IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ユニパルス株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-トルク検出器 図1
  • 特開-トルク検出器 図2
  • 特開-トルク検出器 図3
  • 特開-トルク検出器 図4
  • 特開-トルク検出器 図5
  • 特開-トルク検出器 図6
  • 特開-トルク検出器 図7
  • 特開-トルク検出器 図8
  • 特開-トルク検出器 図9
  • 特開-トルク検出器 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172421
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】トルク検出器
(51)【国際特許分類】
   G01L 3/10 20060101AFI20231129BHJP
【FI】
G01L3/10 311
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084203
(22)【出願日】2022-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】591156799
【氏名又は名称】ユニパルス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小林 璋好
(57)【要約】
【課題】トルク検出に際して、起歪部に加わる曲げモーメントにより生じる歪みを受感しないようにする。
【解決手段】Iカットの起歪部111を採用し、回転軸110に加えられる回転トルクを、起歪部111の平面部分111aに添着された感歪抵抗体Ga1,Ga2、及び、起歪部111の平面部分111bに添着された感歪抵抗体Gb1,Gb2の抵抗値の変化を取得することで検出する。かかる検出に際し、感歪抵抗体Ga1,Ga2については、起歪部111に加わる曲げモーメントにより生じる歪みを受感しない方向となるように、平面部分111aに添着される。また、かかる検出に際して、感歪抵抗体Gb1,Gb2についても、起歪部111に加わる曲げモーメントにより生じる歪みを受感しない方向となるように、平面部分111bに添着される。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転自在に支持され、弾性変形する起歪部を有する回転軸と、
前記起歪部に添着された感歪抵抗体と、を備え、
前記感歪抵抗体は、前記起歪部に加わる曲げモーメントにより生じる歪みを受感しない方向に添着され、
前記感歪抵抗体を含む回路の出力に基づいて、前記起歪部に作用するトルクを検出する、
ことを特徴とするトルク検出器。
【請求項2】
前記最大感度の方向は、前記起歪部のポアソン比から定められる、ことを特徴とする請求項1に記載のトルク検出器。
【請求項3】
前記起歪部は、前記回転軸の軸方向と平行な平面を有し、
前記感歪抵抗体は、前記平面に添着される、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のトルク検出器。





【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルク検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、回転軸のトルクを検出する様々な技術が提案されている。こうした提案技術の一つとして、ひずみゲージを用いて回転軸のねじれを直接的に測定するものがある。かかる技術では、回転軸に薄肉の起歪部を設け、当該起歪部にひずみゲージを添着する。そして、起歪部のねじれに伴ってひずみゲージが変形したときのフィラメントの抵抗値を測定することで、回転軸のトルクを検出するようになっている。
【0003】
ここで、回転軸のトルクを検出するために起歪部に添着されるひずみゲージの形状は、一方向回転のねじれだけでなく、逆方向回転のねじれについても精度良く検出するため、一般に、特許文献1の図7に示されるような一対のひずみゲージが用いられている(以下、従来例と呼ぶ)。かかる従来例の技術では、回転軸の軸方向に垂直な面による断面の外形が円状になる起歪部と、最大の感度方向が90度で交差する2つのひずみゲージとを備えている。このように2つのひずみゲージの感度方向を交差させたゲージは、2軸剪断ゲージと呼ばれ、各ゲージは、回転軸の中心線方向(軸方向)を対称にして対向するように間隔なく並べられて配置される。従来例の2軸剪断ゲージでは、対のひずみゲージは、回転軸の軸方向と垂直な方向な線に対して、対称に45度傾いている。以下では、従来例の2軸剪断ゲージを「45度傾斜の2軸剪断ゲージ」とも記す。また、45度傾斜の2軸剪断ゲージを構成するフィラメント(抵抗体)については、上位の概念として「45度傾斜の感歪抵抗体」とも記す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-077172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、ひずみゲージは、フィラメント(「感歪抵抗体」、「受感素子」)、ポリイミドなどを材料とするゲージベース等を備えている。そして、トルク検出器の使用環境の湿度が上昇すると、ポリイミドが周囲の水分を吸収し、ゲージベースの厚さが増す。
【0006】
ここで、回転軸の軸方向に垂直な面による断面が円状になる起歪部(「丸棒型起歪体」とも記す)に45度傾斜の2軸剪断ゲージを添着した場合、使用環境の湿度が上昇すると、ポリイミドが周囲の水分を吸収し丸棒の曲率に従って膨潤して、ゲージベースの厚さが増す。この結果、フィラメントに張力が付与される。この際、フィラメントが対称に丸棒型起歪部に添着されていれば、ゲージベースの膨張によるフィラメントに付与された張力の影響は補完される。しかしながら、この対称にわずかでもズレがあると、トルクが印加されていないときの出力値、つまりトルク検出器の零点出力が変動してしまい、トルク検出に際してトルク以外の邪魔な信号が含まれてしまう。このため、丸棒型起歪体を採用した場合には、高湿度の環境下で、トルクを精度良く検出することができないことがあった。
【0007】
こうした事態を回避するため、例えば、丸棒型起歪体を加工して、互いに180度異なる向きに、軸方向と平行な2面の平面部分を設けた起歪部にする。このとき、回転軸の軸方向に垂直な面による起歪部の断面は「I」状となる(以下、当該起歪部を「Iカットの起歪部」とも記す)。そして、各平面部分に、45度傾斜の2軸剪断ゲージを、対称線が軸方向と平行になるように添着する構成が考えられる。こうした構成を採用した場合には、ゲージベースが平面部分に添着されているため、ゲージベースの厚さが増しても2軸剪断ゲージのフィラメントに張力は付与されない。この結果、2軸剪断ゲージが平面部分に添着されているときには、円柱又は円筒に添着されている場合に比べて、湿度変化上昇に伴うフィラメントの伸縮が小さくなり、トルク検出に都合がよい。
【0008】
しかしながら、2つの平面部分を挟む起歪部の厚さは、起歪部の平面部分となっていない部分の径の比べて薄くなっている。当該薄い部分は、厚い部分に比べて曲げモーメントに対する断面係数が小さい。このため、回転軸の角度が、断面係数が小さくなる回転軸の角度周辺のときには、トルク検出に邪魔な曲げモーメントの影響を受けてしまう。この回転軸の回転角度の変化によって変動するトルク検出に邪魔な曲げモーメントの影響のために、測定トルクの弁別が困難になってしまう。ここで、2軸剪断ゲージの対のフィラメントが曲げモーメント軸に完全に対称であれば、曲げモーメントの影響を補完することができる。しかしながら、対のフィラメントを曲げモーメント軸に完全に対称にすることができない場合には、曲げモーメントの影響が回転角度によって変動するトルク検出に邪魔な信号として現れてしまう。したがって、正確なトルクを測定することができなくなる。
【0009】
このため、高湿度の環境下において精度良くトルクを検出することが可能な起歪部を採用した場合に、曲げモーメントの影響を少なくしてトルクを検出することができる技術が待望されている。かかる要請に応えることが、本発明が解決すべき課題の一つとして挙げられる。
【0010】
本発明は、上記の事情を鑑みてなされたものであり、トルク検出に際して、起歪部に加わる曲げモーメントにより生じる歪みを受感しないトルク検出器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、回転自在に支持され、弾性変形する起歪部を有する回転軸と、前記起歪部に添着された感歪抵抗体と、を備え、前記感歪抵抗体は、前記起歪部に加わる曲げモーメントにより生じる歪みを受感しない方向に添着され、前記感歪抵抗体を含む回路の出力に基づいて、前記起歪部に作用するトルクを検出する、ことを特徴とするトルク検出器である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係るトルク検出器の外観図である。
図2図1のトルク検出器の内部の図(その1)である。
図3図1のトルク検出器の内部の図(その2)である。
図4図1のトルク検出器の断面図である。
図5図2の回転軸の図である。
図6図5の回転軸の起歪部に添着される感歪抵抗体対の平面図である。
図7図6の感歪抵抗体を含んで構成されるホイートストンブリッジ回路及び周辺の構成図である。
図8図5の回転軸がねじれているときの起歪部の状態を概念的に説明するための図である。
図9図1のトルク検出器の曲げモーメントの評価を行っているときの外観図、及び、曲げモーメントが掛かっているときの起歪部の状態を概念的に説明するための図である。
図10】曲げモーメントが掛かっているときの起歪部の変形状態を概念的に説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、発明の実施形態を、添付図面を参照して説明する。なお、以下の説明及び図面においては、同一又は同等の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0014】
[構成]
図1には、一実施形態に係るトルク検出器100の外観図が示されている。当該トルク検出器100を説明する座標系(X,Y,Z)は、図示の通りに定義されている。
【0015】
図2及び図3には、トルク検出器100の内部の図が示されている。ここで、図2は、トルク検出器100の内部の斜視図である。また、図3(A)は、図2に示したトルク検出器100を+Z方向側から視た図であり、図3(B)は、図2に示したトルク検出器100を-Y方向側から視た図である。また、図4には、図1に示されるトルク検出器100の回転軸を通るXZ平面Pで切断したときのトルク検出器100の断面図が示されている。
【0016】
さらに、図5には、トルク検出器100の回転軸の部分の外観図が示されている。ここで、図5(A)は、図2に示したトルク検出器100における回転軸の部分を示した外観図であり、回転軸の+Z方向側が見えている。また、図5(B)は、図5(A)に示した回転軸を180度回転させた外観図であり、回転軸の-Z方向側が見えている。
【0017】
図1図5により総合的に示されるように、トルク検出器100は、回転軸(回転軸部材)110と、筐体121~123と、蓋部124とを備えている。当該回転軸110には、起歪部111が設けられている。また、トルク検出器100は、起歪部111に添着される感歪抵抗体Ga1,Ga2,Gb1,Gb2を備えている、さらに、トルク検出器100は、回転基板310、固定基板321,322、1次側コア211、2次側コア221等を備えている。
【0018】
上記の回転軸(回転軸部材)110は、軸方向AX(X方向)に沿って段階的に形状が変化する金属製の略円柱状の部材である。当該回転軸110の両端は、不図示の負荷装置及び駆動装置に接続することができるように、YZ平面に平行な筐体121,122から突出している。そして、回転軸110は、ベアリング131,132を介して筐体121,122に回転自在に支持される。
【0019】
当該回転軸110に設けられた起歪部111は、互いに平行な2つの平面部分111a,111bを有するIカット形状をしている。当該平面部分111a,111bは、軸方向AXと平行な線分を含む平面であり、回転軸110の中心軸から等距離の位置に設けられている。ここで、図5(A)では、平面部分111aが見えており、図5(B)では、当該平面部分111aに対向する平面部分111bが見えている。
【0020】
起歪部111の平面部分111aには、感歪抵抗体Ga1,Ga2(以下、一対の感歪抵抗体Ga1,Ga2を含んだ抵抗体を「感歪抵抗体対Ga」とも記す)が添着されている。起歪部111の平面部分111bには、感歪抵抗体Gb1,Gb2(以下、一対の感歪抵抗体Gb1,Gb2を含んだ抵抗体を「感歪抵抗体対Gb」とも記す)が添着されている。感歪抵抗体Ga1,Ga2,Gb1,Gb2の抵抗値の変化を取得することで、回転軸110に加えられる回転トルクを検出することができるようになっている。感歪抵抗体Ga1,Ga2の構成及び平面部分111aへの添着、感歪抵抗体Gb1,Gb2の構成及び平面部分111bへの添着については後述する。
【0021】
上記の筐体121~123は、トルク検出器100の内部の機器を覆い、当該機器を外界環境から保護する。筐体121,122は、YZ平面に平行な面状の部材であり、対となっている。筐体121,122には、回転軸110を通す穴が設けられている。そして、筐体121,122は、対となっているベアリング131,132を介して、回転軸110を回転自在に支持している。筐体123は、開口部を有する中空の直方体形状の部材である。
【0022】
上記の蓋部124は、XY平面に平行な面状の部材であり、筐体123の開口部を塞いでネジ止めされる。そして、蓋部124は、トルク検出器100の内部の機器を覆い、筐体121~123と一体となって、トルク検出器100の当該機器を外界環境から保護する。
【0023】
上記の回転基板310は、中心部に回転軸110を通す穴が設けられ、円環円盤状の形状をしている。そして、回転基板310は、回転軸110に通され、段差を有する回転軸ツバ112とナット125とによって挟み込まれて、回転軸110に固定される。回転基板310には、回転側光学素子331を含む複数の電気電子部品が実装されている。回転基板310の回転時の偏りがある場合には、回転軸110の回転トルク検出に影響を及ぼすため、回転バランスを考慮して複数の電気電子部品が配置されている。回転基板310に配置された回転側光学素子331は、赤外線の発光を行う。また、回転基板310には、増幅回路311、AD変換回路312、回転側CPU313(図8参照)などが設けられている。
【0024】
上記の固定基板321及び固定基板322は、不図示の基板対基板コネクタを介して電気的に接続されている。また、固定基板321及び固定基板322は、不図示のスペーサによって機械的にも配置関係が保たれるように接続固定されている。そして、固定基板322は、筐体121~123にネジ止めされて所定の位置に固定される。固定基板321には、固定側光学素子332が設けられ、回転側光学素子331が発光した赤外線の受光を行う。また、固定基板321,322には、スイッチング回路、固定側CPU、DA(Digital to Analogue)変換回路などが設けられている。
【0025】
固定基板322には、回転基板310へ非接触で給電をするための分離型回転変圧器の1次側が設けられている。すなわち、固定基板322には、両端に突部を設けた断面がコ字型をしたフェライトの1次側コア211が、コアフォルダ213を介して取り付けられている。そして、1次側コア211の両突部間に、銅線を巻回した1次側コイル212が設けられている。
【0026】
一方、分離型回転変換器の2次側は、回転軸110に設けられている。すなわち、回転軸110には、2次側コア221が、2次側コアスペース223を介して取り付けられている。そして、2次側コア221の外周に、銅線を巻回した2次側コイル222が設けられている。1次側コア211及び2次側コア221は、対向して配置されている。
【0027】
ここで、回転基板310への非接触給電について説明する。トルク検出器100は、コネクタ340を介して、不図示の外部の制御装置に接続されている。当該制御装置は、固定基板321,322と繋がっており、当該固定基板に設けられたスイッチング回路が、制御装置から供給された直流電流を交流電流に変換する。当該スイッチング回路は、1次側コイル212と結線されており、変換された交流電流を1次側コイル212へ出力する。スイッチング回路から1次側コイル212へ送られた交流電流は、1次側コイル212に交流磁場を発生させ、当該交流磁場が回転側の2次側コア221に透過することで、2次側コイル222に電流が誘起する。
【0028】
このため、2次側コイル222が、1次側コイル212から非接触で電力を受電できる。こうして誘起した電流は、回転基板310内の整流回路と安定化回路とによって直流電圧に変換され、当該直流電圧は、回転基板310に設けられた増幅回路311、AD変換回路312、回転側CPU313などに供給される。
【0029】
<感歪抵抗体Ga1,Ga2の構成>
図6(A)には、感歪抵抗体Ga1,Ga2を含む感歪抵抗体対Gaの平面図が示されている。図6(A)に示されるように、感歪抵抗体対Gaは、ベースとなるフィルム状の基材a0上に抵抗体及び配線がパターン形成されていて、感歪抵抗体Ga1と、感歪抵抗体Ga2と、端子部a1,a2,a3とを備えている。当該感歪抵抗体Ga1、感歪抵抗体Ga2及び端子部a1,a2,a3は、基材a0上(同一面上)に配設されている。感歪抵抗体Ga1、感歪抵抗体Ga2、端子部a1,a2,a3及び基材a0により、2軸剪断のひずみゲージが形成される。
【0030】
本実施形態では、基材a0は、例えば誘電体のポリイミドフィルムである。また、感歪抵抗体Ga1及び感歪抵抗体Ga2並びに端子部a1,a2,a3は、金属であり、例えば銅とニッケルとの合金を使用している。感歪抵抗体Ga1の一端は配線部を介して端子部a1に接続され、感歪抵抗体Ga1の他端は配線部を介して端子部a3に接続されている。感歪抵抗体Ga2の一端は配線部を介して端子部a2に接続され、感歪抵抗体Ga2の他端は配線部を介して端子部a3に接続されている。また、必要に応じて、感歪抵抗体Ga1,Ga2、配線部等には、上面から保護層に覆われている。
【0031】
感歪抵抗体Ga1及び感歪抵抗体Ga2のそれぞれは、歪み検出用に、平行に配設された複数の線状の抵抗体の折返しパターンを含んで構成され、当該抵抗体の線幅は比較的小さく設けられている。感歪抵抗体Ga1は、基材a0の領域Ra1に配設され、感歪抵抗体Ga2は、基材a0の領域Ra2に配設されていて、当該感歪抵抗体Ga1及び感歪抵抗体Ga2は、軸方向AXに平行な線分OBに対称に配設されている。
【0032】
感歪抵抗体Ga1は、方向pa1に最大感度で歪みを検出できるようにした細い線状の一本の抵抗体であり、折返しパターンによって、方向pa1と平行になるように線状の抵抗体が複数配設されている。感歪抵抗体Ga2は、方向pa2に最大感度で歪みを検出できるようにした細い線状の一本の抵抗体であり、折返しパターンによって、方向pa2と平行になるように線状の抵抗体が複数配設されている。方向pa1及び方向pa2の角度θ(回転軸の軸方向AXと垂直な方向な線方向からの角度)については、後述する。
【0033】
<感歪抵抗体Gb1,Gb2の構成>
図6(B)には、感歪抵抗体Gb1,Gb2を含む感歪抵抗体対Gbの平面図が示されている。図6(B)に示されるように、感歪抵抗体対Gbは、上述した感歪抵抗体対Gaと同様に構成され、フィルム状の基材b0上に抵抗体及び配線がパターン形成されていて、感歪抵抗体Gb1と、感歪抵抗体Gb2と、端子部b1,b2,b3とを備えている。当該感歪抵抗体Gb1、感歪抵抗体Gb2及び端子部b1,b2,b3は、基材b0上に配設されている。感歪抵抗体Gb1、感歪抵抗体Gb2、端子部b1,b2,b3及び基材b0により、2軸剪断のひずみゲージが形成される。
【0034】
本実施形態では、基材b0は、例えば誘電体のポリイミドフィルムである。感歪抵抗体Gb1及び感歪抵抗体Gb2並びに端子部b1,b2,b3は、金属であり、例えば銅とニッケルとの合金を使用している。感歪抵抗体Gb1の一端は配線部を介して端子部b1に接続され、感歪抵抗体Gb1の他端は配線部を介して端子部b3に接続されている。感歪抵抗体Gb2の一端は配線部を介して端子部b2に接続され、感歪抵抗体Gb2の他端は配線部を介して端子部b3に接続されている。また、必要に応じて、感歪抵抗体Gb1,Gb2、配線部等には、上面から保護層に覆われている。
【0035】
感歪抵抗体Gb1及び感歪抵抗体Gb2のそれぞれは、歪み検出用に、平行に配設された複数の線状の抵抗体の折返しパターンを含んで構成され、当該抵抗体の線幅は比較的小さく設けられている。感歪抵抗体Gb1は、基材b0の領域Rb1に配設され、感歪抵抗体Gb2は、基材b0の領域Rb2に配設されていて、当該感歪抵抗体Gb1及び感歪抵抗体Gb2は、軸方向AXに平行な線分OBに対称に配設されている。
【0036】
感歪抵抗体Gb1は、方向pb1に最大感度で歪みを検出できるようにした細い線状の一本の抵抗体であり、折返しパターンによって、方向pb1と平行になるように線状の抵抗体が複数配設されている。感歪抵抗体Gb2は、方向pb2に最大感度で歪みを検出できるようにした細い線状の一本の抵抗体であり、折返しパターンによって、方向pb2と平行になるように線状の抵抗体が複数配設されている。方向pb1及び方向pb2の角度θ(回転軸の軸方向AXと垂直な方向な線方向からの角度)については、後述する。
【0037】
<感歪抵抗体Ga1~Gb2を含むホイートストンブリッジ回路等の構成>
次いで、感歪抵抗体Ga1,Ga2,Gb1,Gb2を含むホイートストンブリッジ回路及び周辺回路の構成について、説明する。図7には、回転軸110の起歪部111に添着された感歪抵抗体Ga1,Ga2,Gb1,Gb2を含んで構成されるホイートストンブリッジ回路及び周辺回路の構成が示されている。図7に示されるように、当該回路は、ホイートストンブリッジ回路に加えて、上述した増幅回路311と、AD変換回路312と、回転側CPU313とを有している。
【0038】
ホイートストンブリッジ回路では、感歪抵抗体Ga1,Ga2を有する感歪抵抗体対Gaの端子部a4が、端子T1に接続され、感歪抵抗体Gb1,Gb2を有する感歪抵抗体対Gbの端子部b4が、端子T3に接続されている。また、感歪抵抗体Ga1の端子部a1が端子T4に接続され、感歪抵抗体Ga2の端子部a2が端子T2に接続されている。また、感歪抵抗体Gb1の端子部b1が端子T2に接続され、感歪抵抗体Gb2の端子部b2が端子T4に接続されている。
【0039】
回転軸110の起歪部111に添着された感歪抵抗体Ga1,Ga2,Gb1,Gb2を含むホイートストンブリッジ回路の出力が増幅回路311へ送られると、増幅回路311は、ホイートストンブリッジ回路から送られたアナログ信号を増幅して、AD変換回路312へ送る。次いで、AD変換回路312が、増幅回路311から送られたアナログ信号をデジタル信号に変換して、回転側CPU313へ送る。引き続き、回転側CPU313は、AD変換回路312から送られたデジタル信号を処理して、回転側光学素子331を発光させて、トルク値に対応するデータ信号を赤外光線により送信する。
【0040】
回転側光学素子331が発光した赤外光線は、固定側光学素子332により受信される。固定側光学素子332は、受信結果を固定側CPUへ送り、固定側CPUは、受信結果を処理して、DA(Digital to Analogue)変換回路へ送る。次いで、DA変換回路が、固定側CPUから送られたデジタル信号をアナログ信号に変換する。変換結果であるトルク値に対応するアナログ信号は、コネクタ340を介して外部の制御装置へ送られる。
【0041】
<回転軸110がねじれたときの平面部分111a,111bの状態>
ここで、回転軸110がねじれたときの起歪部111の平面部分111a,111b(感歪抵抗体対Ga,Gb)の状態について、説明する。図8には、図示した方向τに回転軸110がねじれたときの起歪部111の平面部分111aの状態が、概念的に示されている。点線は回転軸110がねじれる前の状態であり、実線は回転軸110がねじれたときの状態である。図8に示されるように、回転軸110が方向τにねじれると、点H2,U1を結ぶ線が伸びて、点H1,U2を結ぶ線が縮む。ここで、点線は回転軸110がねじれる前の状態であり、実線は回転軸110がねじれたときの状態である。ここで、[T]は伸びたことを表し、[C]は縮んだことを表している。起歪部111の平面部分111bについても、回転軸110が図示した方向τにねじれると、平面部分111aと同様な変形をする。
【0042】
上述した図6(A),(B)及び図8に示されるように、回転軸110が方向τにねじれて起歪部111が変形すると、当該変形に伴って、感歪抵抗体対Gaでは、感歪抵抗体Ga1を構成する複数の抵抗体が伸びて、感歪抵抗体Ga2を構成する複数の抵抗体が縮む。また、感歪抵抗体対Gbでは、感歪抵抗体Gb1を構成する抵抗体が伸びて、感歪抵抗体Gb2を構成する複数の抵抗体が縮む。
【0043】
<ラジアル評価試験>
図9(A)には、トルク検出器100の曲げモーメントの評価試験の例が示されている。図9(A)に示される曲げモーメントの評価試験では、テーブルTBL上にセットされたスタンド台STDにトルク検出器100を載置し、トルク検出器100の回転軸110にロッドRODを取り付ける。当該ロッドRODの先端部に、錘受け皿PLTに連結された錘連結部材JINを取り付けて、錘受け皿PLTを鉛直下方に吊り下げる。そして、当該錘受け皿PLTに乗せる錘WGTの重さを変えて、曲げモーメントの評価試験を行う。
【0044】
こうして曲げモーメントの評価が行われたときの回転軸110における起歪部111の状態を誇張した図が、図9(B)に示されている。このように、曲げモーメントが掛かると、起歪部111は図9(B)に示されるように変形する。
【0045】
このため、平面部分に添着する感歪抵抗体を45度傾斜の感歪抵抗体対にすると、トルク検出に際して、曲げモーメントによる起歪部111の歪み成分も混じって検出されてしまう。
【0046】
<方向pa1,pa2、及び、方向pb1,pb2の角度θ>
そこで、曲げモーメントによる起歪部111の歪み成分を受感しない方向pa1,pa2、及び、方向pb1,pb2の角度θ(回転軸の軸方向AXと垂直な方向な線方向からの角度)の算出方法について、説明する。
【0047】
曲げモーメントが掛かっているときの起歪部111における平面部分111aに添着された感歪抵抗体対Gaの概念図が、図10(A)に示されている。ここで、図10(A)において、点線の長方形は、起歪部111に曲げモーメントが掛かっていないときの感歪抵抗体対Gaの外周であり、実線の長方形は、起歪部111に曲げモーメントが掛かっているときの感歪抵抗体対Gaの外周である。このように、起歪部111に曲げモーメントが掛かると、感歪抵抗体対Gaの外周は、点H1,U1,B,U2,H2,H1を通る点線の外周から、点V1,W1,C,W2,V2,V1を通る実線の外周に変形する。すなわち、起歪部111の平面部分111aは、+X方向に伸びる。そして、領域Ra1及び領域Ra2は、軸方向AXに平行な線OBに対称に変形する。
【0048】
感歪抵抗体Ga1が配置される領域Ra1について、曲げモーメントによって変形する線分(V1-W1)上にある点をQ1とし、変形前の線分(H1-U1)上にある点をP1とする。そして、点Oと点Q1とを結んだ線分の長さと、点Oと点P1とを結んだ線分の長さとが等しくなる角度に、感歪抵抗体Ga1の最大感度方向が向くように、当該感歪抵抗体Ga1を配置する(図10(B)(iii),(iv)を参照)。
【0049】
感歪抵抗体Ga2が配置される領域Ra2について、曲げモーメントによって変形する線分(V2-W2)上にある点をQ2とし、変形前の線分(H2-U2)上にある点をP2とする。そして、点Oと点Q2とを結んだ線分の長さと、点Oと点P1とを結んだ線分の長さとが等しくなる角度に、感歪抵抗体Ga2の最大感度方向が向くように、当該感歪抵抗体Ga2を配置する(図10(B)(i),(ii)を参照)。
【0050】
ここで、感歪抵抗体Ga1及び感歪抵抗体Ga2は、軸方向AXに平行な線分OBに対称に配置されている。また、曲げモーメントによって、領域Ra1及び領域Ra2は、軸方向AXに平行な線OBに対称に変形する。このため、感歪抵抗体Ga1における点Oと点Q1とを結んだ線分の長さと、感歪抵抗体Ga2における点Oと点Q2とを結んだ線分の長さは同じになる(長さL1とする)。また、感歪抵抗体Ga1における点Oと点P1とを結んだ線分の長さと、感歪抵抗体Ga2における点Oと点P2とを結んだ線分の長さは同じになる(長さL2とする)。したがって、また、感歪抵抗体Ga1及び感歪抵抗体Ga2は、長さL1と長さL2とが等しくなる角度は同じになる(角度θとする)。
【0051】
長さL1と長さL2とが等しいことは、曲げモーメントによる変形前と変形後とで、感歪抵抗体の歪の量が同じということになる。このことは、回転軸110にラジアル方向の荷重が負荷されて起歪部111に曲げモーメントが発生して、起歪部111の軸方向への伸びがあっても、感歪抵抗体はその伸びを受感しないことを意味する(以下、「伸び不感」とも記す)。この長さL1と長さL2とが等しくなる角度θは、以下のようにして求められる。
【0052】
図10(B)(i),(iii)において、長さzは、角度θ(方向pa1,pa2)を定める長さである。また、長さaは、曲げモーメントが掛かる前の領域Ra1,Ra2における軸方向AX(X方向)に垂直な方向の長さである。また、νは起歪部111のポアソン比であり、kはX方向の伸び率である。
【0053】
このとき、長さL1は、次の(1)式で与えられる。
L1=[(1-kν)2×a2 + (1+k)2×z21/2 …(1)
また、長さL2は、次の(2)式で与えられる。
L2=[a2 + z21/2 …(2)
【0054】
(1)式、(2)式、及び、(L1)2 = (L2)2の関係から、次の(3)式が成立する。
(1-kν)2×a2 + (1+k)2×z2 = a2 + z2 …(3)
したがって、長さzは、次の(4)式で与えられる。
z= ± [((2-kν)×ν)/(k+2)] 1/2×a …(4)
【0055】
tanθ=z/aの関係から、角度θは、次の(5)式で与えられる。
θ=tan-1 [((2-kν)×ν)/(k+2)] 1/2 …(5)
【0056】
起歪部111のボアソン比νが0.3、伸び率kが0.1の場合、(5)式から、θ=27.9度となる。このときの感歪抵抗体が検出することができるせん断の歪みは、モール円においてτsin2θであるため(τ:せん断応力)、出力に(1/sin2θ)を乗じて、実際のせん断歪に対応する値を得る。したがって、感歪抵抗体Ga1,Ga2は、起歪部111の軸方向AXへの伸び縮みについて感度がなく、回転軸110の歪みに感度を有する感歪抵抗体(伸び不感の感歪抵抗体)となっている。
【0057】
起歪部111における平面部分111bに添着された感歪抵抗体対Gbの方向pb1,pb2の角度θについても、感歪抵抗体対Gaの場合と同様にして求められる。そして、方向pa1,pa2、及び、方向pb1,pb2の角度θは、上述した(5)式となる。したがって、感歪抵抗体Gb1,Gb2は、起歪部111の軸方向AXへの伸び縮みについて感度がなく、回転軸110の歪みに感度を有する感歪抵抗体(伸び不感の感歪抵抗体)となっている。
【0058】
よって、感歪抵抗体Ga1,Ga2,Gb1,Gb2を使用することにより、トルク検出器100の回転軸110にラジアル方向の荷重が負荷されてもトルクの測定に干渉せずに、精度良くトルクの測定を行うことができる。
【0059】
なお、感歪抵抗体Ga1,Ga2の軸方向の対称、感歪抵抗体Gb1,Gb2の軸方向の対称にわずかなズレがあっても、45度傾斜の感歪抵抗体に比べて、曲げモーメントの影響を除去することができる。
【0060】
以上、説明したように、本実施形態では、Iカットの起歪部111を採用し、回転軸110に加えられる回転トルクを、起歪部111の平面部分111aに添着された感歪抵抗体Ga1,Ga2、及び、起歪部111の平面部分111bに添着された感歪抵抗体Gb1,Gb2の抵抗値の変化を取得することで検出する。
【0061】
かかる検出に際し、感歪抵抗体Ga1,Ga2については、起歪部111に加わる曲げモーメントにより生じる歪みを受感しない方向となるように、平面部分111aに添着される。また、かかる検出に際して、感歪抵抗体Gb1,Gb2についても、起歪部111に加わる曲げモーメントにより生じる歪みを受感しない方向となるように、平面部分111bに添着される。当該方向は、起歪部111のポアソン比から定められる。すなわち、感歪抵抗体Ga1,Ga2,Gb1,Gb2は、起歪体111の軸方向への伸び縮みについての感度がなく、回転軸110の歪みに感度を有する感歪抵抗体となっている。
【0062】
このため、本実施形態では、高湿度の環境化でもIカットの起歪部111を際し、曲げモーメントの影響を低減して正確なトルクを測定することができる。
【0063】
したがって、本実施形態によれば、トルク検出に際して、起歪部に加わる曲げモーメントにより生じる歪みを受感しないようにすることができる。
[実施形態の変形]
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【0064】
上記の実施形態では、Iカットにした起歪部の2つの平面部分に感歪抵抗体対を添着したが、1つの平面部分面に感歪抵抗体を添着するようにしてもよい。
【0065】
また、上記の実施形態では、起歪部の形状を、平面部分を2つ有するIカットにしたが、平面部分を1つ又は3以上であってもよい。
【0066】
また、上記の実施形態では、丸棒型起歪体を加工して、互いに180度異なる向きに、軸方向と平行な2面の平面部分を設けた起歪部(Iカットの起歪体)とした。これに対し、丸棒型起歪体を加工して、互いに90度異なる向きに、軸方向と平行な4面の平面部分(4角起歪体)を設けた起歪部にする。そして、当該4面のうちの少なくとも1面に、本実施形態の伸び不感の感歪抵抗体を添着するようにしてもよい。この場合にも、起歪部の曲げモーメントにより生じる軸方向の伸びを受感せず、回転軸に加わるトルクを精度良く検出することができる。
【0067】
また、丸棒型起歪体に、本実施形態の伸び不感の感歪抵抗体を添着する構成としてもよい。この場合には、丸棒型起歪体を採用するトルク検出器の曲げモーメントに対して不感であり、測定精度を向上させることができる。
【0068】
また、上記の実施形態では、2つの感歪抵抗体を有する2軸剪断のひずみゲージを採用したが、1つの感歪抵抗体から構成されるひずみゲージを、起歪部の各平面部分又は曲面部分に添着するようにしてもよい。また、1つの感歪抵抗体から構成されるひずみゲージを1枚、起歪部に添着する構成を採用する場合には、ホイートストンブリッジ回路の1辺に当該感歪抵抗体を配置して、ホイートストンブリッジ回路の他の3辺に固定値抵抗を配置するようにすればよい。
【符号の説明】
【0069】
100 … トルク検出器
110 … 回転軸
111 … 起歪部
112 … 回転軸ツバ
111a,111b … 平面部分
121,122,123 … 筐体
124 … 蓋
125 … ナット
131,132 … ベアリング
211 … 1次側コア
212 … 1次側コイル
213 … コアフォルダ
221 … 2次側コア
222 … 2次側コイル
223 … 2次側コアスペース
310 … 回転基板
311 … 増幅回路
312 … AD変換回路
313 … 回転側CPU
321,322 … 固定基板
331 … 回転側光学素子
332 … 固定側光学素子
340 … コネクタ
AX … 軸方向
Ga,Gb … 感歪抵抗体対
Ga1,Ga2,Gb1,Gb2 … 感歪抵抗体
Ra1,Ra2 … 領域
a0,b0 … 基材
a1,a2,a3,b1,b2,b3 … 端子部
pa1,pa2,pb1,pb2 … 方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10