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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172375
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】車両の動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/029 20120101AFI20231129BHJP
   B60K 17/30 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
F16H57/029
B60K17/30 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084119
(22)【出願日】2022-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】521537852
【氏名又は名称】ダイムラー トラック エージー
(74)【代理人】
【識別番号】100187322
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 直輝
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 真樹
【テーマコード(参考)】
3D043
3J063
【Fターム(参考)】
3D043AA06
3D043AB01
3D043AB16
3D043CA02
3D043CA03
3D043CC06
3J063AA01
3J063AB01
3J063AC01
3J063AC11
3J063BA01
3J063BA07
3J063BB01
3J063CA05
3J063CB57
3J063CD41
(57)【要約】
【課題】整備性を損なうことなく、ドライブシャフトの組み付け時に、ハウジングの開口部に設けられたオイルシールの損傷を防止すると共に、オイルシール摺動部分におけるシール性を向上させること。
【解決手段】動力伝達装置のドライブシャフト5は、一端部がデファレンシャルギヤのサイドギヤ34に係合され、且つ、シールジャーナル部52の端面52aに対して隙間を有してドライブシャフト5に嵌合されるインナシャフト用ボールベアリング40を介してデフケース32に回転可能に支持されていると共に、シールジャーナル部52の外周面に嵌合される円筒状のスリーブ60を有しており、当該スリーブ60はシールジャーナル部52から前記隙間まで覆うように形成されると共に切欠部63を備えている。
【選択図】図3

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された動力源から伝達される駆動力を差動し、前記車両の各駆動輪に連結されるドライブシャフトに前記駆動力を伝達するデファレンシャルギヤと、前記デファレンシャルギヤを収容するデフケースと、前記デフケースを第1のベアリングを介して回転可能に支持するハウジングと、前記ハウジングの開口部に設けられ前記ドライブシャフトのジャーナル部をシールするオイルシールと、を備える車両の動力伝達装置であって、
前記ドライブシャフトは、
前記ドライブシャフトの一端部が前記デファレンシャルギヤのサイドギヤに係合され、且つ、前記ジャーナル部の端面に対して隙間を有して前記ドライブシャフトに嵌合される第2のベアリングを介して前記デフケースに回転可能に支持されていると共に、
前記ジャーナル部の外周面に嵌合される円筒状のスリーブを有しており、
前記スリーブは、前記ジャーナル部から前記隙間まで覆うように形成されると共に、少なくとも2つ以上の切欠部を備えていることを特徴とする車両の動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両の動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ベアリングを介してハウジングに回転可能に支持されたデフケースと、デフケースに挿入されたドライブシャフトと、同ハウジングに設けられたオイル供給路と、同ハウジングと同ドライブシャフトとの間に設けられたオイルシールと、を備えた車両の動力伝達装置が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-100447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような車両の動力伝達装置の組立工程において、デフケースにドライブシャフトを組み付ける場合、ハウジングの開口部に設けられているオイルシールの中にドライブシャフトを挿入させる。この際に、オイルシールのダストリップやメインリップがめくれて損傷しないようにドライブシャフトを挿入することが必要となる。
【0005】
ところで、車両の動力伝達装置として、ドライブシャフトがデフケースに対してボールベアリング支持されるものがある。このような車両の動力伝達装置では、デフケースに対してドライブシャフトを挿入する場合、ドライブシャフトにボールベアリングを予め圧入した状態でデフケースに挿入する。ドライブシャフトは、ハウジングの開口部に設けられているオイルシールを通過して、ドライブシャフトの先端側のスプライン部がデフサイドギヤのスプライン部に嵌合される。
【0006】
前述した通り、ドライブシャフトにはボールベアリングが圧入されているが、ボールベアリングとドライブシャフトのジャーナル部(オイルシール摺動部となる)の端面との間に隙間(ボールベアリング分解用の隙間)が設けられており、ボールベアリングの交換時にインナシャフトからボールベアリングを取り外すための工具(例えばベアリングプーラ)がこのボールベアリング分解用の隙間に係合できるようになっている。
【0007】
しかしながら、デフケースに対してドライブシャフトを挿入する際、オイルシールのリップがボールベアリング分解用の隙間を通過したときに、ドライブシャフトのジャーナル部の端面がオイルシールのダストリップやメインリップに引っかかることによって、オイルシールのリップが損傷してオイルシールからオイル漏れを起こす虞があった。
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、整備性を損なうことなく、ドライブシャフトの組み付け時に、ハウジングの開口部に設けられたオイルシールの損傷を防止すると共に、オイルシール摺動部分におけるシール性を向上させることができる車両の動力伝達装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は前述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様又は適用例として実現することができる。
【0010】
本適用例に係る車両の動力伝達装置は、車両に搭載された動力源から伝達される駆動力を差動し、前記車両の各駆動輪に連結されるドライブシャフトに前記駆動力を伝達するデファレンシャルギヤと、前記デファレンシャルギヤを収容するデフケースと、前記デフケースを第1のベアリングを介して回転可能に支持するハウジングと、前記ハウジングの開口部に設けられ前記ドライブシャフトのジャーナル部をシールするオイルシールと、を備える車両の動力伝達装置であって、前記ドライブシャフトは、前記ドライブシャフトの一端部が前記デファレンシャルギヤのサイドギヤに係合され、且つ、前記ジャーナル部の端面に対して隙間を有して前記ドライブシャフトに嵌合される第2のベアリングを介して前記デフケースに回転可能に支持されていると共に、前記ジャーナル部の外周面に嵌合される円筒状のスリーブを有しており、前記スリーブは、前記ジャーナル部から前記隙間まで覆うように形成されると共に、少なくとも2つ以上の切欠部を備えていることを特徴とする。
【0011】
このように、ドライブシャフトにおいてオイルシールとの摺動面となるジャーナル部の外周面に円筒状のスリーブを嵌合し、当該スリーブによりボールベアリング分解用の隙間を覆う。このようにすることで、ドライブシャフトをハウジングの開口部を通してデファレンシャルギヤに挿入する際、ドライブシャフトのジャーナル部の端面がオイルシールのダストリップやメインリップに引っ掛かることなく挿入でき、オイルシールの損傷を防止することができる。
【0012】
さらに、スリーブに、切欠部を有しているため、ドライブシャフトからボールベアリングを取り外すようなことがあった場合、工具であるプーラの爪を当該切欠部からボールベアリング分解用の隙間を通して第2のベアリングに引っ掛け、当該第2のベアリングを取り外すことが可能になる。つまり、動力伝達装置の整備性は維持できている。
【0013】
これにより、整備性を損なうことなく、ドライブシャフトの組み付け時に、ハウジングの端部に設けられたオイルシールの損傷を防止すると共に、オイルシール摺動部におけるシール性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態の係る車両の動力伝達装置を備えた車両の概略構成図である。
図2】本発明の一実施形態に係る車両の動力伝達装置の全体断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る車両の動力伝達装置の要部断面図である。
図4】スリーブの詳細図である。
図5】オイルシールの詳細図である。
図6】ドライブシャフトを差動機構に組み付ける工程を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づき説明する。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態における車両の動力伝達装置を備えた車両の概略構成図である。
【0017】
図1に示すように、本実施形態に係る車両1は、ラダーフレーム2、キャブ3、駆動ユニット4を備える電動トラックである。
【0018】
ラダーフレーム2は、左右一対のサイドフレーム2aと複数のクロスメンバ2bを有している。サイドフレーム2aは、車両1の車両前後方向に沿って延在し、互いに車幅方向に対して平行に配置されている。複数のクロスメンバ2bは、車幅方向に延び一対のサイドフレーム2aを連結している。そして、ラダーフレーム2は、キャブ3、駆動ユニット4、及び車両1に搭載されるその他の重量物を支持している。
【0019】
キャブ3は、図示しない運転席を含む構造体であり、ラダーフレーム2の前部上方に設けられている。
【0020】
駆動ユニット4は、車両後部に位置しており、左右一対のドライブシャフト5を介して後輪6と接続されている。後輪6は左右に各2つ配置されている。本実施形態に係る車両1においては、後輪6が駆動輪として機能するように駆動ユニット4から駆動力が伝達され、車両1が走行可能である。なお、図示しないが車両前部には前輪が設けられている。
【0021】
駆動ユニット4は、駆動源であるモータ10、変速機構20及び差動機構30を有している。モータ10は、図示しないバッテリからインバータを介して交流電力が供給されることにより、車両1の走行に必要な駆動力を発生させる。本実施形態の変速機構20は減速機であり、複数のギヤを含み、モータ10から入力される回転を減速して差動機構30に出力する。差動機構30は、変速機構20から入力される回転駆動力を左右の後輪6に対して振り分ける。すなわち、駆動ユニット4は、変速機構20及び差動機構30を介して、モータ10の回転駆動力を車両1の走行に適した回転速度に減速してドライブシャフト5に伝達する。これにより駆動ユニット4は、ドライブシャフト5を介して後輪6を回転させて車両1を走行させる。
【0022】
次に図2は発明の一実施形態に係る車両の動力伝達装置の全体断面図である。以下、同図に基づき動力伝達装置の内部構造について説明する。
【0023】
変速機構20及び差動機構30は、複数のギヤがハウジング21(いわゆるギヤボックス)に収容されている。変速機構20は、ハウジング21内にて回転自在に軸支された入力シャフト22、中間シャフト23、出力シャフト24の3つシャフトを有している。各シャフト22、23、24はそれぞれ車幅方向に平行に延びている。
【0024】
入力シャフト22は、一端がモータ10のモータ出力シャフト11と連結されており、第1ギヤ25aが設けられている。中間シャフト23には、第1ギヤ25aと噛合する第2ギヤ25bと、第3ギヤ25cが設けられている。出力シャフト24には第3ギヤ25cと噛合する第4ギヤ25dと、差動機構30のリングギヤ31と噛合する第5ギヤ25eが設けられている。各ギヤの径は、変速機構20に要求される減速比が実現可能に設定されている。変速機構20は、モータ10側から入力される高回転低トルクの回転駆動力を、低回転高トルクに変換して出力可能に構成されている。
【0025】
ハウジング21内には差動機構30も収容されており、差動機構30は、リングギヤ31が変速機構20の最終ギヤである第5ギヤ25eと噛合している。リングギヤ31はデフケース32と一体に連結されており、当該デフケース32は左右一対のデフケース用ボールベアリング32a(第1のベアリング)を介してハウジング21に対して回転自在に支持されている。デフケース32は、ピニオンギヤ33及びサイドギヤ34からなるデファレンシャルギヤを収容しており、サイドギヤ34にドライブシャフト5が係合されている。
【0026】
詳しくは、左右それぞれのドライブシャフト5は、車幅方向内側のインナシャフト5aと、車幅方向外側のアウタシャフト5b(図2ではアウタシャフト5bの車幅方向内側の端部のみ図示)とがフランジ接続され同軸上にて一体をなしている。インナシャフト5aの車幅方向内側端部、すなわちドライブシャフト5の一端部は、差動機構30のサイドギヤ34とスプライン結合されている。インナシャフト5aは、ハウジング21の開口部を通過してサイドギヤ34に挿入されており、インナシャフト用ボールベアリング40(第2のベアリング)を介してデフケース32に対して回転自在に支持されている。
【0027】
ハウジング21内にはギヤ潤滑用のオイルが一定量貯留されており、ハウジング21の開口部と、インナシャフト5aとの間はオイルシール70により液密にシールされている。以下、このシール構造について詳しく説明する。
【0028】
図3には本実施形態の車両の動力伝達装置の要部断面図、図4にはスリーブの詳細図、図5にはオイルシールの詳細部がそれぞれ示されており、これらの図に基づきシール構造について説明する。なお、これらの図3では車両左側のドライブシャフト5と差動機構30との接続部分を拡大したものであり、図4のスリーブ及び図5のオイルシールも車両左側のものである。基本的な構成が同じである車両右側についての詳しい説明は省略する。
【0029】
図3に示すように、インナシャフト5aは先端側(車幅方向内側)からアウタシャフト側(車幅方向外側)に向けて、スプライン部50、ベアリング圧入部51、シールジャーナル部52、フランジ部53が徐々に径が大きくなるように形成されている。
【0030】
スプライン部50は、外周面にスプライン外歯が形成されており、当該スプライン外歯がサイドギヤ34のスプライン内歯に噛合する。ベアリング圧入部51は、スプライン外歯から緩やかに拡径し、環状のインナシャフト用ボールベアリング40が圧入される外周面を有している。
【0031】
シールジャーナル部52は、ベアリング圧入部51から一定の隙間をあけて径方向に垂直に拡径された端面52aを有している。そしてシールジャーナル部52の外周面には後述するスリーブ60が嵌合されており、当該スリーブ60を介してオイルシール70と接触している。
【0032】
フランジ部53はシールジャーナル部からさらに垂直に拡径した中空の円板状をなしており、外縁部分には車幅方向に貫通したボルト挿入用の孔53aが、周方向に複数形成されている。アウタシャフト5bにもボルト挿入用の孔54aを有するフランジ部54が形成されており、それぞれの孔53a、54aにボルト55が挿入されナット56により締結されることで、インナシャフト5a及びアウタシャフト5bはフランジ接続されている。
【0033】
図4に示すように、スリーブ60は、オイルシール70と摺動しやすくするため規定の粗さとなるよう外周面が熱処理及び研磨された金属製の筒材である。具体的には、スリーブ60は円筒状のスリーブ基部61と、当該スリーブ基部61の車幅方向内側にてテーパ状に外径が縮小したスリーブ先端部62と、当該スリーブ先端部62においてスリーブ基部61側に矩形に切り欠かれた一対の切欠部63を有している。
【0034】
スリーブ基部61の外径はインナシャフト用ボールベアリング40の外径よりも僅かに大きく、スリーブ先端部62の端面(スリーブ先端面)の外径はインナシャフト用ボールベアリング40の外径と略同径である。
【0035】
一対の切欠部63はスリーブ60の軸心に対して対称となる位置に形成されており、ベアリングプーラの爪部が通る程度に周方向の切欠幅を有している。なお、ベアリングプーラは、インナシャフト5aからインナシャフト用ボールベアリング40を引き抜くための工具である。図示しないがベアリングプーラは雄ネジの心棒の両脇に爪部が配置され、当該爪部をボールベアリングに引っ掛け、心棒の先端をインナシャフト5aの先端面に当てて、当該心棒を回転させることで雄ネジの軸力を利用してボールベアリングを引き抜くことが可能である。
【0036】
スリーブ60は、スリーブ先端部62がシールジャーナル部52の端面52aよりも車幅方向内側に突出する長さを有している。切欠部63は、シールジャーナル部52の端面52aよりも車幅方向外側となる軸方向の長さ(切欠深さ)を有している。
【0037】
つまり、図3に示すように、スリーブ60はシールジャーナル部52の端面52aとインナシャフト用ボールベアリング40との隙間(ベアリング分解用の隙間)の大部分を覆う。一方で、切欠部63は、当該切欠部63を通してベアリングプーラの爪部がベアリング分解用の隙間に入り、インナシャフト用ボールベアリングの車幅方向外側の面に引っ掛かるよう形成されている。
【0038】
オイルシール70は、ハウジング21に形成された円形の開口部の内周に設けられる環状の弾性体(例えばゴム)である。具体的には図5に示すように、オイルシール70は、ハウジング21に取り付けられる外周側のシール基部71と、スリーブ60と直接接するシール部72と、当該シール部72を軸心側に付勢する環状スプリング73と、を有している。
【0039】
シール基部71は、ハウジング21の開口部内周面と接する外周面71aと、当該外周面71aの車幅方向内側からオイルシール70の軸心方向に延びている端面71bとからなる。
【0040】
シール部72は、シール基部71の端面71bの先端部分から、さらに軸心方向に延びた舌状のダストリップ72aと、当該ダストリップ72aより車幅方向内側にて軸心側に凸の山状に形成されたメインリップ72bとからなる。当該メインリップ72bの外周側には断面半円状の溝が周方向に形成されており、当該溝に環状スプリング73が係合されている。
【0041】
図3に示すように、オイルシール70は、ダストリップ72a及びメインリップ72bのそれぞれの先端がスリーブ60に接する。車幅方向外側に位置するダストリップ72aは、主にハウジング21の外側からの埃等の異物の侵入を防ぐためのものである。メインリップ72bは、ハウジング21内部のオイルが外部に漏れるのを防ぐためのものである。
【0042】
また、インナシャフト5aには、フランジ部53において、オイルシール70よりも外周側にダストカバー80が設けられている。当該ダストカバー80は、ダストリップ72aより手前にて、大きな異物の侵入を防ぐためのものである。
【0043】
変速機構20、差動機構30、ドライブシャフト5からなる動力伝達装置は、以上のようなシール構造を有し、モータ10からの駆動力を後輪6に伝達する。ここで図6には、ドライブシャフト5を差動機構30に組み付ける工程を示した説明図が示されており、同図に基づき、ドライブシャフト5の差動機構30への組み付けについて説明する。なお、図6では要部を見やすくするためハウジング21の図示を省略している。
【0044】
図6(a)に示すように、ドライブシャフト5のインナシャフト5aには、予めインナシャフト用ボールベアリング40がベアリング圧入部51に圧入されており、シールジャーナル部52にはスリーブ60が嵌合されている。ハウジング21の開口部にはオイルシール70が取り付けられている。この状態でインナシャフト5aのスプライン部50を差動機構30のサイドギヤ34に挿入させていく。
【0045】
この際、インナシャフト用ボールベアリング40の外径はオイルシール70のダストリップ72a及びメインリップ72bの先端よりも径が小さいため干渉しにくい。一方で、スリーブ60のスリーブ基部61はダストリップ72a及びメインリップ72bと接触するようリップ先端と径がほぼ一致しているが、スリーブ先端部62はテーパ状をなしていることでダストリップ72a及びメインリップ72bが円滑にスリーブ基部61に摺動され、図6(b)の状態となる。この後、インナシャフト5aにアウタシャフト5bがフランジ接続される。
【0046】
このように、本実施形態の車両の動力伝達装置では、ドライブシャフト5のシールジャーナル部52の外周面に円筒状のスリーブ60を嵌合し、当該スリーブ60によりボールベアリング分解用の隙間を覆っている。このようにすることで、ドライブシャフト5をハウジング21の開口部を通してサイドギヤ34に挿入する際、ドライブシャフト5のシールジャーナル部52の端面52aがオイルシール70のダストリップ72aやメインリップ72bに引っ掛かることなく挿入でき、オイルシール70の損傷を防止することができる。
【0047】
さらに、スリーブ60に、切欠部63を有しているため、インナシャフト5aからインナシャフト用ボールベアリング40を取り外すようなことがあった場合、工具であるプーラの爪を当該切欠部63からボールベアリング分解用の隙間を通してインナシャフト用ボールベアリング40に引っ掛け、当該インナシャフト用ボールベアリング40を取り外すことが可能になる。つまり、動力伝達装置の整備性は維持できている。
【0048】
また、例えば、図3に示すようにインナシャフト5aのフランジ部53がシールジャーナル部52の一部を覆うような形状を有している場合はシールジャーナル部52の外周面に対して熱処理及び研磨を行うのは困難である。これに介して本実施形態のように、オイルシール70との摺動面をスリーブ60とすることで、摺動面に適した熱処理及び研磨を容易に行うことができるようになる。
【0049】
このように本実施形態の動力伝達装置は、整備性を損なうことなく、ドライブシャフト5の組み付け時に、ハウジング21の開口部に設けられたオイルシール70の損傷を防止すると共に、オイルシール摺動部におけるシール性を向上させることができる。
【0050】
以上で本発明に係る車両の動力伝達装置の実施形態についての説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。
【0051】
上記実施形態のスリーブ60には一対の矩形の切欠部63が形成されているが、切欠部の数や形状はこれに限られず、使用する工具に合わせて3つ以上の切欠部を形成してもよいし、切欠形状を変えてもよい。
【符号の説明】
【0052】
1 :車両
4 :駆動ユニット
5 :ドライブシャフト
5a :インナシャフト
5b :アウタシャフト
6 :後輪
10 :モータ
20 :変速機構
21 :ハウジング
30 :差動機構
31 :リングギヤ
32 :デフケース
32a :デフケース用ボールベアリング
33 :ピニオンギヤ(デファレンシャルギヤ)
34 :サイドギヤ(デファレンシャルギヤ)
40 :インナシャフト用ボールベアリング
50 :スプライン部
51 :ベアリング圧入部
52 :シールジャーナル部
52a :端面
53 :フランジ部
54 :フランジ部
60 :スリーブ
61 :スリーブ基部
62 :スリーブ先端部
63 :切欠部
70 :オイルシール
71 :シール基部
71a :外周面
71b :端面
72 :シール部
72a :ダストリップ
72b :メインリップ
73 :環状スプリング
80 :ダストカバー
図1
図2
図3
図4
図5
図6