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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172439
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】コンデンサ用セパレータ
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/02 20060101AFI20231129BHJP
【FI】
H01G9/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084240
(22)【出願日】2022-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】501270287
【氏名又は名称】帝人フロンティア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 大樹
(72)【発明者】
【氏名】神山 三枝
(57)【要約】
【課題】孔径の均一性、吸液性および保液性に優れたコンデンサ用セパレータを提供する。
【解決手段】バインダー繊維(A)および非バインダー繊維(B)からなる湿式不織布であるコンデンサ用セパレータであり、バインダー繊維(A)は平均繊維径が1~9μmであり、非バインダー繊維(B)は平均繊維径が0.1~9μmであり、バインダー繊維(A)は、湿式不織布の30~60重量%を占め、非バインダー繊維(B)は、湿式不織布の40~70重量%を占め、該湿式不織布は合成繊維でない繊維を含まず、かつ目付が10~40g/m、空隙率60%以上、平均孔径15μm以下、最大孔径30μm以下、孔径分布の標準偏差7μm以下であり、ガーレー透気度が0.05~0.4秒/100ccであることを特徴とする、コンデンサ用セパレータ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダー繊維(A)および非バインダー繊維(B)からなる湿式不織布であるコンデンサ用セパレータであり、バインダー繊維(A)は平均繊維径が1~9μmであり、非バインダー繊維(B)は平均繊維径が0.1~9μmであり、バインダー繊維(A)は、湿式不織布の30~60重量%を占め、非バインダー繊維(B)は、湿式不織布の40~70重量%を占め、該湿式不織布は合成繊維でない繊維を含まず、かつ目付が10~40g/m、空隙率60%以上、平均孔径15μm以下、最大孔径30μm以下、孔径分布の標準偏差7μm以下であり、ガーレー透気度が0.05~0.4秒/100ccであることを特徴とする、コンデンサ用セパレータ。
【請求項2】
曲路率が1.2以上である、請求項1に記載のコンデンサ用セパレータ。
【請求項3】
引張強度MD方向5N/15mm以上である、請求項1に記載のコンデンサ用セパレータ。
【請求項4】
180℃で1時間静置後の熱収縮率MD方向、CD方向ともに10%以下である、請求項1に記載のコンデンサ用セパレータ。
【請求項5】
吸水率が、吸水性試験による滴下法による測定で60秒以下、バイレック法による測定で30mm/10min以上、かつ保水率が200重量%以上である、請求項1に記載のコンデンサ用セパレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンデンサ用セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
コンデンサは電気を蓄えたり、放出したりする電子部品であり、キャパシタや蓄電器とも呼ばれる。コンデンサには、材料や構造によって様々な種類がある。例えば、アルミ電解コンデンサ、タンタル電解コンデンサ、ハイブリッドコンデンサがあり、様々な電子機器に使用されており、今後も市場拡大が期待されている。
【0003】
電子機器には、小型化や低コスト化が求められており、これらに用いるコンデンサなどの部品にも小型化、高性能化(長寿命、低抵抗化)、安全性(短絡抑制、耐熱性)および低コスト化が求められている。
コンデンサ用セパレータは、電解液を保持しながら正極と負極とを隔離する役割を担い、小型化、高性能化および安全性を達成するために、薄膜でありながら均一な構造体であること、および電解液の保持性および耐熱性に優れることが求められる。
【0004】
従来、コンデンサ用セパレータとして、セルロース系繊維を叩解などの前処理をしたものを用いたものが提案されている(特許文献1および2)。セルロース系繊維は繊維径が太いため、叩解などの前処理が必要である。しかし、叩解処理時に金属異物混入のおそれがあり、また、叩解では繊維径や繊維長が不均一となってしまい、得られる不織布は孔径や厚みが不均一なものとなり、コンデンサ用セパレータとして用いたときに、電解液の偏在化やそれによる低寿命化を引き起こすおそれがある。
【0005】
合成繊維系のセパレータとして、フィブリル化耐熱繊維と合成短繊維とを含有したコンデンサ用セパレータが提案されている(特許文献3)。耐熱繊維は繊維径が太いため、リファイナーやビーターなどにより耐熱繊維を予め微細化する前処理が必要であり、このときに金属異物の混入のおそれがあり、また、繊維径やカット長の不均一が生じてしまう。
【0006】
ナノファイバーや極細繊維を使用することで、孔径を小さく均一化し、短絡を抑制したセパレータが提案されている(特許文献4)。これらのセパレータは、リチウムイオン電池などの二次電池用のセパレータであり、孔径が非常に小さく、空隙が少ない緻密なセパレータである。そもそもリチウムイオン電池は、正負極間のリチウムイオンの移動によって充放電を行っており、不均一なイオン移動やリチウムデンドライトの析出による電池短絡の危険性が高いため、緻密なセパレータが使われている。
他方、コンデンサは、リチウムイオン電池に比べて短絡の危険性は低い。このため、正負極間を隔離しつつ、低抵抗な構造で電解液を均一に保持することが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5-267103号公報
【特許文献2】特開2017-69229号公報
【特許文献3】特開2020-167386号公報
【特許文献4】WO2021/085250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、本発明の目的は、孔径の均一性、吸液性および保液性に優れたコンデンサ用セパレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、バインダー繊維(A)および非バインダー繊維(B)からなる湿式不織布であるコンデンサ用セパレータであり、バインダー繊維(A)は平均繊維径が1~9μmであり、非バインダー繊維(B)は平均繊維径が0.1~9μmであり、バインダー繊維(A)は、湿式不織布の30~60重量%を占め、非バインダー繊維(B)は、湿式不織布の40~70重量%を占め、該湿式不織布は合成繊維でない繊維を含まず、かつ目付が10~40g/m、空隙率60%以上、平均孔径15μm以下、最大孔径30μm以下、孔径分布の標準偏差7μm以下であり、ガーレー透気度が0.05~0.4秒/100ccであることを特徴とする、コンデンサ用セパレータである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、孔径の均一性、吸液性および保液性に優れたコンデンサ用セパレータを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳しく説明する。
【0012】
〔コンデンサ用セパレータ〕
本発明は、バインダー繊維(A)および非バインダー繊維(B)からなる湿式不織布であるコンデンサ用セパレータである。バインダー繊維(A)はその平均繊維径が1~9μmであり、非バインダー繊維(B)はその平均繊維径が0.1~9μmである。
そして、バインダー繊維(A)は、湿式不織布の30~60重量%を占め、非バインダー繊維(B)は、湿式不織布の40~70重量%を占める。この湿式不織布は、合成繊維でない繊維を含まない。
【0013】
本発明ではこの構成をとることで、低い目付でありかつ薄い湿式不織布でありながら、平均孔径および最大孔径が小さく、かつ均一性に優れた湿式不織布であるコンデンサ用セパレータを得ることができる。
【0014】
本発明のコンデンサ用セパレータでは、これを構成する湿式不織布の均一性が優れるでことで、電解液を保持させたときの電解液の偏りや電極界面の接触不良を抑制することができ、優れた保液性を得ることができる。なお、電解液の偏りや電極界面の接触不良は、低寿命化や抵抗増大を引き起こす原因となるため、コンデンサ用セパレータとして構造の均一性が重要である。
【0015】
〔バインダー繊維(A)〕
バインダー繊維(A)は熱融着性繊維であり、例えば芯鞘型複合繊維、未延伸繊維を用いることができる。バインダー繊維(A)は、湿式不織布の30~60重量%を占める。バインダー繊維(A)が30重量%未満であると不織布の強度が低くなってしまい、60重量%を超えると抄紙時の熱収縮が大きくなり抄紙性が悪くなる。
【0016】
バインダー繊維の平均繊維径は1~9μmであり、好ましくは3~9μmである。バインダー繊維の平均繊維径が1μm未満であると不織布のコシや引張強度が不足する恐れがあり、9μmを超えると薄膜化が困難となり抵抗が増大する恐れがある。
【0017】
バインダー繊維は、短繊維であることが好ましく、その平均繊維長は、好ましくは0.5~10mm、さらに好ましくは1~7mmである。0.5mm未満であると分散不良や不織布の引張強度不足する恐れがあり好ましくない。10mmを超えると薄膜化が困難となるため好ましくない。
【0018】
〔芯鞘型複合繊維〕
芯鞘型複合繊維として、80~170℃の温度で融着して接着効果を発現するバインダー成分のポリマー(例えば、非晶性共重合ポリエステル)が鞘部に配され、これらのポリマーより融点が20℃以上高い他のポリマー(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートといったポリエステル)が芯部に配された芯鞘型複合繊維が好ましい。
【0019】
芯鞘型複合繊維は、バインダー成分が単繊維の表面の全部または一部を形成しているもを用いることができ、偏心芯鞘型複合繊維やサイドバイサイド型複合繊維であってもよい。
【0020】
〔未延伸繊維〕
未延伸繊維として、有機ポリマーの未延伸繊維を用い、好ましくは、未延伸ポリエステル繊維および/または未延伸ポリフェニレンスルフィド繊維を用いる。未延伸繊維は、その複屈折率Δnが0.05以下であることが好ましい。
これらの未延伸繊維は、例えば800~1200m/分、好ましくは900~1150m/分の紡糸速度で紡糸された未延伸繊維である。
【0021】
未延伸ポリエステル繊維のポリエステルとして、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートを例示することができ、生産性、水への分散性の観点から、好ましくはポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートを用いる。
【0022】
未延伸ポリフェニレンスルフィド繊維のポリフェニレンスルフィドとして、フェニレンスルフィドを繰り返し単位とするポリマーを用いる。このフェニレンスルフィドとして、p-フェニレンスルフィド、m-フェニレンスルフィド、o-フェニレンスルフィド、フェニレンスルフィドスルホン、フェニレンスルフィドケトン、フェニレンスルフィドエーテル、ジフェニレンスルフィド、置換基含有フェニレンスルフィド、分岐構造含有フェニレンスルフィドを例示することができ、好ましくはp-フェニレンスルフィドである。この場合、p-フェニレンスルフィドは、繰り返し単位の好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上、特に好ましくは100モル%を占める。すなわち、ポリ(p-フェニレンスルフィド)が最も好ましい。
【0023】
〔非バインダー繊維(B)〕
非バインダー繊維(B)は、寸法安定性、分散性および構造の均一性の観点から、ポリエチレンテレフタレートからなる延伸繊維の短繊維であることが好ましい。
非バインダー繊維(B)は、平均繊維径が0.1~9μmである。非バインダー繊維(B)の平均繊維径が0.1μm未満であると、分散が難しくなる他、抄紙工程で網の目を通過してしまい、不織布を形成することが困難になるおそれがある。他方、9μmを超えると薄膜化が困難になる恐れがある。
【0024】
非バインダー繊維として、ポリエステル繊維、ポリフェニレンスルフィド繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維を例示することができ、なかでもポリエステル繊維が好ましい。ポリエステル繊維の融点は例えば260~270℃であり、耐熱性、耐溶剤性および加水分解性に優れ、セパレータやセパレータ基材として信頼性の高い繊維である。
【0025】
ポリエステル繊維を形成するポリエステルとして、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレートを例示することができる。ポリエステルは、共重合ポリエステルであってもよい。
【0026】
非バインダー繊維には、ナノファイバーが含まれていてもよい。ナノファイバーを含む場合、ナノファイバーの含有量は、湿式不織布の重量のうち高々30重量%である。ナノファイバーの含有量が、湿式不織布の重量のうち30重量%を超えると、緻密な不織布となり、コンデンサ用セパレータとして抵抗増大の原因となる。
【0027】
非バインダー繊維は、短繊維であることが好ましい。繊維の分散性や抄紙性の観点から、短繊維の平均繊維長は、好ましくは0.2~10mm、さらに好ましくは0.4~7mmである。非バインダー繊維にナノファイバーが含まれる場合も同様である。
【0028】
非バインダー繊維(B)は、湿式不織布の40~70重量%を占める。非バインダー繊維が40重量%未満であると、バインダー繊維の含有率が高くなるため、湿式不織布の製造における乾燥工程で不織布の熱収縮によるしわや破断が生じやすくなり、不織布の寸法安定性が不安定となってしまう。他方、非バインダー繊維が70重量%を超えると、バインダー繊維の含有率が相対的に低くなり、不織布の強度や伸度が低下してしまう。
【0029】
湿式不織布には、紙用繊維素材を少量、例えば湿式不織布の重量の高々20重量%まで配合してもかまわない。この紙用繊維素材として、木材パルプ、天然パルプ、アラミド、ポリエチレン、ナイロン、アクリル、ビニロン、レーヨン等の合成繊維または半合成繊維を例示することができる。
【0030】
〔ナノファイバー〕
ナノファーバーの繊維として、ポリエステル繊維、ポリフェニレンスルフィド繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維を例示することができ、なかでもポリエステル繊維が好ましい。
【0031】
非バインダー繊維に含有させることができるナノファイバーの平均繊維径は200~1000nmである。ナノファイバーの繊維径は、透過型電子顕微鏡TEMで倍率30000倍で単繊維断面写真を撮影して測定した値である。N数が5として平均した数値を平均繊維径とする。この際、測長機能を有するTEMでは、測長機能を活用して測定することができる。測長機能の無いTEMでは、撮った写真を拡大コピーして、縮尺を考慮した上で定規にて測定すればよい。単繊維の横断面形状が丸断面以外の異型断面である場合には、繊維径は、単繊維の横断面の外接円の直径を用いる。
【0032】
ナノファイバーにおいて、アスペクト比(繊維径Dに対する繊維長Lの比L/D)は、分散性の観点から、好ましくは100~2500である。このアスペクト比となるように、ギロチンカッター等を用いて所定の繊維長に切断して用いる。
ナノファイバーは、市販のものを用いることができる。
【0033】
〔湿式不織布〕
本発明の湿式不織布であるコンデンサ用セパレータは、目付が10~40g/mであり、空隙率が60%以上であり、平均孔径が15μm以下であり、最大孔径が30μm以下であり、孔径分布の標準偏差が7μm以下であり、かつガーレー透気度が0.05~0.4秒/100ccである。以下に詳しく説明する。
【0034】
〔目付〕
本発明のコンデンサ用セパレータの湿式不織布の目付は、10~40g/mであり、好ましくは10~30g/mである。40g/mを超えると抵抗が大きくなり、またコンパクトにすることが難しくなる。目付は低い方が好ましいが、不織布の均一性と強度の観点から、目付の下限は10g/mである。
【0035】
〔空隙率〕
本発明のコンデンサ用セパレータの湿式不織布の空隙率は60%以上である。空隙率が60%未満であると、不織布の空隙が少ないため電解液の保持量が低下し、それによる低寿命化を引き起こす。
【0036】
〔孔径分布〕
本発明のコンデンサ用セパレータの湿式不織布は、平均孔径が15μm以下、好ましくは12μm以下であり、最大孔径が30μm以下、好ましくは25μm以下であり、かつ、孔径分布の標準偏差が7μm以下、好ましくは6μm以下である。
【0037】
平均孔径および最大孔径がこれよりも大きいと、コンデンサ用セパレータとして絶縁性が低く、短絡不良が生じやすく、安全性に欠ける。また、孔径分布の標準偏差がこれよりも大きいと、電解液の偏在化やそれによるイオン伝導の偏りが生じやすく、寿命低下を引き起こすことが懸念される。特に、長期間使用する際には電解液の保持性の不良による抵抗増大が生じ、性能が劣化してしまうおそれがある。
【0038】
〔ガーレー透気度〕
本発明のコンデンサ用セパレータの湿式不織布は、ガーレー透気度が0.05~0.4秒/100ccである。ガーレー透気度が0.05秒/100cc未満であると短絡不良の恐れがあり、他方、0.4秒/100ccを超えると、コンデンサ用セパレータとして緻密性が高すぎ、抵抗が増大するおそれがある。
【0039】
〔曲路率〕
本発明のコンデンサ用セパレータの湿式不織布の曲路率は、好ましくは1.2以上である。曲路率が1.2未満であると、短絡不良率が高くなってしまう恐れがある。なお、曲路率はセパレータの厚さと、気体や流体のセパレータ中のイオン流路長との比で表す。曲路率が低いほど、通路経路長が短く抵抗低くなる。他方、曲路率が高いと、抵抗は大きくなるが、短絡を抑制しやすい。
【0040】
〔密度〕
本発明のコンデンサ用セパレータの湿式不織布の密度は、好ましくは0.5g/cm以下である。0.5g/cmを超えると抵抗の増大や電解液の保水性が低下し、低寿命化する恐れがある。
【0041】
〔引張強度〕
本発明のコンデンサ用セパレータの湿式不織布は、その引張強度が、MD方向について好ましくは5N/15mm以上、さらに好ましくは5~30N/15mmである。引張強度はセパレータの靭性を示す指標であり、製造工程で巻回型コンデンサを製造するときにセパレータの破れや裂けが発生しないように一定の靭性が必要であり、大きいほど好ましい。
【0042】
本発明のコンデンサ用セパレータの湿式不織布は、180℃で1時間静置後の熱収縮率が、MD方向、CD方向ともに好ましくは10%以下、さらに好ましくは8%以下である。
【0043】
コンデンサ用セパレータには、高温になったときに融けて破れが発生したり、孔が広がるなどして短絡が発生しないように耐熱性が必要である。本発明では、この範囲の熱収縮率を備えることで、十分な耐熱性を備え、短絡を防止することができる。
【0044】
〔吸液性、保液性〕
本発明のコンデンサ用セパレータの湿式不織布において、コンデンサ用セパレータとしての吸液性と保液性の効果は、吸水率と保水率で評価される。
本発明のコンデンサ用セパレータの湿式不織布の吸水率は、吸水性試験による滴下法による測定で、好ましくは60秒以下であり、バイレック法による測定で、好ましくは30mm/10min以上であり、かつ保水率が、好ましくは200重量%以上である。
【0045】
これら吸水性試験は、コンデンサ用セパレータの電解液の吸液性と保液性に対応する。コンデンサ用セパレータの製造工程や性能において、電解液を即座に吸液する吸液性が高く、かつ保液性が高いことは、工程の効率化や不良率の抑制や長寿命化に効果的である。本発明のコンデンサ用セパレータは、吸液性および保液性に優れる。
【0046】
滴下法では、コンデンサ用セパレータに蒸留水を5μL滴下した際に、水滴がセパレータに到達してからの蒸留水の鏡面反射が完全になくなるまでの時間を計測する。この時間が短いほど吸液性に優れる。
【0047】
バイレック法では、コンデンサ用セパレータを垂直に立てた状態で固定し、下端を蒸留水に浸漬させ、10分間静置した後に蒸留水がセパレータ内を上昇した高さを測定する。この高さが高いほど吸液性に優れる。
【0048】
保水率の評価では、コンデンサ用セパレータを蒸留水に1分間浸漬した後取り出し、1分間水を滴り落とした後、浸漬前後のセパレータの重量変化から保水率を算出する。保水率が高い程、セパレータ内部に保持される蒸留水量が多く、保水性に優れる。
【0049】
〔製造方法〕
本発明のコンデンサ用セパレータの湿式不織布は、通常の長網抄紙機、短網抄紙機、丸網抄紙機、またはこれらを複数台組み合わせて多層抄きする抄紙の後に、熱処理を経ることで製造することができる。
【0050】
熱処理は、湿式不織布の抄紙の後、ヤンキードライヤー、エアースルードライヤーを用いて熱処理することで行うことができる。熱処理の温度は例えば80~200℃、時間は例えば10~600秒間である。
【0051】
熱処理の後、さらに、金属/金属ローラー、金属/ペーパーローラー、金属/弾性ローラーを用いてカレンダー処理を施してもよい。湿式不織布を多層構造とする場合には、湿式不織布を得た後、カレンダー機などを用いて、複数の湿式不織布を接着させるとよい。
【0052】
なお、バインダー繊維として未延伸繊維を用いる場合、湿式不織布の製造において抄紙の後の熱処理の後に、さらに熱圧着が必要である。この熱圧着の工程で、カレンダーおよび/またはエンボス処理を施すことが好ましい。
【実施例0053】
以下、実施例を挙げて本発明を説明する。物性は、以下の方法により測定した。
なお、湿式不織布の原料として、下記のポリエステル系繊維を用いた。なお、実施例では、説明の便宜上、非バインダー繊維、バインダー繊維の順に説明する。
・非バインダー繊維 ポリエステル系ナノファイバー(平均繊維径700nm、平均繊維長0.5mm):帝人フロンティア社製ナノフロント(繊維径700nm、カット長0.5mm)
・非バインダー繊維 ポリエステル系マイクロファイバー(平均繊維径3.1μm、平均繊維長3.0mm):帝人フロンティア社製テピルスTA04PN SD 0.1dtex 3mm
・バインダー繊維 ポリエステル系バインダー繊維(平均繊維径4.5μm、平均繊維長3.0mm):帝人フロンティア社製テピルスTK08PN SD 0.2dtex 3mm
・バインダー繊維 ポリエステル系バインダー繊維(平均繊維径10.1μm、平均繊維長5.0mm):帝人フロンティア社製テピルスTJ04CN SD 1.1dtex 5mm
【0054】
(1)繊維径、平均繊維径
透過型電子顕微鏡TEM(測長機能付)を使用し、倍率30000倍で繊維断面写真を撮影して測定した。繊維径には、単繊維横断面におけるその外接円の直径を用いた。n数5の平均値を平均繊維径とした。
【0055】
(2)繊維長、平均繊維長
走査型電子顕微鏡(SEM)により、繊維を基盤上に寝かせた状態とし、10~500倍で繊維長を測定した。その際、SEMの測長機能を活用して繊維長を測定した。n数5の平均値を平均繊維長とした。
【0056】
(3)目付け
JIS P8124(紙のメートル坪量測定方法)に基づいて測定した。
【0057】
(4)厚み
JIS P8118(紙及び板紙の厚さと密度の測定方法)に基づいて厚みを測定した。測定荷重75g/cmにて、サンプル数5で測定し、平均値を求めた。
【0058】
(5)密度
不織布の目付と厚みから下記の式により算出した。ただし、Wは目付(g/m)、Lは厚み(mm)である。
密度(g/cm)=(W/10000)/(L/10)
【0059】
(6)空隙率
不織布の密度と構成繊維の樹脂密度から、下記の式により算出した。Dは密度(g/cm)、Rは樹脂密度(g/cm)である。ここで、Rはポリエステル樹脂の密度であり、R=1.36で計算した。
空隙率(%)=100-{(D/R)×100}
【0060】
(7)引張強度
JIS P8113(紙および板紙の引張強さと試験方法)に基づいて測定した。
【0061】
(8)ガーレー透気度
JIS P8117(紙及び板紙の透気度試験方法)に基づいて実施した。
【0062】
(9)孔径
PMI社製パームポロメーターを用いてASTM-F-316に基づいて、平均孔径、最大孔径および孔径分布の標準偏差を測定した。
【0063】
(10)曲路率
不織布の厚み、空隙率、平均孔径およびガーレー透気度から下記の式により算出した。τは曲路率、Lはセパレータ厚さ(μm)、tはガーレー値(秒/100cc)、εは空隙率(%)、dは平均孔径(μm)である。
τ={(t×ε×d)/(5.18×10-3×L)}(1/2)
【0064】
(11)熱収縮率
MD100mm×CD100mmの不織布サンプルを180℃の乾燥機中に1時間静置した後のMDおよびCDの長さから、熱収縮率を算出した。
【0065】
(12)吸水性試験
不織布の吸水性は、JIS L1907(繊維製品の吸水性試験方法)を参考にして、滴下法とバイレック法にて、下記の要領で実施した。
<滴下法>
不織布サンプルに10mmの高さから蒸留水を5μL滴下し、水滴が不織布サンプルの表面に達したときからその不織布サンプルが水滴を吸収するにつれて鏡面反射が消え湿潤だけが残った状態までの時間(sec)を計測した。
<バイレック法>
不織布サンプルを垂直に立てて固定して下端を蒸留水に浸漬させ、10分間放置後に蒸留水がセパレータ内を上昇した高さ(mm)を測定した。
【0066】
(13)保水性試験
不織布の保水性は、JIS L1913(一般不織布試験方法)に基づき下記要領で測定した。不織布サンプル(100mm×100mm)の重量を測定し、蒸留水に1分間浸漬した。その後、取り出し、1分間水を滴り落とした後に重量を測定した。試験前後のサンプルの重量変化から保水量(g)を算出し、下記の式で保水率(%)を算出した。なお、mは試験前重量(mg)、mは試験後重量(mg)である。
保水率(%)={(m-m)/m}×100
【0067】
〔実施例1〕
非バインダー繊維としてポリエステル系マイクロファイバー(平均繊維径3.1μm、平均繊維長3.0mm)50重量%と、バインダー繊維としてポリエステル系バインダー繊維からなる熱融着性繊維(平均繊維径4.5μm、平均繊維長3.0mm)50重量%と、からなる不織布を湿式抄紙法により作製し、ヤンキードライヤーにて120℃で30秒間乾燥し、所定の目付と厚みに調整して、コンデンサ用セパレータを得た。評価結果を表1に示す。
【0068】
得られたコンデンサ用セパレータは、空隙率が60%以上でありながら、極細繊維で湿式不織布を構成しているため、平均孔径と最大孔径、孔径分布の標準偏差が小さく、孔径の均一性に優れたものであった。
このコンデンサ用セパレータは、不織布構造が高空隙構造でかつ均一性に優れるため、滴下法での迅速な吸水性とバイレック法での吸上げ性(拡散性)に優れており、不織布内での電解液の偏在化が抑制され、高空隙構造によって保水率にも優れていた。コンデンサ用セパレータとして、不織布の孔径均一性、吸液性および保液性に優れていた。
【0069】
〔実施例2〕
実施例1と同様にして、目付けと厚みを変えた不織布を作製してコンデンサ用セパレータを得た。評価結果を表1に示す。実施例1と同様に孔径の均一性、吸液性および保液性に優れるものであった。
【0070】
〔実施例3〕
非バインダー繊維としてポリエステル系ナノファイバー(平均繊維径700nm、平均繊維長0.5mm)10重量%と、非バインダー繊維としてポリエステル系主体繊維からなるマイクロファイバー(平均繊維径3.1μm、平均繊維長3.0mm)40重量%と、バインダー繊維としてポリエステル系バインダー繊維からなる熱融着性繊維(平均繊維径4.5μm、平均繊維長3.0mm)50重量%と、からなる不織布を湿式抄紙法により作製し、ヤンキードライヤーにて120℃で30秒間乾燥し、所定の目付と厚みに調整して、コンデンサ用セパレータを得た。
評価結果を表1に示す。ナノファイバーを加えたことで、孔径の微小化および均一性に優れたものであった。
【0071】
〔実施例4〕
実施例3と同様の方法で目付けと厚みを変えた不織布を作製しコンデンサ用セパレータとして、物性を測定した。評価結果を表1に示す。実施例1と同様に孔径の均一性、吸液性および保液性に優れたものであった。
【0072】
〔比較例1〕
実施例1と同様の方法で不織布を作成後、さらに不織布をカレンダー熱処理して、所望の厚みに調整し、物性を測定した。評価結果を表1に示す。不織布の空隙率が低いため、吸液性と保液性が低くなってしまい、低寿命化や抵抗増大を引き起こすおそれがある。
【0073】
〔比較例2〕
非バインダー繊維としてポリエステル系主体繊維からなるナノファイバー(平均繊維径700nm、平均繊維長0.5mm)50重量%と、バインダー繊維としてポリエステル系バインダー繊維からなる熱融着性繊維(平均繊維径4.5μm、平均繊維長3.0mm)50重量%と、からなる不織布を、湿式抄紙法により作製し、ヤンキードライヤーにて120℃で30秒間乾燥し、所定の目付と厚みに調整した。このように不織布を作製してコンデンサ用セパレータを得た。評価結果を表1に示す。
【0074】
ナノファイバーの含有率が高いため、緻密な不織布となりガーレー透気度が高くなってしまう。そのため、コンデンサ用セパレータとしては抵抗が高くなってしまうため、好ましくない。
【0075】
〔比較例3〕
非バインダー繊維としてポリエステル系主体繊維からなるマイクロファイバー(平均繊維径3.1μm、平均繊維長3.0mm)50重量%と、バインダー繊維としてポリエステル系バインダー繊維からなる熱融着性繊維(平均繊維径10.1μm、平均繊維長5.0mm)50重量%と、からなる不織布を、湿式抄紙法により作製し、ヤンキードライヤーにて120℃で30秒間乾燥し、所定の目付と厚みに調整した。このように不織布を作製してコンデンサ用セパレータを得た。評価結果を表1に示す。
【0076】
不織布を構成する繊維径が太いため、平均孔径、最大孔径、平均孔径の標準偏差が大きく、不織布構造が不均一である。これにより、ガーレー透気度が低くなり、曲路率も低いことから短絡などの危険性がある。
【0077】
〔比較例4〕
非バインダー繊維としてポリエステル系主体繊維からなるナノファイバー(平均繊維径700nm、平均繊維長0.5mm)50重量%と、バインダー繊維としてポリエステル系バインダー繊維からなる熱融着性繊維(平均繊維径4.5μm、平均繊維長3.0mm)50重量%と、からなる不織布を湿式抄紙法により作製し、ヤンキードライヤーにて120℃で30秒間乾燥し、さらに不織布をカレンダー熱処理して所定の目付と厚みに調整した。このように不織布を作製してコンデンサ用セパレータを得た。
評価結果を表1に示す。ナノファイバーの含有率が高いため、緻密な不織布となり、ガーレー透気度が高くなってしまう。また、空隙率が低いため吸液性、保液性が低い。
【0078】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明のコンデンサ用セパレータは、コンデンサを構成するセパレータとして用いることができる。