(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023172527
(43)【公開日】2023-12-06
(54)【発明の名称】レーザセンサ
(51)【国際特許分類】
G01S 7/481 20060101AFI20231129BHJP
G02B 26/10 20060101ALI20231129BHJP
G01S 17/89 20200101ALI20231129BHJP
【FI】
G01S7/481 A
G02B26/10 104Z
G02B26/10 C
G01S17/89
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022084410
(22)【出願日】2022-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】江尻 革
(72)【発明者】
【氏名】飯田 弘一
(72)【発明者】
【氏名】境 克司
【テーマコード(参考)】
2H045
5J084
【Fターム(参考)】
2H045AB13
2H045AB24
2H045AB25
2H045AB44
5J084AA05
5J084BA03
5J084BA11
5J084BA50
5J084BB28
5J084CA71
5J084CA72
5J084DA03
5J084EA33
(57)【要約】
【課題】 ミラーの角度を安定して変更することができるレーザセンサを提供する。
【解決手段】 レーザセンサは、レーザ光の反射角度を走査するミラーと、前記ミラーの走査範囲を規定する目標振幅に基づく振幅指令値に応じて、前記ミラーの振幅を制御する駆動信号の波形を生成する駆動波形生成部と、前記目標振幅が変更された場合に前記駆動信号に応じて前記ミラーの振幅が過渡的に経時変化する場合の過渡モデルと、前記ミラーの振幅の経時変化の目標モデルとを、フィードフォワード制御で前記振幅指令値に反映させるフィードフォワード部と、を備える。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光の反射角度を走査するミラーと、
前記ミラーの走査範囲を規定する目標振幅に基づく振幅指令値に応じて、前記ミラーの振幅を制御する駆動信号の波形を生成する駆動波形生成部と、
前記目標振幅が変更された場合に前記駆動信号に応じて前記ミラーの振幅が過渡的に経時変化する場合の過渡モデルと、前記ミラーの振幅の経時変化の目標モデルとを、フィードフォワード制御で前記振幅指令値に反映させるフィードフォワード部と、を備えることを特徴とするレーザセンサ。
【請求項2】
前記フィードフォワード部は、前記過渡モデルに対する前記目標モデルの比を、前記駆動信号の波形に反映させることを特徴とする請求項1に記載のレーザセンサ。
【請求項3】
前記過渡モデルは、前記目標振幅を変更した場合の前記ミラーの振幅の経時的な変化の実測値を表すモデルであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のレーザセンサ。
【請求項4】
前記レーザセンサと、前記レーザ光を照射する対象物との距離に応じて、前記目標振幅を指令する指令部を備えることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のレーザセンサ。
【請求項5】
前記振幅指令値が指令する振幅値と、前記ミラーの測定された振幅値との誤差が小さくなるように前記振幅指令値をフィードバック制御するフィードバック制御部を備え、
前記フィードバック制御部は、前記目標振幅が変更された場合に、前記振幅指令値が指令する振幅値として、前記目標モデルの振幅値を用いることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のレーザセンサ。
【請求項6】
前記駆動信号は、正弦波であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のレーザセンサ。
【請求項7】
前記ミラーは、前記レーザ光の反射方向を、共振方向の第1軸および非共振方向の第2軸で走査するMEMSミラーであり、
前記ミラーの振幅は、前記第1軸における振幅であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のレーザセンサ。
【請求項8】
前記レーザ光が出射された時刻と、対象物からの前記レーザ光の反射光の受光時刻とを用いて、前記レーザセンサと前記対象物との距離を測定する測定部を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のレーザセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、レーザセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
MEMSミラーなどのミラー、発光素子、および受光素子を備えたレーザセンサの開発が進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ミラーの角度を制御するために、高周波の駆動波形が入力される場合がある。この場合、高速でミラーの角度を制御できることが望まれる。しかしながら、高速でミラーの角度を変更しようとすると、ミラーの角度が不安定になるおそれがある。
【0005】
1つの側面では、本件は、ミラーの角度を安定して変更することができるレーザセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの態様では、レーザセンサは、レーザ光の反射角度を走査するミラーと、前記ミラーの走査範囲を規定する目標振幅に基づく振幅指令値に応じて、前記ミラーの振幅を制御する駆動信号の波形を生成する駆動波形生成部と、前記目標振幅が変更された場合に前記駆動信号に応じて前記ミラーの振幅が過渡的に経時変化する場合の過渡モデルと、前記ミラーの振幅の経時変化の目標モデルとを、フィードフォワード制御で前記振幅指令値に反映させるフィードフォワード部と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
ミラーの角度を安定して変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係る計測システムの全体構成を例示する概略図である。
【
図3】(a)は、フレームパルス)のタイミングに応じて駆動信号生成部で生成される垂直駆動信号を例示する図であり、(b)はラインパルスのタイミングに応じて駆動波形生成部で生成される水平駆動信号を例示する図である。
【
図4】無効画素領域と有効画素領域との関係を例示する図である。
【
図5】(a)および(b)はズーム制御を説明するための図である。
【
図7】フィードフォワード制御を例示する図である。
【
図8】フィードフォワード項を追加せずにフィードバック制御だけを行なう場合と、フィードバック制御にフィードフォワード項を追加する場合の振幅戻り変化を例示する図である。
【
図9】実施例1に係るレーザセンサの全体構成を例示する図である。
【
図11】水平方向の振幅の最大角度を32°から36°まで拡大する場合の実機データを例示する図である。
【
図12】(a)はレーザセンサの各Y軸発光区間を例示し、(b)は水平方向の振幅の最大角度を32°から36°まで拡大する場合の目標モデルGdを表している。
【
図13】目標振幅を32°から36°に変更する場合のレーザセンサの動作の一例を表すフローチャートである。
【
図14】目標振幅を32°から36°に変化させた場合の制御結果を例示する図である。
【
図15】(a)は定常モデルの周波数特性を例示する図であり、(b)は過渡モデルの周波数特性を例示する図である。
【
図16】ハードウェア構成を説明するためのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施例の説明に先立って、レーザセンサの課題について説明する。
【0010】
図1は、比較例に係るレーザセンサ300の概略図である。
図1で例示するように、レーザセンサ300は、発光系として、発光装置11、MEMSミラー12、受光レンズ13、受光素子14などを備える。また、レーザセンサ300は、制御系として、発光信号生成部21、基準信号生成部22、駆動波形生成部23、測定部24、振幅検出部25、位相検出部26、第1PID制御器27、角度信号生成部28、振幅検出部29、位相検出部30、第2PID制御器31、ズーム指令部32などを備える。
【0011】
発光装置11は、発光信号生成部21の指示に従ってレーザ光を出射する装置であり、半導体レーザなどの発光素子を備える。一例として、発光装置11は、発光信号生成部21の指示に従って、所定のサンプリング周期でパルス光を出射する。発光信号生成部21が発光装置11にパルス光の出射を指示するタイミングは、測定部24に送られる。すなわち、測定部24は、パルス光の出射タイミングを取得する。
【0012】
MEMSミラー12は、Micro Electro Mechanical Systemミラーであって、3次元に出射するレーザ光の角度を変化させるミラーである。MEMSミラー12は、2軸回転式のミラーであって、例えば水平軸の回転角度および垂直軸の回転角度が変化することによって、出射するレーザ光の角度が3次元に変化する。水平軸の回転角度を水平角度Hと称し、垂直軸の回転角度を垂直角度Vと称する。駆動波形生成部23は、基準信号生成部22が生成する基準信号に応じて、MEMSミラー12の水平角度Hおよび垂直角度Vを指示するための駆動波形を用いてMEMSミラー12の水平角度Hおよび垂直角度Vを制御する。発光装置11から出射されたパルス光は、MEMSミラー12の水平角度Hおよび垂直角度Vに応じて偏向される。
【0013】
MEMSミラー12によって反射されたパルス光は、測距対象に照射され、散乱(反射)され、受光レンズ13に戻る。この戻り光は、受光レンズ13で集光され、受光素子14で受光される。
【0014】
測定部24は、TOF(Time OF Flight)方式を採用することによって、測距対象までの距離を測定する。
図2は、TOF方式の説明図である。
図2で例示するように、測定部24は、発光装置11がレーザパルスを出射して戻り光が測距対象から戻ってくるまでの往復時間(ΔT)を計測し、光速を乗算することによって、測距対象までの距離を算出する。測定部24は、発光装置11がパルス光を射出するごとに距離計測を行なうことができるため、サンプリング周期で距離計測を行なうことができる。
【0015】
MEMSミラー12は、垂直軸および水平軸の2軸で駆動することで、発光装置11からの反射光を走査範囲内で走査する。
図3(a)は、フレームパルス(垂直駆動タイミング信号)のタイミングに応じて駆動信号生成部23で生成される垂直駆動信号を例示する図である。フレームパルスは、MEMSミラー12が走査範囲の走査開始タイミングで出力される信号である。したがって、フレームパルスは、MEMSミラー12が走査範囲を1度走査するごとに出力される。
【0016】
図3(a)において、横軸は経過時間を表し、縦軸は垂直方向の相対走査角度を表す。縦軸の「1」が、垂直方向の最も小さい走査角度を表している。縦軸の「-1」が、垂直方向の最も大きい走査角度を表している。この垂直方向の相対走査角度が「-1」と「1」との間を往復することで、垂直方向の走査角度が一往復する。
【0017】
フレームパルスのタイミングから次のフレームパルスのタイミングまでに、垂直方向の走査角度の一往復が完了する。一例として、水平方向の往復が880回行われる間に、垂直方向の走査角度が「1」から「-1」まで線形変化する。その後、水平方向の往復が120回行われる間に、垂直方向の走査角度が「-1」から「1」に線形変化する。このように、水平方向の往復が1000回行われる間に、垂直方向の往復が1回行われる。垂直方向の往復が繰り返される周波数は約28Hzであり、水平方向の往復が繰り返される周波数は約28kHzである。
【0018】
図3(b)は、ラインパルス(水平駆動タイミング信号)のタイミングに応じて駆動波形生成部23で生成される水平駆動信号を例示する図である。ラインパルスは、MEMSミラー12が走査範囲の各ラインの走査開始タイミングで出力される信号である。したがって、ラインパルスは、MEMSミラー12が各ラインを1度走査するごとに出力される。一例として、フレームパルスの1周期に、ラインパルスが1000回出力されることになる。
【0019】
図3(b)において、横軸は経過時間を表し、縦軸は水平方向の相対走査角度を表す。縦軸の「-1」が、水平方向の最も小さい走査角度を表している。縦軸の「1」が、水平方向の最も大きい走査角度を表している。この水平方向の相対走査角度が「-1」と「1」との間を往復することで、水平方向の走査角度が一往復する。水平駆動信号は、正弦波となる。
【0020】
ラインパルスのタイミングから次のラインパルスのタイミングまでに、水平方向の走査角度の一往復が完了する。本実施形態においては、一例として、「0.95」から「-0.95」までの往路(X軸発光区間)で40点の距離測定が行われ、次の「-0.95」から「0.95」までの復路(X軸発光区間)で40点の距離測定が行われる。距離測定の時間間隔は、一例として、320nsである。
【0021】
一例として、フレームパルスのタイミングから水平方向の往復が40回行われるまでは、発光装置11は発光しない。その後の800回の水平方向の往復が行われる間に発光装置11が発光する。この発光区間をY軸発光区間と称する。次の40回の水平方向の往復が行われる間も発光装置11は発光しない。さらに、その後の120回の水平方向の往復が行われる戻り区間においても、発光装置11は発光しない。
【0022】
図4は、このような垂直方向の1往復の間の、無効画素領域と有効画素領域との関係を例示する図である。
図4の例は、ラスター走査仕様を表している。有効画素領域とは、発光装置11の発光による距離測定が行われる領域である。無効画素領域とは、発光による距離測定が行われない領域である。したがって、無効画素領域では、発光装置11が発光していない。
図4で例示するように、無効ラインは200ラインとなり、有効ラインは800ラインとなる。また、水平往路の一部が有効画素領域となり、水平復路の一部が有効画素領域となる。
【0023】
このようなレーザセンサにおいては、温度変化や画面内の位置によって、画面が歪んでしまうおそれがある。そこで、MEMSミラー12の目標振幅および目標位相と、MEMSミラー12の実際の振幅および実際の位相とを対比し、個別にフィードバック制御を行なうことで、振幅および位相を制御し、画面の歪みを低減することができる。
【0024】
具体的には、振幅検出部25は、基準信号に含まれる目標振幅を検出する。ここでの振幅とは、水平方向におけるMEMSミラー12の角度の範囲幅のことである。目標振幅とは、当該振幅の目標値のことである。また、位相検出部26は、基準信号に含まれる目標位相を検出する。ここでの位相とは、水平方向におけるMEMSミラー12の角度変化を表す正弦波の位相のことである。目標位相とは、当該位相の目標値のことである。
【0025】
角度信号生成部28は、MEMSミラー12の実際の角度を測定し、測定された角度を情報として含む角度信号を生成する。例えば、角度信号生成部28は、MEMSミラー12の実際の角度を測定するセンサから測定値を取得し、当該測定値から角度信号を生成する。振幅検出部29は、角度信号に含まれる振幅測定値を検出する。位相検出部30は、角度信号に含まれる位相測定値を検出する。
【0026】
振幅検出部25が検出した目標振幅と、振幅検出部29が検出した振幅測定値との差(振幅誤差)が閾値を超えていなければ、第1PID制御器27は、目標振幅が実現される振幅指令値を駆動波形生成部23に送る。振幅誤差が閾値を超えていれば、第1PID制御器27は、振幅検出部25が検出した目標振幅と、振幅検出部29が検出した振幅測定値との差(振幅誤差)が小さくなるように、振幅指令値をフィードバック制御する。駆動波形生成部23は、第1PID制御器27から受け取った振幅指令値に応じて、駆動波形を生成する。
【0027】
位相検出部26が検出した目標位相と、位相検出部30が検出した位相測定値との差(位相誤差)が閾値を超えていなければ、第2PID制御器31は、目標位相が実現される位相指令値を駆動波形生成部23に送る。位相誤差が閾値を超えていれば、第2PID制御器31は、位相誤差が小さくなるように、位相指令値をフィードバック制御する。駆動波形生成部23は、第2PID制御器31から受け取った位相指令値に応じて、駆動波形を補正する。
【0028】
ところで、レーザセンサ300の画角を固定していると、レーザセンサ300から測距対象までの遠近に応じて、測距対象の解像度が変化する。例えば、
図5(a)で例示するように、測距対象がレーザセンサ300から離れると、走査範囲に対する測距対象の範囲が相対的に狭くなるため、解像度が低下する。そこで、レーザセンサ300には、距離の拡大に対して所定の解像度を確保するために、測距対象の動きに応じて、走査範囲を変更するズーム動作が行われることがある。例えば、
図5(b)で例示するように、測距対象がレーザセンサ300から離れると、動的に画角を変更して走査範囲を狭くするズーム制御が行われ、解像度の低下を抑制する。
【0029】
図6は、走査範囲を狭くする場合の水平方向の走査について例示する図である。
図6で例示するように、レーザセンサ300から測距対象までの距離が短くなると、ズーム指令部32は、水平方向の目標振幅を縮小するように基準信号生成部22に指令する。したがって、基準信号生成部22は、基準信号に含まれる目標振幅を小さくする。逆に、レーザセンサ300から測距対象までの距離が長くなると、ズーム指令部32は、水平方向の目標振幅を拡大するように基準信号生成部22に指令する。したがって、基準信号生成部22は、基準信号に含まれる目標振幅を大きくする。
【0030】
このようなズーム制御を行ないつつ継続して距離測定を行うためには、水平方向の走査範囲の拡大または縮小を、次のY軸発光区間までに高速で行なって、かつ拡大または縮小された走査範囲に整合するように振幅を精度良く制御することが望まれる。例えば、第1PID制御器27が、変更された目標振幅と振幅測定値との振幅誤差が小さくなるように、フィードバック制御によって振幅指令値を駆動波形生成部23に送ることが考えられる。この場合、フィードバック制御の刻み値を使用して、振幅指令値を段階的に変更していくことになる。しかしながら、第1PID制御器27の応答が遅いと、次の発光区間までに振幅を制御することが困難である。
【0031】
そこで、
図7で例示するように、フィードフォワード項を追加し、変更された目標振幅を振幅指令値として駆動波形生成部23に入力することが考えられる。しかしながら、MEMSミラー12が有する過渡特性(応答遅れ、振動特性など)を要因として、次の発光区間の振幅誤差が大きくなるとい課題が生じる。
【0032】
図8は、フィードフォワード項を追加せずにフィードバック制御だけを行なう場合(FBのみ)と、フィードバック制御にフィードフォワード項を追加する場合(FB+FF)の振幅戻り変化を例示する図である。
図8で例示するように、フィードバック制御だけの場合には、振幅センサ出力(目標振幅に対する、振幅測定値の比率)がおおよそ100%に戻るまでに、数回のY軸発光区間を経ることになる。一方、フィードフォワード項を追加すると、応答が速くなるものの、振幅センサ出力が100%を超えてしまう(オーバーシュート)。
【0033】
このように、測距対象の動きに応じて走査範囲を変更するズーム制御を行なう場合に、振幅制御が次のY軸発光区間に間に合わないという課題が生じる。そこで、例えば、振幅フィードバック系の応答性を上げることが考えられる。しかしながら、水平方向の1周期に2回しか振幅値を検出できないため、これ以上応答性を上げることは原理的に難しい。フィードフォワード項を追加すると、上述したように、MEMSミラー12の過渡特性を要因として、振幅誤差が大きくなるおそれがある。
【0034】
そこで、以下の実施例では、ミラーの角度を安定して変更することができるレーザセンサについて説明する。
【実施例0035】
図9は、実施例1に係るレーザセンサ100の全体構成を例示する図である。比較例に係るレーザセンサ300と同じ構成については同一符号を付すことで説明を省略する。
図9で例示するように、レーザセンサ100がレーザセンサ300と異なるのは、応答改善フィルタ41および目標応答フィルタ42がさらに備わっている点である。応答改善フィルタ41は、目標モデルGdと過渡モデルGpとの比を用いて、応答改善のフィルタリングを行なう。目標応答フィルタ42は、目標モデルGdを用いて、目標応答のフィルタリングを行なう。
【0036】
過渡モデルGpとは、目標振幅が変更された場合に、
図10で例示するように、駆動波形生成部23が生成する駆動波形を用いてMEMSミラー12を駆動した場合の、振幅検出部29が検出する測定振幅値の結果をモデル化したものである。すなわち、過渡モデルGpは、実機を用いて実際に動作を行なった場合の実機データをモデル化したものである。一例として、目標振幅が32°から36°に変更された場合の過渡モデルGpについて説明する。
【0037】
図11は、水平方向の振幅の最大角度を32°から36°まで拡大する場合の実機データを例示する図である。
図11において、横軸は経過時間を示し、縦軸は振幅を示す。この過渡モデルGpを作成する過程においては、振幅のフィードバックを行なわないため、目標振幅と振幅指令値とが一致する。したがって、
図11で例示するように、目標振幅の変更前においては、振幅指令値は32°で一定となっている。経過時間が0秒(s)の時点で目標振幅が変更され、振幅指令値が36°に変更されている。
図11の例では、駆動波形をMEMSミラー12に送ってから経過時間ごとに徐々に振幅測定値が大きくなり、徐々に36°で一定となっている。この実機データに対して、例えば、下記式を用いて2次遅れ系の伝達関数モデルで近似することによって、過渡モデルGpを得ることができる。
図11に、過渡モデルGpも併せて例示してある。なお、「fp」は応答周波数を表している。「ξ」は減衰係数を表している。このように過渡モデルGpを作成しておくことで、目標振幅が実現されるまでの実際の動作内容を事前に取得しておくことができる。
【数1】
【0038】
目標モデルGdとは、Y軸発光区間が終了した時点から次のY軸発光区間までの期間(td[s])に、MEMSミラー12の応答および収束の理想的なモデルのことである。例えば、目標モデルGdとは、期間(td[s])内に、水平方向の測定振幅値が許容範囲に入るようなモデルのことである。目標モデルGdは、レーザセンサ100の製造者、レーザセンサ100のユーザなどが事前に作成しておく。
【0039】
図12(a)は、レーザセンサ100の各Y軸発光区間を例示している。
図12(b)は、水平方向の振幅の最大角度を32°から36°まで拡大する場合の目標モデルGdを表している。
図12(b)において、横軸は経過時間を示し、縦軸はMEMSミラー12の水平方向の振幅を表している。
図12(b)で例示するように、目標振幅の変更前においては、振幅指令値を32°で略一定としておく。経過時間が0秒(s)の時点で目標振幅が変更されたと仮定し、振幅指令値を32°から36°まで経過時間ごとに変化させる。
図12(b)の例では、目標振幅を変更させてから振幅を徐々に大きくし、徐々に36°で一定にさせている。また、Y軸発光区間が終了した時点から次のY軸発光区間までの期間(td[s])の間に、水平方向の測定振幅値が許容範囲に入るようにしてある。目標モデルGdは、例えば、下記式のように、即応性および安定性のバランスが取れた2次のButterworth極の伝達関数モデルで近似することができる。「fd」は、応答周波数を表している。
【数2】
【0040】
続いて、過渡モデルGpおよび目標モデルGdを用いた動作について説明する。
図13は、目標振幅を32°から36°に変更する場合の、レーザセンサ100の動作の一例を表すフローチャートである。
図13で例示するように、基準信号生成部22からの指示により、駆動波形生成部23は、駆動波形(初期値)をMEMSミラー12に送る。それにより、駆動波形(初期値)を用いた走査が開始される(ステップS1)。この場合、第1PID制御器27によって、振幅誤差が解消されるようなフィードバック制御が行われ、第2PID制御器31によって、位相誤差が解消されるようなフィードバック制御が行われる。一例として、目標振幅が32°に指定されているものとする。
【0041】
基準信号生成部22は、ズーム指令部32から目標振幅の変更指令を受けると、当該変更指令に応じて基準信号の目標振幅を変更する(ステップS2)。例えば、目標振幅が36°に変更されるものとする。
【0042】
次に、振幅検出部25は、基準信号から目標振幅を検出する。また、位相検出部26は、基準信号から目標位相を検出する(ステップS3)。
【0043】
振幅検出部29は、角度信号生成部28が生成する角度信号から振幅測定値を検出する。位相検出部30は、角度信号から位相測定値を検出する(ステップS4)。
【0044】
応答改善フィルタ41は、目標モデルGdと過渡モデルGpとの比を用いた応答改善フィルタで目標振幅を修正する(ステップS5)。具体的には、経過時間ごとに、(目標モデルGdの振幅値)/(過渡モデルGpの振幅値)の比を目標振幅に対して掛け合わせる。
【0045】
その後、駆動波形生成部23は、ステップS5の処理によって得られた振幅指令値に従って、振幅および位相の修正値を計算する(ステップS6)。
【0046】
次に、駆動波形生成部23は、ステップS6で計算された修正値に応じて駆動波形を修正する(ステップS7)。その後、ステップS3から再度実行される。それにより、経過時間ごとに、ステップS3からステップS7までの一連の処理が繰り返し実行されることになる。
【0047】
過渡モデルGpの振幅値を分母にすることで、レーザセンサ100の目標振幅が実現されるまでの実際の動作が打ち消され、レーザセンサ100の動作が目標モデルGdに合致するようになる。それにより、Y軸発光区間が終了した時点から次のY軸発光区間までの期間(td[s])の間に、水平方向の測定振幅値が許容範囲に入るようになり、MEMSミラー12の動作が安定する。
【0048】
一方で、外乱などの影響により、振幅誤差および位相誤差が生じるおそれがある。そこで、ステップS4の実行後、ステップS5と並行してステップS8からステップS10の一連の処理が実行される。具体的には、目標応答フィルタ42は、目標モデルGdを用いた目標応答フィルタで、目標振幅を修正する(ステップS8)。具体的には、基準信号に含まれる目標振幅を、経過時間ごとに目標モデルGdの振幅値に入れ替える。この処理により、目標モデルGdを基準として振幅誤差を計算できるようになる。
【0049】
次に、振幅検出部29は、角度信号に含まれる振幅測定値を検出する。位相検出部30は、角度信号に含まれる位相測定値を検出する。それにより、振幅誤差および位相誤差が計算される(ステップS9)。
【0050】
次に、第1PID制御器27は、振幅誤差が小さくなるように振幅のフィードバック値(修正値)を計算する。第2PID制御器31は、位相誤差が解消されるように位相のフィードバック値(修正値)を計算する(ステップS10)。その後、ステップS6が実行される。
【0051】
ステップS5と、ステップS8からステップS10までの一連処理とが別々に行われることで、目標振幅に対する応答特性と、外乱に対する抑圧特性とを別々に設定できるようになる。
【0052】
図14は、目標振幅を32°から36°に変化させた場合の、制御結果を例示する図である。
図14の上段で例示するように、MEMSミラー12の水平方向の振幅の経時変化は、目標モデルGdに略一致し、MEMSミラー12の角度を安定して変更することができることがわかった。なお、
図14の下段には、駆動波形振幅の電圧値を例示してある。
【0053】
ここで、MEMSミラー12の過渡モデルと定常モデルとの相違について説明する。上述したように、過渡モデルとは、ズーム制御などによってMEMSミラー12の水平方向の目標振幅を変更する場合の動作モデルである。定常モデルとは、MEMSミラー12の水平方向の目標振幅を変更しない場合の動作モデルである。定常モデルと過渡モデルの相違は、表1のように表すことができる。
【表1】
【0054】
まず、定常モデルの入力は、駆動電流電圧である。過渡モデルの入力は、駆動電流電圧振幅である。次に、定常モデルの出力は、MEMSミラー12の角度を検出する角度センサの出力である。過渡モデルの出力は、当該角度センサの出力振幅である。次に、定常モデルにおける駆動正弦波は、一定周波数および一定振幅で駆動しているときの入出力比と位相を表している。過渡モデルにおける駆動正弦波は、一定周波数駆動で、振幅を変化させたときの入出力比の過渡的な挙動を表している、また、過渡モデルにおける駆動正弦波は、入力正弦波を考慮したモデルである。
図15(a)は、定常モデルの周波数特性を例示する図である。
図15(b)は、過渡モデルの周波数特性を例示する図である。
【0055】
ここで、定常モデルの理論式は、下記式のように表すことができる。ただし、u(t)=sinω
γtである、ω
γは、駆動周波数を表している。
【数3】
【0056】
この数式の微分方程式を解くと、下記式のような過渡モデルを算出することができる。第1項および第2項は、減衰項である。第3項および第4項は、定常高である。共振周波数とは若干異なる周波数(√(a
0-a
1
2/4)で振動しながら1次遅れ特性1/(s+a
1
2/2)で定常項に収束していく。
【数4】
【0057】
このように、定常モデルでは入力の影響が考慮されていないが、本実施例で用いた過渡モデルは、駆動正弦波の振幅と周波数の影響を含む、過渡的なモデルとなっている。
【0058】
なお、上記例では、一例として目標振幅を32°から36°に変更した場合について説明しているが、他の目標振幅変化にも適用することができる。例えば、目標振幅を36°から40°に変化させた場合においても、同じ過渡モデルGpおよび同じ目標モデルGdを用いることができる。または、目標振幅値の各変化について、それぞれ過渡モデルGpおよび目標モデルGdを作成しておいてもよい。例えば、目標振幅を32°から36°に変更した場合、目標振幅を36°から40°に変更した場合、目標振幅を34°から38°に変更した場合などの各場合について、それぞれ過渡モデルGpおよび目標モデルGdを作成しておいてもよい。この場合においては、ズーム指令部32からの目標振幅の変更指令に応じて、過渡モデルGpおよび目標モデルGdを選択して使用してもよい。また、目標振幅を36°から32°に変更する場合などのように、目標振幅を小さくする場合の過渡モデルGpおよび目標モデルGdを作成しておき、ズーム指令部32からの目標振幅の変更指令に応じて、過渡モデルGpおよび目標モデルGdを選択して使用してもよい。
【0059】
図16は、発光信号生成部21、基準信号生成部22、駆動波形生成部23、測定部24、振幅検出部25、位相検出部26、第1PID制御器27、角度信号生成部28、振幅検出部29、位相検出部30、第2PID制御器31、ズーム指令部32、応答改善フィルタ41、および目標応答フィルタ42のハードウェア構成を説明するためのブロック図である。
図16で例示するように、これらの各部は、CPU101、RAM102、記憶装置103、インタフェース104などによって実現される。これらの各機器は、バスなどによって接続されている。CPU(Central Processing Unit)101は、中央演算処理装置である。CPU101は、1以上のコアを含む。RAM(Random Access Memory)102は、CPU101が実行するプログラム、CPU101が処理するデータなどを一時的に記憶する揮発性メモリである。記憶装置103は、不揮発性記憶装置である。記憶装置103として、例えば、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリなどのソリッド・ステート・ドライブ(SSD)、ハードディスクドライブに駆動されるハードディスクなどを用いることができる。CPU101が記憶装置103に記憶されているプログラムを実行することによって、発光信号生成部21、基準信号生成部22、駆動波形生成部23、測定部24、振幅検出部25、位相検出部26、第1PID制御器27、角度信号生成部28、振幅検出部29、位相検出部30、第2PID制御器31、ズーム指令部32、応答改善フィルタ41、および目標応答フィルタ42が実現される。なお、発光信号生成部21、基準信号生成部22、駆動波形生成部23、測定部24、振幅検出部25、位相検出部26、第1PID制御器27、角度信号生成部28、振幅検出部29、位相検出部30、第2PID制御器31、ズーム指令部32、応答改善フィルタ41、および目標応答フィルタ42は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等の集積回路により実現されてもよい。
【0060】
上記例において、MEMSミラー12が、レーザ光の反射角度を走査するミラーの一例である。駆動波形生成部23が、ミラーの走査範囲を規定する目標振幅に基づく振幅指令値に応じて、ミラーの振幅を制御する駆動信号の波形を生成する駆動波形生成部の一例である。応答改善フィルタ41が、目標振幅が変更された場合に駆動信号に応じてミラーの振幅が過渡的に経時変化する場合の過渡モデルと、ミラーの振幅の経時変化の目標モデルとを、フィードフォワード制御で振幅指令値に反映させるフィードフォワード部の一例である。ズーム指令部32が、レーザセンサと、レーザ光を照射する対象物との距離に応じて、目標振幅を指令する指令部の一例である。第1PID制御器27が、振幅指令値が指令する振幅値と、ミラーの測定された振幅値との誤差が小さくなるように振幅指令値をフィードバック制御するフィードバック制御部の一例である。測定部24が、レーザ光が出射された時刻と、対象物からのレーザ光の反射光の受光時刻とを用いて、レーザセンサと対象物との距離を測定する測定部の一例である。
【0061】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
(付記)
(付記1)
レーザ光の反射角度を走査するミラーと、
前記ミラーの走査範囲を規定する目標振幅に基づく振幅指令値に応じて、前記ミラーの振幅を制御する駆動信号の波形を生成する駆動波形生成部と、
前記目標振幅が変更された場合に前記駆動信号に応じて前記ミラーの振幅が過渡的に経時変化する場合の過渡モデルと、前記ミラーの振幅の経時変化の目標モデルとを、フィードフォワード制御で前記振幅指令値に反映させるフィードフォワード部と、を備えることを特徴とするレーザセンサ。
(付記2)
前記フィードフォワード部は、前記過渡モデルに対する前記目標モデルの比を、前記駆動信号の波形に反映させることを特徴とする付記1に記載のレーザセンサ。
(付記3)
前記過渡モデルは、前記目標振幅を変更した場合の前記ミラーの振幅の経時的な変化の実測値を表すモデルであることを特徴とする付記1または付記2に記載のレーザセンサ。
(付記4)
前記レーザセンサと、前記レーザ光を照射する対象物との距離に応じて、前記目標振幅を指令する指令部を備えることを特徴とする、付記1または付記2に記載のレーザセンサ。
(付記5)
前記振幅指令値が指令する振幅値と、前記ミラーの測定された振幅値との誤差が小さくなるように前記振幅指令値をフィードバック制御するフィードバック制御部を備え、
前記フィードバック制御部は、前記目標振幅が変更された場合に、前記振幅指令値が指令する振幅値として、前記目標モデルの振幅値を用いることを特徴とする付記1または付記2に記載のレーザセンサ。
(付記6)
前記駆動信号は、正弦波であることを特徴とする付記1または付記2に記載のレーザセンサ。
(付記7)
前記ミラーは、前記レーザ光の反射方向を、共振方向の第1軸および非共振方向の第2軸で走査するMEMSミラーであり、
前記ミラーの振幅は、前記第1軸における振幅であることを特徴とする付記1または付記2に記載のレーザセンサ。
(付記8)
前記レーザ光が出射された時刻と、対象物からの前記レーザ光の反射光の受光時刻とを用いて、前記レーザセンサと前記対象物との距離を測定する測定部を備えることを特徴とする付記1または付記2に記載のレーザセンサ。
(付記9)
レーザ光の反射角度を走査するミラーの走査範囲を規定する目標振幅に基づく振幅指令値に応じて、前記ミラーの振幅を制御する駆動信号の波形を生成し、
前記目標振幅が変更された場合に前記駆動信号に応じて前記ミラーの振幅が過渡的に経時変化する場合の過渡モデルと、前記ミラーの振幅の経時変化の目標モデルとを、フィードフォワード制御で前記振幅指令値に反映させる、
処理をコンピュータが実行することを特徴とするレーザセンサの制御方法。
(付記10)
コンピュータに、
レーザ光の反射角度を走査するミラーの走査範囲を規定する目標振幅に基づく振幅指令値に応じて、前記ミラーの振幅を制御する駆動信号の波形を生成する処理と、
前記目標振幅が変更された場合に前記駆動信号に応じて前記ミラーの振幅が過渡的に経時変化する場合の過渡モデルと、前記ミラーの振幅の経時変化の目標モデルとを、フィードフォワード制御で前記振幅指令値に反映させる処理と、
を実行させることを特徴とするレーザセンサの制御プログラム。