(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172371
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】均衡励磁型磁性流体電流センサ及び同磁界センサ
(51)【国際特許分類】
G01R 33/02 20060101AFI20231129BHJP
G01R 15/18 20060101ALI20231129BHJP
G01R 19/00 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
G01R33/02 B
G01R15/18 B
G01R19/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084111
(22)【出願日】2022-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】318008853
【氏名又は名称】ロイヤルセンシング合同会社
(72)【発明者】
【氏名】忠津 孝
【テーマコード(参考)】
2G017
2G025
2G035
【Fターム(参考)】
2G017AA02
2G017AD02
2G017BA05
2G017BA08
2G017CC02
2G025AA00
2G025AB14
2G025AC01
2G035AC03
2G035AD13
2G035AD18
2G035AD19
2G035AD20
2G035AD51
2G035AD59
2G035AD66
(57)【要約】 (修正有)
【課題】磁性流体を磁気コアとする磁気変調式の電流センサ及び磁界センサにおいて,励磁磁束がセンサの外側に漏れることを抑制して性能を安定化すること,及び,励磁コイルの保持を強固にして機械的強度を向上すること,の両者を達成することにより信頼性の高い電流センサ及び磁界センサを提供すること.
【解決手段】全てのコイルの軸が平行になるように,検出コイルの内側に二つの励磁コイルを並列に配置し且つ,その二つの励磁コイルに,同量の励磁磁束を反対向きに発生させることで,励磁磁束を検出コイルの内部だけで循環させてセンサの外に漏らさない.またこの様な構造にしたことにより,二つの励磁コイルの外周相互間及び,励磁コイルの外周と検出コイルの内周との間を密着固定できる様になり,十分な機械的強度が得られる.
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空洞容器の中に励磁コイルと検出コイルとを有し,該励磁コイルが,該検出コイルの内側に存在し該検出コイルの軸と平行になるように配置され,且つ該容器内に磁性流体を充填した,電流センサ及び磁界センサにおいて,該励磁コイルを2個並列に配置して一対とし,該一対のそれぞれの励磁コイルに反対向きで同量の励磁磁束が発生するようにしたことを特徴とする,均衡励磁型磁性流体電流センサ及び同磁界センサ.
【請求項2】
単一の検出コイル内に,励磁コイルを二対以上,百対以下有し,全て並列に配置されたことを特徴とする,請求項1の均衡励磁型磁性流体電流センサ及び同磁界センサ.
【請求項3】
隣接する励磁コイルの外周相互の間及び,励磁コイルの外周と検出コイルの内周の間の,双方またはどちらか一方に,磁性流体が侵入しないようにしたことを特徴とする,請求項1並びに請求項2の均衡励磁型磁性流体電流センサ及び同磁界センサ.
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,直流も交流も測定できる,電流センサ及び磁界センサにおいて,着磁することなく大電流から微小電流まで,あるいは強磁界から微弱磁界までを,より小さな不確かさで測定する技術分野に関する.
【背景技術】
【0002】
商用電力等の交流電流は長い歴史のあるCT(変流器)で高精度に測定できる.しかし近年需要が急増している直流電力や,商用電力よりも低い周波数の交流電力では,未だにニーズを満たす精度の電流測定ができていない.
【0003】
その原因は電流センサに用いている磁気コアの着磁であり,いわゆるコアの磁気ヒステリシス特性である.この課題を解決する手段として,磁気平衡方式の採用や消磁機能の付加などがある.またフラックスゲート方式では励磁磁界を飽和領域まで広げることによって着磁を軽減しようとする方法もある.
【0004】
これらは理想的な理論では対策となるが,現実は,磁気平衡方式の場合,完全な磁気平衡にはできないことや,定格を大きく超えた被測定電流が流れた時には磁気平衡能力不足で着磁する.また稼働していない時の着磁には対処できない.一方消磁方式の場合は,稼働中には消磁が困難であり長期間連続使用する用途では消磁を発動できない.さらにフラックスゲート方式の場合には,飽和領域まで励磁しても完全な消磁にはならず,特に励磁方向とは異なる方向に着磁した場合には対策としては弱い.この様に市販されている直流電流センサでは,まだ着磁の課題を解決できていない.
例えば計測器を校正するために使用されている電流計測装置であっても,そのフルスケール値に対して 100ppm を超えるずれ(オフセット)が生じることがある.この原因がセンサの保存や運搬中の環境磁界であった場合には,利用者がそれらの履歴をいちいち知ることは困難であり,校正後にずれた可能性すら推測できない.また汎用の電流センサでも,定格の数十倍の電流を通電した後の特性を評価することが近年始まった.このように着磁によるオフセット(ずれ)が重要な課題になっている.
【0005】
昨今の直流電力発電や貯蔵そして直流送配電など,直流電力の利用拡大にともない,末端では直流スマートメータの利用も拡大していくと見込まれるが,その場合には落雷などによる瞬間的な大電流がセンサを着磁して,間違った計量による不正な商取引が生じる可能性もある.この際,このような着磁が生じたかどうかを稼働中に検出する術はない.
【0006】
このような課題を解決する手段として,物理理論的に全く着磁しない磁性流体の特性を活かして,「直行励磁型電流センサ」(先行技術文献 特許文献2)や「二重ソレノイド磁性流体磁界センサおよび二重ソレノイド磁性流体電流センサ」(先行技術文献 特許文献3)など,磁気コアの材料に磁性流体を用いて着磁を回避し,磁気ヒステリシスによるオフセットの課題を解決したものがある.しかしこれらは,励磁磁束がセンサ外に漏れることにより性能が不安定になると言う課題がある.この根本的原因は磁性流体の透磁率の低さにある.従来の技術でセンサに用いられる軟質磁性材は透磁率が非常に高く,例えばPCパーマロイの場合は,初透磁率 μi が 60,000 程度で,最大透磁率 μm が 180,000 程度ある.ところが磁性流体の場合は,初透磁率が最大透磁率でもあるが,その値はせいぜい 10 程度である.この値を,空気中に置かれた磁気コアから磁束が漏れる漏れやすさで比較すると,磁性流体の方がPCパーマロイよりも1万倍くらい漏れやすいと言うことになる.したがって,磁性流体を用いる場合には積極的な漏れ磁束対策が必要になる.
【0007】
このように磁性流体の磁気コアには,透磁率が低くいために感度は劣り磁束は漏れやすい,という短所はあるが,着磁しないと言う磁性流体独特の特性は有益である.上記短所の低感度については磁気ブリッジ方式の発案と採用で解決している.そこで,残された磁束の漏れやすさの克服が当該産業界から強く期待されている.先行した特許文献1から特許文献3の発明は段階的に改善されているものの,まだ不十分である.それに加えて,構造的に励磁コイルの保持を強固にしにくく耐震性などの機械的強度が低いなどの問題もあり,これも実用化の障壁になっている.これらの課題はこの方式を磁界センサに用いた場合でも同じである.
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】公開番号 WO-A1-2010/041340
【特許文献2】特開2013-160549号
【特許文献3】特開2021-063711号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は,磁性流体を磁気コアとする磁気変調式の電流センサ及び磁界センサにおいて,励磁磁束がセンサの外側に漏れることを抑制し,性能を安定化すること,及び,励磁コイルの保持を強固にして機械的強度を向上することである.
【課題を解決するための手段】
【0010】
全てのコイルの軸が平行になるように,検出コイルの内側に,二つの励磁コイルを並列に配置して且つ,その二つの励磁コイルに,同量の励磁磁束を反対向きに発生させて一対とすること,並びに,二つの励磁コイルの外周相互間及び,励磁コイルの外周と検出コイルの内周との間を密着固定できる様にしたこと,を主要な特徴とする.
【0011】
本明細書では,上記一対になった励磁コイルと検出コイルとを,上記の様に組み合わせた状態のコイル群を「測定モジュール」と呼ぶ.
【0012】
先行特許文献に挙げた三つの特許文献は全て磁気コア材に磁性流体を使用したものであり,電流センサの場合は,いずれも100A を超える直流大電流を測定できて,ヒステリシスがなく 0A 測定の不確かさが著しく小さい非接触電流センサの実現を究極の目標にしている.
【0013】
特許文献1は,直流大電流測定と無ヒステリシスは実現した.しかし,センサに近接した所にある磁性材(以下,近接磁性材という)や,地磁気を初めとする環境磁界の影響が大きい.この原因は,励磁磁束を循環させる磁路(以下,循環磁路という)が長いために,循環磁路の磁気抵抗と,励磁コイルの直近で磁気コア外に漏れて帰還する漏れ励磁磁束の磁路の磁気抵抗と,が同程度になり,測定に寄与する磁気コア内の循環磁路の励磁磁束が均一にならないこと及び,漏れた磁束が近接磁性材や環境磁界の影響を受けセンサを不安定化することであった.この問題は励磁コイルが励磁磁路の一部にしか設けられないという構造に起因する.
【0014】
励磁磁路が長いことによる問題を解決するために,励磁磁路を最小限にしたものが,特許文献2の発明である.この発明の励磁磁路は励磁コイルを中心にした円形状になり最短距離である.また漏れ励磁磁束はあるもののそれが特許文献1のように磁気コアに出入りするのもではないため,特許文献1よりも大きく改善された.ところが,このセンサは直交励磁であり,特許文献1のような平行励磁ではないために感度が低く,微小電流では S/N 比が小さくなり不確かさが大きくなった.
【0015】
そこで,感度の良い平行励磁で且つ励磁磁路を短くした発明が特許文献3である.この発明は高感化と励磁磁路の短縮を実現したが,一つの「感知エレメント」(特許文献3の明細書に記載された呼び名で本発明の「測定モジュール」に相当)では励磁磁束の磁気均衡状態を実現することはできず(
図15参照),二つの「感知エレメント」を反対向きに配置することにより見かけ上の均衡状態を作り出している(
図16参照).これによって漏れ励磁磁束の影響が,検出コイルの起電力に対して相殺され出力には現れない.しかしこの方法では,漏れ励磁磁束は消滅していないために,それが近接磁性体などと作用し磁気環境耐性はまだ不十分である.なお,特許文献1と特許文献2では,製造時にトロイダル巻き作業を必要とするが,特許文献3では,コイルを巻回した後に磁気コアを充填すると言う,個体磁性材では不可能な,磁性流体ならではの製造手法を活かすことができて,検出コイルの巻数を増やせることや,製造時のばらつきを低減できること,並びに製造コストを低減できることなど,多くの利点がある.
【0016】
本発明は特許文献1から特許文献3の発明が成した課題解決を継承しつつ,これに加えて,未解決であった漏れ励磁磁束の課題を励磁磁束の磁気均衡状態の達成により解決した.以下にその動作原理を詳しく述べる.
【0017】
本発明のうち,励磁コイルを一対だけ有した測定モジュールを側面から見た断面は
図2の通りである.
図2には測定モジュールの他に磁性流体1と容器4及び励磁磁束も示した.
図2の励磁磁束 Φe は一方向の矢印になっているが,励磁磁束 Φe は交流である.ΦeaとΦebも同様である.
【0018】
図2では,励磁コイル 2a の起磁力による磁束を Φea とし,励磁コイル 2b の起磁力による磁束を Φeb とした.しかし,本発明の条件は一対の励磁コイルの励磁磁束の量は同じで方向は反対向きであるから,
図2の循環する励磁磁束 Φe の方向に従って入口出口の呼び方をすれば,励磁コイル 2a の出口と励磁コイル 2b の入口の磁束の量は同じである.したがって,他の磁束が存在しない限り,励磁コイル 2a の出口から出た磁束は全て励磁コイル 2b の入口に入らざるを得ない.これは励磁コイル 2b の出口と励磁コイル 2a の入口においても同じである.従って Φea = Φeb である限り,全ての励磁磁束 Φe は励磁コイル 2 の中を通り,励磁コイルの外を通って反対側に回り込む磁束は存在し得ない.つまり,励磁コイルの外側に存在しないということは,検出コイル 3 の外側にも存在しないということであり,則ちセンサの外側にも漏れないと言うことである.なお,励磁磁束 Φe は,Φea + Φeb である.
【0019】
図15に特許文献3に記載された「感知エレメント」(本発明の「測定モジュール」に相当)の励磁磁束の状態を示した.これにより特許文献3の励磁磁束の磁路と本発明の磁路とを比較すると,特許文献3では解決していない漏れ励磁磁束の課題を,本発明で解決していることがわかる.
【0020】
特許文献3では,漏れ励磁磁束による起電力が検出コイルに生じることを抑制するために,
図16に示すように,「感知エレメント」を二つ反対向きに設け,同量の漏れ励磁磁束が反対向きに発生するようにし,漏れ励磁磁束による起電力が反対向きで同じ強さになるようにして,検出コイルを直列接続することによって相殺している.これにより,検出コイルから出力される信号に漏れ励磁磁束の影響が含まれないようにしてある.しかし,この方法では漏れ励磁磁束自体が消滅したわけではないために,漏れ励磁磁束が近接磁性体等と干渉することは避けられず,その結果センサ内部の磁束にも影響が及び,漏れ励磁磁束がセンサの性能に悪影響を及ぼす.
【0021】
つぎに本発明の磁気検出作用について簡単の述べる.その説明図を
図3から
図6に示す.本発明に使用している磁性流体は一般的な個体の磁性材のような磁気ヒステリシスがなく,どのような磁性流体であってもそのB-H特性はランジュバン関数で表すことができる.表現を変えれば,特性がランジュバン関数にならないものは磁性流体ではないと言える.この様に磁性流体の特性は明解な関数で表現できるために,数学的シミュレーションが現実と一致しやすい.
図3は被測定磁界が無い場合の測定モジュールの磁気特性を示しているが,示した特性はランジュバン関数を使ってグラフ化したものである.まず,図中の 2a の特性は第1象限と第3象限に有るが,2b の特性は第2象限と第4象限に有る.これは検出コイル 3 から見た励磁磁界を基準に描いたためであり,
図2で左から右に向かう磁束を正方向とすると,励磁コイル 2a の磁束が正方向の時には,励磁コイル 2b は負方向になる.従ってグラフに示すと励磁コイル 2b の特性は反転する.検出コイル 3 はこの両者を内包しているため両者の特性の和が測定モジュールの特性になる.この両者の特性の和を合成特性と呼ぶことにする.
【0022】
図3は被測定磁束 Φx がない場合だが,図のように合成特性はいかなる磁界 H においても合成特性による磁束密度 B は0(零)である.つまり被測定磁束 Φx がない場合には,検出コイル 3 と鎖交する磁束は存在せず起電力は生じない.つまり検出コイル 3 の出力電圧は0である.これは磁気ブリッジと呼ぶ方法であって,磁気ブリッジはどのような強い励磁をしても被測定磁界 Hx がなければ,検出コイルと鎖交する励磁磁束 Φe が存在せず検出コイル 3 の出力は常に0になる.よって高感度センサを実現するのに向いている.この状態を磁気ブリッジが平衡しているという.本発明ではこの平衡状態を,二つの励磁コイルに同量の励磁磁束を反対向きに発生させることにより発現している.そこでこれを均衡励磁と命名した.
【0023】
次にこの測定モジュールに被測定磁界 Hx が作用した場合の B-H 特性の様子を説明する.まず
図4に被測定磁界 Hx が比較的に弱い場合を示した,次に被測定磁界 Hx がより強い場合を
図5に示した.なおこの説明では,被測定磁界 Hx は,
図2において,図の左側から右側に向かってコイルの軸と平行で均一に存在すると仮定する.
【0024】
被測定磁界 Hx が存在する場合の B-H 特性の変化を
図5で説明する.これらの図は検出コイルから見た励磁磁界を基準に描いたものである.まず 励磁コイル 2a の特性に着目すると,励磁コイル 2a 内には励磁磁界 Hea (励磁磁束 Φea を発生させる磁界)と被測定磁界 Hx の和が存在する.つまり,B-H 特性グラフ上では,励磁磁界 Hea には被測定磁界 Hx の分だけバイアスがかかり,Hea はグラフの右側に Hx だけずれ,ここを中心に励磁コイル 2a の Hea が変動する.この状態を「検出コイルから見た励磁磁界を基準」にグラフにすると,起電力に作用する検出コイルの磁束は交流成分だけであるために,直流成分が排除されて,Hea の中心がグラフの中心に来て,励磁コイル 2a の特性グラフは,直流成分である被測定磁界 Hx 分だけ左側にずれる.同様に励磁コイル 2b のグラフは右側にずれる.その結果,両特性の和である合成特性は中央が突起した特性になる.この突起の高さは,
図4と
図5を比較しても判るように 2a と 2b のずれの大きさに比例し,被測定磁界 Hx が負の場合は,突起が下向きになる.
【0025】
このような合成特性になると検出コイル 3 と鎖交する励磁磁束が生じるようになり検出コイル 3 に起電力が生じる.その様子を合成特性だけを抽出した
図6によって説明する.
図6は
図5に対して磁束密度軸(B軸)を拡大している.この図に示す通り励磁磁界が検出コイルと鎖交(局部的に見れば貫通)する磁束生む.この磁束は直流成分と交流成分が重畳しているが,直流成分は被測定磁界 Hx によるものである.しかし直流成分は起電力には影響しない.そして交流成分は合成特性グラフの突起の高さに比例するが,この高さは先にも述べた通り被測定磁界 Hx の強さに比例するため,結局,起電力は被測定磁界 Hx に比例する.そして,被測定磁界 Hx が負の場合には合成特性の突起は下向きになり,
図6の「検出コイルを貫通する磁束」は上下が反転して,検出コイルの出力の位相も反転する.また合成特性は,磁界が正の領域と負の領域とで傾きが反対になるために,検出コイルを貫通する交流磁束は,励磁磁界の2倍の周波数になる.
【0026】
この検出コイルの出力を,励磁信号に同期したその2倍の信号を参照信号として同期検波すれば,被測定磁界の大きさと向きを抽出することができる.この被測定磁界の発生源が被測定電流であれば,電流の大きさと向きを測定することができる.また,励磁周波数 fe よりも十分に低い周波数であれば交流電流も計測できる.これらの信号処理は,
図9及び
図10に示したブロック図の回路で実現できる.
図9は磁気比例式の場合であり,
図10は磁気平衡式の場合である.磁気平衡式の場合には,原理的には負帰還電流を流すコイルが必要だが,本発明には負帰還専用コイルがない.負帰還専用コイルを設ける場合には負帰還専用コイルが発生する磁界が,被測定磁界を打ち消すようにコイルの軸方向と磁界発生方向を合わせれば良い.つまり検出コイル 3 と同様の巻き方で良い.しかし,
図10では負帰還専用コイルを設けず,検出コイル 3 にその役目を担わせている.これは従来からよく採用されている公知の方法である.
【0027】
ここまで本発明の動作原理について,一つの検出コイルの中に一つの励磁コイル対がある場合で説明したが,一つの検出コイルの中に複数の励磁コイル対が有っても良い.例えば被測定電流の導体の径が大きく電流センサが大きくなる場合には,磁気コアも大きくなる.この際磁路の断面積も広くした方が磁気コアの磁気抵抗が下がり,センサの性能の低下を防ぐことができる.しかしこの様な場合でも,励磁磁路の距離は短く保つ方が良い.そのためには,励磁コイルの対を増やすことが有益である.そこで,励磁コイルを3対にした場合の測定モジュールの例を
図14に示す.この例の場合には隣接する励磁コイルを対にして使用することが望ましい.
【発明の効果】
【0028】
本発明は,二つの励磁コイルから生じる励磁磁束が同量で方向は反対向きであるために,全ての励磁磁束がこの二つの励磁コイルを循環し,これらの励磁コイルを巻回している検出コイルの外側すなわちセンサの外側に励磁磁束が出ることはなく,センサの外側に有る近接磁性体や環境磁界との干渉が起こらず,公知の技術に比較して,極めて安定化すると言う利点がある.さらに,励磁コイルの外周と検出コイルの内周は密着して固定することが可能なため,励磁コイルの保持を強固にして機械的強度を向上できる,という利点もある.
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】測定モジュールの励磁コイルと検出コイルの相対位置を示した説明図である.
【
図2】測定モジュールの断面に励磁磁束を示した説明図である.
【
図3】被測定磁界が無い場合の測定モジュールの磁気特性示した説明図である.
【
図4】被測定磁界が比較的弱い場合の測定モジュールの磁気特性示した説明図である.
【
図5】被測定磁界が比較的強い場合の測定モジュールの磁気特性示した説明図である.
【
図6】検出コイルに起電力が生じる原理を示した説明図である.
【
図7】複数の測定モジュールを使用する場合のコイルの結線例を示す説明図である.
【
図8】容器の一部を切開して内部構造が判るようにした実施例1の電流センサの説明図である.
【
図9】磁気比例式駆動回路の基本的要素を示した説明図である.
【
図10】磁気平衡式駆動回路の基本的要素を示した説明図である.
【
図11】実施例1と市販されている校正用電流センサの特性の一例をグラフ化した性能比較説明図である.
【
図12】円筒状をした測定モジュールの構造を示した説明図である.
【
図13】円筒状をした測定モジュールを用いた実施例2の磁界センサの説明図である.
【
図14】複数の励磁コイル対を有した測定モジュールの説明図である.
【
図15】特許文献3の
図4から引用した公知技術の説明図である.
【
図16】特許文献3の
図5から引用した公知技術の説明図である.
【発明を実施するための形態】
【0030】
一対になった励磁コイル 2 と,検出コイル 3 と,からなる測定モジュールを複数用いて,電流センサでは環状に配列し,磁界センサでは一直線に配列した形態で実施することが望ましく,次に示す実施例で詳細に述べる.
【実施例0031】
実施例1は電流センサである.この実施例に用いた測定モジュールは
図1に示す形状と同じにした.励磁コイル 2 は,2aと2bで示しているように同じものを作り二つ重ねてそれに検出コイル 3 を巻いた.さらに具体的には,
図8に示すように励磁コイル用ボビン 20 を作り,このボビンに励磁コイルを巻いてそれを二つ重ね,その外側に検出コイル 3 を巻いた.
【0032】
本実施例では,このようにして作った測定モジュールを,環状空洞の容器の中に等間隔で配置した.容器 4 は
図8の様に二分割して作り,測定モジュールを配置した後に接着剤で張り合わせた.そして測定モジュールの結線は
図7に示すように,隣接する測定モジュールの励磁磁束 Φe が反対向きになるようにした.反対向きにした理由は,励磁磁束 Φe が単一の測定モジュール内で循環して完結することにより,測定モジュール相互の特性のばらつきによる漏れ励磁磁束の発生を回避するためである.なお,本実施例では励磁コイル 2a と 2b は同じものであるが,2a と 2b とを互いに逆巻きにすれば当然に結線方法は変わる.
【0033】
図7に従ってコイルを結線した後,同図で「励磁」「検出」と記載されている端子を,
図8のリード線引出し孔 32 から容器外に引出し,孔は樹脂を充填し硬化させて密封した.次に磁性流体注入孔 31 から真空引きして磁性流体を注入充填した.その後,注入孔はセラミックボールをネジで押さえつけて密閉した.
【0034】
このセンサの寸法は,縦横の一辺が54mm,厚さが突起部を含めず29mm,被測定電線を通す孔 30 は直径が14mmである.駆動回路は
図10に示す磁気平衡式とし,信号処理はDSPで行った.この実施例の定格電流は140Aである.
【0035】
本発明の最も重要なところは着磁しないことである.つまり,0Aの測定で出力が0になることである.そこで,1A 以下の特性試験をした.その結果を
図11に示す.この試験には横河計測製の WT1806E を用い,この計測器に内蔵している 5A のシャント抵抗器との器差を求めた.なお,この計測器は汎用の電圧計,電流計,電力計を校正するためのもので,計測器のトレーサビリティーが確保されている.
【0036】
この特性試験では,本実施例だけでなく上記の計測器に付属している定格200Aの校正用電流センサも一緒に,同一被測定電流を同時に測定して比較した.
図11に示したグラフでは,「●」印が本実施例で,「×」印が校正用の電流センサである.グラフの縦軸は上記シャント抵抗器との器差を百分率で現している.
【0037】
この結果の考察に当たって押さえておくべきことは,まず基準にしたシャント抵抗器は着磁することはないが,電子回路のオフセットによる零点のずれはあり得ることである.しかし,現在の電子回路の技術ではオフセットを10ppm オーダーまで下げることもできるため,校正用のこの計測器であればその程度にはなっているだろうと考えられ,未確認ではあるが,この特性試験に計測器の回路のオフセットが大きな影響を及ぼすことはないものと見做す.この様な観点で試験結果を見ると,本実施例は±0.2%のふらつきはあるものの,そのふらつきの幅を維持して 0A に接近している.このふらつきは,本実施例の駆動回路を,計測器に使うような高品質のものではなく,一般的な電子部品で作っているためであろうと判断している.一方,定格200Aの校正用電流センサは被測定電流が小さくなるにつれて,器差が次第に大きくなっている.これは0Aがずれているセンサの典型的な特性である.さらに,被測定電流に 3 kAを通電した後でも,400mT 程度のネオジム磁石を本実施例に吸着させた後でも,着磁しないことを確認した.
【0038】
この様に必要最低限の基本的特性を確認した後,近接磁性材や環境磁界の影響を確認した.近接磁性材については,磁性材が磁化していなければセンサに接触させても,影響は認められなかった.ちなみに特許文献2や特許文献3の場合は顕著な影響が確認されている.また前記の400mTのネオジム磁石を吸着させた状態では測定機能は完全に奪われる.これは本実施例に限らず,被測定電流の磁界を計測する電流センサでは共通した特性である.さらに環境磁界については特許文献2や特許文献3と同じ条件の試験データがなく,比較評価はまだしていない.しかし本実施例の場合,商取引に用いるスマートメータ用の仕様を達成していることは確認できた.