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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172425
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】通信システム、通信方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 7/08 20060101AFI20231129BHJP
   H04B 1/38 20150101ALI20231129BHJP
【FI】
H04B7/08 372Z
H04B1/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084211
(22)【出願日】2022-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100134544
【弁理士】
【氏名又は名称】森 隆一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 治
【テーマコード(参考)】
5K011
【Fターム(参考)】
5K011KA05
(57)【要約】
【課題】狭角での同一チャネル通信を可能にする通信システムを提供する。
【解決手段】通信システムは、ハブ局と複数の端末局とが同一チャネルを使用して同一時間に通信を行う通信システムであって、ハブ局は、既知信号を含む送信信号を生成する手段と、干渉波を相殺する相殺信号を生成する手段と、送信信号と相殺信号を合成する手段と、合成信号を送信する手段と、既知信号に関する誤差信号の電力が最小化されるような適応フィルタを算出する手段と、を有し、前記端末局は、誤差信号を算出する手段、干渉波信号中の干渉となる端末局の既知信号を生成する手段、適応フィルタのフィルタ係数の修正量を算出する手段、修正量を送信する手段、を有し、適応フィルタを算出する手段は、修正量に基づいてフィルタ係数を算出し、相殺信号を生成する手段は、他の前記端末局へ送信する信号に前記適応フィルタによるフィルタ処理を行うことによって相殺信号を生成する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハブ局と複数の端末局とを有し、前記ハブ局と前記複数の端末局とが同一チャネルを使用して同一時間に通信を行う通信システムであって、
前記ハブ局は、
前記複数の端末局のうちの1つの前記端末局へ信号を送信する場合、所定の既知信号を含む送信信号を生成する手段と、
前記送信信号に関して、他の前記端末局へ送信する信号によって生じる干渉波信号を相殺する相殺信号を生成する手段と、
前記送信信号と前記相殺信号を合成して合成信号を生成する手段と、
前記合成信号を送信する手段と、
前記1つの前記端末局が受信した前記合成信号に含まれる前記既知信号と前記所定の既知信号との誤差信号と、前記干渉波信号とに基づいて、前記誤差信号の電力が最小化されるような適応フィルタを算出する手段と、
を有し、
前記端末局は、
前記誤差信号を算出する手段と、
前記干渉波信号に含まれる当該干渉波信号に係る前記他の前記端末局用の所定の既知信号を生成する手段と、
算出した前記誤差信号と、生成した前記干渉波信号に含まれる前記既知信号とに基づく前記適応フィルタのフィルタ係数の修正量を算出する手段と、
前記修正量を送信する手段と、
を有し、
前記適応フィルタを算出する手段は、前記修正量に基づいて、前記誤差信号の電力が最小化されるような前記フィルタ係数を算出し、
前記相殺信号を生成する手段は、前記他の前記端末局へ送信する信号に前記フィルタ係数によるフィルタ処理を行うことによって、前記相殺信号を生成する、
通信システム。
【請求項2】
前記適応フィルタを算出する手段は、Lをブロック長、μをステップサイズ、kを時間、sを前記修正量、nを前記合成信号の送信先の前記端末局の番号、前記フィルタ係数として、ブロックLMS(Least Mean Square)アルゴリズムにおけるFIRフィルタタップ係数wを以下の式によって算出する、
【数1】
請求項1に記載の通信システム。
【請求項3】
前記修正量を算出する手段は、Lをブロック長、dをブロックLMSの入力信号、eを前記誤差信号、kおよびlを時間、nを前記合成信号の送信先の前記端末局の番号、n’を前記干渉波信号に係る前記他の前記端末局の番号としたときに、以下の式によって前記修正量であるsを算出する、
【数2】
請求項2に記載の通信システム。
【請求項4】
前記修正量を算出する手段は、Lをブロック長、dをブロックLMSの入力信号、eを前記誤差信号、kおよびlを時間、nを前記合成信号の送信先の前記端末局の番号、n’を前記干渉波信号に係る前記他の前記端末局の番号としたときに、以下の式によって前記修正量であるsを算出する、
【数3】
請求項2に記載の通信システム。
【請求項5】
前記修正量を算出する手段は、Lをブロック長、dをブロックLMSの入力信号、eを前記誤差信号、kおよびlを時間、nを前記合成信号の送信先の前記端末局の番号、n’を前記干渉波信号に係る前記他の前記端末局の番号としたときに、以下の式によって前記修正量であるsを算出する、
【数4】
請求項2に記載の通信システム。
【請求項6】
前記修正量を算出する手段は、Lをブロック長、dをブロックLMSの入力信号、eを前記誤差信号、kおよびlを時間、nを前記合成信号の送信先の前記端末局の番号、n’を前記干渉波信号に係る前記他の前記端末局の番号としたときに、以下の式によって前記修正量であるsを算出する、
【数5】
請求項2に記載の通信システム。
【請求項7】
前記修正量を算出する手段は、Lをブロック長、dをブロックLMSの入力信号、eを前記誤差信号、kおよびlを時間、nを前記合成信号の送信先の前記端末局の番号、n’を前記干渉波信号に係る前記他の前記端末局の番号としたときに、以下の式によって前記修正量であるsを算出する、
【数6】
請求項2に記載の通信システム。
【請求項8】
前記修正量を算出する手段は、Lをブロック長、dをブロックLMSの入力信号、eを前記誤差信号、kおよびlを時間、nを前記合成信号の送信先の前記端末局の番号、n’を前記干渉波信号に係る前記他の前記端末局の番号としたときに、以下の式によって前記修正量であるsを算出する、
【数7】
請求項2に記載の通信システム。
【請求項9】
前記ブロックLMSの入力信号が、前記干渉波信号に係る前記他の前記端末局へ送信する信号に含める既知信号だけで構成される、
請求項2または請求項3に記載の通信システム。
【請求項10】
ハブ局と複数の端末局とが同一チャネルを使用して同一時間に通信を行う通信方法であって、
1つの前記端末局は、
前記ハブ局から信号を受信し、受信した前記信号に含まれる既知信号と所定の既知信号との誤差信号を算出し、
前記ハブ局から他の前記端末局へ送信される信号によって生じる干渉波信号に含まれる当該干渉波信号に係る前記他の前記端末局用の所定の既知信号を生成し、
算出した前記誤差信号と、生成した前記干渉波信号に含まれる前記既知信号とに基づいて適応フィルタのフィルタ係数の修正量を算出し、
前記修正量を前記ハブ局へ送信し、
前記ハブ局は、
前記修正量に基づいて、前記誤差信号の電力が最小化されるような前記フィルタ係数を算出し、
前記所定の既知信号を含む送信信号を生成し、
前記干渉波信号を相殺する相殺信号を、前記他の前記端末局へ送信する信号に前記フィルタ係数によるフィルタ処理を行うことによって生成し、
前記送信信号と前記相殺信号を合成して合成信号を生成し、
前記合成信号を前記1つの前記端末局へ送信する、
通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信システム、通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波・ミリ波帯のPoint-To-Point無線通信システムにおいて、1つのハブ局と複数の端末局の間を通信する場合、同一周波数チャネルの干渉を避けるため、複数の周波数チャネルを用意する、もしくは、端末局間の角度を大きくする必要があり、周波数利用効率が悪くなる。
【0003】
干渉の種別は、端末局からハブ局への方向とハブ局から端末局への方向の2種類がある。ハブ局での干渉は、ハブ局の複数の受信アンテナで複数の信号で分離(干渉除去)するので、XPIC(交差偏波干渉除去器)のような既存の干渉除去技術で対応することができる。
【0004】
端末局での干渉を除去する方法には、端末局での受信補償とハブ局での送信補償の2通りがある。前者の受信補償は、1つの受信アンテナで複数の信号を分離(干渉除去)する必要があるので、アルゴリズムが複雑となり、大きな回路が必要とされる。後者の送信補償は、ハブ局の送信機にて、端末局での受信時に干渉波を相殺する補償値を送信信号に合成した合成信号を送信する。
【0005】
関連する技術として、特許文献1には、同一信号を複数アンテナから送信する空間ダイバーシティ通信系において、送信側にて2つに分岐され、その一方に複素係数Cが乗じられて送信された信号を受信側で受信し、受信した2波の受信信号のダイバーシティ合成を行い、該合成出力を復調して、該復調信号の判定を行い、復調信号に干渉波が含まれるとき前記判定の前後に発生する誤差を誤差信号εとして、誤差信号εの二乗平均が最小となるように送信側で複素係数Cを乗じるよう制御する干渉除去方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10-173579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
1つのハブ局から複数の端末局と通信を行う場合に、ハブ局の送信機で送信補償を行うことによって、端末局間の同一周波数チャネル干渉を除去する方法が求められている。
【0008】
そこでこの発明は、上述の課題を解決する通信システム、通信方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様によれば、通信システムは、ハブ局と複数の端末局とを有し、前記ハブ局と前記複数の端末局とが同一チャネルを使用して同一時間に通信を行う通信システムであって、前記ハブ局は、前記複数の端末局のうちの1つの前記端末局へ信号を送信する場合に所定の既知信号を含む送信信号を生成する手段と、前記送信信号に関して、他の前記端末局へ送信する信号によって生じる干渉波信号を相殺する相殺信号を生成する手段と、前記送信信号と前記相殺信号を合成して合成信号を生成する手段と、前記合成信号を送信する手段と、前記1つの前記端末局が受信した前記合成信号に含まれる既知信号と前記所定の既知信号との誤差信号と前記干渉波信号とに基づいて、前記誤差信号の電力が最小化されるような適応フィルタを算出する手段と、を有し、前記端末局は、前記誤差信号を算出する手段と、前記干渉波信号に含まれる当該干渉波信号に係る前記他の前記端末局用の所定の既知信号を生成する手段と、算出した前記誤差信号と、生成した前記干渉波信号に含まれる前記既知信号とに基づく前記適応フィルタのフィルタ係数の修正量を算出する手段と、前記修正量を送信する手段と、を有し、前記適応フィルタを算出する手段は、前記修正量に基づいて、前記誤差信号の電力が最小化されるような前記フィルタ係数を算出し、前記相殺信号を生成する手段は、前記他の前記端末局へ送信する信号に前記フィルタ係数によるフィルタ処理を行うことによって、前記相殺信号を生成する。
【0010】
本発明の一態様によれば、通信方法は、ハブ局と複数の端末局とが同一チャネルを使用して同一時間に通信を行う通信方法であって、1つの前記端末局は、前記ハブ局から信号を受信し、受信した前記信号に含まれる既知信号と所定の既知信号との誤差信号を算出し、前記ハブ局から他の前記端末局へ送信される信号によって生じる干渉波信号に含まれる当該干渉波信号に係る前記他の前記端末局用の所定の既知信号を生成し、算出した前記誤差信号と、生成した前記干渉波信号に含まれる前記既知信号とに基づいて適応フィルタのフィルタ係数の修正量を算出し、前記修正量を前記ハブ局へ送信し、前記ハブ局は、前記修正量に基づいて、前記誤差信号の電力が最小化されるような前記フィルタ係数を算出し、前記所定の既知信号を含む送信信号を生成し、前記干渉波信号を相殺する相殺信号を、前記他の前記端末局へ送信する信号に前記フィルタ係数によるフィルタ処理を行うことによって生成し、前記送信信号と前記相殺信号を合成して合成信号を生成し、前記合成信号を前記1つの前記端末局へ送信する通信方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、端末局間の同一周波数チャネルにおける干渉を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態に係る干渉除去機能を備える通信システムの一例を示す図である。
図2】実施形態に係る通信システムにおける送受信機の一例を示す第1の図である。
図3A】実施形態に係るハブ局から端末局へ送信されるフレームフォーマットの一例を示す図である。
図3B】実施形態に係る端末局からハブ局へ送信されるフレームフォーマットの一例を示す図である。
図4A】実施形態のブロックLMS入力信号に係るハブ局から端末局へ送信されるフレームフォーマットの一例を示図である。
図4B】実施形態に係る送信補償係数の更新に係る構成の一例を示す図である。
図5】実施形態に係る初期引込前後のフレームフォーマットの一例を示す図である。
図6】実施形態に係る通信システムにおける送受信機の一例を示す第2の図である。
図7】実施形態に係る通信システムにおける送受信機の一例を示す第3の図である。
図8】実施形態に係る通信システムの動作の一例を示すフローチャートである。
図9】干渉除去の機能を備えない通信システムの一例を示す概略図である。
図10】最小構成を有する通信システムの一例を示す図である。
図11】最小構成を有する通信システムの動作の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<実施形態>
以下、本発明の一実施形態に係る通信システムについて図面を参照して説明する。以下の説明に用いる図面において本発明に関係ない部分の構成や繰り返しの構成、重複する構成については、記載を省略し、図示しない場合がある。
【0014】
(概要)
最初に、干渉除去の機能を有さないハブ局100´と端末局200´および端末局300´の狭角通信について図9を参照して説明する。ハブ局100´は、同一周波数チャネルを使って、端末局200´へ送信信号v1´を送信し、端末局300´へ送信信号v2´を送信する。端末局200´では、送信信号v1´に端末局300´へ送信された信号による干渉波信号v3´が合成された受信信号v5´が受信される。端末局300´では、送信信号v2´に端末局200´へ送信された信号による干渉波信号v4´が合成された受信信号v6´が受信される。このように同一周波数チャネルで、狭角通信を行うと、端末局200´、300´の受信品質が悪化する。受信品質が悪い場合、変調方式の多値数、すなわち、伝送容量を上げることができない。
【0015】
これに対し、ハブ局100の送信機101に干渉除去の機能を備えた通信システム1の一例を図1に示す。通信システム1では、ハブ局100の送信機101内に送信補償器103-1、103-2が設けられている。送信機101での送信補償は、端末局200、300での受信時に相殺する補償値を送信信号に予め合成することによって行う。送信機101は、変調器102-1、102-2と、送信補償器103-1、103-2と、合成器104-1、104-2とを有する。変調器102-1は、端末局200へ送信する信号d1を変調して変調信号d1を生成し、変調器102-2は、端末局300へ送信する信号d2を変調して変調信号d2を生成する。送信補償器103-1は、端末局300へ送信される信号によって生じる干渉を相殺する相殺信号i12を生成する。送信補償器103-2は、端末局200へ送信される信号によって生じる干渉を相殺する相殺信号i21を生成する。合成器104-1は、変調信号d1に相殺信号i12を合成し送信信号v1を生成し、合成器104-2は、変調信号d2に相殺信号i21を合成し送信信号v2を生成する。送信機101は、同一周波数チャネルを使って、端末局200へ送信信号v1を送信し、端末局300へ送信信号v2を送信する。端末局200の受信信号v5には、端末局300への送信信号v2による干渉波信号v3が合成されるが、送信信号v1に含まれる相殺信号i21によって相殺され、端末局200では変調信号d1に近い信号が受信される。端末局300の受信信号v6には、端末局200への送信信号v1による干渉波信号v4が合成されるが、送信信号v2に含まれる相殺信号i12によって相殺され、端末局300では変調信号d2に近い信号が受信される。このようにハブ局100にて、送信補償を行うことによって、端末局200、300における受信時の干渉を除去する。受信信号の干渉量が減るため、変調方式の多値数、すなわち、伝送容量を上げることができる。以下、送信補償の方法について、より詳細に説明する。
【0016】
(システム構成)
図2は、実施形態に係る通信システムにおける送受信機の一例を示すブロック図である。図2に示すように、通信システム1は、ハブ局100と、端末局200、300とを有する。これらの装置は、例えば、FDD(Frequency Division Duplex)やTDD(Time Division Duplex)を用いた双方向通信装置である。また、図2には、端末局が2局の場合の構成を示すが、端末局を3局以上有する構成とすることができる(図7)。ハブ局100は、送信機101と、受信機105-1、105-2を有する。
【0017】
(ハブ局の送信機)
送信機101は、変調器102-1、102-2と、送信補償器103-1、103-2と、合成器104-1、104-2と、を有する。
【0018】
変調器102-1は、マッピング部1021-1と、送信ROF(Roll Off Filter)部1022-1と、を有する。変調器102-1は、端末局200へ送信する信号d1について、マッピング部1021-1を使用してマッピングと、送信ROF部1022-1を使用して送信ロールオフフィルタ等の変調処理を行い、変調信号d1を出力する。変調器102-2は、マッピング部1021-2と、送信ROF部1022-2と、を有する。変調器102-2は、端末局300へ送信する信号d2について、マッピング部1021-2を使用してマッピングと、送信ROF部1022-2を使用して送信ロールオフフィルタ等の変調処理を行い、変調信号d2を出力する。変調信号d1、d2のレイアウトの一例を図3Aに示す。図示するように変調信号d1、d2の先頭には、所定の既知信号が含まれている。変調信号d1、d2は、請求項における「送信信号」の一例である。
【0019】
送信補償器103-1は、タップ更新部1031-1と、FIR(Finite Impulse Response)フィルタ部1032-1とを有している。タップ更新部1031-1は、適応フィルタのブロックLMS(Least Mean Square)アルゴリズムにおけるFIRフィルタタップ係数wを以下の式(1)によって更新する。FIRフィルタタップ係数を送信補償係数とも称する。
【0020】
【数1】
【0021】
ここで、wは送信補償係数(FIRフィルタタップ係数)、Mはタップ長、Lはブロック(既知信号)長[symbol]、μはステップサイズ、sはMタップ分のタップ更新量、kは時間、nは自端末局(希望波)信号の端末局番号(端末局200はn=1で送信補償係数はw1)である。タップ更新量sは、端末局200から送信される。タップ更新量sについては後述する。
【0022】
FIRフィルタ部1032-1は、送信補償係数wと変調信号d2に基づいて、相殺信号i12を推定する。FIRフィルタ部1032-1は、変調信号d2に対して、送信補償係数wによるFIRフィルタ処理を行って、相殺信号i12を生成する。
【0023】
送信補償器103-2は、タップ更新部1031-2と、FIRフィルタ部1032-2とを有している。タップ更新部1031-2は、上記の式(1)を用いてブロックLMSアルゴリズムにおける送信補償係数Wを更新する。FIRフィルタ部1032-2は、送信補償係数wと変調信号d1に基づいて、相殺信号i21を生成する。タップ更新部1031-2とFIRフィルタ部1032-2の機能自体は、それぞれタップ更新部1031-1、FIRフィルタ部1032-1と同様である。
【0024】
合成器104-1は、変調信号d1と相殺信号i12を合成して送信信号v1を生成する。合成器104-2は、変調信号d2と相殺信号i21を合成して送信信号v2を生成する。送信信号v1、v2は、請求項における「合成信号」の一例である。
【0025】
送信機101は、同一チャネルを用いて、同一時刻に、送信信号v1を端末局200へ送信し、送信信号v2を端末局300へ送信する。
【0026】
(ハブ局の受信機)
受信機105-1は、復調器1051-1を有しており、復調器1051-1を使って、受信ロールオフフィルタ、キャリア再生、クロック再生、誤差信号算出、等化などの復調処理を実行し、端末局200から受信した信号に含まれる「タップ更新量1」を抽出する。タップ更新量とは上記した式(1)におけるs(端末局200ではs1)である。受信機105-1は、抽出した「タップ更新量1」を、タップ更新部1031-1へ出力する。同様に、受信機105-2は、復調器1051-2を有しており、復調器1051-2を使って、受信ロールオフフィルタ、キャリア再生、クロック再生、誤差信号算出、等化などの復調処理を実行し、端末局300から受信した信号に含まれる「タップ更新量2」を抽出する。受信機105-2は、抽出した「タップ更新量2」をタップ更新部1031-2へ出力する。
【0027】
(端末局の受信機)
端末局200は、受信機201と、送信機203と、を有する。受信機201は、ハブ局100から送信された送信信号v1と干渉波信号v3が合成された受信信号v5を受信する。受信機201は、復調器202と、希望波既知信号検出部2011と、干渉波既知信号生成部2012と、送信ROF部2013と、乗算部2014と、タップ更新量算出部2015と、を有している。復調器202は、受信ロールオフフィルタを行う受信ROF部2021と、デマッピング部2022と、誤差信号算出部2023と、複素共役計算部2024と、を有している。復調器202は、受信ロールオフフィルタ、キャリア再生、クロック再生、等化などの復調処理を行う。復調処理の過程で、誤差信号算出部2023は誤差信号(「誤差信号1」)を算出する。ここで「誤差信号1」をe1とすると、端末局200で、既知信号区間の場合の誤差信号e1とは、受信信号v5に含まれる変調信号d1と信号r1´の差(e1=d1-r1´)である。ここで、信号r1´とは、一連の復調処理が終わった信号(復調されたデマッピングの入力信号)である。誤差信号算出部2023は、「誤差信号1」を複素共役計算部2024へ出力する。複素共役計算部2024は、「誤差信号1」の複素共役を計算し、その計算結果を乗算部2014へ出力する。また、復調された信号は、デマッピング部2022によってデマッピングされる。
【0028】
希望波既知信号検出部2011は、復調された受信信号から、自端末局信号(希望波信号)に含まれる既知信号(変調信号d1の既知信号)を検出する。例えば、希望波既知信号検出部2011は、希望波信号の既知信号の内容を記憶していて、その内容に基づいて既知信号の検出を行う。希望波既知信号検出部2011が希望波信号の既知信号を検出すると、干渉波既知信号生成部2012は、そのタイミングで干渉波信号の既知信号(端末局300向けの変調信号d2の既知信号)を生成する。例えば、干渉波既知信号生成部2012は、干渉波信号の既知信号の内容を記憶していて、その内容に基づいて既知信号の生成を行う。送信ROF部2013は、生成された干渉波信号の既知信号に対して、送信ロールオフフィルタなどの一連の変調処理を行い、干渉波信号の既知信号を変調した信号を乗算部2014へ出力する。干渉波信号の既知信号を変調した信号は、ブロックLMSの入力信号である。乗算部2014は、変調信号と「誤差信号1」の複素共役信号を乗じ、タップ更新量算出部2015がその和を算出する。乗算部2014およびタップ更新量算出部2015は、次式(2)によってブロックLMSのタップ更新量を算出する。e*はeの複素共役である。
【0029】
【数2】
【0030】
ここで、Lはブロック長[symbol]、dはL+M-1個分の既知信号(干渉波信号の既知信号)のブロックLMSの入力信号、eはL個分の誤差信号、sはMタップ分のタップ更新量、kやlは時間、nは自端末局(希望波)信号の端末局番号、n’は干渉波信号の端末局番号である。
【0031】
なお、式(2)の右辺のシグマの項については、以下の式(3)に示すように、L+M-1個分の信号が必要となる。
【0032】
【数3】
【0033】
また、タップ更新量sの情報は、簡略化をしてもよい。簡略化には次式(4)のように信号の符号のみを出力する演算を利用する。
【数4】
【0034】
ここで、csgnは複素数aのsgnである。sgn(0)=+1とすれば、MSB(most significant bit)の1bitで出力可能である。
【0035】
具体的な簡略化の例を5例以下に示す。どの簡略化でも、ハブ局100へ送信する情報量とタップ更新量sの演算量を削減できる。
【0036】
(簡略化1)
1つ目は、次式(5)に示すブロックLMSの入力信号の簡略化である。既知信号がQPSK(Quadrature Phase Shift Keying)やBPSK(Binary Phase Shift Keying)など、一定の振幅値の変調方式の場合、ハブ局100のタップ更新で振幅を掛けることができるので、フィードバック情報量を減らすことができる。
【0037】
【数5】
【0038】
(簡略化2)
2つ目は、次式(6)に示すブロックLMSの入力信号と誤差信号の簡略化である。上記の(簡略化1)から、さらに誤差信号もcsgnで簡略化する。この方法では、基本的に、既知信号を、QPSKやBPSKなど一定の振幅値の変調方式に限定する。
【0039】
【数6】
【0040】
(簡略化3)
3つ目は、次式(7)に示す誤差信号の簡略化である。この方法では、既知信号の変調方式を限定する必要はない。
【0041】
【数7】
【0042】
(簡略化4)
4つ目は、次式(8)に示すタップ更新量の簡略化である。上記の式(3)の計算後、その計算結果をcsgnで簡略化する。この方法では、既知信号の変調方式を限定する必要はない。
【0043】
【数8】
【0044】
(簡略化5)
5つ目は、次式(9)のタップ更新量の別の簡略化である。この方法では、既知信号の変調方式を限定する必要はない。(簡略化4)の式(8)と、ハブ局100へ送信される情報量は同じだが、タップ更新演算量がさらに削減する。
【0045】
【数9】
【0046】
なお、式(9)において、d又はe*のみをcsgnで簡略化することも可能である。
【0047】
(端末局の送信機)
送信機203は、変調器2031を有している。変調器2031は、ハブ局100へ送信する信号を変調する。送信機203は、変調後の信号をハブ局100へ送信する。ハブ局100から端末局200への既知信号に対するタップ更新量s(「タップ更新量1」)は、端末局200での復調処理の引込後に、端末局200からハブ局100への送信信号フレームフォーマット内に、上記した方法で算出した「タップ更新量1」の情報を入れて、ハブ局100へ送信(フィードバック)する。図3Bに、端末局200が送信する信号のレイアウトの一例を示す。図示するように信号の先頭には、所定の既知信号が含まれ、その後方にタップ更新量が含まれている。「タップ更新量1」(式(1)のs(k))はハブ局100にて、送信補償係数wの更新に用いられる。
【0048】
端末局200について説明したことは、端末局300についても同様である。端末局300は、受信機301と、送信機303と、を有する。受信機301は、ハブ局100から送信された送信信号v2と干渉波信号v4が合成された受信信号v6を受信する。詳細な図示は省略するが、受信機301は、復調器302やタップ更新量算出部3015(図示せず)等、端末局200における受信機201と同様の構成を有している。詳細な図示は省略するが、復調器302は、誤差信号算出部3023(図示せず)等、端末局200における復調器202と同様の構成を有している。受信機301は、既知信号区間であれば、受信信号v6に含まれる変調信号d2の既知信号と、デマッピングの入力信号との誤差信号を算出する。また、受信機301は、自端末局信号に含まれる既知信号(変調信号d2の既知信号)を検出するタイミングで干渉波信号の既知信号(変調信号d1の既知信号)を生成し、送信ロールオフフィルタなどの一連の変調処理を行う。そして、上記の式(2)、式(5)~(9)の何れかによって、「タップ更新量2」を算出し、送信機303は「タップ更新量2」を含む信号をハブ局100へ送信(フィードバック)する。「タップ更新量2」(式(1)のs(k))は、ハブ局100にて、送信補償係数wの更新に用いられる。
【0049】
例えば、端末局200からハブ局100に「タップ更新量1」が送信されると、ハブ局100では、受信機105-1を通じて、タップ更新部1031-1が「タップ更新量1」を受け取り、送信補償係数w1を更新する。
【0050】
送信補償係数wの更新式を以下に例示する。式(10)は、タップ更新量sが式(2)で算出された場合の更新式である。式(11)は、タップ更新量sが(簡略化1)の式(5)で算出された場合の更新式である。式(12)は、タップ更新量sが(簡略化2)の式(6)で算出された場合の更新式である。式(13)は、タップ更新量sが(簡略化3)の式(7)で算出された場合の更新式である。式(14)は、タップ更新量sが(簡略化4)の式(8)で算出された場合の更新式である。式(15)は、タップ更新量sが(簡略化5)の式(9)で算出された場合の更新式である。
【0051】
【数10】
【0052】
【数11】
【0053】
【数12】
【0054】
【数13】
【0055】
【数14】
【0056】
【数15】
【0057】
タップ更新部1031-1は、上記の式(10)~式(15)の何れかを使用し、公知のブロックLMSアルゴリズムによって、誤差信号eを最小化するFIRフィルタタップ係数(送信補償係数)wを算出する。
【0058】
(入力信号の扱い)
なお、端末局200における干渉波既知信号生成部2012によるブロックLMSの入力信号(上記のdn’)の生成は、次のようにしてもよい(既知信号拡張型)。この方法では、変調信号d2のフレームフォーマットに含まれる既知信号を、L(ブロック長)+M(タップ数)-1+ROF(Roll Off Filter)などのフィルタ分とし(ブロックLMSで計算するL(ブロック長)より大きくし)、ブロックLMS入力信号を全て既知信号とする。ブロックLMSの入力信号は、端末局200の受信機201で、自端末局200への希望波信号の既知信号(変調信号d1の既知信号)を検出したタイミングで、干渉波信号の既知信号(変調信号d2の既知信号)の生成と送信ロールオフフィルタなどの一連の変調処理により、生成する。既知信号拡張型の場合のフレームフォーマットの一例を図4Aに示す。干渉波信号の既知信号を生成する場合の構成の一例を図4Bに示す。端末局300につても同様である。
【0059】
(初期引込時間の短縮)
また、送信補償係数wの初期引込時(最初に送信補償係数を算出するとき)のフレームフォーマットについて、初期引込時間を短縮するため、初期引込時に以下の3つの対応を行うことが可能である。
(A1)1つ目は、既知信号連続送信、もしくは、ランダムデータの削減である。例えば、送信補償係数wを最初に算出する場合(初期引込時)、ハブ局100から端末局200へ送信する変調信号d1のフレームフォーマットを、既知信号のみの繰り返しとするか、もしくは、通常(初期引込後)のフレームフォーマットと比較してランダムデータを削減する。これにより、ブロックLMSのタップ更新に必要な数のデータを速やかに収集することができ、初期引込時間を短縮することができる。既知信号のみの繰り返しの場合のフレームフォーマットを図5の「既知信号連続送信」の行に示し、ランダムデータ削減の場合のフレームフォーマットを図5の「ランダムデータの削減」の行に示す。
(A2)2つ目は、ブロック長Lおよび/またはステップサイズμの変更である。初期引込時においてこれらの設定を初期引込後よりも大きくすることで、初期引込時間を短縮する。
(A3)3つ目は、上記の(A1)と(A2)を同時に行うことである。
これらの対応により、速やかに送信補償係数wを設定することができる。
【0060】
(誤り訂正の符号化を行う場合の構成例)
端末局200、300から送信する誤差信号に対して、誤り訂正の符号化を行ってもよい。図6に、誤り訂正の符号化を行う場合の通信システム1Aの構成例を示す。図6に例示する通信システム1Aのハブ局100Aは、送信機101と、受信機105A-1、105A-2を有する。受信機105A-1は、復調器1051-1に加え、復号器1052-1を有し、受信機105A-2は、復調器1051-2に加え、復号器1052-2を有している。端末局200Aは、受信機201と、送信機203Aと、を有する。端末局300Aは、受信機301と、送信機303Aと、を有する。端末局200Aの送信機203Aは、変調器2031に加え、符号化器2032を有し、端末局300Aの送信機303Aは、変調器3031に加え、符号化器3032を有する。
【0061】
符号化器2032は、「タップ更新量1」を誤りの検出および訂正が可能なように符号化する。変調器2031は、符号化後の「タップ更新量1」を含む信号を変調する。送信機203Aは、変調された信号をハブ局100Aへ送信する。ハブ局100Aでは、受信機105A-1がこの信号を受信し、復号器1052-1が、復調器1051-1によって抽出された符号化済みの「タップ更新量1」の誤り検出および訂正を行って、復号した「タップ更新量1」をタップ更新部1031-1へ出力する。
【0062】
端末局300Aにおける送信機303Aの符号化器3032、ハブ局100Aにおける受信機105A-2の復号器1052-2についても同様である。なお、図6においては、受信機301の詳細な構成については図示を省略してあるが、受信機201と同様の機能と構成を有している。
【0063】
(端末局が3局の場合の構成例)
図7に端末局が3局の場合の構成例を示す。通信システム1Bは、ハブ局100と、端末局200B、300B、400Bを有する。ハブ局100Bは、送信機101Bと、受信機105-1、105-2、105-3を有する。送信機101Bは、変調器102-1、102-2、102-3と、送信補償器103-1、103-2、103-3、103-4、103-5、103-6と、合成器104-1、104-2、104-3とを有する。送信補償器103-4、103-5、103-6は、送信補償器103-1と同様の機能と構成を有している。端末局200Bは、受信機201Bと、送信機203と、を有する。受信機201Bは、復調器202と、希望波既知信号検出部2011と、干渉波既知信号生成部2012,2012aと、送信ROF部2013,2013aと、乗算部2014,2014aと、タップ更新量算出部2015,2015aと、を有している。干渉波既知信号生成部2012、送信ROF部2013、乗算部2014、タップ更新量算出部2015については、図2を参照して説明したとおりである。乗算部2014およびタップ更新量算出部2015は、上記の式(2)、式(5)~(9)の何れかによってブロックLMSの「タップ更新量12」を算出する。干渉波既知信号生成部2012aは、希望波既知信号検出部2011が希望波信号の既知信号を検出すると、干渉波信号の既知信号(端末局400B向けの変調信号d3の既知信号)を生成する。送信ROF部2013aは、生成された干渉波信号の既知信号に対して、送信ロールオフフィルタなどの一連の変調処理を行い、干渉波信号の既知信号を変調した変調信号を乗算部2014aへ出力する。乗算部2014aは、変調信号と「誤差信号1」の複素共役信号を乗じ、タップ更新量算出部2015aがその和を算出する。乗算部2014aおよびタップ更新量算出部2015aは、上記の式(2)、式(5)~(9)の何れかによってブロックLMSの「タップ更新量13」を算出する。送信機203は、「タップ更新量12」と「タップ更新量13」を含んだ信号をハブ局100へ送信(フィードバック)する。なお、図7においては、端末局300B,400Bの詳細な構成については図示を省略してあるが、端末局200Bと同様の機能と構成を有している。
【0064】
端末局200へ送信する信号の生成について説明する。変調器102-1は、変調信号d1を生成する。送信補償器103-1は、変調器102-2が生成する変調信号d2と「タップ更新量12」に基づいて算出される送信補償係数w12とに基づいて、ハブ局100Bから端末局300へ送信される信号による干渉波信号を相殺する相殺信号i12を生成する。送信補償器103-4は、変調器102-3が生成する変調信号d3と「タップ更新量13」に基づいて算出される送信補償係数w13とに基づいて、ハブ局100Bから端末局400へ送信される信号による干渉波信号を相殺する相殺信号i13を生成する。合成器104-1は、変調信号d1と相殺信号i12と相殺信号i13を合成して送信信号v1を生成する。送信補償器103-4の構成は、送信補償器103-1と同様である。端末局300、400へ送信する信号の生成についても同様である。このように3局構成の場合、ハブ局100Bの送信補償では、2局分の端末局干渉を補償する相殺信号を生成し、送信対象の変調信号に2局分の相殺信号を合成して送信信号を生成する。
【0065】
同様に端末局が4局以上であれば、3局分の端末局干渉を補償するような相殺信号を生成するように構成する。端末局が5局以上の場合も同様である。なお、図7に例示する構成において、例えば、端末局200と端末局400の間で干渉が少ない場合、送信補償器103-4および送信補償器103-3の動作を停止させるか、これらの回路を削除してもよい。
【0066】
(動作)
次に、図2の構成を例として、図8を参照しつつ、通信システム1の動作について説明する。説明の便宜のため、ハブ局100と端末局200の間の通信を例に説明を行う。
図8は、実施形態に係る通信システムの動作の一例示すフローチャートである。
前提として、各端末局200、300へ送信する変調信号d1と変調信号d2は、1シンボル周期以内でのタイミング同期、および、キャリア周波数の同期が取られているとする。また、ハブ局100では、端末局200から送信される信号と端末局300から送信される信号の干渉除去が引込しているなど、ハブ局100の受信品質が良好で安定した状態(例えば、ハブ局受信誤差電力が-20[dB]以下など引込した状態)を前提として、以下の処理(端末局間干渉除去を送信補償する処理)が開始されるとする。これは、ハブ局100にて受信する誤差信号の情報に誤りがないようにするためである。
【0067】
なお、既知信号や誤差信号の変調方式を多値数が小さいQPSK(Quadrature Phase Shift Keying) やBPSK(Binary Phase Shift Keying)などとすれば、受信品質が比較的悪い状況で開始してもよい。
【0068】
(初期引込時)
初期引込時(送信補償前)は、ハブ局100から端末局200へ変調信号d1のみを送信する(ステップS1)。この送信信号のフレームフォーマット内には、既知信号が含まれている。また、初期引込時のフレームフォーマットは、図5の「ランダムデータの削除」や「既知信号連続送信」に示すフォーマットとしてもよい(上記の(A1))。端末局200では、誤差信号算出部2023が「誤差信号1」を算出する(ステップS2)。また、干渉波既知信号生成部2012が干渉波信号の既知信号を生成する(ステップS3)。1フレームごとに、乗算部2014およびタップ更新量算出部2015は、式(2)、式(5)~(9)の何れかによってブロックLMSの「タップ更新量1」を算出する(ステップS4)。このとき、ブロック長Lやステップサイズμに初期引き込み後よりも大きな値を設定してもよい(上記の(A2))。送信機203は、「タップ更新量1」を含む信号をハブ局100へ送信する(ステップS5)。ハブ局100では、1フレームごとに、タップ更新部1031-1が、式(1)によって、FIRフィルタタップ係数を更新する(ステップS6)。次にFIRフィルタ部1032-1が、FIRフィルタタップ係数に基づいて変調信号d2のFIRフィルタ処理を行う(ステップS7)。これにより相殺信号i12が生成される。次に合成器104-1が変調信号d1と相殺信号i12を合成する(ステップS8)。これにより、送信信号v1が生成される。次に送信機101が送信補償後の信号(つまり、送信信号v1)を送信する(ステップS9)。端末局200は、受信信号v5を受信し、タップ更新量等を算出する(ステップS10)。具体的には、上記のステップS2~S4と同様に、送信信号v1に対する「誤差信号1」を算出し、干渉波信号の既知信号を生成し、式(2)、式(5)~(9)の何れかによって「タップ更新量1」を算出する。端末局200は、「タップ更新量1」を含む信号をハブ局100へ送信する(ステップS11)。そして、初期引込が完了するまで(初期引込が完了の判定は、例えば、「誤差信号1」の振幅の2乗、又は「誤差信号1」の電力(誤差信号e1をe1=e1+j×e1、e1を誤差信号1の実数部、e1を誤差信号1の虚数部、*を複素共役としたときに、誤差信号1の電力は、e12 = e1×e1* = e1i 2+e1q 2 =|e1|2である。)の例えば平均値が所定の閾値以下となると初期引込が完了したと判定してもよいし、推定されるSNR(Signal-to-Noise Ratio)が所定の設定値以上となると初期引込が完了したと判定してもよい。あるいは、初期引込開始から所定時間が経過するか、又は、所定のフレーム数を処理すると初期引込が完了したと判定してもよい。)、ステップS9~S14の処理が繰り返される。なお、ステップS12は、ステップS6と同様のFIRフィルタタップ係数を更新する処理、ステップS13は、ステップS7と同様の変調信号d2のFIRフィルタ処理、ステップS14は、ステップS8と同様の合成器104-1による変調信号d1と相殺信号i12を合成する処理である。ステップS9~S14の処理が繰り返される過程で、タップ更新部1031-1は、FIRフィルタタップ係数を更新する。ブロックLMSの適応アルゴリズムでは、MMSE(Minimum Mean Square Error)規範により、誤差信号の電力を最小化するようにFIRフィルタタップ係数が自動更新される。
【0069】
(初期引込後)
初期引込が完了すると、初期引込後の処理が実行される。具体的には、ブロック長Lやステップサイズμに所定値(初期引き込み時よりも小さな値)を設定して、送信機101が送信補償後の信号(つまり、送信信号v1)を送信する(ステップS15)。端末局200では、「タップ更新量1」等を算出し(ステップS16)、その「タップ更新量1」を含む信号をハブ局100へ送信する(ステップS17)。ハブ局100では、タップ更新部1031-1がFIRフィルタタップ係数を更新する(ステップS18)。次にFIRフィルタ部1032-1が、FIRフィルタタップ係数に基づいて変調信号d2のFIRフィルタ処理を行って相殺信号i12を生成する(ステップS19)。次に合成器104-1が変調信号d1と相殺信号i12を合成して、送信信号v1を生成する(ステップS1A)。初期引込後においては、送信信号v1に含まれる既知信号は図5の「初期引込後」欄に示すように通常パターンとなる。以降、ステップS15以降の処理が繰り返される。
【0070】
(効果)
本実施形態によれば、1つのハブ局から複数の端末局と通信を行う場合に、ハブ局の送信機で送信補償を行うことによって、端末局間の同一周波数チャネル干渉を除去する。これにより、複数の端末局と狭角通信を行う場合であっても、1つの周波数チャネルを複数の端末局で共用できるため、周波数利用効率や伝送効率の向上、運用コストの低減が可能である。
【0071】
(最小構成)
図10は、最小構成を有する通信システムの構成を示すブロック図である。
通信システム30は、ハブ局10と、複数の端末局20A、20B・・・とを備える。
通信システム30は、ハブ局10から複数の端末局20A、20B・・・へ同一チャネルを使用して同一時間に通信を行う。ハブ局10は、送信信号生成手段11と、相殺信号生成手段12と、合成手段13と、送信手段14と、適応フィルタ算出手段15と、を有する。送信信号生成手段11は、複数の端末局20A、20B・・・のうちの1つの端末局、例えば、端末局20Aへ信号(フレーム)を送信する場合、所定の既知信号(端末局20Aの既知信号)を含む送信信号を生成する。相殺信号生成手段12は、前記送信信号に関して、他の端末局、例えば、端末局20Bへ送信する信号によって生じる干渉波信号を相殺する相殺信号を生成する。合成手段13は、送信信号と相殺信号を合成する。送信手段14は、合成信号を送信する。適応フィルタ算出手段15は、端末局20Aが受信した合成信号に含まれる既知信号(干渉波信号の影響を受けた既知信号)と前記所定の既知信号と(元々の端末局20A向けのフレームに含めた端末局20Aの既知信号)の誤差信号と、干渉波信号とに基づいて、ブロックLMSアルゴリズムを用いて、前記誤差信号の電力が最小化されるような適応フィルタを算出する。
【0072】
端末局20Aは、誤差信号を算出する誤差信号算出手段21Aと、干渉波信号に含まれる当該干渉波信号に係る他の端末局(干渉となる端末局20B)用の所定の既知信号を生成する干渉波信号生成手段22Aと、算出した誤差信号と生成した干渉波信号に含まれる前記既知信号とに基づく適応フィルタのフィルタ係数の修正量(「タップ更新量1」)を算出する修正量算出手段23Aと、算出した修正量を送信する送信手段24Aと、を有する。端末局20Bは、誤差信号を算出する誤差信号算出手段21Bと、干渉波信号に含まれる当該干渉波信号に係る他の端末局(干渉となる端末局20A)用の所定の既知信号を生成する干渉波信号生成手段22Bと、算出した誤差信号と生成した干渉波信号に含まれる前記既知信号とに基づく適応フィルタのフィルタ係数の修正量(「タップ更新量2」)を算出する修正量算出手段23Bと、算出した修正量を送信する送信手段24Bと、を有する。
【0073】
ハブ局10の適応フィルタ算出手段15は、端末局20Aから受信した修正量に基づいて、誤差信号eの電力が最小化されるようなフィルタ係数(送信補償係数(FIRフィルタタップ係数)w)を算出し、相殺信号生成手段12は、他の前記端末局(端末局20B)へ送信する信号に適応フィルタによるフィルタ処理を行うことによって、相殺信号を生成する。
【0074】
図11は最小構成を有する通信システムによる処理を示すフローチャートである。
端末局20Aが、ハブ局10から信号を受信する(ステップS20)。端末局20Aの誤差信号算出手段21Aは、端末局20Aが受信した合成信号に含まれる既知信号と所定の既知信号との誤差信号を算出する(ステップS21)。干渉波信号生成手段22Aは、ハブ局10から他の端末局(端末局20B)へ送信される信号によって生じる干渉波信号に含まれる当該干渉波信号に係る他の端末局(干渉となる端末局20B)用の所定の既知信号を生成する(ステップS22)。次に修正量算出手段23Aが算出された誤差信号と生成された干渉波信号に含まれる前記既知信号とに基づく適応フィルタのフィルタ係数(FIRフィルタタップ係数)の修正量(「タップ更新量1」)を算出する(ステップS23)。端末局20Aの送信手段24Aは、修正量を送信する(ステップS24)。ハブ局10の適応フィルタ算出手段15は、誤差信号および他の端末局20Bへ送信する信号に基づく修正量に基づいて、誤差信号の電力が最小化されるような適応フィルタのフィルタ係数を算出する(ステップS25)。送信信号生成手段11は、前記所定の既知信号(端末局20Aの既知信号)を含む端末局20Aへの送信信号を生成する(ステップS26)。相殺信号生成手段12は、他の端末局20Bへ送信する信号に算出したフィルタ係数によるフィルタ処理を行うことによって、相殺信号を生成する(ステップS27)。合成手段13は、記送信信号と相殺信号を合成して合成信号を生成する(ステップS28)。送信手段14は、合成信号(図2の送信信号v1)を送信する(ステップS29)。
【0075】
(付記1)
ハブ局と複数の端末局とを有し、前記ハブ局と前記複数の端末局とが同一チャネルを使用して同一時間に通信を行う通信システムであって、前記ハブ局は、前記複数の端末局のうちの1つの前記端末局へ信号を送信する場合、所定の既知信号を含む送信信号(例えば、変調信号d1)を生成する手段と、前記送信信号に関して、他の前記端末局へ送信する信号によって生じる干渉波信号を相殺する相殺信号を生成する手段と、前記送信信号と前記相殺信号を合成して合成信号(例えば、送信信号v1)を生成する手段と、前記合成信号を送信する手段と、前記1つの前記端末局が受信した前記合成信号に含まれる既知信号と前記所定の既知信号との誤差信号と、前記干渉波信号とに基づいて、前記誤差信号の電力が最小化されるような適応フィルタを算出する手段と、を有し、前記端末局は、前記誤差信号を算出する手段と、前記干渉波信号に含まれる当該干渉波信号に係る前記他の前記端末局用の所定の既知信号を生成する手段と、算出した前記誤差信号と生成した前記干渉波信号に含まれる前記既知信号とに基づく前記適応フィルタのフィルタ係数の修正量を算出する手段と、前記修正量を送信する手段と、を有し、前記適応フィルタを算出する手段は、前記修正量に基づいて、前記誤差信号の電力が最小化されるような前記フィルタ係数を算出し、前記相殺信号を生成する手段は、前記他の前記端末局へ送信する信号に前記フィルタ係数によるフィルタ処理を行うことによって、前記相殺信号を生成する、通信システム。
【0076】
(付記2)
前記適応フィルタを算出する手段は、Lをブロック長、μをステップサイズ、kを時間、sを前記修正量、nを前記合成信号の送信先の前記端末局の番号、前記フィルタ係数として、ブロックLMS(Least Mean Square)アルゴリズムにおけるFIRフィルタタップ係数wを以下の式によって算出する、付記1に記載の通信システム。
【0077】
【数16】
【0078】
(付記3)
前記修正量を算出する手段は、Lをブロック長、dをブロックLMSの入力信号、eを誤差信号、kおよびlを時間、nを前記合成信号の送信先の前記端末局の番号、n’を前記干渉波信号に係る前記他の前記端末局(干渉となる端末局)の番号としたときに、以下の式によって前記修正量であるsを算出する、付記2に記載の通信システム。
【0079】
【数17】
【0080】
(付記4)
前記修正量を算出する手段は、Lをブロック長、dをブロックLMSの入力信号、eを誤差信号、kおよびlを時間、nを前記合成信号の送信先の前記端末局の番号、n’を前記干渉波信号に係る前記他の前記端末局(干渉となる端末局)の番号としたときに、以下の式によって前記修正量であるsを算出する、付記2に記載の通信システム。
【0081】
【数18】
【0082】
(付記5)
前記修正量を算出する手段は、Lをブロック長、dをブロックLMSの入力信号、eを誤差信号、kおよびlを時間、nを前記合成信号の送信先の前記端末局の番号、n’を前記干渉波信号に係る前記他の前記端末局(干渉となる端末局)の番号としたときに、以下の式によって前記修正量であるsを算出する、付記2に記載の通信システム。
【0083】
【数19】
【0084】
(付記6)
前記修正量を算出する手段は、Lをブロック長、dをブロックLMSの入力信号、eを誤差信号、kおよびlを時間、nを前記合成信号の送信先の前記端末局の番号、n’を前記干渉波信号に係る前記他の前記端末局(干渉となる端末局)の番号としたときに、以下の式によって前記修正量であるsを算出する、付記2に記載の通信システム。
【0085】
【数20】
【0086】
(付記7)
前記修正量を算出する手段は、Lをブロック長、dをブロックLMSの入力信号、eを誤差信号、kおよびlを時間、nを前記合成信号の送信先の前記端末局の番号、n’を前記干渉波信号に係る前記他の前記端末局(干渉となる端末局)の番号としたときに、以下の式によって前記修正量であるsを算出する、付記2に記載の通信システム。
【0087】
【数21】
【0088】
(付記8)
前記修正量を算出する手段は、Lをブロック長、dをブロックLMSの入力信号、eを誤差信号、kおよびlを時間、nを前記合成信号の送信先の前記端末局の番号、n’を前記干渉波信号に係る前記他の前記端末局(干渉となる端末局)の番号としたときに、以下の式によって前記修正量であるsを算出する、付記2に記載の通信システム。
【0089】
【数22】
【0090】
(付記9)
前記ブロックLMSの入力信号が、前記干渉波信号に係る前記他の前記端末局(干渉となる端末局)へ送信する信号に含める既知信号だけで構成される(上記の「入力信号の扱い」の記載内容に対応)、付記2から付記8の何れか1つに記載の通信システムである。
【0091】
(付記10)
初期引込時に前記FIRフィルタタップ係数wを算出する場合、送信信号を生成する手段は、既知信号だけを繰り返した信号を生成するか、又は、前記1つの前記端末局へ送信するデータを、初期引込後よりも削減した信号を生成する、付記2から付記9の何れかに記載の通信システムである。
【0092】
(付記11)
初期引込時に前記FIRフィルタタップ係数wを算出する場合、前記適応フィルタを算出する手段は、前記ブロック長Lおよび/または前記ステップサイズμに、初期引込後よりも大きな値を設定する、付記2から付記10の何れかに記載の通信システムである。
【0093】
(付記12)
ハブ局と複数の端末局とが同一チャネルを使用して同一時間に通信を行う通信方法であって、1つの前記端末局は、前記ハブ局から信号を受信し、受信した前記信号に含まれる既知信号と所定の既知信号との誤差信号を算出し、前記ハブ局から他の前記端末局へ送信される信号によって生じる干渉波信号に含まれる当該干渉波信号に係る前記他の前記端末局用の所定の既知信号を生成し、算出した前記誤差信号と、生成した前記干渉波信号に含まれる前記既知信号とに基づいて適応フィルタのフィルタ係数の修正量を算出し、前記修正量を前記ハブ局へ送信し、前記ハブ局は、前記修正量に基づいて、前記誤差信号の電力が最小化されるような前記フィルタ係数を算出し、前記所定の既知信号を含む送信信号を生成し、前記干渉波信号を相殺する相殺信号を、前記他の前記端末局へ送信する信号に前記フィルタ係数によるフィルタ処理を行うことによって生成し、前記送信信号と前記相殺信号を合成して合成信号を生成し、前記合成信号を前記1つの前記端末局へ送信する、通信方法。
【0094】
以上、図面を参照してこの発明の一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な設計変更等をすることが可能である。また、本発明の一態様は、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、上記各実施形態や変形例に記載された要素であり、同様の効果を奏する要素同士を置換した構成も含まれる。
【符号の説明】
【0095】
100・・・ハブ局
101・・・送信機
102-1、102-2・・・変調器
103-1、103-2・・・送信補償器
104-1、104-2・・・合成器
105-1、105-2・・・受信機
105-1・・・受信機
1051-1・・・復調器
200、300、400・・・端末局
203、303、403・・・送信機
2031、3031、4031・・・変調器
201、301、401・・・受信機
202、302、402・・・復調器
203、303、403・・・送信機
2023、3023、4023・・・誤差信号算出部
2011・・・希望波既知信号検出部
2012・・・干渉波既知信号生成部
2013・・・送信ROF部
2014・・・乗算部
2015・・・タップ更新量算出部
2023・・・誤差信号算出部
2024・・・複素共役計算部
10・・・ハブ局
11・・・送信信号生成手段
12・・・相殺信号生成手段
13・・・合成手段
14・・・送信手段
15・・・適応フィルタ算出手段
20A、20B・・・端末局
21A、21B・・・誤差信号算出手段
22A、22B・・・干渉波信号生成手段
23A、23B・・・修正量算出手段
24A、24B・・・送信手段
30・・・通信システム
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11