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特開2023-172459PCR用マイクロ流体チップおよびPCR分析装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172459
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】PCR用マイクロ流体チップおよびPCR分析装置
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20231129BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20231129BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
C12N15/09 Z
C12Q1/686 Z
C12M1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084273
(22)【出願日】2022-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100109036
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 重幸
(74)【代理人】
【識別番号】100125335
【弁理士】
【氏名又は名称】矢代 仁
(72)【発明者】
【氏名】上田 敬祐
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA23
4B029BB20
4B029FA01
4B029FA15
4B063QA01
4B063QQ42
4B063QR32
4B063QS25
4B063QS39
(57)【要約】
【課題】液体サンプルを液体流路内で流動させる際に、液体サンプルへのコンタミネーションを最小限化し、液体サンプルを所望の位置に容易に停止させることができる技術を提供する。
【解決手段】PCR用マイクロ流体チップは、PCRに使用される液体サンプルが流動する液体流路と、液体流路の一端に接続され、空気で満たされた弾性的に伸縮可能な第1のポンプ室と、液体流路の他端に接続され、空気で満たされた弾性的に伸縮可能な第2のポンプ室と、第1のポンプ室に接続され、空気が流動する第1の空気流路と、第2のポンプ室に接続され、空気が流動する第2の空気流路と、第1の空気流路と第2の空気流路を接続する中間空気流路と、与えられる外力に応じて、中間空気流路を開閉するように構成され、中間空気流路を気密に覆う伸縮可能なカバー部材と、流路を気密に包囲する包囲部材とを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PCRに使用される液体サンプルが流動する液体流路と、
前記液体流路に前記液体サンプルを導入する導入口と、
前記液体流路の一端に接続され、空気で満たされた弾性的に伸縮可能な第1のポンプ室と、
前記液体流路の他端に接続され、空気で満たされた弾性的に伸縮可能な第2のポンプ室と、
前記第1のポンプ室に接続され、空気が流動する第1の空気流路と、
前記第2のポンプ室に接続され、空気が流動する第2の空気流路と、
前記第1の空気流路と前記第2の空気流路を接続する中間空気流路と、
与えられる外力に応じて、前記中間空気流路を開閉するように構成され、前記中間空気流路を気密に覆う伸縮可能なカバー部材と、
前記液体流路、前記第1のポンプ室、前記第2のポンプ室、前記第1の空気流路、および前記第2の空気流路を気密に包囲し、少なくとも片面に前記液体流路が観察される透明部分が設けられた包囲部材とを
有するPCR用マイクロ流体チップ。
【請求項2】
請求項1に記載のPCR用マイクロ流体チップと、
前記第1のポンプ室に外力を与える第1のアクチュエータと、
前記第2のポンプ室に外力を与える第2のアクチュエータと、
前記カバー部材に外力を与える第3のアクチュエータと、
前記液体流路を加熱する加熱装置とを
有するPCR分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PCR用マイクロ流体チップおよびPCR分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)は、使用される液体サンプルをPCRチューブまたは複数の穴が形成されたマイクロプレート(マイクロウェル)などの反応容器に所定量入れて行うことが一般的であるが、近年、基板に形成された微細な流路を備える反応容器(チップとも呼ばれる)を用いて行うことが実用化されてきている。流路を備えるチップ(マイクロ流路チップ)を用いたPCRを行う場合、流路に高温領域や低温領域などの温度領域を設定し、液体サンプルを流路内で往復式に移動させることにより、液体サンプルにサーマルサイクルを与える。
【0003】
従来のマイクロ流路チップにおける送液方法としては、特許文献1に開示されたように、2つのマイクロブロアもしくはファンを流路の両端部に接続し、送風により加圧することで送液する方法がある。また、特許文献2に開示されたように、複数のポンプと複数の三方弁を用いることで送液する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-47812号公報
【特許文献2】特開2020-110186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
PCRにおいては、液体サンプルへのコンタミネーションを最小限化または完全に防止することが重要である。特に液体サンプルを液体流路内で流動させる際には、液体サンプルが不要な物質に接触しないことが望ましい。
【0006】
また、PCRでは、液体サンプルを高温で加熱するため、液体サンプルの粘性の変化、微小な気泡の発生、予期しない内部気圧の変動などのため、液体サンプルを所望の観察位置に停止させることが困難なことがある。
【0007】
そこで、本発明は、液体サンプルを液体流路内で流動させる際に、液体サンプルへのコンタミネーションを最小限化し、液体サンプルを所望の位置に容易に停止させることができる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様によれば、PCR用マイクロ流体チップが提供される。このPCR用マイクロ流体チップは、PCRに使用される液体サンプルが流動する液体流路と、前記液体流路に前記液体サンプルを導入する導入口と、前記液体流路の一端に接続され、空気で満たされた弾性的に伸縮可能な第1のポンプ室と、前記液体流路の他端に接続され、空気で満たされた弾性的に伸縮可能な第2のポンプ室と、前記第1のポンプ室に接続され、空気が流動する第1の空気流路と、前記第2のポンプ室に接続され、空気が流動する第2の空気流路と、前記第1の空気流路と前記第2の空気流路を接続する中間空気流路と、外力が与えられると前記中間空気流路を閉じ、与えられる外力に応じて、前記中間空気流路を開閉するように構成され、前記中間空気流路を気密に覆う伸縮可能なカバー部材と、前記液体流路、前記第1のポンプ室、前記第2のポンプ室、前記第1の空気流路、および前記第2の空気流路を気密に包囲し、少なくとも片面に前記液体流路が観察される透明部分が設けられた包囲部材とを有する。
【0009】
この態様においては、導入口を閉塞すると、液体流路と2つのポンプ室と2つの空気流路と中間空気流路を有する完全に閉鎖された流路系が形成される。この後、中間空気流路を閉じて、第1の空気流路と第2の空気流路の間の空気の流動を遮断した時、液体流路の両端に接続された伸縮可能な2つのポンプ室の一方を圧縮すれば、液体サンプルは圧縮されたポンプ室から他方のポンプ室に向けて液体流路を流れ、下流のポンプ室が弾性的に膨張する。中間空気流路を閉じた時、両方のポンプ室を交互に圧縮することによって、液体サンプルは液体流路を往復移動する。液体流路と2つのポンプ室は、完全に閉鎖されているので、液体サンプルを流路内で流動させる際に、液体サンプルへのコンタミネーションを最小限化することができる。
【0010】
一方、中間空気流路を開けば、第1の空気流路と第2の空気流路の間の空気の流動が可能になり、第1のポンプ室、液体流路、第2のポンプ室、第2の空気流路、中間空気流路、第1の空気流路を有する閉鎖回路ができあがる。この場合、一方のポンプ室を圧縮しても、液体流路における液体サンプルの両側で気圧が平衡し、液体サンプルは停止する。
【0011】
したがって、ポンプ室の作用または予期しない理由で液体サンプルが移動している時、中間空気流路を開くことによって、液体サンプルを停止させることができる。液体サンプルの停止位置が所望の位置でない場合には、中間空気流路を閉じて、所要のポンプ室を圧縮することによって、液体サンプルを移動させることができ、再び中間空気流路を開くことによって、液体サンプルを停止させることができる。このようにして、液体サンプルを所望の位置に容易に停止させることができる。包囲部材の少なくとも片面は透明であるので、液体流路内の液体サンプルを観察することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係るPCR用マイクロ流体チップの平面図である。
図2図1のII-II線矢視断面に相当する実施形態に係るPCR分析装置の断面図である。
図3図1のPCR用マイクロ流体チップの分解斜視図である。
図4】中間空気流路を閉じた時のPCR用マイクロ流体チップの部分斜視図であり、一部を破断して示す。
図5】中間空気流路を開いた時のPCR用マイクロ流体チップの部分斜視図であり、一部を破断して示す。
図6】中間空気流路を閉じた時の空気の流れを示す実施形態に係るPCR用マイクロ流体チップの平面図である。
図7】中間空気流路を開いた時の空気の流れを示す実施形態に係るPCR用マイクロ流体チップの平面図である。
図8図1のVIII-VIII線矢視断面に相当する実施形態に係るPCR分析装置の断面図である。
図9図1のII-II線矢視断面に相当する実施形態に係るPCR分析装置の断面図である。
図10】液体サンプルの右方向移動時の実施形態に係るPCR分析装置の断面図である。
図11】液体サンプルの左方向移動時の実施形態に係るPCR分析装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付の図面を参照しながら本発明に係る複数の実施形態を説明する。図面の縮尺は必ずしも正確ではなく、一部の特徴は誇張または省略されることもある。
【0014】
図1に示すように、実施形態に係るPCR用マイクロ流体チップ1は、線対称な形状を有しており、液体流路2、ポート3,4、第1のポンプ室10、および第2のポンプ室12を有する。
【0015】
PCRに使用される液体サンプルは液体流路2を流動する。液体流路2は、第1の屈曲流路部5、第1の分岐路51、曲折された第1の蛇行流路部6、第2の屈曲流路部7、第2の分岐路71、曲折された第2の蛇行流路部8、および直線流路部9を有する。第1の蛇行流路部6の一端は第1の屈曲流路部5に接続され、第1の蛇行流路部6の他端は直線流路部9に接続されている。第2の蛇行流路部8の一端は第2の屈曲流路部7に接続され、第2の蛇行流路部8の他端は直線流路部9に接続されている。したがって、直線流路部9は、第1の蛇行流路部6と第2の蛇行流路部8を接続する。液体流路2の幅は、0.5~1.0mmであるのが好ましい。蛇行流路部6,8の各々の長さは、例えば80mmであり、直線流路部9の長さは、例えば15mmである。
【0016】
2つのポンプ室10,12は、液体流路2の両端にそれぞれ接続され、弾性的に伸縮可能であり、空気で満たされている。第1のポンプ室10は第1の屈曲流路部5に連通し、第2のポンプ室12は第2の屈曲流路部7に連通する。第1のポンプ室10を画定する部材の材料と構造は、第2のポンプ室12を画定する部材の材料と構造と同じであることが好ましい。ポンプ室10,12は、液体流路2内で液体サンプルを移動させるために使用される。
【0017】
ポート3は第1の分岐路51に接続され、第1の分岐路51は第1の蛇行流路部6と第1のポンプ室10の間の第1の屈曲流路部5に接続されている。ポート4は第2の分岐路71に接続され、第2の分岐路71は第2の蛇行流路部8と第2のポンプ室12の間の第2の屈曲流路部7に接続されている。ポート3,4の一方は、液体流路2に液体サンプルを導入する導入口として使用され、他方は、液体流路2に液体サンプルを導入する時、液体流路2から液体サンプルに押された空気が排出される空気排出口として使用される。以下の説明では、ポート3を導入口と想定し、ポート4を空気排出口と想定するが、ポート3が空気排出口として使用され、ポート4が導入口として使用されてもよい。
【0018】
図1および図2に示すように、マイクロ流体チップ1は、さらに第1の空気流路14、第2の空気流路15、中間空気流路16、およびカバー部材17を有する。
【0019】
第1の空気流路14は、第1のポンプ室10に接続され、空気が流動する。第2の空気流路15は、第2のポンプ室12に接続され、空気が流動する。中間空気流路16は、第1の空気流路14と第2の空気流路15を接続する。
【0020】
カバー部材17は、伸縮可能であって、中間空気流路16を気密に覆う。カバー部材17は、外力(押圧力)が与えられると中間空気流路16を閉じ、外力が与えられない通常時に中間空気流路16を開くように構成されている。
【0021】
図3に示すように、マイクロ流体チップ1は、樹脂製の下基板20、樹脂製の流路基板21、樹脂製の上基板22、樹脂またはゴム製の中空板23,25,27、ゴム製の弾性膜24,26、およびゴム製のカバー部材17を有する。基板20,21,22、中空板23,25および弾性膜24,26は、液体流路2、ポンプ室10,12および空気流路14,15を気密に包囲する包囲部材を構成する。
【0022】
基板20,21,22は、例えばアクリル、ポリプロピレンといった透明樹脂から形成されている。基板20,21,22は、例えばシリコーンゴムのような透明ゴムから形成してもよい。したがって、液体流路2、空気流路14,15は、マイクロ流体チップ1の上からも下からも見ることができ、液体流路2内の液体サンプルもマイクロ流体チップ1の上からも下からも観察可能である。
【0023】
弾性膜24,26およびカバー部材17は、例えばシリコーンゴムから形成されている。カバー部材17も弾性膜である。中空板23,25,27は、樹脂またはゴムから形成されている。弾性膜24,26、カバー部材17、中空板23,25,27も透明材料から形成することが好ましい。この場合、液体サンプルが液体流路2以外の位置にある異常な状況でも、簡単に液体サンプルを見つけ出すことができる。
【0024】
下基板20は、溝または孔が形成されていない矩形の平板であり、例えばその厚さは0.2mmである。
【0025】
流路基板21は、貫通溝5a,51a,6a,9a,8a,71a,7a,15a,14aが形成された矩形の基板である。これらの貫通溝は、例えばレーザー加工によって形成することができる。
【0026】
流路基板21を下基板20と上基板22に接合すると、貫通溝5a,51a,6a,9aは、それぞれ第1の屈曲流路部5、第1の分岐路51、第1の蛇行流路部6、および直線流路部9を形成する(図1参照)。流路基板21を下基板20と上基板22に接合すると、貫通孔8a,71a,7aは、それぞれ第2の蛇行流路部8、第2の分岐路71、および第2の屈曲流路部7を形成する。流路基板21を下基板20と上基板22に接合すると、貫通溝14a,15aは、第1の空気流路14と第2の空気流路15を形成する。
【0027】
貫通溝14aと貫通溝15aの間には、隔壁21Dが設けられており、流路基板21に形成された溝は、完全なループを形成せず、貫通溝14aと貫通溝15aの間の隔壁21Dで終端する。
【0028】
流路基板21の厚さは例えば0.5mmである。したがって、液体流路2の高さは例えば0.5mmであり、第1の空気流路14と第2の空気流路15の高さも例えば0.5mmである。
【0029】
上基板22は、貫通孔22a,22b,22c,22d,22e,22fが形成された矩形の基板であり、例えばその厚さは1.0mmである。これらの貫通孔は、例えばレーザー加工によって形成することができる。
【0030】
貫通孔22a,22bは、それぞれ流路基板21の貫通溝51a,71aに接続されて、マイクロ流体チップ1におけるポート3,4を形成する(図1参照)。貫通孔22cは、流路基板21の貫通溝5a,14aの連結部分に接続されて、マイクロ流体チップ1における第1のポンプ室10の下方に配置されて、第1のポンプ室10に連通する。貫通孔22dは、流路基板21の貫通溝7a,15aの連結部分に接続されて、マイクロ流体チップ1における第2のポンプ室12の下方に配置されて、第2のポンプ室12に連通する。貫通孔22eは、流路基板21の貫通溝14aの端部に接続され、マイクロ流体チップ1における中間空気流路16の下方に配置されて、中間空気流路16に連通する。貫通孔22fは、流路基板21の貫通溝15aの端部に接続され、マイクロ流体チップ1における中間空気流路16の下方に配置されて、中間空気流路16に連通する。
【0031】
基板20,21,22は、例えば180℃に加熱し、熱溶着により貼り合わせることができる。
【0032】
中空板23,25は、正方形の平板であり、例えばその厚さは1.0mmである。中空板23の中央には、円柱形の貫通孔23aが形成されており、貫通孔23aは第1のポンプ室10を形成する。中空板25の中央には、円柱形の貫通孔25aが形成されており、貫通孔25aは第2のポンプ室12を形成する。貫通孔23aと貫通孔25aは、例えばレーザー加工によって形成することができる。
【0033】
弾性膜24,26は、溝または孔が形成されていない正方形の平板であり、中空板23,25の輪郭と同形同大の輪郭を有する。弾性膜24,26の厚さは例えば0.3mmである。
【0034】
中空板23と弾性膜24は、真空紫外線または酸素プラズマ照射を用いて接合することができる。中空板25と弾性膜26も、真空紫外線または酸素プラズマ照射を用いて接合することができる。但し、中空板23と弾性膜24の接合、および中空板25と弾性膜26の接合に両面接着テープが使用されてもよい。
【0035】
中空板23,25は、図2に示すように、両面接着テープ28によって、樹脂製の上基板22に接合することができる。但し、液体流路2およびポンプ室10,12への有機物の望ましくない流入を防止または低減するため、真空紫外線または酸素プラズマ照射を用いて、中空板23,25を上基板22に接合することが好ましい。
【0036】
中空板27は、矩形の平板であり、例えばその厚さは0.5mmである。中空板23の中央には、楕円柱形の貫通孔27aが形成されており、貫通孔27aは中間空気流路16を形成する。貫通孔27aは、例えばレーザー加工によって形成することができる。
【0037】
カバー部材17、すなわち弾性膜は、溝または孔が形成されていない矩形の平板であり、中空板27の輪郭と同形同大の輪郭を有する。カバー部材17の厚さは例えば0.3mmである。
【0038】
中空板27とカバー部材17も、真空紫外線または酸素プラズマ照射を用いて接合することができる。但し、中空板27とカバー部材17の接合に両面接着テープが使用されてもよい。
【0039】
中空板27は、図2に示すように、両面接着テープ28によって、樹脂製の上基板22に接合することができる。但し、空気流路14または15を通じた液体流路2およびポンプ室10,12への有機物の望ましくない流入を防止または低減するため、真空紫外線または酸素プラズマ照射を用いて、中空板27を上基板22に接合することが好ましい。
【0040】
以上のように、基板20,21,22、中空板23,25、弾性膜24,26、中空板27およびカバー部材17を接合することによって、液体流路2、ポート3,4、ポンプ室10,12、空気流路14,15、および中間空気流路16を有するマイクロ流体チップ1が完成する。
【0041】
円柱形の第1のポンプ室10は、弾性膜24で覆われた中空板23の貫通孔23aによって形成され、上基板22の貫通孔22aを通じて第1の屈曲流路部5と第1の空気流路14に連通する。弾性膜24が高弾性のゴムで形成されているため、第1のポンプ室10は、弾性的に伸縮可能であり、ダイアフラムポンプまたは伸縮可能なアキュムレータとして使用することができる。
【0042】
円柱形の第2のポンプ室12は、弾性膜26で覆われた中空板25の貫通孔25aによって形成され、上基板22の貫通孔22bを通じて第2の屈曲流路部7と第2の空気流路15に連通する。弾性膜26が高弾性のゴムで形成されているため、第2のポンプ室12も、弾性的に伸縮可能であり、ダイアフラムポンプまたは伸縮可能なアキュムレータとして使用することができる。
【0043】
楕円柱形の中間空気流路16は、カバー部材17で覆われた中空板27の貫通孔27aによって形成され、上基板22の貫通孔22eを通じて第1の空気流路14に連通し、上基板22の貫通孔22fを通じて第2の空気流路15に連通する。カバー部材17は高弾性のゴムで形成されているため、カバー部材17に外力が与えられると、図4に示すように、カバー部材17は弾性変形して中間空気流路16を閉じ、第1の空気流路14と第2の空気流路15の間の空気の流動を遮断する。カバー部材17に外力が与えられないと、図5に示すように、カバー部材17は弾性的に復元して中間空気流路16を開き、第1の空気流路14と第2の空気流路15の間の空気の流動を可能にする。
【0044】
マイクロ流体チップ1において、ポート3,4を閉塞すると、液体流路2、2つのポンプ室10,12、2つの空気流路14,15および中間空気流路16を有する完全に閉鎖された流路系が形成される。この後、図4に示すように、中間空気流路16を閉じて、第1の空気流路14と第2の空気流路15の間の空気の流動を遮断した時、液体流路2の両端に接続された伸縮可能な2つのポンプ室10,12の一方を圧縮すれば、液体サンプルは圧縮されたポンプ室から他方のポンプ室に向けて液体流路2を流れ、下流のポンプ室が弾性的に膨張する。
【0045】
図6は、中間空気流路16を閉じて、第1のポンプ室10を圧縮した場合の空気の流れを矢印で示す。この場合、中間空気流路16が閉じて第1の空気流路14から第2の空気流路15への空気の流動が遮断されているので、第1のポンプ室10から押し出された空気は、第1の屈曲流路部5を流動し、第1の屈曲流路部5、第1の蛇行流路部6、直線流路部9、第2の蛇行流路部8、および第2の屈曲流路部7のいずれかの位置にある液体サンプル40を第2のポンプ室12へ向けて移動させる。このように移動する液体サンプル40は、第2のポンプ室12側の空気を押して第2のポンプ室12に向けて移動させる。
【0046】
図示しないが、中間空気流路16を閉じて、第2のポンプ室12を圧縮した場合には、第2のポンプ室12から押し出された空気は、第2の屈曲流路部7を流動し、液体流路2のいずれかの位置にある液体サンプル40を第1のポンプ室10へ向けて移動させる。このように移動する液体サンプル40は、第1のポンプ室10側の空気を押して第1のポンプ室10に向けて移動させる。
【0047】
中間空気流路16を閉じた時、両方のポンプ室を交互に圧縮することによって、液体サンプル40は液体流路2を往復移動する。液体流路2と2つのポンプ室10,12は、完全に閉鎖されているので、液体サンプル40を流路内で流動させる際に、液体サンプルへのコンタミネーションを最小限化することができる。
【0048】
一方、中間空気流路16を開けば、第1の空気流路14と第2の空気流路15の間の空気の流動が可能になり、第1のポンプ室10、液体流路2、第2のポンプ室12、第2の空気流路15、中間空気流路16、第1の空気流路14を有する閉鎖回路ができあがる。この場合、一方のポンプ室を圧縮しても、液体流路2における液体サンプルの両側で気圧が平衡し、液体サンプルは停止する。
【0049】
図7は、中間空気流路16を開いて、第1のポンプ室10を圧縮した場合の空気の流れを矢印で示す。この場合、中間空気流路16が開いて第1の空気流路14から第2の空気流路15への空気の流動が可能であるので、第1のポンプ室10から押し出された空気は、第1の屈曲流路部5に流入すると同時に、第2の空気流路15から第2の屈曲流路部7へ流入する。したがって、液体流路2における液体サンプル40の両側で気圧が平衡し、液体サンプル40は停止する。図示しないが、第2のポンプ室12を圧縮した場合にも、液体流路2における液体サンプル40の両側で気圧が平衡し、液体サンプル40は停止する。
【0050】
したがって、ポンプ室10または12の作用または予期しない理由で液体サンプル40が移動している時、中間空気流路16を開くことによって、液体サンプル40を停止させることができる。液体サンプル40の停止位置が所望の位置でない場合には、中間空気流路16を閉じて、所要のポンプ室10または12を圧縮することによって、液体サンプル40を移動させることができ、再び中間空気流路16を開くことによって、液体サンプル40を停止させることができる。このようにして、液体サンプル40を所望の位置に容易に停止させることができる。上記の通り、基板20,21,22は、透明樹脂から形成されているので、液体流路2内の液体サンプル40を観察することができる。PCRでは、液体サンプルを高温で加熱するため、液体サンプルの粘性の変化、微小な気泡の発生、予期しない内部気圧の変動などのため、液体サンプルの停止位置の予測が困難であるが、上記のように中間空気流路16を開閉しながら、ポンプ室10および/または12を圧縮することによって、液体サンプルを所望の観察位置に停止させることが容易である。
【0051】
図8は、実施形態に係るPCR分析装置30の断面図である。図8図10図11においては、PCR用マイクロ流体チップ1の図1のVIII-VIII線矢視断面を示す。図9は、マイクロ流体チップ1の図1のII-II線矢視断面に相当する断面図である。
【0052】
図8に示すように、PCR分析装置30は、PCR用マイクロ流体チップ1、第1のアクチュエータ31、第2のアクチュエータ32、加熱装置33、および観察分析装置34を有する。また、図9に示すように、PCR分析装置30は、第3のアクチュエータ35を有する。
【0053】
アクチュエータ31,32,35は、例えば、手動レバー式アクチュエータ、電動リニアアクチュエータ、油圧リニアアクチュエータ、またはモータの回転を直進運動に変換する機構を有するアクチュエータであり、それぞれ押圧部31a,32a,35aを有する。各アクチュエータは、自動制御されてもよいが、好ましくは手動制御される。自動制御される場合でも、各アクチュエータを自動制御中に強制的に手動制御できることが好ましい。
【0054】
第1のアクチュエータ31は第1のポンプ室10の上方に配置され、図8に示すように、アクチュエータ31の非駆動時には、押圧部31aは第1のポンプ室10を画定する弾性膜24とは間隔をおいて配置されている。アクチュエータ31を駆動すると、図10に示すように、押圧部31aは下降して弾性膜24を押し下げ、第1のポンプ室10を圧縮することができる。
【0055】
第2のアクチュエータ32は第2のポンプ室12の上方に配置され、図8に示すように、アクチュエータ32の非駆動時には、押圧部32aは第2のポンプ室12を画定する弾性膜26とは間隔をおいて配置されている。アクチュエータ32を駆動すると、図11に示すように、押圧部32aは下降して弾性膜26を押し下げ、第2のポンプ室12を圧縮することができる。
【0056】
第3のアクチュエータ35は中間空気流路16の上方に配置され、図9に示すように、アクチュエータ35の非駆動時には、押圧部32aは中間空気流路16を画定するカバー部材17とは間隔をおいて配置されており、中間空気流路16は開放されている。アクチュエータ35を駆動すると、押圧部35aは下降してカバー部材17を押し下げ、中間空気流路16を閉じることができる。
【0057】
加熱装置33は、第1の蛇行流路部6を加熱する第1の加熱部37と、第2の蛇行流路部8を加熱する第2の加熱部38を有する。第1の加熱部37は、加熱素子としてのペルチェ素子37aと、伝熱素子としての金属板37bを有する。第2の加熱部38は、加熱素子としてのペルチェ素子38aと、伝熱素子としての金属板38bを有する。
【0058】
金属板37bは、マイクロ流体チップ1の下基板20における第1の蛇行流路部6の直下の位置に接合されており、金属板37bにはペルチェ素子37aが接合されている。金属板38bは、マイクロ流体チップ1の下基板20における第2の蛇行流路部8の直下の位置に接合されており、金属板38bにはペルチェ素子38aが接合されている。
【0059】
ペルチェ素子37a,37bは、それぞれ加熱回路37c,38cによって駆動される。この実施形態では、局所的な加熱を行うため、ペルチェ素子37a,37bが使用されるが、他の加熱要素が使用されてもよい。
【0060】
観察分析装置34は、マイクロ流体チップ1の透明な下基板20を通じて液体流路2の直線流路部9内の液体サンプルを観察する。観察分析装置34の光学ヘッド34aは、下基板20における直線流路部9の真下に配置されている。観察分析装置34は、励起光(紫外線)の照射に応答して、液体サンプル中の増幅産物が発する蛍光を計測する蛍光プローブであってよい。あるいは、観察分析装置34は、液体サンプル中の増幅副産物であるピロリン酸マグネシウムによる白濁を検知する光学プローブであってよい。
【0061】
次に、PCR分析装置30の使用方法を説明する。まず、アクチュエータ31,32,35の押圧部31a,32a,35aがマイクロ流体チップ1の上方に離れた状態(押圧部31a,32a,35aが初期位置にある状態)、すなわちポンプ室10,12と中間空気流路16が圧縮されていない状態で、導入装置(図示せず)によって液体サンプル40をポート3を通じて液体流路2に導入すなわち注入する。導入装置は、マイクロピペットまたはシリンジであってよい。液体流路2およびポンプ室10,12を液体サンプル40で満たす必要はなく、液体サンプル40の量は、わずかであってよく、例えば、15~20μlでよい。液体流路2の幅と高さは小さく、液体サンプル40は界面張力によって棒状に凝集し、液体流路2の断面を閉塞する。液体流路2が、幅0.5mm、高さ0.5mmの矩形断面であり、液体サンプル40の量を15μlであると仮定すると、液体流路2内の液体サンプル40の長さは60mmである。したがって、液体サンプル40は液体流路2とポンプ室10,12内の空間を左側空間と右側空間に分断する。左側空間は第1のポンプ室10の内部空間を含み、右側空間は第2のポンプ室12の内部空間を含む。図示しないが、ポート4を通じて空気をわずかに排出して、液体流路2内での液体サンプル40の位置を調整してもよい。
【0062】
この後、液体サンプル40からの気泡の抜けを待ち、ポート3,4を接着テープで閉塞して封止する。接着テープはセロハンテープでもよいしポリイミドテープでもよい。接着テープの代わりに、樹脂またはゴム製の栓をポート3,4に挿入して、ポート3,4を閉塞して封止してもよい。こうして、液体流路2、2つのポンプ室10,12、2つの空気流路14,15および中間空気流路16を有する完全に閉鎖された流路系が形成される。
【0063】
次に、第3のアクチュエータ35の押圧部35aを下降させ、カバー部材17を押し下げて中間空気流路16を閉じる。これにより、ポンプ室10,12の圧縮に応じて、液体サンプル40が移動可能になる。
【0064】
次に、第1のアクチュエータ31を駆動する。すると、図10に示すように、アクチュエータ31の押圧部31aが下降して弾性膜24を押し下げ、第1のポンプ室10を圧縮する。したがって、矢印に示すように、液体サンプル40は液体流路2内を右方に向けて移動する。但し、押圧部31aは、図示より大きい下端を有して、弾性膜24とともに中空板23を押し下げるようにしてもよい。液体サンプル40は、第1の蛇行流路部6と直線流路部9を通過し、さらに第2の蛇行流路部8まで移動する。液体サンプル40に押されて、右側空間の圧力が高まり、第2のポンプ室12は弾性的に膨張する。
【0065】
次に、図11に示すように、アクチュエータ31の押圧部31aを初期位置に上昇させるとともに、アクチュエータ32を駆動する。すると、アクチュエータ32の押圧部32aが下降して弾性膜26を押し下げ、第2のポンプ室12を圧縮する。したがって、矢印に示すように、液体サンプル40は液体流路2内を左方に向けて移動する。但し、押圧部32aは、図示より大きい下端を有して、弾性膜26とともに中空板25を押し下げるようにしてもよい。液体サンプル40は、第2の蛇行流路部8と直線流路部9を通過し、さらに第1の蛇行流路部6まで移動する。液体サンプル40に押されて、左側空間の圧力が高まり、第1のポンプ室10は弾性的に膨張する。
【0066】
再度、アクチュエータ32の押圧部32aを初期位置に上昇させてアクチュエータ31の押圧部31aを下降させると、液体サンプル40は液体流路2内を右方に向けて移動する。再度、アクチュエータ31の押圧部31aを初期位置に上昇させてアクチュエータ32の押圧部32aを下降させると、液体サンプル40は液体流路2内を左方に向けて移動する。
【0067】
このようにして、左右のアクチュエータ31,32を交互に駆動して、左右のダイアフラムポンプ、すなわちポンプ室10,12を交互に圧縮する。第1のポンプ室10が収縮して左側空間の圧力が上昇する時、右側空間の圧力も上昇するが、第2のポンプ室12が膨張するので、右側空間の圧力は急激には上昇しない。逆に第2のポンプ室12が収縮して右側空間の圧力が上昇する時、左側空間の圧力も上昇するが、第1のポンプ室10が膨張するので、左側空間の圧力は急激には上昇しない。このように、液体流路2内の圧力が急変しないため、液体サンプル40内の気泡の発生が低減され、棒状の液体サンプル40が大きな気泡の発生のために分断することも抑制される。
【0068】
加熱装置33は、液体流路2内の液体サンプル40の往復移動の間にサーマルサイクルを行うことが可能である。ある例では、液体サンプル40が液体流路2内で往復移動する間、左側の第1の加熱部37を液体サンプル40内のDNA(デオキシリボ核酸)の変性のためかなり高い温度(例えば95℃)に固定し、右側の第2の加熱部38をプライマーのアニーリングのため高い温度(例えば60℃)に固定してもよい。アクチュエータ31が駆動されて液体サンプル40が液体流路2内を右方に向けて移動する間、液体サンプル40は、第1の蛇行流路部6を通過する間に変性温度になり、第2の蛇行流路部8を通過する間にプライマーのアニーリング温度になる。アニーリング温度でもDNAの伸長は進行しうる。この場合には、アニーリング温度を「伸長・アニーリング温度」と呼ぶことができる。直線流路部9は加熱されていないが、直線流路部9は短いので、そこを通過する間の液体サンプル40の温度降下は少ない。
【0069】
他方、アクチュエータ32が駆動されて液体サンプル40が液体流路2内を左方に向けて移動する間、液体サンプル40は第2の蛇行流路部8を通過する間に伸長・アニーリング温度のままであり、第1の蛇行流路部6を通過する間に変性温度になる。次にアクチュエータ31が駆動されて液体サンプル40が液体流路2内を右方に向けて移動する間、液体サンプル40は、第1の蛇行流路部6を通過する間に変性温度のままであり、第2の蛇行流路部8を通過する間に伸長・アニーリング温度になる。この例では、液体サンプル40の液体流路2内での1往復が1サイクルに相当する。
【0070】
逆に、液体サンプル40が液体流路2内で往復移動する間、左側の第1の加熱部37を液体サンプル40内のDNAの伸長とプライマーのアニーリングのため高い温度(例えば60℃)に固定し、右側の第2の加熱部38をDNAの変性のためかなり高い温度(例えば95℃)に固定してもよい。
【0071】
アクチュエータ31,32の両方の駆動を停止した後、左側空間と右側空間の圧力(2つのポンプ室10,12の圧力)が平衡すると、液体サンプル40は移動を停止する。あるいは、第3のアクチュエータ35の押圧部35aを上昇させカバー部材17を初期位置に上昇させ、中間空気流路16を開放することにより、強制的に液体サンプル40の移動を停止させてもよい。透明な上基板22を通じて、液体サンプル40の位置は上方から視認可能である。
【0072】
液体サンプル40の停止位置が所望の位置でない場合には、第3のアクチュエータ35の押圧部35aを下降させカバー部材17を押し下げて中間空気流路16を閉じた状態で、所要のポンプ室10または12を圧縮することによって、液体サンプル40を移動させることができる。そして、第3のアクチュエータ35の押圧部35aを初期位置に上昇させカバー部材17を弾性的に復元させて、中間空気流路16を開くことによって、液体サンプル40を停止させることができる。
【0073】
移動を停止した液体サンプル40は、透明な下基板20を通じて観察分析装置34によって観察される。
【0074】
出願人は、アクチュエータ31,32の交互駆動を繰り返し、液体流路2内で液体サンプル40を50回往復させた。液体サンプル40内の気泡の発生は観察されず、棒状の液体サンプル40の分断も観察されなかった。
【0075】
この実施形態では、液体流路2、2つのポンプ室10,12、2つの空気流路14,15および中間空気流路16は、基板20,21,22、中空板23,25,27、弾性膜24,26、およびカバー部材17で完全に閉鎖されるので、液体サンプルを液体流路2内で流動させる際に、液体サンプルへのコンタミネーションを最小限化することができる。マイクロ流体チップ1は、ゴムと樹脂から構成されており、金属やセラミックスさらに電子部品等を含まないため、安価であり気軽に廃棄することができる。左右のアクチュエータ31,32と左右のダイアフラムポンプを有する液体サンプル40の輸送機構は、単純であるにも関わらず、安定して連続した送液が可能である。また、第3のアクチュエータ35とカバー部材17を有する中間空気流路16の開閉機構は、単純であるにも関わらず、液体サンプル40の移動と停止を確実に制御することができる。以上、本発明の好ましい実施形態を参照しながら本発明を図示して説明したが、当業者にとって特許請求の範囲に記載された発明の範囲から逸脱することなく、形式および詳細の変更が可能であることが理解されるであろう。このような変更、改変および修正は本発明の範囲に包含されるはずである。例えば、上記の実施形態においては、ポンプ室10,12を画定する中空板23,25が設けられている。しかし、中空板23,25の代わりに、蛇腹を用いてもよい。この場合、蛇腹は、弾性膜24と上基板22を気密に連結し、弾性膜26と上基板22を気密に連結する。
【0076】
中間空気流路16を画定する中空板27も、カバー部材17と上基板22を気密に連結する蛇腹に置き換えることができる。
【0077】
上記の実施形態においては、PCR分析装置30が観察分析装置34を有する。しかし、サーマルサイクルが終了した後、液体サンプル40をマイクロ流体チップ1からマイクロピペットまたはシリンジによって取り出し、取り出した液体サンプル40を電気泳動でフィルタリングし、液体サンプル40中の増幅産物のサイズを計測してもよい。したがって、観察分析装置34は不可欠ではない。
【0078】
上記の実施形態では、下基板20と上基板22の両方が透明であるが、下基板20と上基板22のいずれかは不透明であってもよい。また、基板20,22において、液体流路2または空気流路が重ならない部分は不透明であってもよい。
【0079】
上記の実施形態では、液体流路2の1つの領域でプライマーのアニーリングとDNAの伸長を促進し、液体流路2の他の1つの領域でDNAの変性を促進する。しかし、液体流路2の1つの領域でプライマーのアニーリングを促進し、液体流路2の他の1つの領域でDNAの伸長を促進し、液体流路2の他の1つの領域でDNAの変性を促進してもよい。例えば、加熱部37,38の一方をDNAの変性に適した温度(例えば95℃)に固定し、加熱部37,38の他方をDNAの伸長に適した温度(例えば70℃)に固定し、加熱されない直線流路部9で液体サンプル40がプライマーのアニーリングに適した温度(例えば55℃)になるようにしてもよい。中間空気流路16の開閉により、液体サンプル40の移動と停止を制御することによって、液体サンプル40が各温度領域に滞在する時間を調節することができる。
【0080】
上記の実施形態では、カバー部材17は、外力(押圧力)が与えられると中間空気流路16を閉じ、外力が与えられない通常時に中間空気流路16を開くように構成されている。しかし、カバー部材17は、外力が与えられない通常時に中間空気流路16を閉じ、外力(引張力)が与えられると中間空気流路16を開くように構成されていてもよい。この場合、第3のアクチュエータ35はカバー部材17を引っ張って中間空気流路16を開く。
【0081】
第1のポンプ室10は、弾性膜24を第1のアクチュエータ31が引っ張ることにより、膨張するよう構成されていてもよい。第2のポンプ室12も、弾性膜26を第2のアクチュエータ32が引っ張ることにより、膨張するよう構成されていてもよい。
【0082】
本発明の態様は、下記の番号付けされた条項にも記載される。
【0083】
条項1. PCRに使用される液体サンプルが流動する液体流路と、
前記液体流路に前記液体サンプルを導入する導入口と、
前記液体流路の一端に接続され、空気で満たされた弾性的に伸縮可能な第1のポンプ室と、
前記液体流路の他端に接続され、空気で満たされた弾性的に伸縮可能な第2のポンプ室と、
前記第1のポンプ室に接続され、空気が流動する第1の空気流路と、
前記第2のポンプ室に接続され、空気が流動する第2の空気流路と、
前記第1の空気流路と前記第2の空気流路を接続する中間空気流路と、
与えられる外力に応じて、前記中間空気流路を開閉するように構成され、前記中間空気流路を気密に覆う伸縮可能なカバー部材と、
前記液体流路、前記第1のポンプ室、前記第2のポンプ室、前記第1の空気流路、および前記第2の空気流路を気密に包囲し、少なくとも片面に前記液体流路が観察される透明部分が設けられた包囲部材とを
有するPCR用マイクロ流体チップ。
【0084】
条項2. 条項1に記載のPCR用マイクロ流体チップと、
前記第1のポンプ室に外力を与える第1のアクチュエータと、
前記第2のポンプ室に外力を与える第2のアクチュエータと、
前記カバー部材に外力を与える第3のアクチュエータと、
前記液体流路を加熱する加熱装置とを
有するPCR分析装置。
【0085】
この条項によれば、第1のアクチュエータと第2のアクチュエータが液体流路の両端に接続された第1のポンプ室と第2のポンプ室にそれぞれ外力を与えるので、液体サンプルの往復移動を促進することができる。往復移動の間に液体流路を加熱する加熱装置によって、液体サンプルはサーマルサイクルの対象となる。また、第3のアクチュエータがカバー部材に外力を与えるので、中間空気流路を開閉することができる。
【符号の説明】
【0086】
1 PCR用マイクロ流体チップ
2 流路
3 ポート(導入口)
4 ポート
5 第1の屈曲流路部
51 第1の分岐路
6 第1の蛇行流路部
7 第2の屈曲流路部
71 第2の分岐路
8 第2の蛇行流路部
9 直線流路部
10 第1のポンプ室
12 第2のポンプ室
14 第1の空気流路
15 第2の空気流路
16 中間空気流路
17 カバー部材
20 下基板(包囲部材)
21 流路基板(包囲部材)
22 上基板(包囲部材)
23,25 中空板(包囲部材)
24,26 弾性膜(包囲部材)
30 PCR分析装置
31 第1のアクチュエータ
32 第2のアクチュエータ
35 第3のアクチュエータ
33 加熱装置
34 観察分析装置
37 第1の加熱部
38 第2の加熱部
37a,38a ペルチェ素子
37b,38b 金属板
40 液体サンプル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11