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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172387
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】熱マネジメントシステム
(51)【国際特許分類】
   B60H 1/22 20060101AFI20231129BHJP
   B60H 1/08 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
B60H1/22 651C
B60H1/08 611J
B60H1/22 651A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084155
(22)【出願日】2022-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098361
【弁理士】
【氏名又は名称】雨笠 敬
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 渉
(72)【発明者】
【氏名】高沢 修
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 正亮
(72)【発明者】
【氏名】清水 宣伯
【テーマコード(参考)】
3L211
【Fターム(参考)】
3L211BA32
3L211DA28
3L211DA29
3L211DA34
3L211EA32
3L211EA57
3L211EA72
3L211EA79
3L211EA83
3L211GA26
(57)【要約】
【課題】V2X情報等の蓄熱制御に利用可能な情報を用いて、走行中に蓄熱と蓄熱利用を無駄なく行うことができる熱マネジメントシステムを提供する。
【解決手段】制御装置8は、蓄熱モードと蓄熱利用モードを切り替えて実行する。制御装置8は、車両の走行経路において蓄熱制御に利用可能な情報を取得する情報取得部66と、この情報取得部66により取得した情報から、走行経路において蓄熱部に熱を蓄えることができる蓄熱可能区間を推定する蓄熱可能区間推定部68を有し、この蓄熱可能区間推定部68が推定した結果に基づいて、蓄熱モードと蓄熱利用モードの切り替えを制御する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱源で発生した熱を蓄える蓄熱部と、該蓄熱部に蓄えられた熱を利用する熱利用部と、前記蓄熱部に熱を蓄える蓄熱モード及び前記蓄熱部に蓄えられた熱を前記熱利用部にて利用する蓄熱利用モードを切り替えて実行する制御装置を備えた熱マネジメントシステムにおいて、
前記制御装置は、
車両の走行経路において蓄熱制御に利用可能な情報を取得する情報取得部と、
該情報取得部により取得した情報から、前記走行経路において前記蓄熱部に熱を蓄えることができる蓄熱可能区間を推定する蓄熱可能区間推定部を有し、
該蓄熱可能区間推定部が推定した結果に基づいて、前記蓄熱モードと前記蓄熱利用モードの切り替えを制御することを特徴とする熱マネジメントシステム。
【請求項2】
前記制御装置は、前記蓄熱部に蓄えられた熱を前記熱利用部で利用できる蓄熱利用可能時間を推定する蓄熱利用可能時間推定部を有し、
該蓄熱利用可能時間推定部が推定した蓄熱利用可能時間が、前記蓄熱可能区間推定部が推定した前記蓄熱可能区間に到達するまでの時間以上である場合、前記蓄熱利用モードを実行することを特徴とする請求項1に記載の熱マネジメントシステム。
【請求項3】
前記蓄熱可能区間推定部は、前記情報取得部により取得した情報から前記走行経路上の所定区間における蓄熱効率、及び/又は、蓄熱可能蓄熱量を推定し、推定した結果が所定値以上である場合に、当該区間を前記蓄熱可能区間と推定することを特徴とする請求項1に記載の熱マネジメントシステム。
【請求項4】
前記蓄熱可能区間推定部は、前記情報取得部により取得した情報から前記走行経路上のトンネルにおける蓄熱効率、及び/又は、蓄熱可能蓄熱量を推定し、推定した結果が所定値以上である場合に、当該トンネルを前記蓄熱可能区間と推定することを特徴とする請求項3に記載の熱マネジメントシステム。
【請求項5】
前記蓄熱可能区間推定部は、前記情報取得部により取得した情報から前記走行経路上の坂道における蓄熱可能蓄熱量を推定し、推定した結果が所定値以上である場合に、当該坂道を前記蓄熱可能区間と推定することを特徴とする請求項3に記載の熱マネジメントシステム。
【請求項6】
前記蓄熱可能区間推定部は、前記情報取得部により取得した情報から前記走行経路上の日向における蓄熱効率、及び/又は、蓄熱可能蓄熱量を推定し、推定した結果が所定値以上である場合に、当該日向を前記蓄熱可能区間と推定することを特徴とする請求項3に記載の熱マネジメントシステム。
【請求項7】
前記蓄熱可能区間推定部は、前記情報取得部により取得した情報から前記走行経路上の日陰における蓄熱効率、及び/又は、蓄熱可能蓄熱量を推定し、推定した結果が所定値以上である場合に、当該日陰を前記蓄熱可能区間と推定することを特徴とする請求項3に記載の熱マネジメントシステム。
【請求項8】
前記情報取得部が取得する前記蓄熱制御に利用可能な情報は、V2X(Vehicle to Everything)情報であることを特徴とする請求項1に記載の熱マネジメントシステム。
【請求項9】
前記情報取得部が取得する前記蓄熱制御に利用可能な情報は、過去の走行データであることを特徴とする請求項1に記載の熱マネジメントシステム。
【請求項10】
前記熱源は、冷媒回路を有するヒートポンプ装置、電動車両の走行用モータ、該走行用モータを駆動するインバータ、電気ヒータのうちの何れか、又は、それらの組み合わせであり、
前記蓄熱部は、前記電動車両に搭載されたバッテリであると共に、
前記熱利用部は、前記電動車両の車室内を空調する熱交換器であることを特徴とする請求項1乃至請求項9のうちの何れかに記載の熱マネジメントシステム。
【請求項11】
前記熱源、前記蓄熱部、及び、前記熱利用部に熱媒体を循環させる熱媒体回路を備えたことを特徴とする請求項10に記載の熱マネジメントシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱源で発生した熱を蓄熱部に蓄え、この蓄熱部に蓄えられた熱を熱利用部にて利用する熱マネジメントシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば電動車両(電気自動車、ハイブリッド自動車等)に搭載されるバッテリ(電池)や走行用モータ等は発熱を生じる。そのため、熱媒体(水等)をそれらに循環させて温調しながら、バッテリを蓄熱部として利用し、モータ廃熱等をバッテリに蓄え、この蓄えられた熱をヒートポンプ装置(冷媒回路)の冷媒により車室内空調用の熱交換器(熱利用部)に搬送し、車室内の空調に利用する装置が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、走行区間から蓄熱区間を決定し、ヒートポンプ装置を効率のよいときに作動させる車両用空調装置も開発されている(例えば、特許文献2参照)。更に、充電器に接続された状態で交通情報等のV2X(Vehicle to Everything)情報に基づき、バッテリ温度、空調温度を最適値にする装置も開発されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-37180号公報
【特許文献2】特開2020-189552号公報
【特許文献3】特許第5937693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の車両用空調装置等には、車両の走行中にV2X情報等の蓄熱制御に利用可能な情報に基づいて蓄熱と蓄熱利用を最適に切り替える機能は無く、改善が望まれていた。
【0006】
本発明は、係る従来の技術的課題を解決するためになされたものであり、V2X情報等の蓄熱制御に利用可能な情報を用いて、走行中に蓄熱と蓄熱利用を無駄なく行うことができる熱マネジメントシステムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の熱マネジメントシステムは、熱源で発生した熱を蓄える蓄熱部と、この蓄熱部に蓄えられた熱を利用する熱利用部と、蓄熱部に熱を蓄える蓄熱モード及び蓄熱部に蓄えられた熱を熱利用部にて利用する蓄熱利用モードを切り替えて実行する制御装置を備えたものであって、制御装置が、車両の走行経路において蓄熱制御に利用可能な情報を取得する情報取得部と、この情報取得部により取得した情報から、走行経路において蓄熱部に熱を蓄えることができる蓄熱可能区間を推定する蓄熱可能区間推定部を有し、この蓄熱可能区間推定部が推定した結果に基づいて、蓄熱モードと蓄熱利用モードの切り替えを制御することを特徴とする。
【0008】
請求項2の発明の熱マネジメントシステムは、上記発明において制御装置が、蓄熱部に蓄えられた熱を熱利用部で利用できる蓄熱利用可能時間を推定する蓄熱利用可能時間推定部を有し、この蓄熱利用可能時間推定部が推定した蓄熱利用可能時間が、蓄熱可能区間推定部が推定した蓄熱可能区間に到達するまでの時間以上である場合、蓄熱利用モードを実行することを特徴とする。
【0009】
請求項3の発明の熱マネジメントシステムは、請求項1の発明において蓄熱可能区間推定部が、情報取得部により取得した情報から走行経路上の所定区間における蓄熱効率、及び/又は、蓄熱可能蓄熱量を推定し、推定した結果が所定値以上である場合に、当該区間を蓄熱可能区間と推定することを特徴とする。
【0010】
請求項4の発明の熱マネジメントシステムは、上記発明において蓄熱可能区間推定部が、情報取得部により取得した情報から走行経路上のトンネルにおける蓄熱効率、及び/又は、蓄熱可能蓄熱量を推定し、推定した結果が所定値以上である場合に、当該トンネルを蓄熱可能区間と推定することを特徴とする。
【0011】
請求項5の発明の熱マネジメントシステムは、請求項3の発明において蓄熱可能区間推定部が、情報取得部により取得した情報から走行経路上の坂道における蓄熱可能蓄熱量を推定し、推定した結果が所定値以上である場合に、当該坂道を蓄熱可能区間と推定することを特徴とする。
【0012】
請求項6の発明の熱マネジメントシステムは、請求項3の発明において蓄熱可能区間推定部が、情報取得部により取得した情報から走行経路上の日向における蓄熱効率、及び/又は、蓄熱可能蓄熱量を推定し、推定した結果が所定値以上である場合に、当該日向を蓄熱可能区間と推定することを特徴とする。
【0013】
請求項7の発明の熱マネジメントシステムは、請求項3の発明において蓄熱可能区間推定部が、情報取得部により取得した情報から走行経路上の日陰における蓄熱効率、及び/又は、蓄熱可能蓄熱量を推定し、推定した結果が所定値以上である場合に、当該日陰を蓄熱可能区間と推定することを特徴とする。
【0014】
請求項8の発明の熱マネジメントシステムは、請求項1の発明において、情報取得部が取得する蓄熱制御に利用可能な情報は、V2X(Vehicle to Everything)情報であることを特徴とする。
【0015】
請求項9の発明の熱マネジメントシステムは、請求項1の発明において、情報取得部が取得する蓄熱制御に利用可能な情報は、過去の走行データであることを特徴とする。
【0016】
請求項10の発明の熱マネジメントシステムは、上記各発明において熱源が、冷媒回路を有するヒートポンプ装置、電動車両の走行用モータ、この走行用モータを駆動するインバータ、電気ヒータのうちの何れか、又は、それらの組み合わせであり、蓄熱部が、電動車両に搭載されたバッテリであると共に、熱利用部が、電動車両の車室内を空調する熱交換器であることを特徴とする。
【0017】
請求項11の発明の熱マネジメントシステムは、上記発明において熱源、蓄熱部、及び、熱利用部に熱媒体を循環させる熱媒体回路を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、熱源で発生した熱を蓄える蓄熱部と、この蓄熱部に蓄えられた熱を利用する熱利用部と、蓄熱部に熱を蓄える蓄熱モード及び蓄熱部に蓄えられた熱を熱利用部にて利用する蓄熱利用モードを切り替えて実行する制御装置を備えた熱マネジメントシステムにおいて、制御装置が、車両の走行経路において蓄熱制御に利用可能な情報を取得する情報取得部と、この情報取得部により取得した情報から、走行経路において蓄熱部に熱を蓄えることができる蓄熱可能区間を推定する蓄熱可能区間推定部を有し、この蓄熱可能区間推定部が推定した結果に基づいて、蓄熱モードと蓄熱利用モードの切り替えを制御するようにしたので、例えば情報取得部が取得した情報から、蓄熱可能区間推定部が蓄熱部に十分な熱を蓄えることができる蓄熱可能区間があることを推定した場合、蓄熱可能区間に至るまでに現在蓄熱部に蓄えられている熱を有効に利用し、蓄熱可能区間では蓄熱部に効率的に蓄熱できるよう、蓄熱モードと蓄熱利用モードを切り替える制御を行うことが可能となる。これにより、熱利用部における熱の有効利用と、蓄熱部への効率的な蓄熱を実現し、車両の航続距離の低下を抑制することが可能となる。
【0019】
例えば、請求項2の発明の如く制御装置が、蓄熱部に蓄えられた熱を熱利用部で利用できる蓄熱利用可能時間を推定する蓄熱利用可能時間推定部を有し、この蓄熱利用可能時間推定部が推定した蓄熱利用可能時間が、蓄熱可能区間推定部が推定した蓄熱可能区間に到達するまでの時間以上である場合に、蓄熱利用モードを実行するようにすれば、蓄熱可能区間推定部が推定した蓄熱可能区間に至るまでに現在蓄熱部に蓄えられている熱を使い切り、更に、蓄熱可能区間では蓄熱部に最大限熱を蓄えることができるようになる。これにより、熱利用部による熱の有効利用と、蓄熱部への効率的な蓄熱の双方を実現することができるようになる。
【0020】
また、請求項3の発明の如く蓄熱可能区間推定部が、情報取得部により取得した情報から走行経路上の所定区間における蓄熱効率、及び/又は、蓄熱可能蓄熱量を推定し、推定した結果が所定値以上である場合に、当該区間を蓄熱可能区間と推定するようにすれば、蓄熱可能区間において十分な熱を蓄熱部に蓄え、熱利用部にて利用することができるようになる。
【0021】
例えば、請求項4の発明の如く蓄熱可能区間推定部が、情報取得部により取得した情報から走行経路上のトンネルにおける蓄熱効率、及び/又は、蓄熱可能蓄熱量を推定し、推定した結果が所定値以上である場合に、当該トンネルを蓄熱可能区間と推定するようにすれば、トンネルに至るまでに蓄熱部に蓄えられた熱を熱利用部で使い切り、冬場には比較的気温が高いトンネル内を通過する際に蓄熱部に最大限温熱を蓄え、夏場には比較的気温が低いトンネル内を通過する際に蓄熱部に最大限冷熱を蓄えることができるようになる。
【0022】
また、例えば、請求項5の発明の如く蓄熱可能区間推定部が、情報取得部により取得した情報から走行経路上の坂道における蓄熱可能蓄熱量を推定し、推定した結果が所定値以上である場合に、当該坂道を蓄熱可能区間と推定するようにすれば、坂道に至るまでに蓄熱部に蓄えられた熱を熱利用部で使い切り、下り坂では回生電力を利用し、最大限蓄熱部に蓄熱することができるようになる。
【0023】
更に、例えば、請求項6の発明の如く蓄熱可能区間推定部が、情報取得部により取得した情報から走行経路上の日向における蓄熱効率、及び/又は、蓄熱可能蓄熱量を推定し、推定した結果が所定値以上である場合に、当該日向を蓄熱可能区間と推定するようにすれば、日向に至るまでに蓄熱部に蓄えられた熱を熱利用部で使い切り、日向を通過する際に蓄熱部に最大限温熱を蓄えることができるようになる。
【0024】
更にまた、例えば、請求項7の発明の如く蓄熱可能区間推定部が、情報取得部により取得した情報から走行経路上の日陰における蓄熱効率、及び/又は、蓄熱可能蓄熱量を推定し、推定した結果が所定値以上である場合に、当該日陰を蓄熱可能区間と推定するようにすれば、日陰に至るまでに蓄熱部に蓄えられた熱を熱利用部で使い切り、日陰を通過する際に蓄熱部に最大限冷熱を蓄えることができるようになる。
【0025】
この場合、情報取得部が取得する蓄熱制御に利用可能な情報は、請求項8の発明の如きV2X情報が考えられ、係るV2X情報を利用することで、現在の環境条件や交通情報に基づいて、熱利用部での効率的な熱利用と、蓄熱部への最大限の蓄熱を的確に実現することができるようになる。
【0026】
尚、請求項9の発明の如く、情報取得部が取得する蓄熱制御に利用可能な情報として、過去の走行データを用いるようにすれば、請求項8の如きV2X情報を取得できない場合にも、過去の走行実績から、熱利用部での効率的な熱利用と、蓄熱部への最大限の蓄熱を実現することができるようになる。
【0027】
ここで、上記各発明における熱源は、請求項10の発明の如き冷媒回路を有するヒートポンプ装置、電動車両の走行用モータ、この走行用モータを駆動するインバータ、電気ヒータのうちの何れか、又は、それらの組み合わせが考えられ、蓄熱部は、電動車両に搭載されたバッテリ、熱利用部は、電動車両の車室内を空調する熱交換器が考えられ、それにより、車両の効率的な車室内空調を実現することができるようになる。
【0028】
その場合、請求項11の発明の如く熱源、蓄熱部、及び、熱利用部に熱媒体を循環させる熱媒体回路を設けることで、熱源で発生した熱を蓄熱部に円滑に搬送して当該蓄熱部に蓄え、蓄熱部に蓄えられた熱を円滑に熱利用部に搬送して当該熱利用部にて利用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の熱マネジメントシステムの一実施例の構成を説明するブロック図である。
図2図1の制御装置の蓄熱量最適化制御に関する機能ブロック図である。
図3】本発明の熱マネジメントシステムの一実施例の熱媒体回路及び冷媒回路図である(図1の制御装置の暖房運転+蓄熱モード)。
図4図1の制御装置の暖房運転+蓄熱利用モードの熱媒体回路及び冷媒回路図である。
図5図1の制御装置の冷房運転+蓄熱モードの熱媒体回路及び冷媒回路図である。
図6図1の制御装置の冷房運転+蓄熱利用モードの熱媒体回路及び冷媒回路図である。
図7図1の制御装置の暖房運転時の制御マップの一例を示す図である。
図8図1の制御装置の冷房運転時の制御マップの一例を示す図である。
図9図1の制御装置の蓄熱量最適化制御を説明する一実施例のフローチャートである(実施例1)。
図10図9の続きのフローチャートである。
図11図1の制御装置の蓄熱量最適化制御を説明する他の実施例のフローチャートである(実施例2)。
図12図11の続きのフローチャートである。
図13図1の制御装置の蓄熱量最適化制御を説明するもう一つの他の実施例のフローチャートである(実施例3)。
図14図13の続きのフローチャートである。
図15図1の制御装置の蓄熱量最適化制御を説明するもう一つの他の実施例のフローチャートである(実施例4)。
図16図15の続きのフローチャートである。
図17図1の制御装置の蓄熱量最適化制御を説明するもう一つの他の実施例のフローチャートである(実施例5)。
図18図17の続きのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づき詳細に説明する。
【実施例0031】
(1)熱マネジメントシステム1の構成
図1及び図2は本発明の熱マネジメントシステム1の一実施例の機能ブロックを示し、図3は熱マネジメントシステム1の熱媒体回路2と冷媒回路3の構成を示している。実施例の熱マネジメントシステム1は、電気自動車やハイブリッド自動車等の電動車両EVの車室内を空調すると共に、熱源が発生する温熱又は冷熱を蓄え(蓄熱)、更に、この蓄えられた熱を利用する熱管理を実行するものであり、熱媒体回路2と、冷媒回路3を有するヒートポンプ装置HPと、蓄熱部4と、発熱部6と、熱利用部7と、制御装置8を備えた構成とされている。
【0032】
尚、蓄熱部4には、電動車両EVに搭載されたバッテリ等の熱容量の大きい機器が含まれる。また、熱媒体回路2に熱媒体を貯留するタンクを設けて蓄熱部4とすることも可能である。
【0033】
更に、発熱部6には、電動車両EVの駆動中に熱(廃熱)を発生する当該電動車両EVの走行用モータやそれを駆動するインバータ、通電されて熱を発生する電気ヒータ(ECH)が含まれる。尚、ヒートポンプ装置HPの冷媒回路3を構成する放熱器43(後述)もこの発熱部6に含められる。そして、この発熱部6(ヒートポンプ装置HPを含む)が本発明における熱源となる。
【0034】
更にまた、熱利用部7は、蓄熱部4に蓄えられた熱を利用する部位であり、後述するHVACユニット37に設けられるヒータコア13Hやクーラコア13C等が含まれる。これらヒータコア13Hやクーラコア13Cは、電動車両EVの車室内を空調するための熱交換器である。
【0035】
(1-1)熱媒体回路2及び冷媒回路3の構成
次に、図3を参照しながら実施例の熱マネジメントシステム1の熱媒体回路2と、ヒートポンプ装置HPが有する冷媒回路3の構成について説明する。熱媒体回路2は、ポンプ9、10と、加熱部12(熱交換器)と、冷却部11(熱交換器)と、前述したヒータコア13H(熱交換器)、クーラコア13C(熱交換器)と、高温側ラジエータ(室外熱交換器)14H、低温側ラジエータ(室外熱交換器)14Cと、三方弁16~31(流路切替装置)等から構成されており、これらと蓄熱部4、発熱部6が、熱媒体配管32により図3のように接続されている。
【0036】
尚、蓄熱部4(バッテリ)や発熱部6(走行用モータやインバータ、電気ヒータ)は、それらの周囲にジャケット構造が構成されており、このジャケット内を熱媒体(水等)が流通することで、蓄熱部4や発熱部6は熱媒体と熱交換する構成とされている。また、高温側ラジエータ14Hや低温側ラジエータ14Cは電動車両EVの車室外に配置されており、室外送風機33、34によりそれぞれ外気が通風される構成とされている。
【0037】
更に、クーラコア13Cとヒータコア13Hは、電動車両EVの車室内に空調用の空気を供給する前述したHVACユニット37の空気流通路38に配置されている。この空気流通路38には室内送風機39により内気や外気が通風されると共に、クーラコア13Cはヒータコア13Hに対して、空気流通路38内の空気の流れの風上側に配置されている。尚、36はヒータコア13Hに流れる空気の割合を調整するためのエアミックスダンパ、41は内気と外気を切り替えるための吸込切替ダンパである。
【0038】
また、ヒートポンプ装置HPの冷媒回路3は、冷媒(実施例ではR1234yf冷媒)を圧縮する圧縮機42と、この圧縮機42から吐出された冷媒(高温冷媒)を放熱させる前述した放熱器43(熱交換器)と、放熱器43で放熱した冷媒を減圧する減圧装置としての膨張弁44と、この膨張弁44で減圧された冷媒が蒸発して吸熱する吸熱器46(熱交換器)が冷媒配管47により順次環状に接続された構成とされている。そして、冷媒回路3の放熱器43と熱媒体回路2の加熱部12が熱交換関係に配置され、吸熱器46と冷却部11が熱交換関係に配置されている。
【0039】
(1-2)制御装置8の構成
次に、図1及び図2において制御装置8の構成について説明する。制御装置8はプロセッサやメモリ、入出力インターフェースを備えたマイクロコンピュータにて構成されており、図1に示す如く、その機能として運転モード判定部51、制御目標値演算部52、運転モード切替制御部53、及び、制御目標値制御部54を有している。この制御装置8には電動車両EVの車室内の空気の温度や車室内に吹き出される空気の温度、外気温度の他、ヒートポンプ装置HPの冷媒回路3の各部の温度や圧力、車室内への日射量等をそれぞれ検出するセンサ(図1に符号56で代表して示す)の検出データが入力される。
【0040】
また、制御装置8には前述した三方弁16~31、ポンプ9、10(図1に符号57で代表して示す)や、前述した冷媒回路3の圧縮機42、膨張弁44、室外送風機33、34、室内送風機39、エアミックスダンパ36、吸込切替ダンパ41、電気ヒータ(ECH。図1に符号58で代表して示す)が接続され、これらは制御装置8により制御される。更に、制御装置8は電動車両EVのCAN59を介してバッテリ(蓄熱部4)の充放電を制御するバッテリマネジメントシステム61や、インバータにより走行用モータ(発熱部6)の駆動を制御するモータコントローラ62とデータ(温度データ等)の送受信を行う構成とされている。
【0041】
更に、制御装置8はCAN59を介して電動車両EVの図示しない他のECUから必要なデータ(車速等)を入手する。特に、63は電動車両EVに搭載されたナビゲーションシステムであり、制御装置8はこのナビゲーションシステム63から運航経路に関する情報を入手する。尚、このナビゲーションシステム63は後述する通信コントローラ64に含めてもよい。
【0042】
そして、上記通信コントローラ64は、車外のネットワークと無線による情報の送受信を行うものであり、例えばDSRC無線機を含む。実施例の通信コントローラ64は、車外のネットワーク(サーバ)や他の車両から無線通信によりV2X(Vehicle to Everything)情報を入手し、制御装置8は通信コントローラ64を介して係るV2X情報(走行経路において蓄熱制御に利用可能な情報)を取得する。このV2X情報には、高度な地図データや気象データ等の環境情報、自動車や歩行者及びインフラ設備等に関する種々の情報が含まれる。
【0043】
制御装置8の運転モード判定部51は、前述したセンサ56の検出データ等に基づいて冷房や暖房等の車室内の空調と、熱媒体回路2及び冷媒回路3の後述する運転モードを決定する。また、制御目標値演算部52は、運転モード判定部51が決定した運転モードにおける制御目標値を演算する。また、運転モード切替制御部53は、運転モード判定部51が決定した運転モードに基づいて、熱媒体回路2の三方弁16~31やポンプ9、10を制御する。また、制御目標値制御部54は、制御目標値演算部52が演算した制御目標値に基づいて、熱媒体回路2のポンプ9、10、冷媒回路3の圧縮機42や膨張弁44、各送風機33、34、39、電気ヒータ(ECH:発熱部6)を制御する。
【0044】
図2は実施例の制御装置8の蓄熱量最適化制御に関する機能ブロックを示している。図2において66は情報取得部、67は走行データ格納部、68は蓄熱可能区間推定部、69は蓄熱利用可能時間推定部、71は熱管理制御部である。これら各部による蓄熱量最適化制御については後に詳述する。
【0045】
(2)制御装置8の運転モード
次に、図3図6を参照して実施例の制御装置8が有する運転モードについて説明する。
(2-1)暖房運転+蓄熱モード(蓄熱モード)
図3は制御装置8による蓄熱モードとしての暖房運転+蓄熱モードを示している。この暖房運転+蓄熱モードでは、制御装置8は圧縮機42、室外送風機34、室内送風機39、ポンプ9、10を運転する。尚、前記電気ヒータ(発熱部)6は必要に応じて通電される。また、制御装置8は三方弁16~31を切り替えることにより、熱媒体回路2の熱媒体の流れを図3の熱媒体配管32に併記した実線矢印、及び、白抜き矢印で示すものとする。
【0046】
即ち、この暖房運転+蓄熱モードでは、圧縮機42から吐出された高温の冷媒が放熱器43で加熱部12を流れる熱媒体に放熱し、吸熱器46では膨張弁44で減圧された冷媒が蒸発して冷却部11を流れる熱媒体から吸熱する(図3に破線矢印で示す)。
【0047】
一方、ポンプ10から吐出された熱媒体は冷却部11に至り、そこで冷媒により冷却された後、三方弁29、31、30を経て低温側ラジエータ14Cに至り、三方弁28、27を経てポンプ10に戻る(図3中の熱媒体配管32に併記した白抜き矢印で示す)。
【0048】
他方、ポンプ9から吐出された熱媒体は加熱部12に至り、そこで冷媒により加熱された後(熱媒体が冷媒から吸熱する)、三方弁16を経てヒータコア13Hに至る。熱媒体はここで車室内に吹き出される空気中に放熱した後、三方弁17、18、19、21、22を経て蓄熱部4(バッテリ)に至る。蓄熱部4に至った熱媒体は放熱して当該蓄熱部4(バッテリ)を加熱する。蓄熱部4を経た熱媒体は三方弁23、24を経て発熱部6(走行用モータ、インバータ、電気ヒータ)に至り、発熱部6と熱交換する。発熱部6では熱媒体は走行用モータやインバータの廃熱や電気ヒータの熱により加熱される。そして、この発熱部6を経た熱媒体は三方弁25、20を経てポンプ9に戻る循環を繰り返す(図3中の熱媒体配管32に併記した実線矢印で示す)。
【0049】
これにより、暖房運転+蓄熱モードではヒータコア13Hで加熱された空気が車室内に吹き出され、車室内は暖房される。また、蓄熱部4には放熱器43や発熱部6の熱(温熱)が蓄えられることになる(蓄熱)。
【0050】
(2-2)暖房運転+蓄熱利用モード(蓄熱利用モード)
次に、図4は制御装置8による蓄熱利用モードとしての暖房運転+蓄熱利用モードを示している。この暖房運転+蓄熱利用モードでは、制御装置8は圧縮機42、室外送風機34、室内送風機39、ポンプ9、10を運転する。尚、前記電気ヒータ(発熱部)6は必要に応じて通電される。また、制御装置8は三方弁16~31を切り替えることにより、熱媒体回路2の熱媒体の流れを図4の熱媒体配管32に併記した実線矢印、及び、白抜き矢印で示すものとする。
【0051】
即ち、この暖房運転+蓄熱利用モードでも、圧縮機42から吐出された高温の冷媒が放熱器43で加熱部12を流れる熱媒体に放熱し、吸熱器46では膨張弁44で減圧された冷媒が蒸発して冷却部11を流れる熱媒体から吸熱する(図4に破線矢印で示す)。
【0052】
一方、ポンプ10から吐出された熱媒体は冷却部11に至り、そこで冷媒により冷却された後(熱媒体から冷媒が吸熱する)、三方弁29、31、22を経て蓄熱部4に至る。蓄熱部4では熱媒体が加熱され、当該蓄熱部4(バッテリ)に蓄えられた熱を汲み上げる。蓄熱部4を経た熱媒体は三方弁23、24を経て発熱部6(走行用モータ、インバータ、電気ヒータ)に至り、発熱部6と熱交換する。発熱部6では熱媒体は走行用モータやインバータの廃熱や電気ヒータの熱により加熱される。そして、この発熱部6を経た熱媒体は三方弁25、26、27を経てポンプ10に戻る循環を繰り返す(図4中の熱媒体配管32に併記した白抜き矢印で示す)。
【0053】
他方、ポンプ9から吐出された熱媒体は加熱部12に至り、そこで冷媒により加熱された後、三方弁16を経てヒータコア13Hに至る。熱媒体はここで車室内に吹き出される空気中に放熱した後、三方弁17、18、19、20を経てポンプ9に戻る循環を繰り返す(図4中の熱媒体配管32に併記した実線矢印で示す)。
【0054】
これにより、暖房運転+蓄熱利用モードでもヒータコア13Hで加熱された空気が車室内に吹き出され、車室内は暖房される。また、蓄熱部4に蓄えられた熱は熱媒体に汲み上げられ、冷却部11で吸熱器46を流れる冷媒に吸い上げられて放熱器43に搬送される。そして、放熱器43に搬送された熱は加熱部12で熱媒体に汲み上げられ、ヒータコア13Hに搬送されることになるので、前記暖房運転+蓄熱モードで蓄熱部4(バッテリ)に蓄えられた熱(温熱)が、この暖房運転+蓄熱利用モードでは車室内暖房に利用されることになる(蓄熱利用)。
【0055】
(2-3)冷房運転+蓄熱モード(蓄熱モード)
次に、図5は制御装置8によるもう一つの蓄熱モードとしての冷房運転+蓄熱モードを示している。この冷房運転+蓄熱モードでも、制御装置8は圧縮機42、室外送風機33、室内送風機39、ポンプ9、10を運転する。尚、電気ヒータ(発熱部)6は非通電である。また、制御装置8は三方弁16~31を切り替えることにより、熱媒体回路2の熱媒体の流れを図5の熱媒体配管32に併記した実線矢印、及び、白抜き矢印で示すものとする。
【0056】
即ち、この冷房運転+蓄熱モードでも、圧縮機42から吐出された高温の冷媒が放熱器43で加熱部12を流れる熱媒体に放熱し、吸熱器46では膨張弁44で減圧された冷媒が蒸発して冷却部11を流れる熱媒体から吸熱する(図5に破線矢印で示す)。
【0057】
一方、ポンプ10から吐出された熱媒体は冷却部11に至り、そこで冷媒により冷却された後(冷媒が熱媒体から吸熱する)、三方弁29を経てクーラコア13Cに至る。熱媒体はここで車室内に吹き出される空気から吸熱した後、三方弁31、22を経て蓄熱部4(バッテリ)に至る。蓄熱部4に至った熱媒体は当該蓄熱部4(バッテリ)を冷却して吸熱する。蓄熱部4を経た熱媒体は三方弁23、26、27を経てポンプ10に戻る循環を繰り返す(図5中の熱媒体配管32に併記した白抜き矢印で示す)。
【0058】
他方、ポンプ9から吐出された熱媒体は加熱部12に至り、そこで冷媒により加熱された後、三方弁16、17、18を経て高温側ラジエータ14Hに至る。熱媒体はここで外気に放熱した後、三方弁19、21、24を経て発熱部6(走行用モータ、インバータ、電気ヒータ)に至り、発熱部6と熱交換する。発熱部6では熱媒体は走行用モータやインバータの廃熱により加熱される。そして、この発熱部6を経た熱媒体は三方弁25、20を経てポンプ9に戻る循環を繰り返す(図5中の熱媒体配管32に併記した実線矢印で示す)。
【0059】
これにより、冷房運転+蓄熱モードではクーラコア13Cで冷却された空気が車室内に吹き出され、車室内は冷房される。また、蓄熱部4は冷却部11を経た熱媒体により冷却されるので、蓄熱部4には所謂冷熱が蓄えられることになる(所謂蓄冷。本出願では蓄冷も蓄熱の一つの概念として捉える)。
【0060】
(2-4)冷房運転+蓄熱利用モード(蓄熱利用モード)
次に、図6は制御装置8によるもう一つの蓄熱利用モードとしての冷房運転+蓄熱利用モードを示している。この冷房運転+蓄熱利用モードでは、制御装置8は圧縮機42、室外送風機33、室内送風機39、ポンプ9、10を運転する。尚、前記電気ヒータ(発熱部)6は非通電とされる。また、制御装置8は三方弁16~31を切り替えることにより、熱媒体回路2の熱媒体の流れを図6の熱媒体配管32に併記した実線矢印、及び、白抜き矢印で示すものとする。
【0061】
即ち、この冷房運転+蓄熱利用モードでも、圧縮機42から吐出された高温の冷媒が放熱器43で加熱部12を流れる熱媒体に放熱し、吸熱器46では膨張弁44で減圧された冷媒が蒸発して冷却部11を流れる熱媒体から吸熱する(図6に破線矢印で示す)。
【0062】
一方、ポンプ10から吐出された熱媒体は冷却部11に至り、そこで冷媒により冷却された後(熱媒体から冷媒が吸熱する)、三方弁29を経てクーラコア13Cに至る。熱媒体はここで車室内に吹き出される空気から吸熱した後、三方弁31、30、28、27を経てポンプ10に戻る循環を繰り返す(図6中の熱媒体配管32に併記した白抜き矢印で示す)。
【0063】
他方、ポンプ9から吐出された熱媒体は加熱部12に至り、そこで冷媒により加熱された後、三方弁16、17、18を経て高温側ラジエータ14Hに至る。熱媒体はここで外気に放熱した後、三方弁19、21、22を経て蓄熱部4(バッテリ)に至り、蓄熱部4と熱交換する。蓄熱部4では熱媒体は当該蓄熱部4(バッテリ)により冷却される(熱媒体は蓄熱部4に放熱する)。蓄熱部4を経た熱媒体は三方弁23、24を経て発熱部6(走行用モータ、インバータ、電気ヒータ)に至り、発熱部6と熱交換する。発熱部6では熱媒体は走行用モータやインバータの廃熱により加熱される。そして、この発熱部6を経た熱媒体は三方弁25、20を経てポンプ9に戻る循環を繰り返す(図6中の熱媒体配管32に併記した実線矢印で示す)。
【0064】
これにより、冷房運転+蓄熱利用モードでもクーラコア13Cで冷却された空気が車室内に吹き出され、車室内は冷房される。また、蓄熱部4に蓄えられた冷熱により熱媒体が冷却され、放熱器43を流れる冷媒を冷却するので、吸熱器46の冷媒は更に低温になる。そして、吸熱器46では冷却部11で熱媒体が冷却され、クーラコア13Cに流れる熱媒体の温度は更に下がることになるので、前記冷房運転+蓄熱モードで蓄熱部4(バッテリ)に蓄えられた冷熱が、この冷房運転+蓄熱利用モードでは車室内冷房に利用されることになる(蓄熱利用)。
【0065】
(3)制御装置8による運転モードの基本的な切替制御
次に、図7図8を参照して実施例の制御装置8の運転モード判定部51による上記運転モードの基本的な切替制御について説明する。制御装置8の運転モード判定部51は、例えば図7図8に示す制御マップを有している。この制御マップは、蓄熱部4の状態(温度)に基づいて運転モードを切り替えるものであり、図示の例では、バッテリマネジメントシステム61から取得される蓄熱部4としてのバッテリの温度(バッテリ温度)と、センサ56から取得される外気温度に基づいて運転モードが設定される。
【0066】
その際、蓄熱部4であるバッテリの温度(バッテリ温度)には、管理温度範囲が設定されており、管理温度の上限(例えば、+40℃)を超えると、バッテリ(蓄熱部4)を冷却するように熱媒体回路2を制御し、管理温度範囲の加減(例えば、+10℃)を下回ると、バッテリ(蓄熱部4)を加熱するように熱媒体回路2を制御する。
【0067】
図7は前述した暖房運転+蓄熱モードと、暖房運転+蓄熱利用モードを切り替える制御マップであり、外気温度が予め設定された暖房使用上限温度より低い場合に適用される。また、図8は前述した冷房運転+蓄熱モードと、冷房運転+蓄熱利用モードを切り替える制御マップであり、外気温度が予め設定された冷房使用下限温度より高い場合に適用されるものである。
【0068】
図7に示した制御マップを適用する場合は、車室内を暖房するときにバッテリ温度が管理温度範囲内にある場合であり、現在の外気温度とバッテリ温度に基づいて、熱媒体回路2を、蓄熱部4(バッテリ)に温熱を蓄える暖房運転+蓄熱モード(図3)にするか、蓄熱部4(バッテリ)に蓄えられた温熱を利用する暖房運転+蓄熱利用モード(図4)にするかの設定を行う。
【0069】
同様に、図8に示した制御マップを適用する場合は、車室内を冷房するときにバッテリ温度が管理温度範囲内にある場合であり、現在の外気温度とバッテリ温度に基づいて、熱媒体回路2を、蓄熱部4(バッテリ)に冷熱を蓄える冷房運転+蓄熱モード(図5)にするか、蓄熱部4(バッテリ)に蓄えられた冷熱を利用する冷房運転+蓄熱利用モード(図6)にするかの設定を行う。
【0070】
これら制御マップにおいては、バッテリ温度が管理温度範囲内の目標温度になるように、運転モード切替領域が設定されている。運転モード切替領域は、切替領域上限と切替領域下限の間の領域であって、切替領域上限と切替領域下限は、バッテリ(蓄熱部4)を温調する際の目標温度の上限値と下限値となる。
【0071】
具体的には、切替領域上限と切替領域下限は、外気温度に応じて設定され、切替領域上限は、バッテリ温度(目標温度)=外気温度+第1設定温度になり、切替領域下限は、バッテリ温度(目標温度)=外気温度+第2設定温度になる。その際、車室内を暖房するときには(図7)、例えば、外気温度0℃で第1設定温度を+15℃~+20℃、第2設定温度を+10℃とし、車室内を冷房するときには(図8)、例えば、外気温度+35℃で第1設定温度を-10℃、第2設定温度を-20℃とする。
【0072】
制御マップにおける運転モード切替領域は、運転モードの基本的な切替制御を行うための値であり、その際、第1設定温度と第2設定温度との差は、例えば、5deg~10degの範囲に設定されている。
【0073】
バッテリ温度が管理温度範囲内にある場合、現在の外気温度とバッテリ温度が、切替領域上限を上回るときには、図7の制御マップでは、暖房運転+蓄熱利用モードが設定され、図8の制御マップでは、冷房運転+蓄熱モードが設定される。また、バッテリ温度が管理温度範囲内にある場合、現在の外気温度とバッテリ温度が、切替領域下限を下回るときには、図7の制御マップでは、暖房運転+蓄熱モードが設定され、図8の制御マップでは、冷房運転+蓄熱利用モードが設定される。
【0074】
図7に示した制御マップにおいて、暖房運転+蓄熱モードが設定されると、バッテリ温度は蓄熱(温熱)によって徐々に上昇し、暖房運転+蓄熱利用モードが設定されると、バッテリ温度は蓄熱(温熱)の利用によって徐々に低下する。また、図8に示した制御マップにおいて、冷房運転+蓄熱モードが設定されると、バッテリ温度は蓄熱(冷熱)によって徐々に低下し、冷房運転+蓄熱利用モードが設定されると、バッテリ温度は蓄熱(冷熱)の利用によって徐々に上昇する。
【0075】
従って、バッテリ温度が管理温度範囲内にある場合に、暖房運転+蓄熱モードと暖房運転+蓄熱利用モードの何れか、又は、冷房運転+蓄熱モードと冷房運転+蓄熱利用モードの何れかが設定され、その運転モードが維持、又は、適宜切り替えられることで、バッテリ温度は運転モード切替領域内に入り、目標温度に調整されることになる。
【0076】
(4)制御装置8による蓄熱量最適化制御
次に、図2及び図9図10を参照しながら制御装置8による蓄熱量最適化制御の一実施例について説明する。図2に示す制御装置8の情報取得部66は、通信コントローラ64やナビゲーションシステム63から車両の走行経路において蓄熱制御に利用可能な情報である前述したV2X情報を取得する。また、V2X情報を取得できない場合には、走行データ格納部67に格納されている当該車両の過去の走行データを、前述した走行経路における蓄熱制御に利用可能な情報として取得する。
【0077】
図2に示した制御装置8の上記走行データ格納部67は、当該車両が過去に走行したデータを格納するものである。走行データ格納部67に格納される走行データには、走行の日時やそのときの車速データ、地図データ、気象データ等の環境情報が少なくとも含まれる。
【0078】
図2に示した制御装置8の蓄熱可能区間推定部68は、情報取得部66により取得した情報から、車両の走行経路において蓄熱部4(バッテリ)に熱(温熱/冷熱)を蓄えることができる蓄熱可能区間を推定する。その場合、実施例の蓄熱可能区間推定部68は、情報取得部66により取得した情報から走行経路上の所定区間における蓄熱効率、蓄熱可能蓄熱量を推定し、推定した蓄熱効率が所定値以上で、蓄熱可能蓄熱量が所定値以上である場合に、当該区間を蓄熱可能区間と推定する。
【0079】
図2に示した制御装置8の蓄熱利用可能時間推定部69は、現在蓄熱部4(バッテリ)に蓄えられた熱(温熱/冷熱)を、熱利用部7(ヒータコア13Hやクーラコア13C)で利用できる蓄熱利用可能時間を推定する。
【0080】
図2に示した制御装置8の熱管理制御部71は、実施例では蓄熱利用可能時間推定部69が推定した蓄熱利用可能時間が、蓄熱可能区間推定部68が推定した蓄熱可能区間に車両が到達するまでの時間以上である場合、運転モードを前述した暖房運転+蓄熱利用モード、或いは、冷房運転+蓄熱利用モードに切り替える制御を実行する。
【0081】
(4-1)制御装置8による蓄熱量最適化制御の具体例1(トンネル:温熱)
次に、図9及び図10のフローチャートを参照しながら、制御装置8による蓄熱量最適化制御の具体的な一例について説明する。以下に説明する例は、例えば、冬場に車両の走行経路上にトンネル(トンネル区間)がある場合である。冬場にはトンネル内の気温はそれ以外の走行経路における外気温よりも高い場合が多い。そこで、以下の実施例ではトンネル内で蓄熱部4(バッテリ)に、効率的に蓄熱するための制御を説明する。
【0082】
図9のステップS1で、情報取得部66がV2X情報を取得可能か否か判断する。取得可能である場合、ステップS2で情報取得部66は、取得したV2X情報から、走行経路上にある次のトンネルまでの時間、当該トンネルの長さ、当該トンネル内の気温を取得する。
【0083】
尚、ステップS1でV2X情報を取得できない場合はステップS3に進み、情報取得部66は、当日の曜日、時間帯等に基づいて走行データ格納部67に格納された過去の走行データを検索する。そして、過去の走行データから通勤、買い物など、行先が特定可能か否か判断する。行先が特定可能で無い場合は戻り、行先が特定可能な場合はステップS4に進み、特定された行先までの走行経路上にある次のトンネルまでの時間、当該トンネルの長さ、当該トンネル内の気温(現在の外気温から推定)を過去の走行データから取得する。
【0084】
次に、ステップS5で蓄熱可能区間推定部68は、次のトンネルを通過する時間をトンネル長(車速を考慮)から推定する。次に、ステップS6で蓄熱可能区間推定部68は、次のトンネルを通過するときに蓄熱部4(バッテリ)に蓄熱可能な蓄熱量(蓄熱可能蓄熱量Qs1)を、トンネルを通過する時間(トンネル通過時間t1)、トンネル内の気温(トンネル内の気温T1)、現在暖房負荷等から推定する。
【0085】
より具体的には、蓄熱可能区間推定部68は下記数式(I)を用いて蓄熱可能蓄熱量Qs1(温熱)を推定(算出)する。
Qs1=f(t1、T1、Tset1、Qw1)
=k1×t1+k2×T1+k3×Tset1+k4×Qw1 ・・(I)
【0086】
ここで、数式(I)のパラメータであるt1は前記トンネル通過時間、T1は前記トンネル内気温、Tset1は車室内の空調設定温度、Qw1は熱源(発熱部6やヒートポンプ装置HP)が発生可能な熱量(走行用モータやインバータの廃熱やヒートポンプ装置HPの放熱器43が発生する温熱)である。また、k1~k4は係数であり、予め実験により求めておく。
【0087】
上記トンネル通過時間t1は長い程、蓄熱可能蓄熱量Qs1は増加するので、係数k1は正の値となる。また、トンネル内気温T1は高い程、蓄熱可能蓄熱量Qs1は増加するので、係数k2も正の値となる。また、車室内の空調設定温度Tset1は現在の暖房負荷を意味しており、高い程、蓄熱に回せる熱が減少するため(蓄熱可能蓄熱量Qs1は減少)、係数k3は負の値となる。更に、熱源が発生可能な熱量Qw1は、高い程、蓄熱可能蓄熱量Qs1は増加するので、係数k4は正の値となる。
【0088】
次に、蓄熱可能区間推定部68は、図10のステップS7でトンネル内気温T1が外気温Tam+所定値以上であるか否かを判断する。トンネル内気温T1が外気温Tam+所定値以上である場合は、効率よく蓄熱可能であるからである。そして、トンネル内気温T1が外気温Tam+所定値より低い場合は戻り、トンネル内気温T1が外気温Tam+所定値以上である場合は、蓄熱効率が所定値以上であると判断し、ステップS8に進む。
【0089】
ステップS8では、蓄熱可能区間推定部68は、ステップS6で算出した蓄熱可能蓄熱量Qs1が、蓄熱量所定値以上であるか否か判断する。トンネル長が長い等により、蓄熱可能蓄熱量Qs1が蓄熱量所定値以上である場合は、十分に蓄熱可能であるからである。そして、蓄熱可能蓄熱量Qs1が蓄熱量所定値より少ない場合は戻り、蓄熱可能蓄熱量Qs1が蓄熱量所定値以上であると判断した場合はステップS9に進む。
【0090】
即ち、蓄熱可能区間推定部68はステップS8で、次のトンネルの蓄熱効率が所定値以上であり、トンネルを通過するときの蓄熱可能蓄熱量Qs1が蓄熱量所定値以上である場合に、当該トンネルを蓄熱可能区間と推定し、ステップS9に進む。
【0091】
ステップS9では、蓄熱利用可能時間推定部69が現在の車速や蓄熱部4の温度(バッテリ温度)等から、暖房運転+蓄熱利用モードで蓄熱利用可能な時間(蓄熱利用可能時間tu1)を推定する。具体的には、蓄熱利用可能時間推定部69は下記数式(II)を用いて蓄熱利用可能時間tu1を推定(算出)する。
tu1=f(Vs、Tb、Tset1、th1)
=k5×Vs+k6×Tb+k7×Tset1+k8×th1 ・・(II)
【0092】
ここで、数式(II)のパラメータであるVsは現在の平均車速、Tbは蓄熱部4であるバッテリの現在の温度(バッテリ温度)、Tset1は前述した車室内の空調設定温度、th1は前述した図7の切替領域下限(暖房運転+蓄熱利用モードから暖房運転+蓄熱モードに切り替える閾値)である。また、k5~k8は係数であり、予め実験により求めておく。
【0093】
上記平均車速Vsは早い程、走行用モータやインバータ(発熱部6)、バッテリ(蓄熱部4)の発熱が多くなる。蓄熱利用中もこれら走行用モータやインバータ、バッテリの発熱は利用するため、蓄熱利用可能時間tu1は長くなるので、係数k5は正の値となる。また、バッテリ温度Tbは高い程、蓄熱利用可能時間tu1は長くなるので、係数k6も正の値となる。また、車室内の空調設定温度Tset1は高い程、空調に多くの蓄熱量を利用するため(蓄熱利用可能時間tu1は短くなる)、係数k7は負の値となる。更に、切替領域下限th1は、低い程、蓄熱利用可能時間tu1は長くなるので、係数k8は負の値となる。
【0094】
次に、ステップS10で熱管理制御部71は、ステップS9で蓄熱利用可能時間推定部69が推定した蓄熱利用可能時間tu1が、ステップS8で蓄熱可能区間推定部68が推定した蓄熱可能区間であるトンネルに車両が到達するまでの時間(次のトンネルまでの時間td1)以上であるか否か判断する。そして、蓄熱利用可能時間tu1が次のトンネルまでの時間td1より短い場合は戻り、蓄熱利用可能時間tu1が次のトンネルまでの時間td1以上である場合はステップS11に進み、図7の基本的な運転モードの切替制御に優先して、運転モードを暖房運転+蓄熱利用モード(図4)とする。即ち、現在暖房運転+蓄熱モード(図3)を実行している場合にも、暖房運転+蓄熱利用モードに切り替える。
【0095】
以上のように制御装置8が、車両の走行経路において蓄熱制御に利用可能な情報を取得する情報取得部66と、この情報取得部66により取得した情報から、走行経路において蓄熱部4に熱を蓄えることができる蓄熱可能区間を推定する蓄熱可能区間推定部68を有し、この蓄熱可能区間推定部68が推定した結果に基づいて、暖房運転+蓄熱モードと暖房運転+蓄熱利用モードの切り替えを制御するようにしたので、情報取得部66が取得した情報から、蓄熱可能区間推定部68が蓄熱部4に十分な熱を蓄えることができる蓄熱可能区間があることを推定した場合、蓄熱可能区間に至るまでに現在蓄熱部4に蓄えている熱を有効に利用しながら、蓄熱可能区間にて蓄熱部4に効率的に蓄熱できるよう、暖房運転+蓄熱モードと暖房運転+蓄熱利用モードを切り替える制御を行うことが可能となる。これにより、熱利用部7における熱の有効利用と蓄熱部4への効率的な蓄熱を実現し、車両の航続距離の低下を抑制することが可能となる。
【0096】
また、実施例では制御装置8が、蓄熱部4に蓄えられた熱を熱利用部7で利用できる蓄熱利用可能時間tu1を推定する蓄熱利用可能時間推定部69を有し、この蓄熱利用可能時間推定部69が推定した蓄熱利用可能時間tu1が、蓄熱可能区間推定部68が推定した蓄熱可能区間に到達するまでの時間td1以上である場合に、暖房運転+蓄熱利用モードを実行するようにしているので、蓄熱可能区間推定部68が推定した蓄熱可能区間に至るまでに現在蓄熱部4に蓄えられている熱を使い切り、更に、蓄熱可能区間においては蓄熱部4に最大限熱を蓄えることができるようになる。これにより、熱利用部7による熱の有効利用と、蓄熱部4への効率的な蓄熱の双方を実現することができるようになる。
【0097】
また、実施例では蓄熱可能区間推定部68が、情報取得部66により取得した情報から走行経路上の所定区間における蓄熱効率や蓄熱可能蓄熱量Qs1を推定し、推定した結果が所定値以上である場合に、当該区間を蓄熱可能区間と推定するようにしているので、蓄熱可能区間において十分な熱を蓄熱部4に蓄え、熱利用部7にて利用することができるようになる。
【0098】
更に、この実施例では蓄熱可能区間推定部68が、情報取得部66により取得した情報から走行経路上のトンネルにおける蓄熱効率や蓄熱可能蓄熱量Qs1を推定し、推定した結果が所定値以上である場合に、当該トンネルを蓄熱可能区間と推定するようにしたので、トンネルに至るまでに蓄熱部4に蓄えられた熱を熱利用部7で使い切り、冬場には比較的気温が高いトンネルを通過する際に蓄熱部4に最大限温熱を蓄えることができるようになる。
【0099】
また、実施例では情報取得部66が取得する蓄熱制御に利用可能な情報としてV2X情報を利用するようにしたので、現在の環境条件や交通情報に基づいて、熱利用部7での効率的な熱利用と、蓄熱部4への最大限の蓄熱を、的確に実現することができるようになる。
【0100】
また、実施例では情報取得部66が取得する蓄熱制御に利用可能な情報として、走行データ格納部67に格納された過去の走行データも用いるようにしたので、V2X情報を取得できない場合にも、過去の実績から、熱利用部7での効率的な熱利用と、蓄熱部4への最大限の蓄熱を実現することができるようになる。
【0101】
また、実施例では熱源として冷媒回路3を有するヒートポンプ装置HP、電動車両の走行用モータ、インバータ、電気ヒータを採用し、蓄熱部4としては、電動車両に搭載されたバッテリ、熱利用部7としては、電動車両の車室内を空調するヒータコア13Hやクーラコア13Cを採用したので、車両の効率的な車室内空調を実現することができるようになる。
【0102】
更に、実施例では熱源、蓄熱部4、及び、熱利用部7に熱媒体を循環させる熱媒体回路2を設けているので、熱源で発生した熱を蓄熱部4に円滑に搬送して当該蓄熱部4に蓄え、蓄熱部4に蓄えられた熱を円滑に熱利用部7に搬送して当該熱利用部7にて利用することが可能となる。
【実施例0103】
(4-2)制御装置8による蓄熱量最適化制御の具体例2(トンネル:冷熱)
次に、図11及び図12のフローチャートを参照しながら、制御装置8による蓄熱量最適化制御の他の具体例について説明する。以下に説明する例は、例えば、夏場に車両の走行経路上にトンネル(トンネル区間)がある場合である。夏場にはトンネル内の気温はそれ以外の走行経路における外気温よりも低い場合が多い。そこで、以下の実施例ではトンネル内で蓄熱部4(バッテリ)に効率的に蓄熱(冷熱を蓄える:所謂蓄冷)するための制御を説明する。
【0104】
尚、図11及び図12において図9及び図10と同一符号で示すステップは同一の動作であるものとし、以下の説明では、前述した図9及び図10とは異なる動作のステップのみ説明する。
【0105】
即ち、前述の実施例と同様にステップS1~ステップS5に進んだ後、蓄熱可能区間推定部68はステップS6Aで、次のトンネルを通過するときに蓄熱部4(バッテリ)に蓄熱可能な蓄熱量(蓄熱可能蓄熱量Qs2)を、トンネルを通過する時間(トンネル通過時間t2)、トンネル内の気温(トンネル内の気温T2)、現在冷房負荷などから推定する。
【0106】
より具体的には、蓄熱可能区間推定部68は下記数式(III)を用いて蓄熱可能蓄熱量Qs2(冷熱)を推定(算出)する。
Qs2=f(t2、T2、Tset2)
=k9×t2+k10/T2+k11/Tset2 ・・(III)
【0107】
ここで、数式(III)のパラメータであるt2は前記トンネル通過時間、T2は前記トンネル内気温、Tset2は車室内の空調設定温度である。また、k9~k11は係数であり、予め実験により求めておく。
【0108】
上記トンネル通過時間t2は長い程、蓄熱可能蓄熱量Qs2は増加するので、係数k9は正の値となる。また、トンネル内気温T2は低い程、蓄熱可能蓄熱量Qs2(冷熱)は増加するので、係数k10も正の値となる。また、車室内の空調設定温度Tset2は現在の冷房負荷を意味しており、低い程、蓄熱(冷熱)に回せる熱が減少するため(蓄熱可能蓄熱量Qs2は減少)、係数k11は負の値となる。
【0109】
次に、蓄熱可能区間推定部68は、図12のステップS7Aでトンネル内気温T2が外気温Tam-所定値以下であるか否かを判断する。トンネル内気温T2が外気温Tam-所定値以下である場合は、効率よく蓄熱可能(冷熱)であるからである。そして、トンネル内気温T2が外気温Tam-所定値以上の場合は戻り、トンネル内気温T2が外気温Tam-所定値以下である場合は、蓄熱効率(冷熱を蓄える効率)が所定値以上であると判断し、ステップS8Aに進む。
【0110】
ステップS8Aでは、蓄熱可能区間推定部68は、ステップS6Aで算出した蓄熱可能蓄熱量Qs2(冷熱)が、蓄熱量所定値以上であるか否か判断する。トンネル長が長い等により、蓄熱可能蓄熱量Qs2(冷熱)が蓄熱量所定値以上である場合は、十分に蓄熱可能(冷熱)であるからである。そして、蓄熱可能蓄熱量Qs2が蓄熱量所定値より少ない場合は戻り、蓄熱可能蓄熱量Qs2が蓄熱量所定値以上であると判断した場合はステップS9Aに進む。
【0111】
即ち、蓄熱可能区間推定部68はステップS8Aで、次のトンネルの蓄熱効率が所定値以上であり、トンネルを通過するときの蓄熱可能蓄熱量Qs2(冷熱)が蓄熱量所定値以上である場合に、当該トンネルを蓄熱可能区間と推定し、ステップS9Aに進む。
【0112】
ステップS9Aでは、蓄熱利用可能時間推定部69が現在の蓄熱部4の温度(バッテリ温度)等から、冷房運転+蓄熱利用モードで蓄熱利用可能な時間(蓄熱利用可能時間tu2)を推定する。具体的には、蓄熱利用可能時間推定部69は下記数式(IV)を用いて蓄熱利用可能時間tu2を推定(算出)する。
tu2=f(Tb、Tset2、th2)
=k12/Tb+k13/Tset2+k14×th2 ・・(IV)
【0113】
ここで、数式(IV)のパラメータであるTbは前述同様に蓄熱部4であるバッテリの現在の温度(バッテリ温度)、Tset2は前述した車室内の空調設定温度、th2は前述した図8の切替領域上限(冷房運転+蓄熱利用モードから冷房運転+蓄熱モードに切り替える閾値)である。また、k12~k14は係数であり、予め実験により求めておく。
【0114】
上記バッテリ温度Tbは低い程、蓄熱利用可能時間tu2(冷熱)は長くなるので、係数k12は正の値となる。また、車室内の空調設定温度Tset2は低い程、空調に多くの蓄熱量(冷熱)を利用するため(蓄熱利用可能時間tu2は短くなる)、係数k13は負の値となる。更に、切替領域上限th2は、高い程、蓄熱利用可能時間tu2は長くなるので、係数k14は正の値となる。
【0115】
次に、ステップS10Aで熱管理制御部71は、ステップS9Aで蓄熱利用可能時間推定部69が推定した蓄熱利用可能時間tu2が、ステップS8Aで蓄熱可能区間推定部68が推定した蓄熱可能区間であるトンネルに車両が到達するまでの時間(次のトンネルまでの時間td2)以上であるか否か判断する。そして、蓄熱利用可能時間tu2が次のトンネルまでの時間td2より短い場合は戻り、蓄熱利用可能時間tu2が次のトンネルまでの時間td2以上である場合はステップS11Aに進み、図8の基本的な運転モードの切替制御に優先して、運転モードを冷房運転+蓄熱利用モード(図6)とする。即ち、現在冷房運転+蓄熱モード(図5)を実行している場合にも、冷房運転+蓄熱利用モードに切り替える。
【0116】
以上により、この実施例においても蓄熱可能区間に至るまでに現在蓄熱部4に蓄えている熱(冷熱)を有効に利用しながら、蓄熱可能区間にて蓄熱部4に効率的に蓄熱(冷熱)できるよう、冷房運転+蓄熱モードと冷房運転+蓄熱利用モードを切り替える制御を行うことが可能となる。これにより、熱利用部7における熱(冷熱)の有効利用と蓄熱部4への効率的な蓄熱(冷熱)を実現し、車両の航続距離の低下を抑制することが可能となる。
【0117】
また、この実施例でも蓄熱利用可能時間推定部69が推定した蓄熱利用可能時間tu2が、蓄熱可能区間推定部68が推定した蓄熱可能区間に到達するまでの時間td2以上である場合に、冷房運転+蓄熱利用モードを実行するようにしているので、蓄熱可能区間推定部68が推定した蓄熱可能区間に至るまでに現在蓄熱部4に蓄えられている熱(冷熱)を使い切り、更に、蓄熱可能区間においては蓄熱部4に最大限熱(冷熱)を蓄えることができるようになる。これにより、熱利用部7による熱(冷熱)の有効利用と、蓄熱部4への効率的な蓄熱(冷熱)の双方を実現することができるようになる。
【0118】
また、この実施例でも蓄熱可能区間推定部68が、情報取得部66により取得した情報から走行経路上の所定区間における蓄熱効率や蓄熱可能蓄熱量Qs2を推定し、推定した結果が所定値以上である場合に、当該区間を蓄熱可能区間と推定するようにしているので、蓄熱可能区間において十分な熱(冷熱)を蓄熱部4に蓄え、熱利用部7にて利用することができるようになる。
【0119】
更に、この実施例でも蓄熱可能区間推定部68が、情報取得部66により取得した情報から走行経路上のトンネルにおける蓄熱効率や蓄熱可能蓄熱量Qs2を推定し、推定した結果が所定値以上である場合に、当該トンネルを蓄熱可能区間と推定するようにしたので、トンネルに至るまでに蓄熱部4に蓄えられた熱(冷熱)を熱利用部7で使い切り、夏場には比較的気温が低いトンネルを通過する際に蓄熱部4に最大限温熱(冷熱)を蓄えることができるようになる。
【実施例0120】
(4-3)制御装置8による蓄熱量最適化制御の具体例3(坂道:下り坂)
次に、図13及び図14のフローチャートを参照しながら、制御装置8による蓄熱量最適化制御のもう一つの具体例について説明する。以下に説明する例は、車両の走行経路上に坂道(下り坂区間)がある場合である。下り坂では走行用モータが発生する回生電力で動作させた電気ヒータの熱が暖房に過剰な場合に、過剰分を蓄熱可能である。そこで、以下の実施例では坂道(下り坂)で蓄熱部4(バッテリ)に効率的に蓄熱するための制御を説明する。
【0121】
図13のステップS1Bで、情報取得部66がV2X情報を取得可能か否か判断する。取得可能である場合、ステップS2Bで情報取得部66は、取得したV2X情報から、走行経路上にある次の坂道(下り坂)までの時間、当該坂道の長さ、当該坂道の平均傾斜を取得する。
【0122】
尚、ステップS1BでV2X情報を取得できない場合はステップS3Bに進み、情報取得部66は、当日の曜日、時間帯等に基づいて走行データ格納部67に格納された過去の走行データを検索する。そして、過去の走行データから通勤、買い物など、行先が特定可能か否か判断する。行先が特定可能で無い場合は戻り、行先が特定可能な場合はステップS4Bに進み、特定された行先までの走行経路上にある次の坂道(下り坂)までの時間、当該坂道の長さ、当該坂道の平均傾斜を過去の走行データから取得する。
【0123】
次に、ステップS5Bで蓄熱可能区間推定部68は、次の坂道(下り坂)を通過する時間を坂道の長さ(車速を考慮)から推定する。次に、ステップS6Bで蓄熱可能区間推定部68は、次の坂道(下り坂)を通過するときに蓄熱部4(バッテリ)に蓄熱可能な蓄熱量(蓄熱可能蓄熱量Qs3)を、坂道を通過する時間(坂道通過時間t3)、坂道の平均傾斜(坂道平均傾斜Inc1)、回生電力量で熱源(発熱部6の電気ヒータ)が発生可能な熱量Qr1、現在暖房負荷などから推定する。
【0124】
より具体的には、蓄熱可能区間推定部68は下記数式(V)を用いて蓄熱可能蓄熱量Qs3(温熱)を推定(算出)する。
Qs3=f(t3、Inc1、Qr1、Tset1)
=k15×t3+k16×Inc1+k17×Qr1+k18×Tset1
・・(V)
【0125】
ここで、数式(V)のパラメータであるt3は前記坂道通過時間、Inc1は前記坂道平均傾斜、Qr1は前記回生電力量で熱源(発熱部6の電気ヒータ)が発生可能な熱量、Tset1は前述同様の車室内の空調設定温度である。また、k15~k18は係数であり、予め実験により求めておく。
【0126】
上記坂道通過時間t3は長い程、蓄熱可能蓄熱量Qs3は増加するので、係数k15は正の値となる。また、坂道平均傾斜Inc1は急である程、回生電力量が増えて電気ヒータ(発熱部6)の発熱が増加するので、係数k16も正の値となる。また、熱源が発生可能な熱量Qr1は、高い程、蓄熱可能蓄熱量Qs3は増加するので、係数k17は正の値となる。更に、車室内の空調設定温度Tset1は同様に現在の暖房負荷を意味しており、高い程、蓄熱に回せる熱が減少するため(蓄熱可能蓄熱量Qs3は減少)、係数k18は負の値となる。
【0127】
次に、図14のステップS8Bで蓄熱可能区間推定部68は、ステップS6Bで算出した蓄熱可能蓄熱量Qs3が、蓄熱量所定値以上であるか否か判断する。下り坂が長い等により、蓄熱可能蓄熱量Qs3が蓄熱量所定値以上である場合は、十分に蓄熱可能であるからである。そして、蓄熱可能蓄熱量Qs3が蓄熱量所定値より少ない場合は戻り、蓄熱可能蓄熱量Qs3が蓄熱量所定値以上であると判断した場合はステップS9Bに進む。
【0128】
即ち、蓄熱可能区間推定部68はステップS8Bで、次の坂道を通過するときの蓄熱可能蓄熱量Qs3が蓄熱量所定値以上である場合に、当該坂道を蓄熱可能区間と推定し、ステップS9Bに進む。尚、ステップS8Bでは単純に下り坂の長さが所定値以上であるか否かで判断してもよい。その場合は、下り坂が所定値以上である場合にステップS9Bに進む。
【0129】
ステップS9Bでは、蓄熱利用可能時間推定部69が現在の車速や蓄熱部4の温度(バッテリ温度)等から、前述した数式(II)を用いて暖房運転+蓄熱利用モードで蓄熱利用可能な時間(蓄熱利用可能時間tu1)を推定する。
【0130】
次に、ステップS10Bで熱管理制御部71は、ステップS9Bで蓄熱利用可能時間推定部69が推定した蓄熱利用可能時間tu1が、ステップS8Bで蓄熱可能区間推定部68が推定した蓄熱可能区間である坂道に車両が到達するまでの時間(次の坂道までの時間td3)以上であるか否か判断する。そして、蓄熱利用可能時間tu1が次の坂道までの時間td3より短い場合は戻り、蓄熱利用可能時間tu1が次の坂道までの時間td3以上である場合はステップS11Bに進み、図7の基本的な運転モードの切替制御に優先して、運転モードを暖房運転+蓄熱利用モード(図4)とする。即ち、現在暖房運転+蓄熱モード(図3)を実行している場合にも、暖房運転+蓄熱利用モードに切り替える。
【0131】
以上により、この実施例においても蓄熱可能区間に至るまでに現在蓄熱部4に蓄えている熱を有効に利用しながら、蓄熱可能区間にて蓄熱部4に効率的に蓄熱できるよう、暖房運転+蓄熱モードと暖房運転+蓄熱利用モードを切り替える制御を行うことが可能となる。これにより、熱利用部7における熱の有効利用と蓄熱部4への効率的な蓄熱を実現し、車両の航続距離の低下を抑制することが可能となる。
【0132】
また、この実施例でも蓄熱利用可能時間推定部69が推定した蓄熱利用可能時間tu1が、蓄熱可能区間推定部68が推定した蓄熱可能区間に到達するまでの時間td3以上である場合に、暖房運転+蓄熱利用モードを実行するようにしているので、蓄熱可能区間推定部68が推定した蓄熱可能区間に至るまでに現在蓄熱部4に蓄えられている熱を使い切り、更に、蓄熱可能区間においては蓄熱部4に最大限熱を蓄えることができるようになる。これにより、熱利用部7による熱の有効利用と、蓄熱部4への効率的な蓄熱の双方を実現することができるようになる。
【0133】
また、この実施例では蓄熱可能区間推定部68が、情報取得部66により取得した情報から走行経路上の所定区間における蓄熱可能蓄熱量Qs3を推定し、推定した結果が所定値以上である場合に、当該区間を蓄熱可能区間と推定するようにしているので、蓄熱可能区間において十分な熱を蓄熱部4に蓄え、熱利用部7にて利用することができるようになる。
【0134】
更に、この実施例でも蓄熱可能区間推定部68が、情報取得部66により取得した情報から走行経路上の坂道(下り坂)における蓄熱可能蓄熱量Qs3を推定し、推定した結果が所定値以上である場合に、当該坂道(下り坂)を蓄熱可能区間と推定するようにしたので、坂道(下り坂)に至るまでに蓄熱部4に蓄えられた熱を熱利用部7で使い切り、下り坂において回生電力を利用し、最大限蓄熱部4に蓄熱することができるようになる。
【実施例0135】
(4-4)制御装置8による蓄熱量最適化制御の具体例4(日向)
次に、図15及び図16のフローチャートを参照しながら、制御装置8による蓄熱量最適化制御の更にもう一つの具体例について説明する。以下に説明する例は、例えば、冬場の車両の走行経路上の日向に関するものである。建物の陰にならない日向では気温はそれ以外の走行経路における外気温よりも高い。そこで、以下の実施例では冬場に日向で蓄熱部4(バッテリ)に効率的に蓄熱するための制御を説明する。
【0136】
図15のステップS1Cで、情報取得部66がV2X情報を取得可能か否か判断する。取得可能である場合、ステップS2Cで情報取得部66は、取得したV2X情報から、走行経路上にある次の日向(地図データから得られる建物の日陰になっていない区間)までの時間、当該日向の長さ、当該日向の気温を取得する。
【0137】
尚、ステップS1CでV2X情報を取得できない場合はステップS3Cに進み、情報取得部66は、当日の曜日、時間帯等に基づいて走行データ格納部67に格納された過去の走行データを検索する。そして、過去の走行データから通勤、買い物など、行先が特定可能か否か判断する。行先が特定可能で無い場合は戻り、行先が特定可能な場合はステップS4Cに進み、特定された行先までの走行経路上にある次の日向までの時間、当該日向の長さ、当該日向の気温(現在の外気温から推定)を過去の走行データから取得する。
【0138】
次に、ステップS5Cで蓄熱可能区間推定部68は、次の日向を通過する時間を日向長(車速を考慮)から推定する。次に、ステップS6Cで蓄熱可能区間推定部68は、次の日向を通過するときに蓄熱部4(バッテリ)に蓄熱可能な蓄熱量(蓄熱可能蓄熱量Qs4)を、日向を通過する時間(日向通過時間t4)、日向の気温T4、現在暖房負荷などから推定する。
【0139】
より具体的には、蓄熱可能区間推定部68は下記数式(VI)を用いて蓄熱可能蓄熱量Qs4(温熱)を推定(算出)する。
Qs4=f(t4、T4、Tset1、Qw1)
=k19×t4+k20×T4+k21×Tset1+k22×Qw1
・・(VI)
【0140】
ここで、数式(VI)のパラメータであるt4は前記日向通過時間、T4は前記日向気温、Tset1は車室内の空調設定温度、Qw1は熱源(発熱部6やヒートポンプ装置HP)が発生可能な熱量(走行用モータやインバータの廃熱、ヒートポンプ装置HPの放熱器43が発生する温熱)である。また、k19~k22は係数であり、予め実験により求めておく。
【0141】
上記日向通過時間t4は長い程、蓄熱可能蓄熱量Qs4は増加するので、係数k19は正の値となる。また、日向気温T4は高い程、蓄熱可能蓄熱量Qs4は増加するので、係数k20も正の値となる。また、車室内の空調設定温度Tset1は前述同様に現在の暖房負荷を意味しており、高い程、蓄熱に回せる熱が減少するため(蓄熱可能蓄熱量Qs4は減少)、係数k21は負の値となる。更に、熱源が発生可能な熱量Qw1は、前述同様に高い程、蓄熱可能蓄熱量Qs4は増加するので、係数k22は正の値となる。
【0142】
次に、蓄熱可能区間推定部68は、図16のステップS7Cで日向気温T4が外気温Tam+所定値以上であるか否かを判断する。日向気温T4が外気温Tam+所定値以上である場合は、効率よく蓄熱可能であるからである。そして、日向気温T4が外気温Tam+所定値より低い場合は戻り、日向気温T4が外気温Tam+所定値以上である場合は、蓄熱効率が所定値以上であると判断し、ステップS8Cに進む。
【0143】
ステップS8Cでは、蓄熱可能区間推定部68は、ステップS6Cで算出した蓄熱可能蓄熱量Qs4が、蓄熱量所定値以上であるか否か判断する。日向長が長い等により、蓄熱可能蓄熱量Qs4が蓄熱量所定値以上である場合は、十分に蓄熱可能であるからである。そして、蓄熱可能蓄熱量Qs4が蓄熱量所定値より少ない場合は戻り、蓄熱可能蓄熱量Qs4が蓄熱量所定値以上であると判断した場合はステップS9Cに進む。
【0144】
即ち、蓄熱可能区間推定部68はステップS8Cで、次の日向の蓄熱効率が所定値以上であり、日向を通過するときの蓄熱可能蓄熱量Qs4が蓄熱量所定値以上である場合に、当該日向を蓄熱可能区間と推定し、ステップS9Cに進む。
【0145】
ステップS9Cでは、蓄熱利用可能時間推定部69が現在の車速や蓄熱部4の温度(バッテリ温度)等から、前記数式(II)を用いて暖房運転+蓄熱利用モードで蓄熱利用可能な時間(蓄熱利用可能時間tu1)を推定する。具体的には、蓄熱利用可能時間推定部69は下記数式(II)を用いて蓄熱利用可能時間tu1を推定(算出)する。
【0146】
次に、ステップS10Cで熱管理制御部71は、ステップS9Cで蓄熱利用可能時間推定部69が推定した蓄熱利用可能時間tu1が、ステップS8Cで蓄熱可能区間推定部68が推定した蓄熱可能区間である日向に車両が到達するまでの時間(次の日向までの時間td4)以上であるか否か判断する。そして、蓄熱利用可能時間tu1が次の日向までの時間td4より短い場合は戻り、蓄熱利用可能時間tu1が次の日向までの時間td4以上である場合はステップS11Cに進み、図7の基本的な運転モードの切替制御に優先して、運転モードを暖房運転+蓄熱利用モード(図4)とする。即ち、現在暖房運転+蓄熱モード(図3)を実行している場合にも、暖房運転+蓄熱利用モードに切り替える。
【0147】
以上により、この実施例においても蓄熱可能区間に至るまでに現在蓄熱部4に蓄えている熱を有効に利用しながら、蓄熱可能区間にて蓄熱部4に効率的に蓄熱できるよう、暖房運転+蓄熱モードと暖房運転+蓄熱利用モードを切り替える制御を行うことが可能となる。これにより、熱利用部7における熱の有効利用と蓄熱部4への効率的な蓄熱を実現し、車両の航続距離の低下を抑制することが可能となる。
【0148】
また、この実施例でも蓄熱利用可能時間推定部69が推定した蓄熱利用可能時間tu1が、蓄熱可能区間推定部68が推定した蓄熱可能区間に到達するまでの時間td4以上である場合に、暖房運転+蓄熱利用モードを実行するようにしているので、蓄熱可能区間推定部68が推定した蓄熱可能区間に至るまでに現在蓄熱部4に蓄えられている熱を使い切り、更に、蓄熱可能区間においては蓄熱部4に最大限熱を蓄えることができるようになる。これにより、熱利用部7による熱の有効利用と、蓄熱部4への効率的な蓄熱の双方を実現することができるようになる。
【0149】
また、この実施例では蓄熱可能区間推定部68が、情報取得部66により取得した情報から走行経路上の所定区間における蓄熱効率や蓄熱可能蓄熱量Qs4を推定し、推定した結果が所定値以上である場合に、当該区間を蓄熱可能区間と推定するようにしているので、蓄熱可能区間において十分な熱を蓄熱部4に蓄え、熱利用部7にて利用することができるようになる。
【0150】
更に、この実施例でも蓄熱可能区間推定部68が、情報取得部66により取得した情報から走行経路上の日向における蓄熱効率や蓄熱可能蓄熱量Qs4を推定し、推定した結果が所定値以上である場合に、当該日向を蓄熱可能区間と推定するようにしたので、日向に至るまでに蓄熱部4に蓄えられた熱を熱利用部7で使い切り、気温が高い日向を通過する際に蓄熱部4に最大限温熱を蓄えることができるようになる。
【実施例0151】
(4-5)制御装置8による蓄熱量最適化制御の具体例5(日陰:冷熱)
次に、図17及び図18のフローチャートを参照しながら、制御装置8による蓄熱量最適化制御の更にもう一つの他の具体例について説明する。以下に説明する例は、例えば、夏場の車両の走行経路上の日陰に関するものである。建物の陰になる日陰では気温はそれ以外の走行経路における外気温よりも低い。そこで、以下の実施例では夏場に日陰で蓄熱部4(バッテリ)に効率的に蓄熱(冷熱を蓄える:所謂蓄冷)するための制御を説明する。
【0152】
図17のステップS1Dで、情報取得部66がV2X情報を取得可能か否か判断する。取得可能である場合、ステップS2Dで情報取得部66は、取得したV2X情報から、走行経路上にある次の日陰(地図データから得られる建物の日陰になっている区間)までの時間、当該日陰の長さ、当該日陰の気温を取得する。
【0153】
尚、ステップS1DでV2X情報を取得できない場合はステップS3Dに進み、情報取得部66は、当日の曜日、時間帯等に基づいて走行データ格納部67に格納された過去の走行データを検索する。そして、過去の走行データから通勤、買い物など、行先が特定可能か否か判断する。行先が特定可能で無い場合は戻り、行先が特定可能な場合はステップS4Dに進み、特定された行先までの走行経路上にある次の日陰までの時間、当該日陰の長さ、当該日陰の気温(現在の外気温から推定)を過去の走行データから取得する。
【0154】
次に、ステップS5Dで蓄熱可能区間推定部68は、次の日陰を通過する時間を日陰長(車速を考慮)から推定する。次に、ステップS6Dで蓄熱可能区間推定部68は、次の日陰を通過するときに蓄熱部4(バッテリ)に蓄熱可能な蓄熱量(蓄熱可能蓄熱量Qs5)を、日陰を通過する時間(日陰通過時間t5)、日陰の気温(日陰気温T5)、現在冷房負荷などから推定する。
【0155】
より具体的には、蓄熱可能区間推定部68は下記数式(VII)を用いて蓄熱可能蓄熱量Qs5(冷熱)を推定(算出)する。
Qs5=f(t5、T5、Tset2)
=k23×t5+k24/T5+k25/Tset2 ・・(VII)
【0156】
ここで、数式(VII)のパラメータであるt5は前記日陰通過時間、T5は前記日陰気温、Tset2は車室内の空調設定温度である。また、k23~k25は係数であり、予め実験により求めておく。
【0157】
上記日陰通過時間t5は長い程、蓄熱可能蓄熱量Qs5は増加するので、係数k23は正の値となる。また、日陰気温T5は低い程、蓄熱可能蓄熱量Qs5(冷熱)は増加するので、係数k24も正の値となる。また、車室内の空調設定温度Tset2は現在の冷房負荷を意味しており、前述同様に低い程、蓄熱(冷熱)に回せる熱が減少するため(蓄熱可能蓄熱量Qs5は減少)、係数k25は負の値となる。
【0158】
次に、蓄熱可能区間推定部68は、図18のステップS7Dで日陰気温T5が外気温Tam-所定値以下であるか否かを判断する。日陰気温T5が外気温Tam-所定値以下である場合は、効率よく蓄熱可能(冷熱)であるからである。そして、日陰気温T5が外気温Tam-所定値以上の場合は戻り、日陰気温T5が外気温Tam-所定値以下である場合は、蓄熱効率(冷熱を蓄える効率)が所定値以上であると判断し、ステップS8Dに進む。
【0159】
ステップS8Dでは、蓄熱可能区間推定部68は、ステップS6Dで算出した蓄熱可能蓄熱量Qs5(冷熱)が、蓄熱量所定値以上であるか否か判断する。日陰長が長い等により、蓄熱可能蓄熱量Qs5(冷熱)が蓄熱量所定値以上である場合は、十分に蓄熱可能(冷熱)であるからである。そして、蓄熱可能蓄熱量Qs5が蓄熱量所定値より少ない場合は戻り、蓄熱可能蓄熱量Qs5が蓄熱量所定値以上であると判断した場合はステップS9Dに進む。
【0160】
即ち、蓄熱可能区間推定部68はステップS8Dで、次の日陰の蓄熱効率が所定値以上であり、日陰を通過するときの蓄熱可能蓄熱量Qs5(冷熱)が蓄熱量所定値以上である場合に、当該日陰を蓄熱可能区間と推定し、ステップS9Dに進む。
【0161】
ステップS9Dでは、蓄熱利用可能時間推定部69が現在の蓄熱部4の温度(バッテリ温度)等から、前述した数式(IV)を用いて冷房運転+蓄熱利用モードで蓄熱利用可能な時間(蓄熱利用可能時間tu2)を推定する。
【0162】
次に、ステップS10Dで熱管理制御部71は、ステップS9Dで蓄熱利用可能時間推定部69が推定した蓄熱利用可能時間tu2が、ステップS8Dで蓄熱可能区間推定部68が推定した蓄熱可能区間である日陰に車両が到達するまでの時間(次の日陰までの時間td5)以上であるか否か判断する。そして、蓄熱利用可能時間tu2が次の日陰までの時間td5より短い場合は戻り、蓄熱利用可能時間tu2が次の日陰までの時間td5以上である場合はステップS11Dに進み、図8の基本的な運転モードの切替制御に優先して、運転モードを冷房運転+蓄熱利用モード(図6)とする。即ち、現在冷房運転+蓄熱モード(図5)を実行している場合にも、冷房運転+蓄熱利用モードに切り替える。
【0163】
以上により、この実施例においても蓄熱可能区間に至るまでに現在蓄熱部4に蓄えている熱(冷熱)を有効に利用しながら、蓄熱可能区間にて蓄熱部4に効率的に蓄熱(冷熱)できるよう、冷房運転+蓄熱モードと冷房運転+蓄熱利用モードを切り替える制御を行うことが可能となる。これにより、熱利用部7における熱(冷熱)の有効利用と蓄熱部4への効率的な蓄熱(冷熱)を実現し、車両の航続距離の低下を抑制することが可能となる。
【0164】
また、この実施例でも蓄熱利用可能時間推定部69が推定した蓄熱利用可能時間tu2が、蓄熱可能区間推定部68が推定した蓄熱可能区間に到達するまでの時間td5以上である場合に、冷房運転+蓄熱利用モードを実行するようにしているので、蓄熱可能区間推定部68が推定した蓄熱可能区間に至るまでに現在蓄熱部4に蓄えられている熱(冷熱)を使い切り、更に、蓄熱可能区間においては蓄熱部4に最大限熱(冷熱)を蓄えることができるようになる。これにより、熱利用部7による熱(冷熱)の有効利用と、蓄熱部4への効率的な蓄熱(冷熱)の双方を実現することができるようになる。
【0165】
また、この実施例でも蓄熱可能区間推定部68が、情報取得部66により取得した情報から走行経路上の所定区間における蓄熱効率や蓄熱可能蓄熱量Qs5を推定し、推定した結果が所定値以上である場合に、当該区間を蓄熱可能区間と推定するようにしているので、蓄熱可能区間において十分な熱(冷熱)を蓄熱部4に蓄え、熱利用部7にて利用することができるようになる。
【0166】
更に、この実施例でも蓄熱可能区間推定部68が、情報取得部66により取得した情報から走行経路上の日陰における蓄熱効率や蓄熱可能蓄熱量Qs5を推定し、推定した結果が所定値以上である場合に、当該日陰を蓄熱可能区間と推定するようにしたので、日陰に至るまでに蓄熱部4に蓄えられた熱(冷熱)を熱利用部7で使い切り、夏場には比較的気温が低い日陰を通過する際に蓄熱部4に最大限温熱(冷熱)を蓄えることができるようになる。
【0167】
尚、前述した実施例1、実施例2、実施例4及び実施例5では、走行経路上の所定区間(トンネル、日向、日陰)における蓄熱効率及び蓄熱可能蓄熱量が所定値以上である場合に当該区間を蓄熱可能区間と推定するようにしたが、蓄熱効率又は蓄熱可能蓄熱量のうちの何れか一方で判断するようにしてもよい。また、各実施例で示した数値や構成は、それらに限定されるものでは無く、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更可能であることは云うまでもない。
【0168】
また、実施例では数式を用いて蓄熱可能蓄熱量や蓄熱利用可能時間を算出するようにしたが、それに限らず、AIを用いて導出するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0169】
EV 電動車両
HP ヒートポンプ装置
1 熱マネジメントシステム
2 熱媒体回路
3 冷媒回路
4 蓄熱部(バッテリ)
6 発熱部(走行用モータ、インバータ、電気ヒータ)
7 熱利用部
8 制御装置
9、10 ポンプ
11 冷却部
12 加熱部
13H ヒータコア(熱交換器)
13C クーラコア(熱交換器)
16~31 三方弁
32 熱媒体配管
42 圧縮機
43 放熱器
44 膨張弁(減圧装置)
46 吸熱器
63 ナビゲーションシステム
64 通信コントローラ
66 情報取得部
67 走行データ格納部
68 蓄熱可能区間推定部
69 蓄熱利用可能時間推定部
71 熱管理制御部
図1
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