(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172349
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】頚部の運動測定装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/11 20060101AFI20231129BHJP
【FI】
A61B5/11 310
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084066
(22)【出願日】2022-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100087985
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 宏司
(72)【発明者】
【氏名】大内 友貴
(72)【発明者】
【氏名】家邉 徹
(72)【発明者】
【氏名】田中 功二
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038VA04
4C038VB09
(57)【要約】
【課題】変位センサの取付状態による測定結果のばらつきを低減する。
【解決手段】運動測定装置10は、変位センサ20と、制御部100と、を備えている。変位センサ20は、被験者の頚部の皮膚に取り付け可能なシート状である。変位センサ20は、歪みの大きさを測定可能である。制御部100は、変位センサ20の測定値を受信する。制御部100は、変位センサ20の測定値に基づいて基準値を設定する。制御部100は、基準値に対する変位量を測定結果として出力する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の頚部に取り付け可能な変位センサと、
前記変位センサの測定値を出力可能な制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記変位センサの測定値に基づいて基準値を設定し、
前記基準値に対する変位量を前記変位センサの測定結果として出力する
頚部の運動測定装置。
【請求項2】
前記制御部は、電源がONから所定時間経過後に前記基準値の設定を開始する
請求項1に記載の頚部の運動測定装置。
【請求項3】
ユーザが操作可能なスイッチをさらに備え、
前記制御部は、前記スイッチが操作されたときに前記基準値の設定を開始する
請求項1に記載の頚部の運動測定装置。
【請求項4】
前記制御部は、
前記変位センサの測定値が、予め定められた規定値以上の歪みを示したときに、前記基準値の設定を開始する
請求項1に記載の頚部の運動測定装置。
【請求項5】
前記基準値は、予め定められた所定時間内における前記変位センサの測定値の平均値である
請求項1に記載の頚部の運動測定装置。
【請求項6】
前記基準値は、予め定められた所定時間内における前記変位センサの測定値の最大値である
請求項1に記載の頚部の運動測定装置。
【請求項7】
前記基準値は、予め定められた所定時間内における前記変位センサの測定値の最小値である
請求項1に記載の頚部の運動測定装置。
【請求項8】
予め定められた所定時間における前記変位センサの測定値の最大値と最小値との差が、予め定められた所定値以下で維持されたときに、前記所定時間内での前記変位センサの測定値の中から選ばれる1つの値を前記基準値として設定する
請求項1に記載の頚部の運動測定装置。
【請求項9】
前記基準値に対する変位量に応じて、咀嚼運動、嚥下運動、及び首振り運動から選ばれる1つ以上の運動を、頚部の運動として検出する
請求項1に記載の頚部の運動測定装置。
【請求項10】
前記制御部は、
前記基準値に対する変位量の絶対値が、予め定められた第1閾値以上、且つ前記第1閾値よりも大きな値として定められた第2閾値未満の場合、前記頚部の運動として前記咀嚼運動を検出する
請求項9に記載の頚部の運動測定装置。
【請求項11】
前記制御部は、
前記絶対値が、前記第2閾値以上、且つ前記第2閾値よりも大きな値として定められた第3閾値未満の場合、前記頚部の運動として前記嚥下運動を検出する
請求項10に記載の頚部の運動測定装置。
【請求項12】
前記制御部は、
前記絶対値が、前記第3閾値以上の場合、前記頚部の運動として前記首振り運動を検出する
請求項11に記載の頚部の運動測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、頚部の運動測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の嚥下運動計測装置は、把持部と、固定部と、静電容量センサと、を備えている。把持部は、被験者等が把持できるように棒状になっている。固定部は、把持部の端部に対して回動可能に連結している。静電容量センサは、固定部に連結している。静電容量センサは、シート状の静電容量センサである。静電容量センサは、被験者の甲状軟骨の動きを静電容量の変化として検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の嚥下運動計測装置を使用するユーザは、静電容量センサを被験者の頚部に押し当てながら、当該被験者の嚥下運動を測定する。しかしながら、同じ頚部といえども、被験者によって頚部の表面形状には微妙な違いがあり、嚥下運動の測定結果の正確性に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0005】
なお、上記内容では、嚥下運動計測装置を例として説明したが、咽喉の運動、頚部の運動など、頚部の外面にセンサを取り付けて頚部の運動を測定する装置については、同様の課題が生じる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は、被験者の頚部に取り付け可能な変位センサと、前記変位センサの測定値を出力可能な制御部と、を備え、前記制御部は、前記変位センサの測定値に基づいて基準値を設定し、前記基準値に対する変位量を前記変位センサの測定結果として出力する頚部の運動測定装置である。
【0007】
上記構成によれば、変位センサの測定値に基づいて基準値が設定される。したがって、被験者の表面形状に応じた基準値が設定され、その基準値に対する変位量に基づいて被験者の頚部の運動が検出される。そのため、変位センサの取り付けのばらつきが、頚部の運動の検出に及ぼす影響を低減できる。
【発明の効果】
【0008】
変位センサの測定結果のばらつきを低減する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、頚部の運動測定装置の全体図である。
【
図2】
図2は、頚部の運動測定装置の本体部を被験者に取り付けたときの図である。
【
図3】
図3は、頚部の運動測定装置において基準値の設定後の各変位センサの検出値である。
【
図4】
図4は、頚部の運動測定装置において基準値の設定後の各変位センサの検出値である。
【
図5】
図5は、頚部の運動測定装置において基準値の設定後の各変位センサの検出値である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、頚部の運動測定装置の一実施形態について説明する。なお、図面は理解を容易にするために構成要素を拡大して示している場合がある。構成要素の寸法比率は実際のものと、又は別の図中のものと異なる場合がある。
【0011】
<全体構成について>
図1に示すように、頚部の運動測定装置10は、本体部50と、制御部100と、を備えている。
図1に示すように、本体部50は、センサシート30と、5つの変位センサ20と、固定部材40とを備えている。
【0012】
図1に示すように、センサシート30は、伸縮性を有する合成樹脂からなる。センサシート30は、例えば、ポリウレタン、アクリル、シリコーン樹脂等の弾性率の小さい材料を含んでいると好ましい。センサシート30は、シート状である。
【0013】
センサシート30は、検出部31と、接続部32と、端子部33とを有している。検出部31は、平面視したときに、略長方形状である。接続部32は、帯状である。接続部32の第1端及び第2端は、検出部31の縁のうちの長辺部分に接続している。つまり、接続部32は、概ね環状に延びている。端子部33は、平面視したときに、略長方形状である。端子部33は、接続部32から視て検出部31と反対側に位置している。端子部33は、接続部32に繋がっている。換言すれば、検出部31と端子部33とは、接続部32を介して連結している。
【0014】
各変位センサ20は、電気的な導体からなる。各変位センサ20は、伸縮に対する抵抗値の変化が大きい材質からなる。各変位センサ20の材質は、例えば、銀、銅等の金属粉と、シリコーン等のエラストマー系樹脂の混合物である。各変位センサ20は、線状である。
【0015】
各変位センサ20は、センサシート30上に位置している。各変位センサ20の第1端は、端子部33上に位置している。そして変位センサ20は、端子部33から接続部32を経由して、検出部31へと至っている。そして、各変位センサ20は、検出部31において折り返されて、接続部32を経由して再び端子部33へと至っている。
【0016】
ここで、検出部31の長辺に沿う軸を長軸とする。変位センサ20の一部分は、長軸に対して平行に延びる検知部20Aになっている。5つの変位センサ20は、いずれも検知部20Aを有している。各変位センサ20の検知部20Aは、互いに平行に並列している。すなわち、5つの変位センサ20の検知部20Aは、検出部31から端子部33に向かう方向に並んでいる。また、各変位センサ20の検知部20Aは、等間隔毎に配置されている。
【0017】
変位センサ20は、検出部31において、検知部20Aの長軸に沿う方向の長さが変化することによりその抵抗値が変化する。変位センサ20は、当該抵抗値の変化を検出することにより、被測定物の歪みの大きさを測定可能である。すなわち、変位センサ20は、歪みセンサである。例えば、各変位センサ20は、外部から力が作用していない状態では、直線状である。そして、各変位センサ20は、外部から力が作用することにより湾曲する。各変位センサ20は、この湾曲の程度を歪みの大きさとして検出する。各変位センサ20は、歪みの大きさに応じた信号を発信する。
【0018】
上述したセンサシート30は、複数のスリット34を有している。複数のスリット34は、検出部31に位置している。各スリット34は、長軸に直交する方向に延びている。スリット34は、各変位センサ20の検知部20Aに対して長軸と直交する方向の両側に位置している。スリット34により、検出部31は、変形しやすくなっている。
【0019】
本体部50は、支持シート35を有している。支持シート35は、変位センサ20を間に挟みつつ、検出部31及び接続部32に貼り合わされている。つまり、支持シート35における検出部31及び接続部32と向かい合う面は、粘着性を有している。支持シート35は、5つの変位センサ20の検知部20A以外の部分を覆っている。このように、支持シート35は、変位センサ20の歪みの測定を妨げないように、各変位センサ20をセンサシート30上に位置決めしている。
【0020】
固定部材40は、シート状である。固定部材40の引張荷重は、センサシート30の引張荷重よりも大きい。固定部材40の材質は、例えば、ウレタンゴム、シリコンゴムニトリルゴムスポンジ、クロロプレンゴムスポンジ、エチレンゴムスポンジ等である。固定部材40は、センサシート30に対して変位センサ20及び支持シート35と反対側に位置している。固定部材40は、センサシート30に対して貼り付けられている。また、固定部材40は、センサシート30の検出部31及び端子部33の各寸法に対して一回り大きくなっている。そして、固定部材40は、センサシート30の概ね全体を覆っている。固定部材40においてセンサシート30が貼り付けられている側と反対側の面は粘着性を有している。したがって、本体部50は、固定部材40を介して被験者に取り付け可能である。
【0021】
図2に示すように、本体部50は、例えば被験者の喉頭近傍の頚部の皮膚に取り付けられる。本体部50を被験者に取り付けるとき、固定部材40が被験者の皮膚に接触するようにして取り付けられる。本体部50を被験者に取り付けた状態において、検出部31上の5つの変位センサ20のうち最も下顎に近い変位センサ20は、甲状軟骨に対して下顎に近い側に位置する。また、5つの変位センサ20のうち最も下顎に遠い変位センサ20は、甲状軟骨に対して下顎から遠い側に位置する。
【0022】
なお、以下の説明において、5つの変位センサ20を区別する必要がある場合には、
図1に示すように、検出部31上の5つの変位センサ20のうち最も下顎から遠い変位センサ20を第1変位センサ21と呼称する。そして、その他の各変位センサ20を、第1変位センサ21に近いものから順に、第2変位センサ22、第3変位センサ23、第4変位センサ24、第5変位センサ25と呼称する。
【0023】
<制御部について>
図1に示すように、制御部100は、センサシート30における端子部33に取り付けられている。制御部100は、各変位センサ20に接続している。制御部100は、各変位センサ20から発信された信号を受信する。すなわち、制御部100は、各変位センサ20から歪み大きさに関する測定値を受信する。また、制御部100は、外部機器110とケーブル60等を介して接続可能である。制御部100は、変位センサ20の測定結果及びそれに関連する情報を、外部機器110に出力する。
【0024】
制御部100は、基準値B0の設定を実行可能である。制御部100は、基準値B0の設定実行する前段階の処理として、先ず、各変位センサ20からの測定値を受信する。そして、制御部100は、各変位センサ20からの各測定値が、予め定められた規定値以上の歪みを示すものであるか否かを判定する。ここで、変位センサ20からの測定値が上述した特定値の近傍の値である場合、変位センサ20が平面状又はそれに近い状態である。したがって、変位センサ20からの測定値が特定値に近い場合、変位センサ20が未だ被験者に取り付けられる前の歪みが小さい状態であることが推測される。そこで、制御部100は、各変位センサ20からの各測定値が、上記の特定値の例えばプラスマイナス5%の範囲内にない場合に、測定値が予め定められた規定値以上の歪みを示していると判定する。
【0025】
次に、制御部100は、5つの変位センサ20からの各測定値のすべてが、規定値以上の歪みを示したときに、基準値B0の設定を開始する。制御部100は、基準値B0の設定を実行してから各変位センサ20において初めて測定されたそれぞれの測定値を、第1測定値A0とする。
【0026】
制御部100は、基準値B0の設定において、特定の期間での各変位センサ20の測定値を基準値B0として設定する。具体的には、制御部100は、予め定められた所定時間における各変位センサ20の測定値の最大値と最小値との差が予め定められた所定値以下で維持されたときに、所定時間内での変位センサ20の測定値の中から選ばれる1つの値を基準値B0として設定する。つまり、上記の「特定の期間」とは、変位センサ20の測定値が所定値以下で維持される期間である。これは、例えば、被験者がセンサを取り付けられた状態で、嚥下運動をしない安静状態を所定時間維持した状態である。
【0027】
本実施形態において、上記の所定時間は、例えば数秒間である。また、本実施形態において、所定値は、電気的なノイズ、及び被験者の意図しないような僅かな動きに起因した測定値の変動を許容する値として定められている。例えば、所定値は、第1測定値A0の値を100%としたとき、当該第1測定値A0に対してプラスマイナス0.5%として予め定められる。また、本実施形態において、基準値B0は、所定時間内に測定された測定値の平均値である。なお、基準値B0は、変位センサ20毎に設定される。
【0028】
なお、頚部の運動測定装置10において、基準値B0の設定が実行されたか否かを以下のようにして判定する。まず、5つの変位センサ20を平面状の状態にする。そして、制御部100は、基準値B0の設定を実行し、基準値B0を設定する。その後、変位センサ20を変位させて、測定値を確認する。次に、制御部100の電源をリセットさせた後、5つの変位センサ20を湾曲させた状態にする。そして、制御部100は、基準値B0の設定を実行し、基準値B0を設定する。その後、変位センサ20を上記と同じだけ湾曲させて、測定値を確認する。このときの測定値が、前述の測定値と同等であれば、基準値B0が設定済みであると判定できる。
【0029】
制御部100は、測定処理を実行可能である。制御部100は、測定処理により、基準値B0に対する変位量を変位センサ20の測定結果として出力する。具体的には、
図3に示すように、制御部100は、基準値B0に対する各変位センサ20の変位量を示す値として、検出値B1を算出する。本実施形態において、検出値B1は、測定値を基準値B0で除算した値である。したがって、
図3に示すように、測定値が基準値B0と同程度であれば、検出値B1の値は「1」の近辺を推移する。そして、測定値と基準値B0との差が大きくなるほど、検出値B1の差は、「1」から離れた値になる。
【0030】
制御部100は、検出値B1を、外部機器110に出力する。なお、検出値B1は、当該外部機器110が有するディスプレイに表示される。
制御部100は、測定処理において、検出値B1に基づいて、咀嚼運動、嚥下運動、及び首振り運動を、被験者の頚部の運動として検出する。制御部100による、頚部の運動の検出の詳細については後述する。
【0031】
制御部100は、検出した咀嚼運動、嚥下運動、及び首振り運動に応じた判別信号を、図示しない外部機器110に出力する。そして、その外部機器110のコンピュータが有するディスプレイに、咀嚼運動、嚥下運動、及び首振り運動のどの運動であるかを示す画像及び文字情報が表示される。なお、実施例では変位センサ20の測定値の出力先を外部機器110と記載したが、これに限定されない。例えば、運動測定装置10がディスプレイ及びコンピュータを備え、これらに対して出力してもよい。
【0032】
<頚部の運動について>
制御部100は、検出値B1の大きさに基づいて、咀嚼運動、嚥下運動、及び首振り運動を判断する。なお、咀嚼運動とは、下顎を上下させる運動のことである。嚥下運動とは、口腔内の物体を食道内へと飲み込む運動のことである。首振り運動とは、被験者が頚部を前後左右に動かしたときの運動のことである。
【0033】
制御部100は、各変位センサ20の検出値B1が、予め定められた第1上限値XU1以上、及び予め定められた第1下限値XD1以下のいずれか一方に該当するかを判定する。第1上限値XU1及び第1下限値XD1は、次のように試験して定められる。先ず、変位センサ20を実際に被験者に取り付ける。そして、上述した基準値B0の設定を行った後、被験者が咀嚼運動をしたときに上述の測定処理を行う。このときに検出される変位センサ20の検出値B1の極大値及び極小値を検出する。また、このようにして検出された極大値よりも、やや小さい値として第1上限値XU1が定められている。同様に、検出された極小値よりも、やや大きい値として第1下限値XD1が定められている。例えば、第1上限値XU1は「1.01」、第1下限値XD1は「0.99」である。
【0034】
なお、検出値B1は、測定値と基準値B0との差の大きさを示すものである。したがって、検出値B1が第1上限値XU1である「1.01」以上ということは、測定値と基準値B0との差の絶対値が、基準値B0の1%以上であることと同義である。つまり、この実施形態において第1閾値X1は、基準値B0の1%の値である。この点、検出値B1が第1下限値XD1以下である場合も同様である。
【0035】
また、制御部100は、各変位センサ20の検出値B1が、予め定められた第2上限値XU2以上、及び予め定められた第2下限値XD2以下のいずれか一方に該当するかを判定する。第2上限値XU2及び第2下限値XD2は、次のように試験して定められる。先ず、変位センサ20を実際に被験者に取り付ける。そして、上述した基準値B0の設定を行った後、被験者が嚥下運動をしたときに上述の測定処理を行う。このときに検出される変位センサ20の検出値B1の極大値及び極小値を検出する。また、このようにして検出された極大値よりも、やや小さい値として第2上限値XU2が定められている。同様に、検出された極小値よりも、やや大きい値として第2下限値XD2が定められている。例えば、第2上限値XU2は「1.03」、第2下限値XD2は「0.97」である。
【0036】
なお、検出値B1が第2上限値XU2である「1.03」以上ということは、測定値と基準値B0との差の絶対値が、基準値B0の3%以上であることと同義である。つまり、この実施形態において第2閾値X2は、基準値B0の3%の値である。この点、検出値B1が第2下限値XD2以下である場合も同様である。
【0037】
また、制御部100は、各変位センサ20の検出値B1が、予め定められた第3上限値XU3以上、及び予め定められた第3下限値XD3以下のいずれか一方に該当するかを判定する。第3上限値XU3及び第3下限値XD3は、次のように試験して定められる。先ず、変位センサ20を実際に被験者に取り付ける。そして、上述した基準値B0の設定を行った後、被験者が首振り運動をしたときに上述の測定処理を行う。このときに検出される変位センサ20の検出値B1の極大値及び極小値を検出する。また、このようにして検出された極大値よりも、やや小さい値として第3上限値XU3が定められている。同様に、検出された極小値よりも、やや大きい値として第3下限値XD3が定められている。例えば、第3上限値XU3は「1.07」、第3下限値XD3は「0.93」である。
【0038】
なお、検出値B1が第3上限値XU3である「1.07」以上ということは、測定値と基準値B0との差の絶対値が、基準値B0の7%以上であることと同義である。つまり、この実施形態において第3閾値X3は、基準値B0の7%の値である。この点、検出値B1が第3下限値XD3以下である場合も同様である。
【0039】
制御部100は、各変位センサ20における検出値B1が、第1閾値X1以上、且つ第2閾値X2未満である場合には、被験者の咀嚼運動を検出する。具体的には、制御部100は、5つの変位センサ20のうち1つ以上で、検出値B1が第1上限値XU1以上、且つ第2上限値XU2未満であれば、被験者の咀嚼運動を検出する。また、制御部100は、5つの変位センサ20のうち1つ以上で、検出値B1が第1下限値XD1以下、且つ第2下限値XD2より大きければ、被験者の咀嚼運動を検出する。これらいずれかの場合で、被験者の咀嚼運動を検出した場合、制御部100は、咀嚼運動を示す判別信号を発信する。
【0040】
また、制御部100は、各変位センサ20における検出値B1が、第2閾値X2以上、且つ第3閾値X3未満である場合には、被験者の嚥下運動を検出する。具体的には、制御部100は、5つの変位センサ20のうち1つ以上で、検出値B1が第2上限値XU2以上、且つ第3上限値XU3未満であれば、被験者の嚥下運動を検出する。また、制御部100は、5つの変位センサ20のうち1つ以上で、検出値B1が第2下限値XD2以下、且つ第3下限値XD3より大きければ、被験者の嚥下運動を検出する。これらいずれかの場合で、被験者の嚥下運動を検出した場合、制御部100は、嚥下運動を示す判別信号を発信する。
【0041】
また、制御部100は、各変位センサ20における検出値B1が、第3閾値X3以上である場合には、被験者の首振り運動を検出する。具体的には、制御部100は、5つの変位センサ20のうち1つ以上で、検出値B1が第3上限値XU3以上であれば、被験者の首振り運動を検出する。また、制御部100は、5つの変位センサ20のうち1つ以上で、第3下限値XD3以下であれば、被験者の嚥下運動を検出する。これらいずれかの場合で、被験者の嚥下運動を検出した場合、制御部100は、嚥下運動を示す判別信号を発信する。
【0042】
<本実施形態の作用について>
制御部100は、基準値B0の設定を実行後、測定処理を実行する。
図4に示すように、測定処理を開始後、約7秒から約19秒の間に、被験者が咀嚼運動をしたとする。この場合、
図4に示す例では、測定処理の開始後約7秒の時点で、第5変位センサ25の検出値B1は、第1上限値XU1以上且つ第2上限値XU2未満になる。したがって、制御部100は、7秒付近において、被験者の咀嚼運動を検出する。そして、制御部100は、咀嚼運動を示す判別信号を発信する。なお、制御部100は、いずれかの変位センサ20の検出値B1が第1上限値XU1以上且つ第2上限値XU2未満の値であれば、その間は咀嚼運動を検出する。同様に、制御部100は、いずれかの変位センサ20の検出値B1が第1下限値XD1以下、且つ第2下限値XD2より大きい値であれば、その間は被験者の咀嚼運動を検出する。
【0043】
一方、被験者が、咀嚼運動に引き続いて、測定処理を開始してから約19秒後に嚥下運動をしたとする。この場合、
図4に示す例では、測定開始後約19秒の時点で、第5変位センサ25の検出値B1は、第2上限値XU2以上且つ第3上限値XU3未満になる。したがって、制御部100は、19秒付近において、被験者の嚥下運動を検出する。そして、制御部100は、嚥下運動を示す判別信号を発信する。その後、嚥下運動を繰り返すたびに、いずれかの変位センサ20の検出値B1は、第2上限値XU2以上且つ第3上限値XU3未満になる。または、変位センサ20の検出値B1は、第2下限値XD2以下且つ第3下限値XD3より大きくなる。
【0044】
また、
図5に示すように、測定処理を開始後、約1秒から約3秒の間に、被験者が首振り運動をしたとする。この場合、
図5に示す例では、測定処理の開始後約1秒の時点で、例えば第3変位センサ23の検出値B1は、第3下限値XD3以下になる。したがって、制御部100は、1秒付近において、被験者の首振り運動を検出する。そして、制御部100は、首振り運動を示す判別信号を発信する。その後、首振り運動を繰り返すたびに、いずれかの変位センサ20の検出値B1は、第3上限値XU3以上になる。または、いずれかの変位センサ20の検出値B1は、第3下限値XD3以下になる。
【0045】
<本実施形態の効果について>
(1)上記実施形態によれば、特定の期間での測定値が基準値B0として設定される。したがって、変位センサ20の取り付けに多少のばらつきが生じていても、そのばらつきに応じた基準値B0が設定される。そして、その基準値B0と測定値との差に基づいて頚部の運動が検出されるので、変位センサ20の取り付けのばらつきが、頚部の運動の検出に及ぼす影響を低減できる。
【0046】
(2)上記実施形態によれば、制御部100は、予め定められた所定時間における変位センサ20の測定値の最大値と最小値との差が、予め定められた所定値以下で維持されたときに、基準値B0を設定する。すなわち、変位センサ20の測定値の変動が小さい状態、例えば、変位センサ20の取り付けが安定している状態での測定値を基準値B0として設定できる。これにより、頚部の運動の検出結果が、より信頼できるものとなる。
【0047】
(3)上記実施形態では、制御部100は、5つの変位センサ20からの各測定値のすべてが、予め定められた規定値以上の歪みを示したときに、基準値B0の設定を開始する。すなわち、変位センサ20が被験者に装着される前等、頚部の運動が測定不能な蓋然性がある状態では基準値B0が設定されない。したがって、上記実施形態によれば、不適切な状態で基準値B0の設定が実行されてしまうおそれを低減できる。
【0048】
(4)上記実施形態によれば、制御部100は、測定処理において、咀嚼運動、嚥下運動、首振り運動のいずれかを頚部の運動として検出できる。すなわち、上記実施形態の頚部の運動測定装置10によれば、被験者の頚部の動きを、複数の運動に分けて解析できる。
【0049】
(5)上記実施形態では、検出値B1が、第1閾値X1以上、且つ第2閾値X2未満の場合、頚部の運動として咀嚼運動を検出する。咀嚼運動は、嚥下運動、及び首振り運動と比較して、頚部の動きが小さい。上記実施形態によれば、実際の頚部の運動を反映して咀嚼運動を検出できる。
【0050】
(6)上記実施形態では、検出値B1が、第2閾値X2以上、且つ第3閾値X3未満の場合、頚部の運動として嚥下運動を検出する。嚥下運動は、咀嚼運動より頚部の動きが大きく、首振り運動よりも頚部の動きが小さい。上記実施形態によれば、実際の頚部の運動を反映して嚥下運動を検出できる。
【0051】
(7)上記実施形態では、検出値B1が、第3閾値X3以上の場合、頚部の運動として首振り運動を検出する。首振り運動は、咀嚼運動、及び嚥下運動と比較して頚部の動きが大きい。上記実施形態によれば、実際の頚部の運動を反映して首振り運動を検出できる。
【0052】
<変更例>
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0053】
・上記実施形態において、本体部50の構成は、上記実施形態の例に限定されない。例えば、本体部50は、複数のセンサシート30を有しており、各変位センサ20は、それぞれ異なるセンサシート30上に貼り付けられていてもよい。
【0054】
・上記実施形態において、変位センサ20は、少なくとも1つあれば、その数は問わない。変位センサ20の数は、1~4つでもよいし、6つ以上あってもよい。
・上記実施形態において、変位センサ20は、歪みの大きさを測定可能であれば、その具体的な構成は上記実施形態の例に限定されない。例えば、変位センサ20は、一対の電極とその間に位置する誘電層とを有しており、静電容量の変化を検出することで歪みの大きさを測定する静電容量型のセンサでもよい。また、変位センサ20は、光やカメラ等で歪みの大きさを検出するものでもよい。また、変位センサ20は、圧電フィルムによって構成されていてもよい。なお、筋電センサのような、頚部表面の動きを測定せずに筋肉からの電気信号のみを測定するセンサは、変位センサ20に含まれない。
【0055】
・上記実施形態において、ケーブル60を省略可能である。すなわち、制御部100は、通信モジュールを備えており、外部機器110に対して無線で信号を発信するものとしてもよい。
【0056】
・上記実施形態において、基準値B0の設定を実行する条件は、上記実施形態の例に限定されない。例えば、頚部の運動測定装置10は、ユーザが操作可能なスイッチを有しており、当該スイッチが操作されたことを条件に、制御部100は、基準値B0の設定を開始してもよい。スイッチは、例えば、押しボタン等である。スイッチが押しボタンの場合、ユーザが押しボタンを押したことを条件に、制御部100は、基準値B0の設定を開始してもよい。また、別の例として、制御部100は、電源がONになってから予め定められた所定時間経過後に基準値B0の設定を開始してもよい。
【0057】
・上記実施形態において、基準値B0の設定の条件は、上記実施形態の例に限定されない。例えば、制御部100は、以下の5つの条件において基準値B0を設定してもよい。なお、以下の5つの条件も例示であり、基準値B0の設定は、これらに限定されるものではない。
【0058】
1つ目は、制御部100は、各変位センサ20において、連続する2つの測定値の差が、予め設定した数値の範囲内に予め設定した回数だけ収まったことを条件に基準値B0を設定する。
【0059】
2つ目は、先ず、制御部100は、各変位センサ20において、第1測定値A0と次の測定値との変化量を基準変化量として設定する。そして、制御部100は、連続する2つの測定値の変化量の基準変化量に対する誤差が、予め定められた数値の範囲内に、予め設定した回数だけ収まったことを条件に基準値B0を設定する。
【0060】
3つ目は、先ず、制御部100は、連続する10個の測定値において、2つの連続する測定値の変化量の平均値を算出する。そして、制御部100は、当該平均値が予め設定した数値の範囲内に収まったことを条件に基準値B0を設定する。
【0061】
4つ目は、先ず、制御部100は、各変位センサ20において、連続する10個の測定値の平均値を算出する。そして、制御部100は、それぞれの変位センサ20同士の平均値の比が予め設定した数値の範囲内に収まったことを条件に基準値B0を設定する。
【0062】
5つ目は、先ず、制御部100は、連続する10個の測定値において、2つの連続する測定値の変化量の平均値を算出する。そして、制御部100は、それぞれの変位センサ20同士の平均値の比が、予め設定した数値の範囲内に収まったことを条件に基準値B0を設定する。
【0063】
・上記実施形態において、基準値B0は、所定時間内に測定された測定値の平均値に限定されない。例えば、基準値B0は、所定時間内に測定された測定値の中央値、最小値、最大値、実効値、移動平均値であってもよい。また、基準値B0は、所定時間内に測定された測定値の最大値及び最小値を除いた平均値または中央値であってもよい。また、基準値B0は、所定時間内に測定された測定値の最大値、最小値、及び2番目の最大値と最小値と、を除いた平均値、または中央値であってもよい。また、その他の指標において、基準値B0を設定してもよい。
【0064】
・上記実施形態において、検出値B1の算出を省略してもよい。その場合、制御部100は、各閾値を、基準値B0に対する値として設定する。
・上記実施形態において、検出値B1は、測定値を基準値B0で除算した値に限定されない。例えば、検出値B1は、測定値と基準値B0との差の絶対値でもよい。
【0065】
・上記実施形態において、制御部100は、咀嚼運動、嚥下運動、及び首振り運動のいずれかを判別し、当該判別結果を光、音、振動などによって出力してもよい。
・上記実施形態において、頚部の運動測定装置10は、咀嚼運動、嚥下運動及び首振り運動のいずれかを判別するものでなくてもよい。例えば、運動測定装置10は、基準値B0と測定値との差に応じて被験者の頚部の運動を検出するものであればよい。
【0066】
・上記実施形態において、第1閾値X1、第2閾値X2、第3閾値X3の値は、あくまで一例である。また、これらの閾値は、例えば、被験者の性別、年齢等によって、変更可能である。
【0067】
・上記実施形態において、制御部100は、変位センサ20の検出値B1の推移に基づいて、咀嚼運動、嚥下運動、及び首振り運動を判別してもよい。例えば、変位センサ20から受信する信号の推移を、高速フーリエ変換して、特定の周波数での振幅を算出する。そして、特定の周波数での振幅が一定の値を超えたときに、いずれかの運動を判別する。このときの上記特定の周波数は、咀嚼運動、嚥下運動、及び首振り運動それぞれの運動を行ったときに特有な周波数を、試験等により定めればよい。
【0068】
・上記実施形態において、変位センサ20の検出値B1の推移に、特定の周波数域の信号をカットする処理、いわゆるバンドパスフィルタ処理を施してもよい。このような処理を施すことで、微細なノイズ、及び検出対象でない運動に基づく信号を排除し得る。
【0069】
・制御部100としては、CPUとROMとを備えて、ソフトウェア処理を実行するものに限らない。たとえば、上記実施形態においてソフトウェア処理されたものの少なくとも一部を、ハードウェア処理する専用のハードウェア回路(たとえばASIC等)を備えてもよい。すなわち、制御部100は、以下の(a)~(c)のいずれかの構成であればよい。(a)上記処理の全てを、プログラムに従って実行する処理装置と、プログラムを記憶するROM等のプログラム格納装置とを備える。(b)上記処理の一部をプログラムに従って実行する処理装置およびプログラム格納装置と、残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備える。(c)上記処理の全てを実行する専用のハードウェア回路を備える。ここで、処理装置およびプログラム格納装置を備えたソフトウェア実行装置や、専用のハードウェア回路は複数であってもよい。
【0070】
上記実施形態及び変更例から導き出せる技術思想を以下に記載する。
[1]被験者の頚部に取り付け可能な変位センサと、前記変位センサの測定値を出力可能な制御部と、を備え、前記制御部は、前記変位センサの測定値に基づいて基準値を設定し、前記基準値に対する変位量を前記変位センサの測定結果として出力する頚部の運動測定装置。
【0071】
[2]制御部は、電源がONから所定時間経過後に前記基準値の設定を開始する[1]に記載の頚部の運動測定装置。
[3]ユーザが操作可能なスイッチをさらに備え、前記制御部は、前記スイッチが操作されたときに前記基準値の設定を開始する[1]に記載の頚部の運動測定装置。
【0072】
[4]前記制御部は、前記変位センサの測定値が、予め定められた規定値以上の歪みを示したときに、前記基準値の設定を開始する[1]に記載の頚部の運動測定装置。
[5]前記基準値は、予め定められた所定時間内における前記変位センサの測定値の平均値である[1]~[4]のいずれか1つに記載の頚部の運動測定装置。
【0073】
[6]前記基準値は、予め定められた所定時間内における前記変位センサの測定値の最大値である[1]~[4]のいずれか1つに記載の頚部の運動測定装置。
[7]前記基準値は、予め定められた所定時間内における前記変位センサの測定値の最小値である[1]~[4]のいずれか1つに記載の頚部の運動測定装置。
【0074】
[8]予め定められた所定時間における前記変位センサの測定値の最大値と最小値との差が、予め定められた所定値以下で維持されたときに、前記所定時間内での前記変位センサの測定値の中から選ばれる1つの値を前記基準値として設定する[1]~[4]のいずれか1つに記載の頚部の運動測定装置。
【0075】
[9]前記基準値に対する変位量に応じて、咀嚼運動、嚥下運動、及び首振り運動から選ばれる1つ以上の運動を、頚部の運動として検出する[1]~[8]のいずれか1つに記載の頚部の運動測定装置。
【0076】
[10]前記制御部は、前記基準値に対する変位量の絶対値が、予め定められた第1閾値以上、且つ前記第1閾値よりも大きな値として定められた第2閾値未満の場合、前記頚部の運動として前記咀嚼運動を検出する[9]に記載の頚部の運動測定装置。
【0077】
[11]前記制御部は、前記絶対値が、前記第2閾値以上、且つ前記第2閾値よりも大きな値として定められた第3閾値未満の場合、前記頚部の運動として前記嚥下運動を検出する[10]に記載の頚部の運動測定装置。
【0078】
[11]前記制御部は、前記絶対値が、前記第3閾値以上の場合、前記頚部の運動として前記首振り運動を検出する[10]に記載の頚部の運動測定装置。
【符号の説明】
【0079】
B0…基準値
X1…第1閾値
X2…第2閾値
X3…第3閾値
10…運動測定装置
20…変位センサ
100…制御部