(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172442
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】エンジンの制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 13/02 20060101AFI20231129BHJP
F02P 5/15 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
F02D13/02 H
F02P5/15 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084251
(22)【出願日】2022-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】工藤 毅暁
(72)【発明者】
【氏名】堀 隼基
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 祐利
(72)【発明者】
【氏名】藤川 竜也
(72)【発明者】
【氏名】山川 正尚
【テーマコード(参考)】
3G022
3G092
【Fターム(参考)】
3G022CA02
3G022DA02
3G092AA01
3G092AA11
3G092AB02
3G092AC02
3G092AC03
3G092DA01
3G092DA02
3G092DA03
3G092FA15
3G092GA02
(57)【要約】
【課題】エンジンの冷間始動直後からその排気性能を良好にできるエンジンの制御装置を提供する。
【解決手段】エンジンの温度が第1判定温度以下の場合は、排気弁の閉時期が排気上死点または排気上死点よりも遅角側の時期になるように排気弁位相可変装置を制御し、且つ、吸気弁の開時期が排気弁の閉時期よりも遅角側の時期になるように吸気弁位相可変装置を制御するともに、吸気行程中に燃焼室内への燃料供給が開始されるように燃料供給装置を制御する。エンジンの温度が第1判定温度よりも高く且つ第2判定温度以下の場合は、排気弁と吸気弁とが排気上死点を挟む所定の期間中ともに閉弁するネガティブオーバーラップが生じるように、あるいは、排気弁と吸気弁とが排気上死点を挟む所定の期間中ともに開弁するポジティブオーバーラップが生じるように、吸気弁位相可変装置および排気弁位相可変装置を制御する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室が形成されたエンジン本体と、前記燃焼室に燃料を供給する燃料供給装置と、前記燃焼室に吸気を導入する吸気ポートを開閉する吸気弁と、前記燃焼室から排気を導出する排気ポートを開閉する排気弁とを備えるエンジンの制御装置であって、
前記吸気弁の位相を変更可能な吸気弁位相可変装置と、
前記排気弁の位相を変更可能な排気弁位相可変装置と、
前記燃料供給装置、前記吸気弁位相可変装置および前記排気弁位相可変装置を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、
エンジンの温度が所定の第1判定温度以下であるという第1条件が成立する場合、前記排気弁の閉時期が排気上死点と同じまたは排気上死点よりも遅角側の時期になるように前記排気弁位相可変装置を制御し、且つ、前記吸気弁の開時期が前記排気弁の閉時期よりも遅角側の時期になるように前記吸気弁位相可変装置を制御するともに、前記排気弁の閉時期よりも遅角側の吸気行程中に前記燃焼室への燃料供給が開始されるように前記燃料供給装置を制御し、
エンジンの温度が前記第1判定温度よりも高く且つ所定の第2判定温度以下であるという第2条件が成立する場合、前記排気弁と前記吸気弁とが排気上死点を挟む所定の期間中ともに閉弁するネガティブオーバーラップが生じるように、あるいは、前記排気弁と前記吸気弁とが排気上死点を挟む所定の期間中ともに開弁するポジティブオーバーラップが生じるように、前記吸気弁位相可変装置および前記排気弁位相可変装置を制御する、ことを特徴とするエンジンの制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジンの制御装置において、
前記制御装置は、前記第1条件の成立時に、前記吸気弁の開時期よりも遅角側の時期に前記燃焼室への燃料供給が開始されるように前記燃料供給装置を制御する、ことを特徴とするエンジンの制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のエンジンの制御装置において、
前記エンジンは、前記燃焼室に供給される燃料と空気とを含む混合気に点火を行う点火プラグを備え、
前記制御装置は、前記第1条件成立時の方が前記第2条件成立時よりも前記点火プラグの点火時期が遅くなるように、当該点火プラグを制御する、ことを特徴とするエンジンの制御装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載のエンジンの制御装置において、
前記エンジンは、当該エンジンにより駆動されて発電する発電機と連結されており、
前記制御装置は、前記第1条件成立時の方が前記第2条件成立時よりも前記発電機の発電量が多くなるように、当該発電機を制御する、ことを特徴とするエンジンの制御装置。
【請求項5】
請求項1に記載のエンジンの制御装置において、
前記第2条件の成立時、前記制御装置は、前記ネガティブオーバーラップが生じるように、前記吸気弁位相可変装置および前記排気弁位相可変装置を制御する、ことを特徴とするエンジンの制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載のエンジンの制御装置において、
前記第2条件の成立時で且つエンジンの温度が前記第1判定温度よりも高い第3判定温度以上の時、前記制御装置は、エンジンの温度が高いときの方が低いときよりも前記排気弁の閉時期が遅角側の時期になるように前記排気弁位相可変装置を制御する、ことを特徴とするエンジンの制御装置。
【請求項7】
請求項5に記載のエンジンの制御装置において、
前記制御装置は、前記第1条件成立時の前記吸気弁の開時期の方が、前記第2条件成立時の前記吸気弁の開時期よりも遅角側の時期になるように前記吸気弁位相可変装置を制御する、ことを特徴とするエンジンの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両等に設けられるエンジンにおいて排気性能を高めることが求められている。これに対して、エンジンの排気通路に排気ガスを浄化する触媒装置を設ければ、排気性能は向上する。しかしながら、冷間始動時のようにエンジンの温度が低いときは、触媒装置が十分に活性化していない。そのため、排気ガスが十分に浄化されないおそれがある。特に、エンジンの温度が低いときは、燃焼室内で燃料が十分に蒸発しない。そのため、燃料と空気の混合が不十分となることで、エンジン本体から排出される未燃のHC量や煤が多くなり、これらが触媒装置で十分に浄化されることなく排出されるおそれがある。
【0003】
上記の問題に対して、例えば、特許文献1には、エンジンの冷間始動時に排気弁の位相を進角させて燃焼室内の圧力が比較的高い時期に排気弁を開弁させるようにしたエンジンが開示されている。このエンジンでは、エンジン本体から排気通路に排出される排気ガスの温度をより高くし、且つ、その流量をより多くすることで、触媒装置の早期活性化を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1記載のエンジンによれば、エンジンの冷間始動後の比較的早い時期に触媒装置が活性化することで、その後のエンジンの排気性能を良好にできると考えられる。しかしながら、このエンジンにおいても、やはり、触媒装置が活性化するまでの間の排気性能は十分ではなく、エンジンの冷間始動直後からエンジンの排気性能を良好にする点において改善の余地がある。
【0006】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、エンジンの冷間始動直後からその排気性能を良好にできるエンジンの制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するためのものとして、本発明は、燃焼室が形成されたエンジン本体と、前記燃焼室に燃料を供給する燃料供給装置と、前記燃焼室に吸気を導入する吸気ポートを開閉する吸気弁と、前記燃焼室から排気を導出する排気ポートを開閉する排気弁とを備えるエンジンの制御装置であって、前記吸気弁の位相を変更可能な吸気弁位相可変装置と、前記排気弁の位相を変更可能な排気弁位相可変装置と、前記燃料供給装置、前記吸気弁位相可変装置および前記排気弁位相可変装置を制御する制御装置とを備え、前記制御装置は、エンジンの温度が所定の第1判定温度以下であるという第1条件が成立する場合、前記排気弁の閉時期が排気上死点と同じまたは排気上死点よりも遅角側の時期になるように前記排気弁位相可変装置を制御し、且つ、前記吸気弁の開時期が前記排気弁の閉時期よりも遅角側の時期になるように前記吸気弁位相可変装置を制御するともに、前記排気弁の閉時期よりも遅角側の吸気行程中に前記燃焼室への燃料供給が開始されるように前記燃料供給装置を制御し、エンジンの温度が前記第1判定温度よりも高く且つ所定の第2判定温度以下であるという第2条件が成立する場合、前記排気弁と前記吸気弁とが排気上死点を挟む所定の期間中ともに閉弁するネガティブオーバーラップが生じるように、あるいは、前記排気弁と前記吸気弁とが排気上死点を挟む所定の期間中ともに開弁するポジティブオーバーラップが生じるように、前記吸気弁位相可変装置および前記排気弁位相可変装置を制御する、ことを特徴とする。
【0008】
本発明では、エンジンの温度が第1判定温度よりも高く且つ第2判定温度以下であるという第2条件の成立時、排気上死点を挟む所定の期間中ともに排気弁と吸気弁との双方が閉弁するネガティブオーバーラップが生じるように、あるいは、排気上死点を挟む所定の期間中ともに開弁するポジティブオーバーラップが生じるように、排気弁と吸気弁とが制御される。そのため、上記第2条件の成立時において、高温の既燃ガスを多量に燃焼室に残留させて燃焼室内の温度を高め、これにより燃料の蒸発を促進することができる。従って、本発明によれば、第2条件の成立時に燃焼室から排出される未燃のHCや煤の量を少なく抑えることができる。
【0009】
ただし、既燃ガスは不活性ガスであるため、エンジンの温度が特に低い場合に上記のように既燃ガスを多量に燃焼室に残留させると燃焼が不安定になるおそれがある。これに対して、本発明では、エンジンの温度が第1判定温度以下であるという第1条件の成立時は、排気弁の閉時期が排気上死点と同じまたは排気上死点よりも遅角側の時期とされ、且つ、吸気弁の開時期が排気弁の閉時期よりも遅角側の時期とされる。そのため、燃焼室内に残留する既燃ガスの量を少なく抑えて燃焼安定性を高めることができる。また、吸気行程において燃焼室を高い負圧状態にできる。そして、本発明では、この高い負圧状態とされた吸気行程中の燃焼室に燃料が供給されるようになっている。そのため、燃焼安定性を高めつつ、燃料の蒸発を促進して燃焼室から排出される未燃のHCや煤の量を少なく抑えることができる。さらに、燃焼室が高い負圧状態にあることで、吸気弁の開弁時に吸気を勢いよく燃焼室に流入させることができる。つまり、燃焼室内に強い吸気流動を生じさせることができ、これによって燃焼室内の温度を高めることもできる。これより、燃料の蒸発を確実に促進できる。
【0010】
上記のように、本発明によれば、エンジンの温度が低いときに燃焼室から排気通路に排出される未燃のHCや煤の量自体が少なく抑えられるので、触媒装置が十分に活性していないエンジンの冷間始動時においてもエンジンの排気性能を高めることができる。
【0011】
上記構成において、好ましくは、前記制御装置は、前記第1条件の成立時に、前記吸気弁の開時期よりも遅角側の時期に前記燃焼室への燃料供給が開始されるように前記燃料供給装置を制御する(請求項2)。
【0012】
この構成によれば、燃焼室内に吸気流動が生じている状態であって吸気流動によって燃焼室内の温度が高められている状態で燃焼室に燃料が供給される。そのため、燃料の蒸発をより確実に促進して、燃焼室から排出される未燃のHCや煤の量をより確実に少なく抑えることができる。
【0013】
上記構成において、好ましくは、前記エンジンは、前記燃焼室に供給される燃料と空気とを含む混合気に点火を行う点火プラグを備え、前記制御装置は、前記第1条件成立時の方が前記第2条件成立時よりも前記点火プラグの点火時期が遅くなるように、当該点火プラグを制御する(請求項3)。
【0014】
点火時期が遅角側の時期とされれば、エンジンに求められるトルクを実現するために燃焼室に比較的多くの空気が導入されることになる。多量の空気が燃焼室に導入されると、燃焼室内の吸気流動も高められる。そのため、この構成によれば、第1条件成立時に点火時期が比較的遅角側の時期とされることで、燃焼室内の吸気流動ひいては燃焼室内の温度を高めることができ燃料の蒸発をより一層促進できる。
【0015】
上記構成において、好ましくは、前記エンジンは、当該エンジンにより駆動されて発電する発電機と連結されており、前記制御装置は、前記第1条件成立時の方が前記第2条件成立時よりも前記発電機の発電量が多くなるように、当該発電機を制御する(請求項4)。
【0016】
エンジンにより駆動されて発電する発電機の発電量が多くされると、エンジンはより大きいトルクを出力する必要があるため、当該トルクを実現するために燃焼室に比較的多くの空気が導入されることになる。多量の空気が燃焼室に導入されると、燃焼室内の吸気流動も高められる。そのため、この構成によれば、第1条件成立時に点火時期が比較的遅角側の時期とされることで、燃焼室内の吸気流動ひいては燃焼室内の温度を高めることができ燃料の蒸発をより一層促進できる。
【0017】
上記構成において、好ましくは、前記第2条件の成立時、前記制御装置は、前記ネガティブオーバーラップが生じるように、前記吸気弁位相可変装置および前記排気弁位相可変装置を制御する(請求項5)。
【0018】
この構成では、第1条件の成立時と第2条件の成立時の双方において吸気弁の開時期が排気上死点よりも遅角側の時期とされる。そのため、第1条件が成立する状態から第2条件が成立する状態に切り替わった時、つまり、エンジンの温度が第1判定温度を超えた時の吸気弁の開時期の変更量を小さく抑えることができる。従って、吸気弁の開時期を早期に第2条件成立時の適切な時期に変更できる。
【0019】
上記構成において、好ましくは、前記第2条件の成立時で且つエンジンの温度が前記第1判定温度よりも高い第3判定温度以上の時、前記制御装置は、エンジンの温度が高いときの方が低いときよりも前記排気弁の閉時期が遅角側の時期になるように前記排気弁位相可変装置を制御する(請求項6)。
【0020】
この構成によれば、エンジンの温度が低く燃焼室の温度が低いときは、排気弁の閉時期が進角側の時期にされることで燃焼室に残留する既燃ガスの量を多くして、これにより燃焼室の温度を適切に高めることができる。また、エンジンの温度が高く燃焼室の温度が高いときは、排気弁の閉時期が遅角側の時期にされることで燃焼室に残留する既燃ガスの量を少なくして、これにより燃焼室の温度が過度に高くなるのを防止できる。
【0021】
上記構成において、好ましくは、前記制御装置は、前記第1条件成立時の前記吸気弁の開時期の方が、前記第2条件成立時の前記吸気弁の開時期よりも遅角側の時期になるように前記吸気弁位相可変装置を制御する(請求項7)。
【0022】
この構成によれば、第1条件成立時に吸気弁の開時期が十分に遅角側の時期とされることで、上記の負圧の作用を高めて燃料の蒸発をより確実に促進できる。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、本発明のエンジンの制御装置によれば、エンジンの冷間始動直後からその排気性能を良好にできる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の一実施形態に係るエンジンの制御装置が適用される車両の概略構成を示すシステム図である。
【
図3】車両の制御系統を示す機能ブロック図である。
【
図4】車両の制御の一部を示すフローチャートである。
【
図5】車両の制御の一部を示すフローチャートである。
【
図6】LIVOモードにおける吸気弁と排気弁のバルブリフトの一例を示した図である。
【
図7】NVOモードにおける吸気弁と排気弁のバルブリフトの一例を示した図である。
【
図8】NVOモードにおけるエンジン水温と排気弁の閉時期との関係を示したグラフである。
【
図9】エンジンが冷間始動されてからのエンジン水温とバルブタイミングの変化の一例を示したタイムチャートである。
【
図10】LIVOモードのバルブタイミングの作用を説明するための概略断面図であって、(a)は排気TDC前の燃焼室内の様子を示した図、(b)は排気TDC後且つ吸気弁の開時期前の燃焼室内の様子を示した図、(c)は吸気弁の開時期後の燃焼室内の様子を示した図である。
【
図11】エンジン水温が第1判定水温より高く且つ第2判定水温以下のときの吸気弁と排気弁のバルブリフトの他の例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[車両の全体構成]
図1は、本発明の一実施形態に係るエンジンの制御装置が適用される車両Vの概略構成を示すシステム図である。本図に示すように、車両Vは、エンジン1と、クラッチ30と、モータ31と、インバータ32と、バッテリ33と、変速機35と、差動装置36と、駆動輪37と、PCM50とを備える。エンジン1及びモータ31は、いずれも走行用の動力源として駆動輪37を駆動することが可能である。すなわち、本実施形態における車両Vは、エンジン1とモータ31とを動力源として併用するハイブリッド車両である。上記のPCM50は、本発明の「制御装置」に相当する。
【0026】
エンジン1は、燃料の燃焼により出力を発生する4サイクルの内燃式のエンジンである。エンジン1の燃料は特に問わないが、本実施形態では、ガソリンを燃料とするガソリンエンジンがエンジン1として用いられる。エンジン1の詳細については後述する。
【0027】
モータ31は、モータとしての機能と発電機としての機能とを兼ね備えたモータジェネレータである。例えば、三相交流同期型の電動モータがモータ31として用いられる。モータ31は、車両Vの加速時等にモータとして作動し、駆動輪37を回転駆動するための駆動力を発生する。また、モータ31は、車両Vの減速時等に発電機として作動し、駆動輪37から伝達される回転力を受けて発電する。なお、モータ31が発電機として作動する場合、駆動輪37には、モータ31での発電量に応じた制動力(回生ブレーキ)が作用する。
【0028】
インバータ32は、交流電力から直流電力への変換、並びにその逆変換を行う変換器である。モータ31が発電機として作動する場合、インバータ32は、モータ31で生成された交流電力を直流電力に変換した上でバッテリ33に供給する。一方、モータ31がモータとして作動する場合、インバータ32は、バッテリ33に蓄えられた直流電力を交流電力に変換した上でモータ31に供給する。また、インバータ32は、モータ31とバッテリ33との間の電力授受制御を通じてモータ31の出力又は発電量を調整する機能を有する。
【0029】
バッテリ33は、充放電可能な二次電池である。例えばリチイムイオンバッテリやニッケル水素バッテリがバッテリ33として用いられる。バッテリ33は、インバータ32を介してモータ31に駆動電力を供給するとともに、モータ31で発電された電力をインバータ32を介して受け入れて蓄電する。
【0030】
バッテリ33には、当該バッテリ33に対する入出力電流を検出するバッテリセンサSN3が取り付けられている。バッテリセンサSN3により検出された電流値は、バッテリSOC、つまりバッテリ33のフル充電時の充電量に対する現在の充電量の割合を特定するために利用される。言い換えると、バッテリセンサSN3は、バッテリSOCを検出するためのセンサである。具体的に、PCM50は、バッテリセンサSN3の検出値に基づいてバッテリ33の単位時間当たりの充電量および放電量を算出し、これらを積算することでバッテリSOCを算出する。
【0031】
クラッチ30は、エンジン1とモータ31とを離接可能に連結するクラッチである。具体的に、クラッチ30は、エンジン1の出力軸(後述するクランク軸7)とモータ31の回転軸(ロータ軸)とを直列に連結し、又はその連結を解除する。クラッチ30が締結されてエンジン1とモータ31とが連結されると、エンジン1及びモータ31の双方のトルクが変速機35および差動装置36を介して駆動輪37に伝達される。一方、クラッチ30の締結が解除されると、モータ31とエンジン1とが切り離され、モータ31のトルクのみが駆動輪37に伝達される。
【0032】
変速機35は、エンジン1及びモータ31から入力される回転を変速して差動装置36に出力する。本実施形態では、変速機35は自動変速機であり、車速とエンジン回転数とに応じて変速段が自動的に変更される。差動装置36は、変速機35から入力される回転を左右の駆動輪37に分配する。
【0033】
変速機35には、車両Vの走行速度つまり車速を特定するための車速センサSN1が取り付けられている。具体的に、車速センサSN1は、変速機35の出力軸43の回転数を検出し、この検出値に基づいて車速が特定されるようになっている。
【0034】
車両Vには、運転者により踏み込み操作されるアクセルペダル39が設けられている。アクセルペダル39には、その踏込み量の程度を表すアクセル開度を検出するアクセルセンサSN2が取り付けられている。
【0035】
PCM50は、演算を行うプロセッサ(CPU)と、ROM及びRAM等のメモリーと、各種の入出力バスと、を含むマイクロコンピュータを要部とする制御装置である。PCM50は、エンジン1、モータ31、および変速機35を統括的に制御する。具体的に、PCM50は、車両Vの走行条件に応じた適切な駆動力が駆動輪37に伝達されるように、エンジン1の出力を制御するとともに、インバータ32を通じてモータ31の出力を制御し、さらには変速機35の変速段を制御する。
【0036】
[エンジンの構造]
図2は、エンジン1の構造を示す概略断面図である。エンジン1は、エンジン本体2と、吸気通路17と、排気通路19とを備える。
【0037】
エンジン本体2は、例えば
図2の紙面に直交する方向に並ぶ複数の気筒2aを有する多気筒型のものである。すなわち、エンジン本体2は、複数の気筒2aを内部に画成するシリンダブロック3及びシリンダヘッド4と、各気筒2aに往復動可能に収容された複数のピストン5とを備える。
【0038】
各気筒2aのピストン5の上方には、それぞれ燃焼室Cが形成されている。各燃焼室Cは、シリンダヘッド4の下面と、気筒2aの側周面(シリンダライナ)と、ピストン5の上面(冠面)とによって画成された空間である。燃焼室Cには、後述するインジェクタ8からの噴射燃料が供給される。ピストン5は、燃焼室Cに供給された燃料の燃焼による膨張エネルギー(燃焼エネルギー)を受けて上下方向に往復運動する。
【0039】
ピストン5の下方には、クランク軸7が配設されている。クランク軸7は、エンジン1(もしくはエンジン本体2)の出力軸であり、シリンダブロック3の下部に回転可能に支持されている。クランク軸7は、コネクティングロッド6を含むクランク機構を介して各気筒2aのピストン5と連結され、当該ピストン5の往復運動(上下運動)に応じて中心軸回りに回転する。
【0040】
シリンダブロック3には、クランク角センサSN4が取り付けられている。クランク角センサSN4は、クランク軸7の回転角であるクランク角と、クランク軸7の回転数であるエンジン回転数とを検出するためのセンサである。シリンダブロック3には、エンジン本体2を冷却する冷却水の温度であるエンジン水温を検出するためのエンジン水温センサSN5が取り付けられている。具体的に、シリンダブロック3およびシリンダヘッド4には、冷却水が流通するウォータジャケット10が形成されており、エンジン水温センサSN5は、ウォータジャケット10を流通する冷却水の温度を検出する。
【0041】
シリンダヘッド4には、インジェクタ8及び点火プラグ9が取り付けられている。インジェクタ8は、各気筒2aの燃焼室Cに燃料を噴射する噴射弁である。点火プラグ9は、インジェクタ8から燃焼室Cに噴射された燃料と空気とを含む混合気に点火するプラグである。インジェクタ8及び点火プラグ9は、各気筒2aに対しそれぞれ1つずつ用意されている。上記のインジェクタ8は、本発明における「燃料供給装置」に相当する。
【0042】
シリンダヘッド4には、吸気ポート11及び排気ポート12が形成されている。吸気ポート11は、各気筒2aの燃焼室Cと吸気通路17とを連通するポートである。排気ポート12は、各気筒2aの燃焼室Cと排気通路19とを連通するポートである。各気筒2aの吸気ポート11にはそれぞれ吸気弁13が設けられ、各気筒2aの排気ポート12にはそれぞれ排気弁14が設けられている。
【0043】
シリンダヘッド4には、吸気動弁機構15及び排気動弁機構16が装備されている。吸気動弁機構15は、吸気弁13の上方に配置された吸気カムシャフト15aを含み、排気動弁機構16は、排気弁14の上方に配置された排気カムシャフト16aを含む。吸気カムシャフト15a、排気カムシャフト16a、及びクランク軸7は、例えばチェーンを含む動力伝達機構を介して互いに連結されている。すなわち、吸気動弁機構15及び排気動弁機構16は、クランク軸7の回転に連動して各気筒2aの吸気弁13及び排気弁14を開閉する。吸気弁13は、吸気動弁機構15の駆動に応じて吸気ポート11の燃焼室C側の開口を周期的に開閉し、排気弁14は、排気動弁機構16の駆動に応じて排気ポート12の燃焼室C側の開口を周期的に開閉する。
【0044】
排気動弁機構16には、排気SVT20が装備されており、吸気動弁機構15には、吸気SVT21が装備されている。排気SVT20は、クランク軸7の回転位相に対する排気カムシャフト16aの回転位相を変更することにより、排気弁14の位相(開閉時期)を変更する装置である。吸気SVT21は、クランク軸7の回転位相に対する吸気カムシャフト15aの回転位相を変更することにより、吸気弁13の位相(開閉時期)を変更する装置である。
【0045】
本実施形態における排気SVT20は、排気弁14のリフト量及び開弁期間を一定に維持したまま排気弁14の位相を変更するタイプ、換言すれば、排気弁14の開時期(開弁開始時期)EVOおよび閉時期(閉弁時期)EVCを同量ずつ変更するタイプの可変装置である。同様に、吸気SVT21は、吸気弁13のリフト量及び開弁期間を一定に維持したまま吸気弁13の位相を変更するタイプ、換言すれば、吸気弁13の開時期(開弁開始時期)IVOおよび閉時期(閉弁時期)IVCを同量ずつ変更するタイプの可変装置である。なお、排気SVT20(吸気SVT21)によって位相が変更される排気カムシャフト16a(吸気カムシャフト15a)は、全ての気筒2aに共用のカムシャフトである。言い換えると、排気SVT20(吸気SVT21)は、排気カムシャフト16a(吸気カムシャフト15a)の回転位相を変更することにより、各気筒2aの排気弁14(吸気弁13)の位相(開閉時期)を一括して変更する。また、本実施形態における排気SVT20(吸気SVT21)は、油圧式であり、油圧の変更によって排気カムシャフト16a(吸気カムシャフト15a)の回転位相を変更する。排気SVT20は、本発明における「排気弁位相可変装置」に相当し、吸気SVT21は、本発明における「吸気弁位相可変装置」に相当する。
【0046】
吸気通路17は、各気筒2aの燃焼室Cに吸気を導入するための管状の通路である。吸気通路17は、各気筒2aの燃焼室Cに吸気ポート11を介して連通するようにエンジン本体2に接続されている。吸気通路17には、その内部を流通する吸気の流量を調整するためのスロットル弁18が開閉可能に設けられている。
【0047】
排気通路19は、各気筒2aの燃焼室Cから排出された排気ガスを外部に排出するための管状の通路である。排気通路19は、各気筒2aの燃焼室Cに排気ポート12を介して連通するようにエンジン本体2に接続されている。排気通路19には、排気ガス中の有害成分を浄化するための触媒装置23が設けられている。触媒装置23は、例えば、三元触媒を含む。触媒装置23には、触媒装置23内の温度である触媒温度を検出するための触媒温センサSN6が取り付けられている。
【0048】
[制御系統]
図3は、車両Vの制御系統を示す機能ブロック図である。本図に示すように、PCM50は、上述した車速センサSN1、アクセルセンサSN2、バッテリセンサSN3、クランク角センサSN4、エンジン水温センサSN5および触媒温センサSN6と電気的に接続されている。PCM50には、当該各センサにより検出された情報、つまり車速、アクセル開度、バッテリSOC、クランク角、エンジン回転数、エンジン水温および触媒温度等に相当する情報が逐次入力される。
【0049】
PCM50は、前記各センサSN1~SN6からの入力情報に基づいて車両Vの走行を制御する。すなわち、PCM50は、上述したエンジン1のインジェクタ8、点火プラグ9、スロットル弁18、排気SVT20および吸気SVT21と電気的に接続されるとともに、上述したクラッチ30、モータ31、及びインバータ32とも電気的に接続されている。PCM50は、これらの機器に対し、前記各センサSN1~SN6からの入力情報に基づく演算等を経て生成した制御信号を出力する。なお、排気SVT20(吸気SVT21)の制御に関し、PCM50は、排気SVT20(吸気SVT21)への油圧供給を行う油圧回路装置を制御することにより、間接的に排気SVT20を制御する。
【0050】
例えば、PCM50は、車速センサSN1により検出された車速と、アクセルセンサSN2により検出されたアクセル開度とに基づいて、駆動輪37に伝達すべきトルクである車両Vの要求トルクを都度算出するとともに、算出した当該要求トルクと、バッテリセンサSN3により検出されるバッテリSOCとに基づいて、車両Vの走行モードを決定しつつエンジン1、クラッチ30、及びモータ31(インバータ32)を制御する。
【0051】
具体的に、車両Vの要求トルクが比較的小さく、かつバッテリSOCが比較的高い場合は、モータ走行モードが選択される。この場合、PCM50は、エンジン1を停止させるとともに、クラッチ30の締結を解除する。また、PCM50は、車両Vの要求トルクに相当するトルクをモータ31に発生させることにより、モータ31のみによって車両Vを走行させる。一方、車両Vの要求トルクが比較的高いか、又はバッテリSOCが比較的低い場合は、エンジン走行モードが選択される。この場合、PCM50は、エンジン1を駆動する(燃焼を行わせる)とともに、クラッチ30を締結する。また、PCM50は、例えばエンジン1の出力トルクが車両Vの要求トルクに対し不足する場合にモータ31を駆動し、当該トルクの不足分に相当するアシストトルクをモータ31に発生させる。この場合、PCM50は、エンジン1及びモータ31の合計のトルクが車両Vの要求トルクに相当するように、エンジン1及びモータ31を制御する。一方、モータ31が駆動されない場合は、車両Vの要求トルクに相当するトルクをエンジン1で発生させることにより、エンジン1のみによって車両Vを走行させる。
【0052】
次に、本発明の特徴的な制御であってエンジンの温度が低いときの車両Vの制御の詳細について、
図4および
図5のフローチャートを用いて説明する。本図に示す制御は、エンジン走行モードによる走行中に実行される。
【0053】
図4に示す制御がスタートすると、PCM50は、車両Vの走行状態に関する各種の情報を取得するとともにエンジン要求トルクを算出する(ステップS0)。少なくとも、PCM50は、上記の各センサSN1~SN6の検出値、すなわち、車速、アクセル開度、バッテリSOC、エンジン回転数、エンジン水温および触媒温度を取得する。また、PCM50は、上記のように車速とアクセル開度とに基づいて算出した車両Vの要求トルクに基づいて、エンジン1に対して要求されるトルクであるエンジン要求トルクを算出する。
【0054】
次に、PCM50は、スロットル弁18の開度であるスロットル開度、点火プラグ9が点火を行う時期である点火時期およびインジェクタ8から噴射される燃料の量である噴射量を、それぞれ、ステップS0で算出したエンジン要求トルクが実現されるように設定する(ステップS1)。
【0055】
このとき、PCM50は、燃焼室Cに形成される混合気の空気過剰率λが1になるように、スロットル開度および噴射量を設定する。なお、空気過剰率λは、混合気の空燃比を理論空燃比で割った値である。
【0056】
例えば、PCM50は、エンジン回転数とエンジン要求トルクとについて予め設定されて記憶しているスロットル開度、点火時期および噴射量の各マップから、現在のエンジン回転数とエンジン要求トルクとに対応する値を抽出して、抽出した各値をそれぞれスロットル開度、点火時期および噴射量に設定する。
【0057】
次に、PCM50は、エンジン1の温度が所定の第1判定温度以下であるか否かを判定する(ステップS2)。本実施形態では、このステップS2において、PCM50は、エンジン水温センサSN5により検出されたエンジン水温が所定の第1判定水温Tw1以下であるか否かを判定する。第1判定水温Tw1は、予め設定されてPCM50に記憶されている。具体的に、第1判定水温Tw1は、エンジン1が冷間状態で触媒装置23が未活性状態にあるときのエンジン水温の最大温度と同程度の温度に設定されており、例えば、20℃程度とされる。このように、本実施形態では、エンジン水温(エンジン冷却水の温度)が本発明における「エンジンの温度」に相当し、第1判定水温が本発明における「第1判定温度」に相当する。また、エンジン水温が第1判定水温Tw1以下あるであるという条件が本発明における「第1条件」に相当し、エンジン水温が第1判定水温Tw1以下あるときが「第1条件成立時」に相当する。
【0058】
ステップS2の判定がYESであってエンジン水温が第1判定水温Tw1以下の場合(エンジン1の温度が第1判定温度以下の場合)、PCM50は、吸気弁13の開閉時期(開時期IVOおよび閉時期IVC)の目標値である目標吸気バルブタイミングと排気弁14の開閉時期(開時期EVOおよび閉時期EVC)の目標値である目標排気バルブタイミングとを、それぞれLIVOモードのバルブタイミングに設定する(ステップS3)。
【0059】
LIVOモードのバルブタイミングは、
図6に示すように、排気弁14が排気TDC(排気上死点)以後に閉弁し、その後の吸気行程中に、吸気弁13が開弁するバルブタイミングである。これより、ステップS3では、PCM50は、排気弁14の閉時期EVCが排気TDCまたは排気TDCよりも遅角側の時期となるバルブタイミングを目標排気バルブタイミングに設定する。また、ステップS3では、PCM50は、吸気弁13の開時期IVOが吸気行程中の時期であって排気弁14の閉時期EVCよりも遅角側の時期となるバルブタイミングを目標吸気バルブタイミングに設定する。
【0060】
ステップS3において、PCM50は、エンジン回転数とステップS1で算出したエンジン要求トルクとに基づいて、上記の条件を満たすバルブタイミングを吸気目標バルブタイミングおよび排気目標バルブタイミングに設定する。例えば、PCM50は、エンジン回転数とエンジン要求トルクとについて上記の条件を満たすように予め設定されて記憶しているLIVOモード用の目標吸気バルブタイミングおよび目標排気バルブタイミングのマップから、現在のエンジン回転数とエンジン要求トルクとに対応する値を抽出して、抽出した各値をそれぞれ目標吸気バルブタイミングおよび目標排気バルブタイミングに設定する。
【0061】
本実施形態では、LIVOモードの目標吸気バルブタイミングは、後述するNVOモードの目標吸気バルブタイミングよりも遅角側に設定される。つまり、LIVOモードにおける吸気弁13の開時期IVOは、後述するステップS13で設定されるNVOモードにおける吸気弁13の開時期IVOよりも遅角側の時期に設定される。詳細には、LIVOモードにおける吸気弁13の開時期IVOは、エンジン回転数およびエンジン要求トルクが同じ条件下においてNVOモードにおける吸気弁13の開時期IVOよりも遅角側の時期に設定される。
【0062】
次に、PCM50は、インジェクタ8に燃料噴射を開始させる時期である噴射時期をLIVOモードの時期に設定する(ステップS4)。
図6に示すように、LIVOモードの噴射時期(SOI)は、排気弁14の閉時期EVCおよび吸気弁13の開時期IVOよりも遅角側の吸気行程中の時期に設定される。
【0063】
また、本実施形態では、LIVOモードの噴射時期は、吸気弁13の開時期IVOよりも30°CA(Crank Angle)程度遅角側の時期であって、燃焼室C内の圧力が最小となる時期からは20°CA程度遅角側となる時期に設定される。
【0064】
例えば、PCM50は、エンジン回転数とエンジン要求トルクとについて予め上記の条件を満たすように設定されて記憶しているLIVOモードの噴射時期のマップから、現在のエンジン回転数とエンジン要求トルクとに対応する値を抽出して、抽出した値を噴射時期に設定する。
【0065】
次に、PCM50は、ステップS0で算出したエンジン要求トルクが所定の判定トルク以上であるか否かを判定する(ステップS5)。判定トルクは、0よりも大きく且つエンジン要求トルクの最大値よりも小さい値に予め設定されてPCM50に記憶されている。詳細には、判定トルクは、吸気弁13の閉時期IVCをステップS3で設定した時期とした状態でスロットル開度をステップS1で設定した開度から所定量大きくしても、ステップS0で算出したエンジン要求トルクに対するエンジントルクの増大量が、所定値以下に抑えられるエンジン要求トルクの最小値に設定されている。
【0066】
ステップS5の判定がYESであってエンジン要求トルクが判定トルク以上の場合、PCM50は、ステップS1で設定したスロットル開度、点火時期、噴射量およびステップS4で設定した噴射時期が実現されるように、スロットル弁18(スロットル弁18を開閉駆動する装置)、インジェクタ8および点火プラグ9に指令を出す(ステップS6)。また、PCM50は、ステップS3で設定した各目標バルブタイミングが実現されるように、吸気SVT21および排気SVT20に指令を出して(ステップS6)、処理を終了する(ステップS1に戻る)。なお、本実施形態では、ステップS2およびS5の判定がYESの場合に進むステップS6において、モータ31の発電機としての駆動は停止される。
【0067】
一方、ステップS5の判定がNOであってエンジン要求トルクが判定トルク未満の場合、PCM50は、ステップS0で取得したバッテリSOCが所定の判定SOC未満であるか否かを判定する(ステップS7)。判定SOCは、0よりも大きく100%よりも小さい値に予め設定されてPCM50に記憶されている。
【0068】
ステップS7の判定がYESであってバッテリSOCが判定SCO未満の場合、PCM50は、モータ31の発電量の目標値である目標発電量を設定する(ステップS8)。本実施形態では、PCM50は、バッテリSOCとステップS1で算出したエンジン要求トルクとに基づいて目標発電量を設定する。具体的に、バッテリSOCおよびエンジン要求トルクが大きいときの方が小さいときよりも目標発電量が小さくなるようにこれを設定する。
【0069】
次に、PCM50は、ステップS1で設定したスロットル開度を開き側に補正する(ステップS9)。つまり、ステップS1で設定したスロットル開度のときに燃焼室Cに導入される空気量よりも多量の空気が燃焼室Cに導入されるように、ステップS1で設定した開度よりも大きい開度をスロットル開度に再設定する。また、PCM50は、ステップS1で設定した噴射量を増量補正する(ステップS9)。つまり、ステップS1で設定した噴射量よりも多い量を噴射量に再設定する。
【0070】
ステップS9では、再設定したスロットル開度と噴射量とが実現されたときに生じるエンジントルクが、ステップS8で設定した目標発電量分の発電をモータ31に行わせるのに必要なエンジントルクと、ステップS0で算出したエンジン要求トルクとの合計トルクと一致するように、且つ、再設定したスロットル開度と噴射量とが実現されたときに燃焼室C内の混合気の空気過剰率λが1になるように、スロットル開度と噴射量とが再設定される。これより、目標発電量が大きいほど、スロットル開度および噴射量の補正量(ステップS1で設定されたスロットル開度および噴射量に対する増量分)は大きくされる。
【0071】
次に、PCM50は、ステップS1で設定した点火時期が実現されるように点火プラグ9に指令を出す(ステップS6)。また、PCM50は、ステップS3で設定した各目標バルブタイミングが実現されるように、吸気SVT21および排気SVT20に指令を出す(ステップS6)。また、ステップS7の判定がYESの場合に進むステップS6では、PCM50は、ステップS9で設定したスロットル開度および噴射量が実現され、且つ、ステップS4で設定した噴射時期が実現されるように、スロットル弁18およびインジェクタ8に指令を出す(ステップS6)。さらに、ステップS7の判定がYESの場合に進むステップS6では、PCM50は、モータ31が発電機として駆動してその発電量がステップS8で設定された目標発電量になるようにモータ31(インバータ32)に指令を出して(ステップS6)、処理を終了する(ステップS1に戻る)。なお、本実施形態では、モータ31で生成された電力はバッテリ33に送られてバッテリ33に蓄電される。
【0072】
ステップS7に戻り、ステップS7の判定がNOであってバッテリSOCが判定SOC以上の場合、PCM50は、ステップS1で設定した点火時期を遅角側の時期に補正する(ステップS10)。つまり、ステップS1で設定した点火時期よりも遅角側の時期を点火時期に再設定する。ステップS10では、ステップS0で算出されたエンジン要求トルクに基づいて点火時期が再設定される。具体的に、エンジン要求トルクが高いときの方が点火時期の遅角量(ステップS1で設定された点火時期に対する遅角量)が小さくなるように点火時期は再設定される。
【0073】
次に、PCM50は、ステップS1で設定したスロットル開度を開き側に補正する(ステップS11)。つまり、ステップS1で設定したスロットル開度のときに燃焼室Cに導入される空気量よりも多量の空気が燃焼室Cに導入されるように、ステップS1で設定した開度よりも大きい開度をスロットル開度に再設定する。また、PCM50は、ステップS1で設定した噴射量を増量補正する(ステップS11)。つまり、ステップS1で設定した噴射量よりも多い量を、噴射量に再設定する。
【0074】
ステップS11では、ステップS11で再設定したスロットル開度と噴射量とが実現され、且つ、ステップS10で再設定した点火時期が実現されたときに生じるエンジントルクが、ステップS1で算出したエンジン要求トルクと一致するように、且つ、再設定したスロットル開度と噴射量とが実現されたときに燃焼室C内の混合気の空気過剰率λが1になるように、スロットル開度と噴射量とが再設定される。これより、点火時期の遅角量(ステップS1で設定された点火時期に対する遅角量)が大きいほど、スロットル開度および噴射量の補正量(ステップS1で設定されたスロットル開度および噴射量に対する増量分)は大きくされる。
【0075】
次に、PCM50は、ステップS4で設定した噴射時期が実現されるようにインジェクタ8に指令を出す(ステップS6)。また、PCM50は、ステップS3で設定した各目標バルブタイミングが実現されるように、吸気SVT21および排気SVT20に指令を出す(ステップS6)。また、ステップS7の判定がNOの場合に進むステップS6では、PCM50は、ステップS11で設定したスロットル開度および噴射量が実現されるように、スロットル弁18およびインジェクタ8に指令を出す(ステップS6)。さらに、ステップS7の判定がNOの場合に進むステップS6では、PCM50は、ステップS10で設定した点火時期が実現されるように点火プラグ9に指令を出して(ステップS6)、処理を終了する(ステップS1に戻る)。なお、本実施形態では、ステップS2の判定がYESで、ステップS5およびS7の判定がNOの場合に進むステップS6において、モータ31の発電機としての駆動は停止される。
【0076】
ステップS2に戻り、ステップS2の判定がNOであってエンジン水温が第1判定水温Tw1よりも高い場合(エンジン1の温度が第1判定温度よりも高い場合)、PCM50は、エンジン1の温度が第1判定温度よりも高い所定の第2判定温度以下であるか否かを判定する(ステップS12)。本実施形態では、このステップS12において、PCM50は、エンジン水温センサSN5により検出されたエンジン水温が所定の第2判定水温Tw2以下であるか否かを判定する。このように、本実施形態では、第2判定水温Tw2が本発明における「第2判定温度」に相当する。また、エンジン水温が第1判定水温Tw1よりも高く且つ第2判定水温Tw2以下あるであるという条件が本発明における「第2条件」に相当し、エンジン水温が第1判定水温Tw1よりも高く且つ第2判定水温Tw2以下のときが「第2条件成立時」に相当する。
【0077】
第2判定水温Tw2は、第1判定水温Tw1よりも高い値に予め設定されてPCM50に記憶されている。第2判定水温Tw2は、エンジン1の暖機が完了する前のいわゆる半暖機状態であって触媒装置23が活性状態にあるときのエンジン水温の最大温度と同程度の温度に設定されており、例えば、60℃程度とされる。
【0078】
ステップS12の判定がYESであってエンジン水温が第2判定水温Tw2以下の場合(且つ第1判定水温Tw1よりも高い場合:エンジン1の温度が第1判定温度よりも高く且つ第2判定温度以下の場合)、PCM50は、目標吸気バルブタイミングおよび目標排気バルブタイミングをそれぞれNVOモードのバルブタイミングに設定する(ステップS13)。NVOモードのバルブタイミングは、
図7に示すように、吸気弁13と排気弁14とが排気TDCを挟む所定の期間(ネガティブオーバーラップ期間)中ともに閉弁するネガティブオーバーラップが生じるバルブタイミングである。これより、ステップS13では、PCM50は、吸気弁13の開時期IVOが排気TDCよりも遅角側の時期となるように目標吸気バルブタイミングを設定し、排気弁14の閉時期EVCが排気TDCよりも進角側の時期となるように目標排気バルブタイミングを設定する。
【0079】
また、PCM50は、ステップS0で算出したエンジン要求トルク、エンジン回転数およびエンジン1の温度に基づいて目標吸気バルブタイミングと目標排気バルブタイミングを、ネガティブオーバーラップが生じるという条件を満たすバルブタイミングに設定する。本実施形態では、エンジン1の温度としてエンジン水温が用いられ、エンジン要求トルク、エンジン回転数およびエンジン水温に基づいて各バルブタイミングが設定される。
【0080】
例えば、PCM50は、異なるエンジン水温毎に予め設定されて記憶しているエンジン回転数とエンジン要求トルクとについてのNVOモード用の目標吸気バルブタイミングと目標排気バルブタイミングの各マップから、現在のエンジン水温に対応するマップを抽出し、抽出した各マップにおける現在のエンジン回転数とエンジン要求トルクとに対応する値を抽出して、抽出した各値を目標吸気バルブタイミングおよび目標排気バルブタイミングに設定する。
【0081】
ここで、NVOモード用の目標排気バルブタイミングは、エンジン水温に対して
図8に示すように設定される。詳細には、エンジン回転数とエンジン要求トルクとが同一の条件下において、NVOモード用の目標排気バルブタイミングは、エンジン水温に応じて
図8に示すように変更される。
【0082】
具体的に、エンジン水温が第1判定水温Tw1から第4判定水温Tw11以下の範囲では、NVOモード用の目標排気バルブタイミングは、エンジン水温が高くなるほど排気弁14の閉時期EVCが進角側の時期となるように設定される。また、エンジン水温が第4判定水温Tw11から第3判定水温Tw12以下の範囲では、NVOモード用の目標排気バルブタイミングは、排気弁14の閉時期EVCがエンジン水温に関わらず一定の時期となるように設定される。また、第3判定水温Tw12から第2判定水温Tw2以下の範囲では、NVOモード用の目標排気バルブタイミングは、排気弁14の閉時期EVCがエンジン水温が高いときの方が低いときよりも遅角側の時期となるように設定される。本実施形態では、第3判定水温Tw12から第2判定水温Tw2以下の範囲において、排気弁14の閉時期EVCはエンジン水温が高いほど遅角される。なお、第4判定水温Tw11は、第1判定水温Tw1よりも高く且つ第2判定水温Tw2よりも低い温度であり、第3判定水温Tw12は、第4判定水温Tw11よりも高く且つ第2判定水温Tw2よりも低い温度である。ここで、上記の第3判定水温Tw12は、請求項の「第3判定温度」に相当する。
【0083】
上記のように目標吸気バルブタイミングおよび目標排気バルブタイミングをそれぞれNVOモードのバルブタイミングに設定した後は、PCM50は、噴射時期をNVOモードの時期に設定する(ステップS14)。本実施形態では、NVOモードの噴射時期は、吸気弁13の開時期IVOよりも遅角側の吸気行程中の時期に設定される。例えば、PCM50は、エンジン回転数とエンジン要求トルクとについて予め上記の条件を満たすように設定されて記憶しているNVOモードの噴射時期のマップから、現在のエンジン回転数とエンジン要求トルクとに対応する値を抽出して、抽出した値を噴射時期に設定する。
【0084】
次に、PCM50は、ステップS1で設定したスロットル開度、点火時期、噴射量およびステップS14で設定した噴射時期が実現されるように、スロットル弁18、インジェクタ8および点火プラグ9に指令を出す(ステップS6)。また、PCM50は、ステップS13で設定した各目標バルブタイミングが実現されるように、吸気SVT21および排気SVT20に指令を出し(ステップS6)、処理を終了する(ステップS1に戻る)。なお、本実施形態では、ステップS2の判定がNOでステップS12の判定がYESの場合に進むステップS6において、モータ31の発電機としての駆動は停止される。
【0085】
ステップS12に戻り、ステップS12の判定がNOであってエンジン水温が第2判定水温Tw2よりも高い場合(エンジン1の温度が第2判定温度よりも高い場合)、PCM50は、目標吸気バルブタイミングと目標排気バルブタイミングとを、それぞれ通常モードのバルブタイミングに設定する(ステップS15)。つまり、エンジン水温が第2判定水温Tw2よりも高く、エンジン1の暖機が完了している場合は、吸気弁13および排気弁14の開閉時期は、暖機完了後の通常走行用のバルブタイミングとされる。例えば、PCM50は、エンジン回転数とエンジン要求トルクとについて予め設定されて記憶している通常モード用の目標吸気バルブタイミングおよび目標排気バルブタイミングのマップから、現在のエンジン回転数とエンジン要求トルクとに対応する値を抽出して、抽出した各値をそれぞれ目標吸気バルブタイミングおよび目標排気バルブタイミングに設定する。
【0086】
次に、PCM50は、噴射時期を通常モードの時期に設定する(ステップS16)。例えば、PCM50は、エンジン回転数とエンジン要求トルクとについて予め設定されて記憶している通常モードの噴射時期のマップから、現在のエンジン回転数とエンジン要求トルクとに対応する値を抽出して、抽出した値を噴射時期に設定する。
【0087】
上記のように目標吸気バルブタイミング、目標排気バルブタイミングおよび噴射時期をそれぞれ通常モードの値に設定した後は、PCM50は、ステップS1で設定したスロットル開度、点火時期、噴射量およびステップS16で設定した噴射時期が実現されるように、スロットル弁18、インジェクタ8および点火プラグ9に指令を出す(ステップS6)。また、PCM50は、ステップS15で設定した各目標バルブタイミングが実現されるように、吸気SVT21および排気SVT20に指令を出して(ステップS6)、処理を終了する(ステップS1に戻る)。
【0088】
図9は、エンジン水温が第1判定水温Tw1以下の状態でエンジン1が始動されてから、つまり、エンジン1が冷間始動されてからの、エンジン水温、吸気弁13の開時期IVOおよび排気弁14の閉時期EVCの各時間変化を示したタイムチャートである。
【0089】
図9では、時刻t0にてエンジン1が始動される。上記のように
図9の例ではエンジン水温が第1判定水温Tw1以下の状態でエンジン1が始動される。これより、時刻t0後、吸気弁13および排気弁14の開閉時期は、LIVOモードのバルブタイミングとされる。これより、排気弁14の閉時期EVCは排気TDCよりも遅角側の時期とされる。また、吸気弁13の開時期IVOは排気弁14の閉時期EVCよりも遅角側の時期とされる。なお、本実施形態では、エンジン1の停止中、吸気弁13の位相は、その開時期IVOが排気TDC付近となる位相に維持され、排気弁14の位相は、その閉時期EVCが排気TDC付近となる位相に維持される。これより、時刻t0直後、吸気弁13の位相は大幅に遅角される。
【0090】
また、時刻t0後、エンジン1の燃焼室C内での燃焼が開始される。これより、時刻t0後、エンジン水温は徐々に増大していき時刻t1にて第1判定水温Tw1に到達する。
【0091】
時刻t1までの期間は、エンジン水温が第1判定水温Tw1以下であることから、吸気弁13および排気弁14のバルブタイミングは、LIVOモードのバルブタイミングに維持される。
図9の例では、時刻t1までの間、吸気弁13の開時期IVOおよび排気弁14の閉時期EVCはほぼ一定の値に維持される。
【0092】
エンジン水温は、時刻t1後の時刻t4にて第2判定水温Tw2を超える。これより、時刻t1から時刻t4までの期間中、吸気弁13および排気弁14のバルブタイミングは、NVOモードのバルブタイミングとされる。具体的に、時刻t1にてエンジン水温が第1判定水温Tw1よりも高くなると、吸気弁13の開時期IVOと排気弁14の閉時期EVCはともに進角される。そして、吸気弁13の開時期IVOは、排気TDCよりも遅角側、且つ、LIVOモードの吸気弁13の開時期IVOよりも進角側の時期に設定される。また、NVOモードの排気弁14の閉時期EVCは、排気TDCよりも進角側の時期に設定される。
【0093】
上記のように、NVOモードでは、エンジン水温が第4判定水温Tw11以下の範囲では、エンジン水温が高いほど排気弁14の閉時期EVCは進角側の時期とされる。本実施形態では、NVOモードにおいて、エンジン水温が第4判定水温Tw11以下の範囲ではエンジン水温が高いほど吸気弁13の開時期IVOも進角側の時期とされる。これより、時刻t1から、エンジン水温が第4判定水温Tw11に到達する時刻t2までの間、排気弁14の閉時期EVCと吸気弁13の開時期IVOとはそれぞれエンジン水温の上昇に伴って進角される。
【0094】
また、NVOモードでは、エンジン水温が第4判定水温Tw11から第3判定水温Tw12以下の範囲では、エンジン水温に関わらず排気弁14の閉時期EVCは一定の時期とされる。本実施形態では、NVOモードにおいて、エンジン水温が第4判定水温Tw11から第3判定水温Tw12以下の範囲では、吸気弁13の開時期IVOもエンジン水温に関わらず一定の時期とされる。これより、時刻t2から、エンジン水温が第3判定水温Tw12に到達する時刻t3までの間、排気弁14の閉時期EVCと吸気弁13の開時期IVOとはそれぞれ一定の時期に維持される。
【0095】
また、NVOモードでは、エンジン水温が第3判定水温Tw12よりも高い範囲では、排気弁14の閉時期EVCはエンジン水温が高くなるほど遅角される。これより、時刻t3以後(エンジン水温が第2判定水温Tw2に到達する時刻t4までの間)、排気弁14の閉時期EVCはエンジン水温の上昇に伴って遅角される。本実施形態では、NVOモードにおいて、エンジン水温が第3判定水温Tw12よりも高い範囲では、吸気弁13の開時期IVOはエンジン水温が高くなるほど進角される。これより、時刻t3以後(エンジン水温が第2判定水温Tw2に到達する時刻t4までの間)、吸気弁13の開時期IVOは時間の経過とともに進角される。
【0096】
エンジン水温が第2判定水温Tw2を超える時刻t4以後は、エンジン1が停止するまでエンジン水温は第2判定水温Tw2よりも高い温度に維持される。これより、時刻t4以後は、エンジン1が停止するまで、吸気弁13および排気弁14のバルブタイミングは、通常モードのバルブタイミングとされる。
図9の例では、時刻t4後、吸気弁13の開時期IVOは排気TDCよりも進角側の時期とされ、排気弁14の閉時期EVCは排気TDCよりも遅角側の時期とされる。
【0097】
[作用等]
以上のように、上記の実施形態では、エンジン水温が第1判定水温Tw1よりも高い一方で第2判定水温Tw2以下の場合であってエンジン温度が比較的低いときは、排気目標バルブタイミングおよび吸気目標バルブタイミングがNVOモードのバルブタイミングに設定されて、排気TDCを挟む所定の期間中ともに排気弁14と吸気弁13とが閉弁するネガティブオーバーラップが生じるようにこれら排気弁14と吸気弁13とが制御される。つまり、燃焼室C内の既燃ガスが排気ポート12に導出している途中で排気弁14が閉弁されて、その後、ピストン5の下降中のタイミングであって既燃ガスの吸気ポート11への逆流が抑制されるタイミングで吸気弁13が開弁される。
【0098】
これより、上記実施形態によれば、エンジン水温が第1判定水温Tw1よりも高い一方で第2判定水温Tw2以下の場合において、燃焼室C内に比較的多量の高温の既燃ガスを閉じ込めることができ、燃焼室C内の温度を高くできる。燃焼室C内の温度が高くなれば、燃焼室C内に供給される燃料の蒸発ひいては当該燃料の燃焼が促進される。また、燃焼室C内の温度が高くなれば、冷却損失が低減される。従って、上記実施形態によれば、エンジン水温が第1判定水温Tw1よりも高い一方で第2判定水温Tw2以下の場合に、燃費性能を良好にしつつ、燃焼室Cから排出される未燃のHCや煤の量を少なく抑えて排気性能を良好にできる。
【0099】
ただし、既燃ガスは不活性ガスであるため、エンジンの温度が特に低い場合に上記のように既燃ガスを多量に燃焼室に残留させると燃焼が不安定になるおそれがある。これに対して、上記実施形態では、エンジン水温が第1判定水温Tw1以下の場合は、吸気弁13および排気弁14のバルブタイミングがLIVOモードのバルブタイミングとされて、排気弁14の閉時期EVCが排気TDC以後の時期とされ、且つ、吸気弁13の開時期IVOが排気弁14の閉時期EVCよりも遅角側の時期とされるとともに、インジェクタ8の噴射時期が、排気弁14の閉時期EVCおよび吸気弁13の開時期IVOよりも遅角側の吸気行程中の時期に設定される。そのため、上記実施形態によれば、エンジン水温が第1判定水温Tw1以下の場合においても、燃焼安定性を確保しつつ、燃焼室Cに生じる負圧の作用によって、燃焼室Cに供給された燃料の蒸発を促進でき、エンジン本体2から排出される未燃のHCおよび煤の量を低減できる。
【0100】
図10を用いて具体的に説明する。
図10は、LIVOモードのバルブタイミングの作用を説明するための概略断面図であり、(a)は排気TDC前の燃焼室C内の様子を示した図、(b)は排気TDC後且つ吸気弁の開時期IVO前の燃焼室C内の様子を示した図、(c)は吸気弁の開時期IVO後の燃焼室C内の様子を示した図である。
【0101】
LIVOモードでは、排気弁14の閉時期EVCが排気TDC以後(排気TDCまたは排気TDCよりも遅角側の時期)とされて、
図10(a)に示すように、燃焼室Cの容積が最も小さくなる時期においても排気弁14が開かれている。そのため、LIVOモードでは、既燃ガスの多くが燃焼室Cから排気ポート12および排気通路19に排出されることになり、既燃ガスの影響で燃焼が不安定になるのが回避されて、燃焼安定性が確保される。
【0102】
また、LIVOモードでは、排気弁14の閉時期EVC後に吸気弁13が開弁されて、吸気行程中の排気弁14の閉時期EVC後の所定期間は、
図10(b)に示すように、吸気弁13と排気弁14の双方が閉弁されることになる。ここで、上記のように既燃ガスの多くは燃焼室C外に排出されている。これより、排気弁14の閉時期EVC後の所定期間中、ピストン5が破線から実線に示すように下降することに伴って燃焼室C内は負圧になる。
【0103】
そして、エンジン水温が第1判定水温Tw1以下では、インジェクタ8の噴射時期が、排気弁14の閉時期EVCよりも遅角側の吸気行程中の時期に設定されており、
図10(c)に示すように、燃焼室C内が負圧である状態でインジェクタ8から燃焼室C内に燃料Fが噴射されることになる。つまり、圧力が大幅に低く、これにより燃料の気化温度が低く抑えられる雰囲気下に燃料が供給されることになる。これより、上記実施形態によれば、エンジン水温が第1判定水温Tw1以下のときにも、燃料の蒸発が促進されて燃焼室Cからの未燃HCや煤の排出量が少なく抑えられる。
【0104】
さらに、LIVOモードでは、上記のように燃焼室C内が負圧にある状態で吸気弁13が開弁することで、吸気弁13の開弁に伴って吸気ポート11から燃焼室Cに吸気が勢いよく流入し、燃焼室C内に強い吸気流動が形成されることになる。つまり、燃焼室C内において吸気の運動エネルギーが高められることになる。これより、LIVOモードにおいても燃焼室C内の温度は高められ、これによっても燃料の蒸発は促進される。特に、上記実施形態では、インジェクタ8の噴射時期が、吸気弁13の開時期IVOよりも遅角側の時期とされて、燃焼室C内に吸気流動が生じている状態つまり吸気流動によって燃焼室C内の温度が高められている状態で燃焼室Cに燃料が供給されるので、燃料の蒸発が確実に促進される。さらに、上記実施形態では、LIVOモードの吸気弁13の開時期IVOがNVOモードの吸気弁13の開時期IVOよりも遅角側に設定されて、燃焼室C内の負圧がより高くされた状態で吸気弁13が開弁されるので、燃焼室Cに特に強い吸気流動を生じさせることができ、燃料の蒸発を確実に促進できる。
【0105】
上記のように、上記実施形態によれば、エンジン水温が第2判定水温Tw2以下の場合において、燃焼安定性を確保しつつ燃焼室Cから排出される未燃HCおよび煤の量を小さく抑えることができる。従って、エンジン1の冷間始動直後から排気性能を良好にできる。
【0106】
また、上記実施形態では、エンジン水温が第1判定水温Tw1以下の場合において、エンジン要求トルクが判定トルク未満で且つバッテリSOCが判定SOC未満のときに、モータ31が発電機として駆動される。そのため、エンジン1から駆動輪37に伝達すべきトルクを適切なトルクに維持しつつ、燃料の蒸発をより一層促進できる。
【0107】
具体的に、モータ31が発電機として駆動されるともに、エンジントルクが、モータ31を発電機として駆動するのに必要なトルクと、エンジン1から駆動輪37に伝達すべきトルクの合計トルクと一致するように、スロットル開度および噴射量が増量補正される。そのため、エンジン1から駆動輪37に伝達されるトルクを要求されているトルクにしつつ、燃焼室Cに多量の空気を導入して燃焼室C内の吸気流動ひいては燃焼室C内の温度を高めることができ、燃料の蒸発をより促進することができる。また、駆動輪37に伝達すべきトルクよりも過剰な分のエンジントルクを電力として利用でき、車両V全体の燃費性能を良好に維持できる。特に、上記実施形態では、上記電力がバッテリ33に蓄えられるので、電力が無駄に消費されるのを防止できる。
【0108】
また、上記実施形態では、エンジン水温が第1判定水温Tw1以下の場合において、エンジン要求トルクが判定トルク未満で、且つ、バッテリSOCが判定SOC以上であってバッテリ33に電力を供給すると過充電になるおそれがあるという条件が成立するときは、エンジン水温が第1判定水温Tw1以下の場合で且つ上記条件が非成立のとき、および、エンジン水温が第1判定水温Tw1よりも高く且つ第2判定水温Tw2以下のときよりも、点火時期が遅角側の時期に設定される。そのため、エンジン1から駆動輪37に伝達すべきトルクを適切なトルクに維持しつつ、燃料の蒸発をより一層促進できる。
【0109】
具体的に、点火時期を遅角させるとエンジントルクは低下する、これに対して、上記条件の成立時には、点火時期を遅角しつつ、エンジントルクがエンジン1から駆動輪37に伝達すべきトルクと一致するようにスロットル開度および噴射量が増量補正される。つまり、点火時期を遅角しつつ、点火時期の遅角に伴うエンジントルクの低下がスロットル開度および噴射量の増量により補われるようになっている。
【0110】
そのため、エンジン1から駆動輪37に伝達されるトルクを要求されているトルクにしつつ、燃焼室Cに多量の空気を導入して燃焼室C内の吸気流動ひいては燃焼室C内の温度を高めることができ、燃料の蒸発をより促進することができる。また、点火時期が遅角されると、排気弁14の開弁時の排気ガスの温度は上昇する。そのため、触媒装置23に対してより高温の排気ガスを導入でき、触媒装置23の活性化も促進できる。
【0111】
また、上記実施形態では、目標吸気バルブタイミングおよび目標排気バルブタイミングがNVOモードのバルブタイミングとされ、且つ、エンジン水温が第3判定水温Tw12以上の場合に、排気弁14の閉時期EVCが、エンジン水温が高いときの方が低いときよりも遅角側の時期となるように設定される。そのため、エンジン水温が比較的低く燃焼室Cの温度が低いときには、より早期に排気弁14を閉弁することで燃焼室Cに残留する既燃ガスの量を多くし、これにより燃焼室Cの温度を適切に高めることができる。また、エンジン水温が比較的高く燃焼室Cの温度が高いときには、排気弁14を比較的遅い時期に閉弁することで燃焼室に残留する既燃ガスの量を少なくして燃焼室C内の温度が過度に高くなるのを防止できる。
【0112】
[変形例]
上記実施形態では、エンジン水温が第1判定水温Tw1よりも高く且つ第2判定水温Tw2以下の場合に、目標吸気バルブタイミングおよび目標排気バルブタイミングを、吸気弁13と排気弁14とがネガティブバルブオーバーラップするバルブタイミングに設定する場合を説明したが、これに代えて、エンジン水温が第1判定水温Tw1よりも高く且つ第2判定水温Tw2以下の場合に、目標吸気バルブタイミングおよび目標排気バルブタイミングを、吸気弁13と排気弁14とがポジティブバルブオーバーラップするバルブタイミングに設定してもよい。
【0113】
具体的に、エンジン水温が第1判定水温Tw1よりも高く且つ第2判定水温Tw2以下の場合に、
図11に示すように、吸気弁13の開時期IVOを排気TDCよりも進角側の時期に設定し、排気弁14の閉時期EVCを排気TDCよりも遅角側の時期に設定して、排気弁14と吸気弁13とを、これらの双方が排気TDCを挟む所定の期間中ともに開弁するポジティブオーバーラップが生じるように開閉してもよい。
【0114】
この構成においても、ネガティブバルブオーバーラップの場合と同様に、多量の既燃ガスを燃焼室C内に残留させることができる。従って、上記実施形態と同様に、エンジン水温が第1判定水温Tw1よりも高く且つ第2判定水温Tw2以下の場合において、燃焼室C内の温度を高めて燃料の蒸発を促進することができる。詳細には、ポジティブオーバーラップの場合は、排気TDCよりも前の所定期間中、吸気弁13と排気弁14の双方が開弁していることで、燃焼室C内の既燃ガスは吸気ポート11と排気ポート12とに導出されるが、排気TDC後も吸気弁13と排気弁14の双方が開弁していることで、これらポート11、12に導出された既燃ガスを再び燃焼室Cに導入することができ、吸気弁13の閉弁後の燃焼室C内に多くの既燃ガスを残留させることができる。
【0115】
ただし、上記のように、エンジン水温が第1判定水温Tw1以下では、吸気弁13の閉時期は排気TDCよりも遅角側の時期とされる。そのため、上記実施形態のように、エンジン水温が第1判定水温Tw1よりも高く且つ第2判定水温Tw2以下の場合に、目標吸気バルブタイミングおよび目標排気バルブタイミングを吸気弁13と排気弁14とがネガティブバルブオーバーラップするバルブタイミングに設定して、吸気弁13の開時期IVOを排気TDCよりも遅角側の時期に設定すれば、エンジン水温が第1判定水温Tw1以下の温度から第1判定水温よりも高い温度に上昇したときの吸気弁13の開時期IVOの変化量を小さく抑えることができる。そのため、エンジン水温が第1判定水温Tw1を超えた時に、吸気弁13の開時期IVOを早期に適切な時期に制御することができる。
【0116】
また、上記実施形態では、上記のステップS2におけるエンジン1の温度が第1判定温度以下であるか否かの判定、および、ステップS12におけるエンジン1の温度が第2判定温度以下であるか否かの判定を、エンジン水温を用いて行った場合を説明したが、これに代えて、これらの判定を触媒装置23の温度を用いて行ってもよい。具体的に、ステップS2において、エンジン水温が第1判定水温以下であるか否かの判定に代えて、触媒温センサSN6により検出された触媒温度が所定の第1判定触媒温度以下であるか否かの判定を行ってもよい。同様に、ステップS12において、エンジン水温が第2判定水温以下であるか否かの判定に代えて、触媒温センサSN6により検出された触媒温度が所定の第2判定触媒温度(第1判定触媒温度よりも高い温度)以下であるか否かの判定を行ってもよい。また、上記実施形態では、NVOモードのバルブタイミングにおいて、エンジン水温に応じて排気弁14の閉時期EVCを変更する場合を説明したが、エンジン水温に変えて触媒温度に応じて排気弁14の閉時期EVCを変更してもよい。例えば、NVOモードにおいて、触媒温度が所定の第3判定触媒温度(上記の第2判定触媒温度よりも高い温度)以上のときは、触媒温度が高いときの方が低いときよりも排気弁14の閉時期EVCが進角側の時期となるように排気弁14のバルブタイミングを設定してもよい。
【0117】
上記実施形態では、吸気弁13および排気弁14の位相(開閉時期)を変更する位相可変装置として、リフト量及び開弁期間を一定に維持したまま吸気弁13および排気弁14の位相を変更するタイプの位相可変装置である吸気SVT21および排気SVT20を用いたが、これに代えて、バルブ位相と併せてリフト量又は開弁期間を変更するタイプの位相可変装置を用いてもよい。
【0118】
上記実施形態では、インジェクタ8として、シリンダヘッド4に取り付けられて燃焼室Cに燃料を噴射するものを用いたが、これに代えて、吸気ポート11に取り付けられて、吸気ポート11に燃料を噴射して吸気ポート11を介して燃焼室Cに燃料を供給するインジェクタを用いてもよい。
【0119】
上記実施形態では、ガソリンを燃料とする4サイクルのガソリンエンジンからなるエンジン1と電動式のモータ31とを併用したハイブリッド型の車両Vを例示したが、本発明が適用され得る車両はこれに限られない。例えば、駆動源としてエンジンのみを有する車両に適用されてもよい。また、エンジンの燃料の種類は上記に限られない。
【0120】
上記実施形態では、エンジン水温が第1判定水温Tw1以下の場合にインジェクタ8の噴射時期が吸気弁13の開時期IVOよりも遅角側の時期に設定される場合を説明したが、当該噴射時期は、排気弁14の閉時期EVCよりも遅角側の吸気行程中であればよく、吸気弁13の開時期IVOよりも進角側の時期に設定されてもよい。ただし、上記のように、インジェクタ8の噴射時期が、吸気弁13の開時期IVOよりも遅角側の時期に設定されれば、燃焼室C内の吸気流動の作用によって効果的に燃料の蒸発を促進できる。
【0121】
上記実施形態では、エンジン水温が第1判定水温Tw1以下の場合において、エンジン要求トルクが所定の判定トルク未満のときにのみ、モータ31を発電機として駆動しつつスロットル開度を増大させる制御、あるいは、点火時期を遅角しつつスロットル開度を増大させる制御を実施する場合を説明したが、エンジン要求トルクに関わらず、上記の各制御を実施してもよい。ただし、スロットル弁18の構成や吸気弁13の位相を変更する装置の構成によっては、エンジン要求トルクが高いことで、これを実現するためのスロットル開度が最大開度に近い、あるいは、これを実現するための吸気弁13の位相が燃焼室Cに導入される吸気量が最大となる位相に近いことで、さらにスロットル開度を増大させてもエンジントルクが十分に増大しない場合がある。これより、このような場合には、上記のように、エンジン要求トルクが比較的低いときにのみ上記の制御を実施するのが好ましい。
【0122】
また、上記の、モータ31を発電機として駆動しつつスロットル開度を増大させる制御は省略してもよい。例えば、エンジン1により駆動されて発電するモータ31を有しない車両等では、当該制御を省略して、エンジン水温が第1判定水温Tw1以下で、且つ、エンジン要求トルクが所定の判定トルク未満という条件が成立すると、バッテリSOCに関わらず点火時期を遅角しつつスロットル開度を増大させる制御を実施してもよい。
【0123】
また、上記実施形態では、エンジン水温が第2判定水温Tw2以下の場合において、エンジン水温が第1判定水温Tw1以下であり、エンジン要求トルクが判定トルク未満であり、且つ、バッテリSOCが判定SOC未満であるという条件が成立したときのみモータ31を発電機として駆動する場合を説明したが、エンジン水温、エンジン要求トルク、バッテリSOCに関わらずモータ31を発電機として駆動してもよい。ただし、エンジン水温が第2判定水温Tw2以下のときにエンジン水温等に関わらずモータ31を発電機として駆動する場合は、上記条件の成立時(エンジン水温が第1判定水温Tw1以下であり、エンジン要求トルクが判定トルク未満であり、且つ、バッテリSOCが判定SOC未満であるという条件の成立時)の発電量を、当該条件の非成立時よりも大きくすることが好ましい。このようにすれば、上記のように、上記条件の成立時において、燃費性能を高めつつ排気性能を高めることができる。
【符号の説明】
【0124】
1 エンジン
8 インジェクタ(燃料供給装置)
9 点火プラグ
10 エンジン本体
13 吸気弁
14 排気弁
20 排気SVT(排気位相可変装置)
21 吸気SVT(吸気位相可変装置)
31 モータ(発電機)
50 PCM(制御装置)
C 燃焼室