(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172473
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】ヘッドチップの製造方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/16 20060101AFI20231129BHJP
H10N 30/20 20230101ALI20231129BHJP
H10N 30/045 20230101ALI20231129BHJP
H10N 30/50 20230101ALI20231129BHJP
H10N 30/088 20230101ALI20231129BHJP
【FI】
B41J2/16 503
B41J2/16 511
H01L41/09
H01L41/257
H01L41/083
H01L41/338
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084305
(22)【出願日】2022-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平井 徹
(72)【発明者】
【氏名】田中 聡一
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AF93
2C057AG45
2C057AP02
2C057AP14
2C057AP22
2C057AP25
2C057AP51
2C057AP82
2C057BA03
2C057BA14
(57)【要約】
【課題】各チャネルの体積にバラつきが生じにくいヘッドチップの製造方法を提供する。
【解決手段】第一方向Xに延びる複数のチャネル溝13を貫通するように、あるいは当接するように、少なくとも一方端のチャネル溝13が、ウエハー10の他方端と連通するように、第一方向Xと略直交する第二方向Yに延びるエア逃げ溝13bを形成すると、チャネル溝13内のエアがエア逃げ溝13bからウエハー10外へ逃げるようになるため、積層基板製造工程P6の際に接着剤が均等にエア逃げ溝13bに流れ込むようになり、チャネルの体積にバラつきが生じにくくなり、液滴吐出装置に搭載された際に安定した吐出性能となるヘッドチップを製造することができる。
【選択図】
図5A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッドチップの製造方法であって、
第一方向に延びる複数のチャネル溝が第1面に形成された第1の基板の前記第1面に、前記第一方向と略直交する第二方向に延びて前記複数のチャネル溝を貫通するエア逃げ溝を形成するエア逃げ溝形成工程と、
前記エア逃げ溝が形成された前記第1面に、第2の基板を接着剤で接合させて積層基板とする積層基板製造工程と、を有し、
前記エア逃げ溝形成工程は、少なくとも一方端が前記第1の基板の端部に連通するように前記エア逃げ溝を形成するヘッドチップの製造方法。
【請求項2】
ヘッドチップの製造方法であって、
第一方向に延びる複数のチャネル溝が第1面に形成された第1の基板の前記第1面に、第2の基板の第2面を接着剤で接合させて積層基板とする積層基板製造工程と、
前記第2の基板の第2面に、前記第一方向と略直交する第二方向に延びるエア逃げ溝を形成するエア逃げ溝形成工程と、を有し、
前記エア逃げ溝形成工程は、前記積層基板製造工程よりも前に行う工程であって、
少なくとも一方端が前記第2の基板の端部に連通するように前記エア逃げ溝を形成し、
前記積層基板製造工程は、前記複数のチャネル溝と、前記エア逃げ溝とが当接するように、前記第1の基板と前記第2の基板とを接合させるヘッドチップの製造方法。
【請求項3】
前記積層基板製造工程は、前記チャネル溝の全面を覆うように前記第1の基板に前記第2の基板を接合する請求項1又は2記載のヘッドチップの製造方法。
【請求項4】
前記エア逃げ溝形成工程は、前記チャネル溝の前記第一方向の端部に前記エア逃げ溝を形成する請求項1記載のヘッドチップの製造方法。
【請求項5】
前記エア逃げ溝形成工程は、前記チャネル溝の前記第一方向の端部において湾曲状に形成された曲率部に前記エア逃げ溝を形成する請求項4記載のヘッドチップの製造方法。
【請求項6】
前記エア逃げ溝形成工程は、前記第1の基板の前記チャネル溝の前記第一方向の端部において湾曲状に形成された曲率部に前記エア逃げ溝が当接するように前記エア逃げ溝を形成する請求項2記載のヘッドチップの製造方法。
【請求項7】
前記チャネル溝に電極を形成する電極形成工程と、
前記電極の電気容量を検査する容量検査工程と、を有し、
前記電極形成工程及び前記容量検査工程は、前記エア逃げ溝形成工程よりも前に行う請求項1又は2記載のヘッドチップの製造方法。
【請求項8】
前記積層基板製造工程は、接着剤で接合した前記第1の基板及び前記第2の基板に加熱処理及び加圧処理を行うことで、前記第1の基板に前記第2の基板を接合する請求項1又は2記載のヘッドチップの製造方法。
【請求項9】
前記積層基板から前記エア逃げ溝を含む部分とヘッドチップ部分とに分けて切断する切断工程を有する請求項1又は2記載のヘッドチップの製造方法。
【請求項10】
前記積層基板製造工程は、前記チャネル溝内に接着剤からなるフィレットを形成する請求項1又は2記載のヘッドチップの製造方法。
【請求項11】
前記積層基板製造工程は、前記第1の基板及び前記第2の基板の接合によって構成された複数の積層基板同士を接着剤で接合させる請求項1又は2記載のヘッドチップの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘッドチップの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液滴吐出装置のヘッドチップの製造方法として、インク/エアチャネルを形成した基板を複数積層させて、接着剤によって接合した上で切断する製造方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
このとき、基板同士が充分に接合されるように、接合箇所から溢れ出してチャネルにフィレットが形成されるような量の接着剤が用いられる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の発明は、接合部分から接着剤が不均一に溢れて、各チャネル部分に大きさの不均一なフィレットが形成されてしまう。
図12のグラフに示すように、大きさの不均一なフィレットによってチャネルの体積にバラつきが生まれると、それに応じてAL(Acoustic Length)が変化してしまうため、ヘッドチップから液滴吐出させた際に、所望の吐出速度が得られなくなってしまうという課題を抱えていた。
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、各チャネルの体積にバラつきが生じにくいヘッドチップの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するために、請求項1記載の発明は、ヘッドチップの製造方法であって、
第一方向に延びる複数のチャネル溝が第1面に形成された第1の基板の前記第1面に、前記第一方向と略直交する第二方向に延びて前記複数のチャネル溝を貫通するエア逃げ溝を形成するエア逃げ溝形成工程と、
前記エア逃げ溝が形成された前記第1面に、第2の基板を接着剤で接合させて積層基板とする積層基板製造工程と、を有し、
前記エア逃げ溝形成工程は、少なくとも一方端が前記第1の基板の端部に連通するように前記エア逃げ溝を形成する。
【0007】
また、以上の課題を解決するために、請求項2記載の発明は、ヘッドチップの製造方法であって、
第一方向に延びる複数のチャネル溝が第1面に形成された第1の基板の前記第1面に、第2の基板の第2面を接着剤で接合させて積層基板とする積層基板製造工程と、
前記第2の基板の第2面に、前記第一方向と略直交する第二方向に延びるエア逃げ溝を形成するエア逃げ溝形成工程と、を有し、
前記エア逃げ溝形成工程は、前記積層基板製造工程よりも前に行う工程であって、
少なくとも一方端が前記第2の基板の端部に連通するように前記エア逃げ溝を形成し、
前記積層基板製造工程は、前記複数のチャネル溝と、前記エア逃げ溝とが当接するように、前記第1の基板と前記第2の基板とを接合させる。
【0008】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載のヘッドチップの製造方法であって、
前記積層基板製造工程は、前記チャネル溝の全面を覆うように前記第1の基板に前記第2の基板を接合する。
【0009】
請求項4記載の発明は、請求項1記載のヘッドチップの製造方法であって、
前記エア逃げ溝形成工程は、前記チャネル溝の前記第一方向の端部に前記エア逃げ溝を形成する。
【0010】
請求項5記載の発明は、請求項4記載のヘッドチップの製造方法であって、
前記エア逃げ溝形成工程は、前記チャネル溝の前記第一方向の端部において湾曲状に形成された曲率部に前記エア逃げ溝を形成する。
【0011】
請求項6記載の発明は、請求項2記載のヘッドチップの製造方法であって、
前記エア逃げ溝形成工程は、前記第1の基板の前記チャネル溝の前記第一方向の端部において湾曲状に形成された曲率部に前記エア逃げ溝が当接するように前記エア逃げ溝を形成する。
【0012】
請求項7記載の発明は、請求項1又は2記載のヘッドチップの製造方法であって、
前記チャネル溝に電極を形成する電極形成工程と、
前記電極の電気容量を検査する容量検査工程と、を有し、
前記電極形成工程及び前記容量検査工程は、前記エア逃げ溝形成工程よりも前に行う。
【0013】
請求項8記載の発明は、請求項1又は2記載のヘッドチップの製造方法であって、
前記積層基板製造工程は、接着剤で接合した前記第1の基板及び前記第2の基板に加熱処理及び加圧処理を行うことで、前記第1の基板に前記第2の基板を接合する。
【0014】
請求項9記載の発明は、請求項1又は2記載のヘッドチップの製造方法であって、
前記積層基板から前記エア逃げ溝を含む部分とヘッドチップ部分とに分けて切断する切断工程を有する。
【0015】
請求項10記載の発明は、請求項1又は2記載のヘッドチップの製造方法であって、
前記積層基板製造工程は、前記チャネル溝内に接着剤からなるフィレットを形成する。
【0016】
請求項11記載の発明は、請求項1又は2記載のヘッドチップの製造方法であって、
前記積層基板製造工程は、前記第1の基板及び前記第2の基板の接合によって構成された複数の積層基板同士を接着剤で接合させる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、各チャネルの体積にバラつきが生じにくいヘッドチップの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】第1実施形態に係るヘッドチップの製造工程の手順を示すフローチャートである。
【
図3A】チャネル溝形成工程の様子を示す斜視図である。
【
図3B】
図3AのIIIB-IIIB線における断面図である。
【
図4】電極を形成した1つのチャネル溝を示す拡大断面図である。
【
図5A】エア逃げ溝を形成したウエハーを示す上面図である。
【
図6A】複数のウエハーとカバー基板を接合させた積層基板の一の実施形態を示す側断面図である。
【
図6B】複数のウエハーとカバー基板を接合させた積層基板の他の実施形態を示す側断面図である。
【
図6C】複数のウエハーとカバー基板を接合させた積層基板の他の実施形態を示す側断面図である。
【
図7】第一方向に等幅なウエハーとカバー基板を接合させた積層基板を示す側断面図である。
【
図9A】エア逃げ溝を形成した積層基板のうち、第1面に幅狭なカバー基板を接合させたウエハーの各チャネルにおいて、液滴吐出速度が最大になるALを測定したグラフである。
【
図9B】エア逃げ溝を形成した積層基板のうち、第1面に等幅なウエハーを接合させたウエハーの各チャネルにおいて、液滴吐出速度が最大になるALを測定したグラフである。
【
図10A】エア逃げ溝を形成していない積層基板のうち、第1面に幅狭なカバー基板を接合させたウエハーの各チャネルにおいて、液滴吐出速度が最大になるALを測定したグラフである。
【
図10B】エア逃げ溝を形成していない積層基板のうち、第1面に等幅なウエハーを接合させたウエハーの各チャネルにおいて、液滴吐出速度が最大になるALを測定したグラフである。
【
図11】第2実施形態に係る積層基板を示す側断面図である。
【
図12】体積が異なる各チャネルにおいて、液滴吐出速度が最大になるALを測定したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明に係るヘッドチップの製造方法について詳細に説明する。ただし、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0020】
[第1実施形態]
初めに第1実施形態に係るヘッドチップの製造方法を示す。
図1に示すように、第1実施形態に係るヘッドチップの製造方法は、基板製造工程P1と、チャネル溝形成工程P2と、電極形成工程P3と、容量検査工程P4と、エア逃げ溝形成工程P5と、積層基板製造工程P6と、切断工程P7を有する。
【0021】
(基板製造工程)
まず、基板製造工程P1として、
図2に示すように、例えばセラミックスからなる基板11上に、それぞれ分極処理を行った2枚の圧電素子基板12a、12bをそれぞれ接着し、表面に圧電素子層を有するヘッドチップを構成するウエハー10を作成する。
【0022】
各圧電素子基板12a、12bに用いられる圧電材料としては、電圧を加えることにより変形を生じる公知の圧電材料、例えばチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いることができる。2枚の圧電素子基板12a、12bは互いに分極方向(矢印で示す)を反対方向に向けて積層し、基板11に接着剤を用いて接合する。
【0023】
(チャネル溝形成工程)
次いで、チャネル溝形成工程P2として、ウエハー10に対して第一方向Xに切削を行い、ヘッドチップにおいてインク/エアチャネルとなるチャネル溝13を形成する。
図3Aは、当該工程の様子を示す斜視図であり、
図3Bは、チャネル溝13が形成されたウエハー10の、チャネル溝13と略直交する第二方向Y(
図3AにおけるIIIB-IIIB線)の断面図である。
【0024】
図3Aに示すように、当該工程においては、回転刃であるダイシングブレード等を使用した切削により、ウエハー10の第1面に複数のチャネル溝13を形成する。当該工程により、
図3Bに示すように、隣接するチャネル溝13間に、高さ方向で分極方向が反対となる圧電素子からなる駆動壁14が並設される。
【0025】
なお、当該工程はダイシングブレードを使用する方法に限られない。ただし、ダイシングブレードを使用すると、チャネル溝13の幅を高精度に切削することができ、チャネル溝13同士が平行になるため、好ましい。
【0026】
また、当該工程においては、
図3Aに示すように、チャネル溝13の第一方向Xの端部に湾曲状となる曲率部13aを形成するのが好ましい。チャネル溝13の端部に曲率部13aを形成すると、液の流動性が高まる。そのため、後続する電極形成工程P3において、金属被膜を形成しやすくなる。
【0027】
また、
図3Aに示すように、チャネル溝13の両端がウエハー10の端部まで達せず、ウエハー10の側端部を開放しないように切削を行うのが好ましい。駆動壁14は第二方向Yの幅が非常に幅狭である。そのため、チャネル溝13の両端がウエハー10の端部まで達するように切削すると、チャネル溝13、13の間の駆動壁14が倒れやすくなってしまうからである。
【0028】
また、基板製造工程P1においては、基板11を用いる代わりに厚手の圧電素子基板12bを用いて、チャネル溝形成工程P2においては、薄手の圧電素子基板12a側から厚手の圧電素子基板12bの中途部にまで至るようにチャネル溝13を切削してもよい。このようにすると、高さ方向で分極方向が反対となる駆動壁14の形成と同時に、基板11の部分が圧電素子基板12bによって一体に形成される。
【0029】
(電極形成工程)
次いで、電極形成工程P3として、
図4に示すように、電極15をチャネル溝13の内面に形成する。
【0030】
電極15は、チャネルの容積変化を生じさせる圧電素子に電圧を印加するために形成される。
電極15の形成方法としては、めっき法の他、蒸着法、スパッタリング法、CVD(化学気相反応法)等の真空装置を用いた方法等によって金属被膜を形成する方法が挙げられる。
【0031】
電極15を形成する金属は、Ni(ニッケル)、Co(コバルト)、Cu(銅)、Al(アルミニウム)等が使用できる。電気抵抗の面からはAlやCuを用いることが好ましいが、腐食や強度、コストの面からNiが好ましく用いられる。また、Alの上に更にAu(金)を積層した積層構造としてもよい。
【0032】
なお、電極15はチャネル溝13毎に独立させる必要がある。そのため、
図4に示すように、駆動壁14の上端面には金属被膜が形成されないようにする必要がある。そこで、例えば各駆動壁14の上端面に予めドライフィルムを貼着しておいたり、レジスト膜を形成したりした上で金属被膜を形成するのが好ましい。このようにすると、金属被膜を形成した後にドライフィルムやレジスト膜を除去することで、チャネル溝13内に臨む各駆動壁14の側面及び各チャネル溝13の底面にのみ、選択的に電極15を形成することができる。
【0033】
(容量検査工程)
次いで、容量検査工程P4として、プローバを用いて、各チャネル溝13における電極15の電気容量及び抵抗値の検査を行う。
ここで、規定の電気容量或いは抵抗値を満たさない電極15が検出された場合、切断工程P7において、該当箇所を廃棄する。
【0034】
(エア逃げ溝形成工程)
次いで、エア逃げ溝形成工程P5として、
図5Aに示すように、第二方向Yに切削を行って、複数のチャネル溝13を貫通するエア逃げ溝13bを形成する。
【0035】
エア逃げ溝13bは、後続する積層基板製造工程P6において、チャネル溝13内のエアをチャネル溝13外へと逃がすための流路である。そのため、エア逃げ溝13bは、少なくとも一方端のチャネル溝13がウエハー10の他方端と連通するように設けられる。また、特に
図5Aに示すように、ウエハー10の一方端から他方端にかけて連通するように設けられると、エアが両方向に逃げられるようになるため、好ましい。
【0036】
なお、チャネル溝13におけるエア逃げ溝13bの形成箇所は、特には限定されないが、
図5A及び
図5Bに示すように、曲率部13aに形成するのが好ましい。
ウエハー10において、エア逃げ溝13bが形成されている箇所は、ヘッドチップとして使用することができない。そのため、後続する切断工程P7においては、エア逃げ溝13bが形成されている箇所を避けて、ウエハー10を切断する必要がある。そこで、チャネル溝13とは体積が異なり、元々廃棄される箇所である曲率部13aにエア逃げ溝13bを形成すると、廃棄箇所がひとまとまりとなり、より多くのヘッドチップをウエハー10から形成可能になるため好ましい。
【0037】
なお、チャネル溝形成工程P2とエア逃げ溝形成工程P5で共にダイシングブレードを用いる場合、作業の簡略化を目的として、両工程を連続して行っても構わない。
ただし、エア逃げ溝形成工程P5よりも前に電極形成工程P3及び容量検査工程P4を行うのが好ましい。これは、電極形成工程P3の前にエア逃げ溝13bを形成してしまうと、電極15がショートしてしまい、容量検査工程P4を実施できなくなってしまうからである。
【0038】
(積層基板製造工程)
次いで、積層基板製造工程P6として、チャネル溝13、エア逃げ溝13b及び電極15を形成したウエハー10を複数枚(例えば4枚)積層させることで積層基板20を作製する。
【0039】
具体的には、第1の基板(ウエハー10)においてチャネル溝13が形成された第1面に接合される基板である、第2の基板(ウエハー10)の第2面を積層させて、接着剤で接合する。そして、当該第2の基板の第1面に、カバー基板16を接着剤で接合する。このような2つのウエハー10と1つのカバー基板16からなる積層体を2つ用意して、両積層体のカバー基板16同士を接着剤で接合することで、積層基板20を作製することができる。
すなわち、本実施形態においては、積層基板20は、複数の基板を積層させることで構成される積層基板である積層体を複数接合させることで作製される。
【0040】
このように形成された積層基板20を
図6Aに示す。当該構成においては、積層体のうち、ウエハー10aは、第1面にのみ他のウエハー10(ウエハー10b)が接合される第1の基板である。これに対して、当該他のウエハー10bは、その第2面に第1の基板の第1面が接合される第2の基板であるとともに、その第1面に第2の基板であるカバー基板16が接合される第1の基板である。
以下においては、このように第1の基板であるウエハー10を「ウエハー10a」、第1の基板であるとともに第2の基板であるウエハー10を「ウエハー10b」として示す。
【0041】
なお、当該工程において、カバー基板16には、駆動壁14を構成する圧電材料と同一の基板材料を脱分極して用いるのが好ましい。このようにすることで、カバー基板16を加熱接着する時の熱や、液滴吐出ヘッド完成後の駆動時の発熱の影響によって、熱膨張係数差に起因する速度分布や駆動特性のバラつきを抑制することができる。
【0042】
また、ウエハー10の枚数は4枚に限られない。ウエハー10の枚数は、ヘッドチップの列数に応じて任意に変更可能であり、6枚や他の枚数としても構わない。なお、ウエハー10の枚数を4枚とした場合は4列構成のヘッドチップとなり、6枚とした場合は6列構成のヘッドチップとなる。
【0043】
また、積層基板20を形成するウエハー10及びカバー基板16の積層方法も、
図6Aに示した形に限られない。例えば
図6Bに示すように、ウエハー10aの第1面にウエハー10bの第2面が接合された積層体同士を接合させ、ウエハー10bの第2面が接合されていない、最上のウエハー10bの第1面にカバー基板16を接合させた積層基板20としてもよい。
【0044】
また、
図6Cに示すように、2枚のウエハー10aの第1面同士を対向させた上で、第1面に対してカバー基板16を接合させた積層体を複数積層させた積層基板20としてもよい。
【0045】
また、
図6Aから
図6Cにおいては、チャネル溝13よりも第一方向Xに幅狭なカバー基板16を第1の基板に接合させる場合を例示したが、これに限らない。
図7に示すように、ウエハー10と第一方向Xに等幅なカバー基板16を接合させてもよい。
【0046】
また、各基板を接合して積層基板20を作製した後に、加熱・加圧処理を行うのが好ましい。加熱・加圧処理を行うことで、基板同士の接合強度をより高めることができる。
従来の発明においては、加熱・加圧処理を行うと、チャネル溝13内のエアが膨張するため、特に顕著に接着剤の溢れ出し量にバラつきが生じ、不均一な大きさのフィレットが形成されていた。しかし、本実施形態においては、チャネル溝13にエア逃げ溝13bが設けられており、膨張したエアが逃げるため、略均一な大きさのフィレットが形成される。
【0047】
(切断工程)
次いで、切断工程P7として、
図8に示すように、ダイシングブレード等を用いて、チャネル溝13の長手方向(第一方向X)と直交する方向(第二方向Y)に沿って、所定の間隔で配置される複数の切断部位Dでフルカット(切断)することで、チャネルの長さが所定のピッチPとなるヘッドチップを複数切り出す。上記したように、切断工程P7においては、積層基板20からエア逃げ溝13bを含む部分とヘッドチップ部分とに分けて切断を行う。
【0048】
ダイシングブレード等によって切り出されたヘッドチップの切断面のうち、第1の切断面は、複数のノズルが形成された平板であるノズルプレートが接合される、ノズルプレート接合面となる。また、第2の切断面は、電極15に給電を行う配線基板が接合される、配線基板接合面となる。
【0049】
また、
図8においては、複数の切断部位Dを同一のピッチPとすることで、切り出されるヘッドチップのチャネルのピッチPが同一となるようにしているが、これに限られない。すなわち、複数の切断部位Dの間隔を異ならせることで、1枚の積層基板20からチャネルの長さが異なる複数種類のヘッドチップを切り出すようにしても構わない。
【0050】
また、切断工程の前に、切断部位Dの外側に、全てのチャネル溝13に亘るような溝を形成することで、切断工程の際に発生する切削屑が当該溝から排出されるようにしても構わない。
【実施例0051】
次に、本発明のヘッドチップ製造方法について評価した結果を説明する。以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0052】
(試験内容)
チャネル溝13にエア逃げ溝13bを設けたウエハー10a、10bと、エア逃げ溝13bよりも第一方向Xに幅狭なカバー基板16を
図6Aに示すように接合した上で、加熱・加圧処理を行った積層基板20から形成したヘッドチップを用意した。また、チャネル溝13にエア逃げ溝13bを設けなかったウエハー10a、10bと、エア逃げ溝13bよりも第一方向Xに幅狭なカバー基板16を
図6Aに示すように接合した上で、加熱・加圧処理を行った積層基板20から形成したヘッドチップを用意した。そして、これらのヘッドチップを、それぞれインクジェット記録装置に搭載した上で、各チャネルにつき、駆動パルス幅を変化させた際に、液滴吐出速度が最大になるALを測定した。なお、ここでALは、チャネルの音響的共振周期の1/2である。
【0053】
図9Aは、エア逃げ溝13bを設けた4列構成のヘッドチップのうち、第1面がカバー基板16と接する側の基板であるウエハー10bにおける測定結果を示す。また、
図9Bは、エア逃げ溝13bを設けた4列構成のヘッドチップのうち、第1面が第1の基板の第2面と接するウエハー10aにおける測定結果を示す。また、
図10Aは、エア逃げ溝13bを設けなかった4列構成のヘッドチップのうち、ウエハー10bにおける測定結果を示す。また、
図10Bは、エア逃げ溝13bを設けなかった4列構成のヘッドチップのうち、ウエハー10aにおける測定結果を示す。
【0054】
(評価)
図9Aと
図10A、あるいは
図9Bと
図10Bの比較からわかるように、チャネル溝13にエア逃げ溝13bを形成することで、吐出特性を安定させられるようになることが分かる。
【0055】
当該効果は、
図9Bと
図10Bを比較した際に特に顕著である。これは、
図10Bに係るヘッドチップは、チャネル溝13の全面がウエハー10bによって覆われており、チャネル溝13内のエアの逃げ道が無い。そのため、ウエハー10aにウエハー10bを接合させる際の接着剤の流れ出し量にバラつきが生じ、各チャネルに不均一な大きさのフィレットが形成され、当該不均一なフィレットにより、チャネルの容量にバラつきが生じて、吐出特性が不安定になったと考えられる。一方で、
図9Bに係るヘッドチップは、チャネル溝13がウエハー10bによって覆われているものの、エア逃げ溝13bがチャネル溝13内のエアの逃げ道となる。そのため、接着剤の流れ出し量が略一定となり、より均一なフィレットが形成され、各チャネルの体積にバラつきが生じにくくなり、吐出特性が安定するようになったと考えられる。
【0056】
一方で、
図9Aと
図10Aを比較しても、吐出特性を安定させる効果は少ない。これは、
図10Aに係るヘッドチップは、ウエハー10bの第1面に接合される基板が、第一方向Xに幅狭なカバー基板16であり、チャネル溝13が開口部を有する。そのため、エア逃げ溝13bを設けなくても当該開口部がチャネル溝13内のエアの逃げ道となったと考えられる。
【0057】
したがって、第一方向Xに幅狭なカバー基板16が第1面に接合されて、チャネル溝13が開口部を有するウエハー10bには、エア逃げ溝13bを形成しなくても構わない。ただし、ウエハー10bにエア逃げ溝13bを形成すると、チャネル溝13の開口部のみならず、エア逃げ溝13bからもエアが抜けるようになるため、より吐出特性が安定するようになる。そのため、ウエハー10bの第1面に、第一方向Xに幅狭なカバー基板16を接合する場合であっても、チャネル溝13にエア逃げ溝13bを形成するのが好ましい。
【0058】
[第1実施形態の技術的効果]
以上に示すように、本実施形態に係るヘッドチップの製造方法は、第一方向Xに延びる複数のチャネル溝13が第1面に形成された第1の基板の第1面に、第一方向Xと略直交する第二方向Yに延びて複数のチャネル溝13を貫通するエア逃げ溝13bを形成するエア逃げ溝形成工程P5と、エア逃げ溝13bが形成された第1面に、第2の基板を接着剤で接合させて積層基板20とする積層基板製造工程P6と、を有し、エア逃げ溝形成工程P5は、少なくとも一方端が第1の基板の端部に連通するようにエア逃げ溝13bを形成する。
当該構成によれば、積層基板製造工程P6における接着剤の溢れ出し量、すなわち、各チャネル内に形成されるフィレットの大きさを略均一とすることができ、各チャネルの体積にバラつきが生じにくくなる。そのため、ヘッドチップとして液滴吐出装置に装着された際に、安定した吐出性能となる。
【0059】
また、本実施形態に係るヘッドチップの製造方法において、エア逃げ溝形成工程P5は、チャネル溝13の第一方向Xの端部にエア逃げ溝13bを形成する。
当該構成によれば、1つの積層基板20からより多くのヘッドチップを形成することができる。
【0060】
また、本実施形態に係るヘッドチップの製造方法において、エア逃げ溝形成工程P5は、チャネル溝13の第一方向Xの端部において湾曲状に形成された曲率部13aにエア逃げ溝13bを形成する。
チャネル溝13の端部に曲率部13aを形成することで、電極15の形成がより容易になる。また、曲率部13aとエア逃げ溝13bという、ヘッドチップの製造工程における廃棄箇所がひとまとまりとなるため、より多くのヘッドチップを積層基板20から形成可能になる。
【0061】
また、本実施形態に係るヘッドチップの製造方法は、チャネル溝13に電極15を形成する電極形成工程P3と、電極15の電気容量を検査する容量検査工程P4と、を有し、電極形成工程P3及び容量検査工程P4は、エア逃げ溝形成工程P5よりも前に行う。
当該構成によれば、エア逃げ溝13bによって容量検査工程P4を行えなくなってしまうのを防ぐことができ、より精度の高いヘッドチップを製造することができる。
【0062】
また、本実施形態に係るヘッドチップの製造方法において、積層基板製造工程P6は、接着剤で接合した第1の基板及び第2の基板に加熱処理及び加圧処理を行うことで、第1の基板に第2の基板を接合する。
当該構成によれば、より強固に基板同士を接合させることができる。
【0063】
また、本実施形態に係るヘッドチップの製造方法は、積層基板20からエア逃げ溝13bを含む部分とヘッドチップ部分とに分けて切断する切断工程P7を有する。
当該構成によれば、エア逃げ溝13bを含むことにより、異なる体積のチャネルを備えるヘッドチップが形成されるのを防ぐことができる。
【0064】
また、本実施形態に係るヘッドチップの製造方法において、積層基板製造工程は、チャネル溝13内に接着剤からなるフィレットを形成する。
当該構成によれば、基板同士が充分に接合されたヘッドチップを製造することができる。
【0065】
[第2実施形態]
第2実施形態に係るヘッドチップの製造方法につき、以下説明する。なお、第1実施形態に係るヘッドチップの製造方法と同一の部分については、その説明を省略する。
【0066】
(エア逃げ溝形成工程)
第1実施形態に係るヘッドチップの製造方法と、第2実施形態に係るヘッドチップの製造方法における主な相違点は、エア逃げ溝形成工程P5である。
具体的には、第2実施形態に係るエア逃げ溝形成工程P5においては、
図11に示すように、第1の基板であるウエハー10a又はウエハー10bの第1面に接合される、第2の基板であるウエハー10b又はカバー基板16の第2面に、複数のチャネル溝13と当接するようにエア逃げ溝13bを形成する。
【0067】
[第2実施形態の技術的効果]
第1実施形態に係るヘッドチップの製造方法においては、上記したように、電極形成工程P3と容量検査工程P4を行う場合、これらの工程よりも後にエア逃げ溝形成工程P5を行う必要があった。しかし、第2実施形態に係るヘッドチップの製造方法においては、チャネル溝13にエア逃げ溝13bを形成しない。そのため、積層基板製造工程P6以前であれば、任意のタイミングでエア逃げ溝形成工程P5を行うことができる。
【0068】
なお、第1実施形態においては、曲率部13aにエア逃げ溝13bを形成するのが好ましいとしたが、本実施形態においても、積層基板製造工程P6の際に曲率部13aと当接するような箇所にエア逃げ溝13bを形成することで、同様の効果を得ることができる。
【0069】
以上、本発明に係る実施の形態に基づいて具体的に説明を行ったが、本発明が上述の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲とその均等の範囲を含む様々な変更が可能であるのはもちろんである。