル241は、検出データ242についての平均値、標準偏差、および最大値を含む複数の統計値を特徴量として学習されたモデルである。
本実施形態によれば、検出データ242についての1つの統計値のみを特徴量として学習された学習判定モデルを利用する場合と比較して、複数の統計値をもとに詳しく解析する態様で射出成形機10の異常の有無を精度よく判定することができる。しかも、射出成形機10の異常の有無の判定において、検出データ242の各統計値についての個々の値の数値分散を考慮するだけでなく、複数の統計値の相関を考慮することができる。そのため、射出成形機10の通常運転時と異常発生時との間でのAEセンサ25,26の検出信号の波形の違いを細かく判別することが可能になる。
【0054】
(3)射出成形機10に金型装置11がセットされた場合に、その後に樹脂成形品の形成を開始した当初の所定期間において、データ収集部31により収集された検出データ242を正常データとして用いて学習することで学習判定モデル241を構築する。
【0055】
金型装置11をセットした後に射出成形機10による加工を開始した当初においては、金型装置11を含む射出成形機10のメンテナンスが行われた直後であるなど、射出成形機10が正常に作動している可能が高い。本実施形態では、そうした期間において得られる検出データ242を正常領域のデータとして用いることで、機械学習を適正に実行することができるため、学習判定モデル241を適正に構築することができる。
【0056】
(4)射出成形機10は、測定周波数の異なる2種類のAEセンサ25,26を有する。データ収集部31は、2種類のAEセンサ25,26について各別に検出データ242を収集する。大容量記憶部24は、2種類のAEセンサ25,26についての検出データ242をもとに学習された学習済みの学習判定モデル241を記憶する。本実施形態によれば、2種類のAEセンサ25,26を用いて、高い自由度で射出成形機10の異常を検知することができる。
【0057】
(5)異常検知システム20は、瞬時判定部36を有する。瞬時判定部36は、AEセンサ25,26の検出値V1,V2が予め定められた所定の瞬時判定値Vh1,Vh2を超えたときに、射出成形機10を強制停止する。これにより、異常状態で射出成形機10の作動が継続されることに起因して、同射出成形機10の異常(変形や亀裂など)の度合いが大きくなったり、新たな異常が発生したりすることを抑えることができる。
【0058】
<変更例>
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態および以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0059】
・黄色灯などの警告灯や赤色灯などの異常灯を設けるようにしてもよい。この構成においては、判定処理(図5)において警告判定がなされた場合に警告灯を点灯したり、判定処理において異常判定がなされた場合に異常灯を点灯したりすることができる。
【0060】
・AEセンサ25,26を取り付ける部材は、金型111の固定型に限らず、金型111の可動型など、任意に変更することができる。例えば、2つのAEセンサ25,26の一方を計量機13に取り付けたり、エジェクタ装置112に取り付けたりしてもよい。
【0061】
・射出成形機10に3つ以上のAEセンサを取り付けるようにしてもよい。また、射出成形機10に、AEセンサを1つのみ設けるようにしてもよい。
・測定周波数が「300kHz」のAEセンサを採用するなど、任意の測定周波数のAEセンサを採用することができる。
【0062】
・異常検知システム20において利用する検出データ242の統計値は、平均値、標準偏差、および最大値のうちの少なくとも1つを含むのであれば、任意に変更することができる。異常検知システム20において利用可能な統計値としては、平均値、標準偏差、最大値、中央値、実効値、最小値、最頻値などを挙げることができる。その他、異常検知システム20において利用可能な統計値としては、平均値、標準偏差、最大値、中央値、実効値、最小値、および最頻値のうちの2値の相関を示す値などを挙げることができる。
【0063】
例えば、異常検知システム20において利用する検出データ242の統計値として、中央値を利用することなく、平均値、標準偏差、および最大値を利用するようにしてもよい。この場合には、平均値、標準偏差、および最大値のうちの2値の相関を示す値を、検出データ242の統計値として利用することができる。また、異常検知システム20において利用する検出データ242の統計値として、平均値、標準偏差、および最大値のうちの2つのみを利用するようにしてもよい。この場合には、異常検知システム20において利用する2つの統計値の相関を示す値を利用するようにしてもよい。その他、異常検知システム20において利用する検出データ242の統計値として、平均値、標準偏差、および最大値のうちの1つのみを利用することなども可能である。
【0064】
・瞬時判定部36を省略してもよい。具体的には、判定処理(図5)において、瞬時判定値Vh1,Vh2に基づく判定処理(ステップS20の処理、およびステップS22の処理)を省略してもよい。
【0065】
・射出成形機10の異常時におけるデータ(異常データ)を収集するとともに、異常データを訓練データとして用いて機械学習させることで、学習判定モデル241を生成および構築してもよい。異常データとしては、射出成形機10の運転時におけるAEセンサの検出信号をもとに収集したデータを用いることができる。その他、GAN(Generative Adversarial Network[敵対的生成ネットワーク])を利用して異常時におけるデータを生成するとともに、同データを異常データとして用いることなども可能である。
【0066】
・学習判定モデル241を金型装置11の交換の度に新たに構築するのではなく、学習済みの学習判定モデル241を大容量記憶部24や記憶部212に予め記憶しておくようにしてもよい。そして、この学習済みの学習判定モデル241を、判定処理において利用するようにしてもよい。
【0067】
・上記実施形態にかかる異常検知システムは、射出成形機10に適用することに限らず、マシニングセンターやプレス加工機など、同一の加工を繰り返し実行する製造装置にも適用することができる。
【0068】
<付記>
上記実施形態は、以下の付記に記載する構成を含む。
[付記1]同一の加工を繰り返し実行する製造装置の異常を検知する異常検知システムであって、前記製造装置に設けられたAEセンサによって前記製造装置における1回の加工を実行する実行期間におけるAE波の時系列データを収集するデータ収集部と、前記時系列データの平均値、標準偏差、および最大値のうちの少なくとも1つを特徴量として学習された学習判定モデルを記憶する記憶部と、前記データ収集部によって収集される前記時系列データを入力データとして、前記記憶部に記憶された前記学習判定モデルをもとに、前記製造装置の異常の有無を判定するモデル判定部と、を備える異常検知システム。
【0069】
[付記2]前記学習判定モデルは、前記平均値、前記標準偏差、および前記最大値のうちの少なくとも2つを特徴量として学習されたモデルである[付記1]に記載の異常検知システム。
【0070】
[付記3]前記製造装置による前記加工を開始した当初の所定期間において、前記データ収集部により収集された前記時系列データを正常データとして用いて学習することで、前記学習判定モデルを構築するモデル構築部を有する[付記1]または[付記2]に記載の異常検知システム。
【0071】
[付記4]前記製造装置は、前記AEセンサとして、測定周波数の異なる2種類のものが設けられており、前記データ収集部は、前記2種類の前記AEセンサについて各別に前記時系列データを収集するものであり、前記記憶部は、前記2種類の前記AEセンサについての前記時系列データをもとに学習された前記学習判定モデルを記憶するものである[付記1]~[付記3]のいずれか一つに記載の異常検知システム。
【0072】
[付記5]前記AEセンサにより検出される前記AE波の強度が、予め定められた所定の瞬時判定値を超えたときに、前記製造装置を強制停止する瞬時判定部を備える[付記1]~[付記4]のいずれか一つに記載の異常検知システム。
【符号の説明】
【0073】
10 射出成形機
20 異常検知システム
21 制御装置
211 制御部
212 記憶部
24 大容量記憶部
241 学習判定モデル
242 検出データ
25 AEセンサ
26 AEセンサ
30 制御プログラム
31 データ収集部
33 モデル構築部
34 モデル判定部
36 瞬時判定部
図1
図2
図3
図4
図5