(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172400
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】排水システム、及び排水マス
(51)【国際特許分類】
E03F 1/00 20060101AFI20231129BHJP
E03F 5/10 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
E03F1/00 Z
E03F5/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084172
(22)【出願日】2022-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】000000505
【氏名又は名称】アロン化成株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000150615
【氏名又は名称】株式会社長谷工コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100180644
【弁理士】
【氏名又は名称】▲崎▼山 博教
(72)【発明者】
【氏名】中村 太一
(72)【発明者】
【氏名】西村 欣英
(72)【発明者】
【氏名】菅原 正道
(72)【発明者】
【氏名】森山 知之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 哲矢
【テーマコード(参考)】
2D063
【Fターム(参考)】
2D063AA10
2D063AA14
2D063DA07
2D063DA23
(57)【要約】
【課題】排水流路を形成する排水管路において、水の逆流が発生したことを適切に検知可能な排水システムの提供を目的とした。
【解決手段】排水システム10は、の排水流路Cを形成する排水管路20と、排水流路Cの途中に設けられる排水マス60と、制御装置120と、を有し、排水マス60が、水を貯留可能な貯留空間70aを有する排水マス本体70と、排水マス本体70の内部に配され、逆流抑制弁90と、逆流抑制弁90の動作状態を検知する検知装置100と、を備えており、逆流抑制弁90が、水の流れを受けて変位可能な弁体94、及び弁体94を受ける弁座92を有するものであり、逆方向への水の流れを受けることによって弁体94が到来すると想定される領域において弁体94が検知されることを条件として、制御装置120が、排水管路20において逆方向への水の流れが発生しているとの判定を行う
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
屋内側である上流側から下流側へと排水するための排水流路を形成する排水管路と、
前記排水流路の途中に設けられる排水マスと、
制御装置と、
を有し、
前記排水マスが、
水を貯留可能な貯留空間を有する排水マス本体と、
前記排水マス本体の内部に配され、前記上流側から前記下流側に向かう順方向への水の流れを許容し、前記順方向とは逆方向への水の流れを制限する逆流抑制弁と、
前記逆流抑制弁の動作状態を検知する検知装置と、
を備えており、
前記逆流抑制弁が、水の流れを受けて変位可能な弁体、及び前記弁体を受ける弁座を有するものであり、
前記逆方向への水の流れを受けることにより前記弁体が到来すると想定される領域において前記弁体が検知されることを条件として、前記制御装置が、前記排水管路において前記逆方向への水の流れが発生しているとの判定を行うこと、を特徴とする排水システム。
【請求項2】
前記検知装置が、
前記弁体側及び前記弁座側の一方に設けられた検知部と、
前記弁体側及び前記弁座側の他方に設けられた被検知部と、
を有し、
前記逆方向への水の流れを受けることにより前記弁体が到来すると想定される位置において、前記被検知部を前記検知部によって検知可能であること、を特徴とする請求項1に記載の排水システム。
【請求項3】
前記被検知部が、金属製部材または金属製の材料を含有するものであり、
前記検知部が、前記被検知部をなす金属を検出可能なものであること、を特徴とする請求項2に記載の排水システム。
【請求項4】
前記排水マス本体が、
前記排水流路の前記上流側に対して配管接続される流入側接続口と、
前記排水流路の前記下流側に対して配管接続される流出側接続口と、
前記貯留空間の内側において前記流入側接続口に対して繋がる弁管と、
を有し、
前記弁管が、前記貯留空間に向けて開口した弁管開口部を有し、
前記弁座が、前記弁管開口部の開口端に設けられており、
前記弁体が、前記弁管開口部を開閉可能に設けられていること、を特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の排水システム。
【請求項5】
前記弁管開口部が、前記流出側接続口よりも上方にあること、を特徴とする請求項4に記載の排水システム。
【請求項6】
前記弁管が、上方から下方に向かうに従って、前記下流側から前記上流側に向かって傾斜するように形成された庇状部を有し、
前記弁管開口部が、前記庇状部に設けられており、
前記弁体が、前記弁管開口部の上端側において軸支され、下端側において前記弁管開口部に対して近接離反する方向に揺動可能とされており、
前記弁体に対して前記下流側から前記上流側に向かう方向に水の流れが作用することにより、前記弁管開口部の前記開口端に設けられた前記弁座に対して前記弁体が近接すること、を特徴とする請求項4に記載の排水システム。
【請求項7】
前記検知装置が、被検知部、及び所定の検知範囲内に存在する前記被検知部を検知可能な検知部を有し、前記被検知部及び前記検知部のうち一方を前記弁体側に設け、他方を前記弁管側に設けたものであり、
前記逆流抑制弁が、前記弁体に対して前記下流側から前記上流側に向かう方向に水の流れが作用することにより、前記弁体の少なくとも一部が前記庇状部の内側に入り込むように動作するものであり、
前記被検知部及び前記検知部のうち前記弁管側に設けられるものが、前記庇状部に設けられており、
前記被検知部及び前記検知部のうち前記弁体側に設けられるものが、前記弁管の内側に入り込む部分に設けられていること、を特徴とする請求項6に記載の排水システム。
【請求項8】
前記排水流路が、
通常時用の排水流路を形成する第一流路と、
前記第一流路とは別系統であって汚水貯留槽に至るように形成された第二流路と、
を備えたものであり、
前記排水流路の中途に設けられた流路切替部材により、前記第一流路を水が流れる状態、及び前記第二流路を水が流れる状態に切り替え可能であり、
前記排水マスが、前記第一流路上であって、前記流路切替部材よりも下流側に設けられていること、を特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の排水システム。
【請求項9】
水を貯留可能な貯留空間を有する排水マス本体と、
前記排水マス本体の内部に配され、水の流れを受けて変位可能な弁体、及び前記弁体を受ける弁座を有し、上流側から下流側に向かう順方向への水の流れを許容し、前記順方向とは逆方向への水の流れを制限する逆流抑制弁と、
前記逆流抑制弁の動作状態を検知する検知装置と、
を備えており、
前記排水マス本体が、
前記上流側において配管接続される流入側接続口と、
前記下流側に対して配管接続される流出側接続口と、
前記貯留空間の内側において前記流入側接続口に対して繋がる弁管と、
を有し、
前記弁管が、前記貯留空間に向けて開口した弁管開口部を有し、
前記弁座が、前記弁管開口部の開口端に設けられており、
前記弁体が、前記弁管開口部を開閉可能に設けられており、
前記検知装置が、
前記弁体側及び前記弁座側の一方に設けられた検知部と、
前記弁体側及び前記弁座側の他方に設けられた被検知部と、
を有し、
前記逆方向への水の流れを受けることにより前記弁体が到来すると想定される位置において、前記被検知部を前記検知部によって検知可能であること、を特徴とする排水マス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水システム、及び排水マスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1に開示されているように、排水設備から下水本管に汚水を排出する汚水排出システムが提供されている。排水設備としては、例えば、トイレ、風呂、または台所の流し台などが挙げられる。この種の汚水排出システムは、排水設備と下水本管とをつなぐ排水管路を備えている。排水設備から流出する汚水は、排水管路を通じて下水本管へ排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の汚水排出システムでは、地震や津波などの災害により下水本管が破損した場合に、汚水の排出先を通常時とは他の流路へと切り替えることにより、汚水が逆流して屋内に流入したり、汚水が地上へと溢れたりすること(オーバーフロー)を抑制可能としている。このように、特許文献1の汚水排出システムは、災害時に排水設備の機能を確保することができる。
【0005】
ところで、特許文献1のような汚水排出システムを導入するにあたり、近年では大規模な災害も想定されることが増加し、下水本管の修復など復旧するまでの期間が長期化することが想定されている。ここで、汚水排水システムにより、通常時とは別系統の排水流路を設ける場合、貯留容量に限りがある貯留槽などが設けられる場合が多い。災害発生時に、屋内へ汚水が流入して不衛生な状態となることを回避するため、いち早く排水流路を切り替えることも考えられる。しかしながら、さほど緊急性を要しない状況であるにも関わらず、時期尚早に排水流路の切り替えが行われると、必要な時に貯留容量が限度を超えてしまい、せっかく設置した貯留槽等の設備が使えないなどの事態が想定される。また、その一方で、排水流路の切り替えるタイミングが遅いと、屋内への汚水流入や排水流路の切り替えが困難となることが懸念される。
【0006】
このように、非常時における排水流路の切り替えは、適切なタイミングで行うための対策が求められていた。その一方で、排水管路は地中に埋設されているため、外部からの視認が困難である。そのため、排水システムの状況をタイムリーに把握することは困難であった。従って、特許文献1の汚水排出システムのように、排水流路の切り替え機能を備えたものにおいては、汚水の逆流を検知できるようにすることが望まれている。
【0007】
また、特許文献1の汚水排出システムのように排水流路の切り替え機能を備えたものに限らず、排水流路の切り替え機能を備えていない排水システムにおいても、汚水の逆流に対する適切な対策を講じるべく、汚水の逆流を適切なタイミングにおいて検知できることが望まれている。
【0008】
そこで本発明は、屋内側である上流側から下流側へと排水するための排水流路を形成する排水管路において、水の逆流が発生したことを適切に検知可能な排水システム、及び及び当該排水システム等において好適に利用可能な排水マスの提供を目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上述した課題を解決すべく提供される本発明の排水システムは、屋内側である上流側から下流側へと排水するための排水流路を形成する排水管路と、前記排水流路の途中に設けられる排水マスと、制御装置と、を有し、前記排水マスが、水を貯留可能な貯留空間を有する排水マス本体と、前記排水マス本体の内部に配され、前記上流側から前記下流側に向かう順方向への水の流れを許容し、前記順方向とは逆方向への水の流れを制限する逆流抑制弁と、前記逆流抑制弁の動作状態を検知する検知装置と、を備えており、前記逆流抑制弁が、水の流れを受けて変位可能な弁体、及び前記弁体を受ける弁座を有するものであり、前記逆方向への水の流れを受けることによって前記弁体が到来すると想定される領域において前記弁体が検知されることを条件として、前記制御装置が、前記排水管路において前記逆方向への水の流れが発生しているとの判定を行うこと、を特徴とするものである。
【0010】
本発明の排水システムは、排水流路の途中に設けられる排水マスをなす排水マス本体の内部に設けられた逆流抑制弁が、水の流れを受けて変位可能な弁体を備えたものとされている。また、本発明の排水システムは、逆方向への水の流れを受けることによって弁体が到来すると想定される領域に弁体が到来したことが検知装置によって検知されることを条件として、報知装置によって報知動作を行えるものとされている。従って、本発明の排水システムは、屋内側である上流側から下流側へと排水するための排水流路を形成する排水管路において、水の逆流が発生したことを適切に検知できる。
【0011】
(2)上述した本発明の排水システムは、前記検知装置が、前記弁体及び前記弁座の一方に設けられた検知部と、前記弁体及び前記弁座の他方に設けられた被検知部と、を有し、前記逆方向への水の流れを受けることにより前記弁体が到来すると想定される位置において、前記被検知部を前記検知部によって検知可能であること、を特徴とするものであると良い。
【0012】
本発明の排水システムは、弁体及び弁座の一方に検知部を設け、他方に設けた被検知部を検知部によって検知可能なものを検知装置として採用している。また、本発明の排水システムが備える検知装置は、逆方向への水の流れを受けることにより弁体が到来すると想定される位置において、被検知部を検知部によって検知可能とされている。そのため、本発明の排水システムは、被検知部を検知部によって検知可能な状態になるまで弁体が変位したタイミングにおいて、排水管路において水の逆流が発生したことを適切に検知できる。
【0013】
(3)上述した本発明の排水システムは、前記被検知部が、金属製部材または金属製の材料を含有するものであり、前記検知部が、前記被検知部をなす金属を検出可能なものであると良いこと、を特徴とするものであると良い。
【0014】
本発明の排水システムは、かかる構成とすることにより、弁体の動作に基づいて排水管路において水の逆流が発生したことを適切に検知できる。
【0015】
(4)上述した本発明の排水システムは、前記排水マス本体が、前記排水流路の前記上流側に対して配管接続される流入側接続口と、前記排水流路の前記下流側に対して配管接続される流出側接続口と、前記貯留空間の内側において前記流入側接続口に対して繋がる弁管と、を有し、前記弁管が、前記貯留空間に向けて開口した弁管開口部を有し、前記弁座が、前記弁管開口部の開口端に設けられており、前記弁体が、前記弁管開口部を開閉可能に設けられていること、を特徴とするものであると良い。
【0016】
本発明の排水システムは、かかる構成とすることにより、弁管に設けられた弁管開口部の位置まで排水マス本体の貯留空間に水が逆流して来た状態になったタイミングにおいて、水の逆流が生じていることを検知することができる。従って、本発明の排水システムは、弁管開口部を介して上流側に水が逆流する懸念が生じたタイミングにおいて、適切に水の逆流が生じていることを検知することができる。
【0017】
(5)上述した本発明の排水システムは、前記弁管開口部が、前記流出側接続口よりも上方にあること、を特徴とするものであると良い。
【0018】
本発明の排水システムは、かかる構成とすることにより、流出側接続口の高さよりも高い位置に設けられた弁管開口部の位置まで排水マス本体の貯留空間に水が逆流して来た状態になったタイミングにおいて、水の逆流が生じていることを検知することができる。従って、本発明の排水システムは、弁管開口部を介して上流側に水が逆流する懸念が生じたタイミングにおいて水の逆流が生じていることを検知することができる。
【0019】
(6)上述した本発明の排水システムは、前記弁管が、上方から下方に向かうに従って、前記下流側から前記上流側に向かって傾斜するように形成された庇状部を有し、前記弁管開口部が、前記庇状部に設けられており、前記弁体が、前記弁管開口部の上端側において軸支され、下端側において前記弁管開口部に対して近接離反する方向に揺動可能とされており、前記弁体に対して前記下流側から前記上流側に向かう方向に水の流れが作用することにより、前記弁管開口部の前記開口端に設けられた前記弁座に対して前記弁体が近接すること、を特徴とするものであると良い。
【0020】
本発明の排水システムは、上述したようにして弁体及び弁座が設けられているため、上流側から下流側に向かう方向への水の流れを許容しつつ、下流側から上流側に向かう方向への水の流れを確実に制限できる。
【0021】
(7)上述した本発明の排水システムは、前記検知装置が、被検知部、及び所定の検知範囲内に存在する前記被検知部を検知可能な検知部を有し、前記被検知部及び前記検知部のうち一方を前記弁体側に設け、他方を前記弁管側に設けたものであり、前記逆流抑制弁が、前記弁体に対して前記下流側から前記上流側に向かう方向に水の流れが作用することにより、前記弁体の少なくとも一部が前記庇状部の内側に入り込むように動作するものであり、前記被検知部及び前記検知部のうち前記弁管側に設けられるものが、前記庇状部に設けられており、前記被検知部及び前記検知部のうち前記弁体側に設けられるものが、前記庇状部の内側に入り込む部分に設けられていること、を特徴とするものであると良い。
【0022】
本発明の排水システムは、被検知部及び検知部のうち弁管側に設けられるものを庇状部に設けるとともに、弁体側に設けられるものを弁体において庇状部の内側に入り込む部分に設けられている。そのため、本発明の排水システムは、下流側から上流側に向かう方向に流れる水による作用により、弁体が庇状部の内側に入り込んだ状態になったときに、水が逆流していることを確実に検知することができる。
【0023】
(8)上述した本発明の排水システムは、前記排水流路が、通常時用の排水流路を形成する第一流路と、前記第一流路とは別系統であって汚水貯留槽に至るように形成された第二流路と、を備えたものであり、前記排水流路の中途に設けられた流路切替部材により、前記第一流路を水が流れる状態、及び前記第二流路を水が流れる状態に切り替え可能であり、前記排水マスが、前記第一流路上であって、前記流路切替部材よりも下流側に設けられていること、を特徴とするものであると良い。
【0024】
本発明の排水システムは、流路切替部材よりも下流側に設けられた排水マスにおいて排水流路における水の逆流が発生したことを検知できる。そのため、本発明の排水システムは、排水マスにおいて水の逆流が検知されたタイミングを基準として、排水マスよりも上流側にある流路切替部材により第二流路を水が流れる状態に切り替えることができる。これにより、本発明の排水システムは、水の逆流が想定される状況においても、流路切替部材を越えて上流側まで水が逆流するのを抑制しつつ、上流側から排出された水については第二流路を介して汚水貯留槽に排水可能なものとすることができる。
【0025】
(9)本発明の排水マスは、水を貯留可能な貯留空間を有する排水マス本体と、前記排水マス本体の内部に配され、水の流れを受けて変位可能な弁体、及び前記弁体を受ける弁座を有し、上流側から下流側に向かう順方向への水の流れを許容し、前記順方向とは逆方向への水の流れを制限する逆流抑制弁と、前記逆流抑制弁の動作状態を検知する検知装置と、を備えており、前記排水マス本体が、前記上流側において配管接続される流入側接続口と、前記下流側に対して配管接続される流出側接続口と、前記貯留空間の内側において前記流入側接続口に対して繋がる弁管と、を有し、前記弁管が、前記貯留空間に向けて開口した弁管開口部を有し、前記弁座が、前記弁管開口部の開口端に設けられており、前記弁体が、前記弁管開口部を開閉可能に設けられており、前記検知装置が、前記弁体側及び前記弁座側の一方に設けられた検知部と、前記弁体側及び前記弁座側の他方に設けられた被検知部と、を有し、前記逆方向への水の流れを受けることにより前記弁体が到来すると想定される位置において、前記被検知部を前記検知部によって検知可能であること、を特徴とするものである。
【0026】
本発明の排水マスは、水の流れを受けて変位可能な弁体を備えつつ、逆方向への水の流れを受けることにより、弁管に設けられた弁管開口部の位置まで排水マス本体の貯留空間に水が逆流して来た状態になったタイミングにおいて、水の逆流が生じていることを検知することができる。従って、本発明の排水マスは、弁管開口部を介して上流側に水が逆流する懸念が生じたタイミングにおいて、適切に水の逆流が生じていることを検知することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、屋内側である上流側から下流側へと排水するための排水流路を形成する排水管路において、水の逆流が発生したことを適切に検知可能な排水システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の実施形態に係る排水システムを示す模式図である。
【
図2】
図1の排水システムに用いられている排水マスの弁体が開状態である状態を示す断面図である。
【
図3】
図1の排水システムに用いられている排水マスの弁体が閉状態である状態を示す断面図である。
【
図4】
図1の排水システムの通常時の排水流路を示す模式図である。
【
図5】
図1の排水システムの切替促進報知が行われる際の模式図である。
【
図6】
図1の排水システムの非常時の排水流路を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態に係る排水システム10について具体的に説明する。
図1は、排水システム10を示す模式図である。
【0030】
排水システム10は、屋内2側である上流側から下流側へと汚水を排水させるものである。より具体的には、排水システム10は、建物1の屋内2に配置された排水設備3から建物1の外部の下水本管4に汚水を排水するものである。
【0031】
なお、以下の説明における汚水の流路において、屋内2側を単に「上流側」と、下水本管4側を単に「下流側」と記載して説明する場合がある。
【0032】
また、「建物」とは、少なくとも壁を有する建築物のことを指し、住宅、商業施設、工場、校舎および倉庫などが含まれる。また、「屋内」には、屋根および壁に囲まれた床上の空間はもちろんのこと、床下の空間も含まれる。平面視において、壁に囲まれた部分は「建物内」である。
【0033】
「汚水」とは、例えばトイレ、風呂および台所の流し台などから排出される水であり、そのままでは河川に放流させることができないものである。「排水設備」とは、汚水を排出する設備のことである。「排水設備」は、例えば、トイレ、風呂または台所の流し台などが挙げられる。
【0034】
図1では、一つの建物1内に設けられた一つの排水設備3を図示しているが、建物1および排水設備3の数は特に限定されない。排水システム10が設置される建物1の数は、一つであってもよいし、複数であってもよい。また、屋内2には、一つの排水設備3のみが設けられていてもよく、複数の排水設備3が設けられていてもよい。
【0035】
また、下水本管4は、汚水を汚水処理場(図示せず)に導く管である。建物1の排水設備3から流出する汚水は、通常時においては下水本管4に排出される。
【0036】
本明細書における「排水マス」には、汚水マス、雨水マス、公共マスなどの各種の排水マスが含まれる。また、本明細書における「排水マス」には、マス本体のほか、点検筒や蓋体を含むものとして説明する。
【0037】
図1に示すとおり、排水システム10は、排水管路20、切替式排水マス30(流路切替部材)、排水マス60、汚水貯留槽110、制御装置120、及び報知装置130を有している。
【0038】
排水システム10は、排水管路20により形成される汚水の排水流路Cの中途に、切替式排水マス30(流路切替部材)、及び排水マス60を配置したものとされている。
【0039】
以下、排水システム10の各構成について説明し、次いで排水システム10による排水流路Cの切り替え、及び排水流路Cの切り替えを適切なタイミングで検知して報知する動作について説明する。
【0040】
排水管路20は、汚水の流路である排水流路Cを形成している。排水管路20は、複数の配管を組み合わせることにより、汚水の流路となる排水流路Cを形成している。
【0041】
また、排水管路20は、排水設備3から排出された汚水を下水本管4に排水させるための排水流路Cとして、第一流路c1を選択可能としている。さらに、排水管路20は、排水設備3から排出された汚水を汚水貯留槽110に排出させる排水流路Cとして、第一流路c1とは別系統の第二流路c2を選択可能としている。
【0042】
なお、「管路」とは、水を流通させる通路を意味する。「管路」は、一本の配管により構成されていてもよく、本実施形態のように、複数本の配管とそれらを接続する継手とにより構成されていてもよい。また、「排水流路」とは、水(汚水等)が排出される際に辿る経路を意味する。
【0043】
図1に示すとおり、排水管路20は、上流側配管22、第一配管24、第二配管26、及び下流側配管28を備えている。上流側配管22は、排水設備3と切替式排水マス30とを接続している。第一配管24は、切替式排水マス30と排水マス60とを接続している。第二配管26は、切替式排水マス30と汚水貯留槽110とを接続している。下流側配管28は、排水マス60と下水本管4とを接続している。
【0044】
排水管路20は、上流側配管22、第一配管24、及び下流側配管28により、排水設備3から排出された汚水を下水本管4に排水させる第一流路c1を選択可能としている。また、排水管路20は、上流側配管22、及び第二配管26により、排水設備3から排出された汚水を汚水貯留槽110に排水させる第二流路c2を選択可能としている。
【0045】
排水管路20は、汚水を第一流路c1により下水本管4に排出させる通常時用の排水流路Cとして、第一流路c1を選択することができる。また、排水管路20は、下水本管4や下流側配管28、あるいは第一配管24等の破損など、汚水が屋内2側へ逆流するおそれがある場合の非常時用の排水流路Cとして、汚水を汚水貯留槽110に排出させる第二流路c2を選択することができる。
【0046】
排水システム10は、上流側配管22、第一配管24、及び第二配管26に対して接続された切替式排水マス30(流路切替部材)を有する。排水システム10は、切替式排水マス30を切り替え操作することにより、第一流路c1と第二流路c2との間で排水経路を選択して切り替え可能とされている。具体的には、排水システム10は、切替式排水マス30を切り替え操作することにより、上流側配管22と第一配管24とが連通し、上流側配管22と第二配管26とが非連通の状態とすることができる。このような状態とすることにより、第一流路c1を介して下水本管4に対して排水可能な状態とすることができる。一方、排水システム10は、切替式排水マス30を切り替え操作することにより、上流側配管22と第二配管26とが連通し、上流側配管22と第一配管24とが非連通の状態とすることができる。このような状態とすることにより、第二流路c2を介して汚水を汚水貯留槽110に排出可能な状態とすることができる。
【0047】
図1に示すとおり、切替式排水マス30は、排水マス60よりも上流側に設けられている。また、切替式排水マス30は、建物1の外の地中に埋設されている。切替式排水マス30を形成する材料は、特に限定されない。本実施形態では、切替式排水マス30を形成する材料として、樹脂材料が用いられている。ここで、切替式排水マス30を形成する樹脂材料として、塩化ビニル樹脂またはポリプロピレン樹脂等が挙げられる。また、切替式排水マス30を形成する樹脂材料として塩化ビニル樹脂を用いる場合には、硬質塩化ビニル樹脂を好適に用いることができる。
【0048】
本実施形態で示す例では、第一配管24において切替式排水マス30と排水マス60との間には、他の排水マスは設けられていない。なお、本発明の排水システムは、切替式排水マス30よりも上流側に一又は複数の排水マスを設けてもよい。また、本発明の排水システムは、複数の排水設備から排出される汚水が合流する部分に切替式排水マスを設けてもよい。また、本発明の排水システムは、流路切替部材として、継手など他の手段によるものとしてもよい。
【0049】
図2や
図3に示すように、排水マス60は、切替式排水マス30よりも排水流路Cの下流側に設けられている排水マスである。排水マス60は、切替式排水マス30よりも下流側に設けられる排水マスであれば、汚水マス、雨水マスなどいかなる種類の排水マスであってもよい。また、排水マス60を形成する材料は、特に限定されない。本実施形態では、排水マス60を形成する材料として、樹脂材料が用いられている。ここで、排水マス60を形成する樹脂材料として、塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂、強化繊維プラスチックなどの樹脂素材が挙げられる。また、排水マス60を形成する樹脂材料として塩化ビニル樹脂を用いる場合には、硬質塩化ビニル樹脂を好適に用いることができる。なお、本発明の排水システムの排水マスは、マス本体や点検筒をコンクリートなどにより形成したものであってもよい。
図2や
図3に示すように、排水マス60は、排水マス本体70と、弁管80と、逆流抑制弁90と、検知装置100とを備えている。
【0050】
排水マス本体70は、略円筒状であって有底の部材である。排水マス本体70は、周面に設けられた流入側接続口72及び流出側接続口74と、軸線方向上端側に設けられた端部開口76とを備えている。端部開口76には、図示しない蓋体が着脱自在に取り付けられる。
【0051】
排水マス本体70の高さや端部開口76の開口径、開口形状等については、排水マス60の用途や設置場所等に応じて適宜選択可能である。本実施形態では、排水マス本体70の断面形状及び端部開口76の開口形状のいずれも、略円形とされている。また、排水マス本体70は、端部開口76から流入側接続口72や流出側接続口74までの高さが、一般的な体型である成人の腕の長さと同等、あるいはそれよりも大きいものとされている。
【0052】
流入側接続口72は、排水マス本体70の周面を貫通するように形成された開口である。流入側接続口72には、流入側接続部72aが設けられている。流入側接続部72aは、排水マス60が設置される排水流路Cにおいて、排水マス60に対して上流側に位置する配管が接続される部分である。本実施形態では、流入側接続部72aには、第一配管24が接続される。流入側接続部72aは、排水マス本体70の周面から外側に向けて突出するように形成された筒状の部位である。具体的には、流入側接続部72aは、排水マス本体70の軸線方向に対して交差する方向(本実施形態では略直交する方向)に向けて突出している。
【0053】
流入側接続部72aは、流入側接続口72を介して排水マス本体70の内部に形成された貯留空間70aと連通している。また、流入側接続部72aは、流入側接続口72に対して水密に接続されている。そのため、排水マス60は、上流側から排出されてきた排水を、流入側接続部72aを介して排水マス60の内部に導入することができる。
【0054】
流入側接続口72には、上述した流入側接続部72aに加え、排水マス本体70の内側において後に詳述する弁管80を接続可能とされている。また、流入側接続口72は、流出側接続口74よりも上方側に設けられている。
【0055】
流出側接続口74は、流入側接続口72と略同一の構成とされている。具体的には、流出側接続口74は、排水マス本体70の周面を貫通するように形成された開口である。流出側接続口74には、流出側接続部74aが設けられている。
【0056】
流出側接続部74aは、排水マス60に対して下流側にある配管が接続される部分である。本実施形態では、流出側接続部74aには、下流側配管28が接続されている。流出側接続部74aは、排水マス本体70の周面から外側に向けて突出した筒状の部位である。具体的には、流出側接続部74aは、排水マス本体70の軸線方向に対して交差する方向(本実施形態では略直交する方向)に向けて突出している。上述した流入側接続部72aに対する流出側接続部74aの配置は、排水マス60の用途や設置場所等に応じて適宜選択可能である。本実施形態では、流出側接続部74aは、上述した流入側接続部72aに対して、排水マス60の径方向反対側(周方向に180度ずれた位置)に設けられている。
【0057】
流出側接続部74aは、流出側接続口74を介して排水マス本体70の内部に形成された貯留空間70aと連通している。また、流出側接続部74aは、流出側接続口74に対して水密に接続されている。そのため、排水マス60は、流入側接続口72を介して排水マス60の内部に導入された排水を、流入側接続部72aを介して下流側に排出することができる。
【0058】
弁管80は、上述した流入側接続口72あるいは流出側接続口74に対して排水マス本体70の内側から装着される部材である。本実施形態の排水マス60において、弁管80は、流入側接続口72に装着することにより流入側接続口72に連通するものとされている。また、弁管80には、フィルターを備えたものや、オリフィスを備えたもの、逆流防止機能を備えたものなど、適宜のものを選択することができる。本実施形態では、弁管80として、逆流防止機能を備えたものが採用されている。具体的には、
図2や
図3に示すように、弁管80は、弁管本体82と、着脱部84とを備えている。
【0059】
弁管本体82は、弁管80の主要部をなす略筒状の部分である。弁管本体82は、一端部(基端部)において着脱部84と連通しており、他端部(先端部)において弁管開口部82aが開口している。また、弁管本体82は、排水マス60に取り付けて側面視した状態において、他端部(先端部)の端面(弁管開口部82aの開口縁)が斜め下方に傾斜するように形成されている。すなわち、弁管本体82は、他端部(先端部)が、上方から下方に向かうに従って、弁管80における下流側から上流側に向かって傾斜するように傾斜するように形成された庇状部82bを有する。弁管開口部82aは、庇状部82bの端部において、排水マス本体70の内部に形成された貯留空間70aに向けて開口したものとされている。従って、弁管本体82は、排水マス60に弁管80を取り付けた状態において、他端部(先端部)に設けられた弁管開口部82aが斜め下方に向けて開口するように形成されたものとされている。また、弁管開口部82aは、流出側接続口74よりも上方において開口している。
【0060】
着脱部84は、弁管本体82の基端部において連通するように形成された筒状の部分である。着脱部84は、上述した流入側接続口72に対して排水マス本体70の内側から差し込んで連結可能なものとされている。本実施形態において着脱部84は、例えばバヨネット方式の着脱構造等によって、流入側接続口72に対して着脱可能でありつつ、水流等の影響下においても外れにくいものとされている。
【0061】
逆流抑制弁90は、排水マス本体70の内部に配される弁である。逆流抑制弁90は、上流側から下流側に向かう順方向への水の流れを許容し、順方向とは逆方向への水の流れを制限するものである。逆流抑制弁90は、弁座92及び弁体94を有する。
【0062】
弁座92は、上述した弁体94を受けるものである。弁座92は、弁管開口部82aの開口端そのもの、あるいは弁管開口部82aの開口端に別途設けた部材によって構成されている。
【0063】
弁体94は、水の流れを受けて変位可能なものである。弁体94は、上述した弁管80に設けられた弁管開口部82aを開閉可能なものとされている。弁体94は、弁管開口部82aの上端側において支軸96によって回動自在に軸支されている。弁体94は、支軸96よりも下方側の部分が、弁管開口部82aに対して近接離反する方向に揺動可能とされている。また、弁体94は、弁管開口部82aの開口領域の略全体を閉止可能な大きさ及び形状を有するものとされている。
【0064】
弁体94は、平時においては
図2に示すように重力の影響により略垂下された状態となる。これに対し、上述したように弁管本体82の先端部に設けられた弁管開口部82aは、端面が斜め下方に傾斜した状態で開口している。そのため、平時においては、弁管本体82の先端部に設けられた弁管開口部82aから弁体94が離れており、弁管開口部82aが開放された状態とされている。そのため、弁体94は、流入側接続口72を介して排水マス本体70の内側に向けて流れる水流を許容する機能を有している。
【0065】
これに対し、排水マス本体70に流出側接続部74aを介して排水が逆流するなどして、弁体94に対して弁管本体82に近づく方向への外力が作用すると、
図3に示すように、弁体94が揺動して弁管開口部82aが閉塞された状態になる。弁体94は、弁管開口部82aを閉塞する際に、一部が弁管本体82の庇状部82bに嵌まり込む。弁体94は、このようにして弁管開口部82aを閉塞することにより、排水マス本体70から流入側接続口72を介して排水マス本体70の外側に向けて逆流する水流を阻止、あるいは抑制する機能を有している。
【0066】
検知装置100は、上述した逆流抑制弁90の動作状態を検知するものである。検知装置100は、被検知部102、及び検知部104を有する。被検知部102及び検知部104は、これらが一対となって使用されることにより、逆流抑制弁90の動作状態を検知可能とされている。被検知部102及び検知部104のうち一方が逆流抑制弁90の弁体94側に設けられ、他方が弁座92側に設けられる。本実施形態では、被検知部102が弁体94側に設けられ、検知部104が弁座92側に設けられている。
【0067】
被検知部102は、検知部104によって検知可能な金属製の部材によって構成されている。被検知部102は、弁体94によって弁管開口部82aを閉塞する際に、弁体94において弁管80の内側に入り込む部分に設けられている。具体的には、被検知部102は、弁体94の天面94a側の位置に設けられている。被検知部102は、弁体94によって弁管開口部82aを閉塞するときに、弁管本体82の庇状部82bと対向する位置に設けられている。被検知部102をなす金属製の部材は、弁体94の外側に接着等によって固定したり、弁体94の内部に埋め込む等して、弁体94に設けることができる。本実施形態では、弁体94において中空状に形成された部分に、被検知部102をなす金属板(例えば鉄板)が収容している。このような構成とすることにより、検知部104によって十分検知可能な位置に配置しつつ、被検知部102が被水して錆びるのを抑制している。
【0068】
検知部104は、弁体94に設けられた被検知部102を所定の検知範囲内において検知可能なものである。検知部104は、逆方向(下流側から上流側)への水の流れを受けることにより弁体94が到来すると想定される領域において、弁体94に設けられた被検知部102を検知可能なものとされている。本実施形態では、被検知部102が金属製の部材によって構成されていることから、検知部104は、被検知部102をなす金属を検出可能なセンサによって構成されている。また、水の逆流が発生した場合に弁体94が弁管本体82の弁管開口部82a側に揺動し、被検知部102が庇状部82bに近づく。そのため、検知部104は、弁管本体82の庇状部82bに設けられている。検知部104は、後に詳述する制御装置120に対して有線あるいは無線により接続されている。これにより、検知装置100は、検知部104において被検知部102が検知された場合に、その旨を示す情報(弁体動作検知信号)を制御装置120に向けて出力可能とされている。
【0069】
汚水貯留槽110は、排水設備3から排出した汚水を貯留する槽である。
図1に示すように、汚水貯留槽110は建物1の外に配置されており、地中に埋設されている。
図1に示すように、汚水貯留槽110は、第二配管26を介して切替式排水マス30と接続されている。汚水貯留槽110には、第二流出口36から流れる汚水が貯留される。汚水貯留槽110は、内部に密封された空間を有している。汚水貯留槽110が密封式であることにより、汚水貯留槽110内の汚水から発生する悪臭が外部に漏れないようになっている。汚水貯留槽110は必ずしも地中に埋設されていなくてもよい。汚水貯留槽110は、地上に設置されていてもよい。
【0070】
制御装置120は、検知装置100から出力される情報(弁体動作検知信号)を受信し、受信した弁体動作検知信号に基づいて排水管路20における水の逆流が発生しているか否かの判定を行う。制御装置120は、検知部104によって被検知部102が検知されること(弁体動作検知信号を受信すること)を判定条件の一部又は全部として、排水管路20において水の逆流が発生しているとの判定を行う。本実施形態では、制御装置120は、弁体動作検知信号を受信することをもって、排水管路20において水の逆流が発生しているとの判定を行う。また、制御装置120は、排水管路20において水の逆流が発生しているとの判定を行った場合に、報知装置130を作動させるための制御を行う。
【0071】
報知装置130は、制御装置120により、排水管路20において水の逆流が発生しているとの判定が行われたときに、制御装置120による制御のもと作動して、切替促進報知を行うものである。具体的には、報知装置130は、切替式排水マス30の切替部材40を操作して、第二流路c2への切り替えを促す報知(切替促進報知)を行う。本実施形態では、報知装置130は、設備監視室8に設置された端末装置とされている。本実施形態の報知装置130は、音声の出力及び画像の表示により、切替促進報知を行う。
【0072】
なお、報知装置130は、音声等の音の出力や画像を表示する機能を有するものであれば、いかなる端末装置であってもよい。例えば、報知装置130は、弁体動作検知信号を受信して、音声により切替促進報知を行うスピーカとしてもよい。また、報知装置130は、弁体動作検知信号を受信して、視覚的に認識可能である情報により切替促進報知を行うものであってもよい。例えば、報知装置130は、ランプの点灯、警報音の出力、画像の表示などにより、切替促進報知を行うものであってもよい。
【0073】
また、本実施形態では、設備監視室8に制御装置120及び報知装置130を設置した例を示したが、本発明の排水システムはこれに限定されない。例えば、本発明の排水システムは、報知装置130を設備監視室8とは別の場所に設けたものであってもよい。なお、設備監視室8は、建物1の屋内2に設置されているものであってもよいし、建物1とは別の場所に設置されているものであってもよい。
【0074】
<通常時及び非常時の排水流路と切替促進報知が行われるタイミング>
次に、
図4~
図6を参照しつつ、排水システム10の通常時及び非常時の排水流路Cと、切替促進報知が行われるタイミングについて説明する。排水システム10は、通常時は排水設備3から流出する汚水を下水本管4に排出する。また、排水システム10は、例えば地震や津波、洪水などの災害が発生して下水本管4の破損等が生じたとき(非常時)には、切替式排水マス30の排水流路Cを切り替えることにより、排水設備3から流出する汚水を汚水貯留槽110に排出できる状態にして使用できる。
【0075】
<通常時の排水流路>
図4に示すとおり、通常時では、排水システム10は、第一流路c1により排水設備3から排出された汚水を下水本管4へと排水する。より具体的に説明すると、第一流路c1を介して排水を行う場合には、切替式排水マス30の切り替え操作により、上流側配管22と第一配管24とが連通し、上流側配管22と第二配管26とが非連通の状態とされる。これにより、排水設備3から流出した汚水は、第一流路c1を介して下水本管4に対して排水される。下水本管4に流れた汚水は、汚水処理場などに流され処理される。
【0076】
<切替促進報知時>
図5に示すとおり、地震や津波、洪水などの災害が発生して、下水本管4あるいは排水管路の破損などにより排水マス60に汚水が逆流すると、汚水の逆流によって生じた水流により、排水マス60に設けられた逆流抑制弁90の弁体94が、弁管開口部82aを閉塞するように揺動する。弁体94がこのような動作を行うと、弁体94に設けられた被検知部102が、弁管本体82に設けられた検知部104によって検知され、検知装置100から制御装置120に向けて弁体動作検知信号が出力される。制御装置120は、弁体動作検知信号を受信することにより、排水管路20において水の逆流が発生しているとの判定を行い、報知装置130を作動させるための制御を行う。これを受けて、報知装置130は、切替式排水マス30の切替操作により排水流路Cを第二流路c2に切り替えることを促す切替促進報知を行う。
【0077】
具体的には、報知装置130は、弁体動作検知信号に基づいて作動し、管理者に認識し得る態様で切替促進報知を行う。切替促進報知は、例えば、設備監視室8に設置された端末装置である報知装置130により、「異常水位を検知しました。流路の切り替えを行ってください」などの音声の出力や画像の表示により行うことができる。これにより、管理者が流路の切り替えを行う必要があることを認識することができる。
【0078】
このように、排水システム10は、非常時において、通常時用の第一流路c1から別系統の第二流路c2に切り替えるための切り替え操作を切替式排水マス30に行う必要があることを、排水マス60において逆流が検知されたタイミングで報知することができる。
【0079】
<非常時の排水流路>
切替促進報知を受けて、管理者が切替式排水マス30の切り替え操作を行うと、
図6に示すように、排水流路Cは、排水設備3から排出された汚水を汚水貯留槽110に排出させる第二流路c2に切り替えられる。これにより、排水システム10は、排水設備3から流出した汚水を、上流側配管22から切替式排水マス30を経て汚水貯留槽110に到達するように排出することができる。
【0080】
以上説明した排水システム10は、以下の(1)~(10)に記載のように、特徴的な構成によって、特有の効果を奏することができる。
【0081】
(1)上述した排水システム10は、屋内2側である上流側から下流側へと排水するための排水流路Cを形成する排水管路20と、排水流路Cの途中に設けられる排水マス60と、制御装置120とを備えている。また、排水マス60は、水を貯留可能な貯留空間70aを有する排水マス本体70と、排水マス本体70の内部に配され、上流側から下流側に向かう順方向への水の流れを許容し、順方向とは逆方向への水の流れを制限する逆流抑制弁90と、逆流抑制弁90の動作状態を検知する検知装置100と、を備えている。また、逆流抑制弁90は、水の流れを受けて変位可能な弁体94、及び弁体94を受ける弁座92を有するものである。排水システム10は、逆方向への水の流れを受けることによって弁体94が到来すると想定される領域において弁体94が検知されることを条件として、制御装置120が、排水管路20において逆方向への水の流れが発生しているとの判定を行うものとされている。このような構成とされているため、排水システム10は、屋内2側である上流側から下流側へと排水するための排水流路Cを形成する排水管路20において、水の逆流が発生したことを適切に検知できる。
【0082】
(2)本実施形態の排水システム10は、検知装置100が、弁体94及び弁座92の一方に設けられた検知部104と、弁体94及び弁座92の他方に設けられた被検知部102と、を有し、逆方向への水の流れを受けることにより弁体94が到来すると想定される位置において、被検知部102を検知部104によって検知可能なものとされている。これにより、排水システム10は、被検知部102を検知部104によって検知可能な状態になるまで弁体94が変位したタイミングにおいて、排水管路20において水の逆流が発生したことを適切に検知できる。
【0083】
(3)本実施形態の排水システム10は、被検知部102が、金属製部材または金属製の材料を含有するものであり、検知部104が、被検知部102をなす金属を検出可能なものとされている。これにより、排水システム10は、弁体94の動作に基づいて排水管路20において水の逆流が発生したことを適切に検知できる。
【0084】
なお、本実施形態では、上記(3)のように、検知装置100として、金属製の被検知部102と、被検知部102をなす金属を検出可能な検知部104を備えたものとした例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、検知装置100は、弁体94の動作に連動して作動するスイッチ、弁体94の位置や動作を検知可能なセンサ、弁体94を撮影可能なカメラ等、上述した構成とは異なるものによって構成されても良い。
【0085】
(4)本実施形態の排水システム10においては、排水マス本体70が、排水流路Cの上流側に対して配管接続される流入側接続口72と、排水流路Cの下流側に対して配管接続される流出側接続口74と、貯留空間70aの内側において流入側接続口72に対して繋がる弁管80と、を有するものとされている。また、排水システム10は、弁管80が貯留空間70aに向けて開口した弁管開口部82aを有し、弁座92が弁管開口部82aの開口端に設けられており、弁体94が弁管開口部82aを開閉可能に設けられているものとされている。排水システム10は、このような構成とされているため、弁管80に設けられた弁管開口部82aの位置まで排水マス本体70の貯留空間70aに水が逆流して来た状態になったタイミングにおいて、水の逆流が生じていることを検知することができる。従って、排水システム10は、弁管開口部82aを介して上流側に水が逆流する懸念が生じたタイミングにおいて、適切に水の逆流が生じていることを検知することができる。
【0086】
なお、本実施形態では、上記(4)のように、弁管80の弁管開口部82aに対して弁体94を設けた例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、排水システム10は、弁管80を備えず、他の箇所に逆流抑制弁90の機能を発揮するものを設けた構成としても良い。
【0087】
(5)本実施形態の排水システム10は、弁管開口部82aが、流出側接続口74よりも上方にあるものとされている。これにより、排水システム10は、流出側接続口74の高さよりも高い位置に設けられた弁管開口部82aの位置まで排水マス本体70の貯留空間70aに水が逆流して来た状態になったタイミングにおいて、水の逆流が生じていることを検知することができる。従って、本実施形態の排水システム10は、弁管開口部82aを介して上流側に水が逆流する懸念が生じたタイミングにおいて水の逆流が生じていることを検知することができる。
【0088】
なお、本実施形態では、上記(5)のように、弁管開口部82aが流出側接続口74よりも上方にある構成を例示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、排水システム10は、弁管開口部82aが流出側接続口74と同程度の高さに設けられているものとすることも可能である。
【0089】
(6)本実施形態の排水システム10は、弁管80が、上方から下方に向かうに従って、下流側から上流側に向かって傾斜するように形成された庇状部82bを有するものとされている。また、排水システム10は、弁管開口部82aが、庇状部82bに設けられており、弁体94が、弁管開口部82aの上端側において軸支され、下端側において弁管開口部82aに対して近接離反する方向に揺動可能なものとされている。これにより、排水システム10は、弁体94に対して下流側から上流側に向かう方向に水の流れが作用した場合に、弁管開口部82aの開口端に設けられた弁座92に対して弁体94が近接するものとされている。本実施形態の排水システム10は、このような構成とされているため、上流側から下流側に向かう方向への水の流れを許容しつつ、下流側から上流側に向かう方向への水の流れを確実に制限できる。
【0090】
なお、本実施形態では、上記(6)のような構成とした例を示したが、本発明はこれ限定されるものではない。例えば、弁体94は、上述したように揺動するものに限らず、例えばスライド動作することによって開口部分を開閉するものや、いわゆるアンブレラ弁のようなものとすることも可能である。
【0091】
(7)本実施形態の排水システム10は、検知装置100が、被検知部102、及び所定の検知範囲内に存在する被検知部102を検知可能な検知部104を有し、被検知部102及び検知部104のうち一方を弁体94側に設け、他方を弁管80側に設けたものである。また、排水システム10が備える逆流抑制弁90は、弁体94に対して下流側から上流側に向かう方向に水の流れが作用することにより、弁体94の少なくとも一部が庇状部82bの内側に入り込むように動作するものとされている。排水システム10は、被検知部102及び検知部104のうち弁管80側に設けられるものが、庇状部82bに設けられており、被検知部102及び検知部104のうち弁体94側に設けられるものが、庇状部82bの内側に入り込む部分に設けられたものとされている。排水システム10は、このような構成とされているため、下流側から上流側に向かう方向に流れる水による作用により、弁体94が庇状部82bの内側に入り込んだ状態になったときに、水が逆流していることを確実に検知することができる。
【0092】
なお、本実施形態では、上記(7)のように、庇状部82bの内側に弁体94が入り込む形態のものを例示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、排水システム10は、庇状部82bを有さないもの等とし、弁体94が弁管80等に入り込まない構成のものとすることが可能である。
【0093】
(8)本実施形態の排水システム10は、排水流路Cが、通常時用の排水流路Cを形成する第一流路c1と、第一流路c1とは別系統であって汚水貯留槽110に至るように形成された第二流路c2と、を備えたものとされている。また、排水システム10は、排水流路Cの中途に設けられた切替式排水マス30により、第一流路c1を水が流れる状態、及び第二流路c2を水が流れる状態に切り替え可能であり、排水マス60が、第一流路c1上であって、切替式排水マス30よりも下流側に設けられたものとされている。排水システム10は、このような構成とされているため、切替式排水マス30よりも下流側に設けられた排水マス60において排水流路Cにおける水の逆流が発生したことを検知できる。そのため、排水システム10は、排水マス60において水の逆流が検知されたタイミングを基準として、排水マス60よりも上流側にある切替式排水マス30により第二流路c2を水が流れる状態に切り替えることができる。これにより、排水システム10は、水の逆流が想定される状況においても、切替式排水マス30を越えて上流側まで水が逆流するのを抑制しつつ、上流側から排出された水については第二流路c2を介して汚水貯留槽110に排水可能なものとすることができる。
【0094】
なお、本実施形態では、上記(8)のように排水流路Cとして第一流路c1及び第二流路c2を備え、いずれの流路を選択して排水するのかを切替式排水マス30によって選択可能なものを例示したが、本発明はこれに限定されない。排水システム10は、排水流路Cとしてさらに多数の流路を備えたものや、排水流路Cが第一流路c1のみで構成されたもの等としても良い。
【0095】
(9)本実施形態の切替式排水マス30(排水マス)は、水を貯留可能な貯留空間70aを有するマス本体32と、マス本体32の内部に配され、水の流れを受けて変位可能な弁体94、及び弁体94を受ける弁座92を有し、上流側から下流側に向かう順方向への水の流れを許容し、順方向とは逆方向への水の流れを制限する逆流抑制弁90と、逆流抑制弁90の動作状態を検知する検知装置100と、を備えており、マス本体32が、上流側において配管接続される流入側接続口72と、下流側に対して配管接続される流出側接続口74と、貯留空間70aの内側において流入側接続口72に対して繋がる弁管80と、を有し、弁管80が、貯留空間70aに向けて開口した弁管開口部82aを有し、弁座92が、弁管開口部82aの開口端に設けられており、弁体94が、弁管開口部82aを開閉可能に設けられており、検知装置100が、弁体94側及び弁座92側の一方に設けられた検知部104と、弁体94側及び弁座92側の他方に設けられた被検知部102と、を有し、逆方向への水の流れを受けることにより弁体94が到来すると想定される位置において、被検知部102を検知部104によって検知可能であること、を特徴とするものである。
【0096】
本実施形態の切替式排水マス30は、水の流れを受けて変位可能な弁体94を備えつつ、逆方向への水の流れを受けることにより、弁管80に設けられた弁管開口部82aの位置までマス本体32の貯留空間70aに水が逆流して来た状態になったタイミングにおいて、水の逆流が生じていることを検知することができる。従って、本発明の切替式排水マス30は、弁管開口部82aを介して上流側に水が逆流する懸念が生じたタイミングにおいて、適切に水の逆流が生じていることを検知することができる。
【0097】
以上、本発明の実施形態に係る排水システム10の特徴的構成及び特有の効果について説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲においてさらに様々な変形例が考えられる。例えば、上述の実施形態に係る排水システム10では、切替式排水マス30を建物1の敷地内に設けられた例を示したが、本発明の排水システムの切替式排水マスは、建物1の外に設けられていてもよい。
【0098】
また、上述の実施形態に係る排水システム10の切替式排水マス30は、樹脂素材を加工成形したものによるものとした例を示したが、本発明はこれに限定されない。上述のとおり、本発明の排水システムは、切替式排水マスのマス本体をコンクリートにより構成してもよい。また、本発明の排水システムは、流路切替部材に相当する構成として継手などを用いて、流路を切り替え可能としてもよい。
【0099】
なお、流路の切り替えの際に継手をつなぎ変える手法では、作業にあたってある程度の技能が必要であり、また、工具が必要である。そのため、本発明の排水システムは、上述の実施形態のように、マス本体に対して切替部材の位置を変位させるだけで流路の切り替えを行うことができるものであることが望ましい。本実施形態で説明した排水システム10の切替式排水マス30は、マス本体32に対する切替部材40を変位させるだけで、流路を容易に切り替えることができ、工具は特に不要である上に、高度な技能を要しない。そのため、排水システム10は、災害時など建物の住民自らが流路を切り替えなくてはならない場合に、住民自らが工具を用いなくても流路を容易に切り替えることができる。
【0100】
さらに、上述の実施形態に係る排水システム10では、汚水貯留槽110を設けた例を示したが、本発明の排水システムはこれに限定されない。例えば、本発明の排水システムは、第二流路により汚水を排出する場合に、下水本管4とは別系統の下水本管へと排出させてもよいし、これら以外の排出系統に汚水を排出するものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の排水システムは、汚水を排水する排水システムとして好適に採用することができる。
【符号の説明】
【0102】
2 :屋内
10 :排水システム
20 :排水管路
30 :切替式排水マス(流路切替部材)
60 :排水マス
70 :排水マス本体
70a :貯留空間
72 :流入側接続口
74 :流出側接続口
80 :弁管
82a :弁管開口部
82b :庇状部
90 :逆流抑制弁
92 :弁座
94 :弁体
100 :検知装置
102 :被検知部
104 :検知部
110 :汚水貯留槽
120 :制御装置
C :排水流路
c1 :第一流路
c2 :第二流路