(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172420
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】車両用前照灯の光軸制御装置、車両用前照灯の光軸制御方法、車両用前照灯システム
(51)【国際特許分類】
B60Q 1/115 20060101AFI20231129BHJP
F21V 9/40 20180101ALI20231129BHJP
F21Y 115/10 20160101ALN20231129BHJP
F21Y 115/30 20160101ALN20231129BHJP
F21W 102/13 20180101ALN20231129BHJP
【FI】
B60Q1/115
F21V9/40 400
F21Y115:10
F21Y115:30
F21W102:13
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084201
(22)【出願日】2022-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】弁理士法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】中村 成克
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 陸
【テーマコード(参考)】
3K339
【Fターム(参考)】
3K339AA02
3K339AA22
3K339BA01
3K339BA11
3K339CA01
3K339CA30
3K339DA01
3K339DA05
3K339FA09
3K339FA10
3K339GB01
3K339GB26
3K339HA13
3K339JA21
3K339KA06
3K339KA07
3K339KA23
3K339KA29
3K339LA02
3K339LA06
3K339MA10
3K339MB04
3K339MB05
3K339MC24
3K339MC41
3K339MC44
3K339MC45
3K339MC47
3K339MC49
3K339MC52
3K339MC54
3K339MC65
3K339MC77
3K339MC78
(57)【要約】 (修正有)
【課題】オートレベリング技術を採用した車両における運搬後の初期化処理の手間を軽減することができる車両用前照灯の光軸制御装置を提供する。
【解決手段】車両の前照灯の光軸を制御するための装置であって、コントローラ10は、車両のイグニッションスイッチがオフとなった際に車両の前後方向の傾きを示す車両角度等のデータを不揮発メモリ13に書き込むとともに、車両の現在位置を示す第1位置情報のデータを不揮発メモリ13に書き込み、車両のイグニッションスイッチがオンとなった際に、第1位置情報と第2位置情報とが一致していない場合には不揮発メモリ13に記憶されたデータに基づいて特定される車両角度又は所定値を現在の車両角度として用いて前照灯の光軸制御を行い、当該第1位置情報と第2位置情報とが一致している場合には加速度センサ12の出力に基づいて得られる加速度を用いて得られる車両角度によって前照灯の光軸制御を行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前照灯の光軸を制御するための装置であって、
前記車両に搭載された加速度センサと、
前記加速度センサと接続されたコントローラと、
前記コントローラと接続された不揮発メモリと、
を含み、
前記コントローラは、
前記車両のイグニッションスイッチがオフとなった際に、前記加速度センサの出力に基づいて得られる加速度若しくは当該加速度を用いて得られる前記車両の前後方向の傾きを示す車両角度のデータを前記不揮発メモリに書き込むとともに、前記車両の現在位置を示す第1位置情報のデータを前記不揮発メモリに書き込み、
前記車両のイグニッションスイッチがオンとなった際に、前記車両の現在位置を示す第2位置情報のデータと前記不揮発メモリに記憶された前記第1位置情報のデータとを比較し、当該第1位置情報と第2位置情報とが一致していない場合には前記不揮発メモリに記憶されたデータに基づいて特定される前記車両角度又は所定値を現在の前記車両角度として用いて前記前照灯の光軸制御を行い、当該第1位置情報と第2位置情報とが一致している場合には前記加速度センサの出力に基づいて得られる前記加速度を用いて得られる前記車両角度によって前記前照灯の光軸制御を行う、
車両用前照灯の光軸制御装置。
【請求項2】
前記コントローラは、前記車両に備わっており当該車両の現在位置を検出可能な機能を有する他装置若しくは他システムから前記第1位置情報及び前記第2位置情報の各データを取得する、
請求項1に記載の車両用前照灯の光軸制御装置。
【請求項3】
前記車両の現在位置を検出するセンサを更に含み、
前記コントローラは、前記センサの出力を用いて前記第1位置情報及び前記第2位置情報の各データを取得する、
請求項1に記載の車両用前照灯の光軸制御装置。
【請求項4】
前記コントローラは、前記イグニッションスイッチがオフとなった後も前記車両のバッテリから直接的に電力を供給可能に当該バッテリと接続されている、
請求項1~3の何れか1項に記載の車両用前照灯の光軸制御装置。
【請求項5】
前記バッテリと前記コントローラとの間に接続されており前記コントローラによって開閉を制御可能なスイッチを更に含み、
前記コントローラは、前記車両のイグニッションスイッチがオフとなった際に、前記加速度若しくは前記車両角度のデータと前記第1位置情報のデータを前記不揮発メモリへ書き込んだ後、前記スイッチを開けて前記バッテリから前記コントローラへの電圧の供給が遮断される状態とする、
請求項4に記載の車両用前照灯の光軸制御装置。
【請求項6】
車両の前照灯の光軸を制御するためにコントローラによって実行される方法であって、
前記コントローラは、前記車両に搭載された加速度センサと接続されるとともに不揮発メモリと接続されており、
前記方法は、
前記コントローラが、前記車両のイグニッションスイッチがオフとなった際に、前記加速度センサの出力に基づいて得られる加速度若しくは当該加速度を用いて得られる前記車両の前後方向の傾きを示す車両角度のデータを前記不揮発メモリに書き込むとともに、前記車両の現在位置を示す第1位置情報のデータを前記不揮発メモリに書き込むこと、
前記コントローラが、前記車両のイグニッションスイッチがオンとなった際に、前記車両の現在位置を示す第2位置情報のデータと前記不揮発メモリに記憶された前記第1位置情報のデータとを比較し、当該第1位置情報と第2位置情報とが一致していない場合には前記不揮発メモリに記憶されたデータに基づいて特定される前記車両角度又は所定値を現在の前記車両角度として用いて前記前照灯の光軸制御を行い、当該第1位置情報と第2位置情報とが一致している場合には前記加速度センサの出力に基づいて得られる前記加速度を用いて得られる前記車両角度によって前記前照灯の光軸制御を行うこと、
を含む、車両用前照灯の光軸制御方法。
【請求項7】
請求項1に記載の車両用前照灯の光軸制御装置と、当該制御装置に接続された前照灯と、を含む、車両用前照灯システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両用前照灯の光軸制御装置、車両用前照灯の光軸制御方法、車両用前照灯システムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両の前照灯の光軸を車両の姿勢変化に応じて調整するオートレベリング技術が知られている。このオートレベリング技術が採用された車両が生産工場で完成してから各地の販売店等へ配送される際には、オートレベリングを実行するためのコントローラへの電源供給を停止した状態で車両運搬専用車や船舶を用いて車両が運搬される。このため、生産工場からの出荷時と販売店等では車両の配置される路面の傾き、すなわち路面角度が異なるが、コントローラではこの路面角度の変化分が車両自体の姿勢変化を示す車両角度の変化分と誤認識される。このため、販売店等では車両角度の初期化処理が実施される(例えば、特開2019-116232号公報参照)。しかし、このような初期化処理が必要となることで販売店等での手間が増える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示に係る具体的態様は、オートレベリング技術を採用した車両における運搬後の初期化処理の手間を軽減することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[1]本開示に係る一態様の車両用前照灯の光軸制御装置は、車両の前照灯の光軸を制御するための装置であって、(a)前記車両に搭載された加速度センサと、(b)前記加速度センサと接続されたコントローラと、(c)前記コントローラと接続された不揮発メモリと、を含み、(d)前記コントローラは、(d1)前記車両のイグニッションスイッチがオフとなった際に、前記加速度センサの出力に基づいて得られる加速度若しくは当該加速度を用いて得られる前記車両の前後方向の傾きを示す車両角度のデータを前記不揮発メモリに書き込むとともに、前記車両の現在位置を示す第1位置情報のデータを前記不揮発メモリに書き込み、(d2)前記車両のイグニッションスイッチがオンとなった際に、前記車両の現在位置を示す第2位置情報のデータと前記不揮発メモリに記憶された前記第1位置情報のデータとを比較し、当該第1位置情報と第2位置情報とが一致していない場合には前記不揮発メモリに記憶されたデータに基づいて特定される前記車両角度又は所定値を現在の前記車両角度として用いて前記前照灯の光軸制御を行い、当該第1位置情報と第2位置情報とが一致している場合には前記加速度センサの出力に基づいて得られる前記加速度を用いて得られる前記車両角度によって前記前照灯の光軸制御を行う、車両用前照灯の光軸制御装置である。
[2]本開示に係る一態様の車両用前照灯システムは、上記した光軸制御装置とこれに接続される前照灯とを含む、車両用前照灯システムである。
【0006】
上記構成によれば、オートレベリング技術を採用した車両における運搬後の初期化処理の手間を軽減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、一実施形態の車両用前照灯システムの構成を示す図である。
【
図2】
図2は、ランプユニットの構成例を模式的に示す図である。
【
図3】
図3は、車両用前照灯システムのコントローラを実現するコンピュータの構成例を示す図である。
【
図4】
図4(A)、
図4(B)は、加速度に基づいて検出可能な角度の内容について説明するための図である。
【
図5】
図5は、イグニッションスイッチがオフとなった際の処理の流れを示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、起動時の処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1は、一実施形態の車両用前照灯システムの構成を示す図である。この車両用前照灯システム1は、自車両の姿勢に応じて光軸を可変に設定して光照射を行うものであり、コントローラ10、ジャイロセンサ11、加速度センサ12、不揮発メモリ13、電源回路14、スイッチ15、一対のランプユニット30L、30Rを含んで構成されている。なお、本実施形態ではコントローラ10、ジャイロセンサ11、加速度センサ12、不揮発メモリ13、電源回路14、スイッチ15を含んで光軸制御装置が構成されている。車両用前照灯システム1は、車載されたナビゲーションシステム2と通信可能に接続されている。ナビゲーションシステム2は、GPS(Global Positioning System)センサを備えており、GPSセンサによって検出される車両の現在位置に基づいて、車両位置周辺の地図をディスプレイに表示するとともに、ユーザにより設定された目的地までの経路案内を行う。
【0009】
コントローラ10は、車両用前照灯システム1の動作制御を行うためのものであり、例えば所定の動作プログラムを実行可能なコンピュータシステムを用いて構成される。ここでは、コントローラ10により実現される機能を理解しやすくするために機能ブロックを用いて説明する。コントローラ10は、状態管理部21、移動/停車特定部22、車両角度設定部23、光軸制御部24を有する。
【0010】
状態管理部21は、ナビゲーションシステム2から車両の現在位置を示す位置情報のデータ(ないし信号。以下において同様)を取得する。また、状態管理部21は、スイッチ15の動作を制御する。取得された位置情報のデータは、他の各種データとともに不揮発メモリ13に書き込まれる。また、位置情報のデータは移動/停車特定部22へ供給される。
【0011】
移動/停車特定部22は、状態管理部21によって取得される現在の車両位置に対応する位置情報(第2位置情報)と不揮発メモリ13に記憶された位置情報(第1位置情報)の各データを用いて、車両が運搬等によって移動したか、あるいは移動せずに継続して停車中であるかを特定するための処理を行う。
【0012】
車両角度設定部23は、移動/停車特定部22の特定結果に応じて、車両角度を設定する処理を行う。
【0013】
光軸制御部24は、車両角度設定部23によって設定される車両角度に応じて各ランプユニット30L、30Rの照射光の光軸を制御するための制御信号を生成し、各ランプユニット30L、30Rへ供給(出力)する。車両角度の演算方法としては公知の方法を用いることができる。
【0014】
ジャイロセンサ11は、角速度を検出してその大きさに応じたデータ又は信号を出力するセンサ(角速度センサ)である。本実施形態のジャイロセンサ11は、少なくとも車両のロール角又はピッチ角のいずれかに対応する角速度を検出できればよい。例えば、本実施形態のジャイロセンサ11は、少なくともロール方向及びピッチ方向のそれぞれに対応する角速度を検出可能であるとする。ジャイロセンサ11は、車両の所定位置(例えばグローブボックスの裏側等)に設置されている。なお、ロール方向は車両の前後方向軸回りに回転する方向であり、ピッチ方向は車両の左右方向軸回りに回転する方向である。
【0015】
加速度センサ12は、加速度を検出してその大きさに応じたデータ又は信号を出力するセンサである。本実施形態の加速度センサ12は、少なくとも車両の前後方向と上下方向のそれぞれに対応した加速度を検出することが可能である。なお、加速度センサ12の各軸自体は、必ずしも車両の前後方向と上下方向のそれぞれと必ずしも完全に一致していなくてよく、その場合には適宜検出値に対して補正処理を行えばよい。
【0016】
不揮発メモリ13は、コントローラ10と接続されており、コントローラ10による演算処理に必要なデータを不揮発に記憶する。不揮発メモリ13としては、例えばフラッシュメモリ、EEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)などを用いることができる。
【0017】
電源回路14は、車両に搭載されたバッテリ16とコントローラ10の間に接続されており、バッテリ16から得られる電圧を用いてコントローラ10へ駆動電圧を供給する。この電源回路14は、車両のイグニッションスイッチの操作状況を示す信号IGに基づいて動作する。すなわち、イグニッションスイッチがオンとなった際にコントローラ10への駆動電圧の供給を行い、イグニッションスイッチがオフになった際には駆動電圧の供給を停止する。
【0018】
なお、本明細書において「イグニッションスイッチ」とは、車両を始動させて車両に搭載された電子制御装置等への電源供給を開始させるためのスイッチのことをいう。イグニッションスイッチは、キーを差し込んでこれを回すタイプのものでもよいし、押しボタンによるものでもよい。車両の種類もエンジン車に限定されず、いわゆるハイブリッド車でもよいし、いわゆる電気自動車でもよい。
【0019】
スイッチ15は、コントローラ10とバッテリ16の間に接続されており、バッテリ16とコントローラ10との間の導通と非導通を切り替える。スイッチ15の開閉動作はコントローラ10によって制御可能である。スイッチ15が閉状態(導通)となった場合、バッテリ16の電圧(+B)は直接的にコントローラ10へ供給される。このような直接的な電圧供給の経路が存在することで、イグニッションスイッチがオフとなり電源回路14からの電圧供給が停止した際にもコントローラ10の動作を継続させることができる。また、コントローラ10によってスイッチ15を開状態(非導通)とすることで、不要時にはコントローラ10への電圧供給を解除することもできる。従って、バッテリ16の浪費を抑えることができる。
【0020】
各ランプユニット30L、30Rは、車両の前部の左右に1つずつ設けられ、車両の前方に光照射を行うためのものである。各ランプユニット30L、30Rとしては、公知の種々のランプユニットを採用することができる。例えば、光源や反射鏡等を有して構成される光源部と、光源部から放射される光の光軸(主進行方向)を車両のピッチ方向にて上下に調整するために光源部の向きを上下に調整するアクチュエータを有しており、機械的に光照射範囲を制御可能なランプユニットを用いることができる(後述の
図2参照)。なお、各ランプユニット30L、30Rとしては、例えば、光源と液晶素子を組み合わせて光照射範囲を制御可能な構成のランプユニット、複数のLEDを選択的に点灯/消灯させることで光照射範囲を制御可能な構成のランプユニット、レーザ素子からの光を可動反射板によって走査してその際にレーザ素子を高速に点消灯させることで光照射範囲を制御可能な構成のランプユニットなど、電子的に光照射範囲を制御可能なランプユニットを用いることもできる。
【0021】
図2は、ランプユニットの構成例を模式的に示す図である。一例としての本実施形態の前照灯ユニット30L、30Rは、それぞれ、光源31と、この光源31を収容するハウジング33と、光源31の前方(光の出射する方向)に配置されておりハウジング33に固定されているレンズ34を備える。ハウジング33の内側面には、光源31からの光を前方へ反射させる反射面が設けられている。アクチュエータ32は、光源31を収容するハウジング33と連結されており、このハウジング33の姿勢を変化させる。それにより、光源31からの光の光軸aを可変に設定することができる。例えば、車両の後部が相対的に下がっている場合には光軸aが下向きとなるように制御され、車両の前部が相対的に下がっている場合には光軸aが上向きとなるように制御される。その際にどの程度下向きまたは上向きにするかは車両角度に応じて設定される。
【0022】
図3は、車両用前照灯システムのコントローラを実現するコンピュータの構成例を示す図である。図示のコンピュータは、相互に通信可能に接続されたCPU(Central Processing Unit)201、ROM(Read Only Memory)202、RAM(Random Access Memory)203、記憶装置204、外部インタフェース(I/F)205を含んで構成されている。CPU201は、ROM202から読み出される基本制御プログラムをベースにして動作し、記憶装置204に格納されたプログラム(アプリケーションプログラム)206を読み出してこれを実行することにより、上記したコントローラ10の機能を実現する。RAM203は、CPU201の動作時に使用させるデータを一時的に記憶する。記憶装置204は、例えばハードディスク、ソリッドステートドライブなどの不揮発性の記憶装置であり、プログラム206など種々のデータを格納する。外部インタフェース205は、CPU201と外部装置を接続するインタフェースであり、例えば上記した不揮発メモリ13との接続に用いられる。
【0023】
図4(A)、
図4(B)は、加速度に基づいて検出可能な角度の内容について説明するための図である。
図4(B)に示すように、車両の生産工場等における出荷時点で加速度センサ12を用いて得られる加速度に基づく検出角度αには、生産工場等における路面の傾きを示す角度である路面角度θ
rと、加速度センサ12自体の車両への設置状態に応じた角度(初期位置を示す角度)である初期位置角度θ
intと、車両自体の前後方向の傾きに応じた角度である車両角度θ
vが含まれる。すなわち、α=θ
r+θ
int+θ
vと表せる。そして、路面角度θ
rと初期位置角度θ
intは既知であるので、検出角度αに基づいて車両角度θ
vが得られる。
【0024】
他方、車両が車両運搬専用車や船舶を用いて生産工場等から移動して他の場所(例えば販売店)に配置された場合、移動前後での路面角度の違いによる変化分が検出角度αに含まれるようになる。具体的には、生産工場等での路面角度をθ
r1とし、他の場所での路面角度の変化分をθ
r2とすると、
図4(B)に示すように検出角度αには、路面角度θ
r1と路面角度の変化分θ
r2と初期位置角度θ
intと車両角度θ
vが含まれる。すなわち、α=θ
r1+θ
r2+θ
int+θ
vと表せる。
【0025】
ここで、車両が車両運搬専用車や船舶を用いて生産工場等から他の場所へ移動した後、車両のイグニッションスイッチがオンになり、加速度センサ12により得られる加速度に基づく検出角度αの検出を行う場合に、従前では、路面角度の変化分θr2が車両角度θvの変化分と誤認識されるおそれがあった。この誤認識が生じると、車両角度θvに基づく各ランプユニット30L、30Rの光軸aの制御に誤差を生じることになる。このような場合、従前では、例えば車両が販売店へ移動した場合であればその販売店の係員が車両角度の誤差をリセットするための所定の作業を行うなどして車両角度を初期化していたが、この手間が煩雑であった。そこで、本実施形態では、以下に説明する制御を行うことにより、車両角度のリセット作業を不要としつつ路面角度の変化分を反映した光軸制御の精度向上を図ることを可能としている。
【0026】
図5は、イグニッションスイッチがオフとなった際の処理の流れを示すフローチャートである。この場合、コントローラ10はバッテリ16からスイッチ15を介して直接的に供給される電力を用いて動作する。
【0027】
具体的には、イグニッションスイッチがオフとなった場合に、コントローラ10の状態管理部21は、直前の情報を不揮発メモリ13に書き込む(ステップS101)。ここでいう直前の情報とは、例えばジャイロセンサ11の出力に基づいて得られる角速度や加速度センサ12の出力に基づいて得られる加速度の各データ、加速度に基づいて得られた角度のデータ、ナビゲーションシステム2から得られる位置情報のデータなどを含む。
【0028】
次に、コントローラ10の状態管理部21は、スイッチ15を開状態(非導通)に制御する(ステップS102)。これにより、バッテリ16からコントローラ10への電圧供給が停止する。これにより、コントローラ10は動作を停止し、電源オフ状態へ遷移する。
【0029】
図6は、起動時の処理の流れを示すフローチャートである。この処理は、イグニッションスイッチがオンとなった際に実行される。
【0030】
コントローラ10の状態管理部21は、各ソフトウェア機能の初期化を行うとともに(ステップS201)、各種機能の初期設定を行う(ステップS202)。
【0031】
次に、コントローラ10の状態管理部21は、不揮発メモリ13から車両角度、加速度、位置情報などの各データを読み出す(ステップS203)。
【0032】
次に、コントローラ10の情報管理部21は、ナビゲーションシステム2から現在の車両位置に対応する位置情報のデータを取得する(ステップS204)。例えば、車両内通信ネットワークの都合により即時に位置情報のデータを取得できない場合には、位置情報のデータが取得できるまでステップS204の処理が繰り返される。位置情報のデータが取得できた場合には、その位置情報(現在の位置情報)のデータと不揮発メモリ13から読み出された各データが移動/停車特定部22へ供給される。
【0033】
次に、移動/停車特定部22は、現在の位置情報(第2位置情報)と不揮発メモリ13から読み出された過去の位置情報(第1位置情報)とが一致する場合には(ステップS205;YES)、車両がイグニッションオフ中に搬送等がなく移動せずに停車を継続していたと特定する。また、移動/停車特定部22は、現在の位置情報と不揮発メモリ13から読み出された過去の位置情報とが一致しない場合には(ステップS205;NO)、車両がイグニッションオフ中に搬送等により停車を継続せずに移動したと特定する。
【0034】
車両が停車を継続していた場合、すなわち移動していないと特定された場合に、コントローラ10の車両角度設定部23は、現在の加速度センサ12の出力に基づいて得られる加速度のデータを用いて新たに車両角度を算出する(ステップS206)。ここでは、算出された車両角度に基づいて、光軸制御信号が生成されて各ランプユニット30L、30Rへ与えられ、光軸制御が実行される。
【0035】
他方、車両が移動したと特定された場合には、コントローラ10の車両角度設定部23は、不揮発メモリ13から読み出した車両角度(前回のイグニッションスイッチがオフ時の車両角度)をそのままイグニッションスイッチがオンとなった直後の車両角度として設定する(ステップS207)。この場合は、車両が車両運搬専用車等で運搬された可能性があり、適正な車両角度が算出できないからである。なお、ステップS207では、イグニッションスイッチがオフ時の車両角度をそのまま用いるのではなく車両角度を所定値(例えば0度などの初期値)にリセットしてもよい。設定された車両角度に基づいて、光軸制御信号が生成されて各ランプユニット30L、30Rへ与えられ、光軸制御が実行される。
【0036】
以上のような実施形態によれば、オートレベリング技術を採用した車両における運搬後の初期化処理の手間を軽減することが可能となる。詳細には、運搬後の販売店等でのイグニッションスイッチのオン時には、運搬前の車両角度を用いるか又は自律的に車両角度を所定値にリセットすることができる。従って、販売店等での手間をかけることなく、車両角度の変化による光軸ズレを防ぐことができる。
【0037】
また、本実施形態では、イグニッションスイッチがオフとなった際に、位置情報等のデータを不揮発メモリ13に書き込んだ後はバッテリからの直接的な電力供給も遮断されるので、バッテリの消耗を防ぐことができる。
【0038】
なお、本開示は上記した実施形態の内容に限定されるものではなく、本開示の要旨の範囲内において種々に変形して実施をすることが可能である。例えば、上記した実施形態では車両に備わっているナビゲーションシステムから車両の現在位置に対応する位置情報のデータを取得していたが、位置情報の取得元はこれに限定されない。例えば、車両に先進運転支援システム(ADAS:Advanced driver-assistance systems)といったシステムが備わっており当該システムから位置情報のデータを取得できる場合にはそのようにしてもよい。また、車両用前照灯システム自体がGPSセンサを備えるように構成し、当該GPSセンサを用いて位置情報のデータを取得してもよい。また、上記した実施形態では四輪車両を例にして説明したが本開示に係る技術的思想は四輪以外の種々の車両の前照灯においても同様にして適用可能である。さらに、本開示では電力の供給源をバッテリとしているが、車両にバッテリやオルタネーターから電力が供給される補助電源を有するものであれば、補助電源をバッテリとみなすことができるものである。
【0039】
本開示は、以下に付記する特徴を有する。
【0040】
(付記1)
車両の前照灯の光軸を制御するための装置であって、
前記車両に搭載された加速度センサと、
前記加速度センサと接続されたコントローラと、
前記コントローラと接続された不揮発メモリと、
を含み、
前記コントローラは、
前記車両のイグニッションスイッチがオフとなった際に、前記加速度センサの出力に基づいて得られる加速度若しくは当該加速度を用いて得られる前記車両の前後方向の傾きを示す車両角度のデータを前記不揮発メモリに書き込むとともに、前記車両の現在位置を示す第1位置情報のデータを前記不揮発メモリに書き込み、
前記車両のイグニッションスイッチがオンとなった際に、前記車両の現在位置を示す第2位置情報のデータと前記不揮発メモリに記憶された前記第1位置情報のデータとを比較し、当該第1位置情報と第2位置情報とが一致していない場合には前記不揮発メモリに記憶されたデータに基づいて特定される前記車両角度又は所定値を現在の前記車両角度として用いて前記前照灯の光軸制御を行い、当該第1位置情報と第2位置情報とが一致している場合には前記加速度センサの出力に基づいて得られる前記加速度を用いて得られる前記車両角度によって前記前照灯の光軸制御を行う、
車両用前照灯の光軸制御装置。
【0041】
(付記2)
前記コントローラは、前記車両に備わっており当該車両の現在位置を検出可能な機能を有する他装置若しくは他システムから前記第1位置情報及び前記第2位置情報の各データを取得する、
付記1に記載の車両用前照灯の光軸制御装置。
(付記3)
前記車両の現在位置を検出するセンサを更に含み、
前記コントローラは、前記センサの出力を用いて前記第1位置情報及び前記第2位置情報の各データを取得する、
付記1に記載の車両用前照灯の光軸制御装置。
(付記4)
前記コントローラは、前記イグニッションスイッチがオフとなった後も前記車両のバッテリから直接的に電力を供給可能に当該バッテリと接続されている、
付記1~3の何れか1つに記載の車両用前照灯の光軸制御装置。
(付記5)
前記バッテリと前記コントローラとの間に接続されており前記コントローラによって開閉を制御可能なスイッチを更に含み、
前記コントローラは、前記車両のイグニッションスイッチがオフとなった際に、前記加速度若しくは前記車両角度のデータと前記第1位置情報のデータを前記不揮発メモリへ書き込んだ後、前記スイッチを開けて前記バッテリから前記コントローラへの電圧の供給が遮断される状態とする、
付記4に記載の車両用前照灯の光軸制御装置。
(付記6)
車両の前照灯の光軸を制御するためにコントローラによって実行される方法であって、
前記コントローラは、前記車両に搭載された加速度センサと接続されるとともに不揮発メモリと接続されており、
前記方法は、
前記コントローラが、前記車両のイグニッションスイッチがオフとなった際に、前記加速度センサの出力に基づいて得られる加速度若しくは当該加速度を用いて得られる前記車両の前後方向の傾きを示す車両角度のデータを前記不揮発メモリに書き込むとともに、前記車両の現在位置を示す第1位置情報のデータを前記不揮発メモリに書き込むこと、
前記コントローラが、前記車両のイグニッションスイッチがオンとなった際に、前記車両の現在位置を示す第2位置情報のデータと前記不揮発メモリに記憶された前記第1位置情報のデータとを比較し、当該第1位置情報と第2位置情報とが一致していない場合には前記不揮発メモリに記憶されたデータに基づいて特定される前記車両角度又は所定値を現在の前記車両角度として用いて前記前照灯の光軸制御を行い、当該第1位置情報と第2位置情報とが一致している場合には前記加速度センサの出力に基づいて得られる前記加速度を用いて得られる前記車両角度によって前記前照灯の光軸制御を行うこと、
を含む、車両用前照灯の光軸制御方法。
(付記7)
付記1~5の何れか1つに記載の車両用前照灯の光軸制御装置と、当該制御装置に接続された前照灯と、を含む、車両用前照灯システム。
【符号の説明】
【0042】
10:コントローラ、11:ジャイロセンサ、12:加速度センサ、13:不揮発メモリ、14:電源回路、15:スイッチ、16:バッテリ、21:状態管理部、22:移動/停車特定部、23:車両角度設定部、24:光軸制御部、30L、30R:ランプユニット