IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 水澤化学工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-変性Y型ゼオライト製除湿剤 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172376
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】変性Y型ゼオライト製除湿剤
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/28 20060101AFI20231129BHJP
   B01J 20/18 20060101ALI20231129BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20231129BHJP
   B01J 20/34 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
B01D53/28
B01J20/18 D
B01J20/30
B01J20/34 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084120
(22)【出願日】2022-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】000193601
【氏名又は名称】水澤化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100217869
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 邦久
(72)【発明者】
【氏名】千葉 竜一
(72)【発明者】
【氏名】荻野 智大
(72)【発明者】
【氏名】小野 裕史
(72)【発明者】
【氏名】近藤 優和
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 理世
【テーマコード(参考)】
4D052
4G066
【Fターム(参考)】
4D052CA02
4D052CB00
4D052HA03
4D052HB06
4G066AA32D
4G066AA62B
4G066BA23
4G066BA25
4G066BA36
4G066BA38
4G066CA01
4G066CA43
4G066CA51
4G066DA03
4G066FA11
4G066FA22
4G066FA37
4G066GA01
(57)【要約】
【課題】水分の吸着性に優れていると共に、吸着水分の放出を低温で行うことが可能な除湿剤を提供する。
【解決手段】SiO/Al(モル比)が3.0~10.0、結晶度が85.0~110.0%のY型ゼオライトの変性物からなる除湿剤であって、水分吸着等温線における相対圧0.025~0.900の範囲の水分吸着量が18.0~40.0質量%であることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO/Al(モル比)が3.0~10.0、結晶度が85.0~110.0%のY型ゼオライトの変性物からなる除湿剤であって、水分吸着等温線における相対圧0.025~0.900の範囲の水分吸着量が18.0~40.0質量%であることを特徴とする除湿剤。
【請求項2】
前記Y型ゼオライトの変性物の60℃における水分放出量が14.0~25.0質量%である、請求項1に記載された除湿剤。
【請求項3】
前記Y型ゼオライトの変性物のSiO/Al(モル比)が4.0~5.5である、請求項1または2に記載された除湿剤。
【請求項4】
前記Y型ゼオライトの変性物が、Y型ゼオライトをアンモニウムイオン交換した後に水蒸気雰囲気下で焼成することで得られたものである、請求項1または2に記載された除湿剤。
【請求項5】
前記Y型ゼオライトの変性物の格子定数が24.30~25.00Åである、請求項1または2に記載された除湿剤。
【請求項6】
前記Y型ゼオライトの変性物の窒素吸着法により測定した、細孔直径3~30nmの細孔容積が6.80~12.00cm/kgである、請求項1または2に記載された除湿剤。
【請求項7】
請求項1または2に記載された除湿剤が担体に保持されている除湿用部材。
【請求項8】
前記担体がハニカム構造である、請求項7に記載された除湿用部材。
【請求項9】
請求項1または2に記載された除湿剤を使用するヒートポンプ。
【請求項10】
請求項1または2に記載された除湿剤を使用するデシカント除湿機。
【請求項11】
請求項1または2に記載された除湿剤を使用するVOC吸着剤。
【請求項12】
相対湿度RH=75%で飽和状態に吸湿させて測定した、トリメチルベンゼン吸着量が35%以上である、請求項1または2に記載された除湿剤を使用するVOC吸着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Y型ゼオライトの変性物からなる除湿剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体などの製造装置が収容された各種の工場内や一般家庭では、空気中の水分を一定量に保つために除湿剤が使用されている。このような除湿剤としてはシリカゲルや各種のゼオライトが知られている。
【0003】
特にゼオライトは、シリカゲルに比して吸湿性に優れており、工業的な用途に広く使用されている。例えば、特許文献1には複数種のゼオライト粒子が分散されている除湿層を備えた除湿ロータが開示されている。
また、特許文献2にはゼオライトを酸処理して非晶質化した変性アルミノケイ酸を乾燥剤として用いることが提案されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されているように、ゼオライトをそのまま除湿剤として用いた場合、吸湿後のゼオライトから水分を放出せしめ、再び水分の吸着に再利用するためには、約500℃程度の高温に加熱することが必要であり、このため一般家庭などでの使用が大きく制限されていた。即ち、再生のための加熱時に火災等を引き起こし易いからである。
【0005】
一方、特許文献2で提案されている変性アルミノケイ酸はゼオライトに比して吸着水分を容易に放出することができるという利点を有しているが、吸湿性能が大きく低下してしまうという問題があり、このため、除湿剤としての使用が実質上困難である。このような処理により得られる、通称USY(Ultra Stable Y)の製品として、COSMO社(韓国)の10Mなどが市販されている。また、一般的にUSYは石油化学系製品用の触媒であるので、比較的高価になる当該のような作業でも工業的に生産する価値が高いが、除湿剤はより安価が求められるため実質的に使用が困難といえる。
【0006】
また、特許文献3には、FAU型ゼオライトのアルミニウム硫酸塩処理物(ゼオライト変性物)からなる除湿剤が本出願人により提案されている。かかる除湿剤は、水分の吸着性に優れているばかりか、吸着水分の放出を従来より低温で行うことができるという利点を有している。
【0007】
さらに、特許文献4には、水分の吸着性に優れていることは当然として、より低温の90℃で吸着水分の放出を行うことができるY型ゼオライト変性物からなる除湿剤が提案されている。
しかしながら、Y型ゼオライト変性物からなる除湿剤において、吸着水分の放出がより低温で可能になるほど、前記除湿剤を再生して再利用するための水分放出作業が、より容易かつ安価となることから、吸着水分の低温放出性については更なる向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007-167838号公報
【特許文献2】特開平6-277440号公報
【特許文献3】特開2012-071278号公報
【特許文献4】特開2016-093795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上記事情に鑑み、水分の吸着性に優れると共に、低温での吸着水分の放出性が顕著に改善され、再利用のための水分放出作業が、より容易かつ安価となる除湿剤を提供することにある。
【0010】
本発明者等は、ゼオライトの吸湿性能について多くの実験を行った結果、焼成を水蒸気雰囲気下で行い、Y型ゼオライトの結晶構造を適度に崩壊させることにより、Y型ゼオライトの優れた水分吸着性を損なうことなく、低温での吸着水分の放出性が改善されるという知見を見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
また、本発明者等は、前記除湿剤をトリメチルベンゼンに代表されるVOC(揮発性有機化合物)吸着剤として用いた場合において、優れたVOC吸着性を示すという機能も有していることを見出した。したがって、本発明は、前記除湿剤を使用するVOC吸着剤としても有効であり、水蒸気とVOCを含むガスの浄化用途に適している。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、SiO/Al(モル比)が3.0~10.0、結晶度が85.0~110.0%のY型ゼオライトの変性物からなる除湿剤であって、水分吸着等温線における相対圧0.025~0.900の範囲の水分吸着量が18.0~40.0質量%であることを特徴とする除湿剤が提供される。
【0013】
前記Y型ゼオライトの変性物の60℃における水分放出量が14.0~25.0質量%であることが好ましい。
【0014】
前記Y型ゼオライトの変性物のSiO/Al(モル比)が4.0~5.5であることが好ましい。
【0015】
前記Y型ゼオライトの変性物が、Y型ゼオライトをアンモニウムイオン交換した後に水蒸気雰囲気下で焼成することで得られたものであることが好ましい。
【0016】
前記Y型ゼオライトの変性物の格子定数が24.30~25.00Åであることが好ましい。
【0017】
前記Y型ゼオライトの変性物の窒素吸着法により測定した、細孔直径3~30nmの細孔容積が6.80~12.00cm/kgであることが好ましい。
【0018】
前記除湿剤が担体に保持されている除湿用部材であることが好ましい。
【0019】
前記担体がハニカム構造であることが好ましい。
【0020】
前記除湿剤を使用するヒートポンプであることが好ましい。
【0021】
前記除湿剤を使用するデシカント除湿機であることが好ましい。
【0022】
前記除湿剤を使用するVOC吸着剤。
【0023】
相対湿度RH=75%で飽和状態に吸湿させて測定した、トリメチルベンゼン吸着量が35%以上である、前記除湿剤を使用するVOC吸着剤。
【発明の効果】
【0024】
本発明の除湿剤は、従来公知のY型ゼオライトと同程度の吸湿性能を有しているばかりか、吸着水分の放出性にも優れている。例えば、後述する実施例1に示されているように、湿度90%雰囲気で吸湿した後の60℃×2時間での吸着水分の放出量が約15質量%と極めて多い。即ち、この除湿剤は低温で多量の吸着水分を放出することができるため、吸着水分の放出のために高温に加熱する必要がなく、容易に再生して再利用することができ、特に、一般家庭での使用には最適である。
【0025】
低温での吸着水分放出性が優れているという理由については正確に解明されていないが、本発明者等は、焼成を水蒸気雰囲気下で行うことにより、Y型ゼオライトの結晶構造が適度に崩壊されており、水分放出に寄与する細孔部分に変化が生じているためではないかと考えている。
【0026】
即ち、本発明において、除湿剤として用いるY型ゼオライトの変性物は、SiO/Al(モル比)が3.0~10.0であり、好ましくは4.0~5.5である。前記SiO/Al(モル比)が3.0未満である場合、後述する焼成工程において性能が低下し、望ましい低温再生を発揮することができない。また、10.0を超える場合は、低湿度雰囲気(例えば、相対圧(P/P0)が0.300のとき)における水分の吸着能力が低下し、除湿剤として空気中の水分を十分に除去することができない。
【0027】
また、上記Y型ゼオライトの変性物は、結晶度が85.0~110.0%であり、好ましくは、85.0~95.0%である。このことは、Y型ゼオライトに特有のX線回折ピーク強度が消失しない程度に減少し、結晶構造が適度に崩壊し変性されていることを意味する。このような変性は水溶液中でアンモニウムイオン交換された後、水蒸気雰囲気下における比較的高温での焼成でなされる。即ち、Y型ゼオライトは一般的に耐熱性が高く、イオン交換を行わない場合は、水蒸気雰囲気下のように湿度調節を行わないドライ状態下における800℃の温度で焼成してもほとんど変性が見られない。
【0028】
このため、Y型ゼオライトを焼成により変性せしめるためには、前段階で水溶液中でのアンモニウムイオン交換による、一部Naイオンの除去が必要であり、かつ水蒸気雰囲気下で500~800℃程度の高温の焼成が必要なわけである。なお公知のようにドライ状態で900℃程度の焼成を行うと、Y型ゼオライトは相転移を起こし、吸放湿性をほとんど持たない非晶質になってしまう。
【0029】
こうして、イオン交換と水蒸気雰囲気下の焼成を経たY型ゼオライトは、結晶構造の適度な破壊がもたらされることにより、そのY型ゼオライトの優れた吸湿性能が維持したまま低温で吸湿した水分を放出できる能力が向上するものと思われる。
【0030】
このように、除湿剤として用いる本発明のY型ゼオライト変性物は、Y型ゼオライトの細孔構造をある程度維持したまま、水分放出に寄与する細孔部分に変化が持たされていると考えられ、この結果、水分吸着性に優れているばかりか、低温での水分放出性も改善されているわけである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明における水分吸着等温線の例である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
<Y型ゼオライトの変性>
本発明の除湿剤は、Y型ゼオライトの変性物であるが、この変性物は、Y型ゼオライトを水溶液中でカチオン交換した後、水蒸気雰囲気下で焼成することにより得られる。
【0033】
Y型ゼオライト;
変性に供されるY型ゼオライトとしては、それ自体公知のものの中でも水分吸着性に優れたものが使用される。このようなY型ゼオライトは、例えば特許第4589044号等により所謂Na-Y型ゼオライトとして公知である。
【0034】
本発明では、前記Na-Y型ゼオライトの中から、SiO/Al(モル比)が3.0~10.0、好ましくは4.0~5.5の範囲にあるものを選択し、これを後述するカチオン交換に供する。例えば、酸処理などによってモル比の調整を行った場合には、結晶構造や細孔構造の破壊が生じてしまい、目的とする変性物を得ることが困難である。
【0035】
カチオン交換;
焼成に先立って行われるカチオン交換は、Y型ゼオライト中のNaイオンを水溶液中でアンモニウムイオンに交換するものである。即ち、Na-Y型ゼオライトは耐熱性に優れているため、これを焼成によって変性するには、焼成温度を著しく高い温度とすることが必要であり、Y型ゼオライトの結晶構造を大きく破壊せずに水分吸着性を維持し得る程度の適度な変性が困難となってしまう。しかるに、Naイオンをアンモニウムイオンに交換しておけば、加熱によってアンモニウムイオンが分解した部分の細孔について、後述するようにさらに高温の焼成で容易に変性することが出来るため、Y型ゼオライトの細孔構造を大きく破壊せず、適度に変性することが可能となる。
【0036】
このようなカチオン交換は、SiO及びAlの合計量当りのNaO含量がNa/Alモル比が0.28~0.70、特に0.30~0.50となる程度に行われる。Naイオンが多く残存すると、後述する焼成による適度な変性が困難となってしまう。
【0037】
また、かかるカチオン交換処理は、塩化アンモニウム等のアンモニウム塩の水溶液を使用し、上述したY型ゼオライトと該水溶液とを、室温で撹拌混合すればよいが、60℃程度に加熱すると反応をより迅速に行うことも可能である。処理時間は、アンモニウム塩の種類や水溶液のアンモニウム塩濃度によっても異なるが、一般に、2~40質量%濃度の塩化アンモニウム水溶液を用いた場合で0.5~24時間程度である。
【0038】
水蒸気雰囲気下焼成;
上記のようにしてカチオン交換処理が行われた後は、ろ過及び水洗を行い、未反応の塩化アンモニウムや生成したNa塩を除去した後、水蒸気雰囲気下で500~800℃の高温、好ましくは550~750℃の高温により焼成を行い、Y型ゼオライトの適度な変性を行う。
【0039】
水蒸気雰囲気下での焼成は、Y型ゼオライトの結晶構造を大きく破壊せずに、細孔構造を適度に変える程度及び水分吸着性を維持し得る程度に行われるものであり、具体的には、結晶度が85.0~110.0%であり、好ましくは、85.0~95.0%に低下する程度に焼成が行われる。
【0040】
なお、本発明において結晶度とは、X線回折において、標準物質(触媒学会のJRC-Z-Y4.8)の特定の5つの面指数のピーク強度の和を100%とし、このピーク強度の和に対する変性ゼオライトのピーク強度の和の相対比である。
【0041】
即ち、結晶度が110.0%よりも大きいと、変性が十分に行われておらず、従ってY型ゼオライトの構造がほとんど変化しておらず、このため、低温での水分放出性を向上させるという本発明の目的を達成することができない。また、結晶度が85.0%よりも小さくなるまで変性が行われると、Y型ゼオライトの結晶構造が大きく破壊され、非晶質化が進行しすぎてしまい、この結果、水分に対する吸着性及び放出性の何れも大きく損なわれてしまうこととなる。
【0042】
上記のような結晶度の範囲にするための焼成は、公知の焼成炉を用いて、水蒸気雰囲気下、500~800℃、好ましくは550~750℃の焼成温度で行われる。また、水蒸気雰囲気下での焼成を行った後に、公知の電気炉等を用いて、水蒸気雰囲気下ではないドライ状態での焼成を行ってもよい。水蒸気雰囲気下及びドライ状態を含めた焼成時間は、用いる焼成炉や回転式焼成炉の構造や焼成温度によっても異なり、一概に規定することはできないが、一般的には0.1~12時間程度である。
【0043】
なお、前述したY型ゼオライトをカチオン交換せずにそのまま焼成に供した場合、上記のような条件を用いて水蒸気雰囲気下での焼成を行うと結晶度は顕著に低下する。
【0044】
以上のようにして適度な焼成が行われて得られるY型ゼオライトの変性物は、適宜、粒度調整を行うことにより、本発明の除湿剤として使用される。
【0045】
<除湿剤>
上記のような適度な焼成によって得られたY型ゼオライトの変性物は、SiO/Al(モル比)が3.0~10.0の範囲にあり、出発原料として用いたY型ゼオライトと実質的に同じである。即ち、この変性物は、Y型ゼオライトに特有の結晶構造は大きく失われてはおらず、その結晶度は、水蒸気雰囲気下での焼成の項でも説明したように、85.0~110.0%、好ましくは85.0~95.0%の範囲にある。
【0046】
本発明において、上述したY型ゼオライト変性物は、一般に、レーザ回折散乱法により測定した中位径(D50)が0.5~3.5μmの範囲となるように粒度調整されていることが除湿剤として用いる際の成形性や作業性等の点で好ましい。
かかるY型ゼオライト変性物からなる除湿剤は、粒状物の使用に供することもできるし、樹脂バインダと混合し、所定の形状に成形して使用に供することもできる。
【0047】
かかる除湿剤は、水分に対して優れた吸着性を示すばかりか、低温での吸着水分の放出性が向上しており、低温領域での加熱により吸着水分を放出せしめて再生することができる。従って、一般家庭の空調用として好適に使用することができ、例えば、特許文献1の除湿ロータなどに設けられている除湿層中に配合して使用することが可能である。或いは、除湿剤を担体に担持して除湿用部材として用いる事もでき、担体はハニカム構造を有していることが好適である。
【0048】
また、この除湿剤は、水分の吸着及び放出の何れもが容易に行われるため、空気を利用した蓄熱システム(例えばヒートポンプ)に用いる吸着剤などの用途にも使用することができる。
【0049】
さらに、この除湿剤は、湿度調節用シートまたは湿度調節壁材として使用することも可能である。
【0050】
加えて、この除湿剤は、副次的な効果として、VOC(揮発性有機化合物)に対する吸着性、特に吸湿条件下におけるトリメチルベンゼンに対する吸着性に優れることから、VOC吸着剤として使用することも可能である。
【実施例0051】
本発明の優れた効果を、次の実施例で説明する。
なお、実施例における各種試験は下記の方法で行った。
【0052】
(1)化学組成;
元素分析については、(株)リガク製Rigaku ZSX primusIIを用い、ターゲットはRh、分析線はKαで、その他は以下の条件で測定を行った。
なお、試料は110℃で3時間乾燥した物を基準とする。
【0053】
【表1】
【0054】
(2)結晶度
相対湿度90%に調湿済みのデシケーター中に乾燥試料を入れ、室温下で48時間以上静置し、水分を飽和量吸着させる。取出した試料を、X線回折測定する。同一条件で測定した標準物質(触媒学会のJRC-Z-Y4.8)のXRDにおいて、ICDD39-1380で(331)、(440)、(533)、(642)、(555)と示される5つの面指数のピーク強度の和を100%とした時の、測定試料の同一面指数ピーク強度の和の相対比を結晶度とする。
なお、X線回折測定はリガク社製のultima4を用いて、Cu-Kαにて下記の条件で測定を行った。
ターゲット:Cu
フィルター:湾曲結晶グラファイトモノクロメーター
検出器:SC
電圧:40kV
電流:40mA
ステップサイズ:0.02°/step
計数時間:0.6sec/step
スリット:DS2/3° RS0.3mm SS2/3°
【0055】
(3)格子定数
ASTM D3942に記載されているY型ゼオライトの格子定数測定に関する標準試験方法を基に、X線回析測定で得られた値を用いて算出した。
試料を110℃、2時間乾燥した後に、試料0.4gを秤量して相対湿度RH=39%に調湿したデシケーターに40時間以上静置し、試料の吸湿量を飽和状態とした。その後Si結晶粉末0.02gと混合し、相対湿度RH=39%に調湿したデシケーター内にさらに16時間以上静置しCu―KαにてX線回析測定を行った。X線回析は、リガク社製ultima4を用いて測定し、各種条件を下記の通りとした。
ターゲット:Cu
フィルター:湾曲結晶グラファイトモノクロメーター
電圧:40kV
電流:50mA
ステップサイズ:0.005deg/step
計数時間:2sec/step
スリット:DS1/2℃ RS0.3mm SS1/2℃
データ解析を次の手順により行い、格子定数を求めた。
(イ)3/4値幅法を用いて、ICDD39―1380において(211)、(243)で示される2つの面指数のピークとその強度を検出した。
(ロ)Si結晶のピーク(2θ=56.123°)を基準に(イ)のピーク位置を補正した。
(ハ)格子定数aを下記の式より算出した。
h,k,l=ミラー指数
λ=X線の波長=1.5406Å
【0056】
(4)細孔容積
Micromeritics社製Tri Star 3000を用いて窒素吸着測定を行った。試料の前処理として150℃、真空条件下で2時間以上乾燥を行った。BJH法にて微分細孔容積分布を得た。この分布から、細孔直径3~30nm細孔容積を算出した。
【0057】
(5)水分吸着量
水分吸着量の測定は、事前に除湿剤試料を加熱真空下で脱気を行い、水分吸着測定装置BelSorp Aqua(マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて、吸着平衡判定時間は500秒とし、25℃における各相対圧(P/P0)に対する水分吸着等温線を測定した。図1に水分吸着等温線の例を示した。相対圧(P/P0)が0.025における水分吸着量をW1(質量%)とし、相対圧(P/P0)が0.900における水分吸着量をW2(質量%)とした場合、相対圧(P/P0)0.025~0.900の範囲の水分吸着量を以下の式により求めた。
水分吸着量[質量%]=W2-W1
また、相対圧(P/P0)が0.300における水分吸着量(質量%)を測定した。
【0058】
(6)放出量
まず、事前に110℃で1時間乾燥したシャーレΦ100mmの質量を測定する(w1)。このシャーレに、約2gの除湿剤試料を測り取り、イオン交換水を10ml加えてスラリー化する。このスラリーを、予め150℃に温めておいた卓上乾燥機で、2時間前処理乾燥する。乾燥後、硫酸希釈液により、25℃でRH=90%となるように調節したデシケーター内で16時間以上かけ飽和吸湿させる。吸湿16時間後のシャーレと除湿剤の合計質量(w2)を測定する。次に、シャーレと飽和吸湿した除湿剤試料を、あらかじめ60℃に温めておいた卓上乾燥機で、2時間乾燥する。この乾燥したシャーレと除湿剤の合計質量(w3)を測定する。以下の式により、吸湿した水分を放出させた時の放出量(RH=90% 吸湿質量基準)を求めた。除湿剤の乾燥温度として60℃は十分に低温である。
放出量(60℃)[質量%]=(w2-w3)/(w2-w1)×100
【0059】
(7)トリメチルベンゼン吸着試験
2Lの蓋付きガラス試験容器に0.3μLの1,3,5-トリメチルベンゼン溶液(98+%、Thermo Scientific製)を注入し、25℃で2時間静置した後に全量が揮発したことを確認した。試験容器内のトリメチルベンゼンガス(被検ガス)の濃度は95ppmであり、これをブランクとした。
150℃で2時間乾燥した試料0.3gを入れた2Lの蓋付きガラス試験容器に、ブランクと同様に0.3μLの1,3,5-トリメチルベンゼン溶液を注入し、25℃で2時間静置することで、揮発した1,3,5-トリメチルベンゼンに対する吸着試験を行った。
相対湿度RH=20%、RH=50%、RH=75%にそれぞれ調整したデシケーターを用意し、150℃で2時間乾燥した試料を2日間静置させ、飽和状態まで吸湿させた。これらの吸湿試料について、それぞれ乾物重量が0.3gとなるよう2Lの蓋付きガラス試験容器に入れ、ブランクと同様に0.3μLの1,3,5-トリメチルベンゼン溶液を注入し、25℃で2時間静置することで、揮発した1,3,5-トリメチルベンゼンに対する吸着試験を行った。
吸着試験後に各試験瓶中の被検ガス0.5mLをガスクロマトグラフ(島津製作所製、GC-2014)に導入、残留被検ガス濃度を測定し、以下の式により、吸着率を求めた。
吸着率(%)={(ブランク容器内の被検ガス濃度-乾燥試料又は吸湿試料を入れた試験容器の吸着試験後の被検ガス濃度)/ブランク容器内の被検ガス濃度}×100
尚、ガスクロマトグラフによる測定条件は下記の通りである。
検出器:FID検出器
カラムオーブン温度:250℃
試料気化室温度:320℃
検出器温度:320℃
カラム: Agilent J&W GC カラム DB-1 (0.25mm×30m 膜厚0.25μm)
【0060】
(実施例1)
Y型ゼオライトのアンモニウムイオン交換工程:
水澤化学工業株式会社製Na-Y型ゼオライトであるミズカシーブス(登録商標)Y-500を、200g(150℃乾燥質量)に対して1800gの水を加えて10%スラリーとし、200gの塩化アンモニウムを加え、撹拌しながら室温で3時間イオン交換反応を行った。(Na/Alモル比=0.35)であった。その後、濾過水洗を行った後に110℃で一晩乾燥し一部を乳鉢と乳棒で粉砕した。
【0061】
水蒸気雰囲気下焼成工程:
粉砕品20gを蒸発皿に測り取り、電気炉を用い、水蒸気雰囲気下で750℃、1時間焼成することで除湿剤を得た。
【0062】
(実施例2)
回転式焼成炉へ連続的にアンモニウムイオン交換工程を経たサンプルを供給し焼成した以外は、実施例1と同様の処理で除湿剤を得た。
【0063】
(実施例3)
水蒸気雰囲気下焼成工程において、電気炉を用い、水蒸気雰囲気下で550℃、1時間焼成した後、再度、電気炉を用いたドライ状態で550℃、1時間焼成とした以外は、実施例1と同様の処理で除湿剤を得た。
【0064】
(実施例4)
水蒸気雰囲気下焼成工程において、電気炉を用い、水蒸気雰囲気下で750℃、1時間焼成した後、再度、電気炉を用いたドライ状態で750℃、1時間焼成とした以外は、実施例1と同様の処理で除湿剤を得た。
【0065】
(実施例5)
実施例1で得た除湿剤を200g(150℃乾燥質量)に対して1800gの水を加えて10%スラリーとし、200gの塩化アンモニウムを加え、撹拌しながら室温で3時間イオン交換反応を行った。その後、濾過水洗を行った後に110℃で一晩乾燥し一部を乳鉢と乳棒で粉砕した。粉砕品20gを蒸発皿に測り取り、電気炉を用い、水蒸気雰囲気下で750℃、1時間焼成することで除湿剤を得た。
【0066】
(実施例6)
焼成工程において、電気炉を用い、水蒸気雰囲気下で焼成温度を550℃とした以外は、実施例5と同様の処理で除湿剤を得た。
【0067】
(比較例1)
回転式焼成炉へ連続的にアンモニウムイオン交換工程を経たサンプルを供給し、ドライ状態550℃で焼成した以外は、実施例1と同様の処理で除湿剤を得た。
【0068】
(比較例2)
アンモニウムイオン交換工程において、塩化アンモニウムの量を600gにし、Na/Alモル比=0.24を調製したこと以外は、実施例1と同様の処理で除湿剤を得た。
【0069】
(比較例3)
USYとして、市販品であるCOSMO社製(韓国)10Mを使用した。
【0070】
(比較例4)
USYとして、市販品であるユニオン昭和株式会社製HiSiv(登録商標)を使用した。
【0071】
(比較例5)
Y型ゼオライトの変性物として、市販品である水澤化学工業株式会社製ミズカシーブス(登録商標)Y-520を使用した。
【0072】
実施例及び比較例の除湿剤の組成と物性、水分吸着等温線における相対圧0.025~0.900の範囲の水分吸着量を表2に、相対圧(P/P0)が0.300における水分吸着量と60℃における水分放出量についての試験結果を表3にそれぞれ示す。
【0073】
【表2】
【0074】
【表3】
【0075】
実施例及び比較例の除湿剤のトリメチルベンゼン吸着量についての試験結果を表4に示す。
【0076】
【表4】
【0077】
本発明の除湿剤である実施例1は、吸湿していない150℃乾燥状態において、従来公知の市販品と同程度のトリメチルベンゼン吸着能を有する物である。さらに実施例1の除湿剤は、吸湿した状態においても高いトリメチルベンゼン吸着能を有しており、RH=50%の条件で飽和状態まで吸湿した状態で62%、同じくRH=75%の条件で55%のトリメチルベンゼン吸着量であった。これは、比較例5に用いた従来公知のY型ゼオライトの変性物よりも高い吸着量であり、USYに匹敵する吸着量である。すなわち、本発明の除湿剤は水分の吸着性に優れていると共に、吸着水分の放出を低温で行うことが可能なだけでなく、トリメチルベンゼンに代表されるVOC吸着剤として用いた場合にも優れた効果を有する。この効果は特に、吸湿状態において顕著な効果であり、水蒸気とVOCを含むガスの浄化用途に期待できる。
図1