(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172385
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】認知機能の変化を予測する方法、認知機能変化予測装置、認知機能変化予測用プログラム及び記録媒体
(51)【国際特許分類】
G16H 50/20 20180101AFI20231129BHJP
A61B 10/00 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
G16H50/20
A61B10/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084152
(22)【出願日】2022-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】504179255
【氏名又は名称】国立大学法人 東京医科歯科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100130845
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 伸一
(72)【発明者】
【氏名】平川 晃弘
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA04
(57)【要約】
【課題】脳画像等の他の医学的データを用いることなく、短期間の認知機能評価スケールデータのみからその長期的変化を精度よく予測する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】個人のスケールの低下率を統計モデルにより推定するステップ1と、前記ステップ1で求めた低下率に対して、個人のスケールの平均値を説明変数とした回帰モデルでモデル化するステップ2と、前記ステップ2のモデルに常微分方程式を適用し、疾患進行時間に対するスケールを予測するステップ3と、最も当てはまりがよい回帰モデルによる曲線を決定するステップ4とを含むことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
認知機能評価スケール(以下「スケール」と称する)の短期的データからその長期的な認知機能の変化を予測する方法であって、
個人のスケールの低下率を統計モデルにより推定するステップ1と、
前記ステップ1で求めた低下率に対して、個人のスケールの平均値を説明変数とした回帰モデルでモデル化するステップ2と、
前記ステップ2のモデルに常微分方程式を適用し、疾患進行時間に対するスケールを予測するステップ3と、
最も当てはまりがよい回帰モデルによる曲線を決定するステップ4とを含むことを特徴とする認知機能の変化の予測方法。
【請求項2】
前記回帰モデルはFractional Polynomial関数(以下「FP関数」と称する)により表されるものであることを特徴とする請求項1に記載の認知機能の変化の予測方法。
【請求項3】
前記統計モデルは混合効果モデルであることを特徴とする請求項1から2に記載の認知機能の変化の予測方法。
【請求項4】
前記スケールの短期的データは集団のデータであり、長期的な変化の予測は、当該集団の長期的な変化を予測するものであることを特徴とする請求項1から3に記載の認知機能の変化の予測方法。
【請求項5】
予測の対象となっている個人と人口動態的特徴の少なくとも一部が共通する集団の長期的な変化の予測に基づき、当該個人の長期的な変化を予測することを特徴とする請求項4に記載の認知機能の変化の予測方法。
【請求項6】
個人のスケールの低下率を統計モデルにより推定する個人スケール低下率推定手段と、
個人のスケールの平均値と前記個人スケール低下率推定手段により推定された低下率との関係を回帰モデルでモデル化する関係性モデル化手段と、
前記関係性モデル化手段によるモデルに微分方程式を適用し、疾患進行時間に対するスケールを予測する疾患進行時間予測手段と、
最も当てはまりがよい回帰モデルによる曲線を決定する予測曲線決定手段とを含むことを特徴とする認知機能変化予測装置。
【請求項7】
前記回帰モデルはFP関数により表されるものであることを特徴とする請求項6に記載の認知機能変化予測装置。
【請求項8】
前記統計モデルは混合効果モデルであることを特徴とする請求項6から7に記載の認知機能変化予測装置。
【請求項9】
前記スケールの短期的データは集団のデータであり、長期的な変化の予測は、当該集団の長期的な変化を予測するものであることを特徴とする請求項5から8に記載の認知機能変化予測装置。
【請求項10】
予測の対象となっている個人と人口動態的特徴の少なくとも一部が共通する集団の長期的な変化の予測に基づき、当該個人の長期的な変化を予測することを特徴とする請求項9に記載の認知機能変化予測装置。
【請求項11】
前記予測曲線を前記個人のスケールと一体にまたは対応させて表示することを特徴とする請求項6から10に記載の認知機能変化予測装置。
【請求項12】
コンピューターを、請求項6から11のいずれか1項に記載された認知機能変化予測装置の各手段として機能させるためのプログラム。
【請求項13】
コンピューターを、請求項6から11のいずれか1項に記載された認知機能変化予測装置の各手段として機能させるためのプログラムを格納したコンピューターが読み取り可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、認知機能の変化を予測する方法、認知機能変化予測装置、認知機能変化予測用プログラム及び記録媒体に関し、特に、短期的データから長期的な認知機能の変化を予測する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病(Alzheimer’s Disease、以下「AD」と称する)は、数十年にわたり認知機能が徐々に低下する神経変性疾患である。ADの進行の程度を評価するためにβ-アミロイドペプチド(Aβ)の沈着やタウ凝集を評価するバイオマーカーが研究されてきた(非特許文献1、2、3)。
他方で、ミニメンタルステート検査(Mini-Mental State Examination、以下「MMSE」と称する)やアルツハイマー病評価尺度(Alzheimer’s Disease Assessment Scale-cognitive subscale、以下「ADAS-Cog」と称する)等のスケールで評価される認知機能について、その長期的な変化を理解することはもう1つの重要な研究課題である(非特許文献4、5)。
いくつかの研究では、認知機能スケールの長期的な変化には、年齢や性別等の患者背景情報で特徴づけられるいくつかのパターンが存在することが分かっている(非特許文献6、7)。
【0003】
関心のある母集団(例えば、AD発症のリスク因子を有する集団)の認知機能の長期的な変化を適切に捉えることで、適時適切な予防的・治療的介入が可能となる。また、AD治験薬の臨床試験に登録される患者集団の不均一性を低減する選択除外基準の作成に活用することもできる。
例えば、MMSE(0~30点、低い点数ほど認知機能が低下していることを意味する)は臨床試験への患者登録の選択基準としてよく使用されるため(非特許文献8、9)、MMSEの長期的変化が予測できれば、治験薬の評価に適した集団(つまり、均一な病期と疾患進行パターンを持つ患者集団)を選定するのに役立つ。
MMSE等の認知機能評価スケールの長期的変化を推定するには、大規模なコホート研究を通して、関心のある特性を有する正常な認知機能(Normal Cognitive、以下「NC」と称する)の参加者から、数十年にわたって定期的にスケールデータを収集することが理想的である。ただし、10~20年の長期的追跡を実施したわずかな研究(非特許文献10、11、12)を除いて、ほとんどの研究では、実施可能性を考慮して、さまざまな病期(NC、軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment、以下「MCI」と称する)、AD等)の参加者を登録し、数年間(2~3年間)だけ追跡する(非特許文献13、14、15、16)。
したがって、このような数年間の短期的な認知機能スケールデータから、20~30年の長期的な変化を予測できる統計的方法が必要とされている。
【0004】
長期的変化を予測するために、加齢に伴う認知機能スケールの変化に対して統計モデルを仮定する方法がいくつか開発されている。Jedynak et al.(非特許文献17)は、長期的変化を推定するためのシグモイド関数モデルを提案している。Donohue et al.(非特許文献18)は成長モデルを、Li et al.(非特許文献19)は潜在時間混合効果モデルを仮定することにより、長期的な変化を推定している。Donohue et al.(非特許文献18)やLi et al.(非特許文献19)の方法は、モデリングの前に認知機能スケールを分位数変換しているのに対して、Racket(非特許文献20)は、変換前のデータに対して非線形混合効果モデルを適用して長期的変化を予測している。近年、Kuhnel et al.(非特許文献12)は、Racket(非特許文献20)の方法を拡張して、複数の認知機能スケールの長期的変化を同時に予測する方法を開発した。これらの方法は、ランダム効果を含む非線形混合効果モデル(非特許文献12、19、20、21)に基づいており、特にアルツハイマー病ニューロイメージングイニシアチブ(adni.loni.usc.edu)のような長期間フォローアップデータ(例、10年以上)に対しては有用な方法であると考えられるが、上述したような短期的なデータに対してもこれらの方法が有用であるかどうかは分かっていない。またこれらの方法は、非線形混合効果モデルのパラメータ推定値(つまり、推定される長期的変化の形状)が、パラメータ推定の際に与える初期値に依存するため、短期的なデータに対しては十分な精度を示さないと考えられる。
【0005】
その他、認知症の発症リスクにかかる先行技術として、特許文献1には、ユーザー脳状態(例えば、海馬の容量やアミロイドβの量)に係るデータとユーザー個体特性(身長、体重、体脂肪率、BMI、コレステロール値等の身体特性や、運動量、食事量及び種類、睡眠時間の長さ及び質、コミュニケーション量及び頻度、趣味活動量及び頻度、飲酒量及び頻度、喫煙量及び頻度等の生活特性)に対応する集団のサンプル脳状態データとの比較により、認知症リスクを理解しやすい形で提示できる認知症リスク提示システムが開示されている。
また、特許文献2には、アルツハイマー病(AD)による軽度認知障害(MCI)の発症前に対象を段階分けする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-18424号公報
【特許文献2】特表2021-523357号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Zhang D, Wang Y, Zhou L, et al. Multimodal classification of Alzheimer’s disease and mild cognitive impairment. Neuroimage 2011; 55(3): 856-867.
【非特許文献2】Mattsson N, Palmqvist S, Stomrud E, Vogel J, Hansson O. Staging β -amyloid pathology with amyloid positron emission tomography. JAMA Neurology 2019; 76(11): 1319-1329.
【非特許文献3】Villemagne VL, Burnham S, Bourgeat P, et al. Amyloid β deposition, neurodegeneration, and cognitive decline in sporadic Alzheimer's disease: a prospective cohort study. The Lancet Neurology 2013; 12(4): 357-367.
【非特許文献4】Bhagwat N, Viviano JD, Voineskos AN, Chakravarty MM, Alzheimer's Disease Neuroimaging Initiative. Modeling and prediction of clinical symptom trajectories in Alzheimer's disease using longitudinal data. PLoS Computational Biology 2018; 14(9): e1006376.
【非特許文献5】Trzepacz P, Hochstetler H, Wang S, et al. Longitudinal Trajectories of Clinical Decline in Amyloid Positive and Negative Populations. The Journal of Prevention of Alzheimer's Disease 2016; 3(2): 92-100.
【非特許文献6】Iwata A, Iwatsubo T, Ihara R, et al. Effects of sex, educational background, and chronic kidney disease grading on longitudinal cognitive and functional decline in patients in the Japanese Alzheimer's Disease Neuroimaging Initiative study. Alzheimer's & Dementia: Translational Research & Clinical Interventions 2018; 4(1): 765-774.
【非特許文献7】Wilkosz PA, Seltman HJ, Devlin B, et al. Trajectories of cognitive decline in Alzheimer's disease. International Psychogeriatrics 2010; 22(2): 281-290.
【非特許文献8】221AD301 Phase 3 Study of Aducanumab (BIIB037) in Early Alzheimer's Disease (ENGAGE). ClinicalTrials.gov identifier: NCT02477800. Updated August 14, 2020. Accessed May 17, 2021. https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT02477800
【非特許文献9】221AD302 Phase 3 Study of Aducanumab (BIIB037) in Early Alzheimer's Disease (EMERGE). ClinicalTrials.gov identifier:NCT02484547.Updated May 6, 2021.Accessed May 17, 2021. https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT02484547
【非特許文献10】Amieva H, Le Goff M, Millet X, et al. Prodromal Alzheimer's disease: successive emergence of the clinical symptoms. Annals of Neurology: Official Journal of the American Neurological Association and the Child Neurology Society 2008; 64(5): 492-498.
【非特許文献11】Yau WYW, Tudorascu DL, McDade EM, et al. Longitudinal assessment of neuroimaging and clinical markers in autosomal dominant Alzheimer's disease: a prospective cohort study. The Lancet Neurology 2015; 14(8): 804-813.
【非特許文献12】Kuhnel L, Berger AK, Markussen B, Raket LL. Simultaneous modeling of Alzheimer's disease progression via multiple cognitive scales. Statistics in Medicine 2021; 40(14): 3251-3266.
【非特許文献13】Petersen RC, Aisen P, Beckett LA, et al. Alzheimer's Disease Neuroimaging Initiative (ADNI): clinical characterization. Neurology 2010; 74(3): 201-209.
【非特許文献14】Marek K, Jennings D, Lasch S, et al. The Parkinson Progression Marker Initiative (PPMI). Progress in Neurobiology 2011; 95(4): 629-635.
【非特許文献15】Weiner MW, Veitch DP, Aisen PS, et al. The Alzheimer's Disease Neuroimaging Initiative: a review of papers published since its inception. Alzheimer's & Dementia 2013; 9(5): e111-e194.
【非特許文献16】Iwatsubo T, Iwata A, Suzuki K, et al. Japanese and North American Alzheimer's Disease Neuroimaging Initiative studies: Harmonization for international trials. Alzheimer's & Dementia 2018; 14(8): 1077-1087.
【非特許文献17】Jedynak BM, Lang A, Liu B, et al. A computational neurodegenerative disease progression score: method and results with the Alzheimer's disease neuroimaging initiative cohort. Neuroimage 2012; 63(3): 1478-1486.
【非特許文献18】Donohue MC, Jacqmin-Gadda H, Le Goff M, et al. Estimating long-term multivariate progression from short-term data. Alzheimer's & Dementia 2014; 10: S400-S410.
【非特許文献19】Li D, Iddi S, Thompson WK, Donohue MC, Alzheimer's Disease Neuroimaging Initiative. Bayesian latent time joint mixed effect models for multicohort longitudinal data. Statistical Methods in Medical Research 2019; 28(3): 835-845.
【非特許文献20】Raket LL. Statistical Disease Progression Modeling in Alzheimer Disease. Frontiers in Big Data 2020; 3: 24.
【非特許文献21】Yang E, Farnum M, Lobanov V, et al. Quantifying the pathophysiological timeline of Alzheimer's disease. Journal of Alzheimer's Disease 2011; 26(4): 745-753.
【非特許文献22】Budgeon CA, Murray K, Turlach BA, et al. Constructing longitudinal disease progression curves using sparse, short-term individual data with an application to Alzheimer's disease. Statistics in Medicine 2017; 36(17): 2720-2734.
【非特許文献23】Arevalo-Rodriguez I, Smailagic N, Roque i Figuls M, et al. Mini-Mental State Examination (MMSE) for the detection of Alzheimer's disease and other dementias in people with mild cognitive impairment (MCI). Cochrane Database of Systematic Reviews 2015(3).
【非特許文献24】Royston P, Altman DG. Regression using fractional polynomials of continuous covariates: parsimonious parametric modelling. Journal of the Royal Statistical Society: Series C (Applied Statistics) 1994; 43(3): 429-453.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の先行文献に記載された方法は、特定の非線形混合効果モデルを適用することのみで長期的変化を予測するワンステップアプローチであるため、非線形混合効果モデルのパラメータ推定に失敗すれば、長期的変化は推定できない。特に、複数のパラメータを持つ複雑な非線形混合効果モデルを仮定した場合、データ数が少ないとパラメータ推定が得られないことが多い。他方で、本発明は、四つのステップからなる予測法であり、データ数が少ない場合であっても、各ステップで解析対象データに適した統計モデルを選択する等の微調整(fine-tuning)を行うことで、長期的変化の推定精度を上げることが可能である。
本発明は上記に挙げた従来技術の課題を解決するためになされたものであり、脳画像等の他の医学的データを用いることなく、短期間の認知機能評価スケールデータのみからその長期的変化を精度よく予測する方法を提供することを目的とする。
【0009】
具体的には、関心のある集団においてその認知機能が徐々に低下する現象を、その集団から推定した認知機能低下率(単位時間当たりの認知機能低下量)について特定の関数を当てはめ、常微分方程式を解くことにより、認知機能の長期的変化を推定する。例えば、Yang et al.(非特許文献21)は、常微分方程式の解として得られた指数モデルにより、MCIおよびAD患者から得られた短期的データからADAS-Cog13の進行を推定している。また、Budgeon et al.(非特許文献22)は、認知機能測定ではなく、Aβ沈着の長期的変化を推定するために常微分方程式を用いる方法を提供している。本発明は、異なる疾患段階(例えば、NC、MCI、およびAD)の参加者から得られた短期的データを使用して、その集団における関心のあるスケール(例えば、MMSE)の長期的変化を予測する方法を提供する。また、予測した長期的変化の推定値の精度を測る指標も併せて提供する。
【0010】
ここで、本発明に係る予測方法は、例えば、ある1000例の短期的データがあったとして、1000例の短期的データに開発した方法を適用して当該集団の長期的変化を予測するものである。また、80-85歳かつ女性の長期的変化に関心があれば、この1000例の短期的データから、当該集団の長期的変化を予測することが可能である。したがって、ある個人のAさんが83歳女性だったとすれば、Aさんは、自分と同じような人はどういう変化をたどっているかを知ることができる、ということであり、このようなことを「予測」と称している。
なお、「Aさん」のデータも、その集団データのアップデートに使っていくことができ、またリアルタイムに反映することも可能である。ただし、一般的には、1000例に対して1例のデータが加わっても長期的変化は殆ど変わることはない。
MMSEスコア(範囲:0~30)は、認知機能を評価するための最もよく知られた尺度の1つであり、臨床研究への患者登録の適格性基準として広く利用されている。コクランレビューは、ADの検出のためのMMSEの有用性を検討し、MCI段階から認知症への進行がMMSEの経時変化によって予測できるかどうかを評価することが重要であると結論付けている(非特許文献23)。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、短期的データから長期的な認知機能の変化を予測する方法であって、個人のスケールの低下率を統計モデルにより推定するステップ1と、前記ステップ1で求めた低下率に対して、個人のスケールの平均値を説明変数とした回帰モデルでモデル化するステップ2と、前記ステップ2のモデルに常微分方程式を適用し、疾患進行時間に対するスケールを予測するステップ3と、最も当てはまりがよい回帰モデルによる曲線を決定するステップ4とを含むことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の第2実施形態に係る認知機能変化予測装置の概略機能構成を示す機能ブロック図である。
【
図2】本発明の第2実施形態に係る認知機能変化予測装置での判断・処理の流れを示すフローチャートである。
【
図3】本発明の第2実施形態に係る認知機能変化予測装置での画面遷移を示す画面遷移図である。
【
図4】本発明の第2実施形態に係る認知機能変化予測装置を実現し得るコンピューターの概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態として、個人のスケールの低下率を統計モデルにより推定するステップ1と、前記ステップ1で求めた低下率に対して、個人のスケールの平均値を説明変数とした回帰モデルでモデル化するステップ2と、前記ステップ2のモデルに常微分方程式を適用し、疾患進行時間に対するスケールを予測するステップ3と、最も当てはまりがよい回帰モデルによる曲線を決定するステップ4とを含む認知機能の変化の予測方法について説明する。
【0014】
本発明の第1の実施形態に係る予測方法は、次の4つのステップで構成される。
ステップ1.研究登録時の値(ベースライン値)からのスケールの変化量(つまり各測定時間におけるスケールとベースライン値との差)を、病期(例えば、NC,MCI及びAD)と追跡時間(例えば2~3年)の交互作用項とランダム効果を含むような統計モデルに基づいてモデル化する。このモデルにより、各個人のスケールの低下率(時間に対する低下の傾き)が推定できる。
ステップ2.ステップ1で推定した個々の参加者のスケール低下率(傾き)を、研究期間中に収集した当該参加者のスケールの平均値を用いた回帰モデルとしてモデル化する。ここでは、複数の回帰モデルを用意しておき、ステップ4においてデータに最もよく当てはまる回帰モデルを本発明で開発した適合度指標に基づいて選択する。
ステップ3.回帰モデルに基づく常微分方程式を解くことで、指定した予測範囲(例えば、0~30年)の各年に対するスケールの予測値が得られる。
ステップ4.ステップ2及び3で検討した複数の回帰モデルから推定された複数の長期的変化から、適合度指標に基づいて、データに最もよく当てはまる回帰モデルを選択し、長期的変化を1つに決定する。また、選択された長期的変化について、ブートストラップ法を用いてその(95%)信頼区間を推定する。
以下、MMSEをスケールの例として、適宜、数式を示しつつ、各ステップを詳細に説明する。なお、本明細書全体を通じて、MMSEはあくまでスケールの例として取り上げているものであり、MMSEと同様に医療従事者の問診を通して評価するADAS-Cogのようなスケールや、民間事業者が開発しているような種々の簡易評価スケールにも本発明の方法が適用可能であることに留意されたい。
また、ステップ1で用いる個人のスケール低下率を求める統計モデルは、データに適したモデルであれば、線形モデルや、非線形モデル、非線形混合効果モデル等、その種類を問わない。
ただし、固定効果に加えて変量効果も加えた混合効果モデルを仮定することが自然であり、以下においてはその例で説明している。すなわち、混合効果モデルに拠れば、個人のスケール低下率の変動欠測データの取り扱いに優れるという格別の効果が奏される。なお、固定効果又は変量効果に指定する変数は任意である。
また、ステップ2における回帰モデルを表す関数として、1次の項、2次の項、3次の項を系統的に組み合わせることのできるFP関数を使用する。FP関数に拠れば、複数の関数を用意してデータに最もよくあてはまる関数形を好適に選択できるという格別の効果が奏される。
【0015】
ステップ1<個人のMMSE低下率(点/年)の推定>
y
ijが追跡期間t
ij(j=0,…,J)での参加者i(i=1,…,n)のMMSEスコアであるとする。ここでj=0は登録時のベースライン時点を示す。
MMSEの個々の低下率を推定するために、ベースライン値y
i0からのMMSEの変化について次の混合効果モデルを仮定する。
【数1】
ここで式(1)の右辺第1項は、参加者の病期(ここでは、NC、MCI及びADの3つの病期を想定する)と追跡期間の交互作用である。
また、数2は、データを収集した集団(以下、「解析対象集団」と称する)における各病期のMMSE低下率を表す固定効果のパラメータベクトルであり、NCの場合はβ
k=β
1、MCIの場合はβ
k=β
2、ADの場合はβ
k=β
3がそれぞれ対応する。Tは転置を意味する。
【数2】
また、数3はi番目の参加者の病期を示す指示関数ベクトルである。
【数3】
個人のMMSEの低下率は変量効果b
iで記述し、b
iは平均が0、分散が数4の正規分布に従うと仮定する。
【数4】
また、e
ijは測定誤差を意味し、平均が0、分散がσ
2の正規分布に従うと仮定する。
【0016】
式(1)を用いる時、病期k=1,2,3の参加者iのMMSEの低下率は次式で得られる。
【数5】
式(2)の右辺第1項、第2項はそれぞれβ
k、b
iの推定値を意味し、解析対象集団の短期的スケールデータから推定する。
なお、式(1)の混合効果モデルは、J-ADNI研究で収集された2~3年のMMSEデータに対する当てはまりが良かったモデルの一つである。ここで、J-ADNIはJapanese Alzheimer’s Disease Neuroimaging Initiativeの略称であり、2007年より開始された、本邦におけるアルツハイマー病研究プロジェクトを指す。磁気共鳴画像法(MRI)、陽電子放出断層撮影法(PET)、その他の生物学的マーカー、および臨床的・神経心理学的評価を組み合わせて、日本人集団におけるNC、MCI、ADの進行を追跡評価したデータが国立生物科学データベースに寄託され、申請により利用可能となっている。
【0017】
ステップ2<個人のMMSEの平均値とMMSE低下率との関係のモデル化>
次に、ステップ1で推定された低下率(数6)と、追跡期間における各個人のMMSEの平均値(数7)との関係に対して式(3)のモデルを仮定する。
【数6】
【数7】
【数8】
【0018】
ここでu
iは、平均が0、分散が数9の正規分布に従うと仮定する。
【数9】
式(3)の右辺第1項は、未知のパラメータベクトルγを有する数10の関数である。
【数10】
式(3)の右辺第1項の関数モデルは、MMSEの長期的変化の形状を規定する。通常、MMSEスコアは徐々にゼロに向かって減少する。したがって、数11は、MMSEがゼロの時点ではゼロであると想定され、数10と数11の関係は、凹状の曲線であると予想される。
【数11】
この凹状の曲線を表現するために、1次の項、2次の項、3次の項を含む関数について、その組み合わせを系統的に用意できる次のFractional Polynomial関数(以下、「FP関数」と称する)(非特許文献24)を使用する。
【数12】
ここで、
【数13】
および、
【数14】
p
mはp
1≦p
2≦…≦p
Mであり、解析時に指定する値である。ただし、
【数15】
およびp
0=0である。
【0019】
発明した方法においては、γ=(γ
1,γ
2)とした。その理由は、
【数16】
の場合は
【数17】
となり、切片であるγ
0が0となるためである。
また、以下のモデルにおいて、関心のある特定の集団を変量効果としてモデル化し、ステップ4で最も当てはまりの良いモデルを選択することで、当該集団の長期的変化の予測が可能となる。
【数18】
【0020】
ステップ3<微分方程式の適用と、スケールの各点数に対する疾患進行時間の予測>
MMSEスコアの低下率と疾患進行時間τは、パラメータλを持つ常微分方程式に基づいてモデル化できる。
【数19】
ここで、μ(τ)は疾患進行時間τ時点でのMMSEの推定値である。ただし、微分方程式(5)の解は、その初期値をμ
0(τ)とするとμ(τ)=μ
0(τ)exp(λτ)となり、単調な指数関数の形状のみしか表現できない。
そこで、いくつかの曲線の形状を表現するために、λμ(τ)を上述のFP関数に置き換える。
【数20】
これより、式(7)の積分が導出され、それを解くことで
【数21】
に対応した疾患進行時間τ(式(8))が求まる。
【数22】
ここで、C
1とC
2は、積分定数である。常微分方程式の初期値は、方程式
【数23】
の解
【数24】
である。
式(7)を解析的に解くことはしばしば困難であることから、関心のある区間(例えば0~20年)において数値積分により式(8)を解き、疾患進行時間τに対応するMMSEの予測値を得る。
【0021】
ステップ4<最も当てはまりのよい曲線モデルの決定>
5つのFP関数モデルの中から解析対象集団のデータに最もよく当てはまるモデルを選択するモデル選択基準が必要となる。
赤池情報量基準やベイズ情報量基準等の一般的なモデル選択基準も使用できる可能性がある。しかしながら、これらは本来
【数25】
と
【数26】
の関係性に対する当てはまりの良さを測る指標となるため適さない。MMSEの長期的変化の予測に適した
【数27】
を選択できる基準が必要である。
【0022】
そこで、推定された個々のMMSEと観測された個々のMMSEスコアの間の適合度を定量化する新しい基準を開発した。
参加者iについて、式(9)に示すように、データ収集開始時点でのMMSEであるy
i0と差が最も小さくなる
【数28】
を決定し、その疾患進行時間τをτ
i0とする。
【数29】
すなわち、式(9)のτ
i0は、参加者iの研究登録時点での疾患進行時間の推定値となる。
【0023】
疾患の進行時間τ
ij=τ
i0+t
ij(j=0,…,J)(例えば3年間の追跡期間で6か月ごとにMMSEを測定している場合、t
ij=0,0.5,1.0,1.5,2.0,2.5,3.0となる)と、それらに対応するMMSE(y
io,…,y
iJ)とから、式(10)に示す共分散ペナルティを伴う平均二乗誤差Errを計算する。
【数30】
【数31】
は、y
ijと
【数32】
の共分散である。実務上は、Errが最小となるFP関数モデル
【数33】
を選択する。
【0024】
<疾患進行時間に対する信頼区間の推定>
式(8)で推定した疾患進行時間τに対する信頼区間は、ブートストラップ法を用いて推定する。ブートストラップ法に基づく場合、解析対象集団のMMSEデータをブートストラップサンプリングすることになるが、これは計算負荷が非常に大きく効率的でない。そのため、
【数34】
をブートストラップサンプリングすることで計算負荷を軽減し信頼区間を推定する。
b回目(b=1,…,B)のブートストラップにおいて、数34からn回の非復元抽出を行う。この非復元抽出したブートストラップデータに対して、元のデータから選択したFP関数モデルを用いて疾患進行時間τを求め、これを
【数35】
とする。この作業を繰り返し、合計B回のブートストラップサンプリングデータからB個の
【数36】
を求め、その標準偏差SD
bootを求める。このとき、元のデータから推定した
【数37】
について、
【数38】
を求めることでブートストラップ法に基づく(1-α/2)×100%信頼区間が得られる。
ここで、Z
α/2は標準正規分布の(1-α/2)×100%点である。
【0025】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態として、個人のスケールの低下率を統計モデルにより推定する個人スケール低下率推定手段と、個人のスケールの平均値と個人スケール低下率推定手段により推定された低下率との関係を回帰モデルでモデル化する関係性モデル化手段と、前記関係性モデル化手段によるモデルに微分方程式を適用し、疾患進行時間に対するスケールを予測する疾患進行時間予測手段と、最も当てはまりがよい回帰モデルによる曲線を決定する予測曲線決定手段とを含むことを特徴とする認知機能変化予測装置について説明する。
【0026】
図1は本発明の第2実施形態に係る認知機能変化予測装置の概略機能構成を示す機能ブロック図である。
認知機能変化予測装置100は、個人に関する各種データの入力及び認知症リスクの出力を行う入出力手段101、各種データを格納するデータベース102、個人スケール低下率推定手段103、関係性モデル化手段104、疾患進行時間予測手段105、予測曲線決定手段106と、これらを相互に連絡する通信手段107より構成される。
【0027】
入出力手段101は、例えばタッチディスプレイを備えたタブレットPCである。
入出力手段101により、MMSE等の関心のある認知機能評価スケールに係る質問の提示及びそれに対する回答の入力、並びに、個人IDや生活特性等の個人のメタデータ(背景情報)の入力及び変更、当該認知機能変化予測の提示が行われる。
なお、入出力手段101は、必ずしもタブレットPCである必要はなく、認知機能変化予測の対象である個人のデータの入力や参照と、予測結果を提示することができる構成を備えていればよい。例えば、タブレットPCではなく、パソコン(PC)やスマートフォン等でもよい。また、出力部と入力部が一体化した入出力部であるタッチディスプレイに代わり、独立した出力部及び入力部を採用してもよい。具体的には、入力部としてキーボード、マイクロフォン等を採用してもよいし、出力部としてディスプレイ、スピーカー、印刷デバイス等を採用してもよい。
【0028】
データベース102は、例えばHDD(ハードディスクドライブ)等の記憶装置により実現されるものであり、認知機能変化予測の対象である個人の認知機能評価スケールに係るデータを、それが実施された日時の情報や、その個人のIDその他の特性に関連付けた形式で格納する。また、認知機能変化を予測するための演算処理に用いられる集団データ(例えば、MMSEであれば前述のJ-ADNIデータ)を適宜格納する。あるいは、演算処理の結果採用されたモデルや数式、事前に推定された様々な集団(年齢、性別等の部分集団)ごとの曲線を適宜格納する。
【0029】
個人スケール低下率推定手段103は、本発明の第1実施形態のステップ1に対応する演算処理を、コンピューターの中央演算処理ユニット(以下、「CPU」と称する)がプログラムコードを実行することにより実現する演算機能モジュールである。
また、関係性モデル化手段104は、本発明の第1実施形態のステップ2に対応する演算処理を、コンピューターのCPUがプログラムコードを実行することにより実現する演算機能モジュールである。
また、疾患進行時間予測手段105は、本発明の第1実施形態のステップ3に対応する演算処理を、コンピューターのCPUがプログラムコードを実行することにより実現する演算機能モジュールである。
また、予測曲線決定手段106は、本発明の第1実施形態のステップ4に対応する演算処理を、コンピューターのCPUがプログラムコードを実行することにより実現する演算機能モジュールである。
【0030】
個人スケール低下率推定手段103、関係性モデル化手段104、疾患進行時間予測手段105、予測曲線決定手段106は入出力手段101と同じコンピューター(例えばタブレットPC)上に実現されるものであってもよいし、入出力手段101と別のコンピューター(例えばクラウドサーバー)上に実現されるものであってもよい。また、個人スケール低下率推定手段103、関係性モデル化手段104、疾患進行時間予測手段105、予測曲線決定手段106が同一のコンピューター上に実現される必要もなく、またそれぞれの演算処理が同時乃至は連続・一体的に行われる必要もない。
【0031】
通信手段107は例えばコンピューターの内部バスやインターネット等の外部ネットワーク、あるいは、内部バスと外部ネットワークの両方によるものであり、本発明の認知機能変化予測装置の各機能モジュールを連絡してデータ送受信を行う。
【0032】
図2は本発明の第2実施形態に係る認知機能変化予測装置において、表示された質問によりMMSE等の関心のある認知機能評価スケールの検査を実施して回答または評価スコアを入力し、入力データ及び過去データ(当該個人と同様の人口動態的特徴を有する集団の過去データを含む)に基づいて個人スケールを構成し、その低下率を統計モデルにより推定し、推定された低下率と、個人スケールの平均値との関係を複数の回帰モデルでモデル化し、各モデルに常微分方程式を適用して疾患進行時間に対するスケールを予測し、各回帰モデルで予測曲線を求め、最も当てはまりがよい回帰モデルによる曲線を決定し、前記個人スケールと対応させて一体または連続的に表示するまでの、認知機能変化予測装置のCPUが行う判断・処理の流れを示すフローチャートである。
【0033】
本発明の実施に係る認知機能変化予測装置は、入出力手段101(の表示部)に個人ID(例えば氏名と電話番号等の組み合わせや健康保険証番号等)を入力させるグラフィカルユーザーインターフェース(以下、「GUI」と称する)を表示する(S201)。ユーザー(予測の対象となる個人のほか、医師や福祉士・臨床心理士等)により個人IDが入力されると(S202でYES)、当該個人の過去データの有無についてデータベース102を検索し(S203)、過去データがあるときは(S204でYES)レコードをオープンに(更新・追加可能に)する(S205)。また、過去データがないときは(S204でNO)当該個人について新規にレコードを作成し(S206)、生活特性等のメタデータを入力させるGUIを表示する(S207)。メタデータの入力が終わるかまたは途中でキャンセル(スキップ)されると(S208でYES)、個人についてのメニューのGUIを表示する(S209)。個人の過去データのレコードをオープンにしたとき(S205)も同様である。
【0034】
個人についてのメニューから「検査の実施」が選択されると(S210でYES)、本発明の実施に係る認知機能変化予測装置は、MMSE等の関心のある認知機能評価スケールの質問に関するGUIを表示する(S211)。ユーザーは質問を読んだり、質問に関する写真や図形を見たり、タッチディスプレイに指やスタイラス等で書き込んだりしながら、当該認知機能評価スケールの検査を実施し、その回答や評価を入力する。検査が終了すると(S212でYES)、認知機能変化予測装置は回答や評価を実施日時データとともに個人のレコードに記録し(S213)、再び個人についてのメニューを表示する(S209)。
個人についてのメニューから「認知機能変化予測の提示」が選択されると(S214でYES)、本発明の実施に係る認知機能変化予測装置は、当該個人と同様の人口動態的特徴を有する集団の過去データを用いて、個人スケール低下率推定手段103により個人スケール低下率推定を(S215)、関係性モデル化手段104により関係性モデル化を(S216)、疾患進行時間予測手段105により疾患進行時間予測を(S217)順次行う。そして予測曲線決定手段106による予測曲線決定プロセスの一環として、まず、複数の回帰モデルで予測曲線を作成し(S218)、作成された予測曲線を、予測対象となっている個人の当該認知機能評価スケール(過去データを含む)と一体にまたは対応させて、入出力手段101(の表示部)に出力する(S219)。
【0035】
ユーザーにより「閉じる」ボタンが押下される等の所定の操作があったとき(S220でYES)は、再び個人についてのメニューを表示し(S209)、また、メニューから「終了」が選択されたとき(S221でYES)は認知機能変化予測に係る画面を閉じて本フローを終了する。
なお、上記のメニュー項目の名称(呼称)は一例であり、例えば「MMSEの実施」は「頭脳トレーニング」等と、「認知機能変化予測の提示」は「変化の予測」等と呼び換えることもできる。そのようにすることで、予測の対象となる個人やその家族等の関係者に、認知機能の検査や認知リスク予測と感じさせることなく検査等を実施することが可能になる。
【0036】
本発明の方法は、認知症予防や疾患進行抑制のために実施される医学的介入の長期的効果を推定する際に用いることができる。医学的介入を実施した集団と実施していない集団の長期的変化を比較することで、介入の長期的効果を調べることができる。また、認知機能変化の可能性についてベストケースからワーストケースまで幅を持って予測することで、予測対象となっている個人や家族等関係者と「こうなった場合にはこう、こうなった場合にはこう」のように、生活介入を詳細にプランニングすることが可能となる。
【0037】
図3は本発明の第2実施形態に係る認知機能変化予測装置において、入出力手段101(の出力部)に表示される画面の概略遷移を示す画面遷移図である。
図3(a)は個人ID入力用GUIである。ID番号欄301、氏名欄302、住所欄303,電話番号欄304の一部または全部が入力され「次へ」ボタン305が押下指示されると、画面は
図3(b)に遷移する。
図3(b)は過去データの有無を通知する画面である。
図3(b)の通知欄306で「過去データはありません。新規レコードを作成します。」と通知されていた場合に、「次へ」ボタン307が押下指示されると、画面は
図3(c)に遷移する。
図3(c)は個人のメタデータの入力用GUIである。
図3(c)の入力欄308~311の一部または全部が入力され、「次へ」ボタン312が押下指示されると、画面は
図3(d)に遷移する。
【0038】
図3(d)は個人メニュー画面である。
図3(d)のメニュー項目から「MMSEの実施」313が選択されると、画面は
図3(e)に遷移する。
図3(e)はMMSEの質問に関するGUIである。
図3(e)の回答・評価欄318の一部または全部が入力され「終了」ボタン319が押下指示されると、画面は
図3(d)に戻る。
図3(d)のメニュー項目から「認知機能変化予測の提示」314が選択されると、画面は
図3(f)に遷移する。
図3(f)は予測曲線を個人スケール(の推移)とともに表示する画面である。
図3(f)において320は個人スケールの推移を示す線であり、321が予測曲線である。
図3(f)において「閉じる」ボタン322が押下指示されると、画面は
図3(d)に戻る。
【0039】
図4は、本発明の第2実施形態に係る認知機能変化予測装置を実現し得るコンピューターの概略構成を示す図である。
図4において、400はコンピューターであり、制御部401、記憶部402、周辺機器I/F部403、入力部404、表示部405、通信部406を備え、これらがバス410により接続される。なお、この構成は一例であり、適宜、様々な構成を採ることができる。
制御部401は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等で構成される。CPUは、記憶部402、ROM、記録媒体等に格納されるプログラムをRAM上のワークメモリ領域に呼び出して実行し、バス410を介して接続された各装置を駆動制御し、コンピューターが行う処理を実現する。ROMは、不揮発性メモリであり、コンピューター400のブートプログラムやBIOS等のプログラム、データ等を保持している。RAMは、揮発性メモリであり、記憶部402、ROM、記録媒体等からロードしたプログラム、データ等を一時的に保持するとともに、制御部401が各種処理を行う際に使用するワークエリアを備える。
記憶部402は、例えばHDD(ハードディスクドライブ)であり、制御部401が実行するプログラム、その他各種データを格納する。
【0040】
周辺機器I/F(インターフェース)部403は、コンピューター400と周辺機器とを接続させるためのポートである。周辺機器I/F部403は、USBやIEEE1394やRS-232C等で構成される。なお、周辺機器との接続形態は有線、無線を問わない。
入力部404は、キーボード、マウス等のポインティングデバイス、テンキー等の入力装置を有し、コンピューター400に対して、操作指示、動作指示、データ入力等を行う。
表示部405は、液晶パネル等のディスプレイ装置に映像・画像等の表示を行うための論理回路乃至デバイスドライバーである。
通信部406は、通信制御装置、通信ポート等を有し、ネットワークとの通信を媒介する有線または無線の通信インターフェースである。
バス410は、各装置間の制御信号、データ信号等の授受を媒介する通信経路である。
【0041】
(その他の実施形態)
本発明は、上述した実施形態の機能を実現するソフトウエア(プログラム)を、ネットワークまたは各種記憶媒体を介してシステムあるいは装置に供給し、そのシステムあるいは装置のコンピューター(またはCPUやMPU等)がプログラムを読み出して実行する処理によっても実現され得る。
したがって、本発明の機能処理をコンピューターで実現するために、前記コンピューターにインストールされるプログラムコード自体も本発明の実施を構成するものである。つまり、本発明には、本発明の機能処理を実現するためのコンピュータープログラム自体も含まれる。その場合、プログラムの機能を有していれば、オブジェクトコード、インタープリターにより実行されるプログラム、WEBブラウザー等のアプリケーションプログラムにより実行されるスクリプトやマクロ、API(Application Programming Interface)等の形態であってもよい。また、「マッシュアップ(Mashup)」のようなWEBプログラミングの技術等により、他のWEBサービス(例えばSNS(Social Networking Service))の一部として組み込まれて実施されるものであってもよい。
【0042】
また、本発明は、かならずしも単一に統合されたハードウエア乃至ソフトウエアより構成されている必要はなく、情報端末やサーバー等の複数のハードウエアにそれぞれソフトウエアモジュールが組み込まれ、これらが協働して実現するようなものであってもよい。
また、本発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。すなわち、例示による説明や添付の図面により本発明が限定されるものではない。