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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172378
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】固体材料の表面内部評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/56 20060101AFI20231129BHJP
【FI】
G01N3/56 D
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084122
(22)【出願日】2022-05-23
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 発行者名 一般社団法人 電子情報通信学会 刊行物名 技術研究報告vol.121 no.398 pp.38-43 発行年月日 令和4年2月24日 集会名 スマートインフォメディアシステム研究会 開催場所 オンライン開催 開催日 令和4年3月3日
(71)【出願人】
【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003203
【氏名又は名称】弁理士法人大手門国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福間 慎治
(72)【発明者】
【氏名】岩井 善郎
(57)【要約】
【課題】本発明は、固体材料の表面内部に形成された微細構造に関連する局所的な物理的特性について評価することができる固体材料の表面内部評価方法を提供することを目的とする。
【解決手段】固体材料の表面内部評価方法は、固体材料表面に砥粒を投射して形成されたエロージョン痕の形状を所定の投射量毎に測定し、投射量毎のエロージョン深さに基づいてエロージョン測定データ及び投射量データを算出し、エロージョン測定データ及び投射量データに基づいて任意のエロージョン位置の局所エロージョン率を算出し、局所エロージョン率の分布に基づいて局所的な物理的特性の評価を行う。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥粒を固体材料の表面の所定の投射領域に向かって投射させて衝突させることで投射領域に形成されるエロージョン痕の形状を所定の投射量毎に測定し、測定された形状データに基づいて前記投射領域の任意の表面位置から投射方向のエロージョン深さを投射量毎に算出して前記エロージョン痕に対応する表面内部のエロージョン領域のエロージョン測定位置におけるエロージョン測定データ及び投射量データを取得し、前記エロージョン領域の任意のエロージョン位置においてその近傍の前記エロージョン測定位置の前記エロージョン測定データ及び前記投射量データに基づいて局所エロージョン率を算出し、算出された前記局所エロージョン率の前記エロージョン位置に対応する分布に基づいて表面内部の局所的な物理的特性を評価する固体材料の表面内部評価方法。
【請求項2】
前記局所エロージョン率を前記エロージョン位置に対応してレンダリング処理を行うことで分布画像を表示することで表面内部の局所的な物理的特性を評価する請求項1に記載の固体材料の表面内部評価方法。
【請求項3】
前記局所エロージョン率は、単回帰分析により算出する請求項1又は2に記載の固体材料の表面内部評価方法。
【請求項4】
それぞれの前記表面位置における投射方向の前記投射量データによる前記エロージョン測定データの変化をChow検定により分析して転換点となるエロージョン深さを特定し、前記表面位置のそれぞれの前記転換点のエロージョン深さに基づいて表面内部に存在する界面に対応する形状データを表示する請求項1又は2に記載の固体材料の表面内部評価方法。
【請求項5】
前記投射領域における前記砥粒の投射方向は、前記固体材料の表面に対して傾斜して設定されている請求項1又は2に記載の固体材料の表面内部評価方法。
【請求項6】
表面内部の微細構造に応じて前記砥粒の平均粒径及び形状を選択する請求項1又は2に記載の固体材料の表面内部評価方法。
【請求項7】
砥粒を固体材料の表面の所定の投射領域に向かって投射させて衝突させることで投射領域に形成されるエロージョン痕の形状を所定の投射量毎に測定して得られた形状データに基づいて投射領域の任意の表面位置から投射方向のエロージョン深さを投射量毎に算出して前記エロージョン痕に対応する表面内部のエロージョン領域のエロージョン測定位置におけるエロージョン測定データ及び投射量データを取得する取得処理部と、前記エロージョン領域の任意のエロージョン位置においてその近傍の前記エロージョン測定位置の前記エロージョン測定データ及び前記投射量データに基づいて局所エロージョン率を算出する算出処理部と、算出された前記局所エロージョン率の前記エロージョン位置に対応してレンダリング処理を行うことで表面内部の局所的な物理的特性を評価するための分布画像を作成する分布処理部とを備えている評価画像処理装置。
【請求項8】
それぞれの前記表面位置における投射方向の前記投射量データによる前記エロージョン測定データの変化をChow検定により分析して特定された転換点となるエロージョン深さに基づいて表面内部に存在する界面に対応する形状データを作成する界面処理部を備えている請求項7に記載の評価画像処理装置。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の評価画像処理装置の各処理部として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体材料の表面内部の局所的な物理的特性を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体材料表面及び表面下の深さ方向での各位置での品質を評価する方法としては、微小サイズの砥粒を含む噴射液を被験体の表面に噴射して損傷痕を発生させて被験体の表面の強さを評価する方法(MSE法(登録商標);Micro Slurry-jet Erosion)が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、金属材や合成樹脂材などの被験体に砥粒が混入された噴射液を圧搾空気と共に噴射して被験体を減量し、被験体の減量と減量に要した砥粒の量との因果関係を測定して被験体の表面皮膜の特性を評価する皮膜評価方法が記載されている。
【0004】
また、特許文献2では、第1部分と第2部分との界面を少なくとも有する評価対象の材料の表面に多角形状の粒子を含む液状体を噴射し、界面での剥離が開始した時の第1部分の残り厚さである剥離開始厚さを界面における密着の度合いを表す密着度として測定する材料密着度評価方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-237073号公報
【特許文献2】特開2020-67421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献に記載されているように、固体材料表面に形成された薄膜の強度等の物理的特性を評価する方法としてMSE法が用いられているが、従来のMSE法では、砥粒の噴射により形成されたエロージョン痕の中心部の最大深さに基づいて評価するようになっている。こうした評価方法では、エロージョン領域全体を1つの代表的な指標に基づいて評価するため、エロージョン領域における物理的特性の平均的な評価を得ることができる。
【0007】
MSE法では、砥粒の投射により薄膜の強度的に弱い部分からエロージョンが開始されて投射領域のエロージョンが進み、下部の基材が露出してエロージョンが進行していくが、薄膜内部の強度は均一ではないためエロージョン過程は投射領域の位置によって異なってくる。そのため、従来のMSE法では、エロージョン領域の代表的な指標に基づく評価結果が得られるものの、こうしたエロージョン過程の違いを反映した広域的なきめ細かい評価を行う手法として確立されていない。
【0008】
例えば、PVD法といった成膜法により薄膜を形成した場合、微視的には、一様ではない結晶成長や基材表面の凹凸や結晶組織等により不均一な結晶構造が生じており、薄膜の内部では局所的に物理的特性が不均一となる。また、金属粉末を原料として三次元造形により固体材料を成形加工した場合においても、固体材料の内部に不均一な微細構造が生じて、内部の物理的特性にバラツキが生じる。また、繊維強化樹脂材料といった複数種類の材料を一体成形した複合材料では、ボイド等の不均一な微細構造によって強度特性にバラツキが生じるようになる。
【0009】
このように、様々な固体材料では、表面及び表面下の内部における微細構造が物理的特性に影響を及ぼすことから、こうした微細構造及びそれに伴うミクロ的な物理的特性を評価する手法が求められている。
【0010】
そこで、本発明は、固体材料の表面内部の微細構造に関連する局所的な物理的特性について評価することができる固体材料の表面内部評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る固体材料の表面内部評価方法は、砥粒を固体材料の表面の所定の投射領域に向かって投射させて衝突させることで投射領域に形成されるエロージョン痕の形状を所定の投射量毎に測定し、測定された形状データに基づいて前記投射領域の任意の表面位置から投射方向のエロージョン深さを投射量毎に算出して前記エロージョン痕に対応する表面内部のエロージョン領域のエロージョン測定位置におけるエロージョン測定データ及び投射量データを取得し、前記エロージョン領域の任意のエロージョン位置においてその近傍の前記エロージョン測定位置の前記エロージョン測定データ及び前記投射量データに基づいて局所エロージョン率を算出し、算出された前記局所エロージョン率の前記エロージョン位置に対応する分布に基づいて表面内部の局所的な物理的特性を評価する。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、上記のような構成を備えることで、固体材料に設定された投射領域の任意の表面位置において投射方向のエロージョン深さを投射量毎に測定して得られたエロージョン測定データ及び投射量データに基づいて固体材料の表面内部のエロージョン領域の任意のエロージョン位置の局所エロージョン率を算出して、エロージョン領域の任意のエロージョン位置における微細構造に関連する局所的な物理的特性を評価することが可能となる。
【0013】
そのため、局所的な物理的特性から表面内部の微細構造に関する不均一性をエロージョン領域においてきめ細かく評価することができ、物理的特性を示す局所エロージョン率の分布を定量的に表示することで、物理的特性(特に機械的特性)と相関する内部の微細構造に関する評価を容易に行うことが可能となる。
【0014】
ここで、固体材料の表面内部とは、固体材料の表面及び表面下の深さ方向の内部領域を意味しており、固体材料の物理的特性を評価可能な領域である。また、固体材料を切断した断面を評価する場合においても、表面内部は、断面表面及び断面表面下の深さ方向の内部を意味する。
【0015】
また、表面内部の微細構造は、局所的な物理的特性に影響を与える固体材料の微視的な構造で、結晶構造、界面構造、微小な空隙構造といったマイクロ(μm)サイズ以下の微視的な構造が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る評価方法に使用する試験装置の一例を示す概略構成図である。
図2】試験装置により形成されたエロージョン痕を示す模式図及びエロージョン痕プロファイルを示すグラフである。
図3】砥粒の投射方向とエロージョン測定位置との関係を示す説明図である。
図4】本発明に係る評価方法に使用する評価画像処理装置に関する概略構成図である。
図5】評価画像処理装置のハードウェア構成例である。
図6】評価画像処理装置の処理フローである。
図7】実施例1において得られた測定データの処理結果を示すグラフである。
図8図7に示すエロージョン率の局所的な変化をカラーマップ処理した画像である。
図9】実施例2において得られたエロージョン率の局所的な変化をカラーマップ処理した画像である。
図10】実施例3において得られたエロージョン率の局所的な変化をカラーマップ処理した画像である。
図11】実施例4において得られたエロージョン率の局所的な変化をカラーマップ処理した画像及び断面を撮影した画像である。
図12】実施例5において得られたエロージョン率の局所的な変化をカラーマップ処理した画像である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について具体的に説明する。図1は、本発明に係る固体材料の表面内部評価方法に使用する試験装置の一例を示す概略構成図である。
【0018】
試験装置は、所定の平均粒径を有する砥粒を固体材料の表面の所定の投射領域に向かって投射させて衝突させる装置であり、タンク1内に固体材料からなる被験体10とともに被験体10に対して砥粒を混在させたスラリー状の試験液を噴射させる噴射ノズル20を配置しており、タンク1の下部には試験液を回収する回収ポンプ3が取り付けられている。噴射ノズル20は、噴射部2の先端部に取り付けられており、噴射部2は、タンク1の側面部に貫通して支持固定されている。貯留容器4には、砥粒を所定濃度に調製した試験液が貯留されており、底部に設けられた撹拌器により常時撹拌されて砥粒が均一に分散するようにされている。貯留容器4は、噴射部2と接続管5を介して接続されるとともに回収ポンプ3と回収管6を介して接続されている。また、貯留容器4は、エアコンプレッサ8と空気管9を介して接続されている。噴射部2は、空気管7を介してエアコンプレッサ8と接続されており、エアコンプレッサ8から供給される圧縮空気により貯留容器4から供給される試験液が噴射ノズル20から噴射されるようになる。
【0019】
噴射部2に供給される試験液の量は流量計11によりリアルタイムで測定されるとともに空気量は流量計13によりリアルタイムで測定される。また、供給される空気の圧力は圧力計12により測定されるとともに噴射部2内の試験液の噴射圧力は圧力計14により測定される。
【0020】
噴射部2に併設して表面粗さ計等の測定装置100が設置されており、被験体10に形成されたエロージョン痕の形状を測定するようになっている。噴射部2と測定装置100との間には、ターンテーブル30が設置されており、ターンテーブル30は、被験体10を載置した試験台を測定装置100に移動させて所定の測定位置に配置するように動作する。
【0021】
試験液は、平均粒径の異なる砥粒、粒子形状の異なる砥粒といった複数種類の砥粒毎に調製されて貯留容器4に供給される。試験装置に複数の貯留容器4を接続しておき、貯留容器4のそれぞれに異なる種類の砥粒を投入して、貯留容器4を切り換えて供給するように構成することもできる。この場合には、貯留容器の1つにクリーニング液を投入しておくことで、供給する砥粒を切り換える際に、装置の配管や噴射ノズル等のクリーニング処理を行うようにしてもよい。
【0022】
使用する砥粒としては、金属、セラミックス、ガラス等からなる微粒子を用いることができ、被験体10の材質に応じて硬さや脆性・延性の観点から適宜選択するとよい。例えば、粒径の揃いやすいアルミナ粒子を用いることが好ましい。砥粒の粒径は、電気抵抗法により測定された体積基準による球相当直径値であり、平均粒径は累積高さ50%点の値(メディアン径)である。具体的には、平均粒径が0.1μm~100μmの砥粒を用いることが好ましい。
【0023】
また、砥粒の平均粒径以外でも、砥粒の形状について球状粒子以外に角部を有する多角形状の粒子を用いることも可能で、評価の目的に応じて適宜選択すればよい。例えば、固体材料の微細構造のサイズに合わせて砥粒の平均粒径及び形状を選択することで、微細構造に関連する物理的特性の不均一性を明確に表示することができる。また、平均粒径の大きい砥粒を選択することで、固体材料の表面内部のマクロ的な強度に対応する物理的特性を表示することができ、平均粒径及び形状の異なる複数種類の砥粒を選択することで、様々な観点から評価を行うことが可能となる。
【0024】
被験体10としては、表面内部を分析することが求められる固体材料であり、特に限定されないが、例えば、表面に薄膜が形成された金属材料、セラミック材料、樹脂材料といった固体材料、金属粉末を焼結して形成された三次元造形物、樹脂等のマトリックス材に繊維強化材を分散させた複合材料といったものが挙げられる。また、フィルム状物質、塗膜といった材料についても対象とすることができる。
【0025】
図2は、試験装置により形成されたエロージョン痕を示す模式図(図2(a))及びエロージョン痕プロファイルを示すグラフ(図2(b))である。この例では、固体材料の表面に略矩形状の投射領域P(縦a×横bのノズル孔断面に対応)が設定されており、表面が砥粒により深さ方向にエロージョンされて形成されたエロージョン痕に対応して、表面からエロージョン痕までの表面内部の領域であるエロージョン領域Qが設定される。
【0026】
エロージョン痕の形状を測定ラインA-A’に沿って表面からの深さdを測定することで、図2(b)に示すように、エロージョン痕の形状に対応したプロファイルFを取得することができる。プロファイルFは、横軸に投射領域の表面位置hをとり、縦軸にエロージョン痕の深さdをとり、砥粒の所定の投射量毎に取得するようになっている。そのため、プロファイルFの投射量毎の推移からエロージョン痕の形状変化を分析することができる。
【0027】
表面位置h1~hnでは、砥粒の投射方向pが矢印で示すように設定されており、各表面位置において投射方向pに沿う投射直線Lと各プロファイルFとの交点がそれぞれエロージョン領域Q内におけるエロージョン測定位置qに設定される。そして、任意の表面位置を通る投射直線Lに設定される投射量毎のエロージョン測定位置qの表面位置からの距離が投射量毎にエロージョンされたエロージョン測定データとなる。
【0028】
図3は、砥粒の投射方向pとエロージョン測定位置との関係を示す説明図である。図3(a)では、表面位置hにおける投射方向pは表面に対して垂直となっているため、エロージョン測定位置から表面位置までの距離は深さdと同一になり、エロージョン測定データとして深さdを取得する。
【0029】
また、図3(b)に示すように、表面に対して投射方向pが傾斜している場合では、表面位置hにおける投射方向の傾斜角度α、エロージョン測定位置qにおける深さd及び垂直方向の表面位置h’と表面位置hの間の距離に基づいて、エロージョン測定位置から表面位置hまでの距離であるエロージョン測定データを算出する。
【0030】
図3(a)に示すように、投射方向を表面に対して垂直に設定することで、固体材料の変形、衝撃に関する物理的特性を評価することができ、図3(b)に示すように、投射方向を表面に対して傾斜して設定することで(例.傾斜角度30度)、切削に関与する延性、脆性といった物理的特性を評価することができる。
【0031】
以上説明したように、測定された形状データであるプロファイルに基づいて被験体の表面における投射領域の任意の表面位置から投射方向のエロージョン深さを投射量毎に算出し、表面内部においてエロージョン痕に対応するエロージョン領域のエロージョン測定位置におけるエロージョン測定データを投射量データに関連付けて取得することができる。そして、こうして得られたエロージョン測定位置におけるエロージョン測定データ及び投射量データに基づいてエロージョン領域の任意のエロージョン位置における局所エロージョン率を算出し、算出された局所エロージョン率のエロージョン位置に対応する分布に基づいてエロージョン領域内の微細構造に関連する局所的な物理的特性を評価することが可能となる。
【0032】
また、固体材料の表面に対して投射方向を傾斜させてエロージョンを行った場合でもエロージョン領域の任意のエロージョン位置での局所エロージョン率を算出することができ、固体材料の物理的特性及び延性的や脆性的といった定性的な性質について局所的な評価を行うことが可能となる。
【0033】
このように、投射領域の任意の表面位置に関連付けてエロージョン領域全体にエロージョン測定位置を設定し、設定されたエロージョン測定位置でのエロージョン測定データ及び投射量データに基づいて任意のエロージョン位置での局所エロージョン率を算出し、エロージョン領域において二次元的又は三次元的な拡がりで局所エロージョン率の分布を可視化する評価画像を作成することで、微細構造に関連する局所的な物理的特性を的確に評価することが可能となる。
【0034】
図4は、本発明に係る固体材料の表面内部評価方法に使用する評価画像処理装置に関する概略構成図である。評価画像処理装置は、試験装置により所定の条件で試験を行った被験体10の投射領域に形成されるエロージョン痕の形状を所定の投射量毎に測定する測定部100、測定部100から得られた測定データに基づいて評価に必要な処理を行う処理部110、各種処理に必要なデータや条件を設定する設定部101、測定データや処理データを記憶するとともに各種処理に関するプログラム等を記憶する記憶部102、及び、処理データをディスプレイ等に出力する出力部103を備えている。
【0035】
図5は、評価画像処理装置の処理部110、設定部101、記憶部102及び出力部103に関するハードウェア構成例である。ハードウェアとしては、コンピュータ等の情報処理装置を用いることができ、CPU201、RAM202及びROM203を備えている。CPU201は、RAM202をワークメモリとして、ROM203、HDD(ハードディスクドライブ)205等に保存されたOS(オペレーティングシステム)や各種プログラムを実行する。また、CPU201は、システムバス207を介して装置全体を制御する。システムバス207には、I/F(インターフェース)を介して、マウスやキーボードなどの入力デバイス204、HDD205、ディスプレイ206といった周辺機器が接続されている。後述する各処理は、ROM203、HDD205等に保存されたプログラムコードがRAM202に読み出されて、CPU201によって実行される。CPU201は、HDD15といった記憶装置を各種データの保存に使用する。CPU201は、処理されたデータに基づいてディスプレイ206に画像表示を行うための処理を行い、入力デバイス12を介して処理に必要なデータを受信して保存するための処理を行う。
【0036】
測定部100では、砥粒の所定の投射量毎に触針式粗さ計等の計測器を用いて投射領域を走査してエロージョン痕の形状を測定する。被験体を投射ステージから測定ステージに移動させて測定を行う場合には、投射量毎の測定において被験体の表面に沿う方向及び深さ方向において測定データの補償処理を行うことが必要になる。
【0037】
深さ方向の測定データの補償処理を行う場合、投射領域外での表面の深さ方向の位置は不変であることから、投射領域外の深さ方向の平均的な位置データを予め算出しておき、投射量毎の測定データについて投射領域外の深さ方向の位置データを平均的な位置データに位置合せすることで測定データを補償すればデータの精度を向上させることができる。
【0038】
表面方向の測定データの補償処理を行う場合、測定データの深さ方向のピークが存在する表面位置の分布について投射量毎に測定データの間で相関をみることで、表面に沿う方向の位置合せに必要な位置データを求めて測定データを補償してデータの精度を向上させることができる。
【0039】
処理部110は、測定部100で得られたエロージョン痕の形状に関するプロファイルに基づいてエロージョン測定位置におけるエロージョン測定データ及び投射量データを取得する取得処理部111、エロージョン領域の任意のエロージョン位置においてその近傍のエロージョン測定位置のエロージョン測定データ及び投射量データに基づいて局所エロージョン率を算出する算出処理部112、算出された局所エロージョン率をエロージョン位置に対応してレンダリング処理を行うことで分布画像を生成する分布処理部113、及び、任意の表面位置における投射方向のエロージョン測定データの投射量データに対する変化に基づいて界面のエロージョン深さを特定する界面処理部114を備えている。ここで、界面とは、物理的特性が不連続に変化する境界であり、例えば、基材表面に薄膜が形成された場合の境界部分において物理的特性が不連続に変化している深さ方向の位置を通る面をいう。
【0040】
取得処理部111では、図3で説明したように、測定されたプロファイルに対して投射領域の任意の表面位置から投射方向に沿って描かれた投射直線との交点であるエロージョン測定位置でのエロージョン測定データ及び投射量データを求める。設定する表面位置の間の間隔は、必要に応じて設定することができ、例えば、数mmのサイズのエロージョン痕の場合には間隔をサブミクロンから数μmに設定するとよい。
【0041】
算出処理部112では、取得されたエロージョン測定位置でのエロージョン測定データ及び投射量データからエロージョン領域の任意のエロージョン位置における局所エロージョン率を算出する。
【0042】
エロージョン率(μm/g)は、通常、砥粒の投射量(g)及びエロージョン痕の深さ(μm)に基づいて以下の式で算出される。エロージョン率(μm/g)=エロージョン痕の深さ(μm)/砥粒の投射量(g)
【0043】
局所エロージョン率を算出する場合、局所的なエロージョン測定位置におけるエロージョン測定データを用いることから、エロージョン痕の局所的な剥離物等のノイズの影響を受けやすくなる。そのため、任意のエロージョン位置の局所エロージョン率は、その近傍のエロージョン測定位置におけるデータを用いて単回帰分析により算出することで、ノイズの影響を抑えることが可能となる。例えば、近傍データのみを用いたSliding Window回帰による局所的な単回帰係数として局所エロージョン率を算出することができる。具体的な算出手法は以下の通りである。
【0044】
投射領域の表面を水平面とし、投射方向を垂直方向に設定した場合、水平方向の座標位置をh[mm]、深さ方向の座標位置をd[mm]、投射量をs[g]とし、1回当りの投射量を一定として投射回数i回の投射量データをsiとする。また、座標位置hでの投射回数i回での深さをdh(si)とし、この値がエロージョン測定データに相当する。
【0045】
局所的な単回帰係数をah(si)として、局所線形モデルを以下の通りに設定する。
【0046】
【数1】
【0047】
iは、投射量データsiから近傍平均値を除去した投射量、Bhは、深さdh(si)の近傍平均値である。また、(2N+1)は回帰分析に使用する近傍データ個数であり、常に奇数であることから、ゼロ位相で単回帰係数を計算することができる。式(1)からBhを減算することで、局所線形モデルは原点を通る直線となるので、yi+k=dh(si+k)-Bhとすれば、ah(si)は、最小二乗法を用いて以下の算出式により求められる。
【0048】
【数2】
【0049】
以上のように、エロージョン領域の任意のエロージョン位置における局所エロージョン率を単回帰分析により局所的な単回帰係数として算出することができる。
【0050】
分布処理部113では、局所エロージョン率をエロージョン位置に対応してレンダリング処理を行う。具体的には、式(3)に示す局所エロージョン率をエロージョン痕のプロファイルとともにエロージョン領域にマッピングするため、深さdを変数とする陽関数のサンプル値とする必要があるが、エロージョン痕のエロージョン面は塑性変形により盛り上がったり、洗浄後に砥粒が残留するといったノイズの影響がある。
【0051】
こうしたノイズの影響を抑えるため、エロージョン痕のプロファイルについて移動平均フィルタ処理により平滑化し、局所エロージョン率を深さdをキーとして昇順ソートすることでサンプル値を近似的に求めるとよい。また、サンプル値は、深さの解像度に関して疎であることから、線形内挿処理により密データに変換処理するとよい。
【0052】
分布処理して得られた局所エロージョン率をカラーマップで可視画像化する場合、評価対象となる領域が明確に表示されるように画像処理する必要がある。カラーマップでは、一般にデータの振幅と輝度の強さが比例関係とされているため、評価領域の物理特性が強い場合に局所エロージョン率の変動が小さくなり、振幅の変動を明確に表示することが難しくなる。例えば、基材表面に高強度の薄膜を形成した固体材料の場合、評価対象となる薄膜領域の物理特性の変動を明確に画像表示されるように処理する必要がある。
【0053】
そのため、ネガポジ反転により低い局所エロージョン率を高くする処理を行い、ガンマ補正によりエロージョン率の変動を強調処理することで、局所エロージョン率の変動を明確に表示することができる。
【0054】
また、分布処理部113では、界面処理部114で生成された界面に関するデータを取得して分布画像に併せて表示するように画像処理を行う。
【0055】
界面処理部114では、取得処理部111で得られた任意の表面位置における投射方向のエロージョン測定データの投射量データに対する変化に基づいて界面のエロージョン深さを特定する。例えば、基材表面に薄膜が形成された固体材料では、基材及び薄膜は物理的特性が異なっているため、基材と薄膜との間の境界部分にエロージョン率が不連続に変化する界面が存在している。こうした界面では、結晶構造の違いや欠陥等により局所的な物理的特性の変化が生じることから、エロージョン痕が薄膜を貫通し基材内部まで到達して境界部分の評価を行うことが必要となる。
【0056】
それぞれの表面位置におけるエロージョン測定データの投射量データに対する推移から界面を示す転換点となるエロージョン深さを特定し、それぞれのエロージョン深さを追跡していくことでエロージョン領域において界面に対応する境界線を表示することができる。
【0057】
こうした転換点を特定する手法としては、経済学の分野で提案されているChow検定の分析手法を用いることができる。具体的な処理フローは以下の通りである。
【0058】
【数3】
【0059】
クラス分割点の存在が特定された場合には、クラス分割点のエロージョン深さを求めることで、界面に対応する転換点を特定することができる。
【0060】
表面位置のそれぞれについて転換点のエロージョン深さが特定されるので、表面に形成された皮膜と基材との間の界面、複合材料のマトリックス材と強化材との界面といったような、表面内部に存在する界面に対応する形状データをきめ細かく分析して評価することができる。
【0061】
図6は、上述した評価画像処理装置の処理フローである。まず、測定部100で得られたエロージョン痕の形状に関するプロファイルを取得し、プロファイルのデータからエロージョン測定位置におけるエロージョン測定データ及び投射量データを取得する(S301)。次に、エロージョン領域の任意のエロージョン位置においてその近傍のエロージョン測定位置のエロージョン測定データ及び投射量データに基づいて局所エロージョン率を算出する(S302)。算出された局所エロージョン率をエロージョン位置に対応してレンダリング処理を行うことで分布画像を生成する(S303)。任意の表面位置における投射方向のエロージョン測定データの投射量データに対する変化に基づいて界面のエロージョン深さを特定し、界面に対応する境界線を特定する(S304)。そして、分布画像に境界線を表示した評価画像を作成して表示する(S305)。
【0062】
以上の処理により、測定されたプロファイルに基づいてエロージョン領域において局所的な物理的特性を示す評価画像を得ることができる。
【実施例0063】
次に本発明を具体的に実施例で説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0064】
<MSE法による評価試験>
図1に示す構成と同様の構成を備えている試験装置(株式会社パルメソ製;MSE-A)を用いて、評価試験を行った。砥粒として、平均粒径1.2μmの多角形アルミナ粒子(株式会社フジミインコーポレーテッド製)を準備し、純水に1.5質量%の濃度となるように砥粒を混在させて試験液を調製した。空気圧力を0.22MPaに設定するとともに噴射部での試験液の圧力を0.17MPaに設定して試験液を被験体の表面に向かって直交する方向(投射方向90°)で噴射させて被験体表面の投射領域(縦約1mm×横約1mm)に複数回衝突させた。エロージョンの進行速度がほぼ一定の領域は、縦約250μm×横約250μmであった。
【0065】
砥粒の1回当りの投射量が0.5gとなるまで試験液の噴射を継続した後噴射を停止し、被験体に形成されたエロージョン痕について触針式粗さ計(株式会社小坂研究所製)により測定した。測定の分解能は、深さ方向で20nm、表面に沿う方向で1μmである。測定後被験体を洗浄し、次の投射を行った後測定を繰り返し行うことで、複数回の投射による評価試験を行った。
【0066】
[実施例1]
被験体として、円板状の基材(高速度工具鋼鋼材;SKH51)の片面にアークイオンプレーティング法によりTiN膜を成膜した固体材料を使用した。成膜したTiN膜の厚さは、約1.3μmであった。
【0067】
固体材料の成膜した片面に対して試験装置により砥粒の投射及び測定を90回繰り返し行った。測定は、図2に示すように、投射領域の中心を通る測定ラインに沿ってエロージョン痕の深さを測定した。
【0068】
図7は、得られた測定データの処理結果を示すグラフである。図7(a)は、エロージョン痕のプロファイルを示しており、横軸に表面位置[mm]及び縦軸にエロージョン痕の深さ[μm]をとり、投射毎の測定結果をプロットしている。投射回数が少ない初期段階では、エロージョン痕の進行が緩やかとなっており、表面に形成したTiN膜の存在を示している。投射回数が増加するに従いエロージョン痕が急速に進行して基材への到達を示している。また、表面位置の投射方向(垂直方向)からみて局所的にエロージョン痕の進行にバラツキがあることが確認できる。
【0069】
図7(b)は、図7(a)に示すプロファイルに基づいて表面位置を1μm間隔で設定し、表面位置における投射方向のエロージョン測定データ及び投射量データを取得処理を行った場合における表面位置A,B及びCでのエロージョン曲線を示している。表面位置の投射方向は表面に対して垂直方向となるため、エロージョン測定データはエロージョン深さと同一になる。グラフでは、横軸に投射量データ[g]及び縦軸に深さ[μm]をとり、取得結果をプロットしている。
【0070】
表面位置Aでは、プロファイルでは周囲に比べてエロージョン痕の進行が速く推移しており、表面位置Bでは、投射領域の中心でのエロージョン痕の推移を示している。表面位置Cでは投射領域の周辺におけるエロージョン痕の推移を示している。
【0071】
図7(c)は、図7(b)に示すエロージョン測定データ及び投射量データに基づいて局所エロージョン率を算出処理してグラフに示している。グラフでは、横軸に投射量データ[g]及び縦軸に局所エロージョン率[μm/g]をとり、表面位置A~Cでの算出結果をプロットしている。
【0072】
表面位置Aと表面位置Bでは、局所エロージョン率の変化が相違しており、局所的な物理的特性の違いを示している。また、局所エロージョン率が不連続に変化していることから、TiN膜と基材との間にの界面の存在を示している。表面位置BにおけるTiN膜の平均エロージョン率は、0.178μm/gであった。
【0073】
図8は、図7(c)に示すエロージョン率の局所的な変化をカラーマップ処理した評価画像を示しており、この例では、局所エロージョン率の高低を色の違いにより表示している。また、図6(c)に示す表面位置における局所エロージョン率のグラフに基づいて界面処理を行うことで、転換点を示すエロージョン深さを特定して境界線を白色のラインで表示し、併せて図7(a)に示すプロファイルを黒色の実線で描き加えて表示している。
【0074】
なお、評価画像では、左上隅部に評価試験で使用した砥粒のサイズに対応するマークを表示している。この例では、多角形アルミナ粒子に対応して平均粒径の正六角形のマークを表示するようになっているが、評価画像の縦横のスケールが異なっているため、それに合わせて縦長の形状のマークとなっている。
【0075】
局所エロージョン率の分布画像から局所的な物理的特性の違いが明確に示されており、固体材料の表面内部の微細構造の不均一性を評価することができる。例えば、TiN膜に対応する表面部分では分布画像の色むらが少なくほぼ均一になっているが、左側の表面位置Aに対応する領域では、界面を示すラインから深さ方向に周囲と色の異なる凹んだ箇所がみられ、TiN膜と基材との間に局所的に不均一な部分が存在することを示唆している。薄膜の結晶が成長を始める基材表面に凹んだ箇所が存在している場合、薄膜及び基材の密着性が低下して薄膜の剥離が生じやすくなることから、局所的な物理的特性を評価することが可能となる。
【0076】
また、界面処理により特定された境界線に基づいてTiN膜の平均厚さを求めたところ、1.21μmとなり、実際の測定結果とほぼ一致していることから、十分な精度で定量的な評価結果を得ることができる。
【0077】
以上説明したように、二次元画像で生成された分布画像を評価画像とすることで、固体材料の表面内部をきめ細かく分析して評価することが可能となる。また、生成された分布画像については、拡大及び縮小の処理を行うことで評価項目に合わせた強調表示を行うことも可能である。図8に示す例では、左上隅部に表示されたマークで示すように、深さ方向(縦方向)に拡大して画像表示しており、深さ方向の局所的な物理的特性が強調して表示されるようになっている。
【0078】
[実施例2]
市販の高速度工具鋼鋼材からなる切削用コーティングドリルについて実施例1と同様の試験装置を用いて同じ条件(砥粒濃度は3質量%に設定)で砥粒の投射及び測定を30回繰り返し行った。
【0079】
得られた測定データにより、実施例1と同様に、プロファイルからエロージョン測定データ及び投射量データを取得してエロージョン領域において局所エロージョン率を算出した。そして、実施例1と同様に、算出された局所エロージョン率の分布画像を生成処理し、エロージョン測定データ及び投射量データに基づいて界面処理を行って界面を示す境界線に関するデータを生成処理した。生成した評価画像を図9に示す。
【0080】
図9では、表面内部に薄膜の存在を示す境界線が示されており、薄膜部分の平均エロージョン率は0.163μm/gであった。実施例1と比較して境界線が乱れているものの薄膜の耐摩耗性は高くなっており、薄膜形成過程が不明な固体材料の場合でも実施例1との相対評価できめ細かく分析して評価を行うことができる。
【0081】
[実施例3]
市販の別の高速度工具鋼鋼材からなる切削用コーティングドリルについて実施例1と同様の試験装置を用いて同じ条件で砥粒の投射及び測定を30回繰り返し行った。
【0082】
得られた測定データにより、実施例1と同様に、プロファイルからエロージョン測定データ及び投射量データを取得してエロージョン領域において局所エロージョン率を算出した。そして、実施例1と同様に、算出された局所エロージョン率の分布画像を生成処理し、エロージョン測定データ及び投射量データに基づいて界面処理を行って界面を示す境界線に関するデータを生成処理した。生成した評価画像を図10に示す。
【0083】
図10では、表面内部に薄膜の存在を示す境界線が明確に表示されておらず、基材と薄膜との間の明確な界面は認められなかった。表面部分の平均エロージョン率は1.52μm/gで、それより深い部分よりもエロージョン率が大きいことから、耐摩耗性を向上させるための薄膜は形成されていないことが確認できる。また、実施例2に比べて基材部分に分布画像のバラツキが見られることから、局所的な物理的特性の不均一性が存在することが確認でき、表面内部の品質評価を行うことができる。
【0084】
[実施例4]
被験体として、実施例1と同様の基材の片面にアークイオンプレーティング法によりTiN膜及びTiCN膜を二層構造で成膜した固体材料を使用した。実施例1と同様の試験装置を用いて同じ条件で砥粒の投射及び測定を30回繰り返し行った。
【0085】
得られた測定データにより、実施例1と同様に、プロファイルからエロージョン測定データ及び投射量データを取得してエロージョン領域において局所エロージョン率を算出した。そして、実施例1と同様に、算出された局所エロージョン率の分布画像を生成処理し、エロージョン測定データ及び投射量データに基づいて界面処理を行って界面を示す境界線に関するデータを生成処理した。生成した評価画像を図11に示す。
【0086】
図11(a)には、分布画像及び界面を示す境界線を描いた評価画像を示しており、図11(b)には、図11(a)に点線の枠で示す部分の評価画像を拡大して示している。図11(c)には、被験体の断面を電子顕微鏡で撮影した写真を示している。
【0087】
図11(a)及び(b)では、基材と表面に形成された二層の膜との境界とともに二層の膜の境界についても評価画像に表示されており、二層構造の薄膜が形成されていることが確認できる。そして、二層構造の膜の境界では色の乱れはほとんどなく物理的特性の不均一性が認められないが、基材と膜との間では局所的な色の変化が表れており、局所的な物理的特性の不均一性が認められる。
【0088】
図11(c)では、白い矢印で示すように、表面内部では微小な空隙や微小な凹凸が生じていることが認められ、こうした微細構造が物理的特性の不均一性に対応していると考えられることから、局所的な物理的特性の不均一性が評価画像に明確に示されていることが確認できる。また、図11(c)では、二層構造の膜は明確に観察されないが、評価画像では二層構造の膜が明確に示されており、電子顕微鏡による断面写真では評価できない微細構造についても評価することができる。
【0089】
[実施例5]
実施例4と同様のTiN膜及びTiCN膜を二層構造で成膜した固体材料を使用した。砥粒として実施例1で用いた平均粒径1.2μmの多角形アルミナ粒子及び平均粒径3μmの球形アルミナ粒子の2種類を用い、実施例1と同様の試験装置を用いて同じ条件でそれぞれの砥粒について投射及び測定を30回繰り返し行った。
【0090】
得られた測定データを実施例4と同様に処理してそれぞれの砥粒を用いた場合の評価画像を生成した。生成した評価画像を図12に示す。図12では、左上隅部に表示された砥粒に対応するマークに示すように、縦横のスケールが同一となるように画像表示されている。
【0091】
図12(a)には、平均粒径1.2μmの多角形アルミナ粒子を用いた場合の評価画像を示しており、二層構造の膜及び基材の界面が明確に表示されており、表面内部の微細構造に対応した物理的特性の不均一性を評価することができる。図12(b)には、平均粒径3μmの球形アルミナ粒子を用いた場合の評価画像を示しており、二層構造の膜及び基材といった微細構造は明確に表示されていないが、衝撃に対する表面内部の局所的な強度のムラに対応する色の変化が表示されている。
【0092】
このように、平均粒径及び形状の異なる複数種類の砥粒を選択して試験を行い、試験結果について評価画像を生成することで、表面内部の物理的特性の不均一性について様々なスケールで評価することができる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は、固体材料の表面内部における局所的な物理的特性の不均一性をきめ細かく分析して評価することができることから、例えば、固体材料表面の薄膜形成技術について形成された薄膜をきめ細かく分析して評価することで、優れた物理的特性を有する薄膜を形成することが可能となる。
【0094】
また、薄膜の微細構造について断面形状を走査型電子顕微鏡等で可視化することが行われているが、微細構造に関連する局所的な物理的特性の不均一性を可視化して評価することができることから、固体材料を切断して断面を形成することなく表面内部の評価作業を精度よく効率的に行うことができる。
【0095】
また、固体材料の劣化試験及び疲労試験を行う場合に、試験に使用する被験体を本発明により評価を行うことで、劣化及び疲労の程度及び推移を局所的に継続して評価することが可能となり、良好な精度の試験結果を得ることができる。
【0096】
また、固体材料に対して砥粒投射による表面加工やショットピーニングによる表面改質を行う場合に、加工の各工程において表面内部を本発明により評価を行いながら工程管理を行うことで、安定した加工を行うことができる。
【0097】
以上の通り、本発明は、固体材料に関する様々な技術分野における標準的な評価技術として活用されることが期待される。
【符号の説明】
【0098】
1・・・タンク、2・・・噴射部、3・・・回収ポンプ、4・・・貯留容器、5・・・接続管、6・・・回収管、7・・・空気管、8・・・エアコンプレッサ、9・・・空気管、10・・・被験体、11・・・流量計、12・・・圧力計、13・・・流量計、20・・・噴射ノズル、30・・・ターンテーブル、100・・・測定装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【手続補正書】
【提出日】2023-10-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥粒を固体材料の表面の所定の投射領域に向かって投射させて衝突させることで投射領域に形成されるエロージョン痕の形状を所定の投射量毎に測定し、測定された形状データに基づいて前記投射領域の任意の表面位置から投射方向のエロージョン深さを投射量毎に算出して前記エロージョン痕に対応する表面内部のエロージョン領域のエロージョン測定位置におけるエロージョン測定データ及び投射量データを取得し、前記エロージョン領域の任意のエロージョン位置においてその近傍の前記エロージョン測定位置の前記エロージョン測定データ及び前記投射量データに基づいて単回帰分析により局所エロージョン率を算出し、算出された前記局所エロージョン率の前記エロージョン位置に対応する分布に基づいて表面内部の局所的な物理的特性を評価する固体材料の表面内部評価方法。
【請求項2】
前記局所エロージョン率を前記エロージョン位置に対応してレンダリング処理を行うことで分布画像を表示することで表面内部の局所的な物理的特性を評価する請求項1に記載の固体材料の表面内部評価方法。
【請求項3】
それぞれの前記表面位置における投射方向の前記投射量データによる前記エロージョン測定データの変化をChow検定により分析して転換点となるエロージョン深さを特定し、前記表面位置のそれぞれの前記転換点のエロージョン深さに基づいて表面内部に存在する界面に対応する形状データを表示する請求項1又は2に記載の固体材料の表面内部評価方法。
【請求項4】
前記投射領域における前記砥粒の投射方向は、前記固体材料の表面に対して傾斜して設定されている請求項1又は2に記載の固体材料の表面内部評価方法。
【請求項5】
表面内部の微細構造に応じて前記砥粒の平均粒径及び形状を選択する請求項1又は2に記載の固体材料の表面内部評価方法。
【請求項6】
砥粒を固体材料の表面の所定の投射領域に向かって投射させて衝突させることで投射領域に形成されるエロージョン痕の形状を所定の投射量毎に測定して得られた形状データに基づいて投射領域の任意の表面位置から投射方向のエロージョン深さを投射量毎に算出して前記エロージョン痕に対応する表面内部のエロージョン領域のエロージョン測定位置におけるエロージョン測定データ及び投射量データを取得する取得処理部と、前記エロージョン領域の任意のエロージョン位置においてその近傍の前記エロージョン測定位置の前記エロージョン測定データ及び前記投射量データに基づいて単回帰分析により局所エロージョン率を算出する算出処理部と、算出された前記局所エロージョン率の前記エロージョン位置に対応してレンダリング処理を行うことで表面内部の局所的な物理的特性を評価するための分布画像を作成する分布処理部とを備えている評価画像処理装置。
【請求項7】
それぞれの前記表面位置における投射方向の前記投射量データによる前記エロージョン測定データの変化をChow検定により分析して特定された転換点となるエロージョン深さに基づいて表面内部に存在する界面に対応する形状データを作成する界面処理部を備えている請求項6に記載の評価画像処理装置。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の評価画像処理装置の各処理部として機能させるためのプログラム。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0011
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0011】
本発明に係る固体材料の表面内部評価方法は、砥粒を固体材料の表面の所定の投射領域に向かって投射させて衝突させることで投射領域に形成されるエロージョン痕の形状を所定の投射量毎に測定し、測定された形状データに基づいて前記投射領域の任意の表面位置から投射方向のエロージョン深さを投射量毎に算出して前記エロージョン痕に対応する表面内部のエロージョン領域のエロージョン測定位置におけるエロージョン測定データ及び投射量データを取得し、前記エロージョン領域の任意のエロージョン位置においてその近傍の前記エロージョン測定位置の前記エロージョン測定データ及び前記投射量データに基づいて単回帰分析により局所エロージョン率を算出し、算出された前記局所エロージョン率の前記エロージョン位置に対応する分布に基づいて表面内部の局所的な物理的特性を評価する。