IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東邦チタニウム株式会社の特許一覧

特開2023-172357酸化チタン粉末、酸化チタン粉末の製造方法及び、酸化チタン粉末の判別方法
<>
  • 特開-酸化チタン粉末、酸化チタン粉末の製造方法及び、酸化チタン粉末の判別方法 図1
  • 特開-酸化チタン粉末、酸化チタン粉末の製造方法及び、酸化チタン粉末の判別方法 図2
  • 特開-酸化チタン粉末、酸化チタン粉末の製造方法及び、酸化チタン粉末の判別方法 図3
  • 特開-酸化チタン粉末、酸化チタン粉末の製造方法及び、酸化チタン粉末の判別方法 図4
  • 特開-酸化チタン粉末、酸化チタン粉末の製造方法及び、酸化チタン粉末の判別方法 図5
  • 特開-酸化チタン粉末、酸化チタン粉末の製造方法及び、酸化チタン粉末の判別方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172357
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】酸化チタン粉末、酸化チタン粉末の製造方法及び、酸化チタン粉末の判別方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 23/07 20060101AFI20231129BHJP
【FI】
C01G23/07
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084088
(22)【出願日】2022-05-23
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】甕 晋一
【テーマコード(参考)】
4G047
【Fターム(参考)】
4G047CA02
4G047CB04
4G047CB08
4G047CC03
4G047CD03
(57)【要約】
【課題】チタン酸バリウムの合成に用いた場合、そのチタン酸バリウムの生成が比較的低い温度から開始する酸化チタン粉末、酸化チタン粉末の製造方法及び、酸化チタン粉末の判別方法を提供する。
【解決手段】この発明の酸化チタン粉末は、TiO2と塩素(Cl)とを含有するものであって、発生ガス分析法(EGA-MS)による分析で得られるHClの温度プロファイルにて、ピーク強度の立ち上がり温度が300℃~350℃の範囲内にあるというものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
TiO2と塩素(Cl)とを含有する酸化チタン粉末であって、
発生ガス分析法(EGA-MS)による分析で得られるHClの温度プロファイルにて、ピーク強度の立ち上がり温度が300℃~350℃の範囲内にある酸化チタン粉末。
【請求項2】
前記塩素(Cl)の含有量が、100質量ppm~3000質量ppmである請求項1に記載の酸化チタン粉末。
【請求項3】
比表面積が5m2/g~60m2/gである請求項1又は2に記載の酸化チタン粉末。
【請求項4】
チタン酸バリウムの製造に用いられる請求項1又は2に記載の酸化チタン粉末。
【請求項5】
TiO2と塩素(Cl)とを含有する酸化チタン粉末を製造する方法であって、
チタン塩化物を気相で酸化性ガスと反応させ、TiO2含有粉末を得る反応工程と、脱塩素装置内にて前記TiO2含有粉末を脱塩素用ガスと接触させ、前記TiO2含有粉末から塩素(Cl)を除去する脱塩素工程とを含み、
前記脱塩素工程で、650℃~700℃に加熱した前記脱塩素用ガスを、前記脱塩素装置内に200L/min~600L/minの流量で送り込む、酸化チタン粉末の製造方法。
【請求項6】
前記脱塩素工程で、670℃~690℃に加熱した前記脱塩素用ガスを、前記脱塩素装置内に送り込む、請求項5に記載の酸化チタン粉末の製造方法。
【請求項7】
前記脱塩素工程で、前記脱塩素装置内に送り込む前記脱塩素用ガスの流量を、400L/min~500L/minとする、請求項5又は6に記載の酸化チタン粉末の製造方法。
【請求項8】
TiO2と塩素(Cl)とを含有する酸化チタン粉末を判別する方法であって、
前記酸化チタン粉末を発生ガス分析法(EGA-MS)で分析し、当該分析により得られるHClの温度プロファイルにて、ピーク強度の立ち上がり温度を確認する、酸化チタン粉末の判別方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、TiO2と塩素(Cl)とを含有する酸化チタン粉末、酸化チタン粉末の製造方法及び、酸化チタン粉末の判別方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
機能性粉末である酸化チタンは、高い白色度及び隠蔽性を有する他、光の照射により触媒作用を示し、さらには分散性、耐候性、化学的安定性等の優れた性質を併せ持つ。このため、酸化チタンは、主な用途であった白色顔料や紫外線遮蔽フィラーのみならず、光触媒その他の種々の用途で広く使用されている。
【0003】
また近年は、酸化チタンの、電子機器ないし部品の分野への展開が急速に進んでいる。たとえば、酸化チタンを原料とするチタン酸バリウムは強誘電体として、積層セラミックコンデンサ(MLCC、Multi-layer Ceramic Capacitor)やPTCサーミスタ(Positive Temperature Coefficient Thermistor)に用いられる。これに関連して、非特許文献1には、酸化チタン(TiO2)と炭酸バリウム(BaCo3)との固相反応により、チタン酸バリウム(BaTiO3)が生成することが記載されている。
【0004】
酸化チタンに関する技術として、特許文献1には、「四塩化チタンの気相反応で得られ、SEM写真より測定した平均粒径をD1、BET比表面積より求めた平均粒径をD2としたときのD1/D2が1.0~1.25であることを特徴とする球状酸化チタン微粒子」が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、「下記特性を満足することを特徴とする、球状酸化チタン粉末。 (1)アナターゼ相の割合が50重量%以上の結晶であること (2)メジアン径(D50)が50~300nmであること (3)比表面積が100m2/g以下であること (4)平均円形度が0.80以上であること (5)塩素濃度が10ppmw以下であること (6)画像解析法により得られた1次粒子の体積換算粒子径分布において、下記ロジン-ラムラー式で表される粒度分布の勾配nが1以上3未満の範囲にあること R(Dp)=100exp(-b・Dpn)(但し、式中R(Dp)は最大粒子径から粒子径Dpまでの累積体積%、Dpは粒子径、b及びnは定数である。)」との記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001-151509号公報
【特許文献2】特開2017-19698号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】藤川、外2名、「BaTiO3固相反応における陰イオン添加効果および反応過程の解明」、Journal of the Japan Society of Powder and Powder Metallurgy、2003年10月、Vol. 50、No. 10、p. 751-756
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、たとえば、上述した積層セラミックコンデンサ又はPTCサーミスタ等の製造では、酸化チタン粉末は、炭酸バリウム粉末との固相反応によるチタン酸バリウムの合成に用いられることがある。この場合、酸化チタン粉末と炭酸バリウム粉末とを混合して加熱したとき、ある程度低い温度からチタン酸バリウムの生成が始まることが、チタン酸バリウムの結晶性が良くなるという観点から望ましい。特許文献1及び2はいずれも、そのようなチタン酸バリウムの生成開始温度の低温化について何ら着目されていない。
【0009】
非特許文献1には、酸化チタン粉末と炭酸バリウム粉末との混合粉末中にBaCl2を添加することにより、混合粉末中の塩素成分が存在することでBaTiO3の生成が低温側にシフトすることが記載されている。しかしながら、非特許文献1では、炭酸バリウム粉末との混合前から酸化チタン粉末に含まれる成分が、BaTiO3の合成に及ぼす影響については何ら着目されていない。また、非特許文献1では、塩素成分の種類ないし形態と反応性との関係についても検討されていない。
【0010】
この発明は、上述したようなことを課題とするものであり、その目的は、チタン酸バリウムの合成に用いた場合、そのチタン酸バリウムの生成が比較的低い温度から開始する酸化チタン粉末及び、そのような酸化チタン粉末を製造することに適した製造方法を提供することにある。また、この発明の他の目的は、酸化チタン粉末について、チタン酸バリウムの合成に用いた場合に、そのチタン酸バリウムの生成が比較的低い温度から開始するか否かを判別することができる酸化チタン粉末の判別方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者は鋭意検討の結果、発生ガス分析法(EGA-MS)で得られるHClの温度プロファイルが特定のピーク強度の立ち上がり温度を有する酸化チタン粉末であれば、それを用いてチタン酸バリウムを合成する際の加熱時に、チタン酸バリウムの生成が低い温度から開始するとの新たな知見を得た。より詳細には、酸化チタン粉末を発生ガス分析法(EGA-MS)で分析したときに得られるHClの温度プロファイルにおいて、ピーク強度の立ち上がり温度を確認することにより、その酸化チタン粉末を用いたチタン酸バリウムの合成時に、その生成が低温段階から始まり、結晶性が良好なものが得られるかどうかについて把握できることを見出した。
【0012】
この発明の酸化チタン粉末は、TiO2と塩素(Cl)とを含有するものであって、発生ガス分析法(EGA-MS)による分析で得られるHClの温度プロファイルにて、ピーク強度の立ち上がり温度が300℃~350℃の範囲内にあるというものである。
【0013】
上記の酸化チタン粉末は、前記塩素(Cl)の含有量が、100質量ppm~3000質量ppmであることが好ましい。
【0014】
上記の酸化チタン粉末は、比表面積が5m2/g~60m2/gである場合がある。
【0015】
上記の酸化チタン粉末は、特にチタン酸バリウムの製造に好適に用いられ得る。
【0016】
また、この発明の酸化チタン粉末の製造方法は、TiO2と塩素(Cl)とを含有する酸化チタン粉末を製造する方法であって、チタン塩化物を気相で酸化性ガスと反応させ、TiO2含有粉末を得る反応工程と、脱塩素装置内にて前記TiO2含有粉末を脱塩素用ガスと接触させ、前記TiO2含有粉末から塩素(Cl)を除去する脱塩素工程とを含み、前記脱塩素工程で、650℃~700℃に加熱した前記脱塩素用ガスを、前記脱塩素装置内に200L/min~600L/minの流量で送り込むというものである。
【0017】
前記脱塩素工程では、670℃~690℃に加熱した前記脱塩素用ガスを、前記脱塩素装置内に送り込むことが好ましい。
【0018】
また、前記脱塩素工程では、前記脱塩素装置内に送り込む前記脱塩素用ガスの流量を、400L/min~500L/minとすることが好ましい。
【0019】
また、この発明の酸化チタン粉末の判別方法は、TiO2と塩素(Cl)とを含有する酸化チタン粉末を判別する方法であって、前記酸化チタン粉末を発生ガス分析法(EGA-MS)で分析し、当該分析により得られるHClの温度プロファイルにて、ピーク強度の立ち上がり温度を確認するというものである。
【発明の効果】
【0020】
この発明の酸化チタン粉末によれば、チタン酸バリウムの合成に用いた場合、そのチタン酸バリウムの生成が比較的低い温度から開始する。この発明の酸化チタン粉末の製造方法は、そのような酸化チタン粉末を製造することに適したものである。この発明の酸化チタン粉末の判別方法によれば、酸化チタン粉末について、チタン酸バリウムの合成に用いた場合に、そのチタン酸バリウムの生成が比較的低い温度から開始するか否かを判別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】酸化チタン粉末に対してEGA-MS分析を行って得られるHClの温度プロファイルの一例を示すグラフである。
図2】脱塩素工程で脱塩素用ガスの温度が高く流量が少ない場合と温度が低く流量が多い場合における酸化チタン粉末の粒子表面の様子を示す概念図である。
図3】比較例1の熱機械分析結果における温度と線収縮率との関係を表すグラフである。
図4】実施例1の熱機械分析結果における温度と線収縮率との関係を表すグラフである。
図5】実施例2の熱機械分析結果における温度と線収縮率との関係を表すグラフである。
図6図4の一部を拡大して示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、この発明の実施の形態について詳細に説明する。
この発明の一の実施形態の酸化チタン粉末は、TiO2と塩素(Cl)とを含有するものである。この酸化チタン粉末を発生ガス分析法(EGA-MS)で分析すると、それにより得られるHClの温度プロファイルにおいて、ピーク強度の立ち上がり温度が300℃~350℃の範囲内になる。
【0023】
EGA-MS分析結果であるHClの温度プロファイルにて、ピーク強度の立ち上がり温度が上記のように比較的低いことは、酸化チタン粉末表面に吸着している塩素(Cl)のうち、物理吸着等の酸化チタン粉末表面との結合力が小さい吸着形態で存在しているHCl(塩化水素)の割合が多いことを意味する。そのような酸化チタン粉末を用いてチタン酸バリウムを作製すると、HCl(塩化水素)がより低温で炭酸バリウムへ吸着して塩化バリウムへの反応を促すことにより、チタン酸バリウムの生成がある程度低い温度から始まるため、生成したチタン酸バリウムの結晶性は高くなると考えられる。但し、この発明は、上述した理論に限定されるものではない。
【0024】
(EGA-MS分析)
酸化チタン粉末を発生ガス分析法(EGA-MS)で分析すると、加熱時の温度に応じて発生するガスによる強度の変化を表すEGAサーモグラムが得られる。EGAサーモグラムには、多くの場合、発生ガスの各成分に対応する複数のピーク強度が現れる。このEGAサーモグラムから、塩化水素の分子イオン(m/z 36)の強度変化を抽出したものが、HClの温度プロファイルである。HClの温度プロファイルには、図1に例示するように、HClに対応するピーク強度が含まれる。
【0025】
この実施形態の酸化チタン粉末は、上記のHClの温度プロファイルにおいて、ピーク強度の立ち上がり温度が300℃~350℃の範囲内になる。この立ち上がり温度が350℃を超える場合は、当該酸化チタン粉末を用いて作製したチタン酸バリウムの生成開始温度が高くなる。
【0026】
上記の観点から、HClの温度プロファイルにおけるピーク強度の立ち上がり温度は、300℃~320℃の範囲内になることが好ましい。
【0027】
HClの温度プロファイルを得るには、Agilent Technologies製の5977型(質量選択型検出器付き)もしくは7890型(ガスクロマトグラフ)又は、FRONTIER LAB製の加熱炉式熱分解装置EGA/PY-3030を用いることができる。そのような装置で、加熱条件としては、200℃から30℃/minの速度で500℃に昇温し、トラップ時間を10分とする。加熱雰囲気はヘリウムとし、測定量は20mgとする。そして、これにより得られたHClの温度プロファイルにて、ピーク強度の立ち上がり温度は、図1に示すようにして求める。すなわち、図1に示すように、HClの温度プロファイル上で、ピークトップのピーク強度Ipの1/2の高さ(Ip/2)の点と、ピーク強度Ipの1/10の高さ(Ip/10)の点の2点を通る直線(図1に破線で示す。)を、立ち上がり直線とする。この立ち上がり直線とy軸が交わる点を求めて、この点を立ち上がり温度Trとする。
【0028】
(組成)
酸化チタン粉末は、主にTiO2(二酸化チタン)を含有し、さらに塩素(Cl)をその形態を問わず含有するものである。酸化チタン粉末中のTiO2の含有量は、たとえば99.85質量%~100質量%、さらに99.9質量%~100質量%である場合がある。TiO2の含有量は、100%から、ガス成分及び強熱減量を含まない不純物の含有量を差し引いた値を意味する。
【0029】
酸化チタン粉末は、ガス成分を除く不純物として、Fe及び/又はAlを、合計0.002質量%以下で含むことがある。ガス成分以外の不純物の含有量は、ICP発光分光法により測定する。
【0030】
酸化チタン粉末は、塩素(Cl)を含む。酸化チタン粉末中、塩素(Cl)は、たとえば四塩化チタンの酸化反応及び加熱加水分解等によって生成するClを含む物質に含まれ、例えば、Cl2(塩素分子)やHCl(塩化水素)等が挙げられる。典型的には、一の実施形態に係る酸化チタン粉末中の塩素(Cl)の大部分は、HCl(塩化水素)の形態で存在し得る。
【0031】
酸化チタン粉末中の塩素(Cl)の含有量(どのような形態かを問わず酸化チタン粉末中に含まれるClの総含有量)は、好ましくは100質量ppm~3000質量ppm、より好ましくは150質量ppm~2000質量ppmである。塩素(Cl)の含有量が少なすぎる場合は、炭酸バリウムとの反応性が低下する可能性がある。一方、塩素(Cl)の含有量が多すぎると、炭酸バリウムとの反応が局所的に促進され、チタン酸バリウムの品質が不均一となることがある。
【0032】
塩素(Cl)の含有量は、後述する比表面積の大小に影響される場合がある。酸化チタン粉末の比表面積が5m2/g~10m2/gであるときは、塩素(Cl)の含有量は、100質量ppm~400質量ppmであることが好ましい。また、酸化チタン粉末の比表面積が20m2/g~50m2/gであるときは、塩素(Cl)の含有量は、1000質量ppm~3000質量ppmであることが好ましい。
【0033】
酸化チタン粉末中の塩素(Cl)の含有量は、酸化チタン粉末を硝酸水溶液中に分散させることで溶液中に溶出した塩素(Cl)を硝酸銀標準溶液で滴定する硝酸銀滴定法による分析で測定する。具体的には、200mLのポリビーカーに水約100mLに試料10.0g、硝酸(1+1)5mLを入れ、硝酸銀標準溶液(0.02mol/L)を用いて自動滴定装置(日東精工アナリテック株式会社製 型式:GT-200)で滴定(変曲点:150mv)する。
【0034】
(比表面積、粒径)
酸化チタン粉末の比表面積は、たとえば5m2/g~60m2/g、典型的には5m2/g~8m2/gである場合がある。比表面積がある程度大きい酸化チタン粉末は、積層セラミックコンデンサやPTCサーミスタの製造等の所定の用途に適したものである。
【0035】
上記の比表面積は、BET法により測定する。
【0036】
また、酸化チタン粉末の粒径は、たとえば0.5μm~1.0μm、さらに0.6μm~0.9μmである場合がある。この粒径は、水中に分散した酸化チタンの凝集粒子サイズを意味し、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(株式会社堀場製作所製 LA-920)により測定する。
【0037】
(製造方法)
以上に述べた酸化チタン粉末は、たとえば、チタン塩化物を気相で酸化性ガスと反応させ、TiO2を生成させる気相法により製造することができる。この製造方法には、チタン塩化物からTiO2を生成させ、TiO2含有粉末を得る反応工程と、そのTiO2含有粉末からClを除去する脱塩素工程とが含まれる。特に脱塩素工程が重要である。
【0038】
反応工程では、四塩化チタン等のチタン塩化物ガス及び、酸化性ガス等を予熱後、反応炉内にて所定の高温下で混合し、チタン塩化物ガスを酸化性ガスと接触させる。酸化性ガスとしては、たとえば酸素ガスや水蒸気が挙げられる。さらに水素ガス及び/又は不活性ガスを供給することもある。より詳細には、たとえば、チタン塩化物ガスを不活性ガスと混合して希釈した後に、水蒸気や、必要に応じて酸素ガス及び水素ガスとともに、反応炉内に供給することができる。
【0039】
反応炉内では、燃焼バーナーによる火炎の中で、チタン塩化物ガスと酸素ガス及び/又は水蒸気との反応により、TiO2を含有するTiO2含有粉末が生成する。チタン塩化物ガスとして四塩化チタンガスを用いる場合、この反応は、TiCl4+O2→TiO2+2Cl2や、TiCl4+2H2O→TiO2+4HClの反応式で表される。反応温度は、TiO2が生成する温度であればよく、たとえば600℃~1100℃とすることができる。
【0040】
その後、TiO2含有粉末を含むガスを空気などの冷却ガスとの接触により冷却し、そこからTiO2含有粉末を捕集する。
【0041】
反応工程で得られたTiO2含有粉末から塩素(Cl)を除去するため、脱塩素工程を行う。脱塩素工程では、加熱した脱塩素用ガスを脱塩素装置内に供給し、脱塩素装置内にてTiO2含有粉末を脱塩素用ガスと接触させる。脱塩素用ガスとしては、水蒸気及び/又は空気を用いることができる。脱塩素工程の後、塩素(Cl)がある程度除去された酸化チタン粉末が得られる。
【0042】
脱塩素工程では、脱塩素装置内に送り込む脱塩素用ガスの流量を比較的少なくし、脱塩素装置内に送り込む脱塩素用ガスの温度をある程度高くすることが望ましい。これにより、先述したような、EGA-MSのHClの温度プロファイルがピーク強度の特定の立ち上がり温度になる酸化チタン粉末となる。その理由は、必ずしも明らかではないが、次のように考えられる。
【0043】
まず、塩素(Cl)をある程度、TiO2含有粉末の粒子表面に残留させる方法として、以下の2つが挙げられる。
【0044】
1つ目の方法は、高温の脱塩素用ガスを少ない流量で脱塩素装置内に送り込む方法である。
図2(a)に示すように、脱塩素時に、脱塩素用ガスの流量が少ない場合、TiO2含有粉末の粒子表面から脱離する塩素成分により、TiO2含有粉末の周囲の雰囲気中の塩素濃度が高くなり、平衡状態に達して、粒子表面からの更なる脱離が進行し難くなる。
すなわち、粒子表面での塩素(Cl)の吸着の強弱に関わらず、全ての塩素(Cl)が脱離と再吸着との平衡状態になり、吸着の弱い塩素(Cl)も残留するため、低温で脱離するHClを含む酸化チタン粉末となる。その結果、当該酸化チタン粉末は、EGA-MSで分析した場合、HClの温度プロファイルにおけるピーク強度の立ち上がり温度が比較的低いものになる。
【0045】
一方、2つ目の方法は、低温の脱塩素用ガスを多い流量で脱塩素装置内に送り込む方法である。
図2(b)に示すように、低温で脱離する塩素(Cl)の大部分が粒子表面から脱離して、雰囲気中に放出される。
すなわち、粒子表面への吸着の弱い塩素(Cl)から脱離していき、かつ、雰囲気中の塩素濃度が低いため、再吸着は生じない。その結果、脱塩素工程後の酸化チタン粉末は、低温で脱離するHClがほぼ含まれなくなり、上記のHClの温度プロファイルにおけるピーク強度の立ち上がり温度がある程度高くなると推測される。
【0046】
したがって、脱塩素工程は、上記の1つ目の方法のようにして行うことが好ましい。具体的には、脱塩素用ガスは650℃~700℃、好ましくは670℃~690℃に加熱した後に、脱塩素装置内でTiO2含有粉末と接触させることが好適である。また、脱塩素装置内に送り込む脱塩素用ガスの流量は、好ましくは200L/min~600L/minであり、より好ましくは400L/min~500L/minである。
【0047】
脱塩素工程で、塩素(Cl)を除去した後は、たとえば脱塩素用ガスに巻き込まれたものを固気分離等で回収してから冷却する。脱塩素工程の後は、必要に応じて、解砕工程や篩別等の分級工程が行われることがある。このようにして、TiO2を含有する酸化チタン粉末を製造することができる。
【0048】
(判別方法)
酸化チタン粉末は、チタン酸バリウムの合成に用いるとき、チタン酸バリウムの生成がある程度低い温度で始まるどうか、結晶性が良好なチタン酸バリウムが得られるかどうかについて予め判別できることが望まれる場合がある。
【0049】
そのような場合、酸化チタン粉末を発生ガス分析法(EGA-MS)で分析し、当該分析により得られるHClの温度プロファイルにて、ピーク強度の立ち上がり温度を確認することができる。このとき、ピーク強度の立ち上がり温度が300℃~350℃の範囲内であれば、その酸化チタン粉末は、チタン酸バリウムの低温での生成開始が可能であり、結晶性が良好なチタン酸バリウムを合成できるものと評価することができる。
【0050】
発生ガス分析法(EGA-MS)による具体的な分析方法は先述したとおりであり、再度の説明は省略する。
【実施例0051】
次に、この発明の酸化チタン粉末を試作し、その効果を確認したので以下に説明する。但し、ここでの説明は単なる例示を目的としたものであり、これに限定されることを意図するものではない。
【0052】
四塩化チタンガスを窒素ガスで希釈し900℃で予熱した後、これを900℃で予熱した水蒸気等とともに反応炉内に供給した。それにより、それらの混合ガスが反応炉内にて約1000℃の反応温度となり、その反応でTiO2含有粉末が得られた。
【0053】
次いで、反応炉内に得られたTiO2含有粉末を回収して冷却した後、脱塩素装置内で脱塩素用ガスと接触させ、TiO2含有粉末中のClを除去した。脱塩素用ガスは空気及び水蒸気とし、表1に示すように450℃又は680℃に加熱してから脱塩素装置内に供給した。脱塩素装置内への脱塩素用ガスの供給流量は、表1に示すように1200L/min、500L/min又は400L/minとした。その後、冷却し、比表面積が5m2/gである酸化チタン粉末を製造した。
【0054】
上記のようにして製造した酸化チタン粉末中の塩素(Cl)の含有量を、先述した方法で求めたところ、表1に示すとおりであった。また、酸化チタン粉末を、先述した方法に従い、発生ガス分析法(EGA-MS)で分析し、HClの温度プロファイルを得た。そのHClの温度プロファイルから、先に述べたようにして算出したピーク強度の立ち上がり温度を表1に示す。
【0055】
また、上記の酸化チタン粉末を用いて、チタン酸バリウムを作製した。具体的には、ボールミルを用いて、9.24gの酸化チタン粉末と、22.75gの炭酸バリウム粉末(関東化学株式会社製、製品番号:04015-00、規格:鹿特級)との湿式混合を、17時間にわたって行った。ここでは、分散媒として、96gの蒸留水を使用した。ボールミルポットは容積が287mLであり、ボールとしては材質がジルコニアで直径が3mmのものを585g使用し、ボールミルの回転数は150rpmとした。次いで、上記の湿式混合により得られたスラリーをろ過し、定温乾燥機により70℃を20時間以上維持して乾燥させ、固形物を得た。その後、この固形物について、熱機械分析装置(TMA、Thermomechanical Analyzer、株式会社リガク製のThermo plus EVO2 TMA8311)を用いて、酸素雰囲気の下、室温から10℃/minの速度で昇温させ、その際の収縮率を測定した。この収縮率とは、固形物の高さの変化率を意味する。その結果、図3~5に示すグラフが得られた。
【0056】
図3~5には、実測値の曲線の他、それを微分した曲線も示している。図3~5より、いずれの比較例1並びに実施例1及び2も、微分曲線に複数の変曲点があることが解かる。より詳細には、図3~5のグラフでは、図4を例として図6にその一部を拡大して示すように、収縮が複数の段階を経て起こっていることが解かる。
【0057】
これに関し、先述した非特許文献1によると、空気中でのBaCO3とTiO2との固相反応は、式(1):BaCO3+TiO2→BaTiO3+CO2↑、式(2):BaTiO3+BaCO3→Ba2TiO4+CO2↑、式(3):Ba2TiO4+TiO2→2BaTiO3で説明されている。また、同文献のFig.1(a)~(d)には、それぞれの上記式(1)~(3)の反応における固相合成のメカニズムの模式図が示されている。すなわち、Fig.1(a)は、TiO2とBaCO3が混合された状態、(b)は、上記式(1)の反応でBa分がTiO2粒子の表面に拡散する段階、(c)は、上記式(2)の反応でBa分がTiO2粒子の内部に拡散する段階、(d)は上記式(3)の反応でBa分が拡散し終えた後にTiO2と反応してBaTiO3となる段階をそれぞれ表している。
【0058】
図6のグラフに追記した(b)~(d)はそれぞれ、非特許文献1のFig.1(b)~(d)の各段階に相当し得る。このうち、(c)は、Ba分がTiO2粒子内部に拡散し始める段階であり、これが早い時期に(低い温度で)起こるほど、Ba分がTiO2粒子の内部で移動できる時間が長くなることを意味すると考えられる。そして、Baの移動時間が長くなると(つまり、段階(c)が低温側で起こって、その時点からBaが自由に移動可能になると)、比較的低い温度で、結晶構造としてより完全なBaTiO3になりやすいと考えることができる。したがって、段階(c)の開始温度が低い場合は、そのチタン酸バリウムは低温焼結性に優れるといえる。段階(b)及び(c)の開始温度を表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
表1より、実施例1及び2は、EGA-MSのHClの温度プロファイルにおけるピーク強度の立ち上がり温度が所定の範囲内であり、チタン酸バリウムが比較的低い温度で焼結したことがわかる。一方、比較例1では、上記の立ち上がり温度が高く、チタン酸バリウムの焼結温度が高くなった。
【0061】
以上より、この発明の酸化チタン粉末によれば、チタン酸バリウムの合成に用いた場合、そのチタン酸バリウムが比較的低い温度で焼結する可能性が示唆された。
したがって、生成したチタン酸バリウムの結晶性は高くなると考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6